(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】アルケニル化合物の合成方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C07B 37/00 20060101AFI20230327BHJP
C07C 51/38 20060101ALI20230327BHJP
C07C 57/03 20060101ALI20230327BHJP
C07C 59/52 20060101ALI20230327BHJP
C07C 59/56 20060101ALI20230327BHJP
C07C 59/58 20060101ALI20230327BHJP
C07C 67/08 20060101ALI20230327BHJP
C07C 69/157 20060101ALI20230327BHJP
C07C 201/12 20060101ALI20230327BHJP
C07C 205/56 20060101ALI20230327BHJP
C07C 227/10 20060101ALI20230327BHJP
C07C 229/44 20060101ALI20230327BHJP
C07C 253/30 20060101ALI20230327BHJP
C07C 255/36 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C07B37/00
C07C51/38
C07C57/03
C07C59/52
C07C59/56
C07C59/58
C07C67/08
C07C69/157
C07C201/12
C07C205/56
C07C227/10
C07C229/44
C07C253/30
C07C255/36
(21)【出願番号】P 2018015151
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2017015440
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222691
【氏名又は名称】東洋合成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 貴志
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 貴士
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04316995(US,A)
【文献】特開平11-187870(JP,A)
【文献】特開昭62-281840(JP,A)
【文献】特表2006-510710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0176947(US,A1)
【文献】Journal of Chemical Education,1990年,67(12),A304
【文献】Journal of Biological Chemistry,1909年,7,P.49-55
【文献】Journal of Organic Chemistry,1953年,18(8),P.928-933
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 37/
C07C 67/
C07C 51/
C07C 57/
C07C 59/
C07C 69/
C07C 201/
C07C 205/
C07C 227/
C07C 229/
C07C 253/
C07C 255/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記第1の工程及び第2の工程を含む下記式(A)で示されるアルケニル化合物の製造方法
で得られる少なくとも1つのヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有アルケニル化合物の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子を置換して保護基に変換し、アルケニル誘導体を得る第3の工程を有する、アルケニル誘導体を得る製造方法であって、前記第1の工程、前記第2の工程及び前記第3の工程を連続して同一の反応容器で行う、アルケニル誘導体の製造方法。
(第1の工程)マロン酸、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基を有するマロン酸エステルである第1の化合物と、下記式(3)で示される第2の化合物と、をアミノ酸存在下アミンを含む溶媒中で50~200℃の範囲で設定された第1の温度で反応させ、下記式(B)で示されるアルケニル化合物を得る工程であって、
上記アミノ酸は、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、β-アラニン、サルコシン及びプロリンからなる群より選択される少なくともいずれかであり;
【化8】
(前記式(3)中、R
3は水素原子であり、R
4は、置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルケニル基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキニル基;及び、置換基を有しても良い炭素原子数6~30のアリール基;からなる群より選ばれるいずれかであり、
R
4
が置換基として少なくとも1つのヒドロキシ基を有し、
前記アルキル基、前記アルケニル基及び前記アルキニル基は、前記アルキル基、前記アルケニル基及び前記アルキニル基に含まれる少なくとも1つのメチレン基に代えてヘテロ原子含有基を含んでいても良く、前記アリール基は環構造中に少なくとも1つの炭素原子に代えてヘテロ原子を含んでいても良い。)
【化9】
(前記式(B)中、R
2は前記マロン酸に由来するカルボキシル基又は前記マロン酸エステルに由来する
アルキルオキシカルボニル基であり、R
3及びR
4の各々は前記式(3)のR
3及びR
4と同じ選択肢から選択される。)
(第2の工程)前記第1の工程の後に、前記第2の化合物を前記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱して下記式(A)で示されるアルケニル化合物を得る工程。
