(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】伸縮導電配線材料、及びそれを有する伸縮導電配線モジュール
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20230324BHJP
【FI】
H05K1/02 B
(21)【出願番号】P 2019561056
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2018046186
(87)【国際公開番号】W WO2019124274
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2017246182
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武岡 真司
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 俊宣
(72)【発明者】
【氏名】山岸 健人
(72)【発明者】
【氏名】高見 弘志
(72)【発明者】
【氏名】我妻 優
(72)【発明者】
【氏名】三原 将
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0065840(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0299270(US,A1)
【文献】特開平6-140727(JP,A)
【文献】特開2014-21894(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0066411(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層を有する可撓性の導電基材が、前記導電層の通電方向に沿って直列及び/又は並列に並ぶ抜き穴及び/又は抜きスリットで貫通した抜き周縁部位を通電可能に繋ぎつつ有し、絶縁弾性体で前記抜き周縁部位を露出せずに封止されて被覆されており、
前記絶縁弾性体が、前記抜き周縁部位に合わせて、前記抜き穴及び前記抜きスリットより小さな貫通スリット及び/又は貫通穴で貫通して
おり、
前記導電基材が、複数の前記抜き周縁部位同士の間に夫々、前記導電基材の長手辺の両辺から中央へ向いて対称に開けられた抜き間隙を有し、前記絶縁弾性体が、前記抜き間隙に合わせて、その抜き間隙より小さな間隙スリット、間隙切れ込み、及び/又は間隙穴で貫通していることを特徴とする伸縮導電配線材料。
【請求項2】
前記導電基材が、前記抜き穴の形状を矩形状、又は角が丸められた矩形状とすることを特徴とする請求項
1に記載の伸縮導電配線材料。
【請求項3】
前記導電基材が、前記抜き穴の丸められた夫々の角の半径寸法を、前記通電方向での前記抜き穴の長さの半分未満とすることを特徴とする請求項1~
2の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項4】
前記導電基材が、前記通電方向に垂直な幅方向の幅長に対し、前記抜き間隙の内縁の最内と、前記抜き穴の内縁の最外との幅長を、1:1~1:20とすることを特徴とする請求項
1に記載の伸縮導電配線材料。
【請求項5】
前記導電基材が、前記抜き穴が、前記通電方向での長さを少なくとも0.3mmとすることを特徴とする請求項1~
4の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項6】
前記導電基材が、可撓性支持体上に前記導電層を有するものであることを特徴とする請求項1~
5の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項7】
少なくとも前記抜き周縁部位を覆いつつ前記導電基材の両面が前記絶縁弾性体により封止されて被覆されていることを特徴とする請求項1~
6の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項8】
前記導電層が、金属膜層、有機導電膜層、及び/又は導電性無機物含有導電膜層であることを特徴とする請求項1~
7の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項9】
前記導電層が、可撓性であって、非伸縮性の材質で形成されていることを特徴とする請求項1~
8の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項10】
前記絶縁弾性体が、シリコーン樹脂製、シリコーンゴム製、ポリウレタン製、塑性エラストマー製、エチレンプロピレンゴム製、又はフッ素ゴム製であることを特徴とする請求項1~
9の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項11】
前記可撓性支持体が、ポリプロピレン製、ポリスチレン製、ポリエチレンテレフタレート製、ポリカーボネート製、ポリアセタール製、ポリアミド製、ポリイミド製、ポリエーテルエーテルケトン製、又はポリフェニレンサルファイド製の絶縁性の可撓性支持体であることを特徴とする請求項
10に記載の伸縮導電配線材料。
【請求項12】
前記抜き穴、貫通穴及び/又は抜き周縁部位が夫々の角で丸められ、及び/又は、
前記抜きスリット及び/又は前記貫通スリットが夫々の端部で貫通孔を有することを特徴とする請求項1~
11の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項13】
前記抜き間隙が夫々の角で丸められていることを特徴とする請求項1に記載の伸縮導電配線材料。
【請求項14】
前記導電基材が、前記導電層の端部に、電気接続コネクタを有していることを特徴とする請求項1~
13の何れかに記載の伸縮導電配線材料。
【請求項15】
請求項1~
14の何れかに記載の伸縮導電配線材料を、複数有していることを特徴とする伸縮導電配線モジュール。
【請求項16】
前記伸縮導電配線材料が、複数重なり合って一体化していることを特徴とする請求項
15に記載の伸縮導電配線モジュール。
【請求項17】
複数の前記伸縮導電配線材料が夫々、別々に、各導電層の端末で露出した端子となっており、又は各導電層の末端で外部端子に接続していることを特徴とする請求項
15~
16の何れかに記載の伸縮導電配線モジュール。
【請求項18】
複数の前記伸縮導電配線材料が、一対又は複数対の電極となっていることを特徴とする請求項
15~
17の何れかに記載の伸縮導電配線モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェアラブルデバイスやフレキシブル基板等の可撓性デバイスの配線部品として用いられる伸縮導電配線材料、及びそれを有する伸縮性導電配線モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスは、かつて硬質なシリコン基板やガラス基板等上に配線を付しICチップ等の電子部品を実装しているものであった。最近は、軽量化・薄型化・小型化が求められると共に、可撓性や伸縮性を求められるようになっている。
【0003】
生体の動きに追従できるフレキシブル配線材料や配線基板等を有する可撓性電子デバイスとして、ウェアラブルデバイスや医療デバイスや身体能力計測デバイスのような電子デバイスが、用いられるようになってきた。例えば、伸縮性フィルム上に導電性のゴム成分組成物を塗布したり導電性ゴム層を付したりした可撓性電子デバイスなどがある。
【0004】
