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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】排水システム
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/122 20060101AFI20230324BHJP
【FI】
E03C1/122 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022157465
(22)【出願日】2022-09-30
【審査請求日】2022-09-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522056895
【氏名又は名称】田中 良彦
(73)【特許権者】
【識別番号】522056909
【氏名又は名称】日本環境技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 良彦
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-277555(JP,A)
【文献】特開平05-331891(JP,A)
【文献】特開2020-048946(JP,A)
【文献】特開2017-089316(JP,A)
【文献】特開2017-003215(JP,A)
【文献】特開2000-140822(JP,A)
【文献】特開平10-266286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/00- 1/33
E03D 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内に設置され、第1の衛生器具から排水される汚水を真空排水装置で吸引排水する真空方式と、前記第1の衛生器具とは異なる第2の衛生器具から汚水を重力によって排水する重力方式とを併用する、排水システムであって、
上部が地表面から突出するように設置され、災害時において前記汚水を貯留する汚水桝を備える、排水システム。
【請求項2】
前記汚水桝へ送水可能な予備災害時汚水槽をさらに備える、
請求項1に記載の排水システム。
【請求項3】
前記真空排水装置を排水系統ごとに備える
請求項1に記載の排水システム。
【請求項4】
地下躯体汚水槽をさらに備え、
前記汚水は、
通常時、前記真空排水装置から前記地下躯体汚水槽を経由せず直接に前記汚水桝へ送水され、
災害時、前記真空排水装置から前記地下躯体汚水槽に一定時間、貯留される
請求項1に記載の排水システム。
【請求項5】
前記重力方式で排水される汚水のうち地上2階以上の汚水は、通常時、直接に前記汚水桝送水され、
災害時にはバルブにより排水経路を切り替えられて前記地下躯体汚水槽に一定時間貯留される、
請求項4に記載の排水システム。
【請求項6】
前記重力方式で排水される汚水のうち地上2階以上の汚水は、通常時及び災害時ともに、直接に前記地下躯体汚水槽に一定時間貯留される、
請求項4に記載の排水システム。
【請求項7】
前記重力方式で排水される汚水のうち地上2階以上の汚水は、通常時、直接に前記汚水桝送水され、
災害時には排水が停止される、
請求項4に記載の排水システム。
【請求項8】
災害時に一定時間、前記汚水が貯留され、前記汚水桝へ送水可能な予備災害時汚水槽をさらに備える、
請求項1に記載の排水システム。
【請求項9】
下水道本管と前記汚水桝の間に設置されるバルブをさらに備え、
災害時には、前記地下躯体汚水槽及び予備災害時汚水槽の少なくともいずれか1つに一定時間貯留した汚水を前記汚水桝に送水し、
前記バルブは、前記下水道本管が被災して排水が不可能な状況では、前記下水道本管からの逆流と前記汚水桝からの排水を遮断する、請求項4から7のいずれか1項に記載の排水システム。
【請求項10】
雨水及び井戸水の少なくとも1つを、前記第1の衛生器具及び前記第2の衛生器具の少なくとも1つに供給する配管系統をさらに備える、
請求項1に記載の排水システム。
【請求項11】
便器洗浄水と手洗い及び掃除用水を供給する床置型上水受水槽をさらに備える、
