(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】核酸結合因子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230324BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20230324BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20230324BHJP
C12N 15/60 20060101ALI20230324BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20230324BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20230324BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230324BHJP
C07K 14/37 20060101ALI20230324BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230324BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230324BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230324BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230324BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20230324BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230324BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/54
C12N15/55
C12N15/60
C12N15/53
C12N15/52 Z
C07K19/00
C07K14/37
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/16 Z
C12N15/63 Z
C07K17/00
(21)【出願番号】P 2018201721
(22)【出願日】2018-10-26
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 辰吾
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519558(JP,A)
【文献】Structure,2016年,Vol. 24,P. 862-873
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12N 9/00- 9/99
C07K 1/00- 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのN末側ドメインとC末側ドメイン内の触媒中心であるLAGLIDADGモチーフに変異が導入されてなる不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのDNA結合ドメインを含むポリペプチドを含む、核酸結合因子。
【請求項2】
(A)前記ポリペプチドがさらに機能性ドメインを含む、及び/又は
(B)前記ポリペプチドとは別に、さらに、機能性物質を含む、
請求項1に記載の核酸結合因子。
【請求項3】
(A)前記ポリペプチドがさらに機能性ドメインを含む、請求項1又は2に記載の核酸結合因子。
【請求項4】
前記チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼが、I-OnuI、I-AaBMI、I-PanMI、I-CpaMI、及びI-LtrWIからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の核酸結合因子。
【請求項5】
前記チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼが、I-OnuI、I-AaBMI、及びI-PanMIからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の核酸結合因子。
【請求項6】
前記機能性ドメインが、転写促進活性、転写抑制活性、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチル化酵素活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性、脱ミリストイル化活性、DNA修復活性、DNA編集活性、DNA損傷活性、脱アミノ化活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、ヌクレアーゼ活性、トランスポサーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、光回復酵素活性、及びグリコシラーゼ活性からなる群より選択される少なくとも1種の活性を有するドメインである、請求項2又は3に記載の核酸結合因子。
【請求項7】
前記機能性物質が標識物質及び担体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の核酸結合因子。
【請求項8】
転写因子である、請求項1~7のいずれかに記載の核酸結合因子。
【請求項9】
前記DNA結合ドメインがホモDNA結合ドメイン又はキメラDNA結合ドメインである、請求項1~8のいずれかに記載の核酸結合因子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の核酸結合因子が含むポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記ポリペプチドの発現カセットを含む、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項13】
請求項1~9のいずれかに記載の核酸結合因子、請求項10又は11に記載のポリヌクレオチド、及び請求項12に記載の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、試薬。
【請求項14】
前記核酸結合因子を外来性核酸へ結合させるための、請求項13に記載の試薬。
【請求項15】
前記外来性核酸が転写制御配列を含む、請求項14に記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸結合因子等に関する。
【背景技術】
【0002】
人工転写因子は、主にDNA結合ドメインと転写誘導(もしくは抑制)ドメインからなる。これまでにさまざまな人工転写因子が開発されてきたが、単一のタンパク質で繰り返し配列がなく、そして目的とする配列へ高い特異性を以て作用する人工転写因子はそれほど多くない。
【0003】
最も汎用されているのはtetリプレッサータンパク質ドメイン(TetR)をDNA結合ドメインとして使用した転写因子であるが、これは二量体化して主に12bpの配列を認識して結合する。TetRはテトラサイクリンやドキシサイクリンによってDNAへの結合を制御できるため、この点が実験科学の場においては重宝されているが、臨床利用されている抗生物質の存在によりDNAとの結合が阻害されるため、ヒトの体内で使用することが難しい。
【0004】
他にも人工転写因子に使用できるDNA結合ドメインが複数存在する。第一に、不活性化したdCAS9(不活性化Cas9)はgRNAの存在によって目的とする配列に高い特異性を以て結合できる人工転写因子のDNA結合ドメインになり得るが、dCas9の分子量が大きく、またgRNAを別に発現させる必要があるため、特定の遺伝子を発現させるための人工転写因子としては使い勝手が悪い。第二に、TALEも配列特性が高い人工転写因子になり得るが、20回程度の繰り返し配列からなるため、サンガーシーケンスによる遺伝子配列の確認や遺伝子の人工合成が出来ないため、使いづらい。実際、治療用細胞に遺伝子を導入する際に使用されるレンチウイルスでは、搭載する遺伝子のサイズが大きいとウイルスの感染効率が著しく低下することが知られており、また遺伝子治療に使用されるアデノ随伴ウイルスに搭載できる遺伝子の大きさにも限界があることが知られている。そのため、治療用細胞を作成する時に使用する遺伝子はより小型の方が望ましく、その方が用途も広い。第三に、合成ジンクフィンガータンパク質は特定のDNA配列に結合できるが、結合力は高くない。第四に、酵母由来の転写因子GAL4のDNA結合ドメインを用いて作成した人工転写因子も実験的に多用されているが、こちらの認識配列は7bpほどであり特異性がかなり低い。
