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特許7250304タービン駆動用ガスジェネレータの推進剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】タービン駆動用ガスジェネレータの推進剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/23 20060101AFI20230327BHJP
   C10L 1/02 20060101ALI20230327BHJP
   F02C 3/24 20060101ALI20230327BHJP
   F02K 7/16 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C10L1/23
C10L1/02
F02C3/24
F02K7/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018179736
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020050721
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】湊 亮二郎
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表昭60-501616(JP,A)
【文献】特開平08-042396(JP,A)
【文献】特表2002-537218(JP,A)
【文献】特開平04-091193(JP,A)
【文献】特開平05-331468(JP,A)
【文献】特開昭56-159290(JP,A)
【文献】特開平08-034982(JP,A)
【文献】特開2003-193073(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0119644(US,A1)
【文献】特開2015-107895(JP,A)
【文献】特表平10-500710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/23
C10L 1/02
F02C 3/24
F02K 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールとニトロメタンとを混合してなり、前記アルコールよりも前記ニトロメタンの重量の方が大きくなるように混合されているタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤。
【請求項2】
前記アルコールは、エタノール、メタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンからなる群より少なくとも一つが選択される、
請求項1に記載のタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤。
【請求項3】
アルコールとニトロメタンとを混合してなり、前記アルコールは、エタノールであり、前記エタノールに対する前記ニトロメタンの重量比は、0.8~2.5の範囲内であるタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤。
【請求項4】
メチルアミンが添加されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載のタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤の製造方法であって、
前記アルコールと前記ニトロメタンとをそれぞれ計量する計量工程と、
前記計量工程で計量された前記アルコールと前記ニトロメタンとを混合する混合工程と、
を含むタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン駆動用ガスジェネレータの推進剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスジェネレータサイクル・エアターボラムジェットエンジン(以下、「GG-ATRエンジン」と称する。)は、従来のジェットエンジンよりも高い推重比を有するため、小型無人超音速機用のエンジンとして有望視されている。