【化10】
(前記式(A)中、R
3及びR
4の各々は前記式(3)のR
3及びR
4と同じ選択肢から選択される。)
【請求項2】
前記第1の温度は50~100℃の範囲で設定され、前記第2の温度は100~200℃の範囲で設定される請求項1に記載の
アルケニル誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の化合物が下記式(4)で示される化合物であり、
前記アルケニル化合物Aがヒドロキシスチレン誘導体である請求項1又は2に記載
のアルケニル誘導体の製造方法。
【化11】
(前記式(4)中、R
6~R
9は、互いに独立してそれぞれ、水素原子;ヒドロキシ基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;及び、置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルコキシ基;からなる群より選ばれるいずれかであり、
前記アルキル基及び前記アルコキシ基は、前記アルキル基及び前記アルコキシ基に含まれる少なくとも1つのメチレン基に代えてヘテロ原子含有基を含んでいても良い。)
【請求項4】
前記保護基がアセチル基である請求項
1に記載
のアルケニル誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記アミンは、炭素原子数20までのアルキルアミン、環状アミン及び芳香族アミンからなる群より選択される少なくともいずれかである、
請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のいくつかの態様は、アルケニル化合物の合成方法及び製造方法に関する。より具体的には、例えば、機能性材料の原料として有用であることが知られているスチレン誘導体等のアルケニル化合物をアミノ酸存在下で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くより電子材料、香料、医・農薬品の分野で様々なアルケニル化合物が使用されており、それらの製造方法は多種多様なものとなっている。特にそれらに含まれる二重結合を有する化合物の合成には脱水反応やカップリング反応が用いられている。
【0003】
アルケニル化合物の中で、例えば、スチレン誘導体は、プラスチック、ゴム、イオン交換樹脂及びフォトレジスト用の多様なポリマー等種々の原料として重要である。
【0004】
特にベンゼン環上にヒドロキシ基を有するヒドロキシスチレン部分を構造単位として含むポリマーは、ポリマーに化学的、機械的及び光学的特性等種々の特性を付与することができるため、ヒドロキシスチレン類は高機能材料の基本原料としての重要性は増している。
【0005】
ヒドロキシスチレンを構造単位としてポリマーに導入するためには重合させる必要があるため一般に保護基が必要となる。保護基としては、例えば、ヒドロキシ基の水素原子をアセチル基、t-ブチル基、例えばメトキシメチル基及びテトラヒドロピラニル基等のアルコキシアルキル基、アルキル基又はアリール基を有する有機ケイ素基等が用いられる。
【0006】
上記の保護基の中でヒドロキシスチレンの保護基として、特に代表的なものはヒドロキシ基の水素原子をアセチル基に置換したものである。すなわち、アセトキシスチレン類がヒドロキシスチレン部分を構造単位として含むポリマーの合成に広く用いられている。
【0007】
アセトキシスチレンを合成する方法としては、例えば、1-(4'-アセトキシフェニル)エタノールの脱水反応(特許文献1)、芳香族ハロゲン化合物から調製したグリニャール試薬とビニルハライドとの反応(特許文献2)及び4-アセトキシハロベンゼンとビニル化合物とのHeck反応(特許文献3)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-73076号公報
【文献】特開2000-239192号公報
【文献】特開2002-179621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の方法は多段階の工程が必要であり、工業生産の効率性という点では十分満足できるものではない。
特許文献2及び3に記載の方法は高価な遷移金属触媒を使用している点や生成物に用いた試剤又は遷移金属触媒に由来する金属が残留してしまう等の問題があり、これらの方法を用いて製造されたアセトキシスチレン類を、例えば、生体関連材料やレジスト材料等の高機能性材料の原料として用いることについて懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のいくつかの態様は上記の課題を解決すべくなされたものである。
【0011】
本発明のいくつかの態様に係るアルケニル化合物の合成方法は、下記式(1)で示される第1の化合物と、下記式(3)で示される第2の化合物と、をアミノ酸存在下、アミンを含む溶媒中で50~200℃の範囲で反応させることにより下記式(A)で示されるアルケニル化合物(以下、「アルケニル化合物A」ともいう)を生成させることを特徴とする合成方法である。
【化1】
(上記式(1)中、R
1は水素原子;及び置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;からなる群より選択されるいずれかであり、
R
2は、ハメットの置換基定数σ
pが0より大であり、且つ、下記式(2)で示される置換基である。)
【化2】
(上記式(2)中、R
5は水素原子;及び、置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;からなる群より選択されるいずれかである。)
【化3】
(上記式(3)中、R
3及びR
4の各々は、独立して、水素原子;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルケニル基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキニル基;及び、置換基を有しても良い炭素原子数6~30のアリール基;からなる群より選ばれるいずれかであり、上記アルキル基、上記アルケニル基及び上記アルキニル基に含まれる少なくとも1つのメチレン基に代えてヘテロ原子含有基を含んでいても良く、上記アリール基は、環構造中に少なくとも1つの炭素原子に代えてヘテロ原子を含んでいても良い。)
