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  • 特許-子宮癌の発症、転移又は再発の予測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】子宮癌の発症、転移又は再発の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230327BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230327BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230327BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230327BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20230327BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20230327BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20230327BHJP
   C07K 16/22 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/574 A
A61K31/7088
A61P35/00
A61P35/04
A61P15/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K48/00
C12N15/113 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
C07K16/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018207653
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020071205
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 充宏
(72)【発明者】
【氏名】水本 泰成
(72)【発明者】
【氏名】松本 多圭夫
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/025971(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0028344(US,A1)
【文献】特開2012-157283(JP,A)
【文献】ZHAO, M. et al.,Negative immune factors might predominate local tumor immune status and promote carcinogenesis in cervical carcinoma,Virology Journal,2017年01月13日,Vol.14, No.5,pp.1-6
【文献】TAKATA, R. et al.,Genome-wide association study identifies five new susceptibility loci for prostate cancer in the Japanese population,nature genetics,2010年08月01日,Vol.42, No.9,pp.751-754
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の子宮組織由来の生物学的サンプル中のフォークヘッドボックスタンパク質P4(FOXP4)の発現を検出することを特徴とする、被験体における子宮癌の発症、転移又は再発予測するための方法。
【請求項2】
子宮頸癌の発症を予測するための、請求項記載の方法。
【請求項3】
子宮体癌の転移及び/又は再発を予測するための、請求項記載の方法。
【請求項4】
FOXP4タンパク質に特異的に結合する抗体を用いてFOXP4タンパク質の発現を検出する、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ウェスタンブロット法、免疫組織学的検出法、免疫沈降法、又はELISA法によってFOXP4タンパク質の発現を検出する、請求項記載の方法。
【請求項6】
被験体由来のサンプル中のFOXP4発現を、正常の対照サンプルにおけるFOXP4発現又は基準値と比較するステップを含む、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
FOXP4タンパク質に特異的に結合する抗体を含有する、被験体における子宮癌の発症、転移又は再発の検査薬。
【請求項8】
子宮頸癌の発症の検出のための、請求項記載の検査薬。
【請求項9】
子宮体癌の転移及び/又は再発の検出のための、請求項記載の検査薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮癌の発症、転移又は再発の予測方法、及び子宮癌の発症、転移又は再発の検査薬に関する。より具体的には、本発明は、子宮頸癌の発症を予測するための方法及び検査薬、並びに子宮体癌の転移及び/又は再発を予測するための方法及び検査薬に関する。本発明はまた、子宮癌の発症、転移又は再発抑制のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮癌は子宮に発生する悪性腫瘍であり、子宮頸部の粘膜に生じる子宮頸癌と、子宮体部の粘膜に生じる子宮体癌に大きく分類される。
【0003】
子宮頸癌は、若年女性において最も一般的な癌の1つであるが[非特許文献1]、ヒトパピローマウイルス(Human papilloma virus、HPV)感染がその病因の中心的役割を果たし、前癌病変である子宮頸部異形成を誘発するとされている[非特許文献2]。HPVへの持続感染により、HPV遺伝子は宿主遺伝子に組み込まれ、その産生物質であるE6及びE7蛋白の作用によって腫瘍抑制遺伝子であるpRb及びp53の不活性化が誘導され、免疫応答の抑制、不死化、異常増殖と形質転換、アポトーシスの抑制、分化の抑制、変異の蓄積が起こり、子宮癌の発症に至ると考えられている。近年、若年女性へのワクチン接種が子宮頸癌の予防に有効であることが実証されつつあるが[非特許文献3]、HPVにすでに感染している場合や、HPV感染を介さない子宮頸部異形成から子宮頸癌への進行を抑制する効果的な保存的な治療法はない。
【0004】
子宮体癌は、子宮内膜癌とも呼ばれ、臨床及び病理組織学そして分子生物学的に2つのタイプ(タイプ1及びタイプ2)に分類されている。タイプ1は、最も頻度の高い組織型である類内膜癌であり、プロゲステロンによる拮抗作用のないエストロゲン過剰の環境(unopposed estrogenと呼ばれる)下において、初期段階でDNAミスマッチ修復遺伝子の機能異常及び癌抑制遺伝子であるPTEN、癌原遺伝子であるKRASの変異が加わり、前癌病変である子宮内膜増殖症を経て類内膜癌が発生すると考えられている。タイプ2を代表する組織型である漿液性癌は、周囲に内膜増殖症を伴わず、初期段階で高率に認められるp53の変異が萎縮内膜内に子宮内膜上皮内癌(Endometrial Intraepithelial Carcinoma、EIC)を誘導し、癌が発生する。
【0005】
一方、フォークヘッドボックス(Fox)転写因子は、酵母からヒトへの生物の間で進化的に保存されており、FoxAからFoxSに及ぶ多くのサブファミリーが、胚発生、細胞周期調節、腫瘍形成において重要な役割を果たし[非特許文献4]、組織発生や細胞分化の過程で特定の遺伝子発現を制御することがよく知られている[非特許文献5]。その中で、FoxPはFoxp1からFoxp4まで4つのサブタイプが存在し、Foxp1が心筋の発生[非特許文献6]、Foxp2が神経細胞の発生[非特許文献7]、Foxp3が制御性T細胞の機能[非特許文献8]にそれぞれ関与していることが報告されているが、それらの発現がどのような機序で癌の発生・進展に寄与しているかは現時点で不明である。
