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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】電磁放射の高速検出器
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20230324BHJP
   H10N 10/17 20230101ALI20230324BHJP
   H10N 10/852 20230101ALI20230324BHJP
   H10N 10/855 20230101ALI20230324BHJP
【FI】
G01J1/02 C
H10N10/17 A
H10N10/852
H10N10/855
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019570399
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2018066474
(87)【国際公開番号】W WO2018234406
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】102017000070601
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】515146420
【氏名又は名称】レーザー ポイント エッセ.エルレ.エルレ.
【氏名又は名称原語表記】LASER POINT S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】スコティカティ、ダビデ
(72)【発明者】
【氏名】ペレグリノ、セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】クラペーラ、ジアコモ
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-076778(JP,A)
【文献】特開2011-191214(JP,A)
【文献】特表2016-532103(JP,A)
【文献】国際公開第2011/148425(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/056466(WO,A1)
【文献】特開2003-130727(JP,A)
【文献】特開2008-310077(JP,A)
【文献】国際公開第2018/234411(WO,A2)
【文献】Journal of Materiomics,2017年06月09日,Vol.3 No.4,p.293~298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/02- G01J 1/04
G01J 1/42
G01J 5/02
G01J 5/12- G01J 5/16
G01K 7/00- G01K 7/026
H01L 27/14- H01L 27/148
H01L 31/00- H01L 31/0248
H01L 31/08- H01L 31/119
H10N 10/00- H10N 10/857
H10N 15/00- H10N 15/20
B23K 26/00- B23K 26/10
C23C 14/00- C23C 14/58
H01S 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)と、
前記基板の上面(10)に堆積された熱電材料の配向多結晶層(2)と、
互いに離間し、前記配向多結晶層と電気的に接触している第1電極(6)及び第2電極(7)とを備え、前記配向多結晶層(2)が、前記基板の前記上面(10)の法線に対して、30度から55度の間に含まれる角度の結晶方位を有する電磁放射(RL)の検出器において、
前記配向多結晶層(2)は、斜め蒸着法(GLAD)によって前記基板の上面(10)上に堆積されていて、前記基板の最上層が1つのセラミック層、または、前記基板全体が1つのセラミック層からなり、前記第1電極(6)及び前記第2電極(7)が、前記熱電材料の前記配向多結晶層(2)と同じ材料で作成されていて、
前記基板の前記1つのセラミック層が、焼結された窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si 3 4 ) 、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(B 4 C)、アルミナ(Al 2 3 )、及び酸化ベリリウム(BeO)を含む材料の群から選択された材料によって形成されていることを特徴とする検出器。
【請求項2】
