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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】細胞膜透過性ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230327BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20230327BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230327BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230327BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20230327BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20230327BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20230327BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20230327BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20230327BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C07K7/06
C07K19/00
C12N15/62 Z
C07K14/47
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
C12P21/02 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019559615
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2018045228
(87)【国際公開番号】W WO2019117057
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2017236660
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】石坂 幸人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 亮
(72)【発明者】
【氏名】高品 智記
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特許第7026906(JP,B2)
【文献】特表2014-508763(JP,A)
【文献】国際公開第2008/108505(WO,A1)
【文献】RAMSEY, J. D. and FLYNN, N. H,Cell-penetrating peptides transport therapeutics into cells,Pharmacology & Therapeutics,2015年,vol. 154,no. 78-86
【文献】ペプチドの設計 | Thermo Fisher Scientific,2017年07月25日,[2019年1月31日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20170725064123/https:
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00- 19/00
C12N 15/00- 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(3)からなる群から選択されるペプチド:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;及び
(3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項2】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1に記載のペプチド及び機能性分子を含む複合体。
【請求項6】
請求項1に記載のペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項5に記載の複合体をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜透過性ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜透過性ペプチドは細胞膜を透過して細胞内部に移動する機能を持つペプチドである。細胞膜透過性ペプチドとしては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のTATをはじめ、Penetratin、Oligoarginine、Transportan、membrane transduction sequenceなど、多数の配列が知られている(Pharmacol.Ther.、2015、Vol.154、p.78-86)。また、HIV-1のViral Protein R蛋白質に含まれるペプチド配列から見出された細胞膜透過性ペプチドRIFIHFRIGCが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2008/108505号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、細胞内への移行性を有する新規細胞膜透過性ペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、細胞膜透過性ペプチドの作製において相当の創意検討を重ねた結果、新規細胞膜透過性ペプチドを作製し(実施例1及び2)、当該細胞膜透過性ペプチドが細胞内への移行性を有すること(実施例3及び4)を見出した。これらの結果、前記細胞膜透過性ペプチドを提供し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、医学上又は産業上有用な物質又は方法として以下の発明を含んでもよい。
[1]以下の(1)~(3)からなる群から選択されるペプチド:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;及び
(3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
[2]配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる、[1]に記載のペプチド。
[3]配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる、[1]に記載のペプチド。
[4]配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる、[1]に記載のペプチド。
[5][1]に記載のペプチド及び機能性分子を含む複合体。
[6][1]に記載のペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[7][5]に記載の複合体をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0007】
本発明の細胞膜透過性ペプチドは、任意の蛋白質を細胞内に透過するために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】CPP-EGFP蛋白質の細胞内への取り込み能を示す。縦軸は全細胞の内のEGFPによる発光が見られた細胞数の比率を示す。コントロールは溶媒のみを添加した細胞群を示す。誤差線は重複する3被験試料の測定値の標準偏差を示す。
図2】CPP-TALE-ActivatorによるヒトTERT mRNA発現上昇効果の比較を示す。縦軸はコントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、各被験試料によるヒトTERT mRNA相対発現量を示す。誤差線は重複する3被験試料の測定値の標準偏差を示す。
図3】NTP-TALE-VPR及びTALE-VPRによるヒトTERT mRNA発現上昇効果の比較を示す。縦軸はコントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、各被験試料によるヒトTERT mRNA相対発現量を示す。誤差線は重複する3被験試料の測定値の標準偏差を示す。
図4A】Green Fluorescent Protein Fluorescence-Detection Size-Exclusion Chromatography(GFP-FSEC)分析の結果を示す。グラフ縦軸は蛍光強度により測定されたGFP融合蛋白質量を、横軸は緩衝液の排除体積を示す。(1)NTP-GST-EGFP、(2)NTP(C10Q)-GST-EGFP、(3)NTP(I8Q)-GST-EGFP、(4)NTP(ICQ2)-GST-EGFPの各試料の結果を示す。
