(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】急発進防止装置のセーフティモードの一時解除方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/182 20200101AFI20230324BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20230324BHJP
B60K 28/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
B60W30/182
B60W40/06
B60K28/00
(21)【出願番号】P 2020043616
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】517162208
【氏名又は名称】株式会社A・Q・M.Company
(74)【代理人】
【識別番号】100083633
【氏名又は名称】松岡 宏
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 実
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044650(JP,A)
【文献】特開2018-131069(JP,A)
【文献】特開2009-127593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60K 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダル(8)の踏み込み量に見合うレベルのアクセル信号を出力するアクセル信号発生ユニット(1)と、該アクセル信号発生ユニット(1)によって出力されたアクセル信号に基づいてエンジン出力を制御するエンジンコントロールユニット(2)と、車速パルス信号を出力する車速センサー(3)と、を備える車両に設置した急発進防止装置(5)であると共に、アクセル信号の変動が異常変動であると判断された時、アクセル信号キャンセル回路によってアクセル信号がキャンセルされ、エンジン出力の急上昇を抑制させるための出力制御指令が前記エンジンコントロールユニット(2)に対して出力され、該エンジンコントロールユニット(2)がその出力制御指令に基づいてエンジン出力を制御する急発進防止装置(5)に於いて、
前記急発進防止装置(5)に、その電源をON,OFFに切換えるためのタイマーリレー(7)を接続し、該タイマーリレー(7)の他端に、運転席付近に設けるタイマースイッチ(6)を接続させ、そのタイマースイッチ(6)を押すと、前記急発進防止装置(5)の電源が切られてノーマルモードに切換わり、所定時間後に前記急発進防止装置(5)の電源が入れられて元に戻されることを特徴とする急発進防止装置のセーフティモードの一時解除方法。
【請求項2】
前記所定時間が1分~5分の範囲である請求項1記載の急発進防止装置のセーフティモードの一時解除方法。
【請求項3】
前記タイマースイッチ(6)として、貼り付けシール型タッチスイッチが用いられ、且つ、常時点灯すると共にタイマースイッチ(6)が押されてノーマルモードに切換えられた時点から点滅する作動表示用のランプ部(62)を設けるタイマースイッチ(6)が用いられた請求項1記載の急発進防止装置のセーフティモードの一時解除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクセルペダルの踏み間違いや誤操作による車両の急発進や誤発進が防止可能な急発進防止装置のセーフティモードの一時解除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の急発進防止装置としては、アクセルペダルの踏み込み量に見合うレベルのアクセル信号を出力するアクセル信号発生ユニットと、このアクセル信号発生ユニットによって出力されたアクセル信号に基づいてエンジン出力を制御するエンジンコントロールユニットと、車速パルス信号を出力する車速センサーと、を備えた急発進防止装置によって、アクセル信号の変動が異常変動であると判断された時、アクセル信号キャンセル回路によってアクセル信号がキャンセルされ、エンジン出力の急上昇を抑制させるための出力制御指令がエンジンコントロールユニット(ECU)に対して出力され、ECUがその出力制御指令に基づいてエンジン出力を制御する。従って、エンジン出力が急上昇して車両が急発進したり、急加速したりすることがなくなるのである。
【0003】
しかしながら、従来のものは、アクセルペダルとブレーキペダルが同時に踏み込まれた状況下での処理については明らかにされていない。このため、アクセルペダルとブレーキペダルが同時に踏み込まれた状況下では、ブレーキペダルの踏み込み動作を優先させて安全性を確保することが出来る緊急発進防止方法が、特開2018-131069号「緊急発進防止装置」の中で記載されている。
