(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】清浄剤として脂肪酸エステルを含む装置中のレッドオイル堆積物を除去するための清浄化方法及びこのような方法における清浄剤としての脂肪酸エステルの使用
(51)【国際特許分類】
C11D 7/26 20060101AFI20230327BHJP
C10G 75/00 20060101ALI20230327BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C11D7/26
C10G75/00
B08B3/08
(21)【出願番号】P 2020516692
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(86)【国際出願番号】 EP2018076029
(87)【国際公開番号】W WO2019063573
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-10
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504469606
【氏名又は名称】トタル リサーチ アンド テクノロジー フエリユイ
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ベリ,カロール
(72)【発明者】
【氏名】トレ ボシェ,ジャンピエール
(72)【発明者】
【氏名】ラスニエール,ミシェル
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-502135(JP,A)
【文献】特表2004-513213(JP,A)
【文献】特表2005-530903(JP,A)
【文献】特開2016-124823(JP,A)
【文献】特表2003-519248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
C07C 7/00- 7/20
C10G 1/00-99/00
B01D53/14-53/18
B08B 1/00-13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置中で形成されたレッドオイル堆積物を除去するための方法であって、
b)1つ以上の脂肪酸エステルを含む清浄剤を添加する工程と;
c)前記レッドオイル堆積物を前記清浄剤に溶解させ、前記清浄剤及び前記溶解されたレッドオイルを含む混合物を形成するために、前記装置内で前記清浄剤を循環させる工程と;
d)前記清浄剤及び前記溶解されたレッドオイルを含む前記混合物を除去する工程とを含む方法。
【請求項2】
前記方法が、前記清浄剤の添加の前記工程b)の前に行われる過剰なソーダを除去するための前記装置の洗浄の工程a)を含
む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)において洗浄が水で行われる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において、前記1つ以上の脂肪酸エステルが、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル及びそれらの任意の混合物から選択され
る請求項
1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)において前記1つ以上の脂肪酸エステルが脂肪酸メチルエステルから選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程b)において前記清浄剤がバイオディーゼルである請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程b)において、添加される前記1つ以上の脂肪酸エステルが4~36個の炭素原
子の範囲の炭素鎖長を有するように選択される請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)において、前記1つ以上の脂肪酸エステルが50℃
超の引火点を有するように選択される請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程c)が、0~150℃の範囲
の温度で行われる請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程c)が、再循環ポンプによって、及び/又は高圧注入装置及び/又はガスバブリングによって行われ
