(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】軟化ゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08C 19/00 20060101AFI20230327BHJP
C08J 11/10 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C08C19/00
C08J11/10
(21)【出願番号】P 2022039379
(22)【出願日】2022-03-14
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】521010333
【氏名又は名称】公立大学法人公立鳥取環境大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06872754(US,B1)
【文献】米国特許第05362759(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108841040(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00
C08J 11/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムと、リナロールを含有する液体を接触させて、軟化したゴムを製造する軟化ゴムの製造方法
であり、
前記液体は、水を50容量%以上含有する軟化ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記液体は、リナロールに加えて、二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸を含有する請求項1に記載の軟化ゴムの製造方法。
【請求項3】
不飽和脂肪酸は、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸、及びアラキドン酸からなる群より選ばれる1種以上の不飽和脂肪酸である請求
項2に記載の軟化ゴムの製造方法。
【請求項4】
前記液体は、pHが7.5以下である請求項1又は2に記載の軟化ゴムの製造方法。
【請求項5】
前記液体は、水を含有する請求項1又は2に記載の軟化ゴムの製造方法。
【請求項6】
加硫ゴムと、前記液体とを接触させる温度は、常温である請求項1又は2に記載の軟化ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟化ゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、脂質過酸化反応を利用して、加硫ゴムを分解し、液状のゴムを得る方法が記載されている。具体的には、過酸化水素0.2mMと、硫酸第一鉄1mMと、リノール酸5mMと、緩衝剤15mMと、非イオン系界面活性剤0.01mMとを含有する反応液100mlに対して、ラテックス製のゴム手袋0.1gを浸漬し、37℃で24時間、撹拌することにより、ゴムを分解するとされている。その後、ゴムの分解により得られた反応液に所定の処理を施して、ゴム成分を回収することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法は、過酸化水素と硫酸第一鉄に由来する2価の鉄イオンとによるフェントン反応を生じさせて、水酸化ラジカルを生じさせるとされている。水酸化ラジカルは、開始剤として働き、脂質ラジカル類を生じさせるとされている。脂質ラジカル類は、加硫ゴムをラジカル化させて、加硫ゴムラジカルを生じさせるとされている。加硫ゴムラジカルは、酸化されて、一部がβ開裂を起こすとされている。また、加硫ゴムの二重結合部位が、脂質ラジカル類の攻撃を受けて、β開裂することで、分解するとされている。つまり、引用文献1の方法では、過酸化水素と2価の鉄イオンとがゴムの軟化には必須である。
【0005】
特許文献1の方法は、フェントン反応を生じさせる目的で、過酸化水素と、硫酸第一鉄などの2価の鉄イオンを含む塩と、リノール酸と、緩衝剤と、非イオン系界面活性剤とを配合して、反応液として使用するものあり、反応液の準備が煩雑であった。特に大規模な反応を行う場合は、より煩雑になる。
【0006】
また、リノール酸は、単価が高額であり、特許文献1の方法は、コストが嵩むという問題があった。
【0007】
本発明は、過酸化水素及び2価の鉄イオンによって生じるフェントン反応によらず、リナロールを利用することにより、軟化した加硫ゴムを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
