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特許7250273電池用電解質及びその製造方法並びに二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】電池用電解質及びその製造方法並びに二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20230327BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230327BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230327BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/054
H01M10/052
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019030552
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020136168
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 正坤
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】武 志俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-220819(JP,A)
【文献】特開平07-065863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 6/16-18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基(ここで、Mはアルカリ金属を示す)とを有するピリジン化合物及びベース材料を含有する、全固体二次電池用電解質であって、
前記化合物は、下記一般式(1)
【化1】
(ここで、式(1)中、nは1~3の整数、kは1~3の整数であり、かつ、k+n≦5であり、M はアルカリ金属を示し、Rは、水素原子、炭化水素基又は下記一般式(2)
【化2】
で表される1価の基を示す。式(2)中、mは0~3の整数、M はアルカリ金属を示す)
で表され、
前記ベース材料は、ポリエチレンオキサイド(PEO)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)及びPMMA(ポリメチルメタクリレート)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、全固体二次電池用電解質
【請求項2】
請求項1に記載の全固体二次電池用電解質の製造方法であって、
ヒドロキシピリジン化合物と、アルカリ金属を有する化合物とを混合してピリジン化合物を調製する工程と、
前記工程で得られたピリジン化合物と、ベース材料とを混合して電解質を得る工程とを備える、製造方法。
【請求項3】
前記ベース材料がアルカリ金属イオンを含まない、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の全固体二次電池用電解質を構成要素として含む、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電解質及びその製造方法並びに二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のリチウムイオン電池等の二次電池に対する要求は年々高まっており、近年では、高い安全性に加えて、高いエネルギー密度及び高いサイクル特性を実現することも求められている。このような次世代二次電池の高い要求に応えるべく、各種の電極材料を改良することのみならず、二次電池を構成する電解質を開発することも重要である。
【0003】
例えば、非特許文献1は、電解質塩が固体電解質界面(SEI)の均一性、安定性及び化学組成の変化に大きな影響を与えることを開示している。特に、特定の電解質塩を選択することによって、より安定な固体電解質/電極界面相層の形成を達成することができ、優れた電気化学的性能をもたらされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Adv.Energy Mater.2018,1703288
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の電解質は高価であることから二次電池に適用するにもその種類は限られており、加えて近年の二次電池等に求められる高い要求性能を満たすべく、放電容量をさらに向上させることができる電解質が強く求められている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、二次電池等の電池に優れた放電容量をもたらすことができる電池用電解質及びその製造方法並びに二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するピリジン化合物を使用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基(ここで、Mはアルカリ金属を示す)とを有するピリジン化合物を含有する、電池用電解質。
