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特許7250196モータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の設定方法、および設定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-23
(45)【発行日】2023-03-31
(54)【発明の名称】モータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の設定方法、および設定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/20 20160101AFI20230324BHJP
   H02P 31/00 20060101ALI20230324BHJP
【FI】
H02K11/20
H02P31/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022073021
(22)【出願日】2022-04-27
【審査請求日】2022-12-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】小森 智裕
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-340520(JP,A)
【文献】特開2005-204415(JP,A)
【文献】特開2002-51504(JP,A)
【文献】特開平11-150917(JP,A)
【文献】特開平11-148819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 11/20
H02P 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置であって、
複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル、を含み、
複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出部と、
前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定部と、
を有してなる、
モータ軸受摩耗監視装置。
【請求項2】
前記除算値と、前記ロータの前記スラスト方向の位置と、の対応関係を示す第1対応関係情報を記憶する記憶部、を有してなり、
前記初期値設定部は、前記除算値算出部により算出された前記除算値と前記第1対応関係情報とに基づいて、前記初期値を設定する、
請求項1に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項3】
前記記憶部は、前記第1合成信号の前記信号電圧と前記第2合成信号の前記信号電圧との差分値と、前記ロータの前記スラスト方向の位置と、の対応関係を示す第2対応関係情報、を記憶し、
前記初期値設定部は、前記除算値算出部により算出された前記除算値と、前記第1対応関係情報と、前記第2対応関係情報と、に基づいて、前記初期値を設定する、
請求項2に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項4】
前記差分値と前記第2対応関係情報とに基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部、を有してなる、
請求項3に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項5】
前記除算値と前記第1対応関係情報とに基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部、を有してなる、
請求項2に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項6】
前記第1合成信号と前記第2合成信号それぞれに所定のオフセット値を減算し、減算後の前記第1合成信号と前記第2合成信号それぞれを増幅する作動増幅部と、
増幅後の前記第1合成信号と前記第2合成信号それぞれをデジタル信号に変換するA/D変換器と、
を有してなり、
前記オフセット値は、前記A/D変換器の入力電圧範囲に応じて決定される、
請求項1乃至5のいずれかに記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項7】
前記第1合成信号の前記信号電圧と、前記第2合成信号の前記信号電圧と、前記入力電圧範囲と、に基づいて、前記オフセット値を決定するオフセット値決定部、を有してなる、
請求項6に記載のモータ軸受摩耗監視装置。
【請求項8】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置の設定方法であって、
複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル、を含み、
複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出ステップと、
前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定ステップと、
を含む、
モータ軸受摩耗監視装置の設定方法。
【請求項9】
キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置が備えるプロセッサにより実行される設定プログラムであって、
複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル、を含み、
前記プロセッサを、
複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出部、および
前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定部、
として機能させる、
設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の設定方法、および設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
キャンドモータポンプは、ポンプとモータとが一体で、取扱液の漏洩が無い構造を有している。一般的に、キャンドモータポンプの回転構造部分(ロータ、回転軸、軸受、およびインペラ)は、取扱液で満たされるキャンに密封されている。そのため、キャンドモータポンプの内部構造は、外部から目視により監視できない。したがって、このような構造を有するキャンドモータポンプを効率よく運用するために、軸受の摩耗状態を監視する装置(以下「監視装置」という。)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている監視装置(モータ軸受摩耗監視装置)は、ステータの長手方向の両端に取り付けられた検出コイルを用いて、ロータの回転時の磁束変化を信号電圧値の変化として測定することにより、軸受の摩耗により生じるロータ(回転軸)のラジアル方向およびスラスト方向の変位を監視している。
【0004】
このような監視装置では、スラスト方向におけるロータの機械的な初期位置(ロータおよびステータの中心が一致する位置)と、スラスト方向の検出コイルの磁気的な中心位置(フロント側およびリア側の検出コイルの信号電圧値が一致する点:磁気中心)と、の間には、組立公差などに基づくずれが生じる。このずれ量は、ポンプごとに僅かに異なる固有値である。そのため、この初期位置における信号電圧値を、軸受が摩耗していない状態のロータの初期位置を示す値(初期値)として、ポンプごとに設定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-080103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
初期位置の信号電圧値を取得するためには、例えば、定格の運転条件でポンプを試験運転させ、検出コイルの検出信号の信号電圧値を測定する必要がある。そのためには、実際の取扱液に近い液(または、疑似的に水)の送液が必要である。このように、初期値の設定には、工数および時間が必要となる。
【0007】
本発明は、容易に初期値を設定可能なモータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の設定方法、および設定プログラムすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様におけるモータ軸受摩耗監視装置は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル、を含み、複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出部と、前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定部と、を有してなる。
【0009】
本発明の一実施形態におけるモータ軸受摩耗監視装置の設定方法は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置の設定方法であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル、を含み、複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出ステップと、前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定ステップと、を含む。
【0010】
本発明の一実施形態におけるモータ軸受摩耗監視装置の設定プログラムは、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置が備えるプロセッサにより実行される設定プログラムであって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル、を含み、前記プロセッサを、複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出部、および前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定部、として機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容易に初期値を設定可能なモータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の設定方法、および設定プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】キャンドモータポンプの側面図である。