図4B図4Aに示された4試料の結果を重ねて表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明について詳述する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。また、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる2017年12月11日に出願された日本国特許出願(特願2017-236660号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0010】
1.本発明の細胞膜透過性ペプチド
本発明の細胞膜透過性ペプチドは、以下の(1)~(3)からなる群より選択されるペプチドである。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;及び
(3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
【0011】
本明細書における「細胞膜透過性ペプチド」とは、細胞膜を透過する機能を有するペプチドを意味する。細胞膜を透過するか否かは、公知の細胞膜透過評価系を用いて確認することができる。当該評価系としては、例えば、高感度緑色蛍光蛋白質(EGFP)及び被験ペプチドを含む複合体を用いた細胞内標識蛋白質検出系、並びに、デオキシリボ核酸(DNA)結合ポリペプチド、転写調節因子及び被験ペプチドを含む複合体を用いた遺伝子発現評価系が挙げられる。EGFP及び被験ペプチドを含む複合体を用いる場合、例えば、細胞内に取り込まれたEGFPの発光を指標に被験ペプチドの細胞膜透過性を評価できる。DNA結合ポリペプチド、転写調節因子及び被験ペプチドを含む複合体を用いた遺伝子発現評価系では標的遺伝子の発現量を指標に被験ペプチドの細胞膜透過性を評価できる。具体的な評価方法としては、例えば後記実施例3及び4に記載された方法を用いることができる。
【0012】
2.本発明の複合体
本発明の複合体は、本発明の細胞膜透過性ペプチド及び機能性分子を含む複合体である。
【0013】
本発明の細胞膜透過性ペプチドと組み合わせることができる機能性分子は幅広く存在し、機能性分子が持つ機能を示す限り、本発明の複合体に含まれる機能性分子は特に限定されず、例えば、低分子化合物、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、脂質、糖質及びその他の高分子化合物、磁性粒子、リポソームなどの生理活性物質が挙げられる。
【0014】
本発明の複合体に含まれるポリヌクレオチドとしては、例えば、任意の長さのDNA又はリボ核酸(RNA、アプタマーを含む)を使用することができる。当該使用するDNA又はリボ核酸は、天然又は人工物であってもよい。ポリヌクレオチドは1本鎖又は2本鎖であってもよい。複数のポリヌクレオチドを使用することもできる。
【0015】
ポリヌクレオチドがDNAの場合、生理活性を示すポリペプチドをコードするDNAを使用することができる。生理活性を示すポリペプチドとして、例えば、ホルモン、成長因子、酵素、サイトカイン、ワクチン用抗原ペプチド、受容体、抗体、転写因子、構造蛋白質、融合ポリペプチドなどが挙げられる。
【0016】
ポリヌクレオチドがRNAの場合、例えば、small nuclear RNA(snRNA)、small nucleolar RNA(snoRNA)、small temporal RNA(stRNA)、small interfering RNA(siRNA)、microRNA(miRNA)、precursor miRNA(pre-miRNA)、small hairpin RNA(shRNA)、viral RNA、アンチセンスRNA、及びmessenger RNA(mRNA)が挙げられる。
【0017】
本発明の複合体に含まれるポリペプチドとしては、例えば、ホルモン、成長因子、酵素、サイトカイン、ワクチン用抗原ペプチド、受容体、抗体、転写因子、構造蛋白質、及び融合ポリペプチドなどが挙げられる。
【0018】
1つの実施形態において、本発明の複合体に含まれる融合ポリペプチドとして、例えば、ゲノム編集技術として使用される融合ポリペプチド(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、1996、Vol.93、p.1156-1160、Genetics、2010、Vol.186、p.757-761、Science、2013、Vol.339、p.819-823、Science、2013、Vol.339、p.823-826、Methods Mol.Biol.、2016、Vol.1469、p.147-155、Nat.Methods、2013、Vol.10、p.977-979)が挙げられる。別の実施形態において、本発明の複合体は当該融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含む。
【0019】
本発明の複合体に含まれる細胞膜透過性ペプチド及び機能性分子は、直接結合しても良く、又は、リンカーを介して間接的に結合しても良い。
【0020】
本発明の複合体が細胞膜を透過し、かつ、機能性分子の機能を示す限り、細胞膜透過性ペプチド及び機能分子を結合するために使用されるリンカーは限定されない。
【0021】
本発明の複合体の大きさ(直径、長さ等)は、細胞膜を透過することができる大きさである限り限定されるものではないが、例えば、約0.1~500nmの範囲である。また、本発明の複合体に含まれる機能性分子の長さとしては、機能性分子が例えばRNAである場合は約5000ヌクレオチド以下、DNAである場合は約2万ベースペア(以下bpと略記する)以下、ポリペプチドである場合は約3000アミノ酸以下の長さが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
3.本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドには、本発明の細胞膜透過性ペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、本発明の複合体をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
【0023】
1つの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、以下の(1)~(3)からなる群より選択される、ポリヌクレオチドである:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;及び
(3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0024】
1つの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、以下の(1)~(3)からなる群より選択される、ポリヌクレオチドである:
(1)配列番号33の塩基番号274から303までの塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(2)配列番号34の塩基番号274から303までの塩基配列を含むポリヌクレオチド;及び
(3)配列番号35の塩基番号274から303までの塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0025】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の細胞膜透過性ペプチド又は本発明の複合体のアミノ酸配列に基づいてデザインされた塩基配列に基づき、当該技術分野で公知の遺伝子合成方法(例えば、J.Biol.Chem.、1982、Vol.257、p.9226-9229)を利用して合成できる。
【0026】
4.本発明の発現ベクター
本発明の発現ベクターには、本発明の細胞膜透過性ペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び、本発明の複合体をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0027】
1つの実施形態において、本発明の発現ベクターは、以下の(1)~(3)からなる群より選択される、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターである:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター;
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター;及び
(3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【0028】