る請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程c)が、装置の停止又は操作中に行わ
れる請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程c)が、ガスバブリングによって装置の操作中に行われる請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
工程c)中の前記清浄剤への前記レッドオイル堆積物の溶解が、前記混合物の密度及び/又は粘度を測定することによって監視され、前記工程c)が、
-測定される前記密度が、時間内で一定であるとき、又は測定される前記密度が、実験室試験によって決定される目標密度に達したときに終了され;及び/又は
-前記混合物の粘度及び前記工程c)は、前記粘度が、時間内で一定であるとき、又は測定される前記粘度が、実験室試験によって決定される目標密度に達したときに終了されることを特徴とする、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程c)中の前記清浄剤への前記レッドオイル堆積物の溶解が、減衰全反射(ATR)フーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって監視され、前記工程c)は、前記装置における新鮮な清浄剤の添加が、ATR-FTIR分析の結果のさらなる増加を提供しないとき、又は基準試料のインターフェログラムのフーリエ変換との、前記混合物のインターフェログラムのフーリエ変換の比較によって終了され
る請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記清浄剤及び前記溶解されたレッドオイルを含む前記混合物を除去する工程d)が、前記混合物をポンプでくみ出すことによって行われ
る請求項1~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
除去される前記レッドオイル堆積物の体積及び/又は重量の決定の工程を含
む請求項1~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記装置が、塩基性洗浄ユニット及び/又は塩基性洗浄ユニットの下流の機器であ
る請求項1~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記塩基性洗浄ユニットが苛性ソーダを使用する苛性塔、苛性スクラバー、アミンガススクラバーの下流の苛性洗浄装置から選択され、前記塩基性洗浄ユニットがポンプ、パイプ及びセトラーから選択される全ての関連する機器を含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
装置からレッドオイル堆積物を除去するための方法における清浄剤としての1つ以上の脂肪酸エステルの使用であって、前記使用が、前記レッドオイル堆積物を前記1つ以上の脂肪酸エステルに溶解させることを含
むことを特徴とする使用。
【請求項20】
前記脂肪酸エステルが、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル及びそれらの任意の混合物から選択され、前記脂肪酸エステルが1つ以上の脂肪酸メチルエステルから選択される請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記1つ以上の脂肪酸エステルが、
-4~36個の炭素原子
の範囲の炭素鎖長;及び/又は
-100℃超の引火点
を有するように選択され
る請求項
19または20に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性洗浄ユニット、蒸気分解装置の苛性塔及び使用済み苛性アルカリに対処する全ての下流のユニットなどの、レッドオイル堆積物による汚損に曝される装置を清浄化するための方法に関する。本発明は、レッドオイルによる汚損堆積物の抑制又は減少を目的とした公知の予防的方法(preventive process)の補完として使用される改善的方法(curative process)に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンを形成するためのエタン、プロパン、及びナフサの熱分解による蒸気分解などの分解操作において、アルデヒド及びケトンなどのカルボニル化合物を含む含酸素化合物が形成される。ガス流が、硫化水素及び二酸化炭素などの酸性成分を除去するために塩基性洗浄(pH>7を有する)に通される場合、アセトアルデヒドなどの酸素含有化合物が、塩基性洗浄又はスクラビング条件の存在下で重縮合を経ることになる。形成されるポリマーは、その色のため「レッドオイル」とも呼ばれる。苛性塔は、汚損を減少させるために添加剤で処理されることがある。アルデヒドが、苛性塔において完全に転化されない際、反応が使用済み苛性アルカリ中で継続する。このような理由で、使用済み苛性アルカリに対処する全ての下流のユニット及び貯蔵器も汚損される傾向がある。
