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特許7250282新規β-グルコシダーゼ、これを含む酵素組成物およびこれらを用いた糖液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】新規β-グルコシダーゼ、これを含む酵素組成物およびこれらを用いた糖液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/56 20060101AFI20230327BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230327BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230327BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C12N15/56
C12N9/42 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12P19/14 A
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019539569
(86)(22)【出願日】2018-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2018031910
(87)【国際公開番号】W WO2019044887
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2017165787
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田切 正人
(72)【発明者】
【氏名】守屋 繁春
(72)【発明者】
【氏名】雪 真弘
(72)【発明者】
【氏名】大熊 盛也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 悠香
(72)【発明者】
【氏名】平松 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】山田 千晶
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0003701(US,A1)
【文献】特表2010-516296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/56
C12N 9/42
C12N 15/63
C12N 1/15
C12P 19/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)のいずれか1つのポリペプチド。
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるGlycosyl hydrolases family 3 active siteを有し、かつ、β-グルコシダーゼ活性を有し、グルコース非存在下でのβ-グルコシダーゼ活性を1としたとき、グルコース濃度8g/Lの条件下でのβ-グルコシダーゼ活性が0.7以上であるポリペプチド
(C)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるGlycosyl hydrolases family 3 active siteを有し、かつ、β-グルコシダーゼ活性を有し、グルコース非存在下でのβ-グルコシダーゼ活性を1としたとき、グルコース濃度8g/Lの条件下でのβ-グルコシダーゼ活性が0.7以上であるポリペプチド
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項4】
請求項2に記載のポリヌクレオチドまたは請求項3に記載の発現ベクターを有する、形質転換体。
【請求項5】
請求項2に記載のポリヌクレオチドまたは請求項3に記載の発現ベクターを有する、形質転換Trichoderma属糸状菌。
【請求項6】
請求項4に記載の形質転換体または請求項5に記載の形質転換Trichoderma属糸状菌を培養する工程を含む、酵素組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の酵素組成物を製造する工程を含み、当該工程によって得られた酵素組成物を用いて、セルロース含有バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項8】
配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるGlycosyl hydrolases family 3 active siteを有し、グルコース非存在下でのβ-グルコシダーゼ活性を1としたとき、グルコース濃度8g/Lの条件下でのβ-グルコシダーゼ活性が0.7以上である、Pseudotrichonympha grassii由来β-グルコシダーゼ。
【請求項9】
請求項1に記載のポリペプチドまたは請求項8に記載のPseudotrichonympha grassii由来β-グルコシダーゼと、糸状菌由来セルラーゼとを含む酵素組成物。
【請求項10】
前記糸状菌がTrichoderma属糸状菌であることを特徴とする、請求項9に記載の酵素組成物。
【請求項11】
請求項9または10に記載の酵素組成物を用いて、セルロース含有バイオマスから糖液を製造する方法。
【請求項12】
前記糖液から請求項9または10に記載の酵素組成物を回収する工程を含む、請求項11に記載の糖液を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なβ-グルコシダーゼ、当該β-グルコシダーゼを含む酵素組成物およびこれを使用してセルロース含有バイオマスから糖液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油代替資源として、再生可能なセルロース含有バイオマスを分解し、得られた糖を利用して、バイオ燃料あるいはバイオポリマー原料を発酵生産する試みが国内外で盛んに検討されている。
【0003】
セルロースの糖化には様々な手法があるが、エネルギー使用量が少なく、かつ糖収率の高い酵素糖化法が開発の主流となっている。セルロースの酵素分解には、複数の酵素種が関与しており、大きくセロビオハイドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、β-グルコシダーゼの3種に大別できる。セロビオハイドロラーゼは、セルロースの末端部分より加水分解することを特徴とし、セルロースの結晶領域を分解可能な酵素である。一方エンドグルカナーゼは、セルロース分子鎖の内部領域から加水分解することを特徴とし、セルロース分解による分子量の低下を促進する酵素である。
【0004】
β-グルコシダーゼは、グルコースがβ-1,4結合した2糖であるセロビオースを主に分解し、最終分解産物であるグルコースの生成を触媒する酵素であり、発酵原料として有用なグルコースを十分に得るためには必須の酵素である。また、セロビオハイドロラーゼあるいはエンドグルカナーゼは、セルロース分解で生成したセロビオースの蓄積により反応阻害が引き起こされることが知られている。すなわち、β-グルコシダーゼは、セルロース分解により生成するセロビオースの蓄積を大幅に低減することができるため、セルロース分解効率を大幅に向上させるといった効果を有する。
【0005】
一方、セルラーゼを生産する微生物として、糸状菌が知られている。糸状菌の中でもTrichoderma属は、菌体外に大量のエンド型およびエキソ型セルラーゼを培養液中に大量に生産することで知られている。Trichoderma由来セルラーゼは、セルロース含有バイオマスの酵素分解に最も多く使用されているものである。しかしながら、Trichodermaが産生するβ-グルコシダーゼの一部は、菌体細胞壁に局在しており(非特許文献1)、Trichoderma培養液より調製されたセルラーゼでは、この中に含まれるβ-グルコシダーゼ量および活性が十分でないといった課題があった。また、多くの糸状菌由来β-グルコシダーゼは、グルコースによるβ-グルコシダーゼ活性阻害を受けることが知られており、セルロース含有バイオマスの糖化において、セルロース分解により糖化反応液中に生成されたグルコースがβ-グルコシダーゼ活性阻害をもたらし、糖化反応液のグルコース蓄積量増加を妨げるという課題があった(非特許文献2)。
【0006】
このため、セルロース含有バイオマスの加水分解において、効率的に糖化を進める効果を有する、良質なβ-グルコシダーゼが求められており、従来から微生物由来β-グルコシダーゼの単離が行われている。
【0007】
木材を唯一の栄養源とするシロアリの共生原生生物群は、セルロース分解効率が非常に高いことが知られていた。しかし、その共生原生生物の難培養性のために解析が進んでおらず、近年でさえ、共生原生生物及びそのセルラーゼに関する研究がわずかに行われているにすぎず(特許文献1)、シロアリの共生原生生物由来β-グルコシダーゼ遺伝子についてはこれまで、その取得例はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-70475号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Messner, Rら“Evidence for a single,specific β-glucosidaze in cell wall from Tricoderma QM9414”Enzyme Microb.Technol.1990年21巻685-690
【文献】Andric, Pら“Reactor design for minimizing product inhibition during enzymatic lignocellulose hydrolysis: I. Significance and mechanism of cellobiose and glucose inhibition on cellulolytic enzymes”Biotechnol. Adv.2010年28巻308-324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、セルロース含有バイオマスの加水分解において、効率的に糖化を進める効果のあるβ-グルコシダーゼ遺伝子を、難培養性のイエシロアリ共生原生生物群から取り出し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねて、難培養性のイエシロアリ共生原生生物の微量なRNAから1細胞トランスクリプトーム解析法を用いて発現遺伝子を観測し、得られたcDNAライブラリーの配列情報からβ-グルコシダーゼ候補配列を取得し、β-グルコシダーゼ候補配列を含む形質転換体のβ-グルコシダーゼ活性およびセルロース含有バイオマスの糖化における効果を調べ、β-グルコシダーゼ活性を有する配列を選抜することで、Pseudotrichonympha属原生生物由来新規β-グルコシダーゼがセルロース含有バイオマスの分解に適用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1]下記(A)~(C)のいずれか1つのポリペプチド。