本発明のポリヌクレオチドを発現させるために用いる発現ベクターとしては、真核細胞(例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母)及び/若しくは原核細胞(例えば、エシェリキア属菌)の各種の宿主細胞、又は無細胞蛋白質合成に用いられる細胞抽出液(以下、無細胞蛋白質合成液という。例えば、コムギ胚芽抽出液、大腸菌抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、及び昆虫細胞抽出液が挙げられる)中において、本発明の細胞膜透過性ペプチド又は本発明の複合体をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを発現し、これらによりコードされるポリペプチドを産生できるものである限り、特に制限されるものではない。このような発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、センダイウイルス)等が挙げられ、好ましくは、pEU-E01-MCS(セルフリーサイエンス)、pET20b(+)(ノバジェン)、pCold vector-I(タカラバイオ)を使用することができる。
【0029】
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。動物細胞で本発明のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、Cytomegalovirus(CMV)、Respiratory syncytial virus(RSV)、Simian virus 40(SV40)などのウイルス由来プロモーター、アクチンプロモーター、elongation factor(EF)1αプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。細菌(例えば、エシェリキア属菌)で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、λPLプロモーター、tacプロモーター、T3プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターなどが挙げられる。酵母で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、上述のT3プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターなどが挙げられる。
【0030】
宿主細胞として動物細胞、昆虫細胞、若しくは酵母を用いる場合、又は、無細胞蛋白質合成液を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン及び終止コドンを含み得る。この場合、本発明の発現ベクターは、エンハンサー配列、本発明の融合ポリペプチドをコードする遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、分泌シグナル配列、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、あるいは複製可能単位などを含んでいてもよい。宿主細胞としてエシェリキア属菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域、及び複製可能単位を含み得る。この場合、本発明の発現ベクターは、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)を含んでいてもよい。
【0031】
5.本発明の形質転換された宿主細胞
本発明の形質転換された宿主細胞には、本発明の細胞膜透過性ペプチドをコードする塩基配列を含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、本発明の複合体をコードする塩基配列を含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる。
【0032】
1つの実施形態において、本発明の形質転換された宿主細胞は、以下の(1)~(3)からなる群より選択される、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞である:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0033】
形質転換する宿主細胞としては、使用する発現ベクターに適合し、該発現ベクターで形質転換されて、蛋白質を発現することができるものである限り、特に限定されるものではない。形質転換する宿主細胞としては、例えば、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞又は人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、動物細胞(例えば、CHO細胞)、昆虫細胞(例えば、Sf9)、細菌(エシェリキア属菌など)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)など)が挙げられ、好ましくは、CHO細胞、HEK293細胞、NS0細胞等の動物細胞及びエシェリキア属菌を使用することができる。
【0034】
宿主細胞を形質転換する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム法、電気穿孔法等を用いることができる。
【0035】
6.本発明の細胞膜透過性ペプチドを生産する方法
本発明の細胞膜透過性ペプチドは、当該技術分野で公知のペプチド合成法、又は、公知の遺伝子工学的手法により生産することができる。ペプチド合成法としては、例えば、固相合成法(Nature、2011、Vol.480、p.471-479)が挙げられる。遺伝子工学的手法としては、例えば、Methods in Enzymol.、1987、Vol.154、p.221-533及びPhilos.Trans.A Math.Phys.Eng.Sci.、2009、Vol.367、p.1705-1726などに示されるような方法を利用することができる。
【0036】
本発明の細胞膜透過性ペプチドを生産する方法は、本発明の宿主細胞を培養し、細胞膜透過性ペプチドを発現させる工程、又は、本発明の発現ベクターを用いて合成したmRNAを無細胞蛋白質合成液と反応させて、細胞膜透過性ペプチドを発現させる工程を含んでも良い。また、本発明の細胞膜透過性ペプチドを生産する方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、細胞膜透過性ペプチドを発現させる工程、又は、本発明の発現ベクターを用いて合成したmRNAを無細胞蛋白質合成液と反応させて細胞膜透過性ペプチドを発現させる工程に加えて、発現させた当該細胞膜透過性ペプチドを回収、好ましくは単離、精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。好ましくは、培養上清中に蓄積された細胞膜透過性ペプチドは、各種クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0037】
形質転換された宿主細胞の培養は公知の方法により行うことができる。培養条件、例えば、温度、培地のpH及び培養時間は、適宜選択される。宿主細胞を培養することにより、本発明の細胞膜透過性ペプチドを生産することができる。
【0038】
本発明の細胞膜透過性ペプチドには、本発明の細胞膜透過性ペプチドを生産する方法で生産された細胞膜透過性ペプチドも含まれる。
【0039】
7.本発明の複合体を生産する方法
本発明の複合体は、当該分野で公知の結合方法を用いて、本発明の細胞膜透過性ペプチドと機能性分子とを結合させることで、当業者により容易に生産することができる(Nucleic Acids Res.、2009、Vol.37、p.2574-2583)。
【0040】
本発明の複合体を生産する方法は、機能性分子の末端又は内部に存在する官能基を利用して、化学的な結合方法で、直接的に又はリンカーを介して間接的に細胞膜透過性ペプチドに結合させる工程を含む。その際の化学的な結合様式としては、例えば、アミド結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、S-S結合などの共有結合のほかに、イオン結合、静電的結合、分子間力結合、水素結合などの非共有結合が挙げられる。
【0041】
化学的な結合方法で結合する場合、リンカーとしては、例えば、両端に反応性基を有し、2分子を連結させうる構造を有する限り、特に限定されるものではない。該反応性基としては、例えば、マレイミド基、N-コハク酸イミドエステル基、エポキシ基、アビジン基などが挙げられる。
【0042】
1つの実施形態において、機能性分子がDNA又はRNAの場合、例えばジスルフィド結合を利用して本発明の細胞膜透過性ペプチドとDNA又はRNAを結合することができる(FEBS Letters、2004、Vol.558、p.63-68)。また、1つの実施形態において、プロタミンなどの核酸結合性ペプチドを介して、本発明の細胞膜透過性ペプチドとDNA又はRNAを結合することができる(Theranostics、2017、Vol.7、p.2495-2508)。
