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特許7249781使用済みLiイオン電池から金属を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】使用済みLiイオン電池から金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20230324BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20230324BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20230324BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230324BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20230324BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20230324BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B1/02
C22B3/10
C22B3/44 101A
C22B7/00 C
C22B7/00 G
C22B23/00 102
C22B26/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018520039
(86)(22)【出願日】2016-06-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 IB2016053811
(87)【国際公開番号】W WO2017006209
(87)【国際公開日】2017-01-12
【審査請求日】2019-06-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】2048/DEL/2015
(32)【優先日】2015-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】518005090
【氏名又は名称】アッテロ リサイクリング ピーヴィティ. リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100096758
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100114845
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 雅和
(74)【代理人】
【識別番号】100148781
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友和
(72)【発明者】
【氏名】グプタ, ニティン
(72)【発明者】
【氏名】プラバハラン, ジー
(72)【発明者】
【氏名】バリク, スムルティ パラカシュ
(72)【発明者】
【氏名】クマル,ブヴネシュ
【合議体】
【審判長】猪瀬 隆広
【審判官】寺谷 大亮
【審判官】角田 慎治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第8616475(US,B1)
【文献】特開2013-1951(JP,A)
【文献】特開2000-264641(JP,A)
【文献】特開昭63-129020(JP,A)
【文献】特開2004-79393(JP,A)
【文献】特開平10-255861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/52-10/667
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学薬品の使用が限定された、使用済みリチウムイオン電池からの有価金属の回収プロセスであって、
a)スラリーならびに細断プラスチックおよびポリテトラフルオロエチレンマトリックスを得るため、前記リチウムイオン電池が、好ましいサイズの粒子に、細断される前記リチウムイオン電池のレベルを十分に超える水位の水中で細断される細断ステップ、
b)前記ステップa)により水上に浮遊した細断プラスチックおよびポリテトラフルオロエチレンマトリックスが除去される除去ステップ、
c)前記ステップa)で得られたスラリーが、少なくとも50メッシュサイズのふるいを通して湿式篩別され、種々のサイズの粒子が分離されるステップであって、銅、アルミニウムおよび回路基盤またはモジュールを含むより粗い粒子が固形物含有篩別スラリーを形成し、ふるいにより保持されて、収集され、また、リチウムおよびコバルトを含むより微細な粒子が凝集する分離ステップ、