【化4】
(上記式(A)中、R
3及びR
4の各々は上記式(3)のR
3及びR
4と同じ選択肢から選択される。)
【0012】
本発明のいくつかの態様に係るアルケニル化合物の製造方法は、下記2工程を含むアルケニル化合物Aの製造方法である。
(第1の工程)下記式(1)で示される第1の化合物と、下記式(3)で示される第2の化合物と、をアミノ酸存在下アミンを含む溶媒中で50~200℃の範囲で設定された第1の温度で反応させ、下記式(B)で示されるアルケニル化合物(以下、「アルケニル化合物B」ともいう)を得る工程;
【化5】
(上記式(1)中、R
1は水素原子;及び置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;からなる群より選択されるいずれかであり、
R
2は、ハメットの置換基定数σ
pが0より大であり、且つ、下記式(2)で示される置換基である。)
【化6】
(上記式(2)中、R
5は水素原子;及び、置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;からなる群より選択されるいずれかである。)
【化7】
(上記式(3)中、R
3及びR
4の各々は、独立して、水素原子;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルケニル基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキニル基;及び、置換基を有しても良い炭素原子数6~30のアリール基;からなる群より選ばれるいずれかであり、
上記アルキル基、上記アルケニル基及び上記アルキニル基は、上記アルキル基、上記アルケニル基及び上記アルキニル基に含まれる少なくとも1つのメチレン基に代えてヘテロ原子含有基を含んでいても良く、上記アリール基は環構造中に少なくとも1つの炭素原子に代えてヘテロ原子を含んでいても良い。)
【化8】
(上記式(B)中、R
2は上記式(1)のR
2と同じ選択肢から選択され、R
3及びR
4の各々は上記式(3)のR
3及びR
4と同じ選択肢から選択される。)
(第2の工程)上記第1の工程の後に、上記第2の化合物を上記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱して下記式(A)で示されるアルケニル化合物を得る工程。
【化9】
(上記式(A)中、R
3及びR
4の各々は上記式(3)のR
3及びR
4と同じ選択肢から選択される。)
【0013】
本発明のひとつの態様に係るアルケニル化合物の合成方法は、下記式(1b)で示される第1の化合物と、下記式(3)で示される第2の化合物と、をアミノ酸存在下、アミンを含む溶媒中で50~200℃の範囲で反応させることにより、下記式(B)で示されるアルケニル化合物を生成させる、アルケニル化合物Bの合成方法である。
【化10】
(上記式(1b)中、R
1は水素原子;及び置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;からなる群より選択されるいずれかであり、
R
2bはハメットの置換基定数σ
pが0より大である置換基であり、且つ、下記式(2)で示される置換基を除く。)
【化11】
(上記式(2)中、R
5は水素原子;及び、置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;からなる群より選択されるいずれかである。)
【化12】
(上記式(3)中、R
3及びR
4の各々は、独立して、水素原子;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルケニル基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキニル基;及び、置換基を有しても良い炭素原子数6~30のアリール基;からなる群より選ばれるいずれかであり、上記アルキル基、上記アルケニル基及び上記アルキニル基に含まれる少なくとも1つのメチレン基に代えてヘテロ原子含有基を含んでいても良く、上記アリール基は、環構造中に少なくとも1つの炭素原子に代えてヘテロ原子を含んでいても良い。)
【化13】
【発明の効果】
【0014】
本発明の一つの態様によれば、簡便且つ安価に製造可能な、高効率なアルケニル化合物の合成方法及び製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のいくつかの態様は、アルケニル化合物Aの合成方法に関する。
上記式(1)において、R1は水素原子;及び置換基を有していてもよい炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;からなる群より選択されるいずれかである。R1が置換基を有する場合、置換基を含めた炭素原子数は、上述した炭素原子数であることが好ましい。
【0016】
上記式(1)において、R2はハメットの置換基定数σpが0より大である置換基である。なお、R2はベンゼン環を必須とはしないが、置換基の選択肢の指標としてハメットの置換基定数を用いている。R2については後述する。
【0017】
上記式(3)における上記化合物のR3及びR4の代表的な例としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルケニル基、アリル基、アルキニル基及びアリール基等が挙げられる。
上記アルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基及びn-ブチル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基及びt-ブチル基等の分岐状アルキル基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基及びノルボルニル基等の環状アルキル基;等が挙げられる。
上記アルケニル基及び上記アルキニル基としては、上記アルキル基中の少なくとも1つの炭素-炭素一重結合が、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合に置換されたものが挙げられる。
【0018】
