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特許7249753アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、油キレ増強方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、油キレ増強方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20190101AFI20230324BHJP
【FI】
C12G3/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018179330
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020048440
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 淳哉
(72)【発明者】
【氏名】丸山 弘明
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515812(JP,A)
【文献】高橋 正之,平成27年度全国地ビール醸造者協議会 醸造技術研修会出品酒の分析について,2015年,pp.33-37
【文献】W.J.KLOPPER,Organic acids and glycerol in beer,Journal of the Institute of Brewing,1986年,vol.92,pp.225-228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
苦味料と酢酸とを含有し、
前記苦味料は、ナリンギン、及び、カフェインのうちの少なくとも1種であり、
前記苦味料の含有量は、10~150ppmであり、
前記酢酸の含有量は、0.030~0.150%であり、
アルコール度数は、6~9.5%であるアルコール飲料(ただし、ビールを除く)。
【請求項2】
苦味料と酢酸とを含有させ、前記苦味料の含有量を、10~150ppmとし、前記酢酸の含有量を、0.030~0.150%とし、アルコール度数を、6~9.5%とする工程を含み、
前記苦味料は、ナリンギン、及び、カフェインのうちの少なくとも1種であるアルコール飲料(ただし、ビールを除く)の製造方法。
【請求項3】
アルコール飲料(ただし、ビールを除く)の油キレを増強する方法であって、
前記アルコール飲料に苦味料と酢酸とを含有させ、前記苦味料の含有量を、10~150ppmとし、前記酢酸の含有量を、0.030~0.150%とし、アルコール度数を、6~9.5%とする工程を含み、
前記苦味料は、ナリンギン、及び、カフェインのうちの少なくとも1種である油キレ増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、油キレ増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料については、飲用者の多様な嗜好に応えるべく、多くの種類の飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、甜茶の茶葉を、茶葉の重量に対し40倍量以上の85~95℃の熱水を用いて3~12分間抽出して得られる抽出液、及び緑茶の茶葉を、茶葉の重量に対し40倍量以上の60~70℃の温水を用いて3~10分間抽出して得られる抽出液を含有してなる甜茶飲料が記載されている。
そして、特許文献1では、当該茶飲料は食事に合うと説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-187253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1のような茶飲料とは全く異なる飲料について、食事の際に適した飲料を創出すべく、口内に残る食べ物の味を洗い流し、味覚をリセットできるような成分を検討した。そして、本発明者らは、飲料に使用できる多くの成分の中から、まず「苦味料」と「アルコール」とに着目した。
【0006】
しかしながら、苦味料とアルコールとを含有させただけの飲料では、油分の多い食事と合わせた際に、口内にべとついた油っぽい感覚が残ってしまうことが確認できた。よって、本発明者らは、口内に残る油っぽい感覚を即座に消失させるような「油キレ」という効果を増強させることができれば、食事との相性という点において、飲料の更なる改善が望めるのではないかと考えた。
【0007】
そこで、本発明は、油キレが増強されたアルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、油キレ増強方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)苦味料と酢酸とを含有し、前記苦味料は、ナリンギン、及び、カフェインのうちの少なくとも1種であり、前記苦味料の含有量は、10~150ppmであり、前記酢酸の含有量は、0.030~0.150%であり、アルコール度数は、6~9.5%であるアルコール飲料(ただし、ビールを除く)。