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチド
(C)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチド
[2]下記(a)~(d)のいずれか1つのポリヌクレオチド。
(a)配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列からなり、かつβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも60%の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(d)[1]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
[3]下記(a)~(d)のいずれか1つのポリヌクレオチド。
(a)配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列からなり、かつβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号2に記載の塩基配列と少なくとも50%の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(d)[1]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
[4][2]または[3]に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
[5][2]または[3]に記載のポリヌクレオチドまたは[4]に記載の発現ベクターを有する、形質転換体。
[6][2]または[3]に記載のポリヌクレオチドまたは[4]に記載の発現ベクターを有する、形質転換Trichoderma属糸状菌。
[7][5]に記載の形質転換体または[6]に記載の形質転換Trichoderma属糸状菌を培養する工程を含む、酵素組成物の製造方法。
[8][7]に記載の酵素組成物を製造する工程を含み、当該工程によって得られた酵素組成物を用いて、セルロース含有バイオマスから糖液を製造する方法。
[9]グルコース非存在下でのβ-グルコシダーゼの活性を1としたとき、グルコース濃度8g/Lの条件下でのβ-グルコシダーゼ活性が0.5以上であることを特徴とする、Pseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼ。
[10]Pseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼと、糸状菌由来セルラーゼとを含む酵素組成物。
[11]前記糸状菌がTrichoderma属糸状菌であることを特徴とする、[10]に記載の酵素組成物。
[12][10]または[11]に記載の酵素組成物を用いて、セルロース含有バイオマスから糖液を製造する方法。
[13]前記糖液から[10]または[11]に記載の酵素組成物を回収する工程を含む、[12]に記載の糖液を製造する方法。
【0013】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2017-165787号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、セルロース含有バイオマスの加水分解において、効率的に糖化を進める効果のあるβ-グルコシダーゼを提供することができる。本発明のβ-グルコシダーゼは、セルロース含有バイオマスの加水分解による糖液の製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例7における、大腸菌で発現され、且つ精製した本発明に係るβ-グルコシダーゼ(配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むβ-グルコシダーゼ)のSDS-PAGEの写真である。
図2】実施例10における、Trichoderma属糸状菌で発現された本発明に係るβ-グルコシダーゼ(配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むβ-グルコシダーゼ)のSDS-PAGEの写真である。
図3】実施例14における糖化上清のSDS-PAGEの写真である。
図4】比較例1における、Trichoderma属糸状菌で発現されたAspergillus属糸状菌由来β-グルコシダーゼ(配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むβ-グルコシダーゼ)のSDS-PAGEの写真である。
図5】実施例18における、本発明のβ-グルコシダーゼおよび本発明のβ-グルコシダーゼ変異体の、グルコースによるβ-グルコシダーゼ活性阻害作用測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明において「β-グルコシダーゼ」とは、糖のβ-グルコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素を意味する。本発明において、β-グルコシダーゼ活性の測定方法はp-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド(pNP-Glc)を基質とした反応で測定する。具体的には、50mM 酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に溶解したpNP-Glcの基質溶液に酵素液を添加し、30℃で10分間反応させた後、反応系体積の10分の1量の2M炭酸ナトリウムを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。上記反応後、p-ニトロフェノールが遊離し、405nmの吸光度が増加すれば、β-グルコシダーゼ活性があると判断する。
【0018】
本発明のβ-グルコシダーゼはPseudotrichonympha属原生生物由来であることを特徴とし、具体例として、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログが挙げられる。
【0019】
さらに具体的には、本発明のPseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼは、下記(A)~(C)のいずれか1つのポリペプチドである。
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチド
(C)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチド。
【0020】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログは、公知の方法によって調製することができ、β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドであれば、その調製方法は特に制限されるものではない。配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログは公知の方法により天然から抽出、またはペプチド合成法として知られる公知の方法を用いて調製することができ、また、該ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いて、遺伝子組換え技術により調製することもできる。
【0021】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのホモログは、β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドであれば、例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1または2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。
【0022】
また、配列番号1に記載のポリペプチドのホモログは、β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドであれば、配列番号1に記載のアミノ配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。例えば、配列番号1と配列同一性88%のアミノ酸配列からなるポリペプチドとして配列番号6に記載のポリペプチドが挙げられる。また、配列番号1と配列同一性80%のアミノ酸配列からなるポリペプチドとして配列番号8に記載のポリペプチドが挙げられる。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列と公知のβ-グルコシダーゼのアミノ酸配列の配列同一性としては、例えば、Trichoderma reesei由来β-グルコシダーゼI(BGLI)は744のアミノ酸からなるが、配列番号1との配列同一性は29%である。
【0023】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのホモログは、β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドであれば、Pseudotrichonympha属原生生物由来、好ましくは、Pseudotrichonympha属のPseudotrichonympha hertwigi、Pseudotrichonympha paulistana、Pseudotrichonympha grassii由来ポリペプチドであってもよい。
【0024】