【0003】
苛性スクラバーシステムにおけるシステムの汚損を抑制するための予防的方法の一例が、米国特許第5194143号明細書に開示されている。開示される方法は、この目的のために有効な量のアセト酢酸エステル化合物を、苛性洗浄システムに添加することにある。
【0004】
予防的方法の別の例が、国際公開第2011/138305号パンフレットによって示され、酸性ガスを除去するのに使用される苛性スクラバー中で発生する汚損堆積物の形成を減少させるための方法に関する。開示される方法は、苛性スクラバー中に、及び/又はスクラバーに供給されるアルカリ性溶液中に導入される、ベンゼン、トルエン及びキシレンから選択される炭化水素芳香族などの溶剤を使用する。
【0005】
使用済み苛性アルカリに溶解されるアセトアルデヒドは、依然として反応性であり、下流のユニットにおけるレッドオイル形成は継続する。これは、下流の装置の深刻な汚損を引き起こす。使用済み苛性アルカリ貯蔵器は、大量のポリマーを含有することがあり、例えば、ポリマーの50cmの厚さは驚くことではない。これらの堆積物は、ガム状で粘着性である。装置は、コストのかかる操作である清浄化のために停止されなければならない。さらに、費やされる時間は、装置が10日間超にわたって利用できないほど長いことがある。
【0006】
レッドオイル堆積物は、手作業で除去可能であるが、この方法は、操作者の作業場における健康及び安全性のリスク(すなわちHSEリスク)のため許容度が低い。高圧清浄化は、レッドオイル堆積物のガム状及び粘着性の性質のため、低い効率を示す。添加剤の使用も提案されているが、それらは、エマルジョン中で使用されるため部分的な効率を有し、処理が困難な廃棄物を生成する。
【0007】
したがって、塩基性洗浄ユニット及び下流の機器などの装置中で形成されるレッドオイル堆積物を清浄化するための方法を発見することが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、塩基性洗浄ユニット及び下流の機器などの装置中で形成されたレッドオイル堆積物を除去するための清浄化方法を提供することである。本発明の目的はまた、実施するのが簡単であり、低いHSEリスクを示し、コスト効率が高く、時間効率が良く、及び/又は処理が簡単な廃棄物を生成する、清浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、装置中で形成されたレッドオイル堆積物を除去するための方法であって、
b)1つ以上の脂肪酸エステルを含む清浄剤を添加する工程と;
c)レッドオイル堆積物を清浄剤に溶解させ、清浄剤及び溶解されたレッドオイルを含む混合物を形成するために、装置内で清浄剤を循環させる工程と;
d)清浄剤及び溶解されたレッドオイルを含む混合物を除去する工程とを含む方法を提供する。
【0010】
意外なことに、脂肪酸エステル、特に、脂肪酸メチルエステルが、レッドオイルに対する高い親和性を有することが、本発明者らによって見出された。脂肪酸エステルを用いて、レッドオイルを溶解させるか、又はレッドオイル粘度を低下させて、単純なポンプによって除去可能な混合物を生成することができる。このような清浄剤の使用は、操作者が有害な化学物質に曝される必要がなく、したがってHSEリスクを増加させないため、特に興味深い。それは、装置の清浄化が、場合によっては、1日又は1日未満で行われるのを可能にし、装置が保守のために利用できないか又は部分的に停止される時間を減少させる。さらに、生成される廃棄物(すなわち、清浄剤及び溶解されたレッドオイルを含む混合物)は、炭化水素のみを含有し、したがって、例えば焼却によって、容易に処分され得る。
【0011】
一実施形態において、本方法は、清浄剤の添加の工程b)の前に行われる過剰なソーダを除去するための装置の洗浄の工程a)を含む。好ましくは、工程a)において、洗浄が水で行われる。
