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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】保持装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20230324BHJP
   H05B 3/74 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H05B3/74
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019130962
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021015926
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 量子
(72)【発明者】
【氏名】土佐 晃文
(72)【発明者】
【氏名】中川 尚人
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-226986(JP,A)
【文献】特開2006-5095(JP,A)
【文献】特開2004-51445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H05B 3/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に略直交する第1の表面を有し、純度95重量%以上のAlNにより形成され、径が150mm以上であり、かつ、前記第1の方向における厚さが5mm以上である保持体を備え、前記保持体の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置の製造方法において、
前記保持体の内部には、前記保持体の表面に開口する第1の開口部と第2の開口部とに連通する流路が形成されており、
前記保持体の内部には、炭化一タングステン(WC)からなる発熱抵抗体が配置されており、
前記保持装置の製造方法は、
前記保持体の焼成前の状態である積層体であって、内部に、前記流路が形成されており、かつ、前記発熱抵抗体の焼成前の状態である焼成前発熱抵抗体であって、タングステン(W)と炭化二タングステン(WC)との少なくとも一方からなる前記焼成前発熱抵抗体が配置されている積層体を準備する準備工程と、
前記積層体を、脱脂後の残炭率が0.4重量%以上となるよう脱脂する脱脂工程と、
前記脱脂工程後の前記積層体を、密閉空間内で焼成することにより、前記保持体と前記発熱抵抗体とを作製する焼成工程と、を備える、
ことを特徴とする保持装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置の製造方法において、
前記焼成工程では、前記脱脂工程後の前記積層体を、焼成後の残炭率が0.2重量%以上となるよう焼成する、
ことを特徴とする保持装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、対象物を保持する保持装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物(例えば、半導体ウェハ)を保持しつつ所定の処理温度(例えば、300~800℃程度)に加熱する加熱装置(「サセプタ」とも呼ばれる)が知られている。加熱装置は、例えば、成膜装置(CVD成膜装置やスパッタリング成膜装置等)やエッチング装置(プラズマエッチング装置等)といった半導体製造装置の一部として使用される。
【0003】
一般に、加熱装置は、保持体と支持部材とを備える。保持体は、所定の方向(以下、「第1の方向」という)に略直交する表面(以下、「保持面」という)と、保持面とは反対側の表面(以下、「裏面」という)とを有する板状の部材である。また、支持部材は、保持体の裏面に接合され、上記第1の方向に延びる貫通孔が形成された管状の部材である。保持体の内部には、発熱抵抗体が配置されており、保持体の裏面には、発熱抵抗体に電気的に接続された給電電極(電極パッド)が配置されている。また、支持部材に形成された貫通孔内には、端子部材が収容されており、該端子部材は、金属ロウ材を介して、保持体の裏面に配置された給電電極に接合されている。端子部材および給電電極を介して発熱抵抗体に電圧が印加されると、発熱抵抗体が発熱し、保持体の保持面上に保持された対象物(例えば、半導体ウェハ)が例えば300~800℃程度に加熱される。
【0004】
例えば、上記加熱装置に備えられる保持体として、例えば、AlN等により形成された保持体であって、その直径が250mmを超え、その厚さが25mm以下である保持体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-307969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保持体の内部に配置される発熱抵抗体の材料は、電気抵抗値を安定化させる観点から炭化一タングステン(WC)であることが好ましい。炭化一タングステン(WC)は、積層体の内部に形成された発熱抵抗体の焼成前の状態である焼成前発熱抵抗体を構成するタングステン(W)や炭化二タングステン(WC)を、炭素と反応(炭化)させることにより形成される。このため、焼成前の積層体の内部には当該炭化に充分な量の炭素が残留していることが好ましい。
【0007】
また、特に、大型(例えば、径が150mm以上、第1の方向における厚さが5mm以上)の積層体では、積層体の表面に開口する第1の開口部と第2の開口部とに連通する流路が備えられることがある。大型の積層体では、焼成時において、その内部が充分に加熱されず、いわゆる「生焼け」部分が生じることがある。積層体の内部に流路、すなわち、空洞部を備えることにより、焼成時における積層体の内部に「生焼け」部分が生じることを抑制することができる。しかしながら、このような流路を備える積層体では、脱脂時において、積層体の内部の炭素が当該流路から抜け出る傾向がある。このため、積層体の内部における流路付近では、炭素の残炭率が低くなり、焼成時において、焼成前発熱抵抗体を充分に炭化することができないという課題がある。
【0008】
