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特許7250262室内空間デザイン評価システム及び室内空間デザイン評価方法
<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】室内空間デザイン評価システム及び室内空間デザイン評価方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 30/0203 20230101AFI20230327BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20230327BHJP
   A61B 10/00 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
G06Q30/0203
A61B5/16
A61B10/00 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018227393
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020091591
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518070663
【氏名又は名称】株式会社NeU
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 倫子
(72)【発明者】
【氏名】白木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 清
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎治
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-117839(JP,A)
【文献】特開2018-086926(JP,A)
【文献】特開2002-177248(JP,A)
【文献】特開2017-170253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
A61B 5/16
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の室内空間色彩デザインに関わる複数の画像を被験者に提示する画像表示装置と、
被験者の頭部に装着されて脳血流量を計測可能な脳活動計測装置と、
前記脳活動計測装置によって計測された脳血流量に基づいて脳血流量データを生成する操作端末装置と、
前記操作端末装置により生成された脳血流量データに基づいて室内空間デザインの評価に資する情報を算出するデータ分析手段と、
評価対象の空間における振動および/または騒音に関わる環境を模擬可能なシミュレータ装置と、を備えた室内空間デザイン評価システムであって、
前記脳活動計測装置は、被験者の前頭部左側と右側の脳血流量を計測可能に構成され、
前記室内空間色彩デザインは、鉄道車両の車内空間色彩デザインであり、
前記室内空間色彩デザインに関わる複数の画像は、複数の照明色温度と複数の色系統の室内設備の彩色の組み合わせからなる画像であり、
前記データ分析手段は、
前記シミュレータ装置により被験者に刺激を与えている状態で評価対象の室内空間色彩デザインに関わる複数の画像が提示されている間に前記脳活動計測装置により計測された被験者の脳血流量データに基づいてストレスに関する指標を画像ごとに算出し、算出された画像ごとの指標に基づいて前記車内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価することを特徴とする室内空間デザイン評価システム。
【請求項2】
前記指標は、被験者の前頭部右側の脳血流量をR、左側の脳血流量をLとしたとき、次式
ストレス脳指標=(R-L)/(R+L)
で定義されるストレス脳指標であることを特徴とする請求項に記載の室内空間デザイン評価システム。
【請求項3】
前記脳活動計測装置は、被験者の前額部の脳血流量を計測可能に構成され、
前記指標は、被験者が空間性ワーキングメモリ課題を行なっている間の前額部の脳活動値の平均値を/Xs、言語性ワーキングメモリ課題を行なっている間の前額部の脳活動値の平均値を/Xv、空間性ワーキングメモリ課題遂行時と言語性ワーキングメモリ課題遂行時の母分散の不偏推定値をそれぞれσ2s,σ2v、前記空間性ワーキングメモリ課題と前記言語性ワーキングメモリ課題の遂行回数をそれぞれns,nvとしたとき、次式
気分脳指標=(/Xs-/Xv)/√[(σ2s/ns)+(σ2v/nv)]
で定義される気分脳指標であることを特徴とする請求項に記載の室内空間デザイン評価システム。
【請求項4】
前記脳活動計測装置は、被験者の前額部の脳血流量を計測可能に構成され、
前記データ分析手段は、
照明色温度および室内設備彩色の組合せ画像ごとに全被験者の脳活動特徴量の平均値と標準偏差を算出し、
算出された標準偏差の大きさから、各画像の脳活動スコアを、次式
脳活動スコア= [(個別脳活動特徴量)-(被験者ごとの脳活動特徴量の平均値)]
÷(各被験者の脳活動特徴量の標準偏差)
を用いて算出し、脳活動スコアの大きい順に画像を順位付けすることを特徴とする請求項1または2に記載の室内空間デザイン評価システム。
【請求項5】
前記データ分析手段は、
照明色温度および室内設備彩色の組合せ画像ごとに全被験者の脳活動特徴量の平均値と標準偏差を算出し、
算出された標準偏差の大きさから、各画像の脳活動スコアを、次式
脳活動スコア= [(個別脳活動特徴量)-(被験者ごとの脳活動特徴量の平均値)]
