(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】樹脂流動可視化方法
(51)【国際特許分類】
G01P 13/00 20060101AFI20230324BHJP
G01N 33/44 20060101ALN20230324BHJP
G01M 99/00 20110101ALN20230324BHJP
G01N 23/2252 20180101ALN20230324BHJP
【FI】
G01P13/00 D
G01N33/44
G01M99/00 Z
G01N23/2252
(21)【出願番号】P 2019082899
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】安永 文浩
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 要平
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-174684(JP,A)
【文献】特開平06-160257(JP,A)
【文献】特開2010-256095(JP,A)
【文献】特開2006-058270(JP,A)
【文献】G.Fischer, et al.,Measuring Spatial Fiber Orientation -A Method for Quality Control of Fiber Reinforced Plastics,Advances in Polymer Technology,1990年,Vol.10, No.2,pp.135-141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 13/00
G01N 1/00-37/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の樹脂に微小針状物を添加し混練して樹脂混練物を調製する樹脂混練工程と、
前記樹脂混練物を成形し樹脂成形体を得る成形工程と、
前記樹脂成形体を該樹脂成形体の表面から所定の深さにより研磨して成形体内面を露出させる研磨工程と、
前記成形体内面における前記微小針状物の長さ方向の向きを観察部により取得する方向取得工程と、を備え
、
前記観察部は、前記成形体内面の前記微小針状物の長さ方向の向きを取得し、前記樹脂成形体の前記成形体内面における樹脂の流動方向を解析する流動解析部を備え、
前記方向取得工程において、前記流動解析部は、前記観察部を通じて取得される撮像画像を取り込み、前記撮像画像を各解析領域に分割し、個々の解析領域において前記微小針状物の長さ方向を確認し、前記微小針状物の長さ方向をベクトル表示し、個々の領域解析のベクトル表示を組み合わせて前記撮像画像全体における樹脂の流動方向の表示を形成する
ことを特徴とする樹脂流動可視化方法。
【請求項2】
前記方向取得工程において、前記流動解析部が前記撮像画像全体における樹脂の流動方向の表示を形成するに際し、前記流動解析部は、個々の解析領域の主流の前記ベクトル表示を抽出し、周囲の解析領域を複数集約し、集約された解析領域の主流のベクトル表示を抽出する過程を繰り返して前記撮像画像全体における樹脂の流動方向の表示を形成する請求項1に記載の樹脂流動可視化方法。
【請求項3】
前記微小針状物が、タルク、炭素繊維、またはガラス繊維から選択される請求項1
または2に記載の樹脂流動可視化方法。
【請求項4】
前記微小針状物の添加量は、前記樹脂成形体の重量の5ないし15重量%を占める請求項1
ないし3のいずれか1項に記載の樹脂流動可視化方法。
【請求項5】
前記観察部が電子プローブマイクロアナライザである請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の樹脂流動可視化方法。
【請求項6】
前記観察部が光学顕微鏡である請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の樹脂流動可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂流動可視化方法に関し、特に樹脂成形品における流動の良否を可視化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品を製造する場合、生産効率の点から射出成形が多用される。射出成形では、溶融状態の樹脂が型内に流入し、冷却後に脱型され成形品が出来上がる。型内の形状いかんにより、型内へ流入した樹脂の型内への回り込みに偏り等が生じ、良好な成形が得られないことがある。そこで、樹脂成形品の樹脂流動状態の把握に際し、CAE(Computer Aided Engineering)による解析、シミュレーションが利用されている。しかしながら、CAEによる解析から取得される情報は予測に留まる。
【0003】
