IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローランド株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図1
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図2
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図3
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図4
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図5
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図6
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図7
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図8
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図9
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図10
  • 特許-楽音処理装置、及び楽音処理方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】楽音処理装置、及び楽音処理方法
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20230324BHJP
【FI】
G10H1/00 102Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021522608
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021889
(87)【国際公開番号】W WO2020240874
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿江 高博
(72)【発明者】
【氏名】永澤 拓
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-265332(JP,A)
【文献】米国特許第05824933(US,A)
【文献】岡村亮一 他,"音楽的特徴に基づくメドレー曲の自動生成手法",FIT2012 第11回情報科学技術フォーラム 講演論文集 第2分冊,2012年08月21日,pp.15-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00- 7/12
G10K 15/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽音波形データを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された楽音波形データの分割によって得られる複数の楽音素片データのそれぞれを、相互に独立した再生開始タイミング、再生終了タイミング、及び再生モードに従って再生する再生処理を行う複数の再生制御部と、
前記再生処理の結果として前記複数の再生制御部のそれぞれから出力される再生音のミキシングを行うミキサと、
を含む楽音処理装置。
【請求項2】
前記ミキサは、前記複数の再生制御部のうちの2以上から並列に出力された再生音が重ね合わせられた楽音データを生成する
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項3】
前記再生制御部が、前記複数の楽音素片データに関して相互に独立した前記再生処理を並列に実行可能な集積回路によって形成されている
請求項1又は2に記載の楽音処理装置。
【請求項4】
前記再生モードは、楽音素片データに関する、再生速度の変更、逆方向再生、繰り返し再生、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも一つを含む
請求項1から3のいずれか1項に記載の楽音処理装置。
【請求項5】
前記複数の再生制御部のそれぞれは、前記楽音波形データの再生速度に乗じる所定の係数に従った前記再生速度の変更を行う
請求項4に記載の楽音処理装置。
【請求項6】
前記再生制御部のそれぞれは、再生方向を示す情報に基づいて、前記逆方向再生を行う請求項4又は5に記載の楽音処理装置。
【請求項7】
前記再生制御部のそれぞれは、楽音素片データの再生をループさせる位置を示す情報と、前記再生終了タイミングを示す情報とに基づいて、前記繰り返し再生を行う
請求項4から6のいずれか一項に記載の楽音処理装置。
【請求項8】
前記複数の楽音素片データのそれぞれが割り当てられる複数の第1操作子と、
複数の再生モードのそれぞれが割り当てられる複数の第2操作子と、
前記複数の再生制御部の少なくとも一つに対し、前記複数の第1操作子のいずれかの操作によって選択された楽音素片データを割り当てるとともに、前記複数の第2操作子のいずれかの操作によって選択された再生モードを設定する設定部と、
をさらに含む請求項1から7のいずれか一項に記載の楽音処理装置。
【請求項9】
前記複数の第1操作子は、直列配置され、前記複数の楽音素片データのそれぞれが前記楽音波形データにおける順序で割り当てられた前記複数のボタンを含む
請求項8に記載の楽音処理装置。
【請求項10】
前記複数の第2操作子は、楽器音の出力に使用される複数のパッドである
請求項8又は9に記載の楽音処理装置。
【請求項11】
前記複数の楽音素片データの少なくとも一つの再生中に前記複数のパッドのうちの第1のパッドが押されている間、前記複数の再生制御部の再生モードを前記第1のパッドに割り当てられた再生モードに変更するモード制御部をさらに含む
請求項10に記載の楽音処理装置。
【請求項12】
前記モード制御部は、前記複数の再生制御部に関して、前記第1のパッドに割り当てられた再生モードへの変更時に元の再生モードの情報を退避させるとともに、前記第1のパッドの押された状態が解除された場合に前記元の再生モードの情報を再設定する処理を行う請求項11に記載の楽音処理装置。
【請求項13】
楽音処理装置が、
楽音波形データを記憶し、
前記楽音波形データの分割によって得られる複数の楽音素片データのそれぞれを、相互に独立した再生開始タイミング、再生終了タイミング、及び再生モードに従って再生する再生処理を行い、
前記再生処理の結果として出力される複数の再生音のミキシングを行う、
