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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】蓄電素子及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20230324BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230324BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230324BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230324BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20230324BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20230324BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20230324BHJP
   H01G 11/10 20130101ALI20230324BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M4/133
H01M4/66 A
H01M4/587
H01G11/32
H01G11/46
H01G11/68
H01G11/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019555326
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2018042914
(87)【国際公開番号】W WO2019103019
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2017224748
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】加古 智典
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 明彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 理史
(72)【発明者】
【氏名】中井 健太
(72)【発明者】
【氏名】針長 右京
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-029829(JP,A)
【文献】特開2000-348725(JP,A)
【文献】特開2012-109175(JP,A)
【文献】特開2013-152824(JP,A)
【文献】特開2008-004440(JP,A)
【文献】特開2013-247003(JP,A)
【文献】特開2014-056697(JP,A)
【文献】辰巳国昭,低温焼成炭素・難黒鉛化性炭素のナノ構造とリチウムイオン電池負極特性,炭素,No.217,2005年,p115-122,https://doi.org/10.7209/tanso.2005.115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/83
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000℃以下で焼成された非晶質炭素を活物質として含有する負極活物質層を有する負極を備え、
前記負極活物質層の目付量は、0.2g/100cm 以上1.0g/100cm 以下であり、
前記非晶質炭素の放電電気量(Q)に対する前記非晶質炭素の電位(V)を測定した結果に基づいて、単位量あたりの前記放電電気量(Q)における前記電位(V)の変化割合(dQ/dV)を求めて、前記電位(V)に対して前記変化割合(dQ/dV)を表した曲線は、前記非晶質炭素の電位が0.8V以上1.5V以下の範囲に、1つ以上のピークを有し、
満充電時における前記負極の電位は、リチウム電位で0.25V以上である、蓄電素子。
【請求項2】
前記満充電時における前記負極の電位は、リチウム電位で0.35V以上である、請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
前記ピークの高さが300mAh/g・V以上である、請求項1または2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
前記負極は、アルミニウムを含有する金属箔を有する、請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄電素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の蓄電素子を複数備え、
複数の前記蓄電素子が直列に接続され、
前記蓄電素子は、α-NaFeO型構造を有し且つLi1+x1-xの化学組成で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(ここで、Mは、遷移金属であり、0<x<0.3である。)を活物質として含有する正極を有する、蓄電装置。
【請求項6】
1000℃以下で焼成された非晶質炭素を活物質として含有する負極活物質層を有する負極を備え、
前記負極活物質層の目付量は、0.2g/100cm 以上1.0g/100cm 以下であり、
前記非晶質炭素の放電電気量(Q1)に対する前記非晶質炭素の電位(V)を測定した結果に基づいて、前記電位(V)に対する単位量あたりの前記放電電気量(Q)の変化割合(dQ/dV)を表した曲線は、前記電位(V)が0.8V以上1.5V以下の範囲に、1つ以上のピークを有し、
