(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20230324BHJP
H02M 7/493 20070101ALI20230324BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/493
(21)【出願番号】P 2019203886
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】神宮 勲
(72)【発明者】
【氏名】臼木 一浩
(72)【発明者】
【氏名】吉野 輝雄
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-232823(JP,A)
【文献】特開2015-226387(JP,A)
【文献】特開2015-130746(JP,A)
【文献】特開2013-026712(JP,A)
【文献】特開2019-140738(JP,A)
【文献】特開2013-017162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
H02M 7/493
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己の状態を表す
複数の変換器状態データを
それぞれ生成し、前記
複数の変換器状態データを
複数の光信号に
それぞれ変換して送信する複数の電力変換器と、
前
記複数の変換器状態データを
含む第1シリアル信号
を入力し、前記複数の変換器状態データにもとづいて前記複数の電力変換器の複数の制御データを
それぞれ生成し、前記複数の制御データを第2シリアル信号にして送信する制御装置と、
前記複数の変換器が送信した前記
複数の光信号を入力し、前記第1シリアル信号として前記制御装置に配信し、前記第2シリアル信号を入力し前記第2シリアル信号を分岐して前記複数の電力変換器に配信する光信号分配回路素子と、
を備え、
前記光信号分配回路素子は、前記制御装置よりも前記複数の電力変換器の近くに配置され
、
前記第1シリアル信号は、前記複数の変換器状態データにそれぞれ対応する複数の上り信号を含み、
前記第2シリアル信号は、前記複数の制御データにそれぞれ対応する複数の部分を含み、
前記複数の上り信号および前記複数の部分における前記複数の電力変換器のそれぞれに対応する信号および部分について、前記複数の部分のデータ長は、前記複数の上り信号のデータ長よりもそれぞれ長いことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記光信号分配回路素子は、
前記光信号を入力して前記第1シリアル信号を出力する第1光信号分配回路素子と、
前記第2シリアル信号を入力し前記第2シリアル信号を分岐して出力する第2光信号分配回路素子と、
を含む請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記光信号分配回路素子は、前記複数の変換器状態データを
それぞれ含む複数の上り信号を合流させて前記第1シリアル信号とし、
前記第1シリアル信号は、第1波長を有する光信号であり
、
前記第2シリアル信号は、前記第1波長と異なる第2波長を有する光信号である請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記複数の電力変換器のそれぞれは、直列に接続された請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記複数の電力変換器のそれぞれは、並列に接続された請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第2シリアル信号は
、固定のデータ長
を有する複数の部分を含
み、
前記複数の部分は、前記複数の制御データにそれぞれ対応することを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記
複数の制御データは、前記複数の電力変換器に共通のデータおよび前記複数の電力変換器に固有のデータを
それぞれ含むことを特徴とする請求項6記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記
複数の制御データは、前記複数
の変換器状態データを前記制御装置に送信することを許可することを示す
複数の通信許可信号を
それぞれ含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記複数の電力変換器のうちの1つである第1電力変換器から受信した前記変換器状態データに異常なデータが含まれた場合または
前記複数の変換器状態データのうちの1つの変換器状態データが異常なデータを含んでいた場合であっても、前記第1電力変換器に前記
複数の通信許可信号
のうち前記第1電力変換器に対応する通信許可信号を与え続けることを特徴とする請求項8記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記複数の電力変換器は、それぞれを識別するための
複数の識別番号をそれぞれあらかじめ設定され、
前記制御装置は、前記
複数の識別番号に対応する前記
複数の通信許可信号を任意の順序で生成することを特徴とする請求項8または9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記第1シリアル信号は
、固定のデータ長
を有する複数の上り信号
を含み、
前記複数の上り信号は、前記複数の変換器状態データにそれぞれ対応するあることを特徴とする請求項1~10のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記複数の変換器状態データは、前記複数の電力変換器を識別する
複数の識別信号をそれぞれ含むことを特徴とする請求項1~11のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記複数の電力変換器の通信部のクロックは、前記第2シリアル
信号にもとづいて再生したクロックを基準として生成されることを特徴とする請求項1~12のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記光信号分配回路素子と、前記複数の電力変換器のそれぞれとの間に設けられた光ファイバーケーブルは同じ長さを有することを特徴とする請求項1~13のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記光信号分配回路素子は、複数設けられ、
前記制御装置と、前記複数の光信号分配回路素子のそれぞれと、の間に設けられた光ファイバーケーブルは、同じ長さを有することを特徴とする請求項1~14のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記制御装置は、前記
複数の制御データに、伝送遅延に応じた
複数のダミーデータを
それぞれ付加して前記第2シリアルデータ
として送信することを特徴とする請求項1~
15のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記
複数のダミーデータ
のそれぞれは、前記制御装置と前記複数の電力変換装置
のそれぞれとの間のクロック周波数の違いを補償するためのクロック補正データであることを特徴とする請求項