図2図1のキャンドモータポンプが備えるモータ部の縦断面を示す模式断面図である。
図3図2のモータ部のA部を拡大した模式拡大断面図である。
図4】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。
図5図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える検出コイルの配置を示す模式斜視図である。
図6図5のB部を拡大した拡大斜視図である。
図7図5の検出コイルの検出信号の一例を示す模式図である。
図8図2のモータ部が備えるステータに対するロータのスラスト方向の位置と、2つの検出信号が合成された合成信号と、の関係を説明する模式図である。
図9図2のモータ部が備えるステータに対するロータのスラスト方向の位置と、除算値と、の対応関係を示す模式図である。
図10図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える記憶部に記憶されている情報の一例を示す模式図である。
図11図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える記憶部に記憶されている情報の別の一例を示す模式図である。
図12図4のモータ軸受摩耗監視装置が備える表示部の外観を示す模式図である。
図13図12の表示部のスラスト方向における表示態様を説明する模式図である。
図14図4のモータ軸受摩耗監視装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図15図14の動作に含まれる初期値設定処理の一例を示すフローチャートである。
図16図14の動作に含まれる摩耗量検出処理の一例を示すフローチャートである。
図17】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置の別の実施形態を示す機能ブロック図である。
図18図17のモータ軸受摩耗監視装置の動作に含まれる初期値設定処理の一例を示すフローチャートである。
図19図17のモータ軸受摩耗監視装置が備えるオフセット処理部による減算・増幅の一例を説明する模式図である。
図20図17のモータ軸受摩耗監視装置の動作に含まれる摩耗量検出処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、キャンドモータポンプのモータ軸受摩耗監視装置に、ロータのスラスト方向の変位を検出する出力コイルのうち、フロント側の検出コイルの合成信号の信号電圧とリア側の検出コイルの合成信号の信号電圧との比(除算値)を算出する機能、および、除算値に基づいて軸受が摩耗していない状態におけるロータの位置を示す初期値を設定する機能、を具備させることにより、駆動条件に依らず初期値を容易に設定可能とさせるものである。各用語の詳細は、後述される。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置(以下「本装置」という。)、モータ軸受摩耗監視装置の設定方法(以下「本方法」という。)、および設定プログラム(以下「本プログラム」という。)の実施の形態について説明する。各図において、同一の部材および要素については同一の符号が付され、重複する説明は省略する。
【0015】
●キャンドモータポンプ●
●キャンドモータポンプの構成
先ず、キャンドモータポンプの構成について説明する。
【0016】
図1は、キャンドモータポンプの側面図である。
同図は、説明の便宜上、キャンドモータポンプ1の上半部を断面図として示す。
【0017】
キャンドモータポンプ1は、取扱液の漏洩が無い構造を有し、特に、高温の液体、または危険性の高い液体(例えば、爆発性、引火性、または毒性を有する液体)の送液に用いられているポンプである。キャンドモータポンプ1は、ポンプ部2、モータ部3、アダプタ4、および本装置5を有してなる。
【0018】
キャンドモータポンプ1の構成のうち、ポンプ部2、モータ部3、およびアダプタ4の構成は、公知のキャンドモータポンプの構成と共通する。そのため、以下の説明において、ポンプ部2、モータ部3、およびアダプタ4の構成は、概略のみ説明され、詳細な説明は省略される。
【0019】
以下の説明において、「フロント方向」はモータ部3に対してポンプ部2が位置する方向(前方)であり、「リア方向」はポンプ部2に対してモータ部3が位置する方向(後方)である。
【0020】
ポンプ部2は、取扱液を吸引・吐出する。ポンプ部2は、筐体20、インペラ21、ポンプ室22、吸引管部23、および吐出管部24を備える。筐体20は、インペラ21を収容するポンプ室22、ポンプ室22に吸引される取扱液の経路である吸引管部23、および、ポンプ室22から吐出される取扱液の経路である吐出管部24を構成している。ポンプ室22は、吸引管部23および吐出管部24に連通している。
【0021】
モータ部3は、所定の駆動条件(例えば、駆動電圧:200V、駆動周波数:60Hz)で駆動し、ポンプ部2のインペラ21を回転させる。モータ部3は、筐体30、回転軸31、2つの軸受32,33、2つのスラストワッシャ34,35、ロータ36、ステータ37、キャン38、およびターミナル端子39を備える。モータ部3は、本発明におけるモータの一例である。
【0022】
図2は、モータ部3の縦断面を示す模式断面図である。
図3は、図2のモータ部3のA部を拡大した模式拡大断面図である。
【0023】
筐体30は、ステータ37およびキャン38を液密に収容している。
【0024】
回転軸31は、ロータ36の回転により回転し、回転動力をインペラ21に伝達する。回転軸31の形状は、円柱状である。回転軸31は、ロータ36に挿通されて、固定されている。回転軸31の前端部はポンプ室22(図1参照)内に突出し、同前端部にはインペラ21が取り付けられている。回転軸31は、回転軸31のフロント部およびリア部を保護する円筒状のスリーブ31a,31bを備える。
【0025】
以下の説明において、「スラスト方向」は回転軸31の軸方向であり、「ラジアル方向」は回転軸31の半径方向であり、「周方向」は回転軸31の円周方向である。
【0026】
軸受32は、ロータ36のフロント方向に配置され、回転軸31を回転自在に支持している。軸受33は、ロータ36のリア方向に配置され、回転軸31を回転自在に支持している。軸受32,33は、例えば、転がり軸受である。スラストワッシャ34は、回転軸31のうち、軸受32とロータ36との間に取り付けられ、回転軸31のフロント方向への移動を制限している。スラストワッシャ35は、回転軸31のうち、軸受33とロータ36との間に取り付けられ、回転軸31のリア方向への移動を制限している。
【0027】
軸受32,33とスラストワッシャ34,35との間には、長さL1の間隔が形成されている。軸受32,33とスリーブ31a,31bとの間には、長さL2の間隔が形成されている。
【0028】
ロータ36は、ステータ37に生じる回転磁界により回転する。ロータ36の形状は、円筒状である。ロータ36は、周方向においてロータ36の外周縁部に等間隔で埋設されている複数(本実施の形態では28個)の棒状のロータバー36aを備える。軸受32,33が摩耗していない状態(未摩耗状態)では、ロータ36は、ステータ37に対して初期位置に配置されている。本実施の形態において、「初期位置」は、スラスト方向およびラジアル方向において、ステータ37の中心とロータ36の中心とが一致している位置である。
【0029】
ステータ37は、ロータ36を回転させる回転磁界を生成する。ステータ37の形状は、略円筒状である。ステータ37は、ステータコア37a、および複数のモータ巻線37bを備える。
【0030】
ステータコア37aは、モータ巻線37bを保持する。ステータコア37aの形状は、円筒状である。ステータコア37aは、複数の歯部37c(図6参照。以下同じ。)を備える。
【0031】
歯部37cは、モータ巻線37bが挿通されるスロット37d(図6参照。以下同じ。)を形成する。周方向において、歯部37cは、ステータコア37aの内周面に等間隔で配置されている。モータ巻線37bは、スロット37dに挿通され、ターミナル端子39を介して、例えば、インバータなどの電源装置(不図示)に接続されている。
【0032】
キャン38は、回転軸31、軸受32,33、スラストワッシャ34,35、およびロータ36を液密に収容している。キャン38の形状は、円筒状である。吸引管部23から導入された取扱液の一部は、キャン38内に導入され、軸受32,33およびモータ部3の冷却に用いられ、吐出管部24に排出される。
【0033】
図1に戻る。
アダプタ4は、ポンプ部2のリア側の端部とモータ部3のフロント側の端部とに接続され、ポンプ部2とモータ部3とを連結している。
【0034】
本装置5は、ステータ37に対するロータ36の機械的な位置変化に対応する磁束変化を検出することにより、回転軸31を支持する軸受32,33の摩耗状態を監視する。本装置5の具体的な構成は、後述される。
【0035】
●モータ軸受摩耗監視装置(1)●
●モータ軸受摩耗監視装置(1)の構成
次に、本装置5の構成について説明する。以下の説明において、図1図3は適宜参照される。
【0036】
図4は、本装置5の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【0037】
本装置5は、8つの検出コイルC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8、接続部50、信号処理回路51a,51b,51c,51d、A/D変換器52、制御部53、記憶部54、表示部55、D/A変換器56、およびオフセット処理部57を備える。A/D変換器52、制御部53およびD/A変換器56は、例えば、マイクロコンピュータにより構成されている。
【0038】
図5は、検出コイルC1~C8の配置を示す模式斜視図である。
図6は、図5のB部を拡大した拡大斜視図である。
【0039】
検出コイルC1~C8は、ステータ37に対するロータ36の位置変化(変位)に対応する磁束変化を検出し、磁束変化を示す検出信号を生成・出力する。ロータ36は、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量に応じて回転軸31と共にラジアル方向に変位し、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量に応じて回転軸31と共にスラスト方向に変位する。すなわち、ロータ36の変位量は、軸受32,33の摩耗量とみなすことができる。そのため、本装置5は、検出コイルC1~C8を用いてロータ36の変位量を検出することにより、軸受32,33の摩耗量を検出できる。検出コイルC1~C8の形状は、扁平なボビン状である。検出コイルC1~C8は、ステータ37のフロント側およびリア側の端部の歯部37cに形成されている切欠き37eに嵌め込まれている。