【0043】
1つの実施形態において、機能性分子が抗体の場合、例えば、マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド(MBS)法(NanoBiotechnology Protocols、2005、Vol.2、p.88)、カルボジイミドを用いた架橋法(Methods in Enzymol.、2012、Vol.502、p.102)、又は共役法(Wong S、 Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking、 CRC Press Inc.、Boca Raton、1993)などの公知の手法を用いて、本発明の細胞膜透過性ペプチドと抗体とを結合することができる。
【0044】
また、本発明の複合体は、本発明の細胞膜透過性ペプチド及び機能性分子をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドから、当該分野で公知の遺伝子工学的手法を用いて、当業者により容易に生産することができる(Appl.Microbiol.Biotechnol.、2006、Vol.72、p.211、Appl.Microbiol.Biotechnol.、2016、Vol.100、p.5719-5728)。
【0045】
遺伝子工学的手法を用いる場合、本発明の複合体を生産する方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、複合体を発現させる工程、又は、本発明の発現ベクターを用いて合成したmRNAを無細胞蛋白質合成液と反応させて、複合体を発現させる工程を含む。本発明の複合体を生産する方法はまた、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、複合体を発現させる工程、又は、本発明の発現ベクターを用いて合成したmRNAを無細胞蛋白質合成液と反応させて、複合体を発現させる工程に加えて、発現させた当該複合体を回収、好ましくは単離、精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、<6.本発明の細胞膜透過性ペプチドを生産する方法>に記載の方法を使用することができる。
【0046】
本発明の複合体には、本発明の複合体を生産する方法で生産された複合体も含まれる。
【0047】
8.本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物には、本発明の複合体及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が含まれる。本発明の医薬組成物は、当該分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用される方法によって調製することができる。これら医薬組成物の剤型の例としては、例えば、注射剤、点滴用剤等の非経口剤が挙げられ、静脈内投与、皮下投与等により投与することができる。製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた賦形剤、担体、添加剤等を使用することができる。
【0048】
製剤化における本発明の複合体の添加量は、患者の症状の程度や年齢、使用する製剤の剤型、又は機能性分子により異なるが、例えば、0.001mg/kg~100mg/kg程度を用いることができる。
【0049】
本発明の医薬組成物は、本発明の複合体に含まれる機能性分子の機能に応じて、様々な疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる。例えば、複合体に含まれる機能性分子がその疾患に対する治療用の化合物、ポリヌクレオチド又はポリペプチドである場合、本発明の医薬組成物はその疾患の治療又は予防のために使用することができる。
【0050】
本発明において、治療又は予防の対象となる疾患は、本発明の複合体に含まれる機能性分子の機能に応じて選択できるため、特に限定されるものではないが、例えば、癌、免疫疾患、神経系の疾患、内分泌系の疾患、心血管系の疾患などが挙げられる。
【0051】
本発明には、本発明の複合体を含む、疾患の予防又は治療用医薬組成物が含まれる。また、本発明には、本発明の複合体の治療有効量を患者に投与する工程を包含する、疾患を治療又は予防する方法が含まれる。また、本発明には、疾患の予防又は治療に使用するための、本発明の複合体が含まれる。また、本発明には、疾患の予防又は治療用医薬組成物の製造における、本発明の複合体の使用が含まれる。
【0052】
本発明において、患者は哺乳動物である限り限定されるものではなく、例えば、マウス、ラット、イヌ、ブタ、サル、ヒト等が挙げられる。
【0053】
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供する。これらは例示を目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
[実施例]
【0054】
市販のキット又は試薬等を用いた部分については、特に断りのない限り添付のプロトコールに従って実験を行った。また、便宜上、濃度mol/LをMとして表す。例えば、1M水酸化ナトリウム水溶液は1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液であることを意味する。
【0055】
以下の実施例において、各種細胞膜透過性ペプチドを「CPP」(Cell Penetrating Peptide)と総称することがある。また、以下の実施例において、「NTP」とは、アミノ酸配列RIFIHFRIGC(配列番号4。国際公開第2008/108505号)を有する細胞膜透過性ペプチドを意味し、CPPの一種である。以下の実施例では、NTPの8番目のアミノ酸残基IをQに置換したペプチドを「NTP(I8Q)」又は「NTP8Q」と称し、NTPのN末端から10番目のアミノ酸残基CをQに置換したペプチドを「NTP(C10Q)」又は「NTP10Q」と称し、NTPのN末端から8番目及び10番目のアミノ酸残基をいずれもQに置換したペプチドを「NTP(ICQ2)」と称する。
【実施例1】
【0056】
CPP-EGFP蛋白質の作製
各種細胞膜透過性ペプチド(CPP)及びEGFPを含む蛋白質(CPP-EGFP蛋白質と称する)を以下の方法で作製した。
【0057】
(1)CPP-EGFP蛋白質をコードする発現プラスミドの作製
N末端から順にNTP及びGlutathione S-transferase(GST)を融合したEGFPを含むポリペプチド(NTP-GST-EGFPと称する。配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号7)に対して、5’末端に制限酵素KpnIサイト及び開始コドン配列を、3’末端にストップコドン配列及び制限酵素NotIサイトをそれぞれ付加したポリヌクレオチド(配列番号6)を取得した。上記ポリヌクレオチドをKpnI及びNotI(タカラバイオ)で制限酵素処理し、pEU-E01-MCSプラスミド(セルフリーサイエンス)のマルチクローニングサイト上にあるKpnI及びNotIサイトの間に挿入した。これにより得られた発現プラスミドをpEU-E01-NTP-GST-EGFPと称する。当該発現プラスミドを既存のアガロース電気泳動法及びシークエンス解析を行うことにより、所望のDNAコンストラクトがクローニングされていることを確認した。
【0058】
次にpEU-E01-NTP-GST-EGFPを鋳型として、配列番号8及び9に示される塩基配列からなるプライマーを用いてインバースPCR(環状ポリヌクレオチドの一領域から外側に向けてプライマーを設計し、環状化したポリヌクレオチド全体を増幅するPCR法)を行った。これにより、NTP-GST-EGFPのNTPの8番目のアミノ酸残基IをQに置換されたポリペプチド(NTP(I8Q)-GST-EGFPと称する)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを合成した。これをIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kit(タカラバイオ)により環状化することで、発現プラスミドpEU-E01-NTP(I8Q)-GST-EGFPを作製した。
【0059】
同様に、pEU-E01-NTP-GST-EGFPを鋳型として、配列番号10及び11に示される塩基配列からなるプライマーを用いてインバースPCRを行った。これにより、NTP-GST-EGFPのNTPの10番目のアミノ酸残基CをQに置換されたポリペプチド(NTP(C10Q)-GST-EGFPと称する)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを作製した。これをIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitにより環状化することで、発現プラスミドpEU-E01-NTP(C10Q)-GST-EGFPを作製した。