【0005】
近年、SceI等のメガヌクレアーゼを人工転写因子として利用することが報告されている(特許文献1)。しかしながら、チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼを人工転写因子として利用することは未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、人工転写因子等に利用することが可能な核酸結合因子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのDNA結合ドメインを含むポリペプチドを含む、核酸結合因子、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. 不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのDNA結合ドメインを含むポリペプチドを含む、核酸結合因子。
【0011】
項2. (A)前記ポリペプチドがさらに機能性ドメインを含む、及び/又は
(B)前記ポリペプチドとは別に、さらに、機能性物質を含む、
項1に記載の核酸結合因子。
【0012】
項3. (A)前記ポリペプチドがさらに機能性ドメインを含む、項1又は2に記載の核酸結合因子。
【0013】
項4. 前記チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼが、I-OnuI、I-AaBMI、I-PanMI、I-CpaMI、及びI-LtrWIからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の核酸結合因子。
【0014】
項5. 前記チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼが、I-OnuI、I-AaBMI、及びI-PanMIからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~4のいずれかに記載の核酸結合因子。
【0015】
項6. 前記機能性ドメインが、転写促進活性、転写抑制活性、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチル化酵素活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性、脱ミリストイル化活性、DNA修復活性、DNA編集活性、DNA損傷活性、脱アミノ化活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、ヌクレアーゼ活性、トランスポサーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、光回復酵素活性、及びグリコシラーゼ活性からなる群より選択される少なくとも1種の活性を有するドメインである、項2又は3に記載の核酸結合因子。
【0016】
項7. 前記機能性物質が標識物質及び担体からなる群より選択される少なくとも1種である、項2に記載の核酸結合因子。
【0017】
項8. 転写因子である、項1~7のいずれかに記載の核酸結合因子。
【0018】
項9. 前記DNA結合ドメインがホモDNA結合ドメイン又はキメラDNA結合ドメインである、項1~8のいずれかに記載の核酸結合因子。
【0019】
項10. 項1~9のいずれかに記載の核酸結合因子が含むポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【0020】
項11. 前記ポリペプチドの発現カセットを含む、項10に記載のポリヌクレオチド。
【0021】
項12. 項10又は11に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【0022】
項13. 項1~9のいずれかに記載の核酸結合因子、項10又は11に記載のポリヌクレオチド、及び項12に記載の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、試薬。
【0023】
項14. 前記核酸結合因子を外来性核酸へ結合させるための、項13に記載の試薬。
【0024】
項15. 前記外来性核酸が転写制御配列を含む、項14に記載の試薬。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、人工転写因子等に利用することが可能な核酸結合因子を提供することができる。この核酸結合因子は優れた核酸結合能を有するので、転写因子として以外にも種々の形態(例えば、核酸精製用担体試薬、核酸可視化試薬等の試薬)として利用することができる。転写因子として利用する場合は、例えば膜貫通タンパク質の細胞内ドメインに配置する形態(例えば、シグナル(がん細胞等の特定細胞との接触)により細胞内の転写因子ドメインが遊離して特定遺伝子の発現を制御するように、設計された形態)として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】Aは、実施例で作製した人工転写因子の例を示す。N末より、HAタグ配列、核移行シグナル(NLS)、不活性メガヌクレアーゼ、転写制御ドメイン、タンパク質分解配列からなる。Bは、実施例で作製したレポーターの例を示す。メガヌクレアーゼのターゲット配列を1つおよび7つ含む配列の下流にCMVミニプロモーターを置き、その下流にレポーター遺伝子を据えることにより、不活性化メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子の結合依存的にレポーター遺伝子が発現される。
【
図2】HEK293T細胞にメガヌクレアーゼI-AaBMI、I-CpaMI、I-LtrWI、I-OnuI、I-SceIの認識配列を7個持つレポータープラスミドを単独で発現させた場合に対し、それぞれ対応するメガヌクレアーゼの不活性化体からなる人工転写因子の発現プラスミドを共発現させた場合のレポーター転写活性を調べた結果を示す。縦軸は転写誘導比を示し、横軸は採用したメガヌクレアーゼの種類及び人工転写因子の発現プラスミドの有無を示す。
【
図3】HEK293T細胞にメガヌクレアーゼI-DmoIの認識配列を7個持つレポータープラスミドを単独で発現させた場合に対し、メガヌクレアーゼI-DmoIの不活性化体からなる人工転写因子の発現プラスミドを共発現させた場合のレポーター転写活性を調べた結果を示す。縦軸は転写誘導比を示し、横軸は人工転写因子の発現プラスミドの有無を示す。
【
図4】HEK293T細胞にメガヌクレアーゼI-OnuI、I-PanMIの認識配列を1個持つレポータープラスミドを単独で発現させた場合に対し、それぞれ対応するメガヌクレアーゼの不活性化体からなる人工転写因子の発現プラスミドを共発現させた場合のレポーター転写活性を調べた結果を示す。縦軸は転写誘導比を示し、横軸は採用したメガヌクレアーゼの種類及び人工転写因子の発現プラスミドの有無を示す。
【
図5】人工転写因子を含むキメラNotch受容体を導入したT細胞にリンパ腫細胞(Raji細胞)を添加した場合のレポーター転写活性を調べた結果を示す。縦軸は転写誘導比を示し、横軸は人工転写因子の種類を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1).定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0028】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0029】
本明細書において、核酸(例えばDNA、RNAなどのヌクレオチド)には、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、包含される。