加硫ゴムと、リナロールを含有する液体を接触させて、軟化したゴムを製造する軟化ゴムの製造方法により、上記の課題を解決する。
【0009】
上記の軟化ゴムの製造方法において、前記液体は、リナロールに加えて、二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸を含有するものとすることが好ましい。
【0010】
上記の軟化ゴムの製造方法において、不飽和脂肪酸は、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸、及びアラキドン酸からなる群より選ばれる1種以上の不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0011】
上記の軟化ゴムの製造方法において、前記液体は、pHが7.5以下であることが好ましい。
【0012】
上記の軟化ゴムの製造方法において、前記液体は、水を含有するものとすることが好ましい。前記液体は、水を50容量%以上含有するものとすることが好ましい。
【0013】
上記の軟化ゴムの製造方法において、加硫ゴムと、前記液体とを接触させる温度は、常温であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過酸化水素及び2価の鉄イオンによって生じるフェントン反応を利用せずに、リナロールを利用することにより、軟化した加硫ゴムを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の軟化ゴムを実施するための形態について説明する。
【0016】
本発明は、加硫ゴムと、リナロールを含有する液体を接触させて、軟化したゴムを製造する軟化ゴムの製造方法である。
【0017】
加硫ゴムと、リナロールを含有する液体とを、接触させる方法は特に限定されず、加硫ゴムとリナロールを含有する液体とを接触させることができればよい。例えば、リナロールを含有する液体に加硫ゴムを浸漬してもよいし、加硫ゴムに対してリナロールを含有する液体を散布してもよい。浸漬する場合は、振盪しながら接触させてもよい。
【0018】
加硫ゴムとしては、天然ゴム(NR)、又は、合成ゴムを使用することができる。天然ゴムと合成ゴムとは、単独で使用してもよいし、混合して使用してもよい。合成ゴムは、特に限定されないが、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)及びブタジエンゴム(BR)からなる群より選ばれる1種以上の合成ゴムが挙げられる。これらの天然ゴム、又は合成ゴムは、公知のものを使用することができる。加硫ゴムは、架橋反応により、流動性を低下させたものである。硫黄、マグネシウムなどの金属酸化物、セレン、テルル、又は有機酸化物などの公知の架橋剤で加硫したものを使用することができる。
【0019】
加硫ゴムは、カーボンブラック、若しくは炭酸カルシウムなどの充填材、公知の加硫促進剤、公知の老化防止剤、公知の可塑剤などの添加物が配合されたものであってもよい。添加物が配合された加硫ゴムでも軟化させることができるので、対象とする加硫ゴムは、タイヤ、靴底、緩衝材などの廃材であってもよい。
【0020】
処理する加硫ゴムの形状は、特に限定されない。例えば、ゴム手袋のように厚みが0.1mm未満の薄手の加硫ゴムのシートを軟化させることもできるし、厚みが1.0mm以上の厚手の加硫ゴムのシートなども軟化させることができる。ゴムの厚みの上限値は、特に限定されないが、例えば、12.0mm以下であってもよいし、7.0mm以下であってもよいし、3.0mm以下であってもよい。加硫ゴムの形状は、フィルム状、シート状に限定されず、ゴムチップなどの粒状物、ゴムマットなどの扁平物など、ゴムを主成分とする種々の形状を有する成形品が対象となる。なお、加硫ゴムの形状がシート状でない、例えば、粒状物の場合は、粒子が最大径となる部位を上記の厚みとして考えればよい。
【0021】
リナロールを含有する液体は、リナロール以外に、水を含有するものであることが好ましい。水の含量は、限定されないが、例えば、50容量%以上であってもよいし、80容量%以上であってもよい。水の含量の上限は、限定されないが、例えば、99.8容量%以下とすることができる。水は安価に調達することが可能であるので、リナロールを含有する液体を簡単に調製することが可能である。また、水の使用量を増大させれば、リナロールの使用量を減じることができるので、安価にリナロールを含有する液体を得ることができる。また、後述するように、リナロールの濃度を過度に大きくしても加硫ゴムを軟化させる効果は飽和する傾向にある。リナロールの量を減じて水を増やせばコストの点で効率的であるし、リナロールと不飽和脂肪酸を併用した場合には、液体の粘性が低下して扱いやすくなる。