可撓性の電子デバイスのための導電性を有するフィルムとして、特許文献1に、a)暫定支持体上に第一ポリマー層を、ロール・トゥー・ロール法によって第一ポリマーの溶液からフィルム形状に堆積させ、暫定支持体と第一ポリマー層とを有して得られたフィルムを乾燥する、堆積工程; b)前記a)工程で得られたフィルム上に導電性第二ポリマー層を、ロール・トゥー・ロール法によって、第二ポリマーの水溶液又は懸濁液から堆積させ、暫定支持体と第一ポリマー層と第二ポリマー層とを乾燥する、堆積工程; 及びc)溶媒への浸漬による第一ポリマー層の溶解と引き続く導電性第二ポリマー層の自立性単一層状フィルムの解離とにより、又は暫定支持体から第一ポリマー層の剥離と引き続く第一ポリマー及び導電性第二ポリマーの自立性二層状フィルムの解離とにより、前記b)工程で得られたフィルムから暫定支持体を分離する工程を、有することを特徴とする、少なくとも導電性ポリマーである表面層を有する自立フィルムの製造方法が記載されている。
【0005】
一般に、伸縮性で導電性の弾性体例えば導電性ゴム線や導電性ゴム層の抵抗は、R=ρ×L/S(式中、Rは抵抗値(Ω)、ρは抵抗率(Ωm)、Lは長さ(m)、Sは断面積(m2)で表される。このことから、導電性ゴム線や導電性ゴム層が延びると、伸長して長くなると共に薄くなって断面積が小さくなる結果、抵抗値が上昇する。
【0006】
また、伸長の際に、導電性ゴム線や導電性ゴム層の内部で、又はそれらと伸縮性フィルムとの界面で、マイクロクラック・微小ひびのようなクラックを生じて、抵抗値が上昇する。
【0007】
伸縮性の電子デバイスのための基板として、特許文献2に、配線を備えた絶縁性フィルム基材を有して成る、伸縮性フレキシブル基板であって、絶縁性フィルム基材が、スリットを開口させた開口部を備えており、開口部の開口状態が、絶縁性部材により保持されている伸縮性フレキシブル基板が開示されている。この絶縁性フィルム基材は、絶縁性フィルム基材のスリットを予め広く開口させ三次元変形させている点、及びそのスリットの開口形状を保持したまま絶縁性部材で封止する点で、然程、伸縮性が望めない。しかも、形状変化できる絶縁性フィルム基材全体は、絶縁性部材で封止されているため、伸長変形時の力学的性質が絶縁性部材の伸縮性やゴム弾性の性質に依存する所為で、低伸長領域でも少なからず応力が発生してしまい、伸長したまま維持するにはゴム弾性に対抗する相当の力を必要とする。
【0008】
また、非特許文献1に、構造の三次元化によって導電材を伸縮させる方法として、1枚の紙に互い違いの直線又は蛇腹のスリット加工を施した切り紙構造が、300%以上の伸縮性を有することが報告されている。さらに、カーボンナノチューブと紙もしくはパリレン膜からなるナノコンポジット導電材料を切り紙構造に加工することで、200%以上のひずみに対して導電性(抵抗値)が変化しない伸縮配線の開発に成功している。
【0009】
非特許文献1の方法では、導電材自体にスリットが入っているだけなので、引っ張ると容易く伸長するが、その後、導電材に弾性が無いため、収縮し難い。
【0010】
そのため、可撓性で伸縮性に優れ、コンパクトであり、内部での高い導電性を維持しつつ外界に対する高い絶縁性を有する汎用性の伸縮導電配線材料が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2016/142850号公報
【文献】特開2015-198102号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Nature Materials, 14, p.785-789 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、可撓性であって軽量化・薄型化・小型化が可能で、高い導電性と外部に対する高い絶縁性とを有し、さらに十分な伸縮性を有しつつ反復伸縮で伸縮性の低下を引き起こさず、耐久性に優れた、伸縮導電配線材料、及びそれを有する伸縮性導電配線モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するためになされた伸縮導電配線材料は、導電層を有する可撓性の導電基材が、前記導電層の通電方向に沿って直列及び/又は並列に並ぶ抜き穴及び/又は抜きスリットで貫通した抜き周縁部位を通電可能に繋ぎつつ有し、絶縁弾性体で前記抜き周縁部位を露出せずに封止されて被覆されており、前記絶縁弾性体が、前記抜き周縁部位に合わせて、前記抜き穴及び前記抜きスリットより小さな貫通スリット及び/又は貫通穴で貫通しており、前記導電基材が、複数の前記抜き周縁部位同士の間に夫々、前記導電基材の長手辺の両辺から中央へ向いて対称に開けられた抜き間隙を有し、前記絶縁弾性体が、前記抜き間隙に合わせて、その抜き間隙より小さな間隙スリット、間隙切れ込み、及び/又は間隙穴で貫通していることを特徴とする。
【0015】
この伸縮導電配線材料は、前記導電基材が、複数の前記抜き周縁部位同士の間に夫々、前記導電基材の長手辺の両辺から中央へ向いて又は片辺から他辺へ向いて開けられた抜き間隙を有し、前記絶縁弾性体が、前記抜き間隙に合わせて、その抜き間隙より小さな間隙スリット、間隙切れ込み、及び/又は間隙穴で貫通していることが好ましい。
【0016】
この伸縮導電配線材料は、前記導電基材が、前記抜き穴の形状を矩形状、又は角が丸められた矩形状とすることが好ましい。
【0017】
この伸縮導電配線材料は、前記導電基材が、前記抜き穴の丸められた夫々の角の半径寸法を、前記通電方向での前記抜き穴の長さの半分未満とすると、一層好ましい。
【0018】
この伸縮導電配線材料は、例えば、前記導電基材が、前記通電方向に垂直な幅方向の幅長に対し、前記抜き間隙の内縁の最内と、前記抜き穴の内縁の最外との幅長を、1:1~1:20とするというものである。
【0019】
この伸縮導電配線材料は、前記導電基材が、前記抜き穴が、前記通電方向での長さを少なくとも0.3mmとすることが好ましい。
【0020】
この伸縮導電配線材料は、前記導電基材が、可撓性支持体上に前記導電層を有するものであってもよい。
【0021】
この伸縮導電配線材料は、少なくとも前記抜き周縁部位を覆いつつ前記導電基材の両面が前記絶縁弾性体により封止されて被覆されていてもよい。
【0022】
この伸縮導電配線材料は、例えば前記導電層が、金属膜層、有機導電膜層、及び/又は導電性無機物含有導電膜層であるというものである。
【0023】
この伸縮導電配線材料は、前記導電層が、可撓性であって、非伸縮性の材質で形成されていると、一層好ましい。
【0024】
この伸縮導電配線材料は、前記絶縁弾性体が、例えばシリコーン樹脂製、シリコーンゴム製、ポリウレタン製、塑性エラストマー製、エチレンプロピレンゴム製、又はフッ素ゴム製であるというものである。
【0025】
この伸縮導電配線材料は、絶縁性の前記可撓性支持体が、例えばポリプロピレン製、ポリスチレン製、ポリエチレンテレフタレート製、ポリカーボネート製、ポリアセタール製、ポリアミド製、ポリイミド製、ポリエーテルエーテルケトン製、又はポリフェニレンサルファイド製の絶縁性の可撓性支持体であるというものである。
【0026】
この伸縮導電配線材料は、前記抜き穴、貫通穴及び/又は抜き周縁部位が夫々の角で丸められ、及び/又は、前記抜きスリット及び/又は前記貫通スリットが夫々の端部で貫通孔を有することが好ましい。
【0027】
この伸縮導電配線材料は、前記抜き間隙が夫々の角で丸められていると、一層好ましい。
【0028】
この伸縮導電配線材料は、前記導電基材が、前記導電層の端部に、電気接続コネクタを有しているものであってもよい。
【0029】
前記の目的を達成するためになされた伸縮導電配線モジュールは、前記の伸縮導電配線材料を、複数有しているというものである。
【0030】
この伸縮導電配線モジュールは、前記伸縮導電配線材料が、複数重なり合って一体化していることが好ましい。
【0031】
この伸縮導電配線モジュールは、複数の前記伸縮導電配線材料が夫々、別々に、各導電層の端末で露出した端子となっており、又は各導電層の末端で外部端子に接続していてもよい。
【0032】
