(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 41/12 20060101AFI20230324BHJP
G02B 1/118 20150101ALI20230324BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230324BHJP
C09J 7/22 20180101ALI20230324BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230324BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20230324BHJP
【FI】
B29C41/12
G02B1/118
H05K1/03 610G
C09J7/22
C09J7/38
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2020173669
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】松延 広平
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-276283(JP,A)
【文献】特開昭48-000851(JP,A)
【文献】特開2012-111790(JP,A)
【文献】特開2017-164726(JP,A)
【文献】特表2015-531410(JP,A)
【文献】特開2002-037905(JP,A)
【文献】特開2003-213226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B
B29C
B29D
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性高分子が良溶媒に溶解した溶液を準備する工程と、
前記準備した溶液を基材上に塗布する工程と、
前記塗布された溶液を、過熱水蒸気を用いて乾燥する工程と、
を包含し、
前記非水溶性高分子が、
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、
前記乾燥する工程における乾燥温度が、前記非水溶性高分子の融点以上であって、150℃以上200℃以下である、表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
非水溶性高分子が良溶媒に溶解した溶液を準備する工程と、
前記準備した溶液を基材上に塗布する工程と、
前記塗布された溶液を、過熱水蒸気を用いて乾燥する工程と、
を包含
する、表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法であって、
前記非水溶性高分子が、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記乾燥する工程における乾燥温度が、前記非水溶性高分子の融点以上であって、150℃以上200℃以下であ
り、
前記樹脂シートが、反射防止シートである、製造方法。
【請求項3】
非水溶性高分子が良溶媒に溶解した溶液を準備する工程と、
前記準備した溶液を基材上に塗布する工程と、
前記塗布された溶液を、過熱水蒸気を用いて乾燥する工程と、
を包含
する、表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法であって、
前記非水溶性高分子が、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記乾燥する工程における乾燥温度が、前記非水溶性高分子の融点以上であって、150℃以上200℃以下であ
り、
前記樹脂シートが、回路基板である、製造方法。
【請求項4】
非水溶性高分子が良溶媒に溶解した溶液を準備する工程と、
前記準備した溶液を基材上に塗布する工程と、
前記塗布された溶液を、過熱水蒸気を用いて乾燥する工程と、
を包含
する、表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法であって、
前記非水溶性高分子が、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記乾燥する工程における乾燥温度が、前記非水溶性高分子の融点以上であって、150℃以上200℃以下であ
り、
前記樹脂シートが、粘着テープ基材である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂シートに新たな機能を付加するために、樹脂シートの表面に凹凸を付与することが行われている。例えば、アクリル樹脂シート等の透明な樹脂シートに反射防止機能を付加するために、表面に凹凸を付与することが行われている。例えば、回路基板等に用いられる樹脂シートにメッキ付性を付加するために、表面粗化処理等によって表面に凹凸を付与することが行われている。
【0003】
表面に凹凸を付与する方法としては、樹脂シートにサンドブラスト処理を施す方法、樹脂シートに表面粗化されたロールを圧接する方法等の物理的な方法、樹脂シートをエッチング液に浸漬する方法等の化学的な方法などが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-116745号公報
