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7250337銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 39/26 20060101AFI20230327BHJP
   H01R 4/64 20060101ALI20230327BHJP
   H01R 39/20 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
H01R39/26
H01R4/64 C
H01R39/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019212628
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021086668
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】393010787
【氏名又は名称】トライス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】池田 光男
(72)【発明者】
【氏名】金川 浩忠
(72)【発明者】
【氏名】廣田 充弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 喜弘
【審査官】藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-259606(JP,A)
【文献】特開2015-147512(JP,A)
【文献】特開2004-14294(JP,A)
【文献】特開2007-60861(JP,A)
【文献】特開2005-27381(JP,A)
【文献】特表2016-525329(JP,A)
【文献】特開2017-118620(JP,A)
【文献】特開2003-347006(JP,A)
【文献】特開昭64-26344(JP,A)
【文献】特許第2641695(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/58- 4/72
13/00
39/00-39/64
H02K 13/00
B60R 16/02
B22F 1/00- 8/00
10/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの周面に摺接し、前記シャフトをアースする、銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシにおいて、
ブラシ中の、銀と、揮発成分を含むカーボン質との質量比が、銀30%超~90%以下、カーボン質70%未満~10%以上であり、
銀とカーボン質との合計質量を100%とした場合に、揮発成分の含有量が2.0%以上15%以下であることを特徴とする、銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシ。
【請求項2】
前記ブラシの抵抗率が1000μΩ・cm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシ。
【請求項3】
前記揮発成分が、バインダ樹脂の未炭化物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシ。
【請求項4】
前記揮発成分が、熱硬化性樹脂の未炭化物であることを特徴とする、請求項3に記載の銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシ。
【請求項5】
モータ駆動の自動車の駆動シャフトの周面に摺接し、前記駆動シャフトを前記自動車の車体にアースすることにより、前記自動車内の電磁ノイズを低減するための、請求項1~4のいずれかに記載の銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシ。
【請求項6】
カーラジオのノイズ低減用であることを特徴とする、請求項5に記載の銀カーボン質アースブラシ。
【請求項7】
シャフトの周面に摺接し、前記シャフトをアースする、銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシの製造方法において、
銀粉と、黒鉛粉と、合成樹脂バインダとを混練し、ブラシ材料とするステップと、
前記ブラシ材料をプレス成型しプレス成型体とするステップとを行うことにより、
