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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230324BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230324BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20230324BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20230324BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M3/00 A
C12M1/02 A
C12N5/0775
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020500536
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2019005203
(87)【国際公開番号】W WO2019160000
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018024689
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517000379
【氏名又は名称】株式会社フルステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 俊明
(72)【発明者】
【氏名】イ ヤンジン
(72)【発明者】
【氏名】牛房 貴樹
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-313008(JP,A)
【文献】特開2006-034200(JP,A)
【文献】特表2007-535902(JP,A)
【文献】特許第4430317(JP,B2)
【文献】特表2016-533189(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0260364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するための足場と、
下端に平坦な底部を有し、前記足場が充填される中空な空間部を備える略円柱体である細胞培養容器と、
磁石又は強磁性体からなる複数の磁着体を周辺部に等間隔で備え、前記細胞培養容器の中空な空間部内に前記細胞培養容器の内壁と非接触状態で水平に配置される、前記細胞培養容器の略円柱体の直径よりも微小な直径の略円盤状の皿状体と、
前記皿状体の各々の磁着体を磁力により引き付けるように、前記皿状体の各々の磁着体と対応する磁石からなる複数の磁着体を備え、前記細胞培養容器の外側に位置して環内部に前記細胞培養容器を位置させ、上方向に移動することで磁力により連動して前記皿状体を上方向に移動させて前記細胞培養容器の中空な空間部内に充填された足場を下方から押し上げ、下方向に移動することで磁力により連動して前記皿状体を下方向に移動させ、前記細胞培養容器の中空な空間部内に充填された足場を重力落下させる、上下方向に移動する略リング状の環状体と、を有することを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
前記皿状体の各々の磁着体は磁石であり、各々の磁石は一方の極を容器外側方向へ向けて前記皿状体に配置されており、
前記環状体の各々の磁石は前記皿状体の磁石と対応するように、他方の極を容器内側方向へ向けて前記環状体に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記細胞培養容器は、その底部の中央部に上方へ突出する内部が空間部である底部凸部を有するとともに、培養された細胞に上下方向の振動を加える振動装置の振動部がはめ込まれる前記底部凸部に対応する形状の底部凹部を前記底部の中央部に有し、