満充電時における前記負極の電位は、金属リチウム電位に対して0.25V以上である、蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの蓄電素子、及び、該蓄電素子を複数備えた蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極、負極およびセパレータを捲回した電極捲回群と、電解液と、を電池容器内に備えるリチウムイオン二次電池が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の電池では、次に示す技術内容が開示されている。正極は、集電体と前記集電体の両面に塗布された正極合材とを有し、正極合材は、層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を正極活物質として含む。正極合材の片面の塗布量は、110~170g/mであり、正極合材の密度は、2.5~2.8g/cmである。負極は、集電体と集電体の両面に塗布された負極合材とを有し、負極合材は、非晶質炭素を負極活物質として含む。電解液は、非水系溶媒として環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状スルホン酸エステル及びビニレンカーボネートを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-091927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電池のごとき蓄電素子は、例えばハイブリッド型自動車での用途に特化すべく、入出力性能を十分に有するように設計されるものの、初期容量があまり大きくないものが多い。近年、自動車用途で蓄電素子を用いることが広がりつつあるため、十分な入出力特性の他、比較的高い初期容量を有する蓄電素子が求められている。
【0006】
そこで、従来の非晶質炭素よりも充放電電気量を増やせる非晶質炭素を、活物質として適用した蓄電素子を検討することが考えられる。しかしながら、斯かる蓄電素子では、充電時及び放電時の電圧曲線が大きく解離する、即ち、ヒステリシスが増加するという問題が起こり得る。ヒステリシスが増加すると、充放電制御が難しくなる。
【0007】
本実施形態は、比較的高い初期容量を有しつつ充電時及び放電時のヒステリシスの増加が抑制された蓄電素子、及び、該蓄電素子を複数備えた蓄電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の蓄電素子は、非晶質炭素を活物質として含有する負極活物質層を有する負極を備え、非晶質炭素の放電電気量(Q)に対する非晶質炭素の電位(V)を測定した結果に基づいて、単位量あたりの放電電気量(Q)における電位(V)の変化割合(dQ/dV)を求めて、電位(V)に対して変化割合(dQ/dV)を表した曲線は、非晶質炭素の電位が0.8V以上1.5V以下の範囲に、1つ以上のピークを有し、満充電時における前記負極の電位は、リチウム電位で0.25V以上である。
【0009】
本実施形態の蓄電装置は、上記の蓄電素子を複数備え、複数の蓄電素子が直列に接続され、蓄電素子は、α―NaFeO型構造を有し且つLi1+x1-xの化学組成で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(ここで、Mは、遷移金属であり、0<x<0.3である。)を活物質として含有する正極を有する。
【発明の効果】
【0010】
本実施形態によれば、比較的高い初期容量を有しつつ充電時及び放電時のヒステリシスの増加が抑制された蓄電素子を提供できる。また、該蓄電素子を複数備えた蓄電装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線位置の断面図である。
図3図3は、負極の活物質としての非晶質炭素の物性の例を表す各グラフである。
図4図4は、同実施形態に係る蓄電素子を含む蓄電装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る蓄電素子の一実施形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。蓄電素子には、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0013】
本実施形態の蓄電素子1は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子1は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子1は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子1は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子1と組み合わされて蓄電装置に用いられる。前記蓄電装置では、該蓄電装置に用いられる蓄電素子1が電気エネルギーを供給する。
【0014】
蓄電素子1は、図1及び図2に示すように、正極と負極とを含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子7であって電極体2と導通する外部端子7と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子7の他に、電極体2と外部端子7とを導通させる集電部材5等を有する。
【0015】