【文献】特開平6-23840号公報
【文献】特開2011-061013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面に凹凸を有する樹脂シートの製造において、樹脂シートの表面に付与される凹凸形状は、樹脂シートの表面に施す処理の内容に依存する。よって、所望の表面凹凸形状を樹脂シートに付与する際には、最適な表面に凹凸を付与する処理が適宜選択される。このため、表面に凹凸を付与する方法の選択肢が多いほど、付与可能な表面凹凸形状の種類が多くなる。したがって、樹脂シートの表面に凹凸を付与する新規な方法の開発は、工業的に価値があるものであり、その開発が望まれている。
【0006】
そこで本発明の目的は、新規な表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法は、非水溶性高分子が良溶媒に溶解した溶液を準備する工程と、前記準備した溶液を基材上に塗布する工程と、前記塗布された溶液を、過熱水蒸気を用いて乾燥する工程と、を包含する。
【0008】
このような構成によれば、新規な表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法が提供される。得られる樹脂シートは、反射防止シート、回路基板、粘着シート基材等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】過熱水蒸気のエンタルピーと熱風のエンタルピーとを比較するためのグラフである。
【
図2】本発明に係る製造方法における乾燥工程の実施方法の一例の説明図である。
【
図3】実施例1で得られた樹脂シートの表面SEM画像である。
【
図4】実施例1で得られた樹脂シートの断面SEM画像である。
【
図5】実施例2で得られた樹脂シートの表面SEM画像である。
【
図6】実施例2で得られた樹脂シートの断面SEM画像である。
【
図7】実施例3で得られた樹脂シートの表面SEM画像である。
【
図8】実施例3で得られた樹脂シートの断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る表面に凹凸を有する樹脂シートの製造方法は、非水溶性高分子が良溶媒に溶解した溶液を準備する工程(以下、「溶液準備工程」ともいう)と、当該準備した溶液を基材上に塗布する工程(以下、「塗布工程」ともいう)と、当該塗布された溶液を、過熱水蒸気を用いて乾燥する工程(以下、「乾燥工程」ともいう)と、を包含する。
【0011】
まず、溶液準備工程について説明する。溶液準備工程は、例えば、非水溶性高分子を良溶媒に溶解させることによって行うことができる。また、非水溶性高分子の溶液が市販品等として入手できる場合には、当該市販品等を入手して準備してもよい。
【0012】
本発明において「非水溶性高分子」とは、25℃における水に対する溶解度が1質量%未満である高分子のことをいう。非水溶性高分子の25℃における水に対する溶解度は、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0013】
非水溶性高分子の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系樹脂;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;エチルセルロース、酢酸セルロース、セルロースプロピオネート等の非水溶性セルロース誘導体;ポリ塩化ビニル、エチレン-塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エチレン-ビニルアルコール共重合体;エチレン-酢酸ビニル共重合体;溶媒可溶型ポリイミド;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル等が挙げられる。また、水溶性高分子を修飾して非水溶化したポリマー等も使用可能である。
【0014】
用途の有益性の観点からは、非水溶性高分子としては、透明樹脂シートが得られるものが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂、非水溶性セルロース誘導体、ポリカーボネート、またはポリエステルがより好ましい。表面凹凸形状を有する透明樹脂シートは、光学シート(特に、反射防止シート)等として好適に用いることができる。
【0015】
用途の有益性の観点からは、非水溶性高分子としては、高耐熱樹脂シートが得られるものが好ましく、溶媒可溶型ポリイミドがより好ましい。表面凹凸形状を有するポリイミドシートは、メッキ付性が高いため、回路基板等に好適に用いることができる。高耐熱樹脂シートに関し、TG-DTA測定によって求まる5%重量減少温度は、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは400℃以上である。
【0016】
用途の有益性の観点からは、非水溶性高分子としては、粘着シート等の基材に用いられているものが好ましく、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、または溶媒可溶型ポリイミドがより好ましく、ポリオレフィン、またはポリエステルがさらに好ましい。樹脂シートの表面が凹凸形状を有しているため、樹脂シートを粘着シートの基材として用いた場合には、アンカー効果によって粘着剤層との高い密着性を発揮することができる。