前記基板の最上層が1つのセラミック層からなり、前記基板が、セラミック層によって事前に電気的に不動態化された金属層を備えることを特徴とする、請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
前記基板が、前記配向多結晶層の結晶方位とは異なる結晶方位を有することを特徴とする、請求項1に記載の検出器。
【請求項4】
前記第1電極と前記第2電極との間に延在する前記配向多結晶層によって形成された、少なくとも1つのストリップ(100)を備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項5】
複数のストリップ(100)を備え、
各ストリップが前記配向多結晶層によって形成され、
前記複数のストリップの各ストリップが互いに離間して互いに平行に配置され、前記複数のストリップが前記第1電極と前記第2電極との間に延在することを特徴とする、請求項4に記載の検出器。
【請求項6】
複数のストリップ(101...10n-1,10n)を備え、
各ストリップが前記配向多結晶層によって形成され、
前記複数のストリップの各ストリップが互いに離間して互いに平行に配置され、前記複数のストリップの各ストリップが、第1ストリップ(101)からn番目のストリップ(10n)まで連続して配置され、前記複数のストリップの各ストリップが第1端部(S1)及び第2端部(S2)を有し、前記第1電極(6)が、前記複数のストリップの前記第1ストリップ(101)の第1端部(S1)に接続され、前記第2電極(7)が、前記複数のストリップの前記n番目のストリップ(10n)の前記第2端部(S2)に接続され、前記複数のストリップの各ストリップの前記第2端部が、前記複数のストリップの次のストリップの前記第1端部に電気的に接触していることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項7】
複数のストリップ(201,301...20n,30n)を備え、
各ストリップが前記配向多結晶層によって形成され、
前記隣接するストリップ(201,301;202,302...20n,30n)の前記配向多結晶層が、反対の粒子配向を有し、
前記複数のストリップの各ストリップが互いに離間して互いに平行に配置され、前記複数のストリップの各ストリップが、第1ストリップ(201)からn番目のストリップ(30n)まで連続して配置され、前記複数のストリップの各ストリップが第1端部(S1)及び第2端部(S2)を有し、前記第1電極(6)が、前記複数のストリップの前記第1ストリップ(201)の第1端部(S1)に接続され、前記第2電極が、前記複数のストリップの前記n番目のストリップ(30n)の前記第2端部に接続され、前記複数のストリップの各ストリップの前記第2端部が、前記複数のストリップの次のストリップの前記第1端部に電気的に接触していることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項8】
前記基板の前記上面が、2μm未満の粗さを示すことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項9】
前記配向多結晶層に重なるパッシベーション層(4)を備えることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項10】
前記配向多結晶層と前記パッシベーション層との間に配置されたバッファ層(3)を備えることを特徴とする、請求項8に記載の検出器。
【請求項11】
前記パッシベーション層の上に配置された放射線吸収層(8)を備えることを特徴とする、請求項9に記載の検出器。
【請求項12】
前記基板の前記上面に、隣接する複数のV字型溝を前記配向多結晶層の傾斜粒子の投射と同じ方向に形成するテクスチャ加工がされていることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項13】
前記配向多結晶層が、ビスマス(Bi)、テルル化ビスマス(Bi2Te3)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Al:ZnO) 、及びアンチモン(Sb)を含む材料の群から選択された材料によって形成されていることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項14】
前記1つのセラミック層が焼結セラミック層であることを特徴とする、請求項1に記載の検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁放射、特にレーザー放射の高速検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、高速レーザー放射検出器は、主に、フォトダイオード、焦電センサー、及びアキシャル熱電素子に代表される。熱電素子は、更に2つの異なるグループに分けられる。異なる種類の材料の接合部に発生する標準的な長手方向の熱電効果を使用する素子と、レーザー誘起横方向電圧(LITV)効果に基づく素子である。