d)前記ステップc)のリチウムおよびコバルト含有凝集体がフィルタープレスにより濾過され、リチウムを含む洗浄液と、コバルト、金属不純物および有機マトリックスを含む残留物が得られる濾過ステップ、
e)前記ステップd)の残留物が乾燥され、乾燥された前記残留物が900℃で焙焼され、酸化コバルトが得られる焙焼ステップ、
f)前記ステップe)の酸化コバルトが、2.0~3.0のpH範囲の希酸溶液で洗浄、濾過され、純粋な酸化コバルトおよび濾液が得られる洗浄濾過ステップ、
g)前記ステップd)の洗浄液が、11~11.5の範囲のpH、80~120℃の範囲の温度下、3~6時間ソーダ灰の飽和溶液で処理され、炭酸リチウム沈殿物および上清が得られる処理ステップ、を含むプロセス。
【請求項2】
前記細断により得られた粒子のサイズが、10mm未満である、請求項1に記載の有価金属の回収プロセス。
【請求項3】
前記ステップc)のより粗い部分が、磁気分離器を使って処理され、前記回路基盤またはモジュールを含む磁性部が、銅およびアルミニウムを含む非磁性部から分離される、請求項1に記載の有価金属の回収プロセス。
【請求項4】
前記ステップg)の上清および前記ステップf)の濾液が、その後、ステップd)~ステップg)を繰り返すことにより、混合され、処理される、請求項1に記載の有価金属の回収プロセス。
【請求項5】
前記希酸溶液が塩酸溶液である、請求項1に記載の有価金属の回収プロセス。
【請求項6】
前記ステップf)で得られた酸化コバルトが、97%の純度で、76%を超えるコバルト含量を有する、請求項1に記載の有価金属の回収プロセス。
【請求項7】
前記ステップf)で得られた酸化コバルトが、2%未満の金属不純物レベルを有する、請求項1に記載の有価金属の回収プロセス。
【請求項8】
前記ステップg)で得られた炭酸リチウムが、98%の純度で、18%を超えるリチウム含量を有する、請求項1に記載の有価金属の回収プロセス。
【請求項9】
前記ステップg)で得られた炭酸リチウムが、0.5%未満の金属不純物レベルを有する、請求項1に記載の有価金属の回収プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みリチウムイオン電池からの、改善された有価金属回収プロセスに関する。より具体的には、本発明は、コバルトおよびリチウムを、他の有価金属と共に回収するプロセスを提供し、該プロセスは、物理的な分離プロセスを主に含み、化学薬品の使用を微量不純物の除去に限定する。本発明は、費用対効果が大きく、経済的で環境に優しい有価金属回収プロセスを提供する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は通常、Liイオン電池またはLIBと呼ばれ、充電可能なタイプの電池に分類され、この電池では、リチウムイオンは、放電時に負極から正極に移動し、充填時には、逆の方向に移動する。非充電式リチウム電池で金属リチウムが使われるのに対して、Liイオン電池は、インターカレートされたリチウム化合物を電極材料として使用する。イオン移動を可能とする電解質および2つの電極が、リチウムイオン電池の構成要素である。
【0003】
リチウムイオン電池は、高電気エネルギー密度、高動作電圧、長いサイクル寿命およびメモリー効果がないことなどの多くの利点を有し、リチウムイオン電池は大きく進歩する可能性を有する電池システムであると認識されてきた。したがって、リチウムイオン電池は、家庭用電化製品のエネルギー供給ユニットとして好ましい選択肢である。最もよく使われているタイプの家庭用電化製品用の充電式電池は、高エネルギー密度、無メモリー効果、および不使用時の低自己放電を可能とする電池である。家庭用電化製品以外に、LIBはまた、軍用の電池駆動式電気自動車および航空宇宙用途への利用が広がっている。例えば、リチウムイオン電池は、ゴルフカートおよびその他の類似の多用途車によく使われている鉛酸蓄電池に置き換わりつつある。このような転換はまた、リチウムイオン電池パックが、鉛酸蓄電池により生成される電圧と比べた場合、従来の相当品に比べて、大幅に軽量であるという事実に起因している。さらに、重量は問題にならないので、これらの嵩高い電源を保持するために必要な変更はない。
【0004】
このように、我々がその用途および可能性を明らかにしたので、リチウムイオン電池の使用は、巨大な市場成長の場となりつつある。その結果、リチウムイオン電池の使用の増加に伴い、リチウムイオン電池の使用に付随する汚染およびリスクの問題を解決するための、廃棄物リチウムイオン電池をリサイクルおよび再生するためのシステムおよび方法の要求がある。
【0005】
特定のリチウムイオン電池は、過充電から電池を保護し、保存寿命を延長するための保護回路基板またはモジュールをさらに含む。通常、保護回路基板は、リチウムイオン電池の正極端子および負極端子に接続され、電池の充電および放電状態を監視するのを支援する金メッキの導電パターンを有する。換言すれば、リチウムイオン電池における保護回路基板は、過放電および過充電の防止を支援する。この保護特性を達成するために、導電パターンに種々のタイプの金メッキを適用できる(特許文献1)。リチウムイオン電池が消耗するか、または使えなくなると、これらの金属に富む部品に対し、有価金属を再生し、再利用できるようにするためのいくつかの効果的な手法が必要となる。