なお、このような課題は、加熱装置に限らず、例えば、純度95重量%以上のAlNにより形成され、径が150mm以上であり、かつ、第1の方向における厚さが5mm以上である保持体と、保持体の内部に配置された炭化一タングステン(WC)からなる発熱抵抗体と、を備え、保持体の表面上に対象物を保持する保持装置一般に共通の課題である。
【0009】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される保持装置の製造方法は、第1の方向に略直交する第1の表面を有し、純度95重量%以上のAlNにより形成され、径が150mm以上であり、かつ、前記第1の方向における厚さが5mm以上である保持体を備え、前記保持体の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置の製造方法において、前記保持体の内部には、前記保持体の表面に開口する第1の開口部と第2の開口部とに連通する流路が形成されており、前記保持体の内部には、炭化一タングステン(WC)からなる発熱抵抗体が配置されており、前記保持装置の製造方法は、前記保持体の焼成前の状態である積層体であって、内部に、前記流路が形成されており、かつ、前記発熱抵抗体の焼成前の状態である焼成前発熱抵抗体であって、タングステン(W)と炭化二タングステン(WC)との少なくとも一方からなる前記焼成前発熱抵抗体が配置されている積層体を準備する準備工程と、前記積層体を、脱脂後の残炭率が0.4重量%以上となるよう脱脂する脱脂工程と、前記脱脂工程後の前記積層体を、密閉空間内で焼成することにより、前記保持体と前記発熱抵抗体とを作製する焼成工程と、を備える。
【0012】
本保持装置の製造方法では、脱脂工程において、大型(径が150mm以上であり、かつ、第1の方向における厚さが5mm以上)で、かつ、流路が形成された積層体を、脱脂後の残炭率が0.4重量%以上となるよう脱脂する。すなわち、脱脂工程に続く焼成工程において、積層体の内部に配置されたタングステン(W)や炭化二タングステン(WC)を炭化して、炭化一タングステン(WC)を形成するために充分な量の炭素を、脱脂後の積層体の内部に残留させる。このため、焼成工程後において、炭化一タングステン(WC)からなる発熱抵抗体を備える保持装置を製造することができる。また、本保持装置の製造方法では、脱脂工程後の積層体を、密閉空間内で焼成する。このため、焼成工程において、脱脂工程後の積層体から抜け出た炭素が密閉空間外へ漏出することを抑制することができ、ひいては、密閉空間内における炭素量が減少することを抑制することができる。従って、本保持装置の製造方法によれば、大型で、かつ、流路が形成された保持体を備える保持装置の製造方法において、炭化一タングステン(WC)からなる発熱抵抗体を備える保持装置を製造することができる。
【0013】
(2)上記保持装置の製造方法において、前記焼成工程では、前記脱脂工程後の前記積層体を、焼成後の残炭率が0.2重量%以上となるよう焼成する、構成としてもよい。本保持装置の製造方法では、焼成工程において、脱脂工程後の積層体を、焼成後の残炭率が0.2重量%以上となるよう焼成する。すなわち、焼成後の保持体においても、ある程度の量の炭素を、その内部に残留させる。このため、焼成工程後に、保持体に対して新たな熱履歴が加えられた結果、脱脂工程および焼成工程と同様に保持体(積層体)の内部から炭素が抜け出た場合であっても、発熱抵抗体が炭化一タングステン(WC)の状態を維持することができる。従って、本保持装置の製造方法によれば、焼成工程後に、保持体に対して新たな熱履歴が加えられた場合であっても、炭化一タングステン(WC)からなる発熱抵抗体を備える保持装置を製造することができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、加熱装置、静電チャック、保持装置、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態における加熱装置100の外観構成を概略的に示す斜視図である。
図2】本実施形態における加熱装置100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
図3】本実施形態における加熱装置100のXY断面構成を概略的に示す説明図である。
図4】本実施形態における加熱装置100のXY断面構成を概略的に示す説明図である。
図5】本実施形態における加熱装置100のXY断面構成を概略的に示す説明図である。
図6】本実施形態における加熱装置100の製造方法を示すフローチャートである。
図7】実験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.本実施形態:
A-1.加熱装置100の構成:
図1は、本実施形態における加熱装置100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、図2は、本実施形態における加熱装置100のXZ断面構成を概略的に示す説明図であり、図3図4および図5は、本実施形態における加熱装置100のXY断面構成を概略的に示す説明図である。なお、図3には、図2のIII-IIIの位置における加熱装置100のXY断面構成が示されており、図4には、図2のIV-IVの位置における加熱装置100のXY断面構成が示されている。また、図5には、図2のV-Vの位置における加熱装置100のXY断面構成が示されている。なお、図4および図5に示す点線は、後述の説明のために便宜上図示された点線である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、加熱装置100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。また、本明細書では、Z軸方向に直交する方向を面方向というものとする。加熱装置100は、特許請求の範囲における保持装置に相当する。
【0017】
加熱装置100は、対象物(例えば、半導体ウェハW)を保持しつつ所定の処理温度(例えば、300~800℃程度)に加熱する装置であり、サセプタとも呼ばれる。加熱装置100は、例えば、成膜装置(CVD成膜装置、スパッタリング成膜装置等)やエッチング装置(プラズマエッチング装置等)といった半導体製造装置の一部として使用される。図1および図2に示すように、加熱装置100は、保持体10と柱状支持体20とを備える。
【0018】
