(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】油圧制御システムにおける状態を検知する装置と方法、および油圧制御システム
(51)【国際特許分類】
F15B 20/00 20060101AFI20230324BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
F15B20/00 D
G05B23/02 Z
G05B23/02 R
G05B23/02 302Z
(21)【出願番号】P 2019054233
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】粟屋 伊智郎
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼山 享大
(72)【発明者】
【氏名】大野 達也
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-124183(JP,A)
【文献】特開2013-100738(JP,A)
【文献】特開平10-030603(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173539(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 20/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧機構を制御する油圧制御システムにおける状態を検知する装置であって、
前記油圧制御システムの実測された物理的状態量の応答データが、2つの前記物理的状態量からなる位相面データに変換されることで、実測位相面データを取得する実測位相面データ取得部と、
前記実測位相面データを用いて物理パラメータを取得する物理パラメータ取得部と、を備え
、
前記物理パラメータ取得部は、前記実測位相面データから抽出される3つ以上の特徴点を用いて前記物理パラメータを取得可能に構成される、
ことを特徴とする状態検知装置。
【請求項2】
前記実測位相面データから、前記実測位相面データの形状の特徴に基づいて、前記油圧制御システムに想定される物理的状態量の変化のケースを特定するケース特定部を備える、
請求項1に記載の状態検知装置。
【請求項3】
前記ケース特定部は、
前記油圧制御システムに発生しうる異常の予兆を与えた解析を経て前記ケース毎に得られた解析位相面データの形状の特徴と前記ケースとの対応関係と、前記実測位相面データの形状の特徴とに基づいて、前記ケースを特定する、
請求項2に記載の状態検知装置。
【請求項4】
前記物理パラメータ取得部は、
前記実測位相面データから、前記実測位相面データの形状の変化に基づいて、前記油圧制御システムにおける物理的状態量の変化の度合を算出する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の状態検知装置。
【請求項5】
前記位相面データに係る2つの前記物理的状態量は、
前記油圧制御システムを構成するサーボ弁の弁開度または前記サーボ弁に与えられる弁開度指令、および、
前記油圧機構の速度応答である、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の状態検知装置。
【請求項6】
前記位相面データに係る2つの前記物理的状態量は、
前記油圧機構の速度、および、
前記油圧機構による荷重応答である、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の状態検知装置。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の状態検知装置と、
前記油圧機構と、を含む、
ことを特徴とする油圧制御システム。
【請求項8】
油圧機構を制御する油圧制御システムにおける状態を検知する方法であって、
前記油圧制御システムの実測された物理的状態量の応答データから、2つの前記物理的状態量からなる位相面データに変換することで、実測位相面データを取得するステップと、
前記実測位相面データを用いて物理パラメータを取得する物理パラメータ取得ステップと、を備え
、
前記物理パラメータ取得ステップでは、
前記実測位相面データから抽出した3つ以上の特徴点を用いて前記物理パラメータを取得する、
ことを特徴とする状態検知方法。
【請求項9】
前記実測位相面データから、前記実測位相面データの形状の特徴に基づいて、前記油圧制御システムに想定される物理的状態量の変化のケースを特定するケース特定ステップを備える、
請求項
8に記載の状態検知方法。
【請求項10】
前記油圧制御システムに発生しうる異常の予兆を与えた解析を経て前記ケース毎に解析位相面データを取得するステップを備え、
ケース特定ステップでは、
前記解析位相面データの形状の特徴と前記ケースとの対応関係と、前記実測位相面データの形状の特徴とに基づいて、前記ケースを特定する、
請求項
9に記載の状態検知方法。
【請求項11】
前記ケースには、
前記油圧制御システムを構成するサーボ弁の不感帯の変化、
前記サーボ弁の基準位置に対するオフセットの発生、
