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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20230324BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
B41J2/16 517
B41J2/16 303
B41J2/14 613
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018243156
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020104321
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 禅
(72)【発明者】
【氏名】色川 大城
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-326710(JP,A)
【文献】特開2018-122553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の導入部を有するとともに、前記導入部から前記流体の経路に沿って最も遠い位置に設けられた最遠端部を有する流路を形成する工程と、
前記最遠端部近傍の前記流路を前記流路の外側に接続することにより、前記最遠端部近傍の前記流路と液体が流入する通液室との間の前記流体の流れを促進する流量調整部を形成する工程と、
導電膜を有する前記通液室に、前記流路を連通させる工程と、
前記通液室に前記流路を連通させた後、前記流路および前記流量調整部に、前記導電膜を覆う保護膜を形成するための前記流体を流す工程と
を含む液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記保護膜を形成するための前記流体を流す工程は、前記流体を前記流路から前記通液室に流入させる工程を含み、
前記流体を前記流路から前記通液室に流入させる工程では、前記流量調整部が前記最遠端部近傍の前記流路から前記通液室への前記流体の流れを促進する
請求項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記流量調整部を形成する工程では、複数の前記流量調整部を形成し、
更に、前記保護膜を形成した後、前記複数の前記流量調整部のうちの少なくとも一部の前記流量調整部に、前記通液室に流入した液体が通過しないように処置を施す工程を含む
請求項または請求項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記液体が通過しないように処置を施す工程は、接着剤を用いて前記流量調整部を埋める工程を含む
請求項3に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記流量調整部を形成する工程では、前記最遠端部近傍の前記流路を前記流路の外側に接続するように、前記流路調整部となる複数の溝を形成する
請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記流量調整部を形成する工程が、
前記液体が通過しないように構成される第1流量調整部を形成する工程と、
前記第1流量調整部と離間して配置されるとともに前記液体が通過可能に構成される第2流量調整部を形成する工程と、
を含む
請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記流量調整部を形成する工程において、
前記第1流路調整部を複数設けると共に、
前記流路から前記流路の外側に向かう方向に対して垂直方向の前記複数の前記第1流量調整部の断面積の合計を、前記流路から前記流路の外側に向かう方向に対して垂直方向の前記第2流量調整部の断面積よりも、大きくする
請求項6に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記保護膜は、パラキシリレン系樹脂材料、酸化タンタル、窒化シリコン、炭化シリコン、酸化シリコンおよびダイヤモンドライクカーボンのうちの少なくともいずれか一つを含む
請求項1ないし請求項7のうちいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項9】
それぞれに前記通液室が複数設けられ、互いに対向する一対のアクチュエータプレートを形成する工程と、
前記一対のアクチュエータプレートに交差する方向に、前記通液室に連通する循環路を有する帰還プレートを形成する工程と、
前記一対のアクチュエータプレートの間に、前記流路と前記循環路に連通する出口流路とを有する流路プレートを形成する工程と、
前記流路プレートと前記一対のアクチュエータプレートとの間に、前記流路および前記通液室に連通する液体供給路を有する一対のカバープレートを形成する工程と、
を更に含み、
前記流路プレートを形成する工程は、前記流路プレートに前記流量調整部を形成する工程を含む
請求項1ないし請求項8のうちいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射記録装置の1つとして、記録紙等の被記録媒体にインク(液体)を吐出(噴射)して画像や文字等の記録を行う、インクジェット方式の記録装置が提供されている。この方式の液体噴射記録装置では、インクタンクからインクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)へインクを供給し、このインクジェットヘッドのノズル孔から被記録媒体に対してインクを吐出することで、画像や文字等の記録が行われるようになっている。
【0003】
このインクジェットヘッドは、液体を噴射させるために電気的に駆動されるアクチュエータプレートを含んでいる。アクチュエータプレートには、複数の吐出チャネルが設けられている(例えば、特許文献1参照)。複数の吐出チャネル各々には、電極と、電極を覆う保護膜とが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-122553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなインクジェットヘッドでは、例えば、吐出チャネルに十分な厚みの保護膜を形成することができないと、信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、信頼性の低下を抑えることが可能な液体噴射ヘッドの製造方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法は、流体の導入部を有するとともに、導入部から流体の経路に沿って最も遠い位置に設けられた最遠端部を有する流路を形成する工程と、最遠端部近傍の流路を流路の外側に接続することにより、前記最遠端部近傍の前記流路と液体が流入する通液室との間の前記流体の流れを促進する流量調整部を形成する工程と、導電膜を有する通液室に、流路を連通させる工程と、通液室に流路を連通させた後、流路および流量調整部に、導電膜を覆う保護膜を形成するための流体を流す工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法によれば、信頼性の低下を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置の概略構成例を表す模式斜視図である。
図2図1に示した液体噴射ヘッドおよびインク循環機構の概略構成例を表す模式図である。
図3図1に示した液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
図4図1に示した液体噴射ヘッドの断面図である。
図5図1に示した液体噴射ヘッドの他の断面図である。
図6図1に示した液体噴射ヘッドにおける、吐出溝の延在方向と直交する断面を拡大して表す断面図である。
図7図6に示した吐出溝および非吐出溝の構成を拡大して表す断面図である。
図8図3に示した液体噴射ヘッドチップの一部を拡大して表す分解図である。
図9図3に示したカバープレートを拡大して表す斜視図である。
図10図3に示した流路プレートを拡大して表す斜視図である。
図11図1に示した液体噴射ヘッドの製造方法の一例を表す流れ図である。
図12図11に示した液体噴射ヘッドの製造方法の一工程を表す断面図である。
図13図11に示した液体噴射ヘッドの製造方法の一工程を表す斜視図である。
図14図13に示したXIV-XIV線に沿った断面を表す模式図である。
図15図11に示した液体噴射ヘッドの製造方法の一工程を表す平面図である。
図16図11に示した液体噴射ヘッドの製造方法の一工程を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
<1.実施の形態>
[プリンタ1の全体構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置としてのプリンタ1の概略構成例を、模式的に斜視図にて表したものである。このプリンタ1は、インクを利用して、被記録媒体としての記録紙Pに対して、画像や文字等の記録(印刷)を行うインクジェットプリンタである。
【0014】
プリンタ1は、図1に示したように、一対の搬送機構2a,2bと、インクタンク3と、インクジェットヘッド4と、供給チューブ50と、走査機構6と、インク循環機構8とを備えている。これらの各部材は、所定形状を有する筺体10内に収容されている。なお、本明細書の説明に用いられる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
