(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20230324BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20230324BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230324BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M50/548 301
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020215019
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】前田 大輝
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098141(JP,A)
【文献】特表2020-537322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0585
H01M 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形シート状の正極集電体と該正極集電体上に正極活物質層を備える正極と、矩形シート状の負極集電体と該負極集電体上に負極活物質層を備える負極とが、セパレータを間に介して交互に積層された構造であり、かつ、幅広面が矩形状である電極体と、
外部接続用の正負極端子であって、一端が前記電極体の同極と電気的に接続される正負極端子と、
非水電解質と、を備える二次電池であって、
前記電極体の矩形状幅広面のアスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が、5以上であり、
前記電極体の電流密度I(A/mm
2)の最大値I
maxと最小値I
minとの比(I
max/I
min)が1.5以下となるように、前記電極体の初期電気抵抗率が
20Ω・cm以上200Ω・cm以下に調整されている、二次電池。
【請求項2】
前記電極体の矩形状幅広面のアスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が、20以下である、請求項
1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正負極端子が、前記電極体の矩形状幅広面の一対の短辺側にそれぞれ配置されている、請求項
1または2に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池等の二次電池はパソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源用途のみならず、近年は車両駆動用電源として好ましく用いられている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)等の車両の駆動用高出力電源として好ましく、今後も需要が拡大するものと期待されている。
【0003】
車載搭載用電源として用いられるリチウムイオン二次電池等の二次電池は、さらなる高容量化が求められており、その一つの方針として二次電池そのものを大型化することが検討されている。かかる大型化の要求に応える二次電池の一形態として、矩形シート状の正極および負極を、セパレータを間に介在させつつ交互に多数積層した構造の、いわゆる積層型電極体を備えた二次電池(積層型二次電池)が挙げられる。
【0004】
かかる積層型電極体は、例えば、矩形シート状の正極集電体上に正極活物質層が形成された正極シートと、矩形シート状の負極集電体上に負極活物質層が形成された負極シートとが、セパレータを間に介在させつつ多数積層した構造を有する。積層型電極体の幅方向の一方の端部には、正極活物質層が形成されずに正極集電体が露出した正極集電体露出部が積層、配置されている。積層型電極体の幅方向の他方の端部には、負極活物質層が形成されずに負極集電体が露出した負極集電体露出部が積層、配置されている。特許文献1には、かかる積層型二次電池に関する技術の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二次電池を大型化する手法の一つとして、矩形状の二次電池の長辺方向をより長くする(長尺化する)ことが挙げられる。かかる長尺な二次電池は、短辺の長さに対して長辺の長さが長い、すなわち、アスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が高い二次電池である。かかるアスペクト比が高い(長尺な)二次電池は、例えば車両のような限られた空間に搭載する際に、従来のような小型の電池を複数搭載するよりも、隙間(デッドスペース)を減らした状態で搭載することができるため、高容量が求められる駆動用電源として、好ましく使用することができる。
【0007】