前記サーボ弁の流量特性の変化、および、
前記油圧機構の摺動部の摩擦の変化のうちの少なくとも1つが該当する、
請求項
10に記載の状態検知方法。
【請求項12】
前記物理パラメータ取得ステップでは、
前記実測位相面データの形状の変化に基づいて、前記油圧制御システムにおける物理的状態量の変化の度合を算出する、
請求項
8から
11のいずれか一項に記載の状態検知方法。
【請求項13】
前記油圧制御システムは、
位置および速度のうち少なくとも位置を制御する位置制御系を備え、
前記位相面データの位相面をなす2つの物理的状態量は、
前記油圧制御システムを構成するサーボ弁の弁開度または前記サーボ弁に与えられる弁開度指令、および、
前記油圧機構の速度応答である、
請求項
8から
12のいずれか一項に記載の状態検知方法。
【請求項14】
前記油圧制御システムは、
荷重を制御する荷重制御系を備え、
前記位相面データの位相面をなす2つの物理的状態量は、
前記油圧機構の速度、および、
前記油圧機構による荷重応答である、
請求項
8に記載の状態検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧制御システムを構成するサーボ弁やアクチュエータ等の要素の動作不具合や経時変化等に関する物理的状態を検知する状態検知装置、状態検知装置を備えた油圧制御システム、および状態検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧アクチュエータ等を備えた油圧機構が、油圧機構の位置、速度、あるいは荷重を制御する制御装置と共に、種々の対象物に荷重を印加する用途等に利用されている。制御装置は、位置や速度等の目標値に対する偏差に応じてサーボ弁に開度指令を与える。
こうした油圧機構および制御装置を含む油圧制御システムは、例えば建造物等に荷重を加えた際の位置や速度等の応答に基づいて建造物等の健全性を評価する用途にも利用されている。
【0003】
特許文献1では、作業機を制御する位置フィードバック制御系における偏差と偏差の微分値とから、作業機の動作中に亘り位相面軌道を求め、予め設定した位相面上の禁止領域に軌道が入ったことを確認することによって異常の検出を行っている。特許文献1によれば、フィードバックループの断線等によって生じる制御系の異常を適確に検出することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油圧制御システムのサーボ弁やピストン・シリンダ等には、異物の混入等に起因する動作不良や、摩耗等による経時的な特性変化等を想定することができる。そういった異常を検知するため、例えば、シリンダ速度応答等の物理量の時間的変化に対して閾値を適用したとすれば、正常な状態を逸脱してはいても時間軸上の物理量変化が僅かであるうちは、異常として把握できないため、異常の予兆を検知して異常の発生を未然に防ぐことが難しい。特許文献1に記載された異常検出の方法も、位相面軌道に閾値としての禁止領域を適用しており、閾値を用いる考え方に属する。
【0006】
以上より、本発明は、油圧制御システムにおける異常の予兆を容易に検知可能な装置や方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、油圧機構を制御する油圧制御システムにおける状態を検知する装置であって、油圧制御システムの実測された物理的状態量の応答データが、2つの物理的状態量からなる位相面データに変換されることで、実測位相面データを取得する実測位相面データ取得部と、実測位相面データを用いて物理パラメータを取得する物理パラメータ取得部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の状態検知装置は、実測位相面データから、実測位相面データの形状の特徴に基づいて、油圧制御システムに想定される物理的状態量の変化のケースを特定するケース特定部を備えることが好ましい。
【0009】
本発明の状態検知装置において、ケース特定部は、油圧制御システムに発生しうる異常の予兆を与えた解析を経てケース毎に得られた解析位相面データの形状の特徴とケースとの対応関係と、実測位相面データの形状の特徴とに基づいて、ケースを特定することが好ましい。
【0010】
本発明の状態検知装置において、物理パラメータ取得部は、実測位相面データの形状の変化に基づいて、油圧制御システムにおける物理的状態量の変化の度合を算出することが好ましい。
【0011】
本発明の状態検知装置において、物理パラメータ取得部は、実測位相面データにおける特徴点から物理パラメータを取得することが好ましい。
【0012】
本発明の状態検知装置において、位相面データに係る2つの物理的状態量は、油圧制御システムを構成するサーボ弁の弁開度またはサーボ弁に与えられる弁開度指令、および、油圧機構の速度応答であることが好ましい。
【0013】
本発明の状態検知装置において、位相面データに係る2つの物理的状態量は、油圧機構の速度、および、油圧機構による荷重応答であることが好ましい。
【0014】
