(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】セラミックフィルター、セラミックフィルターの製造方法、および、セラミックフィルターの使用方法
(51)【国際特許分類】
B22D 43/00 20060101AFI20230324BHJP
B01D 24/46 20060101ALI20230324BHJP
B01D 29/62 20060101ALI20230324BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20230324BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
B22D43/00 C
B01D23/24 Z
B01D39/20 D
C04B38/00 303Z
C04B38/00 304Z
(21)【出願番号】P 2019010915
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】516158873
【氏名又は名称】株式会社ヴァインテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130281
【氏名又は名称】加藤 道幸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】野田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】外崎 修司
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214268(JP,A)
【文献】特開2016-140878(JP,A)
【文献】特開2010-036204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 23/24,39/20
B22C 9/08
B22D 43/00
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯中から介在物を除去するセラミックフィルターにおいて、
セラミックスの粉砕粒子である骨材と、結合剤を含み、熱溶着させてなるものであって、
前記骨材の粒子径が5~15mmであり、前記セラミックフィルターの厚さが30mm以上であ
り、
前記セラミックフィルターの開孔径が4.9~11.9mmであることを特徴とするセラミックフィルター。
【請求項2】
前記結合剤は、所定量の有機増粘剤と所定量の粉末ガラスを含むことを特徴とする請求項1に記載のセラミックフィルター。
【請求項3】
前記結合剤は、所定量の無機セメントを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックフィルター。
【請求項4】
前記骨材は、粒子が非球状で、不定形で、鋭利なエッジを有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックフィルター。
【請求項5】
{(見掛体積-真体積)/見掛体積}×100で得られる前記セラミックフィルターの開孔率が49.4~58.9%であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックフィルター。
【請求項6】
金属溶湯中から介在物を除去するセラミックフィルターの製造方法において、
セラミックスの粉砕粒子である骨材に、結合剤と、適量の水を混練して混合材料とし、前記混合材料を成形した後、加熱およびその後冷却して前記骨材を溶着させる方法であって、
前記骨材の粒子径が5~15mmであり、前記セラミックフィルターの厚さが30mm以上であり、
前記セラミックフィルターの開孔径が4.9~11.9mmであることを特徴とす
るセラミックフィルター
の製造方法。
【請求項7】
前記結合剤は、所定量の有機増粘剤と所定量の粉末ガラスを含むことを特徴とする
請求項6に記載のセラミックフィルターの製造方法。
【請求項8】
前記結合剤は、所定量の
無機セメントを含むことを特徴とする請求項
6または7に記載のセラミックフィルターの製造方法。
【請求項9】
前記骨材が、セラミックスの塊を粉砕し、篩い分けしたものであることを特徴とする請求項
6~8のいずれか一項に記載のセラミックフィルターの製造方法。
【請求項10】
{(見掛体積-真体積)/見掛体積}×100で得られる前記セラミックフィルターの開孔率が49.4~58.9%であることを特徴とする請求項