【0006】
Foxp4は、ネズミの心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、及び精巣に発現する新しいFox転写因子として同定された。その後、Foxp4は肺分泌上皮細胞の運命と再生を制御することが報告され、またT細胞の発達には必須でないものの、病原体感染後の抗原に対する正常なT細胞サイトカインリコール応答に必要であると報告されている。最近の研究では、ヒトの非小細胞肺癌、前立腺癌及び肝細胞癌などの発癌に関連することが示された[非特許文献9~15]。しかしながら、Foxp4の発現と婦人科臓器悪性腫瘍の発生・進展との関連を示した報告は見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】CA Cancer J Clin. 2015; 65: 87-108
【文献】J Pathol. 1999; 89: 12-19
【文献】Gynecol Oncol. 2017; 146: 196-204
【文献】Nat Rev Genet. 2009; 10: 233-240
【文献】Development. 2016; 143: 4558-4570
【文献】Development. 2004;131: 4477-4487
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jul 5;102(27):9643-8. Epub 2005 Jun 27
【文献】Nat Immunol. 2003 Apr;4(4):330-6. Epub 2003 Mar 3
【文献】Biochim Biophys Acta. 2003; 1627: 147-152
【文献】Development. 2012; 139: 2500-2509
【文献】PLoS One. 2012; 7: e42273
【文献】Tumour Biol. 2015; 36: 8185-8191
【文献】Nat Genet. 2010; 42: 751-4
【文献】Clin Lab. 2015; 61: 1491-1499
【文献】Int J Clin Exp Pathol. 2015; 8: 337-344
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、子宮頸癌においては発症予防のためのワクチン接種が実施されているが、発症を完全に予防することができないのが実情である。子宮体癌の場合には、現在有効な予防的処置は知られていない。
【0009】
また、子宮体癌では、病理学的形態からタイプ1の類内膜癌のうちグレード1及び2は比較的悪性度が低いと考えられているが、しばしば原発病変部の進行程度に比して予想に反するリンパ節転移や遠隔転移、あるいは再発をきたしてくる症例が存在し、臨床的に問題となっている。しかしながら現在術前にグレード1及び2の類内膜癌の悪性度を的確に予測できる臨床的に有効なパラメーターはない。
【0010】
多くの抗癌治療と同様に、子宮癌においても、早期発見及び早期治療は非常に重要であり、また、手術や抗癌剤による治療後の再発や転移を早期に発見することも同様に非常に重要であり、子宮癌の発症、転移及び再発を検出するためのマーカーが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これまで、類内膜癌の悪性度を規定する因子として、p53遺伝子変異と予後との相関が報告されている。そこで本発明者等は、後方視的に子宮体部類内膜癌の臨床データとp53の免疫染色性及び遺伝子変異との関連をあらためて解析した。その結果、p53が癌細胞の10-50%しか染色されない通常p53陰性と判定される群において、遺伝子変異はわずか15%程度であったものの、p53過剰発現群(80%以上陽性)と同様の頻度でリンパ節/遠隔転移・術後再発が確認された。
【0012】
以上から、遺伝子変異以外の因子としてp53蛋白の代謝カスケードの異常がもたらす意義を再評価する必要があること、p53蛋白の代謝カスケードに関係する可能性のあるERβの発現亢進がリンパ節/遠隔転移・術後の再発などの癌の増悪化に関与することを見いだしている(Obata T, et al., Dual expression of immunoreactive estrogen receptor β and p53 is a potential predictor of regional lymph node metastasis and postoperative recurrence in endometrial endometrioid carcinoma. PLoS One. 2017 Nov 30;12(11):e0188641. doi: 10.1371/journal.pone.0188641. eCollection 2017)が、ERβのmRNA発現は同様の傾向を示さなかった。
【0013】
本発明者等は更に、抗ERβ抗体に交差反応する可能性があり、かつ発現変化する候補因子を探索したところ、フォークヘッドボックス(Fox)転写因子ファミリーの一つであるFOXP4がリンパ節/遠隔転移及び術後の再発群で選択的に発現亢進していることが新たに示された。そこで、Foxp4発現が子宮体癌の増悪化に対する役割を解明する目的で更に検討し、Foxp4発現が子宮体部類内膜癌のリンパ節/遠隔転移・術後再発の予測因子となり得ることを見出した。
【0014】
また、子宮頸部異形成病変や子宮頸部扁平上皮癌におけるFOXP4タンパク質の発現プロファイルを免疫組織化学的に検討し、さらにヒト子宮頸部扁平上皮癌由来細胞株に対するFoxp4の遺伝子ノックダウンの影響を調べた結果、Foxp4の核内発現が子宮頸部上皮内病変の進行に伴い増強することを見出した。同時に、これまでHPV感染だけでは説明が困難であった子宮頸部上皮内病変で初期から観察される扁平上皮細胞の分化抑制にFoxp4発現が関与している可能性が示された。
【0015】
本発明は、FOXP4の発現が広く子宮癌の発症・転移・再発の予測因子として利用できること、及びFOXP4の発現抑制が癌細胞の分化誘導を介して治療につながり得ることが示された上記の知見に基づくものである。すなわち、本発明は以下を提供するものである。
【0016】
1.被験体由来の生物学的サンプル中のフォークヘッドボックスタンパク質P4(FOXP4)の発現を検出することを特徴とする、被験体における子宮癌の発症、転移又は再発の予測方法。
2.生物学的サンプルが、被験体から採取された全血、血漿、血清、又は子宮組織である、上記1記載の方法。
3.子宮頸癌の発症を予測するための、上記1又は2記載の方法。
4.子宮体癌の転移及び/又は再発を予測するための、上記1又は2記載の方法。
5.FOXP4タンパク質に特異的に結合する抗体を用いてFOXP4タンパク質の発現を検出する、上記1~4のいずれか記載の方法。
6.ウェスタンブロット法、免疫組織学的検出法、免疫沈降法、又はELISA法によってFOXP4タンパク質の発現を検出する、上記5記載の方法。
7.被験体由来のサンプル中のFOXP4発現を、正常の対照サンプルにおけるFOXP4発現又は基準値と比較して子宮癌の発症、転移又は再発の可能性があると判定するステップを含む、上記1~6のいずれか記載の方法。
8.FOXP4タンパク質に特異的に結合する抗体を含有する、被験体における子宮癌の発症、転移又は再発の検査薬。
9.子宮頸癌の発症の検出のための、上記8記載の検査薬。
10.子宮体癌の転移及び/又は再発の検出のための、上記8記載の検査薬。
