(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】金属粉末材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20230324BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20230324BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230324BHJP
B22F 10/20 20210101ALI20230324BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230324BHJP
【FI】
B22F9/08 A
C22C14/00 Z
B22F1/00 R
B22F10/20
B22F1/00 M
B22F1/00 S
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2019035329
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】514227988
【氏名又は名称】技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関本 光一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥村 鉄平
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-115372(JP,A)
【文献】特開2002-309361(JP,A)
【文献】特開2001-121085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00- 9/30
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00- 12/90
B07B 1/00- 15/00
B02C 9/00- 11/08
B02C 19/00- 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトマイズ法によって、金属粒子よりなる原料体を製造する原料製造工程と、
前記原料体における前記金属粒子の凝集を力学的に解消する解粒工程と、をこの順に行い、
前記解粒工程は、気流によって前記金属粒子の凝集体の剪断を行うものであり、強制渦によって前記凝集体に剪断力を印加
し、
前記解粒工程によって、前記金属粒子の円形度を1.1倍以上に向上させることを特徴とする金属粉末材料の製造方法。
【請求項2】
前記金属粒子は、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金のいずれかよりなることを特徴とする請求項1に記載の金属粉末材料の製造方法。
【請求項3】
前記解粒工程によって、前記金属粒子よりなる金属粉末材料の嵩密度を1.2倍以上に上昇させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属粉末材料の製造方法。
【請求項4】
前記解粒工程によって、前記金属粒子よりなる金属粉末材料の内部摩擦角φを、tanφで、80%以下に低減することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属粉末材料の製造方法。
【請求項5】
前記解粒工程を強制渦式気流分級機によって行った後、
前記解粒工程と同じ前記強制渦式気流分級機を用いて、前記金属粒子の分級を実施することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属粉末材料の製造方法。
【請求項6】
前記解粒工程によって、前記金属粒子の円形度を1.2倍以上に向上させることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属粉末材料の製造方法。
【請求項7】
前記解粒工程によって、前記金属粒子の円形度が、少なくとも、平均粒径よりも小径の領域で、0.90以上となることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の金属粉末材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末材料の製造方法に関し、さらに詳しくは、積層造形法において、レーザービーム等のエネルギー線を照射して三次元造形物を製造する用途に適した金属粉末材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物を製造する新しい技術として、付加製造技術(Additive Manufacturing;AM)の発展が近年著しい。付加製造技術の一種として、粉末材料のエネルギー線照射による固化を利用した積層造形法がある。金属粉末材料を用いた積層造形法としては、粉末積層溶融法と、粉末堆積法の2種が代表的である。