16記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流-直流間を電力変換する電力変換装置がある。電力系統や鉄道等の社会インフラ、工場設備等に設置される電力変換装置では、複数の電力変換器を多重化することによって、扱う電力の大容量化を図る場合がある。
【0003】
多重化された電力変換器に制御指令を送信し、電力変換器からその状態を受信するために制御装置と電力変換器との間にこれらのデータを送受信する通信路が設けられる。多重化された電力変換器では、変換器ごとに通信路を設ける1対1接続を用いた場合には、変換器数に応じて通信路を設けることとなり、コストやスペース等の観点からこれらを削減する必要がある。
【0004】
制御装置と各電力変換器との間をデイジーチェーンで接続することによって、複数の電力変換器間の通信路を1つにまとめることができる。一方で、デイジーチェーン接続された通信路中のいずれかの電力変換器が故障して動作を停止した場合には、送受信されるべきデータが、不通となり、電力変換装置全体の動作が停止してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、通信路中の一部の電力変換器の動作が停止しても、全体の運転を継続できる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る電力変換装置は、自己の状態を表す複数の変換器状態データをそれぞれ生成し、前記複数の変換器状態データを複数の光信号にそれぞれ変換して送信する複数の電力変換器と、前記複数の電力変換器の状態を表す複数の変換器状態データを含む第1シリアル信号を入力し、前記複数の変換器状態データにもとづいて前記複数の電力変換器の複数の制御データをそれぞれ生成し、前記複数の制御データを第2シリアル信号にして送信する制御装置と、前記複数の変換器が送信した前記光信号を入力し、前記第1シリアル信号として前記制御装置に配信し、前記第2シリアル信号を入力し前記第2シリアル信号を分岐して前記複数の電力変換器に配信する光信号分配回路素子と、を備える。前記光信号分配回路素子は、前記制御装置よりも前記複数の電力変換器の近くに配置される。前記第1シリアル信号は、前記複数の変換器状態データにそれぞれ対応する複数の上り信号を含む。前記第2シリアル信号は、前記複数の制御データにそれぞれ対応する複数の部分を含む。前記複数の上り信号および前記複数の部分における前記複数の電力変換器のそれぞれに対応する信号および部分について、前記複数の部分のデータ長は、前記複数の上り信号のデータ長よりもそれぞれ長い。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態では、通信路中の一部の電力変換器の動作が停止しても、全体の運転を継続できる電力変換装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】第1の実施形態の変形例に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図3】第1の実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的なタイミングチャートの例である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、第1の実施形態の電力変換装置において伝送されるデータの構成を例示する模式図である。
【
図5】第1の実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的なタイミングチャートの例である。
【
図6】第1の実施形態に係る電力変換装置をより具体的に例示する模式的なブロック図である。
【
図7】
図6の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図8】第2の実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図9】
図8の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図10】第3の実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
<電力変換装置の構成、動作>
図1は、本実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の電力変換装置10は、複数の電力変換器(図中、変換器と表記)30と、光信号分配回路素子40a,40bと、制御装置50と、を備える。
【0012】
複数の電力変換器30は、たとえば、同一の出力容量、同一の入出力定格等を有する変換器であるが、電力変換装置の構成等に応じて、異なる出力容量等としてもよい。後述するように、複数の電力変換器30は、直列に接続されることによって、高電圧の入出力を可能にする。他の実施形態では、複数の電力変換器は、並列に接続されることによって、より大きい電力容量の電力変換装置とすることができる。
【0013】
このように、電力変換装置10では、複数の電力変換器30を備えることによって、高電圧化、高出力容量化等を実現することが可能になる。また、電力変換装置10は、複数の電力変換器30を備えることによって、冗長性を有する。複数の電力変換器のうち何台かが故障等により停止しても、電力変換装置は、運転を継続することができる。
【0014】
光信号分配回路素子40a,40bは、複数の電力変換器30と制御装置50との間に設けられている。光信号分配回路素子40a,40bは、たとえば、導波路型光スプリッタを用いる。導波路型光スプリッタは、平面光波回路(Planar Lightwave Circuit、PLC)を有しており、PLC上に、分岐した光導波路を有している。導波路型光スプリッタは、光導波路に光ファイバーケーブルを接続することによって、光分岐結合素子として用いることができる。
【0015】
光信号分配回路素子40a,40bは、伝送された光信号に対して何らの処理を施すことなく、分岐された光ファイバーケーブルに光信号をそのまま分配する光信号分配回路素子40a,40bは、分岐された光ファイバーケーブルからの光信号を、何らの処理を施すことなく、1本の光ファイバーケーブルに合流させる。つまり、光信号分配回路素子40a,40bは、受動形の光素子であり、外部からの電源供給なしに動作することができる。
【0016】
光信号分配回路素子40a(第2光信号分配回路素子)は、1本の光ファイバーケーブルを介して、制御装置50に接続されている。光信号分配回路素子40aは、1本の光ファイバーケーブルをn本の光ファイバーケーブルに分岐する。分岐されたn本の光ファイバーケーブルは、n台の電力変換器30にそれぞれ接続されている。nは、2以上の整数である。
【0017】
また、光信号分配回路素子40b(第1光信号分配回路素子)は、光信号分配回路素子40aと同様に、1本の光ファイバーケーブルを介して、制御装置50に接続されている。光信号分配回路素子40bは、1本の光ファイバーケーブルをn本の光ファイバーケーブルに分岐する。分岐されたn本の光ファイバーケーブルは、n台の電力変換器30にそれぞれ接続されている。
【0018】
この例では、光信号分配回路素子40aを含む光伝送路は、
図1では、実線で示されている。実線の光伝送路では、制御装置50から各電力変換器30へ光信号が伝送される。制御装置50から各電力変換器30へ伝送される光信号を、以下では、下り信号(第2シリアル信号)と呼ぶことがある。