本発明のPseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼは、GH3ファミリーに属することが好ましい。本発明中で「GH3ファミリー」とは、Glycosyl hydrolases family 3 active siteを含むポリペプチドを意味する。Glycosyl hydrolases family 3 active siteは、以下の18個のアミノ酸からなるアミノ酸配列で定義される。すなわち、Glycosyl hydrolases family 3 active siteは、L(ロイシン)、I(イソロイシン)、V(バリン)、M(メチオニン)のいずれかから選ばれるひとつのアミノ酸をa、アミノ酸K(リジン)、R(アルギニン)のいずれかから選ばれるひとつのアミノ酸をb、アミノ酸E(グルタミン酸)、Q(グルタミン)、K(リジン)、R(アルギニン)、D(アスパラギン酸)のいずれかから選ばれるひとつのアミノ酸をc、アミノ酸L(ロイシン)、I(イソロイシン)、V(バリン)、M(メチオニン)、F(フェニルアラニン)、T(スレオニン)、C(システイン)のいずれかから選ばれるひとつのアミノ酸をd、アミノ酸L(ロイシン)、I(イソロイシン)、V(バリン)、T(スレオニン)のいずれかから選ばれるひとつのアミノ酸をe、アミノ酸L(ロイシン)、I(イソロイシン)、V(バリン)、M(メチオニン)、F(フェニルアラニン)のいずれかから選ばれるひとつのアミノ酸をf、アミノ酸S(セリン)、T(スレオニン)のいずれかから選ばれるひとつのアミノ酸をg、アミノ酸S(セリン)、G(グリシン)、A(アラニン)、D(アスパラギン酸)、N(アスパラギン)、I(イソロイシン)、T(スレオニン)のいずれかから選ばれるひとつのアミノ酸をh、任意のアミノ酸をxとして表し、上記アミノ酸a、b、c、d、e、f、g、h、xとアミノ酸G(グリシン)、D(アスパラギン酸)からなる18個のアミノ酸配列aabxcxxxxGdefgDxxhで定義される。なお、ポリペプチドに含まれるGlycosyl hydrolases family 3 active siteは、データベースであるPROSITE(Database of protein domains, families and functional sites)のwebサイト(http://prosite.expasy.org/)で誰でも容易に調べることができる(Christian, et al.2002, Briefings in Bioinfomatics.VOL3.NO3.265-274)。配列番号1、6、または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、GH3ファミリーに属する。
【0025】
本発明のPseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼは、グルコースによってβ-グルコシダーゼ活性が阻害を受けにくいことが好ましい。具体的には、グルコース非存在下でのβ-グルコシダーゼ活性を1としたとき、グルコース濃度8g/Lの条件下(又は8g/Lのグルコース存在下)でのβ-グルコシダーゼ活性が好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上、特に好ましくは1.4以上である。また、前記グルコース濃度8g/Lの条件下でのβ-グルコシダーゼの活性に加えて、グルコース非存在下でのβ-グルコシダーゼ活性を1としたとき、グルコース濃度20g/Lの条件下(又は20g/Lのグルコース存在下)でのβ-グルコシダーゼ活性が、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.7以上である。ここで、β-グルコシダーゼ活性の測定方法は、測定時にグルコースを8g/Lまたは20g/L添加する以外は、前述と同様の方法で測定した結果を用いる。
【0026】
グルコースによってβ-グルコシダーゼ活性が阻害を受けにくいβ-グルコシダーゼは、セルロース含有バイオマスの糖化において、セルロース分解により糖化反応液中にグルコースが生成されても、β-グルコシダーゼ活性を高く保つことが可能となるため好ましい。
【0027】
配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはそのホモログは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログをコードしているポリヌクレオチドであれば、その由来は特に制限されるものではない。ここで、「ポリヌクレオチド」とはcDNA、ゲノムDNA、合成DNA、mRNA、合成RNA、レプリコンRNAなど、その由来を問うものではないが、好ましくはDNAである。また、1本鎖でも、その相補鎖を有する2本鎖であってもよい。また、天然のあるいは人工のヌクレオチド誘導体を含んでいてもよい。
【0028】
配列番号2に記載のポリヌクレオチドのホモログは、β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドであれば、例えば、配列番号2に記載の塩基配列において、1もしくは数個、好ましくは1から40個、より好ましくは1から30個、さらに好ましくは1~20個、特に好ましくは1から10個、最適に好ましくは1から5個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチドでもよい。
【0029】
また、配列番号2に記載のポリヌクレオチドのホモログは、β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドであれば、配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドもしくはその相補鎖の全体またはその一部とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドでもよい。ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、もとの塩基配列の任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも25個、より好ましくは少なくとも30個の連続した配列を一つあるいは複数個選択したポリヌクレオチドをプローブとして、公知のハイブリダイゼーション技術(Current Protocols I Molecular Biology edit. Ausubel et al., (1987) Publish . John Wily & SonsSectoin 6.3-6.4)などを用いて、ハイブリダイズするポリヌクレオチドである。ここでストリンジェントな条件としては、例えば50%ホルムアミド存在下でハイブリダイゼーション温度が37℃、より厳しい条件としては42℃、さらに厳しい条件としては65℃で、0.1~2倍濃度のSSC(saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成:150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウム)を用いて洗浄することにより達成することができる。
【0030】
また、配列番号2に記載のポリヌクレオチドのホモログは、β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドであれば、配列番号2に記載の塩基配列に対して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。例えば、配列番号2と配列同一性66%の塩基配列からなるポリヌクレオチドとして配列番号3に記載のポリヌクレオチドが挙げられる。また、配列番号2と配列同一性53%の塩基配列からなるポリヌクレオチドとして配列番号7または9に記載のポリヌクレオチドが挙げられる。
【0031】
本明細書中で使用する「同一性」なる用語は、異なる2つのアミノ酸配列又は塩基配列を、配列アラインメントプログラムを用いて整列比較したときの2つの配列の一致度を表わす。具体的には、配列番号1の全アミノ酸数に対する同一アミノ酸数の割合(%)又は配列番号2の全塩基数に対する同一塩基数の割合(%)である。2つの配列を整列比較するために使用する配列アラインメントプログラムとしては、この分野で汎用されているソフトウェアであるBLAST(blastn、blastp)を利用して行う。BLASTは、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のホームページで誰でも利用可能であり、デフォルトのパラメーターを用いて容易に同一性を調べることができる。
【0032】
配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドのホモログは、β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドであれば、Pseudotrichonympha属原生生物由来、好ましくは、Pseudotrichonympha属のPseudotrichonympha hertwigi、Pseudotrichonympha paulistana、Pseudotrichonympha grassii由来ポリヌクレオチドであってもよい。
【0033】
配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドはPseudotrichonympha属原生生物からクローニングすることで調製することができるが、化学的に合成することもできる。Pseudotrichonympha属原生生物からのクローニングは、通常公知の方法を用いて単離することができ、このような方法としては、例えば、Pseudotrichonympha属原生生物細胞より単離したRNAより逆転写したcDNAから全ORF配列を決定し、その後PCRによって増幅することが可能であり、これを直接DNA合成装置で化学合成することも可能である。
【0034】
前記ポリヌクレオチドを、制限酵素およびDNAリガーゼを用いて、宿主細胞で発現可能なプロモーター下流に連結することにより、当該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを製造することができる。本発明において発現ベクターは、宿主細胞で目的遺伝子を発現可能に導入するベクターであればいかなるベクターでもよい。目的遺伝子が宿主ゲノム外に導入される形態の自立複製可能なプラスミドであってもよく、目的遺伝子が宿主ゲノム内に導入される形態のDNA断片であってもよい。発現ベクターとしては、例えば細菌プラスミド、酵母プラスミド、ラムダファージなどのファージDNA、レトロウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等のウイルスDNA、ベクターとしてのアグロバクテリウムなどが挙げられる。例えば、宿主細胞が大腸菌である場合、pUC、pET、pBADなどを例示することができる。前記プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主細胞に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、宿主細胞が大腸菌である場合、lacプロモーター、Trpプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等が挙げられる。宿主細胞がセルラーゼ生産性の糸状菌である場合、好ましくはセルロースで誘導可能なプロモーター、より好ましくはcbhプロモーター、eglプロモーター、bglプロモーター、xynプロモーター、bxlプロモーターが挙げられる。
【0035】
