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特許7250241レーザー処理用回収装置、レーザー処理システム、及び、レーザー処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】レーザー処理用回収装置、レーザー処理システム、及び、レーザー処理方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/16 20060101AFI20230327BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20230327BHJP
   B08B 5/00 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
B23K26/16
B23K26/36
B08B5/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022140143
(22)【出願日】2022-09-02
【審査請求日】2022-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519063060
【氏名又は名称】一般社団法人日本パルスレーザー振興協会
(74)【代理人】
【識別番号】100157428
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 聞平
(72)【発明者】
【氏名】平山 武夫
(72)【発明者】
【氏名】三羽 和紀
(72)【発明者】
【氏名】細田 武
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-175721(JP,A)
【文献】特開2014-128832(JP,A)
【文献】特開2020-022978(JP,A)
【文献】特開2002-144072(JP,A)
【文献】特開2017-228723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
B08B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物を回収する、レーザー処理用回収装置であって、
処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、陸上での表面処理の際に処理対象面とレーザー照射部とを区画するケースであって、片側に開口部が形成されて前記開口部に対面するように透明パネルが設けられており、前記開口部を塞ぎ、且つ、前記処理対象面を被覆する設置状態では、前記レーザー照射部から前記透明パネルを通じて前記処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる回収用ケースと、
前記設置状態の前記回収用ケース内の空気を吸引することによって、前記表面処理の際に発生する飛散物を吸引すると共に、前記開口部を塞ぐ閉塞面に対し前記回収用ケースを吸着させる吸引装置とを備え
前記回収用ケースは、前記処理対象面によって前記開口部を塞いだ前記設置状態において、内部空間が密閉状態となり、
前記処理対象面が壁面である場合に、前記吸引装置によって前記設置状態の回収用ケース内の空気を吸引すると、前記処理対象面に対して前記回収用ケースを吸着させる吸着力のみによって、前記回収用ケースが落下することなく、前記処理対象面に対し前記回収用ケースが固定される、レーザー処理用回収装置。
【請求項2】
前記回収用ケースは、前記吸着力を補助するために前記開口部の縁部に設けられた磁石を有する、請求項に記載のレーザー処理用回収装置。
【請求項3】
レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物を回収する、レーザー処理用回収装置であって、
処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、陸上での表面処理の際に処理対象面とレーザー照射部とを区画するケースであって、片側に開口部が形成されて前記開口部に対面するように透明パネルが設けられており、前記開口部を塞ぎ、且つ、前記処理対象面を被覆する設置状態では、前記レーザー照射部から前記透明パネルを通じて前記処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる回収用ケースと、
前記設置状態の前記回収用ケース内の空気を吸引することによって、前記表面処理の際に発生する飛散物を吸引すると共に、前記処理対象面が壁面である場合に該処理対象面に対し前記回収用ケースを吸着させる第1固定部として機能する吸引装置と、
前記処理対象面が壁面である場合に該処理対象面に対し前記回収用ケースを固定する固定部として、前記第1固定部とは別の方法により吸着力を発生させる第2固定部とを備えている、レーザー処理用回収装置。
【請求項4】
レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物を回収する、レーザー処理用回収装置であって、
処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、陸上での表面処理の際に処理対象面とレーザー照射部とを区画するケースであって、片側に開口部が形成されて前記開口部に対面するように透明パネルが設けられており、前記開口部を塞ぎ、且つ、前記処理対象面を被覆する設置状態では、前記レーザー照射部から前記透明パネルを通じて前記処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる回収用ケースと、
前記設置状態の前記回収用ケース内の空気を吸引することによって、前記表面処理の際に発生する飛散物を吸引すると共に、前記開口部を塞ぐ閉塞面に対し前記回収用ケースを吸着させる吸引装置とを備え、
前記回収用ケースは、扁平な箱状に形成され、前記開口部に対面する主面に加えて、前記主面の周囲から前記開口部側に延びる側面にも、前記処理対象面の被覆物を除去するためのレーザー光を透過して該レーザー光に対応した耐熱性を有する透明パネルが設けられている、レーザー処理用回収装置。