【0017】
非水溶性高分子の平均重合度は、特に限定はないが、好ましくは70以上500,000以下であり、より好ましくは100以上200,000以下である。なお、非水溶性高分子の平均重合度は、公知方法(例、NMR測定等)により求めることができる。
【0018】
本発明において「非水溶性高分子の良溶媒」とは、非水溶性高分子に対し、25℃において1質量%以上の溶解性を示す溶媒のことをいう。良溶媒は、非水溶性高分子に対し、25℃において、2.5質量%以上の溶解性を示すことが好ましく、5質量%以上の溶解性を示すことがより好ましく、7.5質量%以上の溶解性を示すことがさらに好ましく、10質量%以上の溶解性を示すことが最も好ましい。
【0019】
本発明に使用される良溶媒の種類は、非水溶性高分子の種類に応じて適宜選択される。種々の非水溶性高分子に対する良溶媒の種類は、例えば、ハンドブック類、カタログ類等の文献により公知であり、公知文献を参考にして選択してよい。良溶媒は、単独の溶媒であってもよく、2種以上の溶媒が混合された混合溶媒であってもよい
【0020】
また、特定の高分子化合物に対し、特定の溶媒が良溶媒であるかの判断には、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を利用することができる。例えば、当該高分子化合物のHSPの分散項、分極項、および水素結合項をそれぞれδD1、δP1、δH1とし、当該溶媒のHSPの分散項、分極項、および水素結合項をそれぞれδD2、δP2、δH2とした場合に、下記式で表される高分子化合物と溶媒とのHSPの距離Ra(MPa1/2)の値が小さいほど、高分子化合物の溶解度が高くなる傾向にある。
Ra2=4(δD1-δD2)2+(δP1-δP2)2+(δH1-δH2)2
【0021】
また、上記特定の高分子化合物の相互作用半径をR0とした場合に、Ra/R0の比が1未満だと可溶、Ra/R0の比が1だと部分的に可溶、およびRa/R0の比が1を超えると不溶であると予測される。
【0022】
あるいは、サンプル瓶等の中で特定の高分子化合物と特定の溶媒とを混合する試験を行うことにより、当該溶媒が、当該高分子化合物に対して良溶媒であるか否かを容易に判別することができる。
【0023】
以下、特定の非水溶性高分子を例に挙げて、好適な良溶媒について具体的に説明する。以下の非水溶性高分子に対して、以下説明する良溶媒を使用することにより、本発明に係る製造方法を有利に実施することができる。
【0024】
〔ポリプロピレン〕
ポリプロピレンの好適な良溶媒としては、デカリン等が挙げられる。
【0025】
〔エチレン-ビニルアルコール共重合体〕
エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、モノマー単位として、エチレン単位およびビニルアルコール単位を含有する共重合体である。EVOH中のエチレン単位の含有量は、特に制限はないが、好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは20モル%以上であり、特に好ましくは25モル%以上である。また、EVOH中のエチレン単位の含有量は、好ましくは60モル%以下であり、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは45モル%以下である。EVOHのけん化度は、特に制限はないが、好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上である。けん化度の上限は、けん化に関する技術的限界により定まり、例えば、99.99モル%である。なお、EVOHのエチレン単位の含有量およびけん化度は、公知方法(例、1H-NMR測定等)により求めることができる。
【0026】
また、EVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとの共重合体を、アルカリ触媒等を用いてけん化して製造される。そのため、EVOHは、ビニルエステル単位を含有し得る。当該単位のビニルエステルは、典型的には酢酸ビニルであり、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等であってよい。EVOHは、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、エチレン単位、ビニルアルコール単位、およびビニルエステル単位以外の他のモノマー単位を含有していてもよい。
【0027】
EVOHの好適な良溶媒としては、水とアルコールとの混合溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。混合溶媒に用いられるアルコールとしては、プロピルアルコールが好ましい。プロピルアルコールは、n-プロピルアルコールおよびイソプロピルアルコールのいずれであってもよい。したがって、特に好適な良溶媒は、水とプロピルアルコールとの混合溶媒、またはDMSOである。
【0028】
〔酢酸セルロース〕
