(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】過酸化脂質吸着材、および、過酸化脂質吸着材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/24 20060101AFI20230327BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230327BHJP
A23L 5/20 20160101ALI20230327BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20230327BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
B01J20/24 C
A23L33/10
A23L5/20
A23L29/00
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2019001924
(22)【出願日】2019-01-09
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000125912
【氏名又は名称】株式会社あじかん
(73)【特許権者】
【識別番号】307020545
【氏名又は名称】公立大学法人岡山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽田 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 淳詞
(72)【発明者】
【氏名】高橋 吉孝
(72)【発明者】
【氏名】川上 祐生
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-187657(JP,A)
【文献】特開2012-039980(JP,A)
【文献】特開2012-229924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
A23L 5/00- 5/30
A23L 5/40- 5/49
A23L 19/00-19/20
A23L 29/00-29/10
A23L 31/00-33/29
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ごぼう粉末を含有する過酸化脂質吸着材であって、
前記ごぼう粉末は、不溶性画分である過酸化脂質吸着材。
【請求項2】
前記ごぼう粉末は、焙煎ごぼう粉末の不溶性画分である請求項1に記載の過酸化脂質吸着材。
【請求項3】
焙煎ごぼう粉末の不溶性画分を含有する過酸化脂質吸着材の製造方法であって、
ごぼうに対して粉末化処理と焙煎処理とを施すことによって焙煎ごぼう粉末を得る前処理工程と、
前記焙煎ごぼう粉末から不溶性画分を得る画分工程と、
を含む過酸化脂質吸着材の製造方法。
【請求項4】
前記画分工程は、前記焙煎ごぼう粉末から熱水に可溶する可溶性画分を除去することによって不溶性画分を得る工程である請求項
3に記載の過酸化脂質吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化脂質を選択的に吸着する過酸化脂質吸着材、および、過酸化脂質吸着材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ごぼうは古くから広く親しまれている食材ではあるものの、ごぼうは灰汁が強いため、飲食品として利用する際は、灰汁抜きをするなどの処理が必要である。
そして、このような処理に関し、特許文献1では、以下のような技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、土臭さや重くてこもったような香気成分の印象を軽減し、かつそれでいてゴボウ等の原料素材の特徴的風味を活かした飲食物原料を提供することを目的とした技術が記載されている。具体的には、特許文献1には、ゴボウの搾汁液を処理して得られた調製ゴボウ搾汁液を減圧蒸留後、カラム濃縮法によって得られる香気成分濃縮物の成分が、特定の関係式を全て満足することを特徴とする飲食物原料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術のように、少しでも消費者の嗜好に適したごぼうに関する飲食品を提供すべく、香味の観点に基づいて、各社が様々な開発を行ってきた。
このような香味に着目したごぼうに関する飲食品の開発が行われている中、本発明者らは、香味とは異なる観点から、ごぼうについて全く新たな価値を見出すべく研究を進めた。
【0006】