【0030】
(2).核酸結合因子
本発明は、その一態様において、不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのDNA結合ドメインを含むポリペプチド(本明細書において、「本発明のポリペプチド」と示すこともある。)を含む、核酸結合因子(本明細書において、「本発明の核酸結合因子」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0031】
チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼは、チャワンタケ亜門(Pezizomycotina)に属する種に由来する(換言すれば、該種の野生型が内在的に有する)メガヌクレアーゼである限り、特に制限されない。
【0032】
チャワンタケ亜門の中でも、好ましくはフンタマカビ綱、ズキンタケ綱等が挙げられる、より好ましくはフンタマカビ亜綱、ズキンタケ綱等が挙げられ、さらに好ましくはオフィオストマ目、ビョウタケ目、フンタマカビ目、ディアポルテ目等が挙げられ、よりさらに好ましくはOphiostomataceae科、Helotiaceae科、Lasiosphaeriaceae科、Cryphonectriaceae科等が挙げられ、とりわけさらに好ましくはOphiostoma属、Ascocalyx属、Podospora属、Cryphonectria属、Leptographium属等が挙げられる。
【0033】
チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼとして、具体的には、例えばI-OnuI(Ophiostoma novo-ulmi)、I-AaBMI(Ascocalyx abietina)、I-PanMI(Podospora anserina)、I-CpaMI(Cryphonectria parasitica)、I-LtrWI(Leptographium truncatum)、I-AniI(Aspergillus nidulans)、I-AstI(Annulohypoxylon stygium)、I-CcaI(Ceratocystis cacaofunesta)、I-CcaII(Ceratocystis cacaofunesta)、I-CkaMI(Cordyceps kanzashiana)、I-CpaMI(Cryphonectria parasitica)、I-CpaMIIP(Cryphonectria parasitica)、I-CraMI(Cordyceps ramosopulvinata)、I-GpeMI(Grosmannia penicillata)、I-GpiI(Grosmannia piceaperda)、I-GzeI(Gibberella zeae)、I-GzeII(Gibberella zeae)、I-GzeMIIIP(Gibberella zeae)、I-HjeMII(Hypocrea jecorina)、I-LtrII(Leptographium truncatum)、I-NcrMIP(Neurospora crassa)、I-OmiI(Ophiostoma minus rns)、I-OmiII(Ophiostoma minus rns)、I-OsoMI(Ophiocordyceps sobolifera)、I-OsoMII(Ophiocordyceps sobolifera)、I-OsoMIIIP(Ophiocordyceps sobolifera)、I-OsoMIVP(Ophiocordyceps sobolifera)、I-PanMIIIP(Podospora anserina)、I-PanMIIP(Podospora anserina)、I-PnoMI(Phaeosphaeria nodorum)、I-SmaMI(Sordaria)等が挙げられる。これらの中でも、核酸結合活性(特に、転写因子のDNA結合ドメインとして利用した場合の転写誘導活性)の観点から、特に好ましくはI-OnuI、I-AaBMI、I-PanMI、I-CpaMI、I-LtrWIが挙げられる。これらの中でも、とりわけ好ましくはI-OnuI、I-AaBMI、I-PanMIが挙げられ、さらに好ましくはI-OnuIが挙げられる。
【0034】
チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのアミノ酸配列は、公知の情報に基づいて決定することができる。例えば、I-OnuIの野生型アミノ酸配列としては配列番号1が挙げられ、I-AaBMIの野生型アミノ酸配列としては配列番号2が挙げられ、I-PanMIの野生型アミノ酸配列としては配列番号3が挙げられ、I-CpaMIの野生型アミノ酸配列としては配列番号4が挙げられ、I-LtrWIの野生型アミノ酸配列としては配列番号5が挙げられる。
【0035】
「不活性」とは、DNA切断活性が不活性化した状態を示す。チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼは、単量体型メガヌクレアーゼであり、その構造がN末側ドメインとC末側ドメインの二つに明確に分かれており、それぞれがDNA結合能とニッカーゼ(DNA切断)の活性を持っている。DNA切断活性を不活化するためには、N末側ドメインとC末側ドメインにある二つの活性中心の両方に変異を導入する必要がある。この変異部位は、公知の情報に従って、適宜設定することができる。具体的には、例えばN末側ドメインとC末側ドメイン内の触媒中心であるLAGLIDADGモチーフそれぞれに変異を導入することが挙げられる。特にモチーフのC末側にあるD(Asp)またはE(Glu)をDもしくはE以外のアミノ酸に置換することが好ましい。また、触媒中心のアミノ酸以外にも、金属イオンの結合部位、BASIC POCKETと呼ばれる構造に変異を導入することによってもメガヌクレアーゼを不活化することができる。
【0036】
不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのアミノ酸配列として、例えば不活性I-OnuIのアミノ酸配列としては配列番号6が挙げられ、不活性I-AaBMIのアミノ酸配列としては配列番号7が挙げられ、不活性I-PanMIのアミノ酸配列としては配列番号8が挙げられ、不活性I-CpaMIのアミノ酸配列としては配列番号9が挙げられ、不活性I-LtrWIのアミノ酸配列としては配列番号10が挙げられる。
【0037】
不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼは、そのDNA結合能が著しく損なわれず(例えば、DNA結合能が、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下に低下せず)、且つそのDNA切断活性の不活性化状態が顕著に回復されない(例えば、DNA切断活性が、不活性化前のDNA切断活性の10%以下、5%以下、2%以下、1%以下、0.1%以下である)限りにおいて、変異が導入されたもの(変異メガヌクレアーゼ)も包含する。DNA結合能及びDNA切断活性は公知の試験方法に従って測定することができる。
【0038】
変異メガヌクレアーゼは、例えば、不活性化のための変異以外の変異が導入されていない不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼ(未変異メガヌクレアーゼ)のアミノ酸配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなるメガヌクレアーゼである。変異としては、例えば置換、欠失、付加、挿入等が挙げられ、好ましくは置換が挙げられ、より好ましくは保存的置換が挙げられる。変異アミノ酸の数は、好ましくは1又は複数個、より好ましくは1~8個、さらに好ましくは1~4個、よりさらに好ましくは1個である。
【0039】
不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼの好ましい一態様は、下記(a)又は(b)に記載のタンパク質:
(a)配列番号1~5のいずれかに示されるアミノ酸配列において不活性化変異が導入されてなるアミノ酸配列(例えば、配列番号6~10のいずれかに示されるアミノ酸配列)からなるタンパク質、又は