6~9のいずれか一項に記載のセラミックフィルターの製造方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミックフィルターを用いて金属溶湯を濾過し、
前記セラミックフィルターに目詰まりが生じたときに、または、濾過処理が終了したあと、前記セラミックフィルターの濾過方向と反対方向から不活性ガスを吹き付けることを特徴とす
るセラミックフィルターの
使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯中から介在物を除去するセラミックフィルター、セラミックフィルターの製造方法、および、セラミックフィルターの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属鋳造品の製造においては、金属塊を溶解した金属溶湯中に発生する酸化物、異物等の非金属介在物(以下、介在物という)が鋳造品に混入して欠陥となり、製品の表面状態や特性を著しく劣化させることから、清浄度の高い金属溶湯を得るために、特許文献1に記載されているように、セラミックフィルターを用いて金属溶湯中の介在物を濾取している。
【0003】
従来のセラミックフィルターとしては、例えば、特許文献2に示されるように、溶融アルミナ及び焼結アルミナからなる骨材粒子と、無機質結合材原料と、適量の有機バインダーと、適量の水とを混練し、成形し、乾燥し、次いで加熱、冷却して得られるセラミックフィルターが知られている。
【0004】
また、特許文献3に示されるように、合成樹脂製フォームを容器状に組み立てた基体を、ケイ酸ジルコニウムを骨材とし、かつ、シリカ成分をバインダーとしたセラミックスラリー中に浸漬して付着させ、これを焼成することにより得られた、三次元網状の連通気孔を有するセラミックフィルターが知られている。
【0005】
さらに、特許文献4に示されるように、本願の発明者の一部は、薄板状だけでなく各種形状のセラミックフィルターを提案している。この本願発明者によるセラミックフィルターは、粒状のセラミックスからなる骨材に、結合剤として所定量の有機増粘剤と所定量の粉末ガラスと所定量の無機セメントと、適量の水を混練した混合材料とし、混合材料を成形した後、加熱およびその後冷却して骨材を溶着させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-320083号公報
【文献】特開2001-39781号公報
【文献】特開2004-25276号公報
【文献】特開2017-214268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のセラミックフィルターでは、嵩比重が小さく、強度面に問題があり、かつ、介在物の捕集率が低い、あるいは、強度を高くしようとすると、目詰まりの発生率が上昇し、処理量が減少するという問題があった。
【0008】
また、特許文献4のセラミックフィルターについては、強度、耐食性に優れ、薄板状だけでなく、各種立体形状のセラミックフィルターを提供することができるが、濾過時間、目詰まりを起こしたときの再生等について、より良いものを作り出すためにさらなる改良を行う必要があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、より短い濾過時間で清浄度の高い金属溶湯を得ることを可能にし、かつ、繰り返し使用可能なセラミックフィルター、ならびに、このような特性を有するセラミックフィルターの製造方法および使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のセラミックフィルターは、セラミックスの粉砕粒子である骨材と、結合剤を含み、熱溶着させてなるものであって、骨材の粒子径が5~15mmであり、セラミックフィルターの厚さが30mm以上であり、セラミックフィルターの開孔径が4.9~11.9mmであることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載のセラミックフィルターは、結合剤が、所定量の有機増粘剤と所定量の粉末ガラスを含むことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載のセラミックフィルターは、結合剤が、所定量の無機セメントを含むことを特徴とする。
【0013】
