(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】魚介類の鮮度維持方法及び魚介類洗浄機
(51)【国際特許分類】
A22C 25/02 20060101AFI20230324BHJP
B08B 1/02 20060101ALI20230324BHJP
B08B 5/02 20060101ALI20230324BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
A22C25/02
B08B1/02
B08B5/02 A
B08B3/02 C
(21)【出願番号】P 2018118500
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-05-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518222631
【氏名又は名称】有限会社小林機器
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】小林 菊良
(72)【発明者】
【氏名】西岡 不二男
(72)【発明者】
【氏名】西岡 十三生
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-024571(JP,B1)
【文献】特開2011-015619(JP,A)
【文献】特開2004-329083(JP,A)
【文献】特開平07-289666(JP,A)
【文献】特開2005-342546(JP,A)
【文献】特開2003-047920(JP,A)
【文献】特開平10-165905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 25/02
B08B 1/02
B08B 5/02
B08B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底引き網漁を行う漁船上において、
魚介類の網揚げ工程と、
前記網揚げ工程による前記魚介類の体表のヌメリを溜めた洗浄水を用いて除去する洗浄工程と、
からな
り、
前記洗浄工程は、
魚介類の入口と出口を有した無回転の横向きドラムと、
前記ドラムが取り付けられた取付台と、
前記ドラムの中で回転する螺旋状の羽根からなるスクリューと、
前記ドラム内に洗浄水を噴出するノズルと、
前記スクリューの螺旋状の前記羽根のピッチ間に取り付けられたブラシと、
を備えた魚介類洗浄機を用いて行われることを特徴とする魚介類の鮮度維持方法。
【請求項2】
魚介類の入口と出口を有した無回転の
横向きドラムと、
前記ドラムが取り付けられた取付台と、
前記ドラムの中で回転する螺旋状の
羽根からなるスクリューと、
前記ドラム内に洗浄水を噴出するノズルと、
前記スクリューの螺旋
状の前記羽根のピッチ間に
取り付けられたブラシと、
を備えたことを特徴とする魚介類洗浄機。
【請求項3】
前記スクリューと共に回転し、前記出口からの排出を間欠的に許容する流出孔を備えた堰を設けたことを特徴とする
請求項2に記載の魚介類洗浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚介類洗浄機に関し、詳しくはドラムの中で回転する螺旋状のスクリューを備えて魚介類を送りながら洗浄する魚介類洗浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの人が魚介類の悪臭を嫌う。この悪臭が、魚介類を嫌う理由になり、また、魚介類の鮮度低下を感じさせる。特に底引き網で取られた魚介類は、泥まみれで揚がってくるが、魚介類を腐敗させ、悪臭を放出させるPseudomonas(シュードモナス)属の細菌は、海底の泥に海水の千倍以上の濃度で生息し、袋網の中で魚介類の体表のヌメリ(mucus)に付着する。このヌメリは、細菌の餌であり、5℃以上で活発に増殖し、鮮度低下による悪臭を発する濃度に短時間で達する。このように、魚介類の体表からでる臭いは、付着した腐敗細菌が活発に活動し、濃度を増して発する臭いである。体表のヌメリの除去は、細菌の除去でもあり、体を冷やす低温化(10℃→5℃以下)と共に魚介類の高鮮度維持の重要な柱である。