電極体2は、正極と負極とがセパレータによって互いに絶縁された状態で積層された積層体22が巻回されることによって形成される。
【0016】
正極は、金属箔(集電体)と、金属箔の表面に重ねられ且つ活物質を含む正極活物質層と、を有する。本実施形態では、正極活物質層は、金属箔の両面にそれぞれ重なる。なお、正極の厚さは、40μm以上150μm以下であってもよい。
【0017】
金属箔は帯状である。本実施形態の正極の金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。正極は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、正極活物質層の非被覆部(正極活物質層が形成されていない部位)を有する。
【0018】
正極活物質層は、粒子状の活物質(活物質粒子)と、粒子状の導電助剤と、バインダとを含む。正極活物質層(1層分)の厚さは、12μm以上70μm以下であってもよい。正極活物質層(1層分)の目付量は、0.4g/100cm以上1.7g/100cm以下であってもよい。正極活物質層の密度は、1.5g/cm 以上3.0g/cm 以下であってもよい。目付量及び密度は、金属箔の一方の面を覆うように配置された1層分におけるものである。
【0019】
正極活物質層の目付量は、下記の方法によって算出できる。製造され、使用された電池の密度を測定する場合、電池を3Aの電流(電池の定格容量が把握できる場合は、1Cに相当する電流)で2.0Vまで放電した後、5時間2.0Vで保持する。保持後、5時間休止させ、ドライルームまたはアルゴン雰囲気化のグローブボックス内でケース内部から電極体を取り出す。純度99.9%以上、水分量20ppm以下のDMC(ジメチルカーボネート)で、電極体から取り出した正極を3回以上洗浄する。その後、DMCを真空乾燥によって除去する。そして、設定した面積S(cm)、例えば、4cm(2cm×2cm)の大きさの試験片を切り出し、重量W1(mg)を測定する。純水に浸漬すること等によって、活物質層と金属箔とを分離させる。分離後に金属箔の重量W2(mg)を測定する。活物質層の目付量を、(W1-W2))/Sによって算出する。
【0020】
正極活物質層における活物質粒子の平均二次粒子径D50は、2.0μm以上20μm以下であってもよい。平均二次粒子径D50は、レーザ回折・散乱法によって求められる。
【0021】
正極活物質層の多孔度は、20%以上50%以下であってもよい。多孔度は、45%以下であってもよい。多孔度は、水銀圧入法によって測定される。水銀圧入法は、水銀圧入ポロシメーターを用いて実施できる。具体的に、水銀圧入法は、日本工業規格(JIS R1655:2003)に準じて実施する。多孔度p(%)は、水銀圧入法によって測定された水銀圧入量A(cm)と、正極活物質層のみかけ体積V(cm)とから、p=(A/V)×100により算出される。ここで、みかけ体積V(cm)とは、活物質層を平面視したときの面積(cm)に活物質層の厚さ(cm)を乗じたものである。なお、製造された電池における正極活物質層の多孔度を測定する場合、例えば、電池を放電した後、該電池を乾燥雰囲気下で解体する。次に、正極活物質層を取り出してジメチルカーボネートで洗浄した後、2時間以上真空乾燥する。その後、水銀圧入ポロシメーターを用いて測定をおこない、測定結果から正極活物質層の多孔度を算出することができる。
【0022】
正極の活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物である。正極の活物質は、例えば、リチウム遷移金属酸化物である。具体的に、正極の活物質は、例えば、LiMeO(Meは、1又は2以上の遷移金属を表す)によって表される複合酸化物(LiCo、LiNi、LiMn、LiNiCoMn等)、又は、LiMe(XO(Meは、1又は2以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)によって表されるポリアニオン化合物(LiFePO、LiMnPO、LiMnSiO、LiCoPOF等)である。
【0023】
本実施形態では、正極の活物質は、α―NaFeO型構造を有し且つLi1+x1-xの化学組成で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(ここで、Mは、遷移金属であり、0<x<0.3である。)であり、より詳細には、LiNiMnCoの化学組成で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(ただし、0<p≦1.3であり、q+r+s=1であり、0≦q≦1であり、0≦r≦1であり、0≦s≦1であり、1.7≦t≦2.3である)である。また、0<q<1であり、0<r<1であり、0<s<1であることが好ましい。
【0024】
上記のごときLiNiMnCoの化学組成で表されるリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi3/5Co1/5Mn1/5、LiNi4/5Co1/10Mn1/10などである。
【0025】
本実施形態では、正極の電位をリチウム電位で4.25Vとした場合の充電容量(電極単位面積あたりの充電電流:0.5mA/cm)が110mAh/g以上230mAh/g以下であることが好ましい。また、上記の充電容量が、150mAh/g以上200mAh/g以下であることがより好ましく、160mAh/g以上180mAh/g以下であることがさらに好ましい。
正極の活物質が上記組成のリチウム遷移金属酸化物であり、且つ、上記の充電容量が上記数値範囲内である場合には、負極に用いた炭素材料(難黒鉛化炭素)の充放電容量との関係上、比較的高い重量エネルギー密度、及び耐久性の両方が達成され得る。