ここで、プリンタ1は、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例に対応し、インクジェットヘッド4(後述するインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4K)は、本開示における「液体噴射ヘッド」の一具体例に対応している。
【0016】
搬送機構2a,2bはそれぞれ、図1に示したように、記録紙Pを搬送方向d(X軸方向)に沿って搬送する機構である。これらの搬送機構2a,2bはそれぞれ、グリッドローラ21、ピンチローラ22および駆動機構(不図示)を有している。グリッドローラ21およびピンチローラ22はそれぞれ、Y軸方向(記録紙Pの幅方向)に沿って延設されている。駆動機構は、グリッドローラ21を軸周りに回転させる(Z-X面内で回転させる)機構であり、例えばモータ等によって構成されている。
【0017】
(インクタンク3)
インクタンク3は、インクを内部に収容するタンクである。このインクタンク3としては、この例では図1に示したように、イエロー(Y),マゼンダ(M),シアン(C),ブラック(K)の4色のインクを個別に収容する、4種類のタンクが設けられている。すなわち、イエローのインクを収容するインクタンク3Yと、マゼンダのインクを収容するインクタンク3Mと、シアンのインクを収容するインクタンク3Cと、ブラックのインクを収容するインクタンク3Kとが設けられている。これらのインクタンク3Y,3M,3C,3Kは、筺体10内において、X軸方向に沿って並んで配置されている。
【0018】
なお、インクタンク3Y,3M,3C,3Kはそれぞれ、収容するインクの色以外については同一の構成であるので、以下ではインクタンク3と総称して説明する。ここで、インクタンク3が本開示の「収容部」の一具体例に対応する。
【0019】
(インクジェットヘッド4)
インクジェットヘッド4は、後述する複数のノズル78から記録紙Pに対して液滴状のインクを噴射(吐出)して、画像や文字等の記録を行うヘッドである。このインクジェットヘッド4としても、この例では図1に示したように、上記したインクタンク3Y,3M,3C,3Kにそれぞれ収容されている4色のインクを個別に噴射する、4種類のヘッドが設けられている。すなわち、イエローのインクを噴射するインクジェットヘッド4Yと、マゼンダのインクを噴射するインクジェットヘッド4Mと、シアンのインクを噴射するインクジェットヘッド4Cと、ブラックのインクを噴射するインクジェットヘッド4Kとが設けられている。これらのインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kは、筺体10内において、Y軸方向に沿って並んで配置されている。
【0020】
なお、インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kはそれぞれ、利用するインクの色以外については同一の構成であるので、以下ではインクジェットヘッド4と総称して説明する。また、このインクジェットヘッド4の詳細構成については、後述する(図3など参照)。
【0021】
供給チューブ50は、インクタンク3内からインクジェットヘッド4内へとインクを供給するためのチューブである。
【0022】
(走査機構6)
走査機構6は、記録紙Pの幅方向(Y軸方向)に沿って、インクジェットヘッド4を走査させる機構である。この走査機構6は、図1に示したように、Y軸方向に沿って延設された一対のガイドレール31,32と、これらのガイドレール31,32に移動可能に支持されたキャリッジ33と、このキャリッジ33をY軸方向に沿って移動させる駆動機構34と、を有している。また、駆動機構34は、ガイドレール31,32の間に配置された一対のプーリ35,36と、これらのプーリ35,36間に巻回された無端ベルト37と、プーリ35を回転駆動させる駆動モータ38と、を有している。
【0023】
プーリ35,36はそれぞれ、Y軸方向に沿って、各ガイドレール31,32における両端付近に対応する領域に配置されている。無端ベルト37には、キャリッジ33が連結されている。このキャリッジ33は、前述した4種類のインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kを載置する平板状の基台33aと、この基台33aから垂直(Z軸方向)に立ち上げられた壁部33bとを有している。基台33a上には、インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kが、Y軸方向に沿って並んで載置されている。
【0024】
なお、このような走査機構6と前述した搬送機構2a,2bとにより、インクジェットヘッド4と記録紙Pとを相対的に移動させる、移動機構が構成されるようになっている。
【0025】
(インク循環機構8)
図2は、インク循環機構8の概略構成例を表した模式図である。インク循環機構8は、インクタンク3とインクジェットヘッド4との間でインクを循環させる機構であり、インク供給管81およびインク排出管82により構成される循環流路83と、インク供給管81に設けられた加圧ポンプ84と、インク排出管82に設けられた吸引ポンプ85とを備える。インク供給管81およびインク排出管82は、例えば、インクジェットヘッド4を支持する走査機構6の動作に追従可能な程度に可撓性を有するフレキシブルホースにより構成されている。
【0026】
加圧ポンプ84は、インク供給管81内を加圧し、インク供給管81を通してインクジェットヘッド4にインクを送り出すものである。加圧ポンプ84の機能により、インクジェットヘッド4に対し、加圧ポンプ84とインクジェットヘッド4との間のインク供給管81内は正圧となっている。
【0027】
吸引ポンプ85は、インク排出管82内を減圧し、インク排出管82を通してインクジェットヘッド4からインクを吸引するものである。吸引ポンプ85の機能により、インクジェットヘッド4に対して、吸引ポンプ85とインクジェットヘッド4との間のインク排出管82内は負圧となっている。インクは、加圧ポンプ84および吸引ポンプ85の駆動により、インクジェットヘッド4とインクタンク3との間を、循環流路83を通して循環可能となっている。
【0028】
[インクジェットヘッド4の詳細構成]
次に、図1に加えて図3図10を参照して、インクジェットヘッド4の詳細構成例について説明する。図3は、インクジェットヘッド4の詳細構成例を、斜視図で表したものである。
【0029】
図3に示したように、インクジェットヘッド4は、一対のヘッドチップ40A,40Bと、流路プレート41と、入口マニホールド42と、出口マニホールド(不図示)と、帰還プレート43と、ノズルプレート(噴射プレート)44とを備える。インクジェットヘッド4は、後出の吐出チャネル54の延在方向(Z軸方向)の先端部からインクを吐出する、いわゆるエッジシュートタイプのうち、インクジェットヘッド4とインクタンク3との間でインクを循環させる循環式(エッジシュート循環式)のものである。
【0030】
(ヘッドチップ40A,40B)
一対のヘッドチップ40A,40Bは互いに実質的に同一の構成を有しており、Y軸方向において流路プレート41を挟んで実質的に対称の姿勢をなすように実質的に対称の位置に設けられている。以下では、特に区別が必要のない場合は、一対のヘッドチップ40A,40Bをヘッドチップ40と総称して説明する。
【0031】
(アクチュエータプレート51)
アクチュエータプレート51は、X軸方向を長手方向とすると共にZ軸方向を短手方向とする、XZ面に沿って広がる板状部材である。アクチュエータプレート51は、厚さ方向(Y軸方向)において互いに異なる分極方向を有する2枚の圧電基板を積層した、いわゆるシェブロンタイプの積層基板である(後出の図6参照)。それらの圧電基板は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料からなるセラミックス基板が好適に用いられる。
【0032】
アクチュエータプレート51のうちのカバープレート52に接合された表面51f1には、それぞれZ軸方向へ直線状に延在する複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55が設けられている。吐出チャネル54とダミーチャネル55とは、X軸方向において互いに離間して交互に配置されている。吐出チャネル54とダミーチャネル55とは、駆動壁56によって仕切られている。このため、アクチュエータプレート51は、吐出チャネル54およびダミーチャネル55の延在方向(Z軸方向)と直交する断面(XY断面)において、凹状の溝部が複数並ぶ構造となっている(図6参照)。ここでは、吐出チャネル54が、本開示の「通液室」の一具体例に対応する。
【0033】
図4は、インクジェットヘッド4における、ヘッドチップ40Aの吐出チャネル54およびヘッドチップ40Bのダミーチャネル55を含む断面の構成例を表す断面図である。図5は、インクジェットヘッド4における、ヘッドチップ40Aのダミーチャネル55およびヘッドチップ40Bの吐出チャネル54を含む断面の構成例を表す断面図である。図6は、インクジェットヘッド4における、吐出チャネル54およびダミーチャネル55の延在方向(Z軸方向)と直交する断面(XY断面)を拡大して表す断面図である。図7は、図6に示した吐出チャネル54およびダミーチャネル55の構成を拡大して表す断面図である。図8は、ヘッドチップ40の一部を拡大して表す分解図である。