酢酸セルロースの好適な良溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒);蟻酸メチル、酢酸メチル等のエステル類;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル類;メチルグリコール、メチルグリコールアセテート等のグリコール誘導体;塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;炭酸プロピレン等の環状カーボネート類;DMSO等の含硫黄極性溶媒(特に含硫黄非プロトン性極性溶媒)などが挙げられる。なかでも、含硫黄非プロトン性極性溶媒が好ましく、DMSOがより好ましい。
【0029】
〔ポリフッ化ビニリデン〕
ポリフッ化ビニリデンの好適な良溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒);DMSO等の含硫黄極性溶媒(特に含硫黄非プロトン性極性溶媒)などが挙げられる。なかでも、含窒素非プロトン性極性溶媒が好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドがより好ましい。
【0030】
〔フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体〕
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(VDF-HFP))は、モノマー単位として、フッ化ビニリデン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を含有する共重合体である。これらの単位の共重合割合は特に制限はなく、セパレータの特性に応じて適宜決定すればよい。フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、公知方法に従い合成して入手することができ、市販品(例、アルケマ社製Kynar FLEX 2850-00、2800-00、2800-20、2750-01、2500-20、3120-50、2851-00、2801-00、2821-00、2751-00、2501-00等)としても入手可能である。
【0031】
P(VDF-HFP)の好適な良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒);DMSO等の含硫黄極性溶媒(特に含硫黄非プロトン性極性溶媒)などが挙げられる。気化による除去が容易であることから、良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、またはテトラヒドロフランが好ましく、アセトン、またはメチルエチルケトンがより好ましい。
【0032】
〔溶媒可溶型ポリイミド〕
溶媒可溶型ポリイミドとしては、特開昭61-019634号公報、特開昭61-123634号公報、特開平1-121号公報、特開平3-160025号公報等に開示されたものなど、種々の溶媒可溶型のポリイミドが公知である。また、市販品としても入手可能であり、市販品の例としては、ソマール社製「SPIXAREA」のHRシリーズ、TPシリーズ、GRシリーズ、ADシリーズ、およびSPシリーズ;河村産業社製「KPI-MX300F」等が挙げられる。
【0033】
溶媒可溶型ポリイミドの好適な良溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒)が挙げられる。
【0034】
〔ポリメチルメタクリレート〕
ポリメチルメタクリレートの良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;塩化メチル、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化メチル類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が挙げられる。
【0035】
〔ポリスチレン〕
ポリスチレンの好適な良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;塩化メチル、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化メチル類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が挙げられる。
【0036】
〔ポリカーボネート〕
ポリカーボネートの良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;塩化メチル、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化メチル類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が挙げられる。
【0037】
〔ポリエチレンテレフタレート〕
ポリエチレンテレフタレートの好適な良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;塩化メチル、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化メチル類が挙げられる。
【0038】
