(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽吸収性成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230324BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20230324BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20230324BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/06
H01Q1/52
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2019063019
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】板倉 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】片野 博友
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】片山 弘
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-152099(JP,A)
【文献】特開2001-223492(JP,A)
【文献】特開2005-167179(JP,A)
【文献】特開2004-128223(JP,A)
【文献】特開2001-261975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01Q 1/52
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体およびそれらの変性物、スチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートから選ばれるものであり、
前記成形体中の前記ステンレス繊維の含有割合が0.01質量%以上、0.5質量%未満であり、
前記成形体が、厚みが0.01~5mmで、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率が1.5%以下のものである、電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項2】
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、第1面から厚さ方向反対側の第2面に向かって前記ステンレス繊維の含有割合が、段階的または連続的に、増加または減少されているものである、請求項1記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項3】
さらに85GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率が1.5%以下のものである、請求項1または2記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物に含まれるステンレス繊維の繊維長が1~30mmである、請求項1~3のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物が、ステンレス繊維が長さ方向に揃えて束ねられたものに熱可塑性樹脂が付着されて一体化された、ステンレス繊維の含有割合が1~80質量%である、長さ1~30mmの熱可塑性樹脂付着繊維束を含んでいるものである、請求項1~4のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項6】
送受信アンテナ用保護部材である、請求項1~
5のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定周波数の電磁波に対する吸収率が高く、反射率が低い、電磁波遮蔽吸収性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転や衝突防止を目的とするミリ波レーダー装置が知られている。
ミリ波レーダー装置は、自動車の前方中央、両側方、後方両側方など各部に取り付けられ、電波を送受信するアンテナが組み込まれた高周波モジュール、該電波を制御する制御回路、アンテナおよび制御回路を収納するハウジング、アンテナの電波の送受信を覆うレドームを備えている(特許文献1の背景技術)。このように構成されたミリ波レーダー装置は、アンテナからミリ波を送受信して、障害物との相対距離や相対速度などを検出することができる。
アンテナは、目的とする障害物以外の路面などに反射したものも受信することがあるため、装置の検出精度が低下するおそれがある。
このような問題を解決するため、特許文献1のミリ波レーダー装置では、アンテナと制御回路との間に電波を遮蔽する遮蔽部材を設けている。
【0003】
特許文献1の発明の課題を解決するものとして、繊維長3~30mmの炭素長繊維0.5~5質量%を含む熱可塑性樹脂組成物と、それから得られるミリ波の遮蔽性能を有している成形体の発明が提案されている(特許文献2)。
特許文献3には、SUSを使用した樹脂被覆金属長繊維ペレット4~10mmが記載されており、前記ペレット中の金属長繊維の含有量は樹脂100質量部に対して7~40質量部であって、前記範囲を下回ると電磁波シールド性が不十分であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-74662号公報
【文献】特許第6467140号公報