【0006】
現時点では、リチウムイオン電池に使われている次の2つの主要なリサイクルプロセスがある。
1)電池は、セパレータと共に負極還元性炭素および成形ステンレス鋼合金をコバルト、ニッケルおよび/またはマンガンに富ませるためのフラックスを含む溶鋼を既に含む電気炉に供給される。リチウムはスラグ中に溶融され、いくつかの追加の処理ステップを用いて高コストで回収され得る。これは、ユミコアプロセスとして既知である。
2)電池はハンマーミルにより処理され、25メッシュで篩過して、スラリーが選別および梱包される。このスラリーは、炭素と共に正極由来の約30%の金属を含む。この金属に富む混合物は、鋼製造に利用するために電気溶鉱炉に送られる。このプロセスから銅およびアルミニウム箔が別々に回収される。
【0007】
コバルトおよびニッケルは、スクラップ用のマンガンとともに回収されるが、リチウム金属酸化物正極材料の実質的な価値は失われ、また、通常、リチウム金属酸化物は回収されないか、または最小限の回収となる。リチウム金属酸化物正極材料のすべての有価物が完全に回収されて、新しいリチウムイオン電池で直接再使用するために再生されることになるなら、戦略的材料のリサイクルにおける大きな改善となり、また、リチウム電池のコストを下げることになるであろう。さらに、正極材料中のほとんど全てのリチウムが同様に回収、再生されて、新しい電池に使用されるので、リチウム金属酸化物の一部として生き残ることになろう。
【0008】
正極材料の回収と再使用は、ニッケルおよびコバルトなどのリチウム正極材料の供給に対する逼迫状態を和らげることになろう。
【0009】
特許文献2は、リチウム金属酸化物正極材料を有する使用済みリチウムイオン電池からの、銅、アルミニウム、炭素および正極材料の回収プロセスについて開示している。開示されている方法の主な欠点は、その限られた回収性、および最も純粋な形での金属の回収における非効率性である。この方法は、保護回路基板中に存在するものを含む使用済みリチウムイオン電池の他の回収可能材料を無視している。したがって、使用済みリチウムイオン電池に存在する全ての有用な材料を最も純粋な形で回収するためには、ただ1つの汎用手法が必要である。
【0010】
特許文献3は、廃棄リチウムイオン電池から金属成分をリサイクルする方法が開示されており、該方法では、金属成分はpH制御環境中で回収される。さらに、該方法は、処理環境のpHを維持するために有機溶媒の使用を含む。このpHへの感受性が高い手法は、不完全な金属の回収に繋がる特定のpHの場合、特にpHが指定範囲から外れる場合に、特別な注意および作業が必要である。そのため、このような手法は、回収金属の品質と量にも影響を与え、プロセスの不完全性に起因して、効率的でないと見なされる。
【0011】
特許文献4は、消耗したリチウムイオン電池のリサイクルおよび処理により、コバルト、銅およびリチウムなどの貴金属元素を回収する方法を開示している。本方法では、電池部品は、最初に粉砕された後、回収される金属に依存する化学的手法を使って金属が回収される。該方法は、フッ化水素を生成し、これは直ちにフッ化水素酸に変換される。フッ化水素酸は極めて腐食性、有毒性であり、曝露時には深刻な健康への影響が生じる。さらに、回収金属は低純度の懸念がある。
【0012】
特許文献5は、使用済みリチウムイオン電池からコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム、および鉄などの有用な元素を抽出し、新しい電池用の活性正極材料を生成する方法および装置を開示している。開示されている方法は、使用済みリチウムイオン電池の金属含有物を回収するための汎用性に欠ける。さらに、開示されている方法は、混合正極化学物質に関する方法であり、最も純粋な形の個々の正極抽出物に対してはあまり注目していない。
【0013】
さらに、当技術分野において既知の大部分のプロセスは、有害な化学薬品を使用して多量の金属を回収する。他方では、最先端の物理的プロセスは、定量的ならびに定性的な意味で、金属の回収に至っていない。したがって、環境に配慮し、経済性に優れる有価金属の、品質を損なうことなく十分な量での回収方法が必要である。
【0014】
したがって、本発明の主目的は、使用済みリチウムイオン電池から有価金属を回収するための改善されたプロセスを提供することである。
【0015】
さらに別の本発明の目的は、使用済みLiイオン電池からコバルトおよびリチウムを、他の有価金属と共に回収するプロセスを提供することである。
【0016】
さらに別の本発明の目的は、主に、分離のための物理的プロセスを含み、過酷な化学薬品の使用を微量不純物の除去に限定した、Liイオン電池からの有価金属回収プロセスを提供することである。