【0003】
従来、魚介類の洗浄機が考えられ、また、販売されている。例えば、特許文献1の洗浄機には、洗浄水を吹きかけながら、旋回する2つのブラシの毛先の間に魚をチェーンコンベアで通すことが記載されている。特許文献2の洗浄機には、循環する洗浄水を上から吹きかけながら、3つ以上の回転する螺旋ブラシの間に魚が投入されることが記載されている。
【0004】
特許文献3の洗浄機には、気泡が噴出する洗浄槽に多数の孔が開いた魚搬送用回転ドラムを傾けた装置が記載されている。そして、この回転ドラム内には螺旋状の区切り壁が設けられ、所定位置にブラシが設けられ、回転ドラムの魚の投入口側が洗浄槽の水に半分入り込み、出口側が水から全面露呈する装置となっている。
【0005】
また、非特許文献1の動画には、水平に設置された回転ドラム内に螺旋状の区切り壁が設けられ、イカが浅い洗浄水の中を送られていく洗浄機が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-15619号公報
【文献】特開平11-178502号公報
【文献】特公平5-17820号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】株式会社ツネザワ、[online]、イカ加工機一つであるイカ洗浄機及びサンプル動画、[平成30年4月16日検索]、インターネット〈URL:http://www.tsunezawa.co.jp/cgi-local/page.cgi?MODE=1&ID1=001&ID2=000&ID3=0102&LANG=0〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多くの漁業関係者は、魚の鮮度に敏感であり、セリに出す前の魚の鮮度に腐心している。このような中で、魚介類の体表のヌメリは、粘液線から分泌されるたんぱく質であり、絶えず分泌されることで、本来は細菌の体内への侵入を防いでいる。このため、ヌメリの除去は古くから一般的には禁じられていた。また、鱗が剥がれることを網ずれと云ったりし、漁業関係者においては最も嫌われていた。
【0009】
また、付着している泥を洗い落とす程度の簡易な洗浄が行われることもあるが、魚介類の洗浄は、食品加工のための洗浄とは異なり、魚介類をなるべく生かして傷めないように行わなければならない。また、できるだけ早く洗浄してPseudomonas属の細菌を除去しなければならない。また、魚介類を一度に洗浄できれば、洗浄の時間短縮となって鮮度を維持することができる。
【0010】
また、港に戻ってから陸上で魚介類を洗浄することも可能であるが、細菌の増殖を考慮すると漁船上での魚介類のヌメリ除去が最善である。従って、漁船上で洗浄を行うのであれば、洗浄機は、できるだけ小型であることが望まれ、また、多種の魚介類を一緒に洗浄できる方が効率的である。
【0011】
特に、底引き網は、混獲と称されるような漁である。そのため、底引き網の場合は、その都度、細かく魚を選別するよりも一緒に洗浄できる方が、腐敗臭の防止や鮮度の維持にもつながる。
【0012】
また、洗浄機を小型化、コンパクト化すれば、船上の狭い場所に設置が可能になる。また、洗浄機を安価に供給できれば多くの漁業関係者が現実的に購入可能となる。
【0013】
このような課題に対して、特許文献1の洗浄機は、チェーンコンベアであるので大型となり、1匹ずつブラシの間を通さなければならないので時間が掛かるという問題があり、多種の魚介類に適用することができないという問題がある。また、チェーンの尖った突片で魚を捕捉し、金属製のブラシも使用するので魚が傷むという問題がある。
【0014】
特許文献2の洗浄機は、1匹ずつブラシの間を通さなければならないので時間が掛かるという問題があり、多種の魚介類に適用することができないという問題がある。また、そもそも特許文献2の洗浄機は、魚体の内臓除去、卵巣取り出し、開き加工、三枚おろしなどの魚体の加工処理の前工程であり、魚が螺旋状の3本以上の回転ブラシに挟まれて送られるので魚が傷むという問題がある。
