(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】ステアリングシャフト及びステアリングシャフトの製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 1/16 20060101AFI20230324BHJP
F16D 3/06 20060101ALI20230324BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230324BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20230324BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
B62D1/16
F16D3/06 P
F16J15/3232 201
F16J12/00 D
B21D39/00 D
(21)【出願番号】P 2019058415
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】石川 智也
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-048991(JP,A)
【文献】特開昭63-062968(JP,A)
【文献】実開昭61-143966(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0238482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00-1/28
F16D 3/06
F16J 15/3232
F16J 12/00
B21D 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のアウタシャフトと、
前記アウタシャフト内に挿入され、前記アウタシャフトにおける軸方向の第1側開口部を通じて、前記アウタシャフトに対して相対的に軸方向移動可能でかつ、前記アウタシャフトと一体に回転可能に構成されたインナシャフトと、
前記アウタシャフトにおける軸方向の第2側開口部を閉塞するシールキャップと、を備え、
前記シールキャップは、
前記アウタシャフトの内周面に密接するシール部と、
前記シール部の内周側に連なるとともに、前記シール部に対して軸方向の第2側に膨出する閉塞部と、を備え、
前記シールキャップは、前記閉塞部が軸方向の第1側に塑性変形させられることで、前記シール部が前記アウタシャフトの内周面に押し付けられた状態で、前記第2側開口部内に保持され
、
前記アウタシャフトのうち、前記シール部よりも軸方向の第2側に位置する部分には、前記閉塞部が塑性変形させられた状態において前記シールキャップに軸方向で当接して、前記アウタシャフトに対する前記シールキャップの軸方向における第2側への移動を規制する第2規制部が形成され、
前記第2規制部は、径方向の内側に向かうに従い軸方向の第2側に延びているステアリングシャフト。
【請求項2】
前記アウタシャフトのうち、前記シール部よりも軸方向の第1側に位置する部分には、前記シールキャップに軸方向で当接して、前記アウタシャフトに対する前記シールキャップの軸方向における第1側への移動を規制する第1規制部が形成されている請求項1に記載のステアリングシャフト。
【請求項3】
前記アウタシャフト及び前記シールキャップは、軸方向から見て円形状に形成されている請求項1
又は請求項
2に記載のステアリングシャフト。
【請求項4】
請求項1から請求項
3の何れか1項に記載のステアリングシャフトの製造方法であって、
前記アウタシャフトの前記第2側開口部内に前記シールキャップを挿入した状態で、前記シール部に対して前記閉塞部を軸方向の第1側に押し込む押込工程を備え、
前記押込工程は、前記閉塞部を軸方向の第1側に向けて塑性変形させることで、前記シール部を前記アウタシャフトの内周面に密接させるステアリングシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシャフト及びステアリングシャフトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールが連結されたシャフト本体と、車輪に連結されたステアリングギヤボックスと、の間を接続するインターミディエイトシャフト(以下、単にインタミシャフトという。)を備えるステアリングシャフトが知られている。インタミシャフトは、筒状のアウタシャフトと、アウタシャフト内に挿入され、アウタシャフトに対して軸方向に相対移動可能、かつアウタシャフトと一体に回転可能に構成されたインナシャフトと、を備えている。