【0040】
周方向において、検出コイルC1~C4は、ステータ37の歯部37cのフロント側の端部に等間隔(90°間隔)で取り付けられている。検出コイルC1は検出コイルC3に対して180°の位置に向かい合うように配置され、検出コイルC2は検出コイルC4に対して180°の位置に向かい合うように配置されている。一方、周方向において、検出コイルC5~C8は、ステータ37の歯部37cのリア側の端部に等間隔(90°間隔)で取り付けられている。検出コイルC5は検出コイルC7に対して180°の位置に向かい合うように配置され、検出コイルC6は検出コイルC8に対して180°の位置に向かい合うように配置されている。
【0041】
図7は、検出信号の一例を示す模式図である。
【0042】
同図の横軸はロータ36の回転角を示し、縦軸は検出コイルC1~C8の誘導起電力の信号電圧(信号レベル)を示している。検出コイルC1~C8の検出信号は、モータ部3の主磁束の変化に対応する波形(以下「基本波成分」という。)、および、ロータ36のロータバー36aに流れる誘導電流により発生する磁束の変化に対応する波形(以下「高調波成分」という。)を含んでいる。基本波成分はモータ部3の駆動電圧により発生し、その周波数は駆動電圧の駆動周波数と同じである。高調波成分はロータバー36aに流れる誘導電流により発生し、その周波数はロータ36の回転およびロータバー36aの数により定まる。すなわち、例えば、次の条件(駆動周波数:60Hz、ロータバー36aの数:28個)では、ロータ36が1回転する間に検出コイルC1~C8それぞれはロータバー36aによる磁束の変化を28回検出する。そのため、高調波成分の周波数は、60Hz×28=1.68kHzとなる。このように、基本波成分は駆動周波数に基づいて定まり、高調波成分はロータ36の回転、駆動周波数、およびロータバー36aの数に基づいて定まる。
【0043】
検出コイルC1,C3,C5,C7は、軸受32,33とスリーブ31a、31bとの間の間隔(L2)が広がることによるロータ36のラジアル方向の変位に対応する磁束変化を検出することにより、ロータ36のラジアル方向の変位量(すなわち、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量)を検出する。検出コイルC1,C3は一組のラジアル検出コイルを構成し、それぞれの検出信号が打ち消し合うように(差分が得られるように)接続されている。検出コイルC5,C7は他の一組のラジアル検出コイルを構成し、それぞれの検出信号が打ち消し合うように接続されている。
【0044】
軸受32の摩耗によりロータ36のフロント側が初期位置からラジアル方向に変位すると、高調波成分の信号レベルは、一組となる検出コイルC1,C3のうち、ロータ36が近づく側(例えば、検出コイルC1)では増加し、ロータ36が遠ざかる側(例えば、検出コイルC3)では減少する。そのため、検出コイルC1,C3それぞれの検出信号がその差分が得られるように合成されると、その合成信号(以下「合成信号(C1C3)」という。)では、変位量に応じて高調波成分の信号電圧(信号レベル)の差分が増加する。この差分により、ロータ36のフロント側のラジアル方向の変位量が検出される。すなわち、同差分は軸受32のラジアル方向の摩耗量を示しており、同差分の値は電圧値で表される。同様に、検出コイルC5,C7それぞれの検出信号の合成信号(以下「合成信号(C5C7)」という。)では、変位量に応じて高調波成分の信号電圧の差分が増加する。この差分により、ロータ36のリア側のラジアル方向の変位量が検出される。すなわち、同差分は軸受33のラジアル方向の摩耗量を示しており、同差分の値は電圧値で表される。したがって、例えば、ロータ36のラジアル方向の変位が無いとき、各合成信号(C1C3,C5C7)において、基本波成分および高調波成分は打ち消し合い、その信号電圧値はほぼ「0」となる。一方、ロータ36のラジアル方向の変位が有るとき、各合成信号(C1C3,C5C7)において、変位量に応じて高調波成分の差分値(信号電圧値)は増加する。また、検出コイルC1,C3は検出コイルC5,C7とは独立しているため、合成信号(C1C3)と合成信号(C5C7)それぞれの値を比較することにより、軸受32,33の偏摩耗(一方が他方よりも摩耗している状態)が検出可能である。
【0045】
検出コイルC2,C4,C6,C8は、軸受32,33とスラストワッシャ34,35との間の間隔(L1)が広がることによるロータ36のスラスト方向の変位に対応する磁束変化を検出することにより、ロータ36のスラスト方向の変位量(すなわち、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量)を検出する。検出コイルC2,C4は一組のスラスト検出コイルを構成し、互いの検出信号が重畳されるように接続されている。そのため、検出コイルC2,C4それぞれからの検出信号が重畳するように合成された合成信号(C2C4)が生成される。検出コイルC6,C8は他の一組のスラスト検出コイルを構成し、互いの検出信号が重畳されるように接続されている。そのため、検出コイルC6,C8それぞれからの検出信号が重畳するように合成された合成信号(C6C8)が生成される。
【0046】
図8は、ステータ37に対するロータ36のスラスト方向の位置と、各合成信号(C2C4,C6C8)と、の関係を説明する模式図である。
同図の縦軸は信号電圧(信号レベル)を示し、横軸はスラスト方向におけるロータ36の位置を示している。
【0047】
ロータ36が初期位置からリア側に変位すると、ラジアル方向において、検出コイルC2,C4とロータ36との重なり(後述されるオーバーラップ量)が小さくなるが、検出コイルC6,C8とロータ36との重なりは変わらない。その結果、合成信号(C2C4)の基本波成分の信号レベルは低下するが、合成信号(C6C8)の基本波成分の信号電圧(信号レベル)は殆ど変化しない。同様に、ロータ36が初期位置からフロント側に変位すると、合成信号(C6C8)の基本波成分の信号電圧は低下するが、合成信号(C2C4)の基本波成分の信号電圧は殆ど変化しない。そのため、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との合成となる差分により、ロータ36のスラスト方向の変位量が検出できる。すなわち、同差分は、ロータ36のスラスト方向の変位量、すなわち、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を示しており、同差分の値は電圧値で表される。したがって、例えば、ロータ36のスラスト方向の変位が無いとき、差分を示す信号において基本波成分および高調波成分が打ち消し合い、その電圧値はほぼ「0」となる。一方、ロータ36のスラスト方向の変位が有るとき、差分を示す信号において基本波成分の差分値(電圧値)は変位量に応じて増加する。ここで、信号電圧の低下は、検出コイルC2,C4,C6,C8がロータ36の端部からの磁束密度分布の影響を受けるため、ロータ36の変位に対して線形に変化せず、ロータ36の位置に対してやや上に凸の曲線状に変化する。合成信号(C2C4)は本発明における第1合成信号の一例であり、合成信号(C6C8)は本発明における第2合成信号の一例である。
【0048】
図4に戻る。
接続部50は、検出コイルC1~C8が接続されているインターフェイスである。
【0049】
信号処理回路51a~51dは、例えば、フィルタ回路、整流回路、および積分回路により構成されている。信号処理回路51a~51dは、合成信号(C1C3,C5C7,C2C4,C6C8)に所定の信号処理(フィルタ処理、整流、AC-DC変換)を実行して、合成信号(C1C3,C5C7,C2C4,C6C8)を交流から直流に変換する。信号処理回路51aは検出コイルC1,C3に接続され、信号処理回路51bは検出コイルC5,C7に接続され、信号処理回路51cは検出コイルC2,C4に接続され、信号処理回路51dは検出コイルC6,C8に接続されている。
【0050】
A/D変換器52は、信号処理回路51a~51d、およびオフセット処理部57に接続され、それぞれから入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して、制御部53に出力する。A/D変換器52は、例えば、12ビットの分解能を有するアナログ-デジタルコンバータである。
【0051】
制御部53は、本装置5全体の動作を制御する。制御部53は、例えば、CPU(Central Processing Unit)53aなどのプロセッサ、CPU53aの作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)53bなどの揮発性メモリ、および、本プログラムや他の制御プログラムなどの各種情報を記憶するROM(Read Only Memory)53cなどの不揮発性メモリ、により構成されている。制御部53は、除算値算出部530、初期値設定部531、摩耗量検出部532、および表示制御部533を備える。
【0052】
制御部53では、本プログラムが動作して、本プログラムが本装置5のハードウェア資源と協働して、後述する各方法を実現している。また、制御部53を構成しているプロセッサ(CPU53a)に本プログラムを実行させることにより、本プログラムは同プロセッサを除算値算出部530、初期値設定部531、摩耗量検出部532、および表示制御部533として機能させて、同プロセッサに本方法を実行させることができる。
【0053】
除算値算出部530は、複数の検出コイルC1~C8のうち、一組となる検出コイルC2,C4の合成信号(C2C4)の信号電圧を、他の一組となる検出コイルC6,C8の合成信号(C6C8)の信号電圧により除算することにより、除算値、すなわち、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との比を算出する。除算値算出部530の具体的な動作および除算値については、後述される。
【0054】
「除算値」は、後述のとおり、駆動条件(駆動周波数、駆動電圧、駆動電流など)の影響を含まない、ロータ36のスラスト方向の変位情報のみを示す情報となる。
【0055】
ここで、ロータ36のスラスト方向の変位「f(x)」は、検出コイルC2,C4,C6,C8内を通る磁束の時間変化分に比例し、例えば、次の式(1)のように表すことができる。
【0056】
f(x)∝dφ/dt∝磁気回路形状(磁束密度分布)×オーバーラップ量・・(1)
