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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】色合わせ方法および色合わせプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 29/393 20060101AFI20230324BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20230324BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230324BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20230324BHJP
   B41J 29/42 20060101ALI20230324BHJP
   H04N 1/50 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
B41J29/393 107
B41J2/21
B41J2/01 207
B41J2/165 201
B41J2/01 205
B41J29/42 F
H04N1/50
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019149442
(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公開番号】P2021030472
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121348
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 健児
(74)【代理人】
【識別番号】100114247
【氏名又は名称】奥田 邦廣
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋記
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-255540(JP,A)
【文献】特開2015-104921(JP,A)
【文献】特開2015-134487(JP,A)
【文献】特開2010-201819(JP,A)
【文献】特開2016-163940(JP,A)
【文献】特開2011-25604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 5/52-5/525
B41J 29/00-29/70
H04N 1/46-1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式の印刷機である基準機と基材の送り方向に対して垂直な横幅方向に並べて配置された複数のヘッドを備えるインクジェット方式の印刷機である調整対象機との間で複数のパッチからなるカラーチャートを用いて色合わせを行う方法であって、
前記基準機から出力された第1のカラーチャートの測色を行う第1測色ステップと、
前記調整対象機から出力された第2のカラーチャートの測色を行う第2測色ステップと、
各境界が基材の送り方向に対して平行となるようカラーチャート全体の領域を複数に分割することによって得られる分割領域毎に、前記第1測色ステップで得られた測色値と前記第2測色ステップで得られた測色値との差である色差に関する代表値を求める代表値算出ステップと、
代表値が最も小さい分割領域を基準領域として、前記基準領域以外の分割領域のそれぞれについて、前記基準領域との間の代表値の差分値を算出する差分値算出ステップと、
前記差分値算出ステップで算出された差分値に基づいて、前記調整対象機のヘッドの異常が生じている異常領域を特定する異常領域特定ステップと
を含み、
前記分割領域は前記複数のヘッドの前記横幅方向位置を基準に設定されており、
前記異常領域特定ステップでは、前記差分値算出ステップで算出された差分値が第1の閾値以上である分割領域が前記異常領域として特定されることを特徴とする、色合わせ方法。
【請求項2】
前記代表値算出ステップで求められる代表値は、各分割領域に含まれるパッチについての色差の平均値であることを特徴とする、請求項1に記載の色合わせ方法。
【請求項3】
前記代表値算出ステップで求められる代表値は、各分割領域に含まれるパッチのうち色差が第2の閾値以上であるパッチの個数であることを特徴とする、請求項1に記載の色合わせ方法。
【請求項4】
前記異常領域特定ステップで特定された異常領域を明示して前記調整対象機の異常を報知する報知ステップを更に含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の色合わせ方法。
【請求項5】
前記調整対象機は、前記複数のヘッドをインク色毎に備え、
前記異常領域に対応するヘッドのうち異常が生じているヘッドのインク色を異常インク色として特定する異常インク色特定ステップを更に含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の色合わせ方法。
【請求項6】
前記異常インク色特定ステップで特定された異常インク色用のヘッドに対して自動的にクリーニングを行うクリーニングステップを更に含むことを特徴とする、請求項5に記載の色合わせ方法。
【請求項7】
前記異常インク色特定ステップで特定された異常インク色用のヘッドから吐出されるインクの量が調整されるよう自動的にシェーディング補正処理を行うシェーディングステップを更に含むことを特徴とする、請求項5に記載の色合わせ方法。
【請求項8】
前記調整対象機が備える各ヘッドは、インクを吐出するためのノズル列をインク色毎に備え、
前記異常領域に対応するヘッドに含まれるノズル列のうち異常が生じているノズル列のインク色を異常インク色として特定する異常インク色特定ステップを更に含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の色合わせ方法。
【請求項9】
前記異常インク色特定ステップは、
前記第1のカラーチャートに含まれる複数のパッチから前記異常領域に含まれ対象インク色の成分を含まないパッチの集合である第1パッチ群を抽出する第1パッチ群抽出ステップと、
前記第2のカラーチャートに含まれる複数のパッチから前記異常領域に含まれ対象インク色の成分を含まないパッチの集合である第2パッチ群を抽出する第2パッチ群抽出ステップと、
前記第1パッチ群の測色値と前記第2パッチ群の測色値とに基づいて、前記異常領域における色差の平均値を算出する異常領域色差算出ステップと、
前記第1のカラーチャートに含まれる複数のパッチから前記異常領域以外の分割領域である正常領域に含まれ対象インク色の成分を含まないパッチの集合である第3パッチ群を抽出する第3パッチ群抽出ステップと、
前記第2のカラーチャートに含まれる複数のパッチから前記正常領域に含まれ対象インク色の成分を含まないパッチの集合である第4パッチ群を抽出する第4パッチ群抽出ステップと、
前記第3パッチ群の測色値と前記第4パッチ群の測色値とに基づいて、前記正常領域における色差の平均値を算出する正常領域色差算出ステップと、
前記異常領域色差算出ステップで算出された平均値と前記正常領域色差算出ステップで算出された平均値との差分値を異常判定用差分値として算出する異常判定用差分値算出ステップと
を含み、
全てのインク色を1つずつ対象インク色として、前記第1パッチ群抽出ステップと前記第2パッチ群抽出ステップと前記異常領域色差算出ステップと前記第3パッチ群抽出ステップと前記第4パッチ群抽出ステップと前記正常領域色差算出ステップと前記異常判定用差分値算出ステップとからなる一連の処理が全てのインク色について実行され、
前記異常判定用差分値算出ステップで算出された異常判定用差分値の最小値に対応するインク色が前記異常インク色として特定されることを特徴とする、請求項5から8までのいずれか1項に記載の色合わせ方法。
【請求項10】
前記異常インク色特定ステップでは、前記第1測色ステップで得られた測色値と前記第2測色ステップで得られた測色値との差に関して、前記異常領域に含まれるパッチについてのLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの差の平均値がL*値誤差、a*値誤差、およびb*値誤差として求められ、前記L*値誤差、前記a*値誤差、および前記b*値誤差のうちの最大値に基づいて前記異常インク色が特定されることを特徴とする、請求項5から8までのいずれか1項に記載の色合わせ方法。
