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特許7250276金属酸化物触媒の製造方法及びVOC除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】金属酸化物触媒の製造方法及びVOC除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/889 20060101AFI20230327BHJP
   B01J 37/06 20060101ALI20230327BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
B01J23/889 M
B01J37/06
B01J37/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019081959
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020179315
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 佩芬
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲ジン▼
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232252(JP,A)
【文献】特開2009-202090(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108855108(CN,A)
【文献】特開2011-056499(JP,A)
【文献】特表平08-500055(JP,A)
【文献】米国特許第05283041(US,A)
【文献】特開2013-132632(JP,A)
【文献】特開2015-182010(JP,A)
【文献】ZHOU Qixing et al.,Pt-Like Oxygen Reduction Activity Induced by Cost-Effective MnFeO2/N-Carbon,Chem. Eur. J.,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KAaA,2019年03月12日,Vol. 25, No. 24,pp. 6226-6232,DOI: 10.1002/chem.201900638
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属源と、寒天とを含むゲル化物を得る工程と、
前記ゲル化物を焼成してVOC除去用金属酸化物触媒を得る工程と、
を含み、
前記金属酸化物触媒は、Mn,Fe,Ni,Cu,Mo,W,V,Ce,Ti,Zn,Cr,Ga,Ge,In,Li,Sn,Mg,Ca,Ba,Pt,Au及びLaからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属を含む複合金属酸化物である、VOC除去用金属酸化物触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られた金属酸化物触媒を用いてVOCを除去する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物触媒の製造方法及びVOC除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物触媒は、従来から種々の用途に使用されており、極めて利用価値の高い材料である。例えば、マンガン系触媒は、貴金属に代わる可能性のある代替物の中で、低温で揮発性有機化合物(VOC)を除去できる触媒であることが知られており、近年、多くの研究者がマンガンベースの触媒の調製方法及び性能を改良するための研究を進めている。
【0003】
マンガン系触媒に代表される金属酸化物触媒の性能を向上させるには、その調製法を検討することで、触媒の構造を制御可能にすることが一つの有効な手段である。このような新規な調製方法を開発することで、例えば、VOC除去性能を高めることも可能になると考えられる。特に、VOCは、光化学オキシダント、あるいは、浮遊粒子状物質(SPM)の原因になると指摘されていることから、大気汚染防止法によりその排出量が厳しく規制されており、VOC除去性能を高めることが強く求められているから、金属酸化物触媒の性能(VOC除去性能)を向上させるべく、新規調製方法の確立が急務である。
【0004】
例えば、非特許文献1には、有機金属骨格から誘導することによるMn-Co複合酸化物の合成技術が報告されている。この合成技術で得られるMn-Co複合酸化物は、均一に金属が分散しており、表面にMn4+及びCo3+種の高原子価に富んでおり、全トルエン酸化の高い低温触媒活性をもたらすことができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of Hazardous Materials、DOI:org / 10.1016/j.jhazmat.2018.01.053
