(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】除草剤
(51)【国際特許分類】
A01N 25/04 20060101AFI20230324BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20230324BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20230324BHJP
A01N 53/08 20060101ALI20230324BHJP
A01N 57/20 20060101ALI20230324BHJP
A01P 7/00 20060101ALI20230324BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20230324BHJP
A01P 9/00 20060101ALI20230324BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20230324BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
A01N25/04 101
A01N37/02
A01N53/06
A01N53/08
A01N57/20 G
A01P7/00
A01P7/04
A01P9/00
A01P13/00
A01P17/00
(21)【出願番号】P 2016224861
(22)【出願日】2016-11-18
【審査請求日】2019-08-22
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2016200055
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000185363
【氏名又は名称】小池化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉丸 勝郎
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】野田 定文
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】特許第3855203(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0094367(US,A1)
【文献】農薬抄録,一般名:ペラルゴン酸「除草剤」,丸和バイオケミカル株式会社作成,2014,p.1-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化した油性除草剤を含有した除草剤において、
0.5重量%以上のグリホサートを含有しており、
前記油性除草剤はペラルゴン酸であり、
2.0重量%以上の前記ペラルゴン酸を含有しており、
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された多数の
親水性ナノ粒子が前記ペラルゴン酸の粒子表面に付着して該ペラルゴン酸が水性液体中に乳化分散していることを特徴とする除草剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば雑草等を除去するための除草剤に関し、例えばペラルゴン酸等の油性除草剤を含有させる技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油性除草剤としてのペラルゴン酸を含有した除草剤が知られている。特許文献1には、グリホサートまたはその塩と、カプリル酸塩、ペラルゴン酸塩、カプリン酸塩又はラウリン酸塩を包含する脂肪酸塩活性成分とをそれぞれ有効量含んでなる除草剤が開示されている。
【0003】
特許文献2には、N-ホスホノメチルグリシンまたはその塩と、ペラルゴン酸を含む脂肪酸またはその塩とを含む除草剤が開示されている。
【0004】
特許文献3には、グリホサート塩と、ペラルゴン酸の有機塩基塩と、塩化アンモニウムのような無機酸のアンモニウム塩とを含む除草剤が開示されている。
【0005】
特許文献4には、ペラルゴン酸と、グリホサート塩と、プロメトリンと、シアナジンとを含む除草剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2588350号公報
