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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】電解質用添加剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230327BHJP
【FI】
H01M10/0567
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019030549
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020136167
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 正坤
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】武 志俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-220819(JP,A)
【文献】特開平07-065863(JP,A)
【文献】特開2004-014352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基(ここで、Mは水素原子及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す)とを有するピリジン化合物を含有する、電解質用添加剤であって、
前記化合物は、下記一般式(1)
【化1】
(ここで、式(1)中、nは1又は3の整数、kは1~3の整数であり、かつ、k+n≦5であり、M は水素原子又はアルカリ金属を示し、Rは、水素原子、炭化水素基又は下記一般式(2)
【化2】
で表される1価の基を示す。式(2)中、mは0~3の整数、M は水素原子又はアルカリ金属を示す)
で表される、電解質用添加剤
【請求項2】
請求項1に記載の電解質用添加剤の製造方法であって、
ヒドロキシピリジン化合物と、アルカリ金属を有する化合物とを混合する工程を備える、電解質用添加剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質用添加剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のリチウムイオン電池等の二次電池に対する要求は年々高まっており、近年では、高い安全性に加えて、高いエネルギー密度及び高いサイクル特性を実現することも求められている。このような次世代二次電池の高い要求に応えるべく、各種の電極材料を改良することのみならず、二次電池を構成する電解質及び電解質に含まれる添加剤(電解質用添加剤)を開発することも重要である。
【0003】
この観点から、例えば、非特許文献1には、リチウムビス(2-メチル-2-フルオロマロネート)ボレートを電解質用添加剤として液体電解質に添加した場合、リチウムイオン電池のサイクル性能を改善できることが報告されている。また、非特許文献2は、有機ケージ型化合物であるキュカービットウリル(organic cage-type cucurbituril)を電解質用添加剤として使用することで、リチウムイオンを均一に分散できることを報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Adv. Energy Mater.,2016,1601397
【文献】J.ElectrochemSoc.,2017,164,1834-1840
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の電解質は高価であることから二次電池に適用するにもその種類は限られており、加えて近年の二次電池等に求められる高い要求性能を満たすべく、放電容量をさらに向上させることができる電解質が強く求められている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、固体電解質及び液体電解質のいずれにも使用することができ、いずれの電解質に使用した場合おいても二次電池に優れた放電容量をもたらすことができる電解質用添加及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するピリジン化合物を使用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基(ここで、Mは水素原子及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す)とを有するピリジン化合物を含有する、電解質用添加剤。
項2
前記化合物は、下記一般式(1)
【化1】
(ここで、式(1)中、nは1~3の整数、kは1~3の整数であり、かつ、k+n≦5であり、Mは水素原子又はアルカリ金属を示し、Rは、水素原子、炭化水素基又は下記一般式(2)
【化2】
で表される1価の基を示す。式(2)中、mは0~3の整数、Mは水素原子又はアルカリ金属を示す)
で表される、項1に記載の電解質用添加剤。
項3
項1又は2に記載の電解質用添加剤の製造方法であって、
