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特許7250455アニオン変性セルロースナノファイバーを含有する組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】アニオン変性セルロースナノファイバーを含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
C08B15/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018141213
(22)【出願日】2018-07-27
(65)【公開番号】P2020015867
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】中山 武史
(72)【発明者】
【氏名】村松 利一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸治
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-148914(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175315(WO,A1)
【文献】特開2019-218537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン変性セルロースのナノファイバーと、水酸基を有するホスフィン化合物とを含有し、
前記水酸基を有するホスフィン化合物の量が、前記アニオン変性セルロースのナノファイバーにおける前記水酸基を有するホスフィン化合物が結合可能なアニオン性基の量(モル数)に対して、10%~150%の量である組成物。
【請求項2】
水酸基を有するホスフィン化合物が、トリスヒドロキシプロピルホスフィン、トリスヒドロキシエチルホスフィン、及びトリスヒドロキシメチルホスフィンからなる群から選択される1つまたは複数の化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
アニオン変性セルロースが、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られるカルボキシル基を有するセルロースである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
組成物が分散体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
分散体の分散媒が水もしくは有機溶剤、又はこれらの混合物である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項5または6に記載の分散体から分散媒を少なくとも一部除去することにより得られる組成物。
【請求項8】
求項1~4のいずれか1項に記載の組成物からなるフィルム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン変性セルロースナノファイバーを含有する組成物に関する。詳細には、加熱時に着色しにくいアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
原料であるセルロースを2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)と酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理すると、セルロースのミクロフィブリルの表面にカルボキシル基を効率よく導入することができる。このカルボキシル基を導入したセルロースを水中にてミキサー等により機械的に処理すると、ナノスケールの繊維径を有するセルロースナノファイバーへと変換することができることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-001728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているセルロースナノファイバーは、加熱時に着色する問題があった。このようなセルロースナノファイバーを熱加工して製品を得ようとすると得られる製品に変色が見られるため、工業的に利用しにくいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、加熱時に着色しにくいアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、カルボキシル基等のアニオン性基を導入したセルロース(アニオン変性セルロース)のナノファイバーに、ホスフィン化合物(一般式:RR’R’’P)(R、R’、R’’は、水素または有機基)を共存させると、アニオン変性セルロースナノファイバーの熱による着色が抑制されることを見出した。
【0007】
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
(1)アニオン変性セルロースのナノファイバーと、ホスフィン化合物とを含有する組成物。
(2)ホスフィン化合物が、水酸基を有する、(1)に記載の組成物。
(3)ホスフィン化合物が、トリスヒドロキシプロピルホスフィン、トリスヒドロキシエチルホスフィン、及びトリスヒドロキシメチルホスフィンからなる群から選択される1つまたは複数の化合物である、(1)または(2)に記載の組成物。
(4)アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有する、(1)~(3)のいずれか1つに記載の組成物。
(5)アニオン変性セルロースが、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られるカルボキシル基を有するセルロースである、(1)~(4)のいずれか1つに記載の組成物。
(6)組成物が分散体である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の組成物。
(7)分散体の分散媒が水もしくは有機溶剤、またはこれらの混合物である、(6)に記載の組成物。
(8)(6)または(7)に記載の分散体から分散媒を少なくとも一部除去することにより得られる組成物。
(9)組成物がフィルム状である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、加熱時に着色しにくいアニオン変性セルロースナノファイバー含有組成物を得ることができる。また、本発明の組成物は、フィルム状(膜状)に成形した際に、表面にしわが生じにくいという効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1のフィルム状乾燥物の写真である。なお、本出願と同日付で、物件提出書により、図1のカラー写真を提出した。
図2】比較例1のフィルム状乾燥物の写真である。なお、本出願と同日付で、物件提出書により、図2のカラー写真を提出した。