非水溶性高分子および良溶媒の配合量は、特に限定されず、使用する非水溶性高分子と良溶媒の種類に応じて適宜選択してよい。非水溶性高分子の配合量は、良溶媒100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上である。また、非水溶性高分子の配合量は、良溶媒100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、より好ましくは上35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0039】
非水溶性高分子の溶液は、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、非水溶性高分子および混合溶媒以外の成分をさらに含有していてもよい。
【0040】
非水溶性高分子を良溶媒に溶解させるために、公知の撹拌装置、混合装置等を用いることができる。非水溶性高分子を良溶媒に溶解させるために、超音波照射、加熱等を行ってもよい。加熱温度としては、例えば40℃以上100℃以下である。加熱により非水溶性高分子の溶液を調製した後、非水溶性高分子が析出しない範囲で冷却を行ってもよい。
【0041】
次に、塗布工程について説明する。塗布工程において、用いられる基材は、基材として機能し得る限り特に限定されない。基材は、最終的に樹脂シートから剥離して用いられるものであってもよいし、剥離せずに用いられるものであってもよい。基材の形状は、特に限定されず、平面を有するものが好ましい。形状の例としては、シート状、フィルム状、箔状、板状等が挙げられる。基材の構成材料としては、樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。
【0042】
上記樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。なお、樹脂製の基材を用いる場合には、非水溶性高分子の良溶媒に溶解しないものを使用することが好ましい。
【0043】
上記金属の例としては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼等が挙げられる。また、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等の繊維強化樹脂などの複数の材料を用いたものを基材として用いることができる。
【0044】
また、基材は、複層構造を有していてもよい。例えば、基材は、フッ素樹脂を含む剥離層を有していてもよい。例えば、基材は、樹脂層を有する紙等であってよい。
【0045】
基材が剥離せずに用いられる場合、得られる樹脂シートの機能層としての役割を有するものであってもよい。例えば、基材は、補強材、支持材等の機能を有していてもよい。
【0046】
非水溶性高分子の溶液の塗布方法は特に制限されず、基材の種類に応じて適宜選択すればよい。塗布方法の例としては、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ブレードコーティング法、スプレーコーティング法、キャスティング法等が挙げられる。塗布厚みは特に制限されず、樹脂シートの用途に応じて適宜設定すればよく、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0047】
塗布工程の実施によって、基材上に、非水溶性高分子の溶液の塗膜が形成される。
【0048】
次に、乾燥工程について説明する。当該乾燥工程においては、上記で塗布した非水溶性高分子の溶液を乾燥して、良溶媒を除去する。そして、この溶液の乾燥を、過熱水蒸気を用いて行う。よって、乾燥は、過熱水蒸気と非水溶性高分子の溶液との接触を伴う。したがって、過熱水蒸気の存在下、特に過熱水蒸気雰囲気下で乾燥が行われる。過熱水蒸気による乾燥によって、得られる樹脂シートの表面に凹凸形状が付与される。そのメカニズムは以下のように考えられる。
【0049】
過熱水蒸気は、100℃以上に加熱された水蒸気である。過熱水蒸気は、
図1に示すように、熱風と比べてはるかに大きなエンタルピーを有し、伝熱方法は、対流、輻射、凝縮の複合伝熱である。よって、過熱水蒸気によれば、熱風等の加熱方法に比べて急速な加熱が可能である。
【0050】
過熱水蒸気の存在下に非水溶性高分子の溶液の塗膜が置かれると、当該溶液の塗膜の表面において過熱水蒸気の凝縮が起こり、当該溶液の塗膜の表面の上に水層が形成される。この水層から熱伝達されることで、溶液に含まれる良溶媒と、水層中の水とが気化し、非水溶性高分子の溶液の塗膜の乾燥が行われる。ここで、水は非水溶性高分子の貧溶媒であるため、非水溶性高分子の溶液の塗膜の表層部では水によって相分離が引き起こされ、この相分離に起因して表層部に凹凸が形成される。
【0051】
過熱水蒸気による非水溶性高分子の溶液の乾燥は、例えば、乾燥炉、乾燥チャンバ等に公知方法によって生成した過熱水蒸気を導入し、乾燥炉、乾燥チャンバ等に非水溶性高分子の溶液を置くことによって行うことができる。過熱水蒸気が100℃以上の水蒸気であることから、乾燥温度は、100℃以上であり、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上200℃以下である。乾燥工程の実施方法の具体的な例について以下説明する。
【0052】
過熱水蒸気を導入可能な乾燥炉を用意する。その乾燥炉の構成例を
図2に示す。