ところで、通常の電池において、電極活物質層および電極集電体内を移動する電荷の密度(すなわち電流密度)は、電極体の中でばらつきが生じている。アスペクト比が高い長尺な二次電池は、かかるばらつきが従来よりも大きくなる傾向にある。かかる電流密度のばらつきにより、二次電池の一部だけが消耗する等によって、局所的な劣化が起こり得る。これにより、二次電池全体の耐久性が悪化するおそれがあった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、アスペクト比が高い(長尺な)二次電池であって、電流密度のばらつきが抑制され、耐久性が向上した二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、ここに開示される二次電池が提供される。かかる二次電池は、矩形シート状の正極集電体と該正極集電体上に正極活物質層を備える正極と、矩形シート状の負極集電体と該負極集電体上に負極活物質層を備える負極とが、セパレータを間に介して交互に積層された構造であり、かつ、幅広面が矩形状である電極体と、外部接続用の正負極端子であって、一端が前記電極体の同極と電気的に接続される正負極端子と、非水電解質と、を備えている。前記電極体の矩形状幅広面のアスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が、5以上であり、前記電極体の電流密度I(A/mm2)の最大値Imaxと最小値Iminとの比(Imax/Imin)が1.5以下となるように、前記電極体の初期電気抵抗率が調整されている。
かかる構成によれば、従来の二次電池と比較してアスペクト比が高い(長尺な)二次電池であって、電極体の初期電気抵抗率が調整されることにより電流密度の比(ばらつき)が抑制された二次電池が提供される。電流密度の比(ばらつき)が所定の値以下であることにより、電極体全体を有効に電気化学反応に寄与させることができ、二次電池の局所的な消耗が抑制される。したがって、アスペクト比が高い二次電池であって、かつ、耐久性が高い二次電池を実現することができる。
【0010】
ここに開示される二次電池の好ましい一態様においては、前記電極体の初期電気抵抗率が、20Ω・cm以上200Ω・cm以下である。
かかる構成によれば、アスペクト比が高い二次電池であっても、電流密度の比(ばらつき)を好適に抑制することができる。また、かかる範囲の初期電気抵抗率であれば、二次電池として使用したときの電池性能が一定以上に担保されている。これにより、アスペクト比が高い電池において、ある一定以上の電池性能を担保したうえで、耐久性の向上が好適に実現された二次電池を提供することができる。
【0011】
ここに開示される二次電池の好ましい一態様においては、前記電極体の矩形状幅広面のアスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が、20以下である。また、他の好ましい一態様においては、前記正負極端子が、前記電極体の矩形状幅広面の一対の短辺側にそれぞれ配置されている。
かかる構成によれば、種々様々な機材の電源用電池として使用された際において、デッドスペースを減らした状態で搭載可能な二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す平面図である。
【
図2】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない二次電池の一般的な構成)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、各図における符号Xは「幅方向」を示し、符号Yは「奥行方向」を示し、符号Zは「厚さ方向」を示す。なお、寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A、Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0014】
本明細書において、「電池」とは、電気エネルギーを取り出し可能な蓄電デバイス一般を指す用語であって、一次電池および二次電池を含む概念である。「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池(すなわち化学電池)の他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。以下、リチウムイオン二次電池をラミネートフィルムからなるケースに収容して構成した場合を例示して、本発明に係る二次電池について詳細に説明する。なお、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。二次電池は、例えば、固体の電解質を用いた全固体電池であってもよく、電気二重層キャパシタ等の蓄電素子(物理電池)であってもよい。
【0015】
図1は、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式図である。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、ラミネート外装体10と、電極体20と、電極端子(正極端子30Aおよび負極端子30B)と、電解質(図示せず)と、を備える。電極体20と電解質は、リチウムイオン二次電池1の発電要素となる。電極体20と電解質は、ラミネート外装体10の周縁部が熱溶着されることにより、内部に封止される。
【0016】
電極体20の構成は、従来公知の電池と同様でよく、特に限定されない。電極体20は、