【0003】
上述したインタミシャフトは、例えばエンジンルーム内において、外部環境に晒される位置に配置される。そのため、走行時の撥ね上げや、水没時等において、インタミシャフトの嵌合部に水等が進入する可能性がある。水等がインタミシャフトの嵌合部に進入すると、インタミシャフトが腐食する可能性がある。
【0004】
そこで、例えば下記特許文献1には、アウタシャフト内に密閉蓋を圧入等により固定し、アウタシャフトの開口部を閉塞する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術のように、密閉蓋とアウタシャフトとの間のシール性の確保や、密閉蓋の抜け止めを圧入荷重(摩擦力)のみによって達成する場合には、密閉蓋やアウタシャフトのはめあい寸法(圧入代)等を高精度に管理する必要がある。
これに対して、密閉蓋の圧入後にアウタシャフトの開口端をカシメることも考えられる。しかしながら、この場合には圧入後にカシメ工程が必要になる等、製造工程が増加し、製造コストの増加に繋がる可能性がある。
【0007】
本発明は、製造効率の向上及び低コスト化を図った上で、シールキャップとアウタシャフトとの間のシール性を長期に亘って確保できるステアリングシャフト及びステアリングシャフトの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を採用した。
本発明の一態様に係るステアリングシャフトは、筒状のアウタシャフトと、前記アウタシャフト内に挿入され、前記アウタシャフトにおける軸方向の第1側開口部を通じて、前記アウタシャフトに対して相対的に軸方向移動可能でかつ、前記アウタシャフトと一体に回転可能に構成されたインナシャフトと、前記アウタシャフトにおける軸方向の第2側開口部を閉塞するシールキャップと、を備え、前記シールキャップは、前記アウタシャフトの内周面に密接するシール部と、前記シール部の内周側に連なるとともに、前記シール部に対して軸方向の第2側に膨出する閉塞部と、を備え、前記シールキャップは、前記閉塞部が軸方向の第1側に塑性変形させられることで、前記シール部が前記アウタシャフトの内周面に押し付けられた状態で、前記第2側開口部内に保持され、前記アウタシャフトのうち、前記シール部よりも軸方向の第2側に位置する部分には、前記閉塞部が塑性変形させられた状態において前記シールキャップに軸方向で当接して、前記アウタシャフトに対する前記シールキャップの軸方向における第2側への移動を規制する第2規制部が形成され、前記第2規制部は、径方向の内側に向かうに従い軸方向の第2側に延びている。
本発明の一態様に係るステアリングシャフトの製造方法は、前記アウタシャフトの前記第2側開口部内に前記シールキャップを挿入した状態で、前記シール部に対して前記閉塞部を軸方向の第1側に押し込む押込工程を備え、前記押込工程は、前記閉塞部を軸方向の第1側に向けて塑性変形させることで、前記シール部を前記アウタシャフトの内周面に密接させる。
【0009】
本態様では、アウタシャフトの第2側開口部がシールキャップにより閉塞されることで、アウタシャフトの第2側開口部を通じて水等がステアリングシャフト内に進入するのを抑制できる。これにより、ステアリングシャフトの腐食等を抑制し、耐久性を向上させることができる。これにより、アウタシャフト及びロアシャフトの軸方向移動が長期に亘ってスムーズに行われる。
特に、本態様では、閉塞部の塑性変形によってシール部をアウタシャフトの内周面に押し付けるので、閉塞部の押込み量によってシール荷重を適宜調整することができる。これにより、従来のように圧入荷重の調整のためにはめあい寸法等を管理する場合に比べて寸法管理が容易になる。
また、閉塞部の押込みによってシールキャップの組付が完了するので、従来のように圧入後にカシメ工程を行う場合に比べ、製造効率の向上や低コスト化を図ることができる。
その結果、製造効率の向上及び低コスト化を図った上で、シールキャップとアウタシャフトとの間のシール性を長期に亘って確保できる。
しかも、組付後において、アウタシャフトに対するシールキャップの軸方向の第2側への移動を第2規制部によって規制できるので、シールキャップの抜け等を抑制できる。
また、組付前のシールキャップが軸方向から見て第2規制部と重なり合わないようにしておくことで、シールキャップをアウタシャフトに挿入する際にシールキャップと第2規制部との干渉を抑制できる。その結果、組付性の向上も図ることができる。
【0010】