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に開示される製造方法は、目的物が得られるまでに数日を要し、加えてMOF-MnCoは水の存在下では安定性が悪いので、有機溶媒等の使用が必要となり、簡便に合成を行うことが難しいものであった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で金属酸化物触媒を製造することができ、VOCの除去性能にも優れる金属酸化物触媒の製造方法及びVOC除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、寒天ゲルを使用する方法を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
金属源と、寒天とを含むゲル化物を得る工程と、
前記ゲル化物を焼成して金属酸化物触媒を得る工程と、
を含む、金属酸化物触媒の製造方法。
項2
前記金属源は、第1の金属源及び第2の金属源を含む、項1に記載の製造方法。
項3
前記金属酸化物触媒は、Mn,Fe,Ni,Cu,Mo,W,V,Ce,Ti,Zn,Cr,Al,Ga,Ge,In,Li,Sn,Mg,Ca,Ba,Pt,Au及びLaからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属を含む複合金属酸化物である、項1又は2に記載の製造方法。
項4
項1~3のいずれか1項に記載の製造方法で得られた金属酸化物触媒を用いてVOCを除去する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属酸化物触媒の製造方法によれば、金属酸化物触媒を簡便な方法で製造でき、得られた金属酸化物触媒は、VOCの除去性能にも優れる。また、本発明のVOC除去方法によれば、VOCの除去効率に優れ、低温でVOCを処理することができるので、VOCの除去に適した方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例及び比較例で得た金属酸化物触媒のSEM画像を示す。
図2】実施例及び比較例で得た金属酸化物触媒のXRDスペクトルを示す。
図3】実施例及び比較例で得た金属酸化物触媒の窒素吸着等温曲線を示す。
図4】実施例及び比較例で得た金属酸化物触媒の評価試験結果を示し、温度とトルエンのコンバージョンとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
1.金属酸化物触媒の製造方法
本発明の金属酸化物触媒の製造方法は、金属源と、寒天とを含むゲル化物を得る工程と、前記ゲル化物を焼成して金属酸化物触媒を得る工程とを含む。なお、本明細書では、前者の工程を「ゲル化工程」、後者の工程を「焼成工程」と表記する。
【0014】
本発明の製造方法は、少なくともゲル化工程及び焼成工程を含むことで、金属酸化物触媒を簡便な方法で製造でき、得られた金属酸化物触媒は、VOCの除去性能にも優れる。
【0015】
ゲル化工程は、金属源と、寒天とを含む原料を用いてゲル化物を得るための工程である。具体的にゲル化工程では、寒天ゲルをマトリックスとし、該マトリックス中に金属源に由来する金属イオンが含まれるゲル化物が得られる。
【0016】
ゲル化工程において使用する金属源は、金属単体及び/又は金属化合物である。金属の種類は特に限定されず、例えば、一般的に金属酸化物触媒として使用され得る各種金属を広く挙げることができる。金属の種類としては、触媒としての活性に優れ、特にVOCの除去性能が優れるという点で、遷移金属であることが好ましい。遷移金属の中でも、Mn,Fe,Ni,Cu,Mo,W,V,Ce,Ti,Pt,Au及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属であることがより好ましく、2種類以上を含むことがより好ましい。最も好ましくは、金属源がMnを含むことである。加えて、これらの活性元素を保持するための担体成分として、金属源はZn,Al,Ga,Ge,In,Li,Sn,Mg,Ca,Cr及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含むこともできる。
【0017】
以上の観点から、ゲル化工程において使用する金属源は、少なくとも2種の金属源を含むことが好ましい。言い換えれば、ゲル化工程において使用する金属源は、第1の金属源及び第2の金属源を含むことが好ましい。念のための注記に過ぎないが、第1の金属源に含まれる金属種と、第2の金属源に含まれる金属種とが同じである場合は、金属源は、ただ1種の金属源を含むことを意味する。なお、以下において、「金属源」なる表現は、金属源がただ1種の金属源を含む場合、及び、金属源が異なる種類の第1の金属源及び第2の金属源を含む場合の双方を意味する。なお、金属源は、第1の金属源及び第2の金属源の2種類のみで構成されていてもよい。
