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特許7249789フラックスゲートセンサおよびフラックスゲートセンサの位相調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】フラックスゲートセンサおよびフラックスゲートセンサの位相調整方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/04 20060101AFI20230324BHJP
【FI】
G01R33/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019009045
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020118524
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】597010628
【氏名又は名称】協立電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 彰利
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-277522(JP,A)
【文献】特開2018-096690(JP,A)
【文献】特開2014-029323(JP,A)
【文献】特表2000-508077(JP,A)
【文献】特開2015-001503(JP,A)
【文献】実開昭55-077191(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出コイルが巻かれた強磁性体のコアと、
所定の周波数の周期信号を出力する発振回路と、
前記周期信号を用いて前記コアを励磁する励磁と、
前記周期信号を用いて前記検出コイルの出力から前記所定の周波数の成分に応じた信号を出力する検知と、
前記励磁および前記検知のうちの少なくともいずれか一方に対して供給される前記周期信号の位相を調整する位相調整と、
を備え
前記検知部は、前記検出コイルの出力の交流成分と前記周期信号とを掛け合わせる乗算部を有するものであり、
前記位相調整部は、位相を変化させつつ前記乗算部の出力のレベルを取得し、該取得したレベルを参照して位相の変化量を決定するものである、
ことを特徴とするフラックスゲートセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の構成を有する直交型フラックスゲートセンサであって、
前記励磁は、前記所定の周波数の交流電流に対して該交流電流の振幅以上の大きさの直流バイアス電流を重畳した励磁電流により、前記コアを励磁するものである、
ことを特徴とするフラックスゲートセンサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフラックスゲートセンサを外部磁界がない状態に配置し、前記位相調整を用いて前記励磁部および前記検知部のうちの少なくともいずれか一方に対して供給される前記周期信号の位相を調整する、
ことを特徴とするフラックスゲートセンサの位相調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスゲートセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサの一つとしてフラックスゲートセンサが知られている。このフラックスゲートセンサでは、励磁電流を用いて強磁性体のコアを励磁し、コアに巻かれた検出コイルに生じる誘起電圧からコアに印加された磁界の強度を求める(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-253920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に記載のフラックスゲートセンサでは、励磁電流の2倍の周波数の成分を用いて外部磁界の強度を導出している。
【0005】
しかし、コアの励磁によって検出コイルの信号にノイズの影響が生じる場合がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に鑑みてなされたものであり、ノイズの影響を抑えることができるフラックスゲートセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのフラックスゲートセンサの態様は、