例えば、非特許文献1には、燃料であるエタノールと酸化剤である液体酸素とを別々にガスジェネレータに供給して燃焼ガスを発生させるGG-ATRエンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】湊 亮二郎、GG-ATRエンジンのシステム作動特性について、室蘭工業大学航空宇宙機システム研究センター年次報告書、第2014巻、p.20-22、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エタノール及び液体酸素からなるGG-ATRエンジンの推進剤は、毒性がなく、高い推力を得ることができる。しかし、液体酸素は、約-180℃の沸点を有する極低温流体であるため、GG-ATRエンジンのタンクに液体酸素を充填するには、多くの手間を要する。また、GG-ATRエンジンの作動を容易にするには、さらなる安全性を有し、常温でも貯蔵可能な推進剤が必要である。そして、このような問題は、GG-ATRエンジン用推進剤に限られず、他のタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤にも存在している。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、ユーザにとって取り扱いが容易であり、常温でも貯蔵可能なタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤は、
アルコールとニトロメタンとを混合してなり、前記アルコールよりも前記ニトロメタンの重量の方が大きくなるように混合されている。
【0007】
前記アルコールは、エタノール、メタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンからなる群より少なくとも一つが選択されてもよい。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係るタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤は、
アルコールとニトロメタンとを混合してなり、前記アルコールは、エタノールであり、前記エタノールに対する前記ニトロメタンの重量比は、0.8~2.5の範囲内である。
【0010】
メチルアミンが添加されていてもよい。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の第の観点に係るタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤の製造方法は、
前記タービン駆動用ガスジェネレータの推進剤の製造方法であって、
前記アルコールと前記ニトロメタンとをそれぞれ計量する計量工程と、
前記計量工程で計量された前記アルコールと前記ニトロメタンとを混合する混合工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ユーザにとって取り扱いが容易であり、常温でも貯蔵可能なタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係るガスジェネレータサイクル・エアターボラムジェットエンジンの構成を示す図である。
図2】エタノール及びニトロメタンの物性値を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る推進剤の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4】実施例1における燃焼シミュレーションの解析条件を示す図である。
図5】実施例1における比スラストとガスジェネレータ燃焼温度との関係を示すグラフである。
図6】実施例1におけるIspとガスジェネレータ燃焼温度との関係を示すグラフである。
図7】実施例1におけるラム燃焼器温度とガスジェネレータ燃焼温度との関係を示すグラフである。
図8】実施例1におけるエタノールに対するニトロメタンの重量比とガスジェネレータ燃焼温度との関係を示すグラフである。
図9】実施例2における比スラストとガスジェネレータ燃焼温度との関係を示すグラフである。
図10】実施例2におけるIspとガスジェネレータ燃焼温度との関係を示すグラフである。
図11】実施例2におけるラム燃焼器温度とガスジェネレータ燃焼温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係るタービン駆動用ガスジェネレータの推進剤及びその製造方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付している。
【0015】
なお、実施の形態では、タービン駆動用ガスジェネレータの推進剤及びその製造方法をガスジェネレータサイクル・エアターボラムジェット(Gas Generator Cycle Air Turbo Ramjet:GG-ATR)エンジンに適用する場合を例に説明するが、本発明はこの場合に限られない。