【請求項5】
レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物を回収する、レーザー処理用回収装置であって、
処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、陸上での表面処理の際に処理対象面とレーザー照射部とを区画するケースであって、片側に開口部が形成されて前記開口部に対面するように透明パネルが設けられており、前記開口部を塞ぎ、且つ、前記処理対象面を被覆する設置状態では、前記レーザー照射部から前記透明パネルを通じて前記処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる回収用ケースと、
前記設置状態の前記回収用ケース内の空気を吸引することによって、前記表面処理の際に発生する飛散物を吸引すると共に、前記開口部を塞ぐ閉塞面に対し前記回収用ケースを吸着させる吸引装置とを備え、
前記回収用ケースは、ガス供給装置に接続されるガス導入部と、前記ガス供給装置からガス導入部に供給されるガスを前記処理対象面に向けて吐出するガス吐出口と有し
前記回収用ケースでは、開口部の縁部を構成する開口側フレームの内部に、前記ガス導入部と前記ガス吐出口とを接続するガス流路が形成され、
前記ガス吐出口は、前記開口側フレームに複数設けられている、レーザー処理用回収装置。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか1つに記載のレーザー処理用回収装置と、
前記レーザー照射部と、前記レーザー照射部に向けてレーザー光を発振するレーザー発振器とを有するレーザー照射装置とを備えている、レーザー処理システム。
【請求項7】
レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物を回収するレーザー処理用回収装置と、
処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部と、前記レーザー照射部に向けてレーザー光を発振するレーザー発振器とを有するレーザー照射装置とを備えたレーザー処理システムであって、
前記レーザー処理用回収装置は、
前記レーザー照射部とは別体に形成され、陸上での表面処理の際に処理対象面と前記レーザー照射部とを区画するケースであって、片側に開口部が形成されて前記開口部に対面するように透明パネルが設けられており、前記開口部を塞ぎ、且つ、前記処理対象面を被覆する設置状態では、前記レーザー照射部から前記透明パネルを通じて前記処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる回収用ケースと、
前記設置状態の前記回収用ケース内の空気を吸引することによって、前記表面処理の際に発生する飛散物を吸引すると共に、前記開口部を塞ぐ閉塞面に対し前記回収用ケースを吸着させる吸引装置とを備え、
当該レーザー処理システムは、前記表面処理として被覆物の除去を行う前に、前記処理対象面を濡らすための液体を吐出する液体吐出装置をさらに備えている、レーザー処理システム。
【請求項8】
レーザー光により表面処理を行うレーザー処理方法であって、
処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、片側に開口部が形成されて前記開口部に対面するように透明パネルが設けられた回収用ケースを設置するステップであって、陸上での表面処理を行うにあたって、前記開口部を塞ぎ、且つ、前記処理対象面を被覆する状態で回収用ケースを設置することで、前記回収用ケースによって前記処理対象面と前記レーザー照射部とが区画され、前記レーザー照射部から前記透明パネルを通じて前記処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態にするケース設置ステップと、
前記ケース設置ステップ後に、前記表面処理を行うと共に、吸引装置によって前記回収用ケース内の飛散物を吸引する、表面処理ステップとを行い、
前記ケース設置ステップでは、前記吸引装置によって前記設置状態の回収用ケース内の空気を吸引することで生じる吸着力を利用して、壁面である処理対象面に対し、前記回収用ケースが落下することなく固定される、レーザー処理方法。
【請求項9】
レーザー光により表面処理を行うレーザー処理方法であって、
処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、片側に開口部が形成されて前記開口部に対面するように透明パネルが設けられた回収用ケースを設置するステップであって、陸上での表面処理を行うにあたって、前記開口部を塞ぎ、且つ、前記処理対象面を被覆する状態で回収用ケースを設置することで、前記回収用ケースによって前記処理対象面と前記レーザー照射部とが区画され、前記レーザー照射部から前記透明パネルを通じて前記処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態にするケース設置ステップと、
前記ケース設置ステップ後に、前記表面処理を行うと共に、吸引装置によって前記回収用ケース内の飛散物を吸引する、表面処理ステップとを行うと共に、
前記表面処理ステップ前に、前記回収用ケース内の処理対象面の表面を濡らすステップが行われる、レーザー処理方法。
【請求項10】
レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物を回収する、レーザー処理用回収装置であって、
処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、陸上での表面処理の際に処理対象面とレーザー照射部とを区画するケースであって、片側に開口部が形成されて前記開口部に対面するように透明パネルが設けられており、前記開口部を塞ぎ、且つ、前記処理対象面を被覆する設置状態では、前記レーザー照射部から前記透明パネルを通じて前記処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる回収用ケースと、
前記設置状態の前記回収用ケース内の空気を吸引することによって、前記表面処理の際に発生する飛散物を吸引すると共に、前記開口部を塞ぐ閉塞面に対し前記回収用ケースを吸着させる吸引装置とを備え、
