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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】カッティング装置
(51)【国際特許分類】
   B26D 5/00 20060101AFI20230324BHJP
   B26D 7/08 20060101ALI20230324BHJP
   G05B 19/4103 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
B26D5/00 F
B26D7/08 A
G05B19/4103 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019107670
(22)【出願日】2019-06-10
(65)【公開番号】P2020199579
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】513161689
【氏名又は名称】ACS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳史
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159408(JP,A)
【文献】特開2017-080854(JP,A)
【文献】特開2017-047521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 5/00
B26D 7/08
G05B 19/4103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断される材料を載置して該材料を保持する材料保持手段と、
移動方向に刃を有し、前記材料を切断するための切断手段と、
前記材料保持手段に保持された前記材料に対して前記切断手段を該材料の深さ方向に相対的に昇降させる昇降手段と、
前記深さ方向に垂直な平面上で前記切断手段を前記材料に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記昇降手段及び該移動手段に指令を出力して該昇降手段及び該移動手段を駆動させる制御手段と、
を備え、前記制御手段からの指令に基づき前記切断手段を移動させながら、前記材料を切断するカッティング装置であって、
前記深さ方向に垂直な平面上において所定形状を呈するカットラインに沿って前記材料を切断する際に、前記制御手段は前記昇降手段及び前記移動手段を共に駆動して、前記切断手段を所定の深さ位置まで降下させつつ前記所定のカットラインに沿って第一の点から第二の点まで一方向に移動させ、前記第二の点において前記昇降手段の駆動を停止して前記材料に対する前記切断手段の相対的な深さを維持した状態で前記第二の点から前記第一の点まで前記切断手段を逆方向に移動させる指令を出すカッティング装置。
【請求項2】
前記第一の点と前記第二の点とは前記深さ方向に垂直な平面上の同一の点である請求項1に記載のカッティング装置。
【請求項3】
前記第一の点と前記第二の点は前記深さ方向に垂直な平面上の異なる点である請求項1に記載のカッティング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断手段を移動させて材料を所定のカットラインで切断するカッティング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、特許文献1に示すように、切断刃を前後、左右、上下方向に移動させ、更にこれを回転、傾倒させることが可能なカッティング装置を提案している。このカッティング装置によれば、切断刃を直線状に動かすだけでなく、曲線状にも動かすことができるため、材料を多様な形状で切断することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-237215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで従来の装置で材料を切断する際、材料の表面から深さ方向に直線的に切断刃を裏面まで移動させて、切断刃を材料に貫入させてこれを前進させると、材料の種類や切断する形状によっては、切り出している材料片が切断途中で動いてしまうことがあった。