11.FOXP4タンパク質の発現を抑制し得る核酸又はFOXP4タンパク質に特異的に結合する抗体を含有する、子宮癌の発症、転移又は再発抑制のための医薬。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、子宮癌の発症・転移又は再発を予測するための新たな分子マーカーが提供される。更に、本発明により、Foxp4の発現をダウンレギュレートすることによる分化促進作用を利用した子宮癌の発症、転移又は再発抑制のための新規医薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】CIN及びSCC病変部における免疫反応性FOXP4の発現プロファイルを免疫組織化学染色によって観察した結果を示す。正常な子宮頸部組織(A)では、扁平上皮細胞層における免疫反応性FOXP4の発現は見られないか、非常に弱いのに対して、CIN 1病変(B)では異型細胞の核領域で弱い発現が観察され、症例によってはその陽性領域は異型細胞外に広がっていた。CIN 2病変では、異型細胞の核領域で中等度の強度の発現が観察され、症例によってはその陽性領域は異型細胞外に広がっていた(C)。CIN 3病変では、FOXP4は全ての層にわたり、異型細胞の核領域で強く発現していた(D)。扁平細胞癌(E)でもFOXP4の高発現が観察された。スケールバーは50μmを示す。
図2】予備細胞における免疫反応性FOXP4の生理的発現及びCIN及びSCC病変におけるFOXP4タンパク質若しくはFoxp4 mRNA発現の確認を示す。A:子宮頸部腺上皮細胞の核領域において、FOXP4の中等度の発現が観察された。スケールバーは200μmを示す。B:Aの四角で囲った領域の拡大画像を示す。矢印で示すように、予備細胞の核領域でFOXP4タンパク質が発現している。スケールバーは50μmを示す。C:正常子宮頸部組織において単層円柱上皮から層状扁平上皮細胞への化生が生じていることを示す。FOXP4タンパク質は、予備細胞から新たに形成された未成熟の層状扁平上皮細胞上で持続的に発現している(矢じりで示す)。スケールバーは50μmを示す。D:ウェスタンブロット解析の結果を示す。FOXP4タンパク質の推定分子量73kDaに対応する位置に子宮頸部扁平上皮癌由来の組織サンプルで特異的なバンドが検出された(上段)。下段は対照としてのβ-アクチンのバンドを示す。CxCa IB:子宮頸癌IB期;CxCa IIB:子宮頸癌IIB期。E:RT-PCRから、153bpの位置にFoxp4 mRNAの発現が示された。CINI:軽度子宮頸部異形成;CINIII:高度子宮頸部異形成;SCC:子宮頸部扁平上皮癌;NC:陰性対照(サンプルなし)。
図3】CIN病変におけるFOXP4及びp16発現プロファイルの解析結果を示す。A:CIN病変におけるFOXP4発現プロファイルを示す。FOXP4の発現は、正常組織からCINを経て子宮頸癌に進行する間に有意に上昇した。B:CIN病変におけるp16発現プロファイルを示す。p16の発現もCINの進行の間に上昇した。C:FOXP4発現とp16発現の陽性面積比間には有意な相関が認められた。D:CIN2病変におけるp16及びFOXP4発現の陽性面積比の相違を示す。FOXP4の陽性面積比はp16と比較して有意に優れていた。P<0.05;**P<0.01。
図4】SiHa及びC33A細胞の細胞増殖に対してshRNA処理によりFoxp4遺伝子ノックダウンを行った効果を示す。SiHa及びC33A細胞におけるFOXP4発現を免疫細胞化学染色(A)及びRT-PCR(B)により観察した。ウェスタンブロット解析から、SiHa及びC33A細胞をFoxp4に対するshRNA処理することによって、FOXP4の発現が有意に低下することが実証された(C)。120時間のインキュベーションにより、WST-1アッセイからSiHa細胞の増殖がFoxp4に対するshRNA処理によって有意に低下することが示された(D)。C33A細胞の増殖も、96時間のインキュベーションで低下した(E)。Aのスケールバーは100μmを示す。P<0.05;**P<0.01。
図5】SiHa及びC33A細胞の遊走及び浸潤に対してshRNA処理によりFoxp4遺伝子ノックダウンを行った効果を示す。遊走アッセイにおいて、Foxp4-shRNA処理細胞において膜の反対側まで移動した細胞数は対照群と比較して有意に少なかった(A、B)。同様の結果は浸潤アッセイでも観察された(C、D)。A及びCのスケールバーは100μmを示す。P<0.05;**P<0.01。
図6A】W12細胞にNC-shRNA及びFoxp4-shRNA4を導入5日後に4%PFAで固定し、核染色した結果(上図)及びレーザー共焦点顕微鏡(ZEISS LSM510)を用いて20倍の対物レンズで撮影し、ZENソフトウェアでイメージングした結果(下図)を示す。Foxp4-shRNA4を導入した場合に細胞の島状変化と重層化が認められた。
図6B】NC-shRNA又はFoxp4-shRNAを導入したW12細胞におけるFoxP4、K1、K10及びインボルクリンのHPRTに対する相対的発現レベルを、NC-shRNAを導入した場合のそれぞれの発現を1として示す。NC:NC-shRNA;sh1:Foxp4-shRNA1;sh2:Foxp4-shRNA2;sh3:Foxp4-shRNA3;sh4:Foxp4-shRNA4;sh5:Foxp4-shRNA5。
図7】子宮体癌グレード1でリンパ節転移や術後再発が認められない3症例においてFOXP4の発現が異なるものを示す。右上:FOXP4の発現が0-9%、左下:FOXP4の発現が10-49%、右下:FOXP4の発現が50-100%。
図8】FIGOステージIB期、グレード1で、リンパ節転移はないが、リンパ管内浸潤を認めたことから術後補助化学療法を3コース行った49歳の症例で、子宮摘出後6ヶ月で膣断端再発、腹膜播種が認められたために腹膜播種病巣および膣断端腫瘍の摘出術を行った際の右骨盤腹膜の播種病変部標本のFOXP4免疫染色の結果を示す。
図9】子宮体部類内膜癌患者におけるFOXP4発現と、子宮摘出手術後の無病生存率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、被験体由来の生物学的サンプル中のフォークヘッドボックスタンパク質P4(FOXP4)の発現を検出することを特徴とする、被験体における子宮癌の発症、転移又は再発の予測方法を提供する。
【0020】
本発明において、被験体は、哺乳動物であり、特に限定するものではないが、ヒトであることが好ましい。子宮癌の発症を検出する目的の場合、被験体は、子宮癌検診を受診する被験体であり得る。また、子宮癌の転移又は再発を検出する目的の場合、被験体は、子宮癌を有するとして診断された被験体、及び子宮摘出等の子宮癌治療を受けた被験体であり得る。あるいは、本発明の方法を治療薬の開発等の研究で利用するためには、被験体は、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、サル等の非ヒト哺乳動物であり得る。
【0021】
本発明において、生物学的サンプルは、特に限定するものではないが、被験体から採取された全血、血漿、血清、又は子宮組織であり得る。好ましくは、生物学的サンプルは、子宮癌検診、あるいは子宮摘出等の外科手術等の際に採取された細胞診検体又は子宮組織である。
【0022】
本明細書において、理解を容易にするために、フォークヘッドボックスタンパク質P4についてはFOXP4と記載し、FOXP4をコードする遺伝子(DNA又はmRNA)についてはFoxp4と記載することがあるが、当分野において、これらの記載は必ずしも明確に区別されない場合があることは理解されたい。
【0023】
ヒトFOXP4タンパク質のアミノ酸配列の情報は、米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)が管理するデータベースからGenBank: AAH52803として取得することができる。また、ヒトFOXP4タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列については、同様にGene ID: 116113として取得することができる。非ヒト哺乳動物におけるFOXP4タンパク質のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の塩基配列等の情報についても、同様に取得することができる。