【0022】
リナロールを含有する液体は、リナロールに加えて、二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸を含有してもよい。不飽和脂肪酸としては、例えば、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸、及びアラキドン酸からなる群より選ばれる1種以上の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0023】
リナロールを含有する液体のpHは、特に限定されないが、例えば、pH7.5以下とすることが好ましく、pH5.5以下とすることがより好ましく、pH3.5以下とすることがさらに好ましい。pHの下限値は特に限定されないが、例えば、pH2.0以上とすることができる。リナロールを含有する液体のpHを調整することにより、ゴムの軟化を促進することができる。
【0024】
リナロールを含有する液体のpHは、特に限定されないが、例えば、酢酸、コハク酸、酒石酸、及びクエン酸からなる群より選ばれる1種以上の有機酸によって調整することができる。上記のような有機酸は、強酸や劇物に当たらないので取り扱いやすく、廃液の処理が比較的容易であり、コストも低いので好適に使用することができる。有機酸の中でも、酢酸は、抗菌作用があり、微生物の繁殖を抑えることができる。酢酸を使用すれば、リナロールを含有する液体に微生物が繁殖と、それによる反応液のpHの変動とを抑えることができるので好ましい。その他、リナロールを含有する液体のpHは、リン酸(ナトリウム)緩衝液、又は酢酸(ナトリウム)緩衝液などの適宜の緩衝液により調整してもよい。
【0025】
リナロールとしては、(R)体、(S)体、(R)体と(S)体の両者を含むラセミ体を使用することができる。
【0026】
リナロールを含有する液体中のリナロールの濃度、又はリナロールと不飽和脂肪酸との合計の濃度(以下、リナロール等の濃度という。)は、加硫ゴムの形状によって適宜変更する。すなわち、加硫ゴムの厚みが大きいときは、前記液体中に含まれるリナロール等の濃度を大きくする。反対に、加硫ゴムの厚みが小さいときは、前記液体中に含まれるリナロール等の濃度を小さくする。前記液体に含まれるリナロール等の濃度を過度に大きくしても、加硫ゴムを軟化させる効果は飽和する傾向にある。コストを抑えようとするのであれば、前記液体中におけるリナロール等の濃度は、700mM以下にすることが好ましく、540mM以下にすることがより好ましく、270mM以下にすることがより好ましい。前記液体中におけるリナロール等の下限値は、上述の通り、加硫ゴムの形状を勘案して選択すればよいが、例えば、5mM以上、又は10mM以上にすることができる。
【0027】
リナロールを含有する液に、不飽和脂肪酸を配合する場合においては、不飽和脂肪酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、リナロールの濃度(mM)の110%以下にすることが好ましく、リナロールの濃度(mM)の60%以下にすることがより好ましく、リナロールの濃度(mM)の50%以下にすることがより好ましく、リナロールの濃度(mM)の20%以下にすることがより好ましい。不飽和脂肪酸の下限値は、特に限定されないが、リナロールの濃度(mM)の0%以上、又は1%以上にすることができる。
【0028】
リナロールを含有する液に対して、不飽和脂肪酸を添加することによって、ゴムを軟化させる時間が短くなる傾向がある。ゴムを短い時間で軟化させたい場合は、不飽和脂肪酸を添加することが好ましい。
【0029】
リナロールは、不飽和脂肪酸に比して、粘性が低く、取り扱いやすく、濃度の調整も容易であり、コストも小さい。これらの特性を重視する場合は、不飽和脂肪酸は添加しないか、不飽和脂肪酸の含有量を小さくすればよい。
【0030】
リナロールを含有する液体は、フェントン反応によって、加硫ゴムを分解するものではない。フェントン反応を利用しているかどうかは、リナロールを含有する液体が2価の鉄イオンと過酸化水素との両方を含有しているか、そうでないかによって判断することができる。過酸化水素を含有し、かつ2価の鉄イオンを不純物として許容される濃度を越えて含有する場合は、フェントン反応を利用していると判断することができる。過酸化水素を含有していない、又は鉄分を含有していない、若しくは不純物として許容できる濃度の鉄分しか含有していない場合は、フェントン反応を利用していないと判断することができる。
【0031】