前記皿状体は、前記細胞培養容器の底部凸部がはめ込まれる皿凹部をその下面の中央部に備える、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記細胞培養容器内に充填される足場は、複数の細胞支持小片の集合体である、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記培養される細胞は間葉系幹細胞である、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純な動作で培地の攪拌並びに細胞への栄養供給及び酸素化を可能とし、大量の細胞培養を可能とする細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞(胚性幹細胞、人工多能性幹(iPS)細胞)は、その無限増殖能及び多分化能から、再生医療の重要な細胞ソースとして認識されている。幹細胞を利用した再生医療としては、例えば、肝硬変や血液疾患、心筋梗塞の治療、血管の構築、骨や角膜の再生、移植用皮膚の確保等が考えられている。再生医療では、培養皿内で幹細胞等から目的とする細胞や臓器を増殖させ、人に移植するようにしている。最近では、骨髄由来の幹細胞から血管新生を行い、狭心症、心筋梗塞等の治療に成功している。
【0003】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、幹細胞を人工的な環境下で効率良く大量に培養する細胞培養装置が求められている。
【0004】
図11は従来の細胞培養装置を説明するものである。図11に示されるように従来の細胞培養装置は第1のチャンバー810と、多孔性の足場820と、第2のチャンバー830と、を備える。第2のチャンバー830は、圧縮及び減圧可能なベロー形状を有する。図11では、第2のチャンバー830は非圧縮形状であり、第2のチャンバーに培養溶液が充填された状態であり、足場820はガス環境に間接的にさらされて細胞は酸素化を受ける。図12では、第2のチャンバー830が圧縮形状となることで、培養溶液は上方へ押し上げられて第1のチャンバー810内に移動し、足場820は培養溶液に浸漬されて細胞は栄養供給を受ける。再び、図12にもどり、第2のチャンバー830が非圧縮形状となることで、培養溶液は下方へ移動して第2のチャンバー830に培養溶液が充填された状態となる。
【0005】
しかし、上述の細胞培養装置では、第2のチャンバー830はベロー形状であるため、第2のチャンバー830へ移動した細胞がベロー形状の外側への凸部分に入り込み、以後は第2のチャンバー830の圧縮及び非圧縮による培養溶液の上下の移動の影響を受けにくくなり、酸素化が困難となる虞がある。また、第2のチャンバー830、特に中心部は、圧縮状態のベロー形状であっても、その構造から培養液を第1のチャンバー810へ完全に戻す事が出来ない。故に、多孔性の足場820に対して細胞を播種するには、第1のチャンバー810に細胞懸濁液を入れ静置、もしくはベロー形状を圧縮及び非圧縮させながら細胞接着させるが、発生する死空間および死容量により、接着させる事ができない細胞懸濁液が存在することになり非効率である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許4430317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、簡易な構造でありながらも細胞への十分な栄養供給及び酸素化を可能とし、幹細胞の大量培養が可能な細胞培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる細胞培養装置は、下端に平坦な底部を有し、細胞を培養する培地が充填される中空な空間部を備える略円柱体である細胞培養容器と、磁石又は強磁性体からなる複数の磁着体を周辺部に等間隔で備え、前記細胞培養容器の中空な空間部内に水平に配置された、前記細胞培養容器の略円柱体の直径よりも微小な直径の略円盤状の皿状体と、前記皿状体の各々の磁着体を磁力により引き付けるように、前記皿状体の各々の磁着体と対応する磁石からなる複数の磁着体を備え、前記細胞培養容器の外側に位置して環内部に前記細胞培養容器を位置させ、上方向に移動することで磁力により連動して前記皿状体を上方向に移動させて前記細胞培養容器の中空な空間部内に充填された培地を下方から押し上げ、下方向に移動することで磁力により連動して前記皿状体を下方向に移動させ、前記細胞培養容器の中空な空間部内に充填された培地を重力落下させる、上下方向に移動する略リング状の環状体と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な構造でありながらも細胞への十分な栄養供給及び酸素化を可能とし、幹細胞の大量培養が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態にかかる細胞培養装置の外観を説明する図である。