請求項1に記載の排水システム。
【請求項12】
便器洗浄水を給水する床置型雑用水槽をさらに備える、
請求項1に記載の排水システム。
【請求項13】
前記床置型雑用水槽へ雨水及び井戸水の少なくとも1つを供給する配管系統をさらに備える、請求項12に記載の排水システム。
【請求項14】
前記床置型上水受水槽に上水道からの給水と、井戸及び井水高度ろ過装置から水道法水質基準に適合するようろ過した井水を給水する、
請求項11に記載の排水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築衛生設備と上下水道インフラにおけるCO2排出量の削減及び災害などの緊急事態に対応可能な、すなわちBCP(事業継続計画)にも対応可能な設備システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシステムでは、便器洗浄水は汚水配管の中で重力によって下方向に排水する重力方式と言われるシステムが採用されている(非特許文献1など)。また、日本建築学会環境基準(AIJES-B0003-2016)に「機械・サイホン排水システム」として、4種類の重力方式に依らない排水システムが掲載されている。いずれの方式も「節水」による脱炭素・BCPに対応することを目的としていない(非特許文献2など)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】公共建築協会、国土交通省大臣官房庁営繕部、「設備・環境課 建築設備設計基準 令和4年版」、2021年8月
【文献】日本建築学会、「機械・サイホン排水システム設計ガイドライン」、2016年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在の重力排水方式では便器の洗浄水量を削減するには「汚物の排水管内での滞留」という課題で節水には限界があり、節水による上下水道インフラのCO2排出量の削減の障害となっている。いっぽう船舶の設備システムでは、船体に洗浄水や排水をコンパクトに納める必要から、汚水や雑排水に対して真空排水原理を用いた便器などの機器と真空排水装置を含めた建築の衛生設備には無い大幅な節水技術がある。
【0005】
災害時(地震、水害など)に上下水道インフラが停止することがあり、下水道本管の破断や下水処理場が被災すると復旧に長い時間を要することから、便器が使用できなくなるという障害が発生してしまう。
【0006】
このような障害が起きると、被災者が避難所としている建物に於いて便器が使用できなくなる。仮設の便器を運搬するまで時間がかかることに加え、仮設便器の数量が十分でなければ、避難所の衛生上の問題や避難者の健康被害の問題などが発生し得る。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、建築設備に較べて節水性能(85%程度削減)が極めて大きい船舶用真空排水システムを建築に導入するため、建築の基準に適合するかについて、連続使用における基本的な排水性能や騒音・振動などの性能検証実験を行い、基準化したうえで、大幅な節水により脱炭素を可能とする設備システムを提供しようとするものである。さらに、大幅な節水効果を利用して一日の排水量を1/7程度に減少できることから、災害時に地下躯体汚水槽を7日間程度まで長く使用できる設備システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は一態様として、建物内に設定された設備から汚水及び雑排水の少なくとも1つを含む排水を真空吸引する装置と、さらに重力による排水システムを併用して排水に必要なエネルギーを節減し、排水された排水を貯留する水槽とを備える、設備システムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、建築衛生設備における節水により上下水道インフラにおけるCO2発生量の削減、いわゆる脱炭素の実行と、災害などの緊急事態にも対応できる設備システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の設備システム第1例を示す図である。
図2】第1実施形態の設備システム第2例を示す図である。