【0003】
粉末積層溶融法の具体例として、選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting;SLM)、電子線溶融法(Electron Beam Melting;EBM)等の方法を挙げることができる。これらの方法においては、金属よりなる粉末材料を、ベースとなる基材上に供給して粉末床を形成し、三次元設計データをもとに、粉末床の所定の位置に、レーザービーム、電子線等のエネルギー線を照射する。すると、照射を受けた部位の粉末材料が、溶融と再凝固によって固化し、造形体が形成される。粉末床への粉末材料の供給とエネルギー線照射による造形を繰り返し、造形体を層状に順次積層して形成していくことで、三次元造形物が得られる。
【0004】
一方、粉末堆積法の具体例としては、レーザー金属堆積法(Laser Metal Deposition;LMD)を挙げることができる。この方法においては、三次元造形物を形成したい位置に、ノズルを用いて金属粉末を噴射しながら、同時に、レーザービームの照射を行い、所望の形状を有する三次元造形物を形成する。
【0005】
上記のような積層造形法を用いて、金属材料よりなる三次元造形物を製造する際に、得られる三次元造形物に、空隙や欠陥等、構成材料の分布が不均一な構造が生じる場合がある。そのような不均一構造の生成は、極力抑制することが望ましい。例えば、特許文献1においては、SLM法等において、金属粉末層にエネルギー線を照射する際に、金属粉末層の表面に対して垂直に静磁場を作用させることで、溶融プールにおいて生じる現象に起因した欠陥を低減することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属材料を用いた積層造形法による三次元造形物の製造において、三次元造形物の内部に、構成材料の分布が不均一な構造が生じる原因としては、特許文献1に記載されるようなエネルギー線の照射時に発生する現象だけでなく、さまざまな要素が存在しうる。その中で、エネルギー線照射前の粉末材料の状態も、得られる三次元造形物の状態に大きな影響を与えうる。
【0008】
例えば、粉末積層溶融法において、粉末床に粉末材料を円滑に供給し、粉末材料が均一に敷き詰められた粉末床を安定に形成することにより、均質性の高い三次元造形物が得られやすい。また、粉末床において、粉末材料が高密度で充填されているほど、エネルギー線を照射して得られる三次元造形物が凝固収縮を起こしにくい。粉末堆積法においても、ノズルを閉塞させずに粉末材料を円滑に供給することで、三次元造形物を安定に形成することができる。このように、粉末材料を原料とした積層造形において、用いられる粉末材料の特性を制御することが重要となる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、積層造形法において、三次元造形物を製造するのに適した金属粉末材料を製造できる金属粉末材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る金属粉末材料の製造方法においては、アトマイズ法によって、金属粒子よりなる原料体を製造する原料製造工程と、前記原料体における前記金属粒子の凝集を力学的に解消する解粒工程と、をこの順に行い、前記解粒工程は、気流によって前記金属粒子の凝集体の剪断を行うものであり、強制渦によって前記凝集体に剪断力を印加する。
【0011】
前記金属粒子は、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金のいずれかよりなるとよい。
【発明の効果】
【0012】
上記発明にかかる金属粉末材料の製造方法においては、アトマイズ法によって原料体を製造しており、原料体中に、金属粒子の凝集体(二次粒子)がある程度含まれる。しかし、解粒工程において、その凝集体における金属粒子の凝集を解消することにより、原料体の構成粒子の円形度を高めることができる。
【0013】
その結果として、得られる金属粉末材料を、積層造形に好適に用いることが可能となる。つまり、粉末積層溶融法において用いる粉末床を形成する際に、金属粉末材料の流動性の高さによって、安定して金属粉末材料を供給できるようになる。また、均一性の高い粉末床を形成しやすくなる。粉末床における充填密度も高めやすくなる。粉末堆積法においても、金属粉末材料の流動性の高さによって、ノズルの閉塞を抑制し、造形物の形成を安定して行いやすくなる。