上記アルキル基、上記アルケニル基及び上記アルキニル基に含まれる少なくとも1つのメチレン基に代えてヘテロ原子含有基を含んでいても良い。
上記ヘテロ原子含有基は、-O-及び-S-等が挙げられる。
【0019】
上記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントレニル基、ペンタレニル基、インデニル基、インダセニル基、アセナフチル基、フルオレニル基、ヘプタレニル基、ナフタセニル基、ピレニル基、ビフェニル基及びターフェニル基等が挙げられる。
上記アリール基は、環構造中に少なくとも1つの炭素原子に代えてヘテロ原子を含むヘテロアリール基であってもよい。上記ヘテロアリール基としては、フラニル基、チエニル基、ピラニル基、スルファニルピラニル基、ピロリル基、イミダゾイル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、イソベンゾフラニル基、ベンゾフラニル基、イソクロメニル基、クロメニル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾイル基、キサンテニル基、アクリジニル基及びカルバゾリル基等が挙げられる。
【0020】
R3及びR4が有してもよい置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、アルキル置換アミノ基等が挙げられる。R3及びR4が置換基を有する場合、置換基を含めた炭素原子数は、上述した炭素原子数であることが好ましい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。R3及びR4としてのアルキル基は、R1のアルキル基と同じ選択肢から選択できる。上記アルキル置換アミノ基が有するアルキル基としては、R1のアルキル基と同じ選択肢から選択できる。
【0021】
上記アルケニル化合物Aの合成方法において、アミノ酸を存在下で反応を行っているが、アミノ酸は上記第1の化合物と上記第2の化合物との間で炭素―炭素結合を形成する際の触媒としての役割を果たすことが可能である。
【0022】
アミノ酸を上記第1の化合物と上記第2の化合物との間で炭素―炭素結合を形成する際の触媒として用いることにより、目的物であるアルケニル化合物が高収率、高効率で得られる。さらに、後述するように簡単な実験操作で目的物の着色を抑制することが可能である。
【0023】
アミノ酸は、ピロリジン、ピぺリジンやトリエチルアミンのような通常の有機塩基に比べて水溶性が高いため、炭素―炭素結合形成反応等の触媒として用いた後の反応の後処理において、水と有機溶媒を用いた抽出作業等で目的物と当該触媒とを容易に分離することが可能である。
【0024】
また、ピロリジン及びピぺリジン等のアルキルアミン類を上記第1の化合物と上記第2の化合物との炭素―炭素結合形成反応の触媒に用いた場合、目的物自体が着色しているものでない場合でも、後述するように上記炭素―炭素結合形成反応後の反応液に、上記アルキルアミン類の加熱による酸化等に由来する不純物による着色が観察されることがある。特に当該目的物を電子材料、光学材料及び医薬品等として用いるためには僅かな着色も許容されない場合があるため、反応液が着色してしまうと、精製の工程が煩雑になる場合がある。
【0025】
得られた目的物を重合等の反応に用いる場合であっても、着色の原因となっている不純物によって当該反応が阻害されることがある。したがって、一旦着色してしまうと、特に、上記目的物を電子材料、光学材料及び医薬品等の原料として用いる場合は、煩雑な精製工程が必要になってしまう場合がある。
【0026】
触媒として用いるアミノ酸の具体例としては、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、β-アラニン、サルコシン及びプロリン等である。
【0027】
上記アルケニル化合物Aの合成方法においては、上記のようなアミノ酸を1種又は2種以上用いるようにしてもよい。アミノ酸は一般に水溶性が高いため、上記アルケニル化合物が脂溶性を有する場合は、反応後に水と有機溶媒を用いた抽出操作を行うことにより、容易に上記アルケニル化合物Aを単離することが可能な場合がある。触媒として用いるアミノ酸としては、特に水溶性の高いグリシン、アラニン及びサルコシン等が好ましい場合がある。
【0028】
アミノ酸を触媒として用いる場合の使用量は上記第2の化合物に対して0.01~1当量(モル比)であることが好ましく、さらに経済性の観点から0.01~0.2当量程度であることがより好ましい。ただし、上記第1の化合物又は上記第2の化合物がアミノ酸より高価な場合等は、アミノ酸の使用量を増やして上記第1の化合物又は上記第2の化合物の使用量を減らすことも可能である。例えば、アミノ酸を上記第1の化合物又は上記第2の化合物に対してモル比で1当量以上用いるようにすることで製造コストの低減が可能な場合がある。
【0029】
上記アルケニル化合物Aの合成方法において、溶媒として用いるアミンとしては、例えば、直鎖状、直鎖状、分岐状のものが含まれるアルキルアミン(メチル、エチル、炭素原子数3のアルキル基(n-プロピル、iso-プロピル)、炭素原子数4のアルキル基(n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)等炭素原子数20までのアルキルアミン);ピペリジン及びピロリジン等の環状アミン類;ピリジン及びアニリン等の芳香族アミン類;等が挙げられる。
【0030】
モルホリン、N-ヒドロキシルアミン等のヘテロ原子を含むアミン類を溶媒として用いることもできる。N-ヒドロキシルアミン等の重合禁止剤として機能するアミンを溶媒として使用することも可能である。
【0031】
上記のアミンの中でも反応効率及び経済性の観点からは特にピリジンが望ましい。上記アルケニル化合物Aとして不飽和カルボン酸を合成する場合等は、溶媒中にアミンを含有させることで、目的物の溶解性が向上するため目的物の反応容器への付着等が抑制され、反応後の処理が容易となる。
【0032】
上述のようにアミン類の存在下で加熱をすると当該アミン類の加熱による酸化等で生成した不純物により着色現象が観察されることがあるが、本発明に係る上記のアルケニル化合物Aの合成方法では、上記第1の化合物と上記第2の化合物との炭素―炭素結合形成反応の触媒としてアミノ酸を用いることで、反応が速やかに進行するため、加熱時間が短縮され、アミンの酸化等による着色が最小限に抑制される。