図3】比較例2のフィルム状乾燥物の写真である。なお、本出願と同日付で、物件提出書により、図3のカラー写真を提出した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、カルボキシル基などのアニオン性基を導入したセルロース(アニオン変性セルロース)を解繊することにより得られるナノファイバーに、ホスフィン化合物を共存させることにより、アニオン変性セルロースナノファイバーの加熱時の着色を抑制させたものである。
【0011】
<セルロース>
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、アニオン変性セルロースの原料として用いることができる。
【0012】
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0013】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0014】
<アニオン変性セルロース>
(1)アニオン変性
アニオン変性とはセルロースにアニオン性基を導入することであり、具体的には酸化または置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入することである。本発明において前記酸化反応とはピラノース環の水酸基を直接カルボキシル基に酸化する反応をいう。また、本発明において置換反応とは、当該酸化以外の置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入する反応をいう。
【0015】
(2)カルボキシル化
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル化(酸化)したセルロースを用いることができる。本発明におけるカルボキシ基とは、-COOH(酸型)または-COOM(塩型)をいう(式中、Mは金属イオンである)。カルボキシル化セルロース(「酸化セルロース」とも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されないが、カルボキシル基の量はアニオン変性セルロースまたはアニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、0.6mmol/g~3.0mmol/gが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gがさらに好ましい。
【0016】
アニオン変性セルロースまたはアニオン変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基量は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
【0017】
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0018】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であればいずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol~10mmolが好ましく、0.01mmol~1mmolがより好ましく、0.05mmol~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1mmol/L~4mmol/L程度がよい。
【0019】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol~100mmolが好ましく、0.1mmol~10mmolがより好ましく、0.5mmol~5mmolがさらに好ましい。当該変性は酸化反応による変性である。
【0020】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol~500mmolが好ましく、0.5mmol~50mmolがより好ましく、1mmol~25mmolがさらに好ましく、3mmol~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1mol~40molが好ましい。
【0021】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4℃~40℃が好ましく、また15℃~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間~6時間、例えば、0.5時間~4時間程度である。
【0022】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0023】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m~250g/mであることが好ましく、50g/m~220g/mであることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部~30質量部であることが好ましく、5質量部~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0℃~50℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分~360分程度であり、30分~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶剤中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0024】
酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。アニオン変性セルロースにおけるカルボキシル基量とアニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときのカルボキシル基量は、通常、同じである。
【0025】
(2)カルボキシアルキル化
アニオン変性セルロースとして、カルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基を導入したセルロースを用いることができる。本発明におけるカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)または-RCOOM(塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基であり、Mは金属イオンである。なお、上記カルボキシアルキル基には、カルボキシル基部分が含まれていることから(-COOHまたは-COOM部分)、本発明において、「カルボキシル基を有する」セルロースという場合には、上記のカルボキシル化(酸化)セルロースだけではなく、カルボキシアルキル化セルロースも含むこととする。
【0026】