【0019】
また、光信号分配回路素子40bを含む光伝送路は、
図1では、破線で示されている。破線の光伝送路では、各電力変換器30から制御装置へ光信号が伝送される。各電力変換器30から制御装置へ伝送される光信号を、以下では、上り信号と呼ぶことがある。
【0020】
光信号分配回路素子は、導波路型光スプリッタに代えて、他の光信号分配用の光素子を用いてももちろんよい。たとえば、光信号分配回路素子は、光ファイバーカプラとしてもよい。光ファイバーカプラは、1本の光ファイバーケーブルから複数の光ファイバーケーブルに分岐させる接合部を有するものとし、光ファイバーケーブルの接合部では、光ファイバーケーブルの束が溶融接合されている構成の融着型カプラも、光分岐結合素子として用いることができる。
【0021】
制御装置50は、図示しないが、光送信回路および光受信回路を有する。光送信回路および光受信回路は、光コネクタを介して、光ファイバーケーブルにそれぞれ接続されている。制御装置50は、各電力変換器30から伝送されてくる上り信号を光受信回路で受信して、たとえば電気信号に変換して、所定の処理および演算を施して、各電力変換器30に伝送する各種データを生成する。制御装置50は、生成した各種データを光信号に変換し、下り信号として、光送信回路により各電力変換器30に分配する。
【0022】
各電力変換器30は、通信部31を有する。通信部31は、図示しないが、光送信回路および光受信回路を有する。光送信回路および光受信回路は、光コネクタを介して、光ファイバーケーブルにそれぞれ接続されている。通信部31は、制御装置50から伝送されてくる下り信号を光受信回路で受信して、電気信号に変換する。下り信号には、すべての電力変換器30のための情報を含むデータが含まれているので、通信部31は、自己のデータを抽出して適用する。通信部31は、自己の状態に関するデータを光信号に変換し、上り信号として光送信回路を介して制御装置50に送信する。
【0023】
図2は、本実施形態の変形例に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図2に示すように、上り信号および下り信号は、単一の光通信路で伝送することができる。電力変換装置110は、複数の電力変換器130と、光信号分配回路素子40と、制御装置150と、を備える。本変形例では、上り信号および下り信号は、異なる波長の光信号をそれぞれ有する。たとえば、上り信号の波長は、λuであり、下り信号の波長は、λdであり、λu≠λdとされている。
【0024】
制御装置150は、光トランシーバ152を含む。光トランシーバ152は、発光波長がλdの発光素子と、波長λuに対して感度が高い受光素子を含む。各電力変換器130への送信信号、すなわち下り信号として、波長λdの光信号を送信し、各電力変換器130からの受信信号、すなわち上り信号として、波長λuの光信号を受信することができる。
【0025】
各電力変換器130は、光トランシーバ131を有しており、光トランシーバ131は、発光波長がλuの発光素子と、波長λdに対して感度が高い受光素子を含む。受光素子は、制御装置150からの受信データ、すなわち下り信号として、波長λdの光を受信することができる。発光素子は、制御装置150への送信信号、すなわち上り信号として、波長λuの光信号を発信することができる。
【0026】
光信号分配回路素子40および光ファイバーケーブルは、上述した実施形態の場合と同様に構成されている。光信号分配回路素子40および光ファイバーケーブルは、いずれの波長λu,λdの光信号を通過させることができる。
【0027】
このようにして、本変形例の電力変換装置110では、単一の光通信路によって、双方向の光信号の伝送をすることができる。双方向の光信号の伝送を可能とすることによって、光ファイバーケーブルの本数を半減させることができる。なお、本変形例は、後述する他の実施形態にも適用することができる。
【0028】
本変形例では、導波路型光スプリッタに代えて、融着型の接合部を有する光ファイバーカプラ等を用いてもよいのは、上述の実施形態の場合と同様である。後述する他の実施形態においては、光信号分配回路素子40を用いて、双方向の光通信路を形成する例として説明するが、光信号分配回路素子40a,40bを用いて、単一方向の光通信路としてもよいし、光信号分配回路素子40,40a,40bは、導波路型光スプリッタに代えて、融着型の光ファイバーカプラを用いてももちろんかまわない。
【0029】
本実施形態の電力変換装置10において、伝送される信号について詳細に説明する。
図3は、本実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的なタイミングチャートの例である。
図3の最上段の図には、下り信号が示されている。
図3の2段目の図には、電力変換器1からの上り信号が示されている。
図3の3段目の図には、電力変換器2からの上り信号が示されている。
図3の4段目の図には、電力変換器3からの上り信号が示されている。
図3の最下段の図には、電力変換器nからの上り信号が示されている。
なお、電力変換装置10は、n台の電力変換器30を備えているので、この図では、電力変換器4から電力変換器n-1の上り信号については省略されている。
【0030】
図3に示すように、本実施形態の電力変換装置10の下り信号では、一定の長さを有する信号が時間的に連続して伝送される。一定の長さを有する信号のまとまりを、説明の便宜上、信号Dd1,Dd2等としている。信号Ddi(第2シリアル信号の部分)は、データ長Ldを有する。この例では、i=1~n(nは2以上の整数)であり、n個の信号Ddiのデータ長Ldは同じである。
【0031】
なお、本明細書では、データ長というときには、伝送路を伝送するひとまとまりの信号の長さをいうものとする。信号Ddiのデータ長は、
図3に示したとおり、Ld[sec]であり、また、後述する上り信号のデータ長は、Lu[sec]である。なお、上り下りの伝送速度はそれぞれ一定であるが、同一の伝送速度であるとは限らない。上り下りの伝送速度が同一の場合には、データ長Ld,Luは、信号に含まれるデータの大きさ、つまり、総ビット数あるいは総バイト数、総ワード数によって決定され得る。
【0032】
また、下り信号の部分である信号Ddiは、たとえば、先頭にヘッダーを表す信号を含み、最後にエンドオブデータを表す信号を含んでいる。下り信号は、各信号Ddiのヘッダーおよびエンドオブデータを介して、連続信号として構成されている。信号Ddi,Ddi+1,…の連続信号を受信した電力変換器30は、ヘッダーやエンドオブデータによって、隣接する信号を区別することができる。
【0033】
制御装置50からの下り信号は、すべての電力変換器30へ分配され、すべての電力変換器30は、同一の下り信号をほぼ同時に受信する。後述するように、信号Ddiは、すべての電力変換器30の動作を設定するための制御指令等を含んでいる。信号Ddiを受信したすべての電力変換器30は、信号Ddi内の必要な制御指令等を取得して、自己の動作を設定する。当然、信号Ddiが有する制御指令と信号Ddi+1が有する制御指令の内容は、制御装置が生成する電力変換装置への指令信号が時々刻々変化するので、制御装置が送信データを更新する都度、変化する。
【0034】
本実施形態の電力変換装置10では、各電力変換器30が自己の状態を表すデータ等を含む上り信号を制御装置50へ送信する。すべての電力変換器30が送信する上り信号は、同じデータ長Luを有する。