【0015】
特許文献3の洗浄機は、投入口付近では水に浮き上がり過ぎる魚介類にはブラシが届かずに不均一なヌメリや雑菌の除去となる。また、この洗浄機は、水槽型洗滌タンク(7)を用いるが、タンク内の水はオーバーフローによって排出するか、水抜き用開口部(30)をその都度開放して排出する構造となっている。従って、基本的にはタンク内に溜まっている水で洗浄し続けるため、非常に不衛生な水で洗浄を行うことになる。また、回転ドラムが入る洗浄槽が必要なので装置が大型になる。また、洗浄槽に入った回転ドラムを回転させるので洗浄水を含んだ重量が加わって動力が大きくなることで装置の大型化になる。また、この洗浄機は、回転ドラム自体が回転する構造であるため、出口付近では回転ドラムの回転によって魚介類が持ち上がってから落下、という動きが繰り返されるので、魚介類が傷んでしまう。また、この洗浄機は、エキスパンドメタルが貼られた螺旋の区切り壁を用いる構造なので、区切り壁によって魚介類が傷むという問題がある。
【0016】
非特許文献1の洗浄機は、その動画からわかるように、魚介類が落下し、螺旋状の区切り壁の稜にぶっつかるものもあるので、著しく魚介類が傷つく(漁船がピッチングやローリングで揺れると傷つきがさらに大きくなる)。また、この洗浄機は、ブラシが無いのでヌメリや雑菌の除去が不十分である。また、この洗浄機は、ドラムを回転させるのに大きな動力が必要という問題がある。
【0017】
また、4つの文献のいずれもセリに出す前の魚介類のヌメリを除去するという目的が記されていない。また、漁船上で魚介類洗浄機を用いて魚介類のヌメリを除去するという目的が記されていない。
【0018】
本発明は、魚介類を洗浄することにより鮮度維持する魚介類の鮮度維持方法を提供することを目的とする。また、本発明は魚介類をなるべく生かして傷めないようにヌメリを除去できる魚介類洗浄機を提供することを目的とする。また、多種の魚介類を一緒に洗浄できる魚介類洗浄機を提供することを目的とする。また、安価で小型の魚介類洗浄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の魚介類洗浄機は、魚介類の入口と出口を有したドラムと、該ドラムの中で回転する螺旋状のスクリューと、前記ドラム内に洗浄水を噴出するノズルと、前記スクリューの螺旋間にブラシを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明によると、噴出された洗浄水と共に魚介類がスクリューによって入口から出口へと押し出される。このときにドラム自体が回転する構成ではないので、ドラムの回転による魚介類の落下が生じないため、魚介類への損傷が少ない。また、ブラシがスクリューと共に回転して魚介類を転がすので、まんべんなくヌメリを除去することができる。また、複数の魚介類を投入することが出来るので、1匹ずつ投入する洗浄機と比較して短時間で洗浄することができる。また、漁船のピッチングやローリングで洗浄機が揺れたとき、魚介類のゆれをスクリューのピッチ間に留めることができる。
【0021】
従って、魚介類のヌメリ除去に対する洗浄は、従来一般的にはタブー視されていたが、本発明の魚介類洗浄機によって、魚介類を傷つけず、ヌメリだけを積極的に取り除くことができ、獲りたての状態を維持して魚介類をセリに出すことができる。
【0022】
また、本発明は簡単な構成であるので、小型で安価で大きな動力を必要としない魚介類洗浄装置を提供することができる。これにより漁船への搭載が容易に可能となる。漁船への搭載が可能となれば、揚げてすぐにヌメリや雑菌の除去ができるので鮮度を長く保つことができ、悪臭が少なくなり、また、漁港に到着するまでの時間の有効利用となる。また、ヌメリや雑菌を除去した魚介類を早くセリに出すことができる。
また、本発明の魚介類洗浄機においては、前記スクリューと共に回転し、前記出口からの排出を間欠的に許容する流出孔を備えた堰を設けることが好ましい。
【0023】