÷(各被験者の脳活動特徴量の標準偏差)
を用いて算出し、脳活動スコアの大きい順に画像を順位付けすることを特徴とする請求項3に記載の室内空間デザイン評価システム。
【請求項6】
前記シミュレータ装置により被験者に刺激を与えている状態で提示される評価対象の室内空間色彩デザインに関わる複数の画像は、前記脳活動スコアの大きいものについてそれぞれ展開された仮想現実画像であることを特徴とする請求項4または5に記載の室内空間デザイン評価システム。
【請求項7】
評価対象の室内空間色彩デザインに関わる複数の画像を被験者に提示する画像表示装置と、
被験者の頭部に装着されて脳血流量を計測可能な脳活動計測装置と、
前記脳活動計測装置により計測された脳血流量に基づいて室内空間デザインの評価に資する情報を算出するデータ分析手段と、を備えた室内空間デザイン評価システムにおけるデザイン評価方法であって、
室内空間色彩デザインに関わる複数の照明色温度と複数の色系統の室内設備の彩色の組み合わせからなる複数の画像を前記画像表示装置により被験者に順次提示しながら、前記脳活動計測装置により被験者の脳血流量を計測する計測ステップと、
前記計測ステップで計測された前記脳血流量から脳血流量データを生成するデータ生成ステップと、
前記画像表示装置により提示された画像ごとの被験者の前記脳血流量データから脳活動特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、
照明色温度および室内設備彩色の組合せ画像ごとに全被験者の前記脳活動特徴量の平均値と標準偏差を算出し、次式
脳活動スコア=[(個別脳活動特徴量)-(被験者ごとの脳活動特徴量の平均値)]
÷(各被験者の脳活動特徴量の標準偏差)
を用いて、脳活動スコアを算出する脳活動スコア算出ステップと、
前記脳活動スコアに基づいて前記室内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価する評価ステップと、
を含み、
前記室内空間色彩デザインは、鉄道車両の車内空間色彩デザインであり、
前記計測ステップにおいては、鉄道車両の振動および/または騒音を模擬した刺激を被験者に対して付与しながら前記複数の画像を順次提示することを特徴とする室内空間デザイン評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の脳血流量を計測して照明を有する室内空間の色彩デザインを評価する室内空間デザイン評価システム及び室内空間デザイン評価方法に関し、特に鉄道車両の車内空間の色彩デザインの評価に利用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空間色彩デザインは、鉄道駅や商業施設といった建築構造物の設計に際し、重要な要素の一つである。色彩の客観的な分類手法には、多くのものがあるが、処理すべきデータ量が多く、評価対象間での評価の統一性が保ち難い。そこで、従来、コンピュータを用いて撮影画像の色彩分析を行う技術がある。
しかしながら、色彩デザインに対する印象はデザインを見た者の主観によるものであり、定量的な評価が難しいという問題がある。そこで、予めアンケート結果に基づいて画像に係る特徴量と、様々なイメージを示す修飾語に係る主観パラメータとの相関関係を求めておき、評価対象の画像の特徴量に基づいて、当該画像に応じた評価用語について評価値を算出するようにした発明が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-22533号公報
【文献】特開2018-86926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来実施されている空間デザイン評価技術は、アンケート調査等によって主観的に評価するものが多く、客観的に嗜好性を評価することが困難であるという課題がある。
そのため、空間の色彩デザインの設計において、設計者のコンセプトと多くの利用者の感覚とに適合する色彩デザインを採択するには、専門家の評価や助言が必要であり、時間や手間を要するという課題があった。
この点、特許文献1に記載されている技術は色彩デザインを客観的に評価することができるものの、室内特有の照明を考慮したものでないため、室内空間デザインに対して良好な評価が行えない。
【0005】
また、鉄道車両やバス等の車内空間の色彩デザインを評価する場合、車両からの振動や揺れ、加減速、騒音など身体へ加わる物理的な作用が搭乗者の心理状態に影響を与えるため、色彩デザインに対する印象が静止時とは異なったものになるおそれがある。そのため、特許文献1の発明をそのまま適用することは難しく、車両に乗車した状態の人間の心理状態を反映した評価が行えないという課題がある。
【0006】
一方、従来、鉄道車両の乗り心地等の快適性を評価する方法として、鉄道に乗車した状態の被験者に対して快適性に関するアンケート調査を行い、その回答を収集、分析して評価することが行われていたが、アンケート調査を行って得られる回答は主観的なものであり、必ずしも脳が感じている客観的な快適性と合致するとは限らないので、人の生体反応から人間がどう感じているかを把握する研究も進められている。
【0007】
例えば、特許文献2には、光トポグラフィを用いて脳血流量データを取得し、脳の活動状況を把握することで、鉄道車両の乗客が感じる快適性の程度や、快適性の経時的変化を、連続した客観的なデータに基づいて正確に評価することができるようにした鉄道快適性
評価方法及び鉄道快適性評価装置に関する発明が開示されている。しかし、特許文献2に記載されている技術は、鉄道車両の乗り心地等の快適性を評価する方法であり、車内空間の色彩デザインの評価にそのまま適用することはできない。