【0003】
フォトダイオードの他の種類のセンサーに対する主な利点は、時間的な応答が最も速いことである。P-N接合部の電子-正孔ペアの再結合メカニズムに基づき、この物理的原理を利用した素子によってサブナノ秒の応答時間の実現が可能である。更に、それらの素子の感度が高いことによって、極めて低いパワーの連続波のレーザー光線及び単一のレーザーパルスの測定が可能になる。一方、感度が高いことは、レーザー放射測定中の飽和閾値が低いことを意味する。フォトダイオードの応答が不利な点は、空間的に不均一なことと、動作温度及び入射する放射の波長に左右されることである。また、スペクトルの動作帯域は、使用される半導体のエネルギーギャップによって物理的に制限される。
【0004】
焦電効果に基づくセンサーは、温度勾配を電気信号に変換する。すなわち、温度勾配による分極変化によって結晶の両端に電圧が発生する。一方、焦電センサーは、その熱特性からもたらされる広帯域(すなわち、UVからTHz)というフォトダイオードに対する利点を有する。また、焦電センサーは、高感度(1000V/W以上が可能)と高エネルギーパルス用に設計を調整できる可能性とを兼ね備える。一方、焦電センサーは、活性物質横断方向の自然漏れ電流のために、比較的低いレーザーの繰り返し率(現状200kHzまで)に制限され、また連続波(cw)のレーザー放射の測定ができないという制限がある。実際、焦電材料の動作原理は、温度の過渡変化に対する応答に基づき、パルス状から準cwの測定のみが可能であって、純粋なcwや長いパルス状のレーザー源の測定は不可能である。
【0005】
標準的な長手方向の熱電効果に基づくセンサーは、一般に、適切な基板を軸方向に横切る熱流束を測定可能な、電気的に相互接続された複数の熱電対を採用して設計されている。標準的な熱電効果を用いるこの種のセンサーは、米国特許第5678924号明細書に記載された一般的な放射状サーモパイルの設計が進化したものである。熱の原理を対象にするこの種のセンサーのスペクトル許容領域は依然として広帯域である。しかし、この種のセンサーの熱設計では、(現在のところ10msを超える)比較的遅い応答時間のみが可能である。更に、複数個のアキシャル熱電対の設計は、(国際公開第2016128247号明細書に開示されているように)センサーの活性領域の被覆率が不十分であることをしばしば意味する。
【0006】
レーザー誘起横方向電圧(LITV)効果を利用するセンサーもまた、温度勾配を電気信号に変換する。蒸発源と基板との間に傾斜角度をもたせて堆積した適切な材料(例えば、Bi、BiTe、Al:ZnO、Sb)の薄膜は、レーザー照射に対して横方向熱電応答を示すことが知られている。すなわち、膜面の法線方向に沿って温度勾配が存在する場合、膜面の平面に対して長手方向に熱電応答が発生する。長手方向平面に沿って抽出可能な発生電気信号の強度は明確な方向性を有しており、その方向は基板上に成長する薄膜活性物質の傾いた粒子の投射と平行であり、強度は共面垂直方向に最小となる。
【0007】
LITV効果の採用には、温度信号から電圧への変換効率が良いと同時に応答時間がナノ秒のタイムスケールであるという本質的な利点がある。また、素子の製造は、技術的な工程が少なくて済むため、より制御しやすくなり、その結果、安価で単純になる。標準的な熱電素子に対する、LITVに基づく素子の別の利点は、軸方向に配置された熱電対に基づく設計に関して活性領域の被覆率が均一なことである。
【0008】
レーザー放射測定に関し、焦電センサー及びフォトダイオードに対する、LITV効果を利用するセンサーの利点は、全体的な応答時間が速いこと、スペクトル受容帯域が広いこと、直接的なレーザー照射に対する飽和閾値が高いこと、パルス状レーザー源だけでなくcwレーザー源も測定できることを合わせもつことである。更に、LITVに基づくセンサーの活性領域は、高速フォトダイオード及び焦電センサーと比較して大きさに制限がないが、活性膜の堆積の均一性が維持される。
【0009】
LITV効果に基づくセンサーは、レーザー放射のエネルギー/パワー検知の技術分野で極めて有望であるが、米国特許出願公開第2011/0024604号明細書、米国特許出願公開第2011/0291012号明細書、米国特許出願公開第2014/0091307号明細書、又は米国特許出願公開第2014/0091304号明細書のセンサーのように、活性層の製造のために、多くの場合有毒物質で構成される複合合金が必要であるという欠点よって制限が課される。
【0010】