図2】本実施形態にかかる細胞培養装置の皿状体付近を詳細に説明する図である。
図3】本実施形態にかかる細胞培養装置の細胞培養容器の底部付近を詳細に説明する図である。
図4】脂肪由来間葉系幹細胞について、培養日数毎の細胞の糖消費量(mg/dL/日)を示す図である。
図5】脂肪由来間葉系幹細胞について、(A)は培養日数8日目における細胞培養容器から回収前の顕微鏡写真図であり、(B)は培養日数8日目における細胞培養容器から回収後の顕微鏡写真図である。
図6】骨髄由来間葉系幹細胞について、培養日数毎の細胞の糖消費量(mg/dL/日)を示す図である。
図7】骨髄由来間葉系幹細胞について、(A)は培養日数6日目における細胞培養容器から回収前の顕微鏡写真図であり、(B)は培養日数6日目における細胞培養容器から回収後の顕微鏡写真図である。
図8】滑膜由来間葉系幹細胞について、培養日数毎の細胞の糖消費量(mg/dL/日)を示す図である。
図9】滑膜由来間葉系幹細胞について、(A)は培養日数7日目における細胞培養容器から回収前の顕微鏡写真図であり、(B)は培養日数7日目における細胞培養容器から回収後の顕微鏡写真図である。
図10】本発明の細胞培養装置を使用して大量培養した細胞が多分化可能であることを示す写真図であり、そのうち(A)は軟骨細胞への分化を示す図であり、(B)は脂肪細胞への分化を示す図であり、(C)は骨細胞への分化を示す図である。
図11】ベロー形状のチャンバーが非圧縮形状である従来の細胞培養装置を説明する図である。
図12】ベロー形状のチャンバーが圧縮形状である従来の細胞培養装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
本実施形態にかかる細胞培養装置900は、図1に示されるように、略円柱体である細胞培養容器100と、略円盤状の皿状体200と、略リング状の環状体300と、を有する。略円柱体とは、水平面での断面が円のみならず、楕円や小判形状等も包含する柱体である。略円盤状とは、平面視にて円のみならず、楕円や小判形状等も包含する形状である。略リング状とは、平面視にて円環状体のみならず、楕円環状体や小判形状の環状体も包含する形状である。
【0013】
細胞培養容器100は、上端に図示されない開口部を有し、下端に平坦な底部120を有する。細胞培養容器100は、細胞を培養するための足場が充填される中空な空間部130を備える。細胞培養容器100の上端の開口部からは足場、培地、培養対象である細胞を入れることができる。
【0014】
培養対象となる細胞は、特に限定されるものでなく、細胞障害を受けにくい細胞及び細胞障害を受けやすい細胞のいずれも可能であるが、好ましくは細胞障害を受けやすい細胞であり、より好ましくは、ヒト胚性幹(ES)細胞、iPS細胞、体性幹細胞等が挙げられる。体性幹細胞としては、例えば脂肪由来や骨髄由来の間葉系幹細胞が好ましい。また使用される培地は液体培地であり、例えばグルコース等を包含する。
【0015】
細胞培養容器100の寸法は、特に限定されるものではないが、例えば容積が250 ml(口径100mm、高さ50mm、底100mm)、500 ml(口径100mm、高さ100mm、底100mm)又は1000 ml(口径100mm、高さ200mm、底100mm)等とすることができる。
【0016】
細胞培養容器100は、細胞が容器内壁に付着しにくい細胞非接着性の容器であり、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン等の付着性の低いプラスチック製あるいは、フッ素加工、シリコン加工のような疎水性表面加工を施したプラスチック製又はガラス製の容器である。
【0017】
細胞培養容器100で培養された細胞は、振動装置700の振動部710により上下方向の振動が加えられる。振動装置700は、特に限定されるものではないが例えばボルテックスである。
【0018】