ところで、近年、高度不飽和脂肪酸(二つ以上の不飽和結合を有する脂肪酸)を含有する油脂の機能性が注目されている。特に、ω-3系高度不飽和脂肪酸である、α-リノレン酸やエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)を豊富に含むエゴマ油、魚油、シソの実油、亜麻仁油等の油脂は、様々な生理作用を示すことが報告されている。また、アラキドン酸やγ-リノレン酸等のω-6系高度不飽和脂肪酸を含む油脂、不飽和脂肪酸であるオレイン酸を多く含むオリーブ油、γ-オリザノールを含む米油についても、其々、好ましい生理作用を示すことが報告されている。
【0007】
しかしながら、これらの高度不飽和脂肪酸を含有する油脂(高度不飽和脂肪酸含有油脂)は、二重結合の部分で酸化されやすいため、動脈硬化、老化、癌などの原因となることが報告されている「過酸化脂質」になる可能性が高い。
したがって、仮に、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂から過酸化脂質を分離し除去できるような技術を生み出すことができれば、理想的な油脂の摂取が可能となり、人類の健康増進の一翼を担う技術を提供することができる。
【0008】
ここで、前述のとおり、本発明者らがごぼうについて新たな価値を見出すべく研究を進めた結果、ごぼう粉末(未焙煎ごぼう粉末および焙煎ごぼう粉末)、特に、これらの粉末の不溶性画分に過酸化脂質を選択的に吸着する作用があることを究明した。
【0009】
そこで、本発明は、過酸化脂質を吸着することができる過酸化脂質吸着材、および、過酸化脂質吸着材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)ごぼう粉末を含有する過酸化脂質吸着材であって、前記ごぼう粉末は、不溶性画分である過酸化脂質吸着材。
(2)前記ごぼう粉末は、焙煎ごぼう粉末の不溶性画分である前記1に記載の過酸化脂質吸着材。
(3)焙煎ごぼう粉末の不溶性画分を含有する過酸化脂質吸着材の製造方法であって、ごぼうに対して粉末化処理と焙煎処理とを施すことによって焙煎ごぼう粉末を得る前処理工程と、前記焙煎ごぼう粉末から不溶性画分を得る画分工程と、を含む過酸化脂質吸着材の製造方法。
(4)前記画分工程は、前記焙煎ごぼう粉末から熱水に可溶する可溶性画分を除去することによって不溶性画分を得る工程である前記3に記載の過酸化脂質吸着材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、過酸化脂質を吸着することができる過酸化脂質吸着材、および、過酸化脂質吸着材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】逆相HPLC分析における基準のアラキドン酸のクロマトグラムである。
【
図1B】逆相HPLC分析における溶出液(試料:無し、カラム:A、0~10ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図1C】逆相HPLC分析における溶出液(試料:アラキドン酸、カラム:A、0~5ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図1D】逆相HPLC分析における溶出液(試料:アラキドン酸、カラム:B、0~5ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図2A】順相HPLC分析における溶出液(試料:無し、カラム:A、0~10ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図2B】順相HPLC分析における溶出液(試料:5-HETE、カラム:A、0~5ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図2C】順相HPLC分析における溶出液(試料:5-HPETE、カラム:A、0~5ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図3A】アラキドン酸を試料としカラムAを用いた場合に得られる溶出液のアラキドン酸の定量分析値(各溶出画分の値)である。
【
図3B】5-HPETEを試料としカラムAを用いた場合に得られる溶出液の5-HPETEの定量分析値(各溶出画分の値)である。
【
図3C】5-HETEを試料としカラムAを用いた場合に得られる溶出液の5-HETEの定量分析値(各溶出画分の値)である。
【
図4A】順相HPLC分析における溶出液(試料:5-HETE、カラム:B、0~5ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【