【請求項11】
前記異常インク色特定ステップは、
前記第1測色ステップで得られた測色値に基づいて、前記異常領域に含まれるパッチについてのLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの平均値によって特定される座標点Pを求める第1の座標点特定ステップと、
前記第2測色ステップで得られた測色値に基づいて、前記異常領域に含まれるパッチについてのLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの平均値によって特定される座標点Qを求める第2の座標点特定ステップと、
前記座標点Pを始点とし前記座標点Qを終点とするベクトルPQを定義する色差ベクトル定義ステップと、
各インク色の変化に対するLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの変化をICCプロファイルを用いて予測する変化予測ステップと、
前記変化予測ステップでの予測結果に基づいて各インク色のベクトルを定義するインク色ベクトル定義ステップと、
各インク色のベクトルと前記ベクトルPQとの内積を求める内積計算ステップと
を含み、
前記内積計算ステップで求められた内積の絶対値のうちの最大値に対応するインク色が前記異常インク色として特定されることを特徴とする、請求項5から8までのいずれか1項に記載の色合わせ方法。
【請求項12】
インクジェット方式の印刷機である基準機と基材の送り方向に対して垂直な横幅方向に並べて配置された複数のヘッドを備えるインクジェット方式の印刷機である調整対象機との間で複数のパッチからなるカラーチャートを用いて色合わせを行うためのプログラムであって、
コンピュータに、
各境界が基材の送り方向に対して平行となるようカラーチャート全体の領域を複数に分割することによって得られる分割領域毎に、前記基準機から出力された第1のカラーチャートの測色によって得られた測色値と前記調整対象機から出力された第2のカラーチャートの測色によって得られた測色値との差である色差に関する代表値を求める代表値算出ステップと、
代表値が最も小さい分割領域を基準領域として、前記基準領域以外の分割領域のそれぞれについて、前記基準領域との間の代表値の差分値を算出する差分値算出ステップと、
前記差分値算出ステップで算出された差分値に基づいて、前記調整対象機のヘッドの異常が生じている異常領域を特定する異常領域特定ステップと
を実行させ、
前記分割領域は前記複数のヘッドの前記横幅方向位置を基準に設定されており、
前記異常領域特定ステップでは、前記差分値算出ステップで算出された差分値が第1の閾値以上である分割領域が前記異常領域として特定されることを特徴とする、色合わせプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの印刷装置間での色合わせを行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷装置の分野では、複数の装置間で同じ色見本に対して同じ色の印刷が行われるように調整する「色合わせ」と呼ばれる処理が行われている。色合わせは、図20に示すように、調整を行う対象である調整対象機91でテストパターンを印刷することによって得られるカラーチャート93と目標とする色を出力するリファレンス機92でテストパターンを印刷することによって得られるカラーチャート94とを比較することにより行われる。詳しくは、カラーチャート93の測色結果とカラーチャート94の測色結果とに基づいて両者間の色差が求められ、当該色差ができるだけ小さくなるように色合わせ用のパラメータの調整が行われる。このような色合わせは、例えば、印刷会社で新しい印刷装置を導入した場合に所定の印刷物に関しては従来の印刷装置と同様の色の出力が望まれるときに行われる。この例では、新しい印刷装置が調整対象機91とされ、従来の印刷装置がリファレンス機92とされる。
【0003】
ところで、近年、色合わせを効率的に行うためのソフトウェア(以下、「色合わせソフト」という。)も提供されている。色合わせソフトによれば、上記2つのカラーチャート93,94の測色結果に基づいて、カラーチャート94と次の印刷で得られるカラーチャート93との色差がより小さくなるよう自動的にパラメータの変更が行われる。
【0004】
ここで、図21を参照しつつ、色合わせソフトを用いた従来の色合わせの手順について説明する。まず、リファレンス機92でテストパターンの印刷が行われ(ステップS900)、それによって得られたカラーチャート94の測色が行われる(ステップS910)。次に、調整対象機91でテストパターンの印刷が行われ(ステップS920)、それによって得られたカラーチャート93の測色が行われる(ステップS930)。
【0005】
その後、ステップS910で得られた測色値とステップS930で得られた測色値とに基づいて、2つのカラーチャート93,94間の色差dEが算出される(ステップS940)。ステップS940の処理によって、例えば、図22に示すように、カラーチャートに含まれる複数のパッチの平均色差および最大色差が求められる。そして、ステップS940で得られた結果に基づいて、色合わせ用のパラメータの調整が必要であるか否か(色差が許容範囲内であるか否か)の判定が行われる(ステップS950)。このステップS950での判定は、典型的にはユーザー(作業者)の経験に基づいて行われる。ステップS950において、パラメータの調整が必要である旨の判定が行われれば、処理はステップS960に進み、パラメータの調整が必要ではない旨の判定が行われれば、処理はステップS970に進む。なお、ステップS950において印刷装置(調整対象機91)自体の調整が必要である旨の判定が行われる場合もあり、この場合には印刷装置自体の調整後に色合わせの処理が再度実行される。
【0006】
ステップS960では、色合わせソフトによってパラメータの変更が行われる。これにより、調整対象機91で次にテストパターンの印刷が行われる際、図23に示すように、変更後のパラメータを保持したパラメータファイル95を用いて、テストパターンに相当する画像データ951の変換が行われる(変換後の画像データを符号952で表している)。ステップS960の終了後、ステップS950で「パラメータの調整が必要ではない」旨の判定が行われるまで、ステップS920以降の処理が繰り返される。
【0007】
ステップS970では、最後に実行されたステップS960で得られたパラメータが、調整対象機91での実際の運用の際に使用されるパラメータとして保存される。これにより、色合わせが終了する。
【0008】
色合わせ終了後の調整対象機91の実際の運用の際には、例えば、CMYK形式の入稿データに対して、RIP処理と併せて、CMYK値を補正する処理が行われる。これに関し、まず、リファレンス機92での印刷に用いられるICCプロファイル96を用いて、入稿データである第1のCMYKデータ981を第2のCMYKデータ982に補正する処理が行われる(図24参照)。そして、図21のステップS970で保存されたパラメータを保持したパラメータファイル97を用いて、第2のCMYKデータ982を第3のCMYKデータ983に補正する処理が行われる(図24参照)。この第3のCMYKデータ983を用いて、調整対象機91での印刷が行われる。以上のようにして、調整対象機91から出力される印刷物に関して、リファレンス機92から出力された場合と同様の色が得られる。
【0009】
なお、本発明に関連して以下の先行技術文献が知られている。特開2018-89844号公報には、不良ノズルの位置を取得するノズル情報取得部とパッチの印刷に割り当てられるパッチ印刷ノズルの中に不良ノズルが含まれるか否かを判定する判定部とパッチ印刷ノズルの中に不良ノズルが含まれる場合にパッチ印刷ノズルの位置を補正する補正部とを備えた印刷制御装置の発明が開示されている。また、特開2004-98468号公報には、モニタの表示色を印刷で忠実に再現することについて記載されている。具体的には、YあるいはMのインクを出力する際には若干のCのインクを付加すれば良く、Cのインクを出力する際には若干のYのインクを付加すれば良い旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2018-89844号公報