図3】第1実施形態の設備システム第3例を示す図である。
図4】第2実施形態の設備システムを示す図である。
図5】第2実施形態の設備システムを示す図である。
図6】災害時の地下躯体汚水槽と予備災害時水槽の1例を示す図である。
図7】災害時の地下躯体汚水槽の一例を示す図である。
図8】(a)災害時汚水槽の一例と(b)バキュームカーで排水できる汚水桝の一例を示す図である。
図9】設備システムにおける、井戸水及び雨水の取水系統の一例を示す図である。
図10】上水受水槽から便器洗浄水と手洗い等に上水として給水する例である。
図11】既設又は新設の上水受水槽を便器洗浄用とし、手洗い用等上水専用受水槽を新設する例である。
図12】既設の便器洗浄用受水槽に、ろ過した井水及び雨水を給水する例である。
図13】上水受水槽に水道法水質基準に適合するようろ過した井水を給水する例である。
図14】汚水桝の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〈第1実施形態〉
以下、本発明の第1実施形態である設備システム1について図面を参照して説明
する。図1図2及び図3はそれぞれ、設備システム1の配管系統の第1例、第2例及び第3例を示す。
【0012】
設備システム1は、主に建物Bに設置されるシステムであり、図1図2及び図3に示すように、真空方式大・小便器2、重力方式小便器3、真空排水装置4、バルブ(図1では、バルブ8a、8b、8c、8dを、図2及び図3では、バルブ8a、8bを備える)、汚水槽10、汚水桝11、及び雑用水槽12を備える。これらの設備、装置は真空排水管5、重力排水管6、配管7によって互いに接続される。なお、各図では真空排水管5、重力排水管6、配管7、に矢印を重ねて記載し、汚水の流れを示している。
なお、以下では真空方式大・小便器2と重力方式小便器3からの汚水を中心に説明するが、システム1、300は、真空方式大・小便器2と重力方式小便器3以外の設備からの汚水、雑排水に対しても適用可能である。
【0013】
真空方式大・小便器2は、雑用水槽12から不図示の配管を介して給水を受け、真空排水装置4へ排水する。真空方式大・小便器2の下部には弁が設置され、真空排水装置4の動作と連動して開閉される。詳細には、真空方式大・小便器2から汚水、汚物を真空排水管5へ排出する際に弁が開き、それ以外の場合には弁は閉鎖される。
【0014】
重力方式小便器3は、雑用水槽12から不図示の配管を介して給水を受け、重力排水管6へ排水する。さらに、重力方式小便器3は重力排水管6へ排水し、不図示の中継槽を介して真空排水管5に排水し、真空排水装置4により、吸引排水することもできる。本方式は、真空排水装置4で吸引・排水することから真空方式大・小便器2に含まれる。
【0015】
真空排水装置4は、負圧を真空排水管5内部に発生させ、真空方式大・小便器2から汚水を吸引する装置である。さらに、真空排水装置4は、汚水に正圧を加えて、配管7内でバルブ8a、8bへ向けて圧送する機能を備える。そのため、真空排水装置4は、下方の大便器から汚水を吸引することも可能であるし、上方に汚水を送水することも可能である。
【0016】
真空排水装置4は真空方式大・小便器2などと電気的方法などで接続されており、真空方式大・小便器2の使用者からの指示を受け付けることができる。使用者の指示に応じて、真空排水装置4は汚水の吸引及び圧送を実行する。
【0017】
真空排水装置4は、建物Bの地下機械室に設置される。地下機械室では、さらに非常用電源設備又は蓄電池(不図示)が設定されており、停電時にも真空排水装置4へ電力を供給することができる。高層建物では、真空排水装置4の吸引する能力を超えた位置に真空方式大・小便器2などがある場合には、建物の中間機械室に必要とする真空排水装置4を設置する場合がある。
【0018】
〈設備システム第1例〉
図1に示すように真空排水装置4からの排水は、通常時には、バルブ8bは閉じられ、バルブ8aは開けられているので、真空排水槽から汚水槽10を経由せず直接に汚水桝へ送水され、下水本管へ排水される。重力方式の排水は、通常時には、バルブ8dが閉じられバルブ8cは開かれているので、2階以上の排水は直接に汚水桝へ排水され、下水本管へ排水される。重力方式の1階以下の階に位置する重力方式小便器3からの排水は、一旦、汚水槽10へ排水され、一定時間貯留されたのち、汚水槽10内の排水ポンプにより、汚水桝へ送水され、下水本管へ排水される。