本発明よれば、除去されたヌメリや雑菌で汚れた洗浄水は、間欠的に排出されるので、魚介類を洗う洗浄水が非常にきれいである。また、この堰止めにより溜まった洗浄水の中で魚介類が生存することができ、鮮度が上がる。また、魚が浮くので、鱗が剥げにくい。また、間欠的な堰止めを自動的に行うことができるので、人手の削減となる。また、簡単な構成であるので、小型で安価となる。
また、本発明の魚介類洗浄機においては、前記ノズルは前記ドラムの下方に設けられていることが好ましい。
【0024】
これにより、堰によって貯められた洗浄水の下から洗浄水を噴出することができ、洗浄水の中で魚介類を浮き上がらせることができ、また、魚介類がドラムの底に停留することを防止する。
【0025】
また、本発明の魚介類洗浄機においては、前記ドラムに溜まる洗浄水の深さを制限する逃がし孔を設けることが好ましい。これにより、魚介類が浮きすぎてブラシに接触しなくなることを防止する。また、洗浄水の表面に浮き上がった異物やヌメリや雑菌を流し出す。
【0026】
また、本発明の魚介類洗浄機においては、前記ブラシは回動自在に保持されることが好ましい。これにより、魚介類へのブラシの無理なこすり力を回避できるので、魚介類の傷つきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態の魚介類洗浄機の要部を示す部分断面図である。
【
図3】実施形態のブラシと洗浄水の位置を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0029】
[実施形態]
図1~
図3を用いて本発明の実施形態の魚介類洗浄機100の要部の構成を説明する。
図1、
図3の2点鎖線は洗浄水Wの水位を示す。本実施形態の魚介類洗浄機100は、漁船に搭載され、洗浄水Wとして冷海水を使用する。
【0030】
魚介類洗浄機100は、中で洗浄を行う円筒形のドラム1と、ドラム1内の魚介類Fと洗浄水Wを排出側に送るスクリュー2と、魚介類Fのヌメリを剥離するブラシ3と、魚介類Fと洗浄水Wの排出を間欠的に行う堰となる堰板4と、スクリュー2と堰板4を回転させる駆動部5と、洗浄水Wを噴出させる噴出部6と、構成部品を取り付けるステンレス製の取付台7からなる。
【0031】
ドラム1は、筒11と、筒11の前側を塞ぐ前蓋12と、筒11の後ろ側を塞ぐ後ろ蓋13と、筒11の前側の上方を開口して設けられた魚介類Fの投入口14と、後ろ蓋13の下方に開口された排出口15と、スクリュー2を軸支するために前蓋12に設けられた前軸受16と後ろ蓋13に設けられた後ろ軸受17と、からなる。
【0032】
筒11は、具体的には内径580mm、肉厚20mm、長さ約1500mmの市販の塩化ビニール製筒である。なお、筒11は、ステンレス等金属からなるものでも構わない。また、図示していないが、筒11の側面には点検および部品交換用の開閉可能な窓を、例えば2箇所程度設けておくのが好ましい。
前蓋12、後ろ蓋13と投入口14は金属製である。前軸受16と後ろ軸受17は、鋳鉄製カバー付きビロー型ベアリングユニットである。
【0033】
スクリュー2は、メンテナンスや耐久性を考慮したステンレス金属製あるいは樹脂性であり、軸21と、金属板が4回螺旋した羽根22と、掛け金23からなる。羽根22が溶接される部分の軸21の直径は、約90mmである。掛け金23は、ドーナツが半分に切断されたような半円形であり、羽根22に溶接されている。羽根22は、中央に孔が開けられた円板の1つの半径が切断されて軸方向に圧延された部品が4枚溶接で連結されることで螺旋形が形成される。
【0034】
ブラシ3は、ナイロン66などの樹脂繊維製あるいはパームなどの植物繊維製の固くない毛31がステンレスの撚り線32で保持されている。またブラシ3は、撚り線32の両端にナスカン33が取り付けられており、直径が約100mmで全長が400mm弱である。このナスカン33は、フック部331と取付部332が回動自在になっており、スクリュー2の掛け金23に掛けられる。そして、ブラシ3は、スクリュー2の軸21に平行に羽根22の螺旋のピッチ間に総合計30本程度が着脱可能に掛けられ、ナスカン33によって毛31自身が回転する構成となっている。
【0035】
なお、取付部332により、毛31が摩耗したブラシ3を簡単に交換することができる。ブラシ3の交換が容易に行えることは、特に漁船上に魚介類洗浄機100を搭載する場合に非常に好ましい。
