(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】緩みセンサ付きボルトとその使用方法並びに緩み検出システム
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20230324BHJP
【FI】
G01L5/00 103Z
(21)【出願番号】P 2022111279
(22)【出願日】2022-07-11
【審査請求日】2022-12-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303004107
【氏名又は名称】秋野 芳隆
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】秋野 芳隆
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-85763(JP,A)
【文献】特開2017-142197(JP,A)
【文献】特表平4-503707(JP,A)
【文献】特開昭60-31031(JP,A)
【文献】特開昭48-66876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00- 5/28
F16B31/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ネジ部と頭部とを有したボルト本体の中心軸方向に穿設された深穴を備え、
前記深穴内の底部に一端部が固定され、固定された前記一端部以外は前記深穴の内周面に拘束されないピンが前記深穴内に設けられ、
前記ボルト本体の前記頭部に固定され、前記雄ネジ部に掛かる軸力により前記ピンの他端部に離接可能に設けられた接触センサを備え、
前記接触センサは、前記ボルト本体の緩みにより前記ボルト本体の軸方向に掛かる軸力が低下して前記ボルト本体の前記雄ネジ部が縮み、前記ピンの他端部に対して前記接触センサの接触端部が、離間状態から接触状態になったことを示す信号を出力することを特徴とする緩みセンサ付きボルト。
【請求項2】
前記深穴は、前記ボルト本体の前記頭部から前記ボルト本体の前記雄ネジ部内に連通し、前記ボルト本体の前記頭部内に、前記接触センサが固定される雌ネジ部が形成されている請求項1記載の緩みセンサ付きボルト。
【請求項3】
前記ボルト本体の前記雌ネジ部には、シール部材を介して前記接触センサが水密状態で前記ボルト本体の前記頭部に固定される請求項2記載の緩みセンサ付きボルト。
【請求項4】
雄ネジ部と頭部とを有したボルト本体の中心軸方向に穿設された深穴を備え、前記深穴内の底部に一端部が固定され、固定された前記一端部以外は前記深穴の内周面に拘束されないピンと、前記ボルト本体の前記頭部に固定され、前記雄ネジ部に掛かる軸力により前記ピンの他端部に離接可能に設けられた接触センサとを備えた緩みセンサ付きボルトを用いて、
前記ボルト本体を、締結対象物の雌ネジ部材とともに前記締結対象物に取り付け、
前記ボルト本体の前記雄ネジ部を相対的に回転させて、前記締結対象物に対して規定の締め付け力で締結した状態で、前記接触センサの接触端部が前記ピンの前記他端部に接触した状態とし、
前記締結対象物に取り付けられた前記ボルト本体の緩みにより、前記雄ネジ部の軸力が低下して前記雄ネジ部に縮み生じた場合の許容縮み量に対応した所定間隔だけ、前記接触端部を前記ピンの前記他端部から離間させて前記接触センサを前記ボルト本体の前記頭部に固定し、
使用状態において、前記ボルト本体の締結状態に緩みが生じ、前記ボルト本体の縮みが前記許容縮み量に達すると、前記ピンの前記他端部で、前記接触センサの前記接触端部が離間状態から接触状態になり、前記接触センサから緩み検知信号を出力することを特徴とする緩みセンサ付きボルトの使用方法。
【請求項5】
前記深穴は、前記ボルト本体の前記頭部から前記ボルト本体の前記雄ネジ部内に連通し、前記ボルト本体の前記頭部には前記接触センサが固定される雌ネジ部が形成され、前記接触センサの前記接触端部を前記ピンの前記他端部から離間させる際に、前記接触センサを前記ボルト本体の軸回りに所定角度回動させて、前記許容縮み量に対応した前記所定間隔を離間させる請求項4記載の緩みセンサ付きボルトの使用方法。
【請求項6】
雄ネジ部と頭部とを有したボルト本体の中心軸方向に穿設された深穴を備え、前記深穴内の底部に一端部が固定され、固定された前記一端部以外は前記深穴の内周面に拘束されないピンが前記深穴内に設けられ、前記ボルト本体の前記頭部に固定され、前記雄ネジ部に掛かる軸力により前記ピンの他端部に離接可能に設けられた接触センサを備えた緩みセンサ付きボルトが設けられ、