【0033】
溶媒としてアミン類を用いることにより、特に目的物が不飽和カルボン酸である場合、若しくは反応途中で不飽和カルボン酸を経由する場合は、不飽和カルボン酸が容易に溶媒に溶解し、反応の進行を早めることが可能となり、また、反応容器に対する不飽和カルボン酸の付着が抑制され、反応後の後処理等が簡便になる。
【0034】
上記アルケニル化合物Aの合成方法において、溶媒として、アミンに加えて炭化水素系溶媒、エーテル類、エステル類、アミド類、含イオウ溶媒、ハロゲン系溶媒及びニトリル基を有する溶媒を含んでいてもよい。なお、溶媒中にアミンは30質量%以上含まれていることが好ましく、アミン以外の溶媒の含有量は70質量%以下であることが好ましい。上記炭化水素系溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、へキセン、オクテン、シクロオクテン等の飽和又は不飽和の炭化水素化合物や、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【0035】
上記エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル及びジブチルエーテル等の炭化水素基を有するエーテル類を用いることが可能である。1,2-ジメトキシエタン等のように複数の酸素原子を有するエーテル類を用いることも可能な場合がある。また、エステル類としては、例えば、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のカルボン酸とアルコールとから合成されるエステル類を用いることができる。アミド類としては、例えば、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等を用いることができる場合がある。上記含イオウ溶媒としては、例えば、二硫化炭素及びジメチルスルホキシドが挙げられる。上記有機ハロゲン系溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム及び四塩化炭素等が挙げられる。ニトリル基を有する溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル及びブチロニトリル等が挙げられる。プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート等のようにエーテル基及びエステル基等の複数の種類の官能基を有する溶媒を用いてもよい。
【0036】
上記アルケニル化合物Aの合成方法において、R2はハメットの置換基定数σpが0より大である置換基である。なお、ハメットの置換基定数σpが0より大である置換基とは、電子求引性基が挙げられる。これにより、上記式(1)で示される第1の化合物におけるR1OCO-基とR2基との間を連結する炭素原子上の負電荷が安定化し、当該炭素原子上の水素原子がプロトンとして脱離する反応が容易に生起する。ここで本発明におけるハメット置換基定数σとは、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年にL. P. Hammettにより提唱された経験則によって求められるもの(σp値とσm値とσo値との合計)である。
ハメット則で求められた置換基定数のうちσp値とσm値は、例えばJ. A. Dean編、「Lange's Handbook of Chemistry」第12版、1979年(McGraw-Hill)や「化学の領域」増刊、122号、96~103項、1979年(南光堂)に詳しく開示される。さらに立体障害の影響に関して考察されたσo値はたとえばNuclear magnetic resonance studies of ortho-substituted phenols in dimethyl sulfoxide solutions. Electronic effects of ortho substituents. J. Am. Chem. SoC., 1969, 91 (2), pp379-388, M. Thomas and James G. Traynham 著に詳しく開示される。
【0037】
R2として特に好ましいのは、ハロゲン原子以外の電子求引性基である。これは、R2がハロゲン原子の場合、当該ハロゲン原子が脱離する反応も生起することがあり、R1を含むカルボキシル基又はエステル基とR2との間を連結する炭素原子上の水素原子の脱離反応の選択性が低下するからである。
【0038】
R2の典型的な例としては、例えば、シアノ基、ニトロ基、パーフルオロアルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基等である。上記のエステル基は、アルキル基、アルケニル基、カルボキシル基、アルキニル基又はアリール基等の置換基を有してもいてもよい。
【0039】
上記のいずれかのアルケニル化合物の合成方法において、下記反応式中、下記式(1)で示される第1の化合物におけるR1OCO-とR2との間を連結するメチレン基(矢印部分のメチレン基)は、R2及びR1OCO-が共に電子求引性基であることから特に活性化されている。
【0040】
上記アルケニル化合物Aの合成方法において、反応温度を50~200℃の範囲に設定することで、R1OCO-を容易に脱離させることができる。特にR1が水素原子の場合は、脱炭酸反応が生起しやすい。
【0041】
【0042】
上記アルケニル化合物Aの製造方法において、R2が下記式(2)で示される置換基であることが好ましい。なお、下記式(2)中、R5は上記R1と同じ選択肢から選択される。このような置換基を用いることで、例えば、R5が水素原子の場合は不飽和カルボン酸が生成する。R5が置換基を有していてもよいアルキル基の場合は、不飽和エステルが生成する。
【0043】
【0044】
なお、本発明のひとつの態様のアルケニル化合物Aの製造方法として、下記2工程を含むものが挙げられる。
(第1の工程)上記式(1)で示される第1の化合物と、上記式(3)で示される第2の化合物と、をアミノ酸存在下アミンを含む溶媒中で50~200℃の範囲で設定された第1の温度で反応させ、下記式(B)で示されるアルケニル化合物を得る工程。
【0045】
【0046】