【0017】
さらに別の本発明の目的は、費用対効果が大きく、経済的で環境に優しい有価金属回収プロセスを提供することである。
【0018】
さらに別の本発明の目的は、環境に配慮し、経済性に優れる有価金属の、品質を損なうことなく十分な量での回収方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開平13-268808号公報
【文献】米国特許第8616475号明細書
【文献】中国特許出願公開第101988156号明細書
【文献】中国特許出願公開第1601805A号明細書
【文献】米国特許出願公開第20130302226A1号明細書
【発明の概要】
【0020】
したがって、本発明は、使用済みリチウムイオン電池からの、改善された有価金属回収プロセスに関する。本発明は特に、コバルトおよびリチウムを、他の有価金属と共に回収するプロセスを提供し、該方法は、物理的な分離プロセスを主に含み、化学薬品の使用を微量不純物の除去に限定する。本発明は、費用対効果が大きく、経済的で環境に優しい有価金属回収プロセスを提供する。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、使用済みリチウムイオン電池から有価金属を回収する方法は、以下の主要ステップを含む:
i)電池の湿式細断、
ii)金属、電解質およびプラスチック/ポリマーマトリックスの分離のための、浮上分離に続けて、湿式篩別、
iii)リチウムイオンからの混合金属粉末の分離のための濾過、
iv)乾燥および焙焼によるリチウム不含酸化コバルト中のコバルト含量の濃縮、
v)希酸洗浄による酸化コバルトの精製、
vi)銅およびアルミニウムマトリックスからのプリント配線基板および鋼の除去のための磁気分離、および
vii)ステップ(iii)の洗浄液の沈殿による炭酸リチウムとしてのリチウム回収。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、使用済みリチウムイオン電池中に存在する保護回路基板を取り扱う手法を提供し、この手法では、再利用する目的で、銅、アルミニウムおよび金などの有価金属を最も純粋な形で回収できる。
【0023】
さらに別の実施形態では、最大限の元素が化学的プロセスに代えて、物理的プロセスにより分離され、これにより、液体および固体排出物の化学処理におけるコスト削減の利益が得られる。化学薬品は、微量不純物を溶解するためにのみ使用され、これは、プロセスを経済的に魅力的なものにする。
【0024】
このように、本プロセスは、化学薬品を使って大部分の元素を溶解した後に主要な元素をその他の不純物から分離するという通常使用されるプロセスとは異なる。これは、提案した有価金属を回収するプロセスを環境にやさしいものにする。
【0025】
次の図面を参照することにより、本発明の系およびプロセスの完全な理解が得られであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の一実施形態によるプロセスのフローチャートを示す。
図2図2は、使用済みリチウムイオン電池から回収された酸化コバルトのX線回折(XRD)パターンを示す。
図3図3は、使用済みリチウムイオン電池から得られた純粋な炭酸リチウムのX線回折(XRD)パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以降で、本発明を、本発明の好ましい実施形態が示されている添付図面を参照しながら説明する。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で実施され得るので、本発明を本明細書に記載の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろ、本開示が徹底したものとなるように、また、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように、該実施形態が提供されている。
【0028】
図1では、化学薬品溶液をほとんど使用することなく、使用済みリチウムイオン電池から有価金属を回収するプロセスおよび方法が説明されている。このプロセスは、回収物および副産物の品質を損なうことなく行われる、金属の物理的分離に主に依存している。本発明のプロセスは、次のステップを含む:
i)電池の湿式細断、
ii)金属、電解質およびプラスチック/ポリマーマトリックスの分離のための、浮上分離に続けて、湿式篩別、
iii)リチウムイオンからの混合金属粉末の分離のための濾過、
iv)乾燥および焙焼によるリチウム不含酸化コバルト中のコバルト含量の濃縮、
v)希酸洗浄による酸化コバルトの精製、
vi)銅およびアルミニウムマトリックスからのプリント配線基板および鋼の除去のための磁気分離、および
vii)ステップ(iii)の洗浄液の沈殿による炭酸リチウムとしてのリチウム回収。