前記緩みセンサ付きボルトが、締結対象物の雌ネジ部材とともに前記締結対象物に取り付けられた状態で、前記接触センサから緩み検知信号を受けて、前記ボルト本体に緩みが生じていることを表示する表示装置を備え、
使用状態において、前記ボルト本体の前記締結状態に緩みが生じ、前記ボルト本体の縮みが所定の許容縮み量に達すると前記ピンの他端部で、前記接触センサの前記接触端部が離間状態から接触状態になり、前記接触センサから緩み検知信号を出力し、前記表示装置により前記ボルト本体の緩みが表示されることを特徴とする緩み検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、種々の構造物を締結するボルトの緩みを検知するセンサを備えた緩みセンサ付きボルトとその使用方法並びに緩み検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや橋梁等のインフラ構造物、その他の各種連結対象物の部材同士を締結するボルトは、経時的に緩みが生じ、定期的な検査が必要であるとともに、ボルトの緩みを原因とする事故や問題が生じている。そこで、ボルトの緩みを検知する種々のセンサボルトが提案されている。
【0003】
特許文献1に開示されたセンサボルトは、ボルトの頭部から軸線方向に穿設した深穴内に、歪みを検出する歪みセンサを挿入して固定したものである。さらに、ボルト頭部に収容され歪みセンサの出力を増幅するとともに、歪みセンサ出力と予め設定した設定値との比較を行い、少なくともボルト締め付け後における設定値より歪みセンサ出力が低下した時に出力を送出する増幅器と、ボルト頭部に固定され増幅器からの出力によりボルト締めに緩みが生じたことを表示する表示器を備えたものである。
【0004】
特許文献2に開示された歪み量測定機能付きボルトは、ボルトの軸内部に、ひずみセンサおよびダミー抵抗からなるホイートストンブリッジ回路と、このホイートストンブリッジ回路からの信号を増幅してデジタル信号に変換する変換回路と、デジタル信号をボルトの外部に送信するための送信回路と、ボルトの外部から受けた電磁波エネルギを回路の電源として供給する電源回路とを設け、ホイートストンブリッジ回路を構成するひずみセンサおよびダミー抵抗が、同一のシリコン単結晶部材面上に形成されたものである。
【0005】
特許文献3に開示されたボルト軸力測定装置は、ボルト内を伝播する超音波の伝播時間に基づいてボルトの軸力を測定するボルト軸力測定装置であって、ボルトに超音波を送波してボルトから反射波を受波する超音波送受波部と、反射波の波形内から測定点を検出する測定点検出部とを備える。さらに、複数回得られた反射波の各々の波形内から検出された測定点に基づいて、異なる測定点間の時間差からボルト内における超音波の伝播時間を実測する伝播時間実測部と、温度測定手段によって測定される前記実測時のボルトの温度に基づいて、ボルト内における超音波伝播速度の温度依存性を反映させた伝播時間の補正係数を算出する補正係数算出部と、実測された伝播時間と算出された補正係数とに基づいて温度補正後の伝播時間を算出する伝播時間補正部とを有するボルトの軸力測定装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-118637号公報
【文献】特許第4329477号公報
【文献】特開2010-216804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示されたセンサボルトは、ボルトの軸線方向の深穴内に歪みセンサを備えるとともに、ボルト頭部に増幅器と表示器を備えるもので、ボルトに取り付ける電子部品が多く、構造も複雑である。上記特許文献2に開示された歪み量測定機能付きボルトも、シリコン単結晶部材のセンサ装置をボルトに取り付けたもので、構造が複雑であり、コストもかかるものである。さらに、特許文献3に開示されたボルト軸力測定装置は、ボルト内を伝播する超音波を測定するもので、周辺機器が複雑であり、使用方法が面倒でコストもかかるものである。