図2に示すように、矩形シート状の正極(以下、「正極シート40」という。)および矩形シート状の負極(以下、「負極シート50」という。)を、それぞれ1枚以上、典型的にはそれぞれ複数枚備えている。正極シート40および負極シート50は、互いに絶縁された状態で交互に積層されている。電極体20は、
図1に示すように矩形状の幅広面を有している。
【0017】
正極シート40は、例えば、矩形シート状の正極集電体42と、その片面もしくは両面(ここでは両面)に固着された正極活物質層44と、を備えている。正極集電体42は、この種の電池の正極集電体として用いられる金属製の正極集電体を特に制限なく使用することができる。典型的には、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。正極集電体の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、5~35μm(例えば10μm)程度である。
【0018】
正極活物質層44に含まれる正極活物質としては、例えば、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物(例えば、LiFePO4)等を好ましく用いることができる。リチウム複合酸化物の例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物(例えば、LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物(例えば、LiNi0.5Mn1.5O4)、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)等が挙げられる。
【0019】
正極活物質層44は、正極活物質以外の正極活物質層構成成分、例えば、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材、バインダ等は、従来からこの種のリチウムイオン二次電池で用いられるものであればよく、特に限定されない。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料好ましく用いることができる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のバインダを好ましく用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
【0020】
特に限定するものではないが、正極活物質層44中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層44の全質量に対する正極活物質の含有量)は、50質量%以上(例えば、50質量%以上99質量%以下)であることが好ましく、70質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。正極活物質層44中の導電材の含有量は0.1質量以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。また、正極活物質層44中のバインダの含有量は、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
正極活物質層44は、上述した正極活物質とその他の正極活物質層構成成分とを混合して、適当な溶媒を加えてペースト(スラリー)状に調整した正極合材を、正極集電体42上に、所定の厚みで付着させ、乾燥、プレス処理を行うことにより形成することができる。プレス処理の方法としては、例えば、ロールプレスや、平版プレス等の従来公知のプレス方法を用いることができる。かかるプレス処理によって、正極活物質層44の厚みや密度を調整することができる。プレス処理後の正極活物質層44の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上300μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。
【0022】
負極シート50は、矩形シート状の負極集電体52と、その片面もしくは両面(ここでは両面)に固着された負極活物質層54とを備えている。負極集電体52は、この種の電池の負極集電体として用いられる金属製の負極集電体を特に制限なく使用することができる。典型的には、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特に銅(例えば銅箔)が好ましい。負極集電体の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、5~35μm(例えば10μm)程度である。
【0023】
負極活物質層54に含まれる負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を好ましく用いることができる。
【0024】
負極活物質層54は、負極活物質以外の負極活物質層構成成分、例えば、バインダ、増粘剤等を含んでいてもよい。バインダ、増粘剤等は、従来からこの種のリチウムイオン二次電池で用いられるものであればよく、特に限定されない。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を好ましく用いることができる。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