このため、例えば材料を円形に切り出そうとする場合、材料に切断刃を貫入させた位置と切断刃を1周動かした後の位置にずれが生じ、切断刃を貫入した位置にその痕跡が残ることがあった。また、切断刃を移動させる手段としてはサーボモータが一般的であって、切断刃を曲線状に移動させるには、基本的には前後移動用、左右移動用、回転用の3つのサーボモータを使用する必要がある。ここでサーボモータは、対象物を動かすにあたって、指令パルスとフィードバックパルスとの差である溜まりパルスを減じるようにしているが、特に加速時や減速時においては移動する対象物の慣性等の影響を大きく受けて溜まりパルスが増大するため、与えた指令通りに対象物を動かすことは難しい。このため、3つのサーボモータを同時に駆動させて、材料に貫入させた切断刃を円状に前進させようとしても、各サーボモータの挙動を一致させることは難しく、精度よく円形に切り出せないことがあった。特に、切断刃の移動速度を上げると慣性も増すことになり、これによって溜まりパルスの影響がより顕著になるため、切断精度を確保するには切断刃の移動速度を遅くせざるを得ない状況にあった。
【0005】
更に従来の装置では切断刃をカットラインに沿って一方向に移動させていた。一方、切断刃としては移動方向の両側に刃を備える両刃が用いられることが多かった。そのため、従来の装置では両刃を使用した場合も、材料の切断には片側の刃しか使用されず、両刃の機能を発揮できているとはいえなかった。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決することを課題とするものであり、材料を意図した通りの形状で安定して切断することができ、切り出された材料に与える損傷を抑制し、且つ、両刃の機能を十分に発揮することができるカッティング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、切断される材料を載置して該材料を保持する材料保持手段と、移動方向に刃を有し、前記材料を切断するための切断手段と、前記材料保持手段に保持された前記材料に対して前記切断手段を該材料の深さ方向に相対的に昇降させる昇降手段と、前記深さ方向に垂直な平面上で前記切断手段を前記材料に対して相対的に移動させる移動手段と、前記昇降手段及び該移動手段に指令を出力して該昇降手段及び該移動手段を駆動させる制御手段と、を備え、前記制御手段からの指令に基づき前記切断手段を移動させながら、前記材料を切断するカッティング装置であって、前記深さ方向に垂直な平面上において所定形状を呈するカットラインに沿って前記材料を切断する際に、前記制御手段は前記昇降手段及び前記移動手段を共に駆動して、前記切断手段を所定の深さ位置まで降下させつつ前記所定のカットラインに沿って第一の点から第二の点まで一方向に移動させ、前記第二の点において前記昇降手段の駆動を停止して前記材料に対する前記切断手段の相対的な深さを維持した状態で前記第二の点から前記第一の点まで前記切断手段を逆方向に移動させる指令を出すカッティング装置である。
【0008】
ここで、前記第一の点と前記第二の点とは前記深さ方向に垂直な平面上の同一の点であってもよい。
【0009】
また、前記第一の点と前記第二の点は前記深さ方向に垂直な平面上の異なる点であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるカッティング装置では、材料を切断する際、制御手段の指令によって、移動手段とともに昇降手段を駆動して、切断手段を所定の深さ位置まで降下させつつ前記所定のカットラインに沿って第一の点から第二の点まで一方向に移動させる。そのため、材料に切断手段が貫入して所定の深さに達しても(例えば切断手段が材料の裏面に達しても)、切り出される部分は元の部分につながっているため、切り出される部分は動きにくくなる。また切り出される部分は元の部分から徐々に切断されるため、切り出される部分に加わる切断時の力が抑制され、この点でも切り出される部分の動きを抑えることができる。また、切り出された材料に与える損傷を抑制することができる。
【0011】
切断手段が第二の点に達すると、制御手段の指令によって、昇降手段の駆動を停止して材料に対する切断手段の相対的な深さを維持した状態で第二の点から第一の点まで切断手段を逆方向に移動させる。ここで、第一の点から第二の点まで切断手段が一方向に移動する間は材料が徐々に深く切り出されている。そのため、このように第二の点から第一の点まで逆方向に移動させることで、切断手段によって切り出される地点における材料が切り出される厚みに対して、第一の点におけるカットラインの内側部分と、その外側部分とがつながっている部分を厚く確保することができる。そのため、切断手段を逆方向に移動させている間も、材料の切り出される部分を動きにくく維持しつつ、材料を精度よく、安定的に、且つ速く切断することができる。また、切断手段として両刃を用いることで、両側の刃を用いて材料を切断することができ、両刃の機能を十分に発揮させることができる。