図2に示す例では、乾燥炉10には、過熱水蒸気導入管20を介して、加熱手段としての熱交換器40が接続されている。乾燥炉10は、バッチ式であっても、ベルトコンベア等を備える連続式のものであってもよい。過熱水蒸気導入管20は、第1バルブ30を有している。熱交換器40は、制御盤50に電気的に接続されている。熱交換器40は、熱媒体の流路となるチューブ(図示せず)を内部に備えている。熱交換器40は、水蒸気導入管60を介して水蒸気発生手段としてのボイラー80と接続されている。水蒸気導入管60は、第2バルブ70を有している。
【0053】
第1バルブ30および第2バルブ70を閉じた状態で、ボイラー80内で水蒸気を発生させる。第2バルブ70を開き、水蒸気導入管60を介して水蒸気を熱交換器40に導入する。熱交換器40内のチューブに熱媒体を通し、チューブを介して水蒸気を加熱する。このとき、熱媒体の温度および流速を制御盤50によって制御する。熱媒体の温度は、乾燥炉10内の温度に応じて、100℃を超えるの温度のなかから適宜選択する。この加熱によって、水蒸気を過熱水蒸気に変化させる。なお、過熱水蒸気は、公知の過熱水蒸気発生装置を用いて生成することもできる。
【0054】
第1バルブ30を開き、過熱水蒸気導入管20を介して、乾燥炉10内に過熱水蒸気を導入する。このとき、乾燥炉10内で過熱水蒸気が凝縮しないように、乾燥炉10内を100℃以上に加熱しておく。乾燥炉内の温度は、好ましくは140℃以上であり、より好ましくは150℃以上200℃以下である。なお、乾燥過程においては、良溶媒が気化する際に非水溶性高分子の溶液から熱を奪って当該溶液が冷却されるため、非水溶性高分子の溶液の温度は、通常、乾燥炉内の温度よりも低くなる。このため、乾燥炉内の温度は、非水溶性高分子の融点以上であってもよい。
【0055】
過熱水蒸気が導入された乾燥炉10内に、基材に塗布された非水溶性高分子の溶液を置く。過熱水蒸気と非水溶性高分子の溶液とが接触し、過熱水蒸気が有する熱によって溶液中の良溶媒が気化し、乾燥が行われる。乾燥中は、過熱水蒸気を乾燥炉10内に導入し続けることが好ましい。
【0056】
乾燥工程の実施により、表面に凹凸を有する樹脂シートを得ることができる。従来技術においては、樹脂シート作製後にその表面に凹凸形状が付与されるが、本発明においては、樹脂シートの作製段階において、その表面に凹凸が付与される。よって、本発明は、樹脂シートの作製段階において、その表面に凹凸を容易に付与することができるという利点を有する。この表面の凹凸は、水と、非水溶性高分子の溶液との相分離に由来するものであり、相分離の状態を制御することにより、表面の凹凸形状を制御することも可能である。
【0057】
なお、本明細書において「シート」とは、概して面積が広く厚みの薄い物体のことを指し、フィルム、シート、テープ、膜等を包含する。
【0058】
樹脂シートの厚みは、特に制限はなく、用途に応じて適宜決定することができる。樹脂シートの厚みは、1μm以上、5μm以上、または10μm以上であってよい。また、樹脂シートの厚みは、1mm以下、500μm以下、または300μm以下であってよい。樹脂シートの厚みは、塗布工程での非水溶性高分子の塗布厚みを調整することによって制御することができる。
【0059】
特に厚みの大きい樹脂シートは、例えば、以下のようにして作製することができる。非水溶性高分子の溶液を上記と同様にして準備する。これを基材上に塗布し、通常の乾燥方法(例、加熱など)によって乾燥し、基材上に表面に凹凸のない樹脂シートを作製する。この基材上に表面に凹凸のない樹脂シートを基材として用いて、本発明の方法を行う。すなわち、表面に凹凸のない樹脂シートの上に、表面に凹凸のある樹脂シートを作製することによって、樹脂シートの厚みを大きくすることができる。
【0060】
得られる樹脂シートは、公知方法に従い、使用される非水溶性高分子の種類に応じて、各種用途に用いることができる。例えば、得られる樹脂シートは、表面に凹凸を有しているために、優れた反射防止性、光拡散性等を有する。よって、得られる樹脂シートは、光学シート(特に、反射防止シート等)として好適に用いることができる。例えば、得られる樹脂シートは、表面に凹凸を有しているために、優れたメッキ付性等を有する。よって、得られる樹脂シートは、回路基板等として好適に用いることができる。例えば、得られる樹脂シートは、表面に凹凸を有しているために、アンカー効果によって粘着剤層と高い密着性を有する。よって、得られる樹脂シートは、粘着テープ基材等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0062】
実施例1
サンプル瓶に酢酸セルロース(Aldrich社製、平均分子量50,000)2質量部を秤量した。このサンプル瓶に、良溶媒としてのメチルエチルケトン(MEK)10質量部を添加した。サンプル瓶を40℃~50℃に加熱して、酢酸セルロースをMEKに完全に溶解させ、酢酸セルロース溶液を得た。
【0063】
酢酸セルロース溶液を、基材としてのアルミニウム箔上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは200μmであった。
【0064】
上流に熱交換器が接続され、さらにその上流にボイラーが接続されたベルトコンベア式の乾燥炉を用意した。ボイラーで水蒸気を発生させ、水蒸気を熱交換器に送り込み、加熱して過熱水蒸気に変化させた。乾燥炉内の温度を150℃に設定し、この過熱水蒸気を、100kg/hrの流量で乾燥炉内に送り込み、乾燥炉内の温度が150℃で安定するまで待機した。その後、酢酸セルロース溶液が塗布されたアルミニウム箔を乾燥炉内に入れて、60秒間乾燥を行い、MEKを除去した。このようにしてアルミニウム箔上に樹脂シートを得た。