【0018】
金属源が金属化合物である場合、金属化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知の金属化合物を広く使用することができる。具体的に金属化合物としては、金属の無機酸塩、金属の有機酸塩、金属の水酸化物及び金属のハロゲン化物等を広く挙げることができる。金属Mの化合物は水和物であってもよい。
【0019】
金属の無機酸塩としては、金属の硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0020】
金属の有機酸塩としては、金属の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0021】
金属源が金属化合物である場合、ゲル化工程において金属が均一に分散したゲル化物が得られやすいという観点から、金属化合物は、水に溶解して水溶液を形成しやすい性質を有していることが好ましい。中でも、金属化合物としては、硝酸塩、塩素酸塩、リン酸塩、硫酸塩及び過塩素酸塩等であることがより好ましく、製造がより容易になるという観点で硝酸塩であることが特に好ましい。
【0022】
金属源が、異なる金属種の第1の金属源と第2の金属源を含む場合、第1の金属源と第2の金属源とは、同じ種類の塩であることが好ましい。具体例として、第1の金属源及び第2の金属源はいずれも硝酸塩とすることができる。
【0023】
金属源が、第1の金属源と第2の金属源を含む場合、両者の使用量は特に限定されない。触媒活性、特にはVOCの除去効率に優れる金属酸化物触媒が得られやすいという観点から、第1の金属源に含まれる金属M1と、第2の金属源に含まれる金属M2とのモル比M1:M2が1:0.05~1:20となるように第1の金属源と第2の金属源とを使用することができ、1:0.1~1:10となるように第1の金属源と第2の金属源とを使用することが好ましく、1:0.2~1:5となるように第1の金属源と第2の金属源とを使用することがより好ましく、1:0.3~1:3となるように第1の金属源と第2の金属源とを使用することが特に好ましい。
【0024】
金属源が、第1の金属源と第2の金属源を含む場合、これらの金属種の組み合わせとしては特に限定されず、例えば、各種金属の任意の組み合わせとすることができる。中でも、第1の金属源及び第2の金属源のそれぞれの金属種は、Mn,Fe,Ni,Cu,Mo,W,V,Ce,Ti,Cr,Pt,Au及びLaからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属種の組み合わせであることが好ましく、少なくともMnを含む組み合わせであることがより好ましい。具体的には、第1の金属源及び第2の金属源におけるそれぞれの金属種は、Mn及びCoを含む組み合わせであることがさらに好ましく、Mn及びCoのみの組み合わせであることが特に好ましい。金属源が、第1の金属源と第2の金属源を含む場合にあっても、少なくともいずれかの金属源はZn,Al,Ga,Ge,In,Li,Sn,Mg,Ca,Cr及びBaからなる群より選ばれる1種又は2種以上をさらに含むことができる。
【0025】
金属源は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販の金属単体や金属化合物を金属源として使用することもできる。
【0026】
ゲル化工程で使用する金属源の形態は、例えば、粉末等の固体状態であってもよいし、溶液又は分散液等の液体であってもよい。ゲル化物中に金属が均一に分散しやすいという観点から、金属源は溶液の形態であることが好ましい。金属源が溶液の形態である場合、金属源を溶解する溶媒は、水、あるいは、水と低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール等の炭素数1~4のアルコール)との混合物を使用することができ、特に好ましくは水である。つまり、金属源は水溶液の形態であることが特に好ましい。水は、蒸留水、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水、電解水などの各種の水を用いることができる。溶媒には、本発明の効果が阻害されない限り、pH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等を含有していてもよい。
【0027】
ゲル化工程で使用する金属源が溶液の形態である場合、金属源の溶液の濃度は特に限定されない。例えば、金属源が溶液の形態である場合、金属の濃度が0.001~2Mであることが好ましく、金属の濃度が0.01~1Mであることがより好ましく、金属の濃度が0.05~0.5Mであることが特に好ましい。
【0028】
ゲル化工程で使用する寒天の種類は特に限定されず、例えば、公知の寒天を広く使用することができる。例えば、寒天は、天然物を使用することができ、あるいは、市販品から入手して使用することもできる。ゲル化工程で使用する寒天は、例えば、粉末である。寒天が粉末である場合、寒天の粒子径に特に制限は無い。また、寒天は、例えば、冷水に溶けずに徐々に水を吸収して膨張する性質を有していることが好ましく、さらに、熱水には溶けやすく、溶解後に冷却されたときに半透明のゲルとなる性質を有していることも好ましい。