【0012】
これらのことから、材料を意図した通りの形状で安定して切断することができ、切り出された材料に与える損傷を抑制し、且つ、更に高速で切断する際も切断精度を確保することができるカッティング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従うカッティング装置の一実施形態を概略的に示した平面図である。
図2図1の実施形態におけるヘッド部周辺を示す側面図である。
図3図1の実施形態におけるヘッド部の正面図である。
図4図1の実施形態におけるヘッド部の側面図である。
図5】切断刃によって材料を円形に切断する状況について説明する図であって、(a)は平面図であり、(b)は材料をカットラインLに沿って切断したときの切断面についての展開図である。
図6】(a)は切断刃によって材料を角丸形状に切断する状況について説明する図であり、(b)は材料を一部が開いた角丸形状に切断する状況について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従うカッティング装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1における符号1は、本発明に従うカッティング装置の一実施形態を示している。本実施形態のカッティング装置1は、ベース(材料保持手段)2とヘッド3とを備えている。ベース2は、符号Wで示す材料を載置するものである。なお材料Wは、図示の例では平面視において長方形になる平板状のものであるが、形状はこれに限定されるものではない。またその材質は、段ボールのような紙製品や、薄板状の合成樹脂板あるいは金属板、更には比較的厚みのあるポリエチレンや発泡材など、種々のものが含まれる。またヘッド3は、図2図4に示すように材料Wを切断する切断刃(切断手段)Sを保持している。
【0016】
ベース2において、材料Wを載置する載置面は、XYZ直交座標系におけるXY平面に対して平行に延在するものである。本実施形態においては、カッティング装置1を床面に設置した状態において、ベース2の載置面は水平方向に延在する。なお図示は省略するが、ベース2の載置面には、負圧によって材料Wを吸着保持するための吸着穴が設けられている。またベース2には、カッティング装置1に設けられる各種手段を駆動するための電源、エア源等に接続するための付帯設備が設けられている。
【0017】
またベース2とヘッド3との間には、X、Y方向移動手段4、Z方向移動手段5が設けられていて、これによりヘッド3は、ベース2に対してX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動することができる。なお本明細書等では、X、Y方向移動手段4を単に移動手段と称し、Z方向移動手段5を昇降手段と称することもある。
【0018】
本実施形態のX、Y方向移動手段4は、X軸方向に延在するとともにベース2に対してY軸方向に間隔をあけて設けられる一対のX軸レール(不図示)と、X軸レールを摺動するX軸ナット(不図示)と、X軸ナットに保持されるY軸フレーム4aと、図2に示すようにY軸方向に延在するとともにY軸フレーム4aに対してZ軸方向に間隔をあけて設けられる一対のY軸レール4bと、Y軸レール4bを摺動するY軸ナット4cと、Y軸ナット4cに保持されるY軸移動ベース4dを含んで構成されている。また詳細な説明は省略するが、X、Y方向移動手段4には、Y軸フレーム4aやY軸移動ベース4dを移動させるための駆動手段も含まれていて、本実施形態ではサーボモータを使用している。なお、他のモータ(ステッピングモータなど)を用いてもよい。また、上述したレールとナットとの組み合わせに限られず、タイミングベルトとプーリを利用した機構、ボールねじを用いた機構、ラックとピニオンを利用した機構を用いてもよい。
【0019】
またZ方向移動手段5は、Z軸方向に延在するとともにY軸移動ベース4dに対してY軸方向に間隔をあけて設けられる一対のZ軸レール5aと、Z軸レール5aを摺動するZ軸ナット5bと、Z軸ナット5bに保持されるZ軸移動ベース5cを含んで構成されている。更にZ方向移動手段5は、Z軸モータ5dと、Z軸モータ5dの回転によってZ軸移動ベース5cを移動させるボールねじ5eを備えている。