【0060】
さらに、pEU-E01-NTP(C10Q)-GST-EGFPを鋳型として、配列番号12及び13に示される塩基配列からなるプライマーを用いてインバースPCRを行った。これにより、NTP-GST-EGFPのNTPの8番目及び10番目のアミノ酸残基がともにQに置換されたポリペプチド(NTP(ICQ2)-GST-EGFPと称する)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを作製した。これをIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitにより環状化することで、発現プラスミドpEU-E01-NTP(ICQ2)-GST-EGFPを作製した。これら発現プラスミドはいずれも既存のアガロース電気泳動法及びシークエンシングを行うことにより、所望のDNAコンストラクトが得られていることを確認した。
【0061】
(2)CPP-EGFP蛋白質の作製
(1)で作製した4種類の発現プラスミド(pEU-E01-NTP-GST-EGFP、pEU-E01-NTP(I8Q)-GST-EGFP、pEU-E01-NTP(C10Q)-GST-EGFP、及びpEU-E01-NTP(ICQ2)-GST-EGFP)を鋳型として、CPP-EGFP蛋白質を以下の方法で作製し、精製した。
【0062】
WEPRO7240G Expression Kit(セルフリーサイエンス)を用いて、(1)で作製した4つの発現プラスミド3μgを用いて反応液量0.29mLで各蛋白質を作製した。ここで作製した蛋白質の一部は実施例5で使用した。作製後、反応液量に対して0.1%のEmpigen(登録商標)(シグマ)を添加した。さらに、リン酸緩衝生理食塩水で飽和したGlutathione Sepharose 4B(GEヘルスケア)を100μL加えて4℃で2時間振盪した。遠心分離によりGlutathione Sepharoseを回収し、氷冷した0.1%のEmpigen(登録商標)を含むリン酸緩衝生理食塩水1mLに懸濁した。再度、遠心分離する作業を2回繰り返した。回収したGlutathione Sepharoseを150mM塩化ナトリウム含有リン酸緩衝生理食塩水1mLに懸濁した。再度、遠心分離によりGlutathione Sepharoseを分離した。
【0063】
次に、Glutathione Sepharoseに結合したCPP-EGFP蛋白質を抽出するために、以下の操作を行った。すなわち、30mMの還元型グルタチオン(和光)を含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0-9.0)80μLを上述のGlutathione Sepharoseに添加した。数分おきにタッピングしながら室温で30分間静置した後、遠心分離により上清を回収した。同じ作業を2回繰り返した。上清を回収することにより、各CPP-EGFP蛋白質を取得した。回収した上清にグリセリン(ナカライ)を終濃度20%で添加して氷上で保存した。この上清中に含まれる各CPP-EGFP蛋白質の濃度を、SDSポリアクリルアミド電気泳動法とクマシーブリリアントブルー染色法を用いて、並行して泳動したBSA(シグマ fractionV)との比較から算定した。
【実施例2】
【0064】
CPP-TALE-Activatorの作製
CPP、ヒトTERT遺伝子のエンハンサーに特異的に結合するように設計された転写活性化因子様エフェクター(TALE)及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチド(CPP-TALE-Activatorと称する)を以下の方法で作製した。なお陰性対照として、TALE及び転写活性化因子を含み、かつ、CPPを含まない融合ポリペプチド(以下、TALE-Activatorとも称する)を作製した。
【0065】
(1)発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVの作製
発現プラスミドpEU-E01-MCSのマルチクローニングサイトにGSTをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号15)、NTPをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号14)、TEVプロテアーゼの標的ペプチド(以下TEVと表記する)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号16)を5’側から順に挿入した。
【0066】
具体的には、配列番号15に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの5’末端に制限酵素EcoRVサイトを、3’末端に制限酵素BamHIサイトをそれぞれ付加したポリヌクレオチドを合成した。EcoRV及びBamHIを用いて発現プラスミドpEU-E01-MCSに上記ポリヌクレオチドを挿入することにより、発現プラスミドpEU-E01-GSTを作製した。次に、5’末端側から順に制限酵素BamHIサイト配列、NTPをコードする塩基配列(配列番号14)、TEVをコードする塩基配列(配列番号16)、制限酵素XhoIサイト配列、制限酵素SgfIサイト配列、制限酵素PmeIサイト配列、制限酵素NotIサイト配列、及び制限酵素SalIサイト配列を含むポリヌクレオチド(但し、XhoIサイトとSgfIサイトの間にはコードするアミノ酸配列のフレームを合わせるためにシトシンを挿入した)を作製した。BamHI及びSalIを用いて、前記ポリヌクレオチドを発現プラスミドpEU-E01-GSTに挿入した。その後、配列番号17及び18に示される塩基配列からなるプライマーを用いてインバースPCRを行い、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVを作製した。
【0067】
(2)プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vの作製
配列番号19に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド(TALEの一部をコードする塩基配列及びVP64(配列番号21)をコードする塩基配列を含む。ΔTALE-VP64と称する)を、(1)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVの、TEVをコードする塩基配列の直後にIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitにより組み込むことで、プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vを得た。VP64のC末端にバリンが付加されているため末尾にVを付けた名称とした。
【0068】
(3)ヒトTERT遺伝子を標的とするTALEの作製
テロメラーゼのサブユニットであるヒトTERT遺伝子(Accession No.AH007699.2)の周辺配列を公知のデータベースであるEnsembl genome browserで検索した。エンハンサーとして作用することが予想される当該遺伝子の転写開始点から下流約4万bpの遺伝子領域から、Accession No.AH007699.2の塩基番号49444~49461までの塩基配列(配列番号20に示される塩基配列)をTALEの標的塩基配列として選択した。公知の方法(Platinum Gate TALEN construction protocol(Yamamoto lab)Ver.1.0 [2017年1月26日検索]、インターネット<URL:https://www.addgene.org/static/cms/files/Platinum_Gate_protocol.pdf>)により、配列番号20に示される塩基配列に特異的に結合するように設計されたDNA結合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド(配列番号22の塩基番号429~2064までの塩基配列を含むポリヌクレオチド)を作製した。そして、T4 DNA Ligase(Quick Ligation Kit:New England BioLabs)を用いて、(2)で作製したプラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vに含まれる配列番号19の塩基番号435~889までの塩基配列からなるポリヌクレオチドを、上述の配列番号22の塩基番号429~2064までの塩基配列からなるポリヌクレオチドに置換した。これにより、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ポリペプチド(TALE_TERT-1とも称する)をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号22に示される塩基配列からなる)を含むプラスミドを取得した。なお、配列番号23のアミノ酸番号7~784までのアミノ酸配列は、配列番号20に示される塩基配列に結合するように設計された、TALEのDNA結合リピート部分及びチミン結合部分を含むポリペプチド部分である。当該プラスミドをpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64Vと称する。