ブラシ中の、銀と、前記合成樹脂バインダに由来する揮発成分と黒鉛とから成るカーボン質との質量比が、銀30%超~90%以下、カーボン質70%未満~10%以上であり、かつ銀とカーボン質との合計質量を100%とした場合に、揮発成分の含有量を2.0%以上15%以下のブラシを製造することを特徴とする、銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁ノイズの低減を目的とする、銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシに関する。この発明は、例えばモータ駆動の自動車の駆動シャフトをアースするブラシに関し、特に自動車のカーラジオへの電磁ノイズを低減するアースブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン駆動からモータ駆動へと自動車の駆動方式が変わりつつある。特に温室効果ガスの削減のために、エンジンを持たない電気自動車の開発と普及が世界的に進んでいる。電気自動車の加減速は、インバータによりモータの回転数を制御することにより行われ、車載のコンピュータは様々な入力情報を基にインバータを制御する。
【0003】
インバータは電流の断続により電圧及び周波数を変換する。このため高周波エネルギが発生し、高周波エネルギは電気自動車の駆動シャフト等を介して外部に漏れ、電磁ノイズを発生させる。そして電磁ノイズは、自動車の制御機器、車載の電子機器、カーラジオ等のオーディオ機器に悪影響を与え、特にカーラジオの音声に雑音を混入させる。なおこのような問題は、電気自動車に限らず、エンジンとモータの双方で走行するハイブリッドカーでも同様である。
【0004】
関連する先行技術を示す。特許文献1(特表2016-525329)は、銀を1~8%含むカーボン質のアースブラシを提案している。しかしながら特許文献1のアースブラシは、自動車のインバータをアースするには高抵抗過ぎる。
【0005】
特許文献2(特開2007-60861)は、銀を約70質量%含有する回転電機用のブラシを提案している。このブラシは整流子と摺接し、整流子表面の酸化被膜を銀粒子により研磨し、整流子火花の発生を抑制する。この結果、回転電機の低騒音化が図れる。しかしながら特許文献1は、インバータをアースすることは示していない。また低騒音化の機構は、整流子火花の抑制であって、シャフトのアースではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-525329
【文献】特開2007-60861
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、回転電機用の通常のブラシに匹敵する強度と寿命を持ち、かつモータ駆動の自動車の駆動シャフトからの電磁ノイズを効果的にアースできるアースブラシを提供することにある。
この発明の課題は、例えば自動車のカーラジオへのノイズを効率的に抑制することにある。
【0008】
なお、本発明が対象とするノイズは、上記したシャフト等を介して外部に漏れる高周波エネルギーだけでなく、ケーブルを流れる電気信号であってもよいし、電子機器の筐体から放射される電磁波も含む。即ち、本発明では、電気自動車、ハイブリッドカーの電子機器から意図せず発生してしまう電磁波を電磁ノイズと呼ぶ。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、シャフトの周面に摺接し、前記シャフトをアースする銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシにおいて、
ブラシ中の、銀と、揮発成分を含むカーボン質との質量比が、銀30%超~90%以下、カーボン質70%未満~10%超であり、
銀とカーボン質との合計質量を100%とした場合に、揮発成分の含有量が2.0%以上15%以下であることを特徴とする。
【0010】
この明細書では、銀とカーボン質の質量比で、ブラシの基本的な組成を示し、有機物の揮発成分はカーボン質の一部として組成を示す。ブラシには銀以外に銅等の金属成分を加えても良く、また固体潤滑剤、研磨剤等の無機物を加えても良い。銀とカーボン質の合計を100質量%として、これらの第3成分の濃度を示すと、固体潤滑剤、研磨材等の添加剤は例えば5質量%以下で、好ましくは2質量%以下とする。
【0011】
好ましくは、ブラシの抵抗率は1000μΩ・cm以下、特に100μΩ・cm以下である。ブラシの抵抗率がこの範囲であれば、電磁ノイズ低減の効果を有する。
【0012】
また好ましくは、前記揮発成分が、バインダー樹脂の未炭化物であり、特に好ましくは前記揮発成分が、熱硬化性樹脂の未炭化物である。ブラシの焼成条件を選ぶと、バインダー樹脂は未炭化のまま不完全に分解してブラシ中に残存する。このような揮発成分はブラシの強度を向上し、かつブラシの摩耗量を減少させて、ブラシ寿命を向上させる。
【0013】