本発明の前記ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを有する形質転換体における宿主細胞としては、大腸菌、バクテリア細胞、酵母細胞、真菌細胞、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞などが好ましい。酵母細胞としては、例えば、Pichia属、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属などが挙げられる。昆虫細胞としてはSf9など、植物細胞としては双子葉植物など、動物細胞としては、CHO、HeLa、HEK293などが挙げられる。さらに好ましくは糸状菌である真菌細胞、より好ましくはAspergillus属糸状菌、より好ましくはTrichoderma属糸状菌が挙げられる。宿主細胞としてTrichoderma属糸状菌を用いることで、本発明のβ-グルコシダーゼをより多く生産することが可能になる。
【0036】
形質転換または、トランスフェクションは、リン酸カルシウム法、電気穿孔法、アグロバクテリウム法などの公知の方法で行うことができる。
【0037】
本発明のβ-グルコシダーゼは、上記のように形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞においてプロモーターの制御下にて発現させ、産生物を回収して得ることができる。発現に際しては、宿主細胞を適切な細胞密度まで増殖または成長させた後、温度シフトまたは培地成分による化学的誘発手段などによってプロモーターを誘発させ、細胞をさらに一定期間培養する。
【0038】
本発明で、酵素組成物とは、Pseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼと他の一種類以上の酵素との混合物を指す。酵素組成物は、前記β-グルコシダーゼと他の一種類以上の酵素を別々に生産した後に混合したものであってもよいし、前記β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは発現ベクターを有する形質転換体の培養物であって、前記β-グルコシダーゼと宿主細胞由来の一種類以上の酵素を含むものであってもよい。培養物とは、培養上清の他、形質転換体または形質転換体の破砕物を包含している。
【0039】
前記β-グルコシダーゼと混合する酵素としては、セルラーゼが好ましい。ここでいうセルラーゼとは、セルロースを分解する活性を有する酵素であれば特に限定されず、二種類以上の酵素の混合物であってもよい。このような酵素としては、例えばセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、セロビオハイドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼなどが挙げられる。セルラーゼに含まれるセロビオハイドロラーゼおよびエンドグルカナーゼの活性はp-ニトロフェニル-β-D-ラクトピラノシド(pNP-Lac)を基質として、β-キシロシダーゼの活性はp-ニトロフェニル-β-D-キシロピラノシド(pNP-Xyl)を基質として測定する。具体的には、50mM 酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に溶解したpNP-Lacの基質溶液に酵素液を添加し、30℃で10分間反応させた後、反応系体積の10分の1量の2M炭酸ナトリウムを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。上記反応後、p-ニトロフェノールが遊離し、405nmの吸光度が増加すれば、セロビオハイドロラーゼおよびエンドグルカナーゼの活性があると判断する。β-キシロシダーゼの活性は、上記と同様にpNP-Xylを基質とした反応を行い、反応後、p-ニトロフェノールが遊離し、405nmの吸光度が増加すれば、β-キシロシダーゼ活性があると判断する。
【0040】
前記セルラーゼは、好ましくは糸状菌由来セルラーゼである。糸状菌由来セルラーゼは、少なくともエンドグルカナーゼおよびセロビオハイドロラーゼの双方を含んでなる混合物である。前記糸状菌由来セルラーゼを生産する微生物として、Trichoderma属、Aspergillus属、Cellulomonas属、Clostridium属、Streptomyces属、Humicola属、Acremonium属、Irpex属、Mucor属、Talaromyces属などの微生物を挙げることができる。これら微生物は、培養液中にセルラーゼを産生するために、その培養液を未精製の糸状菌由来セルラーゼとしてそのまま使用してもよいし、また培養液を精製し、製剤化したものを糸状菌由来セルラーゼ混合物として使用してもよい。
【0041】
上記糸状菌由来セルラーゼは、Trichoderma属由来セルラーゼであることが好ましい。Trichoderma属は、少なくとも2種のエンドグルカナーゼ、および、少なくとも2種のセロビオハイドロラーゼを含んでなるセルラーゼを培養液中に産生し、こうした培養液より調製されたセルラーゼは本発明に好ましく使用することができる。すなわち、本発明のβ-グルコシダーゼは、Trichoderma属由来セルラーゼとともに酵素組成物として用いられると、セルロース含有バイオマスの糖化において、糖収量を増加させることができる。
【0042】
本発明のβ-グルコシダーゼを用いて、セルロース含有バイオマスを酵素処理した場合、酵素処理で得られた糖化液から、高い残存活性を有する本発明のβ-グルコシダーゼを回収することができる。また、本発明のβ-グルコシダーゼと、上記糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を用いて、セルロース含有バイオマスを酵素処理して得られた糖化液からも、高い残存活性を有する本発明のβ-グルコシダーゼを回収することができる。さらに、糸状菌由来酵素組成物についても、本発明のβ-グルコシダーゼと、上記糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を用いて、セルロース含有バイオマスを酵素処理して得られた糖化液からは、糸状菌由来セルラーゼのみを用いてセルロース含有バイオマスを酵素処理した糖化液と比べて、高い残存活性を有する糸状菌由来セルラーゼを回収することができる。上記糸状菌由来セルラーゼとしては、Trichoderma属由来エンドグルカナーゼ、セロビオハイドラーゼ、β-キシロシダーゼなどが好ましく、特にβ-キシロシダーゼが好ましい。
【0043】
こうしたTrichoderma属のうち、より好ましくは、Trichoderma reesei由来のセルラーゼである。Trichoderma reesei由来のセルラーゼ混合物としては、Trichoderma reesei QM9414、Trichoderma reesei QM9123、Trichoderma reesei Rut-30、Trichoderma reesei PC3-7、Trichoderma reesei CL-847、Trichoderma reesei MCG77、Trichoderma reesei MCG80、Trichoderma viride QM9123に由来するセルラーゼ混合物が挙げられる。また、前記Trichoderma属に由来し、変異剤あるいは紫外線照射などで変異処理を施し、セルラーゼ生産性が向上した変異株に由来するセルラーゼ混合物であってもよい。
【0044】
本発明において、前記β-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは発現ベクターが導入されている形質転換体を培養する工程を含む酵素組成物の製造方法は、前記β-グルコシダーゼを発現可能な培養工程を含む方法であれば、いかなる方法であってもよい。前記形質転換体を培養すると、該形質転換体内でβ-グルコシダーゼ活性を有するポリペプチドの発現が新たに付与または増強され、その結果、培養物中から前記β-グルコシダーゼと宿主細胞由来の一種類以上の酵素を含む酵素組成物が得られる。培養物とは、培養上清の他、形質転換体または形質転換体の破砕物のいずれでもよい。
【0045】
前記形質転換体の培養方法については特に限定はなく、公知の方法が採用される。培養には、振とう培養、撹拌培養、撹拌振とう培養、静置培養、連続培養など、様々な培養方式を採用しうる。前記形質転換体を培養する培地としては、該形質転換体が資化可能な炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、該形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも使用することができる。前記形質転換体がTrichoderma属糸状菌である場合、セルロース含有バイオマスを含有する培地で培養することがより好ましい。本発明のβ-グルコシダーゼをコードするポリヌクレオチドまたは発現ベクターが導入されている形質転換Trichoderma属糸状菌をセルロース含有バイオマス含有培地で培養することで、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼが発現し、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼと前記β-グルコシダーゼを含む酵素組成物を生産することができる。
【0046】
本発明においてセルロース含有バイオマスとは、少なくともセルロースを含むものであれば限定されない。具体的には、バガス、コーンストーバー、コーンコブ、スイッチグラス、稲藁、麦藁、樹木、木材、廃建材、新聞紙、古紙、パルプなどである。これらセルロース含有バイオマスは、高分子芳香族化合物リグニンやヘミセルロースなどの不純物が含まれているが、前処理として、酸、アルカリ、加圧熱水などを用いて、リグニンやヘミセルロースを全部または部分的に、分解または除去したものも、セルロース含有バイオマスとして用いることができる。
【0047】
前記酵素組成物を用いて、セルロース含有バイオマスから糖液を製造する方法は、特に限定されない。この酵素組成物による糖液製造は、バッチ式で行っても、連続式で行ってもよい。また、セルロース含有バイオマスの酵素処理で得られた糖化液から、使用した酵素組成物を分離して回収することができる。酵素を分離回収する方法は、特に限定されないが、糖化液を限外濾過膜などでろ過し、非透過側に回収することができる。必要に応じてろ過の前工程として、糖化液から固形分を取り除いておいてもよい。回収した酵素組成物は、再び糖化反応に用いることができる。
【実施例
【0048】
(参考例1)タンパク質濃度測定方法
市販のタンパク質濃度測定試薬(Quick Start Bradfordプロテインアッセイ、Bio-Rad製)を使用した。室温に戻したタンパク質濃度測定試薬250μLに希釈した糸状菌由来セルラーゼ溶液を5μL添加し、室温で5分間静置後の595nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。標準品としてBSAを使用し、検量線に照らし合わせてタンパク質濃度を算出した。