ヒドロキシピリジン化合物と、アルカリ金属を有する化合物とを混合する工程を備える、電解質用添加剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電解質用添加剤は、固体電解質及び液体電解質のいずれにも使用することができ、いずれの電解質に使用した場合においても二次電池に優れた放電容量をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得た2-HP-LiのX線回折測定の結果を示す。
図2】試験例1で得たSPEフィルムを備える電池の電気化学測定の結果を示す。
図3】試験例1で得たSPEフィルムを備える電池の電気化学測定の結果を示す。
図4】(a)は、試験例2で得た液体電解質を備える電池の電気化学測定の結果を、(b)は、試験例3で得た液体電解質を備える電池の電気化学測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.電解質用添加剤
本発明の電解質用添加剤は、分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基(Mは水素原子又はアルカリ金属を示す)とを有するピリジン化合物を含有する。これにより、本発明の電解質用添加は、固体電解質及び液体電解質のいずれにも使用することができ、いずれの電解質に使用した場合においても二次電池に優れた放電容量をもたらすことができる。
【0013】
本明細書において、「分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基(ここで、Mは水素原子及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す)とを有するピリジン化合物」を、以下では単に「化合物A」と表記する。
【0014】
化合物Aにおいて、-OM基のMがアルカリ金属であることは、化合物Aが塩の形態であることを意味する。この場合、化合物Aにおける水酸基由来の酸素アニオンと、アルカリ金属イオンとが塩を形成する。
【0015】
Mがアルカリ金属である場合、Mの種類は特に限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム等を挙げることができる。
【0016】
化合物Aにおいて、前記-OM基の数は1個以上である限りは特に限定されない。化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、前記-OM基の数は、1~3個であることが好ましく、1個又は2個であることがより好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0017】
化合物Aにおいて、ピリジン骨格とは、ピリジン環由来の構造である。化合物Aにおいて、ピリジン骨格の数は1個以上である限りは特に限定されない。化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、ピリジン骨格の数は、1~3個であることが好ましく、1個又は2個であることがより好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0018】
化合物Aにおいて、前記-OM基は、ピリジン骨格に直接結合することができ、その結合位置は特に限定されない。
【0019】
前記化合物Aは、分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基とを有する化合物である限り、その種類は特に限定されない。例えば、化合物Aは前記一般式(1)で表される構造を有することができる。
【0020】
安価に化合物Aを製造しやすく、安全性も高く、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、式(1)において、nは1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
【0021】
安価に化合物Aを製造しやすく、安全性も高く、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、式(1)において、kは1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。kが2以上である場合、それぞれのRは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
【0022】
式(1)において、RがHである場合、OM基の結合位置は特に限定されず、ピリジン環の2位、3位及び4位のいずれの位置に結合してもよい。化合物Aを安価に製造しやすく、安全性が高く、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、OM基はピリジン環の2位に結合していることが好ましい。
【0023】