ことを含む楽音処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽音処理装置、及び楽音処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予め生成された楽音パターンデータから新たな楽音パターンデータを生成する楽音処理装置として、所定長の楽音パターンデータを複数個の楽音素片データに分割し、複数個の楽音素片データの再生順序を順次変更するものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-265332号公報
【文献】特開2005-165357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術における順次再生では、楽音素片データのそれぞれについて、或る楽音素片データに係る再生が終わってから次の楽音素片データに係る再生が行われていた。このため、複数の楽音素片データの再生音を重ね合わせた楽音素材を生成することができなかった。
【0005】
本発明は、作成可能な楽音素材の種類を増やすことのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、楽音波形データを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された楽音波形データの分割によって得られる複数の楽音素片データのそれぞれを、相互に独立した再生開始タイミング、再生終了タイミング、及び再生モードに従って再生する再生処理を行う複数の再生制御部と、
前記再生処理の結果として前記複数の再生制御部から出力される複数の再生音のミキシングを行うミキサと、
を含む楽音処理装置である。
【0007】
本発明の他の態様は、楽音波形データを記憶し、
前記楽音波形データの分割によって得られる複数の楽音素片データのそれぞれを、相互に独立した再生開始タイミング、再生終了タイミング、及び再生モードに従って再生する再生処理を行い、
前記再生処理の結果として出力される複数の再生音のミキシングを行う、
ことを含む楽音処理方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、楽音処理装置の構成例を示す。
図2図2は、SoCに含まれるDSPの処理の構成を模式的に示す。
図3図3は、波形メモリに記憶された楽音素片データ(グレイン)と、再生制御部のそれぞれから出力される再生音の例を示す。
図4図4は、DSPによる、メインカウンタの処理例を示すフローチャートである。
図5図5は、再生制御部の処理例を示すフローチャートである。
図6図6は、DSPの参照パラメータ群のデータ構造例を示す。
図7図7は、パッド番号と再生モードの結びつきの例を示す。
図8図8は、ボタン群とパッド群を用いた再生制御(ステップシーケンス)の一例を示す。
図9図9Aは、パッドイベント情報を記憶するFIFOを示し、図9Bは、パッドイベントに応じたパッドのリンクリストを示す。
図10図10は、パッドイベント処理の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、リンクリストに基づく再生モード変更処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る楽音処理装置は、以下の構成を有する。
(1)楽音波形データを記憶する記憶部。
(2)記憶部に記憶された楽音波形データの分割によって得られる複数の楽音素片データのそれぞれを、相互に独立した再生開始タイミング、再生終了タイミング、及び再生モードに従って再生する再生処理を行う複数の再生制御部。
(3)再生処理の結果として前記再生制御部から出力される複数の再生音のミキシングを行うミキサ。
【0010】
例えば、ミキサは、複数の再生制御部のうちの2以上から並列に出力された再生音が重ね合わせられた楽音データを出力する。楽音処理装置によれば、複数の楽音素片データのそれぞれについて、相互に独立した再生開始タイミング及び再生終了タイミングの再生処理を行う。このため、2以上の楽音素片データに対する再生処理を並列に行い、その結果得られた再生音を重ね合わせた楽音データを得ることができる。すなわち、複数の楽音素片データの再生音を重ね合わせた楽音素材を生成することができる。よって、楽音処理装置及び楽音処理方法によれば、作成可能な楽音素材の種類を増やすことができる。
【0011】
楽音処理装置において、複数の再生制御部が、複数の楽音素片データに関して相互に独立した再生処理を並列に実行可能な集積回路によって形成されている、構成を採用してもよい。集積回路は、例えば、LSI、DSP、FPGA、ASIC、SoCなどである。再生処理が集積装置を用いて行われることで、CPUのようなプロセッサが再生処理を行うことによる処理負担の軽減を図ることができる。
【0012】
楽音処理装置において、再生モードは、楽音素片データに関する、楽音素片の選択、再生速度の変更、逆方向再生、繰り返し再生、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも一つを含む構成を採用してもよい。但し、再生モードは上記の列挙に制限されない。
【0013】
再生制御部のそれぞれは、楽音波形データの再生速度に乗じる所定の係数に従った再生速度の変更を行ってもよい。また、再生制御部のそれぞれは、再生方向を示す情報に基づいて、逆方向再生を行ってもよい。また、再生制御部のそれぞれは、楽音素片データの再生をループさせる位置を示す情報と、再生終了タイミングを示す情報とに基づいて、繰り返し再生を行うようにしてもよい。
【0014】
楽音処理装置は、複数の楽音素片データのそれぞれが割り当てられる複数の第1操作子と、複数の再生モードのそれぞれが割り当てられる複数の第2操作子と、複数の再生制御部の少なくとも一つに対し、複数の第1操作子のいずれかの操作によって選択された楽音素片データを割り当てるとともに、複数の第2操作子のいずれかの操作によって選択された再生モードを設定する設定部と、をさらに含む構成を採用することができる。1つの楽音素片データは、1つの第1操作子に割り当てられても、2以上の第1操作子に割り当てられてもよい。
【0015】
複数の楽音素片データの複数の第1操作子に対する割り当て方法、複数の第1操作子の配置に制限はない。但し、第1操作子は、直列配置され、複数の楽音素片データのそれぞれが楽音波形データにおける順序で割り当てられる複数のボタンを含んでもよい。このようにすれば、楽音素片データの数や並びを直感的に把握可能となる。また、第2操作子は、楽器音の出力に使用される複数のパッドであってもよい。但し、第2操作子はボタンやキーでもよい。
【0016】
楽音処理装置は、複数の楽音素片データの少なくとも一つの再生中に複数のパッドのうちの第1のパッドが押されている間、複数の再生制御部の再生モードを前記第1のパッドに割り当てられた再生モードに変更するモード制御部をさらに含む構成を採用することができる。このようにすれば、第1のパッドの操作で、再生音の再生時に再生モードを変更することができる。
【0017】