【0069】
(4)CPP-TALE-Activatorをコードする発現プラスミドの作製
(3)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64Vを鋳型として、PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いて、配列番号24及び25に示される塩基配列からなるプライマーを使用したPCR反応を行った。これにより、TALE及びVP64をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドの5’末端側にSgfIサイト配列が、3’末端側にNotIサイト配列がそれぞれ付加されたポリヌクレオチドを作製した。当該ポリヌクレオチドをTALE-VP64と称する。このTALE-VP64をSgfI及びNotIで切断し、(1)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVの制限酵素サイトSgfI及びNotIの間に挿入し、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64を作製した。
【0070】
SP-dCas9-VPR(Addgene)を鋳型として、PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymeraseを用いて、配列番号26及び27に示される塩基配列からなるプライマーを使用したPCR反応を行った。これにより、VPR(配列番号28)をコードするポリヌクレオチドの5’末端側にCGCGCGTCAGCCAGC(配列番号29)を、3’末端側にGTTTAAACTGCGGCC(配列番号30)をそれぞれ付加した。当該ポリヌクレオチドをVPR-PCRと称する。
【0071】
次に、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64を鋳型として、配列番号31及び32に示される塩基配列からなるプライマーを用いたPCR反応を行った。これにより、VP64をコードする塩基配列を除去し、かつ、3’側にCGCGCGTCAGCCAGC(配列番号29)を、5‘側にGTTTAAACTGCGGCC(配列番号30)をそれぞれ付加したポリヌクレオチドを作製した。当該ポリヌクレオチドをpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-PCRと称する。
【0072】
pEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-PCR及びVPR-PCRを1対10のモル比でIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitを用いて連結させた。これにより、転写活性化因子VPRをコードする発現プラスミドを作製した。当該発現プラスミドをpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRと称する。当該発現プラスミドを既存のアガロース電気泳動法及びシークエンシングを行うことにより、所望のコンストラクトがクローニングされていることを確認した。
【0073】
次に、pEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRをAsiSI(ニューイングランドバイオラボ)及びSwaI(タカラバイオ)で制限酵素処理した。
【0074】
配列番号33、34、及び35にそれぞれ示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを合成し、それぞれAsiSI及びSwaIで制限酵素処理した。アガロース電気泳動し、約340塩基のポリヌクレオチド断片を切り出し、FastGeneゲル/PCR抽出キット(日本ジェネテクス、FG91202)を用いて精製した。当該ポリヌクレオチド断片をAsiSI及びSwaIで切断した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRにT4 DNA ligase(タカラバイオ)でそれぞれ連結した。連結して得られたプラスミドを熱処理でStblコンピテントセル(ニューイングランドバイオラボ)に導入し、100μg/mLアンピシリン(シグマ)入りLB培地寒天プレート(10g/L Bacto Trypton(ベクトンディッキンソン)、5g/L Bacto Yeast Extract(ベクトンディッキンソン)、10g/L塩化ナトリウム(和光)を含有する水溶液及び1.5%アガロース(和光)からなる)(以下、LAプレートと称する)にて、30℃で一晩培養した。得られたコロニーからプラスミドを精製し、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRのNTPをコードするポリヌクレオチド領域が、配列番号1、2、及び3をコードするポリヌクレオチドにそれぞれ置換されたpEU-E01-GST-NTP(ICQ2)-TALE-VPR、pEU-E01-GST-NTP8Q-TALE-VPR及びpEU-E01-GST-NTP10Q-TALE-VPRを得た。シークエンス解析を行うことで、上記コンストラクトが正しく作製されていることを確認した。
【0075】
(5)CPP-TALE-Activatorの作製
(4)で作製した各種CPP-TALE-Activatorをコードする発現プラスミド(pEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPR、pEU-E01-GST-NTP8Q-TALE-VPR、pEU-E01-GST-NTP10Q-TALE-VPR及びpEU-E01-GST-NTP(ICQ2)-TALE-VPR)を鋳型として、WEPRO7240G Expression KitによりCPP-TALE-Activatorを以下の方法で作製し、精製した。
【0076】
WEPRO7240G Expression Kitを用いて、(4)で作製したCPP-TALE-Activatorの発現プラスミド1μg(実施例4(2)に用いたNTP-TALE-VPRの発現プラスミドは3μg)を用いて反応液量0.29mLで各蛋白質を作製した。作製後、反応液量に対して0.1%のEmpigenを添加した。さらに、リン酸緩衝生理食塩水で飽和したGlutathione Sepharose 4Bを60μL(実施例4(2)に用いたNTP-TALE-VPRを作製した反応液に対しては100μL)加えて4℃で2時間振盪した。遠心分離によりGlutathione Sepharoseを回収し、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水1mLに懸濁した。再度、遠心分離する作業を2回繰り返した。回収したGlutathione Sepharoseを150mM塩化ナトリウム含有リン酸緩衝生理食塩水1mLに懸濁した。再度、遠心分離によりGlutathione Sepharoseを分離した。
【0077】
次に、Glutathione Sepharoseに結合したCPP-TALE-Activatorを抽出するために、以下の操作を行った。すなわち、30mMの還元型グルタチオン(和光)を含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0-9.0)80μLを上述のGlutathione Sepharoseに添加した。室温1分間振盪した後、遠心分離により上清を回収した。同じ作業を2回繰り返した。上清を回収することにより、CPP-TALE-Activatorを取得した。回収した上清中に含まれるCPP-TALE-Activator蛋白質濃度を、SDSポリアクリルアミド電気泳動法とクマシーブリリアントブルー染色法を用いて、並行して泳動したBSAとの比較から算定した。
【0078】
pEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPR、pEU-E01-GST-NTP8Q-TALE-VPR、pEU-E01-GST-NTP10Q-TALE-VPR及びpEU-E01-GST-NTP(ICQ2)-TALE-VPRから取得したポリペプチドを、それぞれ、NTP-TALE-VPR、NTP8Q-TALE-VPR、NTP10Q-TALE-VPR及びNTPICQ2-TALE-VPRと称する。
【0079】
(6)TALE-Activatorの作製
実施例4の陰性対照として、TALE及びVPRを含み、かつ、CPPを含まない融合ポリペプチド(TALE-VPRと称する)をコードする発現プラスミドを作製した。
【0080】