この伸縮導電配線モジュールは、例えば複数の前記伸縮導電配線材料が、一対又は複数対の電極となっているというものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の伸縮導電配線材料は、開いて三次元的に変形し得る抜き穴や抜きスリットを持ちつつ導電層を有する可撓性の導電基材を、貫通スリットや貫通穴を持った絶縁弾性体で封止して被覆することにより、伸縮可能となっている。そのため、伸縮運動の際、とりわけ低伸長領域においてかかる応力が殆んど無く、特異な力学特性を持っており、実用領域で使い易い。
【0034】
この伸縮導電配線材料は、導電基材が複数の抜き穴や抜きスリットを持っており引張による伸長とその後の緩みによる復元とで変形しても導電層が追従でき、導電配線として耐久性に優れている。しかもこの伸縮導電配線材料は、伸縮導電配線材料の伸長によって導電基材が撓む程度であって導電基材中での導電層のパス長が変化せず、伸縮導電配線材料の伸縮によっても、マイクロクラックのようなクラックを生じないため、抵抗値が低いまま殆んど変化しない。そのため、配線材料として、極めて優れている。
【0035】
また、この伸縮導電配線材料は、絶縁性を維持するためシリコーン樹脂やシリコーンゴムのような絶縁弾性体で封止されているが、その封止状態でも繰り返し伸縮性を当初のまま維持できる。端末で外部機器や測定対象物に接続する場合に端末を除き露出させずに封止して被覆していることにより、そこで溶液中での検出や生体信号の検出でのノイズの受信を防ぐことができる。
【0036】
この伸縮導電配線材料は、可撓性の導電基材が可撓性支持体上に導電層を有しつつ絶縁弾性体で封止されていると、優れた構造回復性を示し、伸縮後に、伸長前の元の形状へ復元できる。従ってこの伸縮導電配線材料は、絶縁弾性体の弾性特性と形状特性により、伸縮による形状の永久変形を抑制し、高い耐久性を有する。
【0037】
材料の伸び縮みによって伸縮性を発現する従来の導電材料に対して、この伸縮導電配線材料は、それとは異なる抜き穴や抜きスリットによる三次元的な構造変化により、導電性や可撓性を阻害しない形状の絶縁弾性体で封止を行うことができる。それによって、変形時の力学特性が絶縁弾性体のみではなく構造の三次元化に由来する特性も加わり、伸び率を改善することができる。
【0038】
この伸縮導電配線材料を用いて、可撓性であって軽量化・薄型化・小型化が可能で、高い導電性と外部に対する高い絶縁性とを有し、十分な伸縮性を有しつつ反復伸縮で伸縮性の低下を引き起こさず、耐久性に優れた、伸縮性導電配線モジュールにすることができる。
【0039】
伸縮性導電配線モジュールは、伸縮導電配線材料が特に低伸長領域で構造の三次元化による変形が発生するので応力の発生が殆んど無いので、ウェアラブルデバイスやフレキシブル基板等の可撓性デバイスのために実装可能である。この伸縮性導電配線モジュールは、低伸長領域で応力が殆んどかからないから、ウェアラブルデバイスとして使用するときに装着者に不快な装着感を感じさせない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明を適用する伸縮導電配線材料の使用状態を示す平面図である。
【
図2】本発明を適用する伸縮導電配線材料の分解状態を示す模式斜視図である。
【
図3】本発明を適用する別な態様の伸縮導電配線材料中の導電基材と絶縁弾性体とを、夫々示す平面図である。
【
図4】本発明を適用する伸縮導電配線材料の別な態様を示す平面図である。
【
図5】本発明を適用する別な態様の伸縮導電配線モジュールの分解状態を示す模式斜視図である。
【
図6】本発明を適用する伸縮導電配線材料の伸長率と、抵抗変化及び応力変化との相関関係のグラフを示す図である。
【
図7】本発明を適用する伸縮導電配線材料と本発明を適用外の伸縮導電配線材料とにおける伸長率と応力変化との相関関係、及び伸長時と緩め時とでの仕事量の積分比変化のグラフを示す図である。
【
図8】本発明を適用する伸縮導電配線材料と本発明を適用外の伸縮導電配線材料との伸縮前後での状態の写真を示す図である。
【
図9】本発明を適用する伸縮導電配線材料における、繰返し伸縮時での時間と仕事量の積分比変化との相関関係のグラフ、及び繰返し回数と仕事量の積分比変化との相関関係のグラフを示す図である。
【
図10】本発明を適用する伸縮導電配線材料における、周波数とインピーダンスとの相関関係のグラフを示す図である。
【
図11】本発明を適用する伸縮導電配線材料における、導電基材抜き穴の角の半径寸法が違う形状の実施例を並べて示す図である。
【
図12】本発明を適用する伸縮導電配線材料における、抜き間隙の内縁の最内と抜き穴の内縁の最外との幅長が違う形状の実施例を並べて示す図である。
【
図13】本発明を適用する伸縮導電配線材料における、前記通電方向での抜き穴の長さが違う形状の実施例を並べて示す図である。
【
図14】本発明を適用する伸縮導電配線材料と、本発明を適用外で絶縁弾性体していない伸縮導電配線材料の伸長前と伸長途中と伸長後の復元程度との状態の写真を示す図である。
【
図15】本発明を適用する伸縮導電配線モジュールを示す概要図、及びそれにより得られた経過時間と筋電位との相関関係のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0042】
本発明の伸縮導電配線材料1の好ましい一形態は、
図1及び
図2を参照しながら説明すると、可撓性導電層20Aと可撓性支持体20Bとを有する可撓性で平坦な導電基材20と、それを挟んでいる平坦な絶縁弾性体10・30とを、有している。
【0043】
導電基材20中、絶縁性樹脂で形成された可撓性支持体20Bと、その上に付された金属層である導電層20Aとは、同形状である。この導電基材20は、導電層20Aの通電方向に長尺のシート片状である。
【0044】
導電基材20は、複数で長方形形状の抜き穴23が貫通して、長手方向に沿って直列に並んでいる。この抜き穴23は、当初、長手方向に伸長しておらず、長方形形状の短辺が長手方向に沿い長辺が長手方向と垂直となるように、貫通している。抜き穴23の外縁の夫々は、導電層20Aと可撓性支持体20Bとの一部を成す複数の抜き周縁部位24となっている。これによってこの抜き周縁部位24の外縁における長手方向とそれに対する垂直方向とでの幅は、導電基材20における長手方向とそれに対する垂直方向とでの幅と同じである。導電基材20は、複数の抜き周縁部位24同士の隣り合う夫々の間に、抜き間隙22を有している。抜き間隙22は、導電基材の長手辺の両辺から中央へ向いて開けられている。抜き間隙隣り合う抜き周縁部位24同士は夫々、導電基材20の長手方向に沿って中央に存する架橋部位25を有している。架橋部位25は、抜き周縁部位24と同様に、導電層20Aと可撓性支持体20Bとの一部を成していることによって、導電層20Aで通電可能としている。
【0045】
絶縁弾性体10・30は、長手方向で導電基材20と同長となっており、また長手方向に対する垂直方向で導電基材20よりも長くなって導電基材20を包み込むようにのりしろを有するようになっている。抜き周縁部位24は、架橋部位25ごと外界に露出しないように、絶縁弾性体10・30で、封止されて被覆されている。
【0046】
絶縁弾性体10・30は何れも、抜き周縁部位24内の抜き穴23の位置に合わせて、抜き穴23よりも小さな貫通スリット13・33が夫々貫通している。絶縁弾性体10・30は、貫通スリット13・33が抜き穴23よりも小さいことから、貫通スリット13・33の周縁が互いに接合したそれののりしろで抜き周縁部位24を包み込むように封止し接着して被覆していることによって、抜き周縁部位24が外界に露出しないようになっている。
【0047】