【0035】
各電力変換器30は、下り信号に含まれる特定の信号またはデータを受信したときに、上り信号を送信する。特定のデータは、信号Ddiにおいてあらかじめ設定された位置に配置されている。この図の例では、1番目の電力変換器1が信号Dd1の特定のデータを受信することによって、上り信号Du1の送信を開始する。2番目の電力変換器2は、信号Dd2の特定のデータを受信することによって、上り信号Du2の送信を開始する。
【0036】
下り信号を構成する各信号Ddiのデータ長Ldは、各電力変換器から送信される上り信号Duiのデータ長Luよりも長くなるように設定されている。各電力変換器が自己の上り信号Duiを送信するタイミングを決定する、各信号Ddi中の特定のデータの位置は、あらかじめ同じ位置に設定されているので、隣り合う上り信号Dui,Dui+1の間には、上り信号同士が重なり合わないように、ガードタイムtgが設けられる。
【0037】
本実施形態の各電力変換装置10では、ガードタイムtgが設けられていることによって、各電力変換器が送信する上り信号は、光信号分配回路素子40によって、1つの光通信路上に重複することなく合流され、1本のシリアル信号(第1シリアル信号)に結合される。1本のシリアル信号に結合された上り信号は、制御装置50へ伝送される。制御装置50と各電力変換器30は、各電力変換器30が、各電力変換器30が送信する上り信号を重複させないようなタイミングで送信できるように、下り信号を構成して送信する。
【0038】
制御装置50からの下り信号の送信にかかる時間が、各電力変換器30からの上り信号の送信に必要な時間よりも長くなるようするために、制御装置50からの下り信号の送信の後に、決められたデータ長のダミーデータを付加してもよい。下り信号のデータ長とダミーデータのデータ長との和が、各電力変換器30からの信号Ddiの送信に必要な時間より長くするよう設定することによって、ガードタイムtgを確実に確保することができる。
【0039】
下り信号および上り信号によって伝送されるデータ構成について説明する。
図4(a)および
図4(b)は、本実施形態の電力変換装置において伝送されるデータの構成を例示する模式図である。
図4(a)に示すように、下り信号中のひとまとまりの信号102(第2シリアル信号の部分)は、すべての電力変換器30のための制御指令等を表すデータを含んでいる。
図4(a)の例では、信号102は、上り通信許可信号、制御信号1~3およびCRC信号等を含んでいる。信号102のうち、制御信号1~3は、その電力変換器30固有の制御指令を表すデータを含んでおり、上り通信許可信号とともに制御データと呼ぶことがある。
【0040】
上り通信許可信号(通信許可信号)は、いずれか1つの電力変換器30の番号を含むデータである。後述すように、電力変換器30には、その電力変換器30を識別するための番号が設定されている。各電力変換器30は、信号102を受信するごとに、上り通信許可信号のデータを取り込み、その番号が、自分に割り当てられた番号である場合に、上り信号を送信する許可が与えられたものと判断する。
【0041】
制御信号1~3は、各電力変換器30の動作を設定するためのデータを含んでいる。この例では、制御信号1、2は、電力変換器30ごとに設定される制御データとされている。たとえば、制御信号1は、電力変換器30のスイッチング動作をオンさせるためのビットデータ等である。制御信号2は、たとえば、電力変換器30が出力する電圧値を設定するためのバイトデータ等である。
【0042】
各電力変換器30が、信号102から自己の制御データを識別して取り込むために、信号102には、あらかじめ設定された位置に制御信号1、2に関するデータが配置されている。たとえば、制御信号1に関する制御データのために、信号102の特定の位置にnビットの領域が設けられている。この場合、nビット中の1ビット目のデータは、1番目の電力変換器のための制御データとされている。同様に、nビット中の2ビット目のデータは、2番目の電力変換器のための制御データとされている。このようにして、n台の電力変換器のためのデータが割り当てられている。
【0043】
1番目の電力変換器は、信号102を受信しデータを取り込むと、nビット中の1ビット目のデータを読み込んで動作を決定する。同様に、2番目の電力変換器は、信号Dd2を受信してデータを取り込み、nビット中の2ビット目のデータにもとづいて、動作を決定する。制御信号2についても同様である。
【0044】
制御信号3は、この例では、n台すべての電力変換器に共通する制御指令とされている。制御信号3は、n台の電力変換器すべてに取り込まれ、その制御指令にしたがい、n台の電力変換器は一斉に同じ動作を行う。制御信号3は、たとえば、すべての電力変換器30をゲートブロックする指令等である。
【0045】
どの電力変換器のためのデータを、どの制御信号中に含めるかについては、あらかじめ設定される。たとえば、特定の電力変換器30に対しては、制御信号1、2中の制御信号1のみを設定して、他の電力変換器に対して、制御信号1、2両方を設定するようにしてもよい。また、電力変換器30ごとに読み出す制御信号を設定するようにしてもよい。なお、制御信号1~3は、この例の3種類に限らず、1種類でもよいし、2種類でもよい。また、4種類以上であってももちろんよい。
【0046】
下り信号のCRC信号は、伝送エラーをチェックするために設けられている。下り信号を受信した電力変換器30は、下り信号のCRC信号によるチェックの結果が正常である場合には、たとえば、取り込んだ制御データを正常データとして保持する。
【0047】
後述するように、下り信号のCRC信号は、上り信号送信のトリガ判定として利用することができる。この場合には、上り信号の通信許可が与えられた電力変換器30は、CRC信号によるデータチェックの結果が正常となった場合に、CRC信号のチェックビットをトリガにして上り信号の送信を開始する。上り信号の通信許可が与えられた電力変換器30は、下り信号のCRC信号によるチェックの結果が異常となった場合に、たとえば、そのデータを破棄して、その後の処理や演算等には、前回取得したデータを流用すると共に、上り通信許可が自己の電力変換器に与えられた場合でも、制御装置に上り信号は送信しない。
【0048】
このように、下り信号を構成する各信号102では、上り通信許可信号、制御信号1~3およびCRC信号が設定されている。そして、各信号Ddiにおけるデータの配置は、あらかじめ設定されており、各電力変換器30は、設定されたデータの配置にもとづいて、自己のデータを読み取り必要な動作の設定等することができる。
【0049】
図4(b)に示すように、各電力変換器30の上り信号104(第1シリアル信号の部分)は、電力変換器番号、フィードバック信号1~3およびCRC信号をそれぞれ含んでいる。上り信号104のうち、電力変換器番号やフィードバック信号1~3は、その電力変換器30に固有の情報である。そして、フィードバック信号1~3は、その電力変換器30のそのときの状態を表すデータであり、電力変換器番号とともに変換器状態データと呼ぶことがある。
【0050】
電力変換器番号は、上述したとおり、制御装置50が電力変換器30を識別するための番号である。電力変換器番号は、任意の文字とすることができるが、制御装置50側のプログラム処理上、好ましくは連続の一連番号である。制御装置50からの下り中の通信許可信号に含む電力変換器30の番号とこの電力変換器番号は同一の番号でもよい。上り信号を受信した制御装置50は、電力変換器番号のデータを読み取ることによって、その上り信号に含まれるデータがその電力変換器に対応するものであることを認識することができる。
