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特許7249621熱放射性に優れたアルミニウム金属材料、その製造方法、及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】熱放射性に優れたアルミニウム金属材料、その製造方法、及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20230324BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20230324BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20230324BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20230324BHJP
   H05K 7/20 20060101ALN20230324BHJP
【FI】
C25D11/04 302
C25D11/12 Z
C25D11/06 C
C25D11/18 A
C25D11/04 101B
C25D11/04 101A
C25D11/04 101C
C25D11/04 101F
C25D11/04 101H
C25D11/04 308
H05K7/20 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018220741
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020076141
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】595179549
【氏名又は名称】株式会社アート1
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】田中 成憲
(72)【発明者】
【氏名】秋本 政弘
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-145797(JP,A)
【文献】特開2010-162776(JP,A)
【文献】特開2010-080364(JP,A)
【文献】特開2013-234363(JP,A)
【文献】特開2008-038237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00- 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が3~6μmの範囲の中赤外線領域において、材料の測定温度を100℃として測定したときの全放射率が0.92以上であり、表面に多孔質の第1の陽極酸化皮膜、及び前記第1の陽極酸化皮膜の下に前記第1の陽極酸化皮膜よりも小さい微細孔を有する第2の陽極酸化皮膜を有する積層型陽極酸化皮膜を有し、添加物としてのマンガンもしくは珪素の含有量が1.0%未満であるアルミニウムからなることを特徴とする、前記材料。
【請求項2】
前記材料の測定温度を100℃として測定したときの全放射率が、波長が3~6μmの範囲の中赤外線領域において0.92以上であり、波長が3~25μmの範囲の中~遠赤外線領域において、0.90以上であることを特徴とする、請求項1に記載の前記材料。
【請求項3】
前記積層型陽極酸化皮膜は、深さ方向に複数層より成立つ積層型の厚さが10~150μmの多孔質層であり、前記第1の陽極酸化皮膜が5μm以上の厚さであることを特徴とする請求項1又は2に記載の前記材料。
【請求項4】
前記積層型陽極酸化皮膜は、深さ方向に複数層より成立つ積層型の厚さが15~65μmの多孔質層であり、前記第1の陽極酸化皮膜の厚さが5~20μmであり、前記第2の陽極酸化皮膜は、厚さが10~60μmであり、前記積層型陽極酸化皮膜が、黒系もしくは青味系~黒色を有することを特徴とする、請求項1又は2の前記材料。
【請求項5】
前記積層型陽極酸化皮膜は、深さ方向に複数層より成立つ積層型の厚さが25~65μmの皮膜多孔質層であり、前記第1の陽極酸化皮膜の厚さが5~20μmであり、前記第2の陽極酸化皮膜は厚さが20~60μmであり、前記積層型陽極酸化皮膜が、青味~黒系を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の前記材料。