細胞培養容器100の空間部130に充填される足場は、例えば三次元多孔性足場である。3次元多孔性足場は、例えば平均間隙率が50~90%、好ましくは80~90%であり、平均ポアサイズが10~800μm、好ましくは200~400μmである。足場は、単一の足場、又は、複数の細胞支持小片の集合体からなる足場である。足場の培養面積は特に限定されるものではないが、例えば800~900000 cm2であり、好ましくは800~45000 cm2である。足場が複数の細胞支持小片の集合体からなる足場の場合、例えば、熱可塑性樹脂製の繊維からなる繊維集合体(不織布、織物、編み物等)であってもよいし、熱可塑性樹脂を予め混練した後、成形して作製したシートの集合体であってもよい。
【0019】
図2に示されるように、皿状体200は、複数の磁着体210を周辺部に等間隔で備える。皿状体200は、例えば厚み15 mm、外径95 mm、内径68 mmである。磁着体210は磁石又は強磁性体からなる。磁石は永久磁石又は電磁石であり、強磁性体は、例えば鉄、コバルト、ニッケルを主成分とする金属である。磁着体210の形状は、特に限定されるものではないが、例えば直径10 mm高さ10 mmの円柱体とすることができる。本実施形態においては、6個の磁着体210を略円盤状の皿状体200の周辺部に60度の等間隔で備える。磁着体210の磁力は、例えば永久磁石では4500~4800ガウスであり、鉄の場合には0ガウスである。皿状体200は、細胞培養容器100の中空な空間部内に水平に配置される。略円盤状の皿状体200は、細胞培養容器100の略円柱体の直径よりも微小な直径を有する。具体的には、細胞培養容器100の略円柱体の内径をDとすると、略円盤状の皿状体200の直径Dは、0.90D~0.998Dとすることが可能である。そのため略円盤状の皿状体200は、細胞培養容器100の内面に接触しない。なお、略円盤状の皿状体200の外周部に等間隔で配置された車輪を設け、それらの車輪と細胞培養容器100の内面とは接触させることは可能である。
【0020】
略リング状の環状体300は、細胞培養容器100の外側に位置して環内部に細胞培養容器100を位置させる。環状体300の厚みは、例えば皿状体200と同じであり15 mmである。略リング状の環状体300は、皿状体200の各々の磁着体210と対応するように磁石からなる複数の磁着体310を備える。磁着体310の形状は、特に限定されるものではないが、磁着体210と同じように例えば直径10 mm高さ10 mmの円柱体とすることができる。磁着体310の磁力は、例えば永久磁石では4500~4800ガウスである。皿状体200の各々の磁着体210が磁石であり、各々の磁石は一方の極を容器外側方向へ向けて皿状体200に配置され、そして、環状体300の各々の磁石である磁着体310は皿状体200の磁石と対応するように、他方の極を容器内側方向へ向けて環状体300に配置されることも可能である。例えば皿状体200が、S極を容器外側方向へ向けた6個の永久磁石を備える場合、環状体300は、これらの6個の永久磁石と各々対応するように、N極を容器内側方向へ向けた6個の永久磁石を備える。また例えば磁性体210が鉄であり、極性を持たない場合は、永久磁石310は容器内側方向に対して、N極もしくはS極のどちらでも構わない。皿状体200の磁着体210の一方(例えば磁石のS極)側の端部と、環状体300の磁着体310の他方の(例えば磁石のN極)側の端部との間の距離は、例えば0.1mm~10.0mmである。環状体300の各々の磁着体310と皿状体200の各々の磁着体210とは対応するため、環状体300の高さ(即ち、鉛直方向の位置)と皿状体200の高さとは一致する。
【0021】
皿状体200の中央部には複数の貫通孔220が設けられている。貫通孔220の孔径は、特に限定されるものではないが例えば1mm~5mmとすることが可能である。
【0022】
環状体300は、昇降装置320により支持され且つ上下移動を行う。環状体300は上下移動を行うため、磁力により環状体300と連動する皿状体200も上下移動を行う。これにより培地の攪拌、並びに、細胞への酸素化及び栄養供給が可能となる。環状体300の上下移動の運動は、例えば単振動運動、又は、略単振動運動である。環状体300の上下移動の周期は、例えば0.5回/時間~12.0回/時間とすることが可能である。略単振動運動は、例えば、下方から上方へ移動しで一定時間停止し、次に上方から下方へ移動し一定時間停止し、再び下方から上方へ移動する運動の繰返しの運動である。環状体300の上下移動のストローク長さは、細胞培養容器100の高さよりも小さく、例えば20mm~120mmとすることが可能である。環状体300の上方向又は下方向への移動速度は、例えば0.5mm/秒~10.0mm/秒とすることが可能である。