【0012】
好ましくは、以下の特徴の1つ以上を用いて、本発明に係る方法をさらに規定することができる。
-工程b)において、1つ以上の脂肪酸エステルは、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル及びそれらの任意の混合物から選択され、好ましくは、工程b)において、1つ以上の脂肪酸エステルは、脂肪酸メチルエステルから選択される。
【0013】
-工程b)において、清浄剤はバイオディーゼルである。
【0014】
-工程b)において、添加される1つ以上の脂肪酸エステルは、4~36個の炭素原子、好ましくは、8~24個の炭素原子、より好ましくは、10~22個の炭素原子、さらにより好ましくは、14~20個の炭素原子の範囲の炭素鎖長を有するように選択される。
【0015】
-工程b)において、1つ以上の脂肪酸エステルは、50℃超、好ましくは、80℃超、より好ましくは、100℃超の引火点を有するように選択される。
【0016】
-工程b)において、1つ以上の脂肪酸エステルは、0.05:1~50:1の範囲の脂肪酸エステル対レッドオイルの重量比で、好ましくは、0.2:1~10:1の範囲、より好ましくは、0.5:1~5:1の範囲、さらにより好ましくは、1:1の脂肪酸エステル対レッドオイルの重量比で、レッドオイルに添加される。
【0017】
-工程c)は、0~150℃の範囲、好ましくは、20~130℃の範囲、より好ましくは、50~110℃の温度で行われる。
【0018】
-工程c)は、再循環ポンプによって、及び/又は高圧注入装置及び/又はガスバブリングによって行われる。
【0019】
-工程c)は、装置の停止又は操作中に行われ、好ましくは、工程c)は、ガスバブリングによって装置の操作中に行われる。
【0020】
-清浄剤及び溶解されたレッドオイルを含む混合物を除去する工程d)は、前記混合物をポンプでくみ出すか又は排出することによって行われる。
【0021】
-本方法は、除去されるレッドオイル堆積物の体積及び/又は重量の決定の工程をさらに含む。この工程は、準備段階中に行われる。
【0022】
-装置は、塩基性洗浄ユニット及び/又は塩基性洗浄ユニットの下流の機器であり、好ましくは、塩基性洗浄ユニットは、苛性ソーダを使用しており、苛性塔、苛性スクラバー、アミンガススクラバーの下流の苛性洗浄装置から選択され、ここで、塩基性洗浄ユニットは、好ましくは、ポンプ、パイプ及びセトラーから選択される全ての関連する機器を含み;好ましくは、塩基性洗浄ユニットの下流の機器は、使用済み苛性アルカリセトラー、使用済み苛性アルカリ洗浄装置、使用済み苛性アルカリミキサー、使用済み苛性アルカリ貯蔵器、使用済み苛性アルカリ酸化装置、使用済み苛性アルカリ中和ドラム、使用済み苛性アルカリ除去装置から選択される。
【0023】
一実施形態において、工程c)中の清浄剤へのレッドオイル堆積物の溶解は、混合物の密度及び/又は粘度を測定することによって監視され、工程c)は、
-測定される密度が、時間内で一定であるとき、又は測定される密度が、実験室試験によって決定される目標密度に達したときに終了され;及び/又は
-混合物の粘度及び工程c)は、粘度が、時間内で一定であるとき、又は測定される粘度が、実験室試験によって決定される目標密度に達したときに終了される。
【0024】
別の実施形態において、工程c)中の清浄剤へのレッドオイル堆積物の溶解は、減衰全反射(ATR)フーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって監視され、工程c)は、装置における新鮮な清浄剤の添加が、ATR-FTIR分析の結果のさらなる増加を提供しないとき、又は基準試料のインターフェログラムのフーリエ変換との、混合物のインターフェログラムのフーリエ変換の比較によって終了される。
【0025】
第2の態様によれば、本発明は、装置からレッドオイル堆積物を除去するための方法における清浄剤としての1つ以上の脂肪酸エステルの使用であって、レッドオイル堆積物を脂肪酸エステルに溶解させることを含む使用に関する。
【0026】
本方法は、第1の態様に係る方法であり、ここで、好ましくは、1つ以上の脂肪酸エステルは、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル及びそれらの任意の混合物から選択される。より好ましくは、1つ以上の脂肪酸エステルは、1つ以上の脂肪酸メチルエステルから選択される。
【0027】
好ましい実施形態において、1つ以上の脂肪酸エステルは、
