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  • 特許-膜蒸留式蒸留装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】膜蒸留式蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/36 20060101AFI20230327BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20230327BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20230327BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20230327BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D61/58
B01D69/08
C02F1/44 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019098971
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020192495
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】池田 充志
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196150(JP,A)
【文献】特開平07-000768(JP,A)
【文献】国際公開第2016/006666(WO,A1)
【文献】特開平05-057300(JP,A)
【文献】特開2013-034926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C02F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された被処理液の蒸気が透過する蒸留膜を有する蒸発部と、前記蒸発部で発生した蒸気を前記蒸発部に供給する前の被処理液により冷却して蒸留水を生成する復水部とを備える船舶用の膜蒸留式蒸留装置であって、
前記蒸発部を通過した被処理液を循環ポンプで昇圧し、前記循環ポンプで昇圧された被処理液を、前記復水部を通過して前記循環ポンプを通過していない被処理液の一部と共に前記蒸発部に供給する膜蒸留式蒸留装置。
【請求項2】
前記蒸留膜は、多孔質中空糸膜である請求項1に記載の膜蒸留式蒸留装置。
【請求項3】
前記復水部を通過した被処理液の一部を加熱して前記蒸発部に供給する加熱部を更に備える請求項1または2に記載の膜蒸留式蒸留装置。
【請求項4】
供給された被処理液の蒸気が透過する蒸留膜を有する蒸発部と、前記蒸発部で発生した蒸気を前記蒸発部に供給する前の被処理液により冷却して蒸留水を生成する復水部とを備える膜蒸留式蒸留装置であって、
前記蒸発部を通過した被処理液を循環ポンプで昇圧して、前記復水部を通過した被処理液の一部と共に前記蒸発部に供給し、
エゼクタポンプの作動により前記復水部に供給される被処理液を作動流体として、前記蒸発部を通過した被処理液の一部を吸引する水エゼクタを更に備える膜蒸留式蒸留装置。
【請求項5】
前記蒸発部および前記復水部は、それぞれ多段に接続されており、
最後段の前記蒸発部を通過した被処理液を前記循環ポンプで昇圧して、前記復水部を通過して前記循環ポンプを通過していない被処理液の一部と共に最前段の前記蒸発部に供給する請求項1から4のいずれかに記載の膜蒸留式蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜蒸留式蒸留装置に関し、より詳しくは、船舶用の造水装置等に好適に使用される膜蒸留式蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の膜蒸留式蒸留装置として、例えば、特許文献1に開示された船舶用の造水装置が知られている。図3に示すように、この造水装置50は、船舶に取り入れられた海水を加熱する加熱装置60と、加熱装置60で加熱された海水が流れる加熱海水通液部70と、真空部71と、加熱海水通液部70と真空部71とを隔てる疎水性多孔質膜72と、加熱海水通液部70の海水から疎水性多孔質膜72を通じて真空部71に流入した蒸気を冷却して凝縮する冷却部73と、を備えた真空蒸留モジュール61と、真空部71を減圧する水エゼクタ62とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/006666号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された造水装置は、加熱海水通液部70を通過した海水が船外に排出されるため、船舶の喫水線の高さによっては、海水の排出揚程を十分高める必要が生じる(例えば、約8mAq)。ところが、真空蒸留モジュール61への海水の供給圧力を高くして排出揚程を高めようとすると、疎水性多孔質膜72に大きな力が作用し、海水の漏れが発生するおそれがあった。