【0034】
吐出チャネル54は、インクに対して圧力を印加するための圧力室として機能する部分である。吐出チャネル54の上端部はアクチュエータプレート51の上端面(帰還プレート43と反対側の面)512に至らずにアクチュエータプレート51内で終端している。これに対し吐出チャネル54の下端部は、図8に示したようにアクチュエータプレート51の下端面(帰還プレート43と対向する面)511に至るまで延在している。下端面511には、吐出チャネル54の開口54Kが設けられている(図8)。開口54Kは、帰還プレート43に対向する位置に設けられている。
【0035】
吐出チャネル54は、下端部に位置する延在部54aと、延在部54aよりも上端面512側に設けられた切り上がり部54bと、を有している。延在部54aは、Z方向の全体に亘って溝の深さ(Y方向の大きさ)が一定になっている。切り上がり部54bは、延在部54aに連続して設けられている。切り上がり部54bでは、上端面512に向かうに従い溝の深さが徐々に浅くなっている。
【0036】
吐出チャネル54の内面は、共通電極61によって例えば全面的に覆われている。但し、共通電極61は、吐出チャネル54の内面の一部のみを覆うものであってもよい。共通電極61は、アクチュエータ側共通パッド62(以下、AP側共通パッド62という。)に接続されている。AP側共通パッド62は、表面51f1の上端部51bに設けられている。ここでは、共通電極61が、本開示の「導電膜」の一具体例に対応する。
【0037】
ダミーチャネル55には、インクが充填されないようになっている。例えば、ダミーチャネル55の上端部はアクチュエータプレート51の上端面512に至るまで延在し、ダミーチャネル55の下端部は、図8に示したようにアクチュエータプレート51の下端面511に至るまで延在している。即ち、下端面511および上端面512には、複数のダミーチャネル55それぞれに連通する開口が設けられている。
【0038】
ダミーチャネル55は、下端部に位置する延在部55aと、延在部55aよりも上端面512側に設けられた切り上がり部55bと、を有している。延在部55aは、Z方向の全体に亘って溝の深さが一定になっている。この延在部55aのZ方向の長さは、吐出チャネル54の延在部54aのZ方向の長さよりも長い。切り上がり部55bは、延在部55aに連続して設けられている。切り上がり部55bでは、上端面512に向かうに従い溝の深さが徐々に浅くなっている。この切り上がり部55bの勾配は、吐出チャネル54の切り上がり部54bの勾配と実質的に同じである。すなわち、吐出チャネル54及びダミーチャネル55において、延在部54a,55aのZ方向の長さの違いによる勾配開始位置は異なるが、勾配自体(斜度、曲率)は実質的に同じである。
【0039】
ダミーチャネル55のうちの対向する1対の側面は、個別電極63(以下、個別電極63という。)によって全面的に覆われている。但し、個別電極63は、ダミーチャネル55の側面の一部のみを覆うものであってもよい。また、ダミーチャネル55における1対の側面を覆う1対の個別電極63同士は互いに絶縁されている。個別電極63は、表面51f1のうち吐出チャネル54の上端部51bの他の一部を覆うアクチュエータ側個別配線64(以下、AP側個別配線64という。)と接続されている。なお、本実施の形態では、AP側個別配線64は、上端部51bのうちAP側共通パッド62よりも上方に位置する部分をX軸方向に延在するように設けられている。AP側個別配線64は、吐出チャネル54を間に挟んで隣り合う一対の個別電極63同士を接続している。
【0040】
複数の共通電極61および複数の個別電極63はそれぞれ、図7に示したように、保護膜PFにより覆われている。これにより、共通電極61および個別電極63とインクとの接触が抑えられ、複数の共通電極61および複数の個別電極63の腐食等の発生を抑えることが可能となる。
【0041】
保護膜PFは、例えば、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55各々に設けられ、吐出チャネル54およびダミーチャネル55各々の内側面および底面を覆っている。保護膜PFは、共通電極61を間にして吐出チャネル54の内側面および底面を覆い、個別電極63を間にしてダミーチャネル55の内側面を覆っている。複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55のうち、複数の吐出チャネル54のみに保護膜PFを設けるようにしてもよい。保護膜PFは、例えば、パラキシリレン系樹脂材料(例えば、パリレン(登録商標))等の有機絶縁材料を含んでいる。保護膜PFは、酸化タンタル(Ta25)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、酸化シリコン(SiO2)またはダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like carbon)等により構成されていてもよく、これらの少なくともいずれか一つを含んでいてもよい。このような材料を用いて保護膜PFを形成することにより、保護膜PFの下側へのインクの浸入を抑え、共通電極61および個別電極63を確実に保護することが可能となる。
【0042】
(カバープレート52)
図9は、カバープレート52の構成の一例を表す斜視図である。カバープレート52は、X軸方向を長手方向とすると共にZ軸方向を短手方向とする、XZ面に沿って広がる板状部材である。図4図5に示したように、カバープレート52は、アクチュエータプレート51の表面51f1に貼り合わされた表面52f1と、流路プレート41に貼り合わされた裏面52f2とを有している。カバープレート52は、例えば、アクチュエータプレート51よりも大きく、アクチュエータプレート51からZ軸方向に拡幅する部分(上端部52b)を有している。
【0043】
カバープレート52は、絶縁性を有し、かつアクチュエータプレート51を形成する材料の熱伝導率と同等以上の熱伝導率を有する材料により形成されているとよい。例えば、アクチュエータプレート51をPZTにより形成した場合、カバープレート52は、PZTまたはシリコンにより形成することが好ましい。これにより、ヘッドチップ40Aのカバープレート52の温度とヘッドチップ40Bのカバープレート52の温度との差が低減され、インクジェットヘッド4内におけるインク温度の均一化を図ることができるからである。その結果、インクの吐出速度のばらつきが低減され、印字安定性が向上する。
【0044】
このようなカバープレート52には、カバープレート52をY軸方向(厚さ方向)に貫通するとともに、吐出チャネル54に連通する液体供給路70が形成されている。液体供給路70は、Y軸方向の流路プレート41側に開口する共通インク室71と、共通インク室71とそれぞれ連通すると共にY軸方向のアクチュエータプレート51側に開口する複数のスリット72とを含んでいる。複数のスリット72は、複数の吐出チャネル54と対応する位置に設けられている。共通インク室71は、複数のスリット72に対し共通に設けられており、複数のスリット72を通じて各吐出チャネル54と連通している。共通インク室71は、ダミーチャネル55には連通していない。
【0045】
共通インク室71は裏面52f2に形成されている。共通インク室71は、Z軸方向において、吐出チャネル54の切り上がり部54bと実質的に同じ位置に配置されている。共通インク室71は、表面52f1側に向けて窪むと共にX軸方向に延在する溝状に形成されている。共通インク室71には、流路プレート41を通じてインクが流入するようになっている。
【0046】
複数のスリット72は表面52f1に形成されている。複数のスリット72は、Y軸方向において共通インク室71の一部とそれぞれ重なり合う位置に配置されている。複数のスリット72は、共通インク室71と複数の吐出チャネル54とに連通している。各スリット72のX軸方向の幅は、各吐出チャネル54のX軸方向の幅と実質的に同じであることが望ましい。
【0047】
表面52f1には、カバープレート側共通パッド66(以下「CP側共通パッド66」という。)が設けられている(図8)。このCP側共通パッド66は、例えば複数のスリット72それぞれの周囲に設けられている。CP側共通パッド66は、AP側共通パッド62に対向する位置に配置され、AP側共通パッド62に接している。即ち、CP側共通パッド66は、AP側共通パッド62を介して共通電極61に電気的に接続されている。
【0048】
裏面52f2には、共通引出配線67が設けられている。この共通引出配線67は、共通インク室71の周囲に設けられている(図4図5)。共通引出配線67は、例えば、スリット72内および共通インク室71内に設けられた配線を介してCP側共通パッド66に電気的に接続されている。共通引出配線67は、例えば、カバープレート52の上端面522を介して表面52f1に引き出されている。表面52f1では、上端部52bに設けられた共通引出配線67が、フレキシブル基板45(外部配線)に接続されている。
【0049】
表面52f1には、CP側共通パッド66とともに、複数のカバープレート側個別配線69(以下「CP側個別配線69」という。)が設けられている。複数のCP側個別配線69は、表面52f1の上端部52bに、互いに分離して設けられている。CP側個別配線69の一部は、AP側個別配線64に対向する位置に配置され、AP側個別配線64に接している。即ち、CP側個別配線69は、AP側個別配線64を介して個別電極63に電気的に接続されている。CP側個別配線69は、AP側個別配線64に対向する位置から、カバープレート52の上端に延在している。このCP側個別配線69にフレキシブル基板45が接続されている。