【文献】特開2017-110064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特定周波数の電磁波の吸収率が高く、反射率が低い電磁波遮蔽吸収性成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ステンレス繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記成形体中の前記ステンレス繊維の含有割合が0.01質量%以上、0.5質量%未満であり、
前記成形体が、厚みが0.01~5mmで、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率が1.5%以下のものである、電磁波遮蔽吸収性成形体を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、厚みが0.01~5mmの電磁波遮蔽吸収性成形体における特定周波数の電磁波吸収率が高く、電磁波反射率が低い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ステンレス繊維の含有割合が連続的に増加または減少されている、本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体の実施形態を示す側面図。
【
図2】(a)、(b)本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体の別の実施形態を示す側面図。
【
図3】実施例で使用した電磁波遮蔽性の測定装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、ステンレス繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる。
【0010】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物は、ステンレス繊維を含んでいるものであるが、ステンレス繊維は、ステンレス繊維をそのまま使用することができるほか、ステンレス繊維と熱可塑性樹脂からなるマスターバッチの形態で使用することもできる。
【0011】
ステンレス繊維の外径は5~20μmが好ましい。
ステンレス繊維の材質としては、SUS302、SUS304、SUS316などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体およびそれらの変性物、スチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートから選ばれる1または2以上を使用することができる。
スチレン系樹脂は、ポリスチレン、スチレン単位を含む共重合体(AS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、MAS樹脂など)を使用することができる。
【0013】
ステンレス繊維と熱可塑性樹脂を含むマスターバッチの形態で使用するときは、ステンレス繊維が長さ方向に揃えて束ねられたものに熱可塑性樹脂が付着されて一体化された、長さ1~30mmの熱可塑性樹脂付着ステンレス繊維束(熱可塑性樹脂付着繊維束)の形態で使用することができる。
【0014】
熱可塑性樹脂付着繊維束は、熱可塑性樹脂の付着状態によって次の3つの形態のものを含むものである。
(i)ステンレス繊維束の中心部まで樹脂が浸透され(含浸され)、繊維束を構成する中心部の繊維間にまで樹脂が入り込んだ状態のもの(以下「熱可塑性樹脂含浸繊維束」という)。
(ii)ステンレス繊維束の表面のみが樹脂で覆われた状態のもの(以下「熱可塑性樹脂表面被覆繊維束」という)。
(iii)それらの中間のもの(ステンレス繊維束の表面が樹脂で覆われ、表面近傍のみに樹脂が含浸され、中心部にまで樹脂が入り込んでいないもの)(以下「熱可塑性樹脂一部含浸繊維束」という)。
本発明で使用する熱可塑性樹脂付着繊維束は、熱可塑性樹脂含浸繊維束と熱可塑性樹脂表面被覆繊維束が好ましく、熱可塑性樹脂含浸繊維束がより好ましい。
(i)~(iii)の形態の樹脂付着繊維束は、特開2013-107979号公報に記載されている方法により製造することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂付着繊維束は、外径が好ましくは1.5~6.0mm、より好ましくは1.8~5.0mm、さらに好ましくは2.0~4.0mmであり、長さが好ましくは1~30mm、より好ましくは1~20mm、さらに好ましくは3~15mmである。
【0016】
熱可塑性樹脂付着繊維束中のステンレス繊維の含有割合は、好ましくは1~80質量%、より好ましくは1~60質量%、さらに好ましくは1~50質量%である。
【0017】
熱可塑性樹脂付着繊維束は、前記付着繊維束中のステンレス繊維本数が、好ましくは1000~10000本、より好ましくは2000~8000本、さらに好ましくは3000~7000本である。
熱可塑性樹脂付着繊維束は、幅方向の断面形状が円形またはそれに類似する形状であるものが好ましいが、楕円形またはそれに類似する形状や多角形またはそれに類似する形状のようなものでもよい。
【0018】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物は、前記樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体中のステンレス繊維の含有割合が0.01質量%以上、0.5質量%未満であることから、ステンレス繊維と熱可塑性樹脂からなるマスターバッチ(熱可塑性樹脂付着繊維束)と熱可塑性樹脂からなるものが好ましい。