【文献】特許第4266388号公報
【文献】特開2014-91739号公報
【文献】特許第4853697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したようにペラルゴン酸の塩を溶解させた除草剤があるが、ペラルゴン酸による除草の即効性をより一層高めたいという要求がある。特に、使用者は雑草に除草剤を散布した後、すぐに除草効果が得られるか否かを重要視する場合が多い。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、除草剤に油性除草剤を含有させる場合に、油性除草剤による除草の即効性を更に高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、乳化した油性除草剤を含有させるようにした。
【0010】
第1の発明は、乳化した油性除草剤を含有した除草剤において、0.5重量%以上のグリホサートを含有しており、前記油性除草剤はペラルゴン酸であり、2.0重量%以上の前記ペラルゴン酸を含有しており、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された多数の親水性ナノ粒子が前記ペラルゴン酸の粒子表面に付着して該ペラルゴン酸が水性液体中に乳化分散していることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、油性除草剤を乳化させた除草剤になるので、例えばペラルゴン酸の塩を溶解させた除草剤に比べて油性除草剤による除草効果が素早く現れる。
【0012】
また、ペラルゴン酸による除草効果、即ち、雑草の茎葉表面から浸透して細胞内のpHを下げて細胞を破壊することによって除草効果が素早く現れる。
【0013】
また、乳化した油性除草剤によって雑草にダメージを与えながら、グリホサートによって雑草全体へもダメージを与えることで、除草効果がより一層高まる。
【0014】
また、乳化した油性除草剤による除草の即効性が高いので、グリホサートの含有量を油性除草剤より少なくしても除草剤全体として高い除草効果が得られる。
【0015】
また、除草の即効性が十分に高まる。
【0016】
また、雑草の根まで枯れて除草効果が長期間に亘って持続する。
【0017】
また、第1から6のいずれか1つの発明において、単粒子化された多数のバイオポリマーが油性除草剤の粒子表面に付着して該油性除草剤が水性液体中に乳化分散していることを特徴としてもよい。
【0018】
また、親水性ナノ粒子や単粒子化されたバイオポリマーを用いて油性除草剤を乳化することにより、水性の有効成分(例えばグリホサート(塩))が存在したときの乳化安定性をより向上させることができるので、水性の有効成分と、油性害虫駆除成分および/または油性除草剤と、をより安定して共存させることができる。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、油性除草剤を乳化させた除草剤になるので、油性除草剤による除草の即効性を更に高めることができる。
【0020】
また、ペラルゴン酸による除草の即効性を更に高めることができる。
【0021】
また、グリホサートを含有しているので、除草効果をより一層高めることができる。
【0022】
また、グリホサートの含有量が油性除草剤の含有量より少なくても高い除草効果を得ることができる。
【0023】
また、油性除草剤を2.0重量%以上含有しているので、除草の即効性を十分に高めることができる。
【0024】
また、グリホサートを0.5重量%以上含有しているので、除草効果を長期間に亘って持続させることができる。
【0025】
また、除草剤が粒子のまま雑草に付着するので、除草効果をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
本発明の実施形態に係る除草剤は、害虫が接触することによって忌避効果を発揮する接触忌避剤と、空間忌避剤と、油性除草剤としてのペラルゴン酸と、グリホサートとを少なくとも含有した液状の薬剤である。接触忌避剤及び空間忌避剤は害虫忌避成分である。ペラルゴン酸及びグリホサートは除草成分であり、草木、雑草等の植物を枯らすためのものである。また、除草剤は、各成分を希釈するための水を含有していてもよいし、界面活性剤、溶剤等を含有していてもよい。
【0029】