【0050】
(一対のヘッドチップ40A,40Bの配置関係)
図3に示したように、一対のヘッドチップ40A,40Bは、各々の裏面52f2同士をY方向で対向させた状態で、Y軸方向に流路プレート41を挟んで配置されている。
【0051】
ヘッドチップ40Bの吐出チャネル54およびダミーチャネル55は、ヘッドチップ40Aの吐出チャネル54およびダミーチャネル55の配列ピッチに対してX軸方向に半ピッチずれて配列されている。すなわち、ヘッドチップ40Aの吐出チャネル54およびダミーチャネル55と、ヘッドチップ40Bの吐出チャネル54およびダミーチャネル55とが千鳥状に配列されている。
【0052】
このため、図4に示したように、ヘッドチップ40Aの吐出チャネル54と、ヘッドチップ40Bのダミーチャネル55とがY軸方向で対向している。同様に、図5に示したように、ヘッドチップ40Aのダミーチャネル55と、ヘッドチップ40Bの吐出チャネル54とがY軸方向で対向している。なお、ヘッドチップ40A,40Bにおける各々の吐出チャネル54およびダミーチャネル55のピッチは適宜変更可能である。
【0053】
(流路プレート41)
流路プレート41は、Y軸方向においてヘッドチップ40Aとヘッドチップ40Bとの間に挟持されている。流路プレート41は、同一の部材により一体に形成されているとよい。図3に示したように、流路プレート41は、X軸方向を長手方向としZ軸方向を短手方向とする矩形板状をなしている。Y軸方向から見て、流路プレート41の外形は、カバープレート52の外形と実質的に同じである。
【0054】
流路プレート41のY軸方向における主面41a(ヘッドチップ40Aと対向する面)には、ヘッドチップ40Aにおける裏面52f2が接合されている。流路プレート41のY軸方向における主面41b(ヘッドチップ40Bと対向する面)には、ヘッドチップ40Bにおける裏面52f2が接合されている。
【0055】
図4および図5に示したように、流路プレート41の各主面41f1,41f2には、共通インク室71に各別に連通する入口流路74と、帰還プレート43の循環路76に各別に連通する出口流路75とが形成されている。各主面41f1,41f2では、入口流路74と出口流路75とがZ方向に並ぶように形成されている。流路プレート41は、カバープレート52を構成する材料の熱伝導率以上の熱伝導率を有する材料により構成されていることが好ましい。
【0056】
各入口流路74は、流路プレート41の各主面41f1,41f2からY方向の内側に向けて窪むように設けられたインクの流路であり、インクは入口マニホールド42から入口流路74およびカバープレート52の液体供給路70を介してアクチュエータプレート51の吐出チャネル54に供給されるようになっている。各入口流路74は、屈曲部または湾曲部を有していてもよいが、ほぼ流路プレート41の長手方向(X軸方向)に沿って延在している。各入口流路74の一端にはインクの導入部74iが設けられ、各入口流路74の他端には閉塞端部74mが設けられている。導入部74iは、流路プレート41の一端面(YZ平面)に設けられた開口である。各入口流路74は、この開口から下方にクランク状に屈曲した後、X軸方向に直線状に延在し、閉塞端部74mに達している。閉塞端部74mは、インクの経路に沿って導入部74iから最も遠い位置に配置されている。この閉塞端部74mでは、入口流路74の他端が流路プレート41の他端面(YZ平面)により閉塞されている。ここでは、入口流路74が本開示の「流路」の一具体例、導入部74iが本開示の「導入部」の一具体例、閉塞端部74mが本開示の「最遠端部」の一具体例にそれぞれ対応する。
【0057】
図4図5に示すように、入口流路74のZ方向の大きさは、例えば、共通インク室71のZ方向の大きさよりも大きくなっている。入口流路74のZ方向の大きさは、共通インク室71のZ方向の大きさ以下であってもよい。
【0058】
図4図5に示すように、ヘッドチップ40Aにインクを供給する入口流路74とヘッドチップ40Bにインクを供給する入口流路74とは、互いに離間して配置されている。Y方向に間隔をあけて配置されている。換言すれば、流路プレート41には、2つの入口流路74を隔てる壁41Wが設けられている。壁41Wは、X軸方向に延在している。このような壁41Wを設けることにより、インク吐出時等に発生する吐出チャネル54内の圧力変動の衝撃が壁41Wで遮られる。したがって、ヘッドチップ40Aとヘッドチップ40Bとの間で、この圧力変動がインクの流路を介して他の吐出チャネル54等に及ぼす影響を小さくすることができる。即ち、いわゆるクロストークを抑制し、優れた吐出性能(印字安定性)を得ることができる。
【0059】
出口流路75は、流路プレート41の各主面41f1,41f2からY軸方向の内側に向けて窪むように設けられたインクの流路であり、インクは帰還プレート43から出口流路75を介して出口マニホールドに排出されるようになっている。各出口流路75は、屈曲部または湾曲部を有していてもよいが、ほぼ流路プレート41の長手方向(X軸方向)に沿って延在している。各出口流路75の一端は、流路プレート41の他端面に開口している。各出口流路75は、この開口から下方にクランク状に屈曲した後、X軸方向に延在している。出口流路75のうち、このX軸方向に延在する部分は、流路プレート41の下端面411に設けられた開口に連通している。各出口流路75の他端は、例えば、流路プレート41の一端面により閉塞されている。即ち、X軸方向において、入口流路74の閉塞端部74m側に、出口流路75の開口が配置されている。
【0060】
図4図5に示したように、出口流路75のZ軸方向の大きさは、入口流路74のZ軸方向の大きさよりも小さいとよい。また、出口流路75のY軸方向の大きさは、入口流路74のY軸方向の大きさと実質的に同じである。出口流路75は、流路プレート41の他端面に設けられた開口を介して出口マニホールド(図示せず)に接続されている。出口マニホールドは、インク排出管82(図2参照)に接続されている。
【0061】
図10は、流路プレート41の、より詳細な構成を表す斜視図である。本実施の形態では、流路プレート41が、入口流路74に接続された第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを有している。第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbは、入口流路74を入口流路74の外側に接続するように設けられている。詳細は後述するが、これにより、保護膜PFを形成する際に、保護膜PFを形成するための流体が入口流路74から各吐出チャネル54に流れやすくなり、各吐出チャネル54に十分な厚みの保護膜PFを形成することができる。
【0062】
第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbは、例えば、各主面41f1,41f2のうち、入口流路74の周囲に設けられた溝により構成されている。第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbは、例えば、入口流路74と出口流路75とを繋ぐように設けられている。第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbは、入口流路74に接続されたトンネル状の穴により構成されていてもよい。溝により構成された第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbは、例えばトンネル状の穴により第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを構成する場合に比べて、簡便に形成することができる。
【0063】
第1流量調整部41gaは、例えば接着剤B等に埋められており、入口流路74と出口流路75との間で第1流量調整部41gaを介してインクが流れないようになっている。このような第1流量調整部41gaは、入口流路74を入口流路74の外側に接続するように設けられていればよく、例えば、入口流路74を流路プレート41の外側に接続するように設けられていてもよい。一方、第2流量調整部41gbの溝は塞がれていない。このような第2流量調整部41gbは、入口流路74を出口流路75に接続するように設けられていることが好ましい。このように入口流路74および出口流路75に連通する第2流量調整部41gbを設けることにより、入口流路74と出口流路75との間でインクを流すことができる。
【0064】
第1流量調整部41gaは、各入口流路74の閉塞端部74m近傍に複数設けられている。ここで、閉塞端部74m近傍とは、第1流量調整部41gaを設けた際に、閉塞端部74mに起因する流体のよどみを緩和可能な範囲の領域であり、例えば、導入部74iよりも閉塞端部74mに近い領域である。複数の第1流量調整部41gaは、例えば互いに離間し、入口流路74の周囲の長辺(入口流路74の延在方向、即ちX軸方向の辺)に並んで配置されている。この複数の第1流量調整部41gaはそれぞれ、Z軸方向に延在している。この複数の第1流量調整部41gaは、後述するように、保護膜PFを形成した後、接着剤Bにより埋められる。換言すれば、保護膜PFを形成する際には、第1流量調整部41gaは、入口流路74および出口流路75に連通しており、保護膜PFを形成するための流体が第1流量調整部41gaを通過するようになっている。第1流量調整部41ga内には、保護膜PFおよび接着剤Bがこの順に設けられている。ここで、保護膜PFを形成するための流体が、本開示の「流体」の一具体例に対応する。