【0025】
特に限定するものではないが、負極活物質層54中の負極活物質の含有量(すなわち、負極活物質層54の全質量に対する負極活物質の含有量)は、概ね90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上99質量%以下であることがより好ましい。負極活物質層54中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。負極活物質層54中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
負極活物質層54は、上述した負極活物質とその他の負極活物質層構成成分とを混合して、適当な溶媒を加えてペースト(スラリー)状に調整した負極合材を負極集電体52上に、所定の厚みで付着させ、乾燥、プレス処理を行うことにより形成することができる。負極活物質層54も同様に、かかるプレス処理によって、負極活物質層54の厚みや密度を調整することができる。プレス処理後の負極活物質層54の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上300μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。
【0027】
セパレータ60は、正極活物質層44と負極活物質層54とを絶縁する。セパレータ60は、従来公知の電池と同様の構成でよく、特に限定されない。一例として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂シート等を用いることができる。
【0028】
リチウムイオン二次電池1は、ラミネートフィルム外装体10の内部に電解質を備える。電解質の構成は、従来公知の電池と同様の構成でよく、特に限定されない。電解質は、液状であってもよいし、ポリマー状(ゲル状)であってもよいし、固体状であってもよい。一例として、非水溶媒と、電荷担体を生成するリチウム塩等の支持塩と、を含むものを用いることができる。
【0029】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1は、電極体20の矩形状幅広面のアスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が5以上の二次電池である。アスペクト比は10以上であってもよく、15以上であってもよい。二次電池のアスペクト比を高くすることによって(二次電池を長尺化することによって)、例えば車両のような限られた空間に搭載する際には、従来形状の電池を複数搭載するよりも、隙間(デッドスペース)を減らした状態で搭載することが可能である。アスペクト比の上限は、電池を種々様々な機器(例えば、車両やパソコン等)に効率よく搭載する観点から、20以下が好ましく、18以下がより好ましい。
なお、アスペクト比とは、
図1における電極体20の矩形状幅広面の長辺の長さ(X方向の長さ)を、電極体20の矩形状幅広面の短辺の長さ(Y方向の長さ)で除した値である。
【0030】
電極体20の幅方向(X方向)両縁部には、集電タブ22A、22Bが形成されている。正極集電タブ22Aは、積層された正極シート40(詳細には正極集電体42)から外方に延びている。負極集電タブ22Bは、積層された負極シート50(詳細には負極集電体52)から外方に延びている。集電タブ22A、22Bは、活物質層(正極活物質層44または負極活物質層54)を具備せず露出している。ここに開示される二次電池においては、集電タブ22A、22Bは、電極体20の幅方向Xの両縁部(すなわち、短辺側の両縁部)から互いに異なる方向に向けて延びている。かかる構成によれば、長尺な二次電池を限られた空間(例えば、車両)に収容する際に、効率よく二次電池を配置することができる。
【0031】
電極端子30A、30Bは、板状に形成されている。電極端子30A、30Bは、集電タブ22A、22Bと接合されることで、集電タブ22A、22Bと電気的に接続される。詳細には、正極端子30Aは、正極集電タブ22Aの先端部近傍からさらに外方へ延び、ラミネート外装体10から外側へ露出する。本実施形態の正極端子30Aは、薄いアルミニウム板である。負極端子30Bは、負極集電タブ22Bの先端部近傍からさらに外方へ延び、ラミネート外装体10から外側へ露出する。本実施形態の負極端子30Bは、薄い銅板である。
【0032】
正極端子30Aと正極集電タブ22Aとは、接合部において相互に接合される。負極端子30Bと負極集電タブ22Bとは、接合部において相互に接合される。かかる接合部における電極端子30A、30Bと集電タブ22A、22Bとの接合方法としては、例えば、抵抗溶接、レーザ溶接、または、超音波接合等の従来公知の接合方法を特に制限することなく用いることができる。一例として、本実施形態では、抵抗溶接が採用されている。
【0033】
ラミネート外装体10は、発電要素(電極体20および電解質)を収容する絶縁性の容器である。ラミネート外装体10は、矩形状の2枚のラミネートフィルムが、幅広面同士を対向させた状態で溶着されることにより、袋状に形成される。かかる袋状に形成された空間に、発電要素(電極体20および電解質)が封止される。しかしながら、ラミネート外装体10の形成方法は、上述した形成方法に限定されるものではない。例えば、矩形状の1枚のラミネートフィルムを2つ折りとすることで形成され、該折り目以外の部分が溶着されることで袋状に形成されていてもよい。また、ラミネートフィルムが3枚以上貼り合わされて袋状に形成されていてもよい。