このため、より正確に樹脂の流動状態を把握するためには、実際に成形を終えた樹脂成形体の表面、内面を観察することが行われている(例えば、特許文献1,2等参照)。特許文献1の樹脂流動状態可視化方法によると、観察対象面にエッチングが施される。また、特許文献2の流動可視化方法によると、酸化防止剤を添加しない樹脂を金型に射出して成形し、脱型後に酸化劣化させて成形品表面の樹脂の流れ痕を観察する方法である。
【0004】
実際に樹脂成形品を作成した後に、当該成形品における樹脂の流動の様子を観察することは、前述の方法のとおり後処理の工程が必要となる等煩雑である。また、観察の精度も満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-114364号公報
【文献】特開2017-30332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一連の経緯を踏まえ、発明者は、樹脂成形品への添加物を利用して比較的簡便に成形後の樹脂の流動の様子を観察する方法を見いだした。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、成形後の成形品に要する観察のための加工を極力減らし、しかも、詳細な成形時の樹脂の流動の様子を把握可能とする樹脂流動可視化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の形態の樹脂流動可視化方法は、溶融状態の樹脂に微小針状物を添加し混練して樹脂混練物を調製する樹脂混練工程と、樹脂混練物を成形し樹脂成形体を得る成形工程と、樹脂成形体を該樹脂成形体の表面から所定の深さにより研磨して成形体内面を露出させる研磨工程と、成形体内面における微小針状物の長さ方向の向きを観察部により取得する方向取得工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
第2の形態の樹脂流動可視化方法では、微小針状物が、タルク、炭素繊維、またはガラス繊維から選択されることを特徴とする。
【0010】
第3の形態の樹脂流動可視化方法では、微小針状物の添加量は樹脂成形体の重量の5ないし15重量%を占めることを特徴とする。
【0011】
第4の形態の樹脂流動可視化方法では、観察部が電子プローブマイクロアナライザであることを特徴とする。
【0012】
第5の形態の樹脂流動可視化方法では、観察部が光学顕微鏡であることを特徴とする。
【0013】
第6の形態の樹脂流動可視化方法では、観察部に成形体内面の微小針状物の長さ方向の向きを取得し、樹脂成形体の成形体内面における樹脂の流動方向を解析する流動解析部が備えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂流動可視化方法によると、溶融状態の樹脂に微小針状物を添加し混練して樹脂混練物を調製する樹脂混練工程と、樹脂混練物を成形し樹脂成形体を得る成形工程と、樹脂成形体を該樹脂成形体の表面から所定の深さにより研磨して成形体内面を露出させる研磨工程と、成形体内面における微小針状物の長さ方向の向きを観察部により取得する方向取得工程とを備えるため、成形後の成形品に要する観察のための加工を極力減らし、しかも、詳細な成形時の樹脂の流動の様子を把握可能とする樹脂流動可視化方法を確立することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(a)、(b)及び(c)は樹脂流動可視化方法を示す第1の工程模式図である。
【
図2】
図2(a)、(b)、(c)及び(d)は樹脂流動可視化方法を示す第2の工程模式図である。
【
図3】
図3は樹脂成形品における観察部位を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は樹脂成形品の表面部の樹脂の流動状態を流動方向線とともに示す模式図である。
【
図5】
図5(a)及び(b)は樹脂成形品の中間部の樹脂の流動状態を示す模式図である。
【
図6】
図6(a)及び(b)は樹脂成形品の中間部の樹脂の流動状態を流動方向線とともに示す模式図である。
【
図7】
図7は樹脂成形品の深部の樹脂の流動状態を流動方向線とともに示す模式図である。
【
図8】
図8は流動解析部の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は流動解析部の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
樹脂流動可視化方法は、完成した樹脂成形体における表層部から深部までを研磨して各層を露出させた後、当該露出面を観察する方法である。特に、射出成形により樹脂成形体を形成する際、金型内部の形状により、金型内の樹脂の流動に偏り等が生じる。そのため、成形不良、成形体の強度不良を招来しかねない。それゆえ、樹脂の流動状態を可視化して解析する要望は高い。
図1及び
図2の工程模式図を用い、順に実施形態の樹脂流動可視化方法を説明する。
【0017】