【請求項6】
マンガンもしくは珪素の含有量が1.0%未満であるアルミニウムの陽極酸化処理であって、
表面側より第1層の陽極酸化皮膜として燐酸系化合物を含む電解液を用いて孔径が大きい多孔質微細孔を有する第1の陽極酸化皮膜を形成する第1段目処理と、
その後に、第2層以降の陽極酸化皮膜として燐酸系化合物を含まない電解液を用いて前記第1の陽極酸化皮膜より孔径の小さい第2の陽極酸化皮膜を形成して微細孔径の異なる多孔質層を形成する第2段目処理と
を含む多段階陽極酸化処理を行うことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載のアルミニウムからなる材料の製造方法。
【請求項7】
前記第一段目処理後または第二段目以降の処理後に形成された陽極酸化皮膜にポワーワイド処理して微細孔径を大きくした多孔質層とする工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記多段階陽極酸化処理は、直流波形、交直重畳波形、パルス波形、PR波形の単独又は2つ以上の組合せた波形を用い、電流密度0.3~10A/dm、液温-10~60℃で、無機酸、有機酸の単独又は2つ以上の組み合わせた電解液を用いて、表面側の前記第1の陽極酸化皮膜の平均微細孔径が2層目以降の平均微細孔径より大きい積層型陽極酸化皮膜を形成し、前記積層型陽極酸化皮膜の厚さが10~150μmであることを特徴とする、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5に記載する前記材料を、作動時に発熱を生じる電子部材を用いた電子製品の放熱用部材もしくはハウジングとして用いることを特徴とする前記材料の使用方法。
【請求項10】
作動時に発熱を生じる電子部材と直接もしくは空気層またはその他の媒体を介して接触する状態で使用することを特徴とする、請求項9に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱放射性に優れたアルミニウム金属材料、その製造方法、およびその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パソコン、スマートフォン、など各種小型電子機器にはCPU作動時に発熱を伴う電子部品が実装された回路基板などを内蔵しており、この発熱によって色々な誤作動は生じることがあるので放熱板などを適宜に設置してこの誤作動を防ぐ処置がとられている。
【0003】
従来の放熱材料としてはアルミ板、銅板などの熱伝導度のよい金属製の放熱シートが多用されているが、これらは全て発熱が生じるいわゆる熱源と直接接触する状態で使用されており、熱源と放熱材料の間に空気が介在するような用途にはあまり使用されていない。これは従来の材料が熱伝導度は良好であるが熱源によって暖められた空気からの熱の吸収率が低く、同時に吸収した熱の放射率が低いので、特に小型化した電子機器における高度に集積された電子部品の筐体として発熱を効率よく放射するすぐれた熱放射性の材料開発が望まれている。
【0004】
従来から熱放射性の優れた材料の開発は殆どなされておらず、例えば従来からのアルミや銅、或いは炭素繊維などについてその放熱効率を良くするために放熱板の構造や設置場所などについて多くの工夫がなされているのが現状である。
【0005】
アルミニウム材料などの放射率が比較的に低い理由はこれらの反射率が大きいからである。しかしこれらを陽極酸化処理して得られたアルマイト製品はこの処理をしてないアルミニウム製品に比べて放射率が大きい。ここで放射率と吸収率の関係を見るとキルヒホフの法則より、流入する熱の総和は流出する熱の総和に等しい、つまり吸収率=放射率の関係にあり、また金属のような光を透過しない材料では放射率と反射率の関係が「放射率+反射率=1」の関係にある。この関係を陽極酸化処理皮膜に適用すると、表面に多孔質皮膜が形成されることで反射率が低下し、その結果放射率が大きくなることになる。遠赤外線領域においての放射率は、陽極酸化処理方法によっても異なるが、0.7~0.8程度を示し、比較的良好な熱放射性を示す。