更に、これまでの特許(米国特許出願公開第2011/0024604号明細書、米国特許出願公開第2011/0291012号明細書、米国特許出願公開第2014/0091304号明細書、及び米国特許出願公開第2014/0091307号明細書)で公開された製造方法には、ほぼ格子整合した傾斜する活性熱電層を結晶基板上にエピタキシャルのように成長させることが記載されている。この手法は、活性膜及び基板に使用可能な材料に関して強い制限を課す。すなわち、米国特許出願公開第2011/0024604号明細書中のTEM画像が明確に示し、技術文献から広く知られているように、この手法には、ほぼ格子整合した材料ペアが必要である。更に、米国特許出願公開第2004/0102051号明細書には、V-VI化合物に限定された熱電材料を好ましい結晶面上に強制的に堆積させるために、シード層及び人工的な傾斜構造を使用することに基づく、製造方法の異なる実施形態が記載されている。
【0011】
実際、上記の特許出願においては、基板が限定された原子構成(すなわち、特定の結晶平面をもつ特定の材料)であること、又は活性層と基板との間に、やはり限定された原子構成をもつ追加のシードバッファ層が存在することが必要である。このようなシードバッファ層の限定された原子構造は、活性膜の堆積中に基板に対して特定の角度をもつ高結晶性膜のエピタキシャルのような成長に影響を与えるために必要であり、これによって製造が複雑になり、同時に補足的且つクリティカルな工程が追加になる。
【0012】
詳細には、米国特許出願公開第2011/0024604号明細書には、CaCoOの傾斜膜をAl基板の2つの特定の平面、具体的にはn-平面及びs-平面に成長させる方法が記載されており、これにより、傾斜角度が基板表面に対してそれぞれ62°及び70°であるCaCoO平面が生成される。
【0013】
米国特許出願公開第2011/0291012号明細書には異なる実施形態が開示されているが、傾いた活性熱電層の成長が基板の原子構造に依存するのは同じである。実際、米国特許出願公開第2011/0291012号明細書には「傾斜した薄膜32の結晶面35の傾斜角度αが傾斜した基板31の低指数面34の傾斜角度βによって決まり、θが0~10度として、αがα=β+θを満たすこと」が開示されている。
【0014】
米国特許出願公開第2014/0091304号明細書にはジスプロシウムバリウム銅酸塩(DyBaCu-d)、ストロンチウムナトリウムコバルト酸塩(Sr0.3Na0.2CoO)、及びストロンチウムコバルト酸塩(SrCo)の群から傾いた熱電膜を製造する方法が開示されているが、これには、酸化マグネシウム(MgO)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、及び酸化セリウム(CeO)等の材料の中間シードバッファ層が必要である。このシードバッファ層は、基板表面の法線に対して約10度から45度の間の方向に角度αで傾いた結晶軸(c軸)をもつ柱状粒子構造を有する必要がある。
【0015】
米国特許出願公開第2004/0102051号明細書では、基板表面に対して活性熱電材料の粒子を配向させるために、やはりシード層が採用されている。更に米国特許出願公開第2004/0102051号明細書には、素子の製造に同様な活性物質を使用すると、シード層が必要なだけでなく、熱電層のc軸を適切な角度に配向するために、堆積後に追加のアニール処理も必要であることが開示されている。後者は、本発明が採用した製造方法と比較すると、製造が複雑になり、全体的な工業プロセスの堅牢性が低下する。また、米国特許出願公開第2004/0102051号明細書では、一実施形態において、基板シリコン面上にエッチングされた屋根瓦状構造物を使用することを開示するが、これは、酸化物で覆う必要がある。そして、エッチングされた構造物に対して垂直な粒子をより迅速に成長させるために、基板を蒸発源に対して構造物と同じ角度に回転させる。よって、これら粒子は元の基板表面に対して角度を有する。本発明が採用した製造方法と比較すると、やはり、記載された手順によって製造が更に複雑になり、全体的な工業プロセスの堅牢性が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
これらの技術の状況を鑑み、本発明の目的は、従来技術とは異なり従来技術の欠点を克服した、すなわち、シード層を使用せず、高結晶性配向基板を必要とせず、基板に人工構造物を形成する必要のない、レーザー放射の高速検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、上記目的は、基板と、基板の上面に堆積された熱電材料の配向多結晶層と、互いに離間し、配向多結晶層と電気的に接触している第1電極及び第2電極とを備えた電磁放射の検出器において、基板が、少なくとも1つのセラミック層を備え、前記配向多結晶層が、基板の上面の法線に対して、30度から55度の間に含まれる角度の結晶方位を有することを特徴とする検出器によって実現される。
【0018】
