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特許7249629リチウム空気電池用空気極、リチウム空気電池、及びリチウム空気電池用空気極の製造方法
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  • 特許-リチウム空気電池用空気極、リチウム空気電池、及びリチウム空気電池用空気極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】リチウム空気電池用空気極、リチウム空気電池、及びリチウム空気電池用空気極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230324BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20230324BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230324BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M4/90 X
H01M12/08 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019044897
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020149819
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、独立行政法人科学技術振興機構、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)(特別重点技術領域「次世代蓄電池」、研究開発課題「新原理に基づく金属負極を有する高性能新電池の創製」)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】397038037
【氏名又は名称】学校法人成蹊学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 守弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼向 保彦
(72)【発明者】
【氏名】林 義哉
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500751(JP,A)
【文献】特開2018-056126(JP,A)
【文献】特開2017-022096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiNO 、NaNO 、KNO 、RbNO 、CsNO 、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、及びCsIからなる群より選択される少なくとも1つの酸化還元媒介体を含み、前記少なくとも1つの酸化還元媒介体が-40~80℃においてリチウム空気電池用空気極に固体の状態で存在する、リチウム空気電池用空気極。
【請求項2】
前記少なくとも1つの酸化還元媒介体を含む触媒層を含み、前記触媒層に対する前記少なくとも1つの酸化還元媒介体の含有率は、5質量%~80質量%である、請求項1に記載のリチウム空気電池用空気極。
【請求項3】
選択される前記少なくとも1つの酸化還元媒介体は、LiNO、NaNO LiBr、NaBr、LiI、NaIからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載のリチウム空気電池用空気極。
【請求項4】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のリチウム空気電池用空気極と、
負極と、
前記空気極及び前記負極の間に存在する電解質と、
を備えるリチウム空気電池。
【請求項5】
前記電解質が電解液中に存在し、
前記空気極中の前記酸化還元媒介体の含有量が、電解液1Lに対して10mmol以上に相当する量である、請求項に記載のリチウム空気電池。
【請求項6】
前記電解質が電解液中に存在し、
前記電解液中の前記酸化還元媒介体の濃度が100mmol/L以下である、請求項又は請求項に記載のリチウム空気電池。
【請求項7】
LiNO 、NaNO 、KNO 、RbNO 、CsNO 、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、及びCsIからなる群より選択される少なくとも1つの酸化還元媒介体と、導電性材料と、結着材と、溶媒と、を混合してスラリーを調製することと、
前記スラリーを集電体に付与して触媒層を形成することと、
を含み、前記少なくとも1つの酸化還元媒介体は、-40~80℃において前記触媒層に固体の状態で存在するようになる、リチウム空気電池用空気極の製造方法。
【請求項8】