本発明の油圧制御システムは、上述の状態検知装置と、油圧機構と、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、油圧機構を制御する油圧制御システムにおける状態を検知する方法であって、油圧制御システムの実測された物理的状態量の応答データから、2つの物理的状態量からなる位相面データに変換することで、実測位相面データを取得するステップと、実測位相面データを用いて物理パラメータを取得する物理パラメータ取得ステップと、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の状態検知方法は、実測位相面データから、実測位相面データの形状の特徴に基づいて、油圧制御システムに想定される物理的状態量の変化のケースを特定するケース特定ステップを備えることが好ましい。
【0017】
本発明の状態検知方法は、油圧制御システムに発生しうる異常の予兆を与えた解析を経てケース毎に解析位相面データを取得するステップを備え、ケース特定ステップでは、解析位相面データの形状の特徴とケースとの対応関係と、実測位相面データの形状の特徴とに基づいて、ケースを特定することが好ましい。
【0018】
本発明の状態検知方法において、ケースには、油圧制御システムを構成するサーボ弁の不感帯の変化、サーボ弁の基準位置に対するオフセットの発生、サーボ弁の流量特性の変化、および、油圧機構の摺動部の摩擦の変化のうちの少なくとも1つが該当することが好ましい。
【0019】
本発明の状態検知方法において、物理パラメータ取得ステップでは、実測位相面データの形状の変化に基づいて、油圧制御システムにおける物理的状態量の変化の度合を算出することが好ましい。
【0020】
本発明の状態検知方法において、物理パラメータ取得ステップでは、実測位相面データにおける特徴点から物理パラメータを取得することが好ましい。
【0021】
本発明の状態検知方法において、油圧制御システムは、位置および速度のうち少なくとも位置を制御する位置制御系を備え、位相面データの位相面をなす2つの物理的状態量は、油圧制御システムを構成するサーボ弁の弁開度またはサーボ弁に与えられる弁開度指令、および、油圧機構の速度応答であることが好ましい。
【0022】
本発明の状態検知方法において、油圧制御システムは、荷重を制御する荷重制御系を備え、位相面データの位相面をなす2つの物理的状態量は、油圧機構の速度、および、油圧機構による荷重応答であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、具体的には後述するように、実測位相面データの形状の特徴に基づいて、物理的な状態変化のケースの特定および状態変化の度合を含め、異常の予兆を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係る位置制御系の油圧制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す状態検知装置の構成要素に係るブロック図である。
【
図3】
図2の状態検知装置により油圧制御システムの状態変化を検知するための手順を示す図である。
【
図4】
図1の油圧制御システムに対応する数式モデル(非線形制御モデル)を示す図である。
【
図5】ケース毎の解析位相面データを示す図である。
【
図7】(a)~(c)は、異なる組み合わせの2ケースの状態変化が同時に発生した場合の位相面データの一例を示す図である。
【
図8】(a)~(c)は、異なる組み合わせの2ケースの状態変化が同時に発生した場合の位相面データの一例を示す図である。(d)は、4ケースの状態変化が同時に発生した場合の位相面データの一例を示す図である。
【
図9】4ケースの状態変化が同時に発生した場合の位相面データと、位相面データから抽出された特徴点とを示す図である。
【
図10】第2実施形態に係る荷重制御系の油圧制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図11】
図10の油圧制御システムに対応する数式モデル(非線形制御モデル)を示す図である。
【
図12】(a)~(c)は、位相面データの一例を示す図である。
【
図13】
図12(a)~(c)に示す位相面データが合成された合成位相面データの一例を示す図である。
【
図14】(a)および(b)は、解析結果に基づく時間軸上の状態変化の一例を示す図である。線種の意味は
図5および
図6と同様である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
(油圧制御システムの構成)
図1に示す油圧制御システム1は、油圧機構4を含み、油圧機構4を制御するフィードバック位置制御系をなしている。この油圧制御システム1は、例えば、油圧機構4により荷重が印加される図示しない建造物等の健全性の測定、評価が可能である。
油圧制御システム1は、制御部2と、サーボ弁3と、油圧機構4と、位置センサ5とを備えている。
なお、油圧制御システム1は、位置および速度のフィードバック制御系であってもよい。
【0026】
油圧機構4は、ピストンおよびシリンダ等を含む油圧アクチュエータ41と、油圧アクチュエータ41に結合した制御対象42とを含んでいる。