また、絶縁弾性体10・30は何れも、抜き周縁部位24間の抜き間隙22の位置に合わせて、抜き間隙22よりも小さな間隙スリット12・32が夫々貫通している。間隙スリット32は、絶縁弾性体10・30の長手方向と直交するように両側から中央に向かいつつ、架橋部位25にまで至らないように、切り込まれている。絶縁弾性体10・30は、間隙スリット12・32が抜き間隙22よりも小さいことから、間隙スリット12・32の周縁が互いに接合したそれののりしろで抜き周縁部位24を包み込むように封止し接着して被覆していることによって、抜き周縁部位24及び架橋部位25が外界に露出しないようにしている。
【0048】
この伸縮導電配線材料1は、絶縁弾性体10の間隙スリット12及び貫通スリット13と、絶縁弾性体30の間隙スリット32及び貫通スリット33とが、導電基材20の抜き周縁部位24間の抜き間隙22と抜き周縁部位24内の抜き穴23を通じて、重なり合って、そこでののりしろ同士で接着している。その結果、抜き周縁部位24が長方形形状から菱形形状への開閉可能となっており、また抜き間隙22が離反可能となっていることにより、この伸縮導電配線材料1は、伸縮可能となっている。
【0049】
この伸縮導電配線材料1は、おもて面側、裏面側にて絶縁弾性体で被覆されていることにより、長手方向に沿う側面の縁まで完全に封止され露出しないように被覆されているが、長手方向での両端の端部21・26の縁が露出して、必要に応じ外部機器に接続可能となっている。
【0050】
この伸縮導電配線材料1は、以下のようにして動作する。
【0051】
伸縮導電配線材料1は、当初、平坦な導電基材20と平坦な絶縁弾性体10・30とに応じて、ほぼ平坦である。伸縮導電配線材料1を長手方向に沿って、端部11・21・31と端部16・26・36とが引き離されるように、比較的弱い引張力で引っ張ると、
図1に示す(a)から(b)へと、抜き周縁部位24が多少捩じれて傾きながら開く。そのとき、抜き周縁部位24の短辺は、引っ張り力に対抗して然程伸びず多少捩じれるだけだが、抜き周縁部位24の長辺は引っ張り力に対抗し切れず湾曲乃至屈曲し大きく捩じれる。また、間隙スリット12・32がそれに併せて、開く。そのとき、間隙スリット12・32が両側から切れ込まれているが架橋部位25にまで至っていないので架橋部位25近傍は然程捩じれないで傾きながら開く。それに応じ、導電基材20とそれに接着している絶縁弾性体10・30とが同様に捩じれながら伸びる結果、伸縮導電配線材料1が伸長する。このとき、抜き周縁部位24内部が長手方向に開いて抜き穴23の長方形形状から、架橋部位25と抜き周縁部位24内部の短辺とを角とする捩じれた略菱形形状乃至略多角形へと変形することによって、伸長に寄与する。それに対して、架橋部位25は延び得ず捩じれないから伸長に寄与せずむしろ抜き周縁部位24の変形過剰又は変形不足となるのを防いでいる。
【0052】
その結果、伸縮導電配線材料1は、抜き周縁部位24を引裂くほど強く引っ張らない限り、自在に伸長する。
【0053】
その後、伸縮導電配線材料1は、引っ張られるのを止めその引張力を開放すると、
図1(a)に示すように、絶縁弾性体10・30の弾性力に応じて、元の形状に戻るように、抜き周縁部位24と、間隙スリット12・32とが、捩じれを解消しながら傾きを減少しつつ、閉じる。そのとき、抜き周縁部位24の短辺部位は、伸びも縮みもしないが捩じれが解消され、抜き周縁部位24の長辺部位は引張力が解放され、併せて間隙スリット12・32は引張力が解消され、それに伴い、それらの湾曲乃至屈曲が元に戻るように再変形する。それに応じ導電基材20と絶縁弾性体10・30との捩じれと傾きとを解消しながら、伸縮導電配線材料1が元の形状にまで縮む。このとき、抜き周縁部位24内部と間隙スリット12・32とが長手方向に沿って閉じて縮むのに寄与する。それに対して、架橋部位25は縮まないから伸縮に寄与せずむしろ抜き周縁部位24の元の形状に戻るのを助けている。このようにして、伸縮導電配線材料1は、伸長した形状に復元する。
【0054】
この伸縮導電配線材料1は、伸縮の際に、導電基材20の形状を、複数並んだ抜き穴23によって変形させるだけであり、絶縁弾性体10・30で封止していることで、伸縮運動にかかる応力が殆んどない。とりわけ、低伸長領域で、応力変化がほとんど発生しない。しかも、伸縮導電配線材料1は、伸縮を繰り返しても、導電基材20の形状の変化によって永久変形や破損を引き起こさず堅牢性・耐久特性に優れているばかりか、導電基材20の抵抗値が低いままでその変化が殆んど無く導電特性に優れている。
【0055】
この伸縮導電配線材料1は、導電基材20は、端子となり得る端部26の縁を除き、絶縁弾性体で確りと封止されているため、不意の漏電や放電を引き起こさず、電気特性に優れている。
【0056】
なお、この伸縮導電配線材料1は、
図1及び
図2に示す形状で説明したが、各構造の形状は任意の形状を取り得る。
【0057】
なお、この伸縮導電配線材料1は、初期状態が平面でなくてもよく、湾曲、屈曲、螺旋となっていてもよい。
【0058】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20の抜き周縁部位24の形状を、長方形形状に代えて、正方形形状や隅立て平角形形状や菱形形状や六角形形状や等脚台形形状のような多角形形状、楕円形状、反り菱形状、角丸長方形形状にしてもよく、又はそれらの組合せにしたものであってもよい。架橋部位25と共に、ジグザク形状にしてもよい。
【0059】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20の抜き穴23を太めで長めの穴とし、絶縁弾性体10・30の貫通スリット13・33を細めで短めの穴としてもよく細めで短めのスリットにしてもよい。導電基材20の抜き穴23を太めで長めのスリットとし、絶縁弾性体10・30の貫通スリット13・33を細めで短めのスリットにしてもよい。
【0060】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20が、絶縁性樹脂で形成された可撓性支持体20Bの上の一部に付された金属層である導電層20Aを有するものであってもよい。
【0061】
伸縮導電配線材料1は、対称であってもよいが、非対称であってもよい。
【0062】
伸縮導電配線材料1は、抜き間隙22や間隙スリット32を有しなくてもよい。
【0063】
伸縮導電配線材料1は、絶縁弾性体10・30を被覆していないときの抵抗値が最大で1kΩ、好ましくは最大で0.2kΩとなるように、導電層20Aを適宜選択することが好ましい。このような抵抗値を持つ伸縮導電配線材料1は、均質でクラックの殆んど無い導電層20Aによって、調整することが可能である。
【0064】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20中、導電層20Aが導電性材料でできた可撓性のものであれば銅・銀・金のような金属や合金でできた金属膜層、カーボンペースト含有導電層膜のような導電性無機物含有導電膜層、有機導電体や有機導電性インクでできた有機導電膜層など任意に選択できる。中でも導電層20Aは、低抵抗かつ高伸展である銅・銀・金であることが好ましい。導電層20Aは、1nm~1mmの厚さに任意に設定できる。この範囲を下回ると導電層20Aを均質な層状に形成し難くなって導電性が悪くなる。一方この範囲を超えると厚過ぎて可撓性を維持し難くなる。その下限は、10nmであると一層好ましく、100nmであるとなお一層好ましい。その上限は、0.5mmであると一層好ましく、0.1mmであるとなお一層好ましい。
【0065】
導電基材20中、導電層20Aが可撓性支持体20Bに、印刷、エッチング、スパッタリング、貼付等で付されている。
【0066】
伸縮導電配線材料1は、導電層20Aが絶縁弾性体10・30に付されたものであると、絶縁弾性体10・30を有さず導電層20Aのみ又はそれが可撓性支持体20Bに付されただけである場合に塑性変形して形状復元しないのに比べて、絶縁弾性体10・30の弾性によって塑性変形せずに形状復元する点で、導電基材20ごと伸縮導電配線材料1の伸縮復元性に優れる。