【0049】
(参考例2)β-グルコシダーゼ活性測定方法
1mMp-ニトロフェニル-β-グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加して30℃で10分間反応させた。その後2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定した。1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uと定義した。ブランクは1mM p-ニトロフェニル-β-グルコピラノシドを含有する50mM酢酸ナトリウムバッファー90μLに2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合し、その後酵素希釈液10μLを添加し30℃で30分間反応させた。その後、405nmの吸光度の増加を測定した。この際に405nmの吸光度が1を超えないように酵素液を希釈しておいた。また、検量線はp-ニトロフェノール溶液を濃度0.1mM、0.2mM、1mM、2mMになるように調製し、酵素希釈液の代わりに10μLを入れ、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して発色させ、測定した吸光度から作成した。
【0050】
(参考例3)β-キシロシダーゼ活性測定方法
1mMp-ニトロフェニル-β-キシロピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で30分間反応させた。その後、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定した。1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uと定義した。ブランクは1mMp-ニトロフェニル-β-キシロピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μLに2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合し、その後酵素希釈液10μLを添加し30℃で30分間反応させた。その後、405nmの吸光度の増加を測定した。この際に405nmの吸光度が1を超えないように酵素液を希釈しておいた。また、検量線はp-ニトロフェノール溶液を濃度0.1mM、0.2mM、1mM、2mMになるように調製し、酵素希釈液の代わりに10μLを入れ、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して発色させ、測定した吸光度から作成した。
【0051】
(参考例4)セロビオハイドロラーゼ・エンドグルカナーゼ活性測定方法
1mMp-ニトロフェニル-β-ラクトピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で60分間反応させた。その後、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定した。1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uと定義した。ブランクは1mMp-ニトロフェニル-β-ラクトピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μLに2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合し、その後酵素希釈液10μLを添加し30℃で30分間反応させた。その後、405nmの吸光度の増加を測定した。この際に405nmの吸光度が1を超えないように酵素液を希釈しておいた。また、検量線はp-ニトロフェノール溶液を濃度0.1mM、0.2mM、1mM、2mMになるように調製し、酵素希釈液の代わりに10μLを入れ、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して発色させ、測定した吸光度から作成した。
【0052】
(参考例5)糖濃度の測定
グルコース、セロビオースは、ACQUITY UPLC システム(Waters)を用いて、以下の条件で定量分析した。
グルコース、セロビオースの標品で作成した検量線をもとに、定量分析した。セロビオースが1g/Lより低い値の場合は、検出限界以下とした。
カラム:AQUITY UPLC BEH Amide 1.7μm 2.1×100mm Column
分離法:HILIC
移動相:移動相A:80%アセトニトリル、0.2%TEA(トリエチルアミン)水溶液、移動相B:30%アセトニトリル、0.2%TEA(トリエチルアミン)水溶液とし、下記グラジエントに従った。グラジエントは下記の時間に対応する混合比に到達する直線的なグラジエントとした。
開始条件:(A99.90%、B0.10%)、開始2分後:(A96.70%、B3.30%)、開始3.5分後:(A95.00%、B5.00%)、開始3.55分後:(A99.90%、B0.10%)、開始6分後:(A99.90%、B0.10%)。
検出方法:ELSD(蒸発光散乱検出器)
流速:0.3mL/min
温度:55℃
【0053】
(参考例6)SDS-PAGE
SDS-PAGEは15%ポリアクリルアミドゲルe-PAGEL(アトー)を使用した。該β-グルコシダーゼ形質転換Trichoderma株酵素5μgを、等体積のサンプルバッファーEz-apply(アトー)と混合し、95℃10分加熱して、泳動サンプルとした。分子量マーカーは、Precision Plus Protein Dual Color Standards(バイオラッド)を使用した。泳動バッファーは25mMトリス、192mMグリシン、0.1%SDS水溶液とし、20mA定電流で90分間電気泳動を行った。電気泳動後のゲルはBio-Safe Comassie G-250 Stain(バイオラッド)により染色し、純水で脱染した。
【0054】
(参考例7)Trichoderma属糸状菌の培養によるセルラーゼ生産
Trichoderma属糸状菌の胞子を1.0×10/mLになるように生理食塩水で希釈し、その希釈胞子溶液2.5mLを1Lバッフル付フラスコに入れた表1に記した組成で構成される培養液250mLへ接種し、28℃、160rpmの培養条件にて3日間培養(前培養)を行った。本培養は前培養液250mLをそれぞれ5L容ミニジャーに入れた表2に示した本培養液2.5Lへ接種させ、28℃、700rpm、1vvm、pH5の培養条件にて4日間培養を行った。中和は10%アンモニアと1N硫酸を使用した。培養開始4日後の培養液を遠心分離した後、上清を限外ろ過膜にてろ過し、菌体除去を行うことで、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼを取得した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
(参考例8)グルコースによるβ-グルコシダーゼ活性阻害作用測定方法
1mMp-ニトロフェニル-β-グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)、50mM酢酸バッファーおよびグルコースを0、4、8または20g/L含有する混合液に酵素液を添加して反応液合計が100μLとなるように調製し、30℃で100分間反応させた。その後2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定した。1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uと定義した。ブランクは、上記反応液の酵素液添加前の混合液と同量の、1mM p-ニトロフェニル-β-グルコピラノシド、50mM酢酸ナトリウムバッファーおよびグルコースを0、4、8または20g/Lを含有する混合液に2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合した後、酵素液を、ブランクの総液量が110μLになるよう添加し30℃で30分間反応させた。その後、405nmの吸光度の増加を測定した。
【0058】
(実施例1)難培養性イエシロアリ共生生物1細胞からのRNA‐Seq解析とβ-グルコシダーゼ候補配列の解析
イエシロアリ腸管抽出物中に含まれる難培養性のシロアリ共生原生生物群の中からPseudotrichonympha grassii細胞を選定し、マイクロキャピラリーで分画して、1細胞からのRNA抽出、逆転写、cDNA増幅、ライブラリーへの変換、およびシークエンシングを笹川らのQuartz-seq法によって行った(Sasagawa,Y.et al.:Genome Biol.,14: R31,2013)。シークエンシングの結果から、β-グルコシダーゼ候補をコードする塩基配列の選定を行った。タンパク質のシグナル配列を予測するツールSignalP(http:www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を用いて前記塩基配列がコードするアミノ酸配列の、シグナル配列部分を予測した。結果、シグナル配列を除いたβ-グルコシダーゼ候補配列として配列番号1に記載のアミノ酸配列、該アミノ酸配列をコードする塩基配列として配列番号2の塩基配列を取得した。配列番号1に記載のアミノ酸配列のファミリーをPROSITEで調べたところ、配列番号1の259番目から276番目にGlycosyl hydrolases family 3 active siteにあたる配列番号5のアミノ酸配列を有していることが分かった。
【0059】
(実施例2)β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌の作製
実施例1で取得した、配列番号2(Pseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼ候補遺伝子をコードする塩基配列)に記載のポリヌクレオチドをpET14bのNdeIおよびXhoI制限酵素サイトに連結したプラスミドを人工遺伝子合成サービス(Genscript社)により合成した。ここで、上記プラスミド配列の構成は形質転換体においてN末端にHis-tagが付加された、配列番号1に記載のアミノ酸配列をもつβ-グルコシダーゼが発現するように設計した。前記プラスミドを大腸菌(Rossetta2(DE3))株に形質転換した。
【0060】
(実施例3)β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液の作製