【0008】
この発明は上記のような背景のもとになされたものでその目的とするところは、照明色および室内設備の彩色を考慮した快適な室内空間の色彩デザインの評価を行うことが可能な室内空間デザイン評価システム及び室内空間デザイン評価方法を提供することにある。
この発明の他の目的は、走行する車両の乗客が感じる不快感やストレスを考慮した車内空間の色彩デザインの評価を行うことが可能な室内空間デザイン評価システム及び室内空間デザイン評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の室内空間デザイン評価システムは、
評価対象の室内空間色彩デザインに関わる複数の画像を被験者に提示する画像表示装置と、
被験者の頭部に装着されて脳血流量を計測可能な脳活動計測装置と、
前記脳活動計測装置によって計測された脳血流量に基づいて脳血流量データを生成する操作端末装置と、
前記操作端末装置により生成された脳血流量データに基づいて室内空間デザインの評価に資する情報を算出するデータ分析手段と、
評価対象の空間における振動および/または騒音に関わる環境を模擬可能なシミュレータ装置と、を備えた室内空間デザイン評価システムであって、
前記脳活動計測装置は、被験者の前額部の脳血流量を計測可能に構成され、
前記室内空間色彩デザインは、鉄道車両の車内空間色彩デザインであり、
前記室内空間色彩デザインに関わる複数の画像は、複数の照明色温度と複数の色系統の室内設備の彩色の組み合わせからなる画像であり、
前記データ分析手段は、
前記シミュレータ装置により被験者に刺激を与えている状態で評価対象の室内空間色彩デザインに関わる複数の画像が提示されている間に前記脳活動計測装置により計測された被験者の脳血流量データに基づいてストレスに関する指標を画像ごとに算出し、算出された画像ごとの指標に基づいて前記車内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価するように構成したものである。
【0010】
人間の脳は、共感、協調といった情動を感じると活動が活発になる部位、つまり脳血流量が多くなる部位があることが知られている。上記のような構成を有する室内空間デザイン評価システムによれば、提示された画像ごとの被験者の脳血流量データから脳活動特徴量を抽出して、室内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価するようにしているため、アンケート調査によらず客観的に室内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価することができる。
また、上記手段によれば、シミュレータ装置により被験者に振動や騒音などの刺激を与えている状態で評価対象の室内空間色彩デザインに関わる画像が提示されている間に計測された被験者の脳血流量データに基づいてストレスに関する指標を算出し、算出された指標に基づいて車内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価するため、走行する車両が乗客に与える不快感やストレスを考慮した上で、快適な車内空間の色彩デザインの評価を行うことができ、評価精度が向上する。
【0011】
ここで、前記脳活動計測装置は、被験者の前額部の脳血流量を計測可能な構成であり、
前記データ分析手段は、
照明色温度および室内設備彩色の組合せ画像ごとに全被験者の前記脳活動特徴量の平均値と標準偏差を算出し、
算出された標準偏差の大きさから、各画像の脳活動スコアを、次式
脳活動スコア=[(個別脳活動特徴量)-(被験者ごとの脳活動特徴量の平均値)]
÷(各被験者の脳活動特徴量の標準偏差)
を用いて算出し、脳活動スコアの大きい順に画像を順位付けするように構成する。なお、前記脳活動特徴量としては、被験者の前額部の脳血流量データのピーク値や積分値などがある。
【0012】
上記手段によれば、脳血流量データに基づいて、「個別脳活動特徴量」と「被験者ごとの脳活動特徴量の平均値」の差分をとり、各被験者の脳活動特徴量の標準偏差で割ることによって、被験者毎に異なる脳活動特徴量の平均を基準とし、さらにばらつき(標準偏差)を考慮して脳活動スコアを算出するため、提示された室内空間色彩デザインに対する嗜
好性を客観的な数値にて評価することができる。
【0015】
さらに、望ましくは、前記指標は、被験者の前頭部右側の脳血流量をR、左側の脳血流量をLとしたとき、次式
ストレス脳指標=(R-L)/(R+L)
で定義されるストレス脳指標とする。
上記手段によれば、被験者の前頭部左右の脳血流量差を表すストレス脳指標に基づいて車内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価するため、客観的数値にて評価することができる。
【0016】
あるいは、前記指標は、被験者が空間性ワーキングメモリ課題を行なっている間の前額部の脳活動値の平均値を/Xs、言語性ワーキングメモリ課題を行なっている間の前額部の脳活動値の平均値を/Xv、空間性ワーキングメモリ課題遂行時と言語性ワーキングメモリ課題遂行時の母分散の不偏推定値をそれぞれσ2s,σ2v、前記空間性ワーキングメモリ課題と前記言語性ワーキングメモリ課題の遂行回数をそれぞれns,nvとしたとき、次式
気分脳指標=(/Xs-/Xv)/√[(σ2s/ns)+(σ2v/nv)]
で定義される気分脳指標とする。
上記手段によれば、ワーキングメモリ課題を実施している間の被験者の前額部の脳血流量から得られる気分脳指標に基づいて車内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価するため、客観的数値にて精度よく評価することができる。