【0019】
地震などの災害で下水道本管が破断するか、下水処理場が被災して、下水本管へ排水が困難となった場合には、真空排水装置4からの排水は地下躯体の汚水槽10へ貯留される。同時に、重力方式の2階以上からの排水もバルブ8cが閉じられ、バルブ8dが開かれて地下躯体の汚水槽10に貯留される。地下躯体の汚水槽10では、通常時は水位計の設定により2~3時間以内の貯留時間で汚水桝を経由して下水本管へ排水されるが、汚水槽10の容量が「1日分」で施工されることがあり、本発明により排水量が1/7程度まで削減されているので、水位計に災害時水位設定をしておけば、「7日間」程度の期間、汚水を貯留することができる。建物における事業継続、いわゆるBCPに寄与できるものである。
【0020】
汚水槽10が満水となった場合は、バキュームカーVで排水できる構造とした汚水桝11(図8)により、定期的に汚水を排水する。このようにすることで継続的に、トイレの大・小便器2、3を使用できる。
【0021】
汚水桝11は、建物の外部に設置される筒状の桝であり、バルブ8aを介して真空排水装置4と接続される。また、重力排水管バルブ8cを介して重力方式小便器3と接続される。さらに、配管7を介して汚水槽10と接続される。汚水桝11の内部には水位計15が設置されており、管理者は貯留される汚水の量を監視することができる。汚水桝11は、一例としてインバート桝であり、汚物による管のつまりを避け、汚水をスムーズに公共下水へ向けて排水する機能を有する。災害時には汚水桝11の下水本管側にある下水道用バルブ8eを閉にして、下水道本管からの汚水逆流を防ぐとともに、建物側からの汚水が下水道本管へ流出することを防ぐ。汚水槽10から送水する場合には、水位計15によって汚水桝11内の水位が監視され、溢水が防止される。
【0022】
汚水桝11の一部は地下に埋設されるが、汚水桝11の上端部は、図14に示すように、地表面より高い位置に設けられる。このように汚水枡11が地表面から突出する構造とすることにより、汚水桝11が水没することが防止される。そのため、浸水時においても汚水枡11からバキュームカーVによる排水が可能である。また、汚水桝11の容量は通常の枡よりも増加している。汚水桝11の容量が通常と比べて大きいため、汚水桝11は、災害時に汚水槽10の代わりとして機能する。汚水桝11の容量は、汚水槽10と併せて7日間以上の汚水を貯留できるようにすることが望ましい。
【0023】
雑用水槽12は、建物Bで使用する水を貯留するための水槽であり、建物Bの地下に設置される。雑用水槽12は不図示の配管によって真空方式大・小便器2と重力方式小便器3に接続され、それぞれの便器を洗浄するための水を供給する。
【0024】
(システムの動作:通常時)
通常時、すなわち災害時以外における、設備システム1の動作について説明する。
通常時、バルブ8bは閉じられ、バルブ8aは開かれている。真空方式大便器2が使用されると、真空排水装置4は、ユーザーの指示に応じて真空方式大便器2から汚水を吸引し、さらに汚水桝11へ向けて圧送する。
【0025】
圧送された汚水は汚水桝11へ到達し、その後、公共下水へ排水される。
【0026】
通常時、バルブ8dは閉じられ、バルブ8cは開かれている。重力方式小便器3が使用されると、汚水は重力にて落下し、汚水桝11へ送水され、その後、公共下水へ排水される。
【0027】
1階以下の階にある重力方式小便器3からの汚水は重力にて、汚水槽10に送水される。さらに、汚水は一定時間貯留されたのちに、ポンプ14により汚水桝11へ圧送され、その後公共下水へ排水される。
【0028】
(システムの動作:災害時)
災害時(地震・水害など)に、下水道本管の破断や下水処理場の被災で公共下水の使用が不能となった場合、通常時と異なる運用が実施される。設備システム1では真空排水システムのバルブ8aが閉鎖され、代わりにバルブ8bが開かれる。さらに、重力方式排水管のバルブ8cが閉鎖され、代わりにバルブ8dが開かれる。
【0029】