項2
前記化合物は、下記一般式(1)
【化1】
(ここで、式(1)中、nは1~3の整数、kは1~3の整数であり、かつ、k+n≦5であり、Mはアルカリ金属を示し、Rは、水素原子、炭化水素基又は下記一般式(2)
【化2】
で表される1価の基を示す。式(2)中、mは0~3の整数、Mはアルカリ金属を示す)
で表される、請求項1に記載の電池用電解質。
項3
全固体二次電池用である、項1又は2に記載の電池用電解質。
項4
項1~3のいずれか1項に記載の電池用電解質の製造方法であって、
ヒドロキシピリジン化合物と、アルカリ金属を有する化合物とを混合してピリジン化合物を調製する工程と、
前記工程で得られたピリジン化合物と、ベース材料とを混合して電解質を得る工程とを備える、製造方法。
項5
前記ベース材料がアルカリ金属イオンを含まない、項4に記載の製造方法。
項6
項1~3のいずれか1項に記載の電池用電解質を構成要素として含む、二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電池用電解質は、二次電池等の電池に優れた放電容量をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】製造例1で得た2-HP-LiのX線回折測定の結果を示す。
図2】実施例1で固体ポリマー電解質のX線回折測定の結果を示す。
図3】実施例1で得た固体ポリマー電解質を備える電池の電気化学測定の結果を示す。
図4】実施例2で得た固体ポリマー電解質を備える電池の電気化学測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.電池用電解質
本発明の電池用電解質は、分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基(Mはアルカリ金属を示す)とを有するピリジン化合物を含有する。これにより、本発明の電池用電解質は、二次電池等の電池に優れた放電容量をもたらすことができる。
【0013】
本明細書において、「分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基(ここで、Mはアルカリ金属を示す)とを有するピリジン化合物」を、以下では単に「化合物A」と表記する。
【0014】
化合物Aにおいて、-OM基のMがアルカリ金属であることから、化合物Aは塩の形態となる。具体的に、化合物Aにおける水酸基由来の酸素アニオンと、アルカリ金属イオンとが塩を形成する。
【0015】
アルカリ金属Mの種類は特に限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム等を挙げることができる。
【0016】
化合物Aにおいて、前記-OM基の数は1個以上である限りは特に限定されない。化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、前記-OM基の数は、1~3個であることが好ましく、1個又は2個であることがより好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0017】
化合物Aにおいて、ピリジン骨格とは、ピリジン環由来の構造である。化合物Aにおいて、ピリジン骨格の数は1個以上である限りは特に限定されない。化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、ピリジン骨格の数は、1~3個であることが好ましく、1個又は2個であることがより好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0018】
化合物Aにおいて、前記-OM基は、ピリジン骨格に直接結合することができ、その結合位置は特に限定されない。
【0019】
前記化合物Aは、分子内に1個以上のピリジン骨格と、1個以上の-OM基とを有する化合物である限り、その種類は特に限定されない。例えば、化合物Aは前記一般式(1)で表される構造を有することができる。
【0020】
安価に化合物Aを製造しやすく、安全性も高く、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、式(1)において、nは1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
【0021】
安価に化合物Aを製造しやすく、安全性も高く、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、式(1)において、kは1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。kが2以上である場合、それぞれのRは互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
【0022】