式(1)において、Rが炭化水素基である場合、その種類は特に限定されず、例えば、炭素数1~10のアルキル基、好ましく炭素数1~5のアルキル基等を挙げることができる。アルキル基の炭素数が3以上である場合、アルキル基は直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。好ましいアルキル基は、メチル基、エチル基等であり、特に好ましくはメチル基である。式(1)において、Rが炭化水素基である場合、その結合位置は特に限定されず、ピリジン環の2位、3位及び4位のいずれの位置に結合してもよい。
【0024】
式(1)において、Rが前記式(2)で表される1価の基である場合、化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、式(2)中のmは0又は1であることが好ましい。
【0025】
式(2)において、mが1である場合、OM基の結合位置は特に限定されず、ピリジン環の2位、3位及び4位のいずれの位置に結合してもよい。
【0026】
式(1)において、化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、Mはアルカリ金属であることが好ましく、リチウムであることが特に好ましい。
【0027】
また、式(1)において、Rが前記式(2)で表される1価の基である場合、化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、Mはアルカリ金属であることが好ましく、リチウムであることが特に好ましい。
【0028】
また、式(1)において、Rが前記式(2)で表される1価の基であってmが0でない場合、M及びMは互いに異なっていてもよい。化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、M及びMは同じであることが好ましく、M及びM共にリチウムであることが特に好ましい。
【0029】
化合物Aは、式(1)において、Rが水素であり、nは1であり、Mがリチウムであることが特に好ましく、この場合、化合物Aの製造がより容易になり、しかも、より優れた放電容量を二次電池にもたらすことができる。
【0030】
式(1)において、Rが水素であり、nが1である場合、化合物Aとして下記の式(1A)、(1B)及び(1C)で表される化合物を挙げることができる。
【0031】
【化3】
(式(1A)、(1B)及び(1C)において、Mはアルカリ金属を示す)
【0032】
式(1)において、nが1であり、Rが前記式(2)で表される1価の基であってmが0である場合、化合物Aとして下記の式(1D)、(1E)及び(1F)で表される化合物を挙げることができる。
【0033】
【化4】
(式(1D)、(1E)及び(1F)において、Mはアルカリ金属を示す)
【0034】
式(1)において、nが1であり、Rが前記式(2)で表される1価の基であってmが1である場合、化合物Aとして下記の式(1G)、(1H)及び(1I)で表される化合物を挙げることができる。
【0035】
【化5】
(式(1G)、(1H)及び(1I)において、Mはアルカリ金属を示す)
【0036】
前記式(1A)、(1B)、(1C)、(1D)、(1E)、(1F)、(1G)、(1H)及び(1I)において、Mはいずれもリチウムであることが好ましい。
【0037】
前記式(1A)、(1B)、(1C)、(1D)、(1E)、(1F)、(1G)、(1H)及び(1I)においてはいずれもさらに他の置換基(例えば、前記炭化水素基の他、ハロゲン原子等を有していてもよい)。
【0038】
電解質添加剤は、通常、化合物Aを1種含むが、異なる2種以上を含むこともできる。また、電解質添加剤に含まれる化合物Aは、塩である形態と塩でない形態の化合物Aが混在していてもよい。
【0039】
電解質添加剤は、本発明の効果が阻害されない程度であれば、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば、光安定剤、酸化防止剤、防腐剤、重合阻害剤、顔料、着色剤、防カビ剤等が挙げられる。また、その他の成分として、公知の電解質添加剤を含むこともできる。電解質添加剤がその他成分を含む場合、その他成分の含有量は、化合物Aの全質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。電解質添加剤は、化合物Aのみで構成されていてもよい。
【0040】
電解質添加剤は、例えば、二次電池に使用される電解質への添加剤として使用することができ、特にはリチウム二次電池用の電解質への添加剤として使用することができる。電解質添加剤を含む電解質を二次電池に適用することで、二次電池に優れた放電容量をもたらすことができる。
【0041】
電解質添加剤は、固体電解質及び液体電解質のいずれにも適用することができ、いずれの場合においても二次電池に優れた放電容量をもたらすことができる。特に、電解質添加剤を固体電解質に適用する場合、この固体電解質を備える二次電池は、優れた放電容量に加えて、優れた耐久性及びサイクル特性を有することができる。また、電解質添加剤を液体電解質に適用する場合、この液体電解質を備える二次電池は、優れた放電容量に加えて、優れたサイクル特性を有することができる。
【0042】
電解質添加剤を電解質に含有させる方法は特に限定されず。公知の電解質用添加剤の添加方法を広く採用することができる。なお、電解質の種類は後述する。
【0043】