【0067】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20中、可撓性支持体20Bが絶縁性材料でできた可撓性で弾性のものであればポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートで例示される汎用プラスチック製、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアミドで例示されるエンジニアプラスチック製、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドで例示されるスーパーエンジニアプラスチック製など任意に選択できるが、中でもポリイミド製、ポリエチレンテレフタレート製、ポリカーボネート製、ポリフェニレンサルファイド製などであると好ましい。可撓性支持体20Bは、1μm~1mmの厚さに任意に設定できる。この範囲を下回ると絶縁性や支持性を維持し難くなる。この範囲を超えると可撓性を維持し難くなる。その下限は、10μmであることが一層好ましく、50μmであるとなお一層好ましい。その上限は、0.5mmであることが一層好ましく、0.2mmであるとなお一層好ましい。
【0068】
伸縮導電配線材料1は、可撓性支持体20Bが無いと、絶縁弾性体10・30だけでは復元力が不足し十分に伸縮し難い。
【0069】
伸縮導電配線材料1は、絶縁弾性体10・30が絶縁性材料でできた可撓性で被覆可能なものであれば、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルポリシロキサン、ポリフルオロシロキサンのようなシリコーン樹脂製やシリコーンゴム製、軟質ポリウレタン、硬質ポリウレタンのようなポリウレタン製、ポリスチレンのような塑性エラストマー製、エチレンプロピレンジエンゴムのようなエチレンプロピレンゴム製、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-プロピレン、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテルのようなフッ素ゴム製などを任意に選択できるが、中でも絶縁性・加工性に優れたシリコーン樹脂やシリコーンゴムであると一層好ましい。絶縁弾性体10・30は、10μm~10mmの厚さに任意に設定できる。この範囲を下回ると耐久性や絶縁性を維持し難くなる。その範囲を超えると可撓性を維持し難かったり、無理に引っ張らないと伸長し難くなって伸縮性に劣るようになってしまう。その下限は、10μmであることが好ましく、20μmであると一層好ましい。その上限は、5mmであることが好ましく、1mmであると一層好ましく、200μmであるとなお一層好ましい。
【0070】
伸縮導電配線材料1は、絶縁弾性体10・30の硬度をショアA硬度で10~90の範囲にて任意に選択できる。中でも強度、伸長性の良いショアA硬度で10~50であること一層好ましい。
【0071】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20中、抜き穴23や抜きスリットで貫通した抜き周縁部位24同士が抜き間隙22を空けつつ架橋部位25で繋がって長手方向に直列方向に一列に並びつつ、それの複数列が並列して並んでおり、抜き穴23や抜きスリットと抜き間隙22との位置に合わせて、絶縁弾性体10・30に抜き穴23や抜きスリットよりも小さな貫通スリット13・33と抜き間隙22よりも小さな間隙スリット12・32が夫々貫通していてもよい。
【0072】
伸縮導電配線材料1は、
図3(a-1)及び(a-2)に示すように、導電基材20の抜き穴23及び/又は絶縁弾性体10・30の貫通穴が夫々の内周の角23aで丸められていてもよく、抜き周縁部位24が夫々の内周や外周の角24aで丸められていてもよく、抜き周縁部位24と架橋部位25との接続角25aで丸められていてもよい。
【0073】
各抜き穴23、内周の角が丸められていなくてもよいが、丸められている方が、好ましい。各抜き穴23が内周の角が丸められていないと、伸縮導電配線材料1の伸長の際に、その角の内角頂点に引張応力が集中して、抜き穴23が裂け易くなる傾向がある(
図1(a)参照)。一方、各抜き穴23の丸められた夫々の内周の角の半径寸法を、通電方向における抜き穴の長さの丁度半分即ちフルアールであると、それら角23a同士の間が半円の円弧状になってしまうのでその半円中央などに引張応力が集中して、抜き穴23が裂け易くなる傾向がある(
図3(a-1)参照)からである。それに対し、導電基材20は、各抜き穴23の丸められた夫々の内周の角の半径寸法を、通電方向における抜き穴の長さの半分未満としている(
図3(a-2)参照)と、伸縮導電配線材料1の伸長の際に、通電方向での抜き穴の内縁に円弧状の角に続く非円弧状即ち直線状の部位23bができることにより抜き穴23に掛かる引張応力を分散するので、内周の角が丸められていないものやフルアールであるものよりも、抜き穴23が裂け難くなるので、一層好ましい。
【0074】
抜き周縁部位24の内周を成す抜き穴23と同様に、抜き穴23を形成するために取り巻く抜き周縁部位24の外周も、その角が丸められていてもよい。その外周の角の半径寸法を、通電方向における各抜き周縁部位24の長さの半分未満としていることが好ましい(
図3(a-2)参照)。
【0075】
また、架橋部位25を形成するための抜き間隙22においても、架橋部位25の角が、丸められていてもよい。その角の半径寸法を、通電方向における抜き間隙22の長さの半分未満としていることが好ましい(
図3(a-2)参照)。
【0076】
また、導電基材20が、前複数の前記抜き周縁部位同士の間に夫々、前記導電基材の長手辺の両辺から中央へ向いている例を示したが、片辺から他辺へ向いて開けられていてもよい(
図12(f)参照)。
【0077】
導電基材20は、通電方向に垂直な幅方向の幅長Waに対し、抜き間隙22の内縁の最内と抜き穴23の内縁の最外との幅長Wbを、1:0.1~1:0.9、好ましくは1:0.15~1:0.8とするというものである。
【0078】
前記導電基材が、前記抜き穴が、前記通電方向での長さを少なくとも0.3mmとする角が丸められていない矩形状、又は角が丸められた矩形であると、抜きスリットを有する場合よりも破断するまで伸長させた時の伸び率や、10%抵抗率変化時の伸び率を高く維持できるため、一層好ましい。
【0079】
伸縮導電配線材料1は、
図3(b)に示すように、導電基材20の抜きスリット、絶縁弾性体10・30の貫通スリット13・33や間隙スリット12・32が端部で貫通孔27を有していてもよい。
【0080】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20と絶縁弾性体10・30とが、接着剤で接着されていてもよく、熱溶着されていてもよく、化学結合で接合されていてもよく、一体成形されていてもよい。
【0081】
伸縮導電配線材料1は、絶縁弾性体10・30の一端部11・31で封止された導電層20Aの一端部21に、電気接続コネクタ28、例えば外部機器との接続用のリングスナップ端子、ケーブルクランプ端子を有していてもよい。
【0082】
伸縮導電配線材料1は、導電層20Aの他端部26が絶縁弾性体10・30の少なくとも何れかの端部16・36から露出していることにより、端子となっていてもよい。その他端部26は、二股に分かれていてもよい。
【0083】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20とそれを挟んで、導電基材20の抜き周縁部位24及び架橋部位25とを露出せずに絶縁弾性体10・30で封止して被覆していることにより、3層の最小単位となっている。
【0084】
伸縮導電配線材料1は、生体信号を検知する電極の対の一方として使用できる。