【0034】
ラミネート外装体10の構成は従来公知と同様でよく、特に限定されない。ラミネート外装体10は、典型的には、多層構造を有するラミネートフィルムで構成されている。ラミネート外装体10は、2層の樹脂フィルム層(シーラント層、保護層)と金属層とを有する3層構造であり得る。例えば、ラミネート外装体10は、外側から順に、保護層と、金属層と、シーラント層と、がこの順に積層されて構成されている。
【0035】
保護層は、ラミネート外装体10の耐久性および耐衝撃性を向上させるための層である。保護層は、ラミネート外装体10の最外層であってもよい。保護層は、例えば、PET等のポリエステル、ポリアミド等で構成されている。
金属層は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属材料によって形成され、ラミネート外装体10のガスバリア性および防湿性を向上させる。なかでも、コストや軽量化の観点から、アルミニウムが好ましい。金属層は、例えば、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着層であってもよい。
シーラント層は、熱溶着を可能にするための層である。シーラント層は、ラミネート外装体10の最内層、すなわち、電極体20に最も近い側に位置している。シーラント層は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂により構成されている。
【0036】
なお、上記ではラミネート外装体10の構成について、保護層と、金属層と、シーラント層とで構成される3層構造である場合について説明したが、ラミネート外装体10の構成はこれに限られたものではない。例えば、4層以上の多層構造であってもよい。一例として、上述した層と層との間に、両相を相互に接着するための接着層を備えていてもよい。接着層は、例えば、ポリアミド等の樹脂で構成されていてもよい。また、他の一例として、保護層の上に、例えば最外層として、さらに印刷層、難燃層、表面保護層等を備えていてもよい。
【0037】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1は、袋状に形成された一対のラミネート外装体10に、発電要素(電極体20および電解質)を収容して、熱溶着等により封止することによって構築される。このとき、ラミネート外装体10は、電極端子30A、30Bの一端を外方に露出させた状態で封止される。なお、ラミネート外装体10の封止方法や、電解質の注入方法は従来この種のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、特に限定されない。
【0038】
上述のようにして構築したリチウムイオン二次電池1に対して、初期充電を行う。典型的には、電極端子30A、30Bとの間に外部電源を接続して、常温(典型的には25℃±5℃程度)で端子間の電圧が所定値となるまで充電する。
上記端子間の所定の電圧値は、2.5V~4.2Vの範囲内であることが好ましく、3.0V~4.1Vの範囲内にあることが好ましい。かかる初期充電処理は、例えば、充電開始から端子間電圧が所定値に達するまで0.1C~10C程度の定電流で充電し、次いでSOCが60%~100%程度(典型的には80%~100%程度)となるまで定電圧で充電する定電流定電圧充電(CC-CV充電)により行うことができる。なお、「1C」とは、活物質の理論容量により予測した電池容量(Ah)を1時間で充電できる電流値(電流密度)を意味する。したがって、例えば、1/3Cとは、当該電池容量を3時間で充電できる電流値を意味し、20Cとは当該電池容量を20分の1時間で充電できる電流値を意味する。
【0039】
初期充電処理は、例えば、上記リチウムイオン二次電池1における正極端子30Aと負極端子30Bとの間に電圧計を接続し、この電圧計により測定電圧値をモニタリングし、あらかじめ設定された所定の電圧値に到達した時点で終了すればよい。また、かかる初期充電処理終了後に、コンディショニング処理として上記定電流充電の充電レートと同程度の電流値で放電処理を実施してもよい。かかるコンディショニング処理を施すことによって、好適に使用可能な状態のリチウムイオン二次電池1を得ることができる。
【0040】
一般的な二次電池では、正負極の電極と、電解質との間で電荷担体の吸蔵および放出が行われており、これに伴い生じる電気化学反応によって充放電が実現される。このとき、電極活物質が電解質イオンを放出することにより発生する電荷は、電極活物質層および電極集電体内を電極端子に向かって移動したのちに外部負荷に取り出される。ここで、電極活物質層および電極集電体内を移動する電荷の密度(すなわち電流密度)は、電極体の中でばらつきが生じている。典型的には、電極端子の近傍では電流密度が相対的に高くなり、電極端子から離れた場所(すなわち、中央部)では電流密度が相対的に低くなる傾向がある。特に、ここに開示される技術のように、アスペクト比が5以上の長尺な二次電池においては、かかる電流密度のばらつきが顕著である。かかる電流密度のばらつきが生じると、電極体内での反応が均一でなくなるため、二次電池の一部のみが激しく消耗し、局所的な劣化が発生し得る。そして、かかる局所的劣化の発生は、二次電池全体の耐久性が悪化につながり得る。