前記スラリーの固形分に対する前記少なくとも1つの酸化還元媒介体の含有率は、5質量%~80質量%である、請求項7に記載のリチウム空気電池用空気極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム空気電池用空気極、リチウム空気電池、及びリチウム空気電池用空気極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の分野において、エネルギー密度が高く、小型化及び軽量化が容易である等の利点を有する電池として、リチウム空気電池が研究されている。リチウム空気電池はリチウムイオン電池と比べても顕著に高いエネルギー密度を有するため、長距離走行が可能な電気自動車等、各種エネルギー産業への応用が期待されている。
【0003】
リチウム空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質としてリチウムイオンを挿入及び脱離可能な物質を用いた二次電池である。リチウム空気電池の放電時の正極(空気極)及び負極における反応を以下に示す。
正極:2Li + O + 2e → Li
負極:2Li → 2Li + 2e
【0004】
また、リチウム空気電池の充電時の正極(空気極)及び負極の反応を以下に示す。
正極:Li → O + 2Li + 2e
負極:2Li + 2e → 2Li
【0005】
一方、リチウム空気電池は、正極におけるスーパーオキシドアニオンラジカル(O ・)の発生に伴う電解質の分解、耐久性等に関するいくつかの課題を有しており、これらの課題を解決する方法が模索されている。例えば、特許文献1では、金属空気電池の空気極に支持電解質塩であるリチウム塩を含有させたリチウム空気電池が開示されている。この方法では、電解液中だけでなく空気極中に電解質塩を含有させることで、空気極の金属イオン濃度を高めてO ・による電解液分解を抑制し、電池の耐久性を向上させている。
【0006】
また、放電反応によって空気極に析出した過酸化リチウム(Li)は、充電時に電子を奪われて分解される。このとき、過酸化リチウムは空気極の表面から分解されるため、空気極から遠ざかるにつれて過酸化リチウムを分解するための電圧が上昇していく、すなわち過電圧が上昇するという問題がある。これに対し、非特許文献1では、リチウム空気電池において、多孔質三次元網目構造の空気極を採用し、さらに酸化還元媒介体(Redox Mediator;RM)であるLiIを電解液中に含有させることで、充放電反応に関わる各化学種の電解液から空気極への拡散性を向上させ、LiIを効率的に作用させて、エネルギー効率と容量特性(耐久性)を両立させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2012/025975号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kisuk Kang et. al., Superior Rechargeability and Efficiency of Lithium-Oxygen Batteries: Hierarchical Air Electrode Architecture Combined with a Soluble Catalyst, Angew. Chem. Int. Ed., 2014, 53, No.15, 3926-3931.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リチウム空気電池のエネルギー効率及び容量維持性には未だ課題がある。例えば、特許文献1に記載の方法では、O ・による電解液分解等の副反応を抑えて電池の劣化を抑制しているものの、充電時の過酸化リチウム分解反応における過電圧を低減することができず、エネルギー効率は低いままである。また、非特許文献1に記載の方法では、酸化還元媒介体による触媒効果が十分に効率的に発揮されておらず、エネルギー効率及び容量維持性には改善の余地がある。
【0010】
かかる状況に鑑み、本開示は、過電圧の低減が可能であり容量維持性が改善されたリチウム空気電池、並びにこれに用いられる空気極及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> 酸化還元媒介体を含むリチウム空気電池用空気極。
<2> -40~80℃において前記酸化還元媒介体が固体の状態で存在する、<1>に記載のリチウム空気電池用空気極。
<3> 前記酸化還元媒介体が、亜硝酸塩、臭化物塩、及びヨウ化物塩からなる群より選択される少なくとも1つを含む、<1>又は<2>に記載のリチウム空気電池用空気極。
<4> 前記酸化還元媒介体が、LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、及びCsIからなる群より選択される少なくとも1つを含む、<3>に記載のリチウム空気電池用空気極。
<5> <1>~<4>のいずれか1項に記載のリチウム空気電池用空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に存在する電解質と、を備えるリチウム空気電池。