はじめに、樹脂成形体の主原料となる樹脂が用意される。この樹脂は公知の種類の樹脂でありポリオレフィン系樹脂のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等である。加えて、ポリエステル系樹脂のポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)等である。さらには、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂等である。後述する射出成形に使用可能な樹脂であれば、特段限定されない。なお、実施形態によると、ポリプロピレン(融点133℃)を使用している。
【0018】
併せて、当該樹脂に添加される微小針状物(長尺状微粉末)も用意される。好ましい微小針状物はタルク(滑石)である。タルクは樹脂成形体に混入される添加物として従前より使用されている。タルクは微粉末状に加工される。タルクの微粉末は、概ね断面径約2μm、全長約8μmの長尺の直方体状となる。当該形状により、溶融状態の樹脂の流動方向はタルクの長さ方向として揃い、タルクの長さ方向(長尺方向)の向きを通じて樹脂の流動方向が指し示される。微小針状物としては、炭素繊維、ガラス繊維も含められる。炭素繊維とガラス繊維は5ないし15μmの繊維長に裁断されて用いられる。以降の説明は、微小針状物としてタルクを使用した例である。
【0019】
図1(a)では、樹脂11と微小針状物12(タルクの微粉末)が射出成型装置10のホッパ21内に投入される。樹脂11と微小針状物12はシリンダ22に供給され、同シリンダ22の加熱により、樹脂は溶融状態となり添加された微小針状物12と混練され、樹脂混練物が調製される(「樹脂混練工程」)。この時点では、溶融状態の樹脂11中の微小針状物12は均等に分散されているものの、微小針状物12の向き(長さ方向)はそれぞれ不均一である。
【0020】
図1(b)では、シリンダ22内の樹脂混練物はスクリュ(図示せず)によりシリンダ22の先端のノズル23から吐出される。樹脂混練物は、第1金型31(固定金型、キャビティ)と第2金型32(可動金型、コア)により形成された型内空間33内に流入する。
【0021】
図1(c)では、十分量の樹脂混練物が型内空間33に流入後、冷却を経て第1金型31(固定金型、キャビティ)と第2金型32(可動金型、コア)から樹脂成形体35が取り出された状態である。この段階にて樹脂成形体35が完成する(「成形工程」)。
【0022】
微小針状物12の添加量は、樹脂成形体35の重量の5ないし15重量%を占めている。樹脂11に対する微小針状物12の配合量が少なすぎる場合、微小針状物12は後述の観察に必要な目印としての機能を果たし得ない。また、樹脂11に対する微小針状物12の配合量が多すぎる場合、樹脂成形体35自体の強度が低下する。また、微小針状物12が母材の樹脂に比して多くなり、微小針状物自体が検出されにくくなる。従って、前述の範囲が好ましい。微小針状物12の添加量の範囲は、タルクに限らず、炭素繊維、ガラス繊維においても同様である。
【0023】
続いて、
図2(a)は射出成形により出来上がった樹脂成形体35であり、
図2(b)に示すとおり、樹脂成形体35の表面から所定の深さ分が研磨により削り取られる。そこで、成形体内面36(成形体研磨面)が露出される(「研磨工程」)。樹脂成形体35の表面は金型との接触する面であり、当該樹脂成形体35の最外面である。そして、樹脂成形体35の内部は、研磨による削り取りによりはじめて露出する。
【0024】
樹脂成形体35を研磨する際の深さは、樹脂成形体の大きさ、形状、樹脂種類等により適宜である。また、研磨は公知の方法、装置により行われる。そこで、樹脂成形体35の表面(金型との接触面)からの、それぞれの距離(深さ)の位置が露出される。
【0025】
図2(c)では、前述の研磨により生じた成形体内面36における微小針状物12の長さ方向の向きは、観察部40により取得される(「方向取得工程」)。図示は観察部40による成形体内面36の観察の様子である。観察結果は、例えば
図2(d)の観察部40に接続されているディスプレイ等の表示部106に表示される。
【0026】
当該観察に際し、観察部40として電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron probe micro analyzer)が用いられる。電子プローブマイクロアナライザは、試料となる成形体内面36に対し、同装置から電子線を照射し、照射部位から発生する特性X線等を計測して分析する。
【0027】
電子プローブマイクロアナライザは複数種類の原子を感度良く検出することができ、定性分析に優れる。実施形態によると、樹脂成形体35の母材はポリプロピレン樹脂であり炭化水素である。そして、微小針状物12はタルクであり、水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる。そこで、タルクのマグネシウム、ケイ素等が母材の樹脂とは別に検出可能となる。従って、微小針状物12として添加したタルクが母材の樹脂とは異なる種類として鋭敏に検出される。むろん、微小針状物12としてガラス繊維を使用する場合も同様である。