これに対し、ここに開示される技術においては、電極体20の初期電気抵抗率を調整することにより、電流密度I(A/mm2)の最大値Imaxと最小値Iminの比(ばらつき)が、1.5以下に抑制できることを見出した。電流密度の比(ばらつき)は、例えば、1.4以下であってもよく、1.3以下であってもよい。電流密度の比(ばらつき)が、かかる範囲内に抑制されることで、電極体20全体を有効に電気化学反応に寄与させることができ、二次電池の局所的な消耗が抑制される。これにより、アスペクト比が高い(長尺な)二次電池においても、耐久性が高い二次電池を実現することができる。
【0041】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1は、電極体20の初期電気抵抗率(Ω・cm)が20Ω・cm以上250Ω・cm以下であることが好ましい。例えば、20Ω・cm以上200Ω・cm以下であってもよく、20Ω・cm以上180Ω・cm以下であってもよい。この範囲より小さすぎると、電流密度I(A/mm2)の比(Imax/Imin)が、1.5以下に抑制されず、リチウムイオン二次電池1の局所的な劣化を引き起こす場合がある。また、この範囲よりも大きすぎると、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗が大きすぎて電池性能が低下する場合がある。
なお、本明細書において、初期電気抵抗率とは、以下のように算出される値である。初期充電処理およびコンディショニング処理後のリチウムイオン二次電池1を室温(例えば25℃±5℃)の環境下において、初期容量の40~80%(例えば50%)に相当する容量を、0.1C~10C(例えば2.5C)の電流値で定電流充電することで、リチウムイオン二次電池1のSOCを40~80%(例えば50%)に調整する。その後、SOC40~80%(例えば50%)の状態からリチウムイオン二次電池1に対し、0.1C~10C(例えば2.5C)の電流値で定電流を1~30秒間(例えば10秒間)流すことで、充電の過電圧を測定する。かかる値を電流値で除することで算出できる値を、ここでは初期電気抵抗率(Ω・cm)とする。
【0042】
電極体20の初期電気抵抗率は、電極体20を構成する正極シート40および負極シート50の電気抵抗率を適宜調整することによって、調整することができる。具体的に例えば、正極シート40の電気抵抗率は、正極活物質層44に含まれる導電材の種類や添加量を変えることによって適宜調整するとよい。あるいは、正極活物質層44の充填率を変えることによって好適な範囲に調整することができる。正極活物質層の充填率は、{(正極活物質層全体の体積)-(正極活物質層中の空隙の体積)}/(正極活物質層残体の体積)×100で表される。正極活物質層44の充填率が相対的に小さくなると、正極活物質層44の構成材料同士の接触が減るため、電気抵抗率が相対的に大きくなる。したがって、正極活物質層44の充填率を変えることによって、正極シート40の電気抵抗率を調整することができる。かかる充填率は、正極合材を、正極集電体42に塗布して、乾燥した後、適当なプレス処理を施すことによって、正極活物質層44の厚み、密度、および充填率を調整する。このときのプレス圧を変えることによって正極活物質層44の充填率が調整され、正極シート40の電気抵抗率を好適な範囲に調整することができる。なお、負極シート50の電気抵抗率も正極シート40と同様にして、適宜調整することができる。電極体20の初期電気抵抗率は、正極シート40または負極シート50のいずれか一方を調整することで調整してもよいし、両方を調整することで調整してもよい。
【0043】
以上のように構成されるリチウムイオン二次電池1は、各種用途に利用可能である。例えば、車両に搭載されるモーター用の高出力動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、典型的には自動車、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。リチウムイオン二次電池1は、複数個が電気的に接続された組電池の形態で使用することもできる。
【0044】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
<正極シートの作製>
正極活物質として、LiMn2O4(LMO)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、LMO:AB:PVdF=87:10:3の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用の正極合材を調整した。かかる正極合材を正極集電体としての矩形状のアルミニウム箔の両面に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。乾燥後、正極活物質層の厚みが片面50μm(両面で100μm)となるようにロールプレスを行い、正極活物質層の密度が、2.2g/cm3となるように調整した。