【0057】
式(1)において、「dφ/dt」は検出コイル内の磁束密度の変化量であり、その磁束「φ」はその磁束密度分布とオーバーラップ量に比例する。また、「磁気回路」は、ロータ36およびステータ37の形状、ステータ37に対するロータ36の位置などにより定まるモータ部3ごとに固有の磁気回路である。
【0058】
前述のとおり、ロータ36がスラスト方向に変位すると、各合成信号(C2C4,C6C8)の基本波成分は増減するが、高調波成分は増減しない。また、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)とは同相である。そのため、2つの合成信号(C2C4,C6C8)間において除算値(比)が算出されると、高調波成分は消え、同除算値は、ロータ36のスラスト方向の変位を示す基本波成分の信号電圧の比率を示すことになる。ここで、基本波成分の信号電圧の比率は、例えば、次の式(2)のように表すことができる。
【0059】
f1(iω、x)/f2(iω、x)≒iω×f1(x)/iω×f2(x)
=f1(x)/f2(x)・・・・(2)
【0060】
式(2)において、「f1(x)」はフロント側の変位であり、「f2(x)」はリア側の変位であり、「i」は検出コイルC2,C4,C6,C8に流れる電流であり、「ω」は角速度である。また、磁気回路の磁気特性が線形に変化する範囲内では、「iω」の項は検出コイルC2,C4,C6,C8内を通る磁束の時間変化分に比例し、次式(3)に表される関係が成立する。
【0061】
iω∝dφ/dt・・・・(3)
【0062】
式(3)に示されるとおり、「iω」の項は磁束の時間変化分に比例し、磁束は駆動条件により変動する。したがって、「iω」の項は、駆動条件により変動する。そして、式(2)に示されるとおり、2つの合成信号(C2C4,C6C8)間の除算値が算出されることにより、駆動条件により変動する「iω」の項が消え、除算値には変位を示す情報のみが残り、同情報が抽出される。
【0063】
図9は、ロータ36のスラスト方向の位置と、除算値と、の対応関係を示す模式図である。同図は、説明の便宜上、3つの駆動条件(駆動周波数:40Hz、50Hz、60Hz)における各合成信号(C2C4,C6C8)の電圧値(差分値)も示している。同図の縦軸は除算値および電圧値を示し、横軸はスラスト方向におけるロータ36の位置を示している。
【0064】
図9に示されるとおり、除算値はロータ36の位置に応じて変動し、その変動パターンは磁器回路に起因する概ね線形の特性を示す。そして、合成信号(C2C4)の信号電圧値と合成信号(C6C8)の信号電圧値とが一致する点(以下「磁気中心」という。)において、除算値は「1」となる。また、3つの駆動条件それぞれにおいて、除算値の変動パターンは同じになる。すなわち、除算値は、駆動条件に依らず、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の位置を示す指標として機能し得る。したがって、本装置5は、いずれかの駆動条件において除算値を求めることにより、磁気中心に対するロータ36の現在位置を推定することができる。換言すれば、本装置5は、除算値に基づいて、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の現在位置、および、ロータ36の位置に対する磁気中心の現在位置を推定することができる。
【0065】
なお、本発明において、除算値算出部530は、検出コイルC6,C8の合成信号(C6C8)の信号電圧を、検出コイルC2,C4の合成信号(C2C4)の信号電圧により除算することにより、除算値を算出していてもよい。この場合、後述する第1対応関係情報により得られる変動パターンは、磁気中心を中心として、図9に示される変動パターンに対してフロント側とリア側とが反転した形状となる。
【0066】
初期値設定部531は、初期位置における除算値に基づいて、初期値を設定する。初期値設定部531の具体的な動作は、後述される。
【0067】
「初期値」は、未摩耗状態におけるロータ36のスラスト方向の位置(初期位置)を、軸受32,33の摩耗量「0」の位置として表示部55に表示させるために、本装置5に設定されるパラメータである。初期値は、未摩耗状態における合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分値で表され、未摩耗状態におけるロータ36のスラスト方向の位置を示している。
【0068】
摩耗量検出部532は、一組となる検出コイルC1,C3および他の一組となるC5,C7それぞれから出力された検出信号同士の差分(各合成信号(C1C3,C5C7))に基づいて、ロータ36のフロント側およびリア側のラジアル方向の変位量を検出することにより、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量を検出する。また、摩耗量検出部532は、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分値に基づいて、ロータ36のスラスト方向の変位量を検出することにより、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。摩耗量検出部532の具体的な動作は、後述される。
【0069】
表示制御部533は、後述される表示情報、および摩耗量検出部532により検出された摩耗量に基づいて、表示部55の摩耗量の表示を制御する。
【0070】
記憶部54は、本装置5の動作に必要な情報(例えば、第1対応関係情報、基準調整データなど)を記憶する。記憶部54は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)やフラッシュメモリなどの不揮発性メモリである。
【0071】
「第1対応関係情報」は、除算値と、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の位置と、の対応関係、すなわち、前述の変動パターンを示す情報である。第1対応関係情報は、スラスト方向の変位を検出する検出コイルC2,C4,C6,C8が検出する磁束密度の変化を示し、キャンドモータポンプ1の機種ごと(ロータ36およびステータ37の形状、大きさなどの磁気回路形状ごと)に定まる機種固有の情報である。本実施の形態では、第1対応関係情報は、テーブルとして記憶部54に記憶されている。
【0072】
図10は、記憶部54に記憶されている情報(第1対応関係情報)の一例を示す模式図である。同図は、除算値が「1」のときロータ36は磁気中心を示す「0」に位置していることを示している。また、同図は、ロータ36の位置が除算値ごとに定められていることを示している。
【0073】
なお、本発明において、記憶部54は、テーブルに代えて関数を第1対応関係情報として記憶していてもよい。
【0074】
図4に戻る。
「基準調整データ」は、検出コイルC1~C8の検出信号に基づいて、本装置5がロータ36の変位量(軸受32,33の摩耗量)を正確に検出するための基準となるパラメータ群により構成される情報である。基準調整データは、例えば、第2対応関係情報、オフセット情報、第3対応関係情報、および表示情報などを含む。基準調整データは、例えば、所定の基準駆動条件おいて、キャンドモータポンプ1の出荷前に予め測定または設定され、記憶部54に記憶されている。「基準駆動条件」は、例えば、キャンドモータポンプ1の設置環境に応じた駆動条件(例えば、駆動周波数:60Hz、駆動電圧:200V)である。
【0075】
「第2対応関係情報」は、基準駆動条件において、ステータ37に対するロータ36のスラスト方向の位置(変位量)と、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分値(電圧値)と、の対応関係を示す情報である。「第2対応関係情報におけるロータ36のスラスト方向の位置」は、初期位位置(後述される機械中心)、ロータ36を初期位置からフロント側に最大距離変位させた位置(以下「フロント位置」という。)、および、ロータ36を初期位置からリア側に最大距離変位させた位置(以下「リア位置」という。)である。「最大距離」は、例えば、初期位置と、軸受32,33が最大変位量摩耗したときのロータ36の位置と、の間の距離である。前述のとおり、ステータ37に対するロータ36のスラスト方向の変位量は、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を意味する。すなわち、第2対応関係情報は、基準駆動条件における軸受32,33のスラスト方向の摩耗量と差分値(電圧値)との対応関係を示している。以下の説明において、初期位置の差分値はスラストセンター値、フロント位置の差分値はフロント値、リア位置の差分値はリア値、と記載される。
【0076】
「オフセット情報」は、第1オフセット処理において、合成信号(C2C4)に加算または減算されるオフセット電圧を示す情報(例えば、電圧値)である。オフセット情報には、初期値が設定されている。すなわち、オフセット情報は、本発明における初期値の一例である。
【0077】
「第1オフセット処理」は、基準駆動条件において、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分値がロータ36のスラスト方向の変位量(軸受32,33のスラスト方向の摩耗量)を正しく示すように、合成信号(C2C4)にオフセット電圧を加算または減算する処理を意味する。
【0078】
「第3対応関係情報」は、基準駆動条件において、ステータ37に対するロータ36のラジアル方向の位置(変位量)と、各合成信号(C1C3,C5C7)の電圧値(差分値)と、の対応関係を示す情報である。「第3対応関係情報におけるロータ36のラジアル方向の位置」は、初期位置、および、軸受32,33がラジアル方向に最大変位量摩耗したときのロータ36の位置(以下「ラジアル位置」という。)である。前述のとおり、ステータ37に対するロータ36のラジアル方向の変位量は、軸受32,33のラジアル方向の摩耗量を意味する。すなわち、第3対応関係情報は、基準駆動条件における軸受32,33のラジアル方向の摩耗量と差分値(電圧値)との対応関係を示している。以下の説明において、初期位置の差分値はラジアルセンター値、ラジアル位置の差分値はラジアル値、と記載される。
【0079】
「表示情報」は、ステータ37に対するロータ36の変位量(軸受32,33の摩耗量)と、表示部55の各LED(Light Emitting Diode)の表示態様と、の関係を示す情報である。表示情報において、変位量(摩耗量)は、最大変位量(最大摩耗量)に対する割合で表される。
【0080】