上記式(B)中、R2は上記式(1)のR2と同じ選択肢から選択され、R3及びR4の各々は上記式(3)のR3及びR4と同じ選択肢から選択される。
【0047】
(第2の工程)上記第1の工程の後に、上記第2の化合物を上記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱して上アルケニル化合物Aを得る工程。
【0048】
上記アルケニル化合物Aの製造方法の反応図を下記に例示する。
【0049】
【0050】
上記アルケニル化合物Aの製造方法において、上記第1の温度が50~200℃であることが好ましく、上記第2の温度を上記第1の温度よりも高い温度に設定することがより好ましい。さらに好ましくは上記第1の温度が50~100℃である。上記第1の温度を50~100℃の範囲で設定することで、例えば、上記反応式に示したような1分子だけの脱炭酸反応が生起し、高選択的にアルケニル化合物B得られる場合がある。また、このアルケニル化合物Aの合成方法において、上記第1の温度を50~100℃の範囲に設定することで、特に上記第2の化合物の熱分解が抑制され、物質収支が向上する場合がある。さらに、上記第1の温度を60~80℃の範囲で設定することで、上記第1の化合物等の分解及び反応後の着色がより抑制される。
なお、上記反応においてアルケニル化合物Bが選択的に得られるのは、R2の置換基が上記式(2)で示される置換基以外のときである。
【0051】
上記第1の化合物として、特にマロン酸のように1つのメチレン基を挟んで2つのカルボキシル基を有する化合物やマロン酸のエステルのように1つのメチレン基を挟んで2つのエステル基を有する化合物を用いる場合は、脱炭酸反応等の熱分解反応が生起し易いので、上記第1の温度を適切に設定することで、上記第2の化合物との反応の前に熱分解反応をコントロールすることができる。仮に分解した場合は、分解した分の上記第1の化合物を加えることが好ましい。当該アルケニル化合物の合成方法Aにおいて、上記第1の温度を50~100℃の範囲に設定することで、上記第1の化合物の熱分解が抑制され、物質収支が向上する場合がある。
【0052】
上記アルケニル化合物Aの合成方法において、上記第2の化合物が、下記式(4)で示される化合物であることが好ましい。
【0053】
【0054】
上記式(4)中、R6~R9の各々は、互いに独立してそれぞれ、水素原子;ヒドロキシ基;置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基;及び、置換基を有しても良い炭素原子数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルコキシ基;からなる群より選ばれるいずれかであり、上記アルキル基及び上記アルコキシ基は、上記アルキル基及び上記アルコキシ基に含まれる少なくとも1つのメチレン基に代えて2価のヘテロ原子含有基を含んでいても良い。
R6~R9が置換基を有する場合、置換基を含めた炭素原子数は、上述した炭素原子数であることが好ましい。
R6~R9が有してもよいヘテロ原子含有基は、R3及びR4における上記ヘテロ原子含有基と同様のものが挙げられる。
【0055】
上記アルケニル化合物Aの合成方法において、50~200℃の範囲の反応において、R1OCO-基は脱炭酸反応により脱離することが好ましい。
【0056】
上記アルケニル化合物Aの製造方法は、上記第1の工程の後に、さらに、上記第1の化合物と上記第2の化合物とを上記溶媒中で上記第1の温度よりも高い第2の温度で加熱させる第2の工程を含む。上記第1の温度は50~100℃の範囲で設定され、上記第2の温度は100~200℃の範囲で設定されることが好ましい。
【0057】
このアルケニル化合物Aの製造方法において、上記第1の温度を50~100℃の範囲で設定することで、例えば上記第1の化合物として下記反応式に示す化合物(1a)を用いた場合、化合物(1a)は1つのメチレン基を挟んでR1OCO-基とR5OCO-基とを有するために通常熱分解し易い化合物の熱分解を抑制した上で1分子の二酸化炭素が脱離する反応を伴う炭素―炭素結合形成反応を生起させることができる。さらに炭素―炭素結合形成反応後に上記第2の温度を上記第1の温度よりも高く設定することで、2分子目の二酸化炭素の脱離反応が進行し、下記反応式に示したように二重結合の2つの炭素原子のうちR3及びR4が結合した炭素原子ではない側の炭素原子上に2つの水素原子を有するアルケニル化合物Aが生成する。
【0058】
【0059】
上記のいずれかのアルケニル化合物Aの製造方法において、上記第2の化合物が下記式(4)で示される化合物であり、上記アルケニル化合物がヒドロキシスチレン誘導体であることが好ましい。上記第2の化合物のベンゼン環上に少なくとも1つのヒドロキシ基を有することで、上記第1の化合物と上記第2の化合物との1分子目の二酸化炭素の脱離を伴う炭素―炭素結合形成反応の後の2分子目の二酸化炭素の脱離反応が生起し易くなり、対応するヒドロキシスチレン誘導体の収率が向上する場合がある。
【0060】
【0061】
本発明のひとつの態様は、上記アルケニル化合物Aの製造方法により得られるアルケニル化合物Aを用いてアルケニル誘導体を得る製造方法である。該アルケニル誘導体の製造方法は、上記第2の化合物として、ヒドロキシ基含有アルケニル化合物を用いる場合に、少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子を置換して保護基に変換し、アルケニル誘導体を得る第3の工程を有することを特徴とする。
なお、上記ヒドロキシ基含有アルケニル化合物は、上記式(3)で示される第2の化合物において、R3及びR4の少なくともいずれかが置換基として少なくとも1つのヒドロキシ基を有する。
上記保護基としては、例えば、ヒドロキシ基の水素原子をアセチル基、t-ブチル基、例えばメトキシメチル基及びテトラヒドロピラニル基等のアルコキシアルキル基、アルキル基又はアリール基を有する有機ケイ素基等の等が挙げられる。
本発明のひとつの態様のアルケニル誘導体の製造方法において、上記ヒドロキシ基含有アルケニル化合物としてヒドロキシスチレン誘導体を用いることが好ましい。上記ヒドロキシスチレン誘導体の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子を保護基に置換することで、上記ヒドロキシスチレン誘導体の重合性が抑制され、上記ヒドロキシスチレン誘導体の蒸留等による単離又は精製が容易となる。