本発明は、作り易く信頼性のある、LITV効果に基づいた直接的なレーザー放射を測定するためのレーザー放射の高速検出器について記載する。基板の広い範囲の粗さに対し、その応答がセンサーの活性領域全体に亘って均一であることが変わらず、これによって堅牢なプロセス安定性が実現する。
【0019】
本発明に係る検出器は、MHz領域までの繰り返し周波数をもつシングルレーザーパルスのエネルギーを測定することができることに加え、cwレーザーの出力パワーの測定も可能である。更に、センサーの熱特性によって、光学フィルタの採用や他の予防措置を必要とせずに、UVからTHzまでの広帯域スペクトルで動作可能であり、且つ、レーザー放射RLの広い範囲(10-3-10W/cm)の入射光パワー密度において動作可能である。
【0020】
また、本レーザー放射検出器では、10-10のオーダーの高速立ち上がり時間が可能である。
【0021】
本発明に係る検出器は、特定の結晶学的平面が不要な適切なセラミック材料の基板を含む。例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(BC)、アルミナ(Al)、又は酸化ベリリウム(BeO)等の焼結セラミックである。代替えとして、良好な熱伝導係数をもつセラミック(例えば、AlN、Si、SiC、BN、BC、Al、BeO)の誘電体の薄い多結晶層によって事前に不動態化(不活性化)した金属基板を使用してもよい。
【0022】
基板の一方の側には、選択した熱電材料(例えば、Bi、BiTe、Al:ZnO、Sb)の薄い(0.1~5μm)多結晶活性要素を、30°~55°の間の、最適には45°の第1角度の結晶方位で堆積する。基板は、薄い多結晶層のようには配向されていない。
【0023】
本特許とこれまでの発明の主な違いの一つは、活性要素が高結晶性ではなく、高多結晶性であることである。センサーの活性膜を製造するためにGLAD技術を採用することによって、焼結セラミック層等の特定の原子構成をもたない基板が使用でき、特定の原子構成をもつシード層を堆積させる必要やその表面粗さを制御するための高価なラッピング処理の必要がないため、工業的な製造方法に堅牢性が加わる。
【0024】
活性物質の上に形成された、Tiからなる薄い(20nm未満)接着層が、活性物質と、白金又はパラジウム(80~100nm)又は酸化チタンの薄膜から構成されるパッシベーション層との間に採用されている。この層は、入射レーザー放射の吸収層としても使用できる。
【0025】
その後、必要に応じて、異なる範囲の波長をより良く吸収するため、及びレーザー放射に対するセンサーの損傷閾値を高めるために、異なる材料(例えば、SiC、Si、Al、黒色艶消し金属層、又はカーボンナノチューブ複合コーティング)で様々な厚さ(0~10μm)の吸収層を追加してもよい。
【0026】
別の実施形態では、入射するレーザー放射の光吸収を増加させるために、活性層を堆積する前に、活性層の傾斜粒子の基板上への投射と同じ方向に、隣接する複数のV字型溝を設ける基板のテクスチャ加工を採用することができる。
【0027】
活性物質及びそれに続く層は、隣接し、密に配置され、電気的に絶縁されたストリップ状に成形する必要がある。ストリップは、傾斜粒子の基板上への投射方向と平行である必要がある。
【0028】
活性層と電気的に接触している金属導電層は、センサーチップを形成することにより、活性層のストリップの端部を直列又は並列に相互接続するように構成されている。
【0029】
そして、センサーチップの裏面(基板の裏面)が、熱伝導性接着剤又は金属半田を使用する接合によって適切なヒートシンクに取り付けられる。
【0030】
本発明をより良く理解するために、純粋に非限定な例によって、そのいくつかの実施形態を添付の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係るレーザー放射の高速検出器の断面図である。
図2図1の検出器について、並列配列の電極及びパターニングしたセンサー層材料を示す上面図である。
図3図1の検出器について、直列配列の電極及びパターニングしたセンサー層を示す上面図である。
図4図1の検出器について、異なる直列配列の電極及びパターニングしたセンサー層を示す上面図である。
図5】活性層がビスマス層である場合の図2の検出器について、1MHzの繰り返し周波数で4ナノ秒パルス列による照射に応答した横方向熱電電圧信号を時間の関数として示すグラフである。
図6】活性層がビスマスの層である場合の図2の検出器の入射パルスエネルギーに対する応答を示すグラフである。
図7】活性層がビスマスの層である場合の図3の検出器の出力電圧信号の測定値を入射CWレーザー放射パワーの関数として示すグラフである。
図8図8a及び図8bは、図1の検出器のセラミック基板上の活性層の走査型電子顕微鏡画像であり、2つの異なる厚さの活性層を示す画像である。