【0029】
ゲル化工程では、金属源と、寒天とを混合することでゲル化を行う。この場合、必要に応じて溶媒を混合することもできる。金属源が溶媒を含む溶液の形態である場合は、別途の溶媒の使用は任意とすることができ、金属源及び寒天いずれも溶媒を含まない場合は溶媒の使用を必要とする。
【0030】
溶媒としては特に限定されず、例えば、水、あるいは、水と低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール等の炭素数1~4のアルコール)との混合物を使用することができ、好ましくは水である。特に、金属源が溶液の形態である場合は、金属源を溶解している溶媒と、後から加える溶媒とは同じであることが好ましい。
【0031】
ゲル化工程において、金属源と寒天とを混合するあたり、両者の混合割合は特に限定されない。例えば、ゲル化物を効率よく得ることができ、金属がゲル化物中に均一に存在しやすいという観点から、金属源の総量100質量部あたり、寒天が1~50質量部となるように両者を混合することが好ましく、寒天が5~40質量部となるように両者を混合することが好ましく、寒天が8~25質量部となるように両者を混合することがさらに好ましい。
【0032】
金属源及び寒天に加えて溶媒を考慮する場合、溶媒100mLあたりの金属源及び寒天の総量は、1~15質量部であることが好ましく、4~10質量部であることがより好ましく、5~8質量部であることが特に好ましい。
【0033】
ゲル化工程において、金属源と寒天とを混合するあたり、混合方法は特に限定されず、例えば、公知の混合手段を広く採用することができる。例えば、市販の磁気攪拌機等を使用してゲル化工程の混合を行うことができる。
【0034】
ゲル化工程では、金属源と、寒天と、溶媒とが混合されることで一旦透明溶液を形成し、その後、当該溶液を冷却することでゲル化物を生成させることが好ましい。この場合、得られたゲル化物は金属が均一に分散しやすい。具体的には、溶媒を含む金属源及び寒天の混合物を、例えば、70~100℃で攪拌し、これにより透明溶液を得た後、当該溶液を10~30℃で冷却することで、ゲル化物を形成することができる。
【0035】
ゲル化工程で得られたゲル化物は、必要に応じて洗浄処理等をしてから、次の焼成工程に供することができ、あるいは、洗浄処理等をすることなく、次の焼成工程に供することもできる。
【0036】
なお、ゲル化工程で得られたゲル化物に、さらに他の金属をドープすることもできる。
【0037】
以上のゲル化工程で得られるゲル化物は、寒天ゲルがマトリックス成分となり、このマトリックス成分中に、金属源に由来する金属イオンが、均一に点在した状態で含まれる。
【0038】
焼成工程は、ゲル化工程で得られたゲル化物を焼成して金属酸化物触媒を得るための工程である。ゲル化物の焼成により、ゲル化物が酸化物に変化し、金属酸化物触媒が形成される。
【0039】
焼成工程において、焼成処理の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、100℃以上とすることができ、200~650℃とすることが好ましく、250~400℃とすることがより好ましい。焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、所望の酸化物が形成される程度に適宜設定することができる。例えば、焼成のための昇温速度は1~20℃/分とすることができ、2~10℃/分とすることがより好ましい。
【0040】
ゲル化物の焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成処理を行うことである。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0041】
焼成処理によって、ゲル化物が酸化されて酸化物又は複合酸化物へと変化し、金属酸化物触媒として得られる。金属源が金属を2種以上含む場合は、ゲル化物は複合酸化物に変化する。例えば、金属源が第1の金属源及び第2の金属源を含み、両者の金属種が異なるものである場合は、ゲル化物は複合酸化物である。なお、寒天は焼成処理によって焼失する。
【0042】
焼成処理によって得られた酸化物は、必要に応じて精製等をして金属酸化物触媒とすることができ、あるいは、得られた酸化物を何ら処理することなく金属酸化物触媒として使用することができる。
【0043】
焼成工程で得られる金属酸化物触媒は、Fe,Ni,Cu,Mo,W,V,Ce,Ti,Zn,Cr,Al,Ga,Ge,In,Li,Sn,Mg,Ca,Ba,Pt,Au及びLaからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属を含む複合金属酸化物であることが好ましい。この場合、金属酸化物触媒は、優れた触媒活性を示すことができ、特に、VOC除去性能に優れ、低温でのVOC除去性能にも優れる。焼成工程で得られる金属酸化物触媒は、Mn,Fe,Ni,Cu,Mo,W,V,Ce,Ti,Cr,Pt,Au及びLaからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属を含む複合金属酸化物であることがさらに好ましい。