本態様のステアリングシャフトにおいて、前記アウタシャフトのうち、前記シール部よりも軸方向の第1側に位置する部分には、前記シールキャップに軸方向で当接して、前記アウタシャフトに対する前記シールキャップの軸方向における第1側への移動を規制する第1規制部が形成されていてもよい。
本態様では、組付前のシールキャップの少なくとも外周縁が軸方向から見て第1規制部と重なり合うようにしておくことで、シールキャップをアウタシャフト内に挿入する際に、第1規制部によってアウタシャフトに対するシールキャップの軸方向での位置決めを行うことができる。これにより、組付性を向上させることができる。
一方、組付後においても、アウタシャフトに対するシールキャップの軸方向の第1側への移動を第1規制部によって規制できるので、シールキャップの抜け等を抑制できる。
【0012】
本態様のステアリングシャフトにおいて、前記アウタシャフト及び前記シールキャップは、軸方向から見て円形状に形成されていてもよい。
本態様では、シールキャップの半径を全周に亘って一様に形成できるので、塑性変形時にシール部が均等に広がりやすい。その結果、アウタシャフトの内周面に対してシール荷重を全周に亘って均等に作用させることができる。
【0013】
本発明の一態様に係るステアリングシャフトは、ステアリングホイールが連結されるシャフト本体と、前記シャフト本体の前端部に連結された上記態様のスライドシャフトであるインタミシャフトと、を備えている。
本態様によれば、上記態様のステアリングシャフトを備えているので、耐久性に優れたステアリング装置を提供できる。
【発明の効果】
【0014】
上記各態様によれば、製造効率の向上及び低コスト化を図った上で、シールキャップとアウタシャフトとの間のシール性を長期に亘って確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係るステアリング装置の斜視図である。
【
図3】インタミシャフトにおけるシール機構周辺の拡大断面図である。
【
図4】インタミシャフトにおけるシールキャップ周辺の拡大断面図である。
【
図5】シールキャップの組付方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[ステアリング装置]
図1は、ステアリング装置1の斜視図である。
図1に示すように、ステアリング装置1は、車両に搭載されている。ステアリング装置1は、ステアリングホイール2の回転操作に伴って車輪の舵角を調整する。
【0017】
ステアリング装置1は、コラムユニット11と、シャフト本体12と、固定ブラケット(フロントブラケット13及びリヤブラケット14)と、インタミシャフト(スライドシャフト)15と、を備えている。コラムユニット11及びシャフト本体12は、それぞれ第1軸線O1に沿って形成されている。したがって、以下の説明では、コラムユニット11及びシャフト本体12の第1軸線O1の延びる方向を単に第1軸方向といい、第1軸線O1に直交する方向を第1径方向といい、第1軸線O1回りの方向を第1周方向という場合がある。なお、シャフト本体12及びインタミシャフト15は、本実施形態に係るステアリングシャフト16を構成している。
【0018】
本実施形態のステアリング装置1は、第1軸線O1が前後方向に対して交差した状態で車両に搭載される。具体的に、ステアリング装置1の第1軸線O1は、後方に向かうに従い上方に延在している。但し、以下の説明では、便宜上、ステアリング装置1において、第1軸方向でステアリングホイール2に向かう方向を単に後方とし、ステアリングホイール2とは反対側に向かう方向を単に前方(矢印FR)とする。また、第1径方向のうち、ステアリング装置1が車両に取り付けられた状態での上下方向を単に上下方向(矢印UPが上方)とし、左右方向を単に左右方向とする。
【0019】
コラムユニット11は、アウタコラム21と、インナコラム22と、を有している。
アウタコラム21は、固定ブラケット13,14を介して車体に取り付けられている。
【0020】
インナコラム22は、第1軸線O1に沿って延びる筒状に形成されている。インナコラム22の外径は、アウタコラム21の内径よりも小さくなっている。インナコラム22は、アウタコラム21内に挿入されている。インナコラム22は、アウタコラム21に対して第1軸方向に移動可能に構成されている。
【0021】
シャフト本体12は、第1軸線O1に沿って延びる中空円筒状に形成されている。シャフト本体12は、インナコラム22内に軸受(不図示)を介して第1軸線O1回りに回転可能に支持されている。シャフト本体12の後端部には、ステアリングホイール2が連結される。
【0022】
固定ブラケット13,14は、アウタコラム21と車体との間を接続している。