真空方式大・小便器2が使用されると、真空排水装置4は、ユーザーの指示に応じて真空方式大・小便器2から汚水を吸引し、さらに圧送する。汚水は、バルブ8aを通過して流れ、汚水槽10に貯留される。汚水槽10の水位計設定は、災害時水位に変更され、下水道機能が喪失した場合は、下水本管へ排水できない汚水を継続的に貯留する。
【0030】
汚水槽10の災害時水位に到達する前に、下水道機能が復旧した場合は、ポンプ14により、汚水を圧送して汚水桝11を経由して、下水本管へ排水する。
【0031】
下水道本管機能が長時間にわたり復旧しない場合は、汚水桝11と下水道本管を接続する位置にあるバルブ8eを閉じて、汚水桝11のマンホール11aからバキュームカーVで定期的に排水する。この作業を継続して行うことで、建物のトイレを通常のように使うことができる。便器排水のいわゆるBCP機能となる。下水道本管機能が復旧した場合は、通常の動作ができるようにバルブの位置を戻す。
【0032】
〈設備システム第2例〉
図2に示すように真空排水装置4からの排水は、通常時には、バルブ8bは閉じられ、バルブ8aは開けられているので、真空排水槽から汚水槽10を経由せず直接に汚水桝へ送水され、下水本管へ排水される。重力方式の排水は、通常時には各階の重力方式小便器3から重力排水管6を経由して直接に汚水槽10へ排水され、一定時間貯留されたのち、汚水槽10内の排水ポンプ14により、汚水桝11へ送水され、下水本管へ排水される。災害時の排水は設備システム第1例と同様に行われる。
【0033】
〈設備システム第3例〉
図3に示すように真空排水装置4からの排水は、通常時には、バルブ8bは閉じられ、バルブ8aは開けられているので、真空排水装置4から汚水槽10を経由せず直接に汚水桝11へ送水され、下水本管へ排水される。重力方式の排水は、通常時には、2階以上の排水は直接に汚水桝11へ排水され、下水本管へ排水される。重力方式の1階以下の階に位置する小便器3からの排水は、汚水槽10へ排水され、一定時間貯留されたのち、汚水槽10内の排水ポンプ14により、汚水桝11へ送水され、下水本管へ排水される。災害時の排水は設備システム1と同様に行われるが、2階以上の重力方式小便器3から排水はできなくなるために、使用停止となる。
【0034】
〈第2実施形態〉
高層ビルにおいては真空排水装置4を、例えば10階毎などに設置することも可能である。例えば、図4の設備システム300においては、7階ごとに真空排水装置4が設置され、上方の階にある真空方式大・小便器2から汚水が吸引される。図4のように、建物Bの中で真空排水方式では2系統の排水が行われてもよい。この例において設備システム300は、西系統及び東系統という2つの独立した配管系統を形成する。すなわち、西系統/東系統に属する真空方式大・小便器2からの汚水は東系統/西系統を介さずに排水される。真空排水装置4は、西系統及び東系統にそれぞれ1台ずつ設置され、東西の独立した各系統から汚水を吸引、圧送する。
【0035】
また、このような系統以外にも様々な方式が考えられる。例えば図5のように偶数階と奇数階で配管系統を別としてもよい。
【0036】
このように複数系統による排水方式とすることにより、設備システム300の維持管理を容易にすることができる。詳細に述べると、2台の真空排水装置4のうち1つを点検管理のために稼働停止した場合においても1系統は、稼働することができる。事故や災害等により、1つの系統を構成する配管7や設備が損傷した場合においても同様であり、稼働可能な系統が残るため、使用可能な真空方式大・小便器2を建物B内に残すことができる。
【0037】
〈変形例1〉
図6の変形例に示すように、設備システム1、300に予備災害時汚水槽9が加えられ、システム全体での汚水貯留能力を増加させてもよい。汚水槽10は汚水を貯留するためのタンクであり、配管7及びバルブ8g、8iを介して真空排水装置4と接続される。汚水槽10は一般的には地下階便器の2~3時間分の汚水を貯留可能な容量を備えるが、条件に応じてそれ以上またはそれ以下の容量としてもよい。図6において汚水槽10は地下に埋設されるか地上に設置されてもよい。この変形例では地下の最下階に設置する便器システムは、真空方式大・小便器2とする。
【0038】