【0036】
堰板4は、厚み15mm、直径は筒11の内径よりもわずかに小さな塩化ビニールの円板であり、金属の取付金具41によって、スクリュー2の軸21に固着され、その位置は羽根22と後ろ蓋13の間となる。そして、堰板4と後ろ蓋13(排出口15)との間は、
図1に示すように一定の間隔を設けており、この間隔は150~160mm程度となっている。
【0037】
また、この堰板4には流出孔42と3つのオーバーフロー孔43が形成され、パッキン44が取り付けられている。この堰板4は、堰止めとオーバーフローを行うが、詳細説明は
図4を用いて後述する。
【0038】
駆動部5は、無段階に回転速度を変更可能なインバーターモータからなるモータ51と、モータ51の軸511に固着される小歯車52と、スクリュー2の軸21に固着される大歯車53と、これらを覆うケース54からなる。小歯車52と大歯車53のピッチ円の大きさの差から、モータ51の回転が減速されてスクリュー2が1分間に3回転する。なお、スクリュー2の回転速度を変更する方法はインバーターモータに限定するものではなく、たとえば、歯車のピッチ円の直径を変更する方法などがある。
【0039】
なお、本実施形態の魚介類洗浄機100を実際に使用して洗浄を試みたところ、スクリュー2の回転を毎分5回転にすると、回転が速過ぎてヌメリを取り除くには洗浄時間が短かった。ただし、スクリュー2の回転数については、魚の種類や使用状況、装置の大きさ等によっても当然ながら変わってくる。
【0040】
図3に示すように噴出部6は、洗浄水タンク61と、水中ポンプ62と、給水管63と、ノズル64からなる。洗浄水タンク61には漁船から供給された冷海水である洗浄水Wが入っている。冷海水は氷で冷やされた、真水混じりの冷たい海水であり、魚介類Fの鮮度を保つのに適している水である。洗浄水Wは漁船から冷却海水を供給される場合でも氷を加えて50~70%の海水を使うが、冷却海水が得られない場合でも氷を30~50%加えれば、5℃以下の冷却海水を得ることができる。
【0041】
水中ポンプ62は、洗浄水タンク61の洗浄水W内に入れられて、洗浄水Wを吐出する。水中ポンプ62は異物の混入を防止するために吸水管621にフィルター622を有している。本実施形態においては、毎分120~140リットル程度の吐出が可能な水中ポンプ62を使用している。
【0042】
給水管63は、水中ポンプ62から吐出された洗浄水Wを各ノズル64へと導く水路である。給水管63は、水中ポンプ62の近傍にフィルター部65を備えている。フィルター部65は、流れ方向に対して傾斜するフィルター651を備えている。この傾斜によって、フィルター651のメッシュの面を広くすることができ、更に異物が一方側に寄せられるために、目詰まりがし難くなる。フィルター651は、水中ポンプ62のフィルター622よりも細かいメッシュとなっており、清掃のためにフィルター部65が複数のネジNによって着脱可能となっている。
【0043】
ノズル64は、筒11に開けられた直径3mmの孔であり、
図1、
図3に示すように上方に6列、下方に2列並んで、合計90個程度設けられている。上方のノズル64は、滝の打水をイメージしており、噴出の勢いで魚介類Fのヌメリの剥離を助けると共にブラシ3の動きを助長し、また、洗浄水Wを多く流出する。
【0044】
下方のノズル64は洗浄水W内から噴出するのでヌメリや雑菌などを勢いで洗い流す効果は少ないが、魚介類Fを洗浄水W内に浮かせると共に、ドラム1の底に滞留することを防ぐ効果がある。そして、魚介類Fを洗浄水W内で浮かせることにより、鱗が剥げることが少なく、かつヌメリや雑菌を落とす適度な力でブラシ3を満遍なく当てることができ、また、魚介類Fを回転させて均一な表面の洗浄ができる。
【0045】
なお、図示しないが、上下6列への給水管63にはそれぞれの水路を開閉可能な、また、流量を調節可能な弁が取り付けられている。そして、水中ポンプ62からの水路にも同様に弁が取り付けられている。
【0046】