好ましくは、銀粉、若しくは表面を銀コートした金属粉(例えば銀コートした銅粉)から成り、かつバインダー樹脂を含まない埋め込み材料により、ブラシの孔部にリード線が埋め込まれている。銀粉あるいは表面を銀コートした金属粉から成る埋め込み材料でリード線を埋め込むと、ブラシのプレス時にリード線を埋め込む場合に比べ、ブラシとリード線間の導電性が高くなる。また銀粉あるいは表面を銀コートした金属粉から成る埋め込み材料は、銀と黒鉛を主成分とするブラシ本体に適合している。埋め込み材料がバインダー樹脂を含まないことも、リード線とブラシ間の導電性を高める。
【0014】
銀カーボン質アースブラシは、モータ駆動の自動車の駆動シャフトの周面に摺接し、駆動シャフトを前記自動車の車体にアースする。これにより自動車内の電磁ノイズを低減し、特にカーラジオへのノイズを低減する。
【発明の効果】
【0015】
ブラシ中の銀の割合を増すと、ブラシの抵抗率は低下する。しかしながらシャフトからのノイズを除去する場合、ブラシ自体の抵抗率よりも、ブラシとシャフトとの接触抵抗を含む全体的な抵抗が重要である。なおこの明細書では、ブラシ自体の抵抗にブラシとシャフトとの接触抵抗を加えた抵抗を単に「接触抵抗」という。そして実験によると、銀とカーボン質の総量を100質量%とした際の銀の割合が90%を越えると、低温時の接触抵抗が不安定になり異常に高い値を示す場合があった。(図5図6)。
【0016】
次に銀含有量が30%未満では、ブラシの抵抗率が極めて高くなり1000μΩ・cmを超過した。これらのことから、銀とカーボン質の総量を100質量%とした際に、 銀30%超~90%以下、カーボン質70%未満~10%超とする。好ましくは銀とカーボン質の総量を100質量%とした際に、銀50%以上~75%以下、カーボン質50%以下~25%以上とする。この範囲では、ブラシの接触抵抗は小さく、またブラシの抵抗率は100μΩ・cm以下となる。従って、シャフトからの電磁ノイズを極く小さくできる。
【0017】
ブラシ原料にはバインダー樹脂などの有機物を加えるのが普通である。ブラシを比較的低い温度で焼成すると、バインダーなどの有機物は完全な炭化に到らない程度に熱分解し、揮発性の未炭化物として残存する。ブラシ中の揮発成分量はブラシの摩耗量に影響し、銀とカーボン質の総量を100質量%とした際に、揮発成分が2.0質量%以上でブラシの強度が増すため摩耗量が小さくなる。また揮発成分が15質量%を越えると、焼成時に多量のガスが発生するためブラシにカケ、膨れ等が生じ易くなる。このため、銀とカーボン質の総量を100質量%とした際に、揮発成分を2.0質量%以上で15質量%以下とする。
【0018】
上記の揮発成分は好ましくはバインダー樹脂の未炭化物とし、特に好ましくは熱硬化性樹脂の未炭化物とし、実施例ではフェノール系樹脂の未炭化物とする。他の熱硬化性樹脂、例えばフラン系樹脂、キシレン系樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等も使用可能である。また熱可塑性樹脂としては、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、POM(ポリオキシメチレン)、PI(ポリイミド)なども使用可能である。
【0019】
この発明の銀カーボン質アースブラシは、モータ駆動の自動車の駆動シャフトの周面に摺接し、前記駆動シャフトを前記自動車の車体にアースする。これにより、自動車の制御機器、電子機器、オーディオ機器への電磁ノイズを低減し、特にカーラジオへのノイズを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例のブラシの使用状態を示す図
図2】実施例のブラシの斜視図
図3】実施例のブラシの側面図
図4】実施例での接触抵抗の測定法を示す図
図5】回転数500rpmでの、実施例と比較例のブラシの接触抵抗を示す特性図
図6】回転数5000rpmでの、実施例と比較例のブラシの接触抵抗を示す特性図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。本発明は実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に基づいて定められ、かつ実施例に当業者に公知の事項を加えて変形できる。
【実施例
【0022】
アースブラシの構造と使用状態
図1図6に、実施例とその特性を示す。図1は実施例の銀を主成分とする金属黒鉛質アースブラシの使用状態を示し、図2はアースブラシ1の構造を示す。2はブラシ本体で、例えばリード線3が取り付けられている。ブラシ本体2は例えば直方体状で、摺接面4が自動車の駆動シャフトに摺接する。5は孔部で、リード線3が埋め込み材料6と共に埋め込まれている。また埋め込み材料は、銀粉、もしくは表面を銀コートした金属粉(例えば表面を銀メッキした銅粉)であり、バインダー樹脂を含まない。リード線3の一端を孔部5に埋め込み材料6で固定することにより、ブラシ本体2とリード線3との間の抵抗を小さくできる。また埋め込み材料6とブラシ本体1は共に銀を含むため、互いの馴染みがよい。なおアースブラシ2の形状と構造は任意で、リード線3は無くても良い。