【0008】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、簡単な構成で、構造物への取り付けも容易であり、確実にボルトの緩みを検知することができる緩みセンサ付きボルトとその使用方法並びに緩み検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、雄ネジ部と頭部とを有したボルト本体の中心軸方向に穿設された深穴を備え、前記深穴内の底部に一端部が固定され、固定された前記一端部以外は前記深穴の内周面に拘束されないピンが前記深穴内に設けられ、前記ボルト本体の前記頭部に固定され、前記雄ネジ部に掛かる軸力により前記ピンの他端部に離接可能に設けられた接触センサを備え、前記接触センサは、前記ボルト本体の緩みにより前記ボルト本体の軸方向に掛かる軸力が低下して前記ボルト本体の前記雄ネジ部が縮み、前記ピンの他端部に対して前記接触センサの接触端部が、離間状態から接触状態になったことを示す信号を出力する緩みセンサ付きボルトである。
【0010】
前記深穴は、前記ボルト本体の前記頭部から前記ボルト本体の前記雄ネジ部内に連通し、前記ボルト本体の前記頭部に、前記接触センサが固定される雌ネジ部が形成されているものである。
【0011】
前記ボルト本体の前記雌ネジ部には、シール部材を介して前記接触センサが水密状態で前記ボルト本体の前記頭部に固定されるものでも良い。
【0012】
またこの発明は、雄ネジ部と頭部とを有したボルト本体の中心軸方向に穿設された深穴を備え、前記深穴内の底部に一端部が固定され、固定された前記一端部以外は前記深穴の内周面に拘束されないピンと、前記ボルト本体の前記頭部に固定され、前記雄ネジ部に掛かる軸力により前記ピンの他端部に離接可能に設けられた接触センサとを備えた緩みセンサ付きボルトを用いて、前記ボルト本体を、締結対象物の雌ネジ部材とともに前記締結対象物に取り付け、前記ボルト本体の前記雄ネジ部を相対的に回転させて、前記締結対象物に対して規定の締め付け力で締結した状態で、前記接触センサの接触端部が前記ピンの前記他端部に接触した状態とし、前記締結対象物に取り付けられた前記ボルト本体の緩みにより、前記雄ネジ部の軸力が低下して前記雄ネジ部に縮み生じた場合の許容縮み量に対応した所定間隔だけ、前記接触端部を前記ピンの前記他端部から離間させて前記接触センサを前記ボルト本体の前記頭部に固定し、使用状態において、前記ボルト本体の締結状態に緩みが生じ、前記ボルト本体の縮みが前記許容縮み量に達すると、前記ピンの前記他端部で、前記接触センサの前記接触端部が離間状態から接触状態になり、前記接触センサから緩み検知信号を出力する緩みセンサ付きボルトの使用方法である。
【0013】
前記深穴は、前記ボルト本体の前記頭部から前記ボルト本体の前記雄ネジ部内に連通し、前記ボルト本体の前記頭部には前記接触センサが固定される雌ネジ部が形成され、前記接触センサの前記接触端部を前記ピンの前記他端部から離間させる際に、前記接触センサを前記ボルト本体の軸回りに所定角度回動させて、前記許容縮み量に対応した前記所定間隔を離間させるものである。
【0014】
またこの発明は、雄ネジ部と頭部とを有したボルト本体の中心軸方向に穿設された深穴を備え、前記深穴内の底部に一端部が固定され、固定された前記一端部以外は前記深穴の内周面に拘束されないピンが前記深穴内に設けられ、前記ボルト本体の前記頭部に固定され、前記雄ネジ部に掛かる軸力により前記ピンの他端部に離接可能に設けられた接触センサを備えた緩みセンサ付きボルトが設けられ、前記緩みセンサ付きボルトが、締結対象物の雌ネジ部材とともに前記締結対象物に取り付けられた状態で、前記接触センサから緩み検知信号を受けて、前記ボルト本体に緩みが生じていることを表示する表示装置を備え、使用状態において、前記ボルト本体の前記締結状態に緩みが生じ、前記ボルト本体の縮みが所定の許容縮み量に達すると前記ピンの他端部で、前記接触センサの前記接触端部が離間状態から接触状態になり、前記接触センサから緩み検知信号を出力し、前記表示装置により前記ボルト本体の緩みが表示される緩み検出システムである。
【発明の効果】
【0015】
この発明の緩みセンサ付きボルトとその使用方法並びに緩み検出システムによれば、簡単な構成で、構造物への取り付けも容易であり、確実にボルトの緩みを検知することができる。さらに、ボルトの緩みの検知精度も高く、確実にボルトの緩みを検知して、外部に知らせることができ、締結対象物の構造物の安全性や締結安定性を容易に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の第一実施形態の緩みセンサ付きボルトのボルトを示す断面図である。
【
図2】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトのピンを示す正面図である。