【0051】
フィードバック信号1~3は、電力変換器30の状態等を表す数値データを含んでいる。フィードバック信号1、2については、たとえば、電圧、電流などの電気量のデータを含むことができる。これらの電気量のデータでは、A/D変換器を通じてディジタルの数値として表現された数値データが含まれる。電気量以外の状態量、たとえば、温度などもセンサーからの数値を数値データとして含んでもよい。
【0052】
フィードバック信号3については、たとえば、電力変換器内の複数の回路の正常・異常状態を、それぞれ1ビットの信号で表したものの配列を含んでもよい。
【0053】
フィードバック信号は、上述の例に限らず、適切なものを任意に設定することができる。フィードバック信号は、3種類に限らず、1種類でもよいし2種類でもよい。フィードバック信号は、4種類以上としてももちろんよい。
【0054】
上り信号のCRC信号は、下り信号の場合と同様に、制御装置50が受信した上り信号中のデータが正常であるか否かをチェックする。上り信号のCRC信号は、上り信号の末尾に付加される。制御装置50では、受信したデータを読み込んで、上り信号のCRC信号がデータの正常状態を表しているときには、たとえば正常データとして保持する。上り信号のCRC信号がデータの異常状態を表しているときには、たとえばそのデータを破棄して、その後の処理や演算等には、前回取得したデータを流用する。
【0055】
上述の下り信号および上り信号のデータ長やデータ配置等の形式は、電力変換器の形式や電力変換装置10自体の要求仕様等に応じて、必要最低限の項目(パラメータ)数を設定した固定のフォーマットのデータとして、制御装置と電力変換装置との間で、あらかじめ定めておくことができる。必要な制御指令やフィードバック信号が少ない電力変換装置に対しては、余剰なデータ長となるが、電力変換装置ごとにデータのフォーマットを設定する必要がないので、システムの設計期間等を短縮することができる。また、上り下りの通信データの長さを一定に保つので、ガードタイムの確保が簡素な仕組みでできる。
【0056】
上り信号104では、下り信号102の場合と同様に、上述のデータのほか、通信手順のために、通信回路により付加されるヘッダーやエンドオブデータなどを含む信号が含まれる。なお、通信手順およびヘッダーやエンドオブデータなどの信号の形式は、上りと下りで同一でもよいし、異なってもよい。
【0057】
図5は、本実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的なタイミングチャートの例である。
図5には、
図3に示したタイミングチャートの一部がより詳細に示されている。以下では、下り信号による上り信号の通信許可およびガードタイムtgの確保についてより具体的に説明する。
図5に、下り信号を構成する各信号Ddi,Di+1,…について、CRC信号によるチェック結果により生成されるチェックビットのタイミングを示す。CRC信号は、信号Ddi中のあらかじめ定められた位置に設けられているので、チェックビットは、CRC信号の読み込みが完了した直後に生成される。次の信号Ddi+1についても、CRC信号は同じ位置に設けられているので、そのチェック結果により生成されるチェックビットのタイミングも信号Ddiの場合と同じタイミングとなる。信号Ddi+2,Ddi+3についても同様である。
【0058】
信号Ddiに対するCRC信号によるチェックが正常で、チェックビットが“1”の場合、この信号を受信した電力変換器iは、上り信号Duiの送信を開始する。なお、信号Ddiには、電力変換器i以外の上り通信許可信号を含んでいないので、信号Ddiを電力変換器iとほぼ同時に受信した電力変換器i+1等は、上り信号の送信準備をすることはない。
【0059】
信号Ddiに続く信号Ddi+1のチェックビットも“1”の場合、この信号を受信した電力変換器i+1は、上り信号Dui+1の信号の送信を開始する。
【0060】
一方、信号Ddi+1に続く信号Ddi+2については、CRC信号によるチェック結果が異常でチェックビットが“0”の場合、図示しないが、電力変換器i+2は、信号Ddi+2を受信しても、上り信号を送信しない。さらに続く信号Ddi+3のチェックビットも“0”であれば、電力変換器i+3も上り信号を送信しない。
【0061】
このように、本実施形態の電力変換装置10では、上り通信許可信号によって、どの電力変換器に上り信号の送信を許可するかを制御装置側で決定することができる。各電力変換器30は、上り通信許可信号にもとづいて、上り信号を送信すべきか否かを判断する。
【0062】
下り信号の通信では、制御装置50から電力変換器30に送信するための必要な制御信号を含む下り信号に加え、信号Ddiには、上り信号の重なり合いを防ぐためにガードタイムを確保する手段を付加することができる。この例では、各信号Ddiの末尾にクロック補正信号CCが付加されている。
【0063】
クロック補正信号CCは、あらかじめ設定されたワード数、たとえば1ワードであり、制御装置50は、適切なガードタイムtgを確保するために、1つ以上のクロック補正信号CCを、たとえば、各信号の末尾、すなわちエンドオブフレームの後、次の信号のヘッダーの前に付加することができる。
【0064】
本実施形態の電力変換装置10では、各電力変換器が固定のデータ長Luを有する上り信号を送信するとともに、クロック補正信号を付加することによって、下り信号の信号Ddiのデータ長Ldをデータ長Luよりも十分長くすることができる。このようにすることで、上り信号の送信を開始するタイミングは、電力変換器1と電力変換器2の間で、下り信号のデータ長だけずれるので、ガードタイムtgが確保できる。
【0065】
なお、ガードタイムtgは、通信に使われる光トランシーバや送受信回路の性能、光ファイバー長などにもとづいて、あらかじめ計算あるいは測定できる。そのため、ガードタイムtgの設定は、ばらつきを考慮した最大値に合わせて下り信号のデータ長やダミーデータのデータ長を調整すればよい。クロック補正信号CCについては、後に詳述するが、信号Ddi中の任意の位置に付加するようにしてももちろんかまわない。
【0066】
<電力変換装置の通信機能>
本実施形態の電力変換装置10では、制御装置50は、各電力変換器30から受信した上り信号に含まれるデータにもとづいて、たとえば、各電力変換器30のための制御指令等を生成し、各電力変換器30に割り当てられた下り信号に含まれるデータの配列の該当箇所に配置して下り信号として送信する。各電力変換器30は、受信した下り信号から自己の制御データを抽出し、たとえば自己の制御のための制御指令を作成する。このような動作シーケンス等の制御は、制御装置50および各電力変換器30において、それぞれの制御回路を用いて実行される。たとえば、制御回路は、あらかじめ記憶装置等に記憶されたプログラムにしたがって、上述の動作をする。また、制御回路および電力変換器は、あらかじめ定められた通信プロトコル(下り信号の形式、あるいは、上り信号の形式、および各々の信手順のための信号)にしたがって通信する。本実施形態の電力変換装置10は、以下に説明するような通信機能を有する。
【0067】
<データチェック機能>