検出コイルが巻かれた強磁性体のコアと、
所定の周波数の周期信号を出力する発振回路と、
前記周期信号を用いて前記コアを励磁する励磁と、
前記周期信号を用いて前記検出コイルの出力から前記所定の周波数の成分に応じた信号を出力する検知と、
前記励磁および前記検知のうちの少なくともいずれか一方に対して供給される前記周期信号の位相を調整する位相調整と、
を備え
前記検知部は、前記検出コイルの出力の交流成分と前記周期信号とを掛け合わせる乗算部を有するものであり、
前記位相調整部は、位相を変化させつつ前記乗算部の出力のレベルを取得し、該取得したレベルを参照して位相の変化量を決定するものである、
ことを特徴とする。
【0008】
このフラックスゲートセンサによれば、ノイズの影響を抑えることができる。
【0011】
また、上記の構成を有する直交型フラックスゲートセンサであって、
前記励磁は、前記所定の周波数の交流電流に対して該交流電流の振幅以上の大きさの直流バイアス電流を重畳した励磁電流により、前記コアを励磁するものであってもよい。
【0012】
このフラックスゲートセンサによれば、ノイズの影響をより抑えることができる。
【0013】
また、上記フラックスゲートセンサの位相調整方法は、
上記フラックスゲートセンサを外部磁界がない状態に配置し、前記位相調整を用いて前記励磁部および前記検知部のうちの少なくともいずれか一方に対して供給される前記周期信号の位相を調整することを特徴とする。
【0014】
この位相調整方法では、位相の変位量によるノイズの変化を把握しやすいため、適切な位相の変位量を設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノイズの影響を抑えることができるフラックスゲートセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のフラックスゲートセンサ1の構成を示す概略図である。
図2】マイクロコンピュータ124における処理の流れを示すフローチャートである。
図3】フラックスゲートセンサ1のコア105の状態の変化の一例を示すモデル図である。
図4】励磁電流と、これに伴うコア105の軸方向の磁場および検出コイル111の出力電圧の変化の一例を示す図である。
図5図1に示すフラックスゲートセンサ1の変形例を示す概略図である。
図6】交流電流をバイアスした励磁電流と、これに伴うコア105の軸方向の磁場および検出コイル111の出力電圧の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本実施形態のフラックスゲートセンサの一例について説明する。
【0018】
[回路構成について]
図1は、本実施形態のフラックスゲートセンサ1の構成を示すブロック図である。以下このブロック図で示される回路について、3つに分けて説明する。
【0019】
[[コアを励磁する回路]]
このフラックスゲートセンサ1では、発振器101からの周波数2fHzの信号が分周器103に入力され、この分周器103で1/2に分周されて周波数fHz(例えば、数kHz~数MHz)の信号が出力される。分周器103からの出力は増幅器104によって電流が増幅され、強磁性体(例えば、スーパーマロイ、アモルファス、等)の細長いコア105に励磁電流として供給される。コア105に供給される励磁電流は、矩形波、正弦波、三角波など特に限定されるものではない。この励磁電流によって、コア105内部の軸方向の磁束が周期的に変化する。
【0020】
[[検出コイルの誘起電圧を出力する回路]]
コア105には、検出コイル111が巻かれており、コア105の軸方向の磁束の変化によって検出コイル111に誘起電圧が生じる。具体的にはコア105の軸方向に外部磁場が存在する場合に、励磁電流によってコア105が励磁されると、コア105の軸方向の磁束が変化し、この変化に応じて励磁電流の周波数の2倍の周波数成分(周波数2fHz)の誘起電圧が検出コイル111から出力される。従って、検出コイル111から出力される信号のうち励磁電流の周波数の2倍の周波数成分に基づいて、外部磁場の強さを測定できる(図3図4を用いて後述)。
【0021】