【文献】特開2004-98468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、従来の手法によれば、色合わせの処理で得られた結果(色差)に関して、色合わせ用パラメータの調整が十分に行われて得られた最良の結果であるのか印刷機自体の調整によって改善される余地があるのかの判断がユーザーによってなされている。このため、ユーザーが判断を誤った場合には、色合わせの処理が無駄に実行されるという結果に陥ることとなる。
【0012】
そこで、本発明は、色合わせ処理の無駄な実行を防止することのできる色合わせ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、インクジェット方式の印刷機である基準機と基材の送り方向に対して垂直な横幅方向に並べて配置された複数のヘッドを備えるインクジェット方式の印刷機である調整対象機との間で複数のパッチからなるカラーチャートを用いて色合わせを行う方法であって、
前記基準機から出力された第1のカラーチャートの測色を行う第1測色ステップと、
前記調整対象機から出力された第2のカラーチャートの測色を行う第2測色ステップと、
各境界が基材の送り方向に対して平行となるようカラーチャート全体の領域を複数に分割することによって得られる分割領域毎に、前記第1測色ステップで得られた測色値と前記第2測色ステップで得られた測色値との差である色差に関する代表値を求める代表値算出ステップと、
代表値が最も小さい分割領域を基準領域として、前記基準領域以外の分割領域のそれぞれについて、前記基準領域との間の代表値の差分値を算出する差分値算出ステップと、
前記差分値算出ステップで算出された差分値に基づいて、前記調整対象機のヘッドの異常が生じている異常領域を特定する異常領域特定ステップと
を含み、
前記分割領域は前記複数のヘッドの前記横幅方向位置を基準に設定されており、
前記異常領域特定ステップでは、前記差分値算出ステップで算出された差分値が第1の閾値以上である分割領域が前記異常領域として特定されることを特徴とする。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、
前記代表値算出ステップで求められる代表値は、各分割領域に含まれるパッチについての色差の平均値であることを特徴とする。
【0015】
第3の発明は、第1の発明において、
前記代表値算出ステップで求められる代表値は、各分割領域に含まれるパッチのうち色差が第2の閾値以上であるパッチの個数であることを特徴とする。
【0016】
第4の発明は、第1から第3までのいずれかの発明において、
前記異常領域特定ステップで特定された異常領域を明示して前記調整対象機の異常を報知する報知ステップを更に含むことを特徴とする。
【0017】
第5の発明は、第1から第4までのいずれかの発明において、
前記調整対象機は、前記複数のヘッドをインク色毎に備え、
前記異常領域に対応するヘッドのうち異常が生じているヘッドのインク色を異常インク色として特定する異常インク色特定ステップを更に含むことを特徴とする。
【0018】
第6の発明は、第5の発明において、
前記異常インク色特定ステップで特定された異常インク色用のヘッドに対して自動的にクリーニングを行うクリーニングステップを更に含むことを特徴とする。
【0019】
第7の発明は、第5の発明において、
前記異常インク色特定ステップで特定された異常インク色用のヘッドから吐出されるインクの量が調整されるよう自動的にシェーディング補正処理を行うシェーディングステップを更に含むことを特徴とする。
【0020】
第8の発明は、第1から第4までのいずれかの発明において、
前記調整対象機が備える各ヘッドは、インクを吐出するためのノズル列をインク色毎に備え、
前記異常領域に対応するヘッドに含まれるノズル列のうち異常が生じているノズル列のインク色を異常インク色として特定する異常インク色特定ステップを更に含むことを特徴とする。
【0021】
第9の発明は、第5から第8までのいずれかの発明において、
前記異常インク色特定ステップは、
前記第1のカラーチャートに含まれる複数のパッチから前記異常領域に含まれ対象インク色の成分を含まないパッチの集合である第1パッチ群を抽出する第1パッチ群抽出ステップと、
前記第2のカラーチャートに含まれる複数のパッチから前記異常領域に含まれ対象インク色の成分を含まないパッチの集合である第2パッチ群を抽出する第2パッチ群抽出ステップと、
前記第1パッチ群の測色値と前記第2パッチ群の測色値とに基づいて、前記異常領域における色差の平均値を算出する異常領域色差算出ステップと、
前記第1のカラーチャートに含まれる複数のパッチから前記異常領域以外の分割領域である正常領域に含まれ対象インク色の成分を含まないパッチの集合である第3パッチ群を抽出する第3パッチ群抽出ステップと、
前記第2のカラーチャートに含まれる複数のパッチから前記正常領域に含まれ対象インク色の成分を含まないパッチの集合である第4パッチ群を抽出する第4パッチ群抽出ステップと、
前記第3パッチ群の測色値と前記第4パッチ群の測色値とに基づいて、前記正常領域における色差の平均値を算出する正常領域色差算出ステップと、
前記異常領域色差算出ステップで算出された平均値と前記正常領域色差算出ステップで算出された平均値との差分値を異常判定用差分値として算出する異常判定用差分値算出ステップと
を含み、
全てのインク色を1つずつ対象インク色として、前記第1パッチ群抽出ステップと前記第2パッチ群抽出ステップと前記異常領域色差算出ステップと前記第3パッチ群抽出ステップと前記第4パッチ群抽出ステップと前記正常領域色差算出ステップと前記異常判定用差分値算出ステップとからなる一連の処理が全てのインク色について実行され、
前記異常判定用差分値算出ステップで算出された異常判定用差分値の最小値に対応するインク色が前記異常インク色として特定されることを特徴とする。
【0022】
第10の発明は、第5から第8までのいずれかの発明において、
前記異常インク色特定ステップでは、前記第1測色ステップで得られた測色値と前記第2測色ステップで得られた測色値との差に関して、前記異常領域に含まれるパッチについてのLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの差の平均値がL*値誤差、a*値誤差、およびb*値誤差として求められ、前記L*値誤差、前記a*値誤差、および前記b*値誤差のうちの最大値に基づいて前記異常インク色が特定されることを特徴とする。
【0023】
第11の発明は、第5から第8までのいずれかの発明において、
前記異常インク色特定ステップは、
前記第1測色ステップで得られた測色値に基づいて、前記異常領域に含まれるパッチについてのLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの平均値によって特定される座標点Pを求める第1の座標点特定ステップと、
前記第2測色ステップで得られた測色値に基づいて、前記異常領域に含まれるパッチについてのLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの平均値によって特定される座標点Qを求める第2の座標点特定ステップと、
前記座標点Pを始点とし前記座標点Qを終点とするベクトルPQを定義する色差ベクトル定義ステップと、
各インク色の変化に対するLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの変化をICCプロファイルを用いて予測する変化予測ステップと、
前記変化予測ステップでの予測結果に基づいて各インク色のベクトルを定義するインク色ベクトル定義ステップと、
各インク色のベクトルと前記ベクトルPQとの内積を求める内積計算ステップと
を含み、
前記内積計算ステップで求められた内積の絶対値のうちの最大値に対応するインク色が前記異常インク色として特定されることを特徴とする。
【0024】
第12の発明は、インクジェット方式の印刷機である基準機と基材の送り方向に対して垂直な横幅方向に並べて配置された複数のヘッドを備えるインクジェット方式の印刷機である調整対象機との間で複数のパッチからなるカラーチャートを用いて色合わせを行うためのプログラムであって、
コンピュータに、
各境界が基材の送り方向に対して平行となるようカラーチャート全体の領域を複数に分割することによって得られる分割領域毎に、前記基準機から出力された第1のカラーチャートの測色によって得られた測色値と前記調整対象機から出力された第2のカラーチャートの測色によって得られた測色値との差である色差に関する代表値を求める代表値算出ステップと、