【0017】
また、望ましくは、前記シミュレータ装置により被験者に刺激を与えている状態で提示される評価対象の室内空間色彩デザインに関わる複数の画像は、前記脳活動スコアの大きいものについてそれぞれ展開された仮想現実画像とする。
これにより、現実に近い状態にて車内空間色彩デザインを被験者に提示して頭部の脳血流量を計測し、算出した脳指標に基づいて車内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価するため、現実に即した精度の高い評価を行うことができる。
【0018】
また、本出願に係る他の発明は、
評価対象の室内空間色彩デザインに関わる複数の画像を被験者に提示する画像表示装置と、
被験者の頭部に装着されて脳血流量を計測可能な脳活動計測装置と、
前記脳活動計測装置により計測された脳血流量に基づいて室内空間デザインの評価に資する情報を算出するデータ分析手段と、を備えた室内空間デザイン評価システムにおけるデザイン評価方法において、
室内空間色彩デザインに関わる複数の照明色温度と複数の色系統の室内設備の彩色の組み合わせからなる複数の画像を前記画像表示装置により被験者に順次提示しながら、前記脳活動計測装置により被験者の脳血流量を計測する計測ステップと、
前記計測ステップで計測された前記脳血流量から脳血流量データを生成するデータ生成ステップと、
前記画像表示装置により提示された画像ごとの被験者の前記脳血流量データから脳活動特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、
照明色温度および室内設備彩色の組合せ画像ごとに全被験者の脳活動特徴量の平均値と標準偏差を算出し、次式
脳活動スコア=[(個別脳活動特徴量)-(被験者ごとの脳活動特徴量の平均値)]
÷(各被験者の脳活動特徴量の標準偏差)
を用いて、脳活動スコアを算出する脳活動スコア算出ステップと、
前記脳活動スコアに基づいて前記室内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価する評価ステップと、を含み、
前記室内空間色彩デザインは、鉄道車両の車内空間色彩デザインであり、
前記計測ステップにおいては、鉄道車両の振動および/または騒音を模擬した刺激を被験者に対して付与しながら前記複数の画像を順次提示するようにしたものである。
【0019】
上記方法によれば、アンケート調査によらず客観的に室内空間色彩デザインに対する嗜好性を評価することができるとともに、提示された室内空間色彩デザインに対する嗜好性を客観的数値にて評価することができる。
また、前記計測ステップにおいて、鉄道車両の振動および/または騒音を模擬した刺激を被験者に対して付与しながら前記複数の画像を順次提示するため、現実に即した精度の高い評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、照明色および室内設備の彩色を考慮した快適な室内空間の色彩デザインの評価を行うことが可能なシステム及び方法を提供することができる。さらに、走行する車両が乗客に与える不快感やストレスを考慮した上で、快適な車内空間を実現する色彩デザインの評価を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る室内空間デザイン評価システムの一実施形態としての車内空間デザイン評価システムの構成を示すシステム構成図である。
図2】(A)は図1の実施形態の室内空間デザイン評価システムを構成する脳活動計測装置の使用状態および脳活動計測装置と操作端末装置との関係を示す図、(B)は脳活動計測装置の内側の構成を示す図である。
図3図1の室内空間デザイン評価システムをデザイン評価処理に適用する場合の各装置の配置例を示す図である。
図4】本発明に係る室内空間デザイン評価システムを利用したデザイン評価方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5】車内空間デザインの画像を順番に表示して脳活動を計測する実験のタイムスケジュールの例を示す図である。
図6】被験者に提示する複数の照明色温度と複数の車内設備の彩色の組み合わせからなる画像の例を示す図である。
図7】(A), (B)は、被験者Aと被験者Bが画像1と画像2を見た時の脳血流量の変化の様子を示すグラフである。
図8】(A)は全被験者の照明色温度に対する脳活動スコアを平均化したもの、(B)は全被験者の車内設備彩色に対する脳活動スコアを平均化したものを示す図である。
図9図6の24枚の画像を提示することによって得られた各画像に対する全被験者の脳活動スコアの平均値を示すである。
図10】実施形態の車内空間デザイン評価システムを構成する各装置を使用して第2段階のデザイン評価を行う際の実験室内の各装置の配置例を示す図である。
図11】第2段階の評価処理で使用するVR画像の例を示す図である。
図12】VR画像を表示しながら計測した被験者の脳血流量データに基づくストレス脳指標(全被験者の中央値)の計時変化を示す図である。
図13】WM課題を与えて取得した計測データに基づいて算出した気分脳指標を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面を参照しつつ、本発明に係る室内空間デザイン評価システム及び室内空間デザイン評価方法を、鉄道車両の車内空間の色彩デザインの評価に適用した場合の一実施形態について説明する。