式(1)において、RがHである場合、OM基の結合位置は特に限定されず、ピリジン環の2位、3位及び4位のいずれの位置に結合してもよい。化合物Aを安価に製造しやすく、安全性が高く、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、OM基はピリジン環の2位に結合していることが好ましい。
【0023】
式(1)において、Rが炭化水素基である場合、その種類は特に限定されず、例えば、炭素数1~10のアルキル基、好ましく炭素数1~5のアルキル基等を挙げることができる。アルキル基の炭素数が3以上である場合、アルキル基は直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。好ましいアルキル基は、メチル基、エチル基等であり、特に好ましくはメチル基である。式(1)において、Rが炭化水素基である場合、その結合位置は特に限定されず、ピリジン環の2位、3位及び4位のいずれの位置に結合してもよい。
【0024】
式(1)において、Rが前記式(2)で表される1価の基である場合、化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、式(2)中のmは0又は1であることが好ましい。
【0025】
式(2)において、mが1である場合、OM基の結合位置は特に限定されず、ピリジン環の2位、3位及び4位のいずれの位置に結合してもよい。
【0026】
式(1)において、化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、Mはアルカリ金属であることが好ましく、リチウムであることが特に好ましい。
【0027】
また、式(1)において、Rが前記式(2)で表される1価の基である場合、化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、Mはアルカリ金属であることが好ましく、リチウムであることが特に好ましい。
【0028】
また、式(1)において、Rが前記式(2)で表される1価の基であってmが0でない場合、M及びMは互いに異なっていてもよい。化合物Aを製造しやすく、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすいという観点から、M及びMは同じであることが好ましく、M及びM共にリチウムであることが特に好ましい。
【0029】
化合物Aは、式(1)において、Rが水素であり、nは1であり、Mがリチウムであることが特に好ましく、この場合、化合物Aの製造がより容易になり、しかも、より優れた放電容量を二次電池にもたらすことができる。
【0030】
式(1)において、Rが水素であり、nが1である場合、化合物Aとして下記の式(1A)、(1B)及び(1C)で表される化合物を挙げることができる。
【0031】
【化3】
(式(1A)、(1B)及び(1C)において、Mはアルカリ金属を示す)
【0032】
式(1)において、nが1であり、Rが前記式(2)で表される1価の基であってmが0である場合、化合物Aとして下記の式(1D)、(1E)及び(1F)で表される化合物を挙げることができる。
【0033】
【化4】
(式(1D)、(1E)及び(1F)において、Mはアルカリ金属を示す)
【0034】
式(1)において、nが1であり、Rが前記式(2)で表される1価の基であってmが1である場合、化合物Aとして下記の式(1G)、(1H)及び(1I)で表される化合物を挙げることができる。
【0035】
【化5】
(式(1G)、(1H)及び(1I)において、Mはアルカリ金属を示す)
【0036】
前記式(1A)、(1B)、(1C)、(1D)、(1E)、(1F)、(1G)、(1H)及び(1I)において、Mはいずれもリチウムであることが好ましい。
【0037】
前記式(1A)、(1B)、(1C)、(1D)、(1E)、(1F)、(1G)、(1H)及び(1I)においてはいずれもさらに他の置換基(例えば、前記炭化水素基の他、ハロゲン原子等を有していてもよい)。
【0038】
本発明の電池用電解質は、通常、化合物Aを1種含むが、異なる2種以上を含むこともできる。本発明の電池用電解質は、塩でない形態の化合物Aが含まれていてもよい。
【0039】
本発明の電池用電解質は、例えば、固体電解質であり、該固体電解質は化合物Aに加えて他の材料を含むことができる。以下、他の材料を「ベース材料」と表記する。
【0040】
ベース材料としては、例えば、二次電池等の電池用の電解質材料に適用されている材料を広く使用することができる。ベース材料の具体例として、ポリエチレンオキサイド(PEO)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等の高分子化合物を挙げることができる。ベース材料が高分子化合物である場合、化合物A以外に電解質材料を含むことができるし、化合物A以外に電解質材料は含まないものとすることができる。ベース材料が高分子化合物である場合、化合物A以外の電解質材料としては、LiPF、LiClO、LiTFSI、NaClO、NaBF等の公知の電解質を挙げることができる。
【0041】