-4~36個の炭素原子、好ましくは、8~24個の炭素原子、より好ましくは、10~22個の炭素原子、さらにより好ましくは、14~20個の炭素原子の範囲の炭素鎖長
-50℃超、好ましくは、80℃超、より好ましくは、100℃超の引火点
を有するように選択される。
【0028】
一実施形態において、1つ以上の脂肪酸エステルはバイオディーゼルである。
【0029】
一実施形態において、使用は、
-0~150℃の範囲、好ましくは、20~130℃の範囲、より好ましくは、50~110℃の温度で、レッドオイルを1つ以上の脂肪酸エステルに溶解させること、
-過剰なソーダを少なくとも部分的に除去するために、1つ以上の脂肪酸エステルの添加の前に、装置を、好ましくは水で洗浄することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】レッドオイルの溶解工程中の脂肪酸エステル及びレッドオイルの混合物の密度の展開を示すグラフである。
【
図3】レッドオイルの溶解に起因する清浄剤の色の変化を示すFTIRグラフの重ね合わせである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の趣旨では、以下の定義が与えられる。
「レッドオイル」は、苛性塔中で頻繁に発生する有機汚染物質を表す用語である。「レッドオイル」は、水酸化ナトリウム溶液中のアセトアルデヒドのアルドール縮合から生じる有機ポリマーから形成される。最初に、アセトアルデヒドは、軽質の浮遊する黄色の油を形成し、これが重合し続けて、より知られたオレンジがかった/赤色になり-したがって用語「レッドオイル」になる。これらのレッドオイルは、分離しにくいより粘着性の重質油を形成する。これは、苛性塔及び下流の使用済み苛性アルカリ処理システムにおける汚損及び詰まりの問題を引き起こす。
【0032】
脂肪酸エステルは、脂肪酸とアルコールとの組合せから生じるエステルのタイプである。アルコール成分がグリセロールである場合、生成される脂肪酸エステルは、モノグリセリド、ジグリセリド、又はトリグリセリドであり得る。
【0033】
バイオディーゼルは、典型的に、様々なアルコールによるグリセロール成分の置換をもたらす、植物性油脂のエステル交換によって生成される脂肪酸エステルである。
【0034】
脂肪酸メチルエステル(FAME)は、脂肪酸のエステルである。脂肪酸エステルの物理的特性は、純粋な植物油より化石ディーゼル燃料のものに近いが、特性は、植物油のタイプに依存する。様々な脂肪酸メチルエステルの混合物が、一般的に、バイオディーゼルと呼ばれ、これは、再生可能な代替燃料である。FAMEは、従来のディーゼルのものと類似の物理的特性を有する。それはまた、非毒性で且つ生分解性である。
【0035】
本発明の方法は、塩基性洗浄ユニット及び/又はその下流の機器中で形成されたレッドオイル堆積物を除去するための方法である。本発明によれば、好ましくは、塩基性洗浄ユニットは、苛性ソーダを使用しており、苛性塔、苛性スクラバー、アミンガススクラバーの下流の苛性洗浄装置から選択され、ここで、塩基性洗浄ユニットは、好ましくは、ポンプ、パイプ及びセトラーから選択される全ての関連する機器を含み;好ましくは、塩基性洗浄ユニットの下流の機器は、使用済み苛性アルカリセトラー、使用済み苛性アルカリ洗浄装置、使用済み苛性アルカリミキサー、使用済み苛性アルカリ貯蔵器、使用済み苛性アルカリ酸化装置、使用済み苛性アルカリ中和ドラム、使用済み苛性アルカリ除去装置から選択される。この方法は、塩基性洗浄ユニットが、保守作業中に使用されていないか又は部分的に使用されていない点で予防的方法と異なる改善的方法である。
【0036】
本方法は、以下の工程:
b)1つ以上の脂肪酸エステルを含む清浄剤を添加する工程と;
c)レッドオイル堆積物を清浄剤に溶解させ、清浄剤及び溶解されたレッドオイルを含む混合物を形成するために、装置内で清浄剤を循環させる工程と;
d)清浄剤及び溶解されたレッドオイルを含む混合物を除去する工程とを含む。
【0037】