代表値が最も小さい分割領域を基準領域として、前記基準領域以外の分割領域のそれぞれについて、前記基準領域との間の代表値の差分値を算出する差分値算出ステップと、
前記差分値算出ステップで算出された差分値に基づいて、前記調整対象機のヘッドの異常が生じている異常領域を特定する異常領域特定ステップと
を実行させ、
前記分割領域は前記複数のヘッドの前記横幅方向位置を基準に設定されており、
前記異常領域特定ステップでは、前記差分値算出ステップで算出された差分値が第1の閾値以上である分割領域が前記異常領域として特定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
上記第1の発明によれば、色合わせの際に、各境界が基材(典型的には印刷用紙)の送り方向に対して平行となるようカラーチャート全体の領域が複数に分割され、分割領域毎に、第1のカラーチャートの測色で得られた測色値と第2のカラーチャートの測色で得られた測色値との差である色差に関する代表値(例えば、平均色差)が求められる。そして、その代表値が最も小さい分割領域が基準領域に設定され、基準領域と当該基準領域以外の各分割領域との間での代表値の差分値が求められる。この差分値に基づいて、ユーザーの経験に基づく判断を要することなく、ヘッドに異常が生じている異常領域の有無を判定することが可能となる。これにより、色合わせ処理を行うべきであるか印刷機(調整対象機)自体の調整をすべきであるのかを従来よりも正確に判断することが可能となる。その結果、ヘッドに異常がある場合に色合わせ処理が無駄に実行されることが防止される。
【0026】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【0027】
上記第3の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【0028】
上記第4の発明によれば、色合わせの際にユーザーは調整対象機の異常を速やかに把握することができる。
【0029】
上記第5の発明によれば、調整対象機に異常がある場合にどのインク色のヘッドに異常があるのかが特定されるので、異常が生じているヘッドに対する処理を速やかに施すことが可能となる。
【0030】
上記第6の発明によれば、異常が生じているヘッドに対して自動的にクリーニングが施されるので、色合わせに要する時間が短縮される。
【0031】
上記第7の発明によれば、ヘッドに異常がある場合に自動的にシェーディング補正処理が行われるので、色合わせに要する時間が短縮される。
【0032】
上記第8の発明によれば、調整対象機に異常がある場合にどのインク色のノズル列に異常があるのかが特定されるので、異常が生じているノズル列に対する処理を速やかに施すことが可能となる。
【0033】
上記第9の発明によれば、上記第5の発明と同様の効果が得られる。
【0034】
上記第10の発明によれば、上記第5の発明と同様の効果が得られる。
【0035】
上記第11の発明によれば、上記第5の発明と同様の効果が得られる。
【0036】
上記第12の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施形態における印刷システムの全体構成図である。
図2】上記実施形態において、印刷システムに含まれているインクジェット印刷装置について説明するためのブロック図である。
図3】上記実施形態におけるインクジェット印刷装置の一構成例を示す模式図である。
図4】上記実施形態におけるインクジェット印刷装置の印字部の平面図である。
図5】上記実施形態における色合わせ装置のハードウェア構成図である。
図6】上記実施形態における色合わせ処理の概略について説明するための図である。
図7】上記実施形態における色合わせ処理の概略について説明するための図である。
図8】上記実施形態における色合わせ処理の手順を示すフローチャートである。
図9】上記実施形態において、通知画面の一例を示す図である。
図10】上記実施形態において、付加的なステップについて説明するための図である。
図11】上記実施形態において、付加的なステップについて説明するための図である。
図12】上記実施形態において、印字部の別の構成例を示す図である。
図13】上記実施形態において、ヘッドの異常が生じているインク色を特定する処理の手順を示すフローチャートである。
図14】上記実施形態において、カラーチャートに含まれるパッチについて説明するための図である。
図15】上記実施形態において、カラーチャートに含まれるパッチについて説明するための図である。
図16】上記実施形態の第1の変形例において、L*値誤差、a*値誤差、およびb*値誤差と4つのインク色のインク使用量との関係について説明するための図である。
図17】上記実施形態の第2の変形例における異常インク色の特定手順を示すフローチャートである。
図18】上記実施形態の第2の変形例において、座標点P、座標点Q、およびベクトルPQについて説明するための図である。
図19】上記実施形態の第2の変形例において、ベクトルPQとベクトルVcとの内積について説明するための図である。
図20】従来技術に関し、色合わせについて説明するための図である。
図21】従来技術に関し、色合わせソフトを用いた従来の色合わせの手順を示すフローチャートである。
図22】従来技術に関し、色差の算出によって得られる結果について説明するための図である。
図23】従来技術に関し、色合わせソフトによるパラメータの変更について説明するための図である。
図24】従来技術に関し、実際の運用の際のデータの補正について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0039】
<1.印刷システムの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態における印刷システムの全体構成図である。この印刷システムは、インクジェット印刷装置100と色合わせ処理を行う色合わせ装置200と色の測定を行う測色機300とによって構成されている。インクジェット印刷装置100と色合わせ装置200と測色機300とは通信回線CLによって互いに接続されている。インクジェット印刷装置100は、印刷版を用いることなくデジタルデータである印刷データに基づいて印刷を行う。インクジェット印刷装置100は、印刷機本体120とそれを制御する印刷制御装置110とによって構成されている。なお、本実施形態においては、インクジェット印刷装置100での印刷に使用される印刷データを生成するRIP処理が色合わせ装置200で実行されるものと仮定する。
【0040】
本実施形態における印刷システムには、図2に示すように、インクジェット印刷装置100として調整対象機101とリファレンス機(基準機)102とが含まれている。但し、リファレンス機102でのテストパターンの印刷によって得られたカラーチャートの測色結果が色合わせ装置200などに保持されているのであれば、この印刷システムにリファレンス機102が含まれていなくても良い。
【0041】
なお、以下においては、調整対象機101でのテストパターンの印刷によって得られたカラーチャートを「調整用チャート」といい、リファレンス機102でのテストパターンの印刷によって得られたカラーチャートを「リファレンス用チャート」という。
【0042】
<2.インクジェット印刷装置の構成>
図3は、本実施形態におけるインクジェット印刷装置100(調整対象機101)の一構成例を示す模式図である。上述したように、このインクジェット印刷装置100は、印刷機本体120とそれを制御する印刷制御装置110とによって構成されている。
【0043】
印刷機本体120は、基材である印刷用紙(例えばロール紙)122を供給する用紙送出部121と、印刷用紙122を印刷機構内部へと搬送するための第1の駆動ローラ123と、印刷機構内部で印刷用紙122を搬送するための複数個の支持ローラ124と、印刷用紙122にインクを吐出して印刷を行う印字部125と、印刷後の印刷用紙122を乾燥させる乾燥部126と、印刷用紙122への印刷の状態を検査する検査装置127と、印刷用紙122を印刷機構内部から出力するための第2の駆動ローラ128と、印刷後の印刷用紙122を巻き取る用紙巻取部129とを備えている。このように第1の駆動ローラ123と第2の駆動ローラ128とにより印刷用紙122は用紙送出部121から用紙巻取部129に向けて一定の搬送方向で搬送される。
【0044】