)苦味料と酢酸とを含有させ、前記苦味料の含有量を、10~150ppmとし、前記酢酸の含有量を、0.030~0.150%とし、アルコール度数を、6~9.5%とする工程を含み、前記苦味料は、ナリンギン、及び、カフェインのうちの少なくとも1種であるアルコール飲料(ただし、ビールを除く)の製造方法。
)アルコール飲料(ただし、ビールを除く)の油キレを増強する方法であって、前記アルコール飲料に苦味料と酢酸とを含有させ、前記苦味料の含有量を、10~150ppmとし、前記酢酸の含有量を、0.030~0.150%とし、アルコール度数を、6~9.5%とする工程を含み、前記苦味料は、ナリンギン、及び、カフェインのうちの少なくとも1種である油キレ増強方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアルコール飲料は、苦味料と酢酸とを含有することから、油キレを増強することができる。
本発明に係るアルコール飲料の製造方法は、苦味料と酢酸とを含有させる工程を含むことから、油キレが増強されたアルコール飲料を製造することができる。
本発明に係る油キレ増強方法は、アルコール飲料に苦味料と酢酸とを含有させることから、アルコール飲料の油キレを増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】油球数試験で得られたサンプルの液面の写真画像であって、サンプルNo.1-1の液面の写真画像である。
図1B】サンプルNo.1-2の液面の写真画像である。
図1C】サンプルNo.2-1の液面の写真画像である。
図1D】サンプルNo.2-3の液面の写真画像である。
図1E】サンプルNo.2-4の液面の写真画像である。
図1F】サンプルNo.3-1の液面の写真画像である。
図1G】サンプルNo.3-3の液面の写真画像である。
図1H】サンプルNo.3-4の液面の写真画像である。
図1I】サンプルNo.4-1の液面の写真画像である。
図1J】サンプルNo.5-1の液面の写真画像である。
図1K】サンプルNo.1-3の液面の写真画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るアルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、油キレ増強方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0012】
[アルコール飲料]
本実施形態に係るアルコール飲料は、苦味料と酢酸とを含有する飲料である。
ここで、アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料であり、特定の種類の飲料に限定されないものの、酢酸が奏する酸味を果実様または野菜様の香味として生かすことのできる果実風味アルコール飲料または野菜風味アルコール飲料であるのが好ましく、果実風味アルコール飲料であるのが特に好ましい。なお、果実風味アルコール飲料とは、果実の風味(香味)を飲用者に与える飲料であり、野菜風味アルコール飲料とは、野菜の風味(香味)を飲用者に与える飲料であり、例えば、チューハイテイスト飲料、カクテルテイスト飲料、サワーテイスト飲料等が挙げられる。
【0013】
(苦味料)
苦味料は、飲料に対して、苦味を付与する物質であり、例えば、ナリンギン(Naringin、ナリンジンとも呼ばれる)、カフェイン(Caffein)、ニガヨモギ抽出物(主成分:セスキテルペン)、イソα酸、クワシン、ゲンチアナ抽出物、キナ抽出物、ニガキ抽出物、ペプチド類、テオブロミン、アブシンチン、キニーネ、ゴーヤ、コウチャポリフェノール、ダンデライオン、センブリ、ガラナ、ユズポリフェノール、及び、クロロゲン酸等が挙げられる。
アルコール飲料に苦味料を含有させるだけでは、十分に油キレの効果を発揮することはできない。しかしながら、苦味料とともに後記する酢酸をアルコール飲料に含有させると、この苦味料と酢酸とアルコールとの三者の香味が組み合わさることによって、アルコール飲料の油キレを増強させることができる。
なお、アルコール飲料に苦味料を含有させると、アルコールの香味と苦味料の香味とが作用し合い、苦味が突出したものとなる。
【0014】
苦味料の含有量は、10ppm(mg/L)以上が好ましく、15ppm以上、20ppm以上、25ppm以上、28ppm以上がより好ましい。苦味料の含有量が所定値以上であることによって、アルコール飲料の油キレの増強効果をより確実に発揮させることができる。また、苦味料の含有量が所定値以上であることによって、解消すべき突出する苦味が明確になるとともに、飲料としての総合評価が好適な範囲となる。
【0015】
苦味料の含有量は、130ppm以下が好ましく、110ppm以下、100ppm以下、70ppm以下、50ppm以下、35ppm以下がより好ましい。苦味料の含有量が所定値以下であることによって、アルコール飲料の油キレの増強効果をしっかりと発揮させることができる。また、苦味料の含有量が所定値以下であることによって、苦味の突出する程度が後記する酢酸によってまろやかにできる範囲となるとともに、飲料としての総合評価が好適な範囲となる。