【0026】
正極活物質層に用いられるバインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態のバインダは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0027】
正極活物質層の導電助剤は、炭素を98質量%以上含む炭素質材料である。炭素質材料は、例えば、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等である。本実施形態の正極活物質層は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。
【0028】
負極は、金属箔(集電体)と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。本実施形態では、負極活物質層は、金属箔の両面にそれぞれ重ねられる。金属箔は帯状である。金属箔の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。本実施形態では、金属箔は、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔であり、好ましくはアルミニウム箔である。アルミニウム合金とは、アルミニウムを90質量%以上含む合金である。アルミニウムを含む金属箔の表面には、導電層が形成されてもよい。金属箔がアルミニウムを含むことにより、蓄電素子が過放電状態になった場合においても、金属箔が溶解することが抑制され、過放電に対して耐性が発揮されると考えられる。負極は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、負極活物質層の非被覆部(負極活物質層が形成されていない部位)を有する。負極の厚さは、40μm以上150μm以下であってもよい。
【0029】
負極活物質層(1層分)の厚さは、10μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質層の目付量(1層分)は、0.2g/100cm以上1.0g/100cm以下であってもよい。負極活物質層の密度(1層分)は、0.5g/cm以上6.0g/cm以下であってもよい。
【0030】
負極活物質層の目付量は、正極活物質層の目付量と同様にして算出する。正極活物質層及び負極活物質層が互いに対向する部分において、正極活物質層の目付量をVPとし、負極活物質層の目付量をVNとしたときに、下記の関係式(1)が満たされてもよい。斯かる構成により、過放電に対して耐性を有する蓄電素子1を得ることができる。目付量は、上述した方法と同様にして測定される。
0.4≦VN/VP≦0.6 関係式(1)
【0031】
負極活物質層は、粒子状の活物質(活物質粒子)と、バインダと、を含む。負極活物質層は、セパレータを介して正極と向き合うように配置される。負極活物質層の幅は、正極活物質層の幅よりも大きい。
【0032】
負極の活物質は、負極において充電反応及び放電反応の電極反応に寄与し得るものである。本実施形態の負極の活物質は、非晶質炭素である。より具体的には、負極の活物質は、難黒鉛化炭素である。
ここで、非晶質炭素とは、放電状態において、線源としてCuKα線を用いた広角X線回折法によって求められる(002)面の平均面間隔d002が、0.340nm以上0.390nm以下のものである。また、難黒鉛化炭素とは、前記平均面間隔d002が、0.360nm以上0.390nm以下のものである。
【0033】
負極の活物質の非晶質炭素は、下記の物性を有する。非晶質炭素の放電電気量(Q)に対する非晶質炭素の電位(V)を測定(放電時に測定)した結果に基づいて、非晶質炭素の単位量あたりの放電電気量(Q)における電位(V)の変化割合(dQ/dV)を求め、電位(V)に対して変化割合(dQ/dV)を表した曲線は、非晶質炭素の電位が0.8V以上1.5V以下の範囲に、1つ以上のピークを有する。該ピークの高さは、300mAh/g・V以上であることが好ましい。該ピークの高さが300mAh/g・V以上であることにより、より高い初期容量を有する蓄電素子1を得ることができる。該ピークの高さは、1500mAh/g・V以下であってもよい。上記の曲線は、通常、1つのピークを有する。上記の曲線は、実施例に記載された方法によって求められる。なお、上記の曲線がピークを有することは、曲線全体を目視することによって確認でき、下記のようにしても確認できる。上記曲線を表すグラフにおいて、電位(V)が0.1Vごとに変化する放電電気量を算出し、その変化割合(dQ/dV)の平均値を算出し、非晶質炭素の電位が0.8V以上1.5V以下の範囲において、算出した変化割合(dQ/dV)の平均値が、いったん上昇してから低下する場合に、上記の曲線がピークを有することを確認できる。
【0034】
上記の物性を有する非晶質炭素は、製造時の焼成温度を1000℃以下に設定することで得ることができる。焼成温度を900℃以下に設定することでさらにピークが大きくなる。このように、本実施形態の非晶質炭素は、比較的低温で焼成されることによって作製されたものである。一方、従来の一般的な非晶質炭素は、1300℃以上の焼成温度で作製されたものである。
【0035】
負極活物質層に用いられるバインダは、正極活物質層に用いられるバインダと同様のものである。本実施形態のバインダは、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)である。
【0036】
負極活物質層では、バインダの割合は、活物質粒子とバインダとの合計質量に対して、0.5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0037】