接触忌避剤は、25℃における蒸気圧が1.0×10-5mmHg未満である難蒸散性の害虫忌避剤であり、好ましくは、25℃における蒸気圧が1.0×10-6mmHg未満の害虫忌避剤である。接触忌避剤としては、例えば、ピレスロイド系、有機リン系の害虫忌避剤が好適に用いられる。接触忌避剤用のピレスロイド系の害虫忌避剤としては、例えば、トラロメトリン、ビフェントリン、ペルメトリン、フェノトリン、シペルメトリン、シフェノトリン、シフルトリン、フタルスリン、レスメトリン、エトフェンプロックス、アクリナトリン、シラフルオフェンなどを挙げることができる。接触忌避剤用の有機リン系の害虫忌避剤としては、例えば、クロルピリホス、プロペタンホス、フェニトロチオン、ピリダフェンチオン、その他にフィプロニル、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロルフェナピル、チアメトキサム、クロチアニジン、インドキサカルブ、エチプロールなどを挙げることができる。また、これらをマイクロカプセル化したものなども用いられる。これらのなかでも、トラロメトリン、ビフェントリン、フィプロニル、ジノテフラン、イミダクロプリドを用いることが好ましい。また、これらのうち、1種のみを用いることもできるし、任意の2種以上を混合して用いることもできる。
【0030】
空間忌避剤は、25℃における蒸気圧が1.0×10-5mmHg以上である易蒸散性の害虫忌避剤であり、好ましくは、25℃における蒸気圧が1.0×10-4mmHg以上の害虫忌避剤である。空間忌避剤としては、例えば、ピレスロイド系の害虫忌避剤が好適に用いられる。空間忌避剤用のピレスロイド系の害虫忌避剤としては、例えば、エムペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、テラレスリン等を挙げることできる。また、これらのうち、1種のみを用いることもできるし、任意の2種以上を混合して用いることもできる。
【0031】
除草剤は、乳化したペラルゴン酸を含有している。グリホサートの含有量よりもペラルゴン酸の含有量の方が多くなるように、グリホサート及びペラルゴン酸の含有量が設定されている。具体的には、ペラルゴン酸の含有量は、2.0重量%以上とするのが好ましく、より好ましいのは2.5重量%以上である。ペラルゴン酸の含有量の上限値は、例えば5.0重量%とすることができる。ペラルゴン酸の含有量を5.0重量%以上にしても即効性の効果はそれほど高まらないからである。
【0032】
この実施形態では、ペラルゴン酸を乳化させた除草剤になるので、ペラルゴン酸の塩を溶解させた除草剤に比べてペラルゴン酸による除草効果、即ち、植物としての雑草の茎葉表面から浸透して細胞内のpHを下げて細胞を破壊することによって除草効果が素早く現れる。よって、雑草が枯れて垂れ下がるようになるまでの時間がさらに短縮される。
【0033】
ペラルゴン酸の含有量を2.0重量%以上未満にすると、雑草が枯れるまでの時間が長くなり、即効性が低下する一方、ペラルゴン酸の含有量を2.0重量%以上にすると、使用者が即効性を十分に実感することができる程度の高い除草効果を得ることができる。ペラルゴン酸の含有量を2.5重量%以上にすると更に高い除草効果を得ることができるので好ましく、より好ましくは、3.0重量%以上である。
【0034】
グリホサートは植物の茎葉から浸透した後に植物体内の全体に輸送されてアミノ酸合成を阻害することによって植物全体を枯らすことができるものであり、ペラルゴン酸に比べて除草効果が遅く現れるが、植物の根まで枯らすことができる点でペラルゴン酸よりも優れている。
【0035】
また、グリホサートの含有量は、0.5重量%以上に設定されており、好ましくは1.0重量%以上である。グリホサートの含有量の上限値は、例えば2.0重量%とするのが好ましい。グリホサートの含有量を2.0重量%以上としてもグリホサートによる除草効果はそれほど高まらないからである。
【0036】
グリホサートの含有量は、0.5重量%未満にすると、雑草の種類によっては根まで確実に枯れるまでの時間が長くなってしまう一方、グリホサートの含有量を0.5重量%以上にすると、多くの雑草に対して高い除草効果を長期間に亘って得ることができる。
【0037】