【0020】
ヘッド3は、切断刃SをZ軸周りに回転可能なθ方向移動手段6と、切断刃SをZ軸に直交するα軸(図4参照)周りに回転可能なα方向移動手段7と、切断刃Sを、その長手方向に振動させる振動手段8とを備えている。
【0021】
θ方向移動手段6は、Z軸方向に間隔をあけて設けられる一対のベアリング6aに回転可能に支持されるθ回転軸6bと、θ回転軸6bに保持されるθ軸ベース6c(図3参照)とを含んで構成されている。またθ方向移動手段6は、θ回転軸6bを回転させるものとして、θ回転軸6bに取り付けられるθ軸プーリ6dと、タイミングベルトを介してθ軸プーリ6dを回転させるθ軸モータ6eを備えている。
【0022】
α方向移動手段7は、図3に示すようにθ軸ベース6cに回転可能に支持されるα回転軸7aと、α回転軸7aに取り付けられるα軸プーリ7bと、図2に示すようにタイミングベルトを介してα軸プーリ7bを回転させるα軸モータ7cとを含んで構成されている。更にα方向移動手段7は、α回転軸7aとともに回転するスプラインケース7dと、スプラインケース7dに対して進退可能に設けられるスプライン軸7eと、スプライン軸7eの先端に設けられ、切断刃Sを保持するホルダー7fを備えている。
【0023】
振動手段8は、図2に示すようにスプライン軸7eの後端に連結するクランク8aと、回転可能に軸支されるとともにクランク8aを進退移動させる偏心カム付きシャフト8bと、偏心カム付きシャフト8bに取り付けられる振動付与用プーリ8cと、ベルト(タイミングベルト)を介して振動付与用プーリ8cを回転させる振動付与用モータ8dとを含んで構成されている。すなわち、振動付与用モータ8dによって偏心カム付きシャフト8bが回転すると、その偏心量の振幅をもってクランク8aが振動し、これによりホルダー7fを取り付けたスプライン軸7eも振動するため、ホルダー7fに保持される切断刃Sを長手方向に沿って振動させることができる。
【0024】
切断刃Sは、図2図4に示すように移動方向前後に刃を備える両刃状になるものであり、図3に示すように平板状になる延在面S1の両側縁部には、材料Wを切断する刃先S2が設けられている。切断刃Sは、ホルダー7fに対して取り外し可能であって、ホルダー7fに保持される部位から先端の切先S3までの長さが比較的長いものや短いものなど、種々の切断刃Sを取り付けることができる。
【0025】
またカッティング装置1は、ヘッド3を移動又は昇降するためのX、Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5と、ヘッド3に設けられ、切断刃Sを回転等させるためのθ方向移動手段6、α方向移動手段7、及び振動手段8とを制御するものとして、不図示のコントロール基板(制御手段)を備えている。コントロール基板は、X、Y方向移動手段4、Z方向移動手段5、θ方向移動手段6、α方向移動手段7、及び振動手段8に対して指令を送り、これらを個別に又は連動して駆動させることができる。
【0026】
更にカッティング装置1は、図2に示すように、切断刃Sで材料Wを切断する際に材料Wを押えておく材料押圧手段9を備えている。本実施形態の材料押圧手段9は、切断刃Sの近傍に設けられる押圧板9aと、押圧板9aをヘッド3に対してZ軸方向に移動可能に支持するガイド9bと、押圧板9aを材料Wに対して押圧するための弾性体9cとを含んで構成されている。
【0027】
次に、このような構成を有するカッティング装置1を用いて材料Wを切断する方法について説明する。第1の実施形態では、図5(a)に示すカットラインLに沿って平板状の材料WをXY平面視において円形の閉曲線形状に切断する場合について説明する。図5(b)は、材料WをカットラインLに沿って切断したときの切断面についての展開図である。なお、カットラインLは、切断刃Sにより材料Wを切断する際に切断刃Sの切先S3が描く軌跡をXY平面上に投影した図形をいうものとし、カットラインLの始点は、材料Wの切断に際して切断刃Sの切先S3が材料Wに最初に当接する地点をいい、カットラインLの終点は材料Wの切断が終了した際に切断刃Sの切先S3が位置する地点をいう。本実施形態では、当該カットラインLは閉曲線で表されており、円形を呈する。また、本発明にいう第一の点及び第二の点は、本実施形態ではそれぞれ始点(貫入開始地点P2)及び終点(貫入終了地点P3)に相当し、本実施形態では始点及び終点は上記カットラインL上の同一の点とする。