(b)配列番号1~5のいずれかに示されるアミノ酸配列において不活性化変異が導入されてなるアミノ酸配列(例えば、配列番号6~10のいずれかに示されるアミノ酸配列)と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質、
である。変異としては、例えば置換、欠失、付加、挿入等が挙げられ、好ましくは置換が挙げられ、より好ましくは保存的置換が挙げられる。変異アミノ酸の数は、好ましくは1又は複数個、より好ましくは1~8個、さらに好ましくは1~4個、よりさらに好ましくは1個である。
【0040】
DNA結合ドメインは、不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼ(=単量体型メガヌクレアーゼ)が有するN末側DNA結合ドメインとC末側DNA結合ドメインを含む限り特に制限されない。2つのドメインは、メガヌクレアーゼに関する公知の構造情報に基づいて容易に決定することができる。DNA結合ドメインは、ホモDNA結合ドメイン(すなわちN末側DNA結合ドメインとC末側DNA結合ドメインとが同種の不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのものである場合)であってもよいし、キメラDNA結合ドメイン(すなわちN末側DNA結合ドメインとC末側DNA結合ドメインとが互いに異種の不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのものである場合)であってもよい。本発明の好ましい態様において、DNA結合ドメインは、I-OnuI、I-AaBMI、I-PanMI、I-CpaMI、及びI-LtrWIからなる群より選択される少なくとも1種のDNA結合ドメインであり、より好ましい態様においては、DNA結合ドメインは、I-OnuI、I-AaBMI、及びI-PanMIからなる群より選択される少なくとも1種のDNA結合ドメインであり、さらに好ましい態様においては、DNA結合ドメインは、I-OnuIのDNA結合ドメインである。
【0041】
本発明のポリペプチドは、さらに不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのDNA結合ドメイン以外に、さらに機能性ドメインを含むことが好ましい。機能性ドメインを含む場合、本発明の核酸結合因子は、該機能性ドメインに由来する活性を発揮することができる。機能性ドメインとしては、特定の機能を発揮することができるアミノ酸配列のドメインである限り特に制限されず、例えば転写促進活性、転写抑制活性、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチル化酵素活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性、脱ミリストイル化活性、DNA修復活性、DNA編集活性、DNA損傷活性、脱アミノ化活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、ヌクレアーゼ活性、トランスポサーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、光回復酵素活性、及びグリコシラーゼ活性からなる群より選択される少なくとの1種の活性を有するドメインが挙げられる。本発明のポリペプチドが機能性ドメインを含む場合、その数は1つであっても、2つ以上であってもよい。また、機能性ドメインは、1種又は2種以上を組み合わせて採用することができる。
【0042】
本発明のポリペプチドは、核酸結合能が著しく損なわれない限りにおいて(機能性ドメインも含む場合は、機能性ドメインの活性が著しく損なわれない限りにおいて)、その他の配列を含んでいてもよい。その他の配列としては、例えば各種シグナル配列(例えば核移行シグナル、核外移行シグナル等)、タンパク質タグ(例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等)、標識タンパク質配列(例えば蛍光タンパク質、発光酵素タンパク質等)、タンパク質不安定化配列(例えばPEST配列等)、タンパク質安定化配列、膜貫通ドメイン等が挙げられる。
【0043】
本発明のポリペプチドは、核酸結合能が著しく損なわれない限りにおいて(機能性ドメインも含む場合は、機能性ドメインの活性が著しく損なわれない限りにおいて)、化学修飾されたものであってもよい。
【0044】
本発明のポリペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0045】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0046】
本発明のポリペプチドは、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0047】
さらに、本発明のポリペプチドには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども包含される。
【0048】
本発明のポリペプチドは、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0049】
本発明のポリペプチドは、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0050】
本発明のポリペプチドは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術等を利用して作製することができる。
【0051】
本発明の核酸結合因子は、本発明のポリペプチドのみからなるものであってもよいし、本発明のポリペプチドとは別に、さらに他の物質を含むものであってもよい。他の物質としては、例えば機能性物質が挙げられる。機能性物質としては、特に制限されず、例えば標識物質、担体等が挙げられる。機能性物質は、通常、本発明のポリペプチドに直接、又は間接に(例えばリンカーを介して)、連結されている。
【0052】
標識物質としては、例えば蛍光物質(例えばフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、テトラメチルローダミン、カルボキシローダミン、フィコエリスリン、6-FAM(商標)、Cy(登録商標)3、Cy(登録商標)5、Alexa Fluor(登録商標)のシリーズ等)、酵素(例えば、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ等)等が挙げられる。
【0053】
担体としては、本発明のポリペプチドを担持可能なものである限り特に制限されない。担体の材質としては、特に制限されず、各種樹脂等の有機材料、ケイ素材料や金属等の無機材料等が例示される。
【0054】
他の物質は1種又は2種以上の組合せであってもよい。
【0055】
本発明の核酸結合因子は、不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのDNA結合ドメインの認識配列を含む核酸に結合させるために用いられる。
【0056】
認識配列は、不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼの種類に応じて異なる。例えば、不活性I-OnuIの認識配列としては配列番号13が挙げられ、不活性I-AaBMIの認識配列としては配列番号14が挙げられ、不活性I-PanMIの認識配列としては配列番号15が挙げられ、不活性I-CpaMIの認識配列としては配列番号16が挙げられ、不活性I-LtrWIの認識配列としては配列番号17が挙げられる。不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼの認識配列は比較的長いので、本発明の核酸結合因子は、結合特異性に優れる。
【0057】
本発明の核酸結合因子は、メガヌクレアーゼのDNA切断活性が不活性化されているので、核酸に結合しつつも、その核酸を切断しない。このため、核酸結合により、該結合部位において機能性ドメインの活性を発現させたり、機能性物質の機能を利用することができる。
【0058】
本発明の核酸結合因子の利用分野としては、特に制限されず、例えば細胞治療、再生医療、実験試薬等の分野が挙げられる。
【0059】