除草剤は、液体であるため、例えば雑草の上方から散布することによって雑草に付着させることができる。除草剤は散布しやすい容器、例えば容量が1000ml~2000ml程度の樹脂製容器に収容して製品化することができる。容器には、ポンプ機構を内蔵したスプレーノズルやシャワーノズル等を取り付けることができる。また、容器は周知のハンドスプレー容器であってもよい。
【0038】
また、除草剤は噴射剤と共にエアゾール缶に収容してエアゾール製品とすることもできる。噴射剤は、例えばLPG(液化石油ガス)等を挙げることができる。
【0039】
次に、除草剤の効果について除草効果と害虫忌避効果を分けて説明する。はじめに除草効果として即効性、移行性、持続性について試験結果に基づいて説明する。即効性に関する試験では、被験植物(雑草)として、カタバミ(カタバミ科多年生雑草)、ヨモギ(キク科多年生雑草)及びメヒシバ(イネ科一年生雑草)を使用した。試験方法は、雑草の葉を葉枝から切り取り、吸水性のある白紙の上に並べ、葉全体がしっかりと濡れるように供試剤を噴霧して、噴霧開始からの経過時間を測定するとともに、噴霧開始から5分経過、10分経過、20分経過、30分経過、40分経過、60分経過、90分経過、120分経過した時点での葉の様子をそれぞれ観察した。
【0040】
供試剤は、実施例の除草剤として、乳化したペラルゴン酸を3.0重量%、接触忌避剤、空間忌避剤、グリホサートを1.0重量%含有した除草剤(実施例1)と、ペラルゴン酸の塩を溶解させてグリホサートを含有しない比較例1の除草剤(ペラルゴン酸 2.5重量%含有)と、ペラルゴン酸の塩を溶解させ、かつ、グリホサートを含有した比較例2の除草剤(ペラルゴン酸 2.5重量%含有、グリホサート 0.96重量%含有)と、ペラルゴン酸を含有せず、グリホサートを含有した比較例3の除草剤(グリホサート 0.96重量%含有)とを用意した。実施例1では、界面活性剤によってペラルゴン酸を水性液体中に乳化分散させている。尚、グリホサートは水に溶解させる。
【0041】
カタバミに実施例1の除草剤を噴霧した場合、噴霧開始から5分経過すると葉が褐変しはじめ、30分経過すると葉の100%が褐変ないし萎縮した。つまり、即効性が高いことが分かる。一方、カタバミに比較例1の除草剤を噴霧した場合、噴霧開始から30分経過しても葉の30%程度しか褐変ないし萎縮しておらず、即効性が低かった。また、カタバミに比較例2の除草剤を噴霧した場合、噴霧開始から30分経過しても葉の10%程度しか褐変ないし萎縮しておらず、即効性が低かった。さらに、カタバミに比較例3の除草剤を噴霧した場合、噴霧開始から120分経過しても葉には褐変ないし萎縮が発生しておらず、即効性が期待できなかった。
【0042】
ヨモギに実施例1の除草剤を噴霧した場合、噴霧開始から30分経過すると葉が褐変しはじめ、120分経過すると葉の90%以上が褐変ないし萎縮した。一方、ヨモギに比較例1の除草剤を噴霧した場合、比較例2の除草剤を噴霧した場合、比較例3の除草剤を噴霧した場合は、噴霧開始から60分経過しても葉には褐変ないし萎縮が発生しておらず、即効性が期待できなかった。
【0043】
メヒシバに実施例1の除草剤を噴霧した場合、噴霧開始から30分経過すると葉が褐変しはじめ、90分経過すると葉の100%が褐変ないし萎縮した。一方、メヒシバに比較例1の除草剤を噴霧した場合、比較例2の除草剤を噴霧した場合、比較例3の除草剤を噴霧した場合は、噴霧開始から30分経過しても葉には殆ど褐変ないし萎縮が発生しておらず、即効性が期待できなかった。
【0044】
移行性に関する試験では、被験植物(雑草)としてポットに植えたカタバミを用意した。試験方法は、葉の50%に供試剤を塗布して、塗布開始からの経過時間を測定するとともに、塗布開始から1日経過、2日経過、3日経過、7日経過した時点でのカタバミの枯れ方をそれぞれ観察した。
【0045】
供試剤は、上記実施例1の除草剤と、ペラルゴン酸の塩を溶解させてグリホサートを含有しない比較例4の除草剤(ペラルゴン酸 3.0重量%含有)と、ペラルゴン酸を含有せず、グリホサートを含有した比較例5の除草剤(グリホサート 1.0重量%含有)とを用意した。
【0046】
ポットに植えたカタバミに実施例1の除草剤を噴霧した場合、噴霧開始から3日経過すると大部分が枯れて7日経過すると全体が枯れた。つまり、除草剤の根への移行性が高く、根まで枯らすことができることが分かる。一方、ポットに植えたカタバミに比較例4の除草剤を噴霧した場合、噴霧開始から7日経過しても殆ど枯れなかった。また、ポットに植えたカタバミに比較例5の除草剤を噴霧した場合、3日経過した時点では、実施例1と比べて枯れた部分が少なかったが、7日経過すると全体が枯れた。