【0028】
本実施形態では、まず、上述したコントロール基板からの指令に基づいてX、Y方向移動手段4とZ方向移動手段5を駆動させ、切断刃Sの切先S3を材料Wの上方(Z軸方向上方)の移動開始地点P1に位置させる。この移動開始地点P1は、XY平面に投影したとき、上記カットラインL上の一点となる。
【0029】
切断刃Sの移動を開始するにあたり、θ方向移動手段6の駆動も開始し、θ方向移動手段6により、切断刃Sの延在面S1(図3参照)が上記カットラインLの接線に沿う(すなわち、上記円の接線に沿う)ようにしておく。また、コントロール基板はα方向移動手段7に対して指令を送り、切断刃Sの切先S3が常に真下(Z方向(材料Wの深さ方向)下方)を向くようにしておく。さらに、コントロール基板は振動手段8にも指令を送り、切断刃Sの切先S3がカットラインLの始点に接するまでの間に振動手段8を駆動させておくようにする。また材料Wは、材料押圧手段9によって押圧しておくこととする。
【0030】
以上の準備を行いつつ、コントロール基板はX、Y方向移動手段4とZ方向移動手段5に指令を送り、切断刃Sを移動開始地点P1から材料Wに対して降下させつつ、XY平面視でカットラインLに沿って円を描くようにして、カットラインLの始点である貫入開始地点P2に向けて前進させる。
ここで、カットラインLに沿って移動開始地点P1から貫入開始地点P2に向かう方向を一方向とし、切断刃Sが当該一方向に移動することを前進するというものとする。また、移動開始地点P1から貫入開始地点P2までの区間をここでは降下ラインと称するものとする。
【0031】
そして、貫入開始地点P2に切先S3が達すると、コントロール基板は引き続きX、Y方向移動手段4、Z方向移動手段5、θ方向移動手段6の駆動を継続して、切先S3がカットラインLと材料Wの裏面との交点である貫入終了地点P3に達するまで、カットラインLに沿って切断刃Sを降下させながら前進させる。すなわち、切断刃Sの切先S3が移動開始地点P1から貫入終了地点P3に達するまでの間、切断刃Sを螺旋状に移動させる。
【0032】
このようにカットラインLの始点である貫入開始地点P2から、切断刃Sが所定の深さに達する貫入終了地点P3まで切断刃SをカットラインLに沿って螺旋状に移動させることによって、切断刃Sが貫入終了地点P3に達するまでの間、切断刃Sによって切り出されるカットラインLの内側部分と、その外側部分とをつなげておくことができる。そのため、この内側部分が切断時に動くのを抑えることができる。また材料Wは、カットラインLに沿って螺旋状に徐々に切断されていくため、切断刃Sから過剰な力を受けることがなく、この点でも内側部分の動きが抑えられ、切断刃Sにより材料Wを精度よく切断することができる。つまり、Z方向移動手段5により切断刃Sを材料Wに対して相対的に降下させる際に、切先S3の位置をXY平面上で一点に留めることなく、切先S3をXY平面上で常に移動させることによって、これらの効果を得ることができる。
【0033】
本実施形態では、コントロール基板は、切断刃Sを降下ラインに沿って移動させる区間内で切断刃Sの移動速度が所定の速度に達するまで加速し、切断刃Sが貫入開始地点P2に達するまで(切先S3を材料Wに接し貫入させるまで)に、切断刃Sの移動速度が所定の速度に達するようにX、Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5を駆動させる指令を出力する。そして、切断刃Sが貫入開始地点P2から最初に貫入終了地点P3に達するまでの間、切断刃Sが所定の速度で等速移動するようにX,Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5を駆動させる指令を出力する。このように、本実施形態では切断刃Sを加速移動させるのは降下ラインの区間のみとしている。切断刃Sを加速移動させている間は、溜まりパルスの影響によって切断刃Sの挙動が不安定になることがあるものの、本実施形態ではこの間に材料Wの切断を開始していないため、材料Wに損傷を与えることなく、切断精度等に対する溜まりパルスの影響を抑えることができる。また、切断が始まる貫入開始地点P2以降では切断刃Sを等速移動させているため、切断刃Sを速い速度で動かしても、材料Wを高い精度で切断することができる。
【0034】