楽音処理装置において、モード制御部は、複数の再生制御部に関して、第1のパッドに割り当てられた再生モードへの変更時に元の再生モードの情報を退避させるとともに、第1のパッドの押された状態が解除された場合に元の再生モードの情報を再設定する処理を行う構成を採用できる。第1パッドの操作(例えば押圧)に応じて再生モードを一時的に変更し、第1パッドの操作(例えば押圧)を解除すると、再生モードが元に戻るようにして、再設定の煩雑さを回避することができる。
【0018】
以下、図面を参照して、実施形態に係る楽音処理装置及び楽音処理方法について説明する。実施形態の構成は例示である。実施形態の構成に限定されない。
【0019】
<楽音処理装置の構成>
図1は、楽音処理装置の構成例を示す。楽音処理装置10は、SoC(System on a Chip)11と、SoC11に接続された記憶装置14とを含む。SoC11には、USB(Universal Serial Bus)コネクタ31と、SDカードスロット32と、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)機器との接続端子33が接続されている。記憶装置14は、記憶部の一例である。
【0020】
楽音処理装置10(SoC11)は、USBコネクタ31を介して、パーソナルコンピュータ(PC)と接続され、USB MIDIやUSBオーディオのやりとりを行う。楽音処理装置10は、PCが有するディスプレイを用いて、楽音処理装置10に施された各種の設定情報を表示することもできる。
【0021】
また、SoC11は、SDカードスロット32に接続されたSDカードに対して、楽音データなどのデータを読み書きする。また、接続端子33を介して接続されたMIDI機器との間で、MIDIデータのやりとりをすることができる。また、電子楽器からの楽音信号の入力端子34も有している。入力端子34は、アナログ/ディジタル変換器(ADC)35に接続され、ディジタル化された楽音信号がSoC11に入力される。
【0022】
SoC11は、CPU(Central Processing Unit)12及びDSP(Digital Signal Processor)13などとして動作する集積回路である。記憶装置14は、CPU12やDSP13によって実行されるプログラムを記憶したROM(Read Only Memory)、CPU12の作業領域として使用されるSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)、DSP13におけるエフェクト処理に使用されるSDRAMなどを含んでいる。
【0023】
DSP13のそれぞれは、SDカードから読み出した楽音データ(オーディオデータ)や、MIDI機器などの電子楽器から入力された楽音データなど、SoC11に入力される楽音データの信号(楽音信号)に対する信号処理を行う。CPU12は、プログラムの実行によって、USBコネクタ31を介して接続された機器(PC、ディスプレイ)とのやりとり、SDカードとのやりとり、MIDI機器とやりとりの制御、DSP13の制御、入力装置20とのやりとりなどを行う。
【0024】
SoC11には、ディジタル-アナログ変換器(DAC:Digital Analog Converter)15が接続され、DAC15には増幅器(AMP)16が接続されている。AMP16は、ヘッドホン用の端子(PHONE)17と、スピーカ用の端子(MIX OUT)18とに接続されている。DSP13によって信号処理がなされた楽音信号は、DAC15によってアナログ信号に変換され、AMP16によって増幅され、端子17を介してヘッドホンに接続されたり、端子18を介してスピーカに接続されたりする。これによって、楽音信号に応じた楽音がヘッドホンやスピーカから出力される。
【0025】
楽音処理装置10は、入力装置(入力パネル)20を有している。入力装置20は、楽音処理装置10に係る様々なパラメータを設定するための操作子22a、22b、22cを有している。操作子22a~cは、複数のボタン、スイッチ、スライダー、つまみ、ダイヤルつまみなどである。操作子22a~cは、後述する、グリッチャー効果の生成に用いる楽音波形データや楽音素片データの定義、楽音素片データの再生方法(再生モード)に応じたパラメータを設定及び入力するために使用される。
【0026】
また、入力装置20は、楽音素片データの再生順(ステップと呼ばれる)を入力するための、所定数(図1では16個)のボタン群23(ボタン#0~#15)を有している。さらに、入力装置20は、演奏子の一例として、演奏用のパッド群24を有している。パッド群24は、所定数(図1では16個)のパッド(パッド#0~#15)からなり、パッドのそれぞれが押されると、パッドに割り当てられた楽器音(ピアノ音やドラム音)が再生出力される。複数のパッドの少なくとも1つは、楽音素片データに適用可能な再生モード(再生モードに従った再生を行うためのパラメータセット)の選択ボタンとして使用可能である。
【0027】
<グリッチャー効果の生成>
本実施形態では、楽音処理装置10は、SDカードからの読み出しや、演奏によって得られる楽音信号の1フレーズを録音し、1フレーズ分の楽音信号を、分割対象の楽音波形データとして扱う。楽音波形データのデータ長は、フレーズの定義やフレーズ数によって変わる。楽音波形データを所定の分割数に従って分割することで、複数の(例えば、2以上の所定数の)楽音素片データを得る。楽音素片データのそれぞれについて、相互に独立した(独自の)再生開始タイミング、再生終了タイミング、及び再生モード(再生方法)での再生処理を行い、新たな楽音(演奏)を生成する。
【0028】
新たな楽音は、グリッチャー(Glitcher)と呼ばれる効果を含む。グリッチャーとは、突然故障したような異常音、ノイズであり、スキャッター(Scatter)とも呼ばれる。グリッチャーは、基本的には、楽音素材の非常に短いリピート再生によって得られる。また、グリッチャーは、ショートディレイによる擬似効果もあるが通常はバッファ再生によって生成される。グリッチャーには、逆再生やピッチ変化など、その他のエフェクトの組み合わせも含まれる。また、グリッチャーは、一般的にシーケンスを組むことができる。
【0029】
従来、グリッチャーの生成は、1系統の再生装置の再生モードを時間軸上で切り替える(換言すれば、1つの楽音を時間軸上で分割し、楽音素片ごとに再生モードを変える)ことによって行われていた。これに対し、楽音処理装置10では、SoC11が複数の独立したプレイヤ(再生系統)を有し、各プレイヤが予め設定された設定パラメータ(設定情報)に従って、自律的な再生動作を行うことで、グリッチャーとして使用可能な楽音を得る。
【0030】
図2は、SoC11に含まれるDSP13の処理の構成を模式的に示す。DSP13は、メインカウンタ101と、録音制御部(レコーダともいう)102と、複数の再生系統をなす、複数の再生制御部(プレイヤともいう)104と、ミキサ110を含む装置として動作する。再生制御部104のそれぞれはサブカウンタ105を有する。また、記憶装置14に含まれるSDRAMの所定の記憶領域が、波形メモリ103として使用される。