【0014】
ここで、解粒工程が、気流によって金属粒子の凝集体の剪断を行うものであり、強制渦によって凝集体に剪断力を印加することにより、金属粒子の凝集の解消を効率的に行うことができる。また、金属粒子の凝集の解消と同じ装置を用いて、凝集の解消と同時に、またはその後に、金属粒子の分級も行うことができる。
【0015】
原料体が、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金のいずれかよりなる場合には、本製造方法によって得られる金属粉末材料を、積層造形法を利用した製造の需要が大きいそれらの合金よりなる三次元造形物の原料として、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a),(b)は、ホッパーからの粉末材料の落下を説明する図であり、(a),(b)の順に粉末材料の落下が進行する。(c)は、粉末材料の敷き詰めを説明する図である。
【
図2】強制渦式気流分級機を用いた解粒工程を説明する図である。
【
図3】解粒前(#1)および解粒後(#2)の金属粒子の粒度分布および円形度を示す試験結果である。
【
図4】粒子形状の評価のための粒子画像であり、粒径70μmの場合について、(a)は解粒前、(b)は解粒後の状態を示している。
【
図5】金属粒子のSEM像であり、(a)は解粒前、(b)は解粒後の状態を示している。
【
図6】解粒の効果を示す試験結果であり、(a)は内部摩擦角(φ)、(b)は嵩密度(ρ)の評価結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態にかかる金属粉末材料の製造方法について詳細に説明する。本発明の一実施形態にかかる金属粉末材料の製造方法は、積層造形法において、エネルギー線の照射によって三次元造形物を製造するための原料として用いることができる粉末材料を製造するものである。
【0018】
[金属粉末材料の製造方法の概要]
本発明の一実施形態にかかる金属粉末材料の製造方法においては、まず、アトマイズ法によって、金属粒子よりなる原料体を製造する原料製造工程を実施する。製造された原料体には、一次粒子である金属粒子が凝集した凝集体(二次粒子)が含まれていることが多いが、原料体に対して、解粒工程を実施することで、金属粒子の凝集を力学的に解消する。解粒工程における凝集の解消により、もとの原料体よりも円形度の高くなった金属粉末材料を得ることができる。
【0019】
このようにして製造される、円形度の高い金属粒子よりなる金属粉末材料は、円形度が低い原料体そのものよりなる金属粉末材料と比較して、積層造形法によって三次元造形物を製造するのに適した特性を有するものとなる。そこで、本実施形態にかかる金属粉末材料の製造方法およびそれによって得られる金属粉末材料について詳細に説明する前に、積層造形用の粉末材料に求められる特性について説明する。
【0020】
[積層造形用粉末材料に求められる特性]
発明者らは、積層造形法による三次元造形物の製造を安定に行い、また良質な三次元造形物を得るために、粉末材料において、どのような特性が重要となるかを明らかにした。
【0021】
積層造形法のうち、SLM法やEBM法等の粉末積層溶融法においては、
図1に示すように、ホッパー1を用いて粉末材料Pを供給し、基材2の上に敷き詰めることで、粉末床を形成する。得られた粉末床に、レーザービームや電子線等のエネルギー線を所定のパターンで照射して、粉末材料Pの溶融と再凝固を起こし、造形体Aを作製する。粉末材料Pの供給とエネルギー線の照射を交互に繰り返すことで、造形体Aを層状に積層し、三次元造形物を製造することができる。
【0022】
図1(a),(b)に示すように、粉末材料Pを供給するホッパー1は、容器10の底部に筒状の粉末供給路11を有しており、容器10に充填した粉末材料Pを、重力によって、粉末供給路11から流出させ、粉末床形成のために供給する。この際、ホッパー1から安定して粉末材料Pを流出させることが、均一性の高い粉末床を安定して形成するうえで、重要である。
【0023】
ホッパー1からの粉末材料Pの流出には、複数の過程が関与している。まず、流出の初期においては、
図1(a)に示すように、斜線で表示した粉末供給路11の直上に位置する粉末材料Pが、粉末材料Pで満たされた容器10から、空の粉末供給路11に向かって落下する(運動M1)。
【0024】
ホッパー1において、粉末供給路11の直上に位置する粉末材料Pが落下すると、