【0065】
第1流量調整部41gaを埋める接着剤Bは、例えば、プレート間(例えば、カバープレート52およびアクチュエータプレート51)を接合する接着剤により構成されている。プレート間を接合するための接着剤を用いて第1流量調整部41gaを埋めることにより、材料に要するコストを抑えることが可能となる。接着剤Bは、仮に、入口流路74から第1流量調整部41gaにインクが流入しても、このインクが第1流量調整部41gaを通過して出口流路75に流れないように設けられていればよい。接着剤Bは、第1流量調整部41gaを完全に埋めていなくてもよく、第1流量調整部41gaの一部に接着剤Bが設けられていてもよい。このような接着剤Bは、例えば、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂等を含む樹脂材料により構成されている。第1流量調整部41gaは、接着剤B以外の材料により埋められていてもよい。あるいは、第1流量調整部41gaを介した入口流路74から出口流路75へのインクの流れを止めるように、堰止部材を設けるようにしてもよい。
【0066】
例えば、保護膜PFを形成する際には、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbのうち、主に第1流量調整部41gaにより、閉塞端部74m近傍での入口流路74から吐出チャネル54への流体の流れが促進される。このため、複数の第1流量調整部41gaが接着剤Bにより埋められる前の状態では、保護膜PFの形成するための流体が、第2流量調整部41gbよりも第1流量調整部41gaを通過しやすくなっていることが好ましい。
【0067】
例えば、複数の第1流量調整部41gaの断面積の合計は、第2流量調整部41gbの断面積よりも大きくなっている。第2流量調整部41gbが複数設けられている場合には、複数の第1流量調整部41gaの断面積の合計は、複数の第2流量調整部41gbの断面積の合計よりも大きくなっている。この第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbの断面積は、入口流路74から出口流路75に向かう方向に対して垂直方向の断面の面積であり、第1流量調整部41gaではXY断面の面積に対応する。また、このように、比較的断面積の大きな第1流量調整部41gaを接着剤Bにより埋めることで、ヘッドチップ40A,40Bを駆動させた際に、入口流路74から第1流量調整部41gaを介した出口流路75へのインクの漏れが生じにくくなる。したがって、十分な量のインクを入口流路74から各吐出チャネル54へ供給することが可能となる。
【0068】
第2流量調整部41gbは、複数の第1流量調整部41gaそれぞれから離間して配置されていることが好ましい。複数の第1流量調整部41gaそれぞれと第2流量調整部41gbとを離間して設けることにより、複数の第1流量調整部41gaそれぞれを接着剤Bにより埋める際に、複数の第1流量調整部41gaとともに第2流量調整部41gbも接着剤Bで埋められることを防ぎやすくなる。保護膜PFを形成する際には、保護膜PFの形成するための流体が第1流量調整部41gaとともに、第2流量調整部41gbも通過する。例えば、第2流量調整部41gbを構成する溝の壁面には保護膜PFが設けられている。
【0069】
例えば、流路プレート41には、複数の第2流量調整部41gbが設けられている。例えば、複数の第2流量調整部41gbの一部(ここでは、各主面41f1,41f2に一つずつ)は、各入口流路74の導入部74i近傍に設けられている。この第2流量調整部41gbは、例えば、入口流路74の周囲の長辺に配置され、Z軸方向に延在している。例えば、残りの第2流量調整部41gb(ここでは、各主面41f1,41f2に一つずつ)は、各入口流路74の閉塞端部74m近傍に設けられている。この第2流量調整部41gbは、例えば、入口流路74の周囲の短辺(Z軸方向の辺)に配置され、X軸方向に延在している。このように、第1流量調整部41gaに比較的近い位置(閉塞端部74m近傍)に、第2流量調整部41gbを配置する場合には、第1流量調整部41gaが設けられた入口流路74の周囲の辺(長辺)とは異なる辺に第2流量調整部41gbを設けることが好ましい。
【0070】
第2流量調整部41gbを設けることにより、入口流路74と出口流路75との間で、微量なインクを流すことができる。例えば、ヘッドチップ40A,40Bを駆動させた際に、入口流路74のインクの気泡を入口流路74の外側に排出し、気泡に起因した吐出動作の不具合の発生を抑えることができる。また、第2流量調整部41gbを介して、入口流路74が出口流路75に連通されるので、ヘッドチップ40A,40Bを駆動させた際に生じる熱が放熱されやすくなる。
【0071】
なお、入口流路74の閉塞端部74m近傍に第2流量調整部41gbが設けられている場合には、閉塞端部74m近傍からインクが流れるが、このインクは、入口流路74全体のインクの流量に比べて極微量に調整される。したがって、入口流路74の閉塞端部74m近傍に第2流量調整部41gbが設けられていても、入口流路74の他端は実質的に閉塞されているといえる。
【0072】
(入口マニホールド42)
図3に示したように、入口マニホールド42は、ヘッドチップ40A,40Bおよび流路プレート41のX軸方向の一端面に接合されている。入口マニホールド42には、一対の入口流路74に連通する供給路77が形成されている。供給路77における流路プレート41と反対側の端部はインク供給管81(図2参照)に接続されている。
【0073】
(帰還プレート43)
帰還プレート43は、X軸方向を長手方向としY軸方向を短手方向とする矩形板状をなしている。帰還プレート43は、ヘッドチップ40A,40Bの下端面511,521および流路プレート41の下端面411にまとめて接合されている。すなわち、帰還プレート43は、ヘッドチップ40Aおよびヘッドチップ40Bにおける吐出チャネル54の開口54K側に配設されている。帰還プレート43は、ヘッドチップ40Aとヘッドチップ40Bとにおける吐出チャネル54の開口54Kと、ノズルプレート44の上面との間に介在するスペーサプレートである。帰還プレート43には、ヘッドチップ40A,40Bの吐出チャネル54と出口流路75との間を接続する複数の循環路76が形成されている。複数の循環路76は、第1循環路76aおよび第2循環路76bを含んでいる。複数の循環路76は、帰還プレート43をZ軸方向に貫通している。
【0074】
(ノズルプレート44)
図3に示したように、ノズルプレート44の外形は、X軸方向を長手方向としY軸方向を短手方向とする矩形板状をなしている。ノズルプレート44は、帰還プレート43の下端面に接合されている。ノズルプレート44には、ノズルプレート44をZ軸方向に貫通する複数のノズル78(噴射孔)が配列されている。複数のノズル78は、第1ノズル78aおよび第2ノズル78bを含む。複数のノズル78は、ノズルプレート44をZ軸方向に貫通している。
【0075】
図4に示したように、第1ノズル78aは、ノズルプレート44のうち、帰還プレート43の各第1循環路76aとZ軸方向で対向する部分にそれぞれ形成されている。すなわち、第1ノズル78aは、第1循環路76aと同ピッチで、X軸方向に間隔をあけて一直線上に配列されている。第1ノズル78aは、第1循環路76aにおけるY軸方向の外端部で第1循環路76a内に連通している。これにより、各第1ノズル78aは、第1循環路76aを介してヘッドチップ40Aの対応する吐出チャネル54にそれぞれ連通している。
【0076】
図5に示したように、第2ノズル78bは、ノズルプレート44のうち、帰還プレート43の各第2循環路76bとZ軸方向で対向する部分にそれぞれ形成されている。すなわち、第2ノズル78bは、第2循環路76bと同ピッチで、X軸方向に間隔をあけて一直線上に配列されている。第2ノズル78bは、第2循環路76bにおけるY軸方向の外側端部で第2循環路76b内に連通している。これにより、各第2ノズル78bは、第2循環路76bを介してヘッドチップ40Bの対応する吐出チャネル54にそれぞれ連通している。ダミーチャネル55は、ノズル78a,78bには連通しておらず、帰還プレート43により下方から覆われている。
【0077】
[インクジェットヘッド4の製造方法]
次に、図1図10に加えて図11図16を参照して、インクジェットヘッド4の製造方法について説明する。図11は、インクジェットヘッド4の製造方法の一例を表す流れ図である。
【0078】
まず、アクチュエータプレート51となるアクチュエータウエハ、カバープレート52となるカバーウエハおよび流路プレート41となる流路ウエハをそれぞれ形成する(ステップS1)。以下、このステップS1について説明する。
【0079】
アクチュエータウエハを形成する工程では、まず、厚さ方向(Y軸方向)に分極処理された2枚の圧電基板を用意し、各々の分極方向が逆向きとなるようにそれらを積層する。次いで、この圧電基板(後述の図12の圧電基板110)の表面にレジストパターンを形成する。続いて、ダイシングブレード等により、上述の圧電基板の表面に対して切削加工を行う。これにより、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55が形成される。
【0080】