電解質添加剤の電解質への添加量は特に限定されない。例えば、二次電池等の電解質層の全質量に対し、電解質添加剤を0.1~60質量%添加することができ、1~50質量%添加することが好ましく、2~30質量%添加することがより好ましく、3~20質量%添加することがさらに好ましく、5~10質量%添加することが特に好ましい。
【0044】
2.電解質用添加剤の製造方法
電解質用添加剤の製造方法は特に限定されない。例えば、電解質用添加剤の製造方法は、ヒドロキシピリジン化合物と、アルカリ金属を有する化合物とを混合する工程を備えることができる。この工程により、前記化合物Aを得ることができ、この化合物Aを用いて、電解質用添加剤を調製することができる。以下では、ヒドロキシピリジン化合物を「化合物a」、アルカリ金属を有する化合物を「化合物b」と表記する。
【0045】
電解質用添加剤の製造方法において、化合物aの種類は特に限定されず、例えば、前記式(1)において、M及びMが共に水素原子である化合物を挙げることができる。具体的に化合物aは、前記式(1A)、(1B)、(1C)、(1D)、(1E)、(1F)、(1G)、(1H)及び(1I)のそれぞれにおいて、アルカリ金属であるMの代わりに水素原子に置き換えた化合物を挙げることができる。化合物aは、好ましくは、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン及び4-ヒドロキシピリジン等であり、より好ましくは2-ヒドロキシピリジンである。
【0046】
電解質用添加剤の製造方法において、化合物bの種類は特に限定されず、例えば、公知のアルカリ金属を有する無機化合物、アルカリ金属を有する有機化合物を広く適用することができる。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムであることが好ましく、リチウムであることが特に好ましい。
【0047】
化合物bがアルカリ金属を有する無機化合物である場合、その具体例としては、アルカリ金属の水酸化物、塩化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。中でも、アルカリ金属を有する化合物は、アルカリ金属の水酸化物であることが好ましく、水酸化リチウムであることが特に好ましい。アルカリ金属を有する化合物は、水和物であってもよい。
【0048】
化合物bがアルカリ金属を有する有機化合物である場合、各種の有機金属化合物を挙げることができる。その具体例としては、金属アルコキシド、アルキル金属化合物、金属アミド化合物等を挙げることができる。
【0049】
金属アルコキシドとしては、炭素数1~6であるアルカリ金属アルコキシドを挙げることができる。炭素数1~6であるアルカリ金属アルコキシドの炭素数が3以上である場合、直鎖及び分岐のいずれであってもよい。金属アルコキシドの具体例として、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムt-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド等を挙げることができる。金属アルコキシドの炭素数は1~4であることが好ましい。
【0050】
アルキル金属化合物は、アルカリ金属を有する炭素数1~4であるアルキル化合物を挙げることができ、炭素数が3以上である場合、直鎖及び分岐のいずれであってもよい。アルキル金属化合物の具体例として、ブチルリチウム等を挙げることができる。アルキル金属化合物の炭素数は1~4であることが好ましい。
【0051】
金属アミド化合物は、N(Mはアルカリ金属を示す)を有する化合物を挙げることができ、より具体的には、Nの窒素原子に2個のアルキル基が結合した化合物を挙げることができる。この2個のアルキル基は、例えば、炭素数1~4のアルキル基とすることができ、炭素数が3以上である場合は直鎖及び分岐のいずれであってもよい。金属アミド化合物の具体例として、リチウムジイソプロピルアミド等を挙げることができる。
【0052】
電解質用添加剤の製造方法において、化合物a及び化合物bの混合割合は特に限定されない。例えば、化合物a(ヒドロキシピリジン化合物)に含まれる水酸基1モルに対して、化合物b(アルカリ金属を有する化合物)に含まれるアルカリ金属が0.1~10モルとなるように両者を混合することができ、0.5~5モルとなるように両者を混合することが好ましく、0.8~1.2モルとなるように両者を混合することがより好ましく、等モルとなるように両者を混合することが特に好ましい。
【0053】
電解質用添加剤の製造方法において、化合物aと化合物bとの混合条件は特に限定されない。例えば、化合物aと化合物bとを混合するに当たり、化合物a及びbが共に粉末等の固体状態とすることができる。
【0054】
化合物a及び化合物bの混合は、例えば、両者をグローブボックス内で加圧することで行うことができる。この場合の圧力は、例えば、ゲージ圧表示で5~50MPaとすることができ、20~40MPaとすることがより好ましい。加圧時間は、圧力の大きさに応じて適宜設定することができ、例えば、2~10分とすることができる。混合された化合物a及び化合物bが加圧されることで、化合物a及び化合物bが反応して、例えば、塩化合物と水とを含む成型体が得られる。得られた成型体は必要に応じて適宜乾燥処理を行うことができる。