【0047】
持続性に関する試験は、屋外で草丈が20cm程度の雑草が繁茂している所を選び、30cm四方を試験区として準備し、除草剤を散布する前(処理前)を撮影して記録した。処理後、1日経過、2日経過、3日経過、7日経過、2週間経過、3週間経過した時点での試験区の様子を撮影して記録し、処理前の試験区と比較した。
【0048】
供試剤は、上記実施例1の除草剤と、比較例1の除草剤と、グリホサートを含有した比較例6の除草剤(グリホサート 0.86重量%含有)とを用意した。処理量は、100ml/m2となるように略均一に処理した。
【0049】
実施例1の除草剤で処理した場合、1日経過すると試験区の雑草の略全部が枯れて、3週間経過しても新たに生えてくる雑草は殆ど無かった。つまり、除草効果が最低でも3週間の長期間に亘って持続性することが分かる。一方、比較例1の除草剤で処理した場合、3日経過すると試験区の雑草の略全部が枯れたが、2週間経過すると雑草が新たに生えてきて、3週間経過すると更に雑草が増えてきた。比較例6の除草剤で処理した場合、1日経過しても試験区の雑草は殆ど枯れておらず、3日経過しても枯れずに残っている雑草があった。1週間経過すると試験区の雑草の略全部が枯れてその状態が3週間経過するまで維持された。
【0050】
次に、害虫忌避効果について説明する。害虫忌避効果は、主に匍匐害虫の忌避効果と、飛翔害虫の忌避効果についてそれぞれ試験結果に基づいて説明する。匍匐害虫の忌避効果に関しては、屋外で草丈が30cm程度の雑草が繁茂している所を選び、30cm四方を試験区として準備し、当該試験区における主に匍匐害虫(アリ、ダンゴムシ、ワラジムシ、クモ、陸生貝類、甲虫)の数を数えた後、各供試剤を散布する。散布前、アリは11匹、ダンゴムシは2匹、ワラジムシは10匹、クモは2匹、甲虫は1匹、それぞれ確認された。
【0051】
散布は、試験区を中心とした200cm四方に行った。散布直後、3日経過、7日経過、21日経過、33日経過、42日経過した時点で上記匍匐害虫の数を数えた。
【0052】
乳化したペラルゴン酸を3.0重量%、接触忌避剤としてのトラロメトリン、空間忌避剤としてのトランスフルトリン、グリホサートを1.0重量%含有した除草剤を実施例2とした。実施例2では、トラロメトリンの含有量が0.0091重量%となるように調製されている。実施例3は、実施例2の成分を全て含み、トラロメトリンの含有量が0.0182重量%となるように調製されている。実施例4は、実施例2の成分を全て含み、トラロメトリンの含有量が0.0303重量%となるように調製されている。実施例5は、実施例2の成分を全て含み、トラロメトリンの含有量が0.0910重量%となるように調製されている。また、比較例7として、一般の害虫忌避剤(トランスフルトリン)を用意した。
【0053】
処理量は、100ml/m2となるように略均一に処理した。この処理量により、実施例2ではトラロメトリンが9mg/m2の散布量となり、また、実施例3ではトラロメトリンが18mg/m2の散布量となり、また、実施例4ではトラロメトリンが30mg/m2の散布量となり、また、実施例5ではトラロメトリンが91mg/m2の散布量となる。
【0054】
実施例2~5の除草剤を散布した場合、散布直後から7日経過するまでは匍匐害虫の数は0であった。実施例2では、散布後、21日経過すると、アリが数匹確認されたが、その他の匍匐害虫は確認されなかった。実施例3では、散布後、21日経過しても匍匐害虫の数は0であった。33日経過すると、アリと甲虫が数匹確認されたが、その他の匍匐害虫は確認されなかった。実施例4では、散布後、21日経過すると、ダンゴムシが数匹確認されたが、その他の匍匐害虫は確認されなかった。実施例5では、散布後、21日経過しても匍匐害虫の数は0であった。33日経過すると、クモと陸生貝類が数匹確認されたが、その他の匍匐害虫は確認されなかった。したがって、実施例2~5では、匍匐害虫の忌避効果が長期間に亘って持続することが分かる。
【0055】
一方、比較例7の場合、散布直後は匍匐害虫の数は0であったが、3日経過するとアリが8匹確認され、7日経過するとアリが11匹、ダンゴムシ及びワラジムシが数匹ずつ確認された。21日経過すると、アリが40匹近く確認された。
【0056】