図4B】順相HPLC分析における溶出液(試料:5-HETE、カラム:B、10~15ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【
図4C】順相HPLC分析における溶出液(試料:5-HPETE、カラム:B、0~5ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【
図4D】順相HPLC分析における溶出液(試料:5-HPETE、カラム:B、10~15ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【
図5A】アラキドン酸を試料としカラムBを用いた場合に得られる溶出液のアラキドン酸の定量分析値(各溶出画分の値)である。
【
図5B】5-HPETEを試料としカラムBを用いた場合に得られる溶出液の5-HPETEの定量分析値(各溶出画分の値)である。
【
図5C】5-HETEを試料としカラムBを用いた場合に得られる溶出液の5-HETEの定量分析値(各溶出画分の値)である。
【
図6A】逆相HPLC分析における基準のアラキドン酸のクロマトグラムである。
【
図6B】逆相HPLC分析における溶出液(試料:無し、カラム:C、0~10ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図6C】逆相HPLC分析における溶出液(試料:アラキドン酸、カラム:C、0~5ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図7A】順相HPLC分析における基準の5-HPETEのクロマトグラムである。
【
図7B】順相HPLC分析における基準の5-HETEのクロマトグラムである。
【
図7C】順相HPLC分析における溶出液(試料:無し、カラム:C、0~10ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図7D】順相HPLC分析における溶出液(試料:5-HPETE、カラム:C、0~5ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図7E】順相HPLC分析における溶出液(試料:5-HETE、カラム:C、0~5ml溶出区分)のクロマトグラムである。
【
図8A】アラキドン酸を試料としカラムCを用いた場合に得られる溶出液のアラキドン酸の定量分析値(各溶出画分の値)である。
【
図8B】5-HPETEを試料としカラムCを用いた場合に得られる溶出液の5-HPETEの定量分析値(各溶出画分の値)である。
【
図8C】5-HETEを試料としカラムCを用いた場合に得られる溶出液の5-HETEの定量分析値(各溶出画分の値)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る過酸化脂質吸着材、食品、および、過酸化脂質吸着材の製造方法を実施するための形態について説明する。
【0014】
≪過酸化脂質吸着材≫
本実施形態に係る過酸化脂質吸着材は、ごぼう粉末を含有する。そして、このごぼう粉末は、未焙煎ごぼう粉末であっても焙煎ごぼう粉末であってもよく、これらの粉末の不溶性画分であってもよい。そして、本実施形態に係る過酸化脂質吸着材は、油脂の中でも過酸化脂質を選択的に吸着できる。
以下、本実施形態に係る過酸化脂質吸着材の各特徴を詳細に説明する。
【0015】
<ごぼう粉末(未焙煎ごぼう粉末、焙煎ごぼう粉末)>
ごぼう粉末とは、ごぼうに対して後記する粉末化処理が施されて得られる粉末である。そして、このごぼう粉末のうち、焙煎処理が施されていないものを「未焙煎ごぼう粉末」とし、後記する焙煎処理が施されているものを「焙煎ごぼう粉末」とする。
ごぼう粉末の粒径については特に限定されないものの、例えば、42メッシュ(目開き355μm)の篩にかけて通過するもの、つまり、粒径が355μm以下のものを使用することができる。また、これらの粉末の粒径は、吸着性能の観点から、例えば、200μm以下、150μm以下、120μm以下が好ましい。
【0016】
<不溶性画分>
不溶性画分とは、ごぼう粉末に対して後記する画分処理が施されて得られる不溶性の画分である。そして、後記する画分処理では水(熱水)を用いることから、不溶性画分は、水(熱水)に不溶である「水(熱水)不溶性画分」と示すこともできる。
本発明者らは、後記する実施例等の結果によって、ごぼう粉末の中でも、不溶性画分が過酸化脂質を吸着する作用を発揮することを確認した。したがって、本実施形態に係る過酸化脂質吸着材は、不溶性画分を含む「未焙煎ごぼう粉末」または「焙煎ごぼう粉末」を含有すれば過酸化脂質を吸着する作用を発揮できるものの、当該作用を発揮することが明らかな「不溶性画分」を含有させるのが好ましい。