【0085】
伸縮導電配線材料1は、導電基材20が、
図4(a)に示すように、長手方向の一端側の端部21・26全体が、絶縁弾性体10・30の長手方向の一端側の端部11・31及び16・36で完全に封止され露出しないように被覆されていてもよい。その導電層20Aは、端部21・26で外部機器に接続するための電気接続コネクタ28に繋がっている。
【0086】
伸縮導電配線材料1の導電基材20が、
図4(b)に示すように、長手方向の一端側の端部21全体が、絶縁弾性体10・30で完全に封止されて被覆されて電気接続コネクタ28に繋がり、他端部26が、クランプ(不図示)で電気接続できるように一部露出していてもよい。
【0087】
導電基材20が、
図4(c)に示すように端部21・26を一部露出していてもよい。導電基材20は、長手方向の端部21・26が、絶縁弾性体10・30の長手方向の端部11・31及び16・36で一部覆われて、その端部21・26の末端側の一部を外界に露出させながら被覆されている。その端部21・26は、被対象物に直接接続するため、露出されている。
【0088】
導電基材20が、
図4(d)に示すように端部21・26を一部露出し接続コード29に半田付けされ絶縁弾性体10で完全に封止されて被覆されていてもよい。
【0089】
図5(a)に示すように、伸縮導電配線材料1が複数重なり合って一体化して、伸縮導電配線モジュール40とすることができる。
図5(b)に示すように、伸縮導電配線材料1が複数重なる場合、上側の伸縮導電配線材料の下層の絶縁弾性体30と、下側の伸縮導電配線材料の上層の絶縁弾性体10とを、兼用してもよい。そのようにすることにより、伸縮導電配線材料1を、絶縁弾性体・導電基材・絶縁弾性体・導電基材・絶縁弾性体の5層構造にして二つの導電基材により対の電極としてもよく、絶縁弾性体・導電基材・・・の順で重ねた9層構造にして四つの導電基材により2対の電極としてもよい。
【0090】
伸縮導電配線モジュール40は、複数の伸縮導電配線材料1が夫々、別々に、各導電層20Aの一端部21で外部端子に接続していてもよい。又は、伸縮導電配線モジュール40は、複数の伸縮導電配線材料1が夫々、別々に、各導電層20Aの他端部26で露出した端子となっていてもよい。
【0091】
このような伸縮導電配線材料1、及び伸縮導電配線モジュール40は、封止部分を電解質溶液に浸漬しても、電解液が導電基材20にまで滲出せず侵出しない。
【0092】
このような伸縮導電配線材料1、及び伸縮導電配線モジュール40は、1Hz~100kHzまでの信号を検知することができる。通常生体信号は、数Hz~数kHz、とりわけ筋電信号であれば100Hz前後であるから、この伸縮導電配線材料1、及び伸縮導電配線モジュール40で、十分に検出され得る。
【0093】
伸縮導電配線材料1、及び伸縮導電配線モジュール40は、例えば、以下のようにして製造される。
【0094】
先ず、導電基材20を作製する。導電基材20は、ポリイミドフィルムに、銅膜をスパッタリングで付したCuスパッタポリイミドを調製し、次いで
図1のように打ち抜いて、長尺の導電基材20の中程に、抜き穴23、その間の抜き間隙22、それらによって必然的に形成される抜き周縁部位24、及び抜き穴23を繋ぐ架橋部位25を形成し、導電基材20を得る。
【0095】
次に、絶縁弾性体10・30を作製する。シリコーンゴムシートを、導電基材20の外形よりものりしろの分だけ大き目に裁断しつつ、抜き周縁部位24内の抜き穴23の位置に合わせて抜き穴23よりも小さな貫通スリット13・33と、抜き周縁部位24間の抜き間隙22の位置に合わせて、抜き間隙22よりも小さな間隙スリット12・32とを、切れ込ませて、絶縁弾性体10・30を得る。
【0096】
最後に、抜き穴23と貫通スリット13・33とを位置合わせし、抜き間隙22と間隙スリット12・32とを位置合わせしつつ、のりしろで抜き周縁部位24を包み込むように封止し接着して被覆するように、導電基材20と絶縁弾性体10・30とを重ね合せて接着剤で接合して、伸縮導電配線材料1を得る。
【0097】
なお、導電基材20として、Cuスパッタポリイミドを用いる代わりに、銅膜を付した可撓性支持体をエッチングして形成してもよい。抜き穴23、抜き間隙22、及び架橋部位25を形成した可撓性支持体に、カーボンペースト含有導電インキを付して導電インキ層膜のような導電性無機物含有導電膜層を形成したり、有機導電性インクを付して有機導電膜層を形成したりしてもよい。
【0098】
導電基材20と絶縁弾性体10・30とを接着剤で接合する例を示したが、別の製法として、抜き穴23、抜き間隙22、及び架橋部位25を形成した導電基材20に、のりしろの分だけ大き目のシリコーンゴムシート小片の絶縁弾性体10・30を張り合わせてから、抜き周縁部位24内の抜き穴23の位置に合わせて抜き穴23よりも小さな貫通スリット13・33と、抜き周縁部位24間の抜き間隙22の位置に合わせて、抜き間隙22よりも小さな間隙スリット12・32とを、切れ込ませて、伸縮導電配線材料1を得てもよい。
【0099】
さらに別な製法として、抜き穴23、抜き間隙22、及び架橋部位25を形成した導電基材20の片面の何れかに、絶縁弾性体10又は30となるシリコーンゴムシート小片を接着剤で張り合わせてから、導電基材20の他方の面に、シリコーンゴムの硬化樹脂成分組成物を塗布、噴霧、浸漬して、他方の絶縁弾性体30又は10を形成した後、前記同様に、抜き周縁部位24内の抜き穴23の位置に合わせて貫通スリット13・33と、抜き間隙22の位置に合わせて間隙スリット12・32とを、切れ込ませて、伸縮導電配線材料1を得てもよい。
【0100】
さらに別な製法として、抜き穴23、抜き間隙22、及び架橋部位25を形成した導電基材20の両面に、シリコーンゴムの硬化樹脂成分組成物を塗布、噴霧、浸漬して、絶縁弾性体10及び30を一挙に形成した後、前記同様に、抜き周縁部位24内の抜き穴23の位置に合わせて貫通スリット13・33と、抜き間隙22の位置に合わせて間隙スリット12・32とを、切れ込ませて、伸縮導電配線材料1を得てもよい。
【0101】
必要に応じて、伸縮導電配線材料1の積層構造の形成を繰り返して、伸縮導電配線モジュール40を形成する。伸縮導電配線モジュール40は、必要に応じ、導電層20Aの一端部21に、電気接続コネクタを取り付ける。電気接続コネクタは、半田付けで取り付けてもよく、リングスナップ端子を捻じ込んでかしめて取り付けてもよい。
【0102】
伸縮導電配線モジュール40は、伸縮導電配線材料1を多重に重ね、及び/又は、直列及び/又は並列に配し、着脱可能なディスポーザブルで清潔なウェアラブルデバイスとして、利用が可能である。この伸縮導電配線モジュール40は、小さな筋肉、例えば顔面筋肉や掌の筋肉、大きな脚の筋肉の筋電位測定に使用するなど、幅広く利用できる。伸縮導電配線モジュール40は、1対一組の両電極として、1~4組の2~8電極にして、生体筋肉の様々な部位での筋電位測定や三次元的な筋電位測定に、利用できる。
【0103】
伸縮導電配線モジュール40は、リハビリテーションにおける筋電位を測定して回復状態を検査したり、ミオパチーと呼ばれる筋疾患の進行程度を検査したり、アスリートの運動能力を検査したりするのに用いられる。また職人の動きを筋電位の変化として記録して匠の技を後世に技術データとして残すなど、筋肉の動きに追従して、正確に筋電位を測定するのに用いることができる。
【0104】
この伸縮導電配線モジュール40は、露出した端子を必要な個所にのみ配置しそれ以外を封止して絶縁性を保ちつつ、不要なノイズを検知せず、所望の電位を選択的に検知できるばかりか、繰り返し伸縮しても電動特性を維持できる。
【実施例】
【0105】
以下に、本発明を適用するもので、ポリイミドフィルムに銅スパッタした導電材を複数の開口構造を持つ形状に加工し、スリット加工したシリコーンゴムで接着して絶縁封止を行った実施例の伸縮導電配線材料と、本発明を適用外の比較例の伸縮導電配線材料とを作製し、性能を比較した結果を示す。