本発明に係る方法は、レッドオイルを溶解させるための溶剤を含む清浄剤を使用し、ここで、前記溶剤は、1つ以上の脂肪酸エステルを含む。使用され得る溶剤の中でも特に、脂肪酸エステルは、レッドオイルとのそれらの良好な親和性のため、また、それらが生物由来であるため、好ましいことが分かっている。さらに、それらの使用は、清浄化中の操作者の作業場における健康及び安全性のリスクを増加させない。これは、塩基性洗浄ユニットが、苛性ソーダ、硫化物、ベンゼン生成物などを含有し得るため、重要である。脂肪酸エステルの使用の別の利点は、それらが、腐食の問題を引き起こさないことである。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、本方法は、過剰なソーダを少なくとも部分的に除去するために装置を洗浄する任意選択的な工程a)を含む。工程a)は、清浄剤の添加の工程b)の前に行われる。この工程は、過度の加水分解から1つ以上の脂肪酸エステルを保護することによって、清浄化方法の効率を高める。この洗浄は、好ましくは水で行われる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、本方法は、好ましくは、除去されるレッドオイル堆積物の体積及び/又は重量からの、除去されるレッドオイル堆積物の量の決定の任意選択的な工程も含む。この工程は、洗浄工程a)が行われる場合、洗浄工程a)の前又は前記洗浄工程a)の後に行われ得る。決定工程は、装置内のレッドオイル堆積物の体積を明確にすることによって行われる。前記体積は、レッドオイル堆積物の層の厚さを測定又は評価することによって決定される。評価はまた、過去のデータを用いて行われ得る。この決定は、正確である必要はないが、工程b)において装置を清浄化するのに必要とされる脂肪酸エステルの量の最初の決定に補助を提供することを可能にする。脂肪酸エステルの必要とされる量を決定するための他の基準は、装置における循環を可能にするのに必要とされる最小体積を使用することである。
【0040】
本方法の工程b)において、清浄剤が添加され、レッドオイル堆積物と接触される。本発明によれば、清浄剤は、1つ以上の脂肪酸エステルであり、好ましくは、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル及びそれらの任意の混合物から選択される。好ましくは、工程b)において、1つ以上の脂肪酸エステルは、1つ以上の脂肪酸メチルエステル(FAME)である。好ましい実施形態において、清浄剤はバイオディーゼルである。好ましくは、清浄剤は、純粋な状態で、すなわち、水に溶解させずに使用される。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、添加される1つ以上の脂肪酸エステルは、4~36個の炭素原子、好ましくは、8~24個の炭素原子、より好ましくは、10~22個の炭素原子、さらにより好ましくは、14~20個の炭素原子の範囲の炭素鎖長を有するように選択される。好ましい実施形態において、添加される1つ以上の脂肪酸エステルは、18個の炭素原子の炭素鎖長を有する。レッドオイルも長い炭素鎖を示すため、長鎖脂肪酸エステルが、最も短いものより効率的であることが本発明者らによって見出された。
【0042】
高い引火点を有する脂肪酸エステルが、レッドオイルを溶解させるのにより効率的であることが分かった。したがって、好ましくは、1つ以上の脂肪酸エステルは、50℃超、好ましくは、80℃超、より好ましくは、100℃超、さらにより好ましくは、120℃超、最も好ましくは、160℃超の引火点を有するように選択される。引火点は、材料の蒸気が点火源を与えられたときに点火する最低温度である。
【0043】
工程b)において添加される1つ以上の脂肪酸エステルの体積又は重量は、脂肪酸エステルへのレッドオイル堆積物の溶解度に応じて選択されるべきである。本方法は、工程b)~d)の1つ以上のシーケンスを含み得るため、一定の体積及び/又は重量の脂肪酸エステルを、塩基性洗浄ユニットに添加し、レッドオイル堆積物が全体的に溶解され、ポンプによるくみ出しによって除去されるまで、工程b)~d)のシーケンスを繰り返すことも可能である。
【0044】
本発明の一実施形態において、工程b)において添加される1つ以上の脂肪酸エステルの含量は、少なくとも、除去されるレッドオイル堆積物の含量である。例えば、除去されるレッドオイル堆積物の重量含量が約30トンであると決定される場合、添加される脂肪酸エステルの重量含量は、例えば40トンなど、30トン以上である。比率は、再循環を確実にすることが可能な機器の設計及び操作者によって計画されるバッチの数によって影響され得る。したがって、好ましくは、1つ以上の脂肪酸エステルは、0.2:1~10:1の範囲の重量比で、好ましくは、0.2:1~10:1の範囲、より好ましくは、0.5:1~5:1の範囲、さらにより好ましくは、1:1の脂肪酸エステル対レッドオイルの重量比でレッドオイルに添加され得る。
【0045】