【0017】
なお、ごぼう粉末のうち、水(熱水)に可溶する可溶性画分は飲料として使用できるため、可溶性画分をいわゆる「ごぼう茶(焙煎ごぼう茶)」として利用しつつ、不溶性画分(出し殻)を「過酸化脂質吸着材」として利用することができる。つまり、本発明によると「ごぼう」に関して廃棄物を極めて少なくすることができ、ごぼうの有効利用(100%有効利用)に資することができる。
【0018】
<その他>
本実施形態に係る過酸化脂質吸着材は、前記した「ごぼう粉末(未焙煎ごぼう粉末および焙煎ごぼう粉末の少なくとも一方)、または、これらの不溶性画分」(以下、適宜「ごぼう粉末等」という)のみで構成されていてもよいが、ごぼう粉末等を固定するための公知の各種担体を含有させてもよく、過酸化脂質以外のものも同時に吸着させるために、吸着材として用いられる公知の材料を含有させてもよい。
また、ごぼう粉末等は身体にとって安全であり飲食可能な材料であるため、本実施形態に係る過酸化脂質吸着材はカラムクロマトグラフィーや過酸化脂質除去フィルターといった明確な吸着材としての使用態様だけには限られない。つまり、本実施形態に係る過酸化脂質吸着材は、例えば、後記する食品をはじめとして、サプリメント、化粧品、医薬品、化成品といった様々な態様に適用できる。
【0019】
<作用(過酸化脂質の吸着)>
本実施形態に係る過酸化脂質吸着材は、油脂の中でも、「過酸化脂質」を選択的に吸着する。
詳細には、ごぼう粉末等を含有する過酸化脂質吸着材は、過酸化脂質>未酸化脂質の順に強く吸着する。そして、後記する実施例の結果に基づくと、特に、焙煎ごぼう粉末を含有する過酸化脂質吸着材は、過酸化脂質>過酸化脂質の還元化合物>未酸化脂質の順に強く吸着する。
【0020】
ここで、過酸化脂質とは、高度不飽和脂肪酸(二つ以上の不飽和結合を有する脂肪酸)等を含有する油脂が酸化された脂質である。より詳細には、過酸化脂質とは、酸化されることによって、ペルオキシド構造(-O-O-)を有する状態となっている脂肪酸を含有する脂質である。そして、過酸化脂質とは、例えば、リン脂質、中性脂質、コレステロール等の過酸化物、プロスタグランジン、ロイコトリエン等の脂肪酸誘導体などであり、具体的には、5-ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(5-HPETE)等の脂肪酸を含有する脂質が挙げられる。
なお、本実施形態に係る過酸化脂質吸着材が過酸化脂質を選択的に吸着する原理については明確には解明できないものの、後記する実施例の結果等に基づき、ごぼう粉末等の不溶性画分がペルオキシド構造を備える過酸化脂質に特に選択的に吸着するのではないかと想定される。
【0021】
≪食品≫
本実施形態に係る食品は、前記した過酸化脂質吸着材を含有する。
本実施形態に係る食品が過酸化脂質吸着材を含有することによって、当該食品中に含まれる過酸化脂質や、当該食品を食した消費者の消化器官内に存在する過酸化脂質が、当該食品中のごぼう粉末等に吸着される。そして、ごぼう粉末等は消化され難いという特性を有することから、ごぼう粉末等は過酸化脂質を吸着した状態で適切に体外に排出されることとなる。
つまり、本実施形態に係る食品は、動脈硬化、老化、癌などの原因となることが報告されている過酸化脂質を体内で吸収させることなく体外に排出できるという効果を発揮すると推察できる。
【0022】
本実施形態に係る食品は、ごぼうの風味を生かすことができる食品やごぼうの風味が邪魔にならない食品であれば特に限定されず、例えば、玉子焼等の玉子製品、水産系や畜産系の加工製品、スナック等の菓子類など、様々な食品が挙げられる。
なお、本実施形態に係る食品は、前記した過酸化脂質吸着材を含有するとともに、各食品を構成する材料、例えば、玉子製品の場合は、玉子や出汁等を含んで構成されることとなる。
【0023】
≪過酸化脂質吸着材の製造方法≫
本実施形態に係る過酸化脂質吸着材の製造方法は、前処理工程と画分工程とを含む。
以下、本実施形態に係る過酸化脂質吸着材の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0024】
<前処理工程>
前処理工程は、ごぼうに対して粉末化処理と焙煎処理とを施すことによって焙煎ごぼう粉末を得る工程である。
なお、使用するごぼうについて、産地や品種は問わない。
【0025】
(前処理工程:粉末化処理)
前処理工程での粉末化処理は、ごぼう(または焙煎処理後のごぼう)を所定のサイズの粉末状に粉砕する処理である。
この粉末化処理では、ごぼうを裁断した後、前記したサイズとなるようにホモジナイザ等の粉砕機によって粉砕し、篩等を使用して前記したサイズを超えるものを取り除く。