上述したように、制御装置からの下り信号および電力変換器からの上り信号には、各データの末尾にCRC信号が付加される。制御装置50および電力変換器30の制御回路は、受信したデータのCRCチェックをすることによって、受信データが正常か否かを判断することができる。
【0068】
データチェック機能は、CRC信号によるものに限らず、他の適切なエラー訂正符号等を用いてももちろんよい。
【0069】
<クロック再生機能>
本実施形態では、各電力変換器30の通信部31は、制御装置50から送信されてくる制御データにもとづいて、クロック信号を上り信号の伝送用の通信クロックとすることができる。そうすることで、n台の電力変換器からの上り信号の通信クロックが同期されるので、電力変換装置10は、全体として通信を同期させて動作することができる。
【0070】
制御装置50は、高速応答するクロック再生機能と受信回路を搭載する。ガードタイムtgの期間は、光ファイバーには光信号がほとんどないが、ある1台の電力変換器から上り信号が発信されたときに、高速にその信号からクロック信号を再生し、シリアル信号から上り信号を復調して、制御装置に正しく取り込むことができる。
【0071】
電力変換器のクロック信号再生機能は、制御データを受信し、受信したデータのエッジを検出することによって受信したデータのクロックを抽出する。受信データから確実にクロックに応じたエッジを検出するために、受信したデータを8B10B符号化処理するようにしてもよい。抽出されたクロックから受信データを再度サンプリングすることによってデータを同期させる。各電力変換器30の制御回路にクロック信号再生機能をもたせることによって、制御回路からデータの同期をさせるためのクロック信号を別に送信することなく、ジッタの発生等を抑制しつつ、安定して同期動作をすることが可能になる。
【0072】
制御装置では、たとえば、上り信号の通信に使われるクロック周波数より高い周波数で受信信号をサンプリングすることで、上り信号を構成するシリアル信号のエッジ部や平坦部を正しく判別し、クロックを再生する機能およびシリアル信号からデータを復調する。この際、電力変換装置からの送信信号のクロックは、制御装置の用いるクロックを再生して作られたものである場合、シリアル信号の復調はより容易に行われる。
【0073】
<クロック補正機能>
本実施形態の電力変換装置10では、制御装置50の用いるクロックと各電力変換器30のクロックにはばらつきがあり、制御装置50と電力変換器30との間で、完全に同一のタイミングで通信データを送信回路に書き込んだり、受信回路から読み取ったりすることは、現実的には困難な場合が多い。
【0074】
たとえば、制御装置50のクロックが速く、電力変換器30のクロックが遅い場合は、下り信号を受信する時間が経過するうちに、電力変換器30の受信回路には制御装置50からの下り信号に含まれるデータがバッファに蓄積され続けるが、電力変換器30がバッファからデータを取り出すのが遅いため、バッファ容量を超えてデータがあふれる可能性がある。その状態では、データの錯綜が生じて、電力変換装置10全体の運転を正常に維持することに支障きたすおそれがある。あるいは、その逆の場合には、電力変換器の受信回路のバッファが空になり、データの錯綜が生じて、電力変換装置10全体の運転を正常に維持することに支障きたすおそれがある。そこで、本実施形態の電力変換装置10では、制御装置50の制御回路と電力変換器30は、以下説明するように、クロック補正機能を有する。
【0075】
クロック補正信号CCは、電力変換器30の受信回路のクロック補正機能に有効なデータ信号を選択し、制御装置50と電力変換器30との間であらかじめ取り決めておく。このように制御装置50から電力変換器30への必要な下り信号に加え、クロック補正信号CCを付加することで、制御装置50と電力変換器30のクロック周波数に差があっても、送受信を正常に行うことができる。
【0076】
制御装置50のクロックが速く、電力変換器30のクロックが遅い場合は、下り信号を受信するうちに、電力変換器30の受信回路には制御装置50からのデータがバッファに蓄積され続け、バッファ容量を超えてデータがあふれる可能性がある。しかし、バッファ内に蓄えられたクロック補正信号CCは、電力変換器の制御には不要な信号であることはあらかじめわかっているので、クロック補正信号CCをバッファから削除し、バッファに空きを作り、空いたところに制御装置50からの下り信号のデータを書き込むことで、下り信号のデータの取りこぼしはなくなる。
【0077】
また、逆の場合は、バッファが空にならないように、電力変換器30の受信回路が自動的にクロック補正信号CCを複製し、バッファを適宜埋める操作を行う。電力変換器30の制御回路は、バッファから信号を取り出す作業を正常に継続することができる。取り出したデータは、クロック補正信号CCであるので、制御には使われない信号であることはわかっている。そのため、取り出したデータを電力変換器30の制御には使用せず廃棄し、次の下り信号を待って、その下り信号から適宜制御指令などを取り出して用いる。
【0078】
このようにクロック補正信号CCを下り信号の後に付加することで、制御装置と電力変換装置のクロック周波数のばらつきがあっても、正常に通信データを送受継続できる。
【0079】
<電力変換器側に異常が生じた場合の処理>
電力変換器が故障等によって、正常な上り信号を制御装置に送信できない場合がある。そのような場合であっても、制御装置は、その電力変換器への通信許可信号を含む制御データを送信し続ける。送信した制御データに含まれるリセット信号等によって、その電力変換器の動作が復帰した場合には、その電力変換器は、送信されてきた制御データにもとづいて動作を開始、継続することができる。なお、上り信号に電力変換器の識別する信号を付加することで、電力変換器が故障などで通信断になった場合は、該当の識別信号が制御装置で受信されないので、その情報により、動作停止した電力変換器を制御装置で特定できる。いずれかの電力変換器が動作停止状態となった場合には、制御装置は、電力変換部の構成に応じて、適切な処理を行う。たとえば、停止した電力変換器に隣接する電力変換器の電圧データや電流データを用いたり、停止直前の電圧データ等を用いたりすることによって、各電力変換器から収集したデータにもとづく新たな制御データを生成することができる。
【0080】
<具体的な適用例>
図6は、本実施形態に係る電力変換装置をより具体的に例示する模式的なブロック図である。
図6の例は、上述した通信方式をモジュラーマルチレベルコンバータ(Modular Multi Converter、MMC)に適用したものである。
図6に示すように、電力変換装置10は、電力変換部20と、制御装置50と、を備える。電力変換部20は、複数の電力変換器30と、光信号分配回路素子40と、を含む。この例では、制御装置50は、光信号分配回路素子40を介して、各電力変換器30と双方向にデータの送受信を行う。
【0081】
電力変換装置10は、端子21a~21cを介して、交流回路1に接続される。電力変換装置10は、この例のように、変圧器2を介して、交流回路1に接続されてもよい。交流回路1は、たとえば、商用50Hzまたは60Hzの交流電源である。交流回路1は、交流の電力系統であってもよい。電力系統は、交流電源のほか、交流の送電線等を含んでもよい。交流回路1は、誘導電動機や同期電動機等の交流負荷であってもよい。
【0082】
電力変換装置10は、端子21d,21eを介して、直流回路3に接続される。直流回路3は、たとえば直流送電線等を含む電力系統である。直流回路3は、太陽光発電パネルや蓄電池のような直流電源等であってもよい。