図1(b)に示すように、落下した粉末材料Pが占めていた領域に空隙が生じる。すると、その空隙に向かって、周囲の粉末材料Pが崩れ、空隙を埋める(運動M2)。この際、周囲の粉末材料Pが崩れやすい方が、空隙の充填およびそれに続く粉末材料Pの落下が、安定に、また高い均一性をもって進行する。粉末材料Pの崩れやすさを示す指標として、内部摩擦角(φ)を用いることができる。
【0025】
内部摩擦角(φ)は、粉末材料Pに圧力を印加した際にその圧力に交差する方向に生じる剪断応力の、印加圧力に対する比例係数を摩擦角で表現したものであり、その値が小さいほど、粉末材料Pの集合体が崩れやすく、また広がりやすいことを示す。つまり、内部摩擦角(φ)が小さいほど、粉末材料Pが崩れてホッパー1内に生じた空隙を埋めやすいことになる。内部摩擦角(φ)は、例えば、粉末材料Pに圧力(σ)を印加した際に発生する剪断応力(τ)を計測し、σを横軸に、τを縦軸にプロットして、横軸に対する近似直線の角度として求めればよい(tanφ=τ/σ)。内部摩擦角(φ)は、例えば、22°以下、さらには18°以下であることが好ましい。なお、内部摩擦角(φ)は、安息角で代用することもできる。
【0026】
そして、
図1(a)に示す粉末供給路11の直上に位置する粉末材料Pの落下(運動M1)や、
図1(b)に示す周囲の粉末材料Pの崩れ落ち(運動M2)によって粉末供給路11に粉末材料Pが供給されると、その粉末材料Pが粉末供給路11を通って、ホッパー1の外に流出する(運動M3)。この際の粉末材料Pの流速(FR)が大きいほど、粉末材料Pの流動性が高くなり、粉末材料Pを安定に流出させることができる。粉末材料Pの流速(FR)は、上記で説明した内部摩擦角(φ)との間に強い相関を有する量であり、内部摩擦角(φ)が小さいほど、流速(FR)が大きくなる傾向がある。
【0027】
以上のように、粉末材料Pにおいて、内部摩擦角(φ)が小さいほど、粉末材料Pが流動性に優れたものとなり、ホッパー1から粉末床への粉末材料Pの供給を、安定して、また高い均一性をもって進行させることができる。その結果、粉末積層溶融法による積層造形において、粉末床の形成を、安定して行うことができる。
【0028】
ホッパー1から基材2の上に供給された粉末材料Pは、リコーター(ブレード)3により、平滑化され、基材2の上、および既に形成されている下層の造形体Aの上に敷き詰められて、粉末床とされる。この際、ホッパー1から落下した粉末材料Pを押し広げるようにして、リコーター3を基材2の面に水平に掃引することで(運動M4)、粉末材料Pの分布を均一化する。ホッパー1から基材2の上、また造形体Aの上に供給された粉末材料を分散させやすくするため、また、その粉末材料Pをリコーター3によって押し広げやすくするためには、粉末材料Pの集合体が崩れやすいものである方がよい(運動M5)。上記で説明したように、内部摩擦角(φ)が小さい場合に、粉末材料Pが崩れやすくなり、均一性の高い粉末床を形成しやすくなる。
【0029】
また、粉末材料Pが敷き詰められた粉末床において、粉末材料Pが高密度に充填されているほど、エネルギー線の照射を経て、均質な三次元造形物を形成しやすい。エネルギー線の照射によって粉末材料Pが溶融し、再凝固する際に、凝固収縮による変形やガスの残存による欠陥の生成を起こしにくくなるからである。粉末材料Pとして、大きな嵩密度(ρ)を有するものを用いるほど、粉末床において、粉末材料Pを高密度に充填することができる。嵩密度(ρ)は、2.5g/cm3以上であることが好ましい。嵩密度(ρ)は、例えば、公知の密度測定器を用いて、計測すればよい。なお、本明細書では、嵩密度として、見かけ密度(AD)を想定しているが、代わりに、タップ密度(TD)を指標として用いてもよい。また、別の指標として、粉粒体層における嵩体積内の粒子の割合を示した充填率(%)を用いることもでき、その場合には、充填率55%以上であることが好ましい。
【0030】
以上のように、粉末材料Pとして、内部摩擦角(φ)が小さく、崩れやすいものを用いることで、ホッパー1から供給された粉末材料Pから、均一性の高い粉末床を形成することができる。また、粉末材料Pとして、大きな嵩密度(ρ)を有するものを用いることで、製造される三次元造形物の均質性を高めることができる。上記のように、ホッパー1から安定して均一性高く流出させることができる粉末材料Pを用いることの効果と併せて、粉末積層溶融法による積層造形において、積層造形全体の工程を、安定して円滑に進めることができる。また、良質な三次元造形物を得やすくなる。
【0031】
LMD法をはじめとする粉末堆積法による積層造形においても、上記のように、流動性に優れた粉末材料Pを用いることで、ノズルに粉末材料Pを供給する工程を、安定に実行することができる。さらに、ノズルから造形を行う箇所に向かって、気流とともに粉末材料Pを噴射する工程においても、ノズルの閉塞を抑制し、造形を安定して進めることができる。