【0026】
(前処理工程:焙煎処理)
前処理工程での焙煎処理は、ごぼう(または粉末化処理後のごぼう)を焙煎する処理である。
この焙煎処理での焙煎温度や焙煎時間は特に限定されないものの、例えば、焙煎温度は130~180℃(好ましくは140~170℃)、焙煎時間は10~50分間(好ましくは10~20分間)である。
なお、焙煎処理の前に、例えば、加熱温度が40~90℃(好ましくは50~70℃)、加熱時間が1~180分間(好ましくは100~130分間)の乾燥処理を実施してもよい。
【0027】
(前処理工程:補足)
前記した粉末化処理と焙煎処理とは、いずれの処理を先に実施してもよく、また、粉末化処理を所定のレベルまで進めた後、焙煎処理を施し、再度、粉末化処理を施すという流れでもよい。
一例として、前処理工程の流れを次に示す。ごぼうをささがき状に裁断した後、50~70℃程度で2時間乾燥処理を施す。次いで、150℃~160℃程度で15分程度の焙煎を施す(焙煎処理)。そして、最後に、ホモジナイザを使用して粉砕後、篩を使用して分級することで、焙煎ごぼう粉末を得る(粉末化処理)。
なお、これまで焙煎ごぼう粉末を得るための前処理工程を説明したが、未焙煎ごぼう粉末を得る場合は、前記した焙煎処理を施さなければよい。
【0028】
<画分工程>
画分工程は、ごぼう粉末から不溶性画分を得る工程である。
この画分工程では、熱水を用いて抽出処理を行い、熱水に可溶する可溶性画分を除去することによって不溶性画分を得る。
そして、画分工程の抽出処理で用いる熱水(40~100℃、好ましくは70~90℃)の代わりに水を用いてもよい。また、抽出処理の時間は特に限定されないものの、例えば、0.5~5分であり、この抽出処理を複数回行ってもよい。なお、熱水や水での抽出処理を施して得られた不溶性画分に対して、更に、エタノールやヘキサンを用いてエタノール可溶性画分やヘキサン可溶性画分を除去する処理を施すことによって、不溶性画分を確実に不溶性の食物繊維のみの状態としてもよい。
【0029】
<その他の工程>
本実施形態に係る過酸化脂質吸着材の製造方法は、画分工程の後に、凍結乾燥等の乾燥処理を施す乾燥工程を含んでいてもよく、ごぼう粉末等に対してその他の材料を混合する混合工程を含んでいてもよい。
また、本実施形態に係る過酸化脂質吸着材の製造方法は、ごぼう茶を製造する際に実施する蒸し工程(裁断の前または後のごぼうに対して、蒸気を用いて熱する工程)を含んでいてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0031】
≪実施例1≫
まず、実施例1では、焙煎ごぼう粉末および焙煎ごぼう粉末の不溶性画分について油脂の吸着作用を確認する。
【0032】
<事前準備:焙煎ごぼう粉末>
ごぼうを細切りした後、50~70℃で2~4時間の乾燥処理を施し、150~160℃で15分の焙煎処理を施した。その後、粉末化処理を施し、粒径が100μm以下となる「焙煎ごぼう粉末」を得た。
【0033】
<事前準備:焙煎ごぼう粉末の不溶性画分>
焙煎ごぼう粉末に熱水(約90℃)を加えて3回抽出(約30分×3回)を施し、熱水可溶性画分を除去することで熱水不溶性画分を得た。さらに、熱水不溶性画分にエタノールを加えて2回抽出(約30分×2回)を施してエタノール可溶性画分を除去し、ヘキサンを加えて1回抽出(約30分×1回)を施してヘキサン可溶性画分を除去したものを凍結乾燥させることによって「焙煎ごぼう粉末の不溶性画分」を得た。
【0034】
<事前準備:カラム>
吸着実験用カラムとして、パスツールピペットに脱脂綿、焙煎ごぼう粉末100mgの順に詰めた「カラムA」と、パスツールピペットに脱脂綿、焙煎ごぼう粉末の不溶性画分20mgの順に詰めた「カラムB」と、を準備した。
なお、焙煎ごぼう粉末100mgには不溶性食物繊維が約22mg含まれていることを考慮し、カラムBでの不溶性画分の使用量を20mgとした。
【0035】
<事前準備:試料>
試料として、未酸化脂質である「アラキドン酸」(20nmol、6μg)、アラキドン酸の5位の炭素が過酸化された過酸化脂質である「5-ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(5-HPETE)」(20nmol、7μg)、5-HPETEの還元化合物である「5-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(5-HETE)」(20nmol、6μg)を準備した。
【0036】
<吸着試験の内容>