【0083】
電力変換装置10は、交流回路1と直流回路3との間に接続されて、交流と直流との間で、双方向の電力変換を行うことができる。
【0084】
電力変換部20では、複数の電力変換器30が直列に接続されている。直列接続されたn台の電力変換器30は、アーム22を構成している。アーム22は、リアクトル24を介して、直列に接続されている。アーム22の直列回路(レグともいう)は、端子21d,21e間に接続されている。この例では、電力変換装置10は、三相の交流回路1に接続されており、アーム22の直列回路は、三相に対応して、3回路分が端子21d,21e間に接続されている。
【0085】
この例では、光信号分配回路素子40は、アーム22ごとに、そのアーム22の近傍に配置されている。光信号分配回路素子40から分岐された光ファイバーケーブルは、そのアーム22の電力変換器30に接続されている。好ましくは、光信号分配回路素子40から電力変換器30への光ファイバーケーブルは、同一の長さを有している。また、好ましくは、制御装置50から光信号分配回路素子40への光ファイバーケーブルは、同一の長さを有している。これら光ファイバーケーブルが同一の長さを有していることによって、制御装置50から各電力変換器30への光通信路の長さが等しくなるので、通信路を伝送されるデータの遅延をほぼ同一とすることができる。この例では、光信号分配回路素子を各アームに1台の構成で示しているが、各アームに複数台の光信号分配回路素子を用いてもよい。
【0086】
図7は、
図6の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図7に示すように、電力変換器30は、端子31a,31bを含む。電力変換器30は、端子31a,31bによって、他の電力変換器30等と直列に接続される。電力変換器30は、光電変換部32と、制御回路33と、ゲートドライバ34と、主回路35と、主回路給電部36と、電圧検出器37と、を含む。
【0087】
光電変換部32は、光信号分配回路素子40に光ファイバーケーブルを介して接続されている。光電変換部32は、光ファイバーケーブルを介して受信された光データを電気信号に変換、あるいは、電気信号を光信号に変換して送信するための光トランシーバを含む。光電変換部には、クロック再生機能や受信データの復調回路と、復調した受信データを蓄えるバッファ回路などが含まれる。
【0088】
制御回路33は、光電変換部32によって復調された受信データをバッファ回路から取り出すことで変換された電気信号を復調等することによって制御データとして解釈する。制御回路33は、制御データを解釈して、自己に関する制御指令等を読み出して、制御指令に応じて動作等する。また、制御回路33は、電圧検出器37によって検出されたコンデンサ電圧Vcを適切な形式に変換して、上り信号の一部として、データ内の定められた場所に書き込む。なお、上述した通信部31(
図1)は、光電変換部32および制御回路33を含む要素である。
【0089】
ゲートドライバ34は、制御回路33によって読み出された制御指令等にもとづいて、スイッチング素子35S1,35S2のためのゲート駆動信号を生成し、スイッチング素子35S1,35S2に供給する。
【0090】
主回路35は、スイッチング素子35S1,35S2と、ダイオード35D1,35D2と、コンデンサ35Cと、を含む。スイッチング素子35S1,35S2は、直列に接続されている。ダイオード35D1,35D2は、スイッチング素子35S1,35S2にそれぞれ逆並列に接続されている。コンデンサ35Cは、スイッチング素子35S1,35S2の直列回路に並列に接続されている。
【0091】
スイッチング素子35S1,35S2は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の自己消弧型の半導体スイッチである。スイッチング素子35S1,35S2は、ゲートドライバ34から供給されるゲート駆動信号によって駆動されて、コンデンサ35Cを充放電する。
【0092】
主回路の構成は、上述のようなハーフブリッジ形式に限らず、後述する
図9に示すようなフルブリッジ形式としてもよい。
【0093】
主回路給電部36は、コンデンサ35Cから電力の給電を受けて、適切な電圧に変換して、光電変換部32、制御回路33およびゲートドライバ34にそれぞれ供給する。
【0094】
本実施形態の電力変換装置10では、制御装置50から各電力変換器30に下り信号を供給する。各電力変換器30は、受信した下り信号から自己の電力変換器に割り当てられた箇所のデータを取り出して、制御指令として抽出し、必要な動作を行う。
【0095】
また、各電力変換器30は、下り信号中の通信許可信号に自己の電力変換器の番号が含まれている場合、CRC信号を受信し、CRCデータが正常の場合には、自己の電力変換器の状態データを、上り信号として制御装置50へ送信する。
【0096】
本実施形態の電力変換装置10の効果について説明する。
本実施形態の電力変換装置10では、光信号分配回路素子40により、制御装置50からの下り信号を、すべての電力変換器30にほぼ同時に配信することができる。同時配信時には、デイジーチェーンによらないので、いずれかの電力変換器30が故障等により動作を停止しても、下り信号は、他の残りの電力変換器30に配信される。そのため、電力変換装置10としては、運転を継続することができる。
【0097】
また、制御装置50では、制御データに、通信許可信号として、上り通信が許可される電力変換器の番号を含むように生成され、送信される。そのため、各電力変換器30は、通信許可信号を受信することによって、自己の上り信号を送信するタイミングを判断することができる。つまり、下り信号に含まれる制御データによって、上り信号の送信のタイミングを制御することができるので、安定して通信を行うことが可能になる。
【0098】
さらに、本実施形態では、各電力変換器30の制御データを含む信号Ddiのデータ長Ldおよび電力変換器30の状態を表す変換器状態データを含む上り信号Duiのデータ長Luをいずれも固定長とするとともに、信号Ddiのデータ長Ldを、上り信号Duiのデータ長Luよりも長くしている。これによって、2つの隣り合う上り信号間にガードタイムtgを設けることができ、各電力変換器30からの光信号を合流させるだけで、1本のシリアル信号とすることができ、光ファイバーおよび光信号分配回路素子40のような受動光部品で通信路を構成することができる。
【0099】
光信号分配回路素子40や、光導波路型光スプリッタは、受動回路部品であり、その動作のためには、電源供給は不要である。光信号分配回路素子40等の動作のために、絶縁された電源が不要なため、光信号分配回路素子40等を高電圧で動作する電力変換器30が配置されている近傍に設けることができる。
図6に示したように、光信号分配回路素子40を各電力変換器30の近傍に設けることによって、各電力変換器30に分岐された光ファイバーケーブルの長さを短くすることができる。したがって、多数本にわたる光ファイバーケーブルの長さを短縮することによって、コストを低減し、作業性を向上させることができる。
【0100】
また、光信号分配回路素子40と各電力変換器30との間の光ファイバーケーブルの長さを短くすることによって、光ファイバーケーブルの長さをそろえることが容易になる。光ファイバーケーブルの長さをそろえることによって、各電力変換器30からの伝送遅れをほぼ一定にすることができ、制御装置の受信回路の同期がとりやすくなり、データの欠損等を抑制することが容易になる。さらに、制御装置50側において、クロック補正信号CCの挿入数を減らすなどで、ガードタイムを短縮することが可能になり、データの送受信の周期を低減して、より高速な制御を実現することができる。