取付台7には、洗浄タンク61と水中ポンプ62を除く構成部品が取り付けられ、4つのアジャスター71によって、ドラム1の傾斜を調節できるようになっている。このアジャスター71によって魚介類洗浄機100を略平行に簡単に設置することができる。このアジャスター71は、魚介類洗浄機100を陸上に設置する場合は勿論、特に漁船に設置する場合に効果的である。漁船の甲板は通常傾斜しているため、魚介類洗浄機100を漁船上に平行に設置する場合にアジャスター71があることで容易に平行に設置することが可能となる。
【0047】
次に、
図4を用いて堰止めとオーバーフローについて説明する。
図4の2点差鎖線は水位を示す。スクリュー2に固着されて回転する堰板4は、ドラム1内の洗浄水Wが後ろ蓋13の排出口15から排出されるのを間欠的に堰き止める円板である。スクリュー2の羽根22によって魚介類Fが堰板4の方向へと送られるとき、
図4の細い矢印で示すように、堰板4は時計方向に回転する。
【0048】
堰板4には堰止めを解放する扇形の流出孔42と共に、堰止めで溜められる洗浄水W(
図4(C)、
図4(D)の2点鎖線)の深さを17cmに制限するためのオーバーフロー孔43が形成されている。
図4に示すように、オーバーフロー孔43は円弧上に配設された多数の孔で形成されており、これらの孔径は魚介類Fが抜けないように小さくなっている。なお、オーバーフロー孔43については、堰板4の強度も考慮しながら設ける必要もある。本実施形態の魚介類洗浄機100では、直径8mmの孔を50~60mm間隔で設けている。
【0049】
また、
図1、
図3に示すように、筒11の側壁にも洗浄水Wの深さを17cmに制限するためのオーバーフロー孔18が形成されている。このオーバーフロー孔18の孔径も魚介類Fが抜けないように、たとえば30mm~50mm間隔の直径8mmの貫通孔となっている。
【0050】
流出孔42は、羽根22の端部方向に寄せられた魚介類Fが排出されるよう、
図2に示すように、流出孔42の扇形の右端が羽根22の端部(
図2の22a)と一致する位置に形成される。
【0051】
堰板4と筒11の間から洗浄水Wが漏れるのを防止するためのパッキン44が、堰板4の外周に形成された幅8mm、深さ6mmの溝45(
図1の拡大図参照)に着脱可能に嵌められる。パッキン44と溝45は、流出孔42が含まれる堰板4の中心からの角度の領域S(
図4の(A)参照)の外周には設けられていない構成となっている。従って、領域Sからは洗浄後の汚れた洗浄水や砂などの異物が流出される。
【0052】
なお、本実施形態では筒11が塩化ビニール製となっているが、塩化ビニール製の場合、一般的に筒の直径の誤差が±2mm程度となる。そこで、パッキン44としてシリコンチューブを用いており、チューブの中空を利用して隙間の大きな変位に適用できるようしている。また、筒11がステンレス製の場合には、さらに大きな寸法誤差が生じやすい。そこで、本実施形態のようにパッキン44としてシリコン状のものが好ましい。
【0053】
次に
図4の(A)~(D)について説明する。(A)~(D)は、堰板4の回転状態を示し、順次(A)、(B)、(C)、(D)の後(A)に戻って回転を繰り返す。(A)は、流出孔42が下方に位置した状態である。この時、魚介類Fと貯められた洗浄水Wが排出されて洗浄水Wの水位が最低の状態となる。(B)は、(A)の状態から堰板4が回転して、流出孔42の最下部42aが上がり始め、洗浄水Wが溜まり始める状態である。(C)は、(B)の状態から堰板4が回転した状態である。この時、溜まった洗浄水Wがオーバーフロー孔43から溢れ出て、水深が17cmに保たれ、堰板4の近傍に魚介類Fが寄せられた状態となる。(D)は、(C)の状態から堰板4が回転して、流出孔42の最下部42aが洗浄水Wの水面に達した状態である。この時、魚介類Fと洗浄水Wを排出し始める状態となる。そして、(D)の状態から堰板4が回転して、魚介類Fと洗浄水Wを排出し、(A)の状態に戻る。
【0054】
上述の構成と堰板4の堰止めやオーバーフローの作用により、本実施形態の魚介類洗浄機100は、所定内の水深(17cm)に保たれ堰止めされた洗浄水Wで魚介類Fを洗浄する。また、洗浄により汚れた洗浄水Wは、スクリュー2の回転に伴い定期的に排出される。