しかし熱源領域の凡そ20%程度を占める3~6μmの中赤外線領域における放射率は0.2~0.6程度と非常に低いので、この波長領域における熱放射性の改善が出来ればアルミニウム板の熱放射性材料としての有用性が大いに高まる事になる。これに関しては特殊な、マンガン固容量の大きい連続鋳造されたアルミニウム合金を基材とすることで比較的低波長側の赤外線領域における放射率を向上させたアルマイト皮膜を形成して熱伝導性に優れた高効率遠赤外線放射アルミニウム機能材が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】軽金属 VOL.50、No.11、 (2000)、pp.598-602
【0007】
前記の文献1に記載のアルミニウム機能材はマンガンを1.8%含む極めて特殊なアルミニウム金属で、且つ鋳造材を材料としている。この場合の鋳造材は連続鋳造材で、鋳造材を再度板状にするためにロール機に通す特殊な手法で作られる材料で、通常では簡単に手に入らない合金材料である。また、マンガンを含有するアルミニウム合金でもその含有量が最大で1.5%程度のものが一般品であり、1.8~2.0%のマンガンを含むアルミニウム合金は汎用品には無く、特殊合金として特別注文しなければ入手することが出来ないもので、価格も高くなる。また、マンガンを1.8~2%程度含有する合金の場合、陽極酸化処理後の表層にはAl-Mnの合金が析出・残存するため全体としての熱伝導率が低下する傾向にある。一方、マンガンを1%未満程度までの実質的にこれを含まないアルミニウム材料は例えば純アルミニウム展伸材として広く利用されており、市場から容易に安価に入手できる利点がある。
【0008】
市販品として容易に入手可能な汎用品であるアルミニウム展伸材料を従来一般に行なわれてきた陽極酸化処理では得られない性能の放射率を持つアルミニウム又はその合金材料が得られるならば、産業上極めて有意義である。本発明では陽極酸化皮膜に形成された細孔の孔径を最外層部分とその下部に存在する部分で異なる孔径とし、且つ両者の細孔の密度を変えることにより熱放射性が向上した材料とすることができることを見出し、本発明に到ることが出来た。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来から使用されているアルミニウム板の放射率を改善し、小型化した電子機器の筐体として用いた場合においても効率よく熱除去できる材料の提供とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、波長が3~6μmの範囲の中赤外線領域において、材料の測定温度を100℃として測定したときの全放射率が0.92以上であり、表面に多孔質の第1の陽極酸化皮膜、及び前記第1の陽極酸化皮膜の下に前記第1の陽極酸化皮膜よりも小さい微細孔を有する第2の陽極酸化皮膜を有する積層型陽極酸化皮膜を有し、添加物としてのマンガンもしくは珪素の含有量が1.0%未満であるアルミニウムからなることを特徴とする、材料である。
【0011】
また本発明は、前記材料の測定温度を100℃として測定したときの全放射率が、波長が3~6μmの範囲の中赤外線領域において0.92以上であり、波長が3~25μmの範囲の中~遠赤外線領域において、0.90以上であることを特徴とする、請求項1に記載の材料である。
【0012】
本発明の材料の表面の前記積層型陽極酸化皮膜は、深さ方向に複数層より成立つ積層型の厚さが10~150μmの多孔質層であり、前記第1の陽極酸化皮膜が5μm以上の厚さである。積層型の陽極酸化皮膜においては第1層の厚さが5μm未満のときは中赤外線領域における放射率を0.92以上とすることが難しい。
【0013】
本発明の前記積層型陽極酸化皮膜は、深さ方向に複数層より成立つ積層型の厚さが15~65μmの多孔質層であり、前記第1の陽極酸化皮膜の厚さが5~20μmであり、前記第2の陽極酸化皮膜は、厚さが10~60μmであり、前記積層型陽極酸化皮膜が、黒系もしくは青味系~黒色を有する
【0014】
本発明はまた、前記積層型陽極酸化皮膜は、深さ方向に複数層より成立つ積層型の厚さが25~65μmの皮膜多孔質層であり、前記第1の陽極酸化皮膜の厚さが5~20μmであり、前記第2の陽極酸化皮膜は厚さが20~60μmであり、前記積層型陽極酸化皮膜が、青味~黒系を有する。第二層以降の層の色調を黒系にした場合には全体として青味がかった色調に見えることがある。