前記回収用ケースは、所定の角度で交わる2つの壁面のうち一方の壁面の処理対象面によって前記開口部が塞がれる第1ケース部と、他方の壁面の処理対象面によって前記開口部が塞がれる第2ケース部と、前記第1ケース部と前記第2ケース部とを結合させる取合い部とを備えている、レーザー処理用回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光による表面処理に使用されるレーザー処理用回収装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁やタンクなどの構造物の中には、鋼材などの母材の表面が塗膜によって覆われているものがある。この種の構造物では、定期的に塗膜の塗り替えが必要となる。塗膜の塗り替えにあたっては、既存の塗膜の除去が必要となる。塗膜の除去方法としては、有機溶剤や酸などの薬品による洗浄、水などを用いた高圧洗浄、又は、サンドブラストによる表面処理工法などが広く用いられてきた。しかし、近年は環境規制が厳しく、これらの方法では環境規制をクリアすること等が難しい。そのような中で、新たな塗膜の除去方法として、レーザークリーニングが注目されている。
【0003】
特許文献1には、レーザー塗膜除去装置が記載されている。このレーザー塗膜除去装置のレーザーヘッドは、レーザー光の照射点を走査する光学系と、構造物の表面から生じる飛散物から光学系を防護する遮蔽部材と、構造物の表面に当接可能に構成されたアタッチメント等を備えている。レーザーヘッドには吸引手段が設けられている。レーザー光の照射による飛散物は、吸引手段の吸引口を介して回収されるが、飛散物の一部は光学系の方向に引きつけられる。このレーザーヘッドでは、遮蔽部材によって、光学系が飛散物から防護されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5574354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の装置では、レーザー光による表面処理(レーザークリーニングなど)の際に発生する飛散物が、レーザー照射部の光学系に付着することを防ぐための対策として、遮蔽部材が設けられている。しかし、遮蔽部材を設ける分だけレーザー照射部の構成が複雑化する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物に対する対策によってレーザー照射部の構成が複雑化することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するべく、第1の発明は、レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物を回収する、レーザー処理用回収装置であって、処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、陸上での表面処理の際に処理対象面とレーザー照射部とを区画するケースであって、片側に開口部が形成されて開口部に対面するように透明パネルが設けられており、開口部を塞ぎ、且つ、処理対象面を被覆する設置状態では、レーザー照射部から透明パネルを通じて処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる回収用ケースと、設置状態の回収用ケース内の空気を吸引することによって、表面処理の際に発生する飛散物を吸引すると共に、開口部を塞ぐ閉塞面に対し回収用ケースを吸着させる吸引装置とを備えている、レーザー処理用回収装置である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、処理対象面は、壁面であり、回収用ケースは、処理対象面によって開口部を塞いだ設置状態において、内部空間が密閉状態となり、吸引装置によって設置状態の回収用ケース内の空気を吸引すると、処理対象面に対して回収用ケースを吸着させる吸着力のみによって、回収用ケースが落下することなく、処理対象面に対し回収用ケースが固定される。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、回収用ケースは、吸着力を補助するために開口部の縁部に設けられた磁石を有する。
【0010】
第4の発明は、第1の発明において、回収用ケースは、表面処理の際に外部から内部空間に空気を導入するための通気口を有する。
【0011】
第5の発明は、第1の発明において、回収用ケースは、扁平な箱状に形成され、開口部に対面する主面に加えて、主面の周囲から開口部側に延びる側面にも、透明パネルが設けられている。
【0012】
第6の発明は、第1の発明において、回収用ケースは、ガス供給装置に接続されるガス導入部と、ガス供給装置からガス導入部に供給されるガスを処理対象面に向けて吐出するガス吐出口とを有する。
【0013】
第7の発明は、第1乃至第6の何れか1つの発明のレーザー処理用回収装置と、レーザー照射部と、レーザー照射部に向けてレーザー光を発振するレーザー発振器とを有するレーザー照射装置とを備えている、レーザー処理システムである。
【0014】
第8の発明は、第7の発明において、表面処理として被覆物の除去を行う前に、処理対象面を濡らすための液体を吐出する液体吐出装置をさらに備えている。
【0015】
第9の発明は、レーザー光により表面処理を行うレーザー処理方法であって、処理対象面にレーザー光を照射するためのレーザー照射部とは別体に形成され、片側に開口部が形成されて開口部に対面するように透明パネルが設けられた回収用ケースを設置するステップであって、陸上での表面処理を行うにあたって、開口部を塞ぎ、且つ、処理対象面を被覆する状態で回収用ケースを設置することで、回収用ケースによって処理対象面とレーザー照射部とが区画され、レーザー照射部から透明パネルを通じて処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態にするケース設置ステップと、ケース設置ステップ後に、表面処理を行うと共に、吸引装置によって回収用ケース内の飛散物を吸引する、表面処理ステップとを行う、レーザー処理方法である。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明では、開口部を塞ぎ、且つ、処理対象面を被覆する設置状態において、回収用ケースとは別体のレーザー照射部から透明パネルを通じて処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる。また、設置状態の回収用ケース内の空気を吸引装置によって吸引することによって、表面処理の際に発生する飛散物が吸引される。そのため、回収用ケースの外部のレーザー照射部には、飛散物がほとんど到達しない。従って、飛散物に対する対策によってレーザー照射部の構成が複雑化することを抑制することができる。