【0019】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物は、課題を解決できる範囲内で公知の樹脂添加剤を含有することができる。公知の樹脂添加剤としては、熱、光、紫外線などに対する安定剤、滑剤、核剤、可塑剤、公知の無機および有機充填材(但し、炭素繊維とカーボンブラックは除く)、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、軟化剤、分散剤、酸化防止剤などを挙げることができる。
前記組成物(前記電磁波遮蔽吸収性成形体)中の上記公知の樹脂添加剤の合計含有割合は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、下記のとおり、第1の電磁波遮蔽吸収性成形体と第2の電磁波遮蔽吸収性成形体を含む。
【0021】
<第1の電磁波遮蔽吸収性成形体>
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、平板状のもの、曲面状のもの、平板状部分と曲面状部分を有しているものが好ましく、形状は用途に応じて調整することができる。
【0022】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、厚みが0.01~5mm、好ましくは0.05mm~5mm、より好ましくは0.1mm~4mmのものである。厚みは実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0023】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体中のステンレス繊維は、その長さが1~30mmが好ましく、1~20mmがより好ましく、3~15mmがさらに好ましい。なお、ステンレス繊維は成形過程で折れにくいため、組成物中のステンレス繊維の長さと電磁波遮蔽吸収性成形体中のステンレス繊維の長さはおおよそ同一になる。
【0024】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体中のステンレス繊維の含有割合は、0.01質量%以上、0.5質量%未満であり、好ましくは0.05質量%以上、0.5質量%未満が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、0.5質量%未満がより好ましく、さらに好ましくは0.1~0.49質量%である。
【0025】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、上記のようなステンレス繊維が均一に分散されて含有しているものと、前記成形体の第1面から厚さ方向反対側の第2面に向かって連続的に増加または減少して含有されているものを含んでいる。
【0026】
本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体の実施形態のうち、ステンレス繊維が均一に分散された状態で含有されているもの(第1a成形体)は、押出成形や射出成形などの公知の樹脂成形方法を適用して得ることができる。
【0027】
また、本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体の実施形態のうち、ステンレス繊維の含有量が連続的に増加または減少している
図1の前記成形体1(第1b成形体)は、キャスト法などを適用して得ることができる。
たとえばステンレス容器に、熱可塑性樹脂を溶解できる溶剤(メチルエチルケトンなど)、熱可塑性樹脂組成物の溶液(ステンレス繊維は分散状態で含まれている)を入れる。
前記熱可塑性樹脂組成物の溶液は、前記溶液中の樹脂固形分が5~20質量%になるように、熱可塑性樹脂組成物を溶剤に分散させて、前記樹脂分を溶剤に溶解させて調整する。
その後、室温(10~30℃)下、3日~2週間程度放置して溶剤を完全に揮発させ、熱可塑性樹脂組成物を固化させて得ることができる。
また、溶剤を揮発させる間に、前記樹脂組成物中のステンレス繊維が不均一に分散した状態で固化するように、ステンレス繊維と熱可塑性樹脂を含む溶液が入った容器を上下逆さにすることを複数回繰り返してもよい。
【0028】
図1は、本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体の1つの実施形態である、電磁波遮蔽吸収性成形体1の側面図を示す。
前記成形体中のステンレス繊維は、第1面1aから厚さ方向反対側の第2面1bに向かって、連続的にステンレス繊維の含有割合が増加している。
図中の波線の矢印は電磁波を示し、前記成形体1は、ステンレス繊維の含有割合が小さい第1面1aから照射されるようにして使用される。
【0029】
そして、このような本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を1.5%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下にすることができる。前記反射率は、59GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0030】
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、85GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.4%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらにより好ましくは0.5%以下にすることができる。前記反射率は、85GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0031】
