(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】水素導管の構造および作製方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20230327BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20230327BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20230327BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20230327BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20230327BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230327BHJP
B23K 26/352 20140101ALI20230327BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230327BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/021
H01M8/0213
H01M8/0258
B23K26/21 G
B23K26/21 W
B23K26/352
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019138406
(22)【出願日】2019-07-27
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】521159078
【氏名又は名称】林 美子
(74)【代理人】
【識別番号】100147740
【氏名又は名称】保坂 俊
(72)【発明者】
【氏名】平永 宏二
(72)【発明者】
【氏名】林 明夫
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-527716(JP,A)
【文献】特開2011-111381(JP,A)
【文献】国際公開第2006/027850(WO,A1)
【文献】特開2019-115928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B23K 26/21
B23K 26/352
C25B 1/00- 9/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の金属板を溶接して水素ガスを含む気体を通す空間(水素ガス導管という)を形成し、水素ガス導管の内側となる金属板表面(金属板内表面という)に炭素膜を形成する方法であって、
2枚の金属板はそれぞれ水素ガス導管用の凹状部分および平坦部分を有し、2枚の金属板の凹状部分および平坦部分を合わせて、凹状部分の周囲の平坦部分(溶接部位という)を凹状部分に沿ってレーザー溶接し、凹状部分を水素ガス導管とし、
金属板の平坦部のレーザー溶接個所(溶接部位という)は、凹状部のそれぞれ片側に3か所存在し、前記3か所のレーザー溶接部位の構造の1つは、2枚の金属板のうちの1枚の金属板(金属板A)、金属板A内表面に積層した炭素膜(金属板A上炭素膜)、前記金属板A上炭素膜と接触した他の1枚の金属板(金属板B)内表面に積層した炭素膜(金属板B上炭素膜)および金属板Bであり、
前記3か所のレーザー溶接部位の構造の他の1つは、金属板A、金属板A上炭素膜または金属板B上炭素膜、および金属板Bであり、および
前記3か所のレーザー溶接部位の構造の残り1つは、金属板Aおよび金属板Bであることを特徴とする、
水素ガス導管の作製方法。
【請求項2】
前記水素ガス導管の外側となる金属板表面(金属板外表面という)に炭素膜を形成することを特徴とする、請求項1に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項3】
2枚の金属板を溶接して水素ガスを含む気体を通す空間(水素ガス導管という)を形成し、水素ガス導管の内側となる金属板表面(金属板内表面という)に炭素膜を形成する方法であって、
さらに、前記水素ガス導管の外側となる金属板表面(金属板外表面という)に炭素膜を形成し、
2枚の金属板はそれぞれ水素ガス導管用の凹状部分および平坦部分を有し、2枚の金属板の凹状部分および平坦部分を合わせて、凹状部分の周囲の平坦部分(溶接部位という)を凹状部分に沿ってレーザー溶接し、凹状部分を水素ガス導管とし、
レーザー照射する側の金属板外表面上の炭素膜はレーザー溶接後に形成することを特徴とする、
水素ガス導管の作製方法。
【請求項4】
レーザー照射しない側の金属板外表面上の炭素膜はレーザー溶接後に形成することを特徴とする、
請求項3に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項5】
2枚の金属板を溶接して水素ガスを含む気体を通す空間(水素ガス導管という)を形成し、水素ガス導管の内側となる金属板表面(金属板内表面という)に炭素膜を形成する方法であって、
前記水素ガス導管の外側となる金属板表面(金属板外表面という)に炭素膜を形成し、
2枚の金属板はそれぞれ水素ガス導管用の凹状部分および平坦部分を有し、2枚の金属板の凹状部分および平坦部分を合わせて、凹状部分の周囲の平坦部分(溶接部位という)を凹状部分に沿ってレーザー溶接し、凹状部分を水素ガス導管とし、
レーザー照射しない側の金属板外表面上の炭素膜はレーザー溶接後に形成することを特徴とする、
水素ガス導管の作製方法。
【請求項6】
レーザー照射する側の金属板外表面上の炭素膜はレーザー溶接後に形成することを特徴とする、
請求項5に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項7】
2枚の金属板を溶接して水素ガスを含む気体を通す空間(水素ガス導管という)を形成し、水素ガス導管の内側となる金属板表面(金属板内表面という)に炭素膜を形成する方法であって、
2枚の金属板はそれぞれ水素ガス導管用の凹状部分および平坦部分を有し、2枚の金属板の凹状部分および平坦部分を合わせて、凹状部分の周囲の平坦部分(溶接部位という)を凹状部分に沿ってレーザー溶接し、凹状部分を水素ガス導管とし、
凹状部分以外の平坦部の不要な炭素膜を除去するために、
炭素膜形成前に炭素膜を除去する部分にマスキンテープを貼り付けた後に、炭素膜を積層し、さらに酸素(O2)プラズマエッチングによりマスキングテープ側面エッジ部の炭素膜を除去し、その後でマスキングテープを剥がして、不要な炭素膜を除去することを特徴とする、
水素ガス導管の作製方法。
【請求項8】
マスキングテープは、ステンレステープ、アルミニウムテープ、またはプラスチックテープであることを特徴とする、
請求項7に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項9】
炭素膜形成前に、炭素膜を形成する金属表面(金属板内表面および/または外表面)にレーザー照射により微小な凹凸を形成することを特徴とする、請求項1~8のいずれかの項に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項10】
炭素膜は、CVD法、PVD法、またはメッキ法により形成されることを特徴とする、請求項1~9のいずれかの項に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項11】
2枚の金属板のレーザー溶接する部位(溶接部位という)の構造は、2枚の金属板のうちの1枚の金属板(金属板Aという)、金属板A内表面に積層した炭素膜(金属板A上炭素膜という)、前記金属板A上炭素膜と接触した他の1枚の金属板(金属板Bという)内表面に積層した炭素膜(金属板B上炭素膜という)および金属板Bであるか、または
金属板A、金属板A上炭素膜または金属板B上炭素膜、および金属板Bであるか、または
金属板Aおよび金属板Bであることを特徴とする、請求項3~10のいずれかの項に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項12】
2枚の金属板を合わせてレーザー溶接する場合において、レーザー照射する側の、水素ガス導管となる金属板の複数の凸部同士を透明治具で押さえて、前記透明治具を通して金属板の溶接する部位(溶接部位という)にレーザーを照射して、前記溶接部位において、2枚の金属板を溶融接合することを特徴とする、請求項1~11のいずれかの項に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項13】
透明治具、金属板の凸部および金属板で囲まれた、レーザーが照射する領域を含む空間(溶接空間Aという)は、シールドガスで充満されていることを特徴とする、請求項12に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項14】