【0017】
第9の発明では、ケース設置ステップを実施して、開口部を塞ぎ、且つ、処理対象面を被覆する状態で回収用ケースを設置することで、回収用ケースによって処理対象面とレーザー照射部とが区画され、回収用ケースとは別体のレーザー照射部から透明パネルを通じて処理対象面にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態にする。そして、ケース設置ステップ後の表面処理ステップにおいて、レーザー光による表面処理を行うと共に、吸引装置によって回収用ケース内の飛散物を吸引する。そのため、回収用ケースの外部のレーザー照射部には、飛散物がほとんど到達しない。従って、飛散物に対する対策によってレーザー照射部の構成が複雑化することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態に係るレーザー処理システムの概略構成図である。
図2図2は、実施形態に係るレーザー処理システムの回収用ケースの斜視図である。
図3図3(a)は、実施形態に係るレーザー処理システムの回収用ケースの上面図(図2の状態の上面図)であり、図3(b)は、回収用ケースの底面図である。
図4図4(a)は、図3(a)の回収用ケースのA-A断面図であり、図4(b)は、図3(a)の回収用ケースのB-B断面図である。
図5図5(a)は、実施形態に係るレーザー処理方法のケース設置ステップの様子を表す図であり、図5(b)は、表面処理ステップの様子を表す図である。
図6図6は、回収用ケース21に収容された部材の表面に対して表面処理(レーザークリーニング)を行う様子の図である。
図7図7(a)は、実施形態に係るレーザー処理システムの回収用ケースについて、パネル取付部を設けた場合の上面図であり、図7(b)は、図7(a)の回収用ケースのC-C断面図であり、図7(c)は、パネルパネル取付部について、第1状態と第2状態の切り替えを説明するための拡大図である。
図8図8(a)は、実施形態の第1変形例に係るレーザー処理システムの回収用ケースの底面図であり、図8(b)は、図8(a)の回収用ケースのD-D断面図である。
図9図9(a)は、実施形態の第2変形例に係るレーザー処理システムの回収用ケース等の概略構成図であり、図9(b)は、図9(a)の回収用ケースを用いた表面処理ステップの様子を表す図である。
図10図10は、実施形態の第3変形例に係るレーザー処理システムの回収用ケースを側方から見た図であって、液体噴霧ステップの様子を表す図である。
図11図11は、レーザークリーニング前に処理対象面を濡らすことで、レーザークリーニング後の母材の素地がきれいになることを確認した時の写真である。
図12図12は、実施形態の第4変形例に係るレーザー処理システムの回収用ケースが壁面に設置された状態を上から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0020】
[レーザー処理システムの構成]
本実施形態は、構造物などにおける母材の表面の被覆物(塗膜、錆、アスベスト又は塩分など)を除去するレーザークリーニング(レーザー光による表面処理)に使用するレーザー処理システム10である。レーザー処理システム10は、図1に示すように、レーザー処理用回収装置20と、レーザー照射装置30とを備えている。レーザー処理用回収装置20は、橋梁、タンク、高架線路・道路、又は、機械設備などの構造物の処理対象面5を覆うように設置される回収用ケース21を備え、レーザー照射装置30は、回収用ケース21とは別体のレーザー照射ヘッド32を備えている。レーザー処理システム10では、処理対象面5を被覆する回収用ケース21の外部で、作業者又はマニピュレーターによってレーザー照射ヘッド32を自由に動かすことができ、レーザー照射ヘッド32からのレーザー光Lが、回収用ケース21の透明パネル11,12を通じて、処理対象面5に照射される。なお、レーザー処理システム10は、レーザークリーニング以外の、レーザー光による表面処理(例えばレーザー溶接など)に使用することもできる。以下、レーザー処理システム10について詳細に説明を行う。
【0021】
<レーザー処理用回収装置の構成>
レーザー処理用回収装置20は、図1に示すように、片側に開口部13が形成されて開口部13に対面するように透明パネル11,12が設けられた回収用ケース21と、吸引用ホース23を介して回収用ケース21に接続される吸引装置22とを備えている。吸引装置22は、発電機などの電源(図示省略)からの電力供給を受けて作動する。吸引装置22には、真空ポンプを用いることができる。
【0022】
回収用ケース21は、処理対象面5にレーザー光を照射するためのレーザー照射ヘッド(レーザー照射部)32とは別体に形成され、陸上でのレーザークリーニングの際に処理対象面5とレーザー照射ヘッド32とを区画するケースである。回収用ケース21は、図2図4に示すように、片側に開口部13を有する略直方体状に形成されている。回収用ケース21では、開口部13側以外の5面が透明パネル11,12により構成されている。回収用ケース21は、開口部13に対面する主面に設けられた主パネル11と、主面の周囲から開口部13側に延びる4つの側面に設けられた側面パネル12とを有する。以下では、図2に示す回収用ケース21の設置状態を基準にして、主パネル11側を「上面側」と言い、開口部13側を「底面側」と言う場合がある。
【0023】
