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7249646冷結晶化材および蓄熱において冷結晶化を利用するための方法
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  • -冷結晶化材および蓄熱において冷結晶化を利用するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】冷結晶化材および蓄熱において冷結晶化を利用するための方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20230324BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20230324BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20230324BHJP
   C08L 25/06 20060101ALI20230324BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
C09K5/06 M
C09K5/06 Z
C08L33/02
C08L79/04 Z
C08L25/06
F28D20/02 D
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019523683
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 FI2017050758
(87)【国際公開番号】W WO2018083383
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-30
(31)【優先権主張番号】20160266
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510063878
【氏名又は名称】アールト・ユニバーシティ・ファウンデイション・エスアール
【氏名又は名称原語表記】Aalto University Foundation sr
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】サッラ・プーッポネン
(72)【発明者】
【氏名】アリ・セッパラ
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108535(JP,A)
【文献】特開2016-069510(JP,A)
【文献】特開2006-043495(JP,A)
【文献】特開2012-140600(JP,A)
【文献】特開2015-183973(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141866(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
C08L33/02
C08L79/04
C08L25/06
F28D20/02
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
少なくとも2つのコンポーネントを含んで成り、
少なくとも2つのコンポーネントの一方が糖アルコールを含む過冷却相変化材であり、該過冷却相変化材が過冷却状態にあり、組成物が少なくとも組成物のガラス転移点に近い温度又は該ガラス転移点よりも低い温度へと予め冷却される際において、少なくとも2つのコンポーネントの他方が過冷却相変化材の極性基と強い相互作用を形成することで該過冷却相変化材を安定化させることが可能な架橋された極性および/またはイオン性ポリマーであり、
過冷却相変化材は、その冷結晶化温度を超える温度へと加熱する際に冷結晶化可能であり、
前記糖アルコールがエリトリトールであり、前記極性および/またはイオン性ポリマーがポリアクリレートであることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
極性および/またはイオン性ポリマーが、過冷却相変化材の分子またはイオンの移動を抑制し、それによって結晶化を抑制することにより、過冷却状態で過冷却相変化材を安定化させることが可能であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
極性および/またはイオン性ポリマーが、過冷却相変化材の極性基とイオン―双極子相互作用を形成することにより、過冷却状態で過冷却相変化材を安定化させることが可能であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
温度が組成物のガラス転移点へと又は該ガラス転移点よりも低い温度へと低下される際に、ガラス化可能であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
ポリマーがエチレングリコールジアクリレート、ジ(エチレングリコール)ジアクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、トリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、N,N ' -メチレンビスアクリルアミド、もしくはN,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド又はこれらの任意の組合せである架橋剤で架橋されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