制御部2は、位置センサ5により検出された制御対象42の位置と、目標値との偏差に応じた弁開度指令をサーボ弁3に与える。弁開度指令に応じて動作するサーボ弁3の開度に応じて作動油の流量や流れの向き等が調整されることで油圧機構4が動作する。
【0027】
(状態検知装置の構成)
状態検知装置20は、油圧制御システム1を構成する要素の物理的状態を検知する。状態検知装置20は、後述するように、位相面の軌道の形状から、油圧制御システム1に発生した状態変化のケースを特定するとともに状態変化の度合を直接的に検知することを実現する。
状態検知装置20は、演算部および記憶部を備えて情報処理が可能なコンピュータ装置から構成することができる。状態検知装置20が、制御部2の一部に組み込まれていてもよい。
【0028】
状態検知装置20は、
図2に示すように、解析位相面データ取得部21と、実測位相面データ取得部22と、ケース特定部23と、特徴点抽出部24と、物理パラメータ取得部25とを備えている。
解析位相面データ取得部21、実測位相面データ取得部22、ケース特定部23、特徴点抽出部24、および物理パラメータ取得部25は、コンピュータ装置により実行可能なプログラムのモジュールとして構成することができる。
【0029】
解析位相面データ取得部21は、油圧制御システム1に対応する数式モデルM1(
図4)の解析を経て、油圧制御システム1の解析位相面データDaを取得する。
実測位相面データ取得部22は、油圧制御システム1を実際に動作させた際の応答データから実測位相面データDbを取得する。
【0030】
ケース特定部23は、実測位相面データDbの形状の特徴に基づいて、油圧制御システム1に想定される物理的状態量の変化のケースを特定する。
特徴点抽出部24は、演算により実測位相面データDbから特徴点を抽出する。
物理パラメータ取得部25は、実測位相面データDbの特徴点から物理パラメータPpを取得する。
【0031】
本実施形態に限らず、状態検知装置20が、油圧制御システム1とは別の装置として構成されていてもよい。その場合は、既存の油圧制御システムに、状態検知装置20を容易に導入することができる。
【0032】
(油圧制御システムの異常)
油圧制御システム1において、経年変化や異物の混入等により、油圧制御システム1を構成する要素であるサーボ弁3や油圧アクチュエータ41等に異常が発生しうる。
例えば、サーボ弁3では、異物の噛み込み等に起因するスプール弁の動作阻害、経年変化による摩耗や正負の方向における偏り等が発生しうる。
また、油圧アクチュエータ41のピストンおよびシリンダでは、摺動部の摩擦の増加や減少、摺動部の摩耗による2室間の油漏れ等が発生しうる。
【0033】
油圧制御システム1に発生しうる異常に関しては、例えば、下記の4種類(4ケース)の物理的な状態変化(特性変化)を想定することができる。
ケース1:サーボ弁3の不感帯の変化
ケース2:サーボ弁3の基準位置に対するオフセットの発生
ケース3:油圧機構4の摺動部のクーロン摩擦の増加または減少
ケース4:サーボ弁3の流量特性の変化
なお、ケース4は、サーボ弁3を構成するスプール弁への異物の噛み込み等により発生しうる。
【0034】
油圧制御システム1における異常の発生により、構造物の健全性測定、あるいは製造物の出荷前検査、機械の調整等に油圧制御システム1を使用できなくなることは避けたい。
そこで、状態検知装置20は、油圧制御システム1の要素の物理的な状態が正常な状態を逸脱したとしても、状態の変化が僅かであるため使用上は許容される間に、将来異常を発生させる兆候、つまり、異常の予兆を検知する。そのために、状態検知装置20は、異常の予兆としての僅かな状態変化を与えた油圧制御システム1の解析(シミュレーション)を実施し、かつ、位相面表現により僅かな状態変化を位相面データの形状の相違として顕在化させる。
【0035】
(解析の実施)
図3および
図4を参照し、異常の予兆の検知に用いる位相面データを取得するための解析について説明する。
解析の事前準備として、油圧制御システム1について、例えば
図4に示すような数式モデルM1を設定する(
図3のステップS11)。
次いで、数式モデルM1を使用して解析を実施することにより、状態変化のケース毎に解析位相面データDaを取得する(解析位相面データ取得ステップS12)。
【0036】
解析の条件としては、例えば正弦波の波形をなす可変の位置指令を目標値として制御部2に与え、かつ、上述したケース1~4の状態変化を油圧制御システム1に与えるものとする。位置指令の周波数としては、制御系に慣性力が殆ど作用しない低い周波数を選定するものとする。
図4には、サーボ弁3の不感帯変化(ケース1(C1))、オフセット(ケース2(C2))、および流量特性変化(ケース4(C4))と、油圧機構4における非線形摩擦(ケース3(C3))とを想定して、解析に含める物理量を模式的に示している。
【0037】
解析の実施により、ケース毎の解析位相面データDaに加えて、油圧制御システム1に予兆を含めて異常が発生していない正常な状態に対応する位相面データDa0も取得することが好ましい。該当のケースによっては、ケース毎の位相面データの形状の相違を判断するために正常状態の位相面データDa0との比較が必要になる場合がある。また、後述するように、正常な状態の位相面データDa0と実測位相面データDbとを比較することで、正常な状態からの状態変化の度合を検知することができる。