フラックスゲートセンサ1では、検出コイル111からの出力のうちの直流成分がコンデンサ112によって除去される。そして、残りの交流成分が増幅器113によって増幅され、乗算器114に入力される。この乗算器114では、増幅器113の出力と、発振器101から位相シフタ125を介した信号と掛け合わせられる。これにより、コア105に印加された外部磁界によって生じる成分(励磁電流の2倍の周波数(2fHz)と同じ周波数の成分)の大きさに比例した直流成分が得られる。なお、この成分以外に励磁電流の周波数(fHz)の偶数倍の成分が得られるが、積分器116においてこれらの成分は除去される。さらにこの積分器116からノイズ除去フィルタ117を介して外部磁界の強さに応じた出力が得られる。なお、積分器116の出力は抵抗118にも入力され、この抵抗118から検出コイル111にフィードバック電流Ifbが供給される。すなわち、検出コイル111の出力に起因する電流が検出コイル111に帰還するフィードバックループが構成されている。このフィードバックループでは、コア105の軸方向の外部磁場と、フィードバック電流によって検出コイル111に生じる磁場が打ち消し合う状態が維持され、このとき積分器116から外部磁界の強さに応じた出力が得られる。また、このフィードバックループによってコア105の飽和が抑制され、フラックスゲートセンサ1のダイナミックレンジを拡大することができる。
【0022】
[[励磁電流の位相を調整する回路]]
上記説明した乗算器114からの出力は、積分器116の他に増幅器121にも入力される。そして、増幅器121で増幅された後、レベル検出器122に入力される。このレベル検出器122では、入力信号のピークピーク値が出力される。なお、ピークピーク値に限らず、例えばRMSであってもよく、入力信号のレベルに応じた出力が得られるものであればよい。レベル検出器122からの出力はAD変換器123でデジタル信号に変換され、マイクロコンピュータ124に入力される。
【0023】
マイクロコンピュータ124では、位相の変位量を位相シフタ125に出力する。位相シフタ125では、この位相の変位量を受けて発振器101から乗算器114に入力される信号の位相を調整する。
【0024】
マイクロコンピュータ124では、位相調整信号が入力されるとこの位相の変位量を調整する処理が実行される。以下、マイクロコンピュータ124における処理の流れについて図2を用いて説明する。図2は、マイクロコンピュータ124における処理の流れを示すフローチャートである。
【0025】
まず、最初のステップS1では、変数Sの値を0に初期化する。なお、この変数Sは、位相シフタに対する位相シフト量および配列Pのインデックスとして用いられる。
【0026】
ステップS2では、位相シフタ125に対する位相の変位量として、変数Sを出力する。なお、位相シフタ125では、変数Sに相当する角度分だけ位相を遅延させる。例えば、変数Sが0の場合には遅延量が0°(遅延なし)であり、変数Sが90の場合には遅延量が90°(1/4周期)である。
【0027】
ステップS3では、位相を調整した後、乗算器114からの出力が安定するまで、所定時間待機する。
【0028】
ステップS4では、レベル検出器122からの出力をAD変換器123を介して取得する。
【0029】
ステップS5では、ステップS4で取得した値を配列P[[S]]に格納する。
【0030】
ステップS6では、変数Sに1加算する。
【0031】
ステップS7では、変数Sが90であるか否かが判定される。この条件を満たす場合にはステップS8に進み、満たさない場合にはステップS2に戻る。
【0032】
ステップS8では、変数Sを0から90まで加算しつつ配列P[[S]]に格納された値を検索し、最小値が格納されたインデックス変数Sを取得する。
【0033】
ステップS9では、位相シフタ125に対する位相の変位量として、ステップS8で取得した変数Sを出力し、この処理を終了する。
【0034】
上記説明した処理により、0°から90°(1/4周期の期間に相当)までの位相の変位量に対して1°刻みでノイズレベルが測定された後、ノイズレベルが最も低くなる位相の変位量が位相シフタ125に出力される。なお、一度位相シフタ125に対して位相の変位量が出力されると、再度マイクロコンピュータ124に対して位相調整信号を送るまで、この変位量は維持される。
【0035】