特に、真空蒸留モジュール61の蒸留膜として中空糸膜を使用する場合には、海水の排出揚程に加えて、中空糸膜を通過する際の圧力損失も考慮して真空蒸留モジュール61への供給圧力を設定する必要があることから、中空糸膜に過大な力が作用するおそれがあり、蒸留膜の耐久性を高める観点から更に改良の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、蒸留膜の耐久性を向上させることができる膜蒸留式蒸留装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、供給された被処理液の蒸気が透過する蒸留膜を有する蒸発部と、前記蒸発部で発生した蒸気を前記蒸発部に供給する前の被処理液により冷却して蒸留水を生成する復水部とを備える船舶用の膜蒸留式蒸留装置であって、前記蒸発部を通過した被処理液を循環ポンプで昇圧し、前記循環ポンプで昇圧された被処理液を、前記復水部を通過して前記循環ポンプを通過していない被処理液の一部と共に前記蒸発部に供給する膜蒸留式蒸留装置により達成される。
【0007】
この膜蒸留式蒸留装置において、前記蒸留膜は、多孔質中空糸膜であることが好ましい。
【0008】
また、前記復水部を通過した被処理液の一部を加熱して前記蒸発部に供給する加熱部を更に備えることが好ましい。
【0009】
あるいは、本発明の前記目的は、供給された被処理液の蒸気が透過する蒸留膜を有する蒸発部と、前記蒸発部で発生した蒸気を前記蒸発部に供給する前の被処理液により冷却して蒸留水を生成する復水部とを備える膜蒸留式蒸留装置であって、前記蒸発部を通過した被処理液を循環ポンプで昇圧して、前記復水部を通過した被処理液の一部と共に前記蒸発部に供給し、エゼクタポンプの作動により前記復水部に供給される被処理液を作動流体として、前記蒸発部を通過した被処理液の一部を吸引する水エゼクタを更に備える膜蒸留式蒸留装置により達成される。
【0010】
これらの膜蒸留式蒸留装置において、前記蒸発部および前記復水部は、それぞれ多段に接続することが可能である。この場合、最後段の前記蒸発部を通過した被処理液を前記循環ポンプで昇圧して、前記復水部を通過して前記循環ポンプを通過していない被処理液の一部と共に最前段の前記蒸発部に供給するように構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蒸留膜の耐久性を向上させることができる膜蒸留式蒸留装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る膜蒸留式蒸留装置の概略構成図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る膜蒸留式蒸留装置の概略構成図である。
図3】従来の膜蒸留式蒸留装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る膜蒸留式蒸留装置の概略構成図である。図1に示すように、膜蒸留式蒸留装置1は、被処理液の蒸気が生成される蒸発部10と、蒸発部10で発生した蒸気から蒸留水を生成する復水部20と、被処理液を加熱する加熱部30とを備えている。
【0014】
蒸発部10は、疎水性多孔質膜からなる複数の中空糸膜を束状に構成した蒸留膜12を備えている。疎水性多孔質膜の材料としては、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等を例示することができる。蒸発部10に供給された海水等の被処理液は、各中空糸膜に一端側から導入されて他端側から排出される間に、一部が蒸気となって中空糸膜を透過する。蒸留膜12は、膜蒸留が可能な構成であれば必ずしも多孔質中空糸膜に限定されるものではなく、例えば、上記特許文献1に開示された構成と同様に、平膜状の疎水性多孔質膜などであってもよい。
【0015】
復水部20は、蒸発部10から蒸気路41を介して供給される蒸気を、被処理液により伝熱面を介して冷却することにより、蒸留水を生成する。生成された蒸留水は、ポンプ7の作動により回収路42に接続された不図示の回収タンク等に回収される。本実施形態においては、蒸留部10および復水部20が蒸気路41を介して連通されているが、蒸留部10および復水部20を同一のケーシング内に収容する等して一体化してもよい。
【0016】
復水部20への被処理液の供給は、エゼクタポンプ2の作動により水エゼクタ3を介して行われる。水エゼクタ3は、復水部20に連通する吸引路43が接続されており、被処理液を作動流体として復水部20および蒸発部10の内部を抽気することにより、蒸発部10における蒸気の生成が促される。蒸発部10の抽気は、水エゼクタ3を使用する代わりに、真空ポンプやアスピレータ等の真空装置によって行うことも可能である。
【0017】
加熱部30は、供給された被処理液を熱源との熱交換により加熱する。膜蒸留式蒸留装置1を船舶用として使用する場合には、ディーゼル機関の冷却等に用いられたジャケット冷却水を、加熱部30の熱源として使用することができる。但し、膜蒸留式蒸留装置1は、船舶用以外の用途にも適用可能であり、それぞれの用途に応じて利用可能な温水や蒸気等の高温流体を熱源とすることができる。
【0018】