【0016】
図1を参照して、GG-ATRエンジンの構成を説明する。GG-ATRエンジンは、ラムジェットエンジンの一種である。ラムジェットエンジンは、エアインテークで生じるラム圧により圧縮された圧縮空気に対して燃料を吹き付けて燃焼させることで推力を得るジェットエンジンである。
【0017】
ラムジェットエンジンは、マッハ3~5程度の超音速飛行に適しており、圧縮機による空気の圧縮が不要であるため、ターボジェットエンジンよりも構造が簡易である。その一方で、ラムジェットエンジンは、圧縮機による空気の圧縮が不要な所定の速度域に機体を到達させるため、別の推進系を必要とする。エアターボラムジェットエンジンは、ラムジェットエンジンの内部に、例えば、圧縮機のようなターボジェットエンジンと同等の機構を備えることで、機体が所定の速度域に達するまでターボジェットエンジンとして機能するように構成されている。
【0018】
GG-ATRエンジンは、推進剤をガスジェネレータで燃焼させることで発生した燃焼ガスをタービンに供給し、タービンで燃焼ガスと圧縮された空気とを混合して更に燃焼させるように構成されている。
【0019】
図1は、実施の形態に係るGG-ATRエンジンの一部を長手方向に切断した断面図である。GG-ATRエンジン1は、タンク11と、エアインテーク12と、圧縮機13と、ガスジェネレータ14と、タービン15と、ラム燃焼器16と、ノズル17と、を備える。
【0020】
タンク11は、ガスジェネレータ14に配管等を介して接続され、ガスジェネレータ14に供給する推進剤を貯蔵するタンクである。タンク11は、例えば、一液系推進剤であれば単一のタンクでよいが、燃料と酸化剤が必要な二液系推進剤であれば、燃料用のタンクと酸化剤用のタンクとを別々に備えて置く必要がある。
【0021】
エアインテーク12は、GG-ATRエンジンの先端側に配置され、前方から取り入られた空気を圧縮機13に供給する。
【0022】
圧縮機13は、エアインテーク12の後方に配置され、圧縮機13に機械的に接続されたタービン15が駆動されることでエアインテーク12から取り込んだ空気を圧縮し、タービン15に供給する。圧縮機13は、タービン15に接続された回転軸と、当該回転軸の外周面から径方向に延びる複数のブレードと、を備える。エアインテーク12から取り込まれた空気は、回転するブレードにより圧縮されて後方に排出される。
【0023】
ガスジェネレータ14は、タンク11から推進剤が供給されるようにタンク11に接続され、タンク11から供給された推進剤を燃焼させ、発生した高温・高圧の燃焼ガスをタービン15に供給する。
【0024】
タービン15は、圧縮機13の後方に配置され、ガスジェネレータ14から供給された高温・高圧の燃焼ガスにより駆動され、圧縮機13を駆動させる。タービン15は、圧縮機13に接続された回転軸と、当該回転軸の外周面から径方向に延びる複数の耐熱性ブレードとを備える。タービン15の回転軸は、圧縮機13の回転軸と中心軸が一致するように接続されている。タービン15を構成する耐熱性ブレードの耐熱温度は約1100Kである。ガスジェネレータ14から供給された燃焼ガスは、タービン15の耐熱性ブレードに噴射されることでタービン15を駆動させた後、タービン15の後方に排出される。
【0025】
ラム燃焼器16は、タービン15の後方に配置され、タービン15から排出された燃焼ガスと圧縮機13から供給された圧縮空気とを混合して、高温・高圧の燃焼ガスを更に燃焼させる。
【0026】
ノズル17は、ラム燃焼器16の後方に配置され、ラム燃焼器16で更に燃焼された燃焼ガスを後方に噴射する。ノズル17から燃焼ガスが噴射されることで、GG-ATRエンジンは推力を発生する。以上が、GG-ATRエンジンの構成である。
【0027】
次に、実施の形態に係るGG-ATRエンジン用推進剤の組成を説明する。GG-ATRエンジン用推進剤は、燃料であるアルコールと酸化剤であるニトロメタンとの混合物である。
【0028】
図2は、アルコールの一例としてのエタノールとニトロメタンとの物性値を示す。図2に示す融点及び沸点から理解できるように、ニトロメタン及びエタノールは、いずれも常温で液体である。ニトロメタンは、アルコール分子とよく混ざり合う性質を有しており、両者を混合した状態で保存することができる。このため、アルコールとニトロメタンとを予め混合することで、二液系推進剤であっても実質的に一液系推進剤のように扱うことができる。
【0029】