汚水槽10の内部には、図6に示すようにポンプ14及び水位計15が設置される。ポンプ14は、配管7を経由して汚水桝11へ汚水を圧送する機能を持つ。また、水位計15は、汚水槽10の水量を計測する。
【0039】
図8(a)に示すように、変形例では予備災害時汚水槽9にもポンプ14及び水位計15が設置され、水槽内の水位が把握可能であるともに、汚水桝11へ汚水を送水可能である。なお、予備災害時汚水槽9が地下に設置される場合には、予備災害時汚水槽9の内部を大気と接続する通気管16がさらに設置される。なお、各図においてポンプ14は各汚水槽10内に設置されているが、汚水槽10外に設置されてもよい。
【0040】
汚水桝11には、水位計15が設置されてもよい(図8(b))。水位計15を桝内に設置することにより、桝内の水位、特に満水となった状態を適切に把握することができる。
【0041】
(通常時)
変形例における設備システム1、300の動作について説明する。通常時においては、通常時においては、バルブ8g、8hが解放され、バルブ8f、8iが閉鎖される。真空方式大・小便器2が使用されると、真空排水装置4によって、汚水が吸引されさらに汚水桝11へ圧送される。その後汚水は汚水桝11を経て公共下水へ排水される。重力方式小便器3からの汚水は、2階以上の系統は直接に汚水桝11へ送られる図1図3のシステムと、すべての汚水が一旦汚水槽10へ送られ、一定時間貯留されたのちに、ポンプ14により汚水桝11へ圧送され、汚水桝11を経て公共下水へ排水される図2のシステムがある。
【0042】
(災害時)
災害時においては、バルブ8g、8iが解放され、バルブ8f、8hが閉鎖される。真空方式大・小便器2が使用されると、真空排水装置4によって汚水が真空方式大・小便器2から吸引・圧送され、汚水槽10に送られる。重力方式小便器3からの汚水は、2階以上の系統はバルブ8kを閉じて、バルブ8jを開放して、汚水槽10へ送られる。
【0043】
汚水槽10の水位は、水位計15によって常時把握されている、汚水槽10が満水状態となった場合には、バルブ8f、が解放され、バルブ8g、8h、8iが閉鎖される。このようにして、真空方式大・小便器2からの汚水は、汚水槽10の代わりに、真空排水装置4から予備災害時汚水槽9へ送られて貯留される。重力排水管のバルブ8kが解放され、バルブ8jが閉鎖される。このようにして、重力方式小便器3からの汚水は、直接に予備災害時汚水槽9へ送られて貯留される。
【0044】
汚水槽10及び予備災害時汚水槽9の汚水はポンプ14によって汚水桝11へ排水可能である。そのため、汚水桝11及び公共下水が使用可能となった場合、また、汚水桝11において汚水除去(次段落)が可能な場合には、汚水槽10及び予備災害時汚水槽9の汚水はポンプ14によって汚水桝11へ排水される。
【0045】
汚水槽10及び汚水桝11に貯留される汚水及び固形物は、図7図8に示すようにバキュームカーVによって除去可能である。水位計15によって水位を把握できるため、予備災害時汚水槽9、汚水槽10及び汚水桝11からの溢水が防止されるとともに、バキュームカーVによって汚水処理できるタイミングを把握できる。
【0046】
災害によっては公共下水が長期間(この例では7日程度以上)使用できなくなる場合があるが、この場合でも上記のように汚水槽10及び予備災害時汚水槽9に貯留し、さらにバキュームカーVによる汚水、固形物除去を行うことにより、設備システム1、300を長期にわたって使用可能とできる。
【0047】
(上水)
実施形態において真空方式大・小便器2と重力方式小便器3を洗浄する水は上水道から供給されていたが、それ以外の手段によって供給されてもよい。
【0048】
一例として図9のように、井戸水及び雨水を水源として真空方式大・小便器2と重力方式小便器3に水を供給する方法が考えられる。なお、図9では理解を容易にするため、設備システム1、300のうち、井戸水及び雨水を供給源として真空方式大・小便器2と重力方式小便器3へ水を供給するシステムを抽出して示し、他の設備及び装置は図示を省略している。
【0049】
設備システム1、300は、図9に示すように、井戸W、ポンプP、ろ過装置18雨水貯留槽19、及びルーフドレン21を備える。これらの装置、設備は配管7及び竪管20によって接続される。