(4)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRを鋳型として、PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymeraseを用いて配列番号36及び37に示される塩基配列からなるプライマーを使用したインバースPCRを行った。これにより、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPRからNTP及びTEVをコードする塩基配列部分のみを除去したポリヌクレオチドを合成した。In-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitを用いてこのポリヌクレオチドをセルフライゲーションさせて発現プラスミドpEU-E01-GST-TALE-VPRを作製した。そして、アガロース電気泳動法及びシークエンシングにより所望のコンストラクトが得られていることを確認した。
【0081】
「(5)CPP-TALE-Activatorの作製」に記載された方法と同様の方法により、発現プラスミドpEU-E01-GST-TALE-VPRを鋳型として、WEPRO7240G Expression KitによりTALE-VPRを作製し、精製した。
【実施例3】
【0082】
細胞膜透過性実験(EGFP実験)
ヒト肺がん由来細胞A549(ATCC(登録商標) CCL-185)を10%ウシ胎児血清(GEヘルスケア)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック)含有RPMI培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)に懸濁し、96ウェル培養プレート(岩城硝子)に0.2×10細胞/100μL/ウェルで播種した。36時間培養後、各ウェルに実施例1で作製したNTP-GST-EGFP、NTP(I8Q)-GST-EGFP、NTP(C10Q)-GST-EGFP及びNTP(ICQ2)-GST-EGFPの各蛋白質を最終濃度30nMになるように3-3.7μLを添加した。陰性対照としてEGFP(フナコシ)を同様に最終濃度30nMになるようにリン酸緩衝生理食塩水で濃度を調整して3μL添加した。コントロールはリン酸緩衝生理食塩水のみを3μL添加した。24時間後に各ウェル100μLのリン酸緩衝生理食塩水で細胞を洗浄した。上記培地を100μL添加し、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-8100(キーエンス)を用いて、10倍拡大検鏡下でGFPによる緑色発光が見られる細胞数を計測した。計測方法は検鏡した画像から同一の一定視野における緑色発光細胞数をカウントし、これを同じく計測した視野にある総細胞数で除し、3回計測した平均値を求めることにより、上記融合蛋白質群が細胞内に透過して作用した細胞数を比較した。
【0083】
結果を図1に示す。NTP-GST-EGFP、NTP(I8Q)-GST-EGFP、NTP(C10Q)-GST-EGFP及びNTP(ICQ2)-GST-EGFPは、コントロール及びEGFPと比較して、GFP陽性細胞数が高いことが認められた。以上より、配列番号1、2及び3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは細胞膜透過性を有することが示された。
【実施例4】
【0084】
(1)CPP-TALE-Activator添加時の細胞内ヒトTERT mRNA発現量の測定
実施例2で作製したCPP-TALE-Activator(NTP-TALE-VPR、NTPICQ2-TALE-VPR、NTP8Q-TALE-VPR及びNTP10Q-TALE-VPR)を微量透析カラム(トミー)でOPTIMEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)に対して4℃で3時間透析した。精製後の濃度は50nMであった。
【0085】
ヒト臍帯マトリクス由来間葉系幹細胞(プロモセル C-12971。以下UC-MSCと称する)をMSCGM-CD間葉系幹細胞増殖培地BulletKit(ロンザジャパン、00190632)で懸濁し、96ウェル コラーゲンI コーティング透明培養プレート(コーニング)へ0.4×10細胞/100μL/ウェルとなるように播種した。CO濃度5%、37℃に設定したCOインキュベーター内で12時間静置した後に、240nMの各CPP-TALE-Activatorを最終濃度がそれぞれ0.25、1、3、10及び30nMになるように添加した。37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で24時間静置した。コントロールとして、CPP-TALE-Activatorを添加しないウェルを作製した。
【0086】
24時間後の細胞内のヒトTERT mRNA発現量を以下の方法で測定した。上述の培養細胞の各ウェルから培養上清を除去し、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水で一度洗浄した。その後、Ambion(登録商標) Power SYBR Cells-to-CTTM kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック)に付属の溶解液(Lysis solution 24.5μL及びDNaseI 0.5μLの混合溶液)25μLを各ウェルに添加して、細胞と混合した。室温で5分静置した後、上記キットに付属のStop solutionを各ウェル2.5μL加えて室温で2分静置した。これにより細胞から抽出されたRNAを含む細胞溶解液が得られた。
【0087】
上記細胞溶解液を鋳型として、上記キットに付属の逆転写酵素を用い、そのプロトコールに従ってRNAからcDNAを作製した。次いで、下記のプライマー及び上記キットに付属のPower SYBR Green PCR Master Mixを用いて、CFX96 Touch リアルタイムPCR解析システム(バイオラッド)でReal Time-PCRを行い、ヒトTERT mRNA量を測定した。 内在性コントロール遺伝子として、ヒトアクチンベータ(ACTB)mRNA量を測定した。ヒトTERT mRNA量をヒトACTB mRNA量で除した値をヒトTERT mRNA相対発現量とした。コントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、各群のヒトTERT mRNA相対発現量を算出した。なお同一試料について各3ウェル実施した。
【0088】
TERT Forward primer及びTERT Reverse primerとして、配列番号38及び39に示される塩基配列からなるプライマーをそれぞれ使用した。また、ACTB Forward primer及びACTB Reverse primerとして、配列番号40及び41に示される塩基配列からなるプライマーをそれぞれ使用した。
【0089】
図2に示す通り、未添加のUC-MSCに比較して、CPP-TALE-Activator添加群は細胞内のヒトTERT mRNA量を最大で19倍に増加させた。
【0090】
(2)NTP-TALE-VPR及びTALE-VPR添加時の細胞内ヒトTERT mRNA発現量の測定
UC-MSCを20%ウシ胎児血清(GEヘルスケア)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック)及び2mM L-Glutamine(サーモフィッシャーサイエンティフィック)含有DMEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)(以下、20%FCS-DMEM培地と称する)に懸濁し、96ウェル透明培養プレート(岩城硝子)へ0.4×10細胞/100μL/ウェルとなるように播種した。CO濃度5%、37℃に設定したCOインキュベーター内で12時間静置した。20%FCS-DMEM培地で300nMに濃度調整をしたNTP-TALE-VPRを、ウェル内終濃度が0.25nMになるように添加した。また、20%FCS-DMEM培地で300nMに濃度調整をしたCPPを付加しない陰性コントロールTALE-VPRを、ウェル内終濃度が0.25、1、3、10及び30nMになるようにそれぞれ添加した。これらを37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で24時間静置した。なおコントロールとして何も添加しないウェルを作製した。氷冷したリン酸緩衝生理食塩水100μLで2回洗浄した後、当該培養プレートを液体窒素で処理して細胞を凍結した。
【0091】
上述の培養プレートを氷上に静置して融解すると同時に、TaqMan(登録商標)Gene Expression Cells-to-CTTM kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック)に付属の溶解液(Lysis solution 29.7μL及びDNaseI 0.3μLの混合溶液)30μLを各ウェルに添加して細胞と混合した。室温で5分静置した後、上記キットに付属のStop solutionを各ウェル3μL加えて室温で5分静置した。これにより細胞から抽出されたRNAを含む細胞溶解液が得られた。