実施例2で作製したβ-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌をアンピシリン含有LB培地10mLに植菌し、37℃で一晩振とう培養(前培養)を行った。本培養として、アンピシリン含有LB培地に、前培養で得られた菌体を植菌し、波長600nmでの濁度OD600が0.8となるまで37℃で振とう培養を行った。その後、最終濃度が0.1mMになるようにイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)を加え、さらに16℃で一晩培養した。培養後、菌体を遠心分離により回収し、50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.6)に再懸濁した。この溶液を氷冷しながら、超音波破砕を行い、その上清を無細胞抽出液として遠心分離により回収した。前記β-グルコシダーゼ候補遺伝子形質転換大腸菌の無細胞抽出液のβ-グルコシダーゼ活性を測定したところ、無細胞抽出液に含まれるタンパク質1mgあたり0.14Uであった。また、β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌の培養液1Lから得られる全β-グルコシダーゼ活性は21.6Uであった。比較対照として、β-グルコシダーゼ候補遺伝子を含まないプラスミドの形質転換体の無細胞抽出液を同様に調製し、β-グルコシダーゼ活性を測定したところ、β-グルコシダーゼ活性は検出されなかった。すなわち、配列番号1に記載のアミノ酸配列にHis-tagが付加したポリペプチドを発現した無細胞抽出液からのみ、β-グルコシダーゼ活性が検出されたことから、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Pseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼ配列であることが分かった。
【0061】
(実施例4)β-グルコシダーゼ変異体遺伝子形質転換大腸菌の作製
実施例2と同様に、配列番号2と配列同一性53%の配列番号7および配列番号2と配列同一性53%の配列番号9に記載のポリヌクレオチドをそれぞれpET14bのNdeIおよびXhoI制限酵素サイトに連結したプラスミドを人工遺伝子合成サービス(Genscript社)により合成した。ここで、上記プラスミド配列の構成は形質転換体においてN末端にHis-tagが付加された、配列番号6および配列番号8に記載のアミノ酸配列をもつβ-グルコシダーゼがそれぞれ発現するように設計した。前記プラスミドを大腸菌(Rossetta2(DE3))株に形質転換した。
【0062】
(実施例5)β-グルコシダーゼ変異体遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液の作製
実施例4で作製したβ-グルコシダーゼ変異体遺伝子形質転換大腸菌をアンピシリン含有LB培地10mLに植菌し、37℃で一晩振とう培養(前培養)を行った。本培養として、アンピシリン含有LB培地に、前培養で得られた菌体を植菌し、波長600nmでの濁度OD600が0.8となるまで37℃で振とう培養を行った。その後、最終濃度が0.1mMになるようにイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)を加え、さらに16℃で一晩培養した。培養後、菌体を遠心分離により回収し、50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.6)に再懸濁した。この溶液を氷冷しながら、超音波破砕を行い、その上清を無細胞抽出液として遠心分離により回収した後、限外ろ過膜ユニットで抽出液体積を12分の1にした後、β-グルコシダーゼ活性の有無を調べた。比較対照として、β-グルコシダーゼ候補遺伝子を含まないプラスミドの形質転換体の無細胞抽出液を同様に調製し、β-グルコシダーゼ活性の有無を調べたところ、β-グルコシダーゼ活性は検出されなかった。すなわち、配列番号1と配列同一性88%の配列番号6および配列番号1と配列同一性80%の配列番号8に記載のアミノ酸配列にHis-tagが付加したポリペプチドを発現した無細胞抽出液からのみ、β-グルコシダーゼ活性が検出されたことから、配列番号6および配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、β-グルコシダーゼ活性を持つことが分かった。β-グルコシダーゼ活性測定の結果を表3に示した。
【0063】
【表3】
【0064】
(実施例6)β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液とTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物の調製および木材原料粉末セルロース糖化
参考例7に従って、Trichoderma reeseiの培養を行い、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼを製造した。実施例3で作製したβ-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌の無細胞抽出液を、前記Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼと混合した酵素組成物を調製し、糖化反応に使用した。前記酵素組成物は、糖化反応液1mLあたりのTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのタンパク濃度が0.2g/L、β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌の無細胞抽出液のタンパク濃度が2.1g/Lとなるように混合した。糖化対象のバイオマスとしては、木材原料粉末セルロースArbocel(登録商標)(J.Rettenmaier&Sohne)を使用した。糖化反応は以下のようにして行った。2mLチューブの中にバイオマスを50mg分入れ、酢酸ナトリウムバッファー(pH5.2)を終濃度50mMになるように添加し、木材原料粉末セルロースの固形分濃度が反応開始時に5重量%となるように純水を加えた。さらに、前記酵素組成物を、前記調製液に添加し、ヒートブロックローテーターを用いて、35℃の反応条件で反応を開始した。24時間糖化反応後のサンプルを10,000×gの条件下で5分間遠心分離を行い、上清を分取し、上清のボリュームの10分の1量の1N 水酸化ナトリウム水溶液を添加し、糖化反応を停止した。その上清を0.22μmのフィルターでろ過し、そのろ液を参考例5に従い糖分析に供した。比較対照として、β-グルコシダーゼ遺伝子を含まないベクターのみを形質転換した大腸菌の無細胞抽出液を用い、上記と同様に糖化反応液1mLあたりのタンパク濃度が2.1g/LになるようTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼと混合して、糖化反応、および糖化上清の糖分析を行った。なお、上記糖化反応に使用したβ-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液とTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物のβ-グルコシダーゼ活性はβ-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液を含まないTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼの活性の2.6倍となった。糖化反応の結果、β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液とTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を添加した場合、本発明のβ-グルコシダーゼを含まないTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを添加した場合に比べて、グルコース蓄積量が約2.7倍に増加し、セロビオースの蓄積量は減少した。糖分析のグルコース・セロビオースの結果を表4に示した。
【0065】
【表4】
【0066】
(実施例7)β-グルコシダーゼのHis-tag粗精製
実施例3で酵素活性を確認できたβ-グルコシダーゼ遺伝子形質転換大腸菌の無細胞抽出液のHis-tag精製を行った。His-tag精製はHis・Bind Purification Kit(メルクミリポア)を用い、説明書のバッチメソッドに従った。参考例6に従って、精製画分のSDS-PAGEを行ったところ、溶出画分において分子量75kDaから100kDaの間に最も濃いバンドが検出され、理論分子量83.9kDaであるHis-tag付きβ-グルコシダーゼが精製されたことが確認できた。SDS-PAGEゲルの写真を図1に示した。ゲルろ過カラムPD-10(GEヘルスケア)を用いて説明書の方法に従い、前記溶出画分のバッファーを20mMTris-HCl(PH7.6)に交換し、これを粗精製β-グルコシダーゼとした。該粗精製β-グルコシダーゼのタンパク質濃度およびβ-グルコシダーゼ活性を測定したところ、粗精製β-グルコシダーゼに含まれるタンパク質1mgあたり3.50Uであった。
【0067】
(実施例8)粗精製β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物の調製および木材原料粉末セルロース糖化
参考例7に従って、Trichoderma reeseiの培養を行い、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼを製造した。実施例7で作製した粗精製β-グルコシダーゼを前記Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼと混合した酵素組成物を調製し、糖化反応に使用した。前記酵素組成物は、糖化反応液1mLあたりのTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのタンパク濃度が0.2g/L、粗精製β-グルコシダーゼのタンパク濃度が0.017g/Lとなるように混合した。酵素組成物に粗精製β-グルコシダーゼを用いた以外は、実施例6と同様に糖化反応、および糖化上清の糖分析を行った。比較対照としてTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用い、上記と同様に糖化反応液1mLあたりのタンパク濃度が2.1g/LになるようTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを添加して、糖化反応、および糖化上清の糖分析を行った。なお、上記糖化反応に使用した粗精製β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物のβ-グルコシダーゼ活性は、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみの活性の1.6倍となった。糖化反応の結果、Trichodermaセルラーゼに粗精製β-グルコシダーゼを混合した酵素組成物を添加した場合、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを添加した場合に比べて、いずれもグルコース蓄積量が約1.8倍に増加し、セロビオースの蓄積量は減少した。糖分析のグルコース・セロビオースの結果を表5に示した。