【0024】
FOXP4タンパク質の発現は、特に限定するものではないが、一般的には、当分野で通常行われているように、FOXP4タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて検出することができる。抗体の検出のためには、限定するものではないが、例えばウェスタンブロット法、免疫組織学的検出法、免疫沈降法、又はELISA法を利用することができる。
【0025】
本発明において用いる抗体は、FOXP4タンパク質を特異的に認識して結合し得る抗体であって、FOXP4タンパク質に結合し、他のフォークヘッドボックス転写因子を含めて、他のタンパク質には結合しない抗体であることが好ましい。
【0026】
本明細書において、「結合する」及び「特異的に結合する」とは、特に限定するものではないが、抗原と抗体との結合が10-8M以下、好ましくは10-9M以下、より好ましくは10-10M以下のKD値の結合親和性を有するものであることを意味し得る。
【0027】
あるいはまた、本明細書において「FOXP4タンパク質に特異的に結合する」とは、FOXP4タンパク質に対する結合が、一般的な結合アッセイで検出して、FOXP4タンパク質以外の物質に対する結合と比較して2倍以上、3倍以上、4倍以上である場合を意味し得る。例えば、当分野で通常使用される蛍光標識によって結合を検出する場合に、S/N比が2以上、3以上、4以上である場合を意味し得る。
【0028】
ウェスタンブロット法による検出は、FOXP4タンパク質を含み得る生物学的サンプルを、SDS-PAGEによって展開した後、タンパク質を疎水性膜に転写し、FOXP4タンパク質に特異的に結合し得る抗体を用いて検出することを含む。
【0029】
免疫組織学的検出法は、被験体から採取した組織切片を固定した後、FOXP4タンパク質とこれに対する抗体との結合を可視化することによって行う。可視化のための方法としては、オートラジオグラフィー、金コロイド法、蛍光抗体法、酵素抗体法等が挙げられ、また、抗体の標識は、FOXP4タンパク質に対して結合する抗体を直接標識するものであっても、標識した二次抗体を使用するものであっても良い。
【0030】
免疫沈降法は、生物学的サンプル中のFOXP4タンパク質と、これに対する抗体との反応で得られる複合体を形成させ、ビーズに固相化したプロテインA若しくはG又は二次抗体と結合させた後、未結合の物質と分離することを含む。
【0031】
ELISA法は、抗原抗体反応の後、酵素標識した一次抗体又は二次抗体による酵素活性を測定して数値化することを含み、直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法が知られ、当分野において広く使用されている検出・定量方法である。
【0032】
本発明において使用される抗体は、FOXP4タンパク質に特異的に結合するものである限り、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体であっても良いが、モノクローナル抗体であることが好ましい。また、本発明の抗体は、子宮癌の発症、転移又は再発の検出のためにin vitroで使用することが意図され、従って、マウス、ウサギ、ヤギ等の非ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体のいずれであっても良く、特に限定するものではない。
【0033】
抗原が特定されている場合の抗体の作製方法は当分野において周知である。本発明において使用し得る抗体は、FOXP4タンパク質又はその断片を非ヒト哺乳動物に免疫して、公知の手法によってポリクローナル抗体として取得することができる。また、モノクローナル抗体は、FOXP4タンパク質に対する抗体を産生する抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させて得られるハイブリドーマから得ることができる。
【0034】
本発明において使用し得る抗体はまた、活性が実証された抗体のアミノ酸配列情報又は該抗体をコードするポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づいて、遺伝子工学的手法を用い、あるいは化学合成手段を用いて、合成によって取得することもできる。活性が実証された抗体の配列情報に基づいて更なる抗体を作製する場合、特に元の抗体の相補性決定領域(CDR)の配列を考慮して、同一又は同等の結合親和性を有する抗体を作製することができ、また更に結合親和性の高い抗体を得ることもできる。
【0035】
遺伝子工学的手法によって抗体を作製する場合、重鎖及び軽鎖をコードするポリヌクレオチドを適切な宿主細胞に導入して発現させ、組換え蛋白質として得ることができる。この場合、ポリヌクレオチドはDNAであってもRNAであっても良く、また宿主細胞への導入手段は当分野で使用されているものを適宜利用することができる。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するためのベクターとして、ウイルスベクター、プラスミドベクター、ファージベクター等を適宜使用することができる。宿主細胞としては、例えば大腸菌等の細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等を利用することができる。ここで、重鎖及び軽鎖をコードするポリヌクレオチドは、別個のベクターに導入しても、同一のベクターに連結して導入しても良い。
【0036】
例えば、本発明において使用し得る抗体の重鎖及び軽鎖をコードするcDNAを、場合によってシグナル配列、ポリA配列、更にプロモーター配列等の調節配列、選択マーカーと共に含むベクターに組み込んで、適切な宿主細胞中に導入して培養することで、FOXP4タンパク質又はその断片を特異的に認識し得る抗体を組換えタンパク質として取得することができる。
【0037】
従って、本発明において使用し得る抗体は、上記のようにして作製された抗体であり、例えば遺伝子工学的手法を用いて取得された組換えタンパク質であるか、あるいは化学合成手段を用いて合成されたタンパク質であり得る。
【0038】
本発明において使用し得る抗体をモノクローナル抗体として使用する場合、抗体は、IgG抗体分子、IgM抗体分子、又はそれらの抗原結合性断片及び抗原結合性誘導体であり得る。例えば、抗体は、完全抗体、Fab、Fab'、F(ab')2断片、また重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)をリンカーで連結した一本鎖抗体(scFv)断片、scFv-Fc、sc(Fv)2、Fv、ダイアボディー等であり得る。
【0039】
scFv、scFv-Fc、及びsc(Fv)2はリンカーで可変領域を連結した合成ポリペプチドである。リンカーとしては、当分野で通常使用されるものであればいずれでも良く、特に限定するものではないが、例えば5~25個、好ましくは10~20個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカー、例えばGSリンカー等を好適に使用することができる。
【0040】
本発明において使用し得る抗体には更に、抗原結合性に影響しない範囲で当業者に理解され得る誘導体、例えば抗体精製を容易にしたり安定性を高めたりするための修飾が施された誘導体も含まれる。本明細書においては、FOXP4タンパク質との結合性を保持する断片及び誘導体を、文脈に矛盾のない限り、便宜的に「抗体」に含めることが意図される。
【0041】
本発明において使用し得る抗体はまた、二量体、三量体、四量体等の多量体として合成することもできる。更に、本発明において使用し得る抗体は、FOXP4タンパク質に結合する第1の特異性と、他の抗原に対して結合する第2の特異性とを有する二重特異性抗体であっても良い。当業者であれば、本明細書の記載、及び当分野における技術常識に基づいて、本発明の抗体を用途に応じた適切な形態のものとして取得することができる。