過冷却相変化材がポリマーマトリックス内に均一に分散されていることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
過冷却相変化材の溶液中でのポリマーのモノマーの重合により、過冷却相変化材がポリマーマトリックス内に分散されていることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
過冷却相変化材の量が組成物の総重量の50重量%を超え、ポリマー量が組成物の総重量の5~40重量%であることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の組成物を含んで成り、過冷却相変化材の融解潜熱および結晶化潜熱がそれぞれ蓄熱および放熱のために利用可能となっていることを特徴とする、蓄熱材。
【請求項10】
蓄熱温度が過冷却相変化材の冷結晶化温度未満である限り、潜熱を過冷却相変化材内に蓄えることが可能であることを特徴とする、請求項に記載の蓄熱材。
【請求項11】
蓄熱方法であって、
少なくとも2つのコンポーネントを含んで成る組成物を蓄熱材として用い、
少なくとも2つのコンポーネントの一方が糖アルコールを含む過冷却相変化材であり、該過冷却相変化材が過冷却状態にある際に、少なくとも2つのコンポーネントの他方が過冷却相変化材の極性基と強い相互作用を形成することで過冷却相変化材を安定化させることが可能な架橋された極性および/またはイオン性ポリマーであり、
前記糖アルコールがエリトリトールであり、前記極性および/またはイオン性ポリマーがポリアクリレートであり、
冷結晶化温度を超える温度へと過冷却相変化材を加熱する際において過冷却相変化材を冷結晶化可能であり、
組成物を過冷却状態にし、少なくとも組成物のガラス転移点に近い温度又は該ガラス転移点よりも低い温度へと組成物をより冷却することにより、組成物内に熱を蓄えることが可能であり、これに対応して冷結晶化温度を超える温度に過冷却状態にある組成物を加熱することにより該過冷却状態にある組成物から熱を放出することを特徴する、蓄熱方法。
【請求項12】
過冷却相変化材の融解時に熱エネルギーを蓄え、少なくとも過冷却相変化材の冷結晶化温度へと過冷却相変化材を加熱することにより蓄えられた熱エネルギーを放出させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
加熱の間に加熱パルスの形態で過冷却相変化材に熱をもたらすことを特徴とする、請求項1又は1に記載の方法。
【請求項14】
冷却速度が0.015~20K/分であることを特徴とする、請求項1~1のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ケルビン単位で温度(T)へと組成物を冷却させ、ガラス転移の最終温度(T)に対する温度(T)の比が最大で約1.1であることを特徴とする、請求項1~1のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ケルビン単位で、少なくとも温度(T)へと組成物を冷却させ、温度(T)を下記式により決定することを特徴とする、請求項1~1のいずれかに記載の方法。
T=T-1.2T
【請求項17】
請求項1~のいずれかに記載の組成物を蓄熱材として用いることを特徴とする、請求項1~1のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
長期蓄熱のための、請求項又は1に記載の蓄熱材の使用、又は請求項1~1のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱時に冷結晶化する材料組成物に関し、当該組成物は相変化材を含んで成る。
【0002】
又、本発明は蓄熱材および蓄熱方法ならびにこれらの使用に関する。蓄熱材および蓄熱方法の動作原理は上述の冷結晶化組成物に基づく。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
短期間および長期間の両方での熱エネルギーの貯蓄は、近年の研究における大きな関心事である。効率的な蓄熱は、例えばエネルギー価格の上昇および再生可能エネルギー源のより効率的な利用に対する要求に関連して、現在のエネルギー問題を緩和するのに役立ち得る。特に、太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーの広範な使用は、再生可能エネルギーに対する需要を絶えず満たすために、その不規則な利用可能性のために熱エネルギーの貯蓄を必要とする。短期間の蓄熱解決策の開発は既に進んでおり、実用的な解決策は実際に既に実施されている。しかしながら、長期の蓄熱は明らかにより困難であり、それに対する新しい解決策が必要とされている。
【0004】
理想的な長期蓄熱材は、利用可能な大量の廃熱(例えば、夏の間の太陽エネルギー)を蓄え、わずかな損失で数ヶ月間でさえも回収された熱エネルギーを蓄え、冬などに要求に応じてエネルギーを放出する。効率的で長期的な蓄熱は、特に家庭や再生可能エネルギー源のエネルギー効率を改善する上で不可欠なイノベーション(又は革新;innovation)である。フィンランドにある建物の暖房は、全体の熱消費量の23%、建物のエネルギー消費量の80%に相当する。
【0005】