次に、飛翔害虫の忌避効果について説明する。飛翔害虫の忌避効果に関しては、ヒトスジシマカ(飛翔害虫)の発生している屋外で人囮法にて実施した。試験者は両腕を露出した状態で試験区の中央に立ち、吸血しようとしたヒトスジシマカの数を数え、そのヒトスジシマカを吸虫管で捕獲した。試験区は、4.5m四方の草むらであり、3箇所用意した。試験時間は各10分間である。供試剤は実施例6として、実施例2の成分を全て含んでおり、100ml/m2となるように略均一に散布した場合に、トラロメトリンが18mg/m2の散布量となり、トランスフルトリンが8mg/m2の散布量となるように各成分量を設定したものである。
【0057】
実施例6の除草剤を100ml/m2となるように上記各試験区に略均一に散布して1時間経過、2時間経過、3時間経過、6時間経過、9時間経過、1日経過、7日経過時点でのヒトスジシマカの捕獲数を数えた。すると、9時間経過時点で数匹捕獲しただけで、他は0であった。つまり、飛翔害虫に対しても忌避効果が長期間に亘って持続することが分かる。ヒトスジシマカ以外の飛翔害虫にも対しても同様な忌避効果があると推測される。
【0058】
次に、除草剤が持つ殺虫効果の試験結果について説明する。殺虫試験の供試虫はアミメアリとダンゴムシである。供試剤は実施例6である。そして、ろ紙を敷いたシャーレ内に供試虫を入れ、1mlの供試剤を周知のハンドスプレーで供試虫に噴霧した。噴霧後、供試虫がノックダウン(仰天した状態、動けなくなった状態)するまでの時間を測定した。アミメアリの場合はKT50が3分40秒程度であり、ダンゴムシの場合はKT50が4分10秒程度であった。つまり、匍匐害虫に対する優れた殺虫効果が得られることが分かる。
【0059】
以上説明したように、この実施形態では、除草剤が接触忌避剤を含有しているので、長期間に亘って害虫の忌避効果を持続させることができる。また、25℃における蒸気圧が1.0×10-5mmHg未満である難蒸散性の害虫忌避剤を使用することで、飛翔害虫及び匍匐害虫に対する忌避効果の持続期間をより長期間にすることができる。
【0060】
また、ペラルゴン酸による除草効果が素早く現れるので雑草が垂れ下がりやすくなり、雑草が垂れ下がることで雑草に付着している接触忌避剤が地面に接近又は地面に付着する。これにより、アリやダンゴムシ等の匍匐害虫に対しても忌避効果が得られる。特に巣の近くに雑草が垂れ下がることで、巣に出入りする害虫に対して高い忌避効果が短時間で得られる。
【0061】
また、ペラルゴン酸を乳化させた除草剤であるため、ペラルゴン酸の塩を溶解させた除草剤に比べてペラルゴン酸による除草効果、即ち、雑草の茎葉表面から浸透して細胞内のpHを下げて細胞を破壊することによって除草効果が素早く現れる。よって、雑草が枯れて垂れ下がるようになるまでの時間がさらに短縮される。
【0062】
また、上記除草剤は接触忌避剤を含有しているので、除草剤を散布することで、接触忌避剤を植物に付着させる害虫忌避方法を行うことができる。また、雑草には空間忌避剤も付着するので、雑草が接触忌避剤及び空間忌避剤を保持する保持体となる。そして、例えば飛翔害虫の蚊が雑草に留まろうとして雑草に接触すると体が接触忌避剤に接触することになり、これにより、忌避効果が得られる。また、背丈の低い雑草に接触忌避剤が付着すると、アリやダンゴムシ等の匍匐害虫に対しても忌避効果が得られる。また、巣の近くに生えている雑草に接触忌避剤が付着することで、巣に出入りする害虫に対して高い忌避効果が得られる。さらに、接触忌避剤は、空間忌避剤に比べて蒸発し難い薬剤であるため、長期間に亘って雑草に付着し続け、その雑草に接触した飛翔害虫及び匍匐害虫に対して忌避効果が得られる。尚、接触忌避剤は各種草木に付着させることもできる。
【0063】
また、空間忌避剤が蒸発し易いので、空間忌避剤が雑草の周囲に蒸散して広範囲で害虫の忌避効果が得られる。
【0064】
また、多数の親水性ナノ粒子がファンデルワールス力によって油性除草剤(ペラルゴン酸)の粒子表面に付着して該油性除草剤が水性液体(例えば水)中に乳化分散した組成物とすることもできる。尚、油性害虫駆除剤を含有させることもでき、この場合には、油性害虫駆除剤及び油性除草剤が混合した油性液体からなる粒子表面に多数の親水性ナノ粒子をファンデルワールス力によって付着させて水性液体中に乳化分散させることができる。
【0065】