次に、切先S3が貫入終了地点P3に達した後は、コントロール基板は切断刃Sの高さを維持したままで、カットラインLに沿って、逆方向(他方向)に円を1周描くように切断刃Sを移動させる。このとき、コントロール基板は、切断刃SがXY平面上で所定の速度で等速移動するようにX,Y方向移動手段4の駆動を継続させる指令を出力し、Z方向移動手段5の駆動を停止させる指令を出力する。
【0035】
ここで、貫入開始地点P2(始点)から貫入終了地点P3まで切断刃Sが一方向に移動する間は材料Wが徐々に深く切り出されている。そのため、上記のように貫入終了地点P3において、切断刃Sをそれまでとは逆方向に移動させることで、切断刃Sによって切り出される地点における材料Wが切り出される厚みに対して、カットラインLの終点におけるカットラインLの内側部分と、その外側部分とがつながっている部分を厚く確保することができる。そのため、切断刃Sを逆方向に移動させている間も、材料Wの切り出される部分を動きにくく維持しつつ、材料Wを精度よく、安定的に、且つ速く切断することができる。また、その間も切断刃Sを等速移動させるため、材料Wに損傷を与えることなく、材料Wを切断することができる。一方、切断刃Sが貫入終了地点P3に最初に達した後も継続して同じ方向に切断刃Sを移動させた場合、切断刃Sにより切り出される地点における材料Wが切り出される厚みに対して、カットラインLの終点における切断刃Sによって切り出されるカットラインLの内側部分と、その外側部分とがつながっている部分が薄くなるため、切断している間、材料Wの切り出される部分を動きにくく維持することが困難な場合がある。
【0036】
そして、切断刃SをカットラインLの終点(貫入終了地点P3)に達した後は、カットラインLに沿って平面視で円を描くように、抜去終了地点P4に向けて切断刃Sを上昇させつつ螺旋を描くように前進させる。なお、この切断刃Sを抜去するために切断刃Sを移動させる軌跡を以下抜去ラインと称する。
【0037】
このように、材料Wを切り出した後、切断刃SをカットラインLに沿った形状となる抜去ラインに沿って徐々に上昇させることで、切断刃Sを抜去している途中で切り出した部分が不用意に動くことがない。また、このように切断刃Sを移動させることによって、抜去の途中での切断刃Sと材料Wとの接触を避けることができるため、材料Wの損傷及び切断刃Sの劣化も抑制することができる。
【0038】
そして、切先S3が抜去終了地点P4を通過した後も切断刃Sを抜去ラインに沿って螺旋状の軌道で移動させつつ、これを減速させる。これにより切断刃Sは、切先S3が移動停止地点P5に達した至るところで停止する。なお、切断刃Sの減速は、切先S3が材料Wから抜去されてから開始されるため、溜まりパルスの影響を受けて減速移動中に切断刃Sの移動が不安定になることがあっても、切断精度に影響を及ぼすことはない。
【0039】
なお図示は省略するが、切断刃Sを材料Wから抜去するにあたっては、材料Wを上記と同様にして切り出した後、XY平面視において上記と同様の形状を有する抜去ラインに沿って切断刃Sの材料Wに対する深さを維持したまま前進させつつこれを減速させ、切断刃Sが停止した後は、切先S3が材料Wから脱するまで切断刃SをZ方向に対して直線的に上昇させるようにしてもよい。この場合は、切断刃Sが材料Wから完全に抜去されていない状態でこれを減速させているが、この動作は材料WをカットラインLに沿って切り出した後であるため、切断精度に影響を及ぼすことはない。なお、当該方法で切断刃Sを停止させた後は、切断刃Sの切先S3を材料Wから脱する方法は特に限定されるものではなく、上記と同様にして切断刃Sを平面視で当該カットラインLに沿って螺旋状の軌道で移動させてもよい。
【0040】
[第2の実施形態]
次に第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、上記カッティング装置1を用いて、材料WをXY平面視において正方形の角を丸めたいわゆる角丸形状に切り出す場合の動作について述べる。なお、第1の実施形態と同じ符号を付した構成要素は第1の実施形態で説明したものと同様の構成及び機能を有するものとし、ここでは説明を省略する。
【0041】
第2の実施形態は、図6(a)に示すカットラインL2に沿って材料Wの表面から裏面まで切断する。本発明にいう第一の点及び第二の点は、本実施形態ではそれぞれ始点(貫入開始地点P2)及び終点(貫入終了地点P3)に相当し、本実施形態では始点及び終点は上記カットラインL2上の同一の点とする。第2の実施形態は、このカットラインL2の形状が第1の実施形態のカットラインLの形状と異なる点を除いては第1の実施形態と同様である。以下で説明のない事項については第1の実施形態と同様にすることができる。