保持体10は、Z軸方向(上下方向)に略直交する表面(以下、「上面」という)S1と、上面S1とは反対側の表面(以下、「裏面S2」という)とを有する略円板状の部材であり、AlN(窒化アルミニウム)の純度が95重量%以上であるセラミックスにより形成されている。このため、保持体10に含まれる不純物によって、保持体10の熱伝導率が低下することを抑制することができる。なお、保持体10を形成するセラミックスは、AlNの他、焼結助剤として2a族元素(Be、Mg、Ca、Sr、BaおよびRa)や3a族元素(Y、Sc、ランタノイド系列元素およびアクチノイド系列元素)等を含有していてもよい。保持体10は、より詳細には、外周に沿って上側に切り欠きが形成された部分である外周部OPと、外周部OPの内側に位置する内側部IPとから構成されている。具体的には、内側部IPは、Z軸方向視において、後述の保持面S11に重なる部分である。保持体10における内側部IPの厚さ(Z軸方向における厚さであり、以下同様)は、外周部OPに形成された切り欠きの分だけ、外周部OPの厚さより厚くなっている。すなわち、保持体10の外周部OPと内側部IPとの境界の位置で、保持体10の厚さが変化している。
【0019】
保持体10の内側部IPの直径の下限は、150mm以上、好ましくは、200mm以上であり、上限は、450mm以下である。また、保持体10の外周部OPの直径は、例えば151mm以上程度である(ただし、外周部OPの直径は内側部IPの直径より大きい)。また、保持体10の内側部IPの厚さ(上下方向における長さ)は、3mm以上、好ましくは、5mm以上である。また、保持体10の外周部OPの厚さは、例えば2mm以上程度である。なお、内側部IPの直径は、特許請求の範囲における径に相当し、内側部IPの厚さは、特許請求の範囲における第1の方向における厚さに相当する。
【0020】
保持体10の上面S1の内、内側部IPにおける上面(以下、「保持面」ともいう)S11は、所定の方向(本実施形態ではZ軸方向)に略直交する略円形の表面である。保持面S11は、対象物(例えば、半導体ウェハW)を保持する保持面として機能する。保持面S11は、特許請求の範囲における第1の表面に相当し、Z軸方向は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0021】
保持体10の上面S1の内、外周部OPにおける上面(以下、「外周上面」ともいう)S12は、Z軸方向に略直交する略円環状の表面である。保持体10の外周上面S12には、例えば、半導体ウェハWの位置決めを目的として、エッジリングERが固定されている。エッジリングERは、Z軸方向に延び、かつ、Z軸方向視で略円環状の部材である。エッジリングERは、例えば、Al(アルミナ)により形成されている。エッジリングERは、Z軸方向視において、エッジリングERの内周面Seが、保持体10の内側部IPにおける側面S5から、例えば0.5mm~5mm程度離れるように固定される。すなわち、エッジリングERの内周面Seと、保持体10の内側部IPにおける側面S5との間には隙間が形成されている。後述するガス経路14のガス吹出口OGから排出された不活性ガスは、当該隙間に供給されるとともに、Z軸正方向(上方向)へと噴出し、その結果、保持体10の保持面S11、保持面S11に保持される対象物(例えば、半導体ウェハW)、エッジリングERを取り囲むエアカーテン(図示せず)を形成する。このエアカーテンにより、保持面S11や対象物(例えば、半導体ウェハW)に塵や汚れ等の不純物が付着することを抑制し、かつ、エッジリングERをプラズマから保護することができる。
【0022】
柱状支持体20は、Z軸方向に延びる略円管状の部材であり、AlNやAlを主成分とするセラミックス等の絶縁体により形成されている。図2に示すように、柱状支持体20には、柱状支持体20の上面S3から下面S4までZ軸方向に延びる貫通孔22が形成されている。貫通孔22のZ軸方向に直交する断面(XY断面)の形状は、略円形である。柱状支持体20に形成された貫通孔22は、Z軸方向の略全体にわたって略一定の内径を有している。柱状支持体20の外径は、例えば30mm以上、100mm以下程度であり、柱状支持体20の高さ(Z軸方向における寸法)は、例えば100mm以上、300mm以下程度である。
【0023】
図2に示すように、柱状支持体20には、ガス用貫通孔24と真空用貫通孔(図示せず)とが形成されている。ガス用貫通孔24と真空用貫通孔とは、いずれも、上下方向と略同一方向に延びており、該上下方向の全長にわたって略同一の内径を有する断面略円形の孔である。ガス用貫通孔24の下端は、連結管(図示せず)を介して、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)を供給可能なガス供給源(図示せず)に連結されており、ガス用貫通孔24の上端は、保持体10の内部に形成された後述するガス経路14に連通している。これにより、ガス供給源から供給された不活性ガスは、ガス用貫通孔24とガス経路14とを通過し、ガス吹出口OGから排出され、上述のエアカーテンを形成する。また、真空用貫通孔(図示せず)の下端部は、連結管(図示せず)を介して真空吸引装置(例えば真空ポンプ、図示せず)に連結されており、真空用貫通孔の上端は、保持体10の内部に形成された、後述する真空用経路16に連通している。真空吸引装置が稼動すると、真空用貫通孔および真空用経路16が真空状態になることによって、半導体ウェハWが保持体10の保持面S11に真空吸着される。ガス経路14および真空用経路16の詳細構成については、後で詳述する。
【0024】
図2に示すように、保持体10と柱状支持体20とは、保持体10の裏面S2と柱状支持体20の上面S3とがZ軸方向に互いに対向するように配置されている。柱状支持体20は、保持体10の裏面S2の中心部付近に、公知の接合材料により形成された接合部30を介して接合されている。
【0025】
図2に示すように、保持体10の内部には、保持体10を加熱するための発熱抵抗体として2つのヒータ電極50が配置されている。各ヒータ電極50は、それぞれ導電性材料としての炭化一タングステン(WC)により形成されている。なお、ヒータ電極50は、導電性材料以外の成分を含んでいてもよい。例えば、保持体10とヒータ電極50との熱膨張差の低減し、密着強度を向上させるため、ヒータ電極50は、保持体10の主成分であるセラミックスと同じセラミックスを含んでいることが好ましい。本実施形態において、ヒータ電極50には、保持体10の主成分であるAlNが共材として含まれている。本実施形態では、各ヒータ電極50は、Z軸方向視で略同心半円状に延びる線状のパターンを構成している。ヒータ電極50は、特許請求の範囲における発熱抵抗体に相当する。