【0031】
なお、複数のDSP13が複数の再生制御部104(複数の再生系統)として動作するのでも、1つのDSP13が複数の再生制御部104(複数の再生系統)として動作するのでもよい。また、再生制御部104として動作する集積回路の種類は問わず、DSP13の代わりに、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSPとFPGAの組み合わせ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを適用可能である。
【0032】
楽音信号は、例えば、SDカードから読み出された楽音の波形信号、或いは、端子34から入力され、ADC35によってディジタル形式に変換された演奏(楽音)の波形信号である。
【0033】
メインカウンタ101は、録音制御部102による録音、及び再生制御部104による再生に係るタイミングを生成する。メインカウンタ101の最大値は、フレーズ長によって決まる。1フレーズの長さは、プリセット、又は楽音信号から抽出される、拍子、BPM(Beat Per Minute)、及び小節数によって決定される。
【0034】
録音及び再生時において、メインカウンタ101の値(メインカウンタ値)は、楽音信号のサンプリング周波数に応じた1サンプル時間毎に1つ増加する。メインカウンタ値は、波形メモリ103のアドレスと関連づけられている。メインカウンタ値は、楽音信号のサンプリング周波数に基づく1サンプル時間毎にカウントアップし、波形メモリ103のアドレス値は1サンプル毎に1アドレス増加する。メインカウンタ101の値は、最大値を超えると0に戻り、再びカウントアップされる。
【0035】
例えば、4/4拍子、BPM120、1小節を1フレーズと定義する場合、サンプリング周波数Fs=44.1kHz、2秒(88200サンプル)であり、メインカウンタ値の範囲は“0”~“88199”となる。
【0036】
録音停止時(録音及び再生のうち再生のみが行われる場合)では、録音時に設定されたメインカウンタ値の最大値を保持する。メインカウンタ値は、録音及び再生時と同様に、最大値を超えると0に戻り、再びカウントが開始される。メインカウンタ値の増加幅によって、再生制御部104のトリガタイミングと再生速度とが制御される。
【0037】
録音制御部102は、メインカウンタ値に従って、楽音信号を波形メモリ103に記憶(録音)する。録音及び再生時では、録音制御部102は、メインカウンタ値を参照し、メインカウンタ値に対応する波形メモリ103のアドレスに楽音信号(サンプルデータ)を記憶する。なお、楽音信号の先頭部分をフェードイン、終端部分をフェードアウトとしてもよい。
【0038】
上述したように、メインカウンタ値は、最大値になると再び0に戻る。これより、録音制御部102は、録音中、メインカウンタ値の取り得る値の範囲(0~最大値)に対応するアドレスの範囲で、楽音信号の上書きを繰り返す。録音停止時では、録音制御部102は、波形メモリ103に対する楽音信号の書き込みを行わない。これにより、波形メモリ103に記憶された楽音信号が維持される。
【0039】
波形メモリ103には、1フレーズの楽音信号が楽音波形データとして記憶される。楽音波形データに関して、適宜のタイミングで設定される分割数に従い、楽音波形データを複数の楽音素片データとして扱う場合のアドレスが算出される。複数の楽音素片データのそれぞれのアドレスは、楽音素片データに対する再生処理を行う複数の再生制御部104のそれぞれにセットされる。楽音波形データの分割によって得られる楽音素片データ(波形データ)は、「グレイン」と呼ばれる。
【0040】
楽音処理装置10は、i個のグレインに対する再生がそれぞれ独立して並列に行われるように、i個の再生系統(再生制御部104)を有する。分割によって得られたグレインのそれぞれは、いずれかの再生制御部104に割り当てられる。例えば、再生制御部104及びグレインに番号が振られ、グレインのそれぞれは、番号の小さい順で再生制御部104に再生対象として割り当てられる。割り当ては、上述したような、アドレスのセットにより行われる。
【0041】
本実施形態では、一例として、分割数(グレイン数)iの最大値は16であり(i=0,1,2,…,14,15)、最大値に応じた16個(#0~#15)の再生制御部104が設けられている。但し、分割数は、最大値16より小さい範囲で適宜設定できる。なお、分割数の最大値は、2以上の数で16以外の数を採用する場合もある。分割数は、演奏される楽音の拍子やグリッチャー効果をかけたい時間幅に合わせてユーザにより設定される。
【0042】
再生制御部104のそれぞれは、メインカウンタ値及びサブカウンタ105の値(サブカウンタ値)を参照して、波形メモリ103に記憶された楽音信号の再生処理を行う。再生制御部104は、メインカウンタ値を参照し、再生開始タイミング及び再生終了タイミングを判定する。
【0043】
再生開始タイミング及び再生終了タイミングを示す情報(パラメータ)は、予め再生制御部104に設定される。再生開始タイミング及び再生終了タイミングは、再生制御部104のそれぞれに、相互に独立して設定することができる。これによって2以上の再生制御部104が並列に再生処理を行うことが可能となる。
【0044】
再生制御部104は、再生開始タイミングでサブカウンタ105のカウント動作を開始させ、予め設定された再生開始アドレスとサブカウンタの値とを元に波形メモリ103からの再生位置(グレインをなすサンプルの読み出し位置)を算出する。再生制御部104は、算出したアドレスからサンプルを読み出して再生する。再生信号はミキサ110に入力される。
【0045】
上述したように、複数の再生制御部104に対して、異なるグレインが割り当てられる。このため、再生開始アドレスは再生制御部104間で異なる。再生開始アドレスとして、再生制御部104に対応するグレインの、波形メモリ103における先頭又は終端アドレスが設定される。もちろん、同一のグレインを与えてもよい。
【0046】
サブカウンタ105は、予め設定された増加量(変化幅)に従ってサブカウンタ105の値(カウント値)をカウントアップする。サブカウンタ105の値の増加量(変化幅)として、予め設定された増加量にメインカウンタ101の増加量を掛け合わせた値が適用される場合もある。掛け合わせによって、サブカウンタ105の増加量を、メインカウンタ101の増加量より多くしたり少なくしたりすることができる。単位時間当たりのサブカウンタ105の増加量がメインカウンタ101の増加量より大きくなることは、再生速度(ピッチ)が上がることを意味し、サブカウンタ105の増加量がメインカウンタ101の増加より小さくなることは、再生速度が下がることを意味する。
【0047】