【0038】
そのため、本実施形態の解析位相面データ取得ステップS12では、解析位相面データ取得部21により、正常な状態(ケース0)と上記のケース1~4とを含めたケース毎に解析を実施して、解析に基づく物理的状態量の応答データを位相面データに変換することで、解析位相面データDa,Da0を取得する。
このとき、解析位相面データ取得部21は、解析の実施により得られた時系列の位置や速度等の応答データから2つの変数を選んで位相面データに変換する。これをケース毎に繰り返すことで、ケース毎の解析位相面データDa,Da0を取得する。
【0039】
(位相面データの形状の特徴)
以下、
図5~
図9を参照し、解析の実施により取得される位相面データの形状の特徴について説明する。
図5および
図6に、解析位相面データDa(Da1~Da4),Da0の一例を示す。ここでは、位相面をなす2つの変数は、サーボ弁3に与えられる弁開度指令と、油圧機構4の速度応答であるものとする。なお、弁開度指令の代わりに、サーボ弁3から検知される弁開度であってもよい。速度応答は、制御対象42から制御部2にフィードバックされる位置の微分値である。状態検知装置20には、制御部2から、少なくとも弁開度指令および速度が入力される。
【0040】
図5および
図6には、解析位相面データ取得ステップS12により取得されたケース毎の解析位相面データDa(Da1~Da4),Da0を重畳して示している。
正常な状態(ケース0)に対応する位相面データDa0は、弁開度指令が0Vのとき速度応答も0mm/sであり、位相面上に線形の軌道を描く。位相面データDa0は、弁開度指令および速度応答のそれぞれの正負両側に亘り対称である。なお、厳密には、正常な状態であっても、弁開度指令「0」の近傍に速度応答が0であるサーボ弁3の不感帯が存在する。
各ケース1~4の位相面データDa1~Da4の軌道は、Da0の軌道とは異なり、かつ互いに相違している。これらの位相面データDa1~Da4は、軌道が互いに相違するだけでなく、軌道のそれぞれの形状に、解析の誤差やノイズに埋没しない明らかな特徴がある。このため、機械特性の変化を形状の変化として把握することができる。
【0041】
異常の予兆に相当する僅かな状態変化を与えた油圧制御システム1の解析の結果を、仮に、時間軸上の変化により表すとする。その場合は、例えば
図14(a)および(b)に、正常状態のデータと、状態変化のケース毎のデータとを重畳して示すように、各データの波形の形状がいずれも正弦波状であって、値の差も僅かであるため、時間軸上に表された各データの形状に特徴を見出せない。そのため、
図14(a)または(b)に示す応答データから、何らかの異常が存在することは仮に検知できたとしても、状態変化のケースを特定することは困難であり、ケース毎に状態変化の度合を把握することも困難である。
【0042】
本実施形態における位相面データDa1~Da4のそれぞれの形状の特徴によれば、状態変化のケースを容易に特定でき、ケース毎の状態変化の度合も容易に把握することができる。
【0043】
図5および
図6を参照し、位相面データDa1~Da4のそれぞれの形状の特徴を説明する。例えば、ケース1の異常の予兆(サーボ弁3の不感帯の変化)を与えた解析に基づく位相面データDa1は、
図6に示すように、弁開度指令「0」の正負両側の所定範囲R1に亘り速度応答がほぼ「0」で一定であるため、範囲R1に亘り平坦な形状を位相面に描く。この位相面データDa1は、範囲R1の両端で傾きが変化している。
【0044】
また、ケース2の異常の予兆(サーボ弁3のオフセットの発生)を与えた解析に基づく位相面データDa2は、正常な状態の位相面データDa0に対して弁開度指令の-側でかつ速度応答の+側に、軌道の全体としてシフトしており、線形の軌道を位相面に描く。この位相面データDa2は、正常状態の位相面データDa0とは交差しない。
【0045】
ケース3の異常の予兆(油圧機構4の摺動部の摩擦の変化)を与えた解析に基づく位相面データDa3は、弁開度指令「0」の正負両側の所定範囲R3に亘り、正常状態の位相面データDa0に対して傾きが小さい。範囲R3は、上述した位相面データDa1の範囲R1よりも広く、範囲R3の両端で傾きが変化している。
図5および
図6に示す例では、範囲R3の両側における傾きが、正常状態の位相面データDa0と同等であるが、これに限らず、油圧機構4における摩耗の状態によっては、範囲R3の両側における傾きが互いに相違する場合もある。
【0046】
そして、ケース4の異常の予兆(サーボ弁3の流量特性の変化)を与えた解析に基づく位相面データDa4は、弁開度指令の「0」近傍を境界に、傾きが変化しており、正負の方向に非対称である。位相面データDa4の傾きは、弁開度指令の-側では、正常状態の位相面データDa0の傾きよりも小さいが、弁開度指令の+側では、正常状態の位相面データDa0の傾きよりも大きい。
【0047】
ケース1~4の位相面データDa1~Da4のそれぞれの軌道は、所定の傾きが与えられた範囲の幅や傾きの変化に対応した形状、あるいは、正常状態の位相面データDa0に対してシフトした形状に、固有の特徴を有している。そのため、形状の特徴に基づいて容易に、位相面データDa1~Da4を区別してケースを特定することができる。