本発明の一態様においては、本発明の核酸結合因子を、外来性核酸へ結合させるために用いることができる。外来性核酸は、転写制御配列を含むことが好ましい。すなわち、本発明の核酸結合因子は、転写因子として用いることができる。この場合、例えば、ヒトやマウスのゲノム上にない特定のDNA配列に結合し、外来遺伝子の発現を特異的に制御するために利用することができる。別の例として、目的とする遺伝子の近傍にメガヌクレアーゼのターゲット配列を導入し、その遺伝子の発現を制御するために利用することができる。また別の例として、メガヌクレアーゼのターゲット配列の下流にレポーター遺伝子を配置し、不活性化メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子によってそのレポーター遺伝子の発現を制御するために利用することができる。さらに別の例として、不活性化メガヌクレアーゼを人工シグナルタンパク質に組み込み、任意の刺激を受容し
た時に核内へ移動し、目的の遺伝子を発現させるために利用することができる。
【0060】
本発明の一態様においては、特に、膜貫通タンパク質の細胞内ドメインに配置する形態(例えば、シグナル(がん細胞等の特定細胞との接触)により細胞内の転写因子ドメインが遊離して特定遺伝子の発現を制御するように、設計された形態)として利用することができる。この形態は、例えば細胞治療、腫瘍免疫(CAR-T療法等)に利用することができる。
【0061】
本発明の一態様においては、本発明の核酸結合因子が担体を含む場合、本発明の核酸結合因子を、不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのDNA結合ドメインの認識配列を含む核酸の精製に利用することができる。例えば、本発明のポリペプチドをレジンや磁気ビーズに結合させてなる試薬(本発明の核酸結合因子)を作成し、これを、メガヌクレアーゼの認識配列を導入したプラスミドやゲノム断片、PCR産物を精製することができる試薬として利用することができる。この手法を用いて、次世代シーケンス用ライブラリー調製試薬などが開発できる可能性が考えられる。
【0062】
本発明の一態様においては、本発明の核酸結合因子が標識物質を含む場合、本発明の核酸結合因子を、不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼのDNA結合ドメインの認識配列を含む核酸(又は核酸配列)の検出に利用することができる。例えば、固定した細胞や組織標本に本発明の核酸結合因子を添加することにより、ゲノムにノックインされているDNAを可視化し、その有無や数を調べることができる。
【0063】
(3).ポリヌクレオチド
本発明は、その一態様において、本発明のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明のポリヌクレオチド」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0064】
本発明のポリペプチドのコード配列は、本発明のポリペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。
【0065】
本発明のポリヌクレオチドは、その一態様において、本発明のポリペプチドの発現カセットを含む。
【0066】
本発明のポリペプチドの発現カセットは、対象細胞内で本発明のポリペプチドを発現可能なDNAである限り特に制限されない。本発明のポリペプチドの発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された本発明のポリペプチドのコード配列を含むDNAが挙げられる。
【0067】
対象細胞の由来生物種としては、特に制限されず、例えば腸内細菌科細菌等の細菌、酵母等の真菌、動物、植物が挙げられる。動物としては、特にヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類動物以外にも、非哺乳類脊椎動物、無脊椎動物等も挙げられる。本発明の好ましい一態様において、対象細胞の由来生物種としては、哺乳類、大腸菌、酵母、枯草菌、ゼブラフィッシュ、メダカ、昆虫等が挙げられる。また、細胞の種類としても、特に制限されず、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0068】
本発明のポリペプチドの発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、対象細胞に応じて適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えば例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。その他にも、プロモーターとして、例えばtrcやtac等のトリプトファンプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、アラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター等が挙げられる。
【0069】
本発明のポリペプチドの発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、レポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質等)コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。)を含んでいてもよい。MCSは複数(例えば2~50、好ましくは2~20、より好ましくは2~10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。本発明のポリペプチドが機能性ドメインを含まない場合であれば、該MCSは、任意の機能性ドメインのコード配列を挿入に使用することができる。
【0070】
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0071】
レポータータンパク質としては、特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質である限り特に限定されない。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等が挙げられる。
【0072】
本発明のポリペプチドの発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共にベクターを構成していてもよい。ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター; アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。また、その他にも、ベクターとしては、例えば、大腸菌においてはpBR322誘導体に代表されるColE1系プラスミド、p15Aオリジンを持つpACYC系プラスミド、pSC系プラスミド、Bac系等のF因子由来ミニFプラスミドが挙げられる。
【0073】
本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。
【0074】
(4).細胞
本発明は、その一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含む、細胞(本明細書において、「本発明の細胞」と示すこともある。)に関する。
【0075】
細胞については、「(3)ポリヌクレオチド」で説明した対象細胞と同様である。本発明のポリヌクレオチドは、本発明の細胞のゲノム内に、或いはゲノム外に存在する。
【0076】
(5).試薬
本発明は、その一態様において、本発明の核酸結合因子、本発明のポリヌクレオチド、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、試薬(本明細書において、「本発明の試薬」と示すこともある。)に関する。
【0077】
本発明の試薬は、本発明の核酸結合因子、本発明のポリヌクレオチド、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0078】
本発明の試薬は、キットの形態であってもよい。この場合は、必要に応じて核酸導入試薬、タンパク質導入試薬、緩衝液等、本発明の試薬の使用に必要な他の試薬、器具等を適宜含んでいてもよい。