<6> 前記電解質が電解液中に存在し、前記空気極中の前記酸化還元媒介体の含有量が、電解液1Lに対して10mmol以上に相当する量である、<5>に記載のリチウム空気電池。
<7> 前記電解質が電解液中に存在し、前記電解液中の前記酸化還元媒介体の濃度が100mmol/L以下である、<5>又は<6>に記載のリチウム空気電池。
<8> 酸化還元媒介体と、導電性材料と、結着材と、溶媒と、を混合してスラリーを調製することと、前記スラリーを集電体に付与して触媒層を形成することと、を含む、リチウム空気電池用空気極の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、過電圧の低減が可能であり容量維持性が改善されたリチウム空気電池、並びにこれに用いられる空気極及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示のリチウム空気電池の一実施形態の概略を示す斜視図である。
図2】実施例1~3及び比較例1、2のリチウム空気電池を用いて定電流放充電サイクル試験を行ったときの15サイクルまでの電位曲線を表す。
図3】実施例1~3及び比較例1、2のリチウム空気電池を用いて定電流放充電サイクル試験を行ったときの、設定した放充電容量までの容量維持性を示す。
図4】実施例4及び比較例3のリチウム空気電池を用いて定電流放充電サイクル試験を行ったときの15サイクルまでの電位曲線を示す。
図5】実施例4及び比較例3のリチウム空気電池を用いて定電流放充電サイクル試験を行ったときの、設定した放充電容量までの容量維持性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0015】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0016】
≪リチウム空気電池用空気極≫
本開示のリチウム空気電池用空気極(以下、単に空気極ともいう)は、酸化還元媒介体を含む。空気極は集電体を含んでいてもよく、導電性材料、結着材、酸化還元媒介体以外の触媒等を含んでいてもよい。
【0017】
空気極の厚みは特に制限されない。また、空気極の幅及び長さは特に制限されない。
【0018】
空気極の作製方法は特に制限されない。例えば、空気極は、酸化還元媒介体及び必要に応じて用いられるその他の成分を含有するスラリーを調製し、当該スラリーを集電体に付与し、必要に応じて乾燥して触媒層を形成することによって作製してもよい。一実施形態において、空気極は、酸化還元媒介体と、導電性材料と、結着材と、溶媒と、を混合してスラリーを調製することと、前記スラリーを集電体に付与して触媒層を形成することと、を含む、製造方法によって製造してもよい。
以下、空気極に用いられる各部材又は成分について説明する。
【0019】
<酸化還元媒介体>
本開示の空気極は酸化還元媒介体を含む。酸化還元媒介体は空気極に加えて電解液等の他の部位に含まれていてもよい。
【0020】
本開示において、酸化還元媒介体とは、酸化体及び還元体を有し、酸化電位が過酸化リチウムの平衡電位(2.96V)よりも大きく、酸化体が過酸化リチウムを酸化分解してLiを発生させる能力を有する化学種を表す。酸化還元媒介体は、充電時に、まず自らが酸化され、生成した酸化体が過酸化リチウムの表面を攻撃することによって、過酸化リチウムの分解を触媒し、自身は再生される。これにより充電時の充電電位が酸化還元媒介体の電位付近に保たれるため、過電圧の上昇が抑制され安定して充電反応が進む傾向にある。種々の化学種の酸化電位は各種文献に記載されており、当業者が適宜選択することができる。
【0021】
酸化還元媒介体による充電時の過酸化リチウムの分解促進反応を、酸化還元媒介体がLiIである場合を例にとって説明する。充電時には、以下のように、ヨウ化物イオンがまず酸化されて三ヨウ化物イオンとなる。次に、酸化体である三ヨウ化物イオンが過酸化リチウムと反応して、過酸化リチウムを分解し、自らは還元されてヨウ化物イオンに戻る。
3I → I + 2e
+ Li → 3I + 2Li + O
【0022】
これまでに、リチウム空気電池において、酸化還元媒介体を電解液に溶解させて用いる種々の研究が行われてきた。一方、本開示のリチウム空気電池では、酸化還元媒介体は空気極に存在し、過酸化リチウムの析出する反応場に多く存在するため、過酸化リチウムと酸化還元媒介体の接触効率が向上し、酸化還元媒介体による触媒作用が効率的に発揮されると考えられる。これにより、長期にわたって過電圧の上昇を抑えることができると推測される。
【0023】
また、酸化還元媒介体を電解液に溶解させて用いる場合、充電時に空気極で酸化された酸化還元媒介体が、過酸化リチウムを分解することなく負極へ拡散し、直接反応して自己放電を起こす、いわゆるシャトル効果が発生する場合がある。一方、空気極に酸化還元媒介体を含む場合は、シャトル効果の影響が抑制され、容量維持性をより向上させることができると考えられる。
【0024】