2枚の金属板を合わせてレーザー溶接する場合において、レーザー照射しない側の、水素ガス導管となる金属板の複数の凸部同士を押さえ治具または台座で押さえて、金属板の溶接する部位(溶接部位という)において、2枚の金属板を溶融接合することを特徴とする、請求項1~13のいずれかの項に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項15】
押さえ治具または台座、金属板の凸部および金属板で囲まれた空間(溶接空間Bという)は、シールドガスで充満されていることを特徴とする、請求項14に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項16】
前記溶接空間Aのシールドガスによる圧力は、大気圧より大きいか周囲圧力より大きいことを特徴とする、請求項13に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項17】
前記溶接空間Bのシールドガスによる圧力は、大気圧より大きいか周囲圧力より大きいことを特徴とする、請求項15に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項18】
シールドガスは、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、ネオン(Ne)ガス、窒素(N2)ガス、二酸化炭素ガスから選択される少なくとも1つのガスであることを特徴とする、請求項13、および15~17のいずれかの項に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項19】
金属板は、SUS304またはステンレス鋼または鉄系材料であることを特徴とする、請求項1~18のいずれかの項に記載の水素ガス導管の作製方法。
【請求項20】
2枚の金属板を溶接して作製した水素ガスを含む気体を通す空間である水素ガス導管の金属板表面構造は、金属板表面上に炭素膜が積層した構造である水素ガス導管であって、
2枚の金属板はそれぞれ水素ガス導管用の凹状部分および平坦部分を有し、2枚の金属板の凹状部分および平坦部分を合わせて、凹状部分の周囲の平坦部分(溶接部位という)を凹状部分に沿ってレーザー溶接し、凹状部分を水素ガス導管とし、
水素ガス導管の内側は、金属板表面上に炭素膜が積層した構造であり、
金属板の平坦部のレーザー溶接個所(溶接部位という)は、凹部のそれぞれ片側に3か所存在し、前記3か所のレーザー溶接部位の構造の1つは、2枚の金属板のうちの1枚の金属板(金属板A)、金属板A内表面に積層した炭素膜(金属板A上炭素膜)、前記金属板A上炭素膜と接触した他の1枚の金属板(金属板B)内表面に積層した炭素膜(金属板B上炭素膜)および金属板Bであり、
前記3か所のレーザー溶接部位の構造の他の1つは、金属板A、金属板A上炭素膜または金属板B上炭素膜、および金属板Bであり、および
前記3か所のレーザー溶接部位の構造の残り1つは、金属板Aおよび金属板Bであることを特徴とする、
水素ガス導管。
【請求項21】
2枚の金属板を溶接して作製した水素ガスを含む気体を通す空間である水素ガス導管の金属板表面構造は、金属板表面上に炭素膜が積層した構造である水素ガス導管であって、
2枚の金属板はそれぞれ水素ガス導管用の凹状部分および平坦部分を有し、2枚の金属板の凹状部分および平坦部分を合わせて、凹状部分の周囲の平坦部分(溶接部位という)を凹状部分に沿ってレーザー溶接し、凹状部分を水素ガス導管とし、
水素ガス導管の内側は、金属板表面上に炭素膜が積層した構造であり、
さらに、前記水素ガス導管の外側となる金属板表面(金属板外表面という)に炭素膜が存在し、
レーザー照射する側の金属板外表面上の炭素膜はレーザー溶接後に形成された炭素膜であることを特徴とする、
水素ガス導管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを含む気体が通る導管の構造およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、船舶や飛行機の燃料には、ガソリン・軽油・重油等の炭化水素を主成分とする化石液体燃料が主として使用されている。また、人間生活に必要な電気もこれらの液体燃料、石炭や天然ガス等の炭化水素系燃料が主として用いられている。しかし、これらの炭化水素系燃料を燃焼させるとニ酸化炭素が発生し、地球温暖化の原因となるので、近年はこれらの炭化水素系燃料の消費を大幅に削減するための種々の提案がなされている。その中で最も有望なものが水素を燃料とする燃料電池である。
【0003】
燃料電池の発電原理は、水の電気分解と逆反応であり、電解質を挟んだ2つの電極に酸素ガスと水素ガスを供給して電気を発生させる。
図4は、固体高分子形燃料電池の構造の一例を示す図である。水素(H
2)ガスが通り、燃料電池21へ水素ガスを供給する水素(ガス)導管17および燃料電池から排出される未反応水素ガスが流れる導管19は、2枚の金属板11および金属板12(金属合板13)が合わさり形成される。燃料電池21において、固体電解質24の両側にアノード電極(燃料極)25およびカソード電極(空気極)23が配置され、さらにアノード電極(燃料極)25の外側には水素供給ライン26が、カソード電極(空気極)23の外側には空気供給ライン22が配置されている。
【0004】
空気(O
2+N
2)または酸素(O
2)を供給する導管(空気導管)18および燃料電池21から排出される水(H
2O)と未反応空気が流れる導管20は、2枚の金属板14および金属板15(金属合板16)が合わさり形成される。
図4に示すように、水素導管17、その排出導管19、および空気導管18、その排出導管20は凸形状であるから、金属合板13および16を重ねていくとそれらの間に空間ができるので、この空間に燃料電池21を配置すると、多数の燃料電池を組み込んだ燃料電池モジュールを作製できる。上下方向には燃料電池が交互に逆に配置されており、1つの水素導管17から上下の水素電池21の水素供給ライン26に入り、それらの水素供給ライン26から排出される未反応水素は排出導管19へ入る。また1つの空気導管18から上下の水素電池21の空気供給ライン22に入り、それらの空気供給ライン22から排出される水および未反応空気は排出導管20へ入る。尚、
図4において気体の流れは矢印記号⇒で示している。
【0005】
リン酸形燃料電池も、
図4における固体電解質24をリン酸(液体形電解質)に変更すれば
図4と同様な構造で構成できる。溶融炭酸塩形燃料電池の場合も、
図4における固体電解質24を(Li
2CO
3+K
2CO
3)電解質に変更し、空気導管に酸化剤ガス(O
2+CO
2)が通るだけであるから、
図4と同様な構造で構成できる。このように、燃料電池の殆どにおいて、水素を供給する水素導管が必要であり、2枚の金属板を用いて
図4に示すような燃料モジュール構造を作製できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】水素脆性と金属材料の安全性{水素エネルギーシステムvol.22 No.2(1997)}
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、水素燃料電池では、水素が通る水素(ガス)導管が必須であり、その導管材料としてSUS304等のステンレス鋼が主として用いられている。
図4では、水素導管17を構成する金属板11および12が相当する。しかし、ステンレス鋼の内表面に水素(H
2)ガスが長期間接触すると、水素がステンレス鋼中に侵入してステンレス鋼が脆くなるという現象(水素脆性)が発生する。特にステンレス鋼で応力が集中する部分(
図4では、たとえば水素導管17の角部)で顕著に現れる。燃料電池は高価なものであるから、コスト低減のためには燃料電池の長寿命化が必要であるが、このステンレス鋼の水素脆性による劣化が燃料電池の長寿命化の妨げとなっている。また、燃料電池では電気発生の際に化学反応で発熱する場合が多いので水素導管も温度が高くなり水素脆性が促進される。(非特許文献1)
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、SUS304等のステンレス鋼の金属板表面に炭素膜を付着すると水素脆性を防止できることを発見し、2枚の金属板の凹状部分の両側をレーザー溶接して水素を通る導管(水素(ガス)導管)の作製に適用した。具体的には以下の特徴を有する。
(1)本発明は、2枚の金属板を溶接して水素ガスを含む気体を通す空間(水素導管という)を形成する方法(作製方法)であって、水素導管の内側となる金属板表面(金属板内表面という)、または、水素導管の外側となる金属板表面(金属板外表面という)に炭素膜を形成することを特徴とし、2枚の金属板はそれぞれ水素導管用の凹状部分および平坦部分を有し、2枚の金属板の凹状部分および平坦部分を合わせて、凹状部分の周囲の平坦部分(溶接部位という)を凹状部分に沿ってレーザー溶接し、凹状部分を水素導管とすることを特徴とする。