【0023】
図3に示されるように、細胞培養容器100は、その底部120の中央部に上方へ突出する内部が空間部である底部凸部125を有する。換言すれば、細胞培養容器100は、その底部120の中央部に底部凸部125に対応する形状の底部凹部126を有する。例えば、細胞培養容器100の底部120の直径が100 mmの場合、底部凹部126の深さは8 mmであり、底部凹部126の内部の直径は60 mmである。振動装置700の振動部710は、底部凹部126に隙間無くはめ込まれる。
【0024】
皿状体200は、細胞培養容器100の底部凸部125がはめ込まれる皿凹部230をその下面の中央部に備える。なお、図3においては、細胞培養容器100の底部凸部125と皿状体200の皿凹部230との間には間隙が記載されているが、底部凸部125は皿凹部230に隙間無くはめ込まれるものであっても良い。
【0025】
次に本実施形態にかかる細胞培養装置の使用態様について説明する。
【0026】
まず、細胞培養容器100の中空な空間部130内に配置された皿状体200を、細胞培養容器100の下部近傍に位置させる。この場合、環状体300の高さと皿状体200の高さとは一致するため、環状体300も細胞培養容器100の下部近傍に位置する。そして、細胞培養容器100の上端の図示されない開口部から、細胞培養容器100の空間部130へ足場、培地、及び、培養対象である細胞を入れる。
【0027】
次に、細胞培養容器100の下部近傍に位置していた環状体300を上方向に移動させる。環状体300の各々の磁着体310と皿状体200の各々の磁着体210とは対応しており、磁力により環状体300と皿状体200とが連動して、皿状体200も上方向に移動する。皿状体200が上方向へ移動することで、細胞培養容器100の中空な空間部130内に充填された足場及び足場に付着している細胞は、皿状体200により下方から押し上げられて上方へ移動する。皿状体200は上方へ移動するが、皿状体200の中央部には複数の貫通孔220が設けられているため、細胞培養容器100の空間部130内の培地は上方へ押し上げられず貫通孔220を通過し、その際には培地が撹拌される。
【0028】
次に、環状体300は、皿状体200を細胞培養容器100の上部近傍にて位置させて移動を止める。皿状体200が細胞培養容器100の上部近傍にて位置するとは、細胞培養容器100の高さをL(高さLは、細胞培養容器100の上端の開口部から底部120までの距離とする。)とすると、皿状体200が細胞培養容器100の上端から下方へ例えば0.3L~0.7Lの距離だけ離間した位置である。皿状体200が細胞培養容器100の上部近傍にて位置する場合、培地は上方へ押し上げられていないため、例えば細胞は酸素化を受けることが可能である。
【0029】
次に、環状体300を下方向に移動させる。磁力により環状体300と皿状体200とが連動して、皿状体200も下方向に移動する。皿状体200が下方向へ移動することで、足場及び足場に付着している細胞は重力落下し、培地に浸漬されて細胞は栄養供給を受ける。
【0030】
環状体300は、皿状体200を細胞培養容器100の下部近傍にて位置させて移動を止める。皿状体200が細胞培養容器100の下部近傍にて位置するとは、皿状体200の皿凹部230が細胞培養容器100の底部凸部125に隙間無くはめ込まれた位置から、細胞培養容器100の底部120から上方へ例えば0.01L~0.2Lの距離だけ離間した位置までを含む。
【0031】
その後、再び、環状体300を上方向に移動させる。このように、環状体300及び磁力により連動する皿状体200は、共に上下移動を行う。
【0032】
培養後は、皿状体200の皿凹部230を細胞培養容器100の底部凸部125に隙間無くはめ込み、そして、振動装置700の振動部710を細胞培養容器100の底部凹部126に隙間無くはめ込む。この状態で振動装置700を作動させ、振動部710から例えば上下方向の振動を細胞培養容器100内の培養細胞へ伝える。これにより3次元多孔性足場の奥深くに埋没した培養細胞を回収し易くなる。
【実施例
【0033】
(実施例1)