各試料をそれぞれスピッツ試験管に採取し、スピッツ試験管中の溶媒をN2ガスで乾固後、ヘキサン200μlに再溶解して、それぞれカラムAに供した。さらに、ヘキサン200μlで4回洗いこみながらスピッツ試験管中の試料をカラムAに供した。そして、このカラムAにヘキサンを30ml供し、溶出液を5mlずつ回収して溶出画分(0~5ml、5~10ml…25~30mlという6つの溶出画分)とした。
各溶出画分の溶出液は遠心濃縮機とN2ガスで乾固後、HPLC移動相200μlに再溶解し、そのうち50μl(5nmol相当)をHPLCに供し、溶出液中のアラキドン酸、5-HPETE、5-HETEを定量した。なお、アラキドン酸の定量では、メタノール:水:酢酸(80:20:0.01、v/v)に再溶解して逆相HPLC分析を行い、5-HETEおよび5-HPETEの定量では、ヘキサン:2-プロパノール:酢酸(100:1:0.1、v/v)に再溶解して順相HPLC分析を行った。
【0037】
また、カラムBについても、アラキドン酸、5-HPETE、5-HETEの各試料を用いて、前記したカラムAと同様の吸着試験を実施した。
【0038】
<分析条件:逆相HPLC分析>
逆相HPLC分析は、Waters Alliance HPLCシステムを使用した。カラムはCOSMOSIL 5C18-MS-II(4.6×250mm、粒子径5μm、nakalai社)を使用し、カラム温度は25℃、移動相はメタノール:水:酢酸(90:10:0.01、v/v)、流速は1ml/minで分離した。そして、2998PDA検出器(Waters社)を用いて吸光度203nmで分析した。
【0039】
<分析条件:順相HPLC分析>
順相HPLC分析は、SHIMADZU Prominence HPLCシステムを使用した。カラムはNova-PakSilica(3.9×150mm、粒子径5μm、Water社)を使用し、移動相はヘキサン:2-プロパノール:酢酸(100:1:0.1、v/v)、流速は1ml/minで分離した。そして、SPD-M20A PDA検出器(Shimadzu社)を用いて吸光度235nmで分析した。
【0040】
<結果>
吸着試験の結果を、
図1~5に示す。
図1は、逆相HPLC分析におけるクロマトグラムであり、
図1Aは、基準のアラキドン酸のクロマトグラム、
図1Bは、試料は無し(ヘキサンのみ)としカラムAを用いて得られた溶出液(0~10ml溶出画分)のクロマトグラム、
図1Cは、アラキドン酸を試料としカラムAを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラム、
図1Dは、アラキドン酸を試料としカラムBを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【0041】
図2は、順相HPLC分析におけるクロマトグラムであり、
図2Aは、試料は無し(ヘキサンのみ)としカラムAを用いて得られた溶出液(0~10ml溶出画分)のクロマトグラム、
図2Bは、5-HETEを試料としカラムAを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラム、
図2Cは、5-HPETEを試料としカラムAを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【0042】
図3は、カラムAを用いて得られた各溶出画分における各試料の定量分析値であり、
図3Aは、アラキドン酸を試料とした場合の当該成分の定量分析値、
図3Bは、5-HPETEを試料とした場合の当該成分の定量分析値、
図3Cは、5-HETEを試料とした場合の当該成分の定量分析値である。
【0043】
図4は、順相HPLC分析におけるクロマトグラムであり、
図4Aは、5-HETEを試料としカラムBを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラム、
図4Bは、5-HETEを試料としカラムBを用いて得られた溶出液(10~15ml溶出画分)のクロマトグラム、
図4Cは、5-HPETEを試料としカラムBを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラム、
図4Dは、5-HPETEを試料としカラムBを用いて得られた溶出液(10~15ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【0044】
図5は、カラムBを用いて得られた各溶出画分における各試料の定量分析値であり、
図5Aは、アラキドン酸を試料とした場合の当該成分の定量分析値、
図5Bは、5-HPETEを試料とした場合の当該成分の定量分析値、
図5Cは、5-HETEを試料とした場合の当該成分の定量分析値である。
【0045】
<結果の検討:焙煎ごぼう粉末による脂質の吸着作用>