【0042】
本発明において使用し得る抗体として、FOXP4タンパク質に対する結合特異性を有する抗体として市販されているものを使用しても良く、またそのような抗体の合成を依頼することもできる。更に、本発明において使用し得る抗体は、検出のために標識された抗体であっても良く、標識は、特に限定するものではないが、例えば蛍光色素標識、酵素標識、放射性標識等であって良い。
【0043】
FOXP4タンパク質の発現の検出は、サンプル中のFOXP4タンパク質の存在又は増減(変動)を検出することを含む。更に、本発明の方法は、例えば、被験体由来のサンプル中のFOXP4発現を検出するステップに加えて、子宮癌を有さない正常の対照サンプルにおけるFOXP4発現、又は予め作成した基準値と比較して子宮癌の発症、転移又は再発の可能性があると判定するステップを含み得る。「基準値」は、例えばサンプル中のFOXP4タンパク質濃度、FOXP4タンパク質に結合する抗体量(絶対量若しくは標識に由来する蛍光強度等)等として得ることができる。あるいは、「基準値」は、ウェスタンブロットで検出されたバンド強度から算出することもできる。
【0044】
例えば、子宮癌患者と健常者、あるいは子宮癌への進行段階における臨床的症状との相関性を考慮して2群(高発現群及び低発現群)に分けた数値を多数の被験体由来のデータからそれぞれ取得し、統計学的に得られるカットオフ値を基準値として使用することができる。
【0045】
上記の基準値を使用して、被験体由来のサンプルからの検出結果に基づいて、その被験体の状態、例えば子宮癌の発症、転移又は再発の可能性を予測することが可能となる。上記の基準値と比較して被験体由来のFOXP4タンパク質の検出結果が高い場合に、その被験体が子宮癌の発症、転移又は再発の可能性を予測することが可能である。
【0046】
一実施形態において、本発明の方法は、子宮頸癌の発症を予測するための方法であり得る。本実施形態において、本発明の方法は、子宮頸部上皮内病変から子宮頸癌への進行度、例えば軽度子宮頸部異形成(CIN1)、中等度子宮頸部異形成(CIN2)、高度子宮頸部異形成(CIN3)のいずれの段階であるかを示すものであり得る。
別の実施形態において、本発明の方法は、子宮体癌の転移及び/又は再発を予測するための方法であり得る。
【0047】
本発明の方法は、被験体由来のサンプル、例えば細胞診検体中のFOXP4タンパク質を新たなバイオマーカーとして検出するものである。被験体由来の検出結果から、被験体由来の生物学的サンプル中でFOXP4タンパク質が高発現している場合に、被験体が子宮癌を発症している可能性、あるいは転移又は再発をしている可能性が示される。
【0048】
<検出薬>
本発明はまた、FOXP4タンパク質に特異的に結合する抗体を含有する、被験体における子宮癌の発症、転移又は再発の検査薬を提供する。
本発明の検査薬は、被験体に由来する生物学的サンプルと接触させ、サンプル中の上記抗体と結合する抗原、すなわちFOXP4タンパク質の発現の有無及び/又は発現量を検出することができる。例えば上記抗体、又は上記抗体に対する二次抗体を蛍光試薬や発色試薬等で標識し、蛍光又は発色を検出することで確認することができる。
【0049】
更に、本発明の検出薬は、抗体とFOXP4タンパク質との結合反応のための反応液、反応容器、検出のための標識試薬、二次抗体、緩衝剤、使用説明書等を含む検出キットに含めて提供することもできる。
【0050】
一実施形態において、本発明の検査薬は、子宮頸癌の発症の検出のための検査薬であり得る。別の実施形態において、本発明の検査薬は、子宮体癌の転移及び/又は再発の検出のための検査薬であり得る。
【0051】
<医薬>
上記の通り、本発明者等は、被験体におけるFOXP4タンパク質の発現が、子宮癌の発症、転移及び再発と深く関わっており、FOXP4タンパク質またはそのmRNAの発現を抑制することで、癌細胞の増殖を抑制することができることも見出している。更に、本発明者等は、FOXP4タンパク質又はmRNAの発現抑制により、癌細胞の分化を誘導することができることも見出している。
【0052】
従って本発明はまた、FOXP4タンパク質の発現を抑制し得る核酸又はFOXP4タンパク質に特異的に結合する抗体を含有する、子宮癌の発症、転移又は再発抑制のための医薬を提供する。本発明の医薬は、細胞増殖抑制剤であり得る。また、本発明の医薬は、分化誘導剤であり得る。本発明の医薬は、抗癌剤として使用することもできる。
本発明の医薬の有効成分は、例えばFOXP4タンパク質の発現を阻害するsiRNAもしくはshRNA、又はFOXP4タンパク質に対する抗体である。
【0053】
上記の通り、ヒトFOXP4タンパク質のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の塩基配列を入手することができ、当業者であれば、これらの配列情報に基づいて、FOXP4タンパク質の発現を阻害するsiRNA及びshRNA、及びFOXP4タンパク質に対する抗体を、容易に合成することができる。あるいはまた、FOXP4タンパク質の発現を抑制又は阻害するsiRNA及びshRNAは、例えばSigma-Aldrich、Invitrogen等の供給業者から市販品を入手することもできる。
【0054】
siRNA及びshRNAは、RNA干渉と呼ばれるメカニズムにより、特定のmRNAを標的として、その翻訳を阻止することが知られている。標的配列の塩基数は特に限定されず、15~500塩基の範囲で選択され得る。siRNAは、短鎖二本鎖RNA分子であり、shRNAは、生体内でダイサーによってプロセシングされてsiRNAを生成することができるヘアピン型RNAである。siRNA及びshRNAは、例えばリポフェクタミン等のトランスフェクション試薬と共に、in vitro又はin vivoで細胞内に導入することができる。あるいはまた、siRNA及びshRNAは、細胞内でこれらを生成することができるようにDNAの形態でベクターに組み込んで細胞内に導入することができる。当業者であれば、siRNA及びshRNAの設計及び選択は、標的配列の情報等に基づいて容易に得ることができる。
【0055】
本発明の医薬は、細胞増殖抑制活性を有する他の薬物、細胞毒性を有する他の薬物等と組み合わせて使用することができる。本発明の医薬と、他の薬物とは、同時に、又は別個に細胞と接触させることができる。また、本発明の医薬は、放射線治療等の他の抗癌治療と組み合わせて使用することもできる。
【0056】
本発明はまた、単独、又は他の有効成分と組み合わせて上記の本発明の医薬を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。医薬組成物には、本発明の医薬及び他の有効成分の他に、投与形態に応じて、当分野で通常使用される担体、賦形剤、緩衝剤、安定化剤等を含めることができる。
【0057】
本発明の医薬又は医薬組成物は、被験体に対して局所投与又は全身投与することができ、投与形態を限定するものではないが、例えば静脈内、腹腔内、患部若しくは患部の近辺に注射又は注入により投与することが好ましい。例えば子宮組織内への局所的投与によって本発明の医薬を癌組織に集積させ、癌細胞特異的な細胞増殖抑制効果をより効果的に発揮させることができる。
【0058】
本発明の医薬の投与量は、患者の体重、年齢、疾患の重篤度等に応じて変動するものであり、特に限定するものではないが、例えば0.0001~100mg/kg体重の範囲の有効成分を1日1回~数回、2日毎、3日毎、1週間毎、2週間毎、毎月、2カ月毎、3カ月毎に投与することが可能である。
【実施例
【0059】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
[実施例1:子宮頸部異形成及び子宮頸癌組織におけるFOXP4の発現の検出]
金沢大学病院で子宮頸部円錐切除及び子宮摘出術を施行した57例の患者から、子宮頸部の病変組織試料を採取した。軽度子宮頸部異形成(CIN1)は8例、中等度子宮頸部異形成(CIN2)は12例、高度子宮頸部異形成(CIN3)は19例、子宮頸癌(SCC)は13例であった。一方で子宮筋腫及び腺筋症による子宮摘出術を受けた患者から、5つの正常な子宮頸部組織を得た。