【0068】
【表5】
【0069】
(実施例9)β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換Trichoderma属糸状菌の作製
配列番号2に記載の塩基配列(PseudoTrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼ遺伝子をコードする塩基配列)と配列同一性66%の配列番号3に記載のポリヌクレオチドをpET14bのNdeIおよびXhoI制限酵素サイトに連結したプラスミドを、人工遺伝子合成サービス(Genscript社)により合成した。前記プラスミドから、配列番号3の塩基配列部分をPCRにより増幅し、Trichoderma reesei由来エンドグルカナーゼ1プロモーターの下流に、Aspergillus aculeatusのβ-グルコシダーゼの分泌シグナル配列とin-frameになるように連結し、該配列と形質転換体のハイグロマイシン耐性遺伝子をpBI101プラスミドのT-DNAボーダー間にクローニングした。作製したプラスミドのT-DNAボーダー間の配列を配列番号4に示した。ここで、配列番号4は上記配列が宿主細胞のゲノム中に導入され、下記塩基番号978~3161(配列番号3)がコードする、配列番号1に記載のアミノ酸配列をもつβ-グルコシダーゼが発現し、分泌されるように設計した。配列番号4の構成を下記に示す。
【0070】
LB=左T-DNAボーダー:塩基番号1~26
Pegl1=Trichoderma reesei由来エンドグルカナーゼ1プロモーター:塩基番号27~920
Sbgl=Aspergillus aculeatus由来β-グルコシダーゼ分泌シグナル:塩基番号921~977
bgl=Pseudotrichonympha属原生生物由来β-グルコシダーゼ:塩基番号978~3161(配列番号3)
Tegl1=Trichoderma reesei由来エンドグルカナーゼ1ターミネーター:塩基番号3162~4019
PamdS=Aspergillus nidulans由来アセトアミダーゼプロモーター:塩基番号4020~5027
hygR=ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス由来ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ:塩基番号5028~6065
TamdS=Aspergillus nidulans由来アセトアミダーゼターミネーター:塩基番号6066~6786
RB=右T-DNAボーダー:塩基番号6787~6810。
【0071】
作製したプラスミドをアグロバクテリウム・ツメファシエンスAGL1株に導入し、Trichoderma reeseiに該形質転換アグロバクテリウムを感染させて、β-グルコシダーゼ形質転換Trichoderma株を取得した。アグロバクテリウムによるTrichodermaの形質転換は、Marcelらの方法(Marcel, et al. 2006,Nat Biotechnol 16:839-842)を基にして、グルコースとアセトシリンゴンを含むInduction medium(IM)液体培地で8時間培養した該形質転換アグロバクテリウムを、Trichoderma reeseiの胞子溶液と混合し、Induction medium(IM)固体培地に載せたセロハン上で、3日間培養した後、セフォタキシムとハイグロマイシンを含むポテトデキストロースアガープレート(選択培地)にセロハンを載せかえ、選択培地に生育したコロニーをピックアップして再び選択培地に撒く純化培養を2度繰り返して、形質転換Trichoderma株を取得した。
【0072】
(実施例10)β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換Trichoderma属糸状菌の培養による、酵素組成物の製造
実施例9で作製したβ-グルコシダーゼ遺伝子形質転換Trichoderma属糸状菌を参考例7と同様の方法で培養し、培養開始4日後の培養液を遠心分離した後、上清を限外ろ過膜にてろ過し、菌体除去を行うことで、Trichoderma属糸状菌で発現した本発明のβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を調製した。前記酵素組成物のタンパク質濃度を参考例1に従って測定し、参考例6に従ってSDS-PAGEを行い、発現タンパクの確認を行った。比較対照として非形質転換Trichoderma属糸状菌の培養により得られたTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用い、同様に培養、上清回収、培養上清ろ過およびSDS-PAGEを行った。SDS-PAGEの結果、前記β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物では、本発明のβ-グルコシダーゼのバンドが、SDS-PAGEで確認できる酵素組成物のバンドの合計の10分の1より多いバンドとして観察され、β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換Trichoderma属糸状菌では本発明のβ-グルコシダーゼが多量に発現していることが確認できた。SDS-PAGEゲルの写真を図2に示した。
【0073】
さらに、参考例2に従い前記β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物のβ-グルコシダーゼ活性測定を行った。結果、前記β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物のβ-グルコシダーゼ活性は、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみのβ-グルコシダーゼ活性の2.0倍となった。また、前記β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換Trichoderma属糸状菌の培養液1Lから得られる全β-グルコシダーゼ活性は約1.80×10Uであり、Trichoderma属糸状菌におけるβ-グルコシダーゼ発現では、実施例3の大腸菌におけるβ-グルコシダーゼ発現の場合と比べて、同体積の培養液から約850倍のβ-グルコシダーゼが得られ、本発明のβ-グルコシダーゼの生産性が高いことが分かった。
【0074】
(実施例11)β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物による微結晶セルロース糖化
実施例10で調製したβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を糖化反応に使用した。糖化対象のバイオマスとしては、微結晶セルロースであるCellulose microcrystalline(Merck社製)を使用した。使用バイオマス以外は実施例6と同様に糖化反応および糖化上清の糖分析を行った。酵素の添加量は8mg/g-バイオマスとした。比較対照としてTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用い、同様に糖化反応、および糖化上清の糖分析を行った。結果、前記β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を用いた糖化では、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用いた糖化に比べて、グルコース蓄積量が約1.6倍に増加し、セロビオースの蓄積量は減少した。糖分析のグルコース・セロビオースの結果を表6に示した。
【0075】
【表6】
【0076】
(実施例12)β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物による木材原料粉末セルロース糖化
実施例10で調製したβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を糖化反応に使用した。糖化対象のバイオマスとしては、木材原料粉末セルロースArbocel(登録商標)(J.Rettenmaier&Sohne)を使用した。使用バイオマス以外は実施例11と同様にして、糖化反応、および糖化上清の糖分析を行った。比較対照としてTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用い、同様に糖化、および糖化上清の糖分析を行った。結果、前記β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を用いた糖化では、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用いた糖化に比べて、グルコース蓄積量が約1.8倍に増加し、セロビオースの蓄積は検出されなかった。糖分析のグルコース・セロビオースの結果を表7に示した。
【0077】
【表7】
【0078】
(実施例13)β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物によるアルカリ処理バガス糖化
実施例10で調製したβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を糖化反応に使用した。糖化対象のバイオマスとして、アルカリ処理(前処理)を行ったバガスを使用した。使用バイオマス以外は実施例11と同様にして、糖化反応、および糖化上清の糖分析を行った。比較対照として、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用い、同様に糖化、および糖化上清の糖分析を行った。結果、前記β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を用いた糖化では、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用いた糖化に比べて、グルコース蓄積量が約1.8倍に増加し、セロビオースの蓄積は検出されなかった。糖分析のグルコース・セロビオースの結果を表8に示した。
【0079】
【表8】
【0080】
(実施例14)β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物の糖化上清残存成分確認
