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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】酸分解性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/06 20060101AFI20230324BHJP
【FI】
C08F6/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019137212
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2021020992
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000157603
【氏名又は名称】丸善石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】益川 友宏
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 亮
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-235653(JP,A)
【文献】特開2021-001124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセタール構造またはヘミアセタール構造を有する酸分解性樹脂を含む樹脂溶液を準備する工程と、
酸性陽イオン交換体を有機溶媒によって洗浄して、洗浄後に排出される有機溶媒中の水分含有量が400ppm以下になるまで低減する工程と、
前記洗浄した酸性陽イオン交換体に前記樹脂溶液を通液して、金属イオン含有量を低減する工程と、
を含む、酸分解性樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記酸性陽イオン交換体が、交換基として強酸性陽イオン交換基を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂溶液が、酸分解性樹脂の重合反応溶液である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記通液後の酸分解性樹脂中の金属イオン含有量が50ppb以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸分解性樹脂の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、水分含有量が低減された酸性陽イオン交換体を用いる、金属イオン含有量の低減された酸分解性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体デバイス製造工程において、フォトリソグラフィによる微細加工が用いられている。例えば、最初にシリコンウエハ等の半導体基板上にフォトレジストや反射防止膜等のフォトリソグラフィ用組成物の薄膜を形成する。次いで、半導体デバイスのパターンが描かれたマスクパターンを介して紫外線等の活性光線を照射し、現像して得られたフォトレジストパターンを保護膜として基板をエッチング処理することにより、基板表面に該パターンに対応する微細凹凸が形成されている。
【0003】
ところで、金属イオン汚染は、高密度集積回路、コンピュータチップ及びコンピュータハードドライブの製造において、しばしば欠陥の増加や収量損失を招き、性能低下を引き起こす大きな要因となっている。例えば、プラズマプロセスでは、ナトリウム及び鉄等の金属イオンがフォトリソグラフィ用組成物中に存在すると、プラズマ剥離の際に汚染を生じる恐れがある。しかし、これらの問題は、高温アニールサイクルの間に汚染物のHClゲッタリングを利用することにより、製造プロセスにおいて実質的に問題にならない程度に抑制することが可能である。
【0004】
一方、フォトリソグラフィ用組成物であるフォトレジストおよび反射防止膜等の高分子化合物を製造する際には、高分子化合物および/または高分子化合物溶液中に遊離酸やゲル粒子が残存または発生することがある。これらの因子は、フォトレジストや反射防止膜、その他の電子材料、例えばハードマスクコーティング、層間コーティング及びフィルレイヤーコーティングの不良要因となり得る。
【0005】
フォトリソグラフィ等の微細加工技術の発展により電子デバイスがより精巧なものとなっており、これらの諸問題は完全な解決が困難となっている。非常に低レベルの金属イオン不純物の存在により、半導体デバイスの性能及び安定性が低下することがしばしば観察されている。
【0006】