酸化還元媒介体は、25℃において固体の状態で空気極に存在することが好ましい。特に、酸化還元媒介体は、-40℃~80℃にわたって固体の状態で空気極に存在することが好ましい。本開示において「酸化還元媒介体が固体の状態で空気極に存在する」という場合、酸化還元媒介体の少なくとも一部が固体の状態で存在していればよく、一部が溶解した状態であってもよい。例えば、リチウム空気電池としたときに、リチウム空気電池に含まれる酸化還元媒介体のうち30モル%以上、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上が、固体の状態で空気極に存在していてもよい。酸化還元媒介体が固体の状態で空気極に存在すると、過電圧の低減及び容量維持性の向上効果がより良好に得られる傾向にある。酸化還元媒介体が固体の状態で空気極に存在すると、電解液に溶解した状態で存在する場合と比べて、高濃度の酸化還元媒介体が過酸化リチウムと接触することができると考えられる。このため、過酸化リチウム分解の触媒効果が特に良好に得られると考えられる。また、シャトル効果もより良好に抑制されると考えられる。
【0025】
酸化還元媒介体の酸化電位は過酸化リチウムの平衡電位を超えていればよい。これにより、充電時に過酸化リチウムより先に酸化を受け、酸化還元媒介体として機能することができる。過電圧の上昇を効果的に抑制する観点からは、酸化還元媒介体の酸化電位は、過酸化リチウムの平衡電位の理論値である2.96Vを超え4.00V以下であることが好ましく、2.96Vを超え3.80V以下であることがより好ましく、2.96Vを超え3.50V以下であることがさらに好ましい。
【0026】
酸化還元媒介体が固体である場合の酸化還元媒介体の形状は特に制限されず、粉末状(粒子状、顆粒状等)、ゲル状、シート状、多孔質状等であってもよい。酸化還元媒介体が粉末状(粒子状等)、多孔質状等であると、表面積が増大し、良好に酸化還元媒介効果を得られる傾向にある。酸化還元媒介体が粉末状(粒子状)である場合の粒子径は特に制限されない。
【0027】
酸化還元媒介体は、有機物塩であっても無機物塩であってもよい。無機物塩としては、亜硝酸塩、臭化物塩、ヨウ化物塩等が挙げられる。より具体的には、LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等が挙げられる。有機物塩としては、テトラチアフルバレン(TTF)、フェロセン(Ferrocene)、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)、テトラメチル-p-フェニレンジアミン(TMPD)、5,10-ジメチルフェナジン(DMPZ)、1,5-ナフタレンジアミン(NDA)、4,N,N-トリメチルアニリン(TMA)、または1-フェニルピロリジン(PPD)、N-メチルフェノチアジン(MPT)、2,5-ジt-ブチル-1,4-ベンズキノン(DBBQ)等が挙げられる。酸化還元媒介体は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
空気極中の酸化還元媒介体の含有率は特に制限されない。酸化還元媒介体を含有するスラリーを用いて空気極集電体上に触媒層を形成することによって空気極を作製する場合には、スラリーの固形分(すなわちスラリーから揮発成分を除いた成分;触媒層)に対する酸化還元媒介体の含有率は、酸化還元媒介体及び他の成分の特性のバランスの観点から、5質量%~80質量%であることが好ましく、10質量%~70質量%であることがより好ましく、15質量%~60質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
<空気極集電体>
空気極は空気極集電体を含んでいてもよい。空気極集電体の材質は導電性を有する限り特に制限されず、ニッケル、アルミニウム等の金属、ステンレス鋼等の合金、カーボン材料などが挙げられる。空気極集電体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0030】
空気極集電体の形状は特に制限されず、シート状、板状、メッシュ状、繊維状等であってもよい。空気極集電体は多孔質構造を有しても有さなくてもよく、反応場を増やして充放電効率を向上させる観点からは、多孔質構造を有することが好ましい。
【0031】
<導電性材料>
空気極は空気極集電体の他に、導電性材料を含んでいてもよい。導電性材料は、導電助剤としての働きを有するものであってもよく、触媒の担体としての働きを有するものであってもよい。導電性材料としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、グラファイト、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン等が挙げられる。導電性材料は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。導電性材料の形状は、例えば、粒子状、扁平状、繊維状等であってもよい。導電性材料は、多孔質構造を有しても有さなくてもよく、反応場を増やして充放電効率を向上させる観点からは、多孔質構造を有することが好ましい。