印字部125には、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),およびK(ブラック)のインクをそれぞれ吐出するC用インクジェットヘッド125c,M用インクジェットヘッド125m,Y用インクジェットヘッド125y,およびK用インクジェットヘッド125kが含まれている。図4は、印字部125の平面図である。図4に示すように、印字部125は、複数のC用インクジェットヘッド125cからなるCインク吐出部5cと、複数のM用インクジェットヘッド125mからなるMインク吐出部5mと、複数のY用インクジェットヘッド125yからなるYインク吐出部5yと、複数のK用インクジェットヘッド125kからなるKインク吐出部5kとによって構成されている。図4から把握されるように、各インク色に関し、印刷用紙の送り方向に対して垂直な方向に複数のインクジェットヘッドが並べて配置されている。例えばCインク吐出部5cに着目すると、印刷用紙の送り方向に対して垂直な方向に延びるように、複数のC用インクジェットヘッド125cが千鳥状に配置されている。Mインク吐出部5m,Yインク吐出部5y,およびKインク吐出部5kについても同様である。
【0045】
印刷制御装置110は、以上のような構成の印刷機本体120の動作を制御する。印刷制御装置110に印刷出力の指示コマンドが与えられると、印刷制御装置110は、印刷用紙122が用紙送出部121から用紙巻取部129へと搬送されるよう、印刷機本体120の動作を制御する。そして、印刷用紙122の搬送過程において、まず印字部125内の各インクジェットヘッド125c,125m,125y,および125kからのインクの吐出による印字が行われ、次に乾燥部126によって印刷用紙122の乾燥が行われ、最後に検査装置127によって印刷状態の検査が行われる。
【0046】
<3.色合わせ装置のハードウェア構成>
図5は、本実施形態における色合わせ装置200のハードウェア構成図である。この色合わせ装置200は、パソコンによって実現されており、CPU21と、ROM22と、RAM23と、補助記憶装置24と、キーボード等の入力操作部25と、表示部26と、光学ディスクドライブ27と、ネットワークインタフェース部28とを有している。通信回線CL経由で送られてくるデータ(入稿データ、測色データなど)は、ネットワークインタフェース部28を介して色合わせ装置200の内部へと入力される。色合わせ装置200で生成された印刷データ(RIP処理で得られたデータ)は、ネットワークインタフェース部28を介して通信回線CL経由でインクジェット印刷装置100に送られる。
【0047】
色合わせ処理を実行するための色合わせプログラム241は補助記憶装置24に格納されている。色合わせプログラム241は、CD-ROMやDVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されて提供される。すなわちユーザーは、例えば、色合わせプログラム241の記録媒体としての光学ディスク(CD-ROM、DVD-ROM等)270を購入して光学ディスクドライブ27に装着し、その光学ディスク270から色合わせプログラム241を読み出して補助記憶装置24にインストールする。また、これに代えて、通信回線CLを介して送られる色合わせプログラム241をネットワークインタフェース部28で受信して、それを補助記憶装置24にインストールするようにしてもよい。
【0048】
<4.色合わせ方法>
<4.1 概略>
本実施形態における色合わせ処理の概略について説明する。色合わせのために用いられるカラーチャートには複数のパッチが含まれている。従って、色合わせ処理の際には、それぞれのパッチについて、色差(調整用チャートの測色値とリファレンス用チャートの測色値との色差)のデータが得られる。このような色差のデータに関してカラーチャート全体の領域40のうち仮に図6で符号49を付した領域に色差の大きなパッチが集中していれば、当該領域49に対応する部分で調整対象機101に何らかの問題が生じている可能性が高いと考えられる。すなわち、調整対象機101は印刷用紙の紙送り方向に垂直な方向(以下、「横幅方向」という。)に複数のインクジェットヘッド125を並べて配置しているため、特定のインクジェットヘッド125に何等かの問題(例えばインク吐出不良)が生じていると、符号49に示すように紙送り方向に色差の大きなパッチが多数個発生すると考えられる。このような場合、調整対象機101の調整を適切に行うことによって色差をより小さくすることができると考えられる。
【0049】
そこで、本実施形態においては、図7に示すように、各境界が印刷用紙の送り方向に対して平行となるようカラーチャート全体の領域40を複数に分割する。図7に示す例では、この分割によってN個の分割領域41(1)~41(N)が形成される。各分割領域41(1)~41(N)は複数のインクジェットヘッド125の横方向位置を基準に設定されている。ここで、各分割領域41(1)~41(N)と複数のインクジェットヘッド125とは一対一で対応付けてもよいし、一対多で対応付け(1つの分割領域41に複数のインクジェットヘッド125を対応付け)てもよいし、多対一で対応付け(複数の分割領域41に1つのインクジェットヘッド125を対応付け)てもよい。そして、分割領域毎に平均色差を求め、平均色差が最も小さい分割領域を基準領域に設定する。さらに、基準領域と当該基準領域以外の各分割領域との間での平均色差の差分値を求めて、差分値が所定の閾値を超える分割領域を異常領域(調整対象機101のヘッドの異常が生じている領域)として特定する。このように、調整対象機101の異常を検出する処理が色合わせ処理に含まれている。
【0050】
なお、色差に基づいて色合わせ用のパラメータを調整する処理自体については、色合わせソフトが用いられる。また、本実施形態においては、分割領域間でそれぞれのインク色のインク使用量に大きな偏りが生じることのないよう、カラーチャートのパッチが構成される必要がある。
【0051】
<4.2 処理手順>
図8は、本実施形態における色合わせ処理の手順を示すフローチャートである。まず、リファレンス機102でテストパターンの印刷が行われ(ステップS100)、それによって得られたリファレンス用チャートの測色が行われる(ステップS110)。次に、調整対象機101でテストパターンの印刷が行われ(ステップS120)、それによって得られた調整用チャートの測色が行われる(ステップS130)。
【0052】
その後、ステップS110で得られた測色値とステップS130で得られた測色値とに基づいて、2つのカラーチャート間の領域全体での平均色差が算出される(ステップS140)。そして、ステップS140で得られた結果に基づいて、色合わせ用のパラメータの調整が必要であるか否か(色差が許容範囲内であるか否か)の判定が行われる(ステップS150)。このステップS150での判定は、典型的にはユーザー(作業者)の経験に基づいて行われる。ステップS150において、パラメータの調整が必要である旨の判定が行われれば、処理はステップS160に進み、パラメータの調整が必要ではない旨の判定が行われれば、処理はステップS240に進む。
【0053】
ステップS160では、ステップS140で得られた平均色差が所定の閾値未満であるか否かの判定が行われる。なお、このステップS160での判定は、ユーザー(作業者)によって行われるようにしても良いし、色合わせプログラム241によって自動的に行われるようにしても良い。ステップS160において、平均色差が所定の閾値未満である旨の判定が行われれば、処理はステップS170に進み、平均色差が所定の閾値未満ではない旨の判定が行われれば、処理はステップS210に進む。このような処理の分岐が設けられている理由は、平均色差が大きい状態では後述するステップS170~S200の処理で異常領域の特定を精度良く行うことができないからである。
【0054】
ステップS170では、上述した分割領域毎の平均色差(ステップS110で得られた測色値とステップS130で得られた測色値との色差の平均値)が算出される。図7に示した例では、このステップS170でN個の平均色差が算出される。そして、ステップS170で算出された平均色差の最小値に対応する分割領域が基準領域に設定される(ステップS180)。その後、基準領域以外の各分割領域と基準領域との間で平均色差の比較が行われる(ステップS190)。より詳しくは、ステップS190では、基準領域以外の分割領域のそれぞれについて、基準領域との間の平均色差の差分値が算出される。
【0055】