(2)本発明は、(1)に加えて、炭素膜形成前に、炭素膜を形成する金属表面(金属板内表面および/または外表面)にレーザー照射により微小な凹凸を形成し、炭素膜は、CVD法、PVD法、またはメッキ法により形成されることを特徴とする。
【0009】
(3)本発明は、(1)または(2)に加えて、2枚の金属板のレーザー溶接する部位(溶接部位という)の構造は、2枚の金属板のうちの1枚の金属板(金属板Aという)、金属板A内表面に積層した炭素膜(金属板A上炭素膜という)、前記金属板A上炭素膜と接触した他の1枚の金属板(金属板Bという)内表面に積層した炭素膜(金属板B上炭素膜という)および金属板Bであるか、または金属板A、金属板A上炭素膜または金属板B上炭素膜、および金属板Bであるか、または金属板Aおよび金属板Bであることを特徴とする。
(4)本発明は、(1)または(2)に加えて、金属板の平坦部のレーザー溶接個所(溶接部位という)は、凹部のそれぞれ片側に3か所存在し、前記3か所のレーザー溶接部位の構造の1つは、2枚の金属板のうちの1枚の金属板(金属板A)、金属板A内表面に積層した炭素膜(金属板A上炭素膜)、前記金属板A上炭素膜と接触した他の1枚の金属板(金属板B)内表面に積層した炭素膜(金属板B上炭素膜)および金属板Bであり、前記3か所のレーザー溶接部位の構造の他の1つは、金属板A、金属板A上炭素膜または金属板B上炭素膜、および金属板Bであり、および前記3か所のレーザー溶接部位の構造の残り1つは、金属板Aおよび金属板Bであることを特徴とする。
【0010】
(5)本発明は、(1)~(4)に加えて、2枚の金属板を合わせてレーザー溶接する場合において、レーザー照射する側の、水素導管となる金属板の複数の凸部同士を透明治具で押さえて、前記透明治具を通して金属板の溶接する部位(溶接部位という)にレーザーを照射して、前記溶接部位において、金属板Aおよび金属板Bを溶融接合することを特徴とし、透明治具、金属板の凸部および金属板で囲まれた、レーザーが照射する領域を含む空間(溶接空間Aという)は、シールドガスで充満されていることを特徴とする。
(6)本発明は、(1)~(5)に加えて、2枚の金属板を合わせてレーザー溶接する場合において、レーザー照射しない側の、水素導管となる金属板の複数の凸部同士を押さえ治具または台座で押さえて、金属板の溶接する部位(溶接部位という)において、2枚の金属板を溶融接合することを特徴とし、押さえ治具または台座、金属板の凸部および金属板で囲まれた空間(溶接空間Bという)は、シールドガスで充満されており、前記溶接空間のシールドガスによる圧力は、大気圧より大きいか周囲圧力より大きく、シールドガスは、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、ネオン(Ne)ガスおよび窒素(N2)ガスから選択される少なくとも1つのガスであることを特徴とする。
【0011】
(7)本発明は、(1)~(6)に加えて、レーザー照射する側の金属板外表面上の炭素膜はレーザー溶接後に形成し、レーザー照射しない側の金属板外表面上の炭素膜はレーザー溶接後に形成するし、金属板は、SUS304またはステンレス鋼または鉄系材料であることを特徴とする。
(8)本発明は、2枚の金属板を溶接して作製した水素ガスを含む気体を通す空間である水素素導管の金属板表面構造は、金属板表面上に炭素膜が積層した構造であることを特徴とする水素導管であり、水素導管の内側および/または外側となる金属板表面上に炭素膜が積層した構造であり、また金属板の両表面上に炭素膜が積層した構造であり、前記炭素膜は、CVD炭素膜、PVD炭素膜またはメッキ炭素膜であり、金属板は、SUS304またはステンレス鋼または鉄系材料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、水素導管を構成するSUS304等の金属板内外面(水素導管の内外側金属表面)にCVD炭素膜等を積層するので、水素導管中の水素(H2)が金属板中に侵入することを防止できる。この結果水素脆性を抑制することができ、水素導管の寿命を延ばすことができる。金属板内外表面をレーザーで凹凸を形成するので、CVD炭素膜等の密着性も向上する。水素導管は2枚の凸状部分を有する2枚の金属板の凸状部分の外側をレーザー溶接して形成するので、作製が容易である。凸状部分は透明板材および平板の押さえ板で押し付けて溶接部位における2枚の金属板の接触を確実に確保できるので、溶接部位の品質も向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の水素導管の構造および作製方法を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の水素導管を含むワーク(ワーク上板+ワーク下板)の斜視図である。
【
図3】
図3は、炭素膜を積層した金属板のワーク上板およびワーク下板をレーザー溶接する別の方法を示す図である。
【
図4】
図4は、固体高分子形燃料電池の構造の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、ワーク押さえ板を用いてワークを押さえる実施形態を示す図である。
【
図6】
図6は、水素導管の配置状態を示す図である。
【
図7】
図7は、ワーク板の表側(外表面)にも炭素膜を形成したワーク板を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、金属板表面に炭素膜を付着すると水素脆性を防止できることを発見した。本発明の水素導管において、金属製の平板(金属板)に凹状部分を形成して、凹状部分を形成した金属板2枚を凹状部分が合わさるように重ねて、凹状部分の両側の平坦部分を溶接することにより、水素が通る空間(空間は管のような閉空間となっているので、水素(ガス)導管または水素(ガス)通管とも記載する)を作製する。
図1は、本発明の水素導管の構造および作製方法を示す図である。金属板の凹状部分は曲げ加工や深絞り加工により形成する。金属表面への炭素膜の形成は、
図1(a)に示すように、金属板11に凹状部分17(17-1、17-2)を形成した後に、金属板表面(凹状部分がある側)に炭素膜32を形成する。あるいは、平坦な金属板11の表面に炭素膜32を形成した後に、曲げ加工や深絞り加工により金属板11に凹状部分17を形成することもできる。金属板の材質は、たとえばSUS304やその他各種ステンレス鋼、鉄を主成分とする鉄系材料、アルミニウムやアルミ合金、銅を主成分とする銅系材料、亜鉛を主成分とする亜鉛系材料、ニッケルを主成分とするニッケル系材料あるいはチタン(Ti)を主成分とするチタン系材料である。
【0015】
本発明の水素導管表面への炭素膜の形成方法は、化学気相成長法(CVD法)やスパッター・蒸着等の物理気相成長法(PVD法)やメッキ法等がある。CVD法として、アセチレン・メタン・ベンゼン等の炭化水素ガス、アルコール(たとえば、エタノール)等の炭素源ガスを用いた常圧CVD法、減圧CVD法、プラズマCVD法や光CVD法等が挙げられる。炭素膜の構造は、グラフェン、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ダイヤモンドライク、アモルファス等であり、いずれの構造でも水素脆性には効果があるが、特にカーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクは、膜が緻密で強固なため好適である。炭素源ガスは水素を含有しているためCVD炭素膜には水素が含まれている。(約5~30at%)このCVD炭素膜に含まれた水素は炭素膜の中に存在しているが、炭素にも結合していると考えられ、燃料電池が発熱する温度(たとえば、100℃~800℃)では炭素膜から水素が分離せず、金属膜中には侵入しない。また、水素導管中の水素も炭素膜には侵入することは困難であり、かつCVD膜の場合は既に膜中に水素が存在しており、水素導管中の水素はCVD炭素膜には殆ど侵入することは困難である。この結果、CVD炭素膜は特に水素脆性に対して耐性が強いと考えられる。
【0016】
PVD炭素膜として、スパッター装置中でたとえば炭素ターゲット板をArガスでスパッターして、金属板の表面に炭素膜を成長させることができる。金属板(11、12)は平板でも良いし、凹状部分17を有しても良い。(ここで凹状と記載しているが、裏側から見ると凸状であるから、凸状と記載することもできる。)当然凹状部分17が炭素ターゲット板側を向くようにスパッター装置に配置する必要があり、凹状部分17の側面および底面に厚みが均一になるように金属板(11、12)を回転させても良い。100%炭素の炭素ターゲット板であれば金属板表面に積層する炭素膜には水素が含まれないので、CVD炭素膜のような水素の侵入を抑制する効果は小さくなるが、積層される炭素膜は緻密で強固なので水素が炭素膜を通して金属側に侵入することは抑制され、水素脆性現象はかなり防止される。炭素ターゲット中に水素を予め含有させ(たとえば、10~40at%)たり、あるいはスパッタガスであるアルゴン(Ar)ガスとともに水素ガスを混合して(たとえば、1~10Vol%)おけば、金属板表面に積層する炭素膜中に水素が取り込まれるので、CVD炭素膜と同様な水素侵入防止効果を増大させることができ、金属板の水素脆性現象を大幅に抑制することができる。