カルボキシアルキル化セルロースは公知の方法で得てもよく、また市販品を用いてもよい。セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度は0.40未満であることが好ましい。さらにアニオン基がカルボキシメチル基である場合、カルボキシメチル置換度は0.40未満であることが好ましい。当該置換度が0.40以上であるとセルロースナノファイバーとしたときの分散性が低下する。またカルボキシアルキル置換度の下限値は0.01以上が好ましい。操業性を考慮すると当該置換度は0.02~0.35であることが特に好ましく、0.10~0.30であることが更に好ましい。なお、無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味し、カルボキシアルキル置換度とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基(-OH)のうちカルボキシアルキルエーテル基(-ORCOOHまたは-ORCOOM)で置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシアルキルエーテル基の数)を示す。
【0027】
カルボキシアルキル化セルロースを製造する方法の一例として、以下の工程を含む方法が挙げられる。当該変性は置換反応による変性である。カルボキシメチル化セルロースを例にして説明する。
【0028】
i)発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0℃~70℃、好ましくは10℃~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理する工程、
ii)次いで、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30℃~90℃、好ましくは40℃~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う工程。
【0029】
発底原料としては前述のセルロース原料を使用できる。溶媒としては、3~20質量倍の水または低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、または2種以上の混合媒体を使用できる。低級アルコールを混合する場合、その混合割合は60質量%~95質量%が好ましい。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが好ましい。
【0030】
前述のとおり、セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.40未満であり、0.01以上0.40未満であることが好ましい。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル置換基を導入したセルロースはナノ解繊することができるようになる。なお、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.02より小さいと、ナノ解繊が十分にできない場合がある。アニオン変性セルロースにおけるカルボキシアルキル置換度と、アニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときのカルボキシアルキル置換度とは通常、同じである。
【0031】
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール900mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチル化セルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースに変換する。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのHSOのファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター。
【0032】
カルボキシメチル基以外のカルボキシアルキル基置換度の測定も、上記と同様の方法で行うことができる。
(3)エステル化
アニオン変性セルロースとしてエステル化したセルロースを用いることもできる。エステル化の方法としては、セルロース原料にリン酸系化合物の粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物の水溶液を添加する方法等が挙げられる。リン酸系化合物はリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの1種、あるいは2種以上を併用してセルロースにリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応を均一に進行できかつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
【0033】
リン酸エステル化セルロースの製造方法の例として、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1質量%~10質量%のセルロース系原料の懸濁液に、リン酸系化合物を撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース系原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物の添加量はリン元素量として、0.2質量部~500質量部であることが好ましく、1質量部~400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物の割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるので、コスト面から好ましくない。
【0034】
リン酸系化合物に加えて、他の化合物の粉末や水溶液を混合してもよい。リン酸系化合物以外の他の化合物としては、特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃色から赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。他の化合物の添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2質量部~1000質量部が好ましく、100質量部~700質量部がより好ましい。反応温度は0℃~95℃が好ましく、30℃~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1分~600分程度であり、30分~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100℃~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100℃~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0035】