【0101】
本実施形態の電力変換装置10では、送受信する伝送データの長さをあらかじめ設定した固定長としている。そのため、下り信号および上り信号の情報を適切に設定することによって、高速に伝送することが可能になり、安定した制御系を実現することができる。
【0102】
また、送受信するデータを固定長とすることによって、制御装置50は、各電力変換器30の変換器からの上り信号を容易に復調して受信することができ、各電力変換器30も下り信号を容易に復調して受信することができる。
【0103】
MMC等の場合には、下り信号中の通信許可信号に含まれる電力変換器30の番号を発生させるパターンとして、たとえば、1の次は2、2の次は3、…、n-1の次はn、そのあとは、また1に戻るといったように、単純に1つずつ増加させて発生させるパターンとすることもできる。
【0104】
このほか、n台の変換器を識別するための番号を任意の時系列パターンで生成するようにしてもよい。たとえば、1つのアーム22において電流値を取得する番号xの電力変換器に対しては、他の電力変換器よりも頻繁に変換器状態データを要求するように設定すること等ができる。一例として、1の次はx、xの次は2、2の次はx、xの次は3、…、n-1の次はx、xの次はn、nの次はx、xの次は1に戻る、というパターンでもよい。このようにすれば、x番目の電力変換器からの電流信号は、2回に1回の割合で上り信号としてフィードバックされる。そのため、過電流の発生等の異常時においても高速に回避、保護動作をさせることが可能になり、可用性を増大させることができる。
【0105】
(第2の実施形態)
上述した他の実施形態では、交流-直流間を相互に変換する電力変換装置に適用するものである。本実施形態では、交流の電力系統に連系して用いられる無効電力補償装置に適用する。
図8は、本実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図8に示すように、電力変換装置210は、電力変換部220と、制御装置250と、を備える。電力変換部220は、端子21a~21cを介して、交流回路1に接続される。交流回路1は、電力系統である。この例のように、電力系統は、典型的には三相交流系統である。電力系統は、一般に、複数の発電機、交流送電線、配電線、負荷などが多数、複雑に接続された構成であり、また、無効電力補償装置と交流系統の間には、変圧器が設置される場合もあるが、
図8では単純化して電源のシンボルだけで表している。
【0106】
電力変換部220は、複数のアーム22を含んでいる。アーム22は、この例では、三相交流に対応して3つであり、リアクトル24を介して、Δ結線されている。回路構成は、Δ結線でなく、スター結線でもよい。
【0107】
制御装置250は、光信号分配回路素子40を介して、各アーム22の電力変換器230とデータを送受信する。
【0108】
送受信するデータは、上述した他の実施形態の場合と同様の形式の下り信号および上り信号である。すなわち、下り信号は、少なくとも、光ファイバーケーブルで接続されている電力変換器230の台数に応じた数の制御データを含んでいる。上り信号は、電力変換器230に対応する変換器状態データを含んでいる。
【0109】
電力変換装置210は、交流の電力系統の無効電力に応じた位相の交流電流を注入することによって、電力系統の無効電力を補償する。
【0110】
図9は、
図8の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図9には、電力変換器230に主回路235の部分が示されている。本実施形態では、主回路235は、正負の極性を有する交流電圧を入力するため、フルブリッジ形式とされる。主回路235以外の他の構成は、上述の
図7に示した構成と同様とすることができる。なお、本実施形態では、主回路235をフルブリッジ構成とすることにより、制御回路によって生成されるゲート駆動信号は、フルブリッジに対応するものとされる。また、これに応じて、下り信号には、4つのスイッチング素子35S1~35S4のためのゲート駆動信号に関するデータが含まれる。なお、スイッチング素子35S1~35S4には、逆並列にダイオード35D1~35D4がそれぞれ接続されている。
【0111】
本実施形態においても第1の実施形態で説明したのと同様の効果を得ることができる。
【0112】
(第3の実施形態)
上述の他の実施形態では、複数の電力変換器は、主として直列に接続されているものであるが、本実施形態では、複数の電力変換器は、並列に接続される。
図10は、本実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図10に示すように、本実施形態の電力変換装置310は、電力変換部320と、制御装置350と、を備える。
【0113】
電力変換部320は、端子21a~21cを介して、交流回路1に接続される。電力変換部220は、端子21d,21eを介して、直流回路3に接続される。交流回路1および直流回路3は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0114】
電力変換部320は、複数の電力変換器330を含む。複数の電力変換器330は、たとえば、三相フルブリッジ構成の変換器である。電力変換器330は、交流側および直流側の双方で並列に接続されている。交流側の各相は、図示しないが、たとえば連系リアクトルが設けられている。直流側では、各電力変換器330間には、図示しないが、たとえば発振の抑制のためにインピーダンス素子が接続されている。この例のように、交流側および直流側の双方が並列に接続されている場合に限らず、交流側または直流側の一方が並列に接続されていてもよい。
【0115】
光信号分配回路素子40は、高電圧となり得る電力変換部320の近傍に配置される。たとえば、光信号分配回路素子40は、電力変換器330のための制御盤内に設けられる。あるいは、光信号分配回路素子40は、いずれかの電力変換器の筐体に設けられてもよい。
【0116】
上述の他の実施形態の場合と同様に、電力変換器330の近傍に配置することによって、高圧側の光ファイバーの長さを短くすることができ、コストの低減、作業効率の向上等を図ることができる。
【0117】
本実施形態においても、接続されている電力変換器330が故障やその他の要因で電力変換装置310の運転から脱落しても、制御装置350は、送受信するデータの形式やデータの個数等を変えなくても、運転を継続することができる。脱落した電力変換器330が復帰した場合であっても、そのまま何らの操作をすることなく、電力変換装置310の運転を継続することができる。
【0118】
以上説明した実施形態によれば、通信路中の一部の電力変換器の動作が停止しても、全体の運転を継続できる電力変換装置を実現することができる。
【0119】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0120】
1 交流回路、2 変圧器、3 直流回路、10,210,310 電力変換装置、20,220,320 電力変換部、22 アーム、24 リアクトル、30 電力変換器、40,40a,40b 光信号分配回路素子、50,250,350 制御装置