再生制御部104のそれぞれの動作は、再生制御部104のそれぞれに対して予め設定されたパラメータセット中の再生開始及び再生終了タイミングによって独自に行われる。すなわち、複数の再生制御部104が、自身に設定されたタイミングに従って並列に再生処理を行う。また、再生開始アドレスを、再生制御部104間で異ならせることにより、複数の再生制御部104が、複数のグレインについて、並列に再生処理を行うことができる。これにより、任意のグレインを任意のタイミングと任意の再生方法で重ね合わせて再生することができる。
【0048】
ミキサ110は、ミキシング処理によって、再生制御部104のそれぞれから出力される再生信号を重ね合わせた楽音信号(楽音データ)を出力する。また、予め設定された情報に従って、再生音に対し、エフェクトを付与することもできる。エフェクトは、例えば、リバーブ、コーラス、ディレイ、コンプレッサー、イコライザなどである。
【0049】
<再生処理>
図2には、楽音信号の1フレーズが波形メモリ103に記憶された例を示す。1フレーズの例は、4つの四分音符に対応する、ドラムのキックとスネアの交互の繰り返しである。1フレーズは、最大16分割が可能であるが、本例では、1フレーズが4つのグレインに分割されている。
【0050】
一例として、各グレインに対し、時間軸上の並びでグレイン番号<0>~<3>が付与され、グレイン番号の小さい順で再生制御部104に割り当てられる。具体的には、グレイン<0>は再生制御部#0に割り当てられ、グレイン<1>は再生制御部#1に割り当てられ、グレイン<2>は再生制御部#2に割り当てられ、グレイン<3>は再生制御部#3に割り当てられる。再生制御部#4~#15は未使用となる。再生制御部#0~#3のそれぞれは、自身について設定された再生方法(再生モード)のパラメータセットに従って、独自のタイミングで再生処理を行う。
【0051】
図3は、波形メモリ103に記憶されたグレイン<0>~<3>と、再生制御部#0~#3(PLAYER#0~#3)のそれぞれから出力される再生音の例とを示す。楽音パターンデータとして、同じフレーズ(グレイン<0>~<3>)が2回連続して再生された場合を仮定する。
【0052】
図3では、再生制御部#0が、再生処理として、グレイン<0>の再生速度を本来の速度よりも遅くして再生した例が示されている。これにより、グレイン<0>の再生ピッチが下がるとともに、再生終了タイミングが元のグレイン<0>の再生終了タイミングより遅くなり、元のキックより低く延びた感じのキックが再生される。
【0053】
また、図3では、再生制御部#1が、再生処理として、元のグレイン<1>の再生開始及び終了タイミングの間にグレイン<1>を逆再生した例が示されている。また、再生制御部#2が、元のグレイン<2>の再生開始及び終了タイミングの間において、グレイン<2>の前半部分を2回繰り返す(リトリガーと呼ばれる)例が示されている。また、再生制御部#3が、グレイン<3>の再生及び終了タイミングでグレイン<3>の再生を行うとともに、その次のグレイン<0>の再生及び終了タイミングでグレイン<3>の再生を繰り返す(ホールドと呼ばれる)例が示されている。
【0054】
再生制御部#0~#3は、独自に再生処理を行うため、再生制御部#0及び#1の再生処理、あるいは再生制御部#3及び#0の再生処理は並列に行われる。この結果、複数の再生制御部104から出力された再生音の信号がミキサ110によって重ね合わせられ、様々なグリッチャー効果を重ねることができる。このように、楽音処理装置10によれば、従来における楽音素片の再生方法の切り替えだけでは得られない楽音を得ることができる。
【0055】
従来では、グリッチャー効果の生成を目的として、楽音素片の再生順の入れ替えや再生方法の切り替えを単一のCPUで行っていた。これに対し、実施形態に係る楽音処理装置10では、DSP13を用いた複数の再生系統の並列処理による再生処理を行う。これによって、グリッチャー効果を加えたグレインの再生音を重ね合わせた楽音素材を得ることができ、楽音素材の種類を増やすことができる。一方、CPU12は、DSP13を用いて実現される複数の再生系統に対するパラメータセットの設定に係る処理を行い、再生処理の主体とならない。このため、CPU12の負荷を減らすこともできる。
【0056】
<再生処理例>
再生処理の詳細について説明する。図4は、DSP13による、メインカウンタ101の処理例を示すフローチャートである。S01において、DSP13は、メインカウンタ101のカウント値であるメインカウンタ値Cmainが、波形メモリ103に記憶されたフレーズの長さを示す終了値Cphより大きいか否かを判定する。
【0057】
CmainがCph以下と判定される場合(S01、NO)、フレーズの終了タイミングが到来していないことを意味する。このため、DSP13は、現在のCmainの値に、メインカウンタ101の変化幅(増加量)Dmainを加算した値を新たなCmainの値に設定する(S02)。その後、処理がS01に戻る。これに対し、Cmainの値がCphより大きい場合には、DSP13はCmainの値を0に戻し(S03)、処理をS01に戻す。このようにして、メインカウンタ101の値が制御される。
【0058】
図5は、再生制御部104の処理例を示すフローチャートである。再生制御部#0~#15は同じ動作を行うことが可能であるため、図5は、再生制御部#0の処理を例示する。但し、再生制御部104が参照するパラメータの値は、再生制御部104毎に異なる。
【0059】
S001において、再生制御部#0は、R0swの値が“真(true)”であるか否かが判定される。R0swの値は、グレインの逆再生スイッチのオン(ture)/オフ(偽:false)を示す。R0swの値が“true”であると判定される場合には、処理がS003に進み、そうでない場合には、処理がS002に進む。
【0060】
S002では、再生制御部#0は、A0topの値にP0の値を加算し、その値に対応するアドレスに記憶されたグレインの一部(サンプル)を読み出して再生処理を行う。A0topは、波形メモリ103におけるグレインの先頭アドレスを示す。S002の処理は順方向の再生を意味する。
【0061】
S003では、再生制御部#0は、A0btmの値からP0の値を減算し、その値に対応するアドレスに記憶されたグレイン(サンプル)を読み出して再生処理を行う。A0btmは、波形メモリ103におけるグレインの終端(末尾)アドレスを示す。従って、S003の処理は逆方向の再生処理(逆方向再生)を示す。S002、S003の終了後、処理がS004に進む。
【0062】
S004では、再生制御部#0は、Cmainの値がC0startの値より大きいか否かを判定する。C0startは、再生制御部#0に対応するサブカウンタ#0の再生開始カウンタ値を示す。Cmainの値がC0startより大きいことは、メインカウンタ値が再生制御部#0の再生対象であるグレインの再生開始タイミングに達したことを意味する。Cmainの値がC0startより大きいと判定された場合、処理がS005に進み、そうでない場合には、処理が007に進む。