【0032】
空気層における触媒層中の導電性材料の含有率は特に制限されない。酸化還元媒介体及び導電性材料を含有するスラリーを用いて空気極集電体上に触媒層を形成することによって空気極を作製する場合には、スラリーの固形分(触媒層)に対する導電性材料の含有率は、スラリーに含まれる各種成分による特性のバランスの観点から、20質量%~80質量%であることが好ましく、30質量%~70質量%であることがより好ましく、40質量%~60質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
<酸化還元媒介体以外の触媒>
空気極は酸化還元媒介体以外の触媒を含んでいてもよい。酸化還元媒介体以外の触媒としては、充放電反応を促進するものであれば特に制限されない。例えば、充電時に過酸化リチウム分解の活性化エネルギーを下げる触媒、反対に、放電時に過酸化リチウムの生成の活性化エネルギーを下げる触媒等が挙げられる。
触媒としては、具体的には、白金、金等の貴金属;マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、ルテニウム、イリジウム等の金属やそれらの金属酸化物あるいは金属錯体;導電性材料として前述した材料が挙げられる。これらの触媒は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
酸化還元媒介体以外の触媒の形状は特に制限されず、ナノ粒子、ナノワイヤ、ナノフレーク、ナノロッド、ナノシート、多孔質体等の形状であってもよい。
【0034】
空気極が酸化還元媒介体以外の触媒を含む場合、酸化還元媒介体以外の触媒の含有率は特に制限されない。酸化還元媒介体及びその他の触媒を含有するスラリーを用いて空気極集電体上に触媒層を形成することによって空気極を作製する場合には、スラリーの固形分(触媒層)に対する、酸化還元媒介体以外の触媒の含有率は、当該触媒による放充電反応促進の効果を好適に発揮する観点からは、5質量%~60質量%の範囲であってもよく、10質量%~50質量%の範囲であってもよい。
【0035】
<結着材>
空気極は結着材をさらに含んでもよい。空気極が結着材を含むことで、酸化還元媒介体及び必要に応じて用いられるその他の成分が空気極に良好に固定され、放充電効率がより向上する傾向にある。結着材の種類は特に制限されず、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム、ポリイミド樹脂などが挙げられる。結着材は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0036】
空気極が結着材を含む場合、空気極中の結着材の含有率は特に制限されない。酸化還元媒介体及び結着材を含有するスラリーを用いて空気極集電体上に触媒層を形成することによって空気極を作製する場合には、スラリーの固形分(触媒層)に対する結着材の含有率は、スラリーに含まれる各種成分の特性及び分散性のバランスの観点から、1質量%~20質量%であることが好ましく、2質量%~15質量%であることが好ましく、3質量%~10質量%であることがより好ましい。
【0037】
<溶媒>
酸化還元媒介体を含有するスラリーを調製して集電体に付与することによって空気極を作製する場合、当該スラリーは溶媒を含有してもよい。溶媒としては、スラリーに含まれる各成分を分散又は溶解可能なものであれば特に制限されず、水系溶媒であっても有機系溶媒であってもよい。例えば、溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、ジオキソラン、水等が挙げられる。溶媒は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
スラリー中の溶媒の含有率は特に制限されず、粘度、付与の均一性等の観点からは、スラリーの質量に対して60質量%~95質量%であることが好ましい。
【0039】
≪リチウム空気電池≫
本開示のリチウム空気電池は、上述の本開示の空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に存在する電解質と、を備える。リチウム空気電池はさらにセパレーター等のその他の部材を有していてもよい。
【0040】
本開示の一実施形態におけるリチウム空気電池の具体例を、図1を参照して説明する。なお、本開示のリチウム空気電池は図1に示される構成に限定されない。また、図1における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
図1は充電時のリチウム空気電池の一実施形態を表している。図1において、リチウム空気電池100は、空気極2及び負極4を有し、空気極2及び負極4の間に電解質を含む電解液6が貯留されている。また、空気極2及び負極4の間には両極間の絶縁を担うセパレーター8が設けられている。セパレーター8よりも空気極側に存在する正極電解液とセパレーター8よりも負極側に存在する負極電解液は同じ電解液であっても異なる電解液であってもよい。充電時には、電源10が空気極2と負極4とを電気的に接続している。なお、放電時には、電源10の代わりに負荷(図示せず)が接続される。