【0046】
<負極シートの作製>
負極活物質として、天然黒鉛系材料(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用の負極合材を調整した。かかる負極合材を負極集電箔としての矩形状の銅箔に塗布して乾燥することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が設けられた、負極シートを作製した。乾燥後、負極活物質層の厚みが片面40μm(両面で80μm)となるようにロールプレスを行った。
【0047】
<リチウムイオン二次電池の構築>
正極シートと負極シートとを、セパレータを介して交互に積層し、矩形状幅広面のアスペクト比が2である電極体(積層電極体)を作製した。かかる電極体を非水電解液と共にラミネート外装体の内部に封止した(例1)。なお、セパレートとしては、PP/PE/PPの三層構造の多孔質ポリオレフィンシートを用いた。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0048】
<初期充電処理およびコンディショニング処理>
25℃の環境下で上記作製したリチウムイオン二次電池の初期充電処理およびコンディショニング処理を行った。初期充電処理は、定電流-定電圧方式とし、2.5Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行うことで満充電状態にした。その後、2.5Cの電流値で電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。初期充電およびコンディショニング処理終了後に、0.5Cの電流値を流して電流密度の最大値Imaxと最小値Iminを測定し、かかる値から電流密度の比(Imax/Imin)を算出したところ、例1のリチウムイオン二次電池の電流密度の比は1.5以下(1.3)であった。
【0049】
<例2~12>
電極体の矩形状幅広面のアスペクト比と、初期電気抵抗率とを変更して、例2~12のリチウムイオン二次電池を構築した。初期電気抵抗率は、正極活物質層の合材密度条件を変えることにより調整した。具体的には、表1に示すように、正極活物質層の密度(g/cm3)を調整した。その他の条件は例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。これにより、電流密度の比(Imax/Imin)が1.0~9.6に調整された各リチウムイオン二次電池(例2~12)を得た。
【0050】
なお、正極活物質層の密度を調整することで変更した初期電気抵抗率は、以下のように確認した。初期充電処理およびコンディショニング処理後のリチウムイオン二次電池を25℃の環境下において、初期容量の50%に相当する容量を、2.5Cの電流値で定電流充電することで、各評価用リチウムイオン二次電池のSOCを50%に調整した。その後、SOC50%の状態から各リチウムイオン二次電池に対し、2.5Cの定電流を10秒間流すことで、充電の過電圧を測定した。そして、かかる値を電流値(2.5C)で除することで初期電気抵抗率を算出した。結果を表1に示す。
【0051】
<耐久性評価>
上述したように初期充電処理およびコンディショニング処理を行った後の各リチウムイオン二次電池を25℃の環境下で耐久性試験を行った。電圧が4.2Vに上昇するまで0.5Cのレートで定電流充電を行った後、電圧が3.0Vに低下するまで0.5Cのレートで定電流放電を行い、かかる充放電サイクルを50サイクル繰り返した。そして、1サイクル目と50サイクル目の定電流放電容量を測定し、1サイクル目の定電流放電容量に対する50サイクル目の定電流放電容量の割合を容量維持率(%)として算出した。かかる容量維持率が高くなるにつれて、耐久性が高いと評価することができる。結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示すように、アスペクト比が5以上のリチウムイオン二次電池であっても、電流密度の比(ばらつき)が1.5以下である場合には、容量維持率が90%以上であることがわかる。すなわち、アスペクト比が5以上のリチウムイオン二次電池であっても、電流密度の比(ばらつき)が1.5以下に抑制されることによって、耐久性が向上した二次電池を提供することができる。
【0054】
初期電気抵抗率が20Ω・cm以上に調整された場合には、アスペクト比10以下の電池であれば、容量維持率が90%以上であることがわかる。また、初期電気抵抗率が200Ω・cmに調整された場合には、アスペクト比が20のリチウムイオン二次電池であっても、容量維持率が90%以上であることがわかる。すなわち、電極体の初期電気抵抗率が20Ω・cm以上200Ω・cm以下に調整されることによって、ある一定の電池性能が担保された状態で、耐久性が向上した二次電池を提供することができる。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 リチウムイオン二次電池
10 ラミネート外装体
20 電極体
22A 正極集電タブ
22B 負極集電タブ
30A 正極端子
30B 負極端子
40 正極シート
42 正極集電体
44 正極活物質層
50 負極シート
52 負極集電体
54 負極活物質層
60 セパレータ