【0061】
すべての外科的標本を20%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。組織切片(4μm)を診断のための通常の組織病理学的技術により染色し、2人の病理学者によって診断した。同じ病変部の連続組織切片を以下の免疫組織化学染色に使用した。
【0062】
尚、子宮頸癌は、国際婦人科産科連盟(International Federation of Gynecology and Obstetrics、FIGO)の病期分類基準(2009年)に従って病理学的に病期分類され、FIGO評定基準に従って病理組織学的に評価された。すべての研究プロトコルは、金沢大学医学倫理委員会の承認を得ておこなった。
【0063】
FOXP4の免疫組織化学染色はマニュアルに従ってアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(VECTASTAIN ABC Kit、Vector Laboratories、Burlingame、USA)法によって施行した。具体的には、
(i)切片をキシレン中で脱パラフィンし、エタノール中で再水和させ、続いて0.01Mクエン酸緩衝液、pH6.0中で抗原賦活化を行った。
(ii)スライドを3%過酸化水素に10分間浸漬して内因性ペルオキシダーゼ活性を遮断し、次いで0.05mol / Lリン酸緩衝食塩水(PBS)、pH7.4中で洗浄した。
(iii)1.5μg/ mLの濃度の一次抗体、抗ヒトFOXP4ポリクローナルウサギ抗体(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO、USA)またはウサギ抗p16(クローンDCS-50、Progen Biotechnik GmbH 、ハイデルベルク、ドイツ)を加湿チャンバー内で4℃で一晩インキュベートした。対照染色は、一次抗体を正常ウサギ血清溶液で置換して行った。
(iv)洗浄後、切片を室温でFOXP4用ビオチン標識ヤギ抗ウサギIgGと共に30分間インキュベートした。
(v)その後、それらを室温でアビジン-ビオチン複合体で処理した。ペルオキシダーゼ活性の部位をジアミノベンジジン(Liquid DAB + Substrate Chromogen System、Dako、Carpinteria、USA)で可視化し、切片をヘマトキシリンで対比染色した。
【0064】
すべてのCIN及び癌病巣を、定量化のために×100倍率で観察し、オリンパスBX50顕微鏡及びDP72オリンパスデジタルカメラ、及びCellSens標準1.5ソフトウェア(オリンパス、日本)を用いて画像撮影した。各症例において最も重篤な病変を示す領域を選択し、それに対応する上皮病変を関心領域(ROI)として描写した。各ROIにおけるFOXP4陽性細胞及びヘマトキシリン染色細胞の両方の領域を計算し、FOXP4陽性及びヘマトキシリン染色領域の比をFOXP4陽性率と定義し、これらの値をNIH Image-Jソフトウェアを用いて正規化した。
【0065】
その結果、正常な子宮頸部組織では、扁平上皮層上のFOXP4の発現は傍基底細胞に非常に弱く染色されるのみであった(図1A)が、CIN1病変では、基底細胞層も含めFOXP4発現は異型細胞に弱く検出された(図1B)。CIN2病変では、異型細胞で中程度のFOXP4発現が観察されるが、一部その陽性領域は異型細胞層を超えている部分もあった(図1C)。CIN3病変では全層を通してFOXP4の発現が異型細胞の核領域に強く認められた(図1D)。更に、扁平上皮癌では全ての症例において高FOXP4発現が観察された(図1E)。
【0066】
[実施例2:子宮頸部腺及び扁平-円柱上皮移行部(SCJ)におけるFOXP4発現]
実施例1で取得した正常な子宮頸部組織試料を更に検討したところ、子宮頸部腺上皮細胞の核領域においてもFOXP4の中程度の発現が観察された(図2A)。またFOXP4はSCJ領域で円柱上皮から扁平上皮に分化(化生)するときに発現してくる予備細胞の核領域に発現していた(図2B)。この予備細胞は最近子宮頸癌の幹細胞の候補として注目されている[Sato M等、Oncotarget. 2017; 8: 40935-40945]。またFOXP4は、予備細胞から新たに重層化する未熟な扁平細胞上にも発現が継続していた(図2C)。対照的に、SCJ領域においてもすでに成熟した扁平上皮細胞層ではFOXP4の発現は消失していた。
【0067】
[実施例3:ウェスタンブロット分析によるFOXP4発現の検出]
実施例1で取得した臨床試料におけるFOXP4の特異的タンパク質発現を確認するために、抗FOXP4抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。
臨床試料中のFOXP4のタンパク質発現レベルを分析するために、RIPAバッファーでタンパク質溶解物を抽出した。各溶解物を7.5%SDS-PAGEゲル上で電気泳動し、次いでニトロセルロース膜に移した。移した膜をFOXP4に対する一次抗体(1:2,500、Sigma-Aldrich、St. Louis、MO、USA)と共に4℃で一晩インキュベートした。次いでHRP結合抗体を、翌日室温で1時間適用した。ECL TMウェスタンブロッティング検出試薬(GE Healthcare、Buckinghamshire、UK)を用いて増強化学発光系で可視化した。
【0068】
その結果、子宮頸部扁平上皮癌由来の組織サンプルにおいて、FOXP4タンパク質の推定分子量に対応する特異的なバンド(73kDa)が検出された(図2D)。
【0069】
[実施例4:Foxp4遺伝子発現のRT-PCR及び定量的リアルタイムPCR分析]
実施例1で取得した臨床サンプルから、RNeasyミニキット(Qiagen、Hilden、Germany)を使用して全RNAを抽出し、PrimeScriptTM RT-PCR Kit(Takara Bio Inc.、Shiga、Japan)を用いてRNAをcDNAに逆転写した。
【0070】
次に下記のプライマーを用いてPCRを36サイクル行い、得られたPCR産物をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN、Hilden、Germany)で精製し、DNAシークエンサーにより配列を確認した。
HPRT1フォワードプライマー:GCCCTGGCGTCGTGATTAGT (配列番号1)
HPRT1リバースプライマー:CGAGCAAGACGTTCAGTCCTGTC(配列番号2)
Foxp4フォワードプライマー:GTTCACCAGGATGTTCGCCT (配列番号3)
Foxp4リバースプライマー:CTCCGCTTCTGATACTCCCG (配列番号4)
PCRサイクル条件は、95℃で30秒間、95℃で5秒間の36サイクルと、60℃で20秒間のアニーリング及び伸長ステップとした。
【0071】
その結果、子宮頸部病変(CIN III)及び子宮頸部扁平上皮癌(SCC)のサンプルにおいてFoxp4のmRNAレベルでの発現が示された(図2E)。153塩基長のPCR産物のヌクレオチド配列をDNAシーケンサーで解析し、Foxp4 DNAの配列と同一であることを確認した(配列番号5)。
【0072】
[実施例5:CIN病変におけるp16とFOXP4発現様式の比較]
CIN病変の予測因子としてのFOXP4発現の可能性を調べるために、HPV感染によるE7の高発現を反映することが報告されているp16 [Boyer SN等、Cancer Res. 1996; 56: 4620-4624;Dyson N等、Science. 1989; 243: 934-937] の発現との関係を評価した。
【0073】
正常組織からCINを経て子宮頸癌に進行する間のFOXP4発現の有意な増加は画像分析によって統計的に確認され、FOXP4発現は正常組織からCINを経て子宮頸癌に進行する間に次第に増大することが示された(図3A)。一方、p16発現もCIN段階によって有意に増加した(図3B)。