【0044】
焼成工程で得られる金属酸化物触媒は、少なくともMnを含むことが好ましく、Mn及びCoを含む複合酸化物であることが特に好ましい。
【0045】
焼成工程で得られる金属酸化物触媒は、例えば、非晶質(不定形)の金属酸化物である。焼成工程で得られる金属酸化物触媒の形状は特に限定されず、例えば、多孔質形状を有することができる。金属酸化物触媒は、例えば、BET表面積が50m/g以上であることが好ましく、細孔径が3~4nmであることが好ましく、細孔容量が0.1~0.5cm/gであることが好ましい。
【0046】
本発明の製造方法は、ゲル化工程及び焼成工程を含むことで、金属酸化物触媒を簡便な方法で得ることができ、例えば、従来公知の共沈法及び水熱合成法に比べても簡便な方法で金属酸化物触媒を製造できる。また、本発明の製造方法は、寒天を使用するゲル化工程を含むことで、所望の金属イオンを均一にゲル化物中に取り込んで均一に分散することができるので、最終的に得られる金属酸化物触媒は触媒活性に優れ、例えば、VOC除去性能に優れる。特に、本発明の製造方法で得られる金属酸化物触媒をVOC除去用途に使用することで、従来の化学合成法で得られた触媒よりも少ない使用量で、VOCを効率的に除去することができる。
【0047】
従って、本願発明の製造方法は、例えば、VOC除去用触媒を製造するための方法として適しており、その他、本願発明の製造方法では、各種無定形金属酸化触媒を得るための方法にも好適である。
【0048】
2.VOC除去方法
本発明のVOC除去方法は、本発明の製造方法で得られた金属酸化物触媒を用いてVOCを除去する工程を備える。
【0049】
例えば、本発明の製造方法で得られた金属酸化物触媒を容器内に収容し、該容器にトルエン等のVOCを導入し、所定の温度で処理することで、VOCを燃焼する。これにより、VOCを除去することができる。必要に応じて、容器内には窒素及び酸素の一方又は両方を流入させることができ、窒素及び酸素の一方又は両方の存在下でVOCを燃焼させることができる。容器の種類は特に限定されず、例えば、VOCの触媒燃焼で使用される公知の容器を広く使用することができる。
【0050】
容器内でのVOCの処理温度は特に限定されず、公知のVOCの除去のために設定される処理温度と同様とすることができる。特に本発明では、上記VOC除去用触媒を使用することで、低温であってもVOC除去効率に優れることから、例えば、350℃以下、好ましくは250℃以下であってもVOCを効率的に除去することができる。
【実施例
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
1.164gのCo(NO・6HOと、1.004gのMn(NO・4HOと、0.4gの寒天粉末と、40mLの脱イオン水とを混合し、磁気撹拌しながら80℃に加熱して透明溶液を調製した。この透明溶液中、MnとCoとのモル比は、Mn:Co=1:1とした。次いで、この透明溶液を蓋で覆い、寒天をゲル化させるべく室温(25℃)で2時間静置することで、ゲル化工程を行った。このゲル化工程で得られたゲル化物をマッフル炉内に収容し、空気中、5℃/分の加熱速度で350℃まで昇温して一定に保ち、2.5時間にわたって焼成を行うことで、金属酸化物触媒を得た。得られた金属酸化物触媒を「agar Mn1Co1」と表記した。
【0053】
(実施例2)
Co(NO・6HOの使用量を2.328gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で金属酸化物触媒を得た。透明溶液中、MnとCoとのモル比は、Mn:Co=1:2とした。得られた金属酸化物触媒を「agar Mn1Co2」と表記した。
【0054】
(実施例3)
Mn(NO・4HOの使用量を2.008gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で金属酸化物触媒を得た。透明溶液中、MnとCoとのモル比は、Mn:Co=2:1とした。得られた金属酸化物触媒を「agar Mn2Co1」と表記した。
【0055】
(実施例4)
Mn(NO・4HOの使用量を3.012gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で金属酸化物触媒を得た。透明溶液中、MnとCoとのモル比は、Mn:Co=3:1とした。得られた金属酸化物触媒を「agar Mn3Co1」と表記した。
【0056】
(比較例1)
Mn(NO・4HOを使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で金属酸化物触媒を得た。得られた金属酸化物触媒を「agar Co」と表記した。
【0057】