回収用ケース21のより具体的な形状について、回収用ケース21は、扁平に形成されている。各側面パネル12は、主面の4辺の各々から略垂直に延びている。各側面パネル12の高さは、主パネル11の何れの辺よりも短く、5つの透明パネル11,12では主パネル11の面積が最も大きい。回収用ケース21の主面の寸法について、各辺の長さは、25cm以上100cm以下(好ましくは50cm以下)にすることができる。また、回収用ケース21の主面の形状は、正方形にしてもよいし、長方形にしてもよく、また四角形以外でもよい。
【0024】
回収用ケース21では、略直方体をなすフレーム14の矩形部分に各透明パネル11,12が取り付けられている。回収用ケース21では、開口部13の縁部13eを構成する開口側フレーム14aに、柔軟性を有するシール部材15が設けられている。シール部材15は、開口側フレーム14aの全周に亘って設けられている。シール部材15の材料には、ゴムなどを用いることができる。
【0025】
回収用ケース21は、吸引用ホース23が接続される排気口24を有する。本実施形態では、回収用ケース21における1つの側面パネル12に、排気口24が形成されている。なお、排気口24は、主パネル11に配置してもよい。
【0026】
回収用ケース21は、レーザークリーニングの際に外部から内部空間21sに空気を導入するための通気口25を有する。本実施形態では、排気口24が設けられた側面パネル12に対向する側面パネル12に、複数の通気口25が設けられている。複数の通気口25は、側面パネル12の長手方向に、間隔を空けて配置されている。各通気口25は、排気口24に比べて小さい小孔である。各通気口25には配管は接続されておらず、各通気口25を通じ透明パネル11,12の外面近傍の空気が導入される。なお、複数の通気口25は、複数の側面パネル12に分けて配置してもよい。また、通気口25は、主パネル11に配置してもよいし、シール部材15を部分的に省略して形成した隙間が通気口25になるようにしてもよい。
【0027】
回収用ケース21は、開口部13を塞ぎ、且つ、処理対象面5を被覆する設置状態で、レーザー照射ヘッド32から透明パネル11,12を通じて処理対象面5にレーザー光を照射する表面処理が可能な状態になる。例えば略平坦な壁面を処理対象面5とする場合、開口部13を塞ぐ閉塞面は、処理対象面5となる。回収用ケース21の設置の際、開口部13の縁部13eを処理対象面5に当てて、シール部材15の全周を処理対象面5に密着させることで、回収用ケース21の内部空間21sが密閉状態になる。なお、本明細書において「密閉状態」とは、小孔の各通気口25を通じて回収用ケース21の内外で、少しの空気流通が生じる状態を含む。
【0028】
吸引装置22は、処理対象面5に回収用ケース21を設置及び固定する際に、回収用ケース21の内部空間21sを略真空状態にするために使用される。また、吸引装置22は、レーザークリーニングの際に回収用ケース21内の飛散物Sを吸引するためにも使用される。
【0029】
例えば、処理対象面5が上下に延びる壁面(例えば鉛直面)の場合、処理対象面5に回収用ケース21を設置する際に、回収用ケース21が重力によって落下することなく、開口部13を塞ぐ処理対象面5に対し回収用ケース21が固定されるように、吸引装置22は、内部空間21sが密閉状態となるように開口部13の縁部13eを処理対象面5に当てた設置状態の回収用ケース21内の空気を吸引する。これによって、処理対象面5に回収用ケース21を吸着させる吸着力Pを発生させる。すなわち、吸引装置22によって回収用ケース21内の空気を吸引すると、回収用ケース21の内部空間21sの圧力が低下し、回収用ケース21の内部空間21sは略真空状態になり、これにより回収用ケース21が重力によって落下しないだけの吸着力Pが得られる。レーザー処理用回収装置20は、この吸着力Pのみによって、鉛直の壁面に対し回収用ケース21を固定可能に構成されている。
【0030】
なお、本実施形態に係るレーザー処理用回収装置20は、壁面だけでなく、底面又は斜面を処理対象面5とする場合にも使用される(図6参照)。この場合も、吸引装置22による回収用ケース21内の空気の吸引によって、処理対象面5に回収用ケース21を吸着させる吸着力Pを発生させて、処理対象面5に対し回収用ケース21が固定される。
【0031】
<レーザー照射装置の構成>
レーザー照射装置30は、図1に示すように、レーザー光を発振するレーザー発振器31と、レーザー発振器31から発振されるレーザー光Lを照射するためのレーザー照射ヘッド32とを備えている。レーザー照射装置30は、発電機などの電源(図示省略)からの電力供給を受けて作動する。レーザー発振器31は、所定のパルス幅でレーザー光を発振するパルス発振を行うタイプの発振器である。レーザー発振器31は、レーザー伝送用のファイバーケーブルなどの伝送ライン33を介して、レーザー照射ヘッド32に接続されている。
【0032】
レーザー照射ヘッド32は、伝送ライン33が接続される接続口35aと、伝送ライン33を介してレーザー発振器31から供給されるレーザー光Lが出射される出射窓(例えばレンズ)35bとが設けられたケーシング35を備えている。ケーシング35には、レーザー光Lを走査するための走査光学系、及び、処理対象面5においてレーザー光Lを集光させるための集光光学系などが内蔵されている(図示省略)。また、ケーシング35の外面には、作業者が把持する取っ手36と、操作用のスイッチ(図示省略)などが設けられている。
【0033】
[レーザー処理システムの使用方法]
続いて、レーザー処理システム10を用いて、処理対象面5の被覆物(塗膜、錆、アスベスト又は塩分など)を除去するレーザークリーニング方法(レーザー光により表面処理を行うレーザー処理方法)について説明を行う。なお、被覆物の除去を行う施工予定領域は、磁性体となる金属面である。
【0034】
レーザー処理システム10は、例えば車両によって運搬されて、施工現場に搬入される。そして、まず、陸上でのレーザークリーニングを行うにあたって、開口部13を塞ぎ、且つ、施工予定領域のうち処理対象面5を被覆する状態で回収用ケース21を設置するケース設置ステップを行う。なお、ケース設置ステップを行う前又は途中に、吸引装置22から延びる吸引用ホース23が、回収用ケース21の排気口24に接続される。
【0035】