なお、アルコール飲料に含まれる苦味料は1種でも2種以上でもよいが、2種以上含有する場合は、前記した苦味料の含有量は総量となる。
【0016】
アルコール飲料の苦味料の含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)などによって測定することができる。
【0017】
(酢酸)
酢酸は、カルボン酸の一種であり、エタン酸(ethanoic acid)とも呼ばれる。
そして、酢酸は、独特なツンとした香味によってアルコール飲料に酸味を付与するだけでなく、前記した苦味料とともにアルコール飲料に含有させると、この酢酸と苦味料とアルコールとの三者の香味が組み合わさることによって、アルコール飲料の油キレを増強させることができる。
また、前記のとおり、アルコール飲料に苦味料を含有させると、アルコールの香味と苦味料の香味とが作用し合い、苦味が突出したものとなるが、酢酸は、この突出した苦味をまろやかにすることができる。
【0018】
酢酸の含有量は、0.030%(w/v%)以上が好ましく、0.035%以上、0.040%以上、0.060%以上、0.080%以上がより好ましい。酢酸の含有量が所定値以上であることによって、アルコール飲料の油キレの増強効果をより確実に発揮させることができる。また、酢酸の含有量が所定値以上であることによって、苦味をまろやかにできるとともに、飲料としての総合評価が好適な範囲となる。
【0019】
酢酸の含有量は、0.150%以下が好ましく、0.130%以下、0.110%以下、0.100%以下がより好ましい。酢酸の含有量が所定値以下であることによって、アルコール飲料の油キレの増強効果をしっかりと発揮させることができる。また、酢酸の含有量が所定値以下であることによって、苦味をまろやかにするという効果をしっかりと発揮させることができるとともに、飲料としての総合評価が好適な範囲となる。
【0020】
アルコール飲料に含まれる酢酸の由来は特に限定されず、例えば、後記する果実フレーバー、果実フレーバーの説明で列挙している各種果実(果実を搾って得られる果汁)、当該各種果実を醸造して製造される果実酢等であってもよい。
アルコール飲料の酢酸の含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定することができる。
【0021】
(アルコール)
本実施形態に係るアルコール飲料は、アルコールを含有する。
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の所望の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、蒸留酒又は醸造酒であることが好ましい。蒸留酒としては、例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。醸造酒としては、例えば、ビール、発泡酒、果実酒、甘味果実酒などを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0022】
(アルコール度数)
アルコール度数は、6%(v/v%)以上が好ましく、7%以上、7.5%以上、8%以上がより好ましい。アルコール度数が所定値以上であることによって、アルコールと苦味料と酢酸との三者の香味が組み合わさり、アルコール飲料の油キレの増強効果をより確実に発揮させることができる。また、アルコール度数が所定値以上であることによって、飲料としての総合評価が好適な範囲となる。
アルコール度数の上限は特に限定されないものの、例えば、12%以下、11%以下、10%以下、10%未満、9.5%以下である。
【0023】
本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0024】
(発泡性)
本実施形態に係るアルコール飲料は、非発泡性のものでも、発泡性のものでもよい。ここで、本実施形態における発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.5kg/cm以上であることをいい、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.5kg/cm未満であることをいう。
【0025】
(果汁、果実フレーバー、野菜フレーバー)
本実施形態に係るアルコール飲料は、前記した果実風味アルコール飲料または野菜風味アルコール飲料とするために、果汁を含んでいてもよいが、果実フレーバーまたは野菜フレーバーによって飲料の香味のタイプが果実様または野菜様となるように調製されていれば、無果汁又は低果汁であってもよい。
【0026】
ここで「無果汁」とは、果汁を全く含有しないことを示し、「低果汁」とは、果汁の含有量が果汁率換算で10.0%未満であることを示す。
果汁の含有量(果汁率換算)は、「含有量(果汁率換算)%(詳細には、w/w%)」=「果汁配合量(g)」×「濃縮倍率」/100g×100により算出することができる。なお、「濃縮倍率」(ストレート果汁を100%としたときの果汁の相対的濃縮倍率)を算出するにあたり、JAS規格に準ずるものとし、各果実に特有の糖用屈折指示度の基準(Bx)又は酸度の基準(%)に基づいて換算できる。