【0055】
以上のように、魚介類洗浄機100は、洗浄水Wを噴出するノズル64が、上方のみならず洗浄水の下方にも設けられる。また、ドラム1自身は回転せずに、スクリュー2が回転して魚介類Fと洗浄後の洗浄水Wを排出方向に寄せる。また、ブラシ3は、スクリュー2の螺旋内に自回転可能に軸支されて、上部のノズル64からの洗浄水Wの噴出により不規則に動いて洗浄水W内の魚介類Fと当接し、魚介類Fのヌメリを剥離する。
【0056】
これにより、本実施形態の魚介類洗浄機100は、回転しないドラム1と、螺旋のスクリュー2と、スクリュー2に取り付けられるブラシ3および堰板4とスクリュー2の駆動部5と、噴出部6という構成であるので、ドラム1自体を回転させず、魚介類Fの大きな搬送装置を必要としないので、小型であり、安価であり、小さな動力となる。
【0057】
従って、魚介類洗浄機100を漁船上に搭載し易くなる。漁船への搭載が可能となれば、揚げてすぐに漁船上でヌメリや雑菌の除去ができるので、特に4、5日以上の漁では、その後の鮮度を長く保つことができ、悪臭が少なくなる。また、漁港に到着するまでの時間を利用して早くヌメリや雑菌の除去ができるので、時間の有効利用となる。そして、ヌメリや雑菌を除去した魚介類Fを早くセリに出すことができる。
【0058】
また、本実施形態の魚介類洗浄機100は、陸上でも使用でき、小型・安価という利点により、多くの魚介類洗浄機100を漁港内の洗浄場所等に設置することができるので、短時間で洗浄作業を終えることができ、魚介類Fの鮮度をより長く保つことができる。また、漁獲直後の魚介類Fにはヌメリを分泌する機能が保持されているので、ヌメリ除去は容易であるし、高鮮度保持時間の大幅な延伸をもたらすことができる。
【0059】
なお、陸上で魚介類洗浄機100を使用するときは、湾内の海水には有害細菌が多く生息するので、洗浄水Wとして海水は使用せずに、5℃以下に冷却された2%の食塩水を使用することが好ましい。従って、陸上ではなく漁船上で洗浄を行うことは、細菌の少ない沖合の海水が洗浄水Wとして利用できることから、洗浄費の削減にもつながるという利点もある。
【0060】
本実施形態の魚介類洗浄機100では、魚介類Fの大きさや種類を問わずにヌメリだけを除去する、というだけでなく、魚介類Fを冷たい洗浄水Wに入れたまま洗浄するので、体表の温度を5℃以下に下げることができる。従って、一般的な氷蔵条件下でも、漁獲直後の色彩を1週間程度は保持することができる。
【0061】
本実施形態の魚介類洗浄機100では、5℃以下の洗浄水Wを7トン/時間程度使用することで、剥離したヌメリや細菌を絶えず洗い流し、洗浄水Wの汚染度が高まることが無いように設計した。このような場合、魚介類Fの処理量は、最大でも3トン/時間程度におさめることが好ましい。
【0062】
また、魚介類洗浄機100は、魚介類Fが間欠的に堰止めされた洗浄水Wに浸かったまま洗浄されるので、生きたままでも洗浄でき、その後の鮮度をより長く保つことができる。また、この間欠的な堰止めはスクリュー2に取り付けられた堰板4によって自動的に行われるので、人手の削減となる。また、魚介類Fを細かく選別しなくとも、多種で複数の魚介類を投入することも出来るので、選別工程の削減により短時間で洗浄することができ、魚介類Fの鮮度をより長く保つことができる。このことは、特に多種多様な魚介類Fが捕れる底引き漁船で効果が大きい。
【0063】
また、魚介類洗浄機100は、ドラム1自体が回転しないので、ドラム1の回転による魚介類Fの落下がなく、魚介類Fが傷むことが少ない。また、漁船のピッチングやローリングで洗浄機が揺れたとき、魚介類Fの揺れをスクリュー2のピッチ間に留めることができる。また、ブラシ3がスクリュー2と共に回転して魚介類Fを転がすので、満遍なくヌメリを除去することができる。また、洗浄水の下方にも設けられたノズル64によって魚介類Fを浮かせることができ、ブラシ3で魚介類Fを転がしやすくなる。
【0064】
また、魚介類洗浄機100は、除去されたヌメリや雑菌で汚れた洗浄水Wが、