【0055】
化合物a及び化合物bは、例えば、不活性ガス雰囲気で混合することができる。不活性ガス雰囲気で混合することで、例えば、化合物bが二酸化炭素と反応することを抑制することができ、化合物Aを効率よく製造することができる。グローブボックス内で混合を行う場合は当該グローブボックス内を不活性ガス雰囲気とすることができる。不活性ガスは窒素、アルゴン等を使用することができる。
【0056】
グローブボックス内の加圧の方法も特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。加圧の方法としては、コールドプレス法を挙げることができる。コールドプレスでは、熱をかけずに加圧することができ、これにより、化合物a及び化合物bを反応して、塩化合物と水とを含む成型体が得られる。コールドプレス法の条件も特に限定されず、公知の条件を広く採用することができ、加圧条件も前述の加圧条件と同様である。
【0057】
化合物aと化合物bとを加圧して成型体を得て必要に応じて乾燥処理をした後、該成型体を有機溶媒に溶解することができる。この有機溶媒の種類は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールおよびt-ブタノール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン等のケトン化合物;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系炭化水素;等が挙げられる。有機溶剤は、単独又は2種以上の混合物として使用することができる。有機溶媒はアルコールであることが好ましく、中でもメタノールであることがより好ましい。
【0058】
成型体を有機溶媒に溶解させるにあたって、有機溶媒の温度は、例えば室温(例えば、15℃)~60℃とすることができる。成型体を有機溶媒に溶解させるにあたっては、必要に応じて攪拌を行うこともでき、例えば、攪拌時間を1~5時間とすることができる。
【0059】
有機溶媒に溶解した後、適宜の方法で乾燥することで有機溶媒を除去することができる。乾燥方法は、例えば、真空乾燥等を採用することができる。この場合、例えば、公知の真空乾燥機を使用することができる。乾燥条件は特に限定されず、有機溶媒の沸点等に応じて、適宜設定することができる。
【0060】
上記乾燥によって、化合物Aが、例えば、粉末の形態で得られる。得られた化合物Aは、そのまま電解質添加剤として使用することができるし、あるいは、その他の成分と組み合わせて電解質添加剤を形成することもできる。
【0061】
3.電池用電解質
電池用電解質は、本発明の電解質用添加剤を含んで構成される。このような電池用電解質は、例えば、リチウム二次イオン電池等の各種二次電池に好適に使用することができる。前述のように本発明の電解質用添加剤は、固体電解質及び液体電解質のいずれにも適用することができる。特に電池用電解質は、本発明の電解質用添加剤を含むことで、電解質用添加剤によって電解質の性能が増強される。
【0062】
本発明の電解質用添加剤が適用できる固体電解質及び液体電解質は、特に限定されず、公知の電解質を広く適用することができる。
【0063】
固体電解質としては、例えば、Li10GeP12、xLiS-(1-x)P(0.6≦x≦0.85)及びNa11SnPS12等の硫化物系電解質;NaPSe;Li3xLa2/3-xTiO(0≦x≦0.16)等の酸化物系電解質;、Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦0.5)(LATP);LiLa12(3≦x≦7.5、M=Ta,Nb,Zr);NaZrSiPO12;ポリマーベースの電解質;等を挙げることができる。ポリマーベースの電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)あるいは、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)ポリマーをベースとする電解質を挙げることができる。ポリマーベースの電解質は、必要に応じて、LiPF、LiClO、LiTFSI、NaClO、NaBF等の公知の電解質を含むことができる。その他、固体電解質としては、公知の無機電解質と混合してなるハイブリッド電解質を挙げることもできる。
【0064】
液体電解質としては、極性溶媒に溶解したリチウム塩又はナトリウム塩を挙げることができる。極性溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート化合物等を挙げることができる。リチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)等を挙げることができる。液体電解質のさらなる具体例としては、LiPFのエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶液、LiTFSIのエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶液等を挙げることができる。
【0065】