【0026】
図2に示すように、保持体10の内部には、さらに、プラズマを発生させるRF(高周波)電極40が配置されている。RF電極40は、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されている。なお、RF電極40は、導電性材料以外の成分を含んでいてもよい。例えば、保持体10とRF電極40との熱膨張差の低減し、密着強度を向上させるため、RF電極40は、保持体10の主成分であるセラミックスと同じセラミックスを含んでいることが好ましい。本実施形態において、RF電極40には、保持体10の主成分であるAlNが共材として含まれている。RF電極40は、面方向(XY平面方向)に広がっている略平板状であり、上下方向(Z軸方向)視でのRF電極40の形状は、例えば略円形である。Z軸方向において、RF電極40は、保持面S11とヒータ電極50との間に配置されている。より詳細には、RF電極40と保持面S11との間には、ヒータ電極50等の導電性部材が存在しない。これにより、本実施形態によれば、RF電極40と保持面S11との間に導電性部材が存在する構成に比べて、RF電極40から発生するプラズマの磁場を安定させることができる。
【0027】
図2図4および図5に示すように、保持体10の内部には、さらに、ガス経路14と真空用経路16とが形成されている。ガス経路14および真空用経路16の詳細構成については、後で詳述する。
【0028】
また、図2に示すように、保持体10の裏面S2の内、Z軸方向視で柱状支持体20に形成された貫通孔22に重なる位置には、一対の凹部12が形成されている。本実施形態では、Z軸方向視での各凹部12の形状は、略円形である。各凹部12内には、ヒータ電極50への給電のための給電電極(電極パッド)54が設けられている。すなわち、本実施形態では、保持体10の裏面S2の内、Z軸方向視で柱状支持体20に形成された貫通孔22に重なる位置に、一対の給電電極54が配置されている。本実施形態では、Z軸方向視での各給電電極54の形状は、略円形であり、タングステンを含む材料(例えば、タングステンと窒化アルミニウムとの混合材料)により形成されている。なお、図2には、一対の凹部12および一対の給電電極54が示されているが、本実施形態の保持体10には、一対以上の凹部12および一対以上の給電電極54が備えられている。
【0029】
図2および図3に示すように、各ヒータ電極50の一方の端部は、Z軸方向視で保持体10の中心部付近に配置されており、該一方の端部には、保持体10の中心部付近に配置されたビア導体52の上端部が接続されている。また、図2に示すように、各ヒータ電極50の上記一方の端部に接続されたビア導体52の下端部は、保持体10の裏面S2に配置された給電電極54に接続されている。また、各ヒータ電極50の他方の端部は、保持体10(内側部IP)内の任意の場所(本実施形態において外周部付近)に配置されており、該他方の端部は、図示しないが、保持体10に配置されたビア導体52やドライバ電極(不図示)を介して、保持体10の裏面S2に配置された給電電極54に接続されている。その結果、各ヒータ電極50は、ビア導体52等を介して、給電電極54と電気的に接続された状態となっている。
【0030】
図2に示すように、柱状支持体20に形成された貫通孔22内には、一対の端子部材70が収容されている。端子部材70は、例えばZ軸方向視で略円形の柱状部材であり、ニッケル(Ni)含む材料(例えば、純ニッケルやニッケルを含む合金(例えばコバール))により形成されている。なお、図2には、一対の端子部材70が示されているが、本実施形態の保持体10には、一対以上の端子部材70が備えられている。
【0031】
また、Z軸方向において各端子部材70の上端部と各給電電極54との間には、緩衝部材60が配置されている。緩衝部材60は、例えばZ軸方向視で略円形の板状部材であり、タングステンを含む材料(例えば、純タングステンやタングステンを含む合金)により形成されている。緩衝部材60は、端子部材70と給電電極54との間の熱膨張差を緩和する機能を担う部材である。緩衝部材60の直径は、例えば2.0mm~10.0mmである。緩衝部材60の厚さは、例えば0.1mm~5mmである。
【0032】
緩衝部材60の上面は、電極側ロウ付け部(図示せず)により、給電電極54の下面(露出面)と接合(ロウ付け)されている。また、緩衝部材60の下面は、端子側ロウ付け部(図示せず)により、端子部材70と接合されている。電極側ロウ付け部および端子側ロウ付け部は、例えば、Ni系(Ni-Cr系合金等)、Au系(純Au、Au-Ni系合金等)、Ag系(純Ag等)のロウ材である。
【0033】
図示しない電源から各端子部材70、各緩衝部材60、各給電電極54、各ビア導体52を介してヒータ電極50に電圧が印加されると、ヒータ電極50が発熱し、保持体10の保持面S11上に保持された対象物(例えば、半導体ウェハW)が所定の温度(例えば、300~800℃程度)に加熱される。
【0034】
RF電極40への給電についても、上述したヒータ電極50への給電の方法と同様である。具体的には、RF電極40の中心付近は、RF用ビア(図示せず)を介して、RF用電極パッド(図示せず)に電気的に接続されている。これにより、RF電極40とRF用端子(図示せず)とが電気的に接続されている。電源(図示しない)からRF用端子(図示せず)を介してRF電極40に電圧が印加されると、RF電極40からプラズマが発生する。
【0035】
A-2.ガス経路14の詳細構成:
上述したように、保持体10の内部(具体的には、内側部IP)には、ガス経路14が形成されている(図2および図4参照)。Y軸方向視において、ガス経路14の一部(具体的には、後述の横経路14aおよび環経路14b)は、RF電極40とヒータ電極50との間に形成されている。また、Z軸方向視において、ガス経路14の一部(具体的には、後述の2つの環経路14bのうちの外側の環経路14b)は、ヒータ電極50の一部に重なるように配置されている。ガス経路14は、保持体10の裏面S2に開口するガス導入口IGと、互いに略同径であり、保持体10の内側部IPにおける側面S5にそれぞれ開口する4つのガス吹出口OG、とに連通している。ガス経路14、ガス導入口IGおよびガス吹出口OGのそれぞれの径は、例えば1.0mm以上、5.0mm以下程度である。ガス経路14は、特許請求の範囲における流路に相当する。また、ガス導入口IGは、特許請求の範囲における第1の開口部に相当し、ガス吹出口OGは、特許請求の範囲における第2の開口部に相当する。