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上0.40未満であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース系原料は煮沸した後、冷水を用いて洗浄することが好ましい。これらのエステル化による変性は置換反応による変性である。アニオン変性セルロースにおける置換度と、アニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときの置換度は、通常、同じである。
【0036】
(4)アニオン変性セルロース
原料であるセルロースに対し、上記で例示したようなアニオン変性を行うことにより、アニオン変性セルロースを得ることができる。セルロースをアニオン変性してアニオン変性セルロースとすることにより、塩基性のホスフィン化合物と結合させることが可能となる。アニオン変性セルロースの種類としては、ホスフィン化合物を共存させることによる着色抑制の効果が最もよくみられるものとして、カルボキシル化セルロースまたはカルボキシアルキル化セルロースのような、カルボキシル基を有するアニオン変性セルロースが好ましい。特に、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られたカルボキシル化セルロースは、カルボキシル基が均一に導入されており、このカルボキシル基にホスフィン化合物が結合してホスフィン化合物がアニオン変性セルロースまたはアニオン変性セルロースナノファイバーに均一に分布することにより、着色抑制の効果が高く得られることから、好ましい。
【0037】
本発明において、アニオン変性セルロースとしては、水や有機溶剤に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものを用いる。繊維状の形状が維持されないもの(すなわち、溶解するもの)を用いると、ナノファイバーを得ることができない。分散した際に繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるとは、アニオン変性セルロースの分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、X線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるアニオン変性セルロースは好ましい。
【0038】
アニオン変性セルロースにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、解繊により繊維を微細化した後も溶解することのない結晶性セルロース繊維を充分に得ることができる。セルロースの結晶性は、原料であるセルロースの結晶化度、及びアニオン変性の度合によって制御できる。アニオン変性セルロースの結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
【0039】
アニオン変性セルロースのセルロースI型結晶の割合と、アニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときのセルロースI型結晶の割合は、通常同じである。
<アニオン変性セルロースのナノファイバー>
上述のアニオン変性セルロースを機械的に解繊することにより、アニオン変性セルロースのナノファイバーを得ることができる。
【0040】
解繊の際には、これに限定されないが、アニオン変性セルロースの分散体を準備する。分散媒は、取扱いの容易性から、水が好ましいが、セルロース中の水酸基との親和性が高い極性の有機溶剤を含んでいてもよい。そのような有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等を挙げることができる。これらは、単独でもよいし、2種以上の組み合せであってもよい。分散体におけるアニオン変性セルロース濃度は、解繊時の操業性を考慮すると0.01質量%~10質量%であることが好ましい。
【0041】
解繊に用いる装置は限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの分散液に強力なせん断力を印加できる装置を用いることが好ましい。効率よく解繊するには、分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。高圧または超高圧ホモジナイザーとは、ポンプにより流体を加圧(高圧)し、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させることにより、粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化、分散、解細、粉砕、及び超微細化を行う装置である。高圧ホモジナイザーでの解繊および分散処理の前に、必要に応じて高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて予備処理を施すこともできる。
【0042】
上記の解繊により、アニオン変性セルロースのナノファイバーの分散体を得ることができる。アニオン変性セルロースのナノファイバーは、平均繊維径が3nm~500nm程度、好ましくは3nm~150nm程度、更に好ましくは3nm~20nm程度の繊維である。アスペクト比は30以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度となる。
【0043】
アニオン変性セルロースのナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0044】
アニオン変性セルロースナノファイバーの分散体は、後述する乾燥方法などに基づいて、乾燥(分散媒を除去)してもよいが、乾燥時に着色が生じ得るので、後述するホスフィン化合物を共存させた後に乾燥させることが好ましい。
【0045】
<ホスフィン化合物>
本発明の組成物は、アニオン変性セルロースのナノファイバーに加えて、ホスフィン化合物を含有する。これにより、ナノファイバーの加熱時の着色が抑制されるようになる。
【0046】
ホスフィン化合物は、一般式RR’R’’P(式中、R、R’、R’’は、水素または有機基)で表されるリン化合物である。本発明では、上記一般式におけるR、R’、及びR’’の種類は問わないが、R、R’、及びR’’がすべて有機基である三級ホスフィンは塩基性が高くアニオン性セルロースとの結合力が高いことから最も好ましい。有機基の種類としては、例えば分散媒として水を選択した場合には水との親和性を考慮して、上記一般式におけるR、R’、及びR’’が炭素数1~3程度のアルキル基であるホスフィン化合物を用いることが好ましく、溶媒として有機溶剤を選択した場合は炭素数がより多いものを適宜選択すればよい。ホスフィン化合物のうち、水酸基を有するものは、水中、空気中における化合物の安定性が高く、取扱い性に優れるので、好ましい。そのようなホスフィン化合物としては、これらに限定されないが、例えば、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシエチル)ホスフィン)、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン等が挙げられる。