電解質に含まれる電解質添加剤の量は、例えば、電解質の全質量に対して0.1~60質量%とすることができ、1~50質量%とすることが好ましく、2~30質量%とすることがより好ましく、3~20質量%とすることがさらに好ましく、5~10質量%とすることが特に好ましい。
【0066】
本発明の電解質添加剤は、例えば、アルカリ金属イオンを含む電解質への添加剤としてしようすることが特に好ましい。
【0067】
電池用電解質は、固体電解質である場合、その厚みは特に限定されず、例えば、公知の固体電解質と同様の厚み範囲とすることができる。例えば、固体電解質の厚みは、0.01~2mm、好ましくは0.1~0.5mmとすることができる。
【0068】
電池用電解質を製造する方法も特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。例えば、化合物Aとポリマーベースの電解質との混合物を用いて、電池用電解質を成型することができる。具体的には、化合物Aとポリマーベースの電解質との混合物をコールドプレスすることで、電池用電解質(固体電解質)を得ることができる。コールドプレスにより電池用電解質を得る場合、圧力は、例えば、ゲージ圧表示で5~50MPaとすることができ、20~30MPaとすることがより好ましい。加圧時間は、圧力の大きさに応じて適宜設定することができ、例えば、3~10分とすることができる。その他、電池用電解質の製造方法としては、化合物Aと液体電解質を適宜の方法で混合することで、液体電解質を得ることができる。
【0069】
4.二次電池
本発明の二次電池は、前記電解質添加剤を含有する電解質を構成要素として含むことができる。二次電池は、電解質に本発明の電解質添加剤が含まれる限りは、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知と同様の構成とすることができる。例えば、二次電池は、電解質添加剤が含まれる電解質に加えて、カソード、アノード及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、二次電池の用途に応じて適宜決定することができる。
【0070】
カソードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。カソードの活物質としては、公知の活物質を広く適用することができ、例えば、LiFePO、LiCoO、LiNiMnCo(0.5≦y≦0.95、0.025≦y≦0.3、0.025≦y≦0.2)、LiNi1-y-zCoAl(0.05≦y≦0.15、0<z≦0.05)、LiMn、LiMPO(M=Co、Ni)、LiFePOF、V、Li、Li1-XVOPO(0.5≦x≦0.92)、LiTi12、LiFeMO(M=Mn、Si)、S、Se、SeS、Na(PO、NaMnP、NaFePO、NaMnZr(PO等を挙げることができる。
【0071】
アノードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。アノードの活物質としては、LiおよびNa等の金属;グラファイトおよび他の炭素材料;Si(C)ベース、Si(O)ベース又はSnベースの合金あるいは金属酸化物;LiTi12;等を挙げることができる。
【0072】
セパレータとしては、二次電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等の材質からなり、多孔質膜、不織布、織布等の形態の材料を用いることができる。
【0073】
二次電池を組み立てる方法も特に制限はなく、公知の二次電池の組み立て方法と同様の方法で二次電池を得ることができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
水酸化リチウム一水和物(Wako社製)と、2-ヒドロキシピリジン(Wako社製)とを1:1のモル比となるように混合して混合物を調製した。該混合物をアルゴン雰囲気(酸素及び水分はいずれも0.1質量ppm未満)に置換したグローブボックス(美和製作所社製)内に収容した後、30MPaの加圧下で3分間コールドプレスを実施した。次いで、グローブボックス内の成型体を取り出してメタノールに添加し、攪拌しながら60℃で成型体を溶解させた。メタノール中で4時間攪拌を続けた後、真空オーブンにて60℃の雰囲気下でメタノールを除去することで、化合物Aを得た。この化合物Aを電解質用添加剤として使用した。この電解質用添加剤「2-HP-Li」と表記した。
【0076】
(試験例1)
リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を含むポリエチレンオキサイド(PEO;Sigma-Aldrich社製、Mw600,000、Tm:65℃)と、実施例1で得た2-HP-Liとをメノウ乳鉢内で混合した。LiTFSIを含むPEOにおいて、PEO:LiTFSIのモル比は8:1であり、LiTFSIを含むPEOに全質量に対し、2-HP-Liの含有量は10質量%とした。次いで、得られた混合物を真空オーブンにて75℃の雰囲気下で12時間乾燥した後、2MPaにて5時間冷間プレスすることにより、厚みが0.1mmであるSPE(固体ポリマー電解質)フィルムを作製した。