蓄熱は、熱化学、材料の顕熱または材料の潜熱に基づく技術に分類される。現在、熱は大型の水タンクに長期間貯蓄され、その動作は顕熱に、即ち水の比熱容量の利用に基づいている。温水タンクは効率的な断熱材を必要とし、温水タンクのエネルギー密度は低く、熱損失は長期の蓄熱にて高い。
【0006】
現時点では、潜熱に基づく大型の商用長期蓄熱装置はない。潜熱蓄熱は、融解潜熱の利用および相変化材(PCM)(phase change materials)の結晶化に基づいている。典型的には、PCMは狭い温度範囲内で動作し、短期間の蓄熱のために、例えば日中の建物の温度変化を安定させるために利用される。従って、添加剤を使用することによりPCMの過冷却の防止を抑制することを目的としている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。過冷却とは、融解した材料がその平衡相変化温度(通常は融解温度)より低い温度で液体形態のままである現象を意味する。相変化材のより広範な利用を遅らせる問題の1つは、実際、材料の相変化はシステムが機能する温度範囲内で生じる必要があるという事実である。
【0007】
蓄熱におけるPCMの過冷却の利用もまた研究されている。過冷却により、熱エネルギーは過冷却液体に長期間貯蓄されたままであり、熱は要求に応じてPCMの結晶化により放出される。過冷却相変化材のための既知の放熱方法は、冷却による一般的な結晶化、種結晶(核形成剤)の使用および電流の使用である。
【0008】
公報EP3000859A1は、蓄熱における糖アルコールの過冷却の利用に関し、糖アルコールは塩、高分子電解質またはポリマーで安定化されている。前記安定化された糖アルコールは、組成に応じて25~112℃の範囲の温度で、通常既に1日未満の貯蓄(又は貯蔵又は保管;storage)時間で自然に(又は自発的に;spontaneously)結晶化して、それによって、材料を早期に結晶化させ、それによりストレージ(又は保管庫又は貯蓄装置;storage)からの早期の熱放出を容易にする。この公報に示されている熱放出方法は、主としてAg/Ag粒子による電場誘起結晶化、または場合により、熱出力装置を使用することにより加速させることができる十分な冷却の結果としての伝統的な結晶化に基づく。
【0009】
ポリマー混合物と糖アルコールとの組み合わせは、米国特許出願公開第2017088761号において研究されている。この公報では、目的は、熱エネルギーが充放電された際に材料の形状の変化ができるだけ小さい蓄熱材を見つけることであった。この特性を達成するために、当該公報では架橋ポリマー混合物および固-固相変化が用いられている。
【0010】
相変化材の過冷却は、市販の小規模ヒートパッケージによっても利用されており、この点に関しては、例えば、米国特許第4077390号および米国特許第4462224号に開示されている。ヒートパッケージでは、熱エネルギーは過冷却塩水和物、典型的には酢酸ナトリウム三水和物に蓄えられる。パッケージ内で金属ストリップ、すなわちいわゆる活性剤(又はアクチベーター;activator)を曲げることで、または核形成剤を過冷却塩水和物(使い捨てヒートパッケージ)に直接添加することで、蓄えられた熱は放出される。ストリップを曲げると、小さな塩水和物結晶がその亀裂部分/切断部分から解放され、当該結晶がPCMの結晶化を初期化する。従って、ヒートパッケージの放熱は核形成剤による不均一結晶化に基づく。
【0011】
PCMの過冷却に基づく上記の蓄熱技術は、i)過冷却状態の準安定性(PCMの自発的結晶化が、貯蓄時間およびサイズの増大と共に起こる可能性がある)およびii)効率的で、拡張性があり、かつ再現性のある放熱技術がないことに起因して、長期の大型蓄熱にて利用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許出願公開第2012148845号明細書
【文献】欧州特許第0754744号明細書
【文献】欧州特許第3000859号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017088761号明細書
【文献】米国特許第4077390号明細書
【文献】米国特許第4462224号明細書
【文献】米国特許第5188930号明細書
【文献】米国特許出願公開第20090096137号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、先行技術に関連する問題の少なくともいくつかを除去し、新しいタイプの材料組成物および熱エネルギーを蓄えるための方法を供することである。
【0014】
特に、本発明の目的は、既存の蓄熱ソリューションの蓄熱時間を延ばし、放熱技術の再現性を向上させることである。
【0015】
本発明の1つの目的は、現在の解決策とは異なる長期の蓄熱を可能にする方法を供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、相変化材の潜熱、特に冷結晶化に基づいている。
【0017】
冷結晶化は、融解材が冷却後に続く加熱でのみ結晶化する現象である。冷結晶化させるために、融解材は予冷(又は予めの冷却又はプレクーリング;pure-cooling)、即ち融解材のガラス転移温度(T)に近い温度又はそれより低い温度への冷却を要する。材料の温度がそのガラス転移温度より低くなると、材料はガラス化する。ガラス状態では、材料は固体であるがその構造から非晶質である。
【0018】