なお、本発明において、記憶部54は、除算値と、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の位置と、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分値(電圧値)と、の対応関係を1つの情報として記憶していてもよい。
【0081】
図11は、記憶部54に記憶されている情報(基準調整データ)の一例を示す模式図である。
同図は、基準調整データの一部を例示している。同図は、基準調整データとして、例えば、第2対応関係情報、オフセット情報、第3対応関係情報、および表示情報が関連付けられて記憶部54に記憶されていることを示している。
【0082】
同図は、例えば、オフセット情報の電圧値(初期値)が「X1」であり、フロント値が「F1」であり、スラストセンター値が「SC1」であり、リア値が「R1」であり、ラジアルセンター値が「RC1」であり、ラジアル値が「RR1」である、ことを示している。
【0083】
図12は、表示部55の外観を示す模式図である。
【0084】
表示部55は、軸受32,33の摩耗量および回転方向を表示する。表示部55は、例えば、ラジアル方向およびスラスト方向の摩耗量、および回転方向を表示する複数のLEDで構成されている。表示部55は、ラジアル方向およびスラスト方向の摩耗量を、「緑1」「緑2」「緑3」「黄」「赤」の5段階で表示し、回転方向を点灯(正転)および消灯(逆転)で表示している。
【0085】
図13は、表示部55のスラスト方向における表示態様を説明する模式図である。
同図の縦軸は差分値(電圧値)を示し、横軸はロータ36のスラスト方向の変位量(軸受32,33のスラスト方向の摩耗量)を示している。同図の直線は、スラストセンター値とフロント値、および、スラストセンター値とリア値を結んだ線であり、第2対応関係情報を示している。合成信号(C2C4,C6C8)の差分値と摩耗量とは比例するため、図13に示されるとおり、差分値に基づいて、摩耗量は一意に特定でき、表示部55の表示態様も特定できる。軸受32,33の最大変位量(最大摩耗量)を「100%」としたとき、表示部55は、例えば、摩耗量が「Y1%未満」で1番目の「緑1」を点灯させ、摩耗量が「Y1%以上Y2%未満」で2番目の「緑2」を点灯させ、摩耗量が「Y2%以上Y3%未満」で3番目の「緑3」を点灯させ、摩耗量が「Y3%以上Y4%未満」で「黄」を点灯させ、摩耗量が「Y4%以上」で「赤」を点灯させる。
【0086】
図4に戻る。
D/A変換器56は、制御部53から入力されるオフセット情報(初期値)をデジタル信号からアナログ信号に変換する。
【0087】
オフセット処理部57は、基準調整データに含まれるオフセット情報(初期値)に基づいて、第1オフセット処理を実行する。オフセット処理部57は、例えば、オフセット電圧生成回路、演算回路、および差分絶対値変換回路により構成されている。オフセット処理部57は、オフセット電圧生成回路においてオフセット情報に基づいてオフセット電圧を生成し、演算回路において合成信号(C2C4)にオフセット電圧を加算または減算することにより同合成信号(C2C4)に第1オフセット処理を実行する。また、オフセット処理部57は、演算回路において第1オフセット処理後の合成信号(C2C4)と、合成信号(C6C8)と、の差分値を算出(生成)し、差分絶対値変換回路において差分値を絶対値に変換する。絶対値は、制御部53に入力される。
【0088】
●キャンドモータポンプ(モータ軸受摩耗監視装置(1))の動作
次に、キャンドモータポンプ1の動作について、本装置5の動作を中心に以下に説明する。以下の説明において、図1図13は、適宜参照される。
【0089】
図14は、本装置5の動作の一例を示すフローチャートである。
【0090】
本装置5は、所定のタイミングで初期値設定処理(S1)を実行し、キャンドモータポンプ1の動作中には定期的(例えば、1secごと)に摩耗量検出処理(S2)を実行する。「所定のタイミング」は、例えば、キャンドモータポンプ1の出荷前のテスト運転時、設置場所での初動時、または、メンテナンス時などの初期値を設定すべきタイミングである。
【0091】
●初期値設定処理
図15は、初期値設定処理(S1)の一例を示すフローチャートである。
【0092】
「初期値設定処理(S1)」は、所定のタイミングで、本装置5が除算値を取得し、除算値に基づいて初期値を取得・設定する処理である。本実施の形態において、初期値設定処理(S1)は、本方法の一例である。
【0093】
初期値設定処理(S1)の前段階として、キャンドモータポンプ1には所定の駆動条件の電源が投入され、ロータ36は回転している。このとき、軸受32,33は未摩耗状態であり、ロータ36は初期位置に位置している。スラスト方向の変位を検出する検出コイルC2,C4,C6,C8からの検出信号(各合成信号(C2C4,C6C8))は信号処理回路51a~51dにおいて交流から直流に変換され、A/D変換器52においてアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御部53(除算値算出部530)に入力される。
【0094】
なお、初期値設定処理(S1)において、キャンドモータポンプ1により送液される液体は、実際の取扱液に限定されず、水でもよい。また、キャンドモータポンプ1は送液せず、モータ部3が空転していてもよい。さらに、駆動条件は、キャンドモータポンプ1が正常運転可能な条件であればよく、定格条件に限定されない。
【0095】
先ず、除算値算出部530は、合成信号(C2C4)の信号電圧を、合成信号(C6C8)の信号電圧で除算することにより、除算値を算出する(S11:除算値算出ステップ)。
【0096】
次いで、初期値設定部531は、算出された除算値を用いて、記憶部54に記憶されている第1対応関係情報を参照して、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の現在位置を取得(推定)する(S12)。
【0097】
次いで、初期値設定部531は、取得された現在位置を用いて、記憶部54に記憶されている第2対応関係情報を参照して、ロータ36の現在位置に対応する電圧値を取得する(S13)。
【0098】
次いで、初期値設定部531は、取得された電圧値により、記憶部54のオフセット情報を書き換える(S14:初期値設定ステップ)。その結果、オフセット情報(初期値)は、取得された電圧値に設定される。
【0099】
このように、本装置5は、2つの合成信号(C2C4,C6C8)間の除算値に基づいて、初期値を設定する。その結果、本装置5は、初期位置において合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分値の絶対値(電圧値)が「0」となるように、初期値を用いて合成信号(C2C4)の電圧値をオフセットすることにより、基準駆動条件に対応する摩耗量を正確に検出できる。
【0100】
●摩耗量検出処理
図16は、摩耗量検出処理(S2)の一例を示すフローチャートである。
【0101】
「摩耗量検出処理(S2)」は、合成信号(C1C3,C5C7,C2C4,C6C8)に基づいて、軸受32,33の摩耗量を検出する処理である。
【0102】
検出コイルC1~C8は、ロータ36の回転中、常に検出信号を出力している。ラジアル方向の変位を検出する検出コイルC1,C3,C5,C7からの合成信号(C1C3,C5C7)は信号処理回路51a,51bにおいて交流から直流に変換される。次いで、合成信号(C1C3,C5C7)は、A/D変換器52においてアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御部53(摩耗量検出部532)に入力される。
【0103】
スラスト方向の変位を検出する検出コイルC2,C4,C6,C8からの検出信号(合成信号(C2C4))は信号処理回路51c,51dにおいて交流から直流に変換される。次いで、合成信号(C2C4,C6C8)は、オフセット処理部57に入力される。オフセット処理部57において、合成信号(C2C4)には第1オフセット処理が実行される。また、第1オフセット処理後の合成信号(C2C4)と、合成信号(C6C8)と、の差分値の絶対値が算出される。第1オフセット処理後の合成信号(C2C4)、合成信号(C6C8)、および絶対値は、A/D変換器52においてアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御部53(摩耗量検出部532)に入力される。
【0104】
摩耗量検出処理(S2)において、摩耗量検出部532は、ラジアル方向の摩耗量の検出処理(S21)、および、スラスト方向の摩耗量の検出処理(S22)を個別に実行している。
【0105】
ラジアル方向の摩耗量の検出処理(S21)では、摩耗量検出部532は、合成信号(C1C3)の電圧値を用いて、記憶部54に記憶されている第3対応関係情報を参照して、軸受32の摩耗量を検出する。同様に、摩耗量検出部532は、合成信号(C5C7)の電圧値を用いて、記憶部54に記憶されている第3対応関係情報を参照して、軸受33の摩耗量を検出する。次いで、摩耗量検出部532は、両摩耗量を比較して、摩耗量の大きい方をラジアル方向の摩耗量として選択する。検出された摩耗量は、ログ情報として、例えば、記憶部54に記憶される。
【0106】
スラスト方向の摩耗量の検出処理(S22)では、摩耗量検出部532は、差分値の絶対値を用いて、記憶部54に記憶されている第2対応関係情報を参照して、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する。このとき、摩耗量検出部532は、第1オフセット処理後の合成信号(C2C4)、および合成信号(C6C8)の電圧値の大小関係に基づいて、摩耗の方向がフロント側かリア側かを特定する。検出された摩耗量は、ログ情報として、例えば、記憶部54に記憶される。
【0107】
次いで、表示制御部533は、検出された摩耗量に基づいて、表示部55の表示態様を決定し、決定された表示態様で表示部55に表示させる(S23)。
【0108】
このように、スラスト方向の摩耗量の検出処理(S22)では、初期値に基づくオフセット電圧による第1オフセット処理後の合成信号(C2C4)が用いられている。そのため、前述のとおり、摩耗量検出部532は、基準駆動周波数に対応するスラスト方向の摩耗量を検出できる。
【0109】
●まとめ(1)