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、90GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.4%以下、さらにより好ましくは0.2%以下にすることができる。前記反射率は、90GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0032】
<第2の電磁波遮蔽吸収性成形体>
本発明の第2の電磁波遮蔽吸収性成形体は、ステンレス繊維が均一に分散された状態で含有されている前記の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体(第1a成形体)を含む熱可塑性樹脂組成物成形体が、積層・一体化され一つの成形体にされたものである。
前記成形体の形状および厚み、前記成形体中のステンレス繊維の長さは、第1の電磁波遮蔽吸収性成形体と同様のものにすることができる。
第2の電磁波遮蔽吸収性成形体は、第1面と、前記第1面と厚さ方向反対側の第2面とで、ステンレス繊維の濃度が異なる。
【0033】
そのため、第2の電磁波遮蔽吸収性成形体は、好ましい態様として、下記式(I)により算出される前記成形体中の全ステンレス繊維の含有割合が、好ましくは0.01質量%以上、0.5質量%未満の範囲、より好ましくは0.05質量%以上、0.5質量%未満の範囲、さらに好ましくは0.1質量%以上、0.5質量%未満、さらにより好ましくは0.1~0.49質量%の範囲を満たすものを使用することができる。
式(I):成形体中の全ステンレス繊維の含有量(g)/成形体の質量(g)×100
【0034】
第2の電磁波遮蔽吸収性成形体は、第1面から第2面に向かって、段階的または連続的に、ステンレス繊維の含有割合が、増加または減少するように、本発明で用いる熱可塑性樹脂の融点以上の温度での熱プレスなどの熱融着を含む方法により積層されて一体化される。
第2の電磁波遮蔽吸収性成形体は、ステンレス繊維の含有割合が小さい側から電磁波が照射されるようにして使用される。
【0035】
図2(a)は、本発明の第2の電磁波遮蔽吸収性成形体の実施形態の1つである、電磁波遮蔽吸収性成形体2の側面図を示す。
前記成形体2は、本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体(第1a成形体)である成形体21、22の2枚が重なって熱融着されて一体化されて一つの成形体になっているもので、第1面2aと第2面2bを有する。
成形体21はステンレス繊維が均一に分散されて含有しており、成形体22よりもステンレス繊維の含有割合が小さい。そのため、前記成形体2における成形体21側の第1面2aから成形体22側の第2面2bに向かって、段階的に、ステンレス繊維の含有割合が増加している。
【0036】
また、前記成形体2中のステンレス繊維の含有割合は、成形体21側の第1面2aから成形体22側の第1面2bに向かって連続的に増加していてもよい。
前記成形体2中でステンレス繊維含有割合が連続的になるようにするには、熱プレスするときの温度、圧力、時間を調整して積層させて一体化させ、隣接する成形体同士の界面において、ステンレス繊維の含有割合の大きい成形体22から、隣接する前記含有割合の小さい成形体21に、ステンレス繊維の一部を移動させる方法を適用することができる。
【0037】
成形体21、22は、いずれか一方が本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体(第1a成形体)であればよく、残りの一方はステンレス繊維を含有していない成形体でもステンレス繊維含有割合が0.5質量%以上の成形体でもよい。ただし、成形体21は成形体22よりもステンレス繊維の含有割合が小さくなるように配置される。
成形体21、22ともに、本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体(第1a成形体)であってもよい。
【0038】
図中の波線の矢印は電磁波を示し、前記成形体2はステンレス繊維含有割合の小さい成形体21側の第1面2aから照射されるようにして使用される。
【0039】
図2(b)は、本発明の第2の電磁波遮蔽吸収性成形体の別の実施形態である、電磁波遮蔽吸収性成形体3の側面図を示す。
電磁波遮蔽吸収性成形体3は、本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体(第1a成形体)を含む成形体31~34の4枚が重なって熱融着されて一体化しているもので、第1面3aと第2面3bを有する。
成形体31は隣り合う成形体32よりもステンレス繊維の含有割合が小さく、前記含有割合が小さい成形体31から、成形体32、33、34に向かって順に、段階的に、前記含有割合が増加するように積層されて一つの成形体になっている。
【0040】
また、前記成形体3中のステンレス繊維の含有割合は、成形体31側の第1面3aから成形体34側の第2面3bに向かって連続的に増加していてもよい。
前記成形体3中でステンレス繊維含有割合が連続的になるようにするには、熱プレスするときの温度、圧力、時間を調整して積層させて一体化させ、隣接する成形体同士の界面において、ステンレス繊維の含有割合の大きい成形体34から、前記成形体34よりも前記含有割合の小さい成形体33に、また前記成形体33から前記成形体32に、また前記成形体32から前記成形体31に、となるように、前記成形体ステンレス繊維の一部を移動させる方法を適用することができる。
【0041】
電磁波遮蔽吸収性成形体3は、成形体31~34の少なくとも1枚が本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体(第1a成形体)を含んでおり、残りはステンレス繊維を含有していない成形体でもステンレス繊維含有割合が0.5質量%以上の成形体でもよい。ただし、成形体31から、成形体32、33、34に向かって順に、段階的に、前記含有割合が増加するように配置される。