【0063】
S005に処理が進んだ場合には、再生制御部#0は、ミュートを解除してA0topの再生音を出力可能とする。続いて、再生制御部#0は、P0の値を、現在のP0の値にD0の値を加えた値に変更し(S006)、処理をS007に進める。P0は、再生読み出しポインタ(波形メモリ103からの読み出しアドレス)の位置を示す。D0は、読み出し位置変化幅(再生制御部#0のサブカウンタ105(サブカウンタ#0)の変化量)を示す。
【0064】
D0をメインカウンタ101の値の変化幅Dmainに連動させない場合(非連動の場合)には、D0の値として、所定の読み出し位置変化幅d0と同じ値が使用される(D0=d0)。これに対し、D0をDmainと連動させる場合には、d0がDmainの係数として使用され、Dmainにd0を乗じた値がD0として使用される(D0=Dmain*d0)。この場合、グレインの再生速度は、メインカウンタの再生速度に係数d0を乗じた速度となる。例えば、全てのサブカウンタ105をメインカウンタ101に連動させた場合、メインカウンタ101の変化幅だけで全てのサブカウンタ105の制御が可能となる。連動/非連動に関わらず、D0を1より大きい値にすれば、再生速度がオリジナルより速くなり、D0を1より小さい値にすれば、再生速度がオリジナルより遅くなる。D0=1の場合、再生速度はオリジナルのままとなる。
【0065】
S007では、再生制御部#0は、Cmainの値がC0endの値より大きいか否かを判定する。C0endは、サブカウンタ#0の再生終了カウンタ値を示す。Cmainの値がC0endの値より大きいことは、メインカウンタ値が再生制御部#0の再生対象であるグレインの再生終了タイミングに達したことを意味する。Cmainの値がC0endより大きいと判定された場合、処理がS008に進み、そうでない場合、処理がS009に進む。
【0066】
S008では、再生制御部#0は、ミュートの設定を行い、処理をS010に進める。S010では、再生制御部#0は、P0の値を0に設定し(S010)、処理をS001に戻す。
【0067】
S009に処理が進んだ場合には、再生制御部#0は、POの値がLOの値以上か否かを判定する。L0の値は、ループ長を示し、例えば、グレイン長以下の値が設定される。例えば、ループ長は、オリジナルのグレイン長の1/n倍に設定され、1グレイン長におけるループ(繰り返し)回数はn回となる。
【0068】
P0がL0以上となることは、読み出し位置がループ位置に達したことを意味する。このため、再生制御部#0は、P0の値がL0の値以上と判定する場合には、P0の値を0に設定し(S010)、処理をS001に戻す。
【0069】
以上のような再生制御部#0の制御により、予め設定された再生モードに従った処理が行われる。ミュート及びミュート解除の処理によって、再生開始タイミングから再生終了タイミングの間に再生音が出力される。なお、ミュートに係る処理は、再生制御部104以外で行われてもよい。
【0070】
図3において、再生制御部#0が行う再生処理(再生速度の変化)は、図5の処理に関して、D0が1よりも小さい値に予め設定され、C0endが本来の再生終了タイミングよりも遅いタイミングに設定されることで、実行することができる。再生制御部#1が行う再生処理(グレインの逆方向再生)は、R1swが“true”に予め設定されることにより実行可能となる。再生制御部#2が行う再生処理(リトリガー)は、ループ長L2がグレイン長の1/2に設定されることで行うことができる。再生制御部#3が行う再生処理(ホールド)は、L3をグレイン長と同じ長さに設定するとともに、再生終了カウント値C3endの値をグレイン長の2倍となる値に設定することで行うことができる。なお、リトリガー及びホールドは、繰り返し再生の一例である。
【0071】
<再生モードの設定>
上述したような、再生開始/終了タイミングの変更、再生速度/ピッチの変化、逆再生、リトリガーやホールドなどは、以下の手順により行われる。
(1)フレーズ及びグレインの定義(設定情報:フレーズ長(拍子、BPM、小節数)、分割数など)を楽音処理装置10に登録する。
(2)グレインの選択と、グレインのそれぞれに対する再生方法(再生モード)を決定し、再生モードに応じたパラメータ群の設定を、メインカウンタ101、再生制御部104及びサブカウンタ105のそれぞれについて行う。パラメータ群は、少なくとも図4及び図5の処理に関して説明した複数種類のパラメータを含む。
【0072】
上記(1)(2)の作業は、楽音処理装置10のユーザ(オペレータ)が、入力装置20に含まれる所定の複数の操作子(ボタン、スイッチ、スライダー、つまみなど)の手動操作によって、フレーズやグレインの説明、並びに図4及び図5の処理に関する説明において説明したパラメータ群の設定を行うことによりなされる。
【0073】
但し、上記(2)の作業はパラメータの数が多いことから煩雑であり、グレイン数(分割数)が多くなると、煩雑さが増す。このため、波形メモリ103に記憶済みのフレーズに関して、ステップシーケンスを作成する構成を、楽音処理装置10は有する。
【0074】
<ステップシーケンスの作成>
楽音処理装置10は、分割によって得られた複数のグレインに関して、ステップシーケンスを作成する(組む)ことができる。ステップシーケンスをなすステップのそれぞれは、再生対象のグレインと、そのグレインの再生モードを決定することでなされる。
【0075】
例えば、波形メモリ103に1フレーズ分の楽音データが記憶されている状態において、入力装置20を用いて、フレーズの分割数が入力されると、CPU12が、ボタン群23をなす16個のボタン(ボタン#0~#15)に、グレインのそれぞれを割り当てる。
【0076】
割り当ては、グレイン番号の小さい順で、ボタン番号の小さい順に割り当てられる。グレイン数が最大値16の場合、ボタン群23をなす16個のボタンの全てに対するグレインの割り当てが行われ、未使用のボタンは生じない。これに対し、グレイン数がボタンの数より少ない場合、未使用のボタンが発生する。
【0077】
また、グレインのそれぞれは、グレイン番号の小さい順で、再生制御部104に対する割り当てが行われる。例えば、分割数が16であれば、グレイン<0>~<15>が、全ての再生制御部#0~#15に割り当てられる。但し、図2に示した例のように、1フレーズの分割数が4つの場合、番号の小さい順で、再生制御部#0~#3にグレイン<0>~<3>が割り当てられ、再生制御部#4~#15は未使用となる。
【0078】
ステップをなすグレインの再生順は、ボタン群23を用いて設定することができる。或るステップの作成をする場合に、グレインの割り当てられたボタンの中から、そのステップでの再生を所望するグレインが割り当てられたボタンを押す。
【0079】