【0036】
本実施形態において、ガス経路14は、4つの横経路14aと、各横経路14aを互いに連結する2つの環経路14bと、各横経路14aに連結する4つの縦経路14cとから構成されている。横経路14aは、面方向に延びる経路(空間)であり、一方の端部をガス吹出口OGとし、かつ、他方の端部において、縦経路14cに連通している。より詳しくは、各横経路14aは、Z軸方向視で、保持体10の中心POを中心として略放射線状に、かつ、互いに等間隔となるように配置されている。このため、Z軸方向視で、各横経路14aにおけるガス吹出口OGからガス導入口IGまでの最短距離は互いに同等である。環経路14bは、面方向に延びる経路(空間)であり、Z軸方向視で略同心円状に延びている。縦経路14cは、Z軸方向に延びる経路(空間)であり、一方の端部をガス導入口IGとし、かつ、他方の端部において、横経路14aに連通している。Y軸方向視で、各縦経路14cの長さは互いに同等である。このため、ガス経路14において、ガス導入口IGから各ガス吹出口OGまでの各最短距離は互いに同等である。これにより、各ガス吹出口OGから排出されるガス流量を同等とすることができる。なお、ガス経路14における縦経路14cは、ガス導入口IGにおいて、上述のガス用貫通孔24に接続している。
【0037】
A-3.真空用経路16の構成:
図2および図5に示すように、保持体10(具体的には、内側部IP)の内部には、真空用経路16が形成されている。Y軸方向視において、真空用経路16は、RF電極40とガス経路14との間に形成されている。また、Z軸方向視において、真空用経路16の一部(具体的には、後述の2つの環経路16bのうちの外側の環経路16b)は、ヒータ電極50の一部に重なるように配置されている。真空用経路16は、保持体10の裏面S2に開口するガス排出口EGと、保持体10の内側部IPにおける保持面S11にそれぞれ開口する4つのガス吸引口SG(図1において図示せず)、とに連通している。真空用経路16、ガス排出口EGおよびガス吸引口SGのそれぞれの径は、例えば0.5mm以上、5mm以下程度である。真空用経路16は、特許請求の範囲における流路に相当する。ガス排出口EGは、特許請求の範囲における第1の開口部に相当し、ガス吸引口SGは、特許請求の範囲における第2の開口部に相当する。
【0038】
本実施形態において、真空用経路16は、2つの横経路16aと、各横経路16aを互いに連結する2つの環経路16bと、各横経路16aに連結する1つの縦経路(図示せず)とから構成されている。2つの横経路16aは、それぞれ面方向に延びる経路(空間)であり、2つの環経路16bを互いに連結しており、一方の横経路16aにおける一方の端部において縦流路に連通している。なお、真空用経路16における縦経路(図示せず)は、ガス排出口EGにおいて、上述の真空用貫通孔に接続している。
【0039】
A-4.加熱装置100の製造方法:
次に、本実施形態における加熱装置100の製造方法について説明する。図6は、本実施形態における加熱装置100の製造方法を示すフローチャートである。
【0040】
加熱装置100(保持体10および柱状支持体20)の製造方法は、例えば以下の通りである。初めに、保持体10の焼成前の状態である積層体を準備する(S110、準備工程)。より詳細には、積層体の内部に、ガス経路14および真空用経路16が形成されており、かつ、RF電極40の焼成前の状態である焼成前RF電極およびヒータ電極50の焼成前の状態である焼成前ヒータ電極が配置された積層体を準備する。具体的には、まず、窒化アルミニウム粉末100重量部に、酸化イットリウム(Y)粉末1重量部と、アクリル系バインダ20重量部と、適量の分散剤および可塑剤とを加えた混合物に、トルエン等の有機溶剤を加え、ボールミルにて24時間混合し、グリーンシート用スラリーを作製する。このグリーンシート用スラリーをキャスティング装置でシート状に成形した後に乾燥させ、グリーンシートを複数枚作製する。上記窒化アルミニウム粉末等の配合は、保持体10において、AlNの純度が95重量%以上となるよう配合する。焼成前ヒータ電極は、特許請求の範囲における焼成前発熱抵抗体に相当する。
【0041】
また、窒化アルミニウム粉末、アクリル系またはエトセル系バインダ、テルピネオール等の有機溶剤の混合物に、金属粉末としてのタングステン(W)を添加して混練することにより、メタライズペーストを作製する。このメタライズペーストを例えばスクリーン印刷装置を用いて印刷することにより、特定の各グリーンシートに、後にRF電極40、ヒータ電極50、給電電極54等となる未焼結導体層を形成する。また、グリーンシートにあらかじめビア孔を設けた状態で印刷することにより、後にビア導体52となる未焼結導体部を形成する。さらに、グリーンシートにあらかじめガス経路14(横経路14a、環経路14bおよび縦経路14c)となる溝部と、真空用経路16(横経路16a、環経路16b、縦経路)となる溝部とを設ける。ガス経路14となる溝部および真空用経路16となる溝部は、特許請求の範囲における流路に相当する。
【0042】
そして、作製した複数のグリーンシートのうち、ヒータ電極50、給電電極54等となる未焼結導体層、ならびに、ガス経路14(具体的には、縦経路14c)および真空用経路16(具体的には、縦経路)となる溝部が形成されたグリーンシートを含む所定枚数のグリーンシートを積層して熱圧着し、必要に応じて外周を切断して、下側シートブロックを作製する。また、作製した複数のグリーンシートのうち、RF電極40となる未焼結導体層、ならびに、ガス経路14(具体的には、横経路14aおよび環経路14b)および真空用経路16(具体的には、横経路16aおよび環経路16b、縦経路)となる溝部が形成されたグリーンシートを含む所定枚数のグリーンシートを積層して熱圧着し、必要に応じて外周を切断して、上側シートブロックを作製する。当該上側シートブロックおよび下側シートブロックは、割り掛けを考慮し、上側シートブロックの厚さと下側シートブロックの厚さとの合計が焼結後(後述の脱脂および焼成後)に5mm以上となり、かつ、上側シートブロックの直径が焼結後(後述の脱脂および焼成後)に150mm以上となるように作製する。上側シートブロックおよび下側シートブロックの外周を切断する際には、Z軸方向視において、下側シートブロックの径が上側シートブロックの径より大きくなるよう切断する。