【0050】
ポンプPは、井戸Wから井戸水を吸い上げ、配管7を介して供給する。井戸水はろ過装置18によってろ過され、雑用水槽12に貯留される。
【0051】
一方、屋上に降った雨水はルーフドレン21によって取水され、竪管20を介して雨水貯留槽19に供給される。雨水貯留槽19から供給される雨水は、ろ過装置18によってろ過され、その後雑用水槽12に貯留される。
【0052】
雑用水槽12からの真空方式大・小便器2と重力方式小便器3への給水方法及び給水経路は、実施形態で説明したものと同様である。
【0053】
このような水の供給経路をさらに加えることによって、設備システム1、300は上水が供給不能となった場合においても長期間に亘って真空方式大・小便器2と重力方式小便器3に水を供給することができる。
【0054】
〈効果〉
上記実施形態又は変形例の設備システム1、300では、建物Bに設置された真空方式大・小便器2から汚水を吸引する真空排水装置4と、重力方式小便器3から汚水を貯留する汚水槽10と予備災害時汚水槽9と、を備える。
【0055】
上記構成によると、汚水槽10と予備災害時汚水槽9に汚水を下水道インフラが復旧するまで貯留することができる。地震や洪水等の災害時において下水道本管の破断や下水処理場が被災し、下水道機能が停止した場合にも真空方式大・小便器2と重力方式小便器3を使用できる。建物Bに於ける衛生上の問題や健康被害の問題を回避し、建物内における事業継続が可能となる。
【0056】
また、真空排水装置4を使用するため、大便器においては重力方式の排水と比較して真空方式大・小便器2の使用水量を1/7程度(洗浄水量1リットル/回程度)に削減することができる。なお、小便器においては真空方式と同時に、節水効果の高い重力方式機種を選定することで使用水量1/4程度(洗浄水量1リットル/回程度)に削減することができる。通常時に節水できるだけではなく、災害時の水使用量を抑制できるため、設備システム1は、上水道が使用できない事態にも井戸水や雨水利用により対処可能である。脱炭素の見地からは、便器洗浄水量の削減により、上下水道の都市インフラにおける「CO2排出削減」に貢献できる。
【0057】
設備システム1、300は汚水槽10内の汚水を排水するポンプ14を備える。また、設備システム1、300は汚水槽10に設置された水位計をさらに備え、ポンプ14は水位計15の計測した水位に応じて排水を実行する。
【0058】
上記構成では、水位計15を用いれば汚水槽10の状況に応じて適切なタイミングで排水することができる。
【0059】
設備システム1、300は、真空排水装置4から吸引された汚水と重力方式の排水を貯留する予備災害時汚水槽9をさらに備える。
【0060】
予備災害時汚水槽9を備えることで、設備システム1、300は汚水を貯留する能力を増加させることができる。
【0061】
設備システム1、300は、バルブ8e―8kをさらに備えることにより、汚水の排水を容易に制御できる。
【0062】
設備システム1、300は、汚水桝11と、汚水桝11に設置された水位計15とを備える。
【0063】
設備システム1、300は、汚水桝11から公共下水へ排水することが可能である。また、公共下水が使用できない場合においても水位計15によって適切なタイミングでバキュームカーVなどの手段によって排水できる。
【0064】
設備システム1、300は、雨水及び井戸水の少なくとも1つを前記便器へ供給する配管系統を備える。
【0065】
上記構成により、設備システム1、300は、上水道が使用できない場合にも真空方式大・小便器2と重力方式小便器3の洗浄水を確保し、災害は長期間に亘る場合にも真空方式大・小便器2と重力方式小便器3の仕様を可能とする。
【0066】
真空排水装置4は、建物B内の配管系統ごとに設置される。
【0067】
このような構成とすることにより、真空排水装置4が維持管理や故障により使用できなくなった場合においても別系統での排水が可能である。そのため、建物B内において真空方式大・小便器2の仕様が可能となる。
【0068】
〈変形例2〉