【0015】
赤外線の領域範囲をその波長で定める場合に色々な協会、団体によって多少の定義の差があるが、本発明では3~6μmの範囲を中赤外線とし、これよりの短波長の0.7~3μmは近赤外線、長波長の6~25μmを遠赤外線領域と呼ぶことにする。したがって、3~25μmの赤外線波長領域を中~遠赤外線領域と称している。アルマイト製品の中赤外線領域の全放射率は0.2~0.6程度であまり高くない。しかし産業界において工業的に利用されている暗視カメラ、透視カメラ、暖房器具、集積回路などにおいて発生する赤外線はこの領域の中赤外線が多く、この分野の熱吸収、熱放射に優れた材料の汎用材料からの開発が望まれているが、本発明の材料はこの要望を満足するものである。
【0016】
本発明で定義される熱放射率は、被測定物質の測定温度を100℃として測定したとき数値であるが、測定温度を100℃とした理由は、被測定物の温度を40~150℃として被測定物からの熱放射による放出エネルギーを測定すると、40~80℃での物質から発せられる熱放射による放出エネルギーは小さくこれを測定するための感度を上げると、周囲の環境を取り巻く放射物、例えば、測定器自体の電源、半導体からの熱源、人間等からの環境放射による放出エネルギーと区別しにくく、再現性が不確実になる。又100℃では、環境放射による放出エネルギーの影響が小さく、特に3μm以下の赤外線では環境不安定になるが、3μm以上では安定し再現性が可能である。150℃としたときの被測定物よりの熱放射による放出エネルギーが大きく、安定、再現性はあるが放射率が高くなる。上記より、赤外線を利用する機器類の使用環境に最も近い温度で、且つ安定した測定結果から100℃が最適測定温度であると判明した。設定温度を200℃、250℃のように高くすると被測定物質よりの熱放射が上がりより安定した測定結果を得られやすいが、中赤外線領域においては全放射率が高い数値となる傾向が見られ、100℃測定で中赤外線領域の全放射率が0.92以上となる様なアルミニウム材料はまだ開発されていない。
【0017】
本発明はまた、被測定物質の測定温度を100℃として測定したときの全放射率が、波長が3~6μmの範囲の中赤外線領域において0.92以上、好ましくは0.93以上であり、波長が3~25μmの範囲の中~遠赤外線領域において、0.90以上、好ましくは0.92以上で、表面に積層型の多孔質層からなる陽極酸化皮膜を有している熱放射性に優れたアルミニウムまたはその合金の展伸材からなる放熱材料である。
【0018】
本発明の製造方法は、マンガンもしくは珪素の含有量が1.0%未満であるアルミニウム陽極酸化処理であって、表面側より第1層の陽極酸化皮膜として燐酸系化合物を含む無機酸及び有機酸を含む電解液を用いて孔径が大きい多孔質微細孔を有する第1の陽極酸化物皮膜を形成する第1段目処理と、その後に、第2層以降の陽極酸化皮膜として燐酸系化合物を含まない電解液を用いて前記第1の陽極酸化皮膜より孔径の小さい第2以降の陽極酸皮膜を形成して微細孔径の異なる多孔質層を形成する第2段目以降の処理とを含む多段階陽極酸化処理を行うことを特徴とする。陽極酸化処理でえられる皮膜の厚さが厚くなるに従い熱放射率は上昇する傾向にあるが、皮膜厚さを向上させるには長時間の電解処理が必要であって、作業上非効率である上に、長時間の陽極酸化処理は一旦生成した皮膜が溶解されてしまう傾向があり、厚さを無制限に厚くすることは出来ない。本発明では特定の積層型多孔質層とすることにより、通常の厚さの陽極酸化皮膜によっても著しく熱放射率を向上させることが出来たものである。
【0019】
本発明の放熱材料製造の際には、アルミニウムまたはその合金の陽極酸化処理において、表面側より第一層の陽極酸化皮膜として燐酸系を含む無機酸系及び/または有機酸系の電解液、特に硫酸系、スルファミン酸系、芳香族、脂肪族のカルボン酸系、スルホン酸系又はその化合物の単独あるいは混合物から成り立つ電解液を用いて第一段目の陽極酸化処理をして孔径が大きい多孔質微細孔の層を形成し、第二段目以降の陽極酸化処理は燐酸系化合物を含まない第一段目と同じか又は異なる有機酸及び/または無機酸系の電解液、好ましくは硫酸系、スルファミン酸系、芳香族、脂肪族のスルホン酸系、カルボン酸系又はその化合物の単独または混合物の電解液を用いて第一層より孔径の小さい多孔質層を形成することからなる多段階陽極酸化処理を行うことによって製造することが出来る。