【0077】
(試験例2)
1Mのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI、Wako社製)溶液を準備した。この溶液の溶媒はエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)の1:1(v/v)の混合溶媒とした。次いで、この溶液に実施例1で得た2-HP-Liをその濃度が5質量%となるように溶解させることで液体電解質を得た。
【0078】
(試験例3)
1Mの六フッ化リン酸リチウム(LiPF、Wako社製)溶液を準備した。この溶液の溶媒はエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)の1:1(v/v)の混合溶媒とした。次いで、この溶液に実施例1で得た2-HP-Liをその濃度が5質量%となるように溶解させることで液体電解質を得た。
【0079】
(比較例1)
2-HP-Liを使用しなかったこと以外は試験例1と同様の方法でSPEフィルムを得た。
【0080】
(比較例2)
2-HP-Liを溶解させなかったこと以外は試験例2と同様の方法で液体電解質を得た。
【0081】
(評価方法)
<X線回折測定>
X線回折測定には、Rigaku社製の「SmartLab」を使用し、2θ=10~60°の範囲でCu-Kα(λ=1.540Å)放射線源を使用して測定を行った。
【0082】
<電気化学測定1>
試験例又は比較例で得たSPEフィルムを2枚のステンレススチールブロッキング電極の間に挟んで測定試料を作製し、電気化学インピーダンス分光法によって電気抵抗を測定した。この測定には、Princeton電気化学ステーション「VersaSTAT4」を使用し、測定環境は25℃、測定周波数は105~0.1Hzの範囲とした。
【0083】
<電気化学測定2>
試験例又は比較例で得たSPEフィルムを用いてCR2016型LiFePO/Liコインセルを組み立て、このコインセルを用いて、北斗電工社製「SD8データ試験システム」により、電気化学的性能を測定した。コインセルの電極としては、アノードには本状ケミカル社製の0.1mm厚みのリチウム金属箔(銅箔付き)、カソードには0.05mm厚みのアルミニウム箔を使用した。また、カソードのLiFePOは、ホーセン社から購入した。測定温度は60℃とし、電流密度は0.15mAcm-2とした。カソード及びアノードの直径は12mm、SPEフィルムの直径は16mmとした。
【0084】
<電気化学測定3>
試験例又は比較例で得た液体電解質で濡らしたポリプロピレンセパレータを備えるCR2016型LiFePO/Liコインセルを組み立て、このコインセルを用いて、北斗電工社製「SD8データ試験システム」により、電気化学的性能を測定した。コインセルの電極としては、アノードには本状ケミカル社製の0.1mm厚みのリチウム金属箔(銅箔付き)、カソードには0.05mm厚みのアルミニウム箔を使用した。また、カソードのLiFePOは、ホーセン社から購入した。測定環境は0~20℃とした。
【0085】
(評価結果)
図1には、実施例1で得た2-HP-LiのX線回折測定の結果を示している。この結果から、目的の2-ヒドロキシピリジンリチウム塩が生成していることがわかり、良好な結晶性を有することもわかった。
【0086】
図2は、試験例1で得たSPEフィルムを用いた電気化学測定1の結果を示す。比較例1で得たSPEフィルム及び試験例1で得たSPEフィルムのEIS値はそれぞれ、1ヶ月後において1207.14Ω、180.87Ωであった。この結果は、電解質添加剤として2-HP-Liを含む電解質を備える二次電池は、高い電気化学的安定性(耐久性)を有することを示している。2-HP-Liは、PEOの結晶性を抑制し、優れた界面適合性によって界面インピーダンスを低くすることができる作用を有しているといえる。
【0087】
図3は、試験例1で得たSPEフィルムを用いた電気化学測定2の結果を示す。試験例1で得たSPEフィルムは、比較例1で得たSPEフィルムよりも優れた放電容量(140.94mAhg-1)を示すことがわかった。また、測定開始20サイクル後には、比較例1の2-HP-Liフリーのフィルムに対して4.27倍高いサイクル特性を有することもわかった。これらの結果は、2-HP-Liを含む電解質は、リチウムイオンの移動を加速させ、電池の総インピーダンスを低下させることができることを示唆している。
【0088】
図4(a)は、試験例2で得た液体電解質を用いた電気化学測定3の結果を、図4(b)は、試験例3で得た液体電解質を用いた電気化学測定3の結果を示す。図4(a)、(b)において、比較例2の液体電解質(2-HP-Li非含有)との対比から、電解質添加剤2-HP-Liを含むことで、特に低温におけるサイクル安定性を改善させることができていることがわかる。この2-HP-Liの作用は不動態化SEI膜を形成することで電解質と電極との間の副反応を防ぎやすいことに加えて、2-HP-Liも均一なLi堆積を誘導することができることができると考えられる。このような作用により、Liデンドライトを減少させることができ、この結果として優れたサイクル特性をもたらしていると推察される。
図1
図2
図3
図4