また、「果実フレーバー」とは、果実様の香味を飲料に付加する香料であり、例えば、柑橘フレーバー(レモン、ライム、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、イヨカン、ウンシュウミカン、カボス、キシュウミカン、キノット、コウジ、サンボウカン、シトロン、ジャバラ、スダチ、ダイダイ、タチバナ、タンゴール、ナツミカン、ハッサク、ハナユズ、ヒュウガナツ、ヒラミレモン(シークヮーサー)、ブンタン、ポンカン(マンダリンオレンジ)等の柑橘類のフレーバー)、ぶどうフレーバー、りんごフレーバー、ピーチフレーバー、マンゴーフレーバー等が挙げられる。
また、「野菜フレーバー」とは、野菜様の香味を飲料に付加する香料であり、例えば、トマト、ニンジン、ピーマン、サツマイモ、ショウガ等のフレーバーが挙げられる。
【0027】
(その他)
本実施形態に係るアルコール飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を添加することもできる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
【0028】
そして、前記した苦味料、酢酸、アルコール、添加剤等は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0029】
(容器詰めアルコール飲料)
本実施形態に係るアルコール飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にアルコール飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係るアルコール飲料は、苦味料と酢酸とを含有することから、油キレを増強することができる。また、本実施形態に係るアルコール飲料は、苦味がまろやかになっているとともに、飲料としての総合評価に優れる。
【0031】
[アルコール飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法を説明する。
本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0032】
混合工程では、混合タンクに、水、苦味料、酢酸、飲用アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、苦味料の含有量、酢酸の含有量等が前記した所定範囲内となるように各原料を混合し、調整すればよい。
【0033】
そして、後処理工程では、例えば、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程のろ過処理は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。また、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0034】
なお、混合工程及び後処理工程において行われる各処理は、RTD飲料などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、苦味料と酢酸とを含有させる工程を含むことから、油キレが増強されたアルコール飲料を製造することができる。また、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、苦味がまろやかであるとともに、飲料としての総合評価に優れるアルコール飲料を製造することができる。
【0036】
[油キレ増強方法]
次に、本実施形態に係る油キレ増強方法を説明する。
本実施形態に係る油キレ増強方法は、アルコール飲料に苦味料と酢酸とを含有させる方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「アルコール飲料」において説明した値と同じである。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る油キレ増強方法は、アルコール飲料に苦味料と酢酸とを含有させることから、アルコール飲料の油キレを増強することができる。また、本実施形態に係る油キレ増強方法は、アルコール飲料の苦味をまろやかにするとともに、飲料としての総合評価を優れたものとすることができる。
【実施例
【0038】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0039】
[サンプルの準備]
表に示す量となるように、ナリンギン、酢酸、飲用アルコール、カフェイン、レモンフレーバー、炭酸水を混合してサンプルを準備した。
なお、サンプルの20℃におけるガス圧は約2.1kg/cmであった。
【0040】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル6名が下記評価基準に則って「苦味のまろやかさ」、「飲料としての総合評価」、「食事との相性」について、-2点~0点~2点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価し、評価の中でも「食事との相性」の評価は、鶏の唐揚げを食べた直後にサンプルを飲んで評価した。