【0020】
また本発明においては表面側より第一層の陽極酸化皮膜を陽極酸化処理で形成後にポワーワイド処理を行い多孔質層の微細孔径を大きくし、次いで第二層以降の陽極酸化皮膜は無機酸及び/または有機酸系の電解液を用いる多段階陽極酸化処理を行うことによって製造することが出来る。また、多段陽極酸化処理によって積層型陽極酸化皮膜を形成後にポアーワイド処理を行って本発明の熱放射性に優れた材料を製造することも出来る。ポアーワイド処理の方法は知られているが、電解液と時間と温度のコントロールが必要となり、ポワーワイドに使用される電解液の溶解度により異なり、時間は5~40分、温度は10~40℃で温度と時間の関係が微妙で、ポワーワイドが少な目では規定の放射率92%以上が得られず、長すぎると皮膜の溶解につながり、陽極酸化皮膜としての性能が保たれていない。
【0021】
このような陽極酸化処理で用いられる電源は、従来陽極酸化処理において一般的に用いられている直流波形だけでなく、交直重畳波形、パルス波形、PR波形の単独又は2つ以上の組合せた電源を用いることで本発明の熱放射性に優れたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる放熱材料を効率良く製造できる。その時の電流密度は0.8~10A/dm、液温-10~60℃で電解処理し、皮膜厚さは15~65μmを形成することが出来る。
【0022】
好ましい電源は、直流電源、交直重畳電源、パルス電源、PR電源などである。PR波形電源を用いる電解法では、3.3msで1パルスを造り、プラス(+)側、休止、マイナス(-)側、休止で1サイクルという特殊な電源で、プラス側の電流密度を1.5~3A/dm、10~40パルス-休止3パルス、マイナス側を0.3~1.5A/dm、3~8パルス-休止3パルス、で1サイクルとして電解を行う。液温は5~30℃、時間は所望する皮膜厚さにより制御する。好ましい電解条件はプラス側2.2±0.5/dm2、20パルス-休止3パルス、マイナス側を0.5±0.2/dm、5パルス-休止3パルスを1サイクルとすることが好ましい。液温は20±5℃が良好な皮膜が形成される。
【0023】
放射率の測定は被測定物を100℃に加熱し、その時の熱放射を3~25μmの各波長において計測し、黒体を1(光を全て吸収してしまう数値、%で表示の場合は100%となる。)とした時の各波長における被測定物の熱放射の割合を表したものである。したがって、本発明における放射率0.92以上は、92%以上と同じ意味となる。そして全放射率は3から6μmの中赤外線領域、或いは3から25μmの範囲の中~遠赤外線領域における積分値を黒体の場合と比較した熱放射の割合を示したものである。なお、放射率+反射率=1という関係にあるので、放射率が高いということは反射率が低いということである。すなわち赤外線の反射が少ないことは放射率=吸収率であるので吸収が良いことを示し、熱源からの熱吸収が良いということは放熱性が良いことを意味する事になる。
【0024】
本発明に用いられるアルミニウム金属材料は、陽極酸化処理によって得られるが、通常行われているアルマイト処理とは異なる方法が必要である。通常のアルマイト処理は硫酸系の無機酸液での電解処理が多いが、これだけでは本発明のような熱放射性性能を有する材料を得ることが出来ない。多く第一段階は燐酸系陽極酸化処理で酸系、スルファミン酸系、芳香族、脂肪族のカルボン酸系、スルホン酸系又はその化合物の単独あるいは混合物の電解液を用いて細孔の大きな多孔質層を形成し、次いで第二段階以降の陽極酸化処理で好ましくは有機酸系の電解液として芳香族、脂肪族のカルボン酸系、スルホン酸系又はその化合物の単独あるいは混合物を用いて電解することにより第一層より小さい細孔を形成することで本発明の材料の性能を発現することが可能となる。
【0025】