【0004】
一方、他の急発進防止方法としては、セーフティモード実行手段とノーマルモード実行手段とを、運転者がモードスイッチを手動操作して切換える方法もある。この場合、ノーマルモードで高速道路を走行していた運転手が、高速道路を出て車両を停止したり低速走行したりする時に、セーフティモードに切換えることを忘れしてしまうことがある。このため、車両に緊急発進防止装置が搭載されているにもかかわらず、緊急発進防止装置の有効利用が出来ない恐れを生じていた。しかも、アクセルペダルとブレーキペダルが同時に踏み込まれた状況下では、アクセルペダルの踏み込みに伴うエンジン出力がブレーキペダルの踏み込みに伴う制動力を上回って車両が運転者の意図に反して走行してしまう恐れもあった。
【0005】
このため、セーフティモードに切換えることを忘れしてしまうことを防止するための提案として、特開2011-173586号「自動車用アクセル誤動作による暴走防止装置」がある。これは、変速機のシフト位置を検出する位置検出手段と、方向指示器の右折又は左折への操作を検出する方向指示器検出手段と、アクセルペダルの踏込み状態量を検出する踏込み状態量検出手段と、前記位置検出手段によるシフト位置が前進又は後退で且つ、前記方向指示器検出手段による操作が無で且つ、前記踏込み状態量検出手段による踏込み状態量が所定値を超えた時、自動車の走行を制限すること、及び前記方向指示器検出手段による操作が有の時は、自動車の走行を制限することを終了する、運転制御手段を有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-131069号公報
【文献】特開2011-173586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2018-131069号や従来のものは、特に交差点等に於ける右折時、セーフティモードに切換えられていると、車両が繋がってなかなか右折ができない場合、車両が途切れた時点で加速して素早く右折しようとすると、緊急発進防止装置が働き、急発進が出来なくなるため、スムーズな走行ができなくなり、衝突事故が発生する確率が高くなって危険であった。又、登りの坂道でのバック走行時(駐車時)に、セーフティモードに切換えられていると、運転者がアクセルペダルを踏んでも車両が傾斜面を登り切らないうちに止まってしまい、尻上りの傾斜面になっている駐車場では所定の位置に止めることが出来なくなる恐れが多く生じる。
【0008】
また特開2011-173586号は、高速道路への進入時、車線変更時、追い越し運転時、右折左折時、登坂路走行時、段差の乗越え時には、方向指示器検出手段と位置検出手段とスロットルバルブ固定解除用の解除スイッチ等が作用して判断され、セーフティモードの一時解除方法が初めて行なわれる。又、このセーフティモードの一時解除が多数回行われると共にその都度、検出手段,比較手段,判定手段等の複雑な処理が行われるので、暴走防止装置(急発進防止装置)の不具合が生じ易いものとなっていた。
【0009】
本発明はアクセルペダルの踏み間違いや誤操作による車両の急発進や誤発進を防止することに役立つ急発進防止装置のセーフティモードの一時解除方法に関し、特には交差点に於ける右折時や登りの坂道でのバック走行時及び雪道での発進時などに極めて単純な方法で、且つ、確実に行える急発進防止装置のセーフティモードの一時解除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記現状に鑑みて成されたものであり、つまり、従来の急発進防止装置に於いて、前記急発進防止装置に、その電源をON,OFFに切換えるためのタイマーリレーを接続し、該タイマーリレーの他端に、運転席付近に設けるタイマースイッチを接続させ、そのタイマースイッチを押すと、急発進防止装置の電源が切られてノーマルモードに切換わり、所定時間後に急発進防止装置の電源が入れられて元に戻される急発進防止装置のセーフティモードの一時解除方法とする。又、前記所定時間を1分~5分の範囲とするのが良く、前記タイマースイッチとして、貼り付けシール型タッチスイッチを用い、且つ、常時点灯すると共にタイマースイッチが押されてノーマルモードに切換えられた時点から点滅する作動表示用のランプ部が設けられたタイマースイッチを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