図9図1の検出器のセラミック基板上に堆積され、事前にV字型溝のテクスチャ加工が施された活性層の走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1を参照し、本発明の好ましい実施形態に係る、電磁放射、特にレーザー放射の高速検出器を説明する。
【0033】
本発明に係るレーザー放射の高速検出器は、セラミック層、好ましくは特定の粒子配向を必要としないセラミック層を含む基板1を含み、セラミック材料としては、(100W/mKを超える)高熱伝導性を有し、(1800℃を超える)高融点の誘電体材料を意図している。基板1は、セラミック層のみで構成されてよく、例えば、焼結窒化アルミニウム(AlN)、焼結窒化ケイ素(Si)、焼結炭化ケイ素(SiC)、焼結窒化ホウ素(BN)、焼結炭化ホウ素(BC)、焼結アルミナ(Al)、又は焼結酸化ベリリウム(BeO)等の焼結セラミック層で構成するのが好ましい。別法として、基板は、良好な熱伝導係数をもつ、薄いランダム配向したセラミック層(例えば、AlN、Si、SiC、BN、BC、Al、BeO)によって事前に電気的に不動態化(不活性化)した金属基板を含んでもよい。
【0034】
好ましくは、基板1の上面10の粗さRは、2μm未満である。
【0035】
基板1の上面10には、多結晶層2が、基板1の上面10の法線Aに対し、好ましくは30度~55度に含まれる角度αの結晶方位で堆積されている。すなわち、多結晶層2は、法線軸Aに対し角度αで傾斜した結晶軸Pをもつ柱状粒子構造を有する。多結晶層2の傾斜配向結晶構造は、所望の熱電効果を提供する必要がある。
【0036】
多結晶層2は基板1の上面10に堆積させるのであって、エピタキシャル成長によって成長させるのではない。このため、基板1の材料は、従来技術とは異なり、特定の粒子配向を必要とせず、基板1を、セラミック層のみ、好ましくは焼結セラミック層で構成することができる。
【0037】
多結晶層2は、物理蒸着技術(PVD)又は電子ビーム物理蒸着(EBPVD)を採用し、基板1を蒸発源に対し傾斜角度αで載置することにより、既知の斜め蒸着法(GLAD)によって堆積させる。これによって、堆積した活性層の傾斜した高多結晶粒子構造が形成される。GLAD技術は、「Handbook of Deposition Technologies for Films and Coatings」(第3版)、Peter M. Martin編集、William Andrew Publishing、Boston、2010年、621~678ページ、ISBN9780815520313、https://doi.org/10.1016/B978-0-8155-2031-3.00013-2の第13章「Glancing Angle Deposition」に詳細に記述されている。角度αの結晶方位をもつ多結晶層2を得るために、蒸着中の蒸着チャンバ内の分圧を10-3~10-7mbarの範囲、蒸着速度を0.1~1000nm/sの範囲、基板温度を293~500Kの間にする必要がある。最適な堆積を得るために、多結晶層2を45度の結晶方位で堆積させることが好ましい。
【0038】
多結晶層2は薄い層であり、その厚さは0.1μmと5μmとの間であることが好ましい。多結晶層2はレーザー放射の高速検出器の活性層に該当し、上記の厚さは、多結晶層2の横断方向の温度勾配を迅速に回復するのに適している。
【0039】
多結晶層2の材料は、例えば、ビスマス(Bi)、テルル化ビスマス(BiTe)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Al:ZnO)又はアンチモン(Sb)を含む熱電材料の群から選択される材料である。図8a及び図8bに、基板1の上に堆積した、異なる厚さの2つの活性層を示す。
【0040】
基板1の上面の粗さRによって、活性物質層2の基板1への接着力が高まり、層間剥離が防止され、また、検出器の拡散反射が高まる。
【0041】
比較的大きな粗さ(>0.6μm)であっても、500nm未満の厚さの膜の横方向熱電特性に影響を与えることなく採用可能である。実際、傾斜粒子の平均的な方位を変更しない限り、Rより十分に大きい直径をもつスポットを使用すれば、センサーの応答は全体的に安定したままである。
【0042】
多結晶層2の上面に接着層3が形成される。この接着層3は、20nm未満の厚さが好ましく、チタンからなるのが好ましい。
【0043】
バッファ層3の上面に、好ましくは高い非反応性及び高い融点をもつ層(>1000℃)であるパッシベーション層4を堆積する。このパッシベーション層4は、80nm~100nmの範囲の厚さが好ましく、また、白金又はパラジウム又は酸化チタンからなるのが好ましい。
【0044】
層3は、多結晶層2とパッシベーション層4との間の接着層として作用するように構成されている。
【0045】