【0032】
[金属粉末材料の特性を向上させるための手段]
次に、上記のように、金属粉末材料の特性を、積層造形に適したものとして向上させるための手段、つまり、金属粉末材料の流動性および嵩密度を高めるための手段について説明する。
【0033】
金属粉末材料を構成する金属粒子の形状は、金属粉末材料の流動性や充填性に大きな影響を与える。金属粒子が、対称性の高い、球体に近い形状を有する方が、その形状の効果により、金属粉末材料における内部摩擦角(φ)が小さくなる。すると、金属粉末材料の集合体の崩れやすさが向上し、金属粉末材料の流動性が高くなる。その結果、積層造形において、ホッパー等からの金属粉末材料の流出を安定に行えるとともに、金属粉末材料を粉末床として敷き詰めやすくなる。また、金属粒子が球体に近い形状を有する方が、その形状の効果により、金属粒子を密に充填することが可能となり、金属粉末材料の嵩密度(ρ)が大きくなる。その結果、密な粉末床を形成し、三次元造形物の品質の向上につなげることができる。
【0034】
上記のような効果を十分に得る観点から、金属粒子の円形度は、少なくとも、平均粒径よりも小径の領域で、0.80以上であることが好ましい。その円形度は、0.85以上、さらには0.90以上であると、さらに好ましい。ここで、金属粒子の円形度は、金属粒子の立体形状を平面上に投影した二次元図形(投影図形)の、真円へ近接度を示す指標である。
【0035】
金属粒子の円形度は、[投影図形と同じ面積を有する円の周長]/[投影図形の輪郭の総長]、として算出することができる。金属粒子が真球、つまり投影図形が真円の場合には、円形度が1となる。円形度の解析は、光学顕微鏡、電子顕微鏡(SEM)等の顕微鏡像に基づいて行えばよい。上記のような円形度は、粒径が平均粒径に等しいとみなすことができる金属粒子に対して、統計的に十分な数の金属粒子の平均値として求めることが好ましい。例えば、ある粒径を中心として、±5μmの範囲の粒径を有する金属粒子について、金属粒子の円形度を解析し、それらの平均値を、その粒径における円形度として採用するとよい。金属粒子が、引力によって凝集している場合には、その凝集体(二次粒子)全体として、円形度を評価する。
【0036】
金属粒子の円形度を上げることは、円形度の高さそのものの効果に加え、水の吸着量の低減を通しても、金属粉末材料の流動性の向上に寄与する。円形度が高いほど、金属粒子の比表面積が小さくなり、水が吸着可能な面積が相対的に小さくなるからである。すると、水を介した液架橋によって金属粒子の間に働く引力を低減することができ、金属粒子間の剪断付着力を低減できる。
【0037】
[金属粉末材料の製造方法の詳細]
ここで、本発明の一実施形態にかかる金属粉末材料の製造方法の詳細について説明する。上記のように、本実施形態にかかる金属粉末材料の製造方法においては、原料準備工程において製造した原料体に対して、解粒工程を実施することで金属粉末材料の流動性と嵩密度を高めることができる。
【0038】
(1)原料準備工程
最初に、金属粉末材料の原料となる原料体を準備する必要がある。原料体は、金属粒子よりなる。金属粒子の一部は、相互に引力によって凝集し、凝集体(二次粒子)を構成していてもよい。一次粒子たる金属粒子は、ミクロンオーダーの粒径、例えば、10μm以上の平均粒径(D50)を有する粒子を主成分としてなっていることが好ましい。ここで、平均粒径10μm以上との粒径は、積層造形の原料として一般的に採用される金属粒子の粒径に基づくものである。
【0039】
原料体は、三次元造形物の構成材料となるものであり、三次元造形物に所望される成分組成を有する金属材料よりなっている。金属材料の種類は特に限定されるものではないが、好適な例として、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金を例示することができる。これらの合金を原料とする三次元造形物を積層造形法によって製造する需要が大きいからである。特に、他の加工法では製造の難しい特殊な形状を有する部材の需要が大きいのが、チタン合金およびニッケル合金である。チタン合金としては、Ti-6Al-4V合金に代表されるTi-Al系合金等を例示することができる。ニッケル合金としては、インコネル(登録商標)等を例示することができる。また、鉄合金としては、種々の工具鋼を例示することができる。
【0040】
原料体の製造は、アトマイズ法によって行う。アトマイズ法は、合金溶湯を微小な液滴とした状態で凝固させることで、金属微粒子を得るものである。具体的には、合金溶湯を真空中に噴射し、噴射された合金溶湯に不活性ガスを吹き付けることによって、微小な液滴を生成するガスアトマイズ法や、高速回転するディスクに液滴を滴下して、遠心力によって微小な液滴を生成するディスクアトマイズ法を適用することができる。アトマイズ法においては、ミクロンオーダーの粒径を有する金属粒子を効率的に得ることができる。また、アトマイズ法は、種々の合金組成に対して適用することができる。特に、ガスアトマイズ法が、金属粒子の製造効率や簡便性等の観点で好適である。