以上説明した実施の形態によれば、本装置5は、複数の検出コイルC1~C8、除算値算出部530、および初期値設定部531を備える。検出コイルC1~C8は、ロータ36のスラスト方向の変位を検出する検出コイルC2,C4,C6,C8を含む。除算値算出部530は、一組となる検出コイルC2,C4それぞれの合成信号(C2C4)の信号電圧を、他の一組となる検出コイルC6,C8それぞれの合成信号(C6C8)の信号電圧により除算することにより除算値を算出する。初期値設定部531は、未摩耗状態におけるロータ36のスラスト方向の位置を初期位置としたとき、初期位置における除算値に基づいて初期値を設定する。この構成によれば、本装置5は、駆動条件の影響を受けず変位のみを示す情報として機能する除算値に基づいて、初期位置に対応する初期値を設定する。そのため、本装置5は、駆動条件に依らず、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の現在位置、および、ロータ36の位置に対する磁気中心の現在位置を推定し、初期値を設定できる。その結果、本装置5では、初期値を設定するための試験運転の駆動条件は自由(例えば、空転でもよい。)に設定可能となり、同試験運転に必要な工数および時間は低減され、初期値の設定が容易になる。
【0110】
また、以上説明した実施の形態によれば、本装置5は、第1対応関係情報を記憶する記憶部54を備える。初期値設定部531は、除算値と第1対応関係情報とに基づいて、初期値を設定する。この構成によれば、本装置5は、駆動条件に依らず、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の現在位置、および、ロータ36の位置に対する磁気中心の現在位置を正確に推定できる。
【0111】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、記憶部54は、第2対応関係情報を記憶している。初期値設定部531は、除算値、第1対応関係情報、および第2対応関係情報に基づいて、初期値を設定する。この構成によれば、本装置5は、ロータ36のスラスト方向における現在位置を推定し、現在位置に応じた初期値を設定できる。その結果、本装置5は、初期位置において合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分値の絶対値(電圧値)が「0」となるように、初期値を用いて合成信号(C2C4)の電圧値をオフセットすることにより、基準駆動条件に対応する摩耗量を正確に検出できる。
【0112】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、本装置5は、合成信号(C2C4)と合成信号(C6C8)との差分値および第2対応関係情報に基づいて、軸受32,33のスラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部532を備える。この構成によれば、本装置5は、第2対応関係情報に対応する基準駆動条件において、正確な摩耗量を検出できる。
【0113】
なお、本発明において、除算値の説明に用いられている式(1)~(3)は一例であり、除算値は異なる態様で表されている式で説明されていてもよい。
【0114】
●モータ軸受摩耗監視装置(2)●
次に、本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置の別の実施の形態(以下「第2実施形態」という。)について、先に説明した実施の形態(以下「第1実施形態」という。)とは異なる部分を中心に説明する。第2実施形態では、除算値の算出に用いられる合成信号に対する信号処理が、第1実施形態と異なる。以下の説明において、第1実施形態と共通する要素については、同一の符号が付され、その説明は省略される。
【0115】
●モータ軸受摩耗監視装置(2)の構成
図17は、本装置の別の実施形態(第2実施形態)を示す機能ブロック図である。
【0116】
本装置5Aは、8つの検出コイルC1~C8、接続部50、信号処理回路51a~51d、A/D変換器52、制御部53A、記憶部54、表示部55、D/A変換器56、およびオフセット処理部58を備える。A/D変換器52、制御部53AおよびD/A変換器56は、例えば、マイクロコンピュータにより構成されている。
【0117】
制御部53Aは、本装置5A全体の動作を制御する。制御部53Aは、例えば、CPU53aなどのプロセッサ、CPU53aの作業領域として機能するRAM53bなどの揮発性メモリ、および、本プログラムや他の制御プログラムなどの各種情報を記憶するROM53cなどの不揮発性メモリ、により構成されている。制御部53Aは、除算値算出部530、初期値設定部531、摩耗量検出部532、表示制御部533、およびオフセット値決定部534を備える。
【0118】
制御部53Aでは、本プログラムが動作して、本プログラムが本装置5Aのハードウェア資源と協働して、後述する各方法を実現している。また、制御部53Aを構成しているプロセッサ(CPU53a)に本プログラムを実行させることにより、本プログラムは同プロセッサを除算値算出部530、初期値設定部531、摩耗量検出部532、表示制御部533、およびオフセット値決定部534として機能させて、同プロセッサに本方法を実行させることができる。
【0119】
オフセット値決定部534は、合成信号(C2C4)の信号電圧と、合成信号(C6C8)の信号電圧と、A/D変換器52の入力電圧範囲と、に基づいて、オフセット値を決定する。オフセット値決定部534の具体的な動作は、後述される。
【0120】
「オフセット値」は、除算値の算出に用いられる各合成信号(C2C4,C6C8)のデジタル変換において、A/D変換器52の入力電圧範囲のフルスケールに近い範囲が用いられるように、オフセット処理部58において各合成信号(C2C4,C6C8)から減算される電圧値である。
【0121】
オフセット処理部58は、各合成信号(C2C4,C6C8)にオフセット値を減算する第2オフセット処理を実行し、第2オフセット処理後の各合成信号(C2C4,C6C8)を増幅して、出力する。オフセット処理部58は、差動入力増幅器581,582、および増幅回路583,584を備える。オフセット処理部58は、本発明における作動増幅部の一例である。
【0122】
差動入力増幅器581は、信号処理回路51cおよびD/A変換器56に接続され、合成信号(C2C4)からオフセット値を減算し、減算後の合成信号(C2C4)を所定の倍率に増幅して出力する。差動入力増幅器582は、信号処理回路51dおよびD/A変換器56に接続され、合成信号(C6C8)からオフセット値を減算し、減算後の合成信号(C6C8)を所定の倍率に増幅して出力する。増幅回路583は、差動入力増幅器581に接続され、差動入力増幅器581の処理後の合成信号(C2C4)を所定の倍率に増幅してA/D変換器52に出力する。増幅回路584は、差動入力増幅器582に接続され、差動入力増幅器582の処理後の合成信号(C6C8)を所定の倍率に増幅してA/D変換器52に出力する。本実施の形態において、差動入力増幅器581,582および増幅回路583,584の増幅率は、数段階(例えば、1倍、2倍、4倍の3段階)に切替可能である。この場合、オフセット処理部58の増幅率は、例えば、1倍、2倍、4倍、8倍、16倍に切替可能である。オフセット処理部58の増幅率は、例えば、制御部53A(オフセット値決定部534)により制御される。
【0123】
●キャンドモータポンプ(モータ軸受摩耗監視装置(2))の動作
次に、キャンドモータポンプ1の動作について、本装置5Aの動作を中心に以下に説明する。以下の説明において、図1図3図4図13,および図16は、適宜参照される。
【0124】
本装置5Aは、所定のタイミングで、第1実施形態の初期値設定処理(S1)に代えて、初期値設定処理(S3)を実行する。また、本装置5Aは、キャンドモータポンプ1の動作中には定期的(例えば、1secごと)に、第1実施形態の摩耗量検出処理(S2)に代えて、摩耗量検出処理(S4)を実行する。
【0125】
●初期値設定処理
図18は、初期値設定処理(S3)のフローチャートである。
【0126】
「初期値設定処理(S3)」は、所定のタイミングで、本装置5Aがオフセット値を決定し、除算値を取得し、除算値に基づいて初期値を取得・設定する処理である。本実施の形態において、初期値設定処理(S3)は、本方法の一例である。
【0127】
初期値設定処理(S3)の前段階として、キャンドモータポンプ1には所定の駆動条件の電源が投入され、ロータ36は回転している。このとき、軸受32,33は未摩耗状態であり、ロータ36は初期位置に位置している。また、オフセット処理部58の増幅率は、例えば、1倍に設定されている。スラスト方向の変位を検出する検出コイルC2,C4,C6,C8からの検出信号(各合成信号(C2C4,C6C8))は信号処理回路51c,51dにおいて交流から直流に変換され、A/D変換器52においてアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御部53A(オフセット値決定部534)に入力される。
【0128】
なお、初期値設定処理(S3)において、キャンドモータポンプ1により送液される液体は、実際の取扱液に限定されず、水でもよい。また、キャンドモータポンプ1は送液せず、モータ部3が空転していてもよい。さらに、駆動条件は、キャンドモータポンプ1が正常運転可能な条件であればよく、定格条件に限定されない。
【0129】
先ず、オフセット値決定部534は、合成信号(C2C4)の信号電圧、合成信号(C6C8)の信号電圧、A/D変換器52の入力電圧範囲、およびオフセット処理部58の増幅率に基づいて、オフセット値を決定する(S31)。オフセット値決定部534は、例えば、オフセット処理部58の増幅率を最大(本実施の形態では4倍×4倍=16倍)に固定し、オフセット値を段階的に増加させることにより、A/D変換器52が確実に飽和しないオフセット値を最適なオフセット値として決定する。具体的には、オフセット値決定部534は、例えば、次式(4)を用いて、オフセット値「Vy」を決定する。
【0130】
(Vx-Vy)×A<Vz・・・・(4)
【0131】
式(4)において、「Vx」は合成信号(C2C4、C6C8)の信号電圧の値(電圧値)であり、「A」はオフセット処理部58の増幅率であり、「Vz」はA/D変換器52の入力電圧範囲である。ここで、入力電圧範囲は、予め、記憶部54に記憶されている。例えば、「Vx」が「1.0V」、「Vz」が「5.0V」、「A」が「16倍」のとき、Vy>0.69となる。この場合、オフセット値決定部534は、例えば、「16倍」を増幅率として決定すると共に、「0.7V」をオフセット値として決定する。決定されたオフセット値は、記憶部54に記憶されると共に、D/A変換器56においてデジタル信号からアナログ信号に変換され、オフセット処理部58の差動入力増幅器581,582に入力される。また、決定されたオフセット処理部58の増幅率は、記憶部54に記憶されると共に、オフセット処理部58に設定される。
【0132】