【0041】
本開示のリチウム空気電池において、酸化還元媒介体は空気極に存在する他、電解液中に溶解していてもよい。酸化還元媒介体が電解液中に溶解している場合、電解液中の酸化還元媒介体の濃度は、シャトル効果を好適に抑制する観点からは、100mmol/L以下であってもよく、50mmol/L以下であってもよく、30mmol/L以下であってもよい。なお、酸化還元媒介体はデンドライトの発生抑制、負極に堆積しうる酸化リチウムの分解等、望ましい特性を有することがある。このような特性を期待する観点からは、電解液中の酸化還元媒介体の濃度は例えば1mmol/L以上であってもよい。本開示において酸化還元媒介体のモル数又はモル濃度は、酸化還元媒介体が無機塩又は有機塩として存在しうる場合は、塩としてのモル数又はモル濃度を表す。
【0042】
リチウム空気電池中の酸化還元媒介体の全含有量(すなわち、固体で存在している酸化還元媒介体と電解液中に溶解している酸化還元媒介体の合計量)は特に制限されない。酸化還元媒介体の効果を良好に発揮する観点からは、リチウム空気電池中の酸化還元媒介体の含有量は、電解液1Lに対して10mmol以上に相当する量であることが好ましく、50mmol以上に相当する量であることがより好ましく、100mmol以上に相当する量であることがさらに好ましい。酸化還元媒介体の含有量の上限は特に制限されず、適当な反応場を確保する観点からは、酸化還元媒介体の含有量は電解液1Lに対して2000mmol以下に相当する量であってもよい。
【0043】
リチウム空気電池において、電解質が電解液中に存在するとき、当該電解液に対する酸化還元媒介体の溶解度は特に制限されず、例えば25℃において100mmol/L以下であってもよく、50mmol/L以下であってもよい。本開示のリチウム空気電池では、酸化還元媒介体が空気極に存在するため、電解液に対する溶解度が比較的低い場合であっても、効率よく触媒作用が発揮されると考えられる。
【0044】
以下、リチウム空気電池の各部材又は成分について説明する。
【0045】
<空気極>
本開示のリチウム空気電池に用いられる空気極の詳細は前述の通りである。
【0046】
<負極>
リチウム空気電池は負極を含む。負極は、リチウムイオンを挿入及び脱離可能な負極活物質を含む。負極は、負極活物質を含む層が負極集電体上に形成されてなるものであってもよい。
【0047】
負極活物質としては、金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、炭素材料等が挙げられる。リチウム合金としては、アルミニウム、スズ、ケイ素等とリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、スズ、ケイ素等の酸化物が挙げられる。金属硫化物としては、スズ、チタン等の硫化物が挙げられる。金属窒化物としては、リチウムマンガン、リチウムコバルト等の窒化物が挙げられる。炭素材料としては、黒鉛、コークス、球状炭素等が挙げられる。負極活物質は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。電池容量の観点からは、負極活物質として金属リチウムを用いることが好ましい。
【0048】
負極集電体の材質は、導電性を有する限り特に制限されず、ニッケル、銅等の金属、ステンレス鋼等の合金、カーボン材料などが挙げられる。負極集電体の形状は特に制限されず、シート状、板状、メッシュ状、繊維状等であってもよい。負極集電体は多孔質構造を有しても有さなくてもよい。
【0049】
負極の厚みは特に制限されず、電池容量の観点からは、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。小型化の観点からは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。負極の幅及び長さは特に制限されない。
【0050】
負極の作製方法は特に制限されない。例えば、負極として、シート状、板状等の負極活物質をそのまま用いてもよい。また、負極は、負極活物質及び必要に応じて用いられる導電性材料、結着材等の成分を混合して負極合剤のスラリーを調製し、当該スラリーを集電体に付与して、乾燥、及び必要に応じて圧密化することによって作製してもよい。負極に含まれてもよい導電性物質及び結着材の詳細は空気極に含まれてもよい導電性物質及び結着材の詳細を適用することができる。スラリーの調製には各成分の分散又は溶解のための溶媒を使用してもよい。溶媒の具体例は正極のスラリーの調製に用いられる溶媒として前述したものが挙げられる。また、負極は、シート状、板状等の負極活物質を負極集電体に圧着することによって作製してもよい。
【0051】
<電解質>