本発明において、冷結晶化材により、蓄熱に対してより安定である蓄熱材が得られ、その融解-結晶化サイクルの再現性が著しく改善されることが分かった。これは、材料の粘度の急激な増加、および任意には冷却時の最後のガラス化により大きく影響され、長い貯蓄時間にもかかわらず結晶構造内へのPCM分子の配向を抑制する。材料の粘度が十分に低下すると、PCMは冷結晶化によりその後の加熱でのみ結晶化することができる。
【0019】
本発明による蓄熱方法では、その方法の実施は本発明による冷結晶化材に基づいており、PCMの融解および冷結晶化は蓄熱および放熱に利用される。
【0020】
より正確には、本発明による解決策は、独立請求項の特徴部分に規定されているものにより主に特徴付けられる。
【発明の効果】
【0021】
多くの利点が本発明により得られる。従って、提示された組成物のPCMは、融解の間に多量の熱エネルギーを蓄え、冷結晶化により蓄えられた熱エネルギーを放出する。従前に研究された冷結晶化材と比較して、本発明の冷結晶化材の潜熱は著しく高く、冷結晶化は連続的な融解-結晶化サイクルにてより再現性がある。
【0022】
材料を蓄熱に使用することができ、その場合、蓄熱の動作原理は、PCMの融解、材料のガラス転移温度に近い温度又はガラス転移温度よりも低い温度への冷却(蓄熱)、および冷結晶化(放熱)に基づく。小さい熱パルス又は要求に応じて加熱することにより、材料から熱エネルギーを放出することが可能である。
【0023】
この方法は、長期間の蓄熱に特に適しているが、短期間の蓄熱にも用いることができる。
【0024】
冷結晶化材組成物の相変化材は、上記のように、融解の間に多量の熱を蓄え、冷結晶化の間に蓄えられた熱エネルギーを放出する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、長期蓄熱時における本発明の一実施形態による蓄熱材の一般的な動作原理を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の冷結晶化材は、概して相変化材および添加剤を含んで成る。当該材料は蓄熱材として用いられるのに特に適している。
【0027】
概して、従前に研究/開発された冷結晶化材の潜熱はほとんど非常に低いか、又は冷結晶化は数回の相変化サイクルに対して再現可能ではなく、熱特性を利用することは実用的ではない。
【0028】
本解決策は、相変化材と、添加剤、即ち典型的には極性、イオン性、又は極性およびイオン性のある他のコンポーネント(又は成分;component)とを含んで成る冷結晶化材に関する。
【0029】
一実施形態によれば、この材料は顕著な潜熱(組成に応じて平衡相変化温度で~約400MJ/m)を有し、冷結晶化は数回の融解-結晶化サイクルで再現(又は繰り返し又は反復;repeatable)可能である。
【0030】
冷結晶化の再現性および高い相変化熱は材料を蓄熱用途に適したものとする。従って、本解決策は、特に、蓄熱材および蓄熱方法に関し、その作用は上述の冷結晶化材に基づく。
【0031】
相変化材は、相変化に関連して多量の熱を蓄えおよび放出する能力を有する材料である。最も一般的には、特に、固相と液相との間の相転移が蓄熱および放熱に利用される。融解熱、即ち固体から液体への転移の間に材料に結合する潜熱に加え、材料の融解温度および密度が相変化材の本質的な特性として含まれる。材料の密度により、特定の量のエネルギーを蓄えるのに必要とされる特定の相変化材の体積を見積もることが可能である。融解熱は、材料を融解するのに必要なエネルギーおよび用途にとって重要な関連性がある。
【0032】
必要な予めの冷却(又はプレクーリング;pre-cooling)、即ちその後の加熱にて材料が安定化し冷結晶化するために材料をガラス転移温度にどれだけ近い温度まで冷却する必要があるかは、材料の組成に依存する。例えば、エリトリトールとD-マンニトールポリアクリル酸ナトリウムの組成物の場合、本発明のある実施形態によれば、材料はガラス転移温度未満に冷却される必要はないが、当該温度に近いことで十分である。一実施形態によれば、これらの組成物については、予冷温度(T)とガラス転移の終了温度(T)との間の比(T/T)はケルビンで1.1未満であれば十分である。
【0033】
本発明による予め冷却された材料の冷結晶化温度(Tcc)より低い温度では、材料は自然(又は自発的;spontaneous)結晶化、即ち熱放出することなく、長期間にわたり熱エネルギーを蓄えることができ、好ましくは核剤を当該材料に加えても材料が結晶化しない。従って、材料の蓄熱は、いくつかの従前に開発された蓄熱材料のように環境の汚染物質または保管タンクの表面粗さに敏感ではない。
【0034】
特に、当該材料は、放熱を防ぐために、保管温度が当該材料のTcc未満に常に維持されるような保管用途で使用することができる。材料のTccは材料の構造に依存する。例えば、本発明の一実施形態によれば、エリトリトール―ポリアクリル酸ナトリウム材のTccは、材料の組成に応じて0~80℃の温度範囲に調整することができる。
【0035】
熱パルスにより、又は材料組成物のPCMが冷結晶化するTccよりも高い温度まで材料を加熱することにより、熱放出を初期化することができる。好ましくは、熱パルスに必要なエネルギー量は少ない。結晶化の間、材料の温度は平衡相変化温度(実際には融解温度)に向かって上昇する。
【0036】
本発明では、用語「材料」、「組成物」または「材料組成物」はそれぞれ、互いに混合された相変化材と添加剤とを含む物質の組成物に関する。「PCM-ポリマー組成物」は同じ意味を有する。
【0037】