負極活物質層は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の負極活物質層は、導電助剤を有していない。
【0038】
上限電圧まで充電したとき(満充電時)に、正極の電位は、3.85V以上4.5V以下[vs.Li/Li]であってもよい。一方、上限電圧まで充電したとき(満充電時)に、負極の電位は、0.25V以上である。上限電圧まで充電したとき(満充電時)に、負極の電位は、0.35V以上0.4V以下[vs.Li/Li]であってもよい。上限電圧まで充電したとき(満充電時)の負極の電位が0.25V以上であることで、比較的高い初期容量を有することができる。また、斯かる電位が0.25V以上であることで、リチウムと、集電体のアルミニウムとが合金化反応を起こすことを抑制できるため、負極の集電体にアルミニウムを選択することができるようになり、過放電特性に優れた蓄電素子1を得ることができる。上限電圧まで充電したとき(満充電時)の負極の電位が0.4V以下であることにより、電池の容量をより大きくすることができる。なお、上限電圧まで充電したとき(満充電時)の負極の電位は、正極及び負極の活物質層の目付量の比を変更することによって、調整できる。例えば、上述したVN/VPの値を大きくすることによって、上記の負極の電位を高く設定することができる。
【0039】
α―NaFeO型構造を有し且つLi1+x1-xの化学組成で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(ここで、Mは、遷移金属であり、0<x<0.3である。)を活物質として含有する正極を備え、蓄電素子1の電圧が3.6Vに到達した場合の負極の電圧が0.25V以上となるように設計された蓄電素子1では、通常の使用電圧上限は、3.6Vとなる。このような蓄電素子1の複数を直列に接続、好ましくは4つを直列に接続した場合、従来の鉛蓄電池を備えた自動車用電源と電圧の互換性が生じるため、鉛蓄電池の代替として用いることができる。このような蓄電装置を、鉛蓄電池の代替用途に用いると、鉛蓄電池にはできない深放電が可能となり、加えて、軽量化を図ることが可能になる。
【0040】
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極と負極とがセパレータによって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極、負極、及びセパレータの積層体22が巻回される。セパレータは、絶縁性を有する部材である。セパレータは、正極と負極との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極と負極とが互いに絶縁される。また、セパレータは、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータを挟んで交互に積層される正極と負極との間を移動する。
【0041】
セパレータは、帯状である。セパレータは、多孔質なセパレータ基材を有する。セパレータは、正極及び負極間の短絡を防ぐために正極及び負極の間に配置されている。本実施形態のセパレータは、セパレータ基材のみを有する。
【0042】
セパレータ基材は、多孔質に構成される。セパレータ基材は、例えば、織物、不織布、又は多孔膜である。セパレータ基材の材質としては、高分子化合物、ガラス、セラミックなどが挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン(PO)、及び、セルロースからなる群より選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0043】
セパレータの幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極活物質層の幅より僅かに大きい。セパレータは、正極活物質層及び負極活物質層が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極と負極との間に配置される。このとき、正極の非被覆部と負極の非被覆部とは重なっていない。即ち、正極の非被覆部が、正極と負極との重なる領域から幅方向に突出し、且つ、負極の非被覆部が、正極と負極との重なる領域から幅方向(正極の非被覆部の突出方向と反対の方向)に突出する。積層された状態の正極、負極、及びセパレータ、即ち、積層体22が巻回されることによって、電極体2が形成される。
【0044】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電部材5等と共に、電解液を内部空間に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。ケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。ケース3は、ステンレス鋼及びニッケル等の金属材料、又は、アルミニウムにナイロン等の樹脂を接着した複合材料等によって形成されてもよい。
【0045】
電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO、LiBF、及びLiPF等である。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを所定の割合で混合した混合溶媒に、0.5~1.5mol/LのLiPFを溶解させたものである。
【0046】
蓋板32は、ケース3内のガスを外部に排出可能なガス排出弁321を有する。ガス排出弁321は、ケース3の内部圧力が所定の圧力まで上昇したときに、該ケース3内から外部にガスを排出する。ガス排出弁321は、蓋板32の中央部に設けられる。