ケース設置ステップでは、作業者が、回収用ケース21を持ち上げて開口部13側を処理対象面(壁面など)5に向け、図5(a)に示すように、処理対象面5によって開口部13が塞がれるように処理対象面5に開口部13の縁部13eを押し当てる。この押し当てによって、回収用ケース21の内部空間21sは密閉状態になる。そして、この状態で、吸引装置22の運転を開始させて、回収用ケース21内の空気を吸引する。そうすると、この吸引により得られる吸着力Pによって、シール部材15の全周が処理対象面5に密着する。吸着力Pは、回収用ケース21を重力によって落下させない保持力となり、処理対象面5に対し回収用ケース21が固定される。この状態では、作業者が回収用ケース21から手を放しても、回収用ケース21の位置は地面の上方に保持される。これによりケース設置ステップは完了する。ケース設置ステップが完了すると、回収用ケース21によって処理対象面5とレーザー照射ヘッド32とが区画され、レーザー照射ヘッド32から透明パネル11,12を通じて処理対象面5にレーザー光を照射可能な状態になる。
【0036】
次に、処理対象面5にレーザー光Lを照射して被覆物を除去する表面処理ステップを行う。表面処理ステップでは、レーザー照射装置30に加えて、ケース設置ステップでの運転開始から停止させることなく吸引装置22の運転も行う。表面処理ステップでは、レーザー照射ヘッド32から透明パネル11,12を通じて処理対象面5にレーザー光Lを照射すると共に、吸引装置22によって回収用ケース21内の飛散物Sを吸引する。なお、表面処理ステップも上述の吸着力Pは作用しているが、図5(b)では記載を省略している。
【0037】
具体的に、表面処理ステップでは、作業者が、主パネル11などの透明パネル11,12を介してレーザー照射ヘッド32の出射窓35bを処理対象面5に向けた状態で、レーザー照射装置30の運転を開始させる。そうすると、図5(b)に示すように、レーザー照射ヘッド32の出射窓35bから出射されたレーザー光Lが、透明パネル11,12を通って処理対象面5に照射される。なお、レーザー照射ヘッド32では、例えば、処理対象面5においてレーザー光Lが線状に走査されるように走査光学系が動作する。レーザー光Lの走査速度は高速である。そのため、出射窓35bから出射されるレーザー光Lは、シート状のレーザー光Lとして視認される。処理対象面5では、レーザー光Lによって被覆物が除去される。
【0038】
この被覆物の除去に伴い、ヒュームなどの飛散物Sが発生する。表面処理ステップでは、吸引装置22の運転を行うため、飛散物Sは、吸引装置22によって排気口24から吸引される。この時、通気口25を通って外部の空気が回収用ケース21内に導入される。そのため、回収用ケース21内では排気口24に向かう気流が増え、吸引装置22によって飛散物Sを効果的に吸引することができる。特に、本実施形態では、排気口24を有する側面パネル12と、通気口25を有する側面パネル12とが互いに対向しているため、内部空間21sの広範囲で十分な流速の気流が生じ、吸引装置22によって飛散物Sを効果的に吸引することができる。
【0039】
なお、表面処理ステップでは、作業者が、例えば主パネル11の外面に沿ってレーザー照射ヘッド32の出射窓35bを動かすことによって、処理対象面5におけるレーザー光Lの照射位置を変更させて、回収用ケース21内の処理対象面5のほぼ全面の被覆物を除去することができる。主パネル11は比較的大面積であるため、広範囲の被覆物を除去することができる。回収用ケース21の外部からは、回収用ケース21内の処理対象面5のほぼ全面を視認できるため、作業性も良好となる。
【0040】
回収用ケース21内の被覆物の除去が完了すると、処理対象面5から回収用ケース21を取り外すケース取外しステップを行う。具体的に、作業者が回収用ケース21を支持した状態で、吸引装置22による回収用ケース21内の空気の吸引が停止される。そうすると、通気口25からの空気の流入に伴って、内部空間21sの圧力が上昇し、吸着力Pが弱まる。作業者は、処理対象面5から回収用ケース21を引き離す。その後、施工予定領域における別の領域を処理対象面5として覆うようにケース設置ステップを行い、ケース設置ステップ後に表面処理ステップを行う。施工現場では、ケース設置ステップ、表面処理ステップ、及び、ケース取外しステップがこの順番で繰り返し行われる。なお、レーザー処理方法は、レーザークリーニング以外の表面処理(例えばレーザー溶接など)に使用することもできる。
【0041】
また、レーザー処理用回収装置20は、回収用ケース21に収容可能な大きさの部材(機器又は装置の部品など)6の表面を覆う被覆物(塗膜、錆、アスベスト又は塩分など)の除去に使用することもできる。この場合、図6に示すように、回収用ケース21が、部材6を覆って、開口部13側が下側となるように設置される。この場合、開口部13を塞ぐ閉塞面は、部材6が設置される設置面(作業台又は地面など)7となる。この状態で、レーザー照射ヘッド32の出射窓35bから出射されたレーザー光Lが、主パネル11を通って処理対象面5に照射される。
【0042】
[実施形態の効果等]
本実施形態では、開口部13を塞ぎ、且つ、処理対象面5を被覆する設置状態において、回収用ケース21とは別体のレーザー照射ヘッド32から透明パネル11,12を通じて処理対象面5にレーザー光Lを照射する表面処理が可能な状態になる。また、設置状態の回収用ケース21内の空気を吸引装置22によって吸引することによって、処理対象面5にレーザー光を照射するレーザークリーニングの際に発生する飛散物Sが吸引される。そのため、回収用ケース21の外部のレーザー照射ヘッド32には、飛散物Sがほとんど到達しない。従って、飛散物Sに対する対策によってレーザー照射ヘッド32の構成が複雑化することを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、回収用ケース21の側面も透明パネル12により構成されているため、側面パネル12を通して処理対象面5にレーザー光Lを照射することができる。そのため、回収用ケース21内の処理対象面5にボルトなどの突起物がある場合に、突起物の側面にレーザー光Lを照射して、その側面の被覆物を容易に除去することができる。
【0044】