【0065】
実施例2
乾燥炉内の温度を200℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム箔上に樹脂シートを作製した。
【0066】
比較例1
実施例1で作製した酢酸セルロース溶液を、基材としてのアルミニウム箔上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは200μmであった。酢酸セルロース溶液が塗布されたアルミニウム箔を、60℃に設定した熱風乾燥機内に入れて、60秒間乾燥を行って、MEKを除去した。このようにしてアルミニウム箔上に樹脂シートを得た。
【0067】
比較例2
実施例1で作製した酢酸セルロース溶液を、基材としてのアルミニウム箔上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは200μmであった。酢酸セルロース溶液が塗布されたアルミニウム箔を、表面温度60℃に設定したホットプレート上に置いて、60秒間乾燥を行って、MEKを除去した。このようにしてアルミニウム箔上に樹脂シートを得た。
【0068】
実施例3
サンプル瓶にフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(アルケマ社製「Kynar-FLEX 2821-00」、グレード:パウダータイプ、以下「P(VDF-HFP)」と記す)2質量部を秤量した。このサンプル瓶に、良溶媒としてのメチルエチルケトン(MEK)10質量部を添加した。サンプル瓶を40℃~50℃に加熱して、P(VDF-HFP)をMEKに完全に溶解させ、P(VDF-HFP)溶液を得た。
【0069】
P(VDF-HFP)を基材としてのアルミニウム箔上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは200μmであった。
【0070】
上流に熱交換器が接続され、さらにその上流にボイラーが接続されたベルトコンベア式の乾燥炉を用意した。ボイラーで水蒸気を発生させ、水蒸気を熱交換器に送り込み、加熱して過熱水蒸気に変化させた。乾燥炉内の温度を200℃に設定し、この過熱水蒸気を、100kg/hrの流量で乾燥炉内に送り込み、乾燥炉内の温度が200℃で安定するまで待機した。その後、P(VDF-HFP)溶液が塗布されたアルミニウム箔を乾燥炉内に導入して、60秒間乾燥を行い、MEKを除去した。このようにして、アルミニウム箔上に樹脂シートを得た。
【0071】
比較例3
実施例3で作製したP(VDF-HFP)溶液を、基材としてのアルミニウム箔上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは200μmであった。P(VDF-HFP)溶液が塗布されたアルミニウム箔を、60℃に設定した熱風乾燥機内に導入して、60秒間乾燥を行って、MEKを除去した。このようにして、アルミニウム箔上に樹脂シートを得た。
【0072】
比較例4
実施例3で作製したP(VDF-HFP)溶液を、基材としてのアルミニウム箔上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは200μmであった。P(VDF-HFP)溶液が塗布されたアルミニウム箔を、表面温度60℃に設定したホットプレート上に置いて、60秒間乾燥を行って、MEKを除去した。このようにして、アルミニウム箔上に樹脂シートを得た。
【0073】
〔SEM観察による評価〕
各実施例および各比較例で得られた樹脂シートの表面および断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、表面に凹凸形状が形成されているかどうかを確認した。結果を表1に示す。また、参考として、実施例1~3で得られた樹脂シートの表面SEM画像および断面SEM画像を、
図3~8に示す。
【0074】
【0075】
表1の結果が示すように、通常の溶液塗膜の乾燥方法である熱風およびホットプレートで乾燥を行った比較例1~4では、得られた樹脂シートの表面には凹凸が見られなかった。これに対し、過熱水蒸気を用いて乾燥を行った実施例1~3では、SEM観察の結果から(
図3~8参照)、得られた樹脂シートの表面には、凹凸形状が形成されていることが確認できた。
【0076】
上記実施例においては、酢酸セルロースおよびP(VDF-HFP)の2種類の非水溶性高分子について、表面に凹凸を形成可能であることを確認した。ここで水は、非水溶性高分子の貧溶媒であり、凹凸形状の形成は、過熱水蒸気が凝集した水によって引き起こされる相分離に由来するものである。よって、上述の製造方法によれば、水が貧溶媒となる非水溶性高分子全般に対して、表面凹凸の形成が可能であることがわかる。
【0077】
したがって、以上のことから、本発明に係る製造方法によれば、非水溶性高分子を用いて、表面に凹凸を有する樹脂シートを製造可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0078】
10 乾燥炉
20 過熱水蒸気導入管
30 第1バルブ
40 熱交換器
50 制御盤
60 水蒸気導入管
70 第2バルブ
80 ボイラー