(比較例2)
Co(NO・6HOを使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で金属酸化物触媒を得た。得られた金属酸化物触媒を「agar Mn」と表記した。
【0058】
<評価方法>
(SEM測定)
SEM(走査型電子顕微鏡)画像の観察は、日立ハイテクノロジーズ社製「走査電子顕微鏡SU8010」を使用して行った。
【0059】
(VOC除去試験)
各実施例で得たVOC除去用触媒のトルエン除去試験を行った。この試験では、反応器内に金属酸化物触媒を石英ウールで挟み込むように充填し、そこへトルエンを所定の流速で流入させて反応させることで、トルエンを除去するようにした。トルエン除去試験の条件として、内径8mmのガラス反応器を使用し、そこへ金属酸化物触媒の充填量を50mg充填し、反応器へのトルエン濃度を1000体積ppmとなるようにした。また、反応器内へのキャリアー用窒素ガス流量を35mL/min、トルエン導入用窒素ガス流量を5mL/min、酸素ガス流量を10mL/minとした。反応器内での反応温度を130~300℃の範囲の種々の温度に調節して、トルエン除去特性を評価した。この際、130~210℃においては、10℃温度が変わるごとに2度サンプリングし、210~270℃においては、5℃温度が変わるごとに2度サンプリングし、270~300℃においては、10℃温度が変わるごとに2度サンプリングした。VOC濃度の測定は、島津製作所社製「GC-2014ガスクロマトグラフ」を使用した。また、容器出口から排出される二酸化炭素濃度をHORIBA社製FT-IRガス分析装置「FG-120」を使用して計測した。
【0060】
(評価結果)
図1(a)~(d)はそれぞれ実施例1~4で得られた金属酸化物触媒のSEM画像を示し、図1(e)~(f)はそれぞれ比較例1~2で得られた金属酸化物触媒のSEM画像を示している。実施例1~4で得られた金属酸化物触媒は多孔質形状を有していることがわかった。
【0061】
図2は、実施例1~4で得られた金属酸化物触媒及び比較例1~2で得られた金属酸化物触媒のXRDスペクトルを示している。各実施例で得られた金属酸化物触媒(Mn-Co複合酸化物触媒)は非晶質複合金属酸化物であることがわかった。
【0062】
図3は、実施例1~4で得られた金属酸化物触媒及び比較例1~2で得られた金属酸化物触媒の窒素吸着等温線を示している。また、表1には、実施例1~4で得られた金属酸化物触媒及び比較例1~2で得られた金属酸化物触媒のBET比表面積、細孔径D、及び、累積細孔容量Vの結果を示している。BET比表面積は、液体窒素の沸点温度における窒素吸着等温線から、相対圧0.1以下の吸着量をもとにBET法により算出した。細孔径DについてはBJH法により計測した。累積細孔容量Vは、P/P=0.99として計測した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から、実施例1~4で得られた金属酸化物触媒は、高い比表面積を有していることがわかる。従って、実施例1~4の製造方法は、高比表面積の複合金属酸化物を得るための方法として適していることがわかった。
【0065】
図4は、実施例1~4で得られた金属酸化物触媒及び比較例1~2で得られた金属酸化物触媒のVOC除去試験結果の対比を示している。また、表2には、実施例1~4で得られた金属酸化物触媒及び比較例1~2で得られた金属酸化物触媒のVOC除去試験において、トルエンコンバージョンが10%、50%及び90%であるときの温度を示している。これらの結果から、実施例1~4で得られた金属酸化物触媒は、比較例1及び2の金属酸化物触媒に比べて、より低温でVOC(トルエン)を除去できる性質を有していることがわかった。
【0066】
以上より、Co及びMnの複合酸化物からなる金属酸化物触媒は、いわゆる合金化効果によって、相乗的にVOC除去性能が高まったものと思われる。ここでいう合金化効果とは、合金化することにより単一金属の場合とは異なる幾何学的効果(アンサンブル効果)や電子的効果(リガンド効果)を触媒機能(活性,選択性,安定性など)に与えること意味する。そして、Co及びMnの複合酸化物が優れたVOC除去性能を示す以上、他の金属の組み合わせによる複合酸化物も同様の性能を示すものと推察される。中でも、Mn,Fe,Ni,Cu,Mo,W,V,Ce,Ti,Zn,Cr,Al,Ga,Ge,In,Li,Sn,Mg,Ca,Cr,Ba,Pt,Au及びLaからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属を含む複合金属酸化物は、実施例の金属酸化物触媒と同様のVOC除去効果を示すといえる。特に、Co及びMnの複合酸化物が優れたVOC除去効果を示すことから、酸素の活性化能力に優れたMn,Mo,W,V,Ce及びAuのいずれか1種と、炭化水素の活性化能力をもつFe,Co,Ni,Cu及びPtのいずれか1種とを組み合わせた複合酸化物は、いずれも優れたVOC除去効果を示すといえる。
【0067】
【表2】
図1
図2
図3
図4