次に、ステップS190で算出された各差分値と所定の閾値(第1の閾値)とを比較することによって、異常領域(調整対象機101のヘッドの異常が生じている領域)の有無の判定が行われる(ステップS200)。このステップS200では、ステップS190で算出された差分値が所定の閾値以上である分割領域が異常領域として特定される。ステップS200において、異常領域がある旨の判定が行われれば、処理はステップS220に進み、異常領域がない旨の判定が行われれば、処理はステップS210に進む。
【0056】
ステップS210では、色差(ステップS110で得られた測色値とステップS130で得られた測色値との色差)に基づき、色合わせソフトによるパラメータの変更が行われる。ステップS210の終了後、処理はステップS120に戻り、ステップS150でパラメータの調整が必要ではない旨の判定が行われるまで、もしくは、ステップS200で異常領域がある旨の判定が行われるまで、ステップS120以降の処理が繰り返される。
【0057】
ステップS220では、異常領域に対応する各インク色のヘッド(インクジェットヘッド)のうちのどのインク色のヘッドに異常があるのかを特定する処理が行われる。以下、説明の便宜上、異常が生じているヘッドのインク色を「異常インク色」という。すなわち、ステップS220では、異常インク色を特定する処理が行われる。なお、ステップS220の詳細な手順については後述する。
【0058】
ステップS220で異常ヘッドの特定(異常インク色の特定)が行われた後、異常に関する通知画面が色合わせ装置200の表示部26に表示される(ステップS230)。例えば、図9に示すような通知画面が表示される。これにより、ユーザーは、色合わせ処理を進める前に調整対象機101側の調整を行うべきである旨を把握することができる。なお、表示部26への通知画面の表示に代えて、例えば、同様の通知画面の印刷出力が行われるようにしても良いし、予め登録されたメールアドレスに対して通知メールが送信されるようにしても良い。以上のように、ステップS200で特定された異常領域を明示して調整対象機101の異常を報知するステップが含まれることが好ましい。ステップS230の終了後、色合わせ処理は一旦中断される。そして、調整対象機101自体の調整後に色合わせ処理が再度実行される。
【0059】
ステップS240では、最後に実行されたステップS210で得られたパラメータが、調整対象機101での実際の運用の際に使用されるパラメータとして保存される。これにより、色合わせが終了する。
【0060】
本実施形態においては、ステップS110によって第1測色ステップが実現され、ステップS130によって第2測色ステップが実現され、ステップS170によって代表値算出ステップが実現され、ステップS190によって差分値算出ステップが実現され、ステップS200によって異常領域特定ステップが実現され、ステップS220によって異常インク色特定ステップが実現され、ステップS230によって報知ステップが実現されている。また、本実施形態においては、リファレンス用チャートによって第1のカラーチャートが実現され、調整用チャートによって第2のカラーチャートが実現されている。
【0061】
なお、図10に示すように、ステップS150とステップS160との間に次のようなステップS152を設けるようにしても良い。ステップS152では、パラメータの調整が既に所定回数実行済みであるか否かが判定される。そして、パラメータの調整が所定回数実行済みであれば処理はステップS160に進み、パラメータの調整が所定回数実行されていなければ処理はステップS210に進む(すなわち、異常領域の有無を調べる処理がスキップされる)。このようなステップS152を設けても良い理由は、パラメータの調整回数が少ない時点では、平均色差が比較的大きい傾向にあり、異常領域の特定を精度良く行うことができないからである。
【0062】
また、図11に示すように、ステップS150とステップS160との間に次のようなステップS154を設けるようにしても良い。ステップS154では、パラメータの調整が既に所定回数(予め定められた上限の回数)実行済みであるか否かが判定される。そして、パラメータの調整が所定回数実行済みであれば処理は終了し、パラメータの調整が所定回数実行されていなければ処理はステップS160に進む。なお、このステップS154の判定によって処理が終了した場合には、調整対象機101の調整などを行った後に色合わせ処理を再度実行する必要がある。このようなステップS154を設けても良い理由は、パラメータの調整回数が予め定められた上限の回数に到達した場合には、調整対象機101側の何らかの異常が考えられ、さらなるパラメータの調整は無駄な作業となるからである。
【0063】
ところで、本実施形態においてはインクジェット印刷装置100の印字部125は図4に示した構成を有しているが、図12に示すように各ヘッドが例えば4つのインク色用のノズル列(C用ノズル列52c,M用ノズル列52m,Y用ノズル列52y,およびK用ノズル列52k)を有する構成が採用されることもある。この場合、図8のステップS220では、異常領域に対応するヘッド50に含まれるノズル列のうち異常が生じているノズル列のインク色が異常インク色として特定される。
【0064】
<4.3 異常ヘッドを特定する処理(異常インク色を特定する処理)の手順>
図13に示すフローチャートを参照しつつ、ヘッドの異常が生じているインク色を特定する処理(図8のステップS220の処理)の手順を説明する。概略的には、この処理では、特定のインク色を含まないパッチ群が抽出され、その抽出されたパッチ群が正常に印刷されているか否かによって該当のインク色のヘッドの異常の有無が判断される。
【0065】
ここでは、カラーチャート全体の領域が図14に示すように3つの領域60(1)~60(3)に分割されるものと仮定する。カラーチャート(リファレンス用チャートおよび調整用チャート)には、複数個のパッチP101~P116,P201~P216,およびP301~P316が含まれている。パッチP101~P116は、領域60(1)に含まれる。パッチP101~P116を印刷するインクジェットヘッド125を「第1のヘッド群」という。パッチP201~P216は、領域60(2)に含まれる。パッチP201~P216を印刷するインクジェットヘッド125を「第2のヘッド群」という。パッチP301~P316は、領域60(3)に含まれる。パッチP301~P316を印刷するインクジェットヘッド125を「第3のヘッド群」という。第1~第3のヘッド群は、それぞれ、4つのインク色(C,M,Y,およびK)のインクジェットヘッドからなる。各インク色には色番号が割り当てられている。例えば、Cには色番号C1が割り当てられ、Mには色番号C2が割り当てられ、Yには色番号C3が割り当てられ、Kには色番号C4が割り当てられている。以上の前提下、以下のように処理が行われる。
【0066】
まず、図8のステップS200での判定結果に基づき、異常領域Rxの設定が行われる(ステップS300)。また、カラーチャート全体の領域のうちの異常領域以外の分割領域については、正常領域Rrestである旨の設定が行われる(ステップS310)。以上のような設定が行われた後、色番号C1が色番号Cnに設定される(ステップS320)。この色番号Cnで特定されるインク色が対象インク色に相当する。
【0067】
次に、リファレンス用チャートに含まれる複数のパッチから異常領域Rxに含まれ色番号Cnの色成分を含まないパッチ群(以下、「第1パッチ群」という。)が抽出される(ステップS330)。次に、調整用チャートに含まれる複数のパッチから異常領域Rxに含まれ色番号Cnの色成分を含まないパッチ群(以下、「第2パッチ群」という。)が抽出される(ステップS340)。ここで、領域60(1)が異常領域Rxに設定されていて図15で網掛けを施しているパッチP101,P106,P111,およびP116はC色以外のインク(すなわち、MYK,MY,MK,YK,M,Y,Kのいずれか)を用いて印刷が行われているものと仮定する。このとき、1回目のステップS330ではリファレンス用チャートからパッチP101,P106,P111,およびP116が抽出され、1回目のステップS340では調整用チャートからパッチP101,P106,P111,およびP116が抽出される。なお、2回目のステップS330,S340ではM色以外のインクを用いて印刷されたパッチが抽出され、3回目のステップS330,S340ではY色以外のインクを用いて印刷されたパッチが抽出され、4回目のステップS330,S340ではK色以外のインクを用いて印刷されたパッチが抽出される。