【0028】
また、観察部40として光学顕微鏡を使用することもできる。光学顕微鏡の場合、背景は母材の樹脂であり、微小針状物とのコントラストにより検出、判別が可能である。光学顕微鏡は電子プローブマイクロアナライザよりも安価であり取り扱いも容易である。また、倍率の調整により鋭敏な観察は可能である。さらに、微小針状物12として炭素繊維を使用する場合、母材と微小針状物は炭素同士の同元素となり、電子プローブマイクロアナライザによる検出に支障を来す。その場合、光学顕微鏡が代用される。
【0029】
図3は、研磨工程における樹脂成形体35の表面から所定の深さにより研磨した際の研磨位置を模式的に示している。当該樹脂成形体35の全体の厚さは3mmである。表面部Pは樹脂成形体35の表面そのものであり、ほぼ研磨はされていない。中間部Qは、樹脂成形体35の最外表面から約1.5mmの深さ位置まで研磨して削り取られて露出する成形体内面36(成形体研磨面)である。深部Rは中間部Qよりもさらに深く研磨して削り取られて露出する成形体内面36である。図示では、樹脂成形体35の表面側の断面を示している。実際には、表面部Pの研磨による削り取りにより、中間部Qの表面が露出する。そして、さらに中間部Qの研磨による削り取りにより、深部Rの表面が露出する。
【0030】
図4は、樹脂成形体35の表面部Pにおける樹脂の流動方向について微小針状物12を介して示している模式図である。
図5及び
図6は中間部Qにおける樹脂の流動方向模式図であり、
図7は深部Rにおける樹脂の流動方向模式図である。
図4、
図6、
図7における太実線が解析により求められた樹脂の流動方向線(仮想線)である。
【0031】
成形体内面36における微小針状物12の長さ方向の向きの観察は、撮像画像を元に目視により流動方向を見定めることができる。しかしながら、目視とする場合、時間を要することと、個人間の画像の読み取りのばらつきが生じやすい。そのため、微小針状物の長さ方向の向きの観察は自動化されることが望ましい。
【0032】
観察部40を通じて取得された観察対象の表面領域の解析のため、観察部40に流動解析部50が備えられる。観察部40から流動解析部50に表面観察の情報が送信される(後出の
図8参照)。そして、流動解析部50は、樹脂成形体35の表面を含む成形体内面36の微小針状物12の長さ方向の向きを取得する。個々の微小針状物12の長さ方向の向きは、ちょうど方向を示すベクトルの役割を果たす。そこで、解析領域の微小針状物12を通じて樹脂成形体の成形体内面35における樹脂の流動方向の解析が可能となる。
【0033】
解析領域の撮像を通じて個々の微小針状物の長さ方向の向きが取得される。即ち、微小針状物について、その中心を成形体表面中(画像中)の座標とし、微小針状物の長手方向の向きを向くベクトルとして特定する。これを検出できる各微小針状物についてベクトルを生成することにより、樹脂の流動方向が特定される。その結果、解析領域において最も多くの微小針状物の長さ方向の向きが当該解析領域における主流の樹脂の流動方向になる。これを、順次各解析領域の全てについて行うことにより、対象の全範囲の樹脂の流動方向が把握可能となる。なお、撮像を通じての微小針状物の長さ方向の向きが取得、その解析に際しては、公知の画像解析のソフトウェアが活用される。
【0034】
一例として、電子プローブマイクロアナライザまたは光学顕微鏡による撮像画像が流動解析部50に取り込まれる。撮像画像は各解析領域(例えば0.5mm×0.5mmの範囲)に分割される(領域分割ステップ)。個々の解析領域において微小針状物(タルク)の長さ方向が確認される(方向確認ステップ)。この微小針状物(タルク)の長さ方向がベクトル表示される(ベクトル表示ステップ)。そして、個々の解析領域のベクトル表示が組み合わせられ、最終的に撮像画像全体における樹脂の流動方向の表示が形成される(表示形成ステップ)。むろん、流動方向の解析方法はこれに限らず適宜である。
【0035】
図4では、微小針状物12の長さ方向の向きがほぼ同一である。従って、樹脂成形体35の表面部Pにおける樹脂の流動方向は、同一方向に揃っていることがわかる。また、
図7の深部Rにおいても微小針状物12の長さ方向の向きがほぼ同一であり、樹脂の流動方向は、同一方向に揃っていることがわかる。
【0036】
次に、
図5(a)では、微小針状物12の長さ方向の向きが不揃いである。そのため、
図6(a)の解析により求められる樹脂の流動方向線は波打っていたり、向きが異なっていたりする。すなわち、
図5(a)の成形においては、成形時に型内に流入した樹脂の流動方向にばらつきが生じたため、型内の樹脂の流動が安定していないことが判明する。これに対し、
図5(b)では、微小針状物12の長さ方向の向きは半円状(円弧状)に並ぶ。