推進剤のアルコールは、低級アルコールであることが好ましく、第一級アルコールであることがさらに好ましい。推進剤のアルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等であるが、エタノール、メタノール、プロパノールであることが好ましく、エタノールであることがさらに好ましい。エタノールは、例えば、サトウキビ、トウモロコシ等のバイオマスを発酵・蒸留させて得られるバイオエタノール、他の発酵エタノール、合成エタノール等であってもよい。
【0030】
推進剤のアルコールは、単一の組成物から構成される場合に限られず、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリン等からなる群のうち少なくとも2つの種類のアルコールを混合したものであってもよい。複数種類のアルコールを混合する場合、例えば、C、H、Oの組成がエタノールと実質的に同一となるように混合することが好ましい。
【0031】
推進剤のニトロメタンは、燃料であるアルコールを酸化するための酸化剤としての役割を持つ。ニトロメタンは、外部からの衝撃に対して敏感でなく、その爆発力は黒色火薬と同程度である。そして、ニトロメタンは、アルコールと混合することで爆発の危険性が更に低減されるため、比較的容易に取り扱うことができる。
【0032】
ニトロメタンは、毒性が比較的低いため、その取り扱いが容易である。ニトロメタンの半数致死量(Lethal Dose, 50%:LD50)は、約940mg/kgである。LD50は、投与した動物の半数が死亡する用量である。ニトロメタンのLD50は、300mg/kg以上であるため、毒物・劇物取締法の毒物・劇物に該当せず、特別な管理を要しない。
【0033】
エタノールとニトロメタンとの重量比は、GG-ATRエンジン1の耐熱性を考慮すると、例えば、エタノール1.0に対してニトロメタンが約0.8~約2.5の範囲内であり、約1.4~約2.0の範囲内であることが好ましく、約1.7~約1.9の範囲内であることがさらに好ましい。
【0034】
GG-ATRエンジンは、ガスジェネレータ14の燃焼温度(以下、「GG燃焼温度」と略称する。)が高温であるほど、推進効率が向上する。タービン15を構成する耐熱性ブレードの耐熱温度が約1100Kであるため、GG燃焼温度が1100Kとなるようにエタノールとニトロメタンとの重量比を設定することが好ましい。GG燃焼温度を約1100Kとするには、エタノールとニトロメタンとの重量比は、エタノール1.0に対してニトロメタン約1.8とすればよい。
【0035】
GG-ATRエンジン用推進剤には、エタノール及びニトロメタンの混合物に、微量のメチルアミンを添加してもよい。ニトロメタン単体では着火性が低いため、微量のメチルアミンを添加することで推進剤の着火性を向上できる。メチルアミンは、重量比でエタノールの約1/10以下の量であることが好ましい。さらに言えば、エタノールとニトロメタンとメチルアミンとの重量比は、エタノール1.0に対してニトロメタンが約1.8、メチルアミンが約0.1であることが好ましい。
【0036】
次に、図3を参照して、GG-ATRエンジン用推進剤の製造工程の流れを説明する。図3は、GG-ATRエンジン用推進剤の製造工程の流れを示すフローチャートである。以下、GG-ATRエンジン用推進剤のアルコールとしてエタノールを選択した場合を例に説明する。
【0037】
まず、GG-ATRエンジン用推進剤を構成する材料であるエタノールとニトロメタンとを計量する(ステップS1)。ステップS1では、例えば、エタノール:ニトロメタン=1.0:1.8の重量比となるように、エタノールとニトロメタンとを計量する。
【0038】
次に、ステップS1で計量されたエタノールとニトロメタンとを容器内で混合する(ステップS2)。より詳細に説明すると、タンク11に投入する前に、ステップS1で計量されたエタノールとニトロメタンとを予め別の容器に投入して混合することで、ステップS2の工程を実行してもよい。また、ステップS1で計量されたエタノールとニトロメタンとをそれぞれタンク11に直接投入することで、ステップS2の工程を実行してもよい。
【0039】
なお、GG-ATRエンジン用推進剤に微量のメチルアミンを添加する場合は、ステップS1でメチルアミンを計量し、ステップS2でメチルアミンをエタノール及びニトロメタンと共に混合すればよい。以上が、GG-ATRエンジン用推進剤の製造工程の流れである。
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