ベース材料がPEOである場合、重量平均分子量は300,000以上、1,000,000以下であることが好ましい。ベース材料がPVDFである場合、重量平均分子量は100,000以上、600,000以下であることが好ましい。ベース材料がPMMAである場合、重量平均分子量は25,000以上200,000以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の電池用電解質において、ベース材料は、アルカリ金属イオンを含まないことが好ましい。ただし、ベース材料に不可避的に含まれるアルカリ金属イオンは許容される。
【0043】
その他、ベース材料としては、Li10GeP12、xLiS-(1-x)P(0.6≦x≦0.85)及びNa11SnPS12等の硫化物系電解質;NaPSe;Li3xLa2/3-xTiO(0≦x≦0.16)等の酸化物系電解質;、Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦0.5)(LATP);LiLa12(3≦x≦7.5、M=Ta,Nb,Zr);NaZrSiPO12;ポリマーベースの電解質;等を挙げることができる。
【0044】
本発明の電池用電解質において、ベース材料は、高分子化合物であることが好ましく、PEO、PVDF及びPMMAからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、PEOであることが特に好ましい。ベース材料である高分子化合物は、アルカリ金属イオンを含まないことが好ましい。なお、この場合においてベース材料に不可避的に含まれるアルカリ金属イオンは許容され得る。
【0045】
本発明の電池用電解質は、液体電解質とすることもできる。電池用電解質が液体電解質である場合、例えば、化合物Aを極性溶媒に溶解することで形成することができる。極性溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート化合物等を挙げることができる。本発明の電池用電解質が液体電解質である場合、電池用電解質は他の電解質を含むことができるし、含まなくてもよい。電池用電解質が液体電解質である場合の他の電解質としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)等を挙げることができる。
【0046】
本発明の電池用電解質は、前述の固体電解質であることが好ましい。この場合、電池用電解質は、二次電池に優れた放電容量をもたらしやすい。固体電解質には、アルカリ金属イオンが含まれないことが好ましい。
【0047】
本発明の電池用電解質に含まれる化合物Aの量は、例えば、電解質の全質量に対して0.1~60質量%とすることができ、1~50質量%とすることより好ましく、5~30質量%とすること特に好ましい。また、電池用電解質が固体電解質である場合、電池用電解質に含まれる化合物Aとベース材料とのモル比(化合物A:ベース材料)は、1:50~1:2とすることより好ましく、1:30~1:5とすることが特に好ましい。
【0048】
本発明の電池用電解質は、本発明の効果が阻害されない程度であれば、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば、光安定剤、酸化防止剤、防腐剤、重合阻害剤、顔料、着色剤、防カビ剤等が挙げられる。また、その他の成分として、公知の電解質添加剤を含むこともできる。電解質添加剤がその他成分を含む場合、その他成分の含有量は、化合物Aの全質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。電解質添加剤は、化合物Aのみで構成されていてもよい。
【0049】
本発明の電池用電解質は、固体電解質である場合、その厚みは特に限定されず、例えば、公知の固体電解質と同様の厚み範囲とすることができる。例えば、電池用電解質は、0.01~2mm、好ましくは0.1~0.5mmとすることができる。
【0050】
本発明の電池用電解質は、例えば、二次電池等の各種電池に使用することができ、特には全固体リチウム二次電池用の電解質として好適に使用することができる。本発明の電池用電解質を全固体リチウム二次電池に適用することで、当該二次電池に優れた放電容量及びサイクル特性をもたらすことができる。
【0051】
2.電池用電解質の製造方法
電池用電解質の製造方法は特に限定されない。例えば、電池用電解質の製造方法は、ヒドロキシピリジン化合物と、アルカリ金属を有する化合物とを混合してピリジン化合物を調製する工程1と、前記工程1で得られたピリジン化合物と、ベース材料とを混合して電解質を得る工程2とを備えることができる。
【0052】
前記工程1で得られるピリジン化合物は、前記化合物Aである。つまり、前記工程1は化合物Aを得るための工程である。以下では、工程1で使用するヒドロキシピリジン化合物を「化合物a」、アルカリ金属を有する化合物を「化合物b」と表記する。
【0053】