ここに、ボタン群23をなすボタン#0~#15は、左右方向に一列に並んで配置(直列配置)され、左から順に小さい番号順でボタン番号が設定されている。そして、グレインがその番号の小さい順で割り当てられる。このため、楽音処理装置10のユーザ又はオペレータは、直感的に、複数のグレインが複数のボタンに左詰めで登録されていることを把握できる、すなわち、オペレータは、最も左側にあるボタンがグレイン<0>のボタンで、次がグレイン<1>のボタン、次がグレイン<2>のボタン・・・と把握することができる。ボタン#0~#15は、複数のボタンの一例である。
【0080】
グレイン数がボタン数に満たない場合、例えば、グレイン数が4の場合、左から5~16番目のボタンは未使用であると直感的にわかる。もし、オペレータがi番目のグレインを再生したい場合、左からi番目にあるボタンを押せばよい。ボタンを押すことで再生対象のグレイン(及び再生を行う再生制御部104)が決定される。ボタン群23をなす複数のボタンは、複数の第1操作子の一例である。
【0081】
さらに、オペレータが、パッド群24をなす16個のパッド#0~#15のうち、所望の再生モードが割り当てられたパッドを押すことで、選択したグレインに対する再生モードを選択することができる。パッドが押されると、パッドに割り当てられた再生モードに係るパラメータセットが、ボタンの押し下げによって選択された再生制御部104に設定される。パッド群24をなす複数のパッドは複数の第2操作子の一例である。
【0082】
これにより、或るステップについての、再生対象のグレインと、そのグレインの再生モードとが決定される。その後、次以降のステップのそれぞれについて、再生対象のグレインとその再生モードの選択を、上記のボタン群23及びパッド群24を用いて繰り返す。これによって、複数のグレインに関する、所望のステップ数のステップシーケンスを容易に作成及び保存することができる、ボタン群23を用いたグレインの再生制御部104への割り当てと、パッド群24を用いた再生制御部104への再生モードの割り当ては、例えば、設定部としてのCPU12によって行うことができる。但し、CPU12以外が設定部として動作してもよい。
【0083】
図6及び図7は、記憶装置14のSDRAMに記憶される、DSP13の参照パラメータ群のデータ構造例を示す。データ構造例は一例であって、これ以外の構成を採り得る。SDRAMに対する情報やデータの読み書きは、例えばCPU12によって行われるが、CPU12以外によって行われてもよい。
【0084】
図6において、SDRAMには、波形メモリ103に記憶されるフレーズの定義情報(拍子、BPM、小節数、サンプリング周波数、サンプル数、アドレス)と、フレーズの分割数(グレイン数)の定義(設定値)が記憶される。
【0085】
さらに、SDRAMには、フレーズの定義に基づいて算出したメインカウンタ101のパラメータ群(Cmain、Cph、Dmain)が記憶される。また、複数のフレーズの定義情報を記憶しておいてもよい。
【0086】
また、SDRAMには、再生制御部104(#0~#15)のそれぞれに係る情報を記憶する領域が設けられる。情報記憶領域には、再生制御部#iの使用中/非使用を示すフラグ(図中のチェックボックスのチェックの有無で使用/非使用とを図示)と、パラメータセット(Pi, Di(di), Cistart, Ciend, Li, Risw, Aitop, Aibtm)と、再生対象のグレインを示す情報(グレイン番号)と、グレインの再生順を示す情報と、グレインに対する再生モードを示す情報とが記憶される。
【0087】
図7に示すように、SDRAMには、パッド群24をなすパッドのパッド番号と、各パッドに割り当てられた再生モードを示す対応テーブルが記憶される。再生モードは、例えば、図3を用いて説明した、再生速度/ピッチの変化、逆再生、リトリガー、ホールド、これらの2以上の組み合わせなどである。再生モードは、再生方法に対応するパラメータセットを含んでいる。パラメータセットにグレイン番号を加えてもよい。
【0088】
例えば、ステップシーケンスの作成において、グレイン<0>を、再生順1番で、再生モード#0(再生モード/ピッチ)により再生する場合、オペレータは、ボタン群23のボタン#0と、パッド群24のパッド#0とを押す。このような操作に対し、CPU12は、以下の処理を行う。
【0089】
すなわち、CPU12は、DSP13の再生制御部#0にグレイン番号#0、再生モード#0に関するパラメータを転送する。また、DSP13は、転送したパラメータから得られる、グレイン<0>の開始及び終了アドレスをA0top及びA0btmに設定する。また、DSP13は、グレイン<0>が再生順1番で再生される場合のCmainの値を算出してC0startに設定し、C0startからのオフセット位置を算出してC0endを決定する。
【0090】
図8は、ボタン群23とパッド群24を用いた再生制御(ステップシーケンス)の一例を示す。図8では、グレイン<0>~<3>の再生順を<2>→<0>→<3>→<1>に設定するとともに、グレイン<0>~<3>の再生モードとして、再生速度の変更、逆再生、リトリガー、ホールドを採用した例を示す。ステップシーケンスによる再生によって、複雑な音の楽音素材を簡単な作業で得ることができる。
【0091】
なお、上記例では、再生順の設定の前後で、再生制御部とグレインとの対応関係に変更はない。これに対し、再生順に対して、複数の再生制御部104が番号の小さい順で使用されるようにしてもよい。
【0092】
<再生中の再生モード変更(再生モードのリアルタイム変更)>
波形メモリ103に記憶された楽音信号に関して、例えば、上記したステップシーケンスに基づく再生処理が繰り返し実行されている場合に、パッド群24をなすパッドのいずれかを押すと、押されたパッドに対する再生モードが、グレインの再生に適用される。再生モードの変更は、パッドの押圧が維持されている間だけ行われ、パッドの押圧が解除されると、再生モードが元に戻る。
【0093】
複数のパッドが順番に押された場合には、パッドの押された順が記憶され、最後に押されたパッドの再生モードが適用される。その後、パッドの押圧が解除される毎に、再生モードが変わり、全てのパッドの押圧が解除されると、再生モードが元に戻る。
【0094】
図9Aは、パッドイベント情報を記憶するFIFOを示し、図9Bは、パッドイベントに応じたパッドのリンクリストを示す。FIFOは、例えば、記憶装置14に含まれるSDRAMを用いて形成される。但し、他の記憶媒体を用いてもよい。
【0095】
パッドイベント情報は、イベント発生に係るパッドの識別情報(パッド番号)と、発生イベントを示す情報(イベント値)とを含む。イベント値は、パッドが指等で押されたことを示す「押圧」と、パッドを押す指等がパッドから離れたことを示す「離脱」との一方を示す。但し、FIFOにパッドイベント情報が登録されるパッドは、再生モードが割り当てられたパッドに制限される。
【0096】