【0048】
ケース1~4のうち2以上が複合的に生じたとしても、解析位相面データの軌道の形状には、各ケース1~4に固有の特徴が維持される。
図7(a)~(c)および
図8(a)~(d)は、ケース1~4のうち2以上が、下記の表1に記載されているように複合的に生じた場合の解析位相面データの一例を示している。
【0049】
【0050】
例えば、
図7(a)は、複合ケース5として、サーボ弁3の不感帯の変化(ケース1)と、サーボ弁3のオフセットの発生(ケース2)とを同時に与えた油圧制御システム1の解析の実施を経て得られた位相面データDa5に相当する。正常な状態(ケース0)の位相面データDa0(点線)も併せて示している。
図7(a)に示す位相面データDa5には、ケース1に対応する上述した形状の特徴と、ケース2に対応する上述した形状の特徴とが表れている。つまり、位相面データDa5は、
図6に示す解析位相面データDa1と同様に、弁開度指令「0」の正負両側の所定範囲に亘り速度応答がほぼ「0」で一定であり、かつ、位相面データDa2と同様に、軌道の全体が、位相面データDa0に対して弁開度指令の-側および速度応答の+側にシフトしている。
【0051】
また、
図7(b)に示す複合ケース6としての位相面データDa6も、ケース1およびケース3に対応して、弁開度指令「0」の正負両側の所定範囲に亘り速度応答がほぼ「0」で一定であり、かつ、一定である範囲よりも広い範囲に亘り、その範囲の両側の傾きと比べて傾きが小さい。
【0052】
さらに、
図7(c)に示す複合ケース7としての位相面データDa7も、ケース1およびケース4に対応して、弁開度指令「0」の正負両側の所定範囲に亘り速度応答がほぼ「0」で一定であり、かつ、当該範囲の両側における傾きが相違している。
【0053】
その他の複合ケース8~10(
図8(a)~(c))も同様である。また、上記表1への記載および位相面データの図示を省略するが、ケース1~4の3つが複合的に生じたとしても、同様である。
【0054】
複合ケース11として
図8(d)に示すように、全ケース1~4が複合的に生じた場合も同様である。
つまり、
図8(d)に示す位相面データDa11は、弁開度指令「0」の正負両側の所定範囲に亘り速度応答がほぼ「0」で一定であり、かつ、一定である範囲よりも広い範囲に亘り、当該範囲の両側の傾きと比べて傾きが小さく、かつ、その広い範囲の両側における傾きが相違しており、かつ、軌道の全体が、位相面データDa0に対して弁開度指令の-側でかつ速度応答の+側にシフトしている。
【0055】
以上より、油圧制御システム1に、ケース1~4のいずれか単一のケースが生じた場合のみならず、ケース1~4の2以上が同時に生じたとしても、解析の実施を経て得られた位相面データにおいて、各ケースに固有の形状の特徴が表れる。
【0056】
図9に一例を示すように、位相面において各ケースの形状の相違が表れた範囲の値の演算処理等により、位相面データの軌道上の特徴点(pA,pB等)を抽出することができる。これらの特徴点は、位相面データの形状の特徴を示している。これらの特徴点を上述したケース毎の形状の特徴にあてはめたり、特徴点の差分を用いたりすることで、位相面データに該当するケースを特定することができ、かつ、状態変化の度合を求めることもできる。
【0057】
図9を参照し、全ケース1~4の状態変化が同時に生じた際の実測位相面データDbにおける特徴点から、ケース1~4毎に、状態変化量を算出可能であることを説明する。
ここで、X軸が弁開度指令であり、Y軸が速度応答であり、実測位相面データDbをy=T(x)と表す。
位相面データDbの正負に亘る所定区間において、弁開度指令の両端の値(最大値および最小値)をそれぞれAx,Fxとする。Axと、Axに対応する速度応答Ayとから、特徴点pAが定まる。また、Ayと、Ayに対応する速度応答Fyとから、特徴点pFが定まる。
【0058】
y=T(x)を微分し、階段状に、急峻に値が変化するX座標をBx~Exとする。Bx~Exにそれぞれ対応するY座標であるBy~EyをT(x)より求めると、特徴点pB~pEが定まる。
以上により特徴点pA~pFが抽出される。これらの特徴点pA~pFを用いて、演算処理により、例えば、位相面軌道の全体が正常状態に対してシフトしている場合にはサーボ弁3のオフセットが発生しているとか、pAにおける傾きとpFにおける傾きとが異なる場合にはサーボ弁3の流量特性が変化しているとか、範囲R3の内側と外側との傾きが異なる場合には油圧機構4における摩擦特性が変化しているとか、正常状態の不感帯を超える幅の所定範囲R1に亘り速度応答が一定である場合には、不感帯が変化しているといったように、位相面データの形状の変化と物理的状態の変化とを関連付けることができる。
【0059】
抽出された特徴点pA~pFから、下記の表2に示すように、特徴点pA~pFのうちの隣り合う2点間の区間について、状態変化量に相当する物理パラメータPpを算出することができる。なお、表2のNo.3の直線pB-pCの傾きおよびNo.4の直線pD-pEの傾きは、位相面データDbにおける範囲R3の外側に関する。また、No.5の直線pB-pCのX成分およびNo.6の直線pD-pEのX成分は、位相面データDbにおける範囲R3の内側に関する。