【0106】
(実施例1)
導電基材20は、カプトンフィルム100Hを可撓性支持体20Bとし、RFスパッタ装置(SPT-4STD,東栄科学産業製)を用いて銅のスパッタリングを3分間施し、厚み300nm、抵抗値0.15Ω/cm
2の導電層20Aを形成させ導電基材20を得た。絶縁弾性体10・30は、厚さ0.2mmのシリコーンゴムシートを用いた。得られた導電基材20及び絶縁弾性体10・30を
図1・
図2に示す形状にそれぞれ加工し、その後、導電基材20にシリコーン系接着剤(商品名スーパーXゴールド;セメダイン株式会社製)を薄く塗布し、絶縁弾性体10・30にて挟み込んで接着した。
これにより、
図1・
図2に示すように、200μmの厚さで長手方向でシリコーンゴム製の絶縁弾性体10・30の長さが42mmであり、25μmの厚さのポリイミド製の可撓性支持体20B及びその上に付された導電層20Aからなる導電基材20の長さが42mmであり、それに垂直な幅方向で絶縁弾性体10・30の幅が12mm、導電基材20の幅が10mmであって1mmずつののりしろを備えた伸縮導電配線材料1の試験片を得た。その導電基材20は、抜き周縁部位24での最小配線幅を0.75mmとし、抜き穴23の長手方向の長さを8.5mm、抜き周縁部位24同士間の抜き間隙22の長手方向の長さを3.5mmとし、架橋部位の幅方向の長さを2mmにして、長手方向での両端から10mmの端部21・26の間で、抜き周縁部位24の繰返し長を22mmとしたものである。
【0107】
(比較例1)
実施例1で絶縁弾性体10・30と導電基材20とを接着したことに代えて、接着することなく単に密着させただけの比較例1のセミ封止の試験片を得た。
【0108】
(比較例2)
実施例1で絶縁弾性体10・30を用いたことに代えて、絶縁弾性体10・30を用いずに導電基材20だけからなる比較例2の未封止の試験片を得た。
【0109】
(性能試験1-1:破断するまでの伸長時の抵抗変化及び応力変化)
実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片を、挟んだ両端から0.1mm/秒の速度で破断するまで引張りながら、応力と抵抗値とを測定した。無伸長を0%とする伸長率と、応力(MPa)、及び初期抵抗値(R
0)に対する伸長時の抵抗値(R)とを、プロットしたグラフを、
図6(a)に示す。
図6(a)から明らかな通り、応力は伸長率に応じ約150%に近づくほど強くなり、その後、破断直前まで然程上昇しなかった。そのとき、伸縮導電配線材料1の試験片は、抵抗値の比(R/R
0)が略1.0のままであったころから、破断するまで、抵抗値に変動は無く、導電性が良好なままであることが分かった。
【0110】
(性能試験1-2:伸縮時の抵抗変化及び応力変化)
実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片を、挟んだ両端から0.1mm/秒の速度で伸長率150%まで引張った後、0.1mm/秒の速度で緩めて形状復元させながら、応力と抵抗値とを測定した。伸長率と、応力、及び抵抗値の比(R/R
0)とをプロットしたグラフを、
図6(b)に示す。実線は引っ張ったとき、破線は緩めたときのヒステリシスを示している。
図6(b)から明らかな通り、伸縮導電配線材料1の試験片は、完全に形状が復元しており、抵抗値の比(R/R
0)が略1.0のままであったころから、破断するまで、抵抗値に変動は無く、導電性が良好なままであることが分かった。
【0111】
(性能試験2-1:伸縮時の形状回復性能における応力)
実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片、比較例1及び2の試験片を、性能試験1-2での伸縮時の抵抗変化と同様に、伸長率と応力とを測定し、プロットしたグラフを、
図7(a)に示す。
図7(a)から明らかな通り、絶縁弾性体10・30と導電基材20とが接着した実施例1での伸縮導電配線材料1の試験片は、伸長率が高いほど強い応力を必要としたが、それらが接着しておらず単に密着したのみの比較例1の試験片は、伸長率が高くなっても然程の応力を必要としておらず引っ張るときに一部剥離し緩めるときに再密着していることが示唆された。導電基材のみの比較例2の試験片は、伸長率が高くなっても殆んど応力を必要としていないことから、実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片は、可撓性支持体20Bを有する導電基材20と絶縁弾性体10・30との相乗効果で、高い応力が必要となることが示された。実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片は、100%伸長まで0.05Mpa以下まで殆んど応力変化が無い。
【0112】
(性能試験2-2:伸縮時の形状回復性能におけるヒステリシスロス)
性能試験2-1のように実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片、比較例1及び2の試験片を、性能試験1-2での伸縮時の抵抗変化と同様に、伸長率と応力とを測定し、そのときの伸長距離と応力との積である仕事量について、伸長時の積分値(W
stretch)と緩め時の積分値(W
contract)との比を、
図7(b)に示す。
図7(b)から明らかな通り、絶縁弾性体10・30と導電基材20とが接着した実施例1での伸縮導電配線材料1の試験片は、その積分比が70%以上でありエネルギーロスが少ないことを示している。しかし、比較例1の試験片は、その積分比が60%程度であり、40%程度が弾性エネルギーを熱として放出し、また比較例2の試験片は、その積分比が40%程度であり、60%程度もの弾性エネルギーを熱として放出しており、エネルギーロスが大きいことを示している。
【0113】
(性能試験3:伸縮時の形状回復性能)
実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片、比較例2の試験片を、性能試験1-2と同様に、最大150%まで伸長した後、緩めた時の形状変化を観察した。その結果を
図8に示す。
図8から明らかな通り、伸縮導電配線材料1の試験片は伸縮後に元の形状に戻っているが、比較例2の試験片は、伸縮後に変形したまま元の形状に戻らなかった。
【0114】
(性能試験4-1:10回繰り返し伸縮時の形状回復性能及び抵抗値変化)
実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片を、10秒間徐々に引張力をかけて150%の伸長率となった後、10秒間で徐々に引張力を開放するようにして10回繰り返し試験を行いつつ、伸長率と抵抗値とを測定した。経過時間と、伸長率及び抵抗値の比(R/R
0)とをプロットしたグラフを、
図9(a)に示す。
図9(a)から明らかな通り、10回の繰り返し試験後でも、抵抗値の比(R/R
0)が略1.0のままであったころから、破断するまで、抵抗値に変動は無く、導電性が良好なままであることが分かった。
【0115】
(性能試験4-2:100回繰り返し伸縮時の抵抗値変化)
実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片を、10秒間徐々に引張力をかけて150%の伸長率となった後、10秒間で徐々に引張力を開放するようにして100回繰り返し試験を行いつつ、抵抗値を測定した。伸縮前の抵抗値は4.4Ωであり、100回繰り返し後の抵抗値は8.4Ωであった。繰返し回数と、伸長率及び抵抗値の比(R/R
0)とをプロットしたグラフを、
図9(b)に示す。
図9(b)から明らかな通り、100回の繰り返し試験後でも、抵抗値の比(R/R