細胞培養容器の中空な空間部内に配置された皿状体を、細胞培養容器の下部近傍に位置させた。細胞培養容器の上端の開口部から、細胞培養容器の空間部へ足場、培地、及び、培養対象である細胞を入れた。細胞は5.0×10個の脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)であった。足場はCESCO社のBioNOC IIマトリックスを5,000枚使用した(3D培養)。環状体の上下移動のストローク長さは60mm、環状体の上方向又は下方向への移動速度は1.0mm/秒とした。環状体の上下移動の周期は1.0回/時間とした。培養日数は8日であった。
【0034】
図4は、培養日数毎の細胞の糖消費量(mg/dL/日)を示す図である。細胞の糖消費量は、GlucCellハンディ・グルコースモニター(CESCO社)を用いて測定した。図4に示されるように、本実施例にかかる細胞培養装置を使用することにより、適切に細胞が培養されたことが示された。
【0035】
8日目に、細胞培養容器内から3.2×108個の大量のADSCを回収した。なお、3次元多孔性足場の奥深くに埋没した培養細胞にダメージを与えることなく効率的に回収することは困難であるが、培養後に、細胞培養容器内に、トリプシン-EDTA及びカゼイナーゼを有する酵素溶液を添加して培養細胞に酵素処理を行うことにより大量に培養細胞を細胞培養容器から回収できる。図5(A)は培養日数8日目における細胞培養容器から回収前の顕微鏡写真図であり、図5(B)は培養日数8日目における細胞培養容器から回収後の顕微鏡写真図である。図5から本実施例にかかる細胞培養装置を使用することにより、大量の培養細胞が適切に回収できたことが理解できる。
【0036】
比較例として、住友ベークライト社の細胞培養用シャーレ(2D培養)に5.0×10個のADSCを播種し、培養日数8日で培養した。下記表1は、本実施例にかかる細胞培養装置(3D培養)を使用した培養細胞の性質と、比較例にかかる培養皿(2D培養)を使用した培養細胞の性質とを示す。表1に示されるように本実施例にかかる細胞培養装置を使用して培養された細胞は、従来の培養皿による培養された細胞と性質は同じであった。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例2)
実施例1では細胞はADSCであったが、実施例2では骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)の培養を試みる。
【0039】
細胞培養容器の中空な空間部内に配置された皿状体を、細胞培養容器の下部近傍に位置させた。細胞培養容器の上端の開口部から、細胞培養容器の空間部へ足場、培地、及び、培養対象である細胞を入れた。細胞は3.0×10個のBMSCであった。足場はCESCO社のBioNOC IIマトリックスを2,000枚使用した(3D培養)。環状体の上下移動のストローク長さは40mm、環状体の上方向又は下方向への移動速度は1.0mm/秒とした。環状体の上下移動の周期は1.0回/時間とした。培養日数は6日であった。
【0040】
図6は、培養日数毎の細胞の糖消費量(mg/dL/日)を示す図である。細胞の糖消費量は、GlucCellハンディ・グルコースモニター(CESCO社)を用いて測定した。図6に示されるように、本実施例にかかる細胞培養装置を使用することにより、適切に細胞が培養されたことが示された。
【0041】
6日目に、細胞培養容器内から5.42×108個の大量のBMSCを回収した。培養後に、細胞培養容器内に、トリプシン-EDTA及びカゼイナーゼを有する酵素溶液を添加して培養細胞に酵素処理を行うことにより大量に培養細胞を細胞培養容器から回収した。図7(A)は培養日数6日目における細胞培養容器から回収前の顕微鏡写真図であり、図7(B)は培養日数6日目における細胞培養容器から回収後の顕微鏡写真図である。図7から本実施例にかかる細胞培養装置を使用することにより、大量の培養細胞が適切に回収できたことが理解できる。
【0042】
比較例として、住友ベークライト社の細胞培養用シャーレ(2D培養)に3.0×10個のBMSCを播種し、培養日数6日で培養した。下記表2は、本実施例にかかる細胞培養装置(3D培養)を使用した培養細胞の性質と、比較例にかかる培養皿(2D培養)を使用した培養細胞の性質とを示す。表2に示されるように本実施例にかかる細胞培養装置を使用して培養された細胞は、従来の培養皿による培養された細胞と性質は同じであった。
【0043】
【表2】
【0044】
(実施例3)
滑膜由来間葉系幹細胞は非常に高い軟骨分化能及び増殖能を有するため、軟骨や半月板の再生に有用である。実施例3では滑膜由来間葉系幹細胞の培養を試みる。
【0045】