本実施形態における車内空間デザイン評価システム及び車内空間デザイン評価方法は、鉄道車両の車内空間の色彩デザインを設計するにあたって、採用した車内空間デザインが視覚を通して被験者に与える快・不快を客観的に評価することができるようにするものである。さらに、本発明は、第2段階の評価として、採用しようとする車内空間デザインが走行する車両に乗車している乗客に与えるであろう快・不快を客観的に評価することができるようにするものである。
【0023】
図1は、本実施形態の車内空間デザイン評価システムの一構成例を示す図であり、図2は、図1の評価システムを構成する脳活動計測装置の使用状態および脳活動計測装置と操作端末装置との関係を示す図である。
図1に示すように、本実施形態における車内空間デザイン評価システム10は、脳活動計測装置11と操作端末装置12とデータ収集分析装置13とモニタ装置14と表示制御装置15とを備えて構成されている。脳活動計測装置11は、図2(A)に示すように、被験者の頭部Hに装着される携帯型の装置として構成されている。また、操作端末装置12はスマートフォンやタブレット型端末装置等の小型の携帯端末を利用して構成され、データ収集分析装置13と表示制御装置15は、それぞれCPUのような演算処理装置、RAMやROMなどの記憶装置、入力操作部、表示部などを備えたパーソナルコンピュータのようなデータ処理装置により構成されている。
【0024】
図1のシステムを構成する装置のうち、脳活動計測装置11とこれを操作する操作端末装置12との間は例えばBluetooth(登録商標)や無線LAN、赤外線通信等の近距離無線方式で接続され、操作端末装置12とデータ収集分析装置13はTCP/IPやHTTP等のプロトコルに基づいてリンクされた無線通信ネットワーク16を介して接続され、モニタ装置14と表示制御装置15はケーブルや有線式のLAN(ローカルエリアネットワーク)17を介して接続されている。
【0025】
本実施形態における脳活動計測装置11は、頭部に装着するヘッドセット型の本体内に、微弱な近赤外光を照射可能な光源と光検出器とからなる血流センサを内蔵しており、例えば800nm近傍の近赤外光と呼ばれる波長帯の光を用いた脳活動計測技術である光トポグラフィ技術を用いて脳活動を計測するものである。具体的には、装着時に被験者の大脳皮質部分に対応する前額に当たる部分に所定間隔で配置された光源と光検出器である受光センサによって大脳皮質部分の脳血流量を測定する機能を有する。
【0026】
近赤外光を使用しているのは、近赤外光人体組織への透過性が高い一方、ヘモグロビンには吸収されるという特性があるためである。脳神経が活動すると酸素とグルコースが必
要であるため、脳活動が活発な部位への血流中のヘモグロビンが増加し、近赤外光の透過度が減少する。脳活動計測装置11は、この近赤外光の透過度の変化量を測定することにより、脳のどの部分が活発に活動しているか等の脳の活動状況を可視化することができる。
脳活動の計測技術としては脳波計測や磁気共鳴などもあるが、光トポグラフィ技術は、ヘッドセット型の小型の装置によって実現できるため、被験者への負担が少なく、日常に近い環境での計測が可能となる。
【0027】
図2(A)に示すように、本実施形態における脳活動計測装置11は、被験者の頭部Hに装着され、操作端末装置12としてのスマートフォンとデータ通信可能に構成されている。また、本実施形態における脳活動計測装置11は、図2(B)に示すように、ヘッドセット本体11Aの左右内側にそれぞれ一対の血流センサBS1,BS2が移動可能または着脱可能に取り付けられている。ヘッドセット本体11Aの中央内側には血流センサを取り付け可能な取り付け部11Bが設けられており、前額部の血流量を計測する際には、左右の血流センサBS1,BS2を取り付け部11Bに移動させて計測を行えるように構成されている。
【0028】
本実施形態では、上記データ収集分析装置13が、各操作端末装置12から受信した計測データ(被験者の脳活動を表わす脳血流量データ)のピーク値や平均値、積分値などを算出したり、脳血流量データに基づいて脳が感じているストレスレベルを示すストレス脳指標を算出したりする機能を有する。ここで、脳活動は、ストレスが高い被験者ほど脳の右側の反応が大きくなり、ストレスが低い被験者ほど脳の左側の反応が大きくなることが知られている。
ストレス脳指標(Stress Brain Index)は、前頭部の脳活動の左右差から得られる指標であり、右側の活動値(脳血流量)を「R」、左側の活動値(脳血流量)を「L」としたとき、下記の式(1)により定義することができる。
ストレス脳指標=(R-L)/(R+L) ……(1)
【0029】
また、本実施形態のデータ収集分析装置13は、各操作端末装置12から受信した計測データ(被験者の脳活動を表わす脳血流量データ)に基づいて被験者の気分を推測するための指数である気分脳指標を算出する機能を有する。ここで、気分脳指標は、ワーキングメモリ課題(WM課題)を被験者に与えている間の前額部(前頭部中央)の脳活動の指標であり、気分脳指標は、次式(2)により求めることができる。
気分脳指標=(/Xs-/Xv)/√[(σ2s/ns)+(σ2v/nv)] ……(2)
【0030】
なお、ワーキングメモリ課題(以下、WM課題と記す)とは、被験者に与えられる一時的な記憶保持課題であり、本実施形態では、モニタ画面に表示された図形の位置を覚えて答える空間性WM課題と、モニタ画面に表示された言葉を覚えて答える言語性WM課題を選択することとした。式(2)における/Xsは空間性WM課題を行なっている間の被験者の脳活動値の平均値、/Xvは言語性WM課題を行なっている間の被験者の脳活動値の平均値、σ2s,σ2vはそれぞれ空間性WM課題遂行時と言語性WM課題遂行時の母分散の不偏推定値、ns,nvは空間性WM課題と言語性WM課題の遂行回数である。
【0031】