【0043】
次に、上側シートブロックの下面と下側シートブロックの上面とを、接着層(図示せず)を介して対向させるようにして、上側シートブロックと下側シートブロックとを積層し、圧着して積層体を準備する。接着層は、例えば、上述のグリーンシート用スラリーに接着用の樹脂、可塑剤や溶剤等を加えたものである。ステップS110は、特許請求の範囲における準備工程に相当する。
【0044】
次に、積層体を、脱脂後の残炭率が0.4重量%以上となるよう脱脂する(S120)。当該積層体を、脱脂後の残炭率が0.4重量%以上となるように脱脂を行う方法は特に限定されないが、例えば、熱処理用のカーボン炉内においてアルミナ製のサヤに入れて、窒素雰囲気、常圧、所定温度(例えば450℃)、所定時間(例えば4時間)脱脂することができる。所定温度は、例えば、350℃以上、800℃以下である。また、積層体の残炭率は、赤外線検出器を採用したガス成分分析装置を使用して測定した。ステップS120は、特許請求の範囲における脱脂工程に相当する。この脱脂工程により、保持体10の脱脂後焼成前の状態である脱脂体10pが作製される。脱脂体10pは、特許請求の範囲における脱脂工程後の積層体に相当する。
【0045】
次に、ステップS120で得られた積層体(脱脂体10p)を、焼成後の残炭率が0.2重量%以上となるよう、密閉空間内で焼成する(S130)。例えば、当該脱脂体を、熱処理用のカーボン炉内においてAlN製のサヤSag(図7参照)に入れて、窒素雰囲気、常圧、所定温度(例えば1825℃)、所定時間(例えば4時間)焼成することができる。所定温度は、例えば、1800℃以上、1900℃以下である。ステップS130は、特許請求の範囲における焼成工程に相当する。この焼成工程により、保持体10とヒータ電極50が作製される。
【0046】
次に、柱状支持体20を作製する(S140)。柱状支持体20の作製方法、例えば以下の通りである。まず、窒化アルミニウム粉末100重量部に、酸化イットリウム粉末1重量部と、PVAバインダ3重量部と、適量の分散剤および可塑剤とを加えた混合物に、メタノール等の有機溶剤を加え、ボールミルにて混合し、スラリーを得る。このスラリーをスプレードライヤーにて顆粒化し、原料粉末を作製する。次に、貫通孔22に対応する中子が配置されたゴム型に原料粉末を充填し、冷間静水圧プレスして成形体を得る。得られた成形体を脱脂し、さらにこの脱脂体を焼成する。得られた脱脂体(以下、「焼成体」ともいう)の肉厚部において、上下方向に貫通するガス用貫通孔24と真空用貫通孔とを形成する。当該ガス用貫通孔24および真空用貫通孔は、Z軸方向において、保持体10に形成されたガス経路14の内の縦経路14cおよび真空用経路16の内の縦経路(図示せず)に重なるように形成される。以上の工程により、柱状支持体20が作製される。
【0047】
次に、保持体10と柱状支持体20とを接合する(S150)。保持体10の裏面S2および柱状支持体20の上面S3に対して必要によりラッピング加工を行った後、保持体10の裏面S2と柱状支持体20の上面S3との少なくとも一方に、例えば希土類や有機溶剤等を混合してペースト状にした公知の接合剤を均一に塗布した後、脱脂処理する。次いで、保持体10の裏面S2と柱状支持体20の上面S3とを重ね合わせ、ホットプレス焼成を行うことにより、保持体10と柱状支持体20とを接合する。
【0048】
最後に、端子部材70およびエッジリングER等を配置する(S160)。端子部材70の配置は、例えば、次の方法により行うことができる。まず、保持体10と柱状支持体20との接合の後、各緩衝部材60を貫通孔22内に挿入し、各緩衝部材60の上面を各給電電極54の下面に、ロウ材(例えば、Ni系、Au系、Ag系のロウ材)を用いてロウ付けする。また、各端子部材70を貫通孔22内に挿入し、各端子部材70の上端部を各緩衝部材60に、ロウ材(例えば、Ni系、Au系、Ag系のロウ材)を用いてロウ付けする。また、エッジリングERの配置については、あらかじめ準備されたエッジリングERを保持体10の外周部OPにおける外周上面S12に、接着剤を介して接合する。このとき、エッジリングERは、内側部IPの外周において、エッジリングERの内周面Seと内側部IPの側面S5との間の間隔が略同一となるよう接合される。主として以上の製造方法により、上述した構成の加熱装置100が製造される。
【0049】
A-5.実験結果:
加熱装置100を構成する保持体10を対象として、以下に説明する実験を行った。図7は、4つのサンプル(SA1~SA4)について行った実験結果を示す説明図である。図7には、各サンプルについて、焼成時におけるAlN製のサヤSagの形態(図7中、「焼成セッティング」)と、脱脂体10pの残炭率、ヒータ電極50に含まれる導電性材料(図7中、「メタライズの状態」)と、焼成体の残炭率とが、示されている。なお、脱脂体10pおよび焼成体の残炭率は、脱脂体10pおよび焼成体の内、Z軸方向視で、ガス経路14または真空用経路16に重なる部分について測定した。また、ヒータ電極50に含まれる導電性材料は、焼成体におけるヒータ電極50の内、Z軸方向視で、ガス経路14または真空用経路16に重なる部分について特定した。また、各サンプルは、上述した実施形態の加熱装置100の製造方法の内の保持体10の作製方法(具体的には、準備工程、脱脂工程、焼成工程)に準じて作製した。
【0050】
サンプルSA1では、積層体(厚さ:8mm、直径:340mm)を準備した。当該積層体を、温度450℃で、4時間脱脂して脱脂体10pを作製した。脱脂体10pの残炭率は、0.40重量%であった。次いで、脱脂体10pを、隙間のないサヤSag内(密閉空間内)で、温度1825℃、4時間焼成して焼成体を作製した。焼成体におけるヒータ電極50には導電性材料として、炭化一タングステン(WC)のみが含まれており、炭化二タングステン(WC)やタングステン(W)は含まれていなかった。これは、脱脂体10pの残炭率が0.40重量%であり、かつ、密閉空間内で焼成したためと考えられる。すなわち、積層体の内部に配置されたタングステン(W)を炭化して、炭化一タングステン(WC)を形成するために充分な量の炭素を、脱脂体10pの内部に残留させ、かつ、焼成時において、脱脂体10pからガス経路14や真空用経路16を通って抜け出た炭素がサヤSag外へ漏出することを抑制することができたためと考えられる。なお、焼成体におけるヒータ電極50に含まれる導電性材料は、微小XRDの結果に基づき、炭化一タングステン(WC)に起因するピークのみが確認されたことにより特定した。