図6(b)の解析により求められる樹脂の流動方向線は、概ね半円状(円弧状)の波状となる。これは、型内の樹脂の流動が安定している状態である。
【0037】
このように、微小針状物を介して樹脂の流動は可視化される。そこで、型内の樹脂の流動の良否の解析はより進展する。さらに、当該流動方向の解析結果については、発展的にCAEの基礎データにも取り入れ可能であり、CAEにおける流動方向の解析精度を高めるための資料としても有用である。
【0038】
これより、
図8のブロック図を用い流動解析部50の構成を説明する。流動解析部50は、ハードウェア的にCPU、ROM、RAM、記憶部により構成される。その他にメインメモリ、LSI等も含まれる。またソフトウェア的に、メインメモリにロードされた流動方向解析プログラム等により実現される。流動解析部50は、パーソナルコンピュータ(PC)、メインフレーム、ワークステーション、クラウドコンピューティングシステム等、種々の電子計算機(計算リソース)を用いて実現できる。また、後出の他の装置内への組み込み可能な装置としても設計される。
【0039】
流動解析部50の各機能部をソフトウェアにより実現する場合、流動解析部50は各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行することで実現される。このプログラムを格納する記録媒体は、「一時的でない有形の媒体」、例えば、CD、DVD、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、このプログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して流動解析部50等のコンピュータに供給されてもよい。
【0040】
流動解析部50における各種の記憶部は、ROM102、RAM103であり、HDDまたはSSD等の公知の記憶装置(図示せず)である。また、演算処理を実行する各機能部はCPU101等の演算素子である。さらに、流動解析部50は、入力部104、出力部105、表示部106等を備える。表示部106は、公知のディスプレイ(液晶表示装置、有機EL表示装置等)である。
【0041】
入力部104と出力部105は通信(送受信)用のインターフェース、バッファ等である。観察部40が検出した検出信号は入力部104に入力される。その後、D/A変換回路(図示せず)を経て、CPU101、RAM103に送信される。出力部105からは、ディスプレイ等の表示装置である表示部106へ、CPU101による演算、解析処理の結果等が表示される。
【0042】
次に、
図9のフローチャートを用い流動解析部50における樹脂流動可視化方法の流れの一例を説明する。実施形態の樹脂流動可視化方法の処理は、電子プローブマイクロアナライザまたは光学顕微鏡による撮像画像を流動解析部50に取り込んだ後、領域分割ステップ(S110;領域分割部)、方向確認ステップ(S120;方向確認部)、ベクトル表示ステップ(S130;ベクトル表示部)、表示形成ステップ(S140;表示形成部)の順に処理が進む。撮像画像、解析領域とその中のベクトル表示等の各ステップにおいて取得されたデータ、算出、演算等の結果はRAM103に記憶される。各ステップは、CPU内の機能部(括弧内に併記)にて実行される。
【0043】
領域分割ステップ(S110)の処理は、撮像画像を個々の解析領域(例えば0.5mm×0.5mmの範囲)に分割する。方向確認ステップ(S120)の処理は、個々の解析領域において微小針状物(タルク)の長さ方向を確認する。ベクトル表示ステップ(S130)の処理は、微小針状物(タルク)の長さ方向をベクトルとして表示する。表示形成ステップ(S140)の処理は個々の解析領域のベクトル表示を組み合わせ、最終的に撮像画像全体における樹脂の流動方向の表示を形成する。具体的には、個々の解析領域の主流のベクトル表示が抽出される。そして、周囲の解析領域が複数集約され、当該集約された解析領域の主流のベクトル表示が抽出される。この過程が繰り返され、最終的に撮像画像全体における樹脂の流動方向の表示が形成される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の樹脂流動可視化方法は、樹脂成形体内に添加された微小針状物の長さ方向を介して樹脂の流動方向を観察するため、極めて正確に可視化可能である。そこで、従来の方法よりも高感度の可視化により、正確な流動方向の解析に寄与する。
【符号の説明】
【0045】
10 射出成型装置
11 樹脂
12 微小針状物(長尺状微粉末)
21 ホッパ
22 シリンダ
23 ノズル
31 第1金型(固定金型)
32 第2金型(可動金型)
33 型内空間
35 樹脂成形体
36 成形体内面
40 観察部
50 流動解析部
P 表面部
Q 中間部
R 深部
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 入力部
105 出力部
106 表示部