【0060】
【0061】
上記の表2に示すように、位相面データの軌道上の各区間の傾きや距離である物理パラメータPpはそれぞれ、例えば、ケース1にあたる不感帯の変化であったり(No.7)、ケース3にあたる摩擦特性の変化であったり(No.3~6)、ケース4にあたる流量特性の変化であったり(No.1,2)というように、状態変化量を表している。こうした物理パラメータPpと、正常状態の位相面データDa0とから、正常状態からの各ケースの状態変化の度合を算出することができる。表2より、サーボ弁3の流量特性や油圧機構4の摩擦特性については、正負両方の変化を算出することができる。
なお、ケース2にあたるサーボ弁3のオフセットについても、正常状態の位相面データDa0に対する位相面データDbの軌道全体のX成分シフト量を求めることで、状態変化の度合を算出することができる。
【0062】
位相面データDbから抽出される特徴点の数は、発生したケース1~4に応じて、また、複合したケース数に応じて異なる。ケース2が単独で生じている場合は、特徴点pAおよびpFのみが抽出される。
ケース1~4の任意の2以上が複合的に生じたとしても、特徴点により位相面データDbから各ケースの状態変化に対応する区間を設定し、各区間の傾きや距離である物理パラメータPpと、正常状態の位相面データDa0とを用いて、正常状態からの状態変化の度合を算出することができる。
【0063】
以上によれば、正常状態と異常状態の位相面データを解析により予め解いて、位相面データの形状の特徴と状態変化のケースとが関連付けられるとともに、位相面データの形状の変化と状態変化とが関連付けられることにより、油圧制御システム1に発生した状態変化のケースとその状態変化量とを求めることができる。
【0064】
(異常の予兆検知)
油圧制御システム1の異常の予兆を検知する際には、解析時と同様の例えば正弦波の位置指令を与えて実際に油圧制御システム1を動作させ、弁開度指令および速度応答からなる実測位相面データDbを取得する(
図3の実測位相面データ取得ステップS21)。速度応答および弁開度指令は、油圧制御システム1を動作させて実測された物理的状態量に相当する。これらの時系列のデータを位相面に変換する。
【0065】
異常の予兆を含め、油圧制御システム1に異常が発生していない初期状態において、正常な状態の位相面データDb0を取得しておくことにより、実機の正常状態の位相面データDb0を状態検知に用いることができる。
【0066】
実測位相面データDbが得られたならば、ケース特定部23により状態変化のケースを特定することができる(ケース特定ステップS22)。このとき、ケース特定部23は、解析を経てケース毎に得られた解析位相面データの形状の特徴と各ケースとの対応関係と、実測位相面データDbの形状の特徴とに基づいて、ケース1~4のうち、発生している1以上のケースを特定することができる。
【0067】
さらに、特徴点抽出部24により実測位相面データDbにおける特徴点を抽出し(特徴点抽出ステップS23)、例えば上述した手法により特徴点を用いて物理パラメータPp(表2)を取得する(物理パラメータ取得ステップS24)。
【0068】
上述したように、状態検知装置20は、特徴点抽出部24により抽出された特徴点を用いて、弁開度指令「0」を含む所定範囲R1内で速度応答が一定であるとか、位相面軌道の全体が正常状態に対してシフトしているとか、範囲R3の内側と外側との傾きが異なるといった、ケース毎の形状の特徴を見出し、油圧制御システム1に発生した状態変化の1以上のケースを特定することができる。
状態検知装置20は、特定したケースに対応する要素の交換を促す警告を表示するように構成されていてもよい。その際に、物理パラメータPpに閾値を適用し、物理パラメータPpが閾値を超えた場合にのみ、対応する要素の交換を促す警告を表示することもできる。
【0069】
以上で説明したように、本実施形態の油圧制御システム1の状態検知装置20によれば、位相面データの形状の特徴に基づいて、状態変化のケースの特定および状態変化の度合を含め、異常の予兆を検知することができる。
異常に至る前の予兆段階で状態変化を検知することができ、しかも、状態変化のケースが特定されることで、状態変化の原因となっている要素が把握できるため、油圧制御システム1の使用を継続しながら、当該要素(サーボ弁3や油圧アクチュエータ41等)の交換品の入手、修理作業の予定を組む等の対応を油圧制御システム1の使用が継続可能な間に取ることができる。油圧制御システム1の使用を継続することができるため、構造物の健全性評価等のサービスも継続して行うことができる。
【0070】
本実施形態の状態検知装置20は、数式モデルM1を使用して解析を実施し、解析位相面データDa1~Da4を取得する解析位相面データ取得部21を備えているが、解析の実施および解析位相面データDa1~Da4の取得は、別の装置により行うこととしてもよい。その場合でも、別の装置により取得された位相面データDa0,Da1~Da4を用いて、位相面データの形状の変化と物理状態の変化とを関連付けるとよい。
形状の変化と物理状態の変化とを関連付けたならば、次の異常検知の実施時には解析および解析位相面データ取得の手順を省き、実測位相面データの取得(