また、本実施形態では、回収用ケース21とは別体のレーザー照射ヘッド32を使用するため、処理対象面5に対しレーザー照射ヘッド32を近づけたり遠ざけたりすることで、処理対象面5の表面にレーザー光Lの焦点を容易に調節することができる。例えば、回収用ケース21内の処理対象面5にボルトなどの突起物がある場合に、レーザー光Lの焦点を突起物の表面に容易に合わせることができる。そのため、クリーニング品質を向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態では、吸引装置22によって飛散物Sを吸引しているものの飛散物Sが透明パネル11,12に付着する虞があるが、透明パネル11,12は大面積であるため、透明パネル11,12に飛散物Sが付着及び堆積しても、透明パネル11,12におけるレーザー光Lの透過率が低下しにくい。そのため、飛散物Sの堆積によって処理対象面5に到達するレーザー光Lの強度低下を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態では、回収用ケース21が通気口25を有するため、内部空間21sが密閉状態となった回収用ケース21内の空気を吸引する際に、回収用ケース21内の圧力が低下しすぎることを回避することができる。これにより、透明パネル11,12(主に主パネル11)が内側に大きく撓むこと、或いは、この撓みによって透明パネル11,12が破損することを抑制することができる。また、回収用ケース21が通気口25を有することで、ケース取外しステップの際に回収用ケース21の取り外しも容易になる。
【0047】
なお、透明パネル11,12には、上述の破損を抑制するために、高強度な材料を使用することができる。また、側面パネル12に比べて主パネル11の方が高強度の材料を採用してもよい。また、主パネル11の内側への撓みを抑制するために、フレーム14に両端が固定されて主パネル11を横断する支持部材(梁部材)を設けてもよい。支持部材は、主パネル11の内面に当接するように設ける。この場合、作業者が処理対象面5を視認しやすいように、支持部材に透明な材料を使用してもよい。
【0048】
また、レーザー照射ヘッド32が出射するレーザー光Lは高強度であるため、レーザー光Lが透明パネル11,12を透過することで、透明パネル11,12の温度が上昇する。そのため、透明パネル11,12には、レーザー光の透過率が高く、耐熱性が高い材料を使用することができる。
【0049】
また、透明パネル11,12は、上述の撓みや温度上昇により劣化したり、また飛散物Sの堆積によってレーザー光Lの透過率が低下したりする場合に交換することができるように、回収用ケース21に、透明パネル11,12を取り付け及び取り外しが可能な第1状態と、透明パネル11,12を保持する第2状態とを、回転又はスライドなどにより切り替え可能なパネル取付部16を設けてもよい。図7に示すパネル取付部16は、主パネル11用に設けられている。パネル取付部16は、フレーム14のうち主パネル11を囲う主面側クレーム14bに回転自在に設けられた複数の留め具17により構成されている。複数の留め具17は、図7(a)に示すように、主面側クレーム14bの周方向に間隔を空けて配置されている。各留め具17は、小さな板状片であり、ピン18により回転自在に主面側クレーム14bに取り付けられている(図7(b)参照)。主面側クレーム14bでは、内周側を凹ませることで、主パネル11の載置面14cが形成されている。主パネル11を交換する際は、主パネル11に留め具17が重ならない第1状態(図7(c)の左図の状態)になるように留め具17を回転させる。これにより、使用済みの主パネル11を取り外して、新しい主パネル11を載置面14cに載置する。そして、主パネル11に留め具17が重なる第2状態(図7(c)の右図の状態)になるように留め具17を回転させる。これにより、主パネル11は各留め具17により保持される。なお、載置面14cには、図7(b)に示すように、ゴムなどの弾性部材19を設けてもよい。また、回収用ケース21では、ネジなどの締結具によって透明パネル11,12を着脱自在に取り付けてもよい。
【0050】
[実施形態の第1変形例]
本変形例では、図8に示すように、回収用ケース21が、開口部13を塞ぐ閉塞面に対し回収用ケース21を固定するための構成要素として、上記吸着力Pを発生させる吸引装置22による回収用ケース21内の空気の吸引について第1固定部とした場合に、別の方法により吸着力を発生させる第2固定部を備えている。第2固定部は、例えば、開口部13の縁部13e(開口側フレーム14a)に設けられた磁石26である。
【0051】
この場合、磁石26は、例えば棒状のものを用いることができる。磁石26は、開口側フレーム14aの各辺に沿って設ける。この場合に、図8では、開口側フレーム14aの下面においてシール部材15の外側に磁石26を配置しているが、シール部材15の内側に磁石26を配置してもよい。また、シール部材15にゴム磁石を使用して、シール部材15が磁石26の機能を果たしてもよい。
【0052】
本変形例では、上述の実施形態と同様に、レーザー処理用回収装置20が、上述の吸着力Pのみによって、鉛直の壁面に対し回収用ケース21を固定可能に構成して、補助的に磁石26を設けている。そして、回収用ケース21は、全ての磁石26の磁力だけで、鉛直な磁性体の壁面に対し、回収用ケース21が落下しないように回収用ケース21を固定可能にもしている。そのため、停電や故障などによって吸引装置22が停止した時に、回収用ケース21の落下を防止することができる。なお、磁石26として電磁石を用いてもよい。この場合は、吸引装置22とは別の電源から電磁石に電力を供給してもよい。また、第2固定部として、吸盤、真空パッド(吸着パッド)などを用いてもよい。
【0053】
また、第1固定部の吸着力Pと第2固定部の吸着力(磁石26の磁力、吸盤又は真空パッドの吸着力など)との一方だけで、鉛直な磁性体の壁面に対して回収用ケース21を固定する力を確保せずに、第1固定部の吸着力Pと第2固定部の吸着力との両方によって、鉛直な壁面に対し回収用ケース21を固定する力を確保するようにしてもよい。
【0054】
[実施形態の第2変形例]