なお、上記の例では、ノイズを最小化する位相の変位量を0°から90°の範囲内で決定しているが、この構成はノイズを最小化する位相の変位量が上記の範囲内にあることが経験上明らかであることから、処理の効率化のために上記の範囲を設定している。従って、フラックスゲートセンサの構成によっては上記の範囲をより適切な範囲に設定してもよい。また、例えばノイズレベルを測定する範囲を0°から180°(1/2周期の期間に相当)としてもよいし、0°から360°(1周期の期間に相当)としてもよい。
【0036】
[コアの励磁状態による変化]
図3は、フラックスゲートセンサ1のコア105の状態の変化の一例を示すモデル図である。また図4は、励磁電流と、これに伴うコア105の軸方向の磁場および検出コイル111の出力電圧の変化の一例を示す図である。なお、以下の説明では、コア105の軸方向に沿って(図3では下から上に向かう方向)外部磁界が印加されているものとする。
【0037】
コア105への励磁電流Idが0の場合、コア105は外部磁界によってのみ磁化された状態となる。ここでは、この状態でコア105内部の軸方向の磁束が最大(外部磁界の磁束がコア105に最も引き寄せられた状態)になるものとして説明する。図3(A)は、コア105への励磁電流Idが0の場合に、外部磁界の磁束がコア105に引き寄せられてコア105の内部を通っていることが示されている。
【0038】
ここから、励磁電流Idが増加すると、これに伴ってコア105は外部磁界と励磁電流Idによる磁界によって磁化される。この状態では、励磁電流Idが増加するほどコア105の磁化の方向は励磁方向である周方向に引っ張られ、コア105内部の軸方向の磁束が減少する(コア105に引き寄せられる磁束が減少する)。図3に示す矢印(1)は、励磁電流Idがプラス方向に対して増加することでコア105内部の軸方向の磁束が減少する期間を示している。さらに励磁電流Idが増加してコア105の磁化の方向が最も周方向に引っ張られた状態になると、コア105内部の軸方向の磁束が最小になる(外部磁界の磁束がコア105に最も引き寄せられない状態)。図3(B)には、図3(A)と比較してコア105の軸方向の磁束が少なくなっていることが示されている。
【0039】
続いて励磁電流Idが減少に転じると、これに伴ってコア105の磁化の方向を周方向に引っ張る力が弱まり、コア105内部の軸方向の磁束が増加する(コア105に引き寄せられる磁束が増加する)。図3に示す矢印(2)は、励磁電流Idがプラス方向に対して減少することでコア105内部の軸方向の磁束が増加する期間を示している。そして励磁電流Idが0になると、再びコア105が外部磁界によってのみ磁化された状態になり(図3(A))、コア105内部の軸方向の磁束が最大になる(外部磁界の磁束がコア105に最も引き寄せられた状態)。
【0040】
さらに、励磁電流Idが減少してマイナスになると、これに伴ってコア105は外部磁界と励磁電流Idによる磁界によって磁化される。この状態では、励磁電流Idの絶対値が増加するほどコア105の磁化の方向は励磁方向である周方向(励磁電流Idがプラスの場合とは逆方向)に引っ張られていき、コア105内部の軸方向の磁束が減少する(コア105に引き寄せられる磁束が減少する)。図3に示す矢印(3)は、励磁電流Idがマイナス方向に増加することでコア105内部の軸方向の磁束が減少する期間を示している。さらに励磁電流Idが減少(マイナス側に増加)してコア105の磁化の方向が最も周方向に引っ張られた状態になると、コア105内部の軸方向の磁束が最小になる(外部磁界の磁束がコア105に最も引き寄せられない状態)。図3(C)には、図3(A)と比較してコア105の軸方向の磁束が少なくなっていることが示されている。
【0041】
続いて励磁電流Idが増加に転じると、これに伴ってコア105の磁化の方向を周方向に引っ張る力が弱まり、コア105内部の軸方向の磁束が増加する(コア105に引き寄せられる磁束が増加する)。図3に示す矢印(4)は、励磁電流Idがマイナス方向に減少することでコア105内部の軸方向の磁束が増加する期間を示している。そして、励磁電流Idが0になると、再びコア105が外部磁界によってのみ磁化された状態になり(図3(A))、上記説明した変化が繰り返される。
【0042】
図4には、上記図3で説明した励磁電流Idの一周期の変化に対して、コア105の軸方向の磁束の変化が二周期分になっている(周波数が倍になっている)ことが示されている。また、図4にはコア105の軸方向の磁束の変化による検出コイル111の出力が示されているが、この出力の周波数は、コア105の軸方向の磁束の周波数と同じである。すなわち、コア105の軸方向に沿って外部磁界が印加されている場合、検出コイル111から励磁電流Idの周波数の2倍の周波数の誘起電圧が出力されることになる。