実施例10で調製したβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を糖化反応に使用した。糖化対象のバイオマスとして、木材原料粉末セルロースArbocel(登録商標)(J.Rettenmaier&Sohne)、アルカリ処理バガスおよび前処理を行っていない無処理バガスを使用した。35℃の反応条件で実施例11と同様に糖化反応を行い、24時間糖化反応後のサンプルを10,000×gの条件下で5分間遠心分離を行い、糖化上清を回収した。該糖化上清3.5μLを分取し、等量のサンプルバッファーと混合し、95℃10分加熱して、参考例6に従ってSDS-PAGEを行った。糖化に供した酵素のバンドの確認のため、糖化反応液中と同濃度になるように希釈した前記酵素組成物も、前記糖化上清と同様にSDS-PAGEを行った。比較対照として非形質転換Trichoderma属糸状菌の培養により得られたTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用い、同様に糖化、および糖化上清の回収、SDS-PAGEを行った。結果、木材原料粉末セルロース糖化、アルカリ処理バガス糖化および無処理バガス糖化のいずれの場合も、前記β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物の糖化上清中では、本発明のβ-グルコシダーゼのバンドが明瞭に見られ、本発明のβ-グルコシダーゼはTrichoderma属糸状菌由来の他の多くのセルラーゼ成分よりも糖化上清として回収しやすいことが確認できた。また、木材原料粉末セルロース糖化では、β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物の糖化上清中では、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみの糖化上清中に比べて、Trichoderma属糸状菌由来の多くのセルラーゼ成分のバンドがより多く観察され、本発明のβ-グルコシダーゼがTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼとともに酵素組成物として用いられると、Trichoderma属糸状菌由来セルラーゼも糖化上清として回収しやすくなることが確認できた。SDS-PAGEゲルの写真を図3に示した。
【0081】
(実施例15)β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物の木材原料粉末セルロース糖化上清残存活性測定
実施例14で回収した、前記酵素組成物の木材原料粉末セルロース糖化上清について、参考例2、3および4に従って、酵素活性測定を行った。実施例14で糖化反応液中と同濃度になるように希釈した前記酵素組成物についても同様に酵素活性測定を行った。糖化反応液中と同濃度になるように希釈した前記酵素組成物の酵素活性を100%としたときの糖化上清の酵素活性の割合を糖化上清中の残存活性として表9に示した。β-グルコシダーゼ残存活性の結果から、本発明のβ-グルコシダーゼは、Trichoderma属糸状菌由来のβ-グルコシダーゼよりも糖化上清として回収しやすいことが確認できた。また、β-キシロシダーゼ残存活性およびセロビオハイドロラーゼ・エンドグルカナーゼ残存活性の結果から、本発明のβ-グルコシダーゼがTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼとともに酵素組成物として用いられると、Trichoderma属糸状菌由来β-キシロシダーゼ、セロビオハイドロラーゼおよびエンドグルカナーゼが糖化上清として回収しやすくなることが確認できた。
【0082】
【表9】
【0083】
(実施例16)β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物の未処理バガス糖化上清残存活性測定
実施例14で回収した、前記酵素組成物の未処理バガス糖化上清について、参考例2、3および4に従って、酵素活性測定を行った。実施例14で糖化反応液中と同濃度になるように希釈した前記酵素組成物についても同様に酵素活性測定を行った。糖化反応液中と同濃度になるように希釈した前記酵素組成物の酵素活性を100%としたときの糖化上清の酵素活性の割合を糖化上清中の残存活性として表10に示した。β-グルコシダーゼ残存活性の結果から、本発明のβ-グルコシダーゼは、Trichoderma属糸状菌由来のβ-グルコシダーゼよりも糖化上清として回収しやすいことが確認できた。また、β-キシロシダーゼ残存活性およびセロビオハイドロラーゼ・エンドグルカナーゼ残存活性の結果から、本発明のβ-グルコシダーゼがTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼとともに酵素組成物として用いられると、Trichoderma属糸状菌由来β-キシロシダーゼ、セロビオハイドロラーゼおよびエンドグルカナーゼが糖化上清として回収しやすくなることが確認できた。
【0084】
【表10】
【0085】
(実施例17)β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物のアルカリ処理バガス糖化上清残存活性測定
実施例14で回収した、前記酵素組成物のアルカリ処理バガス糖化上清について、参考例2、3および4に従って、酵素活性測定を行った。実施例14で糖化反応液中と同濃度になるように希釈した前記酵素組成物についても同様に酵素活性測定を行った。糖化反応液中と同濃度になるように希釈した前記酵素組成物の酵素活性を100%としたときの糖化上清の酵素活性の割合を糖化上清中の残存活性として表11に示した。β-グルコシダーゼ残存活性の結果から、本発明のβ-グルコシダーゼは、Trichoderma属糸状菌由来β-グルコシダーゼよりも糖化上清として回収しやすいことが確認できた。また、β-キシロシダーゼ残存活性およびセロビオハイドロラーゼ・エンドグルカナーゼ残存活性の結果から、本発明のβ-グルコシダーゼがTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼとともに酵素組成物として用いられると、Trichoderma属糸状菌由来β-キシロシダーゼ、セロビオハイドロラーゼおよびエンドグルカナーゼが糖化上清として回収しやすくなることが確認できた。
【0086】
【表11】
【0087】
(比較例1)Aspergillus属糸状菌由来β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換Trichoderma属糸状菌の作製と該形質転換体の培養による酵素組成物の製造
実施例9と同様に、配列番号11に記載の塩基配列(Aspergillus属糸状菌由来β-グルコシダーゼ遺伝子をコードする塩基配列)が宿主細胞のゲノム中に導入され、配列番号10に記載のアミノ酸配列をもつβ-グルコシダーゼが発現し、分泌されるように設計したプラスミドを作製した。該プラスミドをアグロバクテリウム・ツメファシエンスAGL1株に導入し、Trichoderma reeseiに該形質転換アグロバクテリウムを感染させて、β-グルコシダーゼ形質転換Trichoderma株を取得した。実施例10と同様に、上記で作製したAspergillus属糸状菌由来β-グルコシダーゼ遺伝子形質転換Trichoderma属糸状菌を参考例7と同様の方法で培養し、培養開始4日後の培養液を遠心分離した後、上清を限外ろ過膜にてろ過し、菌体除去を行うことで、Trichoderma属糸状菌で発現したAspergillus属糸状菌由来β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物を調製した。参考例6に従って前記酵素組成物のSDS-PAGEを行い、発現タンパクの確認を行った。比較対照として非形質転換Trichoderma属糸状菌の培養により得られたTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用い、同様に培養、上清回収、培養上清ろ過およびSDS-PAGEを行った。SDS-PAGEの結果、Aspergillus属糸状菌由来β-グルコシダーゼが発現していることが確認できた。SDS-PAGEゲルの写真を図4に示した。参考例8に従い、該Aspergillus属糸状菌由来β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物のグルコースによるβ-グルコシダーゼ活性阻害作用測定を行い、結果を実施例18との比較に用いた。
【0088】
(実施例18)グルコースによるβ-グルコシダーゼ活性阻害作用測定方法
参考例8に従い、実施例10で調製したβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼおよび実施例5で作製したβ-グルコシダーゼ変異体遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液を含む酵素組成物のグルコースによるβ-グルコシダーゼ活性阻害作用測定を行った。比較対照としてTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみを用い、同様にグルコースによるβ-グルコシダーゼ活性阻害作用を測定した。反応液中のグルコース濃度が0g/Lの条件のβ-グルコシダーゼ活性を1として標準化したときの、グルコース存在下での相対活性の値を図5に示した。また、反応液中のグルコース濃度が0g/Lの条件のβ-グルコシダーゼ活性を1として標準化したときの、グルコース8g/Lの条件下での相対活性の値を表12に、グルコース20g/Lの条件下での相対活性の値を表13に示した。結果、前記β-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物およびβ-グルコシダーゼ変異体遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液は、いずれもTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみおよび比較例1のAspergillus属糸状菌由来のβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物と比較して、グルコースによるβ-グルコシダーゼ活性の低下が小さかった。すなわち、本発明のβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物およびβ-グルコシダーゼ変異体遺伝子形質転換大腸菌無細胞抽出液は、いずれもTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼのみおよび比較例1のAspergillus属糸状菌由来のβ-グルコシダーゼとTrichoderma属糸状菌由来セルラーゼを含む酵素組成物と比較して、グルコースによるβ-グルコシダーゼ活性阻害を受けにくかった。
【0089】
【表12】
【0090】
【表13】
【0091】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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