本開示のリチウム空気電池は電解質を含む。電解質は電解質塩が非水溶媒に溶解された電解液の形態で存在してもよく、固体電解質の形態で存在してもよい。電解液及び固体電解質を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
電解質としては、空気極と負極の間でリチウムイオンを伝導可能なものであればよく、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩は有機リチウム塩であっても無機リチウム塩であってもよい。無機リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiAsF、LiClO、LiNO等が挙げられる。有機リチウム塩としては、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)等が挙げられる。電解質は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0053】
電解質の溶媒の種類は、電解質を溶解可能なものであれば特に制限されない。
非水溶媒としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;イオン性液体、ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド、エチルメチルスルホン、スルホラン等が挙げられる。なかでも、放充電時の分解安定性の観点からは、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類からなる群より選択される少なくとも1つが好ましい。電解質の溶媒は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0054】
固体電解質としては、LiLaZr12(LLZ)、LISICON(Lithium Super Ionic Conductor)等が挙げられる。
【0055】
電解質が電解液中に存在する場合、電解液中の電解質の濃度は特に制限されず、電解液の電気伝導度、粘度等のバランスの観点からは、0.05mol/L~2.00mol/Lであることが好ましく、0.10mol/L~1.50mol/Lであることがより好ましく、0.15mol/L~1.00mol/Lであることがさらに好ましい。
【0056】
<セパレーター>
リチウム空気電池はセパレーターを含んでいてもよい。セパレーターは、リチウムイオンの透過性を有し、空気極と負極の絶縁性を維持できるものであれば特に制限されない。セパレーターの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー、セルロース系ポリマー、フッ素系ポリマー、ガラス、紙等が挙げられる。セパレーターの形状は多孔膜、不織布等であってもよい。
【0057】
セパレーターの厚みは特に制限されず、例えば10μm~1000μmであってもよい。
【0058】
[リチウム空気電池の用途]
本開示のリチウム空気電池の用途は特に制限されず、電気自動車用駆動電源、次世代送電網(スマートグリッド)のための定置用蓄電池、太陽光や風力等の自然エネルギーによる発電施設における電力平準化又は蓄電用電池、モバイル用大容量電池など、エネルギー産業全般に応用することができる。
【実施例
【0059】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0060】
<実施例1>
[空気極の作製]
LiI(酸化還元媒介体)、ケッチェンブラック(KB:導電性材料)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF:結着材)を、N-メチルピロリドン(NMP:溶媒)中に、質量比で50:50:6の割合で混合して空気極の触媒層スラリーを調製した。調製したスラリーを、カーボンペーパー(空気極集電体)の表面に塗布して乾燥させ、触媒層が形成された空気極を得た。
【0061】
[リチウム空気電池の作製]
アルゴングローブボックス中(露点<-90℃)にて、ジエチレングリコールジメチルエーテル(溶媒)にLiTFSI(電解質塩)を溶解して電解液(濃度:0.2mol/L)を調製した。負極として金属リチウム箔(厚み:500μm)を用い、調製した電解液、セパレーター(セルガード2400(厚み:25μm))、さらに電解液、上記で得られた空気極の順で挟み込み、リチウム空気電池を作製した。
【0062】
<実施例2>
LiIをLiBr(酸化還元媒介体)に変更した以外は実施例1と同様にして空気極及びリチウム空気電池を作製した。
【0063】
<実施例3>
LiIをNaNO(酸化還元媒介体)に変更した以外は実施例1と同様にして空気極及びリチウム空気電池を作製した。
【0064】
<比較例1>
LiIを用いなかった以外は実施例1と同様にして空気極及びリチウム空気電池を作製した。
【0065】
<比較例2>
LiIをLiClに変更した以外は実施例1と同様にして空気極及びリチウム空気電池を作製した。なお、LiClは酸化還元媒介体の機能を有さないリチウム塩である。
【0066】
<比較例3>