更には、フォトリソグラフィ用組成物中の100ppb程度の金属イオン不純物濃度が、このような電子デバイスの性能及び安定性に悪影響を及ぼすことも明らかになっている。従来、フォトリソグラフィ用組成物中の金属イオン不純物濃度は、厳しい不純物濃度規格を満たす材料を選択することやフォトリソグラフィ用組成物の調整段階で金属イオン不純物が混入しないように徹底したプロセス管理を行うことで、管理されてきた。
【0007】
特許文献1には、イオン交換樹脂を含むフィルターを使用して、フォトレジスト組成物からイオン性不純物や金属イオン不純物を除去する方法が開示されている。特許文献2には、フォトレジスト用樹脂を有機溶媒と水とを用いた抽出操作に付し、金属不純物を水層に分配、除去する方法が開示されている。更に、特許文献3及び特許文献4には、ゼータ電位を利用した吸着による金属除去方法が開示されている。また、特許文献5では、レジスト成分溶液を、カチオン交換樹脂およびキレート樹脂に充分な時間接触させて、カチオン交換樹脂およびキレート交換樹脂上に金属不純分の少なくとも一部を吸着させることが提案されている。
【0008】
一方、フォトリソグラフィ用樹脂組成物中には、アセタールやヘミアセタールエステルなどの酸が存在すると常温でも分解する樹脂が使われている(特許文献6、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-97249号
【文献】特開2006-37117号
【文献】特開2010-189563号
【文献】特開2014-34601号
【文献】特開平5-234876号
【文献】特表2002-511505号
【文献】特開2000-029215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2に記載の方法は非水溶性樹脂のみに限られ、水溶性樹脂では水による金属分の抽出は実施することができない。また、特許文献5に記載の方法では、カチオン交換樹脂に、アセタール構造やヘミアセタール構造等を有する酸分解性樹脂を通液すると、樹脂分解や保護基の脱離(以下、脱保護と言うことがある)が起こってしまうという問題があった。特に、カルボキシル基がアセタール基で保護された構造を有する樹脂は、わずかな量の脱保護でもカルボン酸が生じることによって、フォトレジストとして用いる際にアルカリ溶解速度などの性能に大きく影響してしまうという問題があった。
【0011】
したがって、本発明の課題は、酸分解性樹脂の分解や脱保護を抑制しつつ、金属イオン含有量の低減された酸分解性樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、酸性陽イオン交換体を有機溶媒で洗浄して、洗浄後に排出される有機溶媒中の水分含有量を特定の範囲以下にまで低減した後、洗浄した酸性陽イオン交換体に酸分解性樹脂を含む樹脂溶液を通液することで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 酸分解性樹脂を含む樹脂溶液を準備する工程と、
酸性陽イオン交換体を有機溶媒によって洗浄して、洗浄後に排出される有機溶媒中の水分含有量が400ppm以下になるまで低減する工程と、
前記洗浄したイオン交換体に前記樹脂溶液を通液して、金属イオン含有量を低減する工程と、
を含む、酸分解性樹脂の製造方法。
[2] 前記酸分解性樹脂が、アセタール構造またはヘミアセタール構造を有する、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記カチオン性イオン交換体が、交換基として強酸性陽イオン交換基を有する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 前記樹脂溶液が、酸分解性樹脂の重合反応溶液である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記通液後の酸分解性樹脂中の金属イオン含有量が50ppb以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸分解性樹脂の分解や脱保護を抑制し、金属イオン含有量の低減された酸分解性樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[酸分解性樹脂の製造方法]
本発明の酸分解性樹脂の製造方法は、酸分解性樹脂溶液を準備する工程と、酸性陽イオン交換体を洗浄する工程と、洗浄したイオン交換体に酸分解性樹脂溶液を通液する工程とを含むものである。なお、酸分解性樹脂溶液を準備する工程および酸性陽イオン交換体を洗浄する工程は、それらの順序は特に限定されず、いずれが先に行われてもよい。
【0016】
(酸分解性樹脂溶液の準備工程)
本工程は、酸分解性樹脂を含む溶液を準備する工程である。本発明で用いる酸分解性樹脂は、酸の作用により分解し易い官能基や構造を有するものである。このような酸分解性樹脂としては、アセタール構造やヘミアセタール構造を有するものが挙げられる。アセタール構造やヘミアセタール構造は、ポリマー主鎖に含まれても良いし、あるいはポリマー側鎖に含まれていても良い。これらの構造を有する酸分解性樹脂であれば、その他の構造は特に限定されず、通液工程のために有機溶媒に溶解できるものであればよい。