【0023】
10は自動車の駆動シャフトで、ブラシ本体2の摺接面4がその周面に摺接し、駆動シャフト2をリード線3を介して車体にアースする。用いる自動車は電気自動車、あるいは電池とエンジンの双方で走行するハイブリッド車である。制御コンピュータ14はインバータ13を制御し、インバータ13はモータ12の回転数を制御する。モータ12の回転を変速機11で減速し、駆動シャフト10を介して車輪を回転させる。
【0024】
アースブラシの製造
銀粉、黒鉛粉、バインダー樹脂、及び必要に応じて添加剤を混合し、ブラシ本体2をプレス成型する。次いで還元性雰囲気等でブラシ本体2を焼成し、アースブラシ1とする。ブラシ本体2の強度と導電性を高めるため、樹枝状の形状の電解銀粉が好ましい。黒鉛粉は例えば天然あるいは人造の黒鉛粉を用いる。バインダー樹脂は例えば熱硬化性樹脂で、この樹脂が不完全に分解して未炭化物としてブラシ本体2中に残存する温度、例えば300℃~600℃でブラシ本体2を焼成する。
【0025】
焼成後のブラシ本体2を、切削加工機で図2図3の形状に加工し、孔部5を設ける。次いで、リード線3を孔部5に埋め込み材料6により埋め込み、加圧して埋め込み材料6を圧縮し、リード線3の端部を孔部5に固定し、ブラシ完成品とした。埋め込み材料としては、銅、銀などの金属粉、及びそれらを表面コートしたものなどが使用でき、特に銀粉、もしくは金属粉の表面を銀でコートしたもの(例えば銀で表面をコートした銅粉)が好ましい。埋め込み材料6はバインダー樹脂を含まず、好ましくは上記の金属粉以外の材料を含まない。
【0026】
アースブラシの形状
ブラシの形状は図2のものとし、ブラシ本体2の長さLは16mm,奥行きDは5mm,幅Wは5mmである。リード線3はメッキ無しの銅素線の撚り線で、直径が1.0mm、埋込部の深さが3.0mmである。
【0027】
この明細書では、バインダー樹脂の質量をカーボンの質量に含め、銀とカーボンの合計を100質量%とする濃度で、これらの含有量を規定する。バインダー樹脂は、原料段階で2.5~22質量%含有することが好ましい。また銀濃度は一般的には30%超、90%以下で、カーボンは70質量%未満10質量%以上含有する。好ましくは、銀を50質量%以上75質量%以下含有し、カーボンを50質量%以下25質量%以上含有する。揮発成分は2.0質量%以上15質量%以下含有し、好ましくは2.5質量%以上10質量%以下含有する。添加剤は二硫化モリブデン、二硫化タングステン等の固体潤滑剤、シリカ等の削摩材で、添加の有無は任意で、その濃度はブラシ本体2に対し例えば2質量%以下、好ましくは1質量%以下である。
【0028】
実験例
鱗片状天然黒鉛と、フェノール樹脂バインダ-とアセトンを混練し、32メッシュの篩を通るように粉砕し、バインダー付き黒鉛粉とした。平均粒径15μmの電解銀粉をバインダー付き黒鉛粉とV型混合機で混合し、ブラシ本体2の材料とした。バインダー濃度は溶媒のアセトンを除いた正味量である。添加剤の種類と有無は任意である。実施例の材料組成とブラシの特性を表1に、比較例の材料組成とブラシの特性を表2に示す。材料組成は銀とカーボンの合計を100質量%とする濃度で示す。
【0029】
ブラシ本体材料を圧縮成型し、還元性雰囲気中300℃~700℃で焼成し、 アースブラシ1を製造した。製造したアースブラシ1に対し、ブラシ本体2中の、銀濃度と(揮発成分を含む)カーボン濃度は、以下のように測定した。
【0030】
銀とカーボンの定量法
焼成後のアースブラシを粉末状に削り5.0gを秤量し、比重1.38の硝酸水溶液を体積比で1:1に純水で薄めた硝酸水溶液15mLに溶かし、ヒーターで煮沸して銀を完全に溶解した後、定量濾紙(No.5A)で不溶分を分離し、硝酸銀水溶液を得た。この水溶液に、沈殿が生じなくなるまで、0.2mol/Lの塩酸水溶液を少量ずつ添加して塩化銀を析出させた。得られた塩化銀から重量法により銀の含有量を求めた。また濾紙上の不溶分の乾燥重量から、カーボン含有量(銀とカーボン以外の添加剤を含む場合、カーボンと添加剤の合計含有量)を求める。アースブラシが添加剤を含む場合、空気雰囲気で900℃以上の電気炉でアースブラシを15時間以上焼成した後の残量を、添加剤含有量とする。なお採取するアースブラシ材料は、ブラシ本体2中で孔部5を除く部分の材料とする。
【0031】
焼成後のブラシ本体2での、銀濃度と、黒鉛及び揮発成分から成るカーボン濃度、及び揮発成分濃度を表3,表4に示す。なお添加剤を無視し、銀とカーボンの合計を100質量%とする濃度で示す。
【0032】
揮発成分濃度