本発明の放熱材料における陽極酸化皮膜の厚さは10~150μmであるが、特に好ましい範囲は15~65μmである。皮膜厚さが薄すぎると素材の影響を受けやすく反射が勝る傾向になり熱放射率も低くなる。厚くなりすぎると皮膜厚さにむらが出やすくなるし電解処理の時間も長くなるので「焼け」と称する皮膜の一部溶解現象が生じ、寸法安定性がなく、クラックの発生も多くなり、外観上にも欠点が生じてくる。また電気代などの点でもコストアップになりやすい。
【0026】
本発明で第一段目で好ましく用いられるリン酸系の電解液は、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸とアルカリ又はアルカリ土類金属のリン酸塩などであり、そのほかに硫酸系、スルファミン酸系、芳香族、脂肪族のスルホン酸系、カルボン酸系又はその化合物の単独または混合物、例えば、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、マレイン酸、クエン酸、スルファミン酸、コハク酸、スルホサリチル酸、スルホフタル酸、フェノールスルホン酸の化合物の単独または混合物の電解液より成り立ち、特に好ましいのはリン酸、メタリン酸、硫酸、シュウ酸、マロン酸、スルホサリチル酸がある。第二段目以降で好ましく用いる有機酸系の電解液は硫酸系、スルファミン酸系、芳香族、脂肪族のスルホン酸系、カルボン酸系又はその化合物の単独または混合物、例えば、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、マレイン酸、クエン酸、スルホン酸、コハク酸、スルホサリチル酸、スルホフタル酸、フェノールスルホン酸の化合物の単独または混合物の電解液より成り立ち、特に好ましいのは硫酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、スルホサリチル酸がある。
【0027】
陽極酸化処理の際に用いられている各種の皮膜形成安定剤を単独又は混合して用いても良い。特に無機化合物と有機化合物を組み合わせて使用するときは液管理が容易となり好ましい。この安定剤の添加量は電解液中、0.01~5モル/リットルの範囲が好ましい。
【0028】
本発明で陽極酸化に処するアルミニウム金属材料はマンガン又はケイ素が1.0未満を含有する汎用のアルミニウム又はその合金の展伸材に広範囲に適用可能で、特に添加金属の少ない純アルミニウム系材料が好ましく用いられる。
【0029】
本発明で陽極酸化皮膜後の材料の表面粗さについて、電解前の段階で表面に必要によっては凹凸をつけた後に電解処理を行う。この時材料を凹凸にする手法として機械的前処理法と化学的前処理があり、機械的前処理法にはホーニング、サンドブラスト、液体ホーニング、バフ研磨、バレル研磨、化学的前処理法には、エッチング、化学梨地、食刻、化学研磨、電解研磨等がありこれらを単独又は組み合わせることにより電解後の陽極酸化皮膜の面粗さを、算術平均粗さRaを0.5以上~5.0未満になるように前処理で調整し、好ましくは0.8~4.0の範囲にするのがよい。
【0030】
本発明の放熱材料は特に従来の放熱板の主用途である熱源と直接接触して熱を外部に放出する用途にも勿論用いられるが、熱源から発生した熱が一旦空気中に移り、この熱が外気に放出されにくい環境、つまり閉鎖された空間、例えば空気中にこもった熱を吸収し、且つこれを外部に速やかに放射することが望ましい用途、具体的には筐体、ハウジング、などの用途に特に適している。
【発明の効果】
【0031】
本発明の放射性に優れたアルミニウム又はその合金の材料は、市販の汎用材料を特に制御された二段階の陽極酸化処理をすることによって容易に得ることが出来るもので、産業界において広く利用されている暗視カメラ、透視カメラ、暖房器具、集積回路などにおいて発生する特に中波長赤外線による熱の籠もりを速やかに吸収、放熱除去することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。本発明の製品の製法及びその放射率のデータと共に、従来良く知られている一般的な陽極酸化で得られたアルマイト製品の放射率に関するデータを比較例として記載する。尚、以下の実施例において放射率は%で示すことにする。
【実施例1】
【0033】