1つ以上の脂肪酸エステルが、装置内に導入されたら、それらは、本方法の工程c)において装置内で循環される。脂肪酸エステルのこの循環は、再循環ポンプ又は高圧注入装置及び/又はガスバブリングによって行われ得る。ガスバブリングに使用されるガスとしては、窒素、蒸気、プロセスガスなどが挙げられる。清浄化操作は、装置の停止又は操作中に行われ得る。それが装置の操作中に行われる場合;プロセスガスを用いて、脂肪酸エステルのバブリング及び乱流を生じさせる。脂肪酸エステルの循環は、乱流を生じさせることによって、レッドオイル堆積物の溶解を促進する。任意の撹拌手段も、装置における脂肪酸エステルの撹拌を達成するために使用され得る。乱流は、清浄化操作において役割を果たし、結果を達成するのに必要とされる時間を減少させる。
【0046】
本発明の一実施形態において、装置における1つ以上の脂肪酸エステルを循環させる工程c)は、0℃~150℃、好ましくは、20℃~130℃、より好ましくは、50℃~110℃の範囲の温度で行われる。例えば、装置における脂肪酸エステルを循環させる工程c)は、80℃で行われる。装置には、この目的のための加熱手段が設けられ得る。
【0047】
一実施形態において、装置における1つ以上の脂肪酸エステルを循環させる工程c)は、清浄剤の飽和を追跡するために監視される。清浄剤が飽和されると、レッドオイル堆積物は、もはや溶解せず、混合物は除去されるべきである。清浄剤の量が、レッドオイル堆積物を全体的に溶解させるのに十分でない場合、工程b)~d)は、再度行われ得る。清浄剤へのレッドオイル堆積物の溶解の監視は、様々な方法によって行われ得る。
【0048】
一実施形態において、監視は、清浄剤及び溶解されたレッドオイルの混合物の密度を監視することによって行われる。実際に、溶解中、密度は、それが一定になる規定のレベルまで増加されることが分かった。本発明によれば、レッドオイルを清浄剤に溶解させる工程c)は、混合物の密度を監視するときに終了され、工程c)は、さらなるレッドオイル溶解がないか、又は実験室試験によって決定した際に目標密度に達したことを示す、密度が安定化されたときに終了される。
【0049】
一実施形態において、工程c)は、混合物の密度の監視の結果を示すグラフが漸近線を示すときに終了される。別の実施形態において、工程c)は、混合物の密度増加が、Antoon Parr製の密度計DMA35Nを用いて決定した際に、30℃で決定した際に0.30g/cm3を超えるときに終了される。
【0050】
別の実施形態において、工程c)中の清浄剤へのレッドオイル堆積物の溶解の監視は、減衰全反射(ATR)フーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって混合物を監視することによって行われ、工程c)は、基準試料のインターフェログラムのフーリエ変換との、混合物のインターフェログラムのフーリエ変換の比較によって終了される。
【0051】
別の実施形態において、工程c)中の清浄剤へのレッドオイル堆積物の溶解の監視は、混合物の粘度を監視することによって行われ、工程c)は、さらなるレッドオイル溶解がないことを示す、粘度が安定化されたときに終了される。
【0052】
試験方法
引火点は、ISO3679に準拠して測定される。
【0053】
脂肪酸エステル及び溶解されたレッドオイルの混合物の密度を、Antoon Parr製の密度計DMA35Nを用いて決定した。DMA 35N携帯用密度計が、U字管の原理にしたがって、g/cm3又はkg/cm3で、液体の密度を測定する。
【0054】
脂肪酸エステル及び溶解されたレッドオイルの混合物の吸光度を、ATR-FTIRを用いて決定した。
【0055】
FTIR(フーリエ変換赤外)の機能は、官能基を同定することである。FTIRは、ほとんどの分子が電磁スペクトルの赤外域内の光を吸収することに依拠する。この吸収は、特に、分子中に存在する結合に対応する。周波数範囲は、典型的に、4000~600cm-1の範囲にわたる波数として測定される。減衰全反射(ATR)は、試料がさらなる準備なしで固体又は液体状態で直接調べられるのを可能にする赤外分光法と併用されるサンプリング技術である。
【0056】
脂肪酸エステル及び溶解されたレッドオイルの混合物の粘度を、ANTON PAAR製の粘度計SVM 3000を用いて決定した。それは、円筒形状を有する合理的な粘度計である。それは、修正されたクエット原理に基づくものである。
【実施例】
【0057】
実施例1:清浄剤の効率
様々な清浄剤が試験された。