【0017】
金属板の表面に炭素メッキ膜も積層できる。たとえば、溶融塩としてLiCl-KClおよびLiCl-KCl-CaCl2を用い炭素源としてCaC2を添加して、約400℃~600℃で過熱し、この溶融塩中に金属板を作用極として、対極にアルミニウム板を用いて、金属板表面にメッキ膜を積層することもできる。この炭素膜も金属板の水素脆性耐性を高めることができる。炭素メッキの場合も、金属板に凹状部分があっても、その凹状部分の底面および側面に均一に炭素膜を積層することができる。あるいは、平坦な金属板の表面に炭素膜をメッキ法で積層した後に、金属板に凹状部分を形成することもできるし、平坦な金属板に凹状部分に形成した後に、金属板の平坦部や凹状部分に炭素メッキ膜を積層することもできる。尚、平坦な金属板に凹状部分を形成した後に、金属板の平坦部や凹状部分にCVD炭素膜、PVD炭素膜、および炭素メッキ膜を積層した方が、凹状部分における(特に角部)炭素膜の内部応力を小さくできるので、炭素膜の信頼性が増大し長寿命化をはかることができる。
【0018】
金属表面にCVD炭素膜、PVD炭素膜、およびメッキ炭素膜を金属板表面へ積層する場合、金属板表面にレーザーを照射して微小な凹凸を形成することにより、金属板表面への炭素膜の密着性を向上することができる。たとえば、凹凸構造の凹部の深さは約30~10μm、幅は約30~120μmとし、凸部を山形形状にするのが良い。凸部の幅は約5~50μmとするのが良い。このような形状により、炭素膜と金属表面との接触面積が増大するので、金属板と炭素膜との密着強度が増大する。レーザー光を生じるレーザー発振器は、シリコン基板の表面に溝を形成することができれば特に限定されず、公知の発振器を使用することができる。例えば、エキシマレーザー、CO2レーザー、YAGレーザー等のレーザー光照射で金属板表面部分を融解できるレーザー発振器が挙げられる。レーザー光の照射条件は、所望の形状の溝を形成できるように適宜調整する。たとえば、4×104~1×106W/cm2のエネルギー密度になるように、波長、周波数、照射形状等の条件が調整される。
【0019】
図1(a)に示すように、凹状部分17(17-1)および平坦部分を含む金属板12の表面に炭素膜31を積層したもの(これをワーク上板33と呼ぶ)と、凹状部分17(17-2)および平坦部分を含む金属板11の表面に炭素膜32を積層したもの(これをワーク下板34と呼ぶ)とを凹状部分17(17-1、2)同士を重ね、閉空間17が形成されるように合わせる。ワーク上板33とワーク下板34は表裏の関係にある同形状のワーク板であるから、凹状部分17(17-1、2)とその他の平坦部分はほぼ完全に一致して合わせることができる。尚、閉空間17と記載したが、
図1の左右方向では閉空間となっているが、後に(
図2で)示すように閉空間17は水素ガスが通る水素導管であるから、紙面に対して略垂直方向に空間が伸びている。水素導管17を
図4に示すような燃料電池に使用する場合は、燃料電池を取り囲むように配置されても良い。
【0020】
次に
図1(b)に示すように、凹状部分17の左右にあるワーク上板33およびワーク下板34の部分(溶接部位という)35にワーク上板33の上方からレーザー光36を照射して、溶接部位35でワーク上板33とワーク下板34を溶融接合させる。溶接部位35においてワーク上板33とワーク下板34は炭素膜(31、32)同士で接触している。炭素膜の融点は、約3000℃~3600℃(炭素結合の強さにより変化する)であるから、炭素膜同士が接触する部分で上記温度以上になるようにレーザーパワーを調節すれば炭素膜が溶融し、また金属板は上記温度では溶融しているから、溶接部位35においてワーク上板33とワーク下板34は完全に溶融接合させることができる。あるいは、炭素膜は金属板よりかなり薄い(たとえば、金属板1mm、炭素膜1~10~100μm)ので、金属板(特にワーク上板側)を溶融する温度になるようにレーザーパワーを調節すれば、炭素膜は金属板に固溶していき、やはり溶接部位35においてワーク上板33とワーク下板34は完全に溶融接合させることができる。特にSUS304等のステンレス鋼や鉄系材料の場合、容易に炭素が固溶される。炭素膜は熱伝導性が良いので、ワーク上板33側の金属板12が溶融すれば、ワーク下板34側の溶接部位35の接触部分側における金属板11も溶融するので、充分な溶融接合を実現できる。金属板がステンレス鋼SUS304の場合は、融点は約1420℃であるから、この温度以上になるようにレーザーパワーを調節してレーザーを照射すれば、ワーク上板33側のステンレス板12およびワーク下板34側のステンレス板11の一部(上側、すなわち接触部分側)が溶融し、それらの間に挟まれた炭素膜31および32は溶融したステンレス中に固溶していき固溶層を形成して強固に溶融接合する。
【0021】
図1(c)は、溶接部位35の構造を変化させた場合の溶接方法を示す図である。溶接部位35-4は、
図1(b)に示す構造と同じである。溶接部位35-1は、レーザー照射側のワーク上板33の炭素膜31を除去している。従って、溶接部位35-1の構造は、金属板12(ワーク上板33側)/炭素膜32(ワーク下板34側)/金属板11(ワーク上板34側)の3層構造となっているので、溶接部位35-4の構造の場合に比べて、炭素膜が少ない分レーザーパワーや照射時間を少し少なくでき、かつレーザー照射条件の余裕度が大きい。溶接部位35-2は、レーザー照射と反対側のワーク下板34の炭素膜32を除去している。従って、溶接部位35-2の構造は、金属板12(ワーク上板33側)/炭素膜31(ワーク上板33側)/金属板11(ワーク下板34側)の3層構造となっているので、溶接部位35-4の構造の場合に比べて、炭素膜が少ない分レーザーパワーや照射時間を少し少なくでき、かつレーザー照射条件の余裕度が大きい。溶接部位35-3は、レーザー照射側のワーク上板33の炭素膜31およびレーザー照射と反対側のワーク下板34の炭素膜32を除去している。すなわち、溶接部位35-3において、炭素膜は存在しない。従って、溶接部位35-3の構造は、金属板12(ワーク上板33側)/金属板11(ワーク下板34側)の2層構造となっているので、溶接部位35-1、2、4の構造の場合に比べて、炭素膜がなくなっている分レーザーパワーや照射時間を少なくでき、かつレーザー照射条件の余裕度を大きくできる。溶接部位35-3では、金属板同士の溶接とほぼ同じ条件でレーザー照射できる。
【0022】
凹状部分17には炭素膜が必要であるから、溶接部位35の部分において炭素膜を付着させないか、または除去する方法について説明する。一例として、金属板の溶接部位となる領域に予めマスキングしておき、その後で炭素膜を積層する。CVD炭素膜やPVD炭素膜の場合は、マスキングした状態で炭素膜を積層するとマスキング領域にも炭素膜が積層するので、炭素膜を積層した後にマスキング部材を除去すれば、マスキング領域における炭素膜はマスキング部材とともに除去されて、金属板の溶接部位となる領域には炭素膜が存在しない。たとえば、プラズマCVD炭素膜はたとえば約400℃~800℃で積層されるので、マスキング部材はこれらの温度でも変形や反応しない部材である必要がある。たとえば、金属板がSUS304ステンレス鋼である場合は、ステンレステープ(SUS304でも良いし、それ以外でも良い)を金属板の溶接部位となる領域に貼り付けて、プラズマCVD炭素膜を積層後、そのステンレステープを剥がせば良い。スパッター炭素膜の場合は、スパッター温度が約100℃以下であるから、たとえば、アルミニウムテープを金属板の溶接部位となる領域に貼り付けて、スパッター炭素膜を積層後、そのステンレステープを剥がせば良い。スパッター温度が常温である場合は、アルミニウムテープの代わりにプラスチックテープでも良い。尚、マスキングテープを使用した場合、マスキングテープの側面にも炭素膜が付着するので、マスキングテープを剥がしたときにその境目の側面(エッジ部)の炭素膜も剥がれる可能性がある。それを防止するために、金属板に炭素膜を積層した後、マスキングテープを付着した状態で、酸素(O2)プラズマで軽く炭素膜エッチングすると、側面(エッジ部)の炭素膜の膜質は平坦部分よりも弱いので、平坦部分の炭素膜が殆どエッチングされない間に、側面(エッジ部)の炭素膜がエッチング初期段階でエッチングされてしまう。側面(エッジ部)の炭素膜がエッチングされたら、酸素(O2)プラズマ装置から出すと、マスキングテープと平坦部分の炭素膜は分離されているので、マスキングテープを剥がしても平坦部分の炭素膜に影響を与えないようにすることができる。