図1は、長期蓄熱の際における本発明の一実施形態による蓄熱材の一般的な動作原理を示す。熱エネルギーは、材料のPCMを融解することにより材料に蓄えられる(吸熱融解の相変化は、~100℃、点AでDSC(示差走査熱量測定)曲線のピークとして見ることができる)。加熱サイクルは実線で示されている。冷却サイクル(破線曲線)では、相変化は起こらない。相変化材は、その後の加熱サイクルにて冷結晶化により結晶化する。(発熱結晶化の相変化は、~20℃、点CにおけるDSC曲線の下方ピークとして見ることができる。)図1は材料の4つの加熱-冷却サイクルを示し、蓄熱および放熱サイクルが年1回である場合、当該サイクルは4年での蓄熱方法の使用に対応する。この図から、材料の融解および結晶化は連続した相変態(又は転移;transformation)サイクルにおいて同様のままであることがわかる。
【0038】
一実施形態によれば、材料組成物中の相変化材の量は、好ましくは組成物の全重量の50質量%を超え、これにより添加剤の量は組成物の全重量の50質量%未満である。
【0039】
好ましい実施形態によれば、相変化材は過冷却をする必要がある。相変化材の種類は、例えば、糖アルコール、ポリマー、塩水和物もしくは塩化合物、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。
【0040】
一実施形態では、材料中に含まれる添加剤または追加のコンポーネント、例えばポリマーは、相変化材の過冷却状態を安定化させるので、材料はゆっくり冷却されても結晶化することなく過冷却される。
【0041】
好ましい実施形態によれば、材料中に含まれるポリマーなどの添加剤または追加のコンポーネントは、相変化材の過冷却状態を常にガラス転移点近く、ガラス転移点未満に安定化させ、それによって冷結晶化温度を超えて相変化材を加熱する際に材料の冷結晶化を可能にする。
【0042】
過冷却相変化材(supercooling phase change material)は、温度がその相変化温度未満に低下する際でさえ、液体形態のままである。過冷却材を更に冷却することにより、深過冷却状態に近づき、材料の粘度がすばやく増加し、相変化材分子の結晶化の可能性が減少する。更に冷却することにより、ガラス転移点が達成され、材料の粘度は固体材料の粘度に相当するが、相変化材はガラス状態にある。これにより、材料の構造は非晶質であり、即ち材料は長距離秩序(long range order)を欠いているが、局所的に組織化された分子配置が存在し得、この事が過冷却状態の安定性に寄与する。
【0043】
好ましい一実施形態によれば、相変化材は極性を有し多形であり(polymorphic)、好ましくは糖アルコールである。過冷却糖アルコールの融解温度は典型的には~90~150℃であり、融解潜熱は200MJ/mを超える。更に、糖アルコールは無毒で安価である。糖アルコールは、例えば、エリトリトール、マンニトール、特にD-マンニトール、キシリトール、アラビトール、ソルビトール若しくはトレイトール、好ましくはエリトリトールまたはD-マンニトール、またはこれらの2つ以上の組み合わせであり得る。
【0044】
一実施形態では、相変化材は糖アルコールまたは2つ以上の糖アルコールの混合物からなる。
【0045】
材料の量が相当少なく、冷却速度が速い際、典型的には50K/分を超える際、純粋な糖アルコールはランダムに冷結晶化し得ることが分かった。しかしながら、純粋な糖アルコールの冷結晶化は、実用的な量の材料で急速な冷却を行うことは不可能であり、自然結晶化の可能性はサンプルサイズを増やすことで増加し、核中心の除去は困難であるために活用することができず、また活用することも意図されていない。例えば、サンプルの不純物または容器の表面粗さは、過冷却状態の核形成中心として作用する可能性がある。これらの問題のために、本発明において相変化材を適切な添加剤と組み合わせることは不可欠である。
【0046】
好ましい実施形態によれば、可能な限り多量の熱エネルギーを蓄えることができるように相変化材料の潜熱は可能な限り高い。好ましくは、潜熱は100kJ/kgを超え、より好ましくは300kJ/kgを超える。一実施形態によれば、相変化材の潜熱は、例えば100~400kJ/kgの範囲内であり得る。
【0047】
一実施形態によれば、相変化材の融点は、加熱用途と比較して実用的なレベル、例えば30~200℃、好ましくは30~100℃である。純粋なPCMの融点は、PCMおよび添加剤により形成された組成物のうちの1つと異なり得る。 典型的には、居住空間の暖房需要に適した融点は30~60℃の範囲内であり、温水の加熱需要に適した融点は60~100℃の範囲内である。
【0048】
好ましい実施形態によれば、使用される添加剤はイオン性および/または極性を有する。添加剤のイオン性および/または極性は、相変化材分子の移動により、粘度の増加およびイオン-双極子相互作用等の強い相互作用による結晶化を防止することにより、相変化材の過冷却状態の安定化を可能にする。
【0049】
好ましい実施形態によれば、本発明による冷結晶化材に含まれるコンポーネント、PCMおよび添加剤のうちの少なくとも1つはポリマーである。
【0050】
一実施形態によれば、ポリマー相変化材の例はポリエチレングリコール(PEG)である。ポリマー相変化材は、極性および/またはイオン性のポリマー添加剤、または非ポリマー添加剤と組み合わせることができる。適切な非ポリマー添加剤は、例えば塩化合物であり得る。
【0051】
PEGの分子量は広い限度内で変わり得る。一実施形態では、PEGの分子量は300g/モル~10000000g/モルである。PEGの典型例はPEG(400)である。