フロントブラケット13は、第1軸方向から見た正面視で下方に開口するU字状に形成されている。フロントブラケット13は、アウタコラム21の前端部を上方及び左右方向の両側から取り囲んだ状態で、アウタコラム21を支持している。
リヤブラケット14は、第1軸方向から見た正面視で下方に開口するU字状に形成されている。リヤブラケット14は、アウタコラム21の後方部を上方及び左右方向の両側から取り囲んだ状態で、アウタコラム21を支持している。
【0023】
リヤブラケット14には、調整機構25が設けられている。調整機構25は、アウタコラム21に対するインナコラム22の上下方向及び前後方向への移動が規制されたロック状態と、上下方向及び前後方向への移動が許容されたロック解除状態と、を切り替える。
【0024】
<インタミシャフト>
インタミシャフト15は、車室外(例えば、エンジンルーム等)において、シャフト本体12とステアリングギヤボックス(不図示)との間を接続している。インタミシャフト15は、シャフト本体12の前端部から前方に向かうに従い下方に延在している。
【0025】
図2は、
図1のII-II線に沿う断面図である。
図2に示すように、インタミシャフト15は、アッパシャフト(アウタシャフト)31と、ロアシャフト(インナシャフト)32と、を備えている。アッパシャフト31及びロアシャフト32は、上述した第1軸線O1に対して交差する第2軸線O2上に同軸で配置されている。したがって、以下の説明では、第2軸線O2の延びる方向を単に第2軸方向といい、第2軸線O2に直交する方向を第2径方向といい、第2軸線O2回りの方向を第2周方向という場合がある。また、以下の説明では、第2軸方向でステアリングホイール2に向かう方向を単に上方(第2側)とし、ステアリングホイール2とは反対側に向かう方向を単に下方(第1側)とする。
【0026】
アッパシャフト31は、シャフト本体12の前端部に接続されている。アッパシャフト31は、第1アッパヨーク41と、筒部43と、シール機構44と、を備えている。
第1アッパヨーク41は、第1アッパベース51と、第1アッパアーム52と、を備えている。第1アッパベース51は、第2軸線O2と同軸に配置された環状とされている。第1アッパアーム52は、第1アッパベース51から上方に向けて二股で延在している。第1アッパアーム52には、アッパX字軸53を介して第2アッパヨーク55が接続されている。具体的に、各第1アッパアーム52は、アッパX字軸53が有する4つの回動軸のうち、2つの回動軸をそれぞれ回動可能に支持している。
【0027】
第2アッパヨーク55は、第2アッパベース57と、第2アッパアーム58と、を備えている。
第2アッパベース57は、上述したシャフト本体12の前端部に連結されている。
第2アッパアーム58は、第2アッパベース57から下方に向けて二股に延在している。第2アッパアーム58は、上述したアッパX字軸53が有する4つの回動軸のうち、他の2つの回動軸をそれぞれ回動可能に支持している。第1アッパヨーク41、アッパX字軸53及び第2アッパヨーク55によって、アッパ自在継手59を構成している。
【0028】
筒部43は、第1アッパベース51から下方に延在している。筒部43の内周面には、雌スプラインが形成されている。筒部43の内径は、第1アッパベース51の内径よりも小さい。
【0029】
筒部43の外径は、下方に向かうに従い段々と縮小している。具体的に、筒部43は、上方に位置する大径部63と、大径部63に対して下方に位置する小径部64と、を備えている。小径部64には、上述したシール機構44が取り付けられている。なお、シール機構44の詳細については、後述する。
【0030】
ロアシャフト32は、アッパシャフト31の下端部に接続されている。ロアシャフト32は、軸部71と、第1ロアヨーク72と、を備えている。
軸部71は、第2軸線O2と同軸に配置された中実軸である。軸部71の上方部における外周面には、雄スプラインが形成されている。軸部71は、アッパシャフト31の雌スプラインに係合(噛合)した状態で、筒部43内に下方から挿入されている。軸部71は、第2周方向への回転が規制された状態で、アッパシャフト31に対して上下方向(第2軸方向)にスライド可能に構成されている。ロアシャフト32は、アッパシャフト31に対して上下方向に移動することで、車両走行時に発生する第2軸方向の変位を吸収し、ステアリングホイール2に伝わる変位や振動を抑制する。なお、軸部71のうち、アッパシャフト31から前方に突出した部分の外周面は、平滑面に形成されている。
【0031】