【0029】
混合黒色粉末の2段階洗浄により、コバルトおよびリチウムの満足できる分離が得られた。飽和炭酸ナトリウム溶液を使って洗浄液中のリチウムを沈殿させ、同時に、焙焼に続く磁気分離により残留物中のコバルトおよび有機含有物を分離した。プロセスの主要ステップを以下の通り詳細に記載する:
i)使用済み電池の湿式細断:このステップでは、水がスクラブ剤ならびに温度コントローラとして機能するように、電池レベルを十分に超える水の存在下で、使用済みLIBが、シュレッダーに供給される。湿式細断は、室温(30℃±5℃)で実施される。シュレッダーは、細断後に10mm未満のサイズになるように設計される。シュレッダーは、水噴霧システムを備えた二軸シュレッダーであり、剪断方式細断が使われるのが好ましい。
ii)湿式細断の後には、浮上分離および篩過ステップが続く。このステップでは、プラスチック/テフロン(登録商標,ポリテトラフルオロエチレン)マトリックスを含むシュレッダー出力スラリーは水上に浮遊し、除去される。300ミクロン未満のサイズのスラリー粒子は、ふるい(メッシュサイズ50)を通過する。ふるいは銅箔、アルミニウムケーシングなどの金属およびPCBを保持し、これらは、その後収集される。
iii)リチウムイオンからの混合金属粉末の分離のための濾過:このステップでは、300ミクロン未満のサイズの粒子を含むスラリーがフィルタープレスにより濾過される。濾液は溶解したリチウムイオンを含む。濾過時に得られた残留物または濾過ケーキは、いくつかの金属不純物および有機マトリックスと共に、コバルトイオンを含む。
iv)乾燥および焙焼によるリチウム不含酸化コバルト中のコバルト含量の濃縮:このステップでは、ステップ(iii)で得られたケーキから有機マトリックスを除去するために、材料を乾燥後、900℃超で焙焼する。濃縮ステップは、特にコバルト金属に対し高温曝露が必要で、また、それが他の金属に対し何ら有害作用を引き起こさないことが必要である。
v)希酸洗浄による酸化コバルトの精製:このステップでは、上記焙焼材料が2.0~3のpHで希塩酸溶液処理される。
vi)PCB、銅およびアルミニウムマトリックスの除去のための磁気分離:このステップでは、ステップ(ii)から得られたPCB、銅およびアルミニウムの混合物から、磁気分離器を使用してPCBが分離される。磁性部はPCBを含み、非磁性部は銅およびアルミニウムを含む。
vii)ステップ(iii)の洗浄液の沈殿による炭酸リチウムとしてのリチウム回収:このステップでは、ステップ(iii)から得られた洗浄液をソーダ灰飽和溶液で処理して、pHを上昇させ、その液を、11~11.5のpH、90~100℃で4時間維持する。
【0030】
したがって、本発明の最も好ましい実施形態では、使用済みリチウムイオン電池から有価金属を回収するプロセスが提案され、該プロセスは、次のステップを含む:
a)リチウムイオン電池を好ましいサイズの粒子、すなわち、10mm、に、細断される電池のレベルを十分に超える水位の水中で細断し、スラリーならびに細断プラスチックおよびテフロンマトリックスを得るステップ、
b)ステップa)で水上に浮遊するプラスチックおよびテフロンマトリックスを除去するステップ、
c)ステップa)で得られたスラリーを少なくとも50メッシュサイズのふるいを通す湿式篩別を行い、種々のサイズの粒子を分離するステップであって、銅、アルミニウムおよび保護回路基板を含むより粗い粒子が固形分含有篩別スラリーを形成し、ふるいにより保持されて、収集され、また、リチウムおよびコバルトを含むより微細な粒子が凝集するステップ、
d)ステップc)のリチウムおよびコバルト含有凝集体をフィルタープレスにより濾過して、リチウムを含む洗浄液およびコバルト、金属不純物および有機マトリックスを含む残留物を得るステップ、
e)ステップd)の残留物を乾燥し、乾燥残留物を900℃で焙焼して酸化コバルトを得るステップ。
f)ステップe)の酸化コバルトを2.0~3.0のpH範囲の希塩酸溶液で洗浄、濾過して、純粋な酸化コバルトおよび濾液を得るステップ、
g)ステップd)の洗浄液を、11~11.5の範囲のpH、80~120℃の範囲の温度で、3~6時間ソーダ灰の飽和溶液を使って処理し、炭酸リチウム沈殿物および上清を得るステップ、
【0031】
さらに実施形態では、プロセスのステップc)のより粗い部分を、磁気分離器を使って処理し、保護回路基板を含む磁性部を、銅およびアルミニウムを含む非磁性部から分離する。
【0032】
別の実施形態では、提案プロセスは、76%を超えるコバルト含量および2%未満の金属不純物レベルの純度97%の酸化コバルトを提供する。
【0033】
別の実施形態では、提案プロセスは、18%を超えるリチウム含量および0.5%未満の金属不純物レベルの純度98%の炭酸リチウムを提供する。
【0034】
本発明は、次の非限定的実施例により例示される。
【実施例1】
【0035】