【0052】
実施形態において添加剤がポリマーである本発明による実施形態を以下に示す。しかしながら、相変化材が組成物のポリマーコンポーネントである、両方のコンポーネントがポリマーである、または組成物がポリマーコンポーネントを含まない状況にも適用できるように、示される実施形態は広く解釈されるべきである。ポリマー相変化材の場合、適切な実施形態は、特にポリマーの三次元ウェブ状構造に関するものである。いずれにせよ、相変化材と添加剤との間の強い相互作用は常時極性/イオン性添加剤を必要とする。
【0053】
好ましい実施形態によれば、材料に使用される相変化材に加え別のコンポーネントはポリマーである。これはイオン性または好ましくは極性であり得る。
【0054】
一実施形態によれば、冷結晶化材組成物は、ii)ポリマーマトリックス中に分散されたi)相変化材を含んで成る。
【0055】
「ポリマーマトリックス」という用語は、互いに結合しているポリマー鎖により形成されている三次元、特にウェブ状構造に関する。
【0056】
ある好ましい実施形態によれば、極性/イオン性ポリマーが使用され、このポリマーは、相変化材分子の移動を抑制し、それにより結晶化を抑制することにより相変化材の過冷却状態を安定化させる。典型的には、これは、相変化材分子の相互作用を妨害する相変化材の極性基との強い相互作用、例えばイオン-双極子相互作用、および材料の粘度の増加により起こる。又、ポリマーのサイズ、即ち分子量も、材料の構造を安定化させ粘度を増大させるその能力に影響を与える。より大きなまたは架橋された分子は、小さなサイズの分子よりも過冷却状態をよりよく安定化させる。
【0057】
好ましくは、材料中のポリマーの量は、材料の潜熱を可能な限り高く維持するために可能な限り少なくする。ポリマーの量は、材料の全重量の例えば5~40重量%、好ましくは例えば5~20重量%であり得る。
【0058】
好ましい実施形態によれば、ポリマーは高い電荷密度を有する高分子電解質である。使用される高分子電解質は、例えばポリアクリル酸、部分的にまたは完全に中和されたポリアクリル酸、ポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム)ポリエチレンイミンまたはポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、好ましくは例えばポリアクリル酸ナトリウムであり得る。
【0059】
好ましくは、ポリマーは粘性を有し、特定の用途の熱エネルギー貯蓄プロセスの温度に耐え得る。ポリマーの高粘度により、形成されたPCM-ポリマー組成物も高粘度、すなわち好ましくは少なくとも水よりも高い粘度を有する。しかしながら、組成物の粘度は、PCMの結晶化を完全に抑制するために高いに越したことはない。
【0060】
好ましくは、本組成物は、過冷却相変化材と、当該相変化材が分散された、特に均一に分散されたマトリックスを形成するポリマーとを含んで成り、融解組成物は過冷却状態で安定であり、組成物の相変化材を冷結晶化温度よりも高い温度に加熱すると冷結晶化させることができる。
【0061】
そのような組成物は、例えば温度がガラス転移点以下(又はガラス転移点又はガラス転移点よりも低い温度;glass transition point or below it)に低下するにつれてガラス化することができる。
【0062】
一実施形態によれば、ポリマーが架橋されており、これにより相変化材が分散されている三次元ポリマーマトリックスが形成されている。好ましくは、相変化材は三次元ポリマーマトリックスに均一に分散されている。三次元ポリマーマトリックスは、結晶化の再現性に特に影響を及ぼす。ある理論によれば、他のいかなる選択肢を制限することなく、これは、材料が融解している間に熱エネルギーの放出と関連する結晶化が相当より生じる材料の構造の完全な再配向を抑制する三次元ポリマーマトリックスの能力に基づいている。
【0063】
一実施形態によれば、好ましくは極性である別の架橋剤がポリマーの架橋に使用される。架橋剤は、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジ(エチレングリコール)ジアクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、トリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、またはN,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミドであり得る。
【0064】
材料中の架橋剤の量は、材料組成に応じて、材料の全重量の典型的には5重量%未満、好ましくは0~2重量%、より好ましくは1~2重量%である。
【0065】
一実施形態では、ポリアクリレートポリマーの分子量は少なくとも1,000g/mol、好ましくは少なくとも約30,000,000g/mol、例えば約10,000~20,000,000g/ molである。
【0066】
一実施形態では、ポリアクリレートポリマーは少なくとも部分的に架橋されており、その分子量は少なくとも5,000g/mol、例えば10,000~15,000,000g/mol又は50,000~10,000,000g/molである。
【0067】