なお、本発明において、オフセット値決定部534は、オフセット値の増加に加えて、オフセット処理部58の増幅率を切り替えて、最適なオフセット値を決定していてもよい。
【0133】
次いで、オフセット処理部58は、各合成信号(C2C4,C6C8)からオフセット値を減算し(第2オフセット処理)、減算後の各合成信号(C2C4,C6C8)を所定の倍率(例えば、16倍)で増幅することにより、増幅された第2オフセット処理後の合成信号(C2C4,C6C8)を生成する(S32)。生成された各合成信号(C2C4,C6C8)は、A/D変換器52においてアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御部53A(除算値算出部530)に入力される。
【0134】
次いで、除算値算出部530は、記憶部54に記憶されている増幅率およびオフセット値を参照して、オフセット処理部58による処理前の各合成信号(C2C4,C6C8)の信号電圧を取得する(S33)。具体的には、除算値算出部530は、各合成信号(C2C4,C6C8)の信号電圧を増幅率で除算し、除算後の信号電圧にオフセット値を加算する。
【0135】
次いで、除算値算出部530は、合成信号(C2C4)の信号電圧を、合成信号(C6C8)の信号電圧で除算することにより、除算値を算出する(S34:除算値算出ステップ)。
【0136】
次いで、初期値設定部531は、算出された除算値を用いて、記憶部54に記憶されている第1対応関係情報を参照して、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の現在位置を取得(推定)する(S35)。
【0137】
次いで、初期値設定部531は、取得された現在位置を用いて、記憶部54に記憶されている第2対応関係情報を参照して、ロータ36の現在位置に対応する電圧値を取得する(S36)。
【0138】
次いで、初期値設定部531は、取得された電圧値により、記憶部54のオフセット情報を書き換える(S37:初期値設定ステップ)。その結果、オフセット情報(初期値)は、取得された電圧値に設定される。
【0139】
このように、本装置5は、各合成信号(C2C4,C6C8)を単にA/D変換器52の入力電圧範囲に応じて増幅するのではなく、同入力電圧範囲に合わせてオフセット値を減算後に増幅している。そのため、本装置5Aは、各合成信号(C2C4,C6C8)を単に増幅する場合よりも大きな増幅倍率で各合成信号(C2C4,C6C8)を増幅できる。その結果、本装置5Aでは、A/D変換器52の入力電圧範囲が見かけ上大きくなり、A/D変換器52の入力電圧範囲のフルスケールに近い範囲が合成信号(C2C4,C6C8)の変換に使用可能となる。したがって、A/D変換器52における量子化誤差が減少し、除算値の算出精度が向上する。
【0140】
図19は、オフセット処理部58による減算・増幅の一例を説明する模式図である。
同図の縦軸は各合成信号(C2C4,C6C8)の電圧値を示し、横軸はロータ36のスラスト方向の変位量(軸受32,33のスラスト方向の摩耗量)を示している。
【0141】
図19に示されるとおり、信号処理回路51c,51dから出力される各合成信号(C2C4,C6C8)の電圧値の変動幅は、約0.2V程度である。この場合、A/D変換器52の入力電圧範囲のごく一部のみが各合成信号(C2C4,C6C8)の変換に用いられる。そして、A/D変換器52の分解能(12ビット)のうち、変換に用いられる範囲は数%程度である。また、A/D変換器52の入力電圧範囲に合わせて各合成信号(C2C4,C6C8)を単に増幅する場合、例えば、増幅率は数倍に限られ、増幅後の各合成信号(C2C4,C6C8)の電圧値の変動幅は約0.8V程度までしか増加しない。この場合、A/D変換器52の分解能のうち、変換に用いられる範囲は約20%程度である。一方、オフセット値による減算後であれば、例えば、増幅率は十数倍まで大きくすることができ、増幅後の各合成信号(C2C4,C6C8)の電圧値の変動幅は約3.2V程度まで増加する。その結果、A/D変換器52の分解能のうち、変換に用いられる範囲は約65%まで大きくすることができる。
【0142】
●摩耗量算出処理
図20は、摩耗量検出処理(S4)のフローチャートである。
【0143】
摩耗量検出処理(S4)において、摩耗量検出部532は、ラジアル方向の摩耗量の検出処理(S41)、および、スラスト方向の摩耗量の検出処理(S42)を個別に実行している。ここで、ラジアル方向の摩耗量の検出処理(S41)は第1実施形態におけるラジアル方向の摩耗量の検出処理(S21)と同じであるため、その詳細は省略される。
【0144】
本装置5Aは、第1実施形態の本装置5とは異なり、信号処理回路51c,51dからの各合成信号(C2C4,C6C8)は、常にオフセット処理部58を介して制御部53A(摩耗量検出部532)に入力される。そのため、本装置5Aは、スラスト方向の摩耗量の検出処理(S42)における前処理として、オフセット処理部58による処理前の各合成信号(C2C4,C6C8)の信号電圧の取得処理(S421)、合成信号(C2C4)への第1オフセット処理(S422)、および、第1オフセット処理後の合成信号(C2C4)と、合成信号(C6C8)と、の差分値の絶対値の算出処理(S423)を実行する。
【0145】
処理(S421)では、摩耗量検出部532は、処理(S33)と同様に、記憶部54に記憶されている増幅率およびオフセット値を参照して、オフセット処理部58による処理前の各合成信号(C2C4,C6C8)の信号電圧を取得する。
【0146】
処理(S422)では、摩耗量検出部532は、記憶部54に記憶されているオフセット情報を参照して、処理(S421)で取得された合成信号(C2C4)の信号電圧に第1オフセット処理を実行する。
【0147】
処理(S423)では、摩耗量検出部532は、第1オフセット処理後の合成信号(C2C4)と、合成信号(C6C8)と、の差分値の絶対値を算出する。
【0148】
摩耗量検出部532は、前処理(S421~S423)の後に、第1実施形態におけるスラスト方向の摩耗量の検出処理(S22)と同様に、スラスト方向の摩耗量を検出する(S424)。
【0149】
なお、摩耗量検出処理(S4)において、制御部53A(オフセット値決定部534)は、予め(例えば、初期値設定処理(S3)の終了時に)、オフセット処理部58の増幅率を「1倍」に設定し、オフセット値を「0」に決定していてもよい。この場合、摩耗量検出部532は、処理(S421)を実行しない。
【0150】
次いで、表示制御部533は、検出された摩耗量に基づいて、表示部55の表示態様を決定し、決定された表示態様で表示部55に表示させる(S43)。
【0151】
●まとめ(2)
以上説明した実施の形態によれば、本装置5Aでは、第1実施形態における本装置5と同様に、初期値を設定するための試験運転の駆動条件は自由(例えば、空転でもよい。)に設定可能となり、同試験運転に必要な工数および時間は低減され、初期値の設定が容易になる。
【0152】
また、以上説明した実施の形態によれば、本装置5Aは、オフセット処理部58およびA/D変換器52を備える。オフセット処理部58は、各合成信号(C2C4,C6C8)に所定のオフセット値を減算し、減算後の各合成信号(C2C4,C6C8)を増幅する。A/D変換器52は、増幅後の各合成信号(C2C4,C6C8)をアナログ信号からデジタル信号に変換する。オフセット値は、A/D変換器52の入力電圧範囲に応じて決定される。この構成によれば、本装置5Aは、A/D変換器52の入力電圧範囲に合わせてオフセット値を減算後に増幅できる。そのため、本装置5Aは、各合成信号(C2C4,C6C8)を単に増幅する場合よりも大きな増幅倍率で各合成信号(C2C4,C6C8)を増幅できる。その結果、A/D変換器52における量子化誤差が減少し、除算値の算出精度が向上する。
【0153】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、本装置5Aは、合成信号(C2C4)の信号電圧、合成信号(C6C8)の信号電圧、およびA/D変換器52の入力電圧範囲に基づいて、オフセット値を決定するオフセット値決定部534を備える。この構成によれば、本装置5Aは、各合成信号(C2C4,C6C8)の信号電圧に応じて、自動的にオフセット値を決定できる。
【0154】
なお、本発明において、合成信号(C2C4,C6C8)の信号電圧の変動範囲は、キャンドモータポンプ1の機種ごとにある程度既知の値(例えば、0.7V~1.0V程度)である。そのため、差動入力増幅器581,582の増幅率は、機種ごとに予め設定された固定値(例えば、4倍)となっていてもよい。この場合、増幅回路583,584の増幅率は切替可能であってもよく、あるいは、予め設定されているオフセット値に応じた固定値となっていてもよい。
【0155】
また、本発明において、オフセット値は、キャンドモータポンプ1の機種ごとに予め設定されていてもよい。この場合、例えば、オフセット処理部58は、増幅率が線形に可変する回路構成を有していてもよい。また、この場合、本装置5Aは、オフセット値決定部534を備えていなくてもよい。
【0156】
さらに、本発明において、オフセット処理部58は、増幅回路583,584を備えていなくてもよい。
【0157】
●その他の実施形態
なお、以上説明した各実施形態において、除算値が初期値として設定されていてもよい。
【0158】
また、以上説明した各実施形態において、本装置5,5A(摩耗量検出部532)は、除算値に基づいて、スラスト方向の摩耗量を検出していてもよい。すなわち、例えば、本装置5,5Aは、軸受32,33のスラスト方向のフロント側(またはリア側)の最大変位量に対応する除算値(最大除算値)に対する、算出された除算値の割合に基づいて、スラスト方向の摩耗量を検出する。この場合、最大除算値は、予め計測され、記憶部54に記憶されている。この構成では、前述のとおり、除算値の変動パターンは駆動条件によらず同じになる。そのため、本装置5,5Aは、駆動条件が変更されても、スラスト方向の摩耗量を正確に検出できる。
【0159】
さらに、以上説明した各実施形態において、本装置5,5A(摩耗量検出部532)は、除算値および第1対応関係情報に基づいて、スラスト方向の摩耗量を検出していてもよい。この場合、本装置5,5Aは、差分値の絶対値ではなく、除算値および第1対応関係情報に基づいてロータ36の現在位置を取得し、同現在位置に基づいて摩耗量を検出(推定)する。
【0160】
さらにまた、以上説明した第1実施形態において、本装置5は、第2実施形態におけるオフセット値決定部534およびオフセット処理部58を備えていてもよい。
【0161】