本検証では、GG-ATRエンジンの燃焼状態を解析するための解析モデルを作成し、当該解析モデルを用いて対象となる燃料を燃焼させた場合の燃焼状態のシミュレーションを実施した。この燃焼シミュレーションは、ギブス自由エネルギ最小化法による化学平衡計算を利用したものである。なお、アメリカ航空宇宙局等の研究機関においても、CEA(Chemical Equilibrium Application)等を用いた解析により、ロケットエンジンにおけるケロシンやエタノールの燃焼シミュレーションが実施されており、実際の燃焼結果によく近似することが実証されている。
【0042】
本検証では、本発明のエタノールCOHとニトロメタンCHNOとの混合物である「エタノール-ニトロメタン」に加えて、比較のためにヒドラジンN(一液系推進剤)、末端水酸基ポリブタジエンと過塩素酸アンモニウムNHClOとの混合物である「末端水酸基ポリブタジエン-過塩素酸アンモニウム」(固定推進剤)、ケロシンn-C1226と過酸化水素H(濃度60%又は100%)との混合物である「ケロシン-過酸化水素」(二液系常温推進剤)をそれぞれ燃焼させた場合の燃焼シミュレーションをそれぞれ実施した。以下、「末端水酸基ポリブタジエン-過塩素酸アンモニウム」は、HTPB-AP(Hydroxyl Terminated Poly Butadiene-Ammonium Perchlorate)と略称する。
【0043】
ヒドラジンは、自己着火性を有しているが、LD50が60mg/kgであり、極めて高い毒性を有する。HTPB-APは、固体推進剤であるため取り扱いが容易であると共に燃料供給用の配管が不要であるが、推力コントロールが困難である。また、HTPB-APは、火薬類取締法の規制の対象であるため厳重な管理が要求される。ケロシン-過酸化水素は、過酸化水素が高濃度の場合、爆発の危険がある。
【0044】
なお、HTPB-APをGG-ATRエンジンで実際に燃焼させる場合、燃焼を安定させるために、例えば、アルミニウム、マグネシウム等の金属粉末を混合させる必要がある。他方、本検証では、計算の簡略化のため、金属粉末を混合しない状態で燃焼シミュレーションを実施した。
【0045】
図4は、燃焼シミュレーションにおけるエンジンパラメータ条件を示す。HTPB-APの場合、その他の推進剤の場合と比べてガスジェネレータ14の燃焼圧力及びタービン15の膨張比を高く設定できるため、ガスジェネレータ14の燃焼圧力を4.5MPa(abs)とし、タービン15の膨張比を16とした。そして、図4に示す条件のもとで燃焼状態の解析を実施した。
【0046】
以下、図5図8を参照して、燃焼シミュレーションの結果を示す。図5は、各推進剤を燃焼させた場合の比スラストのシミュレーション結果を示すグラフである。縦軸は、比スラスト(kgf sec/kg)であり、横軸は、GG燃焼温度(K)である。比スラストは、空気流量当たりの推力である。
【0047】
GG燃焼温度が1100K以下の場合、エタノール-ニトロメタンの比スラストが他の推進剤よりも高くなることが理解できる。また、エタノール-ニトロメタンの比スラストは、約1000K~約1050Kの範囲内で最大となる。タービン15の耐熱性ブレードの耐熱性を考慮すると、GG燃焼温度は約1100K以下に抑える必要があるため、実用域ではエタノール-ニトロメタンが比スラストにおいて最も優れている。
【0048】
図6は、各推進剤を燃焼させた場合のIspのシミュレーション結果を示すグラフである。縦軸は、Isp(sec)であり、横軸は、GG燃焼温度(K)である。Ispは、比インパルスとも呼ばれ、単位燃料質量流量当たりの発生推力であり、自動車用エンジンの燃費に相当する。
【0049】
GG燃焼温度が1100K以下の場合、エタノール-ニトロメタンのIspは、HTPB-APよりも高いことが理解できる。また、GG燃焼温度が約1100Kの付近において、エタノール-ニトロメタンのIspは、NのIspとよく一致していることが理解できる。Nの有毒性を考慮すると、エタノール-ニトロメタンの優位性が高いと判断できる。
【0050】
図7は、各推進剤を燃焼させた場合のラム燃焼器温度のシミュレーション結果を示すグラフである。縦軸は、ラム燃焼器16の温度(K)であり、横軸は、GG燃焼温度(K)である。ラム燃焼器温度は、この数値が大きいほどGG-ATRエンジンの推進効率が向上する。
【0051】
エタノール-ニトロメタンの場合、GG燃焼温度が約1100Kのとき、ラム燃焼器温度が最大値となったのに対し、HTPB-APの場合、GG燃焼温度が1300Kのとき、ラム燃焼器温度が最大値となった。このことは、HTPB-APの場合、GG燃焼温度を比較的高めに設定する必要があるのに対し、エタノール-ニトロメタンの場合、タービン15の耐熱温度の上限値までGG燃焼温度を設定すれば、ラム燃焼器温度を最大化できることを示している。
【0052】