請求項1のように従来の急発進防止装置(5)に於いて、急発進防止装置(5)に、その電源をON,OFFに切換えるためのタイマーリレー(7)を接続し、該タイマーリレー(7)の他端に、運転席付近に設けるタイマースイッチ(6)を接続させ、そのタイマースイッチ(6)を押すと、急発進防止装置(5)の電源が切られてノーマルモードに切換わり、所定時間後に急発進防止装置(5)の電源が入れられて元に戻される急発進防止装置(5)のセーフティモードの一時解除方法とすることにより、従来の如きセーフティモードに切換えて戻す手動操作が不要となるため、車両に搭載された急発進防止装置(5)は、急発進防止が有効に働くものとなる。
【0012】
請求項2のように所定時間を1分~5分の範囲とすることで、右折時や登りの坂道でのバック走行時及び雪道での発進時などに於いて、確実にノーマルモードで走行してアクセルを急速に踏み込むことが出来るため、スムーズな交差点の通過や登りの坂道でのバック走行時の駐車及び雪道での発進がスムーズに行える。
【0013】
請求項3に示すようにタイマースイッチ(6)として、貼り付けシール型タッチスイッチを用いることにより、運転席付近に簡単に取付けることが出来ると共に突起部がないので邪魔にならず、取付け場所の自由度が高くなる。また常時点灯すると共にタイマースイッチが押されてノーマルモードに切換えられた時点から点滅する作動表示用のランプ部(62)が設けられたタイマースイッチ(6)を用いることにより、夜間にタイマースイッチ(6)のスイッチ部(61)の位置が分かり易くなると共に、ランプ部(62)が点滅するように制御しておくと、セーフティモードからノーマルモードに切換えられたことが、外部から確認でき、且つ、現在、ノーマルモードであることも確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明方法の実施形態の主要構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明方法の実施形態で用いる急発進防止装置に接続する配線を示す説明図である。
【
図3】本発明方法の実施形態で用いるタイマースイッチとタイマーリレーを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1、
図2は本発明方法の実施形態を示す図であり、この番号に基づき説明する。(1)はアクセルペダル(8)の踏み込み量に見合うレベルのアクセル信号を出力するアクセル信号発生ユニットである。
【0016】
(2)はアクセル信号発生ユニット(1)によって出力されたアクセル信号に基づいてエンジン(4)の出力を制御するエンジンコントロールユニットであり、該エンジンコントロールユニット(2)は出力制御指令をエンジン(4)に出し、その出力制御指令に基づいてエンジン(4)の出力を制御する。尚、前記エンジンコントロールユニット(2)は、以降、表示をECUとする。
【0017】
(3)は車速パルス信号を出力する車速センサーである。(5)は急発進防止装置であり、該急発進防止装置(5)は、アクセル信号発生ユニット(1)と、ECU(2)と、車速センサー(3)と、ブレーキペダルと、アクセルペダル(8)と、を少なくとも備えた車両に設置される。また前記急発進防止装置(5)は、アクセルペダル(8)を備えたアクセル信号発生ユニット(1)がコネクターを介して接続されており、ECU(2)がコネクターを介して接続されている(
図2参照)。又、前記急発進防止装置(5)は、バッテリーの電源線とアース線が接続され、且つ、ブレーキペダルのブレーキスイッチと接続され、車速センサー(3)とも接続されている。
前記急発進防止装置(5)としては、特開2018-131069号と同一のものを用いるのが好ましく、これには図示しないオーバーアクセルキャンセル手段,車速パルス値設定手段,ブレーキオーバーライド手段(BOS)などが備えられている。尚、この急発進防止装置(5)に限定されるものではなく、公知の他の急発進防止装置を用いても良い。
【0018】
(6)は後述するタイマーリレー(7)を介して急発進防止装置(5)と接続したタイマースイッチであり、該タイマースイッチ(6)は電源線の中間に接続し、且つ、運転席付近に取付けて急発進防止装置(5)と接続しておく。またタイマースイッチ(6)に貼り付け型タッチスイッチを用いるのが好ましい。前記タイマースイッチ(6)は急発進防止装置(5)の電源を一時的にOFFに切換え、所定時間(設定時間)後にONに切換える役目を果たす。この時の所定時間としては1分~5分の範囲とするのが好ましく、1分以下になると、ノーマルモードが短くなり過ぎて、交差点に於ける右折や登りの坂道でのバック走行及び雪道での発進などがスムーズに行えなくなる恐れを生じ、一方、5分以上になると、ノーマルモードが長くなり過ぎる恐れを生じる。又、前記タイマースイッチ(6)には、スイッチ部(61)と、常時点灯すると共にスイッチ部(61)が押されてノーマルモードに切換えられた時点から点滅し始めるランプ部(62)とがある。
【0019】