【0068】
上記の例に関し、仮に、異常領域Rx(領域60(1))について、C色のヘッドには異常がなく、M色,Y色,およびK色のいずれかのヘッドに異常がある場合、リファレンス用チャートのパッチP101,P106,P111,およびP116の測色値と調整用チャートのパッチP101,P106,P111,およびP116の測色値との間に比較的大きな色差が生じると考えられる。一方、異常領域Rx(領域60(1))について、M色,Y色,およびK色のヘッドには異常がなく、C色のヘッドに異常がある場合、調整用チャートのパッチP101,P106,P111,およびP116の測色値とリファレンス用チャートのパッチP101,P106,P111,およびP116の測色値との色差はきわめて小さいと考えられる。
【0069】
そこで、ステップS350では、第1パッチ群の測色値と第2パッチ群の測色値とに基づいて、異常領域Rxにおける色差の平均値が異常領域色差として算出される。
【0070】
次に、リファレンス用チャートに含まれる複数のパッチから正常領域Rrestに含まれ色番号Cnの色成分を含まないパッチ群(以下、「第3パッチ群」という。)が抽出される(ステップS360)。次に、調整用チャートに含まれる複数のパッチから正常領域Rrestに含まれ色番号Cnの色成分を含まないパッチ群(以下、「第4パッチ群」という。)が抽出される(ステップS370)。ここでは、領域60(2)および領域60(3)に含まれるパッチのうち図15で網掛けを施しているパッチP201,P205,P211,P215,P303,P306,P309,およびP316がC色以外のインクを用いて印刷が行われているものと仮定する。従って、1回目のステップS360ではリファレンス用チャートからパッチP201,P205,P211,P215,P303,P306,P309,およびP316が抽出され、1回目のステップS370では調整用チャートからパッチP201,P205,P211,P215,P303,P306,P309,およびP316が抽出される。
【0071】
次に、第3パッチ群の測色値と第4パッチ群の測色値とに基づいて、正常領域Rrestにおける色差の平均値が正常領域色差として算出される(ステップS380)。
【0072】
その後、ステップS350で算出された異常領域色差とステップS380で算出された正常領域色差との差分値が異常判定用差分値として算出される(ステップS390)。そして、全てのインク色について異常判定用差分値が算出されたか否かが判定される(ステップS400)。ステップS400において、全てのインク色について異常判定用差分値が算出された旨の判定が行われれば、処理はステップS420に進み、異常判定用差分値が算出されていないインク色があれば、処理はステップS410に進む。
【0073】
ステップS410では、色番号Cn+1が色番号Cnに設定される。ステップS410の終了後、処理はステップS330に戻り、全てのインク色についての異常判定用差分値が算出されるまで、ステップS330以降の処理が繰り返される。
【0074】
ステップS420では、全てのインク色についての異常判定用差分値(本実施形態では、C色の異常判定用差分値、M色の異常判定用差分値、Y色の異常判定用差分値、およびK色の異常判定用差分値)から最小値が選択され、当該最小値に対応するインク色が異常インク色として特定される。例えば、C色の異常判定用差分値が最小値であれば、「C色以外の色のヘッドには異常が生じておらず、C色のヘッドに異常が生じている」と判断される。ステップS420の終了後、処理は図8のステップS230に進む。
【0075】
なお、本実施形態においては、ステップS330によって第1パッチ群抽出ステップが実現され、ステップS340によって第2パッチ群抽出ステップが実現され、ステップS350によって異常領域色差算出ステップが実現され、ステップS360によって第3パッチ群抽出ステップが実現され、ステップS370によって第4パッチ群抽出ステップが実現され、ステップS380によって正常領域色差算出ステップが実現され、ステップS390によって異常判定用差分値算出ステップが実現されている。
【0076】
<5.効果>
本実施形態によれば、色合わせ処理の際に、各境界が印刷用紙の送り方向に対して平行となるようカラーチャート全体の領域が複数に分割され、分割領域毎に平均色差(リファレンス用チャートの測色で得られた測色値と調整用チャートの測色で得られた測色値との間の平均色差)が求められる。そして、平均色差が最も小さい分割領域が基準領域に設定され、基準領域と当該基準領域以外の各分割領域との間での平均色差の差分値が求められる。この差分値に基づいて、ユーザーの経験に基づく判断を要することなく、ヘッドの異常の有無を判定することが可能となる。これにより、色合わせ処理を行うべきであるか印刷機(調整対象機101)自体の調整をすべきであるのかを従来よりも正確に判断することが可能となる。その結果、ヘッドに異常がある場合に色合わせ処理が無駄に実行されることが防止することのできる色合わせ方法が実現される。
【0077】
<6.変形例>
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0078】
<6.1 異常インク色の特定方法に関する変形例>
上記実施形態においては、正常領域色差と異常領域色差との差分値に基づいて異常インク色の特定が行われていた。しかしながら、本発明はこれに限定されない。以下、異常インク色の特定方法に関する2つの変形例(第1の変形例および第2の変形例)について説明する。
【0079】
<6.1.1 第1の変形例>
本変形例においては、リファレンス用チャートの測色(図8のステップS110)で得られた測色値と調整用チャートの測色(図8のステップS130)で得られた測色値との間の差に関して、異常領域に含まれるパッチについてのLab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの差の平均値がL*値誤差dL、a*値誤差da、およびb*値誤差dbとして求められる。そして、L*値誤差dL、a*値誤差da、およびb*値誤差dbのうちの最大値に基づいて、後述するように異常インク色が特定される。なお、ここでは、調整用チャートの測色で得られた測色値に基づくL*値からリファレンス用チャートの測色で得られた測色値に基づくL*値を減ずることによって得られる値の平均値をL*値誤差dLとする。a*値誤差daおよびb*値誤差dbについても同様である。
【0080】
図16は、L*値誤差dL、a*値誤差da、およびb*値誤差dbと4つのインク色のインク使用量との関係について説明するための図である。例えば、図16において符号71を付した部分は、調整対象機101でのM色のインクの使用量が本来よりも多い場合にはa*値誤差daが正側にかなり大きくなることを表している。また、図16において符号72を付した部分は、調整対象機101でのY色のインクの使用量が本来よりも少ない場合にはL*値誤差dLが正側にやや大きくなることを表している。また、図16において符号73を付した部分は、調整対象機101でのC色のインクの使用量が本来よりも多い場合にはL*値誤差dLが負側にやや大きくなることを表している。また、図16において符号74を付した部分は、調整対象機101でのY色のインクの使用量が本来よりも少ない場合にはb*値誤差dbが負側にかなり大きくなることを表している。なお、図16においてクエスチョンマークが記されている部分は該当の誤差の大きさが不定であることを表している。
【0081】
ところで、Lab色空間におけるL*値は、輝度に対応付けられる。従って、K色のインクの使用量の大小は、L*値誤差dLに大きな影響を及ぼす。また、a*値誤差daが負値の場合には調整対象機101による印刷結果は目標よりも緑がかった色となっていて(すなわち、C色やY色のインクが多く使用されていて)、a*値誤差daが正値の場合には調整対象機101による印刷結果は目標よりもマゼンダがかった色となっている(すなわち、M色のインクが多く使用されている)。また、b*値誤差dbが負値の場合には調整対象機101による印刷結果は目標よりも青色味をおびた色となっていて(すなわち、C色のインクが多く使用されていて)、b*値誤差dbが正値の場合には調整対象機101による印刷結果は目標よりも黄色味をおびた色となっている(すなわち、Y色のインクが多く使用されている)。
【0082】