【0074】
子宮頸部異形成病変(CIN病変)の各進行段階におけるFOXP4またはp16陽性面積比の差異を、Kruskal-Wallis及びそれに引き続くStell-Dwass法を用いて評価した。CIN病変におけるp16とFOXP4発現との関係をスピアマンの順位相関係数で分析し、CIN2病変におけるp16とFOXP4発現の差を対応のあるt検定で分析した。
【0075】
その結果、FOXP4とp16との間に発現面積比(rs = 0.506、P <0.01、図3C)の有意な相関があったが、FOXP4の発現はCIN2の場合においてp16の発現より有意に高く(P <0.01、図3D)、CINの進行過程において、FOXP4発現の方が早く起こることが推察された。
【0076】
[実施例6:子宮頸癌細胞におけるFOXP4発現及びshRNAによるその抑制]
子宮頸癌細胞株として、ヒト子宮頸部扁平上皮癌細胞株(C33A及びSiHa)を、10%FCS (Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)、100μg/ mLストレプトマイシン及び100IU / mLペニシリンを添加したDMEMで37℃、5%CO2下で培養した。
【0077】
Foxp4遺伝子発現を減少させるRNA干渉は、Sigma-Aldrich(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO、USA)から購入したMISSIONのshRNA(Foxp4-shRNA)のレンチウイルス粒子を用いて行った。MISSIONのNC-shRNA(非標的対照レンチウイルス粒子)もSigma-Aldrichから購入した。Foxp4-shRNA1~5(配列番号6~10、MOI = 10)またはNC-shRNA(配列番号11、MOI = 10)でトランスフェクションしたSiHa及びC33A細胞を、ピューロマイシン(4μg/mL)を用いて選択した。
【0078】
処理されたC33A細胞及びSiHa細胞を、1ウェルあたり5×103細胞で96ウェルプレートに播種した。インキュベーションの24~120時間後、細胞増殖をCell Proliferation Reagent WST-1(Roche、Mannheim、Germany)を用いて測定した。BioRad iMark Microplate Absorbance Reader(BD Biosciences、Franklin Lakes、NJ、USA)を用い、450nmの吸光度で細胞生存率を評価した。細胞増殖のデータ解析は、ANOVAとそれに続くDunnett法を用いて実施し、P <0.05をもって有意差ありとした。FOXP4タンパク質の発現の減少は、ウェスタンブロット分析によって確認した。
【0079】
その結果、SiHa及びC33A細胞上のFOXP4発現は、免疫細胞化学的染色(図4A)及び実施例4と同様にして行ったRT-PCR(図4B)によって観察された。
【0080】
ウェスタンブロット分析では、Foxp4のshRNAによる処理によってSiHa細胞及びC33A細胞におけるFOXP4の発現が有意に減少したことを示した(図4C)。WST-1アッセイでは、120時間のインキュベーションで、Foxp4についてのshRNAによる処理によってSiHa細胞の増殖が有意に減少し(図4D)、C33A細胞の細胞増殖も96時間以内に減少したことが示された(図4E)。
上記の結果から、FOXP4タンパク質の発現又はFOXP4タンパク質をコードするmRNAの発現を抑制することにより、癌細胞の増殖抑制効果がもたらされることが示された。
【0081】
[実施例7:子宮頸癌細胞の遊走能及び浸潤能のshRNAによる抑制]
実施例6で用いた細胞の浸潤能を、8μm孔のポリエチレン膜にマトリゲルコートした細胞培養インサートからなるBiocoat Matrigel浸潤チャンバー(CORNING、Bedford、MA、USA)を用いて、また遊走能はマトリゲルコート無しのインサートチャンバーを用いて分析した。細胞(1.0×105細胞/ウェル)をインサートチャンバーに播種して48時間後にフィルターの下側の侵入した細胞を固定し、DIFF-quick染色で視覚化し、細胞数を倒立顕微鏡下に同定した。遊走及び浸潤能のデータ解析は、ANOVAとそれに続くDunnett法を用いて実施し、P <0.05をもって有意差ありとした。
【0082】
その結果、遊走能アッセイでは、膜の反対側の部位に移動した細胞の数は、対照群に比べFoxp4-shRNA処理細胞群で有意に低かった(図5A及び5B)。浸潤能アッセイにおいても同様の結果が観察された(図5C及び5D)。48時間のインキュベーションでは細胞増殖の差は有意でなかったので、上記の結果は、Foxp4に対するshRNAで処理することによって細胞移動及び浸潤の両方が減少することを示している。
上記の結果は、FOXP4タンパク質の発現又はFOXP4タンパク質をコードするmRNAの発現を抑制することにより、癌細胞の増殖だけでなく、遊走及び浸潤も抑制され、従って癌転移抑制効果につながることが示された。
【0083】
[実施例8:shRNAによる子宮頸癌細胞株の分化誘導]
Foxp4を発現している子宮頸部異形成細胞株であるW12細胞を以下の条件で培養し、Foxp4のノックダウンを目的に5種類のFoxp4-shRNA(配列番号6~10)とコントロールのNC-shRNA(配列番号11)を導入した。
【0084】
培養方法
培養条件:37℃ 5% CO2
培地:DMEM/F-12とF-12を1:1
添加物:5%FBS、ヒドロコルチゾン0.4μg/mL、インスリン5μg/mL、コレラトキシン8.4ng/mL、アデニン24μg/mL、EGF 10ng/mL、ペニシリン 100U/mL、ストレプトマイシン 100mg/mL
セレクション用培地:上記培地にピューロマイシン1μg/mLを添加
【0085】
shRNAの導入方法
Day0:上記培地にW12をまく
Day1:W12に種々のFoxp4-shRNA及びNC-shRNAをMOI=10で添加し、37℃ 5%CO2環境下で20時間培養
Day2:培地交換し、24時間培養
Day3:ピューロマシン1μg/mlを添加した培地に交換(セレクション)し、その後もピューロマシン1μg/mlを添加した培地で培養継続
Day5:Foxp4-sh4の細胞で島状変化・重層化を観察
Day7:RNA抽出し、qPCR
【0086】
次いで、NC-shRNA(配列番号11)及びFoxp4-shRNA4(配列番号9)を導入したW12細胞を4%PFAで固定し、ヘキストで核染色した後、レーザー共焦点顕微鏡(ZEISS LSM510)を用いて、20倍の対物レンズで撮影し、ZENソフトウェアでイメージングした。
【0087】
その結果、図6Aに示すように、shRNA導入5日目には、Foxp4をノックダウンしたW12細胞群(W12Foxp4-shRNA)でのみ、細胞の島状変化と重層化(共焦点顕微鏡で観察:核染色のみ)が認められた。これは角化細胞を高Ca含有培地培養下で分化誘導した際に認められる細胞形態変化と類似していた。
【0088】
更に、5種類のFoxp4-shRNA(配列番号6~10)を用いたmRNAレベルでのFoxp4のノックダウンをqPCRで確認した。同時に、角化細胞の早期分化マーカーであるK1及びK10、後期分化マーカーであるインボルクリン(Involucrin)のmRNAレベルでの発現を測定し、shRNAによるFoxp4のノックダウンによってW12細胞の分化誘導が生じるか否かを検討した。
【0089】
まず、NC-shRNA又はFoxp4-shRNA導入5日目のW12細胞から、RNeasyミニキット(Qiagen、Hilden、Germany)をプロトコルに従って使用し、totalRNAを抽出した。次いで、PrimeScript TM RT-PCR Kit(Takara Bio Inc.、Shiga、Japan)を用いてRNAをcDNAに逆転写した。
【0090】