【0023】
他の例として、金属板表面全体に炭素膜を積層後、溶接部位となる領域以外の部分をマスキングしておき、溶接部位となる領域において露出した炭素膜をエッチング除去することもできる。たとえば、溶接部位となる領域以外の部分にアルミニウムテープやステンレステープを付着させて、プラズマエッチング装置にワークを配置して、酸素プラズマで炭素膜をエッチング除去すれば良い。炭素膜は酸素プラズマでCOまたはCO2として除去される。基材の金属板(たとえば、SUS304)は酸素プラズマではエッチグされないので、溶接部位となる領域に存在した炭素膜を完全に除去できる。また、マスキング材のアルミニウムテープやステンレステープも酸素プラズマでは殆どエッチングされないので、炭素膜の除去後マスキング材のアルミニウムテープやステンレステープを剥がせば、溶接部位となる領域以外の部分には炭素膜が存在し、溶接部位となる領域において炭素膜のない状態を有する金属板を作製できる。尚、溶接部位となる領域における炭素膜を除去する場合は、凹状部分に炭素膜が存在すれば良いので、凹状部分だけをマスキングして溶接部位となる領域以外の領域(たとえば、平坦部分)における炭素膜を除去することもできる。炭素膜を除去した部分の隙間の高さ(これは炭素膜の厚みでもある)は約1~10~100μm程度であるから、レーザー光が照射されて金属板が溶融すれば即座にこの隙間が充填されるので、溶接品質に影響を与えることはない。ここで、溶接品質とは、たとえば溶接部位におけるワーク板同士(上板、下板)の接触が不十分であったり、溶接部位において酸化等が生じたり、あるいはレーザー溶接条件が不十分であったりするなどして、溶融接合が十分でなく接合の寿命が短くなったり、溶融接合の溶接強度が弱いなどの現象である。
【0024】
図1(d)は、ワーク板を押さえるワーク押さえ板を用いてレーザー照射する方法を示す図である。レーザー溶接部位35の品質を向上するために、レーザー照射時に溶接部位35において上下のワーク板(ワーク上板およびワーク下板)が密着して接触している必要がある。ワーク上板33およびワーク下板34とも外側に凸状になった部分(すなわち、凹状部分17の裏返し)が存在し、かつ複数の凸状になった部分の高さは同じであるから、平板で上下から押さえて、ワーク上板33は上方からワーク下板34は下方から押し付けることにより、レーザー溶接部位35を密着して接触させることができる。レーザーを照射する側(ワーク上板33側)の平板の押さえ板(ワーク押さえ(上)板、または(ワーク上板)押さえ治具ともいう)37をレーザー光36に対して透明な(透過率が高い)部材(透明板、または透明板材または透明治具とも記載する)とする。反対側のワーク下板34を押さえる平板の押さえ板(ワーク押さえ下板、または(ワーク下板)押さえ治具ともいう)38はワーク下板34を確実に押さえる部材であれば良い。たとえば、金属板(たとえば、SUS304等のステンレス鋼)、鉄を主成分とする鉄系材料、各種金属材料やセラミック板でも良いし、あるいはワークを載せる平坦で変形しない台座または基台でも良い。
図1(d)に示すように、ワーク上板33およびワーク下板34を上下から押さえて溶接部位を確実に接触させた状態で、レーザー光36は透明板材37を通して溶接部位35に照射して、ワーク上板33およびワーク下板34を溶接部位35でレーザー溶融接合する。この結果溶接部位35の溶融接合の品質が向上し、水素導管となる閉空間17は左右の外側に対して完全密閉の状態ができ、かつ長寿命の閉空間を作製できる。透明板材37は、またレーザー光により損傷等しない材料が望ましい。たとえば、YAGレーザーを使用する場合は、透明板材37はたとえば石英、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等の耐熱ガラス、コランダム(以下、石英ガラス等と言う)が良い。炭酸ガス(CO
2)レーザーの場合は、透明部材はたとえばジンクセレン(ZnSe)が良い。
【0025】
水素導管17(17-1、2)同士の間と透明なワーク押さえ板37の間の空間39は、レーザー光36が通る空間であるから、溶接空間(レーザー照射側)39と呼ぶ。溶接部位35はレーザー照射により高温になるので、溶接空間39の雰囲気が空気であると、溶接空間39に露出したワーク上板33の金属板12の溶接部位35およびその周囲は酸化されてしまう。特にレーザー照射により金属板12が溶融する場合は酸化が急速に進む。その結果、酸化された溶接部位35の劣化が進み、ワーク上板33の寿命が短くなる。また溶接部位35における溶接品質も悪くなり、溶接部位35から水素導管17の水素が漏れる可能性もある。そこで、溶接空間39をシールドガス雰囲気として、溶接部位35にレーザー照射しても溶接部位35が酸化されないようにする。水素導管17が溶接空間39を取り囲んでいる場合は、ワーク押さえ板37でワーク上板33を押さえたときに閉空間になるが、このときにワーク押さえ板37にシールドガス導入孔71を設けて、このシールドガス導入孔71からシールドガスを溶接空間39へ導入して溶接空間39をシールドガス雰囲気にすることができる。ワーク押さえ板37にシールドガス排出孔72も設けておけば、ワーク押さえ板37でワーク上板33を押さえる前に溶接空間39に存在した空気がシールドガス排出孔72から排出されて溶接空間39をシールドガスで完全に充填することができる。
【0026】
シールドガス(アシストガスとも言う)として、不活性ガス(たとえば、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、ネオン(Ne)ガス等の希ガスや窒素(N2)ガスが挙げられる)、炭素系ガス(たとえばCO2、や炭化水素系ガス)、その他のガス(たとえば、H2)やこれらの混合ガスが挙げられる。あるいは、溶接空間39を低圧(大気圧以下または外側圧力以下)または真空にしても、溶接空間39の空気がなくなるので、レーザー照射時の金属板12の酸化を防止することができる。たとえば、孔71や72に真空ポンプを接続して溶接空間39の空気を抜けば溶接空間39を低圧または真空にすることができる。溶接空間39を低圧または真空にすると、ワーク押さえ板37は大気圧または外気圧で外側から押されるので、ワーク上板33も上方から押されて、ワーク下板34とワーク上板33の密着性も良くなる。ワーク押さえ板37が可視光に対しても透明な場合(石英ガラス等はそれに該当する)は、ワーク上板33とワーク下板34の合わせや溶接部位を肉眼や拡大鏡で確認できるので、ワーク上板33とワーク下板34の合わせ精度を高め、溶接部位へ正確にレーザー照射することも可能となる。
【0027】
水素導管17(17-1、2)同士の間とワーク押さえ板38の間の空間40は、レーザー光36が通る空間ではないが、溶接する領域に面しているからこちらも溶接空間(レーザー照射裏側)40と呼ぶ。レーザー照射する側と反対側におけるワーク下板34の金属板11の溶接部位35およびその周辺もレーザー溶接時は高温になるので、溶接空間40の雰囲気が空気である場合は、溶接部位35およびその周辺の金属板11もやはり酸化する。この酸化を防止するために、溶接空間40もシールドガス雰囲気にすることが望ましい。水素導管17が溶接空間40を取り囲んでいる場合は、ワーク押さえ板38でワーク下板34を押さえたときに閉空間になるが、このときにワーク押さえ板38にシールドガス導入孔73を設けて、このシールドガス導入孔73からシールドガスを溶接空間40へ導入して溶接空間40をシールドガス雰囲気にすることができる。ワーク押さえ板38にシールドガス排出孔74も設けておけば、ワーク押さえ板38でワーク上板34を押さえる前に溶接空間40に存在した空気がシールドガス排出孔74から排出されて溶接空間40をシールドガスで完全に充填することができる。ワーク押さえ板38が台座や基台等である場合は、台座や基台から溶接空間40にシールドガスが導入できるラインやそれを排出するラインを設けておけば良い。溶接空間40を低圧(大気圧以下または外側圧力以下)または真空にしても、溶接空間40の空気がなくなるので、レーザー照射時の金属板11の酸化を防止することができる。(金属板11が高温になるので、空気があると酸化が促進される。)たとえば、孔73や74に真空ポンプを接続して溶接空間40の空気を抜けば溶接空間40を低圧または真空にすることができる。溶接空間40を低圧または真空にすると、ワーク押さえ板38は大気圧または外気圧で外側から押されるので、ワーク下板34も上方から押されて、ワーク下板34とワーク上板33の密着性も良くなる。
【0028】