【0047】
ケース3には、電解液を注入するための注液孔が設けられる。注液孔は、ケース3の内部と外部とを連通する。注液孔は、蓋板32に設けられる。注液孔は、注液栓326によって密閉される(塞がれる)。注液栓326は、溶接によってケース3(本実施形態の例では蓋板32)に固定される。
【0048】
外部端子7は、他の蓄電素子1の外部端子7又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子7は、導電性を有する部材によって形成される。外部端子7は、バスバ等が溶接可能な面71を有する。面71は、平面である。
【0049】
集電部材5は、ケース3内に配置され、電極体2と通電可能に直接又は間接に接続される。本実施形態の集電部材5は、導電性を有する部材によって形成される。図2に示すように、集電部材5は、ケース3の内面に沿って配置される。集電部材5は、蓄電素子1の正極と負極とにそれぞれ導通される。
【0050】
本実施形態の蓄電素子1では、電極体2とケース3とを絶縁する袋状の絶縁カバー6に収容された状態の電極体2(詳しくは、電極体2及び集電部材5)がケース3内に収容される。
【0051】
次に、上記実施形態の蓄電素子1の製造方法について説明する。
【0052】
蓄電素子1の製造方法では、まず、金属箔(集電体)に活物質を含む合剤を塗布し、活物質層を形成し、電極(正極及び負極)を作製する。次に、正極、セパレータ、及び負極を重ね合わせて電極体2を形成する。続いて、電極体2をケース3に入れ、ケース3に電解液を入れることによって蓄電素子1を組み立てる。
【0053】
電極(正極)の作製では、金属箔の両面に、活物質とバインダと溶媒とを含む合剤をそれぞれ塗布することによって正極活物質層を形成する。合剤の塗布量を変化させることによって、正極活物質層の厚さや目付量を調整することができる。正極活物質層を形成するための塗布方法としては、一般的な方法が採用される。さらに、正極活物質層を所定の圧力でロールプレスする。プレス圧を変化させることにより、正極活物質層の厚さや密度を調整できる。なお、同様にして、負極を作製する。
【0054】
電極体2の形成では、正極と負極との間にセパレータを挟み込んだ積層体22を巻回することにより、電極体2を形成する。詳しくは、正極活物質層と負極活物質層とがセパレータを介して互いに向き合うように、正極とセパレータと負極とを重ね合わせ、積層体22を作る。積層体22を巻回して、電極体2を形成する。
【0055】
蓄電素子1の組み立てでは、ケース3のケース本体31に電極体2を入れ、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぎ、電解液をケース3内に注入する。ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐときには、ケース本体31の内部に電極体2を入れ、正極と一方の外部端子7とを導通させ、且つ、負極と他方の外部端子7とを導通させた状態で、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐ。電解液をケース3内へ注入するときには、ケース3の蓋板32の注入孔から電解液をケース3内に注入する。
【0056】
上記のように構成された本実施形態の蓄電素子1は、負極の金属箔がアルミニウムであることから、通常、負極の電位が、アルミニウムとリチウムとの合金化電位に到達しないように使用される。
【0057】
上記のように構成された本実施形態の蓄電素子1は、非晶質炭素を活物質として含有する負極活物質層を有する負極を備える。非晶質炭素の放電電気量(Q)に対する非晶質炭素の電位(V)を測定した結果に基づいて、非晶質炭素の単位量あたりの放電電気量(Q)における電位(V)の変化割合(dQ/dV)を求めて、電位(V)に対して変化割合(dQ/dV)を表した曲線は、非晶質炭素の電位が0.8V以上1.5V以下の範囲に、1つ以上のピークを有する。蓄電素子1の満充電時における前記負極の電位は、リチウム電位で0.25V以上である。
上記の物性を有する非晶質炭素は、従来の非晶質炭素と異なる細孔構造で構成されていることから、上記のピークを有する。非晶質炭素が上記のピークを有する分、充電電気量が多くなり、蓄電素子1がより多くの容量を得ることができると推定される。また、満充電時における前記負極の電位は、リチウム電位で0.25V以上であることから、充電時及び放電時の蓄電素子1のヒステリシスの増加が抑制されると考えられる。
従って、上記の構成によって、比較的高い初期容量を有しつつ充電時及び放電時のヒステリシスの増加が抑制された蓄電素子を提供できる。なお、ヒステリシスの増加が抑制された蓄電素子1では、充放電を制御することが比較的容易となる。
【0058】
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0059】
上記の実施形態では、活物質を含む活物質層が金属箔に直接接した正極及び負極について詳しく説明したが、本発明では、正極又は負極が、バインダと導電助剤とを含む導電層であって活物質層と金属箔との間に配置された導電層を有してもよい。すなわち、正極又は負極の金属箔は、導電層を介して活物質層に重なってもよい。
【0060】
上記実施形態では、活物質層が各電極の金属箔の両面側にそれぞれ配置された電極について説明したが、本発明の蓄電素子では、正極又は負極は、活物質層を金属箔の片面側にのみ備えてもよい。
【0061】