図3には、図1に示されている本実施形態の車内空間デザイン評価システム10を構成する各装置を使用して第1段階のデザイン評価を行う際の実験室内の各装置の配置例が示されている。図3に示すように、第1段階の実験室内には、パーテーション21で仕切られた状態で被験者が着座する椅子22と机23が複数組設置され、各机23上には液晶表示パネルなどを有するモニタ装置14が載置されている。また、椅子22の後方にはテーブル24が設置され、このテーブル24上には、モニタ装置14へ画像を配信する表示制御装置15と、複数の被験者が装着する脳活動計測装置11から無線通信で計測データ(
脳血流量)を受信する操作端末装置12が載置されている。
【0032】
なお、図3には示されていないが、データ収集分析装置13はテーブル24上に設置されていても良いし、異なる部屋や別の建物内に設置されていても良い。また、各操作端末装置12からデータ収集分析装置13へ送られるデータは、各脳活動計測装置11によって計測された脳血流量(脳活動)データそのままであってもよいし、操作端末装置12において各脳活動計測装置11によって計測されたデータについて分析や解析を行った後、その分析結果、解析結果がデータ収集分析装置13へ送られるようにしてもよい。つまり、操作端末装置12またはデータ収集分析装置13の一方の装置に、他方の装置の機能を組み込むようにしてもよい。そして、その場合にはネットワーク16を省略することができる。
【0033】
次に、実施形態の車内空間デザイン評価システム(図1)を利用したデザイン評価方法の処理手順の一例について、図4のフローチャートを用いて説明する。なお、図4の各ステップS1~S11のうち、ステップS2~S6とステップS8~S11が、図1に示す車内空間デザイン評価システム10によって実行される処理である。また、図4においては、ステップS1~S6が第1段階のデザイン評価処理で、ステップS7~S11が第2段階のデザイン評価処理である。以下、先ず、図3の実験環境で収集するデータに基づいて実行する第1段階のデザイン評価処理であるステップS1~S6について説明する。
【0034】
第1段階のデザイン評価処理においては、先ず照明色(色温度)と車内設備(前席腰掛背面のモケット、床、天井、壁、荷棚等)の彩色の組合せを変えた複数の画像データを、表示制御装置15もしくは他のコンピュータで作成し、表示制御装置15の記憶装置に記憶する(ステップS1)。続いて、それらの画像データを順番に読み出して、各被験者のモニタ装置14の画面に表示させる(ステップS2)。この際、被験者は最初に見た画像に対して最も脳活動が活発になる傾向があるので、被験者ごとに表示する画像の順番を変えるのが望ましい。
【0035】
図5には、図6に示すような複数枚の異なる車内空間デザインの画像を順番にモニタ装置14の画面に表示して被験者の脳活動を計測する実験の順番すなわちタイムスケジュールの例が示されている。図5に示されているスケジュールでは、各被験者が脳活動計測装置11を頭部に装着した後、レスト(休憩)時間をおいて画像の提示を開始する。画像は図6に示す各デザインを複数回ずつ提示した。順序効果を考慮して、画像の提示順序は被験者毎に変更している。
【0036】
図6に示す複数枚の車内空間デザイン画像は、色温度として2700K(ケルビン)、3500K、5000K,6500Kなどを選択し、設備の彩色として「赤系」、「青系」、「緑系」、「黄系」、「黒系」、「灰系」など、複数色を選択して、それぞれ上記色温度と組み合わせることで作成したものである。
【0037】
次のステップS3では、各画像を見せたときの各被験者の前額部の脳血流量を、脳活動計測装置11によって計測する。続いて、計測された画像ごとの被験者の脳血流量データのピーク値や積分値などの脳活動特徴量を抽出し、照明色温度ごと、車内設備の彩色ごと、照明色温度および車内設備彩色の組合せごとに全被験者の脳活動特徴量の平均値と標準偏差を算出する(ステップS4)。その後、標準偏差の大きさから、各画像の脳活動スコアを次式(3)を用いて算出し(ステップS5)、脳活動スコアの大きい順に画像を順位付けする(ステップS6)。
脳活動スコア=[(個別脳活動特徴量)-(被験者ごとの脳活動特徴量の平均値)]
÷(各被験者の脳活動特徴量の標準偏差) ……(3)
【0038】
ここで、上記のような標準偏差の算出を行う理由について説明する。
図7(A)、(B)に、ある被験者Aと他の被験者Bが画像1と画像2を見た時の脳血流量の変化の様子を示す。(A)と(B)を比較すると被験者Bの方が被験者Aよりも計測開始から画像1を見た際の脳血流量の絶対量が大きいことがわかる。このように、画像を見た際の脳血流量の変化の度合いは被験者によってかなり差異がある。一方で、画像1と画像2を比較すると、ここで例えば脳活動特徴量をピーク値とした場合、被験者Aは明瞭に画像2を見た時の方が脳活動特徴量が大きく、好みの画像であると明確に判断しているのに対し、被験者Bは画像1と画像2を見た時にほぼ同じ脳活動特徴量を示しており、好みにあまり差が無いことが分かる。
【0039】
上記のように、同じ画像を見せても脳血流量の変化すなわち脳活動には個人差が大きい。そこで、本実施形態においては、式(3)のように、「個別脳活動特徴量」と「被験者ごとの脳活動特徴量の平均値」の差分をとり、各被験者の脳活動特徴量の標準偏差で割ることによって、正規化を図り客観的数値にて評価するようにした。上述の式(3)は、被験者毎に異なる脳活動特徴量の平均を基準とし、さらにばらつき(標準偏差)を考慮して脳活動スコアを算出することを意味する。