ワーク押さえ(上)板37でワーク上板33を押さえる方法として、ワーク押さえ(上)板37の上方から押し付ける方法、たとえばプレスで押す方法やワーク押さえ(上)板37の上方から全体へ圧力をかける方法があるが、他の種々の方法も採用することができる。ワーク押さえ(下)板38でワーク下板34を押さえる方法として、ワーク押さえ(下)板38の下方から押し付ける方法、たとえばプレスで押す方法やワーク押さえ(下)板38の下方から全体へ圧力をかける方法があるが、他の種々の方法も採用することができる。台座や基台の場合にはワーク押さえ(上)板37からの反作用力でワーク下板34を押さえることができる。溶接空間39へ導入したシールドガスの圧力を高めることによっても、溶接部位35においてワーク上板33を押さえることができ(この場合は、ワーク上板33の平坦部全体を押し付ける)、溶接部位35においてワーク上板33とワーク下板34を確実に密着でき、溶接品質を増大することができる。同様に、溶接空間40へ導入したシールドガスの圧力を高めることによっても、溶接部位35においてワーク下板34を押さえることができ(この場合は、ワーク下板34の平坦部全体を押し付ける)、溶接部位35においてワーク上板33とワーク下板34を確実に密着でき、溶接品質を増大することができる。尚、溶接空間の圧力を高める場合は、ワーク押さえ板が外れないように、溶接空間の圧力以上の力でワーク押さえ板を外側から押さえる必要がある。
【0029】
ワーク上板33およびワーク下板34の溶接する部材全体をシールドガス雰囲気中に配置する方法もある。たとえば、レーザー装置も含めた全体をシールドガス雰囲気中の容器の中に入れて、レーザー照射をすれば良い。あるいは、上面がレーザー光に透明なふたを有する容器中にワーク上板33およびワーク下板34、ワーク押さえ上板33およびワーク押さえ下板34をその容器中に入れて、容器内をシールドガス雰囲気にして、レーザー光を透明なふたを通してワークに照射する。凸状の水素導管17が溶接空間39、40を取り囲んでいる場合は、ワーク押さえ板37、38でワーク板33、34を押さえたときに溶接空間39、40が閉空間となるので、シールドガスで溶接空間39、40を充填できるが、凸状の水素導管17が溶接空間39、40を一部でも取り囲んでいない場合は、ワーク押さえ板37、38でワーク板33、34を押さえたときに溶接空間39、40が閉空間とならない。そのときは、上記のワーク上板33およびワーク下板34の溶接する部材全体をシールドガス雰囲気中に配置する方法により、シールドガスで溶接空間39、40を充填できる。他の方法として、ワーク押さえ板33、34の一部がワーク上板33およびワーク下板34の平坦部にも合うような形状にすれば、ワーク押さえ板37、38でワーク板33、34を押さえたときに溶接空間39、40が閉空間とすることができる。
【0030】
図5(a)は、ワーク押さえ板を用いてワークを押さえる別の実施形態を示す図である。ワーク押さえ板にはワーク押さえ部材が取り付けられており、実際にはワーク押さえ板ではなくワーク押さえ部材でワークを押さえる。たとえば、ワーク押さえ上板37は平坦な平板(な透明板)となっており、そのワーク押さえ上板37に水素導管17やワーク上板33の平坦部を押さえるワーク押さえ部材81が取り付けられている。ワーク押さえ部材81-1は水素導管17-1の凸形状に適合するような凹形状をした部材であり、ワーク押さえ部材81-1の凹形状部分に水素導管17-1の凸形状部分を入れて、ワーク押さえ上板37を上方から押すと、ワーク押さえ部材81-1がワーク上板33の凸状の水素導管17部を押し付けることができる。ワーク押さえ部材81-1の下部はワーク上板33の平坦部にも接触しているので、ワーク上板33の平坦部も押し付けることができる。ワーク押さえ部材81-1の下部でワーク上板33の平坦部に接触している部分は、溶接部位35に近いので、ワーク押さえ上板37だけでワーク上板33を押し付ける場合に比べて、溶接部位35におけるワーク上板33とワーク下板34をより密着させることができ、その結果レーザー溶接の溶接品質を向上させることができる。ワーク押さえ部材81-2についてもワーク押さえ部材81-1と同様の効果を有する。ワーク押さえ部材81-3は、水素導管17には接触せずワーク上板33の平坦部に接触するような形状および大きさとなっており、ワーク押さえ部材81-1、2をワーク上板33の水素導管部に嵌めて合わせたときにワーク上板33の平坦部に接触する。そしてワーク押さえ上板37を押すとワーク押さえ部材81-3はワーク上板33の平坦部を押し付けることができる。ワーク押さえ部材81-3をレーザー溶接部位35に近づけて配置すれば、ワーク押さえ部材81-3の下部でワーク上板33の平坦部に接触している部分は、溶接部位35に近いので、ワーク押さえ上板37だけでワーク上板33を押し付ける場合に比べて、溶接部位35におけるワーク上板33とワーク下板34をより密着させることができ、その結果レーザー溶接の溶接品質を向上させることができる。
【0031】
ワーク押さえ下板38は平坦な平板となっているが、ワーク押さえ下板38にも水素導管17の凸形状に適合する形状のワーク押さえ部材82-1、2およびワーク下板34の平坦部に接触するワーク押さえ部材82-3が取り付けられている。これらのワーク押さえ部材82-1、2、3の作用や効果はワーク押さえ部材81-1、2、3の作用や効果と同様であるが、上下方向からワーク上板33およびワーク下板34を押し付けるので、それらの作用効果はさらに増大する。
図5(a)に示すようなワーク押さえ部材81-1、2、3やワーク押さえ部材82-1、2、3を用いると、溶接空間39や40をそれらのワーク押さえ部材の間に設けることができるので、溶接空間39や40はワーク押さえ板37、38、ワーク押さえ部材81、82、ワーク板33、34で囲まれた閉空間とすることができる。従って、溶接空間39や40につながるシールドガス導入孔やその排出孔をワーク押さえ板37、38、ワーク押さえ部材に設けることによって、溶接空間39や40をシールドガスで充填することもでき、また溶接空間の圧力を高めることも容易である。すなわち、ワーク押さえ部材の外側の気圧(たとえば、大気圧)や周囲圧力よりも溶接空間の圧力を高めれば、溶接部位においてワーク板を押し付けてワーク板同士(ワーク上板とワーク下板)の接触を確実にして、溶接品質を高めることができる。あるいは、溶接空間39や40を低圧または真空にしても、前述したような効果を得ることができる。
【0032】
水素導管17は複数存在し、それらの複数の水素導管17の上面(または下面)にワーク押さえ板37、38に取り付けたワーク押さえ部材81、82に接触するわけであるが、水素導管17の高さがばらつく場合には複数の水素導管17の中でワーク押さえ部材81、82に接触しないことも考えられる。特にワーク押さえ上板に用いられる石英ガラス等は柔軟性を殆ど有しないので、問題となる(もちろん水素導管のバラツキを小さくすればこの問題も小さくなる)。そこで、ワーク押さえ部材の材質を柔軟性材料とすれば、水素導管17の高さがばらついてもワーク押さえ部材を水素導管に接触させることができる。柔軟性材料として、高さ方向に変形(伸縮)可能なたとえばゴムや弾性プラスチックや柔軟性のある金属や合金等が挙げられる。レーザー溶接部位は高温になるので、ゴムや弾性プラスチックの場合は耐熱性を持つ材料が望ましい。ワーク押さえ部材81-3や82-3のようなワーク板の平坦部に接触する場合も同様であり、これらを柔軟性材料とすることにより、容易にワーク押さえ部材とワーク板との接触を確実に実現することができる。尚、柔軟性材料と言ってもある程度押し付けた時にワーク板を押し付けることができるように、水素導管の高さばらつきや柔軟性材料の選定をする必要がある。また、ワーク押さえ部材に柔軟性材料を用いることによって、隙間をなくすことができるので、溶接空間の密閉度も格段に向上する。
【0033】
ワーク押さえ部材がワーク板と接触する部分に柔軟性材料を用いても一定の効果がある。たとえば、ワーク押さえ部材の本体を石英等または金属等で構成して、ワーク板との接触部に柔軟性材料を付着する方法もある。
図5(b)は、ワーク押さえ板を用いてワークを押さえるさらに別の実施形態を示す図である。
図5(b)では、ワーク板の凸部となる水素導管17の凸部のみにワーク押さえ部材83、84を配置して、これらのワーク押さえ部材83、84の材質を柔軟性材料とするものである。すなわち、ワーク押さえ上板の水素導管17の凸部に接触する部分にワーク押さえ部材83を配置し、ワーク押さえ下板の水素導管17の凸部に接触する部分にワーク押さえ部材84を配置する。ワーク押さえ部材83、84の形状は単純な直方体形状で良いし、ワーク押さえ部材83、84が水素導管17に接触すれば良いので位置合わせが容易(たとえば、水素導管17の凸部上面より大きめにワーク押さえ部材83、84を作製して付着させれば、ワーク押さえ部材83、84は水素導管17の凸部上面に必ず接触する)であるから作製費用がかなり安くなる。ワーク押さえ部材83、84は柔軟性部材であるから、水素導管17の高さばらつきが多少あってもワーク押さえ板37、38で押していくことによって、水素導管17の上面(または下面)がワーク押さえ部材83、84は柔軟性部材に接触してワーク板を押し付けることができる。