【0043】
[位相の調整方法]
フラックスゲートセンサ1では、増幅器113の出力に含まれるノイズが乗算器114において発振器101からの信号と掛け合わされるため、乗算器114の出力にはノイズに起因する成分が含まれることになる。この乗算器114の出力には検出コイル111からの誘起電圧に応じた成分も含まれるが、この成分は外部磁界が小さければより小さくなり、誘起電圧中のノイズ起因する成分の割合が大きくなる。よって、フラックスゲートセンサ1を外部磁界がない状態に配置することで、乗算器114から出力のうちノイズに起因する成分の割合を高めることができる。この状態では、発振器101からの信号の位相を変化させつつ乗算器114からの出力(ノイズに起因する成分の割合が高い)を観測することで、ノイズの影響を最小化するのに適切な位相の変位量を導出することができる。
【0044】
本実施形態のフラックスゲートセンサ1は、外部磁界がない状態に配置した上で、マイクロコンピュータ124に対して位相調整信号を送ることで図2に示す処理が実行される。これにより、位相シフタ125に対する位相の変位量を自動で調整し、ノイズの影響を最小化することができる。特に、ノイズの程度は、コア105と検出コイル111の個体特性(コア105と検出コイル111の結合の状態)によって異なるが、本実施形態のフラックスゲートセンサ1では個体ごとに異なる位相を調整する作業が不要になる。
【0045】
[励磁電流が異なる変形例]
本実施形態のフラックスゲートセンサ1では、コア105に印加された外部磁界によって励磁電流の2倍の周波数の成分が検出コイル111に生じるが、励磁電流の極性をプラスあるいはマイナスのいずれか一方に偏らせることで、励磁電流と同じ周波数の成分が検出コイル111に生じる構成にすることができる。以下、この変形例について図5を用いて説明する。同図は、図1に示すフラックスゲートセンサ1の変形例を示す概略図である。
【0046】
図5に示すフラックスゲートセンサ2は、図1に示すフラックスゲートセンサ1の励磁側の回路から分周器103を除いてバイアス回路201を加えたものであり、これ以外の構成については特に言及のない限り図1に示すフラックスゲートセンサ1と同様である。すなわち、図1に示すフラックスゲートセンサ1では、交流電流によってコア105が励磁される(励磁電流=交流電流)のに対し、図5に示すフラックスゲートセンサ2では、交流電流に、この交流電流の振幅よりも大きいバイアス電流を重畳した電流(極性がプラスあるいはマイナスのいずれか一方に偏っている)によってコア105が励磁される(励磁電流=交流電流+バイアス電流)点が異なる。
【0047】
図6は、交流電流をバイアスした励磁電流と、これに伴うコア105の軸方向の磁場および検出コイル111の出力電圧の変化を示す図である。
【0048】
図5に示すフラックスゲートセンサ2では、交流電流にバイアス電流を重畳した励磁電流がコア105に供給される。具体的には図6に示すように、励磁電流の極性が反転せず(図6ではプラスのまま)、コア105の励磁についても一方向のみに磁化される。図6では、励磁電流がマイナスにならず、励磁電流Idがプラス方向に対して増加することでコア105内部の軸方向の磁束が減少する期間(矢印(1)で示す期間)と、励磁電流Idがプラス方向に対して減少することでコア105内部の軸方向の磁束が増加する期間(矢印(2)で示す期間)が繰り返されることが示されている。なお、図6に示すように励磁電流の最小値が0にならない構成を採用しているが、励磁電流の最小値が0になる構成であってもよい。
【0049】
図1に示すフラックスゲートセンサ1では、図4の例のように励磁電流の一周期の間にコア105の軸方向の磁束が二回最小になる(図4では、期間(1)(2)の間と、期間(3)(4)の間の二回)。しかし、図5に示すフラックスゲートセンサ2では、励磁電流の一周期の間にコア105の軸方向の磁束が一回だけ最小になる(図6に示す期間(1)(2)の間のみ)。これに伴い、励磁電流と検出コイル111の出力の周波数が同じになる。
【0050】