次に、例えばめっき法を用いて、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55を覆う金属被膜を形成する。金属被膜を形成した後、レジストパターンを除去する(リフトオフ法)。これにより、レジストパターン上に堆積した金属被膜が除去される。めっき法により金属被膜を形成した後、複数のダミーチャネル55それぞれの内面に形成された金属被膜をパターニングする。
【0081】
図12は、ダミーチャネル55の内面に形成された金属被膜のパターニング工程を表す断面図である。このパターニング工程では、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55を覆う金属被膜のうち、ダミーチャネル55の底面に位置する部分を例えばレーザ光の照射により除去する。これにより、吐出チャネル54の内面に共通電極61が形成され、ダミーチャネル55の内面に個別電極63が形成される。また、圧電基板110の表面には、対応する共通電極61および個別電極63にそれぞれ接続されるAP側共通パッド62およびAP側個別配線64(図8参照)が形成される。なお、レーザ光Lに代えてダイサーを用いてもよい。
【0082】
このようにしてアクチュエータウエハを形成することができる。
【0083】
カバーウエハを形成する工程は、例えば、共通インク室形成工程、スリット形成工程および電極・配線形成工程を含んでいる。図13および図14を用いて、このカバーウエハを形成する工程について説明する。
【0084】
図13は、共通インク室形成工程を表す平面図である。また、図14は、共通インク室形成工程に続くスリット形成工程を表す断面図であり、図13に示したXIV-XIV切断線に沿った矢視方向の断面を表している。図13に示したように、共通インク室形成工程では、板状部材120に対して表面側から図示しないマスクを通してサンドブラスト等を行い、共通インク室71を形成する。続いて、図14に示すように、スリット形成工程において、板状部材120に対して裏面側から図示しないマスクを通してサンドブラスト等を行い、共通インク室71内に各別に連通するスリット72を形成する。
【0085】
なお、共通インク室形成工程およびスリット形成工程は、それぞれサンドブラストに限らず、ダイシング、切削等により行っても構わない。
【0086】
続く電極・配線形成工程では、板状部材120にCP側共通パッド65およびCP側個別配線69などの各種電極・配線をそれぞれ所定の位置に所定の形状をなすように形成する。具体的には、電極・配線形成工程では、各種電極および各種配線(CP側共通パッド65およびCP側個別配線69)を形成すべき領域に開口を有するマスク(図示せず)を配置する。そののち、そのマスクの上から蒸着等により電極材料を成膜する。あるいは、無電解めっきにより電極材料を成膜してもよい。これにより、マスクの開口を通してカバープレート52の表面52f1に各種電極および各種配線となる電極材料が成膜される。なお、マスクとしては、例えば感光性ドライフィルム等を用いることができる。電極材料を成膜したのち、カバープレート52の全面からマスクを除去する。
【0087】
このようにしてカバーウエハを形成することができる。
【0088】
次に、図15を用いて流路ウエハを形成する工程について説明する。流路ウエハを形成する工程では、まず板状部材130に対して表面側から図示しないマスクを通してサンドブラスト等を行い、表面側の入口流路74および表面側の出口流路75をそれぞれ形成する。また、板状部材130の表面を溝状に削り、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを形成する。
【0089】
続いて、板状部材130に対して裏面側から図示しないマスクを通してサンドブラスト等を行い、裏面側の入口流路74および裏面側の出口流路75を形成する。また、板状部材130の裏面を溝状に削り、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを形成する。なお、入口流路74および出口流路75は、サンドブラストに限らず、ダイシング、切削等により行っても構わない。
【0090】
このようにして流路ウエハを形成することができる。
【0091】
アクチュエータウエハ、カバーウエハおよび流路ウエハを形成した後、これらを接合する(図11のステップS2)。具体的には、アクチュエータウエハの表面(アクチュエータプレート51の表面51f1が形成される面)に、例えば、接着剤を用いてカバーウエハの表面(カバープレート52の表面52f1が形成される面)を貼り合わせる。流路ウエハの表面(流路プレート41の主面41f1が形成される面)に、例えば、接着剤を用いて、アクチュエータウエハが接合されたカバーウエハの裏面を貼り合わせる。同様に、流路ウエハの裏面にも、カバーウエハおよびアクチュエータウエハを接合する。
【0092】
図16は、この接合工程を表す断面図であり、図15に示したXVI-XVI線に沿った断面に対応する。図16に示したように、この接合工程により、流路プレート41の入口流路74は、共通インク室71およびスリット72を介して複数の吐出チャネル54それぞれに連通される。
【0093】
流路ウエハの表面および裏面それぞれに、アクチュエータウエハおよびカバーウエハを貼り合わせた後、これらを個片化する(図11のステップS3)。この個片化工程では、ダイサー等を用いて出口流路75におけるX軸方向直線部の軸線(図15に示した仮想線D)に沿って、流路ウエハ、カバーウエハおよびアクチュエータウエハを切断する。これにより、流路プレート41と、流路プレート41に接合された一対のヘッドチップ40A,40Bが完成する。
【0094】
次に、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55それぞれの内面を覆うように、保護膜PFを形成する(図11のステップS4)。保護膜PFは、例えば、化学蒸着法等を用いてパラキシリレン系樹脂材料を成膜することにより形成する。具体的には、保護膜PFを形成するための流体(例えば、気体)が、入口流路74の導入部74iに入り、入口流路74および液体供給路70を介して複数の吐出チャネル54それぞれに供給される。
【0095】
ここでは、入口流路74の閉塞端部74m近傍に第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbが形成されているので、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbが形成されていない場合に比べて、閉塞端部74m近傍での流体の圧力損失が小さくなる。また、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbは、出口流路75に連通されているので、出口流路75を流れる流体も第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを介して閉塞端部74m近傍に供給される。このように、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbにより、閉塞端部74m近傍での入口流路74から吐出チャネル54へ流体の流れが促進される。したがって、閉塞端部74m近傍の入口流路74に連通する吐出チャネル54にも、保護膜PFの形成材料を十分に供給することができる。複数の吐出チャネル54それぞれには、下端面511の開口54Kからも保護膜PFを形成するための流体が供給される。
【0096】
複数のダミーチャネル55それぞれには、下端面511および上端面512の開口を介して保護膜PFを形成するための流体が供給される。このようにして、複数の吐出チャネル54および複数のダミーチャネル55それぞれで、共通電極61および個別電極63を覆う保護膜PFを形成することができる。
【0097】
保護膜PFを形成した後、複数の第1流量調整部41gaおよび複数の第2流量調整部41gbのうち、複数の第1流量調整部41gaを選択的に接着剤Bにより埋め込む(図11のステップS5)。
【0098】
次いで、下端面411,511,521に、帰還プレート43およびノズルプレート44を接合する(図11のステップS6)。その後、上端部52bにフレキシブル基板45(図4図5参照)を実装する。
【0099】
以上により、本実施形態のインクジェットヘッド4が完成する。
【0100】
[動作および作用・効果]
(A.プリンタ1の基本動作)
このプリンタ1では、以下のようにして、記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作(印刷動作)が行われる。なお、初期状態として、図1に示した4種類のインクタンク3(3Y,3M,3C,3B)にはそれぞれ、対応する色(4色)のインクが十分に封入されているものとする。また、インクタンク3内のインクがインク循環機構8を介してインクジェットヘッド4内に充填された状態となっている。より具体的には、所定量のインクが、インク供給管81および流路プレート41を介してヘッドチップ40に供給され、液体供給路70を経て吐出チャネル54内に充填された状態となっている。
【0101】
このような初期状態において、プリンタ1を作動させると、搬送機構2a,2bにおけるグリッドローラ21がそれぞれ回転することで、グリッドローラ21とピンチローラ22と間に記録紙Pが挟持されつつ搬送方向d(X軸方向)に沿って搬送される。また、このような搬送動作と同時に、駆動機構34における駆動モータ38が、プーリ35,36をそれぞれ回転させることにより無端ベルト37を動作させる。これにより、キャリッジ33がガイドレール31,32にガイドされながら、記録紙Pの幅方向(Y軸方向)に沿って往復移動する。そしてこの際に、各インクジェットヘッド4(4Y,4M,4C,4B)によって、4色のインクを記録紙Pに適宜吐出させることで、この記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作がなされる。