上記実施形態では、積層体22が巻回されてなる電極体2を備えた蓄電素子1について詳しく説明したが、本発明の蓄電素子は、巻回されない積層体22を備えてもよい。詳しくは、それぞれ矩形状に形成された正極、セパレータ、負極、及びセパレータが、この順序で複数回積み重ねられてなる電極体を蓄電素子が備えてもよい。
【0062】
上記実施形態では、蓄電素子1が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子1の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態では、蓄電素子1の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【0063】
蓄電素子1(例えば電池)は、図4に示すような蓄電装置100(蓄電素子が電池の場合は電池モジュール)に用いられてもよい。蓄電装置100は、少なくとも二つ(複数、例えば4つ)の蓄電素子1と、隣り合う二つの蓄電素子1同士を電気的に接続するバスバ部材91と、を有する。複数の蓄電素子1は、直列に接続されていることが好ましい。本発明の技術が複数のうち一部の蓄電素子に適用されてもよく、複数のすべての蓄電素子に適用されてもよい。
【0064】
<ヒステリシスの増加が抑制されるメカニズム>
負極活物質(非晶質炭素)において、Liイオンが挿入可能なサイトが複数存在し、各サイトのエネルギー準位(零点エネルギー)が異なる。充電時、まずLiイオンはエネルギー準位の低いサイトに挿入されていき、そのサイトのポテンシャルエネルギーが増加(遷移)する。その後、他のサイトとポテンシャルエネルギーカーブ(エネルギー準位)が交差する時点で、(結果的に他のサイトの方がエネルギー準位が低くなったため)Liイオンは他のサイトへ移動する。また、エネルギー安定化により、内部エネルギーが外部にエネルギーとして放出される。放電時はその逆の現象となる。この充放電時における負極活物質内のエネルギー準位の差に依存したLiイオンのサイト間移動が、充放電時にヒステリシスが生じる原因となる。
言い換えると、Liイオンのサイト間移動を制限すれば、ヒステリシスは生じない。従って、エネルギー準位が交差しないように充電深度が浅い条件で充放電を行えば、ヒステリシスは生じないと考えられる。本発明に係る非晶質炭素は、電位(V)に対する単位量あたりの放電電気量の変化割合(dQ/dV)を表した曲線において、電位(V)が0.8V以上1.5V以下の範囲に、1つ以上のピークを有することから、満充電時における負極の電位を、金属リチウム電位に対して0.25V以上とすることにより、エネルギー準位が交差しないように充電深度が浅い条件で充放電しても、比較的高い初期容量を有している。
なお、焼成温度を調整することで、所望の条件の非晶質炭素を作製することができる。
【実施例
【0065】
以下に示すようにして、非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を製造した。

(実施例1)
(1)正極の作製
溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と、導電助剤(アセチレンブラック)と、バインダ(PVdF)と、活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/32 、D50が4.0μm))の粒子とを、混合し、混練することで、正極用の合剤を調製した。導電助剤、バインダ、活物質の配合量は、それぞれ4.5質量%、2.5質量%、93質量%とした。調製した正極用の合剤を、アルミニウム箔(厚さ12μm)の両面に、乾燥後の塗布量(目付量)が0.613g/100cmとなるようにそれぞれ塗布した。表1に記載の電池上限電圧まで電池を充電したときの正極の電位が4.00V[vs.Li/Li]となるように、塗布量を設定した。乾燥後、ロールプレスをおこなった。その後、真空乾燥して、水分等を除去した。プレス後の活物質層(1層分)の厚さは、64μmであった。活物質層の多孔度は、42%であった。
【0066】
(2)負極の作製
活物質としては、粒子状の非晶質炭素(難黒鉛化炭素)を用いた(後に詳述)。また、バインダとしては、PVdFを用いた。負極用の合剤は、溶剤としてNMPと、バインダと、活物質とを混合、混練することで調製した。固形分換算で、PVdFは、4質量%となるように配合し、活物質は、96質量%となるように配合した。調製した負極用の合剤を、乾燥後の塗布量(目付量)が0.3g/100cmとなるように、アルミニウム箔(厚さ12μm)の両面にそれぞれ塗布した。塗布量は、表1に記載の電池上限電圧まで電池を充電したときの負極の電位が0.40V[vs.Li/Li]となるように設定した。乾燥後、ロールプレスをおこない、真空乾燥して、水分等を除去した。活物質層(1層分)の厚さは、71μmであった。活物質層の多孔度は、32%であった。
【0067】
(3)セパレータ
セパレータとして厚さが22μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。ポリエチレン製微多孔膜の透気抵抗度は、100秒/100ccであった。
【0068】
(4)電解液の調製
電解液としては、以下の方法で調製したものを用いた。非水溶媒として、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、いずれも1容量部ずつ混合した溶媒を用い、この非水溶媒に、塩濃度が1mol/LとなるようにLiPFを溶解させ、電解液を調製した。
【0069】
(5)ケース内への電極体の配置
上記の正極、上記の負極、上記の電解液、セパレータ、及びケースを用いて、一般的な方法によって電池を製造した。