成形体31~34の全部が、本発明の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体(第1a成形体)であってもよい。
【0042】
図中の波線の矢印は電磁波を示し、前記成形体3はステンレス繊維の含有割合が小さい成形体31側の第1面3aから照射されるようにして使用される。
【0043】
そして、このような本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を1.5%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下にすることができる。前記反射率は、59GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0044】
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、85GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.4%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらにより好ましくは0.5%以下にすることができる。前記反射率は、85GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0045】
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、90GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.4%以下、さらにより好ましくは0.2%以下にすることができる。前記反射率は、90GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0046】
<第3の電磁波遮蔽吸収性成形体>
また、本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、第1、第2の電磁波遮蔽吸収性成形体とは異なる、第3の電磁波遮蔽吸収性成形体として、
ステンレス繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記成形体が、厚みが0.01~5mmであって、
前記成形体が、第1面と、第1面と厚さ方向反対側の第2面を有しているものであり、
前記第1面から第2面に向かって、ステンレス繊維の含有割合が、段階的にまたは連続的に、増加または減少されているものであり、
下記式(I)から算出される前記成形体のステンレス繊維の含有割合が、0.01質量%以上、0.5質量%未満である、電磁波遮蔽吸収性成形体を含む。
式(I):電磁波遮蔽吸収性成形体中の全ステンレス繊維の含有量(g)/電磁波遮蔽吸収性成形体の質量(g)×100
【0047】
第3の電磁波遮蔽吸収性成形体は、前記成形体の形状および厚み、前記成形体中のステンレス繊維の長さにおいて、前記の第1の電磁波遮蔽吸収性成形体と同様のものにすることができる。
【0048】
第3の電磁波遮蔽吸収性成形体は、前記式(I)から算出される前記成形体のステンレス繊維の含有量が0.01質量%以上、0.5質量%未満の範囲、好ましくは0.05質量%以上、0.5質量%未満の範囲、さらに好ましくは0.1質量%以上、0.5質量%未満、さらにより好ましくは0.1~0.49質量%の範囲を満たす。
【0049】
第3の電磁波遮蔽吸収性成形体は、前記成形体の実施形態の1つである電磁波遮蔽吸収性成形体4の全体側面図を、
図2(a)に示す。
前記成形体4は、ステンレス繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体である成形体41、42の2枚が重なって熱融着されて一体化しているもので、第1面4aと第2面4bを有する。
成形体41は成形体42よりもステンレス繊維の含有割合が小さい。そのため、前記成形体4中のステンレス繊維の含有割合は、成形体41側の第1面4aから成形体42側の第2面4bに向かって段階的に増加している。
【0050】
また、前記成形体4中のステンレス繊維の含有割合は、成形体41側の第1面4aから成形体42側の第2面4bに向かって連続的に増加していてもよい。
前記成形体4中でステンレス繊維含有割合が連続的になるようにするには、熱プレスするときの温度、圧力、時間を調整して積層させて一体化させ、隣接する電磁波遮蔽吸収性成形体同士の界面において、ステンレス繊維の含有割合の大きい成形体42から、隣接する前記含有割合の小さい成形体41に、ステンレス繊維の一部を移動させる方法を適用することができる。
【0051】
前記成形体4は、前記式(I)から算出される前記成形体のステンレス繊維の含有量が0.01質量%以上、0.5質量%未満の範囲を満たすものであれば、ステンレス繊維含有割合が小さい成形体41が前記含有割合0.01質量%未満の成形体またはステンレス繊維を含まない成形体であってもよく、またステンレス繊維含有割合が大きい成形体42が前記含有割合0.5質量%以上の成形体であってもよい。
【0052】
電磁波遮蔽吸収性成形体4は、ステンレス繊維含有割合の小さい成形体41側の第1面4aから、電磁波が照射されるようにして使用される。
【0053】
さらに、本発明の第3の電磁波遮蔽吸収性成形体は、前記成形体4とは別の実施形態である電磁波遮蔽吸収性成形体5を、
図2(b)に示す。
前記成形体5は、ステンレス繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体51~54の4枚が重なって熱融着されて一体化しているもので、第1面5aと第2面5bを有する。