【0047】
組成物中のホスフィン化合物の含有量は、用いるホスフィン化合物の種類、アニオン変性セルロースナノファイバーのアニオン変性の度合いなどに応じて、適宜決めることができる。例えば、ホスフィン化合物が結合可能なアニオン性基の量(モル数)に対して、10%~150%程度の量となるように添加すればよく、好ましくは30%~120%、より好ましくは50%~100%添加すればよい。
【0048】
ホスフィン化合物は、セルロースのアニオン変性時に加えてもよいし、解繊前のアニオン変性セルロースの分散体に添加してもよいし、解繊後のアニオン変性セルロースナノファイバーの分散体に添加してもよいし、また、分散媒を除去したアニオン変性セルロースナノファイバーと混合してもよい。しかし、アニオン変性の反応の良好な進行を考慮すると、少なくともセルロースのアニオン変性を行った後にホスフィン化合物を添加した方がよい。また、アニオン変性セルロースナノファイバーの分散体から分散媒を除去(乾燥)する際に着色が生じる可能性があることから、ホスフィン化合物は分散体の乾燥前に添加することが好ましい。したがって、ホスフィン化合物は、アニオン変性セルロースの分散体またはアニオン変性セルロースナノファイバーの分散体に対し添加することが好ましい。さらに、アニオン変性セルロースの解繊時にホスフィン化合物が含まれていると、解繊に要するエネルギー量を低減させることができることを本発明者らは見出した。したがって、ホスフィン化合物は、解繊前のアニオン変性セルロースの分散体に添加することが最も好ましい。
【0049】
アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有するセルロースである場合には、ホスフィン化合物を添加する前に、アニオン変性セルロースのカルボキシル基を酸型(COOH)に変換してもよい。ホスフィン化合物の添加の前にアニオン変性セルロースのカルボキシル基を酸型に変換することにより、ホスフィン化合物とアニオン変性セルロースとの結合性が高まり、本発明の効果をより高く得ることができるようになる。酸型に変換する方法としては、特に限定されず、酸を添加する方法や、酸性イオン交換樹脂とアニオン変性セルロースとを接触させる方法などを挙げることができる。酸を添加する場合、用いる酸の種類は、特に限定されず、汎用的で入手しやすい塩酸や硫酸などの鉱酸等を使用すればよい。酸性イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂や弱酸性陽イオン交換樹脂を挙げることができる。
【0050】
解繊工程に供するアニオン変性セルロース分散体のpHは、酸やアルカリを用いて適宜調整してよいが、中性~弱アルカリ性の範囲(pH6.0~9.0、好ましくはpH7.0~8.5)が好ましい。例えば、カルボキシル基を有するアニオン変性セルロースを酸の添加により酸型に変換し、分散体のpHが酸性となっている場合、水酸基を有するホスフィン化合物を添加することにより分散体のpHを中性~弱アルカリ性の範囲に調整してもよい。
【0051】
<アニオン変性セルロースナノファイバーとホスフィン化合物とを含有する組成物>
本発明の組成物は、アニオン変性セルロースナノファイバーと、ホスフィン化合物とを含有している。組成物の形態は、特に限定されず、アニオン変性セルロースナノファイバーを分散媒に分散させた分散体の形態であってもよいし、分散体から分散媒の少なくとも一部を除去した形態であってもよい。
【0052】
組成物が分散体の形態である場合、上記のアニオン変性セルロースを解繊する際の分散体と同様に、分散体の分散媒の種類は限定されず、分散体の用途に応じて水または有機溶剤、あるいはこれらの混合物を適宜選択できる。取扱いの容易性の点からは、分散媒は水が好ましいが、これに限定されるものではない。有機溶剤を用いる場合、その種類は特に限定されない。例えば、これに限定されないが、水を分散媒とする分散体から溶媒置換を行うことにより、各種有機溶剤を分散媒とする分散体を製造することができる。
【0053】
分散体は、アニオン変性セルロースナノファイバー、ホスフィン化合物、及び分散媒以外にも、用途に応じて必要とされる各種添加剤を含んでいてもよい。
組成物は、上記の通り、分散体から分散媒のすべてまたは一部を除去することにより得られる形態であってもよい。分散体からの分散媒の除去は、例えば、遠心脱水式、真空脱水式、加圧脱水式のタイプの脱水装置、およびこれらの組合せを用いて実施できる。あるいは、例えば、スプレイドライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、および真空乾燥等により分散媒を除去することができる。乾燥装置は、特に限定されないが、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、撹拌乾燥装置等、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0054】
組成物が、分散体から分散媒を除去した形態である場合、組成物は、例えば、フィルム状、粉末状、ゲル状などの各種形状を有し得る。本発明の組成物は、フィルム状の形状とした場合に、しわが生じにくく、なめらかな表面のフィルムを形成することができるため、フィルム状の形状とすることは好ましいが、これに限定されるものではない。本発明において、フィルム状とは、厚さ0.1μm~100μm程度、好ましくは1μm~50μm程度の、薄膜状の形状を指す。フィルムの形成方法は、特に限定されない。分散体を所定の厚みとなるように薄く広げた後に乾燥させればよい。例えば上述の乾燥装置のうち、薄膜を形成させることができる装置を適宜用いてもよく、そのような乾燥装置としては、例えば、ドラムやベルトにブレードやダイ等により薄膜を形成させて乾燥させるドラム乾燥装置やベルト乾燥装置が挙げられる。
【0055】
組成物中のアニオン変性セルロースナノファイバー、ホスフィン化合物、及び分散媒の濃度は、組成物の形態(例えば、分散媒に分散した形態、あるいは分散媒に分散したものから分散媒を一部または全部除去した形態)や、アニオン変性セルロースナノファイバーとホスフィン化合物の種類等によって異なる。組成物は、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量を100部とした際に、例えば、その分散媒の除去の程度によって、0質量部~100000質量部の分散媒を含み得る。例えば、組成物がアニオン変性セルロースナノファイバーを分散媒に分散させた分散体の形態である場合には、分散体中のアニオン変性セルロースナノファイバーの濃度は、これに限定されないが、好ましくは0.01質量%~20質量%、さらに好ましくは0.1質量%~10質量%である。また、組成物が分散体から分散媒の少なくとも一部を除去した形態である場合には、組成物中の分散媒の割合は、これに限定されないが、アニオン変性セルロースナノファイバーを100質量部とした際に、好ましくは0質量部~20質量部程度である。また、組成物中のアニオン変性セルロースナノファイバーとホスフィン化合物の含有割合は、分散媒の除去の度合いによって異なるが、前述した通り、例えば、アニオン変性セルロースナノファイバーにおけるホスフィン化合物が結合可能なアニオン性基の量(モル数)に対して、ホスフィン化合物が10%~150%程度の量であり、好ましくは30%~120%であり、より好ましくは50%~100%である。