【0062】
上記のアルケニル化合物Aの製造方法において、上記ヒドロキシスチレン誘導体の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子を置換して保護基に変換する工程をさらに含むことが好ましい。保護基としては、例えば、ヒドロキシ基の水素原子をアセチル基、t-ブチル基、例えばメトキシメチル基及びテトラヒドロピラニル基等のアルコキシアルキル基、アルキル基又はアリール基を有する有機ケイ素基等の等が挙げられる。このように上記ヒドロキシスチレン誘導体の少なくとも1つのヒドロキシ基の水素原子を保護基に置換することで、上記ヒドロキシスチレン誘導体の重合性が抑制され、上記ヒドロキシスチレン誘導体の蒸留等による単離又は精製が容易となる。
【0063】
上記の保護基のうち、特に好適に用いられるのは、例えば、アセチル基である。すなわち上記ヒドロキシスチレン誘導体をアセトキシスチレン誘導体とすることで、単離又は精製の際の重合性や抑制されると共に重合後の脱保護が容易となる。
【0064】
上記アルケニル化合物Aの製造方法において、上記第1の工程と上記第2の工程とを連続して同一の反応容器で行うことが好ましい。ここで「連続して」とは、上記第1の工程の後、反応容器内の反応液を他の反応容器に移送せずに、そのまま上記第2の工程を同じ反応容器内で行うことを意味している。このように上記第1の工程と上記第2の工程とを連続して同じ反応容器内で実施することで、上記アルケニル化合物の製造時間が短縮され、製造に必要とする人工を少なくすることが可能となり、製造コストの低減に繋がる。
【0065】
上記アルケニル化合物Aの製造方法における上記第1の工程及び上記第2の工程、並びに、アルケニル誘導体の製造方法における上記第3の工程を連続して同一の反応容器で行うことが好ましい。ここで「連続して」とは、上記第1の工程の後、反応容器内の反応液を他の反応容器に移送せずに、そのまま上記第2の工程を同じ反応容器内で行い、さらに第3の工程も他の反応容器に移送せず、そのまま同じ反応容器で行うことを意味している。このように上記第1の工程~上記第3の工程を連続して同じ反応容器内で実施することで、上記アルケニル化合物の製造時間が短縮され、製造に必要とする人工を少なくすることが可能となり、製造コストの低減に繋がる。なお、上記第3工程を上記第1の工程及び上記第2の工程と同一容器で実施することで、例えば、実施例7に示した例のように、ヒドロキシ基の水素原子をアセチル基等の保護基に変換する際には、上記第1の工程又は上記第2の工程に触媒として機能したアミノ酸や溶媒として用いたアミン系溶媒を触媒として用いることができるので、物質収支が高く無駄の少ないプロセスの構築が可能となる。
【0066】
上記アルケニル誘導体の製造方法において、下記反応式に示したように、反応の途中に化合物Gのような不飽和カルボン酸を経由するようにしてもよい。下記反応式において、R18~R21の各々は、それぞれ独立して、水素原子又は水素原子以外の置換基でもよく、R22は、例えば、メチル基、t-ブチル基、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等の保護基である。
【0067】
【0068】
上記反応式に示したように化合物Gから脱炭酸反応により化合物Hが生成し、次に化合物Hのベンゼン環上のヒドロキシ基の水素原子が保護基に置換される。ここで、化合物Gから化合物Hへの脱炭酸反応は、100℃から250℃範囲で設定された温度に加熱されることで速やかに反応が進行するが、着色や副生成物の抑制という観点からは120℃から140℃程度で加熱することが好ましい
【0069】
本発明のひとつの態様は、上記式(1b)で示される第1の化合物と、上記式(3)で示される第2の化合物と、をアミノ酸存在下、アミンを含む溶媒中で50~200℃の範囲で反応させることにより、下記式(B)で示されるアルケニル化合物を生成させる、アルケニル化合物Bの合成方法である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明のいくつかの態様に係る化合物の合成に関する実施例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0071】
<α,β-不飽和カルボン酸の合成の製造>
上記の第1の化合物の典型的な例である、1つのメチレン基と当該1つのメチレン基に結合した2つの電子求引性基を含む第1の化合物と、上記の第2の化合物の典型的な例であるカルボニル基を有する化合物とをアミノ酸を触媒としてアミンを含む溶媒中で適切な温度で一定時間撹拌することで、対応するアルケニル化合物が生成する。上記の2つの電子求引性基が共にカルボキシル基又はエステル基である場合は、α、β-不飽和カルボン酸又はα、β-不飽和エステルが生成する。それぞれの詳細を以下の実施例1-4に記す。
【0072】
[実施例1]触媒の検討
4-ヒドロキシベンズアルデヒド400mgとマロン酸511mgを1.2gのピリジンに溶解させ、この溶液に4-ヒドロキシベンズアルデヒドに対して0.1当量(モル比)の触媒を加え、密封条件下80℃で120分間撹拌する。得られる溶液を液体クロマトグラフィーで分析することで4-ヒドロキシ桂皮酸の収率を算出する。
なお、実施例1で用いた式(1)のR2に対応する置換基のハメット置換基定数σpは0より大である。
【0073】
[不純物による着色評価]
また得られる溶液の不純物による着色をハーゼン色数によるAPHA値によって評価する。具体的には得られる反応溶液をメタノールで溶液重量が8gにメスアップし、この溶液の色相で評価を行う。
【0074】
【0075】
表1からも分かるように例えば、グリシン、DL-メチオニン、DL-α-アラニン及びDL-β-アラニンを触媒として用いた場合は、反応収率がほぼ100%という高い収率で4-ヒドロキシ桂皮酸が得られると同時に、着色が抑制される。
【0076】
[実施例2]溶媒の検討
4-ヒドロキシベンズアルデヒド400mgとマロン酸511mgを1.2gの下記表2に示す各溶媒に溶解させ、この溶液に4-ヒドロキシベンズアルデヒドに対して0.1当量のグリシンを加え、密封条件下80℃で120分間撹拌する。得られる溶液を液体クロマトグラフィーで分析することで4-ヒドロキシ桂皮酸の収率を算出する。