工程1において、化合物aの種類は特に限定されず、例えば、前記式(1)において、M及びMが共に水素原子である化合物を挙げることができる。具体的に化合物aは、前記式(1A)、(1B)、(1C)、(1D)、(1E)、(1F)、(1G)、(1H)及び(1I)のそれぞれにおいて、アルカリ金属であるMの代わりに水素原子に置き換えた化合物を挙げることができる。化合物aは、好ましくは、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン及び4-ヒドロキシピリジン等であり、より好ましくは2-ヒドロキシピリジンである。
【0054】
工程1において、化合物bの種類は特に限定されず、例えば、公知のアルカリ金属を有する無機化合物、アルカリ金属を有する有機化合物を広く適用することができる。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムであることが好ましく、リチウムであることが特に好ましい。
【0055】
化合物bがアルカリ金属を有する無機化合物である場合、その具体例としては、アルカリ金属の水酸化物、塩化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。中でも、アルカリ金属を有する化合物は、アルカリ金属の水酸化物であることが好ましく、水酸化リチウムであることが特に好ましい。アルカリ金属を有する化合物は、水和物であってもよい。
【0056】
化合物bがアルカリ金属を有する有機化合物である場合、各種の有機金属化合物を挙げることができる。その具体例としては、金属アルコキシド、アルキル金属化合物、金属アミド化合物等を挙げることができる。
【0057】
金属アルコキシドとしては、炭素数1~6であるアルカリ金属アルコキシドを挙げることができる。炭素数1~6であるアルカリ金属アルコキシドの炭素数が3以上である場合、直鎖及び分岐のいずれであってもよい。金属アルコキシドの具体例として、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムt-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド等を挙げることができる。金属アルコキシドの炭素数は1~4であることが好ましい。
【0058】
アルキル金属化合物は、アルカリ金属を有する炭素数1~4であるアルキル化合物を挙げることができ、炭素数が3以上である場合、直鎖及び分岐のいずれであってもよい。アルキル金属化合物の具体例として、ブチルリチウム等を挙げることができる。アルキル金属化合物の炭素数は1~4であることが好ましい。
【0059】
金属アミド化合物は、N(Mはアルカリ金属を示す)を有する化合物を挙げることができ、より具体的には、Nの窒素原子に2個のアルキル基が結合した化合物を挙げることができる。この2個のアルキル基は、例えば、炭素数1~4のアルキル基とすることができ、炭素数が3以上である場合は直鎖及び分岐のいずれであってもよい。金属アミド化合物の具体例として、リチウムジイソプロピルアミド等を挙げることができる。
【0060】
工程1において、化合物a及び化合物bの混合割合は特に限定されない。例えば、化合物a(ヒドロキシピリジン化合物)に含まれる水酸基1モルに対して、化合物b(アルカリ金属を有する化合物)に含まれるアルカリ金属が0.1~10モルとなるように両者を混合することができ、0.5~5モルとなるように両者を混合することが好ましく、0.8~1.2モルとなるように両者を混合することがより好ましく、等モルとなるように両者を混合することが特に好ましい。
【0061】
工程1において、化合物aと化合物bとの混合条件は特に限定されない。例えば、化合物aと化合物bとを混合するにあたり、化合物a及びbが共に粉末等の固体状態とすることができる。
【0062】
化合物a及び化合物bの混合は、例えば、両者をグローブボックス内で加圧することで行うことができる。この場合の圧力は、例えば、ゲージ圧表示で5~50MPaとすることができ、20~40MPaとすることがより好ましい。加圧時間は、圧力の大きさに応じて適宜設定することができ、例えば、2~10分とすることができる。混合された化合物a及び化合物bが加圧されることで、化合物a及び化合物bが反応して、例えば、塩化合物と水とを含む成型体が得られる。得られた成型体は必要に応じて適宜乾燥処理を行うことができる。
【0063】
化合物a及び化合物bは、例えば、不活性ガス雰囲気で混合することができる。不活性ガス雰囲気で混合することで、例えば、化合物bが二酸化炭素と反応することを抑制することができ、化合物Aを効率よく製造することができる。グローブボックス内で混合を行う場合は当該グローブボックス内を不活性ガス雰囲気とすることができる。不活性ガスは窒素、アルゴン等を使用することができる。
【0064】
グローブボックス内の加圧の方法も特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。加圧の方法としては、コールドプレス法を挙げることができる。コールドプレスでは、熱をかけずに加圧することができ、これにより、化合物a及び化合物bを反応して、塩化合物と水とを含む成型体が得られる。コールドプレス法の条件も特に限定されず、公知の条件を広く採用することができ、加圧条件も前述の加圧条件と同様である。
【0065】