成形体51は隣り合う成形体52よりもステンレス繊維の含有割合が小さく、前記含有割合が小さい成形体51から、成形体52、53、54に向かって順に、段階的に、前記含有割合が増加するように積層されている。
【0054】
また、前記成形体5中のステンレス繊維の含有割合は、成形体51側の第1面5aから成形体54側の第2面5bに向かって連続的に増加していてもよい。
前記成形体4中でステンレス繊維含有割合が連続的になるようにするには、熱プレスするときの温度、圧力、時間を調整して積層させて一体化させ、隣接する成形体同士の界面において、ステンレス繊維の含有割合の大きい成形体54から、前記成形体54よりも前記含有割合の小さい成形体53に、また前記成形体53から前記成形体52に、また前記成形体52から前記成形体51に、となるように、前記成形体ステンレス繊維の一部を移動させる方法を適用することができる。
【0055】
電磁波遮蔽吸収性成形体5は、前記式(I)から算出される前記電磁波遮蔽吸収性成形体のステンレス繊維の含有割合が0.01質量%以上、0.5質量%未満の範囲を満たすものであれば、成形体51~54において、他の成形体よりも小さいステンレス繊維含有割合である成形体51が、ステンレス繊維を含まない成形体であってもよいし、また他の成形体よりも大きい前記含有割合である成形体54が0.5質量%以上のステンレス繊維を含んでいてもよい。
【0056】
電磁波遮蔽吸収性成形体5は、ステンレス繊維含有割合の小さい成形体51側の第1面5aから、電磁波が照射されるようにして使用される。
【0057】
そして、このような本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を1.5%以下、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下にすることができる。前記反射率は、59GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0058】
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、85GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.4%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらにより好ましくは0.5%以下にすることができる。前記反射率は、85GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0059】
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、90GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の反射率を好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.4%以下、さらにより好ましくは0.2%以下にすることができる。前記反射率は、90GHz~100GHzの周波数領域全体の反射率であることが好ましい。
【0060】
前記のとおり、本発明の第1、第2および第3の電磁波遮蔽吸収性成形体は、特定周波数の電磁波吸収率が高く、また特定周波数の電磁波反射率が低い。
そして、本発明において、電磁波遮蔽率は電磁波吸収率および電磁波反射率の両方を合わせた性能である。そのため、本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、特定周波数の電磁波遮蔽性が高い。
また、本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、ステンレス繊維の含有割合が小さいことから、軽量で特定周波数の電磁波遮蔽性が高い。
【実施例】
【0061】
製造例1
ステンレス繊維(直径11~12μm、約7000本集束)からなる繊維束を、予備加熱装置による150℃の加熱を経て、クロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機,シリンダー温度300℃)から溶融状態のポリプロピレン(サンアロマーPMB60A[サンアロマー社製ブロックPP]とモディックP908[三菱化学社製酸変性PP]の97:3(質量比)混合物)を供給し、繊維束にポリプロピレンを含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、長さ7mmのペレット(円柱状成形体)を得た。
ステンレス繊維長さは前記ペレット長さと同一となる。このようにして得たペレットは、ステンレス繊維が長さ方向にほぼ平行になっていた。
【0062】
実施例1(第1の電磁波遮蔽吸収性成形体:第1a成形体)
PP1(製造例1で得たステンレス繊維50質量%含有ペレット)と、PP2(PMB60A,サンアロマー社製)の各ペレットをドライブレンドし、射出成形機(α-150iA;ファナック(株)製)により、成形温度230℃、金型温度50℃で成形して、本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体(150×150mm)を得た。
得られた電磁波遮蔽吸収性成形体を使用して、表1に示す各測定を実施した。
【0063】
(1)厚み(mm)
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体(150×150mm)の中心部分(対角線の交わる部分)の厚さを測定した。
【0064】
(2)電磁波遮蔽性と電磁波吸収性
図3に示す測定装置(ネットワークアナライザ)を使用した。