第1ロアヨーク72は、軸部71の下端部から下方に突出している。第1ロアヨーク72は、第1ロアベース75と、第1ロアアーム76と、を備えている。第1ロアベース75は、第2軸線O2と同軸に配置された環状とされている。第1ロアベース75内には、軸部71の下端部が嵌合されている。第1ロアベース75は、圧入等によって軸部71に接続されている。
【0032】
第1ロアアーム76は、第1ロアベース75から下方に向けて二股で延在している。第1ロアアーム76には、ロアX字軸78を介して第2ロアヨーク79が接続されている。具体的に、各第1ロアアーム76は、ロアX字軸78が有する4つの回動軸のうち、2つの回動軸をそれぞれ回動可能に支持している。
【0033】
第2ロアヨーク79は、第2ロアアーム81と、第2ロアベース82と、を備えている。
第2ロアアーム81は、上述したロアX字軸78が有する4つの回動軸のうち、他の2つの回動軸をそれぞれ回動可能に支持している。
【0034】
第2ロアベース82は、第2ロアアーム81の下端部同士を接続している。第2ロアベース82は、ステアリングギヤボックスに連結されている。なお、ステアリングギヤボックスは、ピニオンシャフトやラック軸等を備えている。ピニオンシャフトは、第2ロアベース82に接続されて、インタミシャフト15の回転に伴い回転する。ラック軸は、車幅方向に延在している。ラック軸における車幅方向の両端部は、タイロッド等を介して車輪に接続されている。ラック軸は、ピニオンシャフトの回転に伴い車幅方向に移動可能に構成されている。すなわち、シャフト本体12の回転に伴いインタミシャフト15が第2軸線O2回りに回転することで、ラック軸が車幅方向に移動して、車輪が操舵される。なお、第1ロアヨーク72、ロアX字軸78及び第2ロアヨーク79によって、ロア自在継手85を構成している。
【0035】
<シール機構>
図3は、インタミシャフト15におけるシール機構44周辺の拡大断面図である。
図3に示すように、シール機構44は、シールホルダ100と、シール部材101と、を備えている。
シールホルダ100は、保持筒110と、取付フランジ部111と、を備えている。
保持筒110内には、アッパシャフト31の小径部64が嵌合している。
取付フランジ部111は、保持筒110の下端縁から第2径方向の内側に突出している。取付フランジ部111は、ロアシャフト32の外周面に近接している。
【0036】
シール部材101は、取付フランジ部111とロアシャフト32との間に介在して、取付フランジ部111とロアシャフト32との間をシールする。具体的に、シール部材101は、付け根部120と、第1リップ部121と、第2リップ部122と、庇部123と、を備えている。
【0037】
付け根部120は、取付フランジ部111における第2径方向の内側端縁に全周に亘って取り付けられている。
第1リップ部121は、付け根部120から第2径方向の内側に突出している。第1リップ部121の先端部は、ロアシャフト32の外周面に密接している。本実施形態において、第1リップ部121は、第2径方向の内側に向かうに従い下方に向けて傾斜している。これにより、第1リップ部121は、第2径方向に撓み変形可能に構成されている。
【0038】
第2リップ部122は、付け根部120から第2径方向の内側に突出している。第2リップ部122の先端部は、ロアシャフト32の外周面に密接している。本実施形態において、第2リップ部122は、第2径方向の内側に向かうに従い上方に向けて傾斜している。これにより、第2リップ部122は、第2径方向に撓み変形可能に構成されている。
【0039】
シール部材101のうち、第1リップ部121及び第2リップ部122で囲まれた部分は、潤滑油が収容される潤滑油収容部124を構成している。潤滑油収容部124内に収容された潤滑油は、各リップ部121,122とロアシャフト32の外周面との間等に供給される。
【0040】
庇部123は、付け根部120のうち第1リップ部121よりも第2径方向の外側に位置する部分から下方に突出している。庇部123は、第1リップ部121の周囲を全周に亘って取り囲み、第2軸線O2と同軸に配置された筒状に形成されている。但し、庇部123は、第2周方向の一部が切り欠かれる等していてもよい。
【0041】
庇部123は、第2軸方向の全長に亘って一様な直径に形成されている。但し、庇部123は、下方に向かうに従い縮径又は拡径する構成であってもよい。
庇部123の前端部は、第1リップ部121よりも前方に突出している。なお、庇部123は、シールホルダ100に一体に形成されていてもよい。
【0042】
図4は、インタミシャフト15におけるシールキャップ131周辺の拡大断面図である。
図4に示すように、第1アッパベース51の内周面と、筒部43の上端面と、により画成された部分は、嵌合凹部130を構成している。嵌合凹部130は、上方及び第2径方向の内側に開口するとともに、第1アッパヨーク41の全周に亘って環状に形成されている。