【0077】
【0078】
表2からも分かるように、例えば、ピリジン及びピぺリジンを溶媒として用いた場合は、反応収率がほぼ100%という高い収率で4-ヒドロキシ桂皮酸が得られる。このことは、上記の第1の化合物と上記の第2の化合物とのアミン存在下の反応において、アミン系溶媒を用いることで反応効率が向上することを締めている。
【0079】
[実施例3]4-ヒドロキシ桂皮酸の合成
4-ヒドロキシベンズアルデヒド20gとマロン酸25.56gを100gのピリジンに溶解させ、この溶液にグリシン1.23gを加える。この溶液を大気圧条件下80℃で120分間撹拌する。反応終了後、得られる溶液の溶媒を留去した後にクロロホルム200gを加え、数分間撹拌を行うことで再沈殿させ、吸引ろ過及びクロロホルム洗浄を行うことで4-ヒドロキシ桂皮酸26.8gを粉末として得る(収率100%)。
【0080】
本反応は種々の置換基を有するアリール置換桂皮酸の合成にも用いることができる。
【0081】
[実施例4]基質の検討(アリール置換アルデヒド)
置換ベンズアルデヒド1.5gと置換ベンズアルデヒドに対して1.5当量(モル比)のマロン酸を4.5gのピリジンに溶解させ、この溶液に置換ベンズアルデヒドに対して0.1当量のグリシンを加え、密封条件下80℃で180分間撹拌する。反応終了後、得られる溶液の溶媒を留去し、置換ベンズアルデヒドに対して10重量倍のクロロホルムを加え、数分間撹拌を行うことで再沈殿させ、吸引ろ過及びクロロホルム洗浄を行い、置換桂皮酸を粉末として得る。
なお、実施例4で用いた式(1)のR2に対応する置換基のハメット置換基定数σpは0より大である。
【0082】
【0083】
[実施例5]4-メチル-2-ペンテン酸の合成
本発明に係る本反応はアルキル置換α,β-不飽和カルボン酸の合成にも用いることができる。詳細を以下に示す。イソブチルアルデヒド10gとマロン酸21.6gを30gのピリジンに溶解させ、この溶液にグリシン1.04gを加える。この溶液を大気圧条件下80℃で120分間撹拌する。反応終了後、得られるにメタノール20gを加え、ヘキサン20gで洗浄する。この溶液の溶媒を留去することで4-メチル-2-ペンテン酸15.6を無色油状物として得る(収率99%)。
なお、実施例5で用いた式(1)のR2に対応する置換基のハメット置換基定数σpは0より大である。
【0084】
[実施例6]3-(4-ヒドロキシフェニル)プロペンニトリルの合成
本反応はα,β-不飽和ニトリル化合物の合成にも用いることができる。詳細を以下に示す。4-ヒドロキシベンズアルデヒド1.5gとシアノ酢酸1.57gを4.5gのピリジンに溶解させ、この溶液にグリシン0.092gを加え、密封条件下80℃で180分間撹拌する。反応終了後、得られる溶液の溶媒を留去し、置換ベンズアルデヒドに対して10重量倍のクロロホルムを加え、数分間撹拌を行うことで再沈殿させ、吸引ろ過及びクロロホルム洗浄を行い、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロペンニトリル1.59gを粉末として得る(収率89%)。
なお、実施例6で用いた式(1)のR2に対応する置換基のハメット置換基定数σpは0より大である。
【0085】
[実施例7]4-アセトキシスチレンの合成
本反応は同一容器内で適切に反応を行うことで感光性材料、プラスチック及び固相合成用樹脂等の原料として有用なヒドロキシスチレン保護体の合成にも用いることができる。
詳細を以下に示す。4-ヒドロキシベンズアルデヒド80gとマロン酸102.3gを240gのピリジンに溶解させ、この溶液にグリシン4.92gを加える。この溶液を大気圧条件下80℃で120分間撹拌し、この後、140℃で8時間加熱還流させる。得られる溶液に無水酢酸100.3gを加え、大気圧条件下80℃で2時間撹拌する。ガスクロマトグラフィー質量分析を行うと4-アセトキシスチレンへの転化率は65%である。反応終了後、得られる溶液から溶媒を減圧留去し、ヘキサン240g及び1%塩酸80gを加え、数分間撹拌する。これらの操作により析出した固体をろ別し、得られる有機層を水で洗浄した後に溶媒を減圧留去することで純度の高いアセトキシスチレン50.93gを得る(収率48%)。
なお、実施例7で用いた式(1)のR2に対応する置換基のハメット置換基定数σpは0より大である。
【0086】
[実施例8]4-アセトキシスチレンの合成
4-ヒドロキシベンズアルデヒド80gとマロン酸102.3gを240gのピリジンに溶解させ、この溶液にグリシン4.92gを加える。この溶液を大気圧条件下80℃で120分間撹拌する。この後、得られる溶液にトリエチルアミン66.3gを加え、140℃で8時間加熱還流させる。得られる溶液に無水酢酸100.3gを加え、大気圧条件下80℃で2時間撹拌する。ガスクロマトグラフィー質量分析を行うと4-アセトキシスチレンへの転化率は82%である。反応終了後、得られる溶液から溶媒を減圧留去し、ヘキサン240g及び2質量%塩酸80gを加え、数分間撹拌する。得られる有機層を水で洗浄した後に溶媒を減圧留去し、減圧蒸留することで純度の高いアセトキシスチレン80.20gを得る(収率76%)。
【0087】
[実施例9]3、4-ジアセトキシスチレンの合成
3、4-ジヒドロキシベンズアルデヒド80gとマロン酸120.5gを320gのピリジンに溶解させ、この溶液にグリシン4.35gを加える。この溶液を大気圧条件下80℃で120分間撹拌する。この後、得られる溶液にトリエチルアミン58.6gを加え、140℃で8時間加熱還流させる。得られる溶液に無水酢酸177.4gを加え、大気圧条件下80℃で2時間撹拌する。反応終了後、得られる溶液から溶媒を減圧留去し、トルエン240g及び2質量%塩酸80gを加え、数分間撹拌する。得られる有機層を水で洗浄した後に溶媒を減圧留去し、減圧蒸留することで3,4-ジアセトキシスチレン73.02gを得る(収率57%)。
【産業上の利用可能性】
【0088】
上記のように本発明のひとつの態様に係る製造方法を用いることで、種々の原料として有用なα、β-不飽和カルボン酸等のアルケニル化合物を高収率で製造することが可能となる。さらに続く反応を利用することで工業的に重要なスチレン誘導体へと効率的に変換できることからメリットが大きい。