【
図3】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトの接触センサを示す正面図である。
【
図4】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトの使用状態を示す縦断面図(a)、A-A断面図(b)、B-B断面図(c)である。
【
図5】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトの使用状態を示す部分拡大縦断面図である。
【
図6】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトの緩み検知状態を示す縦断面図である。
【
図7】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトの緩み検知状態を示す部分拡大縦断面図である。
【
図8】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトの軸方向の張力である軸力とボルトの雄ネジ部の軸方向の伸びの関係を示すグラフである。
【
図9】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトの緩み検知持の動きを示す部分拡大縦断面図である。
【
図10】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトの他の使用状態を示す縦断面図である。
【
図11】第一実施形態の緩みセンサ付きボルトを用いた緩み検知システムを示す概略図である。
【
図12】この発明の第二実施形態の緩みセンサ付きボルトを示す断面図である。
【
図13】第二実施形態の緩みセンサ付きボルトの接触センサを示す正面図である。
【
図14】第二実施形態の緩みセンサ付きボルトの使用状態を示す縦断面図(a)、C-C断面図(b)、D-D断面図(c)である。
【
図15】第二実施形態の緩みセンサ付きボルトの使用状態を示す部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の緩みセンサ付きボルトの第一実施形態について、
図1~
図8を基にして説明する。この実施形態の緩みセンサ付きボルト10は、
図1に示すように、雄ネジ部12aと頭部14から成るボルト本体12を備える。雄ネジ部12aの中心軸C方向には、頭部14の天面14aから深穴16が穿設され、深穴16には、後述する接触センサ22が挿入され固定される。
【0018】
深穴16は、ボルト本体12の頭部14から、ボルト本体12の雄ネジ部12aの頭部14側の1/3程度の長さに亘り形成され、深穴16内の底部には、内径が僅かに小さく形成された小径部16aが形成されている。小径部16aは、後述するピン20が嵌合され保持固定可能な短い長さに形成されている。ピン20が固定される小径部16a以外の深穴16は、内径が僅かに大きく、深穴16の内周面にピン20が接触せず、ピン20が拘束されない径に形成されている。
【0019】
ボルト本体12の頭部14内の深穴16は、頭部14で、深穴16の内径が大きくなり天面14aで開口し、且つ接触センサ22が固定される雌ネジ部16bが形成されている。雌ネジ部16bは、中心軸C方向の長さが、頭部14の中心軸C方向の幅よりも僅かに短く、雌ネジ部16bが形成された端面16cの位置は、ボルト本体12の頭部14の裏面14bよりも中心軸C方向に、僅かの間隔L1だけ天面14a側に位置している。
【0020】
ボルト本体12の深穴16に設けられるピン20は、
図2に示すように円柱状の金属製の棒であり、外径が深穴16の小径部16aに圧入可能な径であり、先端20aの角部が面取りされ、基端面20bは平面に形成されている。ピン20の長さP
0は、深穴16の小径部16aに先端20aが固定された状態で、基端面20bが、深穴16の端面16cよりも僅かに突出して、頭部14の天面14a側に位置する長さである。
【0021】
ボルト本体12の深穴16に設けられる接触センサ22は、
図3に示すように、ボルト本体12の頭部14の雌ネジ部16bに螺合する雄ネジ部22aが形成された円柱状であり、先端部には、ピン20に対する接触状態を検知する接触端部24を有している。接触端部24は、対向した部材に接触したことを電気的に検知するとともに、僅かに突没可能に設けられている。接触センサ22は、接触端部24がピン20に接触すると、電気的に内部回路の接点が開いて又は閉じて、接触状態を検知してリード線18から出力可能に形成されている。