【0079】
本発明の試薬は、特に本発明の核酸結合因子を外来性核酸(好ましくは、転写制御配列を含む)に結合させるために使用することができる。その他にも、本発明の試薬は、「(2)核酸結合因子」で説明した本発明の核酸結合因子の各種用途に使用することができる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0081】
1.材料と方法
特に断りの無い限り、後述の試験例では以下に示す材料と方法を採用した。
【0082】
1-1.アミノ酸配列、塩基配列
1-1-1.野生型チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼ配列
野生型I-OnuIアミノ酸配列
SRRESINPWILTGFADAEGSFLLRIRNNNKSSVGYSTELGFQITLHNKDKSILENIQSTWKVGVIANSGDNAVSLKVTRFEDLKVIIDHFEKYPLITQKLGDYMLFKQAFCVMENKEHLKINGIKELVRIKAKLNWGLTDELKKAFPEIISKERSLINKNIPNFKWLAGFTSGEGCFFVNLIKSKSKLGVQVQLVFSITQHIKDKNLMNSLITYLGCGYIKEKNKSEFSWLDFVVTKFSDINDKIIPVFQENTLIGVKLEDFEDWCKVAKLIEEKKHLTESGLDEIKKIKLNMNKGRVF(配列番号1)。
【0083】
野生型I-AabMIアミノ酸配列
STSDNNGNIKINPWFLTGFIDGEGCFRISVTKINRAIDWRVQLFFQINLHEKDRALLESIKDYLGVGKIHISGKNLVQYRIQTFDELTILIKHLKEYPLVSKKRADFELFNTAHKLIKNNEHLNKEGINKLVSLKASLNLGLSESLKLAFPNVISATRLTDFTVNIPDPHWLSGFASAEGCFMVGIAKSSASSTGYQVYLTFILTQHVRDENLMKCLVDYFNWGRLARKRNVYEYQVSKFSDVEKLLSFFDKYPILGEKAKDLQDFCSVSDLMKSKTHLTEEGVAKIRKIKEGMNRGR(配列番号2)。
【0084】
野生型I-PanMIアミノ酸配列
STLESKLNPSYISGFVDGEGSFMLTIIKDNKYKLGWRVVCRFVISLHKKDLSLLNKIKEFFDVGNVFLMTKDSAQYRVESLKGLDLIINHFDKYPLITKKQADYKLFKMAHNLIKNKSHLTKEGLLELVAIKAVINNGLNNDLSIAFPGINTILRPDTSLPQILNPFWLSGFVDAEGCFSVVVFKSKTSKLGEAVKLSFILTQSNRDEYLIKSLIEYLGCGNTSLDPRGTIDFKVTNFSSIKDIIVPFFIKYPLKGNKNLDFTDFCEVVRLMENKSHLTKEGLDQIKKIRNRMNTNRK(配列番号3)。
【0085】
野生型I-CpaMIアミノ酸配列
NTSSSFNPWFLTGFSDAECSFSILIQANSKYSTGWRIKPVFAIGLHKKDNELLKRIQSYLGVGKIHIHGKDSIQFRIDSPKELEVIINHFENYPLVTAKQADYTLFKKALDVIKNKEHLSQKGLLKLVGIKASLNLGLNGSLKEAFPNWEELQIDRPSYVNKGIPDPNWISGFASGDSSFNVKISNSPTSLLNKRVQLRFGIGLNIREKALIQYLVAYFDLSDNLKNIYFDLNSARFEVVKFSDITDKIIPFFDKYSIQGKKSQDYQNFKEVADIIKSKNHLTSEGFQEILDIKASMNK(配列番号4)。
【0086】
野生型I-LtrWIアミノ酸配列
MINLKNNIEYLNWYICGLVDAEGSFGVNVVKHATNKTGYAVLTYFELAMNSKDKQLLELIKKTFDLECNIYHNPSDDTLKFKVSNIEQIVNKIIPFFEKYTLFSQKRGDFILFCKVVELIKNKEHLTLNGLMKILSIKAAMNLGLSENLKKEFPGCLSVKRPEFGLSNLNKRWLAGFIEGEACFFVSIYNSPKSKLGKAVQLVFKITQHIRDKILIESIVELLNCGRVEVRKSNEACDFTVTSIKEIENYIIPFFNEYPLIGQKLKNYEDFKLIFDMMKTKDHLTEEGLSKIIEIKNKMNTNRI(配列番号5)。
【0087】
1-1-2.不活性チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼ配列
不活性I-OnuI(E22A)(E178A)アミノ酸配列
SRRESINPWILTGFADAAGSFLLRIRNNNKSSVGYSTELGFQITLHNKDKSILENIQSTWKVGVIANSGDNAVSLKVTRFEDLKVIIDHFEKYPLITQKLGDYMLFKQAFCVMENKEHLKINGIKELVRIKAKLNWGLTDELKKAFPEIISKERSLINKNIPNFKWLAGFTSGAGCFFVNLIKSKSKLGVQVQLVFSITQHIKDKNLMNSLITYLGCGYIKEKNKSEFSWLDFVVTKFSDINDKIIPVFQENTLIGVKLEDFEDWCKVAKLIEEKKHLTESGLDEIKKIKLNMNKGRVF(配列番号6)。
【0088】
不活性I-AabMI(E23A)(E179A)アミノ酸配列
STSDNNGNIKINPWFLTGFIDGAGCFRISVTKINRAIDWRVQLFFQINLHEKDRALLESIKDYLGVGKIHISGKNLVQYRIQTFDELTILIKHLKEYPLVSKKRADFELFNTAHKLIKNNEHLNKEGINKLVSLKASLNLGLSESLKLAFPNVISATRLTDFTVNIPDPHWLSGFASAAGCFMVGIAKSSASSTGYQVYLTFILTQHVRDENLMKCLVDYFNWGRLARKRNVYEYQVSKFSDVEKLLSFFDKYPILGEKAKDLQDFCSVSDLMKSKTHLTEEGVAKIRKIKEGMNRGR(配列番号7)。
【0089】
不活性I-PanMI(E19A)(E176A)アミノ酸配列
STLESKLNPSYISGFVDGAGSFMLTIIKDNKYKLGWRVVCRFVISLHKKDLSLLNKIKEFFDVGNVFLMTKDSAQYRVESLKGLDLIINHFDKYPLITKKQADYKLFKMAHNLIKNKSHLTKEGLLELVAIKAVINNGLNNDLSIAFPGINTILRPDTSLPQILNPFWLSGFVDAAGCFSVVVFKSKTSKLGEAVKLSFILTQSNRDEYLIKSLIEYLGCGNTSLDPRGTIDFKVTNFSSIKDIIVPFFIKYPLKGNKNLDFTDFCEVVRLMENKSHLTKEGLDQIKKIRNRMNTNRK(配列番号8)。
【0090】
不活性I-CpaMI(E18A)(D177A)アミノ酸配列
NTSSSFNPWFLTGFSDAACSFSILIQANSKYSTGWRIKPVFAIGLHKKDNELLKRIQSYLGVGKIHIHGKDSIQFRIDSPKELEVIINHFENYPLVTAKQADYTLFKKALDVIKNKEHLSQKGLLKLVGIKASLNLGLNGSLKEAFPNWEELQIDRPSYVNKGIPDPNWISGFASGASSFNVKISNSPTSLLNKRVQLRFGIGLNIREKALIQYLVAYFDLSDNLKNIYFDLNSARFEVVKFSDITDKIIPFFDKYSIQGKKSQDYQNFKEVADIIKSKNHLTSEGFQEILDIKASMNK(配列番号9)。
【0091】
不活性I-LtrWI(E22A)(E181A)アミノ酸配列
MINLKNNIEYLNWYICGLVDAAGSFGVNVVKHATNKTGYAVLTYFELAMNSKDKQLLELIKKTFDLECNIYHNPSDDTLKFKVSNIEQIVNKIIPFFEKYTLFSQKRGDFILFCKVVELIKNKEHLTLNGLMKILSIKAAMNLGLSENLKKEFPGCLSVKRPEFGLSNLNKRWLAGFIEGAACFFVSIYNSPKSKLGKAVQLVFKITQHIRDKILIESIVELLNCGRVEVRKSNEACDFTVTSIKEIENYIIPFFNEYPLIGQKLKNYEDFKLIFDMMKTKDHLTEEGLSKIIEIKNKMNTNRI(配列番号10)。