上述のゴムの軟化方法は、フェントン反応を利用するものではないので、原則として、鉄イオンを発生させる鉄分、及び過酸化水素を含有する必要はない。しかし、水道水、又は工業用水には、鉄分が不純物として、0~0.3mg/L含まれることがある。不純物として含まれる鉄分は、除去せずに、そのまま使用してもよい。例えば、前記液体の溶媒として、蒸留、イオン交換、又は限外濾過など操作を経た水、又は鉄分を0~0.3mg/Lの範囲内で含有する工水若しくは水道水を使用することができる。なお、2価の鉄イオンは、空気に曝されることで3価の鉄イオンとなる。ここでいう鉄分の含量は、2価の鉄イオンと3価の鉄イオンとの合計とする。
【0032】
加硫ゴムと、不飽和脂肪酸とを接触させて加硫ゴムを軟化させる際の温度は特に限定されず、例えば、15~40℃に加熱又は冷却してもよいし、加熱を伴わない常温としてもよい。常温であれば、加熱に要するエネルギーと工数を省略することができるので好ましい。
【0033】
加硫ゴムと、リナロールを含有する液とを接触させる時間は特に限定されないが、長時間接触させてもゴムを軟化させる効果は頭打ちになる。接触させる時間の下限値は、例えば、10時間以上であることがより好ましい。接触させる時間の上限値は、例えば、30時間以下であることがより好ましい。リナロールと不飽和脂肪酸とを併用する場合は、例えば、反応時間を1~240分にしてもよい。
【0034】
必須ではないが、加硫ゴムと、不飽和脂肪酸とを接触させる前に、加硫ゴムをエタノール若しくはメタノールなどの有機溶媒に接触させたり、加硫ゴムを界面活性剤に接触させたりする前処理を実施してもよい。
【0035】
上記の軟化ゴムの製造方法によれば、当該製造方法を実施する前の加硫ゴムに比して、軟化した固形のゴムを得ることができる。リナロールを含有する液体と加硫ゴムとを接触させることによって、加硫ゴムが軟化する詳細な機構は不明であるが、加硫によるゴムの架橋構造が特定のリナロールによって切断されることよるものと推測される。
【0036】
リナロールを含有する液体は、アセトンなどの有機溶媒、及び界面活性剤を含有してもよい。アセトンなどの有機溶媒、及び界面活性剤を含有させることで、加硫ゴムの軟化を促進し、加硫ゴムを軟化させるのに要する時間を短くすることができる。
【0037】
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの水に対して可溶な有機溶媒を使用することが好ましい。前記界面活性剤としては、ラウリル硫酸アンモニウムなどの陰イオン系界面活性剤を好適に使用することができる。有機溶媒、及び界面活性剤を添加する場合、例えば、有機溶媒が1.30~4.1Mとなるようにし、界面活性剤が0.7~1.4mMとなるようにすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を挙げて説明する。以下に示す実施例は、本発明の一例に過ぎず、本発明の技術的範囲は例示した実施例に限定されるものではない。
【0039】
[試験例1ないし3]
以下の方法で、厚さ1.0mmの加硫ゴムの試験片を作製し、当該試験片と、以下の組成を有するリナロールを含有する液体を接触させて、以下の方法によりゴムの物性を調べた。
【0040】
[ゴムの試験片]
iteck co., ltd製の厚さ1.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。上記のゴムシートは、質量基準で、ポリマー成分を35.2%含有し、炭酸カルシウムを45.4%含有し、カーボンブラックを16.6%含有し、微量成分として有機物と無機物とを2.8%含有する。前記ポリマー成分は、天然ゴムが主成分であり、わずかにSBRを含有する。
【0041】
[反応液の組成]
以下の表1に記載の各濃度のリナロールを含有する液体、又は水(コントロール)に上記試験片を浸漬して、試験片と反応液とを含有する容器を、35℃で、20時間にわたって100rpmに設定したウォーターバスで振盪した。振盪後、液分を拭いて、試験片を以下の引張試験に供した。なお、リナロールはワコー純薬社製の一級試薬(ラセミ体)を使用し、水は脱イオン水を使用した。反応液は、表1に記載の濃度となるように、リナロールと脱イオン水とを混合することにより調製した。リナロールを含有する液体(反応液)に、2価の鉄イオンと過酸化水素は含まれない。
【0042】
[引張試験]
以下の試験方法により実施した。引張試験は、IMADA社製の電動計測スタンド(縦型)(MX2-500N)に、IMADA社製のデジタルフォースゲージ(ZTA-500N)を取り付け、前記スタンドと前記デジタルフォースゲージにクランプを取りつけて、クランプで試験片を保持して、以下の条件で引張試験を実施した。引張速度は、1mm/秒とした。なお、クランプは、IMADA社製のローレットカム式アタッチメント(GP-15/30)を使用した。