請求項4記載のセラミックフィルターは、骨材は、粒子が非球状で、不定形で、鋭利なエッジを有することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載のセラミックフィルターは、{(見掛体積-真体積)/見掛体積}×100で得られるセラミックフィルターの開孔率が49.4~58.9%であることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載のセラミックフィルターの製造方法は、セラミックスの粉砕粒子である骨材に、結合剤と、適量の水を混練して混合材料とし、混合材料を成形した後、加熱およびその後冷却して骨材を溶着させる方法であって、骨材の粒子径が5~15mmであり、セラミックフィルターの厚さが30mm以上であり、セラミックフィルターの開孔径が4.9~11.9mmであることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載のセラミックフィルターの製造方法は、結合剤が、所定量の有機増粘剤と所定量の粉末ガラスを含むことを特徴とする。
【0017】
請求項8記載のセラミックフィルターの製造方法は、結合剤が、所定量の無機セメントを含むことを特徴とする。
【0018】
請求項9記載のセラミックフィルターの製造方法は、骨材が、セラミックスの塊を粉砕し、篩い分けしたものであることを特徴とする。
【0019】
請求項10記載のセラミックフィルターの製造方法は、{(見掛体積-真体積)/見掛体積}×100で得られるセラミックフィルターの開孔率が49.4~58.9%であることを特徴とする。
【0020】
請求項11記載のセラミックフィルターの使用方法は、請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミックフィルターを用いて金属溶湯を濾過し、セラミックフィルターに目詰まりが生じたときに、または、濾過処理が終了したあと、セラミックフィルターの濾過方向と反対方向から不活性ガスを吹き付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本願の発明によれば、セラミックスの粉砕粒子である骨材と、結合剤を含み、熱溶着させてなるセラミックフィルターであって、骨材の粒子径が5~15mmであり、セラミックフィルターの厚さが30mm以上であることで、より短い濾過時間で清浄度の高い金属溶湯を得ることを可能にし、かつ、繰り返し使用可能なセラミックフィルター、ならびに、このような特性を有するセラミックフィルターの製造方法および使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係るセラミックフィルターの四角筒状で底のある坩堝状の一例を示す説明図である。
【
図2】骨材の粒子径が5~10mmである本発明に係るセラミックフィルターの表面の様子を示す説明図である。
【
図3】骨材の粒子径が10~15mmである本発明に係るセラミックフィルターの表面の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、本発明に係るセラミックフィルターの四角筒状で底のある坩堝状の一例を示す説明図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
図2、3は、本発明に係るセラミックフィルターの表面の様子を示す説明図である。
【0026】
本発明に係るセラミックフィルター1は、金属溶湯、例えばアルミニウム溶湯中から介在物を除去するためのフィルターである。尚、セラミックフィルター1の形状は、
図1に四角筒状で底のある坩堝状のものを示しているが、これに限定されるものではない。例えば、円筒状で底のある坩堝状、円筒状、円柱状、球状、半球状で坩堝状、楕円円筒状で底のある坩堝状、半楕円円筒状で底のある坩堝状、2室形状、板状等が考えられるが、任意の形状でよく、使用状態に合わせて適宜選択することができる。
【0027】
セラミックフィルター1は、後述する混合材料を成形した後に乾燥させ、その上で、焼成するといった一連の一体成形の手順で作りあげるものである。
【0028】
混合材料であるが、これは、セラミックスの粉砕粒子である骨材2に、結合剤と、適量の水を混練したものである。より具体的には、骨材2は、セラミックスの塊を粉砕し、篩い分けを行って得られた特定の粒子径範囲のものを使用する。骨材2の粒子径は、5~15mmであり、特に、5~10mmまたは10~15mmであることが好ましい。ただし、骨材2は、セラミックスの塊を粉砕し、篩い分けしたものであるため、実施形態においては上記範囲未満の粒子径の粒子を含んでいる可能性がある。しかし、少量の上記範囲未満の粒子径の粒子を含む骨材2であっても、本発明において主として機能するのは、上記範囲の粒子径である。