【0056】
本発明の組成物は、加熱乾燥時の着色度合が小さいという特徴を有する。また、基材上に塗布してフィルムを形成させる場合に、しわが生じにくく、なめらかな表面を有するフィルムを形成することができる。
【0057】
本発明の組成物の用途は、特に限定されないが、本発明の組成物は加熱時に着色しにくいという特性を有するので、熱による加工が生じる用途、また、着色や変色が好まれないような用途に特に最適に用いることができると考えらえる。また、フィルム状にした際にしわが生じにくくなめらかな表面が得られるため、フィルムのような薄膜状の形状とするような用途にも最適に用いることができると考えられる。しかし、これら以外の用途に用いてもよい。本発明の組成物が用いられる分野は特に限定されず、一般的に添加剤がもちいられる 様々な分野、例えば、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物などで、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、製紙用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水剤、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤などとして使用することができると考えられる。
【0058】
本発明の組成物が、加熱時に着色しにくいという特徴を有する理由は明らかではないが、次のように考えられる。セルロースに微量に存在するアルデヒド基に加えて、アニオン変性セルロースナノファイバーには、アニオン変性の過程で水酸基が酸化されることに起因してケトン基やアルデヒド基が副生成物として生成される。このようなアニオン変性セルロースナノファイバーが加熱されるとケトン基やアルデヒド基を足場としてβ脱離反応が起こり、この反応によって新たに生成されたセルロースの非還元末端には、ケトン基由来の2,3-ジケトン、アルデヒド基由来のα,β-不飽和アルデヒドが生成される。さらに、新たに生成したセルロースの還元末端からはピーリング反応が起こり、2,3-ジケトンを有する着色物質が蓄積する。これが通常のアニオン変性セルロースナノファイバーの加熱時の着色の一つの原因であると考えられる。一方、本発明の組成物は、ホスフィン化合物を有しており、アニオン変性セルロースナノファイバーにおけるケトン基やアルデヒド基がホスフィン化合物により還元されるため、加熱による着色が抑制されると考えられる。
【実施例
【0059】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
【0060】
(実施例1)
セルロース原料として漂白済み針葉樹パルプ(日本製紙株式会社製)を用意し、N-オキシル化合物としてTEMPO、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムと臭化ナトリウムを用いて、カルボキシル基量が1.5mmol/gのカルボキシル化セルロースの分散体(分散媒:水)を製造した。カルボキシル化セルロースの水分散体にpHが2.4になるまで塩酸を加えて、カルボキシル基を酸型(COOH)に変換した。次いで、イオン交換水で洗浄した。洗浄後の分散体の固形分濃度は22質量%であった。洗浄後の分散体に、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリン(登録商標)p-540)を分散体のpHが7.0となるまで加えた。得られた分散体の固形分濃度を1質量%に調整し、140MPaの超高圧ホモジナイザーに3回通過させて、アニオン変性セルロースナノファイバーとトリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンとを含有する、水を分散媒とした分散体を得た。この分散体におけるアニオン変性セルロースナノファイバーの濃度は0.75質量%であり、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンの濃度は、0.25質量%である。
【0061】
得られた分散体を四角い枠に流し込み、80℃で水分がなくなる程度(2時間~3時間)乾燥させて、厚さ25μmのフィルム状の乾燥物を得た(80℃乾燥品)。また、これとは別に、得られた分散体をアルミカップに流し込み、105℃で12時間加熱乾燥し、厚さ25μmのフィルム状の乾燥物を得た(105℃乾燥品)。得られたフィルム状乾燥物の写真を図1に示す。図1の左側が80℃乾燥品であり、右側が105℃乾燥品である。得られたフィルム状乾燥物について、着色の状態を目視で評価した。また、フィルムの表面におけるしわの形成の有無を目視で評価した。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例1)
トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンの代わりに水酸化ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして分散体を調製した。得られた分散体を実施例1と同様にして加熱乾燥してフィルム状乾燥物を作成し、加熱による着色としわの形成を実施例1と同様に目視で評価した。結果を表1に示す。また、得られたフィルム状乾燥物の写真を図2に示す。
【0063】
(比較例2)
トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンの代わりにテトラブチルホスホニウムヒドロキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして分散体を調製した。分散体におけるアニオン変性セルロースナノファイバーの濃度は0.69質量%であり、テトラブチルホスホニウムヒドロキシドの濃度は、0.31質量%である。得られた分散体を実施例1と同様にして加熱乾燥してフィルム状乾燥物を作成し、加熱による着色としわの形成を実施例1と同様に目視で評価した。結果を表1に示す。また、得られたフィルム状乾燥物の写真を図3に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果及び図1~3より、ホスフィン化合物を含有する実施例1の組成物では、加熱(高温で乾燥)した場合であっても、着色が生じなかったことがわかる。また、実施例1の組成物は、フィルム表面のしわも見られず、なめらかな表面を有していたことがわかる。一方、比較例1の組成物では、加熱による着色と表面のしわが観察され、比較例2の組成物では、加熱による着色がみられたことがわかる。
図1
図2
図3