図4(A)の時に排出されるので、魚介類Fの洗浄中に定期的に洗浄水Wが入れ替わることになり、きれいな洗浄水Wで魚介類Fを常に洗うことができる。また、オーバーフロー孔43により溢れた洗浄水Wを流すので、魚介類Fが浮きすぎてブラシ3に接触しなくなることを防止するとともに、洗浄水Wの表面に浮き上がった異物やヌメリや雑菌を流し出すことができる。
【0065】
また、ブラシ3のナスカン33による回動機能は、発明者が実験を行った結果で追加された技術である。ブラシ3が回転することで無理なこすり力を回避できるので、海産物Fの傷つきを低減することができる。例えば、魚介類Fが何かに引っかかって浮かない状態でブラシ3に当たった時に、ブラシ3が回転するので無理なこすり力が魚介類Fに掛からない。
【0066】
なお、本実施形態の堰板4はスクリュー2に取り付けて自動にしたが、本発明の堰止め方法はこれに限定するものではなく、例えば、ドラム1の排出口15近傍に手動の堰止め部を設けてもよい。また、本実施形態のオーバーフロー孔43は堰板4に設けたが、本発明のオーバーフローはこの位置に限定するものではなく、例えば、ドラム1の筒11にその孔を設けてもよい。
【0067】
また、本実施形態の堰板4と後ろ蓋13(排出口15)との間は、150~160mm程度の間隔を設けている。これは、本発明者が当初、堰板4と後ろ蓋13との間隔を密着する程度まで狭くしていたところ、スクリュー2の回転により排出されてきた魚介類Fの尾ビレ等が、回転する堰板4と、回転しない後ろ蓋13との間に挟まれてしまい、魚介類Fの切断等の損傷が発生してしまったためである。従って、本実施形態のように堰板4と後ろ蓋13との間に十分な間隔を設けておくことで、この間隔が魚介類Fの溜り場の役目を果たすことになり、魚介類Fの損傷を防ぐことができる。この間隔としては、魚介類洗浄機100の大きさや、洗浄対象の魚介類Fのサイズによって、当然ながら変わってくるが、150~160mm程度の間隔であれば、多くの魚介類Fの損傷を防ぐ間隔として十分である。
【0068】
また、上述の魚介類洗浄機100は大型であり、処理能力が3トン/時間で洗浄水Wの使用量が7トン/時間であったが、魚介類洗浄機100の大きさは適宜変更可能である。たとえば、処理能力が1トン/時間で洗浄水Wの使用量が2トン/時間の小型にすることもできる。
【0069】
[変形例]
上述の実施形態ではブラシ3をスクリュー2の軸21に平行に取り付けられたが、
図5に示すように、軸21に対して斜めに取り付けてもよい。これにより、変形例のブラシ3Aの長さを延長して魚介類Fと接触する範囲を広げることができ、また、魚介類Fがスクリュー2の羽根22で送られる方向に対して大きな傾斜で当接させてヌメリの取れ方を向上させることができる。
【0070】
[試験結果]
本発明の魚介類洗浄機の試作機を用いて、実際にマダラ、ハタハタ、カレイ、赤エビ、ハタ等の魚を漁船上にて洗浄した。その結果、損傷魚はほとんどなく、若干鰭のヌメリが残っていた魚もあったが、体表のヌメリを略除去することができていた。従って、本発明の魚介類洗浄機は、多種の魚介類Fのヌメリ取りとして効果的な装置である。
[洗浄工程の例]
上述の漁船上での洗浄工程は、網揚げ後にヌメリの洗浄をして、選別、箱詰めするのが理想的である。
【0071】
また、魚介類洗浄機100は、養殖する魚介類Fにも適用することができる。養殖場の海水は、富栄養状態であり、有害なビブリオ菌を含む多くの細菌が高濃度で生息している。このため、養殖魚の洗浄工程では、採りあげ、鰓切り後にヌメリの洗浄を行い、箱詰めするのが理想的である。
【0072】
また、トラック等での活魚輸送を行う場合においても、採りあげ後にヌメリの洗浄を行い活魚槽に入れてトラック出荷するのが理想的である。ヌメリの洗浄を行うことで、槽内の細菌増殖を少なくすることに寄与できる。また、ヌメリ洗浄を行うことで、活魚を扱う飲食店においても、店内の活魚槽内での細菌増殖を抑えることができる。
【符号の説明】
【0073】
100:魚介類洗浄機
1:ドラム
11:筒
2:スクリュー
21:軸
22:羽根
3:ブラシ
33:ナスカン
4:堰板
42:流出孔
43:オーバーフロー孔
44:パッキン
6:噴出部
62:水中ポンプ
64:ノズル
F:魚介類
W:洗浄水