材料の冷結晶化温度Tccは、熱エネルギーを材料内に蓄えることができる温度、および結晶化を生じさせるために材料を加熱する必要がある温度を規定する。材料のTccは、例えばポリマーの極性/高分子電解質のイオン強度、ならびに材料中のPCMおよび架橋剤の化学的性質および量に依存する。最適な極性/イオン強度および架橋剤の量は材料の組成に依存する。例えば、糖アルコールポリアクリレート材にて、架橋剤の量は好ましくは1~2質量%である。架橋剤は、PCMが融解している間にポリマー鎖の再配向を抑制する。従って、架橋剤の使用は複合材の長期性能を向上させる。好ましくは、使用される高分子電解質のイオン強度は、PCM-ポリマー相互作用の強度に影響を与える。ポリマーマトリックスとPCMとの間にイオン双極子相互作用があるほど、ポリマーは、糖アルコールの過冷却状態を安定させることができる。しかしながら、イオン‐双極子相互作用は、相変化材の結晶化を完全に抑制するほど強くはなり得ない。例えば、エリトリトール‐ポリアクリレート組成物の場合、糖アルコールの量が65質量%であるため、ポリアクリレートの(モル)中和度は約5~25%が最適である。エリトリトールの量が80質量%であるエリトリトール-ポリアクリレート組成物において、最適な中和度は、好ましくは約25~75%である。
【0068】
また、本技術は、蓄熱のために、PCMおよび添加剤を含んで成る材料の融解-冷結晶化サイクルを利用する蓄熱方法を供する。
【0069】
好ましい実施形態によれば、本発明の材料は蓄熱方法にて使用される。
【0070】
一実施形態によれば、冷結晶化材を相変化材の融点以上に加熱する。相変化材が融解した後、材料を冷却する又は所望の冷却速度で冷却する。好ましくは、相変化材は過冷却状態であり、冷却の間に液体状態を維持する。
【0071】
ガラス転移点以下付近まで材料を冷却し得る。
【0072】
一実施形態では、ケルビン単位で、冷却温度(T)とガラス転移の終了温度(T)との間の比(T/T)は、最大で約1.1、好ましくは約1.1未満である。
【0073】
別の実施形態では、ケルビン単位で、少なくとも温度(T)へと材料を冷却させ、温度(T)を下記式により決定する。
T=T-1.2T
【0074】
組成物のガラス転移点T近くまで材料を冷却する一実施形態では、ガラス転移点よりも最大で約15℃、特に最大で10℃、好ましくは最大で5℃、例えば2℃...0.1℃高い温度にまで材料を冷却する。
【0075】
別の実施形態では、組成物のガラス転移点(T)に相当する温度へと材料を冷却する。
【0076】
第3実施形態では、ガラス転移点(T)未満の温度にまで材料を冷却する。例えば、ガラス転移点(T)よりも、少なくとも0.1℃、例えば少なくとも1℃、好ましくは少なくとも5℃低い温度へと材料を冷却する。
【0077】
一実施形態では、ガラス転移点(T)よりも少なくとも約10℃、例えば少なくとも約15℃、特に少なくとも約20℃低い温度に冷却する。
【0078】
冷却される温度が低くなるほど、通常は安定性が良くなる。
【0079】
実際には、ガラス転移点Tよりも最大で100℃低い温度に一般的に温度を下げる。
【0080】
相変化材のガラス転移温度近く、特にガラス転移温度未満になると、相変化材は非晶質構造を有する固体形態にガラス化する。材料がその冷結晶化温度より低い温度に保たれる限り、材料は非結晶化されたままである。材料により蓄えられた熱エネルギーが放出される際、熱パルスが材料に向けられ、それにより材料の温度をその冷結晶化温度より高く上昇させ、熱エネルギーが放出されている間に材料が結晶化する。この後、サイクルは最初から開始され得る。
【0081】
一実施形態によれば、融解後の材料の冷却速度は、好ましくは5K/分未満の用途につき、例えば0.01~20K/分、好ましくは例えば0.05~5K/分であり得る。典型的には、大量の材料の効率的な冷却は多くのエネルギーを必要とし、その結果有益ではないので、蓄熱材の動作に必要とされる冷却速度が遅いほど、用途にとってより良い。
【0082】
一実施形態によれば、少なくとも1週間、最も好ましくは少なくとも4週間、例えば1~60ヶ月、例えば1~24ヶ月間、材料の冷結晶化温度より低い温度で熱エネルギーを蓄えることができる。
【0083】
一実施形態(方法1)によれば、相変化材は、相変化材とポリマーとを含んで成る、本発明による材料組成物中のポリマーマトリックス中に均一に分散されている。
【0084】
そのような組成物は、極性相変化材を適切な極性溶媒に最初に溶解させることにより製造することができる。最も好ましくは、PCMが材料の製造温度で結晶化することなく溶解したままである最小量の溶媒がある。
【0085】
その後、PCM溶液中でモノマーを、可能な架橋剤および/または中和剤と重合させる。なお、PCMは形成するポリマーマトリックス内に均一に分散されている。重合温度は、材料の化学的性質に応じ、例えば30~80℃であり得る。
【0086】
重合は、例えばラジカル開始剤を用いて速やかに開始させることができ、または縮合重合の場合には、重合を促進させるために触媒として例えば酸または塩基を使用することができる。好ましくは、ビニル重合は不活性雰囲気中、例えば窒素ガス中で行われる。最後に、過剰の溶媒を複合材から蒸発させる。
【0087】
一実施形態(方法2)によれば、予め製造された又は購入された親水性ポリマーを水性PCM溶液と混合することにより材料を製造することができる。PCM溶液を極性ポリマーに吸収させた後、溶媒を材料から蒸発させる。典型的には、PCMがポリマーマトリックス中により均質に混合されるので、方法1によってより最適な材料が製造される。
【0088】