0)が1.9倍にしか上昇しておらず、10Ω以下の小さな抵抗値のままであったころから、導電性に殆んど影響を与えていないことが分かった。100回の繰返伸縮前後で形状変化は0%であった。
【0116】
(性能試験5:絶縁性試験)
実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片、比較例1の試験片、及び比較例2の試験片を夫々、伸長無(伸長率0%)と伸長有(伸長率150%)とで、電解質(リン酸緩衝生理食塩水:PBS)中、対極をAg/AgCl電極にして、10~100kHzの周波数でのインピーダンスを測定した。その結果を、
図10に示す。
図10から明らかな通り、実施例1で得た伸縮導電配線材料1の試験片のように絶縁弾性体10・30で導電基材20を完全に封止していると、導電材全体が封止されているため、各インピーダンスにおいて絶縁が確認できている。そのため、伸長の有無の拘らず絶縁性を維持でき、50Hz~100kHzまで測定可能であることが分かった。生体信号例えば筋電は、100Hz近傍で10MΩ程度であるから実施例1の伸縮導電配線材料1は、生体信号の測定に十分耐え得るものである。しかし、比較例1の試験片のように絶縁弾性体10・30で導電基材を覆っていても側面が露出していたり、比較例2の試験片のように絶縁弾性体で封止されていなかったりすると、全く絶縁性が保てていないので、生体信号の測定にはノイズを拾い易く正確なデータを取得できないことが分かった。
【0117】
(実施例2a~2d)
下記表1及び
図11に示すように、導電基材の抜き穴23の形状を、角が丸められていない矩形状とし、又は角が丸められた矩形状で夫々の角の半径寸法をフルアールまで振ったこと以外は、実施例1と同様にして、伸縮導電配線材料1の試験片を得た。前記の性能試験1-1と同様にして、破断するまでの伸長時の抵抗変化及び応力変化を測定した。その結果を表1にまとめて示す。
【0118】
【0119】
表1から明らかな通り、角を丸めない矩形状(R=0mm;R無し)の伸縮同線配線材料1よりも、角を丸めた矩形状(R=0.20、0.40及び0.50mm;R有り)の伸縮同線配線材料1の方が高い最大応力と伸び率とを示した。
しかし、大きければ良いというわけではなく、通電方向での抜き穴23の長さLの1mmに対して、角23aの半径寸法Rが0.2mmの形状において伸び率・抵抗値の10%変化時での伸び率が最も良かった。一方、通電方向での抜き穴23の長さLaの1mmに対して、半径寸法R=0.5mm(フルにRが付いた状態)の伸縮同線配線材料1では、破断時伸び率が、半径寸法R=0.20、0.5mmの伸縮同線配線材料1のときよりも低下し、角を丸めない矩形状(R=0mm;R無し)の伸縮同線配線材料1と同等な伸び率しか示さなかった。
【0120】
これらのことから、導電基材が、抜き穴23の丸められた夫々の角23aの半径寸法を、通電方向での抜き穴23の長さLaの半分未満とすることが好ましいことが分かった。
【0121】
(実施例3a~3f)
下記表2及び
図12に示すように、導電基材の抜き穴23の形状を角が丸められていない矩形状とし、通電方向に垂直な幅方向の導電基材20の幅長W
aに対し、抜き間隙22の内縁の最内と抜き穴23の内縁の最外との幅長W
bとの比を振ったこと以外は、実施例1と同様にして、伸縮導電配線材料1の試験片を得た。前記の性能試験1-1と同様にして、初期の抵抗値と、破断するまでの伸長時の応力変化を測定した。その結果を表2にまとめて示す。
【0122】
【0123】
表2から明らかな通り、抜き穴23の長さは、破断時伸びに大きく影響し、長ければ長いほど破断時伸び率も向上するが、導通の経路として長くなるため長くなり過ぎると却って初期抵抗値が悪化することが、分かった。
【0124】
(実施例4a~4d)
下記表3及び
図13に示すように、抜き穴23の形状を角が丸められていない矩形状とし、通電方向での導電基材の抜き穴23の長さL
aと、通電方向での導電基材の抜き間隙の長さL
bとを振ったこと以外は、実施例1と同様にして、伸縮導電配線材料1の試験片を得た。前記の性能試験1-1と同様にして、破断するまでの伸長時の抵抗変化及び応力変化を測定した。その結果を表3にまとめて示す。
【0125】
【0126】
表3から明らかな通り、抜き穴23の通電方向での長さLaについて、短くなるほど、破断時の最大応力が小さくなる傾向があり、また破断時伸び率が低下し、抵抗値の10%変化時の伸び率が小さくなる傾向が認められた。また、抜き穴23に代え完全に抜きスリット形状にしつつ、抜き間隙もスリット形状にすると、伸縮に対する特性がさらに明確に低下した。従って、高い伸縮特性を得るためには抜き穴23のような開口構造が重要であることが示唆された。
【0127】
(実施例5及び比較例3)
下記表4及び
図14に示すように、実施例1と同様にして作製した伸縮導電配線材料1(実施例5)と、絶縁弾性体を付していないこと以外は実施例1と同様にして作製した伸縮導電配線材料(比較例3)とのの試験片を得た。
【0128】
(性能試験6:伸縮時の形状回復性能)
実施例5で得た伸縮導電配線材料1の試験片、比較例3の試験片とを、45mm~67.5mmまで伸長した後、緩めた時の形状変化を観察した。その結果を表4、及び
図14に示す。
【0129】
【0130】
表4及び
図14から明らかなように、絶縁弾性体でゴム封止されていないと、一度の伸長で伸長したときの応力解放後に、永久変形してしまい、変形率が高いばかりか、変形して伸びたままであるため、再度伸長したときに弱い力で伸長でき、伸縮性が不十分であった。
【0131】
(実施例6:ウェアラブルデバイスへの応用例)
実施例1の伸縮導電配線材料1に代えて、絶縁弾性体10・30を短くして、導電部材を長手方向での両端から10mmの端部21・26で露出させたこと以外は、実施例1と同様にして得た伸縮導電配線材料1の1対を、ウェアラブルデバイスの電極として用いた。
図15(a)に示すように、一方の端部21で外部機器との接続用のリングスナップ端子28を捻じ込んでかしめ、他方の端部26にてウレタンフィルム51で覆いつつ筋電位測定端子52に接続した。
図15(a)に示すように、ウレタンフィルム51の皮膚側に粘着剤53を付し、測定対象者の皮膚50と粘着させつつ、筋電位測定端子52を直接、母指球の筋肉に沿って、1対の電極にして、伸縮導電配線モジュール40として用いた。約2秒間隔で親指を曲げたときの母指球の筋電位(sEMG)を測定した結果を
図15(b)に示す。
図15(b)に示す通り、伸縮導電配線モジュール40はウェアラブルデバイスとして伸縮導電配線材料1の伸縮により、親指を曲げたときの母指球の動きを筋電図として検知することができた。
【産業上の利用可能性】
【0132】
この伸縮導電配線材料は、可撓性であって十分な伸縮性を有しつつ反復伸縮で伸縮性の低下を引き起こさず、高い絶縁性を有し、優れた耐久性を有するので、伸縮が必要な伸縮性導電配線モジュールの配線材料として有用である。
【0133】
この伸縮性導電配線モジュールは、伸縮性配線を必要とするウェアラブルデバイスやフレキシブル基板等の可撓性デバイス、ロボット等に用いられる。
【符号の説明】
【0134】
1は伸縮導電配線材料、10は絶縁弾性体、11は端部、12は間隙スリット、13は貫通スリット、16は端部、20は導電基材、20Aは導電層、20Bは可撓性支持体、21は端部、22は抜き間隙、23は抜き穴、23aは角、23bは直線状部位、24は抜き周縁部位、25は架橋部位、26は端部、27は貫通孔、28は接続コネクタ、29は接続コード、30は絶縁弾性体、31は端部、32は間隙スリット、33は貫通スリット、36は端部、40は伸縮導電配線モジュール、50は測定対象者の皮膚、51はウレタンフィルム、52は筋電位測定電極端子、53は粘着剤、Waは導電基材の幅長、Waは導電基材の抜き間隙の内縁の最内と抜き穴の内縁の最外との幅長、Laは通電方向での抜き穴の長さ、Lbは通電方向での抜き間隙の長さ、Rは角の半径寸法である。