【0092】
上記細胞溶解液を鋳型として、TaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mix(サーモフィシャーサイエンティフィック)を用いて、7900HT Fast Real Time PCR System(アプライドバイオシステムズ)でReal Time-PCRを行い、ヒトTERT mRNA量を測定した。内在性コントロールとしてヒトACTB mRNA量を測定した。ヒトTERT mRNA量をヒトACTB mRNA量で除した値をヒトTERT mRNA相対発現量とした。コントロールのヒトTERT mRNA相対発現量を1としたときの、各群のヒトTERT mRNA相対発現量を算出した。なお同一試料について各3ウェル実施した。
ヒトTERTのプライマーのセットとして、TERT FAM(アプライドバイオシステムズ、Hs00972648_g1)を、ヒトACTBのプライマーのセットはACTB VIC(アプライドバイオシステムズ、Hs99999903_m1)を使用した。
図3に示す通り、TALE-VPR添加群はNTP-TALE-VPR添加の場合と異なり、細胞内のヒトTERT mRNA量の顕著な増加は見られなかった。
(1)と(2)の結果、CPP-TALE-Activatorによる細胞内のヒトTERT mRNA量の増加は、CPPによる細胞膜透過性に依存することが分かった。以上より、配列番号1、2及び3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは細胞膜透過性を有することが示された。
【0093】
上記実施例3及び4の結果から、本発明のペプチドは、ペプチドに結合した機能性分子を細胞内に送達することができることが示された。また、当該結果から、本発明の複合体は、細胞内に移行(透過)することができることが示された。さらに、本発明のペプチドにより細胞内に移行した機能性分子及び本発明の複合体は、細胞内でその機能を発揮することが示された。
【実施例5】
【0094】
CPP-EGFP蛋白質のGFP-FSEC分析
実施例1で作製した各CPP-EGFP蛋白質の凝集性を検討するため、GFP-FSEC法により各蛋白質の可溶画分の分析を行った。
GFP-FSEC法は、蛍光検出機を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてGFP融合蛋白質を検出する方法である。
【0095】
HPLCに使用した機材は、HPLCカラム、オートサンプラー(SIL-HTC、島津製作所)、送液のためのポンプ(LC-10ADVP、島津製作所)、デガッサー(DGU-14A、島津製作所)、カラムオーブン(CTO-10ACVP、島津製作所)及び蛍光検出器(RF-10AXL、島津製作所)である。HPLCカラムとして、ENrichTMSEC650 10×300カラム(バイオラッド)を用いた。検出器は、Ex488nm、Em508nmで設定した。クロマトグラム表示ソフトとシグモイド計算ソフトはLCSolutions ver.1.25(島津製作所)、及びFSECplotter2 (オープンソースソフトウェア、TaizoAyase、https://libraries.io/github/TaizoAyase/FSECplotter2(2018年10月18日))をそれぞれ用いた。
実施例1で作製したCPP-EGFP蛋白質、すなわち、NTP-GST-EGFP、NTP(I8Q)-GST-EGFP、NTP(C10Q)-GST-EGFP及びNTP(ICQ2)-GST-EGFPの粗製試料各25μL(CPP-EGFP蛋白質5μg含有)にリン酸緩衝液75μLを加えた。1.5mLマイクロチューブ内で混合し、4℃15分間毎分回転数15,000で遠心分離し、可溶画分の分離を行った。可溶画分をそれぞれ96ウェルプレートに移し、各試料50μLをリン酸緩衝液で平衡化したカラムに順次添加した。流速は1.0 mL/minでゲルろ過クロマトグラフィーを実施した。検出したGFP融合蛋白質量を分子量に沿ってシグモイド計算ソフトFSECplotter2によりグラフ化した。
結果を図4A及び図4Bに示す。NTP-GST-EGFPは可溶画分中にほぼ検出されなかった(図4B)。一方NTP(I8Q)-GST-EGFP、NTP(C10Q)-GST-EGFP及びNTP(ICQ2)-GST-EGFPは顕著に低分子量のピークが検出された。したがってNTP-GST-EGFPと比較して、NTP(C10Q)-GST-EGFP、NTP(I8Q)-GST-EGFP及びNTP(ICQ2)-GST-EGFPの溶解性が改善されたことが認められた。
また、本実施例の検出結果においては、高分子量と低分子量に2つのピークが見られた(図4A(1)-(4))。低分子量のピークが各CPP-EGFP蛋白質であり、高分子量のピークが凝集体を示している。それらのピークの蛋白質の比率を比較すると、NTP-GST-EGFPは高分子量と低分子量のピークが同程度であるのに対して、NTP(ICQ2)-GST-EGFP、NTP(I8Q)-GST-EGFP及びNTP(C10Q)-GST-EGFPは、この順でより低分子量のピークが大きく、高分子量のピークが小さいことが確認された。
以上の結果から、NTP(C10Q)-GST-EGFP、NTP(I8Q)-GST-EGFP及びNTP(ICQ2)-GST-EGFPの各蛋白質は、NTP-GST-EGFPと比較して、高分子量の凝集体の形成が低減することが示された。
上記4種の融合蛋白質のGST-EGFP部分は同一の構造であることから、本発明の細胞膜透過性ポリペプチドNTP(I8Q)、NTP(C10Q)及びNTP(ICQ2)は、NTPと比較して、融合させた蛋白質の凝集性を低減させて溶解性を改善し、融合蛋白質の生産、精製に有用な性質を付与することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の細胞膜透過性ペプチドは、機能性分子を細胞内に送達させるのに有用であると期待される。本発明の複合体は、各種試薬及び医薬組成物の構成成分として有用であると期待される。また、本発明のポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換された宿主細胞及び蛋白質を生産する方法は、前記細胞膜透過性ペプチド及び前記複合体を生産するのに有用であると期待される。
【配列表フリーテキスト】
【0097】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列番号1、2、3及び4に示されるアミノ酸配列はそれぞれ、NTP(ICQ2)、NTP(I8Q)、NTP(C10Q)及びNTPのアミノ酸配列である。配列番号5に示されるアミノ酸配列は、NTP-GST-EGFPのアミノ酸配列である。配列番号6に示される塩基配列は、配列番号7に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの5’末端に制限酵素KpnIサイト及び開始コドン配列を、3’末端にストップコドン配列及び制限酵素NotIサイトをそれぞれ付加したポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号7に示される塩基配列は、NTP-GST-EGFPをコードする塩基配列である。配列番号8-13、17、18、24-27、31、32、36-41に示される塩基配列は、各プライマーの塩基配列である。配列番号14に示される塩基配列は、NTPをコードする塩基配列である。配列番号16に示される塩基配列は、TEVをコードする塩基配列である。配列番号19に示される塩基配列は、ΔTALE-VP64の塩基配列である。配列番号21に示されるアミノ酸配列は、VP64のアミノ酸配列である。配列番号22に示される塩基配列は、TALE_TERT-1の塩基配列であり、配列番号23で示されるアミノ酸配列は、配列番号22に示される塩基配列によりコードされるTALE_TERT-1のアミノ酸配列である。配列番号28に示されるアミノ酸配列は、VPRのアミノ酸配列である。配列番号29及び30に示される塩基配列は、それぞれVPR-PCRの5’末端側及び3’末端側の塩基配列である。配列番号33に示される塩基配列は、NTP(ICQ2)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号34に示される塩基配列は、NTP(I8Q)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号35に示される塩基配列は、NTP(C10Q)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドの塩基配列である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
【配列表】
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