【0102】
(B.インクジェットヘッド4における詳細動作)
続いて、図1図8を参照して、インクジェットヘッド4における詳細動作(インクの噴射動作)について説明する。すなわち、本実施の形態のインクジェットヘッド4(エッジシュートタイプ)では、以下のようにして、せん断(シェア)モードを用いたインクの噴射動作が行われる。なお、以下の噴射動作はインクジェットヘッド4に搭載された駆動回路(図示せず)により実行される。
【0103】
本実施形態のような、エッジシュートタイプであって縦循環式のインクジェットヘッド4では、まず、図2に示した加圧ポンプ84および吸引ポンプ85を作動させることにより、循環流路83内にインクを流通させる。この場合、インク供給管81を流通するインクは、図3に示したす入口マニホールド42の供給路77を通り、流路プレート41の入口流路74内へ流入する。入口流路74内へ流入したインクは、共通インク室71を通過した後、スリット72を通って吐出チャネル54内に供給される。吐出チャネル54内に流入したインクは、帰還プレート43の循環路76を経由して出口流路75内で再集合したのち、出口マニホールドを通過して図2に示したインク排出管82に排出される。インク排出管82に排出されたインクは、インクタンク3に戻されたのち、再びインク供給管81に供給される。これにより、インクジェットヘッド4とインクタンク3との間でインクが循環する。
【0104】
そして、キャリッジ33(図1参照)によって往復移動が開始されると、フレキシブル基板45を介して共通電極61と個別電極63との間に駆動電圧を印加する。この際、例えば個別電極63を駆動電位Vddとし、共通電極61を基準電位GNDとする。共通電極61と個別電極63との間に駆動電圧を印加すると、吐出チャネル54を画成する2つ駆動壁56に厚み滑り変形が生じ、これら2つの駆動壁56がダミーチャネル55側へ突出するように変形する。すなわち、アクチュエータプレート51は、厚さ方向(Y軸方向)に分極処理された2枚の圧電基板が積層された構造を有するので、上記の駆動電圧を印加することで、駆動壁56におけるY軸方向の中間位置を中心にしてV字状に屈曲変形する。これにより、吐出チャネル54があたかも膨らむように変形する。
【0105】
吐出チャネル54を画成する2つの駆動壁56の変形によって吐出チャネル54の容積が増大すると、共通インク室71内のインクがスリット72を通って吐出チャネル54内に誘導される。そして、吐出チャネル54の内部に誘導されたインクは、圧力波となって吐出チャネル54の内部に伝搬する。この圧力波がノズル78に到達したタイミングで、共通電極61と個別電極63との間の駆動電圧をゼロにする。そうすることにより、2つの駆動壁56の形状が復元し、一旦増大した吐出チャネル54の容積が元の容積に戻る。この動作によって吐出チャネル54の内部の圧力が増加し、吐出チャネル54内のインクが加圧される。その結果、インクをノズル78から吐出させることができる。この際、インクはノズル78を通過する際に液滴状のインク滴となって吐出される。これにより、上述したように記録紙Pに文字や画像等を記録することができる。
【0106】
なお、インクジェットヘッド4の動作方法は上述した内容に限られない。例えば、通常状態の駆動壁56が吐出チャネル54の内側に変形し、吐出チャネル54があたかも内側に凹むように構成しても構わない。この場合は、共通電極61と個別電極63との間に印加する駆動電圧を上述した電圧とは正負逆の電圧にするか、電圧の正負は変えずにアクチュエータプレート51の分極方向を逆にすることで実現可能である。また、吐出チャネル54が外側に膨らむように変形させた後で、吐出チャネル54が内側に凹むように変形させ、吐出時のインクの加圧力を高めるようにしても構わない。
【0107】
(C.作用・効果)
本実施の形態では、流路プレート41が、入口流路74に接続された第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを有している。これにより、閉塞端部74m近傍の入口流路74に連通する吐出チャネル54にも、十分に厚い保護膜PFを形成することができる。以下、この作用および効果について詳細に説明する。
【0108】
閉塞端部74mは導入部74iから最も遠い位置であり、また、開放されていないため、流体のよどみが生じやすい。このため、流路プレート41が第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを有していない場合、他の部分に比べて閉塞端部74m近傍では流体の圧力損失が大きくなる。したがって、保護膜PFを形成するための流体が導入部74iから入口流路74に入っても、閉塞端部74m近傍には到達しにくい。即ち、閉塞端部74m近傍の入口流路74に連通する吐出チャネル54には、十分な量の保護膜PFの形成材料が供給されず、他の吐出チャネル54に比べて薄い保護膜PFが形成されるおそれがある。このように、流路プレート41が第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを有していない場合には、一部の吐出チャネル54に十分な厚みの保護膜PFを形成することができず、インクに起因した共通電極61の腐食等が生じるおそれがある。
【0109】
これに対し、インクジェットヘッド4では、流路プレート41が第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを有しているので、閉塞端部74m近傍での流体の圧力損失が小さくなり、保護膜PFを形成するための流体が導入部74iから閉塞端部74m近傍にも到達しやすくなる。また、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbは出口流路75に連通している。このため、出口流路75からも、保護膜PFを形成するための流体を第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを介して閉塞端部74m近傍に供給することができる。即ち、閉塞端部74m近傍への流体の経路が増える。更に、出口流路75では、X軸方向において、その開口が閉塞端部74m側に設けられている。このため、入口流路74の導入部74iから閉塞端部74m近傍への流体の経路に比べて、出口流路75の開口から第1流量調整部41ga,第2流量調整部41gbを介した閉塞端部74m近傍への流体の経路の方が短くなる。このように、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbが、閉塞端部74m近傍での入口流路74から吐出チャネル54への流体の流れを促進するので、閉塞端部74m近傍の入口流路74に連通する吐出チャネル54にも十分に厚い保護膜PFを形成することができる。
【0110】
また、第1流量調整部41gaは、閉塞端部74m近傍に複数設けられている。更に、複数の第1流量調整部41gaの断面積の合計は、複数の第2流量調整部41gbの合計よりも大きくなっている。したがって、複数の第2流量調整部41gbに比べて、複数の第1流量調整部41gaにより、より効果的に閉塞端部74m近傍での入口流路74から吐出チャネル54への流体の流れが促進される。
【0111】
また、複数の第1流量調整部41gaは、保護膜PFを形成した後、接着剤Bにより埋められる。これにより、インクジェットヘッド4を駆動させる際には、複数の第1流量調整部41gaを介して入口流路74から出口流路75へとインクが流れない。したがって、入口流路74から複数の吐出チャネル54それぞれへと供給されるインクの流量を十分に確保することができる。
【0112】
以上のように本実施の形態のインクジェットヘッド4およびプリンタ1では、入口流路74の閉塞端部74m近傍に第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbが接続されているので、閉塞端部74m近傍で入口流路74に連通された吐出チャネル54にも十分に厚い保護膜PFを形成することができる。よって、十分に厚い保護膜PFにより共通電極61の腐食等の発生を抑え、インクジェットヘッド4の信頼性の低下を抑えることが可能となる。
【0113】
また、インクジェットヘッド4では、一対のヘッドチップ40A,40Bの間に設けられた流路プレート41により、一対のヘッドチップ40A,40Bへのインクの流路が集約される。例えば、外側からインクを導入し、かつ、外側にインクを戻すように構成されたインクジェットヘッドは、インクの流路が二組必要である。インクジェットヘッド4では、このようなインクジェットヘッドに比べて厚みを小さくし、軽量化することが可能となる。
【0114】
<2.その他の変形例>
以上、実施の形態をいくつか挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0115】
例えば、上記実施の形態では、プリンタ、インクジェットヘッドおよびヘッドチップにおける各部材の構成例(形状、配置、個数等)を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の形状や配置、個数等であってもよい。