化合物aと化合物bとを加圧して成型体を得て必要に応じて乾燥処理をした後、該成型体を有機溶媒に溶解することができる。この有機溶媒の種類は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールおよびt-ブタノール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン等のケトン化合物;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系炭化水素;等が挙げられる。有機溶剤は、単独又は2種以上の混合物として使用することができる。有機溶媒はアルコールであることが好ましく、中でもメタノールであることがより好ましい。
【0066】
成型体を有機溶媒に溶解させるにあたって、有機溶媒の温度は、例えば室温(例えば、15℃)~60℃とすることができる。成型体を有機溶媒に溶解させるにあたっては、必要に応じて攪拌を行うこともでき、例えば、攪拌時間を1~5時間とすることができる。
【0067】
有機溶媒に溶解した後、適宜の方法で乾燥することで有機溶媒を除去することができる。乾燥方法は、例えば、真空乾燥等を採用することができる。この場合、例えば、公知の真空乾燥機を使用することができる。乾燥条件は特に限定されず、有機溶媒の沸点等に応じて、適宜設定することができる。上記乾燥によって、化合物Aが、例えば、粉末の形態で得られる。
【0068】
工程2では、前記工程1で得られたピリジン化合物(化合物A)と、ベース材料とを混合して電解質を得る。
【0069】
ベース材料は、前述の電池用電解質の項で説明したベース材料と同様である。従って、ベース材料の具体例として、目的とする電池用電解質が固体電解質である場合は、ポリエチレンオキサイド(PEO)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等の高分子化合物を挙げることができる。これらの高分子化合物は、アルカリ金属イオンを含まないことが好ましい。この場合において、高分子化合物に不可避的に含まれるアルカリ金属イオンは許容される。
【0070】
化合物Aと、ベース材料とを混合して電池用電解質(固体電解質)を得る方法は特に限定されず、例えば、粉体状の化合物Aと、ベース材料とを混合して得た混合物を成型することで、電池用電解質を得ることができる。
【0071】
工程2において、化合物Aと、ベース材料とを混合する方法は特に限定されず、公知の混合方法を広く採用することができる。化合物Aと、ベース材料とを混合するにあたり、必要に応じて、他の電解質用添加剤及び/又は前述のその他成分を、化合物A及びベース材料に添加することができる。
【0072】
化合物Aとベース材料との混合物から電池用電解質を成型する方法も特に限定されず、公知の電池用電解質の成型方法を広く採用することができる。例えば、化合物Aとベース材料との混合物をコールドプレスすることで、電池用電解質を得ることができる。コールドプレスにより電池用電解質を得る場合、圧力は、例えば、ゲージ圧表示で5~50MPaとすることができ、20~30MPaとすることがより好ましい。加圧時間は、圧力の大きさに応じて適宜設定することができ、例えば、3~10分とすることができる。
【0073】
以上の工程1及び工程2を経ることで、本発明の電池用電解質を得ることができる。工程1及び工程2を備える製造方法は、固体電解質を製造するための方法として特に適している。
【0074】
4.二次電池
本発明の二次電池は、前記電池用電解質を構成要素として含むことができる。二次電池は、化合物Aを含む電解質を備える限りは、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知と同様の構成とすることができる。例えば、二次電池は、化合物Aを含む電解質に加えて、カソード、アノード及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、二次電池の用途に応じて適宜決定することができる。
【0075】
カソードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。カソードの活物質としては、公知の活物質を広く適用することができ、例えば、LiFePO、LiCoO、LiNiMnCo(0.5≦y≦0.95、0.025≦y≦0.3、0.025≦y≦0.2)、LiNi1-y-zCoAl(0.05≦y≦0.15、0<z≦0.05)、LiMn、LiMPO(M=Co、Ni)、LiFePOF、V、Li、Li1-XVOPO(0.5≦x≦0.92)、LiTi12、LiFeMO(M=Mn、Si)、S、Se、SeS、Na(PO、NaMnP、NaFePO、NaMnZr(PO等を挙げることができる。
【0076】
アノードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。アノードの活物質としては、LiおよびNa等の金属;グラファイトおよび他の炭素材料;Si(C)ベース、Si(O)ベース又はSnベースの合金あるいは金属酸化物;LiTi12;等を挙げることができる。
【0077】
セパレータとしては、二次電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等の材質からなり、多孔質膜、不織布、織布等の形態の材料を用いることができる。