10kgの使用済み携帯電話用電池(Samsung-2100mAh)のバッチ(バッチ1)を取得し、本発明で指定されたプロセスにしたがって処理した。最初に、使用済み電池の湿式細断に続けて、浮上分離を実施し、約0.58kgのプラスチックおよびポリマー材料を除去した。その後、材料を50メッシュで篩過し、PCBおよび銅、アルミニウムなどの金属の混合物(約2.32kg)が保持され、収集される。
【0036】
300ミクロン未満のサイズの粒子を含むスラリーが濾過に供される。濾過時に、約5.78kg(乾燥重量)のケーキおよび溶解したリチウム金属を含む濾液(約30リットル)が得られる。
【0037】
次に、PCB、アルミニウムおよび銅を含む混合物(約2.32kg)を磁気により分離し、金回収プロセス用の約0.109kgのPCBを得る。残りの量(約2.21kg)の混合物を密度分離(空気を使用)に供し、アルミニウム(1.5kg)および銅(0.7kg)を選択的に分離した。
【0038】
濾過ステップで得たケーキ(5.78kg)を900℃で少なくとも9時間焙焼した。焙焼後、約1.38kgの残留物を得て、これを、希塩酸(pH2~3)で2時間撹拌し、続けて、濾過、乾燥することによりさらに精製した。得られた精製ケーキは、約1.35kgの純粋な酸化コバルト粉末を含む。
【0039】
濾液(約30リットル)を約3.6リットルの飽和ソーダ灰溶液で、90~100℃で、少なくとも4時間撹拌し、炭酸リチウムとしてリチウムの沈殿物を得た。沈殿したスラリーを濾過し、温水で洗浄し、乾燥して、純粋な炭酸リチウム(約1.13kg)を得た。
【実施例2】
【0040】
10kgの使用済み携帯電話用電池(Samsung-2600mAh)の別のバッチ(バッチ2)を取得し、処理した。第1のステップでは、電池を湿式環境中で細断し、浮上分離ステップに供し、約0.85kgのプラスチックおよびポリマー材料を除去した。これら材料を50メッシュのふるいを使って篩過し、PCBおよび銅、アルミニウムなどの金属の混合物(約3.37kg)が保持され、収集される。
【0041】
300ミクロン未満のサイズの粒子を含むスラリーが濾過に供される。濾過時に、約4.55kg(乾燥重量)のケーキおよび溶解したリチウム金属を含む濾液(約30リットル)が得られる。
【0042】
次に、PCBおよび銅、アルミニウムなどの金属を含む混合物(約3.37kg)を磁気により分離し、金回収プロセス用の約0.109kgのPCBを得た。残りの量(約3.26kg)の混合物を密度分離(空気を使用)に供し、アルミニウム(1.68kg)および銅(0.7kg)を選択的に分離した。
【0043】
他方では、濾過ステップ後に得たケーキ(4.55kg)を900℃で9時間焙焼し、約1.41kgの焙焼粉末を得た。得られた焙焼粉末を希塩酸(pH2~3)で2時間撹拌し、続けて、濾過、乾燥することによりさらに精製した。バッチ2から得られた精製ケーキは、約1.37kgの純粋な酸化コバルト粉末を含む。
【0044】
濾液(約30リットル)を約3.6リットルの飽和ソーダ灰溶液で、90~100℃で、少なくとも4時間撹拌し、炭酸リチウムとしてリチウムの沈殿物を得た。沈殿したスラリーを濾過し、温水で洗浄し、乾燥して、純粋な炭酸リチウム(約1.04kg)を得た。
【0045】
上記プロセスで得られた生成物をMP-AES(マイクロ波プラズマ-原子発光スペクトル)で分析し、分析結果を表1および表2に示した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
同じ生成物(酸化コバルトおよび炭酸リチウム)のX線回折(XRD)パターンを粉末回折装置(Bruker,D8 Advance)を使って特徴づけた。
【0049】
2θ値(36.86)、(42.82)および(62.17)の主ピークは、酸化コバルトのhkl値(111)、(200)および(220)にそれぞれ対応する(図2)。これは、立方晶型構造で、パターンは、JCPDSカードNo.43-1004と良好な一致を示す。その他の2θ値(18.21)および(18.34)の2つのピークは、痕跡量のLiCoO2に起因し、これは、得られた酸化コバルトの化学的分析からも確認された(表1)。
【0050】
図3を参照すると、使用済みリチウムイオン電池から得られた純粋な炭酸リチウムのX線回折(XRD)パターンが示されている。2θ値(21.32)、(30.61)、(31.80)および(36.95)の主ピークは、hkl値(110)、(202)、(002)および(311)にそれぞれ対応する。炭酸リチウムは、単斜晶型構造で、パターンは、JCPDSカードNo.22-1141と良好な一致が認められた。
【0051】
プロセス中に得られた生成物の純度を、マイクロ波プラズマ原子発光スペクトル(MP-AES)により分析した。得られた酸化コバルトの純度は、約97%で、炭酸リチウムの純度は98%であることが明らかになった。
【0052】
プロセスステップの詳細および回収した金属の量を表3にまとめている。
【0053】
【表3】
図1
図2
図3