【0017】
通常、上記の酸分解性の構造を有する酸分解性樹脂は、一般的な水分含有量(1000ppm程度)を有するイオン交換体によって金属イオン含有量を低減しようと試みた場合、イオン交換体の酸性交換基により樹脂の分解や保護基の脱離が生じ得る。そのため、本発明の製造方法によって金属イオン濃度を低減した酸分解性樹脂を得ることで、当該酸分解性樹脂をフォトリソグラフィ用組成物として好適に用いることができる。
【0018】
酸分解性樹脂を溶解する有機溶媒は、樹脂の種類に応じて適宜、選択することができる。例えば、下記で説明する重合反応に用いる溶媒をそのまま用いることもできる。
【0019】
本発明においては、酸分解性樹脂溶液として、酸分解性樹脂の重合反応溶液を用いることができる。酸分解性樹脂の重合反応は、公知の方法にて実施できる。例えば、単量体を重合開始剤と共に溶媒に溶解し、そのまま加熱して重合させる一括昇温法、単量体及び重合開始剤を、加熱した溶媒中に滴下して重合させる滴下重合法がある。さらに、滴下重合法には、単量体を重合開始剤と共に必要に応じて溶媒に溶解し、加熱した溶媒中に滴下して重合させる混合滴下法、単量体と重合開始剤を別々に、必要に応じて溶媒に溶解し、加熱した溶媒中に別々に滴下して重合させる独立滴下法、等が挙げられる。本発明においては、滴下重合法が好ましい。
【0020】
ここで、一括昇温法は重合系内において、又、混合滴下法は重合系内に滴下する前の滴下液貯槽内において、未反応単量体の濃度が高い状態で低濃度のラジカルと接触する機会があるため、パターン欠陥発生原因のひとつである分子量10万以上の高分子量体(ハイポリマー)が生成しやすい傾向にある。一方、独立滴下法は、滴下液貯槽で重合開始剤と単量体が共存しないこと、重合系内に滴下した際も未反応単量体濃度が低い状態を保つことから、ハイポリマーが生成しにくいので、本発明における重合方法としては独立滴下法が特に好ましい。尚、混合滴下法及び独立滴下法において、滴下時間と共に滴下する単量体の組成、単量体、重合開始剤及び連鎖移動剤の組成比等を変化させても良い。
【0021】
重合開始剤は、従来公知のものを用いることができる。ラジカル重合の重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物や過酸化物等のラジカル重合開始剤が好ましい。アゾ系化合物の重合開始剤の具体例として、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等を挙げることができる。過酸化物の重合開始剤の具体例として、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルへキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。これらは単独若しくは混合して用いることができる。アゾ系化合物の重合開始剤は取り扱いの安全性が優れることからより好ましい。重合開始剤の使用量は、目的とする分子量や、単量体、重合開始剤、連鎖移動剤、溶媒等の種類、繰り返し単位組成、重合温度や滴下速度等に応じて選択することができる。
【0022】
重合開始剤は、有機溶剤に溶解した状態で重合系内に添加することが好ましい。重合開始剤を溶解する有機溶剤は、重合開始剤を溶解するものであれば特に制限されない。具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等を挙げることができる。これらの溶剤はそれぞれ単独で用いても良いし、複数の溶剤を混合して用いても良い。
【0023】
連鎖移動剤は、連鎖移動剤として公知のものを、必要に応じて用いることができる。中でもチオール化合物が好ましく、公知のチオール化合物の中から幅広く選択することがでる。具体的には、t-ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸等を挙げることができる。また、2-ヒドロキシ-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロピル基が飽和脂肪族炭化水素に結合した構造を有するチオール化合物は、リソグラフィーパターンのラフネスや欠陥を抑える効果があるため特に好ましい。連鎖移動剤の使用量は、目的とする分子量や、単量体、重合開始剤、連鎖移動剤及び溶媒等の種類、繰り返し単位組成、重合温度や滴下速度等に応じて選択することができる。
【0024】