アルミニウムA1050材(Si-0.25%、Mn-0.05%、Fe-0.4%)(50×100×t1.0)に陽極酸化皮膜を作成するための前処理として、エマルション脱脂・45℃×5分-5%硝酸・室温×3分-エッチング20%水酸化ナトリウム・室温×1分-脱スマット・10%硝酸・室温×3分を行った。陽極酸化皮膜の作成を積層型の2段階電解法で行なった。第一電解処理としてリン酸0.6mol/L,液温35℃、直流波形の定電圧方式で最大電圧60V、40分電解した。第二電解処理としてマロン酸1.0mol/L+シュウ酸0.1mol/L+マレイン酸0.05mol/L+硫酸0.05mol/L+EDTA0.005mol/Lの混合液で、液温20℃、直流波形、定電圧方式で最大電圧80V、電流密度1.0~1.4A/dm 、電解時間75分行なった。この結果、皮膜の色調が濃い青味で、渦電流式平均皮膜厚さは39μmで、断面平均硬さはHV440で、断面平均皮膜厚さは第1層8μm、第2層30μmであった。中赤外線領域の全放射率は92.8%であった。なお、表面からの皮膜厚さは(株)ケット科学研究所社製渦電流膜厚計(LH-373)で計測し、断面皮膜厚さは、光学顕微鏡にて断面測定法を行い、断面平均硬さは(株)島津製作所社製の微小硬度計(HMV-G-XY-D)にて測定した。断面平均皮膜硬さは荷重50gfで15秒行った放射率測定器として(株)島津製作所製の分光放射率測定システム(IRTracer-100)にて被測定物を100℃とし、黒体の放射率を100%(1.00)としたときの中赤外線波長3~6μmにおける全放射率である。
【比較例1】
【0034】
材料、前処理及び皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、電解方法を積層型の電解を行わず、実施例1の第一電解処理をリン酸電解法の条件で行った。結果は乳白色皮膜で、渦電流式平均皮膜厚さは10μm、断面硬さはHV150前後で軟らかく、中赤外線領域での全放射率は7.4%であった。
【比較例2】
【0035】
材料、前処理及び皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、電解方法を積層型とし、実施例1の第一電解処理の電解液と同じにし、電解条件を変えて最大電解電圧を35V、5分間の処理とし、その他液温35℃、電源は直流波形の定電圧方式で行い、第一層の皮膜厚さを極薄く作成した。第二電解処理は実施例2と同じにした結果、皮膜の色調は濃い青で、皮膜厚さは渦電流式平均皮膜厚さ32μmで、断面平均皮膜厚さは第1層2~3μm、第2層が29μmであり、断面平均硬さはHV440であり、中赤外線領域での全放射率は71.6%であった。
【実施例2】
【0036】
実施例1のワーク(試験材料)に関し、3~25μmの中~遠赤外線領域の範囲について実施例1に記載条件と同一で放射率を測定した。3~6μmの中赤外線領域では前記したとおり92.8%で、3~25μmの中~遠赤外線領域での全放射率は95.3%であった。
【比較例3】
【0037】
比較例2で処理したワーク(試験材料)に関し、3~25μmの中赤外線領域から遠赤外線領域の範囲で同条件にて放射率を測定した。3~6μmの中赤外線領域では前記したとおり71.6%で、3~25μmの中~遠赤外線領域での全放射率は89.3%であった。
【実施例3】
【0038】
材料、前処理及び皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、実施例1の積層型二段階陽極酸化法の第一段の処理法を変え、第二段目の処理は同じに行った。第一電解処理液はリン酸0.6mol/L+マレイン酸0.02mol/L+硫酸0.01mol/Lとし、液温30℃、直流波形の定電圧方式で最大電圧60V、30分電解した。結果は、皮膜の色調は青黒系で、渦電流式平均皮膜厚さは41μmで、断面平均硬さはHV440で、断面平均皮膜厚さは第1層の10μm、第2層の30μmであった。3~6μmの中赤外線領域の全放射率は92.0%、3~25μmの中~遠赤外線領域では94.8%であった。
【比較例4】
【0039】
材料、前処理及び皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、実施例3の積層型二段階陽極酸化を変え、第一段の処理だけを行い、第二段目の処理は行わなかった。結果は、渦電流式平均皮膜厚さは10μmで、平均断面硬さはHV240であった。3~6μmの中赤外線領域の全放射率は13.7%、3~25μmの中~遠赤外線領域では31.8%であった。