【0042】
まず、コントロール基板からの指令を受けてX、Y方向移動手段4とZ方向移動手段5とが駆動し、切断刃Sの切先S3を材料Wの上方における移動開始地点P1に位置させる。次いで、コントロール基板からの指令を受けてX、Y方向移動手段4とZ方向移動手段5とが駆動し、それに伴い移動開始地点P1から貫入開始地点P2に向けて降下ラインに沿って切断刃Sを材料Wに対して相対的に降下させつつ前進させる。そして貫入開始地点P2に切先S3が達すると、引き続きX、Y方向移動手段4、Z方向移動手段5、θ方向移動手段6の駆動を継続して、切先S3がカットラインLと材料Wの裏面との交点である貫入終了地点P3に達するまで、所定のカットラインL2に沿って切断刃SをX,Y方向については上記角丸形状を描くように前進させながら、Z方向については切断刃Sを材料Wに対して相対的に降下させる。
【0043】
このように貫入開始地点P2から貫入終了地点P3までの間は、切断刃Sを深さ方向に移動させつつ、平面視においてXY平面上で移動させることによって、その間に切り出されるカットラインL2の内側部分と外側部分とをつなげておくことができる。そのため、内側部分の動きを抑制し、精度よく切断することができる。また材料Wは、深さ方向に徐々に切断されていくため、材料Wが切断時に切断刃Sから受ける損傷を小さくすることができ、この点でも内側部分の動きを抑えられ、精度よく切断することができる。
【0044】
そして、切断刃Sの切先S3が貫入終了地点P3に達した後は、切断刃Sの高さを維持した状態で、カットラインL2に沿って、逆方向(他方向)に角丸形状を1周描くように切断刃Sを移動させる。このように切断刃Sを移動させることにより、第1の実施形態と同様に、切断刃Sによって切り出される地点における材料Wが切り出される厚みに対して、カットラインLの終点における切断刃Sによって切り出されるカットラインLの内側部分と、その外側部分とがつながっている部分を厚く確保することができる。そのため、切断している間、材料Wの切り出される部分を動きにくく維持しつつ、材料Wを精度よく、安定的に、且つ速く切断することができる。
【0045】
本実施形態においても、コントロール基板は、切断刃Sを降下ラインに沿って移動させる区間内で切断刃Sの移動速度が所定の速度に達するまで加速し、切断刃Sが貫入開始地点P2に達するまでに、切断刃Sの移動速度が所定の速度に達するようにX,Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5を駆動させる指令を出力する。そして、切断刃Sが貫入開始地点P2から最初に貫入終了地点P3に達するまでの間、切断刃Sが所定の速度で等速移動するようにX,Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5を駆動させる指令を出力する。このように、切断刃Sが材料Wの切断を開始した以降は切断刃SがカットラインL2の終点に達するまで切断刃Sを等速移動させることにより、切断時に、材料Wに損傷を与えることなく、切断精度等に対する溜まりパルスの影響を抑えることができる。その他の事項についても第1の実施形態と同様である。なお、図6(a)に示す例では、カットラインL2をXY平面視したときの形状である角丸形状の直線上の一点を貫入開始地点P2としたが、貫入開始地点P2は図6(a)に示す例に限定されるものではなく、角丸部分上の一点であってもよい。
【0046】
[第3の実施形態]
次に第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、上記カッティング装置1を用いて、第2の実施形態で示したカットラインL2の一部が切り欠かれたような形状を呈するカットラインL3(図6(b)参照)に沿って材料Wを切断する場合の動作について述べる。上記第1の実施形態及び第2の実施形態では、貫入開始地点P2が本発明にいう第一の点であり、貫入終了地点P3が本発明にいう第二の点であり、貫入開始地点P2と貫入終了地点P3とがそれぞれカットラインL、カットラインL2上の同一の点であった。これに対して、第3の実施形態では貫入開始地点P2が本発明にいう第一の点であり、貫入終了地点P3が本発明いう第二の点である点においては同じであるが、貫入開始地点P2と貫入終了地点P3とはカットラインL3上の異なる点である。また、本発明にいう第一の点がカットラインL3の始点及び終点に相当する。このように本発明にいう第一の点及び第二の点がカットラインL3上の異なる点であっても、第1の実施形態及び第2の実施形態と略同様の動作により材料Wを切断することができる。