【0043】
シールキャップ131は、第2軸線O2上に頂部を有する上方に向けて凸のドーム状に形成されている。本実施形態のシールキャップ131は、金属材料等の塑性変形可能な材料により一体に形成されている。シールキャップ131は、アッパシャフト31の上端開口部(第2側開口部)を閉塞した状態で、第1アッパベース51(嵌合凹部130)内に保持されている。具体的に、シールキャップ131は、シール部140と、閉塞部141と、を備えている。
【0044】
シール部140は、例えばシールキャップ131の外周端面である。シール部140は、シールキャップ131がアッパシャフト31に組み付けられた状態において、第2軸方向に沿って延びる平坦面に形成されている。シール部140は、嵌合凹部130の内面のうち、第2軸方向に沿う内周面(本実施形態では第1アッパベース51の内周面)に、第2径方向で密接している。すなわち、嵌合凹部130の内周面のうち、シール部140が密接する部分は、当接面146を構成している。当接面146は、断面視において、第2軸方向に沿って延びる平坦面に形成されている。なお、シール部140の断面視形状は、当接面146の断面視形状に倣って適宜変更が可能である。
【0045】
閉塞部141は、シール部140の内周側に連なり、第2径方向の内側に向かうに従い上方に向けて膨出している。閉塞部141は、アッパシャフト31の上端開口部を閉塞している。閉塞部141の下端外周縁は、筒部43の上端面に上方から近接又は当接している。すなわち、嵌合凹部130の内面のうち、上方を向く面(本実施形態では筒部43の上端面)は、アッパシャフト31に対するシールキャップ131の下方移動を規制する下方規制部147を構成している。本実施形態において、下方規制部147は、断面視において、第2軸方向に直交する平坦面に形成されている。但し、下方規制部147の形状は、閉塞部141の形状に倣って適宜変更が可能である。
【0046】
一方、嵌合凹部130の内周面のうち、当接面146よりも上方に位置する部分には、第2径方向の内側に張り出す上方規制部148が形成されている。上方規制部148は、第1アッパベース51の内周面に全周に亘って形成されている。上方規制部148は、シールキャップ131が組み付けられた状態において、閉塞部141の上端外周縁が下方から近接又は当接する。上方規制部148の内周縁は、下方規制部147の内周縁(筒部43の内周面)よりも第2径方向の外側に位置している。但し、上方規制部148の内周縁は、第2径方向において、下方規制部147の内周縁(筒部43の内周面)と同等に位置していてもよい。本実施形態において、上方規制部148の下面は、閉塞部141の上面に倣い、第2径方向の内側に向かうに従い上方に湾曲する湾曲面とされている。但し、上方規制部148の下面は、第2軸方向に直交する平坦面等に形成されていてもよい。
【0047】
上述した当接面146、下方規制部147及び上方規制部148は、嵌合凹部130内において、第2径方向の内側に開口するとともに、第1アッパベース51の内周面の全周に亘って延びる収容溝149を構成している。シールキャップ131は、後述する組付方法により閉塞部141が下方に向けて塑性変形させられることで、シール部140が当接面146に密接し、閉塞部141の外周縁が収容溝149内に収容された状態で、第1アッパベース51内に保持されている。なお、本実施形態では、嵌合凹部130の下方規制部147が、筒部43の上端面である場合について説明したが、この構成に限られない。嵌合凹部130は、アッパシャフト31内の任意の位置に形成することが可能である。すなわち、本実施形態では、第1アッパベース51の内周面と、筒部43の上端面と、の間に形成された段差部を嵌合凹部130とした場合について説明したが、この構成に限られない。嵌合凹部130は、第1アッパベース51の内周面と、筒部43の内周面と、が面一に形成されている場合において、第1アッパベース51の内周面や筒部43の内周面等に別途嵌合凹部130となる溝等を形成してもよい。
【0048】
<シールキャップの組付方法>
次に、上述したインタミシャフト15の製造方法として、シールキャップ131の組付方法について説明する。
図5は、シールキャップ131の組付方法を説明するための工程図である。なお、シールキャップ131は、第2アッパヨーク55等が組み付けられる前に行われる。
本実施形態のシールキャップ131は、挿入工程と、押込工程と、を経てアッパシャフト31に組み付けられる。ここで、
図5に示すように、組付前のシールキャップ131(
