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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】管網解析方法、管網解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20230324BHJP
   G06F 30/18 20200101ALI20230324BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20230324BHJP
   E03B 1/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/18
G06Q50/06
E03B1/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019094511
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2020190820
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503063168
【氏名又は名称】東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】深見 洋介
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳平
(72)【発明者】
【氏名】大石 剛
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-256262(JP,A)
【文献】特開平11-144176(JP,A)
【文献】特開平09-259158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
G06Q 50/06
E03B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに管網解析処理を実行させるためのプログラムであって、
特定領域全域の管網の管網図に対して境界線を引いて、前記境界線によって前記管網を分割するブロックを形成するステップと、
前記ブロックの一つを特定し、特定されたブロックの周囲で前記境界線と前記管網の管路施設との交点を特定するステップと、
前記交点の管網状態を、全域の管網に対して予め行われた全体管網解析の結果から抽出し、前記交点における流向が前記特定されたブロックの内側に向く場合に、当該交点を流入点とし、前記交点における流向が前記特定されたブロックの外側に向く場合に、当該交点を流出点とするステップと、
前記全体管網解析の結果から、前記流入点における流入量と前記流出点における流出量を特定し、当該流入量と流出量を加えて、前記特定されたブロック内の管網解析を行うステップとを有することを特徴とする管網解析プログラム。
【請求項2】
前記特定されたブロックと前記境界線を挟んで隣接する他のブロックを特定するステップと、
前記特定されたブロックと前記他のブロックとの間の前記境界線と、該境界線上の前記流入点及び前記流出点とを消去するステップと、
前記特定されたブロックと前記他のブロックを統合したブロック内の管網解析を行うステップとを有することを特徴とする請求項記載の管網解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管網解析方法及び管網解析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市部に付設されている水道管やガス管などの流体輸送管は、所定面積の地域内で、複数の接続点で網状に管路を結んだ管網(pipe network)を形成している。管網内では、輸送流体の需要変動によって流量や圧力といった管網状態が変化しており、また、配管施設の更新や拡張、或いは流体の漏洩や工事等に伴う管路の遮断などといった、施設状況の変化によっても、管網状態は変化する。
【0003】
管網状態は、特定の地域毎に流体供給事業者(自治体やガス供給事業者など)によって管理されている。輸送流体を需要先に安定供給するためには、管網状態の把握を定期的に行うことが必要であり、また、大規模漏洩の発生などの緊急時には、漏洩発生等による管網状態の変化を速やかに把握することが必要になる。
【0004】
管網状態の把握は、コンピュータ・シミュレーションによる管網解析によって行われている。管網解析は、上水道を例にすると、配水池や流出点、ポンプ、減圧弁、管路接続点を抽象化した節点(ノード)と、これらを繋ぐ管路から、管網モデルを作成し、データベース化されている施設情報などの管網データと現在の池の水位や管路の流量などのオンラインで送信されてくる観測情報を基に、現状の管網状態(各ノードやノード間の管路における水圧,流量,流向など)を解析する。
【0005】
管網解析は、流体供給事業者が一般に使用しているコンピュータの処理能力に限界があることから、ノード点数が多い大規模な管網を対象にすると解析処理に多大な時間を要する。このため、定期的或いは緊急時に管網状態の変化を把握したい場合に、速やかに解析結果を得ることができない問題が生じる。
【0006】
この問題に対しては、解析対象の管網モデルを複数のブロックに分割して、処理時間の短縮を図ることが行われている。下記特許文献1に記載された従来技術によると、配水場やポンプやバルブなどの制御点を基点として、複数のブロックを構成しており、複数の制御点から所定数の制御点を選択し、選択された制御点一つに対して一つのブロックを構成し、各ブロックを互いに上下関係で結び付け、各ブロックは、境界の管路を通して自らのブロックの上位のブロック及び下位のブロックと流体の輸送状態に関するデータの授受を行うことで、自らのブロック内の管網解析を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-21500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した従来技術によると、多数の制御点や観測点が存在する管網において、各制御点に関する管網解析を特定のブロック内で行うので、多数の供給源が存在する管網の解析処理を高速化することができる。