滴下液中の単量体、及び重合開始剤は、それ自体が液体の場合は溶媒に溶解することなく、そのまま供給することも可能であるが、単量体若しくは重合開始剤が粘調な液体や、固体である場合は、溶媒に溶解して用いる必要がある。単量体や重合開始剤の濃度は生産性の面で言えば高い方が好ましいが、濃度が高すぎると、溶液粘度が高くなって操作性が悪くなったり、単量体又は重合開始剤が固体である場合は析出したり、重合系内での拡散に時間がかかったりしてハイポリマーが生成しやすい場合がある。したがって、供給操作に問題のない粘度範囲で、各単量体及び重合開始剤が十分に溶解し、かつ、供給中に析出せず、重合系内で拡散し易い濃度を選択することが好ましい。具体的な濃度は、各溶液の溶質と溶媒の組合せ等により異なるが、通常、全単量体の合計濃度及び重合開始剤濃度が、例えば各々5~60質量%、好ましくは10~50質量%の範囲となるように調製する。
【0025】
混合滴下法及び独立滴下法における滴下時間は、短時間であると分子量分布が広くなりやすいことや、一度に大量の溶液が滴下されるため重合液の温度低下が起こることから好ましくない。逆に、長時間であると共重合体に必要以上の熱履歴がかかることと、生産性が低下することから好ましくない。従って、通常0.5~24時間、好ましくは1~12時間、特に好ましくは2~8時間の範囲から選択する。
【0026】
また、滴下終了後、及び、一括昇温法における重合温度への昇温後は、一定時間温度を維持するか、若しくは更に昇温する等して熟成を行い、残存する未反応単量体を反応させることが好ましい。熟成時間は長すぎると時間当たりの生産効率が低下すること、共重合体に必要以上の熱履歴がかかることから好ましくない。従って、通常12時間以内、好ましくは6時間以内、特に好ましくは1~4時間の範囲から選択する。
【0027】
重合反応に用いる溶媒は、原料単量体、得られた共重合体、重合開始剤及び連鎖移動剤を安定して溶解し得る溶媒であれば特に制限されない。重合溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等を挙げることができる。単量体、重合開始剤、連鎖移動剤、共重合体の溶解性と沸点から、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、アセトニトリルが好ましい。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。また、エチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコージメチルエーテル、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の、単量体、重合開始剤、連鎖移動剤、共重合体の溶解性が高く、高沸点の化合物を混合して用いても良い。
【0028】
重合溶媒の使用量には特に制限はないが、溶媒の使用量があまりに少なすぎると単量体が析出したり高粘度になりすぎて重合系を均一に保てなくなったりする場合があり、多すぎると単量体の転化率が不十分であったり共重合体の分子量が所望の値まで高めることができなかったりする場合がある。通常、単量体1重量部に対して0.5~20重量部、好ましくは1~10重量部である。
【0029】
混合滴下法及び独立滴下法における、反応槽内に初期に張り込む重合溶媒(以下、初期張り溶媒と言うことがある)の量は、攪拌が可能な最低量以上であればよいが、必要以上に多いと、供給できる単量体溶液量が少なくなり、生産効率が低下するため好ましくない。通常は、最終仕込み量(即ち、初期張り溶媒と、滴下する単量体溶液及び開始剤溶液の総量)に対して、例えば容量比で1/30以上、好ましくは1/20~1/2、特に好ましくは1/10~1/3の範囲から選択する。なお、初期張り溶媒に単量体の一部を予め混合しても良い。
【0030】
重合温度は、溶媒、単量体、連鎖移動剤等の沸点、重合開始剤の半減期温度等によって適宜選択することができる。低温では重合が進みにくいため生産性に問題があり、又、必要以上に高温にすると、単量体及び共重合体の安定性の点で問題がある。したがって、好ましくは40~160℃、特に好ましくは60~120℃の範囲で選択する。重合温度は、共重合体の分子量や共重合組成に大きく影響するので、精密に制御する必要がある。一方、重合反応は一般的に発熱反応であり、重合温度が上昇する傾向にあるため、一定温度に制御することが難しい。このため、本発明では、重合溶媒として、目標とする重合温度に近い沸点を有する少なくとも1種以上の化合物を含有させ、重合温度を、該化合物の、重合圧力における初留点以上に設定することが好ましい。この方法によれば、重合溶媒の気化潜熱によって重合温度の上昇を抑制することができる。
【0031】
重合圧力は特に制限されず、常圧、加圧又は減圧下のいずれであってもよいが、通常、常圧である。ラジカル重合の場合は、開始剤からラジカルが発生する際に、アゾ系の場合は窒素ガスが、過酸化物径の場合は酸素ガスが発生することから、重合圧力の変動を抑制する為に、重合系を開放系とし大気圧近傍で行うことが好ましい。
【0032】
(酸性陽イオン交換体の洗浄工程)