図3Aを確認すると、焙煎ごぼう粉末を充填させたカラムAに供したアラキドン酸(20nmol)は、0~5ml溶出画分において全て溶出されたことが確認できた。
また、
図3Bを確認すると、焙煎ごぼう粉末を充填させたカラムAに供した5-HPETE(20nmol)は、54%(10.8nmol)が溶出されたことが確認できた。なお、5-HPETEの溶出量は、5~10ml溶出画分で最も多く、溶出した5-HPETE(10.8nmol)のうち42%(4.5nmol)がこの画分に含まれていた。
また、
図3Cを確認すると、焙煎ごぼう粉末を充填させたカラムAに供した5-HETE(20nmol)は、全て溶出されたことが確認できた。なお、5-HETEの溶出量は、0~5ml溶出画分で最も多く、溶出した5-HETE(20nmol)のうち55%(12.9nmol)がこの画分に含まれていた。
【0046】
これらの結果から、アラキドン酸、5-HPETE、5-HETEを焙煎ごぼう粉末に供してヘキサンで溶出すると、溶出パターンに違いがあることがわかった。詳細には、未酸化脂質であるアラキドン酸は焙煎ごぼう粉末にほとんど吸着されていない一方、過酸化脂質である5-HPETEは、その還元化合物である5-HETEよりも焙煎ごぼう粉末に吸着されることがわかった。
つまり、焙煎ごぼう粉末は、5-HPETE>5-HETE>アラキドン酸の順に強く吸着する、言い換えると、焙煎ごぼう粉末は、過酸化脂質を選択的に吸着する作用を有することが確認できた。
【0047】
<結果の検討:焙煎ごぼう粉末の不溶性画分による脂質の吸着作用>
図5Aを確認すると、焙煎ごぼう粉末の不溶性画分を充填させたカラムBに供したアラキドン酸(20nmol)は、0~5ml溶出画分においてほぼ全て溶出されたことが確認できた。
また、
図5Bを確認すると、焙煎ごぼう粉末の不溶性画分を充填させたカラムBに供した5-HPETE(20nmol)は、2%(0.4nmol)が溶出されたことが確認できた。なお、5-HPETEは、10~15ml溶出画分から検出されはじめたことが確認できた。
また、
図5Cを確認すると、焙煎ごぼう粉末の不溶性画分を充填させたカラムBに供した5-HETE(20nmol)は、10%(2nmol)が溶出されたことが確認できた。なお、5-HETEは、5-HPETEと同様、10~15ml溶出画分から検出されはじめたことが確認できた。
【0048】
これらの結果から、未酸化脂質であるアラキドン酸は焙煎ごぼう粉末の不溶性画分にほとんど吸着されていない一方、過酸化脂質である5-HPETEとその還元化合物である5-HETEのほとんどが焙煎ごぼう粉末の不溶性画分に吸着(5-HPETEの方が強く吸着)されることがわかった。
よって、焙煎ごぼう粉末の不溶性画分は、過酸化脂質を選択的に吸着する作用を有することが確認できたとともに、焙煎ごぼう粉末の中でも不溶性画分が過酸化脂質を吸着する作用を発揮することがわかった。
【0049】
≪実施例2≫
次に、実施例2では、未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分について油脂の吸着作用を確認する。
【0050】
<事前準備:未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分>
ごぼうを細切りした後、70~80℃で2~4時間の乾燥処理を施した。その後、粉末化処理を施し、粒径が100μm以下となる「未焙煎ごぼう粉末」を得た。
そして、未焙煎ごぼう粉末に熱水(約90℃)を加えて3回抽出(約30分×3回)を施し、熱水可溶性画分を除去することで熱水不溶性画分を得た。さらに、熱水不溶性画分にエタノールを加えて2回抽出(約30分×2回)を施してエタノール可溶性画分を除去し、ヘキサンを加えて1回抽出(約30分×1回)を施してヘキサン可溶性画分を除去したものを凍結乾燥させることによって「未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分」を得た。
【0051】
<事前準備:カラム>
吸着実験用カラムとして、パスツールピペットに脱脂綿、未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分100mgの順に詰めた「カラムC」を準備した。
【0052】
<事前準備:試料>
試料は、前記した実施例1と同様、「アラキドン酸」(20nmol、6μg)、「5-ヒドロペルオキシエイコサテトラエン酸(5-HPETE)」(20nmol、7μg)、「5-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(5-HETE)」(20nmol、6μg)を準備した。
【0053】