図6には、図5に示すフラックスゲートセンサ2で用いる励磁電流Idの一周期の変化が示されており、またこの励磁電流に対して、コア105の軸方向の磁束の変化が一周期分になっていることが示されている。また、図6には検出コイル111の出力も示されているが、この出力の周波数は、コア105の軸方向の磁束の周波数と同じである。このように図5に示すフラックスゲートセンサ2では、コア105の軸方向に沿って外部磁界が印加されている場合、検出コイル111から励磁電流Idの周波数と同じ周波数の誘起電圧が出力されることになる。
【0051】
この図5に示すフラックスゲートセンサ2においても図1に示すフラックスゲートセンサ1と同様の流れでコア105に印加された外部磁界によって生じる成分(発振器101からの信号と同じ周波数成分)の大きさに比例した直流成分が導出される。例えば、乗算器114では、発振器101からの信号と検出コイル111(増幅器113)からの信号とを乗算することで、コア105に印加された外部磁界によって生じる成分の大きさに比例した直流成分が導出される。
【0052】
[実施形態の比較1]
図1に示すフラックスゲートセンサ1では、励磁電流の一周期に対し、コア105における磁束の変化が二周期分生じる(図4参照)。図3を例に説明すると、励磁電流がプラスの状態では、図3の矢印(1)(2)に示す変化が生じ(以下、この期間を前半部分とする)、励磁電流がマイナスの状態では、図3の矢印(3)(4)に示す変化が生じる(以下、この期間を後半部分とする)。ここで、前半部分と後半部分を比較すると、コア105において周方向に励磁された磁界の向きが逆になっていること以外は同様の挙動になる。しかし実際にはコア105における異方性等の影響により磁界の向きが完全に逆にならない場合がある。この場合、検出コイル111の誘起電圧の前半部分と後半部分の変化が一致せずにずれが生じ、フラックスゲートセンサ1の出力が不安定になる。
【0053】
一方、図5に示すフラックスゲートセンサ2では、励磁電流の極性が一方(図6ではプラス)に偏っており、この励磁電流の一周期に対し、コア105における磁束の変化が一周期分生じる(図6参照)。図4と対比して説明すると、図4の矢印(1)(2)の期間に相当する変化が生じる。なお、励磁電流の極性がマイナスに偏っている場合には、図4の矢印(3)(4)の期間に相当する変化が生じる。この構成では、図1に示すフラックスゲートセンサ1のような、検出コイル111の誘起電圧の前半部分と後半部分の変化が一致しない、という問題が生じない。よって、図5に示すフラックスゲートセンサ2の構成を採用することで、図1に示すフラックスゲートセンサ1よりも安定性を高めることができる。
【0054】
また、図5に示すフラックスゲートセンサ2では、図1に示すフラックスゲートセンサ1よりも検出コイル111から出力される信号の周波数が低くなるため、回路を構成する部品に広帯域部品を用いる必要がなくなり、コストを抑えつつ、かつ容易に検波側の回路を実現することができる。
【0055】
[実施形態の比較2]
上記[励磁電流の位相の調整方法]では、ノイズの影響を最小化する方法について説明したが、この方法を実行するにあたっても図5に示すフラックスゲートセンサ2を採用することが好ましい。以下、この理由について説明する。
【0056】
図1に示すフラックスゲートセンサ1では、励磁電流の一周期に対し、コア105における磁束の変化が二周期分生じる(図4参照)。図3を例に説明すると、励磁電流がプラスの状態では、図3の矢印(1)(2)に示す変化が生じ(以下、この期間を前半部分とする)、励磁電流がマイナスの状態では、図3の矢印(3)(4)に示す変化が生じる(以下、この期間を後半部分とする)。ここで、前半部分と後半部分を比較すると、コア105において周方向に励磁された磁界の向きが逆になっていること以外は同様の挙動になる。しかし実際にはコア105における異方性等の影響により磁界の向きが完全に逆にならない場合がある。コア105の励磁の際には検出コイル111からノイズが発生するが、上記の異方性等の影響によって、前半部分と後半部分のノイズの特性に差異が生じる。すなわち、検出コイル111からのノイズが、特性の異なる複数のノイズを含んでしまう可能性がある。
【0057】
上記[励磁電流の位相の調整方法]では位相シフタ125に対する位相の変位量を調整してノイズの影響を最小化することについて説明したが、このノイズが特性の異なる複数のノイズを含み、且つこれらの複数のノイズの影響を最小化する位相の変位量がそれぞれ異なる場合には、ノイズの影響を抑えることが困難になる。