リチウム空気電池の作製において、電解液にさらにLiBr(酸化還元媒介体)を濃度が50mmol/Lとなるように添加した以外は比較例1と同様にリチウム空気電池を作製した。
【0067】
<実施例4>
比較例3において電解液に含有させたLiBrと同量のLiBrを、電解液に含有させる代わりに空気極に固体の状態で含有させてリチウム空気電池を作製した。
【0068】
実施例1~4及び比較例1~3のリチウム空気電池の構成の概要を表1及び表2に示す。表中「-」は各項目に該当しないことを表す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
[リチウム空気電池の評価]
実施例及び比較例で得られたリチウム空気電池を用いて、純酸素(99.9体積%)雰囲気中、30℃にて、印加電流200mA/g-KB、放充電容量500mAh/g-KB、カットオフ電位2.0V~4.5Vの条件で定電流放充電サイクル試験を行った。評価結果を図2図5に示す。
【0072】
図2は、実施例1~3及び比較例1、2のリチウム空気電池を用いて定電流放充電サイクル試験を行ったときの15サイクルまでの電位曲線を示す。
放電時及び充電時の過電圧とは、それぞれ、以下の反応の理論電位(すなわち2.96V(V vs. Li/Li))からの電位差であり、小さいほど好ましい。
放電時:2Li + O + 2e → Li
充電時:Li → 2Li + O + 2e
図2に示される通り、酸化還元媒介体を空気極に含有させた実施例1~3のリチウム空気電池では、比較例1、2のリチウム空気電池と比べて過電圧が低減されていることが分かる。
【0073】
図3は、実施例1~3及び比較例1、2のリチウム空気電池を用いて定電流放充電サイクル試験を行ったときの、設定した放充電容量までの容量維持性を示す。500mAh/g-KBまでの容量が維持されているサイクル数が多いほど好ましい。
図3に示される通り、実施例1~3のリチウム空気電池では、比較例1、2のリチウム空気電池と比べて容量維持性が向上している。
【0074】
図4は、酸化還元媒介体を空気極に含有させた実施例4、及び同量の酸化還元媒介体を電解液に含有させた比較例3のリチウム空気電池を用いて定電流放充電サイクル試験を行ったときの15サイクルまでの電位曲線を示す。図4に示される通り、実施例4では比較例3に比べて過電圧が低減されている。また、比較例3では電解液に含有させた酸化還元媒介体が負極へ拡散して自己放電を起こすシャトル効果が観察されているが、実施例4ではシャトル効果が抑制されていることがわかる。
【0075】
図5は、実施例4及び比較例3のリチウム空気電池を用いて定電流放充電サイクル試験を行ったときの、設定した放充電容量までの容量維持性を示す。図5に示される通り、実施例4のリチウム空気電池では、比較例3のリチウム空気電池と比べて容量維持性が向上している。
【0076】
以上のように、実施例におけるリチウム空気電池では、長期の充放電サイクルにおいて過電圧が低減されており、優れた容量維持性を示している。この作用機構は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
【0077】
電解液中へ酸化還元媒介体を溶解する方法では、酸化還元媒介体の空気極への供給量は当該酸化還元媒介体と空気極との吸着平衡や電解液中の拡散速度に依存する。一方、あらかじめ酸化還元媒介体を空気極に含有させた場合には、多くの酸化還元媒介体が反応場に存在しているものと推測され、その効果もより効率良く発揮されているものと考えられる。
【0078】
また、放電時に析出した過酸化リチウムを充電により分解する際に、酸化還元媒介体が電解液側(すなわち、過酸化リチウムの外表面)からだけでなく、空気極側(すなわち、過酸化リチウムの内部)からも機能し、双方から加速的に分解される効果もあるものと示唆される。
【0079】
また、酸化還元媒介体を空気極に含有させることによって、酸化還元媒介体が空気極の触媒層や集電体を覆い、放充電時に生成するスーパーオキシドアニオンラジカル(O ・)に触媒層や集電体が攻撃されて腐食することを抑制できることも期待される。
【0080】
さらに、過酸化リチウムの空気極表面への析出が均一化され、不均一な析出による目詰まりが緩和される効果も加わっていることが期待される。
【0081】
さらに、酸化還元媒介体を空気極に含有させる場合、電解液に対する酸化還元媒介体の溶解度に関わらずより大量の酸化還元媒介体を含有させることが可能になる。例えば、実施例1における酸化還元媒介体を電解液の体積に対する含有量として換算すると、約190mmol/Lである。このため、持続性の高い触媒効果を得ることも可能であると考えられる。
【0082】
以上のように、実施例におけるリチウム空気電池では、酸化還元媒介体が空気極の近傍で局所的かつ効果的に機能するため、過電圧を効果的に低減しつつ優れた容量維持性を発現できると考えられる。
【符号の説明】
【0083】
2 正極(空気極)
4 負極
6 電解液
8 セパレーター
10 電源
100 リチウム空気電池
図1
図2
図3
図4
図5