【0009】
しかしながら、供給源の数が少ない管網であっても、ノード数が多数になり、管網が大規模化することがある。このような場合には、前述した従来技術のように、制御点(供給源)一つに対して一つのブロックを構成していては、ノード数の少ないブロックを構成することができず、解析処理を短時間で行うことができなくなる。
【0010】
また、前述した従来技術は、制御点毎のブロックで計算された管網解析の結果を統合して、全体の管網の解析結果を得るためのものであり、各ブロックが固定されていて、常に下位のブロックから上位のブロックに向けて解析を進めることが前提になっている。このため、全体の管網解析の結果を得た後に、管網状態の変化が著しいと考えられる箇所を任意に選択してブロックを構成し、そのブロック内の解析結果を速やかに且つ高い精度で得たい場合などには適用することができない。
【0011】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、制御点の少ない管網であっても適正にブロック化して解析処理時間の短縮を可能にすること、全体の管網解析の結果を得た後に、特定箇所を任意に選択してブロックを構成し、そのブロック内の解析結果を速やか且つ高い精度で得られるようにすること、などが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために、本発明の管網解析方法或いは管網解析プログラムは、以下の構成を具備するものである。
【0013】
管網解析を行う方法或いはコンピュータに管網解析処理を実行させるためのプログラムであって、特定領域全域の管網の管網図に対して境界線を引いて、前記境界線によって前記管網を分割するブロックを形成する工程或いはステップと、前記ブロックの一つを特定し、特定されたブロックの周囲で前記境界線と前記管網の管路施設との交点を特定する工程或いはステップと、前記交点の管網状態を、全域の管網に対して予め行われた全体管網解析の結果から抽出し、前記交点における流向が前記特定されたブロックの内側に向く場合に、当該交点を流入点とし、前記交点における流向が前記特定されたブロックの外側に向く場合に、当該交点を流出点とする工程或いはステップと、前記全体管網解析の結果から、前記流入点における流入量と前記流出点における流出量を特定し、当該流入量と流出量を加えて、前記特定されたブロック内の管網解析を行う工程或いはステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このような特徴を有する本発明は、制御点の少ない管網であっても適正にブロック化して、解析処理時間の短縮が可能になる。また、全体の管網解析の結果を得た後に、特定箇所を任意に選択してブロックを構成し、そのブロック内の解析結果を速やか且つ高い精度で得ることができる。これによって、工事計画及び漏洩事故などの対策に、解析が必要なブロックを特定して、速やか且つ高い精度でブロック内の管網解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】コンピュータに管網解析を行わせるためのシステム構成例を示した説明図である。
図2】管網解析方法或いは管網解析プログラムの手順を示した説明図である。
図3】特定領域の管網図を表示した表示画面を示した説明図である。
図4】管網図に境界線を引いた状態を示す説明図である。
図5】特定したブロックの境界線上に流入点と流出点を設定した状態の説明図である。
図6】ブロック1とブロック2を統合した状態を示した説明図である。
図7】ブロック1とブロック2を統合する場合の処理手順を示した説明図である((a)が統合する前の状態、(b)が統合した後の状態)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0017】
本発明の実施形態に係る管網解析方法は、図1に示すようなコンピュータ・シミュレーションシステムによって実行される。管網解析を行うコンピュータ1には、解析対象となる既設管網の施設情報である管網データのデータベース2から管網解析に必要な情報が入力される。また、既設の管網に対して、更新・拡張を行う場合には、それに応じた情報が更新・拡張情報入力手段3から入力される。更には、現在の配水池の水位や各管路の流量或いは各需要先での需要量などが、各観測点4で計測され、その計測値がネットワーク5を介してコンピュータ1に入力される。
【0018】
コンピュータ1には、前述した情報の入力を基にして管網解析を行うプログラムがインストールされている。このプログラムは既知の解析プログラムによって行われる全体管網解析のステップS0を加えて、以下の処理を実行するステップS1~S4を備え、各ステップで、本発明の実施形態に係る管網解析方法の各工程が実行される。
【0019】
ステップとしては、図2に示すように、予め行われる全体管網解析ステップS0に対して、ブロック形成ステップS1、交点特定ステップS2、流入点・流出点設定ステップS3、ブロック内解析ステップS4を有する。
【0020】
全体管網解析ステップS0は、特定領域の管網の全域に対して既知の方法で管網解析を行うもので、解析対象となる特定領域の管網の諸情報をデータベース2から取得し、図3に示すような管網図を表示すると共に、各ノードや管路などの管網施設において、水圧、流量、流向などを算出する。図3において、Rは、管網内に配備されている配水池を示しており、Pは、管網内に配備されているポンプ場を示している。
【0021】