以上に基づいて、本変形例においては、L*値誤差dL、a*値誤差da、およびb*値誤差dbに基づいて、例えば次のように異常インク色が特定される。なお、L*値誤差dL、a*値誤差da、およびb*値誤差dbのうちの最大の誤差の判断は、それぞれの絶対値に基づいて行われる。
(A)L*値誤差dLが最大であれば、K色が異常インク色として特定される。
(B)a*値誤差daが最大であれば、M色が異常インク色として特定される。但し、a*値誤差daとb*値誤差dbとの差が所定の閾値以下であれば、C色が異常インク色として特定される。
(C)b*値誤差dbが最大であって、かつ、b*値誤差dbが負値であれば、a*値誤差daが負値の場合にはC色が異常インク色として特定され、a*値誤差daが正値の場合にはY色が異常インク色として特定される。
(D)b*値誤差dbが最大であって、かつ、b*値誤差dbが正値であれば、a*値誤差daが正値の場合にはC色が異常インク色として特定され、a*値誤差daが負値の場合にはY色が異常インク色として特定される。
【0083】
<6.1.2 第2の変形例>
本変形例においては、Lab色空間におけるベクトルの内積を用いて異常インク色の特定が行われる。以下、図17図19を参照しつつ詳しく説明する。
【0084】
図17は、本変形例における異常インク色の特定手順を示すフローチャートである。まず、リファレンス用チャートの測色(図8のステップS110)で得られた測色値に基づいて、上述した異常領域に関して、Lab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの平均値によって特定される座標点Pが求められる(ステップS500)。この座標点Pに関し、図18では、L*値の平均値をL*1と表し、a*値の平均値をa*1と表し、b*値の平均値をb*1と表している。
【0085】
次に、調整用チャートの測色(図8のステップS130)で得られた測色値に基づいて、上述した異常領域に関して、Lab色空間におけるL*値、a*値、およびb*値のそれぞれの平均値によって特定される座標点Qが求められる(ステップS510)。この座標点Qに関し、図18では、L*値の平均値をL*2と表し、a*値の平均値をa*2と表し、b*値の平均値をb*2と表している。
【0086】
次に、座標点Pを始点とし座標点Qを終点とするベクトルPQが定義される(図18参照)(ステップS520)。次に、調整対象機のICCプロファイルに含まれるC色,M色,Y色,およびK色のインク量とL*値,a*値,b*値との関係の情報から、C色,M色,Y色,およびK色のそれぞれのインクの使用量の変化に対するLab色空間におけるL*値,a*値,およびb*値の変化を予測する処理が行われる(ステップS530)。そして、その予測結果に基づいて、各インク色のベクトルが定義される(ステップS540)。その際、各インク色のベクトルが単位ベクトルとなるように調整が行われる。
【0087】
ところで、ベクトルPQは色差を表しているとみなすことができる。また、任意の2つのベクトルの内積は、当該2つのベクトルの類似度を表すことになる。さらに、全てのインク色のベクトルは同じ大きさ(ここでは単位ベクトル)に統一されている。従って、各インク色のベクトルについてベクトルPQとの内積を求めて、得られた内積の最大値に対応するインク色が色差を大きくしている原因であると判断することができる。なお、任意のインク色のベクトルをベクトルVcと定義し、ベクトルPQとベクトルVcとのなす角をθとすると、Vcが単位ベクトルであれば、ベクトルPQとベクトルVcとの内積は図19から把握されるように次式(1)で表される。
【数1】
【0088】
以上に鑑み、ステップS550では、各インク色のベクトルとベクトルPQとの内積が求められる。そして、求められた内積の絶対値のうちの最大値に対応するインク色が異常インク色として特定される。
【0089】
なお、本変形例においては、ステップS500によって第1の座標点特定ステップが実現され、ステップS510によって第2の座標点特定ステップが実現され、ステップS520によって色差ベクトル定義ステップが実現され、ステップS530によって変化予測ステップが実現され、ステップS540によってインク色ベクトル定義ステップが実現され、ステップS550によって内積計算ステップが実現されている。
【0090】
<6.2 異常ヘッドの特定後の処理に関する変形例>
上記実施形態においては、異常ヘッドの特定(図8のステップS220)が行われた後、表示部26への異常に関する通知画面の表示が行われていた(図8のステップS230)。しかしながら、本発明はこれに限定されない。以下、異常ヘッドの特定後の処理に関する2つの変形例(第3の変形例および第4の変形例)について説明する。
【0091】
<6.2.1 第3の変形例>
本変形例においては、異常ヘッドの特定が行われた後、通知画面の表示に代えて、もしくは、通知画面の表示に加えて、異常ヘッドに対するクリーニング処理が自動的に行われる。すなわち、図8に示した処理に、異常領域に対応するヘッドのうちステップS220で特定されたヘッド(異常インク色用のヘッド)に対して自動的にクリーニングを行うクリーニングステップが付加される。このような本変形例によれば、異常ヘッドに対して自動的にクリーニングが施されるので、色合わせに要する時間が短縮される。
【0092】
<6.2.2 第4の変形例>
本変形例においては、異常ヘッドの特定が行われた後、通知画面の表示に代えて、もしくは、通知画面の表示に加えて、異常ヘッドから吐出されるインクの量が調整されるよう自動的にシェーディング補正処理が行われる。すなわち、図8に示した処理に、異常領域に対応するヘッドのうちステップS220で特定されたヘッド(異常インク色用のヘッド)から吐出されるインクの量が調整されるよう自動的にシェーディング補正処理を行うシェーディングステップが付加される。このような本変形例によれば、ヘッドに異常がある場合に自動的にシェーディング補正処理が行われるので、色合わせに要する時間が短縮される。
【0093】
<6.3 基準領域の設定に関する変形例>
上記実施形態においては、分割領域毎に平均色差(2つのカラーチャート間の色差の平均値)が算出され、その算出された平均色差のうちの最小値に対応する分割領域が基準領域に設定されていた。しかしながら、本発明はこれに限定されない。そこで、基準領域の設定に関する変形例を以下に説明する。
【0094】
<6.3.1 第5の変形例>
本変形例においては、分割領域毎に、色差が所定の閾値(第2の閾値)以上であるパッチの個数が求められる。そして、そのようなパッチの個数が最も少ない分割領域が基準領域に設定される。
【0095】
<6.3.2 補足>
基準領域の設定については、上記実施形態や上記第5の変形例とは異なる手法を採用することもできる。すなわち、図8のステップS170では、分割領域毎にリファレンス用チャートの測色で得られた測色値と調整用チャートの測色で得られた測色値との差である色差に関する何らかの代表値が求められれば良く、また、図8のステップS180では、その代表値が最も小さい分割領域を基準領域として、基準領域以外の分割領域のそれぞれについて、基準領域との間の代表値の差分値が算出されれば良い。
【0096】
<7.その他>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上記実施形態では水性インクを用いるインクジェット印刷装置100の構成を例示したが(図3参照)、例えばラベル印刷向けインクジェット印刷装置のようにUVインク(紫外線硬化インク)を用いるインクジェット印刷装置が採用されている場合にも本発明を適用することができる。また、基材は用紙に限定されるものでなく、インク吐出により画像が形成できる材料であればどのような基材にも本発明は適用できる。例えば、薄膜合成樹脂フィルムまたは布帛などが基材として採用されている場合にも本発明を適用することができる。さらに、インクジェット方式以外の印刷機(例えば、オフセット方式の印刷機)にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
26…表示部
100…インクジェット印刷装置
101…調整対象機
102…リファレンス機
110…印刷制御装置
120…印刷機本体
125…印字部
125c…C用インクジェットヘッド
125m…M用インクジェットヘッド
125y…Y用インクジェットヘッド
125k…K用インクジェットヘッド
200…色合わせ装置
241…色合わせプログラム
300…測色機
図1
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