【0047】
まず、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に、切断刃Sの切先S3を材料Wの上方における移動開始地点P1に位置させる。次いで、移動開始地点P1から貫入開始地点P2に向けて降下ラインに沿って切断刃Sを材料Wに対して相対的に降下させつつ前進させる。そして貫入開始地点P2に切先S3が達すると、貫入終了地点P3に達するまで、所定のカットラインL3に沿って切断刃SをX,Y方向について前進させながら、Z方向については切断刃Sを材料Wに対して相対的に降下させる。
【0048】
そして、切断刃Sの切先S3が貫入終了地点P3に達した後は、切断刃Sの高さを維持した状態で、カットラインL3に沿って、逆方向(他方向)にカットラインL3に沿って切断刃SをカットラインL3の終点(P4)まで移動させる。このように、カットラインL3の形状が閉曲線形状ではない場合であっても第1の実施形態及び第2の実施形態と同様の動作により材料Wを所定の形状で切り出すことができる。なお、切断終了後は、切先S3が材料Wから脱するまで切断刃SをカットラインL3の終点(P4)においてZ方向に対して直線的に上昇させた後、切断刃SをカットラインL3に沿って移動させ切先S3が移動停止地点P5に達した至るところで停止する。
【0049】
以上、本発明のカッティング装置について具体的な実施形態を示して説明したが、本発明はこれまでに述べた実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に従う範疇で種々の変更を加えたものも含まれる。例えば上記実施形態では、固定した材料Wに対して切断刃Sを動かすことによって切断を行うようにしていたが、固定した切断刃Sに対して材料Wを動かすようにしてもよい。また、本発明のカッティング装置を使用して材料Wを切断する場合、材料Wを切り出すためのカットラインの形状は任意に選択可能である。例えば、カットラインが直線であってもよいし、曲線であってもよく、上記のように本発明にいう第一の点と第二の点とがカットライン上の同じ点であってもよいし、異なる点であってもよい。
【0050】
また、切断刃Sを材料Wに貫入させる深さも、切先S3が材料Wの裏面に達する場合に限られるものではない。例えば、上述した第1の実施形態では円形の穴が形成されるように材料Wを切断したが、円形の突起が形成されるように切断することも可能である。この場合は、切断刃Sを前進させつつ材料Wの厚み方向の途中まで貫入させ、更にその深さを維持したまま円を描くようにこれを1周前進させた後、切断刃Sを前進させながら抜去することによって、円形の溝を形成しておく。その後は、例えば材料Wを載置する向きを変えるなどして溝の外側部分を取り除くように切断を行えばよい。また上述した実施形態では切断刃Sを真下に向けていたが、α方向移動手段7を駆動させて切断刃Sを傾けることにより、例えば円錐面形状に材料Wを切り出すことも可能である。
【符号の説明】
【0051】
1:カッティング装置
2:ベース(材料保持手段)
3:ヘッド
4:X、Y方向移動手段(移動手段)
4a:Y軸フレーム
4b:Y軸レール
4c:Y軸ナット
4d:Y軸移動ベース
5:Z方向移動手段(昇降手段)
5a:Z軸レール
5b:Z軸ナット
5c:Z軸移動ベース
5d:Z軸モータ
5e:ボールねじ
6:θ方向移動手段(移動手段)
6a:ベアリング
6b:θ回転軸
6c:θ軸ベース
6d:θ軸プーリ
6e:θ軸モータ
7:α方向移動手段(移動手段)
7a:α回転軸
7b:α軸プーリ
7c:α軸モータ
7d:スプラインケース
7e:スプライン軸
7f:ホルダー
8:振動手段
8a:クランク
8b:偏心カム付きシャフト
8c:振動付与用プーリ
8d:振動付与用モータ
9:材料押圧手段
9a:押圧板
9b:ガイド
9c:弾性体
L:カットライン
P1:移動開始地点
P2:貫入開始地点(第一の点)
P3:貫入終了地点(第二の点)
P4:抜去終了地点
P5:移動停止地点
S:切断刃(切断手段)
S1:延在面
S2:刃先
S3:切先
W:材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6