本変形例では、図9(a)に示すように、回収用ケース21は、冷却ガス、不燃性ガス又は不活性ガスなどのガスG(二酸化炭素、窒素など)を供給するガス供給装置40に接続されるガス導入部27と、ガス導入部27から供給されるガスGを処理対象面5に向けて吐出するガス吐出口28とを有する。ガス吐出口28は、ノズルにより構成されている。なお、本変形例では、通気口25を省略してもよい。
【0055】
例えば、開口側フレーム14aは、内部がガスGの流路29となるように管状に形成されている。開口側フレーム14aの外面には、ガス導入部27が設けられている。また、開口側フレーム14aの内面には、ガス吐出口28が設けられている。本変形例では、開口側フレーム14aに対して複数のガス吐出口28が設けられている。この場合に、図9(a)に示すように、開口側フレーム14aの各辺にガス吐出口28を設けてもよいし、一部の辺だけにガス吐出口28を設けてもよい。
【0056】
本変形例では、表面処理ステップの際にガス供給装置40の運転が行われ、ガス供給装置40からガス導入部27にガスGが供給される。回収用ケース21では、ガス導入部27に供給されたガスGが、開口側フレーム14a内の流路29を流通し、各ガス吐出口28から吐出されて、処理対象面5に供給される(図9(b)参照)。これによって、レーザー光による表面処理時に引火が生じやすい場合であっても、引火を防止することができる。なお、図9(b)では、作業者の記載を省略している。
【0057】
[実施形態の第3変形例]
本変形例では、図10に示すように、レーザー処理システム10が、処理対象面5を濡らすための液体を吐出する液体吐出装置50をさらに備えている。例えば、液体吐出装置50は、回収用ケース21に設けられた液体吐出口51と、液体吐出口51に液体(水、水溶液など)を供給する液体供給装置52とを備えている。液体吐出口51は噴霧ノズルにより構成され、液体吐出口51からは液体が噴霧される。液体吐出口51は、配管53を介して液体供給装置52に接続されている。なお、第2変形例のガス吐出口28を液体吐出口として兼用してもよいし、本変形例の液体吐出口51を冷却ガス、不燃性ガス又は不活性ガスの吐出口として兼用してもよい。
【0058】
ここで、本願発明者は、レーザークリーニング前に処理対象面5(塗膜、錆、アスベスト又は塩分などの被覆物の表面)を濡らした場合の方が、処理対象面5を濡らさない場合に比べて、レーザークリーニング後の母材の素地がきれいになることを見出した。本願発明者は、図11(a)の最も右側の試験片のように錆で覆われた処理対象面5にて、液体で濡らした場合(ケース1)と液体で濡らさない場合(ケース2)の比較試験を行った。比較試験の液体には水を用いた。図11(a)では、左から順番に、処理対象面5を濡らしてレーザークリーニングを実施したケース1の母材、処理対象面5を濡らすことなくレーザークリーニングを実施したケース2の母材、レーザークリーニングを未実施の母材の試験片を並べた写真である。図11(b)は、ケース1の試験片の拡大写真である。図11(c)は、ケース2の試験片の拡大写真である。図11(b)と図11(c)では、明らかに前者の素地の方がきれいであり、後者の素地の方は傷が目立った。なお、本願発明者は、水以外の水溶液でも同様の結果を得ている。
【0059】
本変形例では、ケース設置ステップ後で表面処理ステップ前に、液体吐出口51から液体を噴霧することによって、回収用ケース21内の処理対象面5の表面を濡らす液体噴霧ステップが行われる。これにより、レーザークリーニング後の母材の素地がきれいなるため、素地調整のグレードを上げることができる。
【0060】
なお、液体吐出装置50の液体吐出口51を回収用ケース21に設けずに、回収用ケース21とは別体の液体吐出装置50を用いて、液体噴霧ステップを行ってもよい。この場合は、ケース設置ステップ前に液体噴霧ステップを行う。
【0061】
[実施形態の第4変形例]
本変形例では、回収用ケース21が、図12(a)に示すように、上面視においてL字状を呈する。回収用ケース21は、2つの壁面が所定の角度(90°など)で交わる取合い部又は角柱などを処理対象面5とする場合に用いられる。なお、図12において吸気用ホース23の図示は省略している。
【0062】
回収用ケース21は、一方の壁面の処理対象面5によって開口部13が塞がれる第1ケース部21aと、他方の壁面の処理対象面5によって開口部13が塞がれる第2ケース部21bと、第1ケース部21aと第2ケース部21bとを結合させる取合い部21cを備えている。
【0063】
なお、図12(a)では、L字の内側に開口部13を設けているが、図12(b)に示すように、L字の外側に開口部13を設けてもよい。また、処理対象面5の形状に対し任意に変形させることができることができるように、片側に開口部13が形成された蛇腹状のケースに透明パネル11,12を設けることによって、回収用ケース21を構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、レーザー光による表面処理に使用されるレーザー処理用回収装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
5 処理対象面
10 レーザー処理システム
11 主パネル(透明パネル)
12 側面パネル(透明パネル)
13 開口部
13e 開口部の縁部
20 レーザー処理用回収装置
21 回収用ケース
22 吸引装置
【要約】
【課題】レーザー光による表面処理の際に発生する飛散物に対する対策によってレーザー照射部の構成が複雑化することを抑制する。
【解決手段】レーザー処理用回収装置20は、処理対象面5にレーザー光Lを照射するためのレーザー照射部32とは別体に形成され、陸上での表面処理の際に処理対象面5とレーザー照射部32とを区画するケースであって、片側に開口部13が形成されて開口部13に対面するように透明パネル11,12が設けられており、開口部13を塞ぎ、且つ、処理対象面5を被覆する設置状態では、レーザー照射部32から透明パネル11,12を通じて処理対象面5にレーザー光Lを照射する表面処理が可能な状態になる回収用ケース21と、設置状態の回収用ケース21内の空気を吸引することによって、表面処理の際に発生する飛散物を吸引する吸引装置22とを備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12