【0078】
二次電池を組み立てる方法も特に制限はなく、公知の二次電池の組み立て方法と同様の方法で二次電池を得ることができる。
【実施例
【0079】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0080】
(製造例1)
水酸化リチウム一水和物(Wako社製)と、2-ヒドロキシピリジン(Wako社製)とを1:1のモル比となるように混合して混合物を調製した。該混合物をアルゴン雰囲気(酸素及び水分はいずれも0.1質量ppm未満)に置換したグローブボックス(美和製作所社製)内に収容した後、30MPaの加圧下で3分間コールドプレスを実施した。次いで、グローブボックス内の成型体を取り出してメタノールに添加し、攪拌しながら60℃で成型体を溶解させた。メタノール中で4時間攪拌を続けた後、真空オーブンにて60℃の雰囲気下でメタノールを除去することで、化合物Aを得た。この化合物Aを「2-HP-Li」と表記した。
【0081】
(実施例1)
ポリエチレンオキサイド(PEO;Sigma-Aldrich社製、Mw600,000、Tm:65℃)と、製造例1で得た2-HP-Liとをめのう乳鉢内で混合し、混合物を得た。この混合では、PEOのモル数が2-HP-Liのモル数の20倍となるように両者を配合した。次いで、得られた混合物を真空オーブンにて75℃の雰囲気下で12時間乾燥した後、20MPaで5分間、コールドプレスすることで、厚みが0.5mmであるSPE(固体ポリマー電解質)フィルムを作製した。
【0082】
(実施例2)
PEOのモル数が2-HP-Liのモル数の8倍となるように両者を配合したこと以外は、実施例1と同様の方法で厚みが0.5mmであるSPEフィルムを作製した。
【0083】
(比較例1)
2-HP-Liの代わりにビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI、Wako社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で厚みが0.5mmであるSPEフィルムを作製した。
【0084】
(評価方法)
<X線回折測定>
X線回折測定には、Rigaku社製の「SmartLab」を使用し、2θ=10~60°の範囲でCu-Kα(λ=1.540Å)放射線源を使用して測定を行った。
【0085】
<電気化学測定>
実施例又は比較例で得たSPEフィルムを用いてCR2016型LiFePO/Liコインセルを組み立て、このコインセルを用いて、北斗電工社製「SD8データ試験システム」により、電気化学的性能を測定した。コインセルの電極としては、アノードには本状ケミカル社製の0.1mm厚みのリチウム金属箔(銅箔付き)、カソードには0.05mm厚みのアルミニウム箔を使用した。また、カソードのLiFePOは、ホーセン社から購入した。測定温度は65℃とし、電流密度は0.15mAcm-2とした。カソード及びアノードの直径は12mm、SPEフィルムの直径は16mmとした。
【0086】
(評価結果)
図1には、製造例1で得た2-HP-LiのX線回折測定の結果を示している。この結果から、目的の2-ヒドロキシピリジンリチウム塩が生成していることがわかり、良好な結晶性を有することもわかった。
【0087】
図2には、実施例1で得たSPEフィルムのX線回折測定の結果を示している。図2において、aは2-HP-Liを含まないPEOのXRDピーク、bは比較例1のSPEフィルム(PEO+LiTFSI)のXRDピーク、cは実施例1で得たSPEフィルム(PEO+2-HP-Li)のXRDピークである。また、図2の挿入図は、一部拡大図である。この結果は、2-HP-Liはポリマー(PEO)と良好な相溶性を有し、従来の電解質であるリチウム塩LiTFSIに比べてPEOの結晶化度を抑制しやすいものであることを証明している。従って、実施例1のSPEフィルムは、リチウムイオンの移動を促進することが期待される。
【0088】
図3は、実施例1及び比較例1で得たSPEフィルムを用いた電気化学測定の結果を示し、(a)は初期(サイクル1回目)の測定結果、(b)は各サイクル(1~5回)の測定結果を示す。図3(a)から、実施例1で得たSPEフィルムを備える電池は、優れた放電容量(130.15mAhg-1)を示すことがわかった。サイクル1回目で比較すると、実施例1で得たSPEフィルムを備える電池は、比較例1で得たSPEフィルムの放電容量より2.02倍高く、また、実施例1で得たSPEフィルムを備える電池のクーロン効率も100%に近かった。以上の結果は、実施例1で得たSPEフィルムは、全固体電池用の固体電解質の使用に好適であることがわかった。
【0089】
図3(b)から、各サイクルにおいても、実施例1で得たSPEフィルムを備える電池は、比較例1で得たSPEフィルムの放電容量より高いことがわかった。
【0090】
図4は、実施例2で得たSPEフィルムを用いた電気化学測定の結果を示している。実施例2で得たSPEフィルムを備える電池も実施例1と同様、高い放電容量を有していることがわかった。
図1
図2
図3
図4