図3のステップS21)から、異常検知の手順を開始することができる。
【0071】
また、本実施形態の状態検知装置20および状態検知方法において、特徴点の抽出および物理パラメータPpの取得は必須ではない。例えば、公知の画像処理により、正常状態の位相面データDa0と、実測位相面データDbとの形状の差分処理等を行うことで得られた物理パラメータに基づいて、状態変化のケースおよび状態変化量を求めることもできる。
【0072】
〔第2実施形態〕
次に、
図10~
図13を参照し、本発明の第2実施形態について説明する。
以下、第1実施形態と相違する事項を中心に説明する。第1実施形態と同様の構成要素には同じ符合を付している。
【0073】
図10および
図11に示す油圧制御システム6は、制御部2と、サーボ弁3と、油圧機構4と、荷重・位置センサ7とを備えており、油圧機構4により荷重が印加される構造物等(図示しない)と共に荷重制御系をなしている。
【0074】
第2実施形態の制御部2は、荷重・位置センサ7により検出された制御対象42の荷重と、目標値との偏差に応じた弁開度指令をサーボ弁3に与える。
状態検知装置30には、制御部2から、位置、位置の微分値である速度、速度の微分値である加速度、および反力が入力される。
【0075】
ここで、運動方程式を、
【数1】
とし、油圧制御システム6を荷重指令
【数2】
により動作させたとき、慣性力と速度との関係は、
【数3】
である。
【0076】
速度と荷重応答との位相面に示される軌道から、荷重応答の全体における各力の成分の寄与度を把握することについて説明する。
図12(a)は、速度と慣性力Fiとの位相面データを示している。
図12(b)は、速度とクーロン摩擦力Fcとの位相面データを示している。
図12(c)は、速度と粘性力Fvとの位相面データを示している。
図13は、
図12(a)~(c)の位相面データを合成した位相面データを示している。
図13に示す合成位相面データには、
図12(a)~(c)に示す位相面データのそれぞれの形状の特徴が反映されている。
図13の縦軸は、荷重・位置センサ7により検出される荷重の検出値(荷重応答)に相当する。
【0077】
図13に示す合成位相面データにおいて、速度および力の最小値に対応する点pAと、速度および力の最大値に対応する点pBとを結んだ直線の傾きが粘性係数Cに相当する。
また、合成位相面データにおいて、速度が「0」の時の力と、交点pCにおける力との差が、クーロン摩擦力Fcに相当する。交点pCは、位相面軌道がY軸方向に立ち上がって一定の勾配に安定した時の図示しない接線と縦軸とが交わる点である。
【0078】
さらに、速度が「0」の時の力の変化が慣性力(Maω2)に相当するため、この値をYaとおくと、質量Mは、Ya/aω2となる。
【0079】
合成位相面データから、演算処理等により、例えばpA,pB,pC,pD,pEといった特徴点を抽出することができる。これらの特徴点を用いて、粘性係数C、質量M、およびクーロン摩擦力Fcのそれぞれの変化を捉えることにより、異常の予兆を知ることができる。
【0080】
油圧制御システム6の異常の予兆を検知する際にも、例えば正弦波の荷重指令を与えて実際に油圧制御システム6を動作させ、状態検知装置30に備わる図示しない実測位相面データ取得部により、速度および荷重応答からなる実測位相面データDbを取得する。
図13に示す合成位相面データは、この実測位相面データDbの一例に相当する。
【0081】
実測位相面データDbが得られたならば、特徴点を抽出し、上述の計算により、物理パラメータとして、質量M、粘性係数C、およびクーロン摩擦力Fcを得ることができる。状態検知装置30は、これらの物理パラメータと、過去に記録された実測位相面データDbによる物理パラメータとを比較して差分を得ることで、物理的状態の変化を容易に把握し、物理的状態の変化に基づいて異常の予兆を検知することができる。状態検知装置30は、状態変化量が閾値を超えた場合に、警告の表示や警告音の発生により、異常の予兆を報知するように構成されていてもよい。
【0082】
油圧制御システム6は、荷重制御系の制御ループと、位置制御系の制御ループとを備えるものであってもよい。かかる油圧制御システムには、状態検知装置20および状態検知装置30の両方を採用することができる。
【0083】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1,6 油圧制御システム
2 制御部
3 サーボ弁
4 油圧機構
5 位置センサ
7 荷重・位置センサ
20,30 状態検知装置
21 解析位相面データ取得部
22 実測位相面データ取得部
23 ケース特定部
24 特徴点抽出部
25 物理パラメータ取得部
41 油圧アクチュエータ
42 制御対象
Da,Da0,Da1~Da4 解析位相面データ
Db 実測位相面データ
M1 数式モデル
pA~pF 特徴点
Pp 物理パラメータ
R1,R3 範囲
S11 数式モデル設定ステップ
S12 解析位相面データ取得ステップ
S21 実測位相面データ取得ステップ
S22 ケース特定ステップ
S23 特徴点抽出ステップ
S24 物理パラメータ取得ステップ