【0029】
尚、骨材2は、セラミックスの粉砕粒子であるが、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ジルコン、ジルコニアもしくはアルミナのいずれか、または、いずれか2種類以上を用いたものが望ましい。但し、各セラミックスの比重、粒度分布、硬度に基づく粉砕時形状の違いにより、結合剤を下記配合範囲内で調整する場合もある。また、各セラミックスの熱伝導率、熱膨張率、線変化率等の性質の違いにより、焼き割れ等を考慮して焼成方法を変更する場合もある。
【0030】
また、結合剤は、所定量の有機増粘剤と所定量の粉末ガラスを含んでもよく、さらに、所定量の無機セメントを含んでもよい。また、結合剤の別の例としては、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム等のリン酸塩、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等のケイ酸塩の使用も考えられる。
【0031】
結合剤として所定量の有機増粘剤と所定量の粉末ガラスを含む場合、有機増粘剤は、例えば、澱粉等、粉末ガラスは、例えば、ホウケイ酸塩等を挙げることができる。さらに所定量の無機セメントを含むことにより、
図1に示した四角筒状で底のある坩堝状のものや、上述したような立体形状のセラミックフィルターを作成することができる。しかし、板状(レンガ状)のセラミックフィルターを作成する場合は、結合剤として所定量の無機セメントを含んでいなくても作成可能である。
【0032】
尚、有機増粘剤、粉末ガラスおよび無機セメントの量であるが、混合材料の全体重量に対し、有機増粘剤の重量パーセントが0.1~5%で、粉末ガラスの重量パーセントが0.5~10%で、無機セメントの重量パーセントが0.5~10%の範囲が望ましい。
【0033】
本発明に係るセラミックフィルター1において、前述した粒子径が5~15mmの骨材2を用いて、セラミックフィルター1の厚さを30mm以上とすることで、より短い濾過時間であっても、自動車産業等に利用可能な清浄度の高い金属溶湯を得ることができる。尚、本発明の効果を奏する範囲であれば、セラミックフィルター1の厚さを30mm以上に厚くしてよい。
【0034】
また、骨材2の各粒子は、セラミックスの塊を粉砕し、篩い分けているため、非球状で、不定形で、鋭利なエッジを有している。このような特徴を有する粉砕粒子を骨材2として用いているため、本来であれば開孔や空隙を塞いでしまうような大きな酸化膜も骨材2のエッジで切断され、目詰まりの発生率を低下させることができる。
【0035】
図2、3から明らかなように、本発明のセラミックフィルター1には、骨材2の粒子間に大きな隙間が形成されている。セラミックフィルター1の開孔率は49.4~58.9%であることが好ましい。本発明において「開孔率」とは、表面上や断面における空隙部分の占める面積率のことではなく、セラミックフィルター1の全体積のうち、骨材2に結合剤が熱溶着して形成された開孔部分が占める割合である。また、「開孔」とは、本発明は金属溶湯がセラミックフィルター1を通って濾過されることを前提としているため、気体および液体が通過することができる空隙を意味している。
【0036】
ここで、「開孔率」の算出方法について説明する。まず、レンガ状のセラミックフィルター1の寸法を測定し、見掛体積Vmを算出する。次に、メスシリンダーに規定量V1の水を注入し、その中に寸法を測定したセラミックフィルター1を浸漬してメスシリンダーの値V2を測定する。そして、増加量を算出しこれを真体積とする。見掛体積Vmおよび真体積V2-V1の値を用いて、以下の数式により開孔率(%)を算出する。
【0037】
【0038】
また、セラミックフィルター1の開孔径は4.9~11.9mmであることが好ましい。本発明において「開孔径」とは、骨材2に結合剤が熱溶着して形成された充填物の層である、充填層の空隙である開孔の球相当径のことである。充填層の間隙を流れる複雑な経路を単純化して、直管に相当すると考えるのである。セラミックフィルター1の開孔径(mm)は、以下の数式により算出される値である。
【0039】
【0040】