層3及び層4が導電性である場合、金属導電接点層5を、層2又は層4の上に堆積する。金属導電層5は、多結晶層2と電気的に接触している。金属導電層5は、互いに離間した2つの接点を形成するように堆積され、一つのストリップの接点が電極6及び電極7に該当する。電極間の横方向電界によって、電圧V(t)が得られる。
【0046】
金属導電層5の材料は、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、又はモリブデン(Mo)であってよい。あるいは、活性層と導電層5との間の接合部における熱電対効果を避けるために、金属導電層5を活性層と同じ材料で作成する。熱電効果があると、ストリップが直列に相互接続される場合に熱電対効果が合計され、センサーの出力電圧信号の基準線を移動する。すなわち、金属性導電接点層5は、ビスマス(Bi)、テルル化ビスマス(BiTe)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Al:ZnO)、又はアンチモン(Sb)であってもよい。
【0047】
次に、基板1の裏面12であるセンサーチップの裏側を、熱伝導性接着剤ペースト/パッド又は金属半田を使用して適切なヒートシンク20に取り付ける。
【0048】
パッシベーション層4は、(例えば、500MHzを超える)高速応答が必要な場合、UV~NIRの放射(波長1.1μm未満)の吸収層として直接作用することができる。
【0049】
蒸発源と基板との間の角度を傾斜させて堆積した適切な材料(例えば、Bi、BiTe、Al:ZnO、Sb)の薄膜は、レーザー照射に対して横方向熱電応答を示すことが知られている。すなわち、膜面の法線方向に沿って温度勾配が存在する場合、膜面の平面の長手方向に熱電応答が発生する。
【0050】
長手方向平面に沿って抽出可能な、発生する電気信号の強度は、明確な方向性を有し、基板上に成長した活性物質の膜の傾いた粒子の投射と平行であり、共面垂直方向に最小となる。
【0051】
センサーは、放射レーザーRLが照射されると、起電力(e.m.f.)発生器として作用する。その信号は、活性膜の外側面と、活性膜と基板の界面との間に形成される温度勾配に比例する。
【0052】
センサーの応答は、以下の式によって表すことができる。
V(t)∝sin(2α)・(S-S)・ΔT(t)
ここで、αは基板平面の法線方向に対する活性層2の粒子傾斜角度、Sは活性層2の傾いた粒子の基板表面10上への投射と平行な方向のゼーベック係数、Sは基板表面10に垂直な方向のゼーベック係数、ΔTは膜の横断方向の温度勾配である。
【0053】
本発明に係る高速検出器は、好ましくは、単一ストリップ100又は複数のストリップ100にパターン化される必要があり、図2図4に示すように、隣接して密に配置され、電気的に絶縁されたストリップの形態であることが好ましい。
【0054】
各ストリップ100は、幅W1が約0.5~30mmであり、長さL1が、5~30mmの範囲であることが好ましい。各ストリップは、傾斜粒子の基板1の表面上への投射方向と平行である。複数のストリップの内、隣接する2つのストリップの間の空間W2は、検出材料による基板の相対被覆率を最大にするために可能な限り小さくする必要があり、10μmと100μmとの間であるのが好ましい。金属層5は、各ストリップの端部S1及びS2において接点を形成し、接点は互いに離間している。ストリップ間は、図1の検出器にレーザーアブレーションを行うか、又は、層2~層5、及び層8を堆積する前に基板1を適切にマスキングすることによって分離できる。ストリップ100の形成には、2つの異なる理由がある。第1に、電気信号をストリップの端部においてより良く収集するため。第2に、本発明に係る高速センサーのインピーダンスを、センサーから生じるアナログ信号をデジタル化する電子機器と合わせるため。活性物質の長方形の面積、及び堆積膜の厚さが固定されている場合、ストリップの横方向密度は、完全に相互接続した素子の電気インピーダンスによって決まる。
【0055】
導電性回路の設計は、電極6及び電極7から抽出される出力信号を読み取るのに使用される電子機器とのインピーダンス整合を最適化するために選択される。
【0056】
図2に示すように、電極6及び電極7は、活性層2のストリップの端部S1及びS2における接点を平行に相互接続するために(図2)、金属層50によって細長い形状となっている。この場合、各ストリップ100は、電極6と電極7との間で延在する。
【0057】