図5中実線A)は、組付後のシールキャップ131(
図5中鎖線B)に比べて上方への膨出量が大きいドーム状に形成されている。また、組付前のシールキャップ131の外径は、下方規制部147の内周縁の直径(本実施形態では、筒部43の内径)よりも大きく、上方規制部148の内周縁の直径よりも小さくなっている。
【0049】
挿入工程では、シールキャップ131の閉塞部141の頂部を上方に向けた状態で、アッパシャフト31の上端開口部を通して嵌合凹部130内にシールキャップ131をセットする。この際、シールキャップ131の下端外周縁が全周に亘って下方規制部147に支持された状態で、シールキャップ131をセットすることが好ましい。
【0050】
続いて、押込工程では、アッパシャフト31の上端開口部側より、シールキャップ131の閉塞部141をパンチ等(不図示)によって下方に押し込む。この際、シールキャップ131の下端外周縁は、下方規制部147に支持されているので、シール部140に対して閉塞部141が下方に向けて塑性変形しようとする。すると、シールキャップ131は、膨出量が減少するとともに、外径が拡大する方向に変形する。すなわち、閉塞部141が下方に向けて変位するとともに、シール部140が第2径方向の外側に変位する。これにより、閉塞部141の外周縁が収容溝149内に収容されるとともに、シール部140が当接面146に当接する。
【0051】
そして、シール部140が当接面146に当接した状態で、閉塞部141をさらに下方に押し込むことで、当接面146に作用するシール荷重が増加する。シール部140から当接面146に作用するシール荷重が所望の値になった時点で、押込みを解除する。なお、シール荷重は、閉塞部141に入力する押込荷重等によって判断することが可能である。本実施形態では、組付後においても、閉塞部141がドーム状(球面状)に維持されているが、この構成に限られない。閉塞部141は、押込工程で反転変形しない構成(閉塞部141全体がシール部140と第2軸方向で同等、若しくは下方に位置する構成)であれば、塑性変形後に閉塞部141の一部(例えば頂部)が平坦に形成されていてもよい。
以上により、シールキャップ131がアッパシャフト31に組み付けられる。
【0052】
このように、本実施形態のシールキャップ131は、上方に向けた凸のドーム状である閉塞部141が下方に塑性変形させられることで、シール部140がアッパシャフト31の当接面146に押し付けられた状態で、アッパシャフト31の上端開口部内に保持されている構成とした。
この構成によれば、アッパシャフト31の上端開口部がシールキャップ131により閉塞されることで、アッパシャフト31の上端開口部を通じて水等がインタミシャフト15の嵌合部内に進入するのを抑制できる。これにより、インタミシャフト15の腐食等を抑制し、耐久性を向上させることができる。これにより、アッパシャフト31及びロアシャフト32の軸方向移動が長期に亘ってスムーズに行われる。
特に、本実施形態では、閉塞部141の塑性変形によってシール部140をアッパシャフト31の当接面146に押し付けるので、閉塞部141の押込み量によってシール荷重を適宜調整することができる。これにより、従来のように圧入荷重の調整のためにはめあい寸法等を管理する場合に比べて寸法管理が容易になる。
また、閉塞部141の押込みによってシールキャップ131の組付が完了するので、従来のように圧入後にカシメ工程を行う場合に比べ、製造効率の向上や低コスト化を図ることができる。
その結果、製造効率の向上及び低コスト化を図った上で、シールキャップ131とアッパシャフト31との間のシール性を長期に亘って確保できる。
【0053】
本実施形態では、アッパシャフト31がシールキャップ131の下方移動を規制する下方規制部147を備える構成とした。
この構成によれば、組付前のシールキャップ131の外径を、下方規制部147の内径よりも大きくしておくことで、シールキャップ131をアッパシャフト31内に挿入する際に、下方規制部147によってアッパシャフト31に対するシールキャップ131の第2軸方向での位置決めを行うことができる。これにより、組付性を向上させることができる。
一方、組付後においても、アッパシャフト31に対するシールキャップ131の下方移動を下方規制部147によって規制できるので、シールキャップ131の抜け等を抑制できる。
【0054】
本実施形態では、閉塞部141が塑性変形させられた状態でシールキャップ131に第2軸方向で当接する上方規制部148がアッパシャフト31に形成された構成とした。
この構成によれば、組付後において、アッパシャフト31に対するシールキャップ131の上方移動を上方規制部148によって規制できるので、シールキャップ131の抜け等を抑制できる。