一方、光トポグラフィによる嗜好性の評価においては、共感、協調といった情動を感じると脳活動が活発になる部位があることが知られている。つまり、脳活動スコアの高い画像ほど被験者に好まれるということである。従って、室内空間デザインの評価の場合、脳活動スコアの最も高い画像に相当するデザインを選択、採用することで、在室者の嗜好性にあった室内空間を実現することができる。
【0040】
図8(A)には、ステップS4で算出された全被験者の照明色温度に対する脳活動スコアを平均化したものを、図8(B)には、全被験者の車内設備彩色に対する脳活動スコアを平均化したものを示す。図8(A)より照明色温度に関しては5000Kが好まれ、図8(B)より車内設備彩色に関しては、「赤系」「灰系」「青系」が好まれることが分かる。
図9に、図5のスケジュールに従って図6の複数枚の画像を提示することによってステップS5で得られた各画像に対する全被験者の脳活動スコアの平均値を示す。図9より、照明色温度2700Kの照明環境下では灰が、3500Kでは青が、6500Kでは赤が特に好まれる傾向にあることが分かる。また、車内設備彩色が寒色系の場合、照明は低い色温度が、車内設備彩色が暖色系の場合、照明は高い色温度が好まれることが分かる。5000Kでは灰が最も評価が高いが、青以外は全体的に好まれる傾向にある。赤は照明色温度が上がるにつれて共感が高くなる傾向にある一方で、青は低い照明色温度で好まれる。また、黒は5000Kでは好まれる傾向を示したものの、全体的に評価は低い。灰は3500K以外ではおおむね好評であることが分かる。
【0041】
ところで、第1段階のデザイン評価は建物内の実験室で実施されることから、移動しない建造物等の室内の空間色彩デザインを決定するような場合には、上記ステップS1~S6の処理で算出、順位付けされた各画像の脳活動スコアに基づいて採用するデザインを決定することができることが分かる。しかし、鉄道車両の車内空間デザインの評価においては、車両からの振動や揺れ、加減速などの身体への物理的な刺激が乗客の心理状態に影響を与えることを考慮して評価を行うのが望ましい、そこで、本実施形態のデザイン評価処理においては、図4に示すフローチャートのステップS7~S11の第2段階の評価処理を実行することとしている。
【0042】
次に、第2段階の評価処理について説明するが、第2段階の評価処理における実験は、走行する車両もしくはそれを模した装置に設けられているシート(腰掛)に被験者を着座させて計測データ(脳血流量)を収集し、そのデータを分析もしくは解析することで行う。
図10には、図1に示されている本実施形態の車内空間デザイン評価システム10を構成する各装置を使用して第2段階のデザイン評価を行う際の実験室内の各装置の配置例が示されている。
【0043】
図10に示すように、第2段階の実験は、走行する車両振動を模擬した振動を腰掛に対して与えることができる装置(乗り心地シミュレータ)30を使用するもので、例えば列車の座席を模した3人掛けシート31に2人の被験者を着座させ、2人掛けシート32に1人の被験者を着座させ、各被験者の近傍にそれぞれ操作端末装置12を設置しておく。また、各被験者の頭部にはそれぞれヘッドセット型の脳活動計測装置11とVR(仮想現実)用ゴーグル33を装着する。なお、34は実験の様子を撮影し監視するためのビデオカメラである。
【0044】
ステップS7~S11の第2段階の評価処理においては、先ずステップS6で順位付けされた脳活動スコアの平均値が高い車内空間デザインのうち数種類についてVR画像を作成し(ステップS7)、乗り心地シミュレータ30のシートに着席しVRゴーグルを装着した状態の被験者に、走行する車両振動を模擬した振動を付与しながらステップS7で作成した複数のVR画像(図11参照)を順番に提示する(ステップS8)。そして、VR画像提示中の被験者の脳血流量を脳活動計測装置11によって計測し(ステップS9)、計測データに基づいてストレス脳指標または気分脳指標を算出する(ステップS10)。その後、指標値の小さい順に車内空間デザインに順位付けを行い(ステップS11)、結果を出力して一連の処理が終了する。なお、ストレス脳指標は、前頭部左右の血流量データに基づいて算出する。また、気分脳指標は、視覚刺激と振動刺激を与える直前と与えた直後にWM課題を与えている間に計測した前額部の血流量データに基づいて算出する。
【0045】
図11(a)~(c)には、第1段階の評価処理によって脳活動スコアの値が高いと評価された照明色温度と車内設備彩色の組合せ画像(図6の複数枚の車内空間デザイン画像)のうち、照明色温度が3500Kで青系の画像(青,3500K)、照明色温度が5000Kで灰系の画像(灰,5000K)、照明色温度が6500Kで赤系の画像(赤,6500K)の3つのデザインについて作成したVR画像の例を示す。なお、図11(a)~(c)の各画像内の破線で囲まれた領域は、被験者が正面を向いているときのおおよその視野範囲を示す。
【0046】
また、ステップS8のVR画像提示中の被験者の脳血流量の計測においては、VR画像について各色を1回ずつ提示するが、順序効果を考慮して、画像の提示順序は被験者毎に変更する。また、振動条件は各被験者で全て同一とする。VR酔いが出ないよう振動時間と休憩時間を調整し、計測を複数回実施する。
なお、VR画像の提示中の脳血流量の計測を行い、VR画像提示前の脳血流量の平均値をストレス脳指標の基準値(図12のグラフの「0」の値)として分析を行う。また、ステップS8では、ストレス脳指標の算出のための計測の代わりに気分脳指標の算出のための計測を行うようにしても良いし、ストレス脳指標の算出のための脳血流量の計測(前頭部左右)の前または後に、気分脳指標の算出のための脳血流量の計測(前額部)を行うようにしても良い。
【0047】