【0022】
接触センサ22は、取り付け後に経時的に緩むと検知精度が低下し又は検知不能になるので、接触センサ22の雄ネジ部22aは、緩みの生じない波ネジである雄ネジが形成されていると良い。雄ネジ部22aのネジ山23は、例えば、ネジ山23が一定の周期で軸方向に波状に形成されているもので、この波状のネジ山23の波は、標準ネジのつるまき線に対して正逆のサイクロイド曲線等を一サイクルとした周期的な波状の曲線で形成されている。ネジ山23の波の周期は、雄ネジ部22aの1周360°に対して、例えば180°又は120°であり、雄ネジ部22aの周面を1周する間に2サイクル又は3サイクルの周期で波形状にネジ山23が形成されている。ネジ山23の1サイクルの正逆の波の頂点間の間隔は、この雄ネジ部22aの1ピッチの間隔よりも広いもので、雌ネジ部16bに螺合した状態で、雄ネジ部22aのネジ山23が弾性変形して螺合可能な間隔に形成されている。
【0023】
次に、この実施形態の緩みセンサ付きボルト10の使用方法について説明する。緩みセンサ付きボルト10は、
図4、
図5に示すように、ボルト本体12の深穴16内の小径部16aにピン20の先端20aが圧入されて固定された状態で、締結対象物26,28をナット30と頭部14との間に挟持して、ボルト本体12の雄ネジ部12aと一体の頭部14又は締結対象物26,28側の雌ネジ部材であるナット30を、互いに相対的に回転させて締め付けて固定する。このとき、接触センサ22は深穴16の雌ネジ部16bに螺合されていても良いが、接触センサ22をボルト本体12の締結後に取り付けても良い。
【0024】
ボルト本体12の締め付けは、所定の締め付けトルクで行う。このとき、ボルト本体12の雄ネジ部12aには中心軸C方向に張力である軸力Tがかかり、この軸力Tに比例して、雄ネジ部12aは伸張する。この関係は、雄ネジ部12aの弾性係数(ヤング率)により定まるもので、ほぼ
図8に示すように、軸力T(応力)と伸び量D(歪み)は比例関係にある。
【0025】
ボルト本体12とナット30により、ホルト本体12の雄ネジ部12aの太さ等により決められた標準軸力で締結対象物26,28を締結した後、接触センサ22の設定を行う。接触センサ22の設定は、ホルト本体12の雄ネジ部12aに標準軸力が掛かる締め付けトルクでボルト本体12を締結した後、接触センサ22を深穴16内に螺合し、接触端部24をボルト本体12内のピン20の基端面20bに接触させる。このとき、接触端部24が接触センサ22内に没入して移動しないように、接触位置で螺合を止め、接触端部24には圧力がかかっていない状態とする。なお、ホルト本体12の標準軸力でボルト本体12を締結する前に、接触センサ22を深穴16内に螺合し、接触端部24をボルト本体12内のピン20の基端面20bに接触させ、その後、標準軸力でボルト本体12を締結しても良い。しかし、標準軸力でのボルト本体12を締結後、雄ネジ部12aは伸び量D1の分だけ伸張するので、再度接触センサ22の接触端部24をピン20の基端面20bに接触させる必要がある。
【0026】
この状態から、接触センサ22の接触端部24を、ピン20の基端面20bから所定間隔Δdだけ離間させる。所定間隔Δdは、
図8に示すように、所定のトルクで締結対象物26,28を締結したときのボルト本体12にかかる軸力T
0による伸び(歪み)D
0に対して、締結対象物26,28に取り付けられたボルト本体12の緩みにより、雄ネジ部12aの張力である軸力がT
1に低下して、雄ネジ部12aが、伸び量D
0から僅かの縮みを生じて伸び量D
1になった場合の、許容縮み量ΔDに対応した値である。許容縮み量ΔDは、それ以上ボルト本体12に許容される締め付け力の低下によるボルト本体12の雄ネジ部12aの縮み量である。
【0027】
即ち、所定間隔Δdは、
図5で示す雄ネジ部12aの、無負荷状態での深穴16内での所定の長さL
0に対して、締結当初の所定の軸力が、ボルト本体12の緩みにより低下し、
図9に示すように、ボルト本体12の雄ネジ部12aの縮み量に対応し、雄ネジ部12aの内の長さL
0に対応する部分の伸びの減少量であり、縮み量である。ここで、長さL
0は、雄ネジ部12aの深穴16の長さの内の、雄ネジ部12aにかかる軸力により伸縮する部分であって、深穴16の小径部16aに圧入されたピン20に対して、相対的に伸縮する部分の長さである。且つ、ピン20は、深穴16内で、ボルト本体12の伸縮にかかわらず、深穴16の小径部16aに先端20aが固定されているので、小径部16aに保持されない部分の長さが長さL