【0041】
(2)解粒工程
アトマイズ法によって得られる原料体においては、一次粒子としての金属粒子の円形度は、比較的高くなっている。しかし、それら金属粒子は、凝集を起こしやすく、凝集構造を含んだ原料体全体としての円形度は、低くなってしまっている。そこで、アトマイズ法によって得られた原料体に対して、解粒工程を実施することで、凝集を解消し、原料体全体としての円形度を高める。
【0042】
解粒工程においては、原料体中の金属粒子の凝集を、力学的に解消する。つまり、固体物質や流体物質等によって、凝集体に物理的刺激を印加することで、相互に凝集している金属粒子を分離する。解粒工程の詳細は、金属粒子の凝集を十分に解消しつつ、一次粒子たる金属粒子自体への影響、つまり金属粒子自体の粉砕や損傷等が、凝集の解消に対して無視できる程度に抑制できるものであれば、特に限定されるものではない。代表的な解粒方法として、気流による凝集体の剪断と、衝突体への衝突による凝集体の粉砕を挙げることができる。
【0043】
(気流による凝集体の剪断)
気流による凝集体の剪断を行う場合には、気体物質に剪断流れを発生させ、その中に原料体を導入する。そして、剪断流れにより、金属粒子間の剪断付着を解消する。剪断流れは、例えば、強制渦によって発生させることができる。2つの板材を平行に対向させて配置し、板面に直交する軸を中心として、一方の板材を他方の板材に対して高速で回転させることで、遠心力により、2つの板材の間に存在する流体に、剪断流れが発生する。この状態で、板材の間の空間に、金属粒子の凝集体を含む原料体を、不活性ガス等の気体とともに通過させることで、凝集体に剪断力が印加され、凝集体が剪断を受ける。
【0044】
剪断流れを利用した凝集体の剪断を行いうる具体的な装置の例として、強制渦式気流分級機を挙げることができる。強制渦式気流分級機としては、例えば特開2003-145052号公報に開示されるようなものを用いることができる。
図2に、そのような強制渦式気流分級機5の構成の概略断面を示す。分級機5は、ケーシング51と、ケーシング51に収容され、回転軸Rを中心として高速で軸回転するロータ52が設けられている。ケーシング51の上板51aの内側面と対向するロータ52の上板52aには、羽根53が設けられている。
【0045】
ロータ52を回転させると、ケーシング51の上板51aとロータ52の上板52aおよび羽根53との間の空隙に、剪断流れが発生する。ここに、粉体投入口54から、原料製造工程でアトマイズ法によって得られた原料体Mを投入すると、原料体Mが、その空隙を通過する間に(運動m1)、解粒を受ける。原料体Mの中には、最終的に金属粉末材料として採取したい粒径を有する金属粒子P1が複数凝集した構造や、そのような金属粒子P1よりも小さい粒径を有し、最終的に除去したい微粒子P2が金属粒子P1に付着した構造が含まれるが、剪断流れによる解粒を受けて、複数凝集した金属粒子P1が相互に分離されるとともに、微粒子P2が金属粒子P1から分離される。このようにして、金属粒子P1が、他の金属粒子P1や微粒子P2から分離された金属粉末材料Pを得ることができる。
【0046】
なお、強制渦式気流分級機5は、その名称が示すとおり、本来は、粉体の分級に用いられるものであり、粉体が、2つの分級羽根55a,55bおよびロータ52の空洞部52bを通過する間に(運動m1’)、分級、つまり粒径による分別を受ける。ロータ52の上板52aに設けられた羽根53は本来、分級の前段階として、粉体投入口54から投入された粉体を空間的に分散させるためのものである。しかし、粉体の導入にかかる気流の速度やロータ52の回転速度等の運転条件を調整することで、上記のように、アトマイズ法によって製造された原料体Mの解粒に利用することができる。
【0047】
さらに、上記のように、強制渦式気流分級機5が、粉体の分級を行いうる装置であることから、原料体Mの解粒と分級を一度の操作で行うこともできる。つまり、ケーシング51の上板51aとロータ52の上板52aおよびそこに設けられた羽根53の間の空間で解粒した粒子を、そのまま気流に乗せて、分級羽根55a,55bを通過させてロータ52の空洞部52bに導入し、分級を行うことができる(運動m1’)。解粒と分級における分級機5の運転条件の違い等により、それらを一度の操作で行わないとしても、同じ装置を用いて行うことができる。
【0048】