油性液体からなる粒子表面に多数の親水性ナノ粒子(乳化剤)を付着させることで、油相、乳化剤相、水相の三相構造が形成される。この乳化方法は、例えば特許第3855203号公報や特開2016-79107号公報等に開示されている。
【0066】
すなわち、親水性ナノ粒子は、自発的に閉鎖小胞体(ベシクル)を形成する両親媒性物質により形成されて油性液体からなる粒子表面に付着する粒子である。親水性ナノ粒子を形成する両親媒性物質としては、上記公報に記載されている一般式で表されるようなポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体、ジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、テトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体等を挙げることができる。
【0067】
親水性ナノ粒子を形成する両親媒性物質としては、例えばリン脂質やリン脂質誘導体等を挙げることができる。リン脂質としては、例えば、卵黄レシチンまたは大豆レシチン等を挙げることができる。
【0068】
また、油性除草剤を乳化させる場合に、単粒子化された多数のバイオポリマーを油性害虫駆除剤の粒子表面に付着させることによって油性除草剤を水性液体中に乳化分散させるようにしてもよい。この乳化方法も、例えば特許第3855203号公報や特開2016-79107号公報等に開示されている。尚、油性害虫駆除剤を含有している場合には、油性害虫駆除剤及び油性除草剤が混合した油性液体からなる粒子表面に多数のバイオポリマーを付着させて水性液体中に乳化分散させることができる。
【0069】
親水性ナノ粒子の平均粒子径は8nm~500nmにすることができる。親水性ナノ粒子の平均粒子径を8nmよりも小さくすると、ファンデルワールス力が小さくなり、親水性ナノ粒子が油性除草剤の粒子表面に付着しにくくなる。また、親水性ナノ粒子の平均粒子径を500nmよりも大きくすると、乳化が安定し難くなる。
【0070】
単粒子化されたバイオポリマーとしては、例えば、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸などの単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するものを挙げることができる。特定の構造の多糖類を産生する微生物種としては、アルカリゲネス属、キサントモナス属、アースロバクター属、バチルス属、ハンゼヌラ属やブルナリア属等が知られており、いずれの多糖類を用いても、また複数の多糖類が混合物になっていてもよい。
【0071】
尚、油性除草剤としては、ペラルゴン酸の他に、例えば、アラクロール、セトキシジム、プレチラクロール等を挙げることができ、これらの中から1種または任意の複数種を混合して使用することもできる。アラクロール、セトキシジム、プレチラクロール等もペラルゴン酸と同様に乳化することができる。
【0072】
次に、実施例7による害虫駆除効果について説明する。
【0073】
【0074】
表1の上段はノックダウン効果を示し、下段は殺虫効果を示している。供試虫はアミメアリである。実施例7は、トランスフルトリンとトラロメトリンとペラルゴン酸とが混合した油性液体からなる粒子表面に多数の親水性ナノ粒子をファンデルワールス力によって付着させて該油性液体を水性液体中に乳化分散させている。尚、水性液体中にはグリホサートが溶解している。
【0075】
表1中、「1回」、「2回」、「3回」は試験回数を示している。試験には、直径が8cm程度のガラスシリンダーを使用した。このガラスシリンダーの内面にはタルクを塗って供試虫が内面を登ることができないようにしておく。このガラスシリンダー内に供試虫を10匹放す。そして、供試虫から20cm離れたところから各供試剤をハンドスプレー容器から1プッシュ(約1.07g)だけ噴射した。噴射完了から各供試虫がノックダウンするまでの時間を計測してノックダウン時間とした。
【0076】
噴射完了から4分経過した時点では、実施例1の場合、4匹~6匹がノックダウンしたのに対し、実施例7の場合、5匹~6匹がノックダウンしている。また、実施例1の場合、全数がノックダウンするのに要する時間は平均で6分36秒であったのに対し、実施例7の場合、全数がノックダウンするのに要する時間は平均で4分40秒であった。つまり、実施例7によれば実施例1に比べてアミメアリに対するノックダウン効果が高まっていることが分かる。尚、アミメアリのノックダウンとは、アミメアリが動かなくなった状態である。