【0043】
引張試験で使用した、ダンベル形の試験片は、上述の通り、7号試験片打抜刃で切り出した。当該試験片の両端の幅広部の幅は6.0mmであり、両端の幅広部の長さは7.0mmであり、両端の幅広部を連結する細幅部の幅は2.0mmであり、前記細幅部の長さは10.0mmである。試験片の厚みは、ゴムシートの厚みと等しい。前記細幅部と前記幅広部との境界線をクランプで固定した。引張試験開始時のクランプ間の距離は10.0mmである。
【0044】
破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)は次式により求めた。
【0045】
破断伸び率(%)=試験片破断時におけるクランプ間の距離÷引張開始前のクランプ間の距離×100
【0046】
引張強度(MPa)=試験片破断時における荷重(N)÷試験片の断面積(m2)×1/106
【0047】
M300(MPa)=試験片が300%伸長した際における荷重(N)÷試験片の断面積(m2)×1/106
【0048】
反応液の組成と、上記の引張試験の結果を、以下の表1に示す。
【0049】
【0050】
[試験例4ないし8]
iteck co., ltd製の厚さ5.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。なお、当該ゴムシートの組成は表1の試験で用いたゴムシート同様であり、厚みが異なる。以下の表2に記載の各濃度のリナロールを含有する液体、又は水(コントロール)に上記試験片を浸漬して、試験片と反応液とを含有する容器を、35℃で、20時間にわたって100rpmに設定したウォーターバスで振盪した。試験例4、5、及び8については、表2に記載の濃度となるようにリナロールと脱イオン水とを混合することにより、反応液を調整した。試験例6については、酢酸と脱イオン水とを混合して調製した酢酸液(酢酸濃度0.1M)のpHを、希釈した水酸化ナトリウム液でpH3.0に調整し、当該酢酸液(有機酸の液)とリナロールとを混合して、反応液を調製した。試験例7については、クエン酸と脱イオン水とを混合して調製したクエン酸液(クエン酸濃度0.1M)のpHを、希釈した水酸化ナトリウム液でpH5.0に調整し、当該クエン酸液とリナロールとを混合して、反応液を調製した。リナロール及び水は、上記と同様のものを使用した。リナロールを含有する液体(反応液)に、2価の鉄イオンと過酸化水素とは含まれない。浸漬後の各試験片について、上記と同様の方法により引張試験を実施して、破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)とを求めた。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表1及び表2の結果から、加硫ゴムと、リナロールを含有する液体を接触させることにより、軟化したゴムを製造することができることがわかる。また、試験例6から試験例8より、反応液のpHが低下すると、ゴムの軟化が促進されることがわかる。
【0053】
[試験例9ないし14]
iteck co., ltd製の厚さ1.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。なお、当該ゴムシートは表1の試験で用いた上記のゴムシート同様である。以下の表3に記載の各濃度のリナロールと各濃度のリノール酸とを含有する液体、又は水(コントロール)に上記試験片を浸漬して、試験片と反応液とを含有する容器を、35℃で、20時間にわたって100rpmに設定したウォーターバスで振盪した。リナロール及び水は、上記と同様のものを使用した。リナロールを含有する液体(反応液)に、2価の鉄イオンと過酸化水素は含まれない。リノール酸は、富士フィルム和光純薬社製一級試薬を使用した。コントロールを除く各反応液は、コハク酸と脱イオン水とを混合して調製したコハク酸液(コハク酸濃度0.1M)のpHを、希釈した水酸化ナトリウム液でpH3.0に調整し、当該コハク酸液(有機酸の液)とリナロールとを混合して、反応液を調製した。浸漬後の各試験片について、上記と同様の方法により引張試験を実施して、破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)とを求めた。結果を表3に示す。
【0054】
【0055】
[試験例15及び16]