まず、セパレータが上記の正極および負極の間に配されて積層されてなるシート状物を巻回した。次に、巻回されてなる電極体を、ケースとしてのアルミニウム製の角形電槽缶のケース本体内に配置した。続いて、正極及び負極を2つの外部端子それぞれに電気的に接続させた。さらに、ケース本体に蓋板を取り付けた。上記の電解液を、ケースの蓋板に形成された注液口からケース内に注入した。最後に、ケースの注液口を封止することにより、ケースを密閉した。
【0070】
(実施例2~5、比較例1~3)
負極の活物質としての非晶質炭素の種類を変えること、又は、負極を作製するときの目付量を0.132~0.760g/100cmの範囲で変更すること等によって、各電池を表1に示す構成に変更した点以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。リチウムイオン二次電池は、上限電圧時の負極電位が表1に示す値となるように、設計した。
詳しくは、実施例2~4では、実施例1と同じ非晶質炭素(サンプル1)を、負極の活物質として用いた。実施例5では、電位(V)に対して変化割合(dQ/dV)を表した曲線において、1つのピークを有する非晶質炭素(サンプル1と異なるサンプル2)を、負極の活物質として用いた。なお、サンプル1及びサンプル2の非晶質炭素において、上記ピークの高さは、300mAh/g・V以上であった。
比較例2及び3では、電位(V)に対して変化割合(dQ/dV)を表した曲線において、ピークを有しない非晶質炭素を、負極の活物質として用いた。比較例1では、上記のサンプル1の非晶質炭素を、負極の活物質として用いた。
【0071】
上記サンプル1、上記サンプル2、及びピークを有しない非晶質炭素について、電位(V)に対して変化割合(dQ/dV)を表した曲線を図3にそれぞれ示す。サンプル1は、900℃での焼成によって得られたものであり、サンプル2は、1000℃での焼成によって得られたものである。ピークを有しない非晶質炭素は、1300℃での焼成によって得られたものである。
【0072】
図3に示す曲線は、非晶質炭素の放電電気量(Q)に対する非晶質炭素の電位(V)を測定した結果に基づき、単位量あたりの放電電気量(Q)における電位(V)の変化割合(dQ/dV)を求めて、電位(V)に対して変化割合(dQ/dV)を表したものである。上記曲線は、非晶質炭素の放電時の電気量を測定することによって得られる。この測定方法においては、非晶質炭素に対して所定の前処理をおこなったあと、放電時における電位に対する電気量を測定した。
(前処理)
電池を5Aの電流で2.0Vまで放電した後、2.0Vで5時間保持した。保持した後、5時間休止させ、ドライルームまたはアルゴン雰囲気化のグローブボックス内でケース内部から電極体を取り出した。純度99.9%以上、水分量20ppm以下のDMCで、電極体から取り出した負極を3回以上洗浄した。その後、真空乾燥によってDMCを除去した。
(放電時の電気量の測定方法)
上記のとおり前処理によって電池から負極を取り出したあと、3.0cm×2.5cmに切り抜いた負極(作用極)と、対極(Li金属)と、参照極(Li金属)とをもちいた3極式セルを作製した。セパレータおよび電解液として、本実施例1に記載のものと同じものを用いた。作製したセルを、電流密度0.5mA/cmの電流値で0.01Vまで24時間定電圧充電した。10分間休止したあと、同じ電流密度で2.0Vまで定電流放電をおこなった。このような操作における放電容量の算出値を1CmAとした。同じセルをもちいて、1CmAの電流値で36秒間の定電流充電をおこなった後、720秒休止する操作を99回おこない、さらに、同じ電流値で0.01Vで30分間の定電圧充電をおこなった。続いて、720秒の休止の後、同じ電流値で下限電圧を2.0Vとして、36秒間の定電流放電をおこなった後、720秒休止する操作を100回おこなった。測定順序が隣り合う放電休止後の各電位の差を、各電位に対応する各放電電気量の差で割った値(変化割合)をdQ/dVとした。放電休止後の各電位(V)に対して変化割合(dQ/dV)を表した曲線は、上記サンプル1及びサンプル2の非晶質炭素において、非晶質炭素の電位が0.8V以上1.5V以下の範囲に、1つのピークを有した。
【0073】
<初期容量の測定>
25℃で3.6Vまで3Aの定電流充電した後に、3.6Vで定電圧充電して、定電流充電と定電圧充電とを合わせて3時間充電した。その後、2.4Vまで3Aの定電流で放電した。この放電容量を「初期容量」とした。
【0074】
<充電時及び放電時のヒステリシスの測定>
ヒステリシスは以下の条件で算出した。上記で算出した初期容量を1CAとし,3A定電流で、終止電圧2.4Vの条件で放電したのち、1CAで36秒間充電し、720秒間休止する充電を1回として、同充電を99回繰り返し、1.5Aで3.6Vの定電圧充電を3600秒おこなった。その後、1CAで36秒間放電し、720秒間休止する放電を1回として、同放電を100回繰り返した。各充電時の休止後の電圧を充電時OCV、各放電時の休止後の電圧を放電時OCVとして、各SOCに対して算出し、各SOCにおいて、充電時OCVと放電時OCVの差をヒステリシスとした。
【0075】
各実施例、各比較例で製造した電池の初期容量の測定結果、及び、充電時及び放電時のヒステリシスの評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から把握されるように、実施例の電池は、比較的高い初期容量を有しつつ充電時及び放電時のヒステリシスの増加が抑制されていた。
【符号の説明】
【0078】
1:蓄電素子(非水電解質二次電池)、
2:電極体、
3:ケース、 31:ケース本体、 32:蓋板、
5:集電部材、
6:絶縁カバー、
7:外部端子、 71:面、
100:蓄電装置。
図1
図2
図3
図4