0である。ボルト本体12の頭部14の裏面14bからピン20の基端面20bまでの間隔は、ボルト本体12においても、ボルト本体12の締結による伸縮に影響しない部分である。
【0028】
従って、所定間隔Δdは、無負荷状態でのボルト本体12の雄ネジ部12aの所定部分の長さL
0に対して、ボルト本体12に緩みが生じ、雄ネジ部12aの張力である軸力がT
1に低下して、上記のように雄ネジ部12aが、伸び量D
0から僅かの縮みを生じて伸び量D
1になった場合の許容縮み量ΔDに比例したもので、
図8に示す応力と歪みの関係から導き出される値である。所定間隔Δdが算出されると、接触センサ22の接触端部24の先端位置を、ピン20の基端面20bから所定間隔Δdだけ離間させて位置決めする。接触端部24の先端位置は、接触センサ22の回動角度と雄ネジ部22aのピッチで定まる。従って、所定間隔Δdを求めた後、所定間隔Δdに対応した距離を、接触センサ22の雄ネジ部22aの回動角度として算出し、接触端部24の先端位置の位置決めを行う。
【0029】
なお、所定間隔Δdを定めるパラメータは、ボルト本体12の雄ネジ部12aの太さ、深穴16とピン20により定める長さL0の値、その他ボルト本体12の材質等により設定されるもので、これらのパラメータを考慮して、実測により所定間隔Δdを算出し、所定間隔Δdに対応する接触センサ22の回動角度として設定し、接触端部24の位置決めを行うと良い。
【0030】
また、使用状態において、深穴16により設定される長さL
0に対して、締結対象物26,28の間隔が狭い場合には、
図10に示すように、ナット30と締結対象物26との間に座金32等のスペーサを介在させて、ボルト本体12の雄ネジ部12aに、少なくとも長さL
0に対応した部分には締結による軸力がかかるように取り付けると良い。
【0031】
この実施形態の緩みセンサ付きボルト10によれば、接触センサ22を用いた簡単な構成であり、構造物等の締結対象物26,28への取り付けも容易であり、ボルト本体12の緩みを、雄ネジ部12aの縮みとして、
図9に示すように接触センサ22の検知端部24で電気的に確実に検知することができる。リード線18からの検知出力は、接触端部24がピン20に接触したか否かのON,OFF信号であるが、ボルト本体12の緩みが許容縮み量ΔDに対応した閾値としての所定間隔Δdを、高精度に検出できるので、ボルト本体12の緩みを早期に検出して、増し締め等の管理を行うことができ、締結対象物26,28の締結状態の安全性、安定性を確実に高めることができる。
【0032】
次に、この実施形態の緩みセンサ付きボルト10を利用した緩み検出システム40について、
図11を基にして説明する。この実施形態の緩みセンサ付きボルト10は、複数の工場A,Bに設けられた装置の構造物を締結したもので、締結対象物26,28を緩みセンサ付きボルト10を用いて締結固定したものである。この実施形態の緩みセンサ付きボルト10の出力は、各接触センサ22に並列に接続された並列配線34に接続され、並列配線34は、緩みセンサ付きボルト10の接触センサ22がONしたことを表示するランプ表示盤42に接続されている。ランプ表示盤42は、各装置A,B毎に設けられ、さらに各装置A,Bのいずれかの緩みセンサ付きボルト10の接触センサ22がONするとランプが点灯するランプ表示盤44と、ランプ表示盤42,44の表示を送信する無線の発信機46とが、各工場A,B毎に設けられている。発信機46の出力は、工場A,Bとは離れた所にある表示盤48やパソコン49に出力され、緩みセンサ付きボルト10がONしたことを表示する。
【0033】
この実施形態の緩みセンサ付きボルト10を利用した緩み検出システム40によれば、接触センサ22により安価で高精度の装置で緩み検知を可能にし、確実にボルト本体10の緩みを検知して、補修することができる。また、工場内の締結対象物26,28及び緩みセンサ付きボルト10を確実にモニタリングすることができ、締結対象物26,28の安定な締結を可能にしている。
【0034】
次に、この発明の緩みセンサ付きボルトの第二実施形態について、
図12~
図15を基にして説明する。ここで、上記実施形態と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態の緩みセンサ付きボルト50は、防水機能を備えたもので、ボルト本体52は、