(7)は一端を急発進防止装置(5)に接続し、他端をタイマースイッチ(6)に接続したタイマーリレーであり、該タイマーリレー(7)には、リレー部(71)と、演算部(72)と、タイマースイッチ(6)と接続する接続端子部(73)と、が少なくともあり、前記リレー部(71),演算部(72),タイマースイッチ(6),接続端子部(73)は基盤に配置して固定されている。前記リレー部(71)は急発進防止装置(5)の電源が、ONとOFFに切換えられる役目を果たす。前記演算部(72)は、スイッチ部(61)が押されたか否かを判断すると共に、スイッチ部(61)が押されたと判断した時には、急発進防止装置(5)の電源をOFFに切換えるようにリレー部(71)に指令が出され、且つ、点滅し始めるようにランプ部(62)に指令が出されるのである。また接続端子部(73)はタイマースイッチ(6)とコード線を介して接続されている。尚、前記タイマーリレー(7)は、急発進防止装置(5)に内蔵したものとしても良い。
【0020】
次に本発明方法の作用について説明する。先ず車両が交差点で右折する場合の作用について説明する。先ず始めに車両が右側ウインカーを操作して点滅させながら交差点に入り、対向車がなくなるまで待つ。この時、右側ウインカーのランプが点滅し始めると略同時に、タイマースイッチ(6)を押す。すると、急発進防止装置(5)の電源がOFFになり、セーフティモードからノーマルモードに切換えられるのである。この時、タイマースイッチ(6)のランプ部(62)は点滅状態となる。
このため、対向車がなくなった時には、アクセルペダル(8)を踏み込めば、一気に加速されて交差点から速やかに抜け出ることが可能となる。交差点から抜け出る際に、渋滞して設定時間をオーバーした場合は、再度、タイマースイッチ(6)を押す。その後、設定時間が過ぎると、急発進防止装置(5)の電源がONに復帰され、ノーマルモードから自動的にセーフティモードに戻される。従って、以降の走行に対してはセーフティモードの機能が働き、急発進が防止されるので、安心して走行の続行が出来るのである。
【0021】
次に車両が登りの坂道でのバック走行(バック駐車)する場合の作用について説明する。先ず始めに車両をバックして駐車区分に入れる際に、タイマースイッチ(6)を押すと、急発進防止装置(5)の電源がOFFになり、セーフティモードからノーマルモードに切換えられるのである。この時、タイマースイッチ(6)のランプ部(62)は点滅状態となる。
このため、セーフティモードの機能が解除され、アクセルペダル(8)の踏み込み具合に合せた加速力が得られることにより、急な登りの坂道でのバック走行であっても、スムーズな車庫入れ(駐車)が可能となる。駐車後、設定時間が経過すれば、自動的に急発進防止装置(5)の電源がONに復帰され、ノーマルモードからセーフティモードに戻される。その後、車両を発進させる際にはセーフティモードが働き、急発進が防止されるので、安心した走行が可能となるのである。
【0022】
更に車両を雪道で発進させる場合の作用について説明する。先ず始めに低速で車両を発進して加速する際に、タイマースイッチ(6)を押すと、急発進防止装置(5)の電源がOFFになり、セーフティモードからノーマルモードに切換えられるのである。
このため、セーフティモードの機能が解除され、アクセルペダル(8)の踏み込み具合に合せた加速力が得られることにより、雪道での発進であっても、スムーズな走行が可能となる。そして、設定時間が経過すれば、自動的に急発進防止装置(5)の電源がONに復帰され、ノーマルモードからセーフティモードに戻される。尚、前記走行時に、駐車せずに、例えば、他の駐車場や他の目的地に変更する時は、所定時間が経過する前にタイマースイッチ(6)を押すと、ノーマルモードが直ぐにセーフティモードに切換えられ、安全運転が可能となる。
【0023】
このように本発明方法は、タイマースイッチ(6)とタイマーリレー(7)を取付けるだけの簡単な構造であり、新たな検出センサー等の特別な装置が一切不要であるため、セーフティモードの一時解除が容易に行われると共にコスト的に有利である。しかも、従来の切換えスイッチのような切り忘れがなくなり、確実にセーフティモードに戻される。
尚、前記急発進防止装置(5)のセーフティモードの一時解除方法を用いる場合は、上記以外に、例えば、高速道路走行時の車線変更時、追い越し運転時、左折時、登坂路走行時、段差の乗越え時など、多くに渡ってセーフティモードを一時解除させて走行できるものとしても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 アクセル信号発生ユニット
2 エンジンコントロールユニット(ECU)
3 車速センサー
5 急発進防止装置
6 タイマースイッチ
62 ランプ部
7 タイマーリレー
8 アクセルペダル