また、全ての評価は、サンプル1-1(-2点)を基準として評価した。
【0041】
(苦味のまろやかさ:評価基準)
苦味のまろやかさの評価については、「苦味が非常にまろやかである」場合を2点、「苦味が全くまろやかでない」場合を-2点として5段階で評価した。そして、苦味のまろやかさの評価については、点数が高いほど苦味がまろやかとなっており、好ましいと判断できる。
なお、「苦味がまろやかである」とは、苦味(特に、アルコールの香味と苦味料の香味とが作用し合って突出した苦味)について、尖っておらず丸みのある状態を示している。
【0042】
(飲料としての総合評価:評価基準)
飲料としての総合評価については、「アルコール飲料として香味のバランスが非常に優れている」場合を2点、「アルコール飲料として香味のバランスが非常に悪い」場合を-2点として5段階で評価した。そして、飲料としての総合評価については、点数が高いほど好ましいと判断できる。
【0043】
(食事との相性:評価基準)
食事との相性の評価については、「口内のべとつきが無くなり(油キレが非常によく)、油ものの食事と非常に合う」場合を2点、「口内のべとつきが残り(油キレが非常に悪く)、油ものの食事と全く合わない」場合を-2点として5段階で評価した。そして、食事との相性の評価については、点数が高いほど、「油キレ」が増強しており食事との相性が良いと判断できる。
【0044】
[油球数試験]
サンプルの油キレの増強効果について、前記した官能評価とは異なる方法によって確認するために、以下に示す油球数試験を実施した。
まず、前記の方法により製造した各サンプル30mLを100mLのビーカー(PYREX(登録商標) ASAHI GLASS、IWAKI社製)に注ぎ入れた。そして、ビーカー内のサンプルについて、スターラー(MAGNETIC STIRRER REXIM RS-6DN、AS ONE社製)を用いて撹拌子で30分間撹拌(700rpm)し、炭酸を抜いた。その後、サンプルに200μLの辣油(香味食用油 辣油、ユウキ食品株式会社製)を添加し、スターラー(同上)を用いて撹拌子で1分間撹拌(700rpm)し、辣油を分散させた。そして、室温で約30分間静置し、上方からサンプルの液面の写真を撮影し、油球数をカウントした。
【0045】
表1~5に、各サンプルの配合を示すとともに、各評価の結果を示す。なお、表に示す「Alc(アルコール度数)」、「ナリンギン」、「酢酸」、「カフェイン」、「レモンフレーバー」は、最終製品の指標や含有量である。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
(結果の検討)
サンプル1-1、1-2の結果を比較すると明らかなように、アルコール飲料にナリンギン(苦味料)だけでなく、酢酸を含有させることによって、食事との相性の点数が大幅に増加し「油キレ」が増強することが確認できた。また、アルコール飲料にナリンギン(苦味料)だけでなく、酢酸を含有させることによって、苦味がまろやかになるとともに、飲料としての総合評価も優れたものとなることが確認できた。
【0052】
サンプル1-2、1-3の結果を比較すると明らかなように、ナリンギン(苦味料)と酢酸とを含んでいてもアルコールを含んでいなければ、食事との相性の点数が低く、「油キレ」が十分に増強しないことが確認できた。つまり、「油キレ」の増強効果は、「苦味料」と「酢酸」と「アルコール」の三者が組み合わさってはじめて発揮される効果であることが確認できた。
【0053】
サンプル2-1~2-4の結果から、酢酸の含有量が所定範囲の場合に、食事との相性の点数が高く「油キレ」が確実に増強することが確認できた。また、酢酸の含有量が所定範囲の場合に、苦味がまろやかになるとともに飲料としての総合評価が好適な範囲となることが確認できた。そして、これらのサンプルの中でも、サンプル2-2、2-3について特に好ましい結果が得られた。
サンプル3-1~3-4の結果から、ナリンギン(苦味料)の含有量が所定範囲の場合に、食事との相性の点数が高く「油キレ」が確実に増強することが確認できた。また、酢酸の含有量が所定範囲の場合に、苦味がまろやかになるとともに飲料としての総合評価が好適な範囲となることが確認できた。そして、これらのサンプルの中でも、サンプル3-2、3-3について特に好ましい結果が得られた。
【0054】
サンプル4-1、4-2の結果から、苦味料としてナリンギンではなくカフェインであっても所望の効果(油キレの増強、苦味がまろやか、飲料として優れた総合評価)が発揮できることが確認できた。つまり、本発明において、苦味料はナリンギンに限定されないことが確認できた。
サンプル5-1の結果から、アルコール飲料をレモンテイストとした場合であっても、所望の効果が発揮できることが確認できた。
【0055】
なお、油球数試験の結果を確認すると、食事との相性の点数から導かれる油キレの増強効果と一定の相関関係があるという結果が得られた。
よって、油球数試験の結果からも、アルコール飲料に苦味料だけでなく酢酸を含有させることによって、油キレの増強効果が発揮されることが確認できた。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K