エゼクタポンプ2の作動により流路44から復水部20に供給された被処理液は、蒸気との熱交換を行った後に、被処理液の一部が流路45を経て加熱部30に供給される一方、被処理液の残部は流路45から分岐する排出路46を経て船外等の系外に排出される。被処理液の系外への排出流量は、流路45に設けられたバルブ4の開度調整により制御することができる。
【0019】
加熱部30で加熱された被処理液は蒸発部10に供給され、蒸留膜12を構成する中空糸膜の内部を通過する過程で一部が蒸気になって、中空糸膜を透過する。一方、蒸発部10を通過した被処理液は、循環ポンプ5の作動により流路47を経て、流路45における加熱部30の上流側に戻される。
【0020】
流路47は、循環ポンプ5の上流側で分岐路48が分岐しており、分岐路48が水エゼクタ3に接続されている。水エゼクタ3は、エゼクタポンプ2の作動により復水部20に供給される被処理液を作動流体として、蒸発部10を通過した被処理液の一部を吸引する。分岐路48は、水エゼクタ3に接続する代わりに、ポンプ等の排出装置に接続して、被処理液の一部を系外に排出するようにしてもよい。
【0021】
上記の構成を備える蒸留式蒸留装置1によれば、復水部20で蒸気の冷却を行った被処理液の一部のみを蒸発部10に供給するように構成されており、被処理液の残部を蒸発部10の上流側で系外に排出することができる。したがって、被処理液の排出揚程を高める必要がある場合でも、蒸発部10の蒸留膜12に過大な力が作用するおそれがなく、蒸留膜12の耐久性を高めることができる。
【0022】
また、蒸発部10を通過した被処理液が、循環ポンプ5により昇圧されて、復水部20を通過した被処理液の一部と共に蒸発部10に供給されるので、蒸留膜12および加熱部30での圧力損失に相当する分のみを、循環ポンプ5の作動により補うことができる。したがって、蒸留膜12に供給される被処理液の圧力を、蒸留膜12の許容圧力以下である所望の圧力(例えば、0.1~0.15MPa)に容易に維持することができ、膜蒸留を確実に行いつつ、蒸留膜12の良好な耐久性を得ることができる。蒸発部10に供給される被処理液の圧力調整は、分岐路48に設けられたバルブ6の開度を操作して行うことができる。また、このように、循環ポンプ5の作動により被処理液を蒸発部10の上流側に還流させることで熱回収を行うことができるので、加熱部30の小型化を図ることができる。
【0023】
循環ポンプ5により被処理液を還流させる位置は、本実施形態においては加熱部30の上流側としているが、還流される被処理液の温度が十分高い場合には、加熱部30の下流側(加熱部30と蒸発部10との間)であってもよい。
【0024】
図2は、本発明の他の実施形態に係る膜蒸留式蒸留装置1の概略構成図である。図2に示す膜蒸留式蒸留装置1は、図1に示す膜蒸留式蒸留装置1において、蒸発部10および復水部20をそれぞれ2段式として、2つの蒸発部10-1,10-2および2つの復水部20-1,20-2を備える構成としたものであり、他の構成については図1の構成と同様である。蒸発部10-1,10-2は、図1に示す構成と同様に蒸留膜を備えており、生成された蒸気が蒸気路41-1,41-2を介してそれぞれ復水部20-1,20-2に供給される。蒸発部10-1,10-2および復水部20-1,20-2は、3段以上設けてもよい。
【0025】
このように、蒸発部10-1,10-2および復水部20-1,20-2を、2段以上の多段式に構成する場合、最後段の蒸発部10-2を通過した被処理液を循環ポンプ5で昇圧して、復水部20-1,20-2を通過した被処理液の一部と共に、最前段の蒸発部10-1に供給することで、各蒸発部10-1,10-2が備える蒸留膜の耐久性を良好に維持しつつ、被処理液の膜蒸留を効率良く行うことができる。
【0026】
本発明の膜蒸留式蒸留装置は、海水を膜蒸留して淡水を生成するのに好適に使用され、特に、排出揚程を高める必要がある船舶用の膜蒸留式造水装置として好適に使用することができる。但し、被処理液は海水以外であってもよく、例えば、種々の水溶液の濃縮等に使用することもできる。
【0027】
(実施例)
図1に示す膜蒸留式蒸留装置1を用いて、エゼクタポンプ2の作動により26t/h(32℃)の海水を供給して、1日あたり約20tの蒸留水を生成した。水エゼクタ3の通過により海水の流量は27.9t/hとなり、復水器20の通過により海水が33℃から54℃まで昇温された。この後、25.1t/hの海水を80~100kPaで系外に排出し、残りの2.8t/hの海水を、循環ポンプ5により還流される23.3t/hの海水と合流させて、加熱部30に供給した。加熱部30を通過した海水の流量および温度は、26t/h、75℃となり、これを蒸発部10に供給することで0.8t/hの蒸気が生成され、これを復水部20において蒸留水として回収した。蒸発部10を通過した25.2t/hの海水は、1.9t/hが水エゼクタ3に吸引されて、残りを循環ポンプ5により還流した。上記の条件下で、蒸留膜12の入口圧力は0.1~0.15MPaの範囲に維持され、蒸留膜12の耐久性を良好に維持できることを確認した。
【符号の説明】
【0028】
1 膜蒸留式蒸留装置
2 エゼクタポンプ
3 水エゼクタ
5 循環ポンプ
10 蒸発部
20 復水部
30 加熱部
図1
図2
図3