本工程は、酸性陽イオン交換体を有機溶媒により洗浄して、酸性陽イオン交換体中の水分含有量を低減させる工程である。洗浄方法は、酸性イオン交換体がフィルターであればフィルターに有機溶媒を通液する、また、粒状のイオン交換樹脂であればカラム等に充填し有機溶媒を通液する、などの方法がある。酸性陽イオン交換体は、通常、市販の状態では、一定量(約1000ppm程度)の水分含有量を有している。本発明においては、有機溶媒によって酸性陽イオン交換体を洗浄して、洗浄後に排出される有機溶媒中の水分含有量が400ppm以下、好ましくは350ppm以下、より好ましくは300ppm以下にまで低減する。
なお、酸性陽イオン交換体中の水分含有量は従来公知の方法によって測定することができる。例えば、カールフィッシャー法にて測定することができる。
【0033】
酸性陽イオン交換体の洗浄に用いる有機溶媒の種類は特に限定されず、上記の重合溶媒等を用いることができる。また、有機溶媒の量も特に限定されず、上記の水分含有量を達成できる量であればよい。
【0034】
本発明で用いる酸性陽イオン交換体の交換基は特に限定されないが、強酸性陽イオン交換基であることが好ましく、一般的にはスルホン酸基である。交換基が強酸性陽イオン交換基であることにより、全てのpH領域で使用でき、また、塩基だけでなく中性塩も分解交換することができる。
【0035】
酸性陽イオン交換体の形態としては、一般的な粒状の陽イオン交換樹脂や、ポリオレフィン膜の表面に陽イオン交換基を化学修飾したイオン交換膜を含むフィルターなどが挙げられる。
【0036】
酸性陽イオン交換体としては、市販品を用いることができ、例えば、酸性陽イオン交換フィルターであるゼータプラス40QSH(3M製)、プロテゴ(インテグリス製)、イオンクリーンSL(ポール製)や、酸性陽イオン交換樹脂であるアンバーリスト15J・WET(オルガノ社製)、ダウェックス50W(室町ケミカル製)、ダイヤイオンPK(三菱ケミカル)などを挙げることができる。
【0037】
(通液工程)
本工程は、上記で洗浄したイオン交換体に準備した樹脂溶液を通液して、酸分解性樹脂中の金属イオン含有量を低減する工程である。本発明においては、水分含有量を上記範囲にまで低減した酸性陽イオン交換体を用いることで、酸分解性樹脂であっても、酸性陽イオン交換体の交換基による分解や脱保護の影響を受けずに、酸分解性樹脂中の金属イオン含有量を低減することができる。
【0038】
上記の通液後の酸分解性樹脂中の金属イオン含有量は、好ましくは50ppb以下であり、より好ましくは30ppb以下であり、さらに好ましくは20ppb以下であり、さらにより好ましくは10ppb以下である。酸分解性樹脂中の金属イオン濃度を上記範囲内に低減することで、フォトリソグラフィ用組成物として好適に用いることができる。
なお、これらの含有量は、ICP質量分析法により測定することができる。
【0039】
酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、その用途に応じて適宜設定され得るものであり特に限定されない。例えば、重量平均分子量(Mw)は、1,000~300,000の範囲内であることが好ましく、2,000~100,000の範囲内であることが好ましく、3,000~80,000の範囲内であることがさらに好ましく、5,000~50,000の範囲内であることがさらにより好ましい。
なお、本発明において、酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による測定値であり、後述する測定条件にて測定することができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。以下、特に断りのない限り、部は質量基準である。
【0041】
[重量平均分子量]
下記で合成した樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレンを標準品としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。固形分2質量%に溶解して分析用試料を調製した。装置への試料注入量は50μlとした。
測定装置:東ソー社製「HPLC-8320GPC」
検出器:示差屈折率(RI)検出器
カラム:Shodex GPC LF804×3(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
温度:40℃
検量線:ポリスチレン標準サンプル(東ソー社製)を用いて作成
【0042】
[アセタール基の保護率]
下記で合成した樹脂のアセタール基の保護率は13C-NMRで分析した。樹脂溶液2gとCr(III)アセチルアセトナート0.1gを、重アセトン1.0gに溶解して分析用試料を調製した。
装置:ブルカー製「AVANCE400」
核種:13
測定法:インバースゲートデカップリング
積算回数:6000回
測定チューブ径:10mmφ
【0043】
[金属イオン濃度]