【実施例4】
【0040】
材料、前処理、第一電解処理及びその条件、皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、第二段目の処理は電解液組成を同一とし、電解条件としてPR法の電源を用い、プラス側電流密度を2.0A/dm、マイナス側の電流密度を0.5A/dm、プラス側最大電圧70V、マイナス側最大電圧-15Vで、1パルスを3.3msとし、プラス側を20パルス、マイナス側を3パルスとし、極性が変わるときに3パルス分の休止時間を入れ、これを1サイクルとして、液温20℃、電解時間70分処理した結果、皮膜の色調は濃いブルー系で、渦電流式平均皮膜厚さは25μmで、断面平均硬さはHV480で、断面平均皮膜厚さは第1層の7μm、第2層の17μmであった。3~6μmの中赤外線領域の全放射率は92.6%、3~25μmの中~遠赤外線領域では93.8%であった。
【比較例5】
【0041】
材料、前処理及び皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、陽極酸化方法は積層型ではなく、実施例1の第一電解処理のみを、硫酸液、交流電源、定電流電解法で行った。条件は硫酸15wt%、20℃、2A/dm2で、交流波形の周波数を10、50、100、500、1000Hzとし、各々60分処理した。各測定値を表1に示す。交流波形での電解処理では本発明の材料を得ることが出来なかった。
【0042】
【表1】
【実施例5】
【0043】
材料、前処理、皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、実施例1の第二段目陽極酸化の電解液及び電解条件を同一とし、第一段目の電解処理液をメタリン酸4wt%、液温35℃、直流波形の定電圧方式で最大電圧90V、30分電解処理し、その後に第二段陽極酸化処理を行った。結果、皮膜の色調は濃い青で、渦電流式平均皮膜厚さは27μmで、平均断面硬さはHV480で、断面平均皮膜厚さは第1層の7μm、第2層の20μmであった。3~6μmの中赤外線領域の全放射率は94.1%、3~25μmの中~遠赤外線領域では95.3%であった。
【実施例6】
【0044】
材料、前処理、皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、実施例1の多段階電解処理による積層型皮膜を生成後に、15%硫酸を用い、液温25℃、15分浸漬してポアーワイド処理した。結果得られた皮膜の色調は濃い青で、渦電流式平均皮膜厚さは34μmで、平均断面硬さはHV403で、断面平均皮膜厚さは第1層の6μm、第2層の27μmであった。3~6μmの中赤外線領域の全放射率は93.3%、3~25μmの中~遠赤外線領域では95.0%であった。
【実施例7】
【0045】
材料、前処理、皮膜厚さ、硬度の測定法は実施例1と同様に行い、実施例1の第一段目陽極酸化処理後に電解を止めて第1段目の液中に8分放置した後よく水洗し、第二段階電解と同じ処理を行った。結果得られた皮膜の色調は沈んだ濃い青系の色で、渦電流式平均皮膜厚さは35μmで、平均断面硬さはHV430で、断面平均皮膜厚さは第1層の7μm、第2層の28μmであった。3~6μmの中赤外線領域の全放射率は94.8%、3~25μmの中~遠赤外線領域では96.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
赤外線を用いる機器等には暗視カメラ、電子レンジ、TVのリモコン等沢山あるが、本発明の材料は半導体が使用されている機器の筐体を目的として開発されたものである。近年半導体の実装密度が急速に上がってきており、そのための放熱材の開発が遅れていることがあり、また発熱体に直接接続、接着させて放熱する方式が多く、閉鎖領域で外に放熱する方式が進んでいない。特に近年のモバイル関連半導体機器では熱が筐体内部にこもり、連続して利用できないことがある。本発明の材料は筐体内の熱を外に逃がす目的に特に適したものであり、使用分野として電子機器筐体、モバイル筐体、スマホ等移動型電子機器の筐体として有用のものである。