本発明の実施形態を考慮すると、本発明による材料の組成、製造、動作原理または使用に関する所与の参照値は、材料の組成に相当依存していることに留意されたい。与えられた値は、本発明のための絶対値として解釈されるべきではなく、示唆的な(又は表示的;indicative)な例として解釈されるべきである。主に、その目的は、できるだけ低い冷却速度で作用する組成物を見出すことによりできるだけ高い潜熱を得ることであり、安定した貯蓄モードを得るために極低温まで冷却することを要しない(最適貯蓄モード温度は例えば室温又は断熱されていない地下蓄熱の場合約5~10℃であり得る)。その相変化温度は用途に適している。
【実施例
【0089】
実施例1:エリトリトールポリアクリレート材の製造
エリトリトールの量が溶液の重量の約60質量%になるように、エリトリトールを60℃のイオン交換水に溶解した(例えば、6gエリトリトール/10gエリトリトール+水)。この後、アクリル酸モノマーを中和するのに使用される塩基、例えばNaOHペレットをPCM水溶液に添加した。塩基量については、高分子電解質の所望のイオン強度に従い調整した。アクリル酸とNaOHのような一価不飽和塩基の場合、中和反応は1:1のモル比であり、すなわち例えば50%ポリアクリレートを製造する場合、NaOH:アクリル酸は1:2である必要がある。アルカリ溶液の製造後、架橋剤と共にアクリル酸モノマーを混合物に添加した。架橋剤をアルカリ性PCM水溶液に予め添加することもできる。開始剤を添加する前に均一な溶液を注意深く混合した。重合開始剤として、例えばアクリル酸の重合を速やかに開始する過酸化物開始剤を使用することができる。典型的には、重合は5~20分かかり、生成物はゲル状またはより硬質の均質ポリマー材である。重合温度は、例えば50~70℃であり得る。PCMが溶液から結晶化しないように、温度は十分に高い必要がある。アクリル酸の重合反応は強い発熱反応、すなわち放熱反応であり、過剰な水の一部は重合工程で既に材料から蒸発した。最後に、材料中に残っている水の大部分、好ましくは例えば90~95%を、例えば複合材を好ましくは150℃で一晩保持することにより蒸発させた。
【0090】
実施例2:エリトリトール-ポリアクリル酸ナトリウムの熱的性質
エリトリトール-ポリアクリル酸ナトリウム材の異なる組成の熱的性質を、いくつかの連続した加熱-冷却サイクルを用いてDSC(示差走査熱量測定)により調べた。材料に使用された架橋剤は、EGDMA(エチレングリコールジメタクリレート)であった。サンプルについて、融解温度(T)、融解熱(ΔH)、冷結晶化温度(Tcc)、結晶化熱(ΔHCC)およびガラス転移温度(T)を測定した。測定結果を表1に示す。表中、WエリトリトールおよびWEGDMAは、エリトリトールおよびEGDMAの質量分率をそれぞれ示している。Xはポリアクリル酸の中和度を示す。
【0091】
表1.エリトリトール-ポリアクリル酸ナトリウム材の熱的性質
【0092】
実施形態
上記に基づいて、本発明は例えば下記の実施形態を含む。
1.PCM-ポリマー複合体であって、その熱的性質がPCM分子と極性/イオン性ポリマーとの間の引力相互作用を介して調節することができ、融解した複合材のPCMが加熱中に冷結晶化する、PCM-ポリマー複合体。

2.蓄熱材の動作がPCMの過冷却および冷結晶化に基づいており、相変化材の融解潜熱および冷結晶化が蓄熱に利用され、温度が材料の冷結晶化温度より低い場合、長期間複合体に潜熱を蓄えることができる、実施形態1に基づく蓄熱材。

3.蓄熱のためのPCM-ポリマー複合体の特有の融解‐冷結晶化サイクルを利用し、
PCMが融解している際に熱エネルギーが蓄えられ、蓄えられた熱エネルギーが小さな熱パルス又は少なくとも材料の冷結晶化温度までの加熱により放出される、実施形態1又は2に基づく蓄熱方法。

4.組成物であって、過冷却相変化材およびポリマーを含んで成り、ポリマーは相変化材が分散されるマトリックスを形成し、融解組成物が過冷却状態で安定であり、冷結晶化温度よりも高い温度への加熱の際に組成物の相変化材が冷結晶化可能である、組成物。

5.相変化材がポリマーマトリックスの内部に均一に分散されている、実施形態4に記載の組成物。

6.相変化材の溶液中でのポリマーのモノマーの重合により、相変化材がポリマーマトリックス内に分散されている、実施形態4または5に記載の組成物。

7.温度が組成物のガラス転移点以下にまで低下すると、組成物がガラス化することができる、実施形態4~6のいずれかに記載の組成物。

8.相変化材料の量が組成物の全重量の好ましくは50重量%を超え、ポリマー量が組成物の全重量の5~40重量%、好ましくは20重量%未満である、実施形態4~7のいずれかに記載の組成物。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明による材料は蓄熱材として使用することができる。本発明による蓄熱材および方法は、短期間および長期間の両方の蓄熱に用いることができる。特に、本材料は、過冷却状態が極めて安定しているため、長期蓄熱材としての利用に適用できる。
【0094】
本発明による蓄熱材および方法は、家庭用規模でも産業でも用いることができる。短期間の蓄熱としては、本発明による材料および方法は、伝統的な蓄熱材のように、例えば建物内の温度差を平準化するのに適している。長期間の蓄熱としては、本発明による材料および方法は、例えば冬の間太陽からの熱エネルギーを蓄えることにより、再生可能エネルギーの利用を高めるために特に利用することができる。
【0095】
略語
ガラス転移の最終温度、ガラス転移点
cc 冷結晶化温度
PCM 相変化材
図1