図8は、エタノールとニトロメタンとの重量比を変化させた場合のGG燃焼温度のシミュレーション結果を示すグラフである。縦軸は、エタノール(F)に対するニトロメタン(O)の比、横軸は、GG燃焼温度(K)である。
【0053】
タービン15の耐熱性を考慮すると、GG燃焼温度が約1100Kに設定する必要があるが、このときのO/F比が約1.8である。このため、エタノールとニトロメタンとの重量比がエタノール:ニトロメタン=1.0:1.8であることが好ましいことが理解できる。
【0054】
(実施例2)
本検証では、実施例1と同一のGG-ATRエンジンの燃焼状態を解析するための解析モデルを用いて、エタノール-ニトロメタン、メタノールとニトロメタンとからなる推進剤(以下、「メタノール-ニトロメタン」と称する。)、エタノール-ニトロメタンにメチルアミンを添加した推進剤(以下、「メチルアミン添加推進剤」と称する。)を燃焼させた場合における燃焼状態のシミュレーションを実施した。
【0055】
各シミュレーションにおけるエンジンパラメータ条件は、図4の「エタノール-ニトロメタン」の場合と同一である。なお、なお、メチルアミン添加推進剤は、エタノール90%、メチルアミン10%の重量比で燃料を含むものとした。
【0056】
図9は、図5と同様に、各推進剤を燃焼させた場合の比スラストのシミュレーション結果を示すグラフである。縦軸は、比スラスト(kgf sec/kg)であり、横軸は、GG燃焼温度(K)である。メチルアミン添加推進剤の比スラストは、エタノール-ニトロメタンとほぼ一致する。また、メタノール-ニトロメタンの比スラストは、GG燃焼温度が約1000K以下の範囲においてエタノール-ニトロメタンよりも大きいことが見て取れる。
【0057】
図10は、図6と同様に、各推進剤を燃焼させた場合のIspのシミュレーション結果を示すグラフである。縦軸は、Isp(sec)であり、横軸は、GG燃焼温度(K)である。メチルアミン添加推進剤のIspは、エタノール-ニトロメタンと略一致する。また、メタノール-ニトロメタンのIspは、GG燃焼温度が約1050K以下の範囲においてエタノール-ニトロメタンよりも大きいことが見て取れる。
【0058】
図11は、図7と同様に、各推進剤を燃焼させた場合のラム燃焼器温度のシミュレーション結果を示すグラフである。縦軸は、ラム燃焼器16の温度(K)であり、横軸は、GG燃焼温度(K)である。メチルアミン添加推進剤のラム燃焼器温度は、エタノール-ニトロメタンと略一致する。また、メタノール-ニトロメタンのラム燃焼器温度は、GG燃焼温度が約1000K以下の範囲においてエタノール-ニトロメタンよりも大きいことが見て取れる。
【0059】
以上から、エタノール-ニトロメタンに着火性を向上させるためのメチルアミンを添加しても、エタノール-ニトロメタンと同等の推進性能を実現できることを確認できた。また、GG-ATRエンジン用推進剤のエタノールをメタノールに置き換えたとしても、エタノール-ニトロメタンとほぼ同等の推進性能を実現できることを確認できた。
【0060】
なお、エタノール-ニトロメタンは、小型ガソリンエンジンの助燃剤としても用いられている。しかし、GG-ATRエンジンと小型ガソリンエンジンとでは、エタノール-ニトロメタンの燃焼形態が大きく異なる。より詳細に説明すると、GG-ATRエンジンでは、ガスジェネレータ14において酸素が存在しない状態でメタノール-ニトロメタン自体が燃焼されるのに対し、小型ガソリンエンジンでは、燃料であるガソリンの燃焼を助けるために用いられ、酸素が供給されている状態でガソリンと共に燃焼される。
【0061】
(変形例)
本発明は上記の実施形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0062】
上記実施の形態では、アルコールとメチルアミンとを含む推進剤をGG-ATRエンジ用推進剤として用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、アルコールとメチルアミンとを含む推進剤を他のタービン駆動用ガスジェネレータに用いてもよい。タービン駆動用ガスジェネレータは、例えば、ロケットエンジン用のターボポンプを駆動するために用いられてもよい。
【0063】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 GG-ATRエンジン
11 タンク
12 エアインテーク
13 圧縮機
14 ガスジェネレータ
15 タービン
16 ラム燃焼器
17 ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
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図11