本発明に係るセラミックフィルター1は、従来に比べて骨材2の粒子径が大きく、開孔率、開孔径が大きい。このため、詰まりにくく、波消し効果が高く、一度により多量の金属溶湯を投入することができる。
【0041】
次に、セラミックフィルター1の製造方法について説明する。骨材2に、結合剤、例えば、所定量の有機増粘剤、粉末ガラスと、適量の水を混練した混合材料を、特定の形に成形、例えば、型に入れて成型し、脱型した後に乾燥させる。結合剤として有機増粘剤を含む場合、有機増粘剤は、増膜性がよく、乾燥後の結合力も高いため、成形体の脱型乾燥時の保形の役割を果たし、常温~300℃での垂直壁等の成形保持に貢献する。また、結合剤が、所定量の無機セメントを含む場合には、無機セメントは、中間温度~焼成温度すなわち300℃~600℃で結合力を発揮する。このことから、焼成の途中段階での垂直壁等の成形保持が可能となり、立体形状のセラミックフィルターを形成することができる。また、粉末ガラス(ガラスフリット)は、約600℃~約1200℃で軟化溶融して骨材2の粒子の表面に密着し、冷却後は固化して高い結合力を発揮する。このようにして、粒子径が5~15mmの骨材を用いて30mm以上の厚さを有する各種の形状のセラミックフィルター1を得ることができる。
【0042】
上記のようなセラミックフィルター1の製造方法によれば、より短い濾過時間で清浄度の高い金属溶湯を得ることを可能にし、かつ、繰り返し使用可能なセラミックフィルター1を提供できる。
【0043】
次に、セラミックフィルター1の使用方法について説明する。本発明に係るセラミックフィルター1を用いて金属溶湯を濾過し、セラミックフィルター1に目詰まりが生じて通過速度が遅くなったときに、または、濾過処理が終了したあと、セラミックフィルター1の濾過方向と反対方向から不活性ガスや液体を吹き付けて洗浄処理を行う。この処理により、セラミックフィルター1の開孔に付着した介在物を容易に除去することができる。このため、目詰まりを起こしたフィルターを廃棄することなく繰り返し使用することが可能になり、製品寿命を延ばすことができる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって制限されるものではない。
【0045】
[実施例1]介在物捕捉試験
セラミックスの塊を粉砕した後に、篩い分けして得られた各粒子径範囲の骨材2を100重量%と、結合剤として、澱粉0.62重量%、ホウケイ酸ガラス7.0重量%、アルミナセメント7.8重量%と、水10.0重量%を混練して混合材料とした。混合材料を内寸が幅100mm×奥行100mm×高さ100mmであり、壁面厚さが20mm、30mmおよび50mmである
図1に示すような四角筒状で底のある坩堝状に成形した後、1000℃で1時間加熱して、その後50℃まで冷却して骨材を溶着させてセラミックフィルターの試験体1~12を得た。
尚、骨材2の粒子径範囲は、15~25mm、10~15mm、5~10mm、3~5mmのものを用いた。
【0046】
このようにして得られた各試験体の特性を以下に示す方法で評価した。
【0047】
<通過時間>
試験体を700℃に予熱し、680℃のAl-Cu-Si系合金(AC2B)であるアルミニウム溶湯3kgを上記の各試験体に注入した。各試験体を通過したアルミニウム溶湯はK値測定に用いた。
続けて通過時間測定試験を行った。680℃のアルミニウム溶湯3kgを各試験体に注入し、アルミニウム溶湯を全量濾過するのに掛かる時間を測定した。この操作を5回行い平均値を算出した。
【0048】
<K値>
溶湯中の介在物の量は、日本軽金属(株)により規定されたKモールド法により評価した。各試験体を通過したアルミニウム溶湯を、36mm×6mm×240mmの短冊状の平板が得られる金型に採取し、急冷凝固させ、この短冊状平板を5~6片の小片に破断し、得られた破面を10倍の拡大鏡で観察して介在物数を求めた。両側に破面を持つ小片一つ当たりに認められる平均介在物数をK値として計算した。表1に、Kモールド法を用いた溶湯清浄度(K10値)の評価のランクを示す。
【0049】
【0050】
介在物捕捉試験の結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表2に示すように、試験体5、6、8、9は、いずれも濾過の際の通過時間が短く、かつ、K値が低く、「ほぼ清浄な溶湯」であると判定され、鋳造可能であるランクBであった。