細胞培養容器の中空な空間部内に配置された皿状体を、細胞培養容器の下部近傍に位置させた。細胞培養容器の上端の開口部から、細胞培養容器の空間部へ足場、培地、及び、培養対象である細胞を入れた。細胞は1.5×10個の滑膜由来間葉系幹細胞であった。足場はCESCO社のBioNOC IIマトリックスを3,000枚使用した(3D培養)。環状体の上下移動のストローク長さは45mm、環状体の上方向又は下方向への移動速度は1.0mm/秒とした。環状体の上下移動の周期は1.0回/時間とした。培養日数は7日であった。
【0046】
図8は、培養日数毎の細胞の糖消費量(mg/dL/日)を示す図である。細胞の糖消費量は、GlucCellハンディ・グルコースモニター(CESCO社)を用いて測定した。図8に示されるように、本実施例にかかる細胞培養装置を使用することにより、適切に細胞が培養されたことが示された。
【0047】
7日目に、細胞培養容器内から1.2×108個の大量の滑膜由来間葉系幹細胞を回収した。培養後に、細胞培養容器内に、トリプシン-EDTA、カゼイナーゼ及びコラゲナーゼを有する酵素溶液を添加して培養細胞に酵素処理を行うことにより大量に培養細胞を細胞培養容器から回収した。酵素溶液中においてトリプシン-EDTAは1mg/ml、カゼイナーゼは3.334mg/ml、コラゲナーゼは1mg/mlであった。図9(A)は培養日数7日目における細胞培養容器から回収前の顕微鏡写真図であり、図9(B)は培養日数7日目における細胞培養容器から回収後の顕微鏡写真図である。図9から本実施例にかかる細胞培養装置を使用することにより、大量の培養細胞が適切に回収できたことが理解できる。
【0048】
(実施例4)
大量培養後の滑膜由来間葉系幹細胞における幹細胞性質の保持及び多分化能を確認するため、実施例3による大量培養及び回収後の滑膜由来間葉系幹細胞を用いて、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞への分化誘導を実施した。分化誘導にはR&D System社のHuman Mesenchymal Stem Cell Functional Identification Kitを用いた。24ウエル培養プレートにそれぞれ104個の細胞を接着させた後、脂肪細胞への分化誘導には、キット付属のAdipogenic SupplementとITS SupplementをDMEM基礎培地50mlに添加した分化培地を用いて14日間の培養を行った。軟骨細胞への分化誘導には、キット付属のChondrogenic SupplementとITS SupplementをDMEM基礎培地50mlに添加した分化培地を用いて21日間の培養を行った。骨細胞への分化誘導には、キット付属のOsteogenic SupplementとITS SupplementをDMEM基礎培地50mlに添加した分化培地を用いて21日間の培養を行った。分化誘導後の脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞を同定するため、4%パラフォルムアルデヒド固定後にOilRed-O、Alcian Blue、Alizarin Red染色を実施した。図10は、本発明の細胞培養装置を使用して大量培養した細胞が多分化可能であることを示す写真図であり、そのうち(A)は軟骨細胞への分化を示す図であり、(B)は脂肪細胞への分化を示す図であり、(C)は骨細胞への分化を示す図である。(A)はAlcian Blueによる染色であり、(B)はOil Red Oによる染色であり、(C)はAlizarin Redによる染色である。図10の通り、大量培養後の滑膜由来間葉系幹細胞は、幹細胞性質及び多分化能を保持しており、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞へと分化した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
細胞の培養に利用できる。
【符号の説明】
【0050】
110:細胞培養容器
120:底部
125:底部凸部
126:底部凹部
130:空間部
200:皿状体
220:貫通孔
230:皿凹部
210:磁着体
300:環状体
310:磁着体
320:昇降装置
700:振動装置
710:振動部
900:細胞培養装置
図1
図2
図3
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図12