図10に示すように、給水方式として、機械室に設置するFRP製などの床置型上水受水槽23から、不図示の単一配管により、手洗い、掃除用などと、同時に真空方式大・小便器2及び重力方式小便器3に給水する方式である。
【0069】
〈効果〉
真空方式大・小便器2及び重力方式小便器3の節水機能による脱炭素効果が期待できる。いっぽう、上水道機能が停止した場合には、建物の給排水機能が上水受水槽の貯留分を使い切ったところで停止するため、建物のBCPにかかわる機能は期待できない。
〈変形例3〉
【0070】
図11に示すように、給水方式として、機械室に設置するFRP製などの床置型雑用水槽22から不図示の配管により、真空方式大・小便器2及び重力方式小便器3に便器洗浄用水を供給する。また、床置型上水受水槽23から不図示の配管により、手洗い、掃除用等の上水を供給する。
【0071】
〈効果〉
改修工事の場合には、既設の床置型上水受水槽を節水効果により7日分程度使用できる雑用水槽として転用することができる。新築においても同様の雑用水槽を設置してもよい。さらに、床置型上水受水槽を設置して、便器に供給する配管と手洗いなどに供給する配管をそれぞれ別系統とすると、雑用水槽には7日分程度の水量を貯留し、上水受水槽には1/2日分程度の上水供給分を貯留することができる。
【0072】
床置型雑用水槽の貯留水量を便器洗浄水の7日分程度の容量とすると、建物に於ける便器使用にかかわるBCP機能は満足できる。便器洗浄水の節水による脱炭素効果とBCP機能を有する。
【0073】
〈変形例4〉
図12に示すように、給水方式として、機械室に設置するFRP製などの床置型上水受水槽23から、不図示の配管により、手洗い、掃除用などに給水する。不図示の井水及び雨水のろ過装置から雑用水を床置型雑用水槽22に供給して、不図示の配管により真空方式大・小便器2及び重力方式小便器3に給水する方式である。
【0074】
〈効果〉
上水道の供給機能が停止した場合においても、床置型雑用水槽22から真空方式大・小便器2及び重力方式小便器3に洗浄水が給水される。建物に於ける脱炭素効果と災害時の継続的便器使用のBCP効果が期待できる。
【0075】
〈変形例5〉
図13に示すように、上水道からの給水と不図示の井戸と井水高度ろ過装置から、床置型上水受水槽23へ、水道法水質基準に適合するように、ろ過処理した井水を供給する。床置き型上水受水槽から不図示の配管により、真空方式大・小便器2と手洗い及び掃除用水などに給水する例である。
【0076】
〈効果〉
井水から水道法水質基準に適合するバックアップ給水ができ、前記節水型便器による継続的な脱炭素効果がある。また、手洗い及び掃除用水などにも、建物の事業継続すなわちBCP効果が期待できる。
【0077】
尚、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本は発明にはその等価物も含まれる。また、本発明の権利は、優越的な権利の濫用に対しても法に基づき抗し得るものである。
【符号の説明】
【0078】
1、300 設備システム
2 真空方式大・小便器
3 重力方式小便器
4 真空排水装置
5 真空排水管
6 重力排水管
7 配管
8a~8k バルブ
9 予備災害時汚水槽
10 汚水槽
11 汚水桝
12 雑用水槽
13 中間機械室
14 ポンプ
15 水位計
16 通気管
17 災害時汚水槽殺菌装置
18 ろ過装置
19 雨水貯留槽
20 竪管
23 床置型上水受水槽
22 床置型雑用水槽
【要約】
【課題】従来の重力排水方式だけでは、実施が難しかった衛生設備における、画期的な節水による上下水道インフラのCO2排出削減、いわゆる脱炭素を実現して、その節水効果を活用して災害などの緊急事態にも対応できる設備システムを提供する。
【解決手段】建物内に設置された船舶用同等の節水型真空排水システムにより、衛生器具から汚水及び雑排水の少なくとも1つを含む排水を吸引排水し、大幅な節水による脱炭素を実現するとともに、排水にエネルギーをほとんど要しない重力排水システムを併用して、さらなる省エネルギーによる脱炭素効果を加えるとともに、その節水効果を活用した災害時に対応できる排水貯留水槽を備える、設備システム。
【選択図】図1
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