【0092】
1-1-3.その他の不活性メガヌクレアーゼ配列
不活性I-SceI(D44N)(D145A)
MKNIKKNQVMNLGPNSKLLKEYKSQLIELNIEQFEAGIGLILGNAYIRSRDEGKTYCMQFEWKNKAYMDHVCLLYDQWVLSPPHKKERVNHLGNLVITWGAQTFKHQAFNKLANLFIVNNKKTIPNNLVENYLTPMSLAYWFMDAGGKWDYNKNSTNKSIVLNTQSFTFEEVEYLVKGLRNKFQLNCYVKINKNKPIIYIDSMSYLIFYNLIKPYLIPQMMYKLPNTISSETFLK(配列番号11)。
【0093】
不活性I-DmoI(D21A)(E117A)
MHNNENVSGISAYLLGLIIGAGGLYKLKYKGNRSEYRVVITQKSENLIKQHIAPLMQFLIDELNVKSKIQIVKGDTRYELRVSSKKLYYYFANMLERIRLFNMREQIAFIKGLYVAAGDKTLKRLRIWNKNKALLEIVSRWLNNLGVRNTIHLDDHRHGVYVLNISLRDRIKFVHTILSSHLNPLPPE(配列番号12)。
【0094】
1-1-4.メガヌクレアーゼの認識配列
I-OnuI認識配列
TTTCCACTTATTCAACCTTTTA(配列番号13)。
【0095】
I-AabMI認識配列
AGGTACCCTTTAAACCTACTAA(配列番号14)。
【0096】
I-PanMI認識配列
GCTCCTCATAATCCTTATCAAG(配列番号15)。
【0097】
I-CpaMI認識配列
TAGCCCACAATATTAAGGCCAT(配列番号16)。
【0098】
I-LtrWI認識配列
AGTAGTGAAGTATGTTATTTAA(配列番号17)。
【0099】
I-SceI認識配列
TAGGGATAACAGGGTAAT(配列番号18)。
【0100】
I-DmoI認識配列
GCCTTGCCGGGTAAGTTCCGGCGCG(配列番号19)。
【0101】
1-1-5.その他の配列
Notchコア配列
GYLPCVGSNPCYNQGTCEPTSENPFYRCLCPAKFNGLLCHILDYSFTGGAGRDIPPPQIEEACELPECQVDAGNKVCNLQCNNHACGWDGGDCSLNFNDPWKNCTQSLQCWKYFSDGHCDSQCNSAGCLFDGFDCQLTEGQCNPLYDQYCKDHFSDGHCDQGCNSAECEWDGLDCAEHVPERLAAGTLVLVVLLPPDQLRNNSFHFLRELSHVLHTNVVFKRDAQGQQMIFPYYGHEEELRKHPIKRSTVGWATSSLLPGTSGGRQRRELDPMDIRGSIVYLEIDNRQCVQSSSQCFQSATDVAAFLGALASLGSLNIPYKIEAVKSEPVEPPLPSQLHLMYVAAAAFVLLFFVGCGVLLSRKRRRQ(配列番号20)。
【0102】
抗CD19抗体由来scFv
DIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDISKYLNWYQQKPDGTVKLLIYHTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPYTFGGGTKLEITGGGGSGGGGSGGGGSEVKLQESGPGLVAPSQSLSVTCTVSGVSLPDYGVSWIRQPPRKGLEWLGVIWGSETTYYNSALKSRLTIIKDNSKSQVFLKMNSLQTDDTAIYYCAKHYYYGGSYAMDYWGQGTSVTVSS(配列番号21)。
【0103】
tTA
MSRLDKSKVINSALELLNEVGIEGLTTRKLAQKLGVEQPTLYWHVKNKRALLDALAIEMLDRHHTHFCPLEGESWQDFLRNNAKSFRCALLSHRDGAKVHLGTRPTEKQYETLENQLAFLCQQGFSLENALYALSAVGHFTLGCVLEDQEHQVAKEERETPTTDSMPPLLRQAIELFDHQGAEPAFLFGLELIICGLEKQLKCESG(配列番号22)。
【0104】
1-2.人工転写因子発現プラスミドの作成
不活性化メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子の遺伝子発現調整能を評価するため、以下に示す人工転写因子を作成した。
図1Aに人工転写因子の例を示す。N末より、HAタグ配列、核移行シグナル(NLS)、不活性メガヌクレアーゼ、転写制御ドメイン、タンパク質分解配列からなる。ここでは、転写制御ドメインに転写活性化ドメイン(VP48)を使用した人工転写因子を作成し、後述の試験例でその転写誘導活性を評価した。
【0105】
人工転写因子は、スタートコドンであるメチオニンに続き、ヒトインフルエンザウイルスのヘマグルチニン由来タグ配列(YPYDVPDYA(配列番号23))、SV40ラージT抗原由来核移行シグナル(PKKKRKV(配列番号24))、合成リンカー配列1(GGGSGGS(配列番号25))、不活性メガヌクレアーゼ配列(配列番号6~12のいずれか)、合成リンカー配列2(SGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号26))、3xヘルペスウイルス由来転写誘導ドメイン(PADALDDFDLDMx3(配列番号27))、マウスオルニチンデカルボキシラーゼ由来タンパク質不安定化配列(HGFPPEVEEQAAGTLPMSCAQESGMDRHPAACASARINV(配列番号28))を制限サイトの挿入によって連結させたタンパク質の遺伝子として合成した。また人工転写因子はN末にコザック配列を付加した状態として、哺乳類細胞用遺伝子発現ベクターpcDNA3のCMVプロモーターの下流に導入した。
【0106】
1-3.不活性化メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子を含むキメラNotch受容体とその遺伝子の発現プラスミドの作成
キメラNotch受容体は、N末からCD8α由来シグナル配列(MALPVTALLLPLALLLHAARP(配列番号29))、c-myc遺伝子由来mycタグ配列(EQKLISEEDL(配列番号30))、抗CD19抗体由来scFv(配列番号21)、Notchコア配列(配列番号20)、不活性I-OnuI配列(配列番号6)、3xヘルペスウイルス由来転写誘導ドメイン(PADALDDFDLDMx3(配列番号27))、マウスオルニチンデカルボキシラーゼ由来タンパク質不安定化配列(HGFPPEVEEQAAGTLPMSCAQESGMDRHPAACASARINV(配列番号28))を制限サイトの挿入によって連結させたタンパク質の遺伝子として合成した。またキメラNotch受容体はN末にコザック配列を付加した状態として、哺乳類細胞用遺伝子発現ベクターpcDNA3のCMVプロモーターの下流に導入した。また、比較対象として、不活性化I-OnuI配列をtTA(TetRに転写誘導ドメインを付加した人工転写因子(配列番号22))に置換したキメラNotch受容体も作成した。
【0107】
1-4.レポータープラスミドの作成
不活性化メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子とこれを組み込んだキメラNotch受容体による転写誘導活性を評価するため、以下に示すレポータープラスミドを作成した。
図1Bにレポーターの例を示す。メガヌクレアーゼのターゲット配列を1つおよび7つ含む配列の下流にCMVミニプロモーターを置き、その下流にレポーター遺伝子を据えることにより、不活性化メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子の結合依存的にレポーター遺伝子が発現される。ここでは、レポーター遺伝子にルシフェラーゼを使用した。
【0108】