図12には、本発明者らが図7の実験装置を使用して、図11に示す3種類の異なる車内空間デザインのVR画像を順番にVRゴーグルの画面に表示させながら計測した被験者の脳血流量データに基づいて算出したストレス脳指標(全被験者の中央値)の計時変化を10秒間隔でプロットしたものを示す。図12において、実線R,G,Bは、それぞれ赤系のVR画像(赤,6500K)、灰系のVR画像(灰,5000K)、青系のVR画像(青,3500K)を提示した際のストレス脳指標の計時変化を示す。また、破線RAV,GAV,BAVは各色系のVR画像を提示した際のストレス脳指標の平均値を示す。
【0048】
図12より、照明色温度が3500Kで青系のVR画像(青,3500K)が最も乗客に与えるストレスが少ないことが分かる。第1段階の評価において算出した静止画像に対する脳活動スコアは(青,3500K)-(灰,5000K)-(赤,6500K)の順で高かったが、ストレス脳指標での評価でも同様の順となった。嗜好性が高い静止画像を基に3種類のVR画像を作成して提示したことから、ともにストレス脳指標は負の値を示しており、概ね気分の良くなる環境であるといえる。一方で、同じ振動を与えているにも関わらず、ストレス脳指標の時系列変化や計測時間中での平均値に差が見られたことから、視覚刺激(提示画像)の違いがストレスの差異に反映されたものと推測される。
【0049】
また、図13に、図7の実験装置において、被験者へWM課題を与えて取得した計測データに基づいて算出した気分脳指標を示す。気分脳指標は、前述したように、前額部(前頭部中央)の脳活動の指標であり、前記式(2)で与えられる。
図13から、実験開始時より、(赤,6500K)を提示した場合が最も抑うつ傾向を示している一方、(青,3500K)を提示した場合が最も気分が良くなる傾向を示しており、ストレス脳指標から得られた順番と定性的に一致していることが分かる。
【0050】
以上説明したように、上記実施形態の車内空間デザイン評価システムによれば、簡易な装置(ヘッドセット)で被験者の脳血流量の計測を行うことにより、鉄道車両の車内空間デザインに対する嗜好性(好む/好まない)についての客観的な評価を得ることができる。また、脳血流量の計測は、アンケート調査のように所定間隔ごとに行うものではなく、連続的に行いデータを取得することができ、データ取得の際の被験者の負担も少ない。
さらに、第2段階の評価は、鉄道車両が走行している状態に類似した環境で計測した脳血流量データに基づいて客観的な評価指標を得るようにしているため、極めて信頼性のある評価結果を得ることができる。
また、本実施形態では、脳血流量データといった客観的なデータと、アンケート調査の結果という主観的なデータとを組み合わせて分析することで、より正確で妥当な分析結果を得ることができる。
【0051】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。例えば上記実施例では、乗り心地シミュレータを使用して鉄道車両が走行している状態に類似した環境を作り脳血流量を計測しているが、乗り心地シミュレータがない場合には、走行する実車両に被験者を着座させてデータを収集するようにしても良い。
また、前記実施形態では、第2段階のデザイン評価のステップS8において、列車の揺れを模した振動を付与しながらゴーグル型表示器によりVR画像を提示する例を示したが、人間の脳は音に対して強く反応することが知られているので、振動の付与とともにスピーカを用いて騒音(列車走行に伴う車内騒音)を聞かせながらVR画像を提示して、脳血流量を計測するようにしても良い。さらに、ステップS8においてゴーグルを使用して提示する画像はVR画像に限定されず、一般的な車内空間デザイン画像であっても良いし、ゴーグルを使用せず、通常のモニタ装置を使用して提示するようにしても良い。
【0052】
また、前記実施形態では、被験者から計測した脳血流量データから算出される脳活動スコアやストレス脳指標、気分脳指標に基づいて車内空間の色彩デザインの評価結果を得るようにしているが、計測とは別にアンケート調査も行い、主観的な乗り心地評価であるアンケート調査結果を加味して評価結果を得るようにしても良い。さらに、脳活動計測装置の他、脳波や、心拍数、呼吸数、脈波、体温等を計測する装置を被験者に装着してこれらの値を計測したり、フリッカー値を取得したりしてデザイン評価に反映するようにしても良い。
また、前記実施形態では、脳活動計測装置11で計測した値を操作端末装置(スマートフォン)12へ送信し、操作端末装置12で脳血流量データを生成してデータ収集分析装置13へ送信しているが、脳活動計測装置11で計測した値を直接データ収集分析装置1
3へ送信するように構成しても良い。
【0053】
また、前記実施形態では、本発明を鉄道車両の車内空間の色彩デザインを評価する場合に適用したものについて説明したが、本発明は、鉄道車両以外の例えばバス(水上バスを含む)やフェリー、飛行機などの乗り物の客室の内部空間の色彩デザインを評価する場合にも適用することができる。
また、前記実施形態の第1段階のデザイン評価処理は、乗り物の客室の内部空間に限定されず、建造物の室内のデザイン評価にも利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 車内空間デザイン評価システム(室内空間デザイン評価システム)
11 脳活動計測装置
12 操作端末装置(スマートフォン)
13 データ収集分析装置
14 モニタ装置(画像表示装置)
15 表示制御装置(パソコン)
21 パーテーション
22 椅子
23 机
24 テーブル
30 乗り心地シミュレータ
33 VRゴーグル(ゴーグル型表示器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13