また、組付前のシールキャップ131の外径を上方規制部148よりも小さくすることで、シールキャップ131をアッパシャフト31に挿入する際にシールキャップ131と上方規制部148との干渉を抑制できる。その結果、組付性の向上も図ることができる。
【0055】
本実施形態では、閉塞部141が塑性変形させられた状態で、シールキャップ131の外周縁を収容する収容溝149がアッパシャフト31の内周面に全周に亘って形成された構成とした。
この構成によれば、シールキャップ131の外周縁が全周に亘って収容溝149内に収容されるので、アッパシャフト31内にシールキャップ131を安定して保持できる。
【0056】
本実施形態では、アッパシャフト31及びシールキャップ131が平面視円形状に形成される構成とした。
この構成によれば、シールキャップ131の半径を全周に亘って一様に形成できるので、塑性変形時にシール部140が均等に広がりやすい。その結果、アッパシャフト31の内周面に対してシール荷重を全周に亘って均等に作用させることができる。
【0057】
本実施形態のステアリング装置1では、上述したインタミシャフト15を備えているので、耐久性に優れたステアリング装置1を提供できる。
【0058】
(その他の変形例)
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は上述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
例えば、上述した実施形態では、インタミシャフトの上下両端部に自在継手が設けられた構成について説明したが、この構成に限られない。
上述した実施形態では、筒状のアッパシャフト31の上端開口部にシールキャップ131が組み付けられた構成について説明したが、この構成に限られない。ロアシャフト32が筒状(アウタシャフト)で、アッパシャフト31が中実軸(インナシャフト)に形成されている場合には、ロアシャフト32の下端開口部にシールキャップが嵌合される構成であってもよい。アッパシャフト31及びロアシャフト32の双方が筒状に形成されている場合には、少なくとも一方のシャフト内にシールキャップが嵌合されていればよい。
上述した実施形態では、ロアシャフト及びアッパシャフトが断面円形に形成された構成された構成について説明したが、この構成に限られない。ロアシャフト及びアッパシャフトの断面視形状は、多角形状等であってもよい。
【0059】
上述した実施形態では、本発明に係るスライドシャフトとして、ロアシャフトとアッパシャフトの2段構成のインタミシャフトについて説明したが、この構成に限らず、3段構成にしてもよい。
上述した実施形態では、本発明に係るスライドシャフトとして、シャフト本体12とステアリングギヤボックスとの間を接続するインタミシャフトを例にして説明したが、この構成に限られない。シャフト本体12がスライドシャフトである構成にも適用可能である。
【0060】
上述した実施形態では、シールキャップ131の外周縁が嵌合凹部130内に収容される構成について説明したが、嵌合凹部130を有しない構成であってもよい。すなわち、シールキャップ131のシール部140がアウタシャフトの内周面に密接する構成であればよい。
また、上述した実施形態では、収容溝149における第2軸方向を向く面がそれぞれ規制部147,148として機能する構成について説明したが、この構成に限られない。例えば、アウタシャフトの内周面から第2径方向の内側に突出する上方規制部及び下方規制部をそれぞれ独立して形成してもよい。この場合、各規制部は、アウタシャフトの内周面において、第2周方向の全周に連続的に形成されていても、第2周方向に間欠的に形成されていてもよい。
【0061】
上述した実施形態では、シールキャップ131がドーム状に形成されている構成について説明したが、この構成に限られない。シールキャップは、例えば有底筒状等、塑性変形可能な閉塞部を有する構成であればよい。この場合、閉塞部を塑性変形可能な材料により構成し、シール部を弾性変形可能な材料により形成してもよい。
【0062】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…ステアリング装置
2…ステアリングホイール
12…シャフト本体
15…インタミシャフト(スライドシャフト)
16…ステアリングシャフト
31…アッパシャフト(アウタシャフト)
32…ロアシャフト(インナシャフト)
131…シールキャップ
140…シール部
141…閉塞部
147…下方規制部(第1規制部)
148…上方規制部(第2規制部)