【0116】
また、上記実施の形態では、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbを流路プレート41に設ける場合について説明したが、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbは、インクジェットヘッド4の他の部分に設けられていてもよい。例えば、第1流量調整部41gaおよび第2流量調整部41gbをカバープレート52に設けるようにしてもよい。また、インクジェットヘッド4は、第1流量調整部41gaのみを有していてもよい。
【0117】
また、上記実施の形態で説明した各電極、チャネルおよび流量調整部などにおける長さ等の寸法比はあくまで例示であって各図に示したものに限定されない。
【0118】
また、上記実施の形態では、インクタンク3とインクジェットヘッド4との間でインクを循環させるインク循環機構8を備えたプリンタ1(インクジェットプリンタ)を挙げて説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、プリンタ1が有する循環機構の構成は、図2に例示した構成に限定されない。あるいは、本開示のインクジェットプリンタはインクが循環しない非循環型のインクジェットヘッドを備えたものであってもよい。
【0119】
また、上記実施の形態では、互いに異なる分極方向を有する2枚の圧電基板を積層したシェブロンタイプのアクチュエータプレートを例示したが、本開示のインクジェットヘッドは、いわゆるカンチレバータイプのアクチュエータプレートを有するものであってもよい。カンチレバータイプのアクチュエータプレートは、分極方向が厚み方向に沿って一方向に設定されている1つの圧電基板により形成されている。なお、このカンチレバータイプのアクチュエータプレートでは、例えば、駆動電極が深さ方向の上半分まで斜め蒸着によって取り付けられる。このため、この駆動電極が形成されている部分のみに駆動力が及ぶことによって、駆動壁が屈曲変形する。その結果、この場合においても、駆動壁がV字状に屈曲変形するので、吐出チャネルがあたかも膨らむように変形することになる。
【0120】
上記実施の形態では、めっき法を用いて共通電極61および個別電極63を形成する例を説明したが、共通電極61および個別電極63は、他の方法を用いて形成するようにしてもよい。例えば、蒸着法を用いて共通電極61および個別電極63を形成するようにしてもよい。
【0121】
また、上記実施の形態等では、いわゆるエッジシュートタイプのインクジェットヘッドを例示して説明したが、本開示はいわゆるサイドシュートタイプのインクジェットヘッドにおいても適用可能である。
【0122】
さらに、上記実施の形態等では、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例として、プリンタ1(インクジェットプリンタ)を挙げて説明したが、この例には限られず、インクジェットプリンタ以外の他の装置にも、本開示を適用することが可能である。換言すると、本開示の「液体噴射ヘッド」(インクジェットヘッド4)を、インクジェットプリンタ以外の他の装置に適用するようにしてもよい。具体的には、例えば、ファクシミリやオンデマンド印刷機などの装置に、本開示の「液体噴射ヘッド」を適用するようにしてもよい。
【0123】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0124】
また、本開示は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
液体が流入する、複数の通液室と、
前記通液室に設けられた導電膜と、
前記導電膜を覆う保護膜と、
前記複数の通液室に連通され、かつ、流体の導入部と、前記流体の経路に沿って前記導入部から最も遠い位置に設けられた最遠端部を有する流路と、
前記最遠端部近傍の前記流路を前記流路の外側に接続することにより、前記最遠端部近傍の前記流路と前記通液室との間の前記流体の流れを促進する流量調整部と
を備えた液体噴射ヘッド。
(2)
前記流量調整部にも前記保護膜が設けられている
前記(1)に記載の液体噴射ヘッド。
(3)
前記流量調整部は、複数の溝により構成されている
前記(1)または前記(2)に記載の液体噴射ヘッド。
(4)
前記流量調整部は、前記液体が通過しないように構成されている
前記(1)ないし前記(3)のうちいずれか1つに記載の液体噴射ヘッド。
(5)
更に、前記流量調整部を埋める接着剤を含む
前記(1)ないし前記(4)のうちいずれか1つに記載の液体噴射ヘッド。
(6)
前記流量調整部は、
前記液体が通過しないように構成された第1流量調整部と、
前記第1流量調整部と離間して配置されるとともに、前記液体が通過可能に構成された第2流量調整部とを含む
前記(1)ないし前記(5)のうちいずれか1つに記載の液体噴射ヘッド。
(7)
前記第1流量調整部を複数有し、
前記流路から前記流路の外側に向かう方向に対して垂直方向の前記複数の前記第1流量調整部の断面積の合計は、前記流路から前記流路の外側に向かう方向に対して垂直方向の前記第2流量調整部の断面積よりも大きい
前記(6)に記載の液体噴射ヘッド。
(8)
前記液体は、前記流路を介して前記通液室に流入する
前記(1)ないし前記(7)のうちいずれか1つに記載の液体噴射ヘッド。
(9)
前記最遠端部は閉塞されている
前記(1)ないし前記(8)のうちいずれか1つに記載の液体噴射ヘッド。
(10)
前記保護膜は、パラキシリレン系樹脂材料、酸化タンタル、窒化シリコン、炭化シリコン、酸化シリコンおよびダイヤモンドライクカーボンのうちの少なくともいずれか一つを含む
前記(1)ないし前記(9)のうちいずれか1つに記載の液体噴射ヘッド。
(11)
更に、
それぞれに前記通液室が複数設けられ、互いに対向して設けられた一対のアクチュエータプレートと、
前記一対のアクチュエータプレートに交差する方向に配置されるとともに、前記通液室に連通する循環路を有する帰還プレートと、
前記一対のアクチュエータプレートの間に配置されるとともに、前記流路と、前記循環路に連通する出口流路とを有する流路プレートと、
前記流路プレートと前記一対のアクチュエータプレートとの間に設けられるとともに、前記流路および前記通液室に連通する液体供給路を有する一対のカバープレートとを含み、
前記流路プレートに前記流量調整部が設けられている
前記(1)ないし前記(10)のうちいずれか1つに記載の液体噴射ヘッド。
(12)
前記(1)ないし前記(11)のうちいずれか1つに記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体を収容する収容部と
を備えた液体噴射記録装置。
(13)
流体の導入部を有するとともに、前記導入部から前記流体の経路に沿って最も遠い位置に設けられた最遠端部を有する流路を形成する工程と、
前記最遠端部近傍の前記流路を前記流路の外側に接続する流量調整部を形成する工程と、
導電膜を有する通液室に、前記流路を連通させる工程と、
前記通液室に前記流路を連通させた後、前記流路および前記流量調整部を用いて前記導電膜を覆う保護膜を形成する工程と
を含む液体噴射ヘッドの製造方法。
(14)
前記保護膜を形成する工程は、前記流体を前記流路から前記通液室に流入させる工程を含み、
前記流体を前記流路から前記通液室に流入させる工程では、前記流量調整部が前記最遠端部近傍の前記流路から前記通液室への前記流体の流れを促進する
前記(13)に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
(15)
前記流量調整部を形成する工程では、複数の前記流量調整部を形成し、
更に、前記保護膜を形成した後、前記複数の前記流量調整部のうちの少なくとも一部の前記流量調整部に、前記通液室に流入した液体が通過しないように処置を施す工程を含む
前記(13)または前記(14)に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【符号の説明】
【0125】
1…プリンタ、10…筺体、2a,2b…搬送機構、21…グリッドローラ、22…ピンチローラ、3(3Y,3M,3C,3B)…インクタンク、4(4Y,4M,4C,4B)…インクジェットヘッド、40(40A,40B)…ヘッドチップ、41…流路プレート、41ga…第1流量調整部、41gb…第2流量調整部、42…入口マニホールド、43…帰還プレート、44…ノズルプレート、50…供給チューブ、51…アクチュエータプレート、51a…下端部、51b…上端部、51f1…表面、51f2…裏面、511…下端面、512…上端面、52…カバープレート、52b…上端部、54…吐出チャネル、54K…開口、55…ダミーチャネル、57,58…溝、6…走査機構、31,32…ガイドレール、33…キャリッジ、33a…基台、33b…壁部、34…駆動機構、35,36…プーリ、37…無端ベルト、38…駆動モータ、61…共通電極、62…AP側共通パッド、63…個別電極、64…AP側個別配線、65…CP側共通パッド、69…CP側個別配線、70…液体供給路、71…共通インク室、72…スリット、74…入口流路、74i…導入部、74m…閉塞端部、75…出口流路、76…循環路、77…供給路、78…ノズル、8…インク循環機構、81…インク供給管、82…インク排出管、83…循環流路、84…加圧ポンプ、85…吸引ポンプ、B…接着剤、P…記録紙、PF…保護膜、d…搬送方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16