下記で合成した樹脂の通液前後の金属イオン(ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン)濃度をICP質量分析法により測定した。
ICP質量分析装置:アジレント・テクノロジー(株)製「Agilent7500cs」
【0044】
[水分含有量]
酸性陽イオン交換体を洗浄した際に排出される有機溶媒中の水分含有量をカールフィッシャー法にて測定した。
カールフィッシャー装置:平沼産業製 AQ-2200
電解液:HYDRANAL クローマットAK
対電極:HYDRANAL クローマットCG-K
【0045】
[実施例1]
温度計、冷却管及び撹拌装置を備えたナスフラスコにプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと記載する)537部、10質量%メタンスルホン酸(PGMEA溶液)を4.0部、純水2.7部を加え、5℃に冷却した。続いて、該ナスフラスコに、ジエチレングリコールモノビニルエーテル(以下、DEGVと記載する)540部を2時間掛けて滴下した。滴下終了後、25℃に昇温をして4時間熟成し、反応を行った。反応終了後、PGMEA330部を重合反応溶液に投入して、希釈をおこなった。その後、弱塩基性イオン交換樹脂であるアンバーリストB20-HG・DRY(オルガノ社製)37.2部で約6時間掛けてイオン交換を行い、酸触媒(メタンスルホン酸)の除去を行った。得られた樹脂溶液から酸分解性樹脂をサンプリングし、重量平均分子量(Mw)および金属イオン濃度を測定した。
上記反応により以下の式で表される重合体が得られた。
【化1】
【0046】
また、酸性陽イオン交換フィルターであるゼータプラスB90-40QSH(3M製、以下、40QSHと記載する)にPGMEAを通液して洗浄を行って、排出されるPGMEA中の水分含有量が140ppmに低減したことを確認した。続いて、洗浄した40QSHに樹脂溶液200部を30分掛けて通液し、金属イオン濃度を低減させた。得られた酸分解性樹脂中の金属イオン濃度を分析した。表1には、洗浄後に排出される有機溶媒中の水分含有量、通液後の酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)および金属イオン濃度を示した。
【0047】
[実施例2]
実施例1と同条件で反応を行い、酸触媒(メタンスルホン酸)の除去を行って、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液から酸分解性樹脂をサンプリングし、重量平均分子量(Mw)および金属イオン濃度を測定した。
【0048】
また、酸性陽イオン交換樹脂であるアンバーリスト15J・WET(オルガノ社製、以下、15Jと記載する)を5.2部使用し、事前にPGMEAで洗浄を行って、排出されるPGMEA中の水分含有量が300ppmに低減したことを確認した。続いて、洗浄した15Jに樹脂溶液200部を40分掛けて通液し、金属イオン濃度を低減させた。得られた酸分解性樹脂中の金属イオン濃度を分析した。表1には、洗浄終了時のイオン交換樹脂から排出される有機溶媒中の水分含有量、通液後の酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)および金属イオン濃度を示した。
【0049】
[実施例3]
温度計、冷却管及び撹拌装置を備えたナスフラスコにHPS-H10K(丸善石油化学製、Mw=10,000、パラヒドロキシスチレンホモポリマー、30質量%PGMEA溶液)266部、10質量%トリフルオロ酢酸(PGMEA溶液)を1.9部、PGMEA42部を加え、40℃に昇温した。続いて、該ナスフラスコに、エチルビニルエーテル19.5部、PGMEA18.6部を混合した溶液を30分間掛けて滴下した。滴下終了後、40℃で4時間熟成し、反応を行った。反応終了後、PGMEA42部を反応溶液に投入して、希釈をおこなった。その後、アンバーリストB20-HG・DRY(オルガノ社製)3.7部で約6時間掛けてイオン交換を行い、酸触媒(トリフルオロ酢酸)の除去を行った。得られた樹脂溶液から酸分解性樹脂をサンプリングし、重量平均分子量(Mw)、アセタール基の保護率、および金属イオン濃度を測定した。
上記反応により以下の式で表される重合体が得られた。
【化2】
【0050】
また、酸性陽イオン交換フィルターである40QSHにPGMEAを通液して洗浄を行って、排出されるPGMEA中の水分含有量が120ppmに低減したことを確認した。続いて、洗浄した40QSHに樹脂溶液200部を30分掛けて通液し、金属イオン濃度を低減させた。得られた酸分解性樹脂中の金属イオン濃度を分析した。表1には、洗浄終了時のイオン交換樹脂から排出される有機溶媒中の水分含有量、通液後の酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)、アセタール基の保護率、および金属イオン濃度を示した。
【0051】
[実施例4]