以上で説明したように、強制渦式気流分級機等を用いた気流による凝集体の剪断等によって、解粒工程を実施した際に、得られる金属粉末材料においては、原料体に含まれていた凝集体の凝集が解消されていることで、原料体よりも構成粒子の円形度が高められている。例えば、解粒によって、解粒後の金属粉末材料の円形度を、解粒前の原料体の1.1倍以上、また1.2倍以上に向上させることができる。ここでは、解粒による凝集の解消を、力学的に行っているので、化学的方法や熱的方法を用いる場合に生じうる金属粒子の変性を避けながら、また、簡素な装置を用いて、円形度の向上を行うことができる。
【0049】
解粒工程は、気流による剪断と、衝突による粉砕のいずれによって行ってもよい。気流による剪断が分散機構によるものであることから、解粒装置を分級装置としての用途と共用できるという観点等からは、気流による剪断を用いる方が好ましい。一方、解粒の効率および装置の簡便性等の観点からは、衝突による粉砕を用いる方が好ましい。また、両方の方法による解粒を併用することもできる。併用により、解粒の確実性を高めることができる。その場合、衝突による凝集体の粉砕を行ってから、気流による凝集体の剪断を行うことが好ましい。上記のように、強制渦式気流分級機等、剪断に用いるのと同じ装置によって、分級まで行うことができるからである。
【0050】
なお、原料製造工程の後、および/または解粒工程の後に、粒子群に対する分級を適宜行ってもよい。分級は、気流分級や篩分級によって行うことができる。分級を行うことで、金属粉末材料として所望される粒径を有する比較的大径の金属粒子P1を、それよりも小径の微粒子P2や、十分な解粒を受けずに残った凝集体等から分離することができる。金属粒子P1の中で、所望の狭い範囲の粒径を有するものを分取することもできる。上記のように、解粒工程の後に分級を行う場合、特に強制渦式気流分級機を用いて解粒を行う場合は、解粒工程と同じ装置を用いて、解粒と同時に、あるいはその後に、分級を行うことができる。また、原料製造工程実施後の原料体、あるいは解粒工程実施後の金属粉末材料に対して、化学処理等を施してもよい。さらに、得られた金属粉末材料に、適宜、別の種類の粉末材料等を混合して、積層造形に用いてもよい。
【0051】
[製造される金属粉末材料]
上記のように、原料体の解粒を経て製造される金属粉末材料は、実質的に、原料体と同じ成分組成と一次粒径を有する金属粒子よりなっているが、解粒によって、金属粒子の凝集構造が解消され、原料体よりも円形度が高くなっている。つまり、原料体よりも対称性の高い形状と平滑な表面を有する粒子よりなっている。解粒後の金属粒子の平均粒径は、積層造形の原料としての好適性の観点から、10μm以上であると好ましい。さらに、平均粒径は、30μm以上から80μm以下の範囲にあると好ましい。上でも述べたとおり、金属粒子の円形度は、少なくとも、平均粒径よりも小径の領域で、0.80以上、さらには0.85以上、0.90以上であることが好ましい。
【0052】
本実施形態にかかる製造方法において、原料体に対して解粒工程を実施し、円形度の向上した金属粉末材料とすることで、もとの原料体と比べて、内部摩擦角(φ)が小さくなる。また、嵩密度(ρ)が高くなる。それらの結果、金属粉末材料の崩れやすさが向上することで、流動性が向上する。また、金属粉末材料の充填性も向上する。このように、流動性と充填性に優れた金属粉末材料を積層造形法に用いることで、粉末床を形成する際の金属粉末材料の供給および敷き詰めを、均一性高く、また安定して行うことができる。粉末床の充填密度が高められ、得られる三次元造形物の均質性も向上される。例えば、原料体の解粒によって、内部摩擦角(φ)を、tanφで、当初の80%以下に低減することができる。一方、嵩密度(ρ)を、1.2倍以上に上昇させることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。ここでは、原料体に対して解粒工程を実施することによって得られる金属粉末材料の状態および特性に関する試験を行った。
【0054】
(試料の作製)
Ti-6Al-4V合金(6質量%のAlと4質量%のVを含有し、残部がTiと不可避的不純物よりなる合金;Ti-64)よりなる金属粒子を、ガスアトマイズ法にて作成した。そして、45/105μmにて分級を行い、試料#1を準備した。
【0055】
また、同様にガスアトマイズ法にて作成した金属粒子に対して、強制渦式気流分級機を用いた解粒を実施した。そして、同じ装置を用いて、45/105μmにて分級を行い、試料#2を準備した。
【0056】
(金属粒子の状態と特性の評価)
まず、試料#1および試料#2のそれぞれについて、粒子画像分析装置を用いて、粒子形状の評価を行った。そして、粒子形状に基づいて、粒度分布を評価するとともに、粒径10μmごとに、円形度を計測した。