qPCRは、PCRプロトコルに従い、MX3000サーモサイクラー(Stratagene)上でSYBR Premix Ex Taq(Takara)を用いて行った(95℃30秒の後に95℃5秒、60℃20秒を36サイクルして、その後95℃1分、55℃30秒、95℃で30秒間を1サイクル)。
【0091】
プライマーとして、HPRT1及びFoxp4については実施例4で用いた配列番号1~4のプライマー、K1、K10及びインボルクリンについては下記のプライマーを用いてPCRを行った(Exp.Dermatology 2009;18:143-151)。
K1フォワードプライマー:ATTTCTGAGCTGAATCGTGTGATC(配列番号12)
K1リバースプライマー:CTTGGCATCCTTGAGGGCATT(配列番号13)
K10フォワードプライマー:TGATGTGAATGTGGAAATGAATGC(配列番号14)
K10リバースプライマー:GTAGTCAGTTCCTTGCTCTTTTCA(配列番号15)
インボルクリンフォワードプライマー:GGGTGGTTATTTATGTTTGGGTGG(配列番号16)
インボルクリンリバースプライマー:GCCAGGTCCAAGACATTCAAC(配列番号17)
Foxp4、K1、K10、インボルクリンの発現レベルは、2DD Ct法を用いてHPRT1の発現に対する相対量として計算した。
【0092】
その結果、図6Bに示すように、Foxp4-shRNA1~5(配列番号6~10)の導入によって、W12細胞におけるFoxp4の発現が低下した(ノックダウン)。またFoxp4遺伝子がノックダウンされたW12細胞群では、mRNAレベルでコントロール(NC-shRNA)導入細胞群に比べて角化細胞の早期分化マーカーであるK1/K10の発現上昇が認められ、また後期分化マーカーであるインボルクリンの発現の上昇も認められた。
【0093】
上記の結果から、Foxp4のノックダウンによってW12細胞が分化誘導されることが示唆された。このことは、FOXP4タンパク質の発現又はFOXP4タンパク質をコードするmRNAの発現を抑制することにより、子宮癌を含むHPV感染病変の治癒促進がもたらされることを示す。
【0094】
[実施例9:子宮体癌におけるFOXP4の発現]
金沢大学病院で子宮内膜癌の初期治療として子宮全摘術を受け、手術標本にて組織型が類内膜癌と病理組織診断された154例の子宮体部類内膜癌患者を対象とし、各症例における代表的な腫瘍組織に対して実施例1と同様にしてFOXP4の免疫組織学的発現を解析した。手術標本は20%ホルマリンで固定後にパラフィン包埋し、4μmに薄切した組織についてHE染色にて病理組織学的診断を行った。FOXP4免疫染色の判定基準は、腫瘍細胞の核の染色領域が50%未満であるものを低発現、50%以上のものを高発現と規定し、解析を行った。
【0095】
全ての患者は、術前に遠隔転移の有無を確認するために全身の画像検査を受けており、術前に遠隔転移が認められた症例は本研究から除外した。また、対象症例は初期治療として手術療法に先立って化学療法や放射線療法を受けていない。
【0096】
また、手術進行期はFIGO分類に基づいて決定された。対象症例は子宮内膜癌に対する標準的な手術方法として、子宮全摘及び両側付属器摘出に加え、後腹膜腔の所属リンパ節郭清術を受けているが、術前に頸部浸潤が疑われた症例については、子宮摘出は広汎子宮全摘術を選択している。術後の病理組織学的検査にてFIGOステージ IA期かつ組織学的分化度がグレード1あるいはグレード2以外と診断された症例には、術後補助療法として多剤化学療法あるいは放射線療法が行われた。
尚、腫瘍組織の使用は対象患者から文書で同意が得られており、また、すべての研究プロトコルは、金沢大学医学倫理委員会の承認を得ておこなった。
【0097】
その結果、全154例のうち、所属リンパ節転移あるいは術後再発を認めた症例は30例(19.5%)であり、その中でFIGOステージ IIIC期、組織学的グレード3、筋層浸潤1/2以上の2例は癌の進行のために死亡となった。
子宮体部類内膜癌におけるFOXP4発現のHE染色の結果を図7及び図8に、FOXP4発現と予後の関係を図9及び以下の表1に示す。
【0098】
図7は、FIGOステージIA期、グレード1で、リンパ節転移や術後再発を認めていない3症例における手術標本のFOXP4免疫染色の結果を示す。
【0099】
図8は、FIGOステージIB期、グレード1で、リンパ節転移はないが、リンパ管内浸潤を認めたことから術後補助化学療法を3コース行った49歳の症例で、子宮摘出後6ヶ月で膣断端再発、腹膜播種が認められたために腹膜播種病巣および膣断端腫瘍の摘出術を行った際の右骨盤腹膜の播種病変部標本のFOXP4免疫染色の結果を示す。
【0100】
【表1】
【0101】
FOXP4免疫染色の結果、表1に示すように、腫瘍細胞の核の染色領域が10%未満である症例は全部で50例あったが、それら全てがリンパ節転移・術後再発を認めていない症例であった(リンパ節転移・術後再発率0%(0/50例))。染色領域が10%以上50%未満であった症例は54例あり、そのうちリンパ節転移・術後再発が確認された症例は6/54例(11.1%)であった。まとめると、低発現症例におけるリンパ節転移・術後再発は6/104例(5.8%)であった。
【0102】
一方、染色領域が50%以上であった高発現症例は50例あり、そのうちリンパ節転移・術後再発が確認された症例は24/50例(48.0%)であった。すなわち、子宮体部類内膜癌において、FOXP4高発現症例は低発現症例に比べて有意にリンパ節転移・術後再発が多い結果であった(p<0.01)。
【0103】
各症例について得られたデータに基づいて、リンパ節転移・術後再発の予測において、想定される様々な因子について単変量解析及び多変量解析を行った。結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示すように、単変量解析にて統計学的有意差を認めた因子として、組織学的グレード、筋層浸潤、脈管侵襲(LVSI)、p53タンパク質の発現、FOXP4タンパク質の発現の5つが確認されたが、これら5つの因子で多変量解析を行ったところ、唯一、FOXP4タンパク質の発現のみが子宮体部類内膜癌のリンパ節転移・術後再発の独立した予測因子として同定された。
【0106】
また、子宮体部類内膜癌患者の子宮摘出手術後の無病生存率を患者におけるFOXP4発現との関係を検討した結果、図9に示すように、FOXP4の発現率が0-9%である場合は手術後2500日を経過しても再発が見られず、FOXP4の発現率が10-49%である場合も無病生存率は0.85以上であったのに対して、FOXP4の発現率が50%以上である場合は再発する可能性が高いことが示され、FOXP4が悪性増悪化を誘導する因子である可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
子宮内膜細胞診は現在癌検診のスクリーニングとして汎用されており、またFOXP4の核内発現は簡便な免疫染色で同定可能であるため、本発明の方法は、将来的には細胞診の自動判定のマーカーの検出として汎用されることが期待できる。さらに、本発明から、子宮頸部局所においてFoxp4による分化抑制作用に対抗する新たな分子標的治療の開発が可能となる。
【0108】
本発明により、術前の子宮内膜細胞診及び子宮内膜組織診の際に得られる臨床検体を用いてFOXP4発現を検出することで、術式の選択が可能になると予想される。さらに術後の手術検体の検討から再発の可能性について予測でき、術後の追加療法の是非の評価に用いることができる。また、FOXP4の免疫染色がキット化され、ルーチン化された場合には、その診断精度を上げることが予想される。従って本発明は、子宮体癌の術前・術後の治療方針の決定における臨床評価の精度向上に貢献することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
【配列表】
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