温度計、冷却管及び撹拌装置を備えたナスフラスコに1-(ブトキシ)エチルメタクリレート(以下、BEMAと記載する)152部、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレートを9.2部、メチルエチルケトン350部を加え、還流条件で4時間熟成し反応を行った。反応終了後、メタノール1596部、純水154部の混合溶液に滴下して酸分解性樹脂を析出させた。続いて、ろ過を行い、回収した樹脂をPGMEA1000部に溶解させた。得られた樹脂溶液から酸分解性樹脂をサンプリングし、重量平均分子量(Mw)、アセタール基の保護率、および金属イオン濃度を測定した。
上記反応により以下の式で表される重合体が得られた。
【化3】
【0052】
また、酸性陽イオン交換フィルターである40QSHにPGMEAを通液して洗浄を行って、排出されるPGMEA中の水分含有量が120ppmに低減したことを確認した。続いて、洗浄した40QSHに樹脂溶液200部を30分掛けて通液し、金属イオン濃度を低減させた。得られた酸分解性樹脂中の金属イオン濃度を分析した。表1には、洗浄終了時のイオン交換樹脂から排出される有機溶媒中の水分含有量、通液後の酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)、アセタール基の保護率、および金属イオン濃度を示した。
【0053】
[比較例1]
実施例1と同条件で反応を行い、酸触媒の除去を行って、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液から酸分解性樹脂をサンプリングし、重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0054】
また、酸性陽イオン交換フィルターである40QSHにPGMEA200部を通液して洗浄を行って、排出されるPGMEA中の水分含有量を測定した。水分含有量は840ppmであった。続いて、洗浄した40QSHに樹脂溶液200部を30分掛けて通液した。通液後の酸分解性樹脂中の重量平均分子量(Mw)を測定し、分解の有無を確認した。表1には、洗浄終了時のイオン交換フィルターから排出される有機溶媒中の水分含有量、通液後の酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)を示した。
【0055】
[比較例2]
実施例3と同条件で反応を行い、酸触媒の除去を行って、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液から酸分解性樹脂をサンプリングし、重量平均分子量(Mw)およびアセタール基の保護率を測定した。
【0056】
また、酸性陽イオン交換フィルターである40QSHにPGMEA200部を通液して洗浄を行って、排出されるPGMEA中の水分含有量を測定した。水分含有量は940ppmであった。続いて、洗浄した40QSHに樹脂溶液200部を30分掛けて通液した。通液後の酸分解性樹脂中の重量平均分子量(Mw)およびアセタール基の保護率を測定し、分解や脱保護の有無を確認した。表1には、洗浄終了時のイオン交換フィルターから排出される有機溶媒中の水分含有量、通液後の酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)およびアセタール基の保護率を示した。
【0057】
[比較例3]
実施例4と同条件で反応を行い、酸触媒の除去を行って、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液から酸分解性樹脂をサンプリングし、重量平均分子量(Mw)およびアセタール基の保護率を測定した。
【0058】
また、酸性陽イオン交換フィルターである40QSHにPGMEA200部を通液して洗浄を行って、排出されるPGMEA中の水分含有量を測定した。水分含有量は830ppmであった。続いて、洗浄した40QSHに樹脂溶液200部を30分掛けて通液した。通液後の酸分解性樹脂中の重量平均分子量(Mw)およびアセタール基の保護率を測定し、分解や脱保護の有無を確認した。表1には、洗浄終了時のイオン交換フィルターから排出される有機溶媒中の水分含有量、通液後の酸分解性樹脂の重量平均分子量(Mw)およびアセタール基の保護率を示した。
【0059】
表1の結果から、実施例1~4で得られた酸分解性樹脂は、イオン交換体への通液の前後で重量平均分子量(Mw)やアセタール基の保護率が変化しておらず、分解されていなかった。さらに、実施例1~4で得られた酸分解性樹脂中の金属イオン濃度は、イオン交換体への通液によって大幅に低減されていた。特に、実施例1および2では、カリウムイオンは200ppbレベルから1ppbに低減できており、顕著な効果が認められた。
一方、比較例1~3で得られた酸分解性樹脂は、イオン交換体への通液の前後で重量平均分子量(Mw)やアセタール基の保護率が低下しており、酸分解性樹脂の一部分解が認められた。
【0060】
【表1】