【0058】
一方、図5に示すフラックスゲートセンサ2では、励磁電流の極性が一方(図6ではプラス)に偏っており、この励磁電流の一周期に対し、コア105における磁束の変化が一周期分生じる(図6参照)。図4と対比して説明すると、図4の矢印(1)(2)の期間に相当する変化が生じる。なお、励磁電流の極性がマイナスに偏っている場合には、図4の矢印(3)(4)の期間に相当する変化が生じる。この構成では、図1に示すフラックスゲートセンサ1のような、検出コイル111からのノイズに特性の異なる複数のノイズが含まれる、といった可能性を抑えることができる。よって、図5に示すフラックスゲートセンサ2の構成を採用することで、図1に示すフラックスゲートセンサ1よりもノイズの影響を抑えやすくすることができる。
【0059】
[その他の構成について]
上記の説明では直交型のフラックスゲートセンサを用いているが、平行型のフラックスゲートセンサであっても[[励磁電流の位相を調整する回路]]で説明した構成を採用することができる。すなわち、位相シフタ125に対する位相の変位量を自動で調整し、ノイズの影響を最小化する構成を採用するにあたり、フラックスゲートセンサの方式が限定されるものではない。
【0060】
また、上記の説明では位相シフタ125の位置が発振器101と乗算器114の間に設けられた例について説明したが、例えば、図1では発振器101と分周器103の間であってもよく、コア105を励磁する回路と検出コイル111の誘起電圧を出力する回路との位相のずれを調整することができる位置であれば上記の例に限定されるものではない。
【0061】
また、上記の説明では位相シフタ125へ入力される位相の変位量を調整する信号をマイクロコンピュータ124によって制御する構成について説明したが、このマイクロコンピュータ124を設けずに、手動で位相の変位量を調節できるように構成してもよい。
【0062】
[その他]
以下、上記説明した発明の構成について記載する。なお、発明の構成と対応する上記実施形態の構成については括弧書きで記載する。
【0063】
以上の説明では、
検出コイル(例えば、検出コイル111)が巻かれた強磁性体のコア(例えば、コア105)と、
所定の周波数の周期信号を出力する発振回路(例えば、発振器101)と、
前記周期信号を用いて前記コアを励磁する励磁回路(例えば、図1では分周器103からコア105までの回路、図5ではバイアス回路201からコア105までの回路)と、
前記周期信号を用いて前記検出コイルの出力から前記所定の周波数の成分に応じた信号を出力する検知回路(例えば、検出コイル111からノイズ除去フィルタ117までの回路)と、
前記励磁回路および前記検知回路のうちの少なくともいずれか一方に対して供給される前記周期信号の位相を調整する位相調整回路(例えば、マイクロコンピュータ124および位相シフタ125)と、
を備えたことを特徴とするフラックスゲートセンサ、が記載されている。
【0064】
また、上記記載のフラックスゲートセンサであって、
前記検知回路は、
前記検出コイルの出力の交流成分と前記周期信号とを掛け合わせる乗算回路(例えば、乗算器114)を有するものであり、
前記位相調整回路は、
前記乗算回路の出力のレベルに基づいて位相を調整するものである(例えば、図2の処理)、
ことを特徴とするフラックスゲートセンサ、が記載されている。
【0065】
また、上記記載の直交型フラックスゲートセンサであって、
前記励磁回路は、
前記所定の周波数の交流電流に対して該交流電流の振幅以上の大きさのバイアス電流を重畳した励磁電流により、前記コアを励磁するものである(例えば、図5のフラックスゲートセンサ2)、
ことを特徴とするフラックスゲートセンサ、が記載されている。
【0066】
また、上記記載のフラックスゲートセンサを外部磁界がない状態に配置し、前記位相調整回路を用いて位相を調整する(例えば、[位相の調整方法]の記載参照)、
ことを特徴とするフラックスゲートセンサの位相調整方法、が記載されている。
【符号の説明】
【0067】
1、2 フラックスゲートセンサ
101 発振器
105 コア
111 検出コイル
114 乗算器
124 マイクロコンピュータ
125 位相シフタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6