【0034】
図2は、本発明の水素導管を含むワーク(ワーク上板+ワーク下板)60の斜視図である。ワーク上板33およびワーク下板34の凹状部分が合わさり、水素導管17を形成している。ワーク上板33およびワーク下板34は溶接部位35でレーザー溶接されて水素導管17は閉空間となる。ワーク上板33の表面において、溶接部位35は溶接ライン61として線状に現れる。すなわち、レーザーは水素導管17を閉空間にするためにワーク上板33上を走査して溶接ライン61が形成される。
図2では、溶接ライン61は直線状に描写されているが、水素導管17の配置状態により曲線状に形成されても良い。溶接部位35において、溶接部分はワーク下板35の金属板11の内部で終点して金属板11を貫かないようにするのが良い。溶接部分が金属板11を貫くとワークが変形する可能性があるからである。水素導管17の部分は凸部62(ワーク上板33側)と凸部63(ワーク下板34側)となり、凸部62同士の間は凹部となり凹部の底部は平坦面64となる。燃料電池を作製する場合、水素導管含有基板60を重ねていく。すなわち、凸部62(ワーク上板33側)の上に凸部63(ワーク下板34側)を配置して、それらの間の凹部で形成される空間の平坦面64に燃料電池を配置していく。水素導管17の側面65の一部から燃料電池へ水素(H
2)ガスまたは空気(この場合は、空気導管と言うべきであるが便宜上水素導管とする)が供給され、燃料電池から対向する側の水素導管(この場合は排気導管または排出導管と言うべきであるが便宜上水素導管とする)へ排出され、この間に電荷交換されて電気が発生する。
【0035】
図3は、炭素膜を積層した金属板のワーク上板およびワーク下板をレーザー溶接する別の方法を示す図である。
図1(c)において炭素膜の有無の構造を1つの図で示したが、
図1(b)は同じ炭素膜構造にしたワーク上板およびワーク下板を同じ条件でレーザー溶接するものである。
図3は、ワーク上板およびワーク下板に異なる炭素膜構造を作り、レーザー溶接するものである。たとえば、水素導管17(17-1)の右側に溶接部位51、52、53の3か所を設けて、溶接部位51の構造はワーク上板およびワーク下板とも炭素膜があり、その隣の溶接部位52の構造はワーク上板には炭素膜があるがワーク下板には炭素膜がない構造であり、その外側の溶接部位53の構造はワーク上板およびワーク下板とも炭素膜がない構造である。レーザー光の直径は約0.1mm~1mm程度に絞ることができるので、レーザー照射条件を調節すれば、溶接部位同士を約1mm~3mm程度離しておくことにより隣と干渉せずにレーザー溶接することができる。レーザー照射位置の誤差も考慮すれば隣接する溶接部位を約5mm~1cm程度離しておけば充分である。このようにお互いに干渉しない程度の距離で離間させて3か所の溶接部位を配置して、それぞれの炭素構造の条件に合わせ、照射条件を調節したレーザー光41、42、43を照射してそれぞれの溶接部位を溶融接合する。このように3か所でレーザー溶接すると、1か所で不十分な接合があっても他で補うことができ、水素導管17(17-1)を確実に閉空間とすることができ、水素導管から水素が漏れることがなくなる。
【0036】
水素導管17(17-2)の左側にも3か所の溶接部位54、55、56を設けて、溶接部位54の構造はワーク上板およびワーク下板とも炭素膜があり、その隣の溶接部位55の構造はワーク上板には炭素膜がなくワーク下板には炭素膜がある構造であり、その外側の溶接部位53の構造はワーク上板およびワーク下板とも炭素膜がない構造である。この場合もお互いに干渉しない程度の距離で離間させて3か所の溶接部位を配置して、それぞれの炭素構造の条件に合わせて照射条件を調節したレーザー光44、45、46を照射してそれぞれの溶接部位を溶融接合する。尚、
図3に示すように、溶接部位を3か所配置する場合、水素導管17に近い方に炭素膜が両方ともある構造とし、中間部分は炭素膜が片方だけある構造とし、外側の溶接部位は炭素膜が両方ない構造とするのが良い。炭素膜がある構造の場合は溶接条件が厳しくなるからであり、水素導管17に近い溶接部位51や54で仮に溶接が不十分でも、次の溶接部位52や54で溶接が十分に行われ、さらに外側の溶接部位53や55で確実に溶接を行なうことができる。
図1に示すように水素導管17の周囲1か所で溶接する場合に比べて、
図3に示す方法により水素導管17を確実に閉空間にすることができるという点で信頼性を格段に向上させることができる。尚、余裕があれば隣接する溶接部位は上記の離間距離よりも大きくしても良い。
【0037】
溶接部位57は、3種類の炭素膜構造を近接して配置して、1回のレーザー照射47で3種類の溶接部位それぞれにおいて溶融接合させるものである。3種類の炭素膜構造は、水素導管17(17-1)に近い側を炭素膜が両方ともある構造であり、中間部をワーク上板が炭素膜がない構造として、その外側を両方とも炭素膜がない構造とする。レーザー照射条件をうまく調節することによって、1度の照射により3種類の炭素膜構造部分のそれぞれで溶融接合することができ、狭い幅で良好な接合を実現して水素漏れのない閉空間となる水素導管17(17-1)を作製できる。溶接部位58も、3種類の炭素膜構造を近接して配置して、1回のレーザー照射48で3種類の溶接部位それぞれにおいて溶融接合させるものである。3種類の炭素膜構造は、水素導管17(17-2)に近い側を炭素膜が両方ともある構造であり、中間部をワーク下板の炭素膜がない構造として、その外側を両方とも炭素膜がない構造とする。レーザー照射条件をうまく調節することによって、1度の照射により3種類の炭素膜構造部分のそれぞれで溶融接合することができ、狭い幅で良好な接合を実現して水素漏れのない閉空間となる水素導管17(17-2)を作製できる。このように炭素膜で水素導管を被覆したワークをレーザー溶接する場合、3種類の炭素膜構造部分を近接して配置することによって、1回のレーザー照射で確実に溶融接合でき、レーザー溶接の作業性も向上することもできる。溶接部位57および58の場合、水素導管17から約1~5mm以上離しておけば、レーザー溶接の際水素導管17に影響を与えることはない。また、両方炭素膜がない領域を約0.5mm~2mm、すぐ隣に炭素膜の一方がない領域を約0.5mm~2mm、すぐ隣に両方に炭素膜のない領域を約0.5mm~2mmとして、全体で約1.5mm~8mmの溶接部位領域とすれば良い。
図3では、種々の構造のものを記載したが、炭素膜構造を作製する作業性を考慮し、またレーザー照射条件は少ない方が作業性は良いので、どれか一つの構造を採用して、どの溶接部位も同じ構造とすれば品質レベルも安定する。
【0038】
図2では、水素導管(一方は水素または空気等が流れるライン、他方(対向する方)はその排出ラインとなる)は平行に走っているため、水素導管同士の平坦面には燃料電池が並んで配置されていく。従って、溶接ライン61は水素導管に沿って直線的である。ただし、終点で溶接ライン61同士を結んで閉曲線としても良い。閉曲線とすることにより、2枚の金属板同士を確実に結合することができる。この場合、水素導管17の一方側からガス(水素や空気)が流れ、他方側から出ていく。
図6は、別の水素導管の配置方法を示す図である。
図6は水素導管の配置状態が分かるように平面的に描写している。水素導管95、96はコの字を作りながら配置され、隣の水素導管(95と96)とコの字の部分合わさって配置されている。95を水素導管(空気の場合は空気導管と呼んでも良い)とすれば、96はその排出導管となる。コの字の終点部分では水素導管95、96同士は近接して平行に走り、その間に溶接ライン92が走っている。コの字で囲まれた部分97は燃料電池が配置される領域である。またコの字で囲まれた部分97には水素導管95および96で囲まれるように溶接ライン91が配置されている。ここで溶接ライン91は閉曲線となっているので、レーザーの照射は一筆書きで描写できる。これらの溶接ライン91同士を結ぶのが溶接ライン92となる。水素導管95、96は溶接ライン91および92に挟まれて閉空間となり、外側に水素等が漏れることはない。尚、
図3で示したように3か所にレーザーを照射する場合は、溶接ラインは3本となる。2か所ならば2本である。
図6は、燃料電池モジュールの一部を示したものであるから、これらを多数接続していくことにより、より多数の燃料電池を搭載した燃料電池モジュールを作製できる。
図1から分かるように、これらを縦(高さ)方向に積層することもできるので、さらに多数の燃料電池を搭載した燃料電池モジュールを作製できる。
図6に示すように水素導管をコの字形に配置することにより、多数の燃料電池を配置することができるとともに、個々の燃料電池が独立しているため、仮に1個の燃料電池が故障して動かなくなっても、他の燃料電池に影響を与えることがないので、信頼性の高い燃料電池(モジュール)を実現できる。
【0039】