メガヌクレアーゼの認識配列(配列番号13~19のいずれか)を1つ及び7つ含む人工エンハンサー領域、CMVミニプロモーター(GGTAGGCGTGTACGGTGGGAGGCCTATATAAGCAGAGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCC(配列番号31))、コザック配列、ヒカリコメツキムシ由来エメラルドルシフェラーゼ(Eluc)、マウスオルニチンデカルボキシラーゼ由来タンパク質不安定化配列(HGFPPEVEEQAAGTLPMSCAQESGMDRHPAACASARINV(配列番号28))、SV40ポリアデニル化シグナルを順に含むプラスミドベクターとして作製した。また、比較対象として、メガヌクレアーゼの認識配列をtetオペレーター配列(TCCCTATCAGTGATAGAGA(配列番号32))に置換したレポータープラスミドも作成した。
【0109】
1-5.細胞培養
実験にはヒト胎児腎由来株化細胞であるHEK293T細胞、ハムスター腎由来株化細胞であるBHK細胞、ヒトリンパ種であるRaji細胞を使用した。HEK293T細胞およびBHK細胞は5%の仔ウシ血清を添加したDMEM(high glucose)を用いて培養し、Raji細胞は10%の仔ウシ血清を添加したRPMI1640培地を用いて培養を行った。また、細胞はCO2濃度5%の条件の下、CO2インキュベーター内で培養を行った。
【0110】
1-6.HEK293T細胞およびBHK細胞への遺伝子導入
HEK293細胞およびBHK細胞への遺伝子導入には、トランスフェクション試薬(リポフェクトアミン2000)を使用した。HEK293T細胞およびBHK細胞は、Nunc F96 MicroWell White Polystyrene Plateに1x10^4 cell/100μL/wellとなるように蒔き、翌日、トランスフェクション試薬を用いて13ngのレポータープラスミド、13ngの人工転写因子発現プラスミド、43ngのキメラNotch受容体発現プラスミドを単独もしくは組み合わせて各wellに添加した。
【0111】
1-7.キメラNotch受容体によるリンパ腫認識能の簡易試験
キメラNotch受容体がリンパ腫を認知してレポーター遺伝子を発現させる能力を調べるためには、キメラNotch受容体とレポーター系を細胞にノックインしなければならない。しかし、ここではキメラNotch受容体の機能を簡便に評価するために、BHK細胞へキメラNotch受容体とレポーター系を一過性に発現させ、その細胞にRaji細胞を接触させる方法を用いた。具体的には、レポータープラスミドとキメラNotch受容体発現プラスミドをBHK細胞に導入した翌日、Raji細胞を1x10^4 cell/100μL/wellとなるように添加した。
【0112】
1-8.レポーター活性の測定
トランスフェクションを行ったHEK293T細胞およびBHK細胞の培地にルシフェリン溶液(最終濃度100μM)とHEPES緩衝液を添加した。その後、ルシフェラーゼによる発光をマイクロプレートリーダー(SH9000Lab、CORONA社製)により測定した。
【0113】
2.試験例
2-1.不活性化メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子によるレポーター遺伝子の転写誘導
HEK293T細胞にメガヌクレアーゼI-AaBMI、I-CpaMI、I-LtrWI、I-OnuI、I-SceIの認識配列を7個持つレポータープラスミドを単独で発現させた場合に対し、それぞれ対応するメガヌクレアーゼの不活性化体からなる人工転写因子の発現プラスミドを共発現させた場合のレポーター転写活性を調べた(
図2)。その結果、メガヌクレアーゼの中でも特に研究が行われており、試薬としても販売されている酵母由来I-SceIを人工転写因子に用い、I-SceIの認識配列をレポーターに用いたI-SceI系では140倍の転写誘導活性が得られた。一方、チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼI-AaBMIを人工転写因子に用い、I-AaBMIの認識配列をレポーターに用いたI-AaBMI系では1140倍の転写誘導活性が得られ、同チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼI-CpaMIを人工転写因子に用い、I-CpaMIの認識配列をレポーターに用いたI-CpaMI系では256倍、同チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼI-LtrWIIを人工転写因子に用い、I-LtrWIの認識配列をレポーターに用いたI-LtrWI系では278倍、チャワンタケ亜門由来メガヌクレアーゼI-OnuIを人工転写因子に用い、I-OnuIの認識配列をレポーターに用いたI-OnuI系では、1410倍の転写誘導活性が得られた。また、I-SceIと同様に多くの研究が行われている古細菌由来メガヌクレアーゼI-DmoIを人工転写因子に用い、I-DmoIの認識配列をレポーターに用いたI-DmoI系では、転写誘導活性が全く確認できなかった(
図3)。これらの結果から、チャワンタケ亜門由来のメガヌクレアーゼを核酸結合因子として、特に人工転写因子に応用する方法が特に有用であると考えられた。
【0114】
次に、不活性メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子が、その認識配列を1つしか持たないレポーターにおいても転写誘導活性を持ち得るのかを確認した。具体的には、HEK293T細胞にメガヌクレアーゼI-OnuI、I-PanMI、I-SceIの認識配列を1つ持つレポータープラスミドを単独で発現させた場合に対し、それぞれ対応するメガヌクレアーゼの不活性化体からなる人工転写因子の発現プラスミドを共発現させた場合のレポーター転写活性を調べた(
図4)。その結果、I-OnuI系では、7.1倍、I-PanMI系では、7.7倍の誘導活性が確認できた。これらより、メガヌクレアーゼを用いた人工転写因子は認識配列を1つしか持たないレポーターにおいても転写誘導活性を持つこと、またPanMI系もI-OnuI系と同程度の転写活性を持つことが確認できた。
【0115】
2-2.不活性化メガヌクレアーゼを人工転写因子として含むキメラNotch受容体によるリンパ腫認識能の評価
Notch受容体を改変することにより、リンパ腫を特異的に認識して、任意の遺伝子の発現を誘導できるキメラNotch受容体を作成することができる(特表2018-506293)。キメラNotch受容体をT細胞へノックインすることにより、癌細胞をより正確に認識し、攻撃できるキメラ抗原受容体発現T細胞を作成できることが動物実験で確かめられているため、リンパ腫の治療をより安全に実施できると期待できる(PMID:27693353)。
【0116】
このキメラNotch受容体は主に、抗CD19抗体由来scFv、膜貫通ドメインを含むNotch受容体由来ポリペプチド、テトラサイクリン応答リプレッサー由来人工転写因子(tTA)からなる一回膜貫通型タンパク質であり、抗CD19抗体由来scFvがCD19に結合すると、Notch受容体由来ポリペプチドが切断され、最終的にtTAが膜から切り離されて核に移行する(PMID:26830878)。核に移行したtTAはtetオペレーター配列に結合し、その下流に据えた遺伝子の発現を誘導する。ここでは、tTAの代わりに不活性I-OnuIを人工転写因子として内包するキメラNotch受容体を作成し、リンパ腫を認識してた際のレポーター遺伝子の発現誘導能が既存のキメラNotch受容体に対して高いことを以下の実験で確認した。
【0117】
具体的には、人工転写因子tTAとtetオペレーターをレポーターに使用したTetR系では、リンパ腫細胞(Raji細胞)の添加により、レポーターの発現量が約1.3倍になったが、人工転写因子とレポーターにI-OnuI系を用いた場合は、レポーターの発現量が2.1倍になった(
図5)。なお、この実験に用いたTetR系のキメラNotch受容体とレポーター系をノックインした細胞において、リンパ腫細胞(Raji細胞)の添加により、レポーターの転写活性が15倍以上になることから、TetR系がそれをノックインした細胞において十分働くことを確認している。そのため、TetR系の代わりにI-OnuI系を使用することにより、より高活性のキメラNotch受容体が作成可能になり、より高活性のキメラ抗原受容体T細胞を作成できると考えられた。
【配列表】