【0077】
殺虫効果については、実施例1及び実施例7共に噴射完了から24時間経過した後の致死率は100%であった。
【0078】
【0079】
表2の上段はノックダウン効果を示し、下段は殺虫効果を示している。供試虫はムカデである。供試剤は表1のものと同じである。
【0080】
表2中、「1回」、「2回」、「3回」は試験回数を示している。試験には、直径が20cm程度のガラスシリンダーを使用した。このガラスシリンダー内に供試虫を1匹放す。そして、供試虫から20cm離れたところから各供試剤をハンドスプレー容器から1プッシュ(約1.07g)だけ噴射した。噴射完了からの経過時間を計測し、ノックダウンするのに要する時間を記録した。3回の平均時間で比べると、実施例1の場合は24分25秒あったのに対し、実施例7の場合は17分37秒であった。つまり、実施例7によれば実施例1に比べてムカデに対するノックダウン効果が高まっていることが分かる。尚、ムカデのノックダウンとは、ムカデが仰天して自力で元に戻ることができなくなった状態である。
【0081】
殺虫効果については、実施例1及び実施例7共に噴射完了から24時間経過した後の致死率は100%であった。
【0082】
【0083】
表3の上段はノックダウン効果を示し、下段は殺虫効果を示している。供試虫はダンゴムシである。供試剤は表1のものと同じである。
【0084】
表3中、「1回」、「2回」、「3回」は試験回数を示している。試験には、直径が8cm程度のガラスシリンダーを使用した。このガラスシリンダー内に供試虫を1匹放す。そして、供試虫から20cm離れたところから各供試剤をハンドスプレー容器から1プッシュ(約1.07g)だけ噴射した。噴射完了からの経過時間を計測し、ノックダウンするのに要する時間を記録した。3回の平均時間で比べると、実施例1の場合は6分16秒あったのに対し、実施例7の場合は5分31秒であった。つまり、実施例7によれば実施例1に比べてダンゴムシに対するノックダウン効果が高まっていることが分かる。尚、ダンゴムシのノックダウンとは、刺激を与えてもダンゴムシが前進しなくなった状態である。
【0085】
殺虫効果については、実施例1及び実施例7共に噴射完了から24時間経過した後の致死率は100%であった。
【0086】
【0087】
表4は供試虫がナメクジの場合のノックダウン効果を示している。供試剤は表1のものと同じである。
【0088】
表3中、「1回」、「2回」、「3回」は試験回数を示している。試験には、直径が8cm程度のガラスシリンダーを使用した。このガラスシリンダー内に供試虫を1匹放す。そして、供試虫から20cm離れたところから各供試剤をハンドスプレー容器から1プッシュ(約1.07g)だけ噴射した。噴射完了からの経過時間を計測し、ノックダウンするのに要する時間を記録した。3回の平均時間で比べると、実施例1の場合は5分17秒あったのに対し、実施例7の場合は3分39秒であった。つまり、実施例7によれば実施例1に比べてナメクジに対するノックダウン効果が高まっていることが分かる。尚、ナメクジのノックダウンとは、刺激を与えてもナメクジが敏捷な反応がなくなった状態である。
【0089】
次に、実施例1及び実施例7の除草効果について
図1に基づいて説明する。
【0090】
供試植物はカタバミである。試験は室内で行った。試験時の室温は17.8℃であり、湿度は67%であった。ハンドスプレーを使用して供試剤をカタバミの葉に噴霧した。そのときの噴霧量はカタバミの葉1枚につき、1プッシュ(約1.07g)とした。また、葉と噴霧口との距離は10cmとした。
図1中、枯草率とは、各葉につき、葉全体に占める茶色に変色した部分(枯れた部分)の割合を百分率で算出した値(5枚の葉の平均値)である。
【0091】
グラフから明らかなように、実施例7では噴霧後2分程度経過するとほぼ90%の枯草率を得ることができる。つまり、実施例7の乳化分散方法では除草の即効性が極めて高くなっている。
【0092】
尚、例えば、アラクロール、セトキシジム、プレチラクロール等であっても同様な作用効果を奏することができる。
【0093】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る除草剤は、例えば害虫が生息している草むら等に使用することができる。