さらにまた、以上説明した各実施形態において、ロータ36の初期位置は、製造誤差、組立公差などにより、スラスト方向におけるロータ36の中心がステータ37の中心と一致していなくてもよい。すなわち、例えば、初期位置において、ロータ36は、ステータ37に対してスラスト方向にずれて配置されていてもよい。
【0162】
さらにまた、以上説明した各実施形態において、本発明が実施可能であれば、検出コイルC1~C8の数は「8」に限定されない。
【0163】
さらにまた、以上説明した各実施形態において、制御部53,53Aは、CPU53aに代えて、DSP(Digital Signal Processor)やMPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサにより構成されていてもよい。
【0164】
●本発明の実施態様●
次に、以上説明した各実施形態から把握される本発明の実施態様について、各実施形態において記載された用語と符号とを援用しつつ、以下に記載する。
【0165】
本発明の第1の実施態様は、キャンドモータポンプ(例えば、キャンドモータポンプ1)のモータ(例えば、モータ部3)のステータ(例えば、ステータ37)に対するロータ(例えば、ロータ36)の機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイル(例えば、検出コイルC1~C8)を用いて検出することにより、前記ロータの回転軸(例えば、回転軸31)を支持する軸受(例えば、軸受32,33)の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置(例えば、本装置5,5A)であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル(例えば、検出コイルC2,C4,C6,C8)、を含み、複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイル(例えば、検出コイルC2,C4)それぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号(例えば、合成信号(C2C4))の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイル(例えば、検出コイルC6,C8)それぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号(例えば、合成信号(C6C8))の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出部(例えば、除算値算出部530)と、前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定部(例えば、初期値設定部531)と、を有してなる、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、初期値を設定するための試験運転の駆動条件は自由に設定可能となり、同試験運転に必要な工数および時間は低減され、初期値の設定が容易になる。
【0166】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記除算値と、前記ロータの前記スラスト方向の位置と、の対応関係を示す第1対応関係情報を記憶する記憶部(例えば、記憶部54)、を有してなり、前記初期値設定部は、前記除算値算出部により算出された前記除算値と前記第1対応関係情報とに基づいて、前記初期値を設定する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、駆動条件に依らず、磁気中心に対するロータ36のスラスト方向の現在位置、および、ロータ36の位置に対する磁気中心の現在位置を正確に推定できる。
【0167】
本発明の第3の実施態様は、第2の実施態様において、前記記憶部は、前記第1合成信号の前記信号電圧と前記第2合成信号の前記信号電圧との差分値と、前記ロータの前記スラスト方向の位置と、の対応関係を示す第2対応関係情報、を記憶し、前記初期値設定部は、前記除算値算出部により算出された前記除算値と、前記第1対応関係情報と、前記第2対応関係情報と、に基づいて、前記初期値を設定する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、初期位置において2つの合成信号の差分値の絶対値(電圧値)が「0」となるように、初期値を用いて2つの合成信号の電圧値をオフセットすることにより、基準駆動条件に対応する摩耗量を正確に検出できる。
【0168】
本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様において、前記記憶部は、前記第1合成信号の前記信号電圧と前記第2合成信号の前記信号電圧との差分値と、前記ロータの前記スラスト方向の位置と、の対応関係を示す第2対応関係情報、を記憶し、前記初期値設定部は、前記除算値算出部により算出された前記除算値と、前記第1対応関係情報と、前記第2対応関係情報と、に基づいて、前記初期値を設定する、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、第2対応関係情報に対応する基準駆動条件において、正確な摩耗量を検出できる。
【0169】
本発明の第5の実施態様は、第2の実施態様において、前記除算値と前記第1対応関係情報とに基づいて、前記軸受の前記スラスト方向の摩耗量を検出する摩耗量検出部(例えば、摩耗量検出部532)、を有してなる、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、駆動条件によらず、軸受のスラスト方向の摩耗量を検出できる。
【0170】
本発明の第6の実施態様は、第1乃至第5のいずれかの実施態様において、前記第1合成信号と前記第2合成信号それぞれに所定のオフセット値を減算し、減算後の前記第1合成信号と前記第2合成信号それぞれを増幅する作動増幅部(例えば、オフセット処理部58)と、増幅後の前記第1合成信号と前記第2合成信号それぞれをデジタル信号に変換するA/D変換器(例えば、A/D変換器52)と、を有してなり、前記オフセット値は、前記A/D変換器の入力電圧範囲に応じて決定される、モータ軸受摩耗監視装置(例えば、本装置5A)である。
この構成によれば、本装置は、A/D変換器の入力電圧範囲に合わせてオフセット値を減算後に増幅できる。その結果、A/D変換器における量子化誤差が減少し、除算値の算出精度が向上する。
【0171】
本発明の第7の実施態様は、第6の実施態様において、前記第1合成信号の前記信号電圧と、前記第2合成信号の前記信号電圧と、前記入力電圧範囲と、に基づいて、前記オフセット値を決定するオフセット値決定部(例えば、オフセット値決定部534)、を有してなる、モータ軸受摩耗監視装置である。
この構成によれば、本装置は、各合成信号の信号電圧に応じて、自動的にオフセット値を決定できる。
【0172】
本発明の第8の実施態様は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置の設定方法であって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル、を含み、複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出ステップ(例えば、処理(S11,S34))と、前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定ステップ(例えば、処理(S14,S37))と、を含む、モータ軸受摩耗監視装置の設定方法である。
この構成によれば、初期値を設定するための試験運転の駆動条件は自由に設定可能となり、同試験運転に必要な工数および時間は低減され、初期値の設定が容易になる。
【0173】
本発明の第9の実施態様は、キャンドモータポンプのモータのステータに対するロータの機械的な位置変化に対応する磁束変化を、前記ステータに取り付けられた複数の検出コイルを用いて検出することにより、前記ロータの回転軸を支持する軸受の摩耗状態を監視するモータ軸受摩耗監視装置が備えるプロセッサにより実行される設定プログラムであって、複数の前記検出コイルそれぞれは、前記回転軸のスラスト方向における前記磁束変化を示す検出信号を出力する複数のスラスト検出コイル、を含み、前記プロセッサを、複数の前記スラスト検出コイルのうち、一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第1合成信号の信号電圧を、他の一組となる前記スラスト検出コイルそれぞれから出力された前記検出信号が合成された第2合成信号の信号電圧により除算し、または、前記第2合成信号の前記信号電圧を前記第1合成信号の前記信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出部、および前記軸受が摩耗していない未摩耗状態における前記ロータの前記スラスト方向の位置を初期位置としたとき、前記初期位置における前記除算値に基づいて、前記未摩耗状態における前記ロータの位置を示す初期値を設定する初期値設定部、として機能させる、設定プログラムである。
この構成によれば、初期値を設定するための試験運転の駆動条件は自由に設定可能となり、同試験運転に必要な工数および時間は低減され、初期値の設定が容易になる。
【符号の説明】
【0174】
1 キャンドモータポンプ
3 モータ部(モータ)
32 軸受
33 軸受
36 ロータ
37 ステータ
5 モータ軸受摩耗監視装置
52 A/D変換器
530 除算値算出部
531 初期値設定部
532 摩耗量検出部
54 記憶部
5A モータ軸受摩耗監視装置
534 オフセット値決定部
58 オフセット処理部(作動増幅部)
C1~C8 検出コイル
【要約】
【課題】容易に初期値の設定が可能なモータ軸受摩耗監視装置、モータ軸受摩耗監視装置の設定方法、および設定プログラムを提供する。
【解決手段】本発明に係るモータ軸受摩耗監視装置5,5Aは、複数の検出コイルC1~C8を用いて軸受32,33の摩耗状態を監視する。同装置は、複数の検出コイルのうち、一組となるスラスト検出コイルの第1合成信号の信号電圧を、他の一組となるスラスト検出コイルの第2合成信号の信号電圧により除算し、または、第2合成信号の信号電圧を第1合成信号の信号電圧により除算することにより、除算値を算出する除算値算出部530と、軸受32,33が摩耗していない未摩耗状態におけるロータ36のスラスト方向の位置を初期位置としたとき、初期位置における除算値に基づいて、未摩耗状態におけるロータ36の位置を示す初期値を設定する初期値設定部531と、を有してなる。
【選択図】図4
図1
図2
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