【0057】
そして、試料#1および試料#2のそれぞれについて、内部摩擦角(φ)および嵩密度(ρ)の評価を行った。内部摩擦角(φ)の測定は、JIS Z 8835に準拠し、回転セル型の剪断試験装置を用いて、粉末材料に圧力(σ)を印加した際に発生する剪断応力(τ)を計測することで行った。σを横軸に、τを縦軸にプロットし、近似直線の傾きをtanφとして、内部摩擦角(φ)を求めた。また、嵩密度(ρ)は、JIS Z 2504に準拠し、金属粉末用嵩比重測定器を用いて、計測した。各計測は、気温23℃、相対湿度RH26%の条件で行った。
【0058】
(評価結果)
<金属粒子の状態>
図3に、試料#1(解粒前)および試料#2(解粒後)について、粒度分布を示す(実線および破線にて表示)。これによると、試料#1と試料#2は、中央値や幅において、類似した粒度分布を有している。また、下の表1に、粒度分布にかかるパラメータを示す。これらの各パラメータも、試料#1と試料#2で近い値となっている。つまり、試料#1,#2とも、分級によって所望の粒度分布を得られており、以降の評価において、試料#1と試料#2の間に見られる状態や特性の差は、粒度分布の差によるものではないということが確認される。
【0059】
【0060】
図4に、粒径70±5μmの場合について、得られた粒子画像の例を示す。(a)が試料#1、(b)が試料#2の観察結果を示している。それらの像を見ると、試料#1では、ほとんどの粒子が、円形から大きく逸脱したいびつな形状を有している。中でも、大径の粒子に小径の粒子が凝着したような粒子形状が多い。これに対して、試料#2では、いずれの粒子も、かなり円形に近い形状を有している。
【0061】
さらに、
図4のそれらの粒子画像に基づいて、金属粒子の円形度を算出し、平均をとると、試料#1については、0.71となった。これに対し、試料#2については0.91と、1に近い数値が得られた。
【0062】
図4の粒子画像をもとに粒径70μmに対応する円形度を評価したのと同様に、他の粒径についても、粒径10μmごとに、円形度を評価した。その評価結果を、粒度分布と併せて
図3に示す(プロット点と直線にて表示)。
図3によると、全粒径において、試料#2の円形度が、試料#1よりも高くなっている。試料♯1,♯2とも、特に小径側で、円形度が高くなっているが、試料#2の方で、円形度の高い粒径の範囲が、広くなっている。
【0063】
以上の評価結果より、分級のみを行った試料#1よりも、解粒を経た試料#2において、顕著に高い円形度が得られており、球形に近い金属粒子が得られていることが分かる。つまり、解粒によって、金属粒子の円形度を上げ、球形に近い金属粒子とすることができる。
【0064】
さらに、
図5に、金属粒子のSEM観察の結果を示す。
図5(a)では、試料#1の粒子を示している。直径が数10μmの大径の粒子の表面に、10μm以下程度の径を有する小径の粒子が多数密着しているのが分かる。これら大径の粒子と小径の粒子の集合体が、
図4(a)で得られた円形度の低いいびつな粒子画像に対応している。
【0065】
これに対し、同倍率で試料#2の粒子を観察した
図5(b)においては、直径が数10μmの粒子の表面にそれよりも小さい粒子が付着しているような凝集体の割合は少なくなっている。つまり、試料#2において、解粒を経ることで、金属粒子の凝集が解消され、粒子全体としての形状の対称性が上がっていることが分かる。これは、
図3に示した円形度の解析結果および
図6の粒子画像とも合致するものである。
【0066】
<金属粉末材料の特性>
図6(a)に、内部摩擦角(φ)の測定結果を示す。これによると、解粒を経た試料#2において、内部摩擦角(φ)が、分級のみを経た試料#1と比べて、tanφで、80%以下となっている。
【0067】
さらに、
図6(b)に、嵩密度(ρ)の測定結果を示す。これによると、解粒を経た試料#2において、嵩密度(ρ)が、分級のみを経た試料#1と比べて、1.2倍に大きくなっている。
【0068】
以上のように、アトマイズ法によって得られた原料体に解粒を施すことで、金属粉末材料の内部摩擦角(φ)が減少するとともに、嵩密度(ρ)が増大している。これらはいずれも、構成粒子の円形度が向上していることの効果によるものである。
【0069】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態および実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 ホッパー
10 容器
11 粉末供給路
2 基材
3 リコーター
5 強制渦式気流分級機
A 造形体
M 原料体
P 粉末材料
P1 金属粒子
P2 微粒子