図9Aでは、パッド#0→パッド#1→パッド#2の順に押された後、パッド#1の押圧が解除された場合における、FIFOの状態が例示されている。パッド番号#0及び押圧、パッド番号#1及び押圧、パッド番号#2及び押圧、パッド番号#1及び離脱をそれぞれ示すパッドイベント情報がFIFOに記憶される。
【0097】
FIFOに対する情報の入力は、例えば、CPU12の割り込み処理によって行われる。CPU12は、パッド群24をなすパッド#0~#15のそれぞれに対する「押圧」及び「離脱」の状態を監視し、「押圧」又は「離脱」を検知すると、パッド番号及びイベントを含むパッドイベント情報をFIFOに登録する(但し、FIFOに対する情報の登録は、CPU12以外によって行われてもよい)。
【0098】
図9Bは、パッドが押された順(元の状態への復帰順)を示す情報を記憶するリンクリストを模式的に示す。上記したように、パッド#0→パッド#1→パッド#2の順に押された場合、リンクリストは、パッド#0の後ろにパッド#1をリンク付け、パッド#1の後ろにパッド#2をリンク付けた情報を記憶する。その後、パッド#1の押圧が解除されると、リンクリストからパッド#1の情報を削除し、パッド#0の後ろにパッド#2を対応づける。すべてのパッドが「離脱」の状態では、リンクリストは、“データ無し”の状態となる。
【0099】
図10は、パッドイベント処理の一例を示すフローチャートである。図10の処理は、FIFOから読み出した、1つのパッドイベント情報に対する処理を示し、FIFOに複数のパッドイベント情報が登録されている場合は、登録順で図10に示す処理が行われる。図10の処理は、例えばCPU12によって行われる。
【0100】
S101では、CPU12は、FIFOから最古のパッドイベント情報を取り出し、パッドイベント情報に含まれるパッド番号“X”を取得する(S012)。S103では、CPU12は、パッドイベント情報のイベント値を参照し、イベント値が「押圧」か否かを判定する。イベント値が「押圧」と判定する場合、CPU12は、リンクリストにパッド番号“X”を追加し(S105)、図10の処理を終了する。
【0101】
これに対し、イベント値が「押圧」でないと判定する場合、CPU12は、イベント値が「離脱」か否かを判定する(S104)。イベント値が「離脱」と判定する場合、CPU12は、リンクリストからパッド番号“X”を削除し、削除に伴う前後のリンク付けの変更を必要に応じて行う(S106)。S104の判定がNOの場合、及びS106の処理が終了すると、図10の処理が終了する。図10の処理によって、図9Bに示したようなリンクリストの変更が行われる。
【0102】
図11は、リンクリストに基づく再生モード変更処理の例を示すフローチャートである。図11の処理は、モード制御部として動作するCPU12によって行われる(但し、CPU12以外が行ってもよい)。図11の処理は、上述のリンクリストの変更によりリンクリストの最後尾が変化した場合に行われる。
【0103】
S201において、CPU12は、リンクリストにデータ(パッド番号)が残っているかを判定する。パッド番号が残っていることは、パッドのいずれかが押圧状態であることを示し、パッド番号が残っていないことは、パッド群24の全てのパッドの押圧が解除されたことを意味する。
【0104】
S201においてパッド番号が残っていると判定される場合、リンクリストの中で最後尾(最後に押されたパッド)のパッド番号“X”を取得する。S202では、再生制御部104を示す変数iの値を0に設定する(S203)。
【0105】
S204では、CPU12は、変数iが示す再生制御部104(再生制御部iとも表記)に対して設定されている、再生モードに係るパラメータセットが退避済みか否かを判定する。パラメータセットが退避されていないと判定する場合、CPU12は、パラメータセットの退避を行い(S206)、処理をS205に進める。これに対し、パラメータセットが退避されていると判定する場合には、CPU12は、再生制御部iに対して設定されているパラメータセットを、パッド番号Xのパッドに割り当てられた再生モードのパラメータセットに書き換える(S205)。その後、処理がS207に進む。
【0106】
S207では、CPU12は、iの値を現在のiの値に1を加えた値(次の再生制御部iを指す値)に変更し、処理をS208に進める。S208では、現在のiの値が15より大きいか否かを判定する。iの値が15より小さいと判定される場合には、処理がS204に戻る。iの値が15より大きいと判定される場合、図11の処理が終了する。iの値が15より大きいことは、再生制御部104の全てについてS204~S207の処理が行われたことを示す。このように、本実施形態では、再生制御部104の全てについて、パッド番号Xに対応する再生モードが設定される。
【0107】
ところで、S201でリンクリストに押圧中のパッドを示す情報が登録されていないと判定される場合、すなわち、いずれのパッドも押圧されていないと判定される場合、処理がS209に進む。S209では、再生制御部104を指す変数iの値を0に設定する。
【0108】
S210では、CPU12は、再生制御部iに関して退避してある、再生モードに係るパラメータセットがあるか否かを判定する。退避してあるパラメータセットがないと判定する場合、処理がS212に進む。これに対し、退避してあるパラメータセットがあると判定する場合には、CPU12は、再生制御部iに対して設定されているパラメータセットを、退避していたパラメータセットに書き戻す(S211)。その後、処理がS212に進む。
【0109】
S212では、CPU12は、iの値を現在のiの値に1を加えた値(次の再生制御部iを指す値)に変更し、処理をS213に進める。S213では、現在のiの値が15より大きいか否かを判定する。iの値が15より小さいと判定される場合には、処理がS210に戻る。iの値が15より大きいと判定される場合、図11の処理が終了する。
【0110】
以上のように、図11の処理によれば、波形メモリ103に記憶された楽音信号の再生中に、再生モードが割り当てられたパッドを押すと、再生制御部104の全てに関して、押されたパッドの再生モードのパラメータセットへの書き換えが行われ、対応するグレインについて、パッド対応の再生モードでの再生が行われる。その後、パッドの押圧を解除すると、再生制御部104の全てに対するパラメータセットの書き戻しが行われ、再生制御部104の再生モードが元に戻る。
【0111】
実施形態で説明した構成は、目的を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0112】
10・・・楽音処理装置
11・・・SoC
12・・・CPU
13・・・DSP
20・・・入力装置
23・・・ボタン群
24・・・パッド群
101・・・メインカウンタ
102・・・録音制御部
103・・・波形メモリ
104・・・再生制御部
105・・・サブカウンタ
110・・・ミキサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11