-CA1は、80重量%の菜種メチルエステル、及び20重量%のパームメチルエステルを含む脂肪酸メチルエステル(FAME)の混合物である。CA1は、純粋な状態で(水中に溶解させずに)使用した。
【0058】
-CA2は、商品範囲Custom cleanでGEから市販されている清浄化製品である。CA2は、水に可溶性の、アルカリ性水溶液中のポリマーである。
【0059】
-CA3は、商品範囲PETROFLOでGEから市販されている重合阻害剤である。CA3は、水に可溶性の有機及び無機塩のアルカリ性水性生成物である。
【0060】
-CA4は、商品範囲Arsenal(商標)でNALCOから市販されている清浄化製品である。CA4は、イソプロパノールを含有し、水に可溶性である。
【0061】
-CA5は、商品範囲Enterfast(商標)でNALCOから市販されている清浄化製品である。CA5は、リン酸及びブトキシ-2-エタノールから誘導されるエステルを含む芳香族組成物である。CA5は、炭化水素に可溶性である。
【0062】
試験を、以下の試験プロトコル下で行った。試験を、一連の50~70cm3のレッドオイルで行った。添加される清浄剤の体積は、250mLであった。混合物を穏やかな磁気撹拌で撹拌し、反応温度を80℃に維持した。試験中、質量の低下を追跡した。結果は、表1に報告されている。質量パーセンテージの低下は、レッドオイルの初期質量を基準にしている。
【0063】
【0064】
CA5は、非常に良好な結果を示すが、環境に有害である。この結果から、清浄剤の濃度を上げることによって反応の速度を上昇させることができないことが分かる。意外なことに、CA1は、レッドオイルの溶解について非常に良好な結果を示す。
【0065】
実施例2:洗浄剤の希釈及び添加の影響
CA5の脂肪酸メチルエステル(FAME)と洗浄剤との混合物は、10体積%の水で希釈されて試験された。塩基性洗浄剤及び酸性洗浄剤などの様々な洗浄剤を試験した。試験を、実施例1に記載されるのと同じ試験プロトコルにしたがって行った。質量の低下が観察されなかったため、結果は決定的ではなかった。
【0066】
実施例3:温度の影響
60重量%の菜種メチルエステル及び40重量%のパームメチルエステルを含むFAMEの混合物を用いた試験を、20℃又は80℃であるように選択された温度を除いて同じ試験プロトコルで行った。混合物を、純粋な状態で、すなわち、希釈せずに使用した。試験の結果は、反応速度に対する温度の影響を示す。実際に、同様の質量の低下が、20℃で24時間後、及び80℃で1.5時間後に達成された。
【0067】
実施例4:FAME/レッドオイルの比率の影響
試験は、レッドオイルの所定の含量に添加されるFAMEの好適な含量(80重量%の菜種メチルエステル;20重量%のパームメチルエステル)を決定するために行われた。結果は、
図1に報告されており、試験期間は、14時間であった。この結果から、レッドオイルのキログラム当たり5LのFAMEではまだ飽和点に達していないことが示され得る。FAMEの平均体積質量は、約550~600g/Lであることが分かった。
【0068】
実施例5:混合物の密度を監視することによる反応の追跡
試験を、約1m
3のレッドオイルを含む8m
3のカラムにおいて工業規模で行った。2m
3のFAMEが添加され、温度は80℃であり、試験期間は、14時間超であった。反応の展開を追跡するために、密度測定を行った。密度を、70℃及び30℃で測定した。結果は、
図2に報告されている。結果は、飽和に達するまで密度の増加を示す。飽和に達したとき、水平に達する。結果はまた、様々な温度を用いて、測定を行うことができることを示すが、試験温度を一旦選択したら、全ての測定を前記温度にしたがって行うべきである。
【0069】
実施例6:混合物の比色分析を監視することによる反応の追跡
FTIR試験を、脂肪酸エステル及び脂肪酸エステルと溶解されたレッドオイルとの混合物において行った。結果は、
図3に示される。FAMEへのレッドオイルの溶解が、混合物の色の変化をもたらすことが分かる。この色の変化は、肉眼で確認でき、これを用いて、清浄化操作の成功を評価することができる。
【0070】
実施例7:混合物の粘度を監視することによる反応の追跡
試験を、脂肪酸エステル及び脂肪酸エステルと溶解されたレッドオイルとの混合物において行った。粘度が、5μmフィルタにおけるろ過の後、測定される。結果は、表2に報告されている。
【0071】
【0072】
FAMEへのレッドオイルの溶解が、粘度の増加をもたらすことが分かる。この密度の変化を用いて、清浄化操作の成功を評価することができる。