水平方向に対向させた1対のアンテナ(コルゲートホーンアンテナ)11、12の間に測定対象となる成形体10(縦150mm、横150mm、表に示す厚み)を保持した。アンテナ12と成形体10の間隔は0mm、成形体10とアンテナ11との間隔は0mmである。
この状態にて、下側のアンテナ12から電磁波(65~110GHz)を放射して、測定対象となる成形体10を透過した電磁波を上側のアンテナ11で受信した。
ネットワークアナライザ20により測定できるSパラメータ(S21、S11)を用いて、下記式1~6から表1に示す遮蔽率、吸収率および反射率を算出した。
【0065】
S11=(反射電界強度)/(入射電界強度) (式1)
S21=(透過電界強度)/(入射電界強度) (式2)
透過率、反射率、吸収率は、電力基準として、下記式のように百分率で表記した。
透過率(%)=S212×100 (式3)
反射率(%)=S112×100 (式4)
吸収率(%)=100-透過率-反射率 (式5)
遮蔽率(%)=反射率+吸収率 (式6)
【0066】
【0067】
表1の実施例と比較例の対比から明らかなとおり、本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は80GHz~100GHzの周波数範囲における電磁波反射率が1.5%以下と低く、80GHz~100GHzの周波数範囲における電磁波吸収率が高いことが確認できた。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、特に90~100GHzの周波数範囲における電磁波反射率が1.0%以下と低いことが確認できた。
【0068】
実施例2-1(第1の電磁波遮蔽吸収性成形体1:第1b成形体)
図1に示す電磁波遮蔽吸収性成形体1を製造した。
10×20×3cmのステンレス容器に熱可塑性樹脂組成物のメチルエチルケトン溶液(ステンレス繊維は分散状態で含まれている)を流し入れた。
前記熱可塑性樹脂組成物の溶液は、前記溶液中の樹脂固形分が20質量%になるように調整した。
その後、ドラフト内に室温(10~30℃)下、1週間程度放置して溶剤を完全に揮発させて固化させて、第1面1aと第2面1bを有する成形体1(100×200mm)を得た。得られた成形体1の厚みは、実施例1と同様に測定して、約1mmであった。
前記成形体1は、電磁波照射面となる第1面1aから厚み方向反対側の第2面1bに向かって、ステンレス繊維の含有割合は連続的に増加していた。前記式(I)より算出される前記成形体1中のステンレス繊維含有割合は、0.25質量%であった。
【0069】
実施例2-2(第2の電磁波遮蔽吸収性成形体2)
PP1(製造例1で得たステンレス繊維50質量%含有ペレット)と、PP2(PMB60A,サンアロマー社製)の各ペレットをドライブレンドし、射出成形機(α-150iA;ファナック(株)製)により、実施例1と同じ条件で成形して、ステンレス繊維割合0.01質量%の成形体21(150×150mm)およびステンレス繊維割合0.49質量%の成形体22(150×150mm)を得た。得られた成形体21、22の厚みは、実施例1と同様に測定して、約2mmであった。
図2(a)に示すように成形体21と成形体22を重ねて熱プレスして、厚さ約2mmの電磁波遮蔽吸収性成形体2を得た。前記成形体中のステンレス繊維の含有割合の小さい成形体21側を、電磁波照射面である第1面2aとして、第1面2aから厚み方向反対側の第2面2bに向かって、ステンレス繊維の含有割合は段階的に増加していた。
前記式(I)より算出される前記成形体2中のステンレス繊維含有割合は、0.25質量%であった。
【0070】
熱プレス温度:250℃
熱プレス時間:20~60秒
熱プレス圧力:100Mpa
【0071】
実施例2-3(第2の電磁波遮蔽吸収性成形体3)
実施例2-2と同様、ステンレス繊維割合0質量%、0.1質量%、0.5質量%および1.0質量%の成形体(いずれも150×150mm)31、32、33、34をそれぞれ得た。得られた成形体31~34の厚みは、実施例1と同様に測定して、約1mmであった。
図2(b)に示すように、成形体31、32、33、34を順に重ねて熱プレスして、厚さ約2mmの電磁波遮蔽吸収性成形体3を得た。前記成形体中のステンレス繊維の含有割合の小さい成形体31側を、電磁波照射面である第1面3aとして、第1面3aから厚み方向反対側の第2面3bに向かって、ステンレス繊維の含有割合は段階的に増加していた。
前記式(I)より算出される前記成形体3中のステンレス繊維含有割合は、0.40質量%であった。
【0072】
熱プレス温度:250℃
熱プレス時間:20~60秒
熱プレス圧力:100Mpa
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、車両の自動運転や衝突防止を目的として車両に搭載するミリ波レーダー装置用、例えば、ミリ波レーダーの送受信アンテナ制御回路との間に電波を遮蔽する遮蔽部材(送受信アンテナ用保護部材)、ミリ波レーダー装置のハウジング、ミリ波レーダー装置の取付け用部材などのほか、車両用または車両以外の電気・電子機器のハウジングなどに使用することができる。
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、無線LANや広帯域無線アクセスシステム、通信衛星、簡易無線、車載レーダ、位置認識システムなどの保護部材として使用することができ、さらに具体的には、基地局アンテナ、RRH(無線送受信装置)、BBU(べースバンド装置)、基地向けGaNパワーアンプ、光トランシーバーなどの電波を遮蔽する保護部材として使用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 第1の電磁波遮蔽吸収性成形体
2、3 第2の電磁波遮蔽吸収性成形体
1a、2a、3a 第1面
1b、2b、3b 第2面