【0051】
サンプルSA2では、積層体(厚さ:12mm、直径:340mm)を準備した。当該積層体を、温度450℃で、2時間脱脂して脱脂体10pを作製した。脱脂体10pの残炭率は、0.46重量%であった。次いで、脱脂体10pを、隙間のないサヤSag内(密閉空間内)で、温度1825℃、4時間焼成して焼成体を作製した。焼成体におけるヒータ電極50には導電性材料として、炭化一タングステン(WC)のみが含まれており、炭化二タングステン(WC)やタングステン(W)は含まれていなかった。これは、脱脂体10pの残炭率が0.4重量%以上(0.46重量%)であり、かつ、密閉空間内で焼成したためと考えられる。すなわち、積層体の内部に配置されたタングステン(W)を炭化して、炭化一タングステン(WC)を形成するために充分な量の炭素を、脱脂体10pの内部に残留させ、かつ、焼成時において、脱脂体10pからガス経路14や真空用経路16を通って抜け出た炭素がサヤSag外へ漏出することを抑制することができたためと考えられる。また、サンプルSA2では、焼成体の残炭率は、0.2重量%以上(0.32重量%)であり、ある程度の量の炭素が焼成体に残留していた。このため、焼成体(保持体10)に新たな熱履歴が加えられた結果、焼成体(保持体10)の内部から炭素が抜け出た場合であっても、ヒータ電極50が、残留している炭素で炭化されることにより、炭化一タングステン(WC)の状態を維持することができると考えられる。
【0052】
サンプルSA3では、積層体(厚さ:8mm、直径:340mm)を準備した。当該積層体を、温度600℃で、2時間脱脂して脱脂体10pを作製した。脱脂体10pの残炭率は、0.35重量%であった。次いで、脱脂体10pを、隙間のないサヤSag内(密閉空間内)で、温度1825℃、4時間焼成して焼成体を作製した。焼成体におけるヒータ電極50には導電性材料として、炭化一タングステン(WC)に加えて、炭化二タングステン(WC)が含まれていた。これは、密閉空間内で焼成したものの、脱脂体10pの残炭率が0.4重量%未満(0.35重量%)であったためと考えられる。すなわち、積層体の内部に配置されたタングステン(W)を炭化して、炭化一タングステン(WC)を形成するために充分な量の炭素が、脱脂体10pの内部に残留していなかったため、未炭化の炭化二タングステン(WC)が残存したと考えられる。
【0053】
サンプルSA4では、積層体(厚さ:8mm、直径:340mm)を準備した。当該積層体を、温度600℃で、2時間脱脂して脱脂体10pを作製した。脱脂体10pの残炭率は、0.36重量%であった。次いで、脱脂体10pを、隙間のあるサヤSag内で、温度1825℃、4時間焼成して焼成体を作製した。焼成体におけるヒータ電極50には導電性材料として、炭化一タングステン(WC)に加えて、炭化二タングステン(WC)が含まれていた。これは、脱脂体10pの残炭率が0.4重量%以下(0.36重量%)であり、かつ、隙間CLのあるサヤSag内(密閉空間でないサヤSag内)で焼成したためと考えられる。すなわち、積層体の内部に配置されたタングステン(W)を炭化して、炭化一タングステン(WC)を形成するために充分な量の炭素が、脱脂体10pの内部に残留しておらず、また、密閉空間でないサヤSag内で焼成したため、脱脂体10pからガス経路14や真空用経路16を通って抜け出た炭素が隙間CLを通ってサヤSag外へ漏出することを抑制できなかったためと考えられる。また、サンプルSA4では、焼成体の残炭率は、0.2重量%未満(0.06重量%)であり、炭素がほとんど焼成体に残留していなかった。このため、焼成体(保持体10)に新たな熱履歴が加えられた結果、焼成体(保持体10)の内部から炭素がさらに抜け出て、ヒータ電極50が、炭化一タングステン(WC)の状態を維持することができない傾向があると考えられる。
【0054】
A-6.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の加熱装置100の製造方法は、Z軸方向に略直交する保持面S11を有し、純度95重量%以上のAlNにより形成され、径が150mm以上であり、かつ、Z軸方向における厚さが5mm以上である内側部IPを備える保持体10を備え、内側部IPの保持面S11上に半導体ウェハWを保持する加熱装置100の製造方法である。保持体10(内側部IP)の内部には、保持体10の表面に開口するガス導入口IG(ガス排出口EG)とガス吹出口OG(ガス吸引口SG)とに連通するガス経路14(真空用経路16)が形成されている。また、保持体10(内側部IP)の内部には、炭化一タングステン(WC)からなるヒータ電極50が配置されている。加熱装置100の製造方法は、保持体10の焼成前の状態である積層体であって、内部に、ガス経路14(真空用経路16)が形成されており、かつ、ヒータ電極50の焼成前の状態である焼成前ヒータ電極であって、タングステン(W)からなる焼成前ヒータ電極が配置されている積層体を準備する準備工程(S110)と、積層体を、脱脂後の残炭率が0.4重量%以上となるよう脱脂する脱脂工程(S120)と、脱脂工程(S120)後の積層体(脱脂体10p)を、密閉空間内で焼成することにより、保持体10とヒータ電極50とを作製する焼成工程(S130)と、を備える。
【0055】