iteck co., ltd製の厚さ5.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。なお、当該ゴムシートは表2の試験で用いた上記のゴムシート同様である。以下の表4に記載の各濃度のリナロールと各濃度のリノール酸とを含有する液体、又は水(コントロール)に上記試験片を浸漬して、試験片と反応液とを含有する容器を、35℃で、20時間にわたって100rpmに設定したウォーターバスで振盪した。リナロール、リノール酸、及び水は、上記と同様のものを使用した。リナロールを含有する液体(反応液)に、2価の鉄イオンと過酸化水素は含まれない。リノール酸は、富士フィルム和光純薬社製一級試薬を使用した。試験片15の反応液は、酒石酸と脱イオン水とを混合して調製した酒石酸液(酒石酸濃度0.1M)のpHを、希釈した水酸化ナトリウム液でpH3.0に調整し、当該酒石液(有機酸の液)とリナロールとを混合して、反応液を調製した。浸漬後の各試験片について、上記と同様の方法により引張試験を実施して、破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)とを求めた。結果を表4に示す。
【0056】
【0057】
表3及び表4に示したように、リナロールの一部を、リノール酸に置き換えても、軟化したゴムが得られることがわかる。
【0058】
[試験例17ないし19]
iteck co., ltd製の厚さ1.0mmのゴムシートを、JIS K 6251 7号試験片打抜刃(高分子計器株式会社)を使用してダンベル形状の試験片を切り出した。なお、当該ゴムシートは表1の試験で用いた上記のゴムシート同様である。以下の表5に記載の濃度のリナロールと、各濃度のオレイン酸、リノレン酸、又はアラキドン酸とを含有する液体、又は水(コントロール)に上記試験片を浸漬して、試験片と反応液とを含有する容器を、35℃で、20時間にわたって100rpmに設定したウォーターバスで振盪した。リナロール及び水は、上記と同様のものを使用した。リナロールを含有する液体(反応液)に、2価の鉄イオンと過酸化水素は含まれない。オレイン酸、リノレン酸、又はアラキドン酸は、富士フィルム和光純薬社製一級試薬を使用した。コントロールを除く、各反応液は、酢酸と脱イオン水とを混合して調製した酢酸液(酢酸濃度0.1M)のpHを、希釈した水酸化ナトリウム液でpH3.0に調整し、当該酢酸液(有機酸の液)とリナロールとを混合して、反応液を調製した。浸漬後の各試験片について、上記と同様の方法により引張試験を実施して、破断伸び率、引張強度、300%モジュラス(M300)とを求めた。結果を表5に示す。
【0059】
【0060】
表5に示したように、リナロールの一部を、オレイン酸、リノレン酸、又はアラキドン酸に置き換えても、軟化したゴムが得られることがわかる。
【0061】
[試験例20]
EPDMを主成分とする厚さ1.0mmの加硫済みのゴムシートを、表6に記載の濃度のリノール酸を含有する液体、又は水(コントロール)に浸漬して100rpmに設定したヴォルテックスミキサーで撹拌し、その後、試験片と反応液とを含有する容器を、50℃で3時間にわたって100rpmに設定したウォーターバスで振盪した。反応液は、リノール酸と脱イオン水とを混合することにより調製した。浸漬開始後3時間におけるゴムシートの物性を評価した。リノール酸は上記と同様の試薬を使用し、水は脱イオン水を使用した。リノール酸を含有する液体(反応液)に、2価の鉄イオンと過酸化水素は含まれない。
【0062】
ゴムシートの物性評価は、上記と同様の方法により、引張強度と破断伸び率と300%モジュラスとを求めた。物性評価の結果を、表6に示す。
【0063】
【0064】
表6に示したように、リノール酸を使用すると、より短い反応時間で軟化したゴムが得られることがわかる。
【0065】
試験例1から20で使用した反応液は、反応液の容量が1mlとなるようにしており、いずれも反応液中に含まれる水の量が80~99容量%の範囲内にある。反応液に含まれる大半の水であるため、取り扱いやすく、反応液の調製に要するコストが安価である。
【要約】
【課題】
過酸化水素及び2価の鉄イオンによって生じるフェントン反応によらず、リナロールを利用することにより、軟化した加硫ゴムを製造する方法を提供する。
【解決手段】
加硫ゴムと、リナロールを含有する液体を接触させて、軟化したゴムを製造する軟化ゴムの製造方法である。前記液体は、リナロールに加えて、二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸を含有してもよい。不飽和脂肪酸は、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸、及びアラキドン酸からなる群より選ばれる1種以上の不飽和脂肪酸であってもよい。前記液体は、pHが7.5以下としてもよい。前記液体は、水を含有してもよい。前記液体は、水を50容量%以上含有してもよい。加硫ゴムと、前記液体とを接触させる温度は、常温にしてもよい。
【選択図】なし