図3では、導電性金属層50は、活性層2の各ストリップの端部を直列に相互接続するように配置されている。図3によると、第1ストリップ101から最後のストリップ10nまで連続して配置された複数のストリップ101~10nの各ストリップの第1端部S1は、下側の端部である。同様に、複数のストリップの各ストリップの第2端部S2は、図3において、上側の端部である。電極6は、複数のストリップの内、第1ストリップ101の第1端部S1の多結晶層2に接触して配置されている。電極7は、複数のストリップの内、最後のストリップ10nの第2端部S2の多結晶層2に接触して配置されている。第1ストリップ101の第2端部S2は、金属導電層50によって、複数のストリップの内、第2ストリップ102の第1端部S1と電気的に接触して配置され、これが繰り返されている。
【0058】
図4では、導電性金属層50は、活性層2の各ストリップの端部を直列に相互接続するように配置されている。しかし、この場合、図3の検出器とは異なり、反対の粒子配向をもつ交互に配置されたストリップ201,301...20n,30nが複数配置されている。すなわち、隣接するストリップ(201,301;202,302...20n,30n)の配向多結晶層が、反対の粒子配向を有する。2方向の粒子配向は、多結晶層の堆積を連続して2回行うことによって得られる。第1堆積工程では、基板1を適切にマスキングし、続いて、物理蒸着技術(PVD)又は電子ビーム物理蒸着(EBPVD)を採用して蒸発源に対し基板1を傾斜角度αで載置する、既知の斜め蒸着法(GLAD)によって、全て同じ粒子配向をもつ交互に配置されたストリップが作成される。第2の堆積は、基板1の中心を通り、表面に垂直な軸周りに、基板を180度回転させた後に行われる。基板1を適切にマスキングし、続いて、物理蒸着技術(PVD)又は電子ビーム物理蒸着(EBPVD)採用して蒸発源に対し基板1を傾斜角度αで載置する、既知の斜め蒸着法(GLAD)によって、第1の堆積中に得たストリップの粒子配向に対して反対の粒子配向をもつ全てのストリップが作成される。
【0059】
前記複数の交互に配置されたストリップ201,301...20n,30nは、連続する交互に配置されたストリップ201,301,202,302...20n,30nを形成する。このようにして、電極6は、複数のストリップ201,301...20n,30nの内、第1ストリップ201の第1端部S1の多結晶層4に接触して配置される。電極7は、複数のストリップ201,301...20n,30nの内、最後のストリップ30nの第2端部S2の多結晶層2に接触して配置される。図4の下側において、第1ストリップ201の第2端部S2は、金属導電層50によって、複数のストリップ201,301...20n,30nの内、隣接する第1ストリップ301の第1端部S1と電気的に接触して配置される。図4の上側において、ストリップ301の第2端部S2は、金属導電層50によって、複数のストリップ201,301...20n,30nの内、隣接するストリップ202の第1端部S1と電気的に接触して配置され、これが繰り返される。図4の検出器の配置によって、図3の検出器と比較してより小型の検出器が可能になる。
【0060】
図5は、図2に示す検出器に関し、繰り返し周波数1MHzの4ナノ秒のパルス列による照射レーザーRLに対する横方向熱電電圧信号V(t)を時間の関数として概略的に示したグラフである。
【0061】
図6は、活性層がビスマスの層である図2の検出器について、入射パルスエネルギーEに対する横方向熱電電圧信号V(t)を概略的に示したグラフである。
【0062】
図7は、活性層がビスマスの層である図3の検出器について、横方向熱電電圧信号V(t)の測定値を入射CWレーザー放射RLのパワーILの関数として概略的に示したグラフである。
【0063】
本発明の実施形態の一変形例では、図9に示すように、基板1の上面10に、隣接する複数のV字型溝を、活性層2の傾斜粒子の適切な寸法の基板上への投射と同じ方向に形成して(例えば、レーザースクライビングによって)テクスチャ加工を施している。これによって反射率が低下し、その結果、光学的に光がより捕捉されるようになる。
【0064】
本発明の高速検出器の他の一変形例では、追加の吸収層8を層4の上に堆積する。この層に適する材料は、SiC、Si、Al、TiO、カーボンナノチューブ、又は黒色艶消し金属層である。好ましくは、この層の厚さの範囲は、材料の屈折率及びセンサーの動作スペクトル領域に応じて0.1から20μmであることが好ましい。吸収層は、レーザー放射がIR領域のとき(すなわち、レーザー放射の波長が1.1μmと11μmの間にあるとき)に使用される。厚さを増加するとセンサーの応答時間が増加するが、レーザー放射に対する損傷の閾値が大きくなる。
【符号の説明】
【0065】
1 基板
2 配向多結晶層
3 バッファ層
4 パッシベーション層
6 第1電極
7 第2電極
8 吸収層
10 上面
100 ストリップ
101~10n ストリップ
201~20n ストリップ
301~30n ストリップ
RL 電磁放射
S1 第1端部
S2 第2端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9