本発明の実施形態に係るステップは、ステップS0の結果を踏まえて定期的或いは緊急時に行われるものである。ブロック形成ステップS1は、解析対象とするブロックを形成するもので、図4に示すように、前述したステップS0で表示した管網図に対して境界線Bを引いて、境界線Bによって全域の管網を複数のブロックに分割する。図示の例では、破線で示した境界線Bによって、全域の管網をブロック1~4に分割している。
【0022】
次の交点特定ステップS2は、前述したブロックの一つを特定し、特定されたブロックの周囲で、境界線Bと管網の管路施設との交点を特定する。境界線Bは、表示された管網図に対して任意に設定することができ、設定された境界線Bは、全域の管網における管路やノードなどと交差することになるが、ここでは、その交差点が特定される。
【0023】
次の流入点・流出点設定ステップS3は、特定した交点における管網状態を、ステップS0における全域の管網解析の結果から抽出し、交点における流向が、特定されたブロックの内側に向く場合に、その交点を流入点とし、交点における流向が、特定されたブロックの外側に向く場合に、その交点を流出点とする。
【0024】
すなわち、図4に示すように分割されたブロック1~4のうち、ブロック1を解析対象とする場合には、図5に示すように、境界線Bに交差する管路などの交点m1~m4を特定し、その交点における流向をステップS0の全体管網解析の結果から抽出する。図5に示した例では、◎を流出点とし、○を流入点として示しており、交点m1,m2,m3は、流向がブロックの外側に向いているので、それぞれ流出点(◎)とし、交点m4は、流向がブロックの内側に向いているので、流入点(○)としている。
【0025】
そして、ブロック内解析ステップS4では、ステップS0における全体管網解析の結果から、前述した流入点(○)における流入量と前述した流出点(◎)における流出量を特定し、この流入量と流出量を加えて、特定されたブロック内の管網解析を行う。すなわち、特定されたブロック1内の管網解析を行うに際して、ブロック1における境界線Bの全長で、流入点(○)における流入量と流出点(◎)における流出量を演算処理に加えて、ブロック1内の管網解析を行う。
【0026】
このような管網解析方法或いはこの管網解析方法をコンピュータに実行させるプログラムによると、管網解析の対象域をブロック化することで、解析対象のノード点を減らすことができるので、解析時間の短縮が可能になる。そして、その際に、ブロックの境界線と管網施設との交点に前述した流入点(○)と流出点(◎)を設定して、境界線を介してブロックに流入・流出する水量を解析に加味することができるので、ブロック内の管網解析の結果を全域の管網解析の結果に整合させることができ、ブロック内の管網解析を高い精度で得ることができる。
【0027】
このような管網解析方法によると、緊急時の管網解析は、境界線Bによって分割された一つのブロックに対して行うことになるが、例えば、図6に示すように、境界線Bの近くで新たに漏水事故などが発生した場合には、境界線Bを挟んで行き来する流量変化が新たに生じることになる。このような場合には、前述したステップS3で設定した流入点(○)と流出点(◎)の流量が、漏水事故の影響を加味していない固定値であるため、漏水事故後の解析結果が実情に合わなくなってしまう。
【0028】
これに対しては、漏水事故が近くで起きている境界線Bを挟んで存在するブロック同士を統合させて、漏水事故の発生箇所近くの境界線Bを排除することで、適正な解析結果を得ることができる。この際には、特定されたブロック(ブロック1)と境界線Bを挟んで隣接する他のブロック(ブロック2)を特定し、ブロック1とブロック2との間の境界線Bと、この境界線B上の流入点(○)及び流出点(◎)とを消去する。そして、漏水事故によって変化した観測値を基に、ブロック1とブロック2を統合したブロック内の管網解析を行う。
【0029】
図7によって、この際の処理ステップを具体的に説明する。ブロック1とブロック2のブロック毎の管網解析を行う場合には、ブロック1とブロック2とを分割する境界線B上では、ブロック1側で流出点(◎)となっている交点mは、ブロック2側では流入点(○)になっており、ブロック1側で流入点(○)となっている交点mは、ブロック2側では流出点(◎)になっている(図7(a)参照)。
【0030】
ブロック1とブロック2を統合する場合には、境界線Bを消去して、境界線B上の流入点(○)と流出点(◎)を全て消去することで、境界線Bでブロック1,2を分割する前の状態を簡単に得ることができる。このようにブロック1とブロック2を統合すると、ブロック1,2を統合する前のブロック毎の管網解析の結果との整合性を保ちながら、統合後に、漏水事故などの観測値を加えた管網解析を高い精度で行うことが可能になる。
【0031】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る管網解析方法或いは管網解析プログラムによると、制御点の少ない管網であっても適正にブロック化して、解析処理時間の短縮が可能になり、また、全体の管網解析の結果を得た後に、特定箇所を任意に選択してブロックを構成し、そのブロック内の解析結果を速やか且つ高い精度で得ることができる。
【0032】
これによって、工事計画及び漏水事故などの対策に、解析が必要なブロックを特定して、速やか且つ高い精度でブロック内の管網解析を行うことができる。また、大規模な漏水事故などがブロックを分割する境界線の近くにある場合には、簡単な処理でブロックを統合して、統合したブロック内で精度の高い管網解析を得ることができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1:コンピュータ,2:データベース,3:更新・拡張情報入力手段,
4:観測点,5:ネットワーク,B:境界線,m(m1~m4):交点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7