ブラシ本体2の揮発成分濃度は、以下のように測定した。ブラシ本体をカッターの先端で粉末状に削り、5mg±0.2mgの試料を3個ずつ作成した。試料を示差熱天秤(リガク株式会社製 TG-DTA TG8120)に投入し、窒素雰囲気中(窒素流量は200mL/min)で室温から902℃まで、昇温速度20℃/minで加熱した。なお、本発明の測定開始温度は空調下の室温であり、JIS Z 8703で定める常温の範囲内(5~35℃)である。加熱終了後に、重量減少曲線から加熱前後の重量を読み取り、重量減少率を求めた。3個の試料について上記の測定を行い、重量減少率の平均値を、ブラシ本体中の銀とカーボンの合計濃度で補正し、揮発成分濃度とした。
【0033】
ブラシの抵抗率
摺接面4とその反対面との間に直流電流を加え、ブラシ本体2(試料数4)の一方の側面(図2の右側に見える側面)に2本の端子を間隔10mmで接触させ、4端子法により電圧降下値を測定した。同様に反対の側面についても同様に電圧降下値を測定し、1試料当たり2個のデータを得た。2×4個の測定データの平均値から、ブラシ本体2の抵抗率を求めた。
【0034】
接触抵抗
接触抵抗の測定法を図4に示す。電気自動車の駆動シャフト10(クロムモリブデン鋼製で直径10mm、表面に油膜無し)に、一対のブラシ1,1を平行に摺接させた。ブラシ1をバネ(スプリング圧1.56kg/cm2)でシャフト10側へ加圧した。図4のように、直流電源16,抵抗17,電圧形18を接続し、抵抗17の電圧から、ブラシ1,1の本体抵抗と、ブラシ1,1とシャフト10間の接触抵抗、及びシャフト10内の抵抗の合計値を測定した。シャフト10内の抵抗は小さく、ブラシ1,1自体の抵抗は一定で、変動要因は接触抵抗である。雰囲気温度及びシャフトの回転数を変えながら、抵抗の合計値を測定した。測定結果中の抵抗の変動要素が、ブラシ1,1とシャフト10との真の接触抵抗を表す。測定結果を図5図6に示す。
【0035】
摩耗量
接触抵抗の測定と同様に、ブラシ1をシャフト10に摺接させた。ただし雰囲気温度を80℃に設定し、シャフトの回転数を10,000rpmとし、200時間摺接後のブラシ長さ方向の長さを測定し、測定前後の寸法差を摩耗量とした。
【0036】
結果
表1~表4を参照して、結果を検討する。各表とも組成の単位は質量%である。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
結果
揮発成分量が少なくなると共に摩耗量が増加し、揮発成分量が1.8質量%の比較例3では摩耗量が許容範囲を越える。これに対し、揮発成分が2質量%以上の実施例6,比較例2では摩耗量は許容範囲内である。このことから、揮発成分濃度の下限を2質量%とした。揮発成分濃度が増すと、焼成時にブラシ本体2に膨れあるいはカケが生じるようになり、19.5質量%(比較例4)では許容範囲外、12.6質量%(比較例1)では許容範囲内だったので、揮発成分濃度の上限を15質量%とした。揮発成分濃度は、好ましくは2.0質量%以上で10質量%以下とする。
【0042】
ブラシ本体2の抵抗率は銀濃度と共に減少し、32質量%の実施例2及び比較例4では許容範囲内、25質量%の比較例1では許容範囲外なので、銀濃度は30質量%超とする。銀濃度を50質量%以上とすると、ブラシ本体2の抵抗率が十分低くなる(実施例1、3~6、比較例3)ので好ましい。
【0043】
ブラシの接触抵抗を図5(500rpm)と図6(5000rpm)に示す。図5図6共に、比較例2(銀濃度95質量%)では、接触抵抗は変動が激しく、平均値も高かった。特に雰囲気温度が相対的に低く、回転数の低い領域(図5)で、比較例2は接触抵抗の変動が著しかった。また回転数が高い場合(図6)も、比較例2では接触抵抗は変動が激しく平均値も高かった。銀濃度が77質量%の実施例1及び55質量%の実施例4では、接触抵抗は低くかつ安定し、変動も小さかった。さらに銀濃度が85質量%の実施例3(図6)では、比較例2と、実施例1,4の中間的な結果が得られた。
【0044】
このことは官能試験での電気自動車のカーラジオからのノイズの強弱と対応する。即ち、比較例2では低速走行からの加速時にカーラジオに不快な雑音が混入したが、実施例1~6ではカーラジオからのノイズは小さく、実施例1,4,5,6でカーラジオからのノイズが特に小さかった。実施例1,4で最も優れた結果が得られ、実施例3がこれに次いだことから、ブラシ本体2の銀濃度は50質量%以上75質量%以下が好ましい。
【0045】
実施例では、摩耗量が小さく、ブラシ本体形状にカケや膨れが無く、ブラシ本体の抵抗率も低く、かつ駆動シャフトとの接触抵抗が小さい、アースブラシが得られる。
【符号の説明】
【0046】
1 アースブラシ
2 ブラシ本体
3 リード線
4 摺接面
5 孔部
6 埋め込み材料
10 駆動シャフト
11 変速機
12 モータ
13 インバータ
14 制御コンピュータ
16 直流電源
17 抵抗
18 電圧計
図1
図2
図3
図4
図5
図6