ワーク押さえ板37は透明部材と説明したが、全体が必ずしも透明でなくても良い。レーザー光が通る部分が少なくとも透明であれば良い。たとえば、レーザー光が通る部分だけに透明部材、たとえば石英ガラス等板を配置したワーク押さえ板であり、それ以外を他の材料、たとえばSUS304等のステンレス鋼や鉄を主成分とする鉄系材料、アルミニウム系材料、銅系材料等の金属板、あるいはポリプロピレンやアクリル等の各種プラスチック材料としても良い。あるいは、レーザー光を通る部分に孔があいたワーク押さえ板でも良い。孔があいたワーク押さえ板の場合、溶接空間を完全密閉にすることは難しいが、ワーク押さえ板を含む全体をシールドガスで充満できる容器内に配置するとか、レーザー装置全体をシールドガス雰囲気にするなどの方法もある。また、ワーク押さえ板37は平板と記載したが、ワーク押さえ板37が複数の水素導管17に接触するワーク押さえ板下面が、それらの複数部分で同じ高さであれば、(あるいは、水素導管の高さに応じて、ワーク押さえ板37の各所がほぼ同時にそれらの複数の水素導管に接触できれば)、ワーク押さえ板37は必ずしも平板でなくても良い。言い換えれば、本発明で平板と記載した場合、このようなケースも含まれる。また、
図5(a)では、水素導管17の形状に合わせたワーク押さえ部材81、82はワーク板33、34の平坦部に接触しているが、上部のみが水素導管17の形状に合わせた形状であり下部は必ずしもワーク板33、34の平坦部に接触していなくても良い。尚、ワーク押さえ下板に関しても同様である。
【0040】
ワーク上板の厚みは、レーザー光が通れば比較手的厚くても良い。たとえば、1mm~1cm、またはこれ以上でも良い。ワーク下板の厚みは特に限定されないが、ワーク上板と代替可能とすれば作製しやすい。水素導管の高さは、燃料電池の大きさに合わせて選定できる。ただし、本発明では
図4に示すように燃料電池の大きさにより水素導管の高さは高くなる。余り高くなるとその導管を流す水素量が増大するので、燃料電池に必要な水素量を確保できる程度の高さとするのが良い。その場合、水素導管の高さと燃料電池の大きさと合わせるために、ダミーを水素導管の上面に取り付けても良い。ただし、レーザー溶接する場合は、このダミーは必要ない。また、燃料電池の構造を工夫すれば、このダミーをなくすこともでき、燃料電池により適宜変更すれば良い。ワーク押さえ上板の厚みは、押さえる強さに耐える厚みである必要があるが、石英や石英ガラスである場合は約0.1mm~1cm、またはそれ以上でも良い。ワーク押さえ下板の圧みも押さえる強さに耐える厚みである必要があるが、ステンレス板の場合は約1mm~1cm、またはそれ以上でも良い。ワーク板およびワーク押さえ板の幅(縦、横)は、燃料電池の大きさに合わせて適宜変更すれば良い。ただし、これらが変形しないようにそれらの大きさに合わせて厚みを変更することは当然である。さらに、レーザー光がワーク上板と下板の接触部分まで溶融させる必要があるので、ワーク板が厚い場合は、ワーク板(特にワーク上板)の溶接部位の厚みを薄くして(たとえば、溝部を作る)置く必要もある。
【0041】
図7は、ワーク板の表側(すなわち、内表面ではなく外表面)にも炭素膜を形成したワーク板を示す図である。
図2や
図4から分かるように、ワーク(板)60の外表面の平坦部64に燃料電池21が配置され、水素供給ライン26を水素等が流れる。すなわち、ワーク(板)60の外表面と水素等が接触する場合がある。
図1等で示したワーク(板)60の外表面側は、金属板11や金属板12であるから、燃料電池は発熱して温度が高くなった場合に、ワーク(板)60の外表面である金属板11や金属板12の(外)表面側でから水素が金属板中に拡散して水素脆性を起こす可能性がある。そこで、
図7に示すように、金属板11や金属板12の外表面にも炭素膜を積層する。炭素膜は、金属板11や金属板12の内表面側と同じ方法、すなわちCVD法、PVD法およびメッキ法で形成できる。金属板11および金属板12の両面(外表面となる側および内表面なる側)に炭素膜85および86を積層した後、
図1に示した方法と同様に、金属板11および金属板12を凹部が合うように合わせて、レーザー照射する。炭素膜は薄いので、炭素膜を通してレーザー光が金属板内に入り金属板が溶融したときに炭素膜も金属中へ固溶する。あるいはワーク外表面(特にレーザーが照射される側の金属板12の外表面)の溶接部位35における炭素膜を予め除去しておいても良い。尚、この場合のワーク上板33は、金属板12の両表面に炭素膜31、85を形成した構造であり、ワーク下板34は、金属板11の両表面に炭素膜32、86を形成した構造となる。
【0042】
金属板の表面に炭素膜85、86の積層は、炭素膜31、32と同様に、金属板に凹状(逆から見れば凸状)部分17を形成する前に積層することもできるし、形成後に積層することもできる。炭素膜85、86の膜厚は約10μm~100μm以下が望ましいので、レーザー光36は炭素膜85を突き抜けて溶接部位35における金属板12および11(一部が望ましい)を溶融して金属板12および11を溶接できるが、レーザー照射前に、溶接部位35における炭素膜85を除去しても良い。炭素膜の除去方法は前述した
図1(c)の溶接部位35-1、2,3で説明した方法と同様で良い。あるいは、金属板12を溶かさないような条件で溶接部位35における炭素膜85にレーザー照射して炭素膜を除去しても良い。炭素膜85は、レーザー照射により加熱されて空気中の酸素と反応してCOまたはCO
2となり、除去される。炭素膜31を除去しなくてもレーザー照射後は炭素膜85は金属板12中へ固溶されるので、溶接部位35において金属板12上の炭素膜85はなくなるので、この部分から水素が侵入する可能性がある。
【0043】
そこで、
図1に示すように金属板12の外表面には炭素膜85を形成せずに、レーザー溶接後に炭素膜85を金属板12の表面に形成することもできる。溶接後のワーク(
図2においては60)をCVD装置、PVD装置やメッキ装置へセットして炭素膜を積層すれば良い。この方法によれば、レーザー溶接後に金属板12の全表面(凸部および平坦部等)に均一に炭素膜を形成することができる。特に溶接部位35における金属板12の表面にも炭素膜を積層できるので、水素が金属板内への侵入を防止することができ、その結果水素脆性の発生を防ぐことができる。金属板11側は、レーザー照射されないので、レーザー照射前に炭素膜32を積層しても特に問題はないが、レーザー照射前には炭素膜32を形成せずに、レーザー照射後に炭素膜86を積層しても良い。
【0044】
以上詳細に説明した様に、本発明の炭素膜を内面に積層した水素導管は水素脆性耐性が大きく、水素導管の寿命や信頼性を向上することができる。水素導管は2枚の金属板をレーザー溶接で作製するが、本発明のワーク押さえ板を用いれば良好な溶接品質を得ることもできる。本発明を用いて作製した水素導管は燃料電池に使用できるが、燃料電池の長寿命化に大きく寄与できる。尚、
図4は燃料電池の一例で便宜上冷却ラインを省略したが、本発明の水素導管の作製方法と同様の方法を用いて冷却ラインを作製して
図4に示す燃料電池に組み込むことができる。たとえば、導管を作製した後金属板の平坦部をくり抜いて水素導管17と空気導管18の間に組み込むことができる。冷却方法としては、冷却水を流す方法や冷却ガス(たとえば、冷却したCO2や冷却した不活性ガス)を流す方法が挙げられる。また、水素導管17と空気導管18は互いに垂直に交叉させることもできる。このように、本発明の水素導管を用いれば、種々の燃料電池の大きさや構造に対応できる。また、燃料電池は
図4に示す構造以外の種々の構造があるが、どのような構造においても水素導管は必須なので、本発明の水素導管を採用することができる。尚、本明細書において、明細書のある部分に記載し説明した内容について記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることは言うまでもない。また、本出願文書で記載した実施例や実施形態等の内容は、他の実施例や実施形態等の内容と組み合わせて使用できることも当然である。さらに、前記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が前記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の内面に炭素膜を積層しレーザー溶接で作製する水素導管は、燃料電池以外の水素ガス管や水素を収容する容器にも使用できる。
【符号の説明】
【0046】
11・・・金属板、12・・・金属板、17・・・水素導管、31・・・炭素膜、32・・・炭素膜、33・・ワーク上板、34・・・ワーク下板、35・・・(レーザー)溶接部位、36・・・レーザー光、37・・・透明板材(ワーク押さえ上板)、38ワーク押さえ下板、39・・・溶接空間(レーザー照射側)、40・・・溶接空間(レーザー照射裏側)、71・・・シールドガス導入孔、72・・・シールドガス排出孔