一方、試験体1~3は、いずれも濾過の際の通過時間はかなり短いものの、K値が高く、「汚れている溶湯」であると判定され、処理の必要があるランクDであった。また、試験体4、7は、どちらも通過時間は短いものの、K値が高くランクDであった。また、試験体10~12は、いずれもK値は低くランクBであったが、通過時間が非常に長く掛かった。
【0053】
実施例1では、アルミニウム溶湯の濾過を、骨材2の粒子径が10~15mmで厚さが30mmまたは50mm、および、粒子径が5~10mmで厚さが30mmまたは50mmのセラミックフィルターを用いて行うことにより、より短い濾過時間で清浄度の高い金属溶湯を得ることが可能であった。
【0054】
[実施例2]開孔率、開孔径
実施例1においてより短い濾過時間で清浄度の高い金属溶湯が得られた、骨材2の粒子径が10~15mmおよび5~10mmであるセラミックフィルターの試験体13~19について、開孔率および開孔径の測定を行った。
【0055】
<開孔率>
実施例1の混合材料からアルミナセメントを除いたこと以外は同様の方法で、200mm×40mm×25mmのレンガ状の試験体13~19を作成した。各試験体の縦、横、高さの寸法をそれぞれ6カ所測定し、その平均値を用いて、見掛体積(Vm)を算出した。次に、メスシリンダーに水600ml(V1)を注入し、その中に試験体を浸漬してメスシリンダーの値(V2)を測定し、増加量を真体積とした。算出した見掛体積(Vm)および真体積(V2-V1)の値を用いて、以下の数1により、開孔率(%)を算出した。
【0056】
【0057】
<開孔径>
セラミックフィルター1の開孔径(mm)は、以下の数2により算出した。
【0058】
【数2】
ここで、径Dの値は、粒子径10~15mmの試験体13~16は12.5mm、粒子径5~10mmの試験体17~19は7.5mmとして算出した。
【0059】
開孔率、開孔径の結果を表3に示す。
【0060】
【0061】
表3に示すように、実測値から数1より算出した本発明に係るセラミックフィルター1の開孔率は、49.4~58.9%であった。また、数2より算出した本発明に係るセラミックフィルター1の開孔径は、4.88~11.94mmであった。
【0062】
[実施例3]再利用試験
実施例1の混合材料からアルミナセメントを除いたこと以外は同様の方法により作成した100mm×100mm×厚さ20mm、30mm、50mmの板状のセラミックフィルターの試験体20~31を用いて試験を行った。
試験体に680℃のアルミニウム溶湯を3kg通過させ、開始直後の通過時間を測定した。続けて680℃のアルミニウム溶湯を3kg通過させる操作を繰り返し、合計15kgのアルミニウム溶湯を通過させた。最後に通過させた時(5回目)の通過時間を洗浄前の通過時間として測定した。通過速度が遅くなった(目詰まりが生じた)状態にした試験体に対して、これまで濾過処理を行っていた方向とは反対方向から試験体に対して、アルミニウム溶湯中にてアルゴンガスを0.2MPaで15分間吹き付けた。その後、再び試験体に680℃の、Kモールド法にてK値が0.1以下である清浄度が高いアルミニウム溶湯を3kg通過させ、洗浄後の通過時間を測定した。
【0063】
再利用試験の結果を表4に示す。
【0064】
【0065】
表4に示すように、試験体23~28は、洗浄後の通過時間が、いずれも開始直後とほぼ同等となり、目詰まりが解消した。
また、試験体20~22は、洗浄後の通過時間が、開始直後より少し掛かかったが、目詰まりはほぼ解消した。
一方、試験体29~31は、いずれも洗浄前後で通過時間が変わらず、目詰まりは解消しなかった。
【0066】
実施例3では、骨材2の粒子径が10~15mmおよび5~10mmのセラミックフィルター1は、いずれの壁面厚さのものも目詰まりを起こしても洗浄処理を行うことにより介在物を除去することができ、再び開始直後と同様の濾過性能に戻すことができた。つまり、本発明に係るセラミックフィルター1は、目詰まりを起こしても洗浄処理により繰り返し使用可能であり、製品寿命を延ばすことが可能である。
【0067】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明によれば、より短い濾過時間で清浄度の高い金属溶湯を得ることを可能にし、かつ、繰り返し使用可能なセラミックフィルター、ならびに、このような特性を有するセラミックフィルターの製造方法および使用方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
1・・・・セラミックフィルター
2・・・・骨材