図12に示すように、頭部14の天面14aに後述する水密構造の接触センサ54が嵌合する円筒状の突部56が形成されている。突部56には、同心状に円孔56aが形成され、円孔56aは、深穴16の雌ネジ部16bよりも大きい内径に形成されている。
【0035】
接触センサ54は、
図13に示すように、上記実施形態と同様に、ボルト本体52の雌ネジ部16bに螺合する雄ネジ部22aが形成された円柱状であり、先端部にピン20に対する接触状態を検知する接触端部24を有している。接触端部24は、僅かに突没可能に設けられ、ピン20に接触すると、電気的に内部回路の接点が閉じて、接触状態を検知して出力可能に形成されている。さらに、接触センサ54も、その雄ネジ部22aは、緩みの生じない波ネジである雄ネジが形成されている。
【0036】
接触センサ54の雄ネジ部22aの基端側は、ボルト本体52の突部56の円孔56aに嵌合可能な外形の円柱部54aが形成され、円柱部54aに、Oリング等のシール部材60が嵌合するシール溝58が環状に2本形成されている。シール溝58には、シール部材60が嵌合し、ボルト本体52の突部56の円孔56aに、シール部材60が水密状態で嵌合可能に形成されている。
【0037】
次に、この実施形態の緩みセンサ付きボルト50の使用方法について説明する。緩みセンサ付きボルト50は、
図14、
図15に示すように、ボルト本体52の深穴16内にピン20が嵌合され固定された状態で、締結対象物26,28をナット30と頭部14との間に挟持して、ボルト本体52の頭部14又はナット30を相対的に回転させて締め付けて固定する。このとき、接触センサ54は深穴16の雌ネジ部16bに螺合されていても良いが、接触センサ54をボルト本体52の締結後に取り付けても良い。
【0038】
ボルト本体52の締め付けは、上記実施形態と同様に行う。ボルト本体52により、所定の締め付け力で締結対象物26,28を締結した後、接触センサ54の設定を行う。接触センサ54の設定も、上記実施形態と同様に、ホルと本体52の雄ネジ部12aの標準軸力でボルト本体52を締結前又は後、接触センサ54を深穴16内に螺合し、接触端部24をボルト本体52内のピン20の基端面20bに接触させる。このとき、接触端部24が接触センサ54内に没入しないように、接触位置で螺合を止める。この後、上記実施形態と同様に、ボルト本体52の雄ネジ部12aの許容縮み量ΔDに対応した値の所定間隔Δdだけ、接触センサ54の接触端部24をピン20の基端面20bから離間させる。所定間隔Δdの離間は、所定間隔Δdに対応した距離を接触センサ54の雄ネジ部22aの回動角度として算出し、接触端部24の位置決めを行う。
【0039】
この実施形態の緩みセンサ付きボルト50は、水密構造で接触センサ54がボルト本体52に取り付けられ、雨水やオイル等の液体が侵入可能な環境や、水中における締結状態でのボルト本体54の緩みを確実に検知することができる。
【0040】
なお、この発明の緩みセンサ付きボルトは上記実施形態に限定されるものではなく、接触センサの種類は、問わないもので、ボルト本体の雄ネジ部にかかる軸力の緩みにより、ボルト本体中のピンに接触端部が接触して、雄ネジ部の縮みを検知可能な構造であれば良い。接触センサの取り付けも、ネジにより固定するほか、嵌合固定する形式でも良い。
【符号の説明】
【0041】
10,50 緩みセンサ付きボルト
12,52 ボルト本体
12a,22a 雄ネジ部
14 頭部
16 深穴
18 リード線
20 ピン
20a 先端部
20b 基端面
22,54 接触センサ
24 接触端部
26,28 締結対象物
30 ナット
40 緩み検出システム
58 シール溝
60 シール部材
【要約】
【課題】簡単な構成で、構造物への取り付けも容易であり、確実にボルトの緩みを検知することができる緩みセンサ付きボルトとその使用方法並びに緩み検出システムを提供する。
【解決手段】雄ネジ部12aと頭部14とを有したボルト本体12の中心軸C方向に穿設された深穴16を備える。深穴16内の底部に一端部が固定され、固定された一端部以外は深穴16の内周面に拘束されないピン20を、深穴16内に有する。ボルト本体12の頭部14に固定され、雄ネジ部12aに掛かる軸力によりピン20の他端部に離接可能に設けられた接触センサ22を備える。接触センサ22は、ボルト本体12の緩みによりボルト本体12の軸方向に掛かる軸力が低下してボルト本体12の雄ネジ部12aが縮み、ピン20の他端部に対して接触センサ22の接触端部が、離間状態から接触状態になったことを示す信号を出力する。
【選択図】
図5