<吸着試験の内容>
吸着試験は、カラムCを用いて、前記した実施例1と同様の吸着試験を実施した。
【0054】
<分析条件:逆相HPLC分析、順相HPLC分析>
各分析は、前記した実施例1と同様の条件で実施した。
【0055】
<結果>
吸着試験の結果を、
図6~8に示す。
図6は、逆相HPLC分析におけるクロマトグラムであり、
図6Aは、基準のアラキドン酸のクロマトグラム、
図6Bは、試料は無し(ヘキサンのみ)としカラムCを用いて得られた溶出液(0~10ml溶出画分)のクロマトグラム、
図6Cは、アラキドン酸を試料としてカラムCを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【0056】
図7は、順相HPLC分析におけるクロマトグラムであり、
図7Aは、基準となる5-HPETEのクロマトグラム、
図7Bは、基準となる5-HETEのクロマトグラム、
図7Cは、試料は無し(ヘキサンのみ)としカラムCを用いて得られた溶出液(0~10ml溶出画分)のクロマトグラム、
図7Dは、5-HPETEを試料としてカラムCを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラム、
図7Eは、5-HETEを試料としてカラムCを用いて得られた溶出液(0~5ml溶出画分)のクロマトグラムである。
【0057】
図8は、カラムCを用いて得られた各溶出画分における各試料の定量分析値であり、
図8Aは、アラキドン酸を試料とした場合の当該成分の定量分析値、
図8Bは、5-HPETEを試料とした場合の当該成分の定量分析値、
図8Cは、5-HETEを試料とした場合の当該成分の定量分析値である。
【0058】
<結果の検討:未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分による脂質の吸着作用>
図8Aを確認すると、未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分を充填させたカラムCに供したアラキドン酸(20nmol)は、96.5%(19.3nmol)が溶出されたことが確認できた。
また、
図8Bを確認すると、未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分を充填させたカラムCに供した5-HPETE(20nmol)は、溶出されなかった。
また、
図8Cを確認すると、未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分を充填させたカラムCに供した5-HETE(20nmol)は、溶出されなかった。
【0059】
これらの結果から、アラキドン酸、5-HPETE、5-HETEを未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分に供してヘキサンで溶出すると、溶出パターンに違いがあることがわかった。詳細には、未酸化脂質であるアラキドン酸は未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分にほとんど吸着されていない一方、過酸化脂質である5-HPETEと、その還元化合物である5-HETEとは、未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分に確実に吸着することがわかった。
つまり、未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分は、5-HPETEおよび5-HETE>アラキドン酸の順に強く吸着することが確認できた。
【0060】
なお、
図5B(カラムB:焙煎ごぼう粉末の不溶性画分)と
図8B(カラムC:未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分)との結果を比較すると、一見、焙煎ごぼう粉末の不溶性画分よりも未焙煎ごぼう粉末の不溶性画分の方が過酸化脂質(5-HPETE)に対する吸着性能に優れるようにも判断できる。しかしながら、この結果の差は、単に、カラムに詰めた不溶性画分の量の差(カラムB:20mg、カラムC:100mg)が影響したものであると考える。
【0061】
以上、本発明に係る過酸化脂質吸着材、食品、および、過酸化脂質吸着材の製造方法について、発明を実施するための形態及び実施例により詳細に説明したが本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。また、当業者であれば本願の特許請求の範囲、明細書及び図面に基づいて種々の変形例を創案することが可能であり、そのような変形例も本発明の技術的範囲に含まれる。