本実施形態の加熱装置100の製造方法では、脱脂工程(S120)において、大型(径が150mm以上であり、かつ、Z軸方向における厚さが5mm以上)で、かつ、ガス経路14(真空用経路16)が形成された積層体を、脱脂後の残炭率が0.4重量%以上となるよう脱脂する。すなわち、脱脂工程(S120)に続く焼成工程(S130)において、積層体の内部に配置されたタングステン(W)を炭化して、炭化一タングステン(WC)を形成するために充分な量の炭素を、脱脂後の積層体(脱脂体10p)の内部に残留させる。このため、焼成工程(S130)後において、炭化一タングステン(WC)からなるヒータ電極50を備える加熱装置100を製造することができる。また、本実施形態の加熱装置100の製造方法では、脱脂工程(S130)後の積層体(脱脂体10p)を、密閉空間内で焼成する。このため、焼成工程(S130)において、脱脂工程(S120)後の積層体(脱脂体10p)から抜け出た炭素が密閉空間外へ漏出することを抑制することができ、ひいては、密閉空間内における炭素量が減少することを抑制することができる。従って、本実施形態の加熱装置100の製造方法によれば、大型で、かつ、ガス経路14(真空用経路16)が形成された保持体10を備える加熱装置100の製造方法において、炭化一タングステン(WC)からなるヒータ電極50を備える加熱装置100を製造することができる。
【0056】
また、本実施形態の加熱装置100の製造方法において、焼成工程(S130)では、脱脂工程(S120)後の積層体(脱脂体10p)を、焼成後の残炭率が0.2重量%以上となるよう焼成する。本実施形態の加熱装置100の製造方法では、焼成工程(S130)において、脱脂工程(S120)後の積層体(脱脂体10p)を、焼成後の残炭率が0.2重量%以上となるよう焼成する。すなわち、焼成後の保持体10においても、ある程度の量の炭素を、その内部に残留させる。このため、焼成工程(S130)後に、保持体10に対して新たな熱履歴が加えられた結果、脱脂工程(S120)および焼成工程(S130)と同様に保持体10(積層体)の内部から炭素が抜け出た場合であっても、ヒータ電極50が炭化一タングステン(WC)の状態を維持することができる。従って、本実施形態の加熱装置100の製造方法によれば、焼成工程(S130)後に、保持体10に対して新たな熱履歴が加えられた場合であっても、炭化一タングステン(WC)からなるヒータ電極50を備える加熱装置100を製造することができる。
【0057】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0058】
上記実施形態における加熱装置100の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、保持体10が、外周に沿って上側に切り欠きが形成された部分である外周部OPと、外周部OPの内側に位置する内側部IPとから構成されているが、保持体10に切り欠きが形成されておらず、保持体10のZ軸方向の厚さが全体にわたって一様であるとしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、保持体10の外周上面S12に、Z軸方向視で略円環状のエッジリングERが固定されている構成が採用されているが、これに限定されない。例えば、エッジリングERが固定されていない構成であってもよい。また、エッジリングERの形状は、上記略円環状に限定されない。
【0060】
また、上記実施形態では、保持体10の内部に、ガス経路14および真空用経路16が形成されている構成が採用されているが、これに限定されず、いずれか一方が形成されている構成や、ガス経路14および真空用経路16に代えて、または、ガス経路14および真空用経路16とともに、他の流路が形成されている構成であってもよい。また、本実施形態において、保持体10の内部に形成されるガス経路14および真空用経路16は、Z軸方向において同じ位置(すなわち、同一面内)に形成されていてもよく、また、真空用経路16がガス経路14の下方向側(すなわち、裏面S2側)に形成されていてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、Z軸方向において、ガス経路14の一部および真空用経路16の一部が、ヒータ電極50の一部に重なる構成を採用したが、これに限定されず、いずれか一方または両方が、ヒータ電極50の一部に重ならない構成であってもよい。
【0062】
また、上記実施形態における加熱装置100の製造方法では、ヒータ電極50等となる未焼結導体層を形成するメタライズペーストに含まれる金属粉末としてタングステン(W)を用いたが、これに限定されない。例えば、タングステン(W)に代えて、または、タングステン(W)とともに、炭化二タングステン(WC)を用いてもよい。
【0063】
また、上記実施形態における加熱装置100の製造方法では、焼成工程において、焼成後の残炭率(すなわち、焼成体の残炭率)が0.2重量%以上となるよう焼成することとしたが、これに限定されず、焼成後の残炭率が0.2重量%未満となるよう焼成することとしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態の加熱装置100における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。また、上記実施形態における加熱装置100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0065】
また、本発明は、加熱装置100に限らず、純度95重量%以上のAlNにより形成され、径が150mm以上であり、かつ、Z軸方向における厚さが5mm以上である保持体と、保持体の内部に形成された流路と、保持体の内部に配置された炭化一タングステン(WC)からなる発熱抵抗体と、を備え、保持体の表面上に対象物を保持する他の保持装置(例えば、静電チャック等)の製造方法にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10:保持体 10p:脱脂体 12:凹部 14:ガス経路 14a:横経路 14b:環経路 14c:縦経路 16:真空用経路 16a:横経路 16b:環経路 20:柱状支持体 22:貫通孔 24:ガス用貫通孔 30:接合部 40:RF電極 50:ヒータ電極 52:ビア導体 54:給電電極 60:緩衝部材 70:端子部材 95:純度 100:加熱装置 1825:温度 CL:隙間 EG:ガス排出口 ER:エッジリング IG:ガス導入口 IP:内側部 OG:ガス吹出口 OP:外周部 PO:中心 S11:保持面 S12:外周上面 S1:上面 S2:裏面 S3